(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
数平均分子量が8000〜20000のポリエチレングリコールを10〜25重量%共重合させた主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートである共重合ポリエステルであり、主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造を有し、主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造のポリエチレングリコール比率が70〜99重量%であることを特徴とする共重合ポリエステル。
DSC(示差走査熱量計)にて、昇温速度16℃/分で300℃まで昇温して5分間恒温状態とした後、急冷して再び昇温速度16℃/分で300℃まで昇温した際に、200℃以上の範囲に観察される融解ピークが251〜260℃の範囲に存在することを特徴とする請求項1記載の共重合ポリエステル。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルは、強度、熱安定性および耐薬品性などに優れているため、繊維、フィルムおよび成型体などの用途に広く用いられている。しかしながら、ポリエチレンテレフタレートは、本質的に疎水性であるためきわめて吸湿性に乏しく、衣服として用いられる場合には、高湿時において“むれ感”を生じたり、冬場の低湿時には静電気を生じたりと、着用快適性においては好ましい素材とはいえない。また、ポリエチレンテレフタレートは、樹脂やフィルムなどとして用いられる際にも、低吸湿性のため帯電するなどの課題があった。
【0003】
このような課題を解消するため、ポリエステルの側鎖にオキシアルキレングリコールを有するジオールを共重合する方法(特許文献1参照。)、およびポリエステルにスルホン酸金属塩含有ジカルボン酸を共重合する方法(特許文献2参照。)など、吸湿性能を有する化合物をポリエステルに共重合する方法が提案されている。しかしながら、ポリエステルに吸湿成分を共重合することによってポリエステルポリマー全体が改質されてしまい、優れた機械的特性というポリエステルの持つ本来の利点が失われてしまうという課題を抱えていた。
【0004】
また、ポリエステル繊維にアクリル酸やメタアクリル酸をグラフト重合すること、更にグラフト重合後にそれらのカルボキシル基をアルカリ金属で置換することにより吸湿性を付与する方法が提案されている(特許文献3参照。)。しかしながら、この提案は、耐光性の低下や、吸湿成分が組成物あるいは繊維表層に付着していることによるぬめりの発生や経時的な強度低下等の課題を有していることから、実用化には至っていない。
【0005】
さらに、繊維の後加工の段階で吸湿性を付与する方法では、染色時あるいは得られた繊維布帛特性の点で種々の課題がある。そのため、繊維を製造する段階で吸湿性を付与しかつ前記の課題を解消するため、高い吸湿性を有する吸湿性樹脂を芯部とし、ポリエステルの鞘で覆った芯鞘型複合繊維が提案されている(特許文献4〜8参照。)。しかしながら、これら芯鞘型複合繊維では、精練や染色などの熱水処理時に芯部の吸湿性樹脂が水を含んで大きく膨潤するため、繊維表面にひび割れ(鞘割れ)が発生し、吸湿性樹脂の外部への流出や染色堅牢性の著しい悪化など布帛品位が低下するという課題があった。
【0006】
この鞘割れを抑制する目的で、予め溶融紡糸の段階から吸湿性の芯成分に隣接する中空部を設けておく方法が提案されている(特許文献9および10参照。)。しかしながら、この提案のように中空部を有する断面形状に繊維化した場合には、繊維に撚糸加工や仮撚加工を施した場合にはかかる工程で中空部のつぶれが生じ、その後の熱水処理によって前述の場合と同様に吸湿ポリマーが膨潤して鞘割れが生じてしまうという課題があった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の共重合ポリエステルは、数平均分子量が8000〜20000のポリエチレングリコールを10〜25重量%共重合させた主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートである共重合ポリエステルである。
【0016】
本発明において、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエステルとは、酸成分としてテレフタル酸およびこれらのエステル形成誘導体と、グリコール成分としてエチレングリコールを主成分としたポリエステルである。好ましくは全ジオール成分中に占めるエチレングリコールが80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上のポリエステルである。エチレングリコール以外のジオール成分として、シクロヘキサンジメタノール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコールおよびジエチレングリコール等を本発明の効果を損ねない範囲内、例えば20モル%以下の範囲で共重合することもできる。
【0017】
本発明の共重合ポリエステルに吸湿性を付与するためには、ポリエチレングリコールを共重合することは必須である。
【0018】
本発明で共重合成分として用いられるポリエチレングリコールは、数平均分子量が8000〜20000であることが重要である。数平均分子量は、末端基定量法により測定される。末端基定量法とは、NMRの末端基と主鎖との積分比から、分子量を求める方法である。
【0019】
本発明は、ポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートからなる共重合ポリエステルにおいて、ポリエチレングリコールを特定の数平均分子量とすることでにより、吸湿特性が極めて大きくなることを見出したものである。具体的には、数平均分子量が8000以上のポリエチレングリコールを用いることによりで、吸湿性能が極めて大きくなる。この理由は明らかとはなっていないが、ポリエチレングリコールの数平均分子量が8000以上のとき、ポリマー中のポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが特異な構造を形成することにより吸湿性が極めて高くなると考えられる。
【0020】
また、ポリエチレングリコールの数平均分子量が20000を超えると、ポリエチレンテレフタレートとの反応性が低下するため、製糸性が悪化したり、ポリエチレングリコールが熱水で溶け出すという課題が生じる。
【0021】
ポリエチレングリコールの数平均分子量は、共重合ポリエステルの成形性、特に製糸性の観点から15000以下が好ましく、さらには10000以下がより好ましい態様である。
【0022】
本発明の共重合ポリエステルにおける、ポリエチレングリコールの共重合割合は、10〜25重量%であることが必須である。ポリエチレングリコールの共重合割合が10重量%より少ないと、共重合ポリエステルの吸湿性が得られず、吸湿性は、ポリエチレングリコールを共重合しないポリエステルと同等程度の吸湿性となる。また、溶融成形性、例えば、製糸性の観点から、ポリエチレングリコールの共重合割合は25重量%以下であることが必要である。共重合割合が25重量%を超えると、高い温度域での使用に耐えられなかったり、得られる成形品の機械的強度が低下する傾向にあるためである。また、繊維を製造するために用いる際には、単独糸で用いることができなくなるという課題がある。
【0023】
ポリエチレングリコールの共重合量割合を25重量%以下とすることにより、紡糸性が向上し、紡糸速度を速くすることが可能となり、生産性が向上し、更には細繊度繊維を得ることができる。ポリエチレングリコールの共重合割合は、更に好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下である。
【0024】
ポリエチレンテレフタレートとポリエチレングリコールを共重合させた場合、得られた共重合ポリエステルは、ポリエチレングリコールからなる非晶構造とポリエチレンテレフタレートからなる非晶構造のほかに、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレングリコールが共存した非晶構造を有する。
【0025】
また、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレングリコールが共存した非晶構造には、主としてポリエチレンテレフタレートからなるポリエチレンテレフタレートとポリエチレングリコールが共存した非晶構造と、主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造とが形成される。本発明の共重合ポリエステルにおいては、これらの非晶構造のうち、主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造を有することが必要である。
【0026】
本発明においては、主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造を有することにより、吸湿性能が高くなり、更に紡糸性など成形性も良好となる。
【0027】
主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造は、温度変調示差走査熱量測定(TM−DSC)によりガラス転移温度を測定することにより知ることができる。具体的には、次の方法で測定する。
【0028】
共重合ポリエステルを290℃の温度で溶融後、25℃の温度の水中で十分冷却する。冷却した共重合ポリエステルを、25℃で乾燥し、表面に付着した水分を除去し測定サンプルを得る。得られたサンプルを、温度範囲−85℃〜300℃、昇温速度2℃/分、窒素雰囲気下でTM−DSCを用いて相転移挙動を測定し、DSCシグナルを可逆的な成分と不可逆的な成分に分離する。ガラス転移温度は、可逆的な成分より観測することができる。
【0029】
TM−DSCで測定されたガラス転移温度が、ポリエチレングリコールのガラス転移温度(−67℃)より高く、0℃以下に認められれば、主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造が存在していることが確認できる。
【0030】
また、本発明における、主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造は、ポリエチレングリコールの比率が70重量%以上であると吸湿性能がさらに高くなり好ましい態様である。ポリエチレングリコールの比率は、更に好ましくは80重量%以上である。
【0031】
また、本発明における、主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造は、ポリエチレングリコール(PEG)比率が99重量%以下であると、繊維を製造するために用いる際には単独糸で用いることができる。ポリエチレングリコール比率は、より好ましくは90重量%以下である。
【0032】
主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造のポリエチレングリコールの比率は、温度変調示差走査熱量測定(TM−DSC)により、ガラス転移温度(Tg
,obs(単位はK))を測定し、ガラス転移温度からCouchmanの次式(式1)により算出することができる。
【0034】
(式中、X
PETは、主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造中のポリエチレンテレフタレートの重量分率であり、X
PEGは、主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造中のポリエチレングリコールの重量分率であり、X
PET=1−X
PEGが成立する。また、ΔC
p,PETは、ポリエチレンテレフタレート単体のガラス転移前後の熱容量差(ΔC
p,PET=0.4052Jg
−1K
−1)であり、ΔC
p,PEGは、ポリエチレングリコール単体のガラス転移前後の熱容量差(ΔC
p,PEG=0.8672Jg
−1K
−1)であり、T
g,PETは、ポリエチレンテレフタレート単体のガラス転移温度(T
g,PET=342K)であり、T
g,PEGは、ポリエチレングリコール単体のガラス転移温度(T
g,PEG=206K)を表す。)。
【0035】
本発明の共重合ポリエステルは、耐熱性が高く吸湿性に優れた共重合ポリエステルであることから、溶融成形して繊維、フィルムおよび成形体などに好適に用いられるが、特に合成繊維の原料として好適に用いることができる。その場合、十分な吸湿性を有するためには吸湿パラメータ(ΔMR)が2%以上であることか好ましい。吸湿パラメータ(ΔMR)は、より好ましくは4%以上である。また、共重合ポリエステルの吸湿性パラメータが10%以下であると、紡糸性や延伸性が良好となる傾向にあり好ましい態様である。
【0036】
ここで、吸湿パラメータ(ΔMR)とは、20℃×65%R.H.の標準状態で調湿安定化させた試料を30℃×90%R.H.の高湿状態に移して、24時間後の重量増加量(g)を試料の絶乾重量(g)で除した値(%)を意味している。ここで、絶乾重量(g)とは、105℃の温度で乾燥を行い、重量変化が見られなくなるまで乾燥した試料の重量をいう。
【0037】
本発明の共重合ポリエステルには、本発明の目的を損なわない範囲で酸化チタンやカーボンブラック等の顔料、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の界面活性剤、酸化防止剤、着色防止剤、耐光剤、および帯電防止剤等を添加することができる。
【0038】
本発明の共重合ポリエステルは、エステル交換法やエステル化法等の重合方法によって製造される。エステル交換法では、テレフタル酸のエステル形成誘導体とエチレングリコールを反応容器内に仕込み、エステル交換触媒の存在下に150〜250℃の温度で反応させた後、安定剤と重合触媒等を添加し、500Pa以下の減圧下で260℃〜300℃の温度に加熱し、3〜5時間反応させることによって、共重合ポリエステルを得ることができる。
【0039】
また、エステル化法では、テレフタル酸とエチレングリコールを反応容器に仕込み、窒素加圧下に150〜260℃の温度でエステル化反応を行い、エステル化反応終了後、安定剤と重合触媒等を添加し、500Pa以下の減圧下で260℃〜300℃の温度に加熱し、3〜5時間反応させることによって、共重合ポリエステルを得ることができる。
【0040】
本発明の共重合ポリエステルの製造において、ポリエチレングリコールの添加時期としては、エステル化反応やエステル交換反応前に他の原料とともに仕込んでもよく、また、エステル化反応やエステル交換反応が終了後、重合反応が始まる前までに添加することもできるが、後者がより好ましい態様である。
【0041】
本発明において、数平均分子量が8000以上のポリエチレングリコールは、フレークや粉など固体状態で入手することができる。ポリエチレングリコールを添加するときは、70℃以上の温度に加熱し溶融した状態で添加し、重縮合反応における減圧開始までに十分に分散させることにより、ポリエチレングリコールがポリエチレンテレフタレートと反応しやすくなり、得られた共重合ポリエステルは、主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造を有することができ、吸湿性能が高くなる。
【0042】
また、得られた共重合ポリエステルは、単独型繊維でも紡糸性が向上し、紡糸速度を速くすることが可能となり生産性が向上し、更には細繊度繊維を得ることができるので好ましい態様である。
【0043】
本発明の共重合ポリエステルを製造する際に使用されるエステル交換触媒としては、酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸マグネシウムおよびチタンテトラブトキシ等が挙げられる。また、重合用触媒としては、三酸化アンチモンや二酸化ゲルマニウム等が挙げられる。
【0044】
本発明の共重合ポリエステルは、具体的に次の方法よって得ることができる。
【0045】
エステル化反応によって得られたビス−β−ヒドロキシエチルテレフタレートのオリゴマー(以下、BHTと称することがある。)を、冷却し固体状態とした後、粉砕して粉末状のBHTを得る。粉末状のBHTと粉末状のポリエチレングリコールを十分に混合した後、これらを重縮合反応装置に投入し攪拌しながら、250℃〜270℃の温度で溶融する。溶融したBHTとポリエチレングリコールの混合物に、安定剤と重合触媒等を添加し、500Pa以下の減圧下で260℃〜300℃の温度に加熱し、3〜5時間反応させることによって、共重合ポリエステルを得ることができる。
【0046】
また、エステル交換反応装置またはエステル化反応装置を用いてBHTを合成後、これらの反応装置からBHTを重縮合反応装置に移行配管を通して移行するときに、移行配管の途中で溶融したポリエチレングリコールを注入し、重縮合反応装置で直ちに攪拌することによりポリエチレングリコールを微分散させる。その後、溶融したBHTとポリエチレングリコールの混合物に、安定剤と重合触媒等を添加し、500Pa以下の減圧下で260℃〜300℃の温度に加熱し、3〜5時間反応させることによって、共重合ポリエステルを得ることができる。このとき、移行配管にフィルターを設置し、BHTがフィルターを通過する直前にポリエチレングリコールを注入すると、移行配管途中のフィルターでポリエチレングリコールがBHT中に分散されやすくなる。
【0047】
本発明の共重合ポリエステルは、押出成形、ブロー成形、真空成形および射出成形等の成形方法を使用し、各種の樹脂成形品とすることができる。特に、共重合ポリエステルを溶融紡糸により繊維化すると、吸湿性能が発揮しやすくなり好ましい態様である。
【0048】
本発明の共重合ポリエステルを用いた繊維としては、構成される繊維全体の20〜100重量%が本発明の共重合ポリエステルであることが好ましい。本発明の共重合ポリエステルが20重量%よりも少ない場合には、吸放湿性を向上させる効果はほとんど見られない。また、十分な吸放湿性という観点からは、繊維全体の50〜100重量%が本発明の共重合ポリエステルからなることが好ましい。
【0049】
特に、繊維全体(100%)が本発明の共重合ポリエステルよりなる、すなわち実質的に単独型繊維とすることにより、繊維の吸湿性を最大限に発揮させることができる。
【0050】
また、従来の芯鞘型複合繊維では、吸湿による膨潤により鞘割れが生じるなどの課題があるが、本発明の共重合ポリエステルからなる繊維を単独糸として用いることによって、これらの課題も解消される。更に、本発明の共重合ポリエステルからなる繊維を単独糸として用いることにより、共重合ポリエステルが表面に露出されるため吸湿速度が速くなるという効果がある。
【0051】
本発明の共重合ポリエステルからなる繊維の吸湿性は、暑熱時の衣服の快適性を決定する上で重要な尺度である。衣料としたときに快適性を与えうるためには、吸湿パラメータ(ΔMR)が2.0%以上であることが好ましい。更に、吸湿パラメータ(ΔMR)が4.0%以上であることが、快適性の観点からより好ましい態様である。しかしながら、共重合ポリエステルからなる繊維の吸湿性パラメータが20%を超えると、繊維の特性に影響を与えることがある。例えば、強度低下や耐光性悪化が大きくなり、衣料用途などでの使用に適さなくなることがある。吸湿パラメータは、より好ましくは10%以下である。
【0052】
本発明の共重合ポリエステルからなる繊維の単糸繊度は、吸湿性が必要とされる衣料用途に適しているという観点から、10dtex以下であることが好ましい。単糸繊度は、更に好ましくは5dtex以下である。また、本発明においては、更に細い単糸繊度の繊維を得ることも可能であり、1dtex以下の繊維を得ることも可能である。
【0053】
本発明の共重合ポリエステルからなる繊維は、溶融紡糸工程により製造することができる。具体的には、本発明の共重合ポリエステルを280〜300℃の温度に加熱し口金から溶融吐出される。口金から吐出された糸条は、通常、紡出後に冷却され巻き取られる。
【0054】
また、紡糸速度は、500m/分〜10000m/分にすることにより、分子配向が生じ、後の延伸工程での工程通過性を高めることができる。
【0055】
また、本発明の共重合ポリエステルからなる繊維の製造プロセスも、紡糸された糸条を一旦巻き取り、これを延伸機を用いて延伸する方法や、紡糸された糸条を一旦巻き取ることなく、紡糸延伸工程を連続して行う直接紡糸延伸方式などのプロセスを適用することができる。
【実施例】
【0056】
A.吸湿パラメータ(ΔMR):
測定試料を3g用意し、その絶乾重量(Wd)を測定した。この試料を20℃×65%R.H.の状態に調湿された恒温恒湿機(エスペック製LHU−123)中に24時間放置し、平衡状態となった試料の重量(W20)を測定し、次いで、恒温恒湿機の設定を30℃×90%R.H.に変更し、更に24時間放置後の重量(W30)測定し、吸湿パラメータを下記の式Iにより求めた。
・吸湿パラメータ(ΔMR)=(W30−W20)/Wd(%) ・・・ 式I。
【0057】
B.ガラス転移温度、PEG比率:
温度変調示差走査熱量分析(TM−DSC)を用い、窒素雰囲気下で、−85℃から300℃の温度まで、2℃/分の速度で昇温したときに、可逆成分に観測される0℃以下のガラス転移温度を求めた。
・装置 :TA Instruments製 DSC Q1000
・ データ解析:TA Instruments製 ユニバーサル アナリシス 2000
また、得られたガラス転移温度より、下記(式1)を用いてPEG比率を算出した。
【0058】
【数2】
【0059】
(式中、X
PETは、主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造中のポリエチレンテレフタレートの重量分率であり、X
PEGは、主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造中のポリエチレングリコールの重量分率であり、X
PET=1−X
PEGが成立する。また、ΔC
p,PETは、ポリエチレンテレフタレート単体のガラス転移前後の熱容量差(ΔC
p,PET=0.4052Jg
−1K
−1)であり、ΔC
p,PEGは、ポリエチレングリコール単体のガラス転移前後の熱容量差(ΔC
p,PEG=0.8672Jg
−1K
−1)であり、T
g,PETは、ポリエチレンテレフタレート単体のガラス転移温度(T
g,PET=342K)であり、T
g,PEGは、ポリエチレングリコール単体のガラス転移温度(T
g,PEG=206K)を表す。)。
【0060】
C.紡糸性:
150℃の温度で10時間、真空乾燥し、紡糸温度290℃、紡糸速度1000m/min、口金口径0.23μm−12H(ホール)の条件で1kg紡糸を行ったときの糸切れ頻度を、次の基準で評価した。一度も糸切れしなかったものを○、糸切れは認められたが少なく操業性に支障がない範囲を△、糸切れが多発したものを×とした。○と△のものを、合格とした。
【0061】
D.延伸性:
紡糸により得られた未延伸糸を延伸温度80℃、延伸倍率2.7倍の条件で延伸を行ったときの糸切れ頻度を、次の基準で評価した。一度も糸切れしなかったものを○、糸切れは認められたが少なく操業性に支障がない範囲を△、糸切れが多発したものを×とした。○と△のものを、合格とした。
【0062】
E.融解ピーク
DSC(示差走査熱量計)にて、昇温速度16℃/分で300℃まで昇温して5分間恒温状態とした後、急冷して再び昇温速度16℃/分で300℃まで昇温した際に発現する吸熱ピークを融解ピークとした。
【0063】
(実施例1)
エステル交換反応装置と重縮合反応装置が、400メッシュのフィルターを設置した移行配管で連結された反応装置のエステル交換反応装置に、テレフタル酸ジメチルを429gと、エチレングリコールを274gと、そしてエステル交換触媒として酢酸マンガン0.1gを投入し、140〜240℃の温度でメタノールを留出しつつエステル交換反応を行った後、これにリン酸トリメチル0.15gを添加して、BHTを合成した。その後、移行配管を通してエステル交換反応装置から重縮合反応装置にBHTを移行するとき、70℃の温度に加熱して溶融した分子量8300(三洋化成工業社製PEG6000)のポリエチレングリコール75gを、フィルター通過前の移行配管に注入し、移行完了と同時に攪拌を開始した。次に、重縮合反応装置に、抗酸化剤としてIrganox1010(BASF社製)を0.1g、消泡剤としてシリコンを0.1g、および重合触媒として三酸化アンチモンを0.15gを投入し、100Paの減圧下で290℃の温度の条件下で、3時間重合を行った。その後、得られた共重合ポリエステルを冷水中にストランド状に吐出させ、直ちにカッティングして共重合ポリエステルチップを得た。
【0064】
このようにして得られた共重合体に共重合されたポリエチレングリコールの割合は、15重量%であった。また、得られた共重合ポリエステルのΔMRは3.2%であり、ガラス転移温度(Tg)は−59℃と90℃であった。低温側のTgは、ポリエチレングリコールが多い非晶構造のTgとしてポリエチレングリコールの比率を算出した結果、ポリエチレングリコールの比率は89%であった。
【0065】
次いで、得られた共重合ポリエステルチップを、150℃の温度で10時間真空乾燥し、紡糸温度290℃、吐出量32g/min、紡糸速度1000m/min、口金口径0.23mm−24H(ホール)の条件で溶融紡糸を行った。紡糸性は良好で、糸切れは認められなかった。次いで、延伸温度80℃、延伸倍率3.3倍の条件で延伸を行った。延伸時に糸切れや単糸の巻きつきは発生せず、延伸性についても良好であった。
【0066】
得られた共重合ポリエステルからなる繊維の総繊度は97dtex(単糸繊度4dtex)、ΔMRは4.0%であり、吸湿性に優れた繊維であった。
【0067】
(実施例2〜4、比較例1〜2)
PEGの共重合比率を、表1に示した値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施した。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
実施例2〜4のように、PEGの共重合比率が本発明の範囲内のものは、吸湿性の高いポリエステル繊維を得ることができるが。しかしながら、比較例1〜2のように、PEGの共重合比率が本発明の範囲外のものは、吸湿特性が低いか、紡糸時または延伸時に糸切れが多発し、意図するポリエステル繊維を得ることができなかった。
【0070】
(実施例5〜6、比較例3〜4)
PEGの分子量を、表1に示した値に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施した。結果を表2に示す。
【0071】
(比較例5)
ポリエチレングリコールを移行配管から注入せず、粉状のまま重縮合反応装置に添加したこと以外は、実施例1と同様にして行った。結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
実施例6のように、PEGの分子量が20000のときには延伸性にやや糸切れが認められるが、操業性に問題のない程度である。しかしながら、比較例4のように、PEGの分子量が100000のときには、繊維がフィブリル化し、紡糸性と延伸性が悪化した。これは、PEGの分子量が100000と大きいために、PEGが共重合反応せず、ブレンドされた状態となったためである。
【0074】
実施例5のように、PEGの分子量が10000のときには紡糸性、延伸性ともに問題なかった。
【0075】
また、比較例3のように、PEGの分子量が3200のときには糸切れがあり紡糸性が悪く、延伸性も悪かった。
【0076】
また、比較例5のように、PEGを粉状で添加した場合は、ガラス転移温度が−67℃であり、主としてポリエチレングリコールからなるポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造におけるPEG比率が100%であった。即ち、ポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートが共存した非晶構造のものではなく、ポリエチレングリコール単独の非晶構造であった。更に、得られたポリマーは、紡糸性が悪く繊維を得ることができなかった。