(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バインダー成分が、前記スーパーエンプラ繊維よりなるマトリックス樹脂成分と相溶性を有し、且つ前記複合材を250℃以上430℃以下の温度で加熱加圧成形したときに前記スーパーエンプラ繊維との間に界面が存在せず一体化する樹脂成分である、請求項1または2に記載の繊維強化プラスチック成形用複合材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
熱可塑性樹脂は、近年、耐熱性、耐薬品性などに優れた熱可塑性樹脂が盛んに開発されるようになり、これまで熱可塑性樹脂について常識とされてきた前記したような欠点が目覚ましく改善されてきている。そのような熱可塑性樹脂は、いわゆる「スーパーエンプラ(スーパーエンジニアリングプラスチック)」と呼ばれる樹脂であり、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)等が挙げられる(非特許文献1)。
【0016】
上記「スーパーエンプラ」と称される熱可塑性樹脂は、強度が優れるだけでなく、難燃性が非常に高いことが特徴のひとつであり、限界酸素指数が樹脂ブロックの状態で30以上であるものが多い。特に、ポリエーテルイミド(以下PEIとする)は、限界酸素指数が47と高く、更に燃焼時の発煙が著しく少ないという特徴を有する。このようなスーパーエンプラを使用した複合材の検討は、これまでにも様々に試行されているが、下記のような問題がある。
【0017】
溶融法(ホットメルト法)、溶剤法、ドライパウダーコーティング法、パウダーサスペンション法、樹脂フィルム含浸法(フィルムスタッキング法)、混織法(コミングル法)で製造したプリプレグは、熱硬化性プリプレグと比較して、硬くてドレープ性がなく、タックも低く、取扱い性が極めて悪いのが現状である(非特許文献1)。
【0018】
更に、スーパーエンプラを使用したプリプレグは、熱硬化性プリプレグと比較して成形時間が短いことを特徴とするが、溶融法(ホットメルト法)、溶剤法、ドライパウダーコーティング法、パウダーサスペンション法、樹脂フィルム含浸法(フィルムスタッキング法)で製造したプリプレグは通気性に乏しいため、短時間での成形を試みると、プレス用の熱板とシート間に存在する気泡が抜け切れず、溶融した樹脂中に入り込んで外観不良、強度面での欠陥などの不具合が発生しやすい。
【0019】
また、加熱加圧成形後の成形物を所望の厚さとするために、プリプレグを複数枚積層する場合には、プリプレグ間に空気がトラップされやすく、単層の場合よりさらに欠陥を発生しやすくなる。
【0020】
また、混織法で得られる織布は成形前のしなやかさを付与することは可能だが、一般的に短繊維を空気中、又は水中に分散させてシート化する方法に比べ、生産性が低くコストが高いという欠点を有する。
【0021】
上記のような欠点を回避するため、特許文献1及び特許文献2においては、強化繊維である炭素繊維と熱可塑性繊維状マトリックス樹脂を、空気中若しくは水中で均一に混合し、ネット上に捕捉して得られたウエブを加熱加圧成形する提案がなされており、また特許文献2には強化繊維とマトリックス樹脂繊維を分散媒体中に分散させ、混合した後に分散媒体を除去することによって得られた抄紙基材を加熱加圧成形する技術が開示されているが、このようなウエブ、或いは抄紙基材は、マット形成後にプレス工程まで移動させる際の工程強度を得るため、バインダーが必須成分となる。
【0022】
ところが、耐熱性・難燃性の高いスーパーエンプラである熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂としたプリプレグは、加熱加圧成形時に300℃以上という高温に曝されるため、成形物中に熱分解・気化したバインダーに起因する空隙(以下「ボイド」という)が発生し、外観・強度共に低下しやすい。前記各先行技術文献のいずれにも、上記のような高温での加熱加圧成形工程に耐え得るバインダーに関する技術は開示されていない。
【0023】
特許文献1及び2に開示されているような、通常のウエブ或いは抄紙基材を製造する工程で一般的に使用できるバインダー成分は、PEI繊維に比べて難燃性が低く、燃焼時の発煙が多い。そのためこのようなバインダー成分を用いたプリプレグを加熱加圧成形すると、PEI樹脂の有する耐熱性・難燃性・低発熱性といった特徴が損なわれてしまう。更に、300℃以上というPEI樹脂の成形温度においては前記のようなバインダーは熱分解を開始し、臭気を発するため作業環境が悪化するという問題もある。
【0024】
かかる欠点を解消するため、特許文献3には抄紙法により炭素繊維を絡ませウェブしとしたことが紹介されているが、この方法では強度が弱く工業的には生産できない。また、ウエブ若しくは抄紙基材の繊維間をPEI樹脂そのもので固定する方法が特許文献4に開示されている。
【0025】
しかし、このような方法で連続生産する場合、製造工程中に必要なシート強度を得るためには、少なくとも220℃以上、通常の製造効率を維持するためには更に高温で一定の時間加熱する必要がある。一般に上記のウエブ、或いは抄紙基材よりシートを工業的に連続生産する工程はこのような高温の加熱工程を有しておらず、既存設備で製造することが不可能であり、仮にそのような加熱工程を有していたとしてもエネルギー効率が極端に悪化するため、事実上、現在の技術水準においては工業的に連続生産することが困難である。
【0026】
かかる状況に鑑み、本発明においては、耐熱性と難燃性が高い熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として使用した高強度・高耐熱性、優れた難燃性を有する繊維強化樹脂成形体が得られる繊維強化プラスチック成形用複合材において、ごく短時間の加熱加圧成形時間であってもボイド等が発生せずに十分な強度が得られ、複合材自体の生産性も高く、加工工程におけるハンドリング性に優れた繊維強化プラスチック成形用複合材を、安価に提供することを目的とする。
【0027】
本発明はまた、マトリックス樹脂としてPEI繊維を使用した繊維強化プラスチック成形用複合材として、製造効率よく連続生産することが可能であり、成形体への加工時の臭気が少なく、且つ加熱加圧成形した後においては高耐熱性・難燃性・低発煙性であるという特徴を有する繊維強化プラスチック成形用複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、いわゆるスーパーエンプラと呼ばれる耐熱性と難燃性の高い熱可塑性樹脂を使用した繊維強化プラスチック成形用複合材において、特定の繊維径の熱可塑性樹脂繊維をマトリックス樹脂として使用することで、加熱加圧成形時間を従来の高耐熱性熱可塑性樹脂を使用した繊維強化プラスチック成形用複合材より更に短時間の加熱加圧時間であっても、繊維が十分に溶融し、十分な強度が得られることを見出した。
【0029】
更に、繊維強化プラスチック成形用複合材の通気性を一定値よりも高く(空気が通りやすい)保つことが可能となり、短い加熱加圧成形時間であっても、ボイドが発生せず、外観・強度共に良好な繊維強化樹脂成形体が得られることを見出した。
【0030】
また、強化繊維と熱可塑性樹脂繊維を均一に混合させ、且つ繊維強化プラスチック成形用複合材の生産性を高めるには、チョップドストランド化(短繊維化)した熱可塑性繊維や強化繊維をシート形状とすることが好ましいが、この場合、短繊維の交点を結着させる方法として、バインダーを付与することが必要である。この場合において、バインダーの種類・配合比・複合材内の分布が特定条件を備えた場合に、繊維強化プラスチック成形用複合材としてのハンドリング性が良好であり、且つ、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチックは、ボイド等がなく外観が良好で、強度も高いことを見出した。
【0031】
さらに、PEI樹脂よりも難燃性が劣り、発煙が多く、またPEI樹脂の成形温度において臭気を発生するバインダーを効果的に使用することによって、PEIの持つ難燃性・低発煙性という特徴を損なうことなく、製造効率よく連続生産することが可能であり、成形体への加工時の臭気が少なく、且つ加熱加圧成形した後においては高耐熱性・難燃性・低発煙性であるという特徴を有する繊維強化プラスチック成形用複合材が得られることを見出した。
【0032】
すなわち、本発明は以下を包含する。
【0033】
(1)ガラス繊維及び炭素繊維から選ばれる少なくとも1種の無機繊維よりなる強化繊維成分と、限界酸素指数が25以上であり、繊維径が30μm以下で且つ前記強化繊維の繊維径の4倍以下であるスーパーエンプラ繊維よりなるマトリックス樹脂成分とを含有することを特徴とする繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)。
【0034】
(2)JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2に規定される透気度が200秒以下である、(1)記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)。
【0035】
(3)前記スーパーエンプラ繊維と前記強化繊維が共にチョップドストランドであり、乾式不織布法又は湿式不織布法によって不織布シートとされていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)。
【0036】
(4)前記繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)中に10質量%までの量のバインダー成分を含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)。
【0037】
(5)前記繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)中のバインダー成分が、繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)の表層部にその多くの部分が存在するように偏在していることを特徴とする(4)に記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)。
【0038】
(6)前記バインダー成分が、前記スーパーエンプラ繊維よりなるマトリックス樹脂成分と相溶性であることを特徴とする(4)又は(5)に記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)。
【0039】
(7)前記バインダー成分が、該バインダー成分を含有する溶液或いはエマルジョンとして、塗布法或いは含浸法により不織布シートに付与されていることを特徴とする、(4)〜(6)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)。
【0040】
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載されている繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)を製造する方法であって、
ガラス繊維及び炭素繊維から選ばれる少なくとも1種の無機繊維よりなる強化繊維成分と、限界酸素指数が25以上であり、繊維径が30μm以下で且つ前記強化繊維の繊維径の4倍以下であるスーパーエンプラ繊維よりなるマトリックス樹脂成分とを混合して不織布シートを形成する工程を有することを特徴とする繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)の製造方法。
【0041】
(9)前記不織布シートを形成する工程が、乾式不織布法又は湿式不織布法のいずれかの不織布形成工程であることを特徴とする(8)に記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)の製造方法。
【0042】
(10)前記不織布シートを形成する工程が、バインダー含有液を使用して全不織布シート中に含まれるバインダー量の多くの部分が不織布シートの表裏面の表層部分に偏在している不織布シートを形成する段階を有することを特徴とする(8)又は(9)に記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)の製造方法。
【0043】
(11)前記不織布シートを形成する工程が、前記強化繊維成分と前記スーパーエンプラ繊維よりなるマトリックス樹脂成分を有する不織布シートを、該スーパーエンプラ繊維が部分溶融する条件下で加熱処理する段階を有することを特徴とする(8)〜(10)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)の製造方法。
【0044】
(12)前記(1)〜(7)のいずれかに記載されている繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)を、前記スーパーエンプラ繊維よりなるマトリックス樹脂成分が溶融する条件下で加圧加熱成形することにより形成されている、繊維強化プラスチック成形体。
【0045】
(13)無機繊維よりなる強化繊維成分とポリエーテルイミド繊維よりなるマトリックス樹脂繊維成分と、少なくとも1種のバインダー成分を含有する不織布状シートよりなり、該不織布状シートの表層部における繊維成分同士が、主として繊維成分同士の交点に水掻き膜状に局在する前記バインダー成分によって結合されていることを特徴とする、繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)。
【0046】
(14)前記少なくとも1種のバインダー成分のうちの前記表層部における繊維成分同士の交点に水掻き膜状に局在するバインダー成分が、モノマー成分としてメチルメタクリレート及びエチルメタクリレートから選ばれる少なくとも1種を含有する共重合体を含有することを特徴とする、(13)に記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)。
【0047】
(15)前記少なくとも1種のバインダー成分として、前記ポリエーテルイミド繊維成分と加熱溶融状態で相溶性である粒子状又は繊維状の熱可塑性樹脂を含有することを特徴とする、(13)又は(14)に記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)。
【0048】
(16)前記粒子状又は繊維状の熱可塑性樹脂が、ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする(15)に記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)。
【0049】
(17)前記バインダー成分の総含有量が0.3質量%以上10質量%以下であることを特徴とする、(13)〜(16)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)。
【0050】
(18)バインダー成分が、モノマー成分としてメチルメタクリレート及びエチルメタクリレートから選ばれる少なくとも1種を含有する共重合体と、繊維状ポリエステル樹脂及び繊維状変性ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の繊維状樹脂とを含有し、前記共重合体の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)に対する含有量が0.7〜4.0質量%であり、前記繊維状樹脂の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)に対する含有量が1.5質量%〜6質量%であり、バインダー成分の総含有量が8質量%以下である(17)に記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)。
【0051】
(19)表層部間の中間層における前記繊維成分間はポリエーテルイミド繊維成分と加熱溶融状態で相溶性である粒子状又は繊維状の熱可塑性樹脂によって接着(溶融結合)されていることを特徴とする、(13)〜(18)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)。
【0052】
(20)(13)〜(19)のいずれかの繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)を製造するための方法であって、前記無機繊維よりなる強化繊維成分とポリエーテルイミド繊維よりなるマトリックス樹脂繊維成分とを有する不織布に、溶液型又はエマルジョン型のバインダー液を付与し、その後、不織布を急速に加熱してバインダー液の主要部を不織布表層部に移行させつつ不織布全体を乾燥させることによって、不織布の表層部の繊維成分同士の交点を水掻き膜状に局在するバインダーで結合させることを特徴とする、繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)の製造方法。
【0053】
(21)前記(13)〜(19)のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形用複合材(スタンパブルシート)を、250℃以上430℃以下の温度で加熱加圧成形して形成されている、繊維強化プラスチック成形体。
【0054】
(22)ASTM E662に準拠した有炎法における20分燃焼後の発煙濃度が、43DS以下である、(21)に記載の繊維強化プラスチック成形体。
【0055】
(23)JIS K−7102−2に準拠して測定した限界酸素指数が40以上である、(21)又は(22)に記載の繊維強化プラスチック成形体。
【0056】
スタンパブルシートとは、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化プラスチック成形体の成形前の部材である。いわゆる熱硬化性樹脂による繊維強化プラスチックの成形前の部材は、通常「プリプレグ」と呼ばれているが、スタンパブルシートは、この「プリプレグ」に相当するものである。本発明において「プリプレグ」には、熱可塑性樹脂による繊維強化プラスチックの成形前の部材も包含されるものとする。
【0057】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願第2012-44141号、第2012-93479号、第2012-155590及び特願2012-280652号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0058】
本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材は、加熱加圧成形することにより、ボイドの発生がない、強度・外観共に良好である繊維強化プラスチック体に成形される。
【0059】
本発明によれば、難燃性のPEI繊維よりなる熱可塑性マトリックス樹脂繊維成分と、無機繊維よりなる強化繊維成分とを含有する不織布状構造のシートであって、工業的に連続生産することが可能であり、積層・熱プレス等によって成形体に加工する工程においても十分な層間強度を有しているハンドリング性に優れた繊維強化プラスチック成形用複合材と、優れた難燃性、低発煙性の繊維強化プラスチック成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0062】
本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材に使用される強化繊維は、金属繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、炭素繊維等、一般的な無機繊維を広く使用することができる。これらの無機繊維は難燃性・低発煙性という点でいずれも好ましく、これらのうち一種を使用することも、複数種を混合して使用することも可能である。一般的には、繊維強度や重量、或いは熱可塑性樹脂との接着性等の観点から、炭素繊維とガラス繊維が好ましい。
【0063】
これらの強化繊維をクロス(布)状に編んだシートを使用することも、一方向に並べたものを使用することも、或いは短繊維化して空気中に分散させてからネット等に捕捉してシート化したものを使用することも、溶媒中に分散させた後、分散媒を除去してシート化したものを使用することもできる。
【0064】
強化繊維の太さとしては、特に限定されるものではないが、3μm〜18μmが好ましい。強化繊維の繊維径がこれよりも細いと、製造工程或いは使用中に人体に取り込まれた場合に発ガン性を有する場合があるため好ましくない。また、強化繊維の繊維径がこれよりも太いとスーパーエンプラ繊維との混合物の均一性が悪くなり、強度の点で好ましくない。また、強化繊維の繊維長は、好ましくは3mm〜30mm程度である。これより長いと、繊維が均一に分散せず、シートの均一性や強化繊維との混合比の均一性が低下する。また、これより短いと、成形体強度が低下する。繊維径及び繊維長は単一であってもよく、また異なる繊維径、繊維長のものをブレンドして使用してもよい。
【0065】
本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材に使用する熱可塑性樹脂繊維は、いわゆるスーパーエンプラと呼ばれる、耐熱性で難燃性の熱可塑性樹脂を繊維化したものである。このような熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)等が例示されるが、これに限定されるものではない。
【0066】
本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材に使用するスーパーエンプラである樹脂を繊維化したスーパーエンプラ繊維は、繊維状態において限界酸素指数が25以上でガラス転移温度が140℃以上であることが好ましい。また、ガラス転移温度がこれ以下であったとしても、樹脂の荷重たわみ温度が190℃以上となる樹脂であることが好ましい。このようなスーパーエンプラ繊維は、加熱・加圧により溶融して樹脂ブロックになった状態において、限界酸素指数が30以上という、非常に高い難燃性を有する。
【0067】
一実施形態において、本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材に使用する熱可塑性樹脂繊維は、PEI樹脂を繊維化したPEI繊維である。この繊維に使用されるPEI樹脂は、溶融し成形加工された後、限界酸素指数が40以上、またASTM E−662に記載の方法で測定した20分燃焼時の発煙量が30ds前後と、非常に発煙量が少ないことが特徴である。
【0068】
なお、本発明において、「限界酸素指数」とは、燃焼を続けるのに必要な酸素濃度を表し、JIS K7201に記載された方法で測定した数値をいう。すなわち、限界酸素指数が20以下は、通常の空気中で燃焼することを示す数値である。
【0069】
本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材は、強化繊維と熱成形によりマトリックスを形成するスーパーエンプラ繊維を交互に編込む混織法や、強化繊維と熱成形によりマトリックスを形成するスーパーエンプラ繊維を一定の長さにカットしたチョップドストランドを空気中に分散させてネットに捕捉してウエブを形成する方法(乾式不織布法)や、前記両チョップドストランドを溶媒中に分散させ、その後溶媒を除去してウエブを形成する方法(湿式不織布法)等の方法で製造できるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材は、熱成形によりマトリックスを形成する熱可塑性樹脂が繊維形態をしていることによりシート中に空隙が存在している。そのため、溶融法(ホットメルト法)、溶剤法、ドライパウダーコーティング法、パウダーサスペンション法、樹脂フィルム含浸法(フィルムスタッキング法)等、繊維間を樹脂が完全に埋めている複合材と異なり、熱成形前はシート自体がしなやかでドレープ性があり、巻き取りの形態で保管・輸送が可能となることや、曲面の型に沿わせて配置した後、加熱加圧成形することができる等、ハンドリング性に優れることが特徴である。
【0071】
本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材に使用するスーパーエンプラ繊維には、繊維強化プラスチック成形用複合材を加熱加圧成形する際の300℃から400℃というような温度条件下で十分に流動性であることが求められる。また、繊維強化プラスチック成形用複合材の製造段階で加えられる加熱条件下で十分に繊維状態を維持することができるように、繊維化したスーパーエンプラ繊維のガラス転移温度が140℃以上であることが好ましい。また、ガラス転移温度がこれ以下であったとしても、樹脂の荷重たわみ温度が190℃以上となる樹脂であることが好ましい。
【0072】
加熱加圧成形時にマトリックスを形成する樹脂がスーパーエンプラ繊維である繊維強化プラスチック成形用複合材は、熱硬化性樹脂を使用した繊維強化プラスチック成形用複合材よりも繊維強化プラスチックに加工する際の加熱加圧成形時間が短時間ですみ、生産性に優れることが本来の特徴である。しかし、繊維強化プラスチック成形用複合材を短時間で加熱加圧成形するためには、使用されるスーパーエンプラ繊維が高温下で速やかに溶融することが必要であり、そのためには、スーパーエンプラ繊維の繊維径が細いほうが好ましい。これは、繊維径が細い場合、繊維同士の接触点数が増加するため、繊維同士の接触面積が増加し、熱伝導が良好となること、及び繊維の熱容量が小さくなるため、溶融させるために必要な熱量が少なくなるためである。本発明者らの検討によれば繊維径が30μm以下であることが好ましく、繊維径が1〜20μm以下であることが更に好ましい。
【0073】
スーパーエンプラ繊維の繊維長は特に限定されないが、湿式、若しくは乾式不織布法で製造する場合、好ましくは3mm〜30mm程度である。これより長いと、繊維が均一に分散せず、シートの均一性や強化繊維との混合比の均一性が低下する。また、これより短いと、ウエブの強度が低下し、繊維強化プラスチック成形用複合材の製造工程で破断等が生じやすくなる。繊維径及び繊維長は単一であってもよく、また異なる繊維径、繊維長のものをブレンドして使用してもよい。
【0074】
一方、加熱加圧成形後に十分な強度を得るためには、強化繊維とマトリックス樹脂が均一に混合することが必要となる。このためには、強化繊維とマトリックス樹脂繊維の繊維径が近いほうが好ましい。この観点からは、スーパーエンプラ繊維の繊維径は強化繊維の繊維径の4倍以下であることが好ましく、3倍以下であることがより好ましく、最も好ましくはスーパーエンプラ繊維の繊維径と強化繊維の繊維径がほぼ同等であることである。
【0075】
一般に、マトリックス樹脂は、溶融粘度が高いため、射出成形等の方法では強化繊維を多量に配合すると、強化繊維を均一に分散させることが難しいため、強化繊維の配合比に限界がある。しかし、本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材では、必要とされる強度に応じて比較的自由に強化繊維とマトリックス樹脂繊維との比率を設定することができる。
【0076】
スーパーエンプラ繊維の繊維径の好ましい範囲としては、30μm以下で且つ強化繊維の繊維径の4倍以下であるものを選択することが好ましい。これによって、加熱加圧時間の短縮と、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチックの強度を両立させることができる。
【0077】
ところで、溶融法(ホットメルト法)、溶剤法、ドライパウダーコーティング法、パウダーサスペンション法、樹脂フィルム含浸法(フィルムスタッキング法)等で製造される繊維強化プラスチック成形用複合材は、加熱加圧時間が短いと、複合材と加熱加圧板、或いは繊維強化プラスチック成形用複合材を積層して加熱加圧する場合に複合材と複合材の間に存在する空気、或いは複合材中から発生する揮発ガス分等によりボイドが発生する。特に、本発明に係るスーパーエンプラをマトリックス樹脂とした繊維強化プラスチック成形用複合材は、高温で加熱加圧処理をする必要があるため、このような問題は深刻である。
【0078】
しかし、本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材は、マトリックス樹脂が繊維状で通気性に富んでいるため、プレス板と複合材間に存在する空気分や複合材中から発生する揮発ガス分は、プレス時にシート中から抜け出しやすく、短時間の加熱加圧処理であってもボイド等が発生しにくいという特徴を有する。
【0079】
このような特徴を出すためには、繊維強化プラスチック成形用複合材の通気性は、JAPAN TAPPI紙パルプ試験法に準拠した方法で測定される透気度が200秒以下であることが好ましい。この数値は、数字が小さいほど空気が通りやすい(通気性が良い)ことを表す。
【0080】
但し、上記通気性を満たすための材料として、処理前のシートを嵩高に調整した場合、繊維強化プラスチック成形用複合材の製造後、加熱加圧工程に供するまでの間、嵩高であるために、例えば輸送コストがかかりすぎる、或いは加熱加圧工程での熱プレス機等に挿入する際に不都合がある、といった問題が発生することが懸念されるが、このような問題は、加熱加圧成形前に熱プレス、若しくは熱カレンダーによって軽くプレスし、適宜密度を高めることで解決できる。この方法の場合、空気は多少通りにくくなるので、JAPAN TAPPI紙パルプ試験法に準拠した方法で測定される透気度が200秒以下という状態を維持できる範囲で高密度化する。
【0081】
本発明における繊維強化プラスチック成形用複合材は、マトリックス樹脂繊維及び強化繊維を一定の長さにカットして短繊維化したチョップドストランドを使用して製造することができる。この場合、マトリックス樹脂と強化繊維のチョップドストランドを空気中に分散させて混合し、ネットに捕捉してシート化する、いわゆる乾式不織布法といわれる方法、マトリックス樹脂繊維と強化繊維のチョップドストランドを溶媒中に分散させ、その後溶媒を除去してシート化する、いわゆる湿式不織布法といわれる方法等によって繊維強化プラスチック成形用複合材を製造できる。
【0082】
このような不織布法で製造する場合、繊維間の物理的な絡み合いだけではハンドリング可能なシートとしての強度が不足する事がある。その際はシートを加熱してスーパーエンプラ繊維を部分的に溶かして繊維間を融着させてもよい。またバインダーを添加して繊維間を結着させてもよい。
【0083】
バインダー成分としては、アクリル樹脂、スチレン・アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂といった熱硬化性樹脂や、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン・酢酸ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂、或いはポリビニルアルコール等のように熱水溶融する樹脂等、一般的な不織布製造に使用されるものを用いることができる。
【0084】
バインダーの含有量は繊維強化プラスチック成形用複合材中10質量%以下であることが好ましい。このようなバインダー成分は、繊維強化プラスチック成形用複合材の加熱加圧成形温度において熱分解を開始し、ガスを発生することがある。そのため、バインダーの含有量がこれよりも多いと多量のガスを発生するため、繊維強化プラスチック成形用複合材が上記した通気度であっても、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック中にボイドが発生し、更にバインダー自体も変色するため、外観・強度共に劣るものとなることが多い。
【0085】
上記のようなガス発生によるボイド発生を抑制するため、バインダー成分の含有量は、繊維強化プラスチック成形用複合材に対して10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。バインダーが少なすぎると、シートの強度が弱すぎて作業中に破れたり、繊維強化プラスチック成形用複合材の表面の繊維が容易に脱落して加工工程に舞い散るため好ましくない。
【0086】
また、本発明における繊維強化プラスチック成形用複合材に使用されるスーパーエンプラ繊維成分は限界酸素指数が25以上であるため難燃性に優れる。しかし、バインダー成分は限界酸素指数が本発明における繊維強化プラスチック成形用複合材に使用されるスーパーエンプラ繊維成分よりも低いのが一般的であるため、バインダー分が多いと難燃性を損ねる。この観点からもバインダーの含有量は、繊維強化プラスチック成形用複合材に対して10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0087】
本発明における繊維強化プラスチック成形用複合材に使用するスーパーエンプラ繊維としてポリフェニレンスルフィド(PPS)繊維を用いた場合、PPS樹脂は耐薬品性が高く、耐熱性が高いため、耐薬品性と高温時の強度に優れる繊維強化プラスチックを得ることができる。
【0088】
本発明における繊維強化プラスチック成形用複合材に使用するスーパーエンプラ繊維としてポリエーテルイミド(PEI)繊維を用いた場合、PEI樹脂は炭素繊維やガラス繊維との密着性が優れ、また限界酸素指数が樹脂ブロックの状態で47と非常に高いため、強度と難燃性に優れる繊維強化プラスチックを得ることができる。
【0089】
本発明における繊維強化プラスチック成形用複合材に使用するスーパーエンプラ繊維としてポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維を用いた場合、PEEK樹脂は他のスーパーエンプラと比較しても特に耐薬品性と高温時の強度に優れる繊維強化プラスチックを得ることができる。
【0090】
本発明における繊維強化プラスチック成形用複合材に使用するバインダー成分は、繊維強化プラスチック成形用複合材の表層部に偏在していることが好ましい。この場合、内層は相対的にバインダー成分が少なくなることになる。このような構成を採ることにより、少量のバインダー成分であっても表面繊維の脱落が抑制され、十分な作業時の工程強度を得られる。例えばこの場合、バインダー成分の繊維強化プラスチック成形用複合材における含有量を0.1〜1.0質量%とすることが可能となる。
【0091】
繊維強化プラスチック成形用複合材の表層にバインダー成分を相対的に多く存在させる方法としては、湿式不織布法、若しくは乾式不織布法によってウエブを形成した後、バインダー成分を溶媒に溶解した液状物、若しくはバインダー成分の乳化物(エマルジョン)を、ディッピング、若しくはスプレー法等で付与し、加熱乾燥するという製造方法が挙げられる。この方法によれば、加熱乾燥する際に、ウエブ内部の水分が両面の表層に移動し、蒸発するため、この水分の移動に伴ってバインダー成分も表層に相対的に多く集中する。
【0092】
上記のように、繊維強化プラスチック成形用複合材の表層にバインダー成分を偏在させるためには、バインダー成分の溶液、若しくはエマルジョン等、液状のバインダー成分を使用し、加熱乾燥させる製造方法を採用することができる。この場合、溶媒の移動が多いほうがバインダー成分の偏在が強まるため好ましい。
【0093】
このような方法を採用する場合、湿式不織布法でウエットウエブを形成後、バインダーの水溶液、若しくはエマルジョンをウエブにディッピング若しくはスプレー等の方法で付与し、乾燥する方法が好ましい。この場合、ウエブ水分はバインダーの水溶液、若しくはエマルジョンのバインダー液濃度や、湿式不織布製造工程におけるウエットサクション、ドライサクションによる水分の吸引力の調整で行うことが可能である。
【0094】
バインダー成分を偏在させるために好ましいウエブ水分としては50%以上であるが、あまりに水分が多いと乾燥負荷が大きくなり、製造コストがかさむため、両者を勘案して適宜水分を調整することが好ましい。
【0095】
バインダー成分の偏在の程度は、シートを厚さ方向(Z軸方向)に略3分割〜5分割し、それぞれのバインダー量を測定することで把握することができる。バインダー成分の偏在の度合いとしては、略3等分した場合、好ましくは表層に対して内層のバインダー量が1/2〜1/10であることが好ましい。
【0096】
本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材におけるバインダー成分としては、加熱加圧成形後にマトリックスとなるスーパーエンプラ繊維が加熱加圧成形で溶融する際に、その樹脂と相溶する樹脂成分であることが特に好ましい。このような樹脂成分をバインダーとした場合、加熱加圧成形後、マトリックス樹脂とバインダー樹脂の間に界面が存在せず一体化するため強度が良好であり、更にバインダー樹脂に起因するマトリックス樹脂のガラス転移温度の低下が少ないという特徴を持つ。
【0097】
例えば、加熱加圧成形後マトリックスとなる熱可塑性樹脂としてPEI繊維を用いる場合、加熱加圧成形で溶融する際に、その樹脂と相溶するという点で好ましいバインダー成分として、PET若しくは変性PETを用いることが好ましい。
【0098】
PET若しくは変性PETをバインダーとして使用する場合、形状としてはパウダー、繊維状、或いは通常のPETを芯部に配し、この周囲を芯部よりも融点の低い変性PETで覆った形である、芯鞘構造のPET繊維等が好適に使用される。繊維強化プラスチック成形用複合材の工程強度、及び表面繊維の脱落を少なくするという観点から、変性PETの融点は140℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。
【0099】
一実施形態において、本発明は、無機繊維よりなる強化繊維成分とポリエーテルイミド繊維(PEI繊維)よりなるマトリックス樹脂繊維成分と、少なくとも1種のバインダー成分を含有する不織布状シートよりなり、該不織布状シートの表層部における繊維成分同士が、主として繊維成分同士の交点に水掻き膜状に局在する前記バインダー成分によって結合されていることを特徴とする、繊維強化プラスチック成形用複合材に関する。以下、上記この実施形態について、特に説明する。
【0100】
上記実施形態の繊維強化プラスチック成形用複合材は、強化繊維とPEI繊維を空気中に分散させてネットに捕捉してウエブを形成する方法(乾式不織布法)や、強化繊維とPEI繊維を溶媒中に分散させ、その後溶媒を除去してウエブを形成する方法(湿式不織布法)等の方法で製造することができる。
【0101】
上記実施形態では、繊維強化プラスチック成形用複合材の製造に、液状のバインダー、すなわちバインダー成分の溶液或いはエマルジョン液を使用することを特徴の一つとする。液状のバインダーは、製造工程、すなわちバインダーを塗工法又は含浸法でウエブに付与した後、加熱乾燥中に、バインダー液の表面張力によって繊維交点に集中し、その後乾燥収縮する。そのため、乾燥後は
図1に示すとおり繊維同士の交点を水掻き膜状に覆う。このような性質によって、ごく少量でも繊維同士を接着する強度に優れる。バインダー成分については、上述のとおりである。
【0102】
更に、上述のとおり、ウエブを乾燥する際に、バインダー液を含有するウエブ中の水分が繊維強化プラスチック成形用複合材の両表層から蒸発するため、この水蒸気の動きに伴ってバインダーが両表層に集中する。そのため、少量のバインダーであっても複合材の表面繊維の脱落・飛散が抑制され、加熱成形工程等においてハンドリング性に優れる繊維強化プラスチック成形用複合材が得られる。
【0103】
また、このように繊維強化プラスチック成形用複合材の両表層にバインダーを集中させることによって、難燃性・低発煙性を優れたものとすることができる。その理由は以下の通りと考えられる。
【0104】
繊維強化プラスチック成形用複合材の表層(両表層)にバインダー成分を偏在させる方法については、上述のとおりである。
【0105】
上記実施形態においては、耐熱性の高いポリエーテルイミドをマトリックス樹脂とするため、成形温度が250℃〜400℃と非常に高い。このような温度域は、通常バインダー成分として使用されるアクリル樹脂等の熱分解温度を超えている。そのため、加熱成形時にバインダー成分は熱分解し、揮発するため熱成形品にはバインダー成分が残留せず、ひいてはバインダー成分が熱成形品の難燃性・低発煙性を阻害しないことが考えられる。しかしながら、通常のバインダーの添加方法で製造した繊維強化プラスチック成形用複合材では、短い時間の加熱加圧で加工すると、バインダー成分が十分に熱分解・揮発する前に成形加工が終了してしまって、残留するバインダー成分が熱成形品の難燃性・低発煙性を阻害してしまうこととなる。
【0106】
バインダー成分を繊維強化プラスチック成形用複合材の表面付近に集中させることで、高温の金型やプレス板により加熱加圧成形時にバインダー成分が効果的に加熱されるため、バインダー成分が速やかに熱分解・揮発し、熱成形品に残留するバインダー成分がごく僅かな量になるためと考えられる。
【0107】
上記実施形態において、繊維強化プラスチック成形用複合材に使用するバインダー成分は、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、及び/又はメチルアクリレートの共重合体を含むことが好ましく、特に強化繊維としてガラス繊維等の白色に近いものを使用している繊維強化プラスチック成形用複合材である場合には、着色が少なく外観上好ましい。特に、バインダー成分が、モノマー成分としてメチルメタクリレート及びエチルメタクリレートから選ばれる少なくとも1種を含有する共重合体を含有することが好ましい。
【0108】
粒状若しくは繊維状のバインダーを繊維強化プラスチック成形用複合材内に含有させることもできる。これによって、繊維強化プラスチック成形用複合材の層間強度が高まり、加熱成形加工時のハンドリング性が更に改善される。
【0109】
粒状若しくは繊維状のバインダーは、強化繊維とPEI繊維と共に空気中に分散させてネットに捕捉してウエブを形成する方法(乾式不織布法)や、溶媒中に分散させ、その後溶媒を除去してウエブを形成する方法(湿式不織布法)等の方法で繊維強化プラスチック成形用複合材に含有させることができる。
【0110】
液状バインダーとして供給される場合、粒状若しくは繊維状のバインダーとして供給される場合のいずれにおいても、バインダー成分は、加熱溶融した際にPEI繊維と相溶するバインダー成分であることが好ましい。本発明者らの検討によれば、このような成分を選定した場合、加熱加圧成形後にPEI樹脂の難燃性・低発煙性がほとんど損なわれないことが判明している。
【0111】
加熱溶融した際にPEI樹脂繊維と相溶する成分としては、ポリエステル樹脂、或いは変性ポリエステル樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、エマルジョン液とすることも、粒状若しくは繊維状の形状で繊維強化プラスチック成形用複合材の層内に含有させることもできる。いずれもPEI樹脂の持つ難燃性・低発煙性を損ねることはないが、特に変性ポリエステル樹脂は、繊維強化プラスチック成形用複合材の製造工程に適するように融着温度を設定できるため、好ましい。
【0112】
上記実施形態において、使用されるバインダー成分は、溶液若しくはエマルジョン液の状態で供給されるバインダー成分と、必要に応じて、粒状若しくは繊維状で供給されるバインダー成分との合計量が、繊維強化プラスチック成形用複合材に対して0.3質量%以上10質量%以下であることが好ましい。両者の比率は、製造工程に適するよう、任意に設定することができる。バインダー成分の量が0.3質量%よりも少ないと、製造工程中の強度が不十分でハンドリング性が低下する。また、上述のバインダー成分は、難燃性・低発煙性を阻害しないものであるが、あまりに量が多すぎると難燃性・低発煙性が損なわれやすくなるため、この観点より好ましい範囲としては10質量%以下であり、また、この添加量で十分な工程強度・ハンドリング性が得られる。
【0113】
上述の通り、メチルメタクリレート、エチルエタクリレート、エチルアクリレート、及び/又はメチルアクリレートの共重合体を成分とする液状バインダーは繊維強化プラスチック成形用複合材の両表層に集中し、両表層の繊維成分同士の交点に水掻き膜状に局在するため、バインダー成分が少量であっても使用工程においても両表層の繊維の脱落が少ない上、変色が少なく好適であり、繊維強化プラスチック成形用複合材の抄造直後に平板にカットして積層し、プレスするような工程に好適に使用できる。
【0114】
一方、繊維強化プラスチック成形用複合材を製造後、別の場所に輸送してから適切なサイズにカットしてプレス工程を行うような場合においては、シートを巻取りにして輸送したほうが輸送コストや、カットサイズの自由度等の点で好ましい。しかし、巻取りを製造する場合においては、巻きズレ等が発生しないよう所定のテンションをかけながら巻き取るのが通常の方法であり、この場合、巻取り工程でシート同士がこすれたり、揉まれたりするためシートの層間強度が弱いと層間剥離が発生し、使用時に巻き出した後のハンドリング性が極めて悪化する。
【0115】
また、一般のシート製造工程においては、いったん抄紙機等で巻取りを製造し、更に所定の幅の巻取りにするためにワインダー等で巻き取りながら所定の幅に裁断することが多く、このような場合においてはシートが揉まれる回数が増えるため、この問題は更に深刻となる。
【0116】
このような場合、上述の通り、繊維状若しくは粒状のバインダーを使用することによって層間強度を向上させることができるが、このようなバインダーは液状のバインダーのように繊維強化プラスチック成形用複合材の両表層に局在しないため、加熱プレス後も複合材中にそのバインダーのほとんどが残存することとなる。そのため、繊維状若しくは粒状のバインダーは、特にPEI樹脂と相溶するバインダーが好ましく、ポリエステル樹脂又は変性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0117】
また、特に繊維状のバインダーは、PEI繊維や強化繊維と混合して水中に分散し、湿式抄紙法で抄造した場合、粒状バインダーのように抄紙ワイヤーの目から抜けて歩留が低下したり、ワイヤー側に偏在したりすることもないため、特に好ましい。これらを勘案すると、巻取りを製造する場合には、繊維状の変性ポリエステル樹脂バインダーが特に好適である。また、芯部にポリエステル樹脂、鞘部に変性ポリエステル樹脂を配し、鞘部の融点を芯部より低くした芯鞘構造のバインダー繊維も好適に使用することができる。
【0118】
ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。変性ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂を変性することで融点を低下させたものであれば特に限定されないが、変性ポリエチレンテレフタレートが好ましい。変性ポリエチレンテレフタレートとしては、共重合ポリエチレンテレフタレート(CoPET)が好ましく、例えば、ウレタン変性共重合ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。共重合ポリエチレンテレフタレートは、融点が140℃以下のものが好ましく、120℃以下ものがより好ましい。特公平1−30926に記載のような変性ポリエステル樹脂を使用してもよい。変性ポリエステル樹脂の具体例として、特に、ユニチカ製 メルティ4000(繊維全てが共重合ポリエチレンテレフタレートである繊維)が好ましく挙げられる。また、上記芯鞘構造のバインダー繊維としては、ユニチカ製 メルティ4080や、クラレ製 N−720等が好適に使用できる。
【0119】
繊維強化プラスチック成形用複合材に対し、エマルジョンバインダーを0.7〜4.0質量%、ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂から選ばれるバインダーを1.5〜6.0質量%、かつバインダー成分の総量が8質量%以下とすることで、巻取りにして、断裁を繰り返した場合においても十分な表面強度及び層間強度を得ることができる。
【0120】
バインダー成分の量は多くなると表面強度・層間強度共に強くなるが、逆に加熱成形時の臭気の問題が発生しやすくなり、少なくなると臭気の問題は緩和されるが表面強度・層間強度共に低下する傾向となる。しかし、上記の範囲においては臭気の問題はほとんど発生せず、また上記のような繰り返しの断裁工程を経ても層間剥離などを発生しない繊維強化プラスチック成形用複合材を得ることができる。
【0121】
また、上記の範囲においては、メチルメタクリレート、エチルエタクリレート、エチルアクリレート、メチルアクリレートの共重合体を成分とする液状バインダーの配合量は、ポリエステル樹脂又は変性ポリエステル樹脂よりも少ないほうが、臭気の関係から好ましい結果が得られている。ポリエステル系バインダーはマトリックス樹脂と相溶するため、比較的添加量が多くとも臭気を発生しにくく、また、液状バインダーは繊維交点に集中して偏在しやすいため、かかる結果が得られているものと推定している。
【0122】
本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材は、1枚単独、或いは所望の厚さとなるように積層して熱プレスで加熱加圧成形したり、あらかじめ赤外線ヒーター等で予熱し、金型によって(加熱)加圧成形するなど、一般的な繊維強化プラスチック成形用複合材の加熱加圧成形方法を用いて加工することにより、強度・難燃性に優れた繊維強化プラスチックを得ることができる。
【0123】
本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材の目付けは、特に限定されないが、繊維強化プラスチック成形用複合材の表面のバインダー成分を加熱成形時に熱分解・揮発させる必要性から、積層枚数を減らすほうが好ましいため、目付けは高いほうが好ましい。このような観点から、好ましい目付けとしては400g/m
2以上、更に好ましくは550g/m
2以上である。尚、目付けの上限は、目的とする繊維強化プラスチック成形用複合材の厚みに応じて適宜設定することができる。
【0124】
以上の工程で製造された繊維強化プラスチック成形用複合材を加熱加圧成形することにより、ASTM−662に準拠した方法で測定した有炎試験における20分後の発煙濃度が、43DS以下、更には37DS以下という、非常に低い発煙性の繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
【実施例】
【0125】
以下、本発明の効果を確認するための製造例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各製造例において部及び%は、特にことわらない限り、質量部及び質量%を表す。
【0126】
製造例1〜4
繊維径7μm、繊維長13mmのPAN系炭素繊維と、表1に示した繊維径のPPS樹脂繊維(Fiber Innovation Technology社製、繊維長13mm、限界酸素指数41)を、質量比がポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維40に対しポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂繊維60となるように計量し、水中に投入した。投入した水の量は、PAN系炭素繊維とPPS樹脂繊維の合計質量に対し200倍となるようにした(すなわち繊維スラリー濃度として0.5%)。
【0127】
このスラリーに分散剤として「エマノーン3199」(花王株式会社、商品名)を繊維(PAN系炭素繊維とPPS繊維の合計)100質量部に対し1質量部となるよう添加して攪拌し、繊維を水中に均一に分散させた繊維スラリーを作製した。
【0128】
粒状ポリビニルアルコール(PVA)(ユニチカ株式会社、商品名「OV−N」)を、濃度が10%となるように水に添加し、攪拌してバインダースラリーを作成した。この粒状PVAのスラリーを繊維スラリーに投入して湿式抄紙法でウエットウエブを形成し、180℃で加熱乾燥することにより目付けが250g/m
2である不織布を得た。
【0129】
この不織布を、220℃の熱プレスにて、加熱加圧処理することで表1に記載の通気度となる繊維強化プラスチック成形用複合材を得た。尚、製造例2においては製造例1よりも加熱加圧時間を短縮し、密度を低くすることによって透気度を表1の通り調整し、製造例4においては製造例1よりも加熱加圧時間を延長し、密度を高くすることによって表1の通り透気度を調整した。
【0130】
なお、粒状PVAの繊維強化プラスチック成形用複合材に対する配合率は、表1に示す通りとなるよう、粒状PVAスラリー濃度の添加量を適宜調整した。
【0131】
製造例5
PPS樹脂繊維を、表1に示した繊維径であるPPS繊維(KBセーレン株式会社製、ガラス転移温度92℃、繊維長13mm、限界酸素指数41)に変更した以外は、製造例1と同様にして繊維強化プラスチック成形用複合材を作製した。
【0132】
製造例6〜9
製造例1における繊維径7μm、繊維長13mmであるPAN系炭素繊維を、繊維径が9μmであり、繊維長が18mmのガラス繊維に変更し、製造例1におけるPPS樹脂繊維(Fiber Innovation Technology社製、ガラス転移温度92℃、限界酸素指数41)を、表2に示したポリエーテルイミド(PEI)樹脂繊維(Fiber Innovation Technology社、、ガラス転移温度220℃、繊維長13mm、限界酸素指数47)に変更した以外は製造例1と同様にして、目付けが250g/m
2である不織布を得た。得られたシートを、220℃の熱プレスによって加熱加圧することで、表2の通り透気度を適宜調整し、製造例6、7の繊維強化プラスチック成形用複合材を作製した。尚、製造例7は、製造例6よりも220℃熱プレスによる加熱加圧時間を短縮し、密度を低くすることによって透気度を表2の通り調整した。
【0133】
また、粒状PVA(ユニチカ株式会社、商品名「OV−N」)を、PET/coPET変性芯鞘バインダー繊維(ユニチカ株式会社、商品名「メルティ4080」)に変更した以外は、製造例6と同様にして製造例8の繊維強化プラスチック成形用複合材を作製した。
【0134】
また、製造例6におけるガラス繊維を繊維径が6μmであり、繊維長が18mmのガラス繊維に変更して、製造例6と同様にして製造例9の繊維強化プラスチック成形用複合材を作製した。
【0135】
製造例10〜15
製造例1におけるPPS樹脂繊維を、繊維径16μmのPPS樹脂繊維(Fiber Innovation Technology社製、ガラス転移温度92℃、繊維長13mm、限界酸素指数41)に代えるとともに、粒状PVAに代えて、ウエットウエブ形成後に表3のバインダー液をスプレー法によって表3に示されている量で添加し、加熱乾燥させた以外は、製造例1と同様にして製造例10〜15の繊維強化プラスチック成形用複合材を作製した。
【0136】
製造例16〜21
製造例10〜15におけるPPS樹脂繊維を、繊維径15μmのPEI樹脂繊維(Fiber Innovation Technology社製、ガラス転移温度220℃、繊維長13mm、限界酸素指数41)に代える以外は、製造例10〜15のそれぞれに対応する製造例16〜21の繊維強化プラスチック成形用複合材を作製した。
【0137】
なお、上記のバインダー液において、PVA水溶液は、クラレ製「PVA117」を熱水に溶解したPVA水溶液を使用した。また、スチレン・アクリルエマルジョンは、DIC製 「GM−1000」を使用し、ウレタンエマルジョンはDIC製「AP−X101」を使用した。
【0138】
以上の各製造例の方法で得られた各繊維強化プラスチック成形用複合材を、6枚積層し、310℃に予熱したホットプレスに挿入して60秒加熱加圧した後、230℃に冷却して繊維強化プラスチック体を得た。
【0139】
得られた繊維強化プラスチックの外観、JIS K7074に準拠した方法で測定した曲げ強度を表1〜4に示した。なお、外観は、ボイド等がなく良好なものを◎、わずかにボイドが確認できるだけであるものを○、ボイドの発生があるが実用上差し支えのないものを△、ボイドに起因して明らかに外観が悪く、製品として使用できないものを×とした。
【0140】
【表1】
【0141】
【表2】
【0142】
【表3】
【0143】
【表4】
【0144】
表1〜4に示されるように、製造例1、2、製造例6〜8、製造例10〜21の各繊維強化プラスチック成形用複合材を加熱加圧成形して得られる繊維強化プラスチック体は、特定の繊維径を有するスーパーエンプラと称される熱可塑性樹脂の繊維と炭素繊維やガラス繊維からなる強化繊維とを有する透気性の繊維強化プラスチック成形用複合材を加熱加圧成形して製造されていることにより、高強度で外観も良好である繊維強化プラスチック体となっている。
【0145】
また、透気度が210で上記各製造例のものよりやや透気性が劣る製造例4の繊維強化プラスチック成形用複合材から成形されている繊維強化プラスチックは、外観の評価がやや劣るものとなることに加えて、強度も製造例1、2のものに比べてやや低いものとなっている。また、製造例5の繊維強化プラスチック成形用複合材を成形した繊維強化プラスチック体の場合は、スーパーエンプラ繊維の繊維径が30μmを超えるため、加熱加圧成形後の外観が製造例1〜4の繊維強化プラスチック成形用複合材から成形されている繊維強化プラスチック体よりも明らかに劣るものとなっている。また、製造例9の繊維強化プラスチック成形用複合材を成形した繊維強化プラスチック体の場合は、強化繊維の繊維径の4倍を超える繊維径を有するスーパーエンプラ繊維を使用していることによって繊維強化プラスチック成形用複合材中の強化繊維とマトリックス繊維の混合状態が悪くなり、加熱加圧成形後の積層板の外観が製造例1〜4の繊維強化プラスチック成形用複合材から成形されている繊維強化プラスチック体よりも明らかに劣るものとなっている。
【0146】
なお、製造例3の繊維強化プラスチック成形用複合材から成形されているものは、繊維強化プラスチック成形用複合材中のバインダー量が製造例1、2のものよりも多くなっていることによって、繊維強化プラスチック体の外観が製造例1、2のものよりもやや劣るものとなっているように、本発明の繊維強化プラスチック成形用複合材においては、使用バインダーの含有量も成形後の繊維強化プラスチックの外観や強度に影響を与えるものであることが分かる。
【0147】
実施例1
繊維径7μm、繊維長13mmのPAN系炭素繊維と、繊維径15μmのPEI樹脂繊維(繊維長13mm)を、質量比がポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維40に対しPEI樹脂繊維60となるように計量し、水中に投入した。投入した水の量は、PAN系炭素繊維とPEI樹脂繊維の合計質量に対し200倍とした(すなわち、繊維スラリー濃度として0.5%)。
【0148】
このスラリーに分散剤として「エマノーン3199」(花王株式会社、商品名)を繊維(PAN系炭素繊維とPEI繊維の合計)100質量部に対し1質量部となるよう添加して攪拌し、繊維を水中に均一に分散させた繊維スラリーを作製した。
【0149】
この繊維スラリーから湿式抄紙法でウエットウエブを形成し、濃度5%のエマルジョン液バインダー(メチルメタクリレート共重合体、日本触媒製 EMN−188E)をスプレー法によって付与した後、バインダーの固形分添加量が表5に示すとおりとなるように、ウエブ水分をサクションによって適宜脱水し、180℃で加熱乾燥することにより目付けが550g/m
2である繊維強化プラスチック成形用複合材を得た。
【0150】
実施例2
融点110℃の変性ポリエステル粒状バインダー(パウダーレジン G−120、東京インキ株式会社製)を、固形分質量濃度10%となるよう水中に分散したバインダースラリー液を作成した。このバインダースラリー液を、実施例1で作成した繊維スラリーに添加した以外は、実施例1と同様に湿式抄紙法でウエットウエブを形成し、エマルジョン液バインダーを添加して加熱乾燥することにより目付けが550g/m
2である繊維強化プラスチック成形用複合材を得た。尚、変性ポリエステル粒状バインダーの固形分質量添加量は、表5に示す通りとなるようにバインダースラリー液の添加量を調整した。
【0151】
実施例3
実施例2において、融点110℃の変性ポリエステル粒状バインダーを、変性ポリエステル繊維状バインダー(ユニチカ製 メルティ4000)に変更した以外は、実施例2と同様にして繊維強化プラスチック成形用複合材を得た。
【0152】
実施例4
実施例1において、エマルジョン液バインダーを2%濃度のPVA溶液バインダー(クラレ製 PVA117を温水に溶解し、冷却したもの)に変更し、繊維強化プラスチック成形用複合材に対するバインダーの固形分質量添加量を表5に示す通りとした以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形用複合材を得た。
【0153】
実施例5
実施例2における変性ポリエステル粒状バインダーを、PVA粒状バインダー(ユニチカ株式会社製 OV−N)に変更した以外は、実施例2と同様にして繊維強化プラスチック成形用複合材を製造した。
【0154】
比較例1
実施例5において、エマルジョン液バインダーの付与を行わず、粒状PVAバインダーの添加量を表5に示すとおり変更した以外は、実施例5と同様にして繊維強化プラスチック成形用複合材を製造した。
【0155】
比較例2
比較例1において、粒状PVAバインダーの添加量を表5に示すとおり変更した以外は、比較例1と同様にして繊維強化プラスチック成形用複合材を製造した。
【0156】
比較例3〜4
比較例1〜2において、強化繊維を繊維径が9μm、繊維長が18mmのガラス繊維に変更し、強化繊維とポリエーテルイミド繊維の比率を表6に示す通りに変更した以外は、比較例1〜2と同様にして繊維強化プラスチック成形用複合材を製造した。
【0157】
実施例11〜26
メチルメタクリレート共重合体であるバインダー(日本触媒製 EMN−188E)の固形分添加量が表5に示す通りとなるようにし、変性ポリエステル繊維状バインダー(ユニチカ製 メルティ4000)の固形分添加量も表6に示す通りとなるようにした以外は実施例3と同様にして繊維強化プラスチック成形用複合材を得た。尚、メチルメタクリレート共重合体であるバインダー(日本触媒製 EMN−188E)の固形分添加量は、該バインダー添加時のスプレー液濃度を適宜調整することにより所定の添加量となるようにした。
【0158】
実施例27
エマルジョン液バインダー(メチルメタクリレート共重合体、日本触媒製 EMN−188E)の固形分添加量が表6に示す通りとなるようにした以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形用複合材を製造した。尚、メチルメタクリレート共重合体であるバインダー(日本触媒製 EMN−188E)の固形分添加量は、該バインダー添加時のスプレー液濃度を適宜調整することにより所定の添加量となるようにした。
【0159】
実施例28〜44
実施例11〜27において、強化繊維を繊維径が9μm、繊維長が18mmのガラス繊維に変更し、強化繊維とポリエーテルイミド繊維の比率を表6に示す通りに変更した以外は、実施例11〜27と同様にして実施例23〜44の繊維強化プラスチック成形用複合材を製造した。
【0160】
以上の各実施例及び各比較例の方法で得られた各繊維強化プラスチック成形用複合材を、6枚積層し、310℃に予熱したホットプレスに挿入して60秒加熱加圧した後、180℃に冷却して繊維強化プラスチック体を得た。
【0161】
この加熱加圧操作の際の繊維強化プラスチック成形用複合材の表面繊維の脱落・飛散及び取り扱いやすさ(ハンドリング性)を、以下のとおり評価した。
A:非常に良好なもの
B:良好であり実用上問題なく取り扱えるもの
C:実用上やや問題を生じるが、製造は可能であるもの
D:表面繊維の脱落が非常に多く量産では明らかに問題を発生するもの、及びシートが破れやすくハンドリング性に劣るもの
【0162】
また、60秒間加熱加圧中に発生した臭気について、以下のとおり評価した。
A:全く臭気を感じないもの
B:若干臭気を感じるがほとんど気にならないもの
C:臭気を感じるが作業をする上では特に問題とならないもの
D:臭気が強いが短時間の作業であればマスク等が無くとも作業できるもの
E:臭気が強く作業する上でマスク等を必要とするもの
【0163】
以上の各実施例及び比較例の方法で、幅2.3mの各繊維強化プラスチック成形用複合材を製造し、(1)幅1100mmとなるように2ドラム式ワインダーで断裁し、長さ500mの巻取りを得た。(2)前期(1)で得た巻取りを、更に幅500mmとなるように2ドラム式ワインダーで断裁し、300mの巻取りを得た。そして、前記(1)及び(2)の作業中における繊維強化プラスチック成形用複合材の表面繊維の脱落・飛散を、以下のとおり評価した。
A:繊維の飛散が非常に少なく非常に良好なもの
B:繊維の飛散が少なく良好であり実用上問題なく取り扱えるもの
C:繊維の飛散が多く実用上やや問題を生じるが、製造は可能であるもの
D:表面繊維の脱落が非常に多く量産では明らかに問題を発生するもの
【0164】
また、上記(1)及び(2)の工程を経た後の繊維強化プラスチック成形用複合材について、以下のとおり評価した。
A:層間剥離が発生しなかったもの
B:若干層間強度が弱くなったが実用上差し支えがなくハンドリングできるもの
C:層間剥離が一部に発生し実用上やや問題を生じるが、取り扱いは可能であるもの
D:層間剥離が全面に発生し、ハンドリングに問題を生じるもの
【0165】
得られた繊維強化プラスチックの有炎法による発煙濃度(ASTM E−662に準拠、20分加熱後)及び限界酸素指数を表5及び表6に示す。
【0166】
【表5】
【0167】
【表6】
【0168】
※上記表5及び6において、「粒状ポリエステル」は、変性ポリエステル粒状バインダー(パウダーレジン G−120、東京インキ株式会社製)を表し、「繊維状ポリエステル」は、変性ポリエステル繊維状バインダー(ユニチカ製 メルティ4000)を表す。
【0169】
表5、表6に示されるよう、本発明における繊維強化プラスチック成形用複合材は、いずれも表面繊維脱落が少なく、シートの強度も十分であって作業工程でのハンドリング性も良好であり、また、繊維強化プラスチック体は、優れた難燃性、すなわち低発煙濃度・高限界酸素指数を示した。更に、ポリエーテルイミドと相溶するバインダーである粒状ポリエステル、繊維状ポリエステルを使用した実施例2、3、7、8は、特にハンドリング性に優れることに加えて、繊維強化プラスチック体が優れた難燃性、すなわち低発煙濃度・高限界酸素指数を示した。
【0170】
一方、液状バインダーを使用しない比較例においては、表面繊維の脱落が多く、シートのハンドリング性も悪いうえに、繊維強化プラスチック体の難燃性も劣る。表面繊維の脱落・シートのハンドリング性を改善すべくバインダー量を増加させると、更に繊維強化プラスチック体の難燃性が劣る結果となった。