特許第6090712号(P6090712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6090712
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】車輪踏面の形成方法
(51)【国際特許分類】
   B60B 17/00 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
   B60B17/00 J
   B60B17/00 B
   B60B17/00 F
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-12341(P2012-12341)
(22)【出願日】2012年1月24日
(65)【公開番号】特開2012-206708(P2012-206708A)
(43)【公開日】2012年10月25日
【審査請求日】2014年6月11日
【審判番号】不服2015-21438(P2015-21438/J1)
【審判請求日】2015年12月3日
(31)【優先権主張番号】特願2011-56447(P2011-56447)
(32)【優先日】2011年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100089635
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 守
(72)【発明者】
【氏名】山本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康文
【合議体】
【審判長】 島田 信一
【審判官】 小原 一郎
【審判官】 氏原 康宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−30897(JP,A)
【文献】 特開2001−180487(JP,A)
【文献】 特開2000−177587(JP,A)
【文献】 特開2007−331713(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/077726(WO,A1)
【文献】 石田誠、車輪/レール接触問題の最前線、RRR、日本、2008年08月発行、Vol.65、No.8、2−5ページ
【文献】 山本大輔、車輪踏面の実測形状に基づく車輪/レール接触特性解析、鉄道総研報告、日本、2011年01月発行、Vol.25、No.1、27−32ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 1/00 - 99/00
B60B 1/00 - 19/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪のフランジの車輪幅方向反対側の端部に位置する鉄道車両の曲線通過時にレールと接触する車輪踏面部分に車輪研磨装置により微小凹凸を形成し、車両が分岐や曲線を通過する際に前記車輪のフランジの車輪幅方向反対側の端部の微小凹凸に内軌側のレールが当接することにより内軌側の横圧が小さくなるので外軌側の横圧と脱線係数が下がり、外軌側の乗り上がり脱線をし難くすることを特徴とする車輪踏面の形成方法。
【請求項2】
請求項1記載の車輪踏面の形成方法において、前記車輪研磨装置を車両の走行距離情報を用いて一定周期毎に動作させることを特徴とする車輪踏面の形成方法。
【請求項3】
車輪のフランジの車輪幅方向反対側の端部に位置する鉄道車両の曲線通過時にレールと接触する車輪踏面部分に車輪削正時に凸部を付けて削正し、車両が分岐や曲線を通過する際に前記車輪のフランジの車輪幅方向反対側の端部の凸部に内軌側のレールが当接することにより内軌側の横圧が小さくなるので外軌側の横圧と脱線係数が下がり、外軌側の乗り上がり脱線をし難くすることを特徴とする車輪踏面の形成方法。
【請求項4】
請求項3記載の車輪踏面の形成方法において、反フランジ側の端面から前記凸部の中心部との距離が14mmであり、かつ前記凸部が幅12mm、高さ90μmの断面三角形状からなることを特徴とする車輪踏面の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪踏面の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車輪には勾配がつけられている。これにより、鉄道車両は直線区間でも曲線区間でも舵を切ることなく安定してレールに追従して走行することができるが、本来直線区間と曲線区間では相反する特性を持っている。すなわち、車輪踏面の勾配を大きくすれば曲線通過性能は向上するが直線区間の走行安定性は低下する。逆に車輪踏面の勾配を小さくすれば、直線走行安定性は向上するが曲線区間での通過性能が低下するため、車輪のフランジやレールゲージコーナーの摩耗が進展してメンテナンスコストが上昇する。このため、従来の技術では走行線区の特性を考慮した車輪踏面の形状を数値解析などで決めていた。しかしながら、車輪踏面の形状を変更した場合、車両の走行性能が変化したり、軌道の短絡不良を生じる場合があり、車輪踏面の形状を容易に変更することができなかった。また、直線区間と曲線区間の全てにおいて最適となる車輪踏面形状は存在しないため、曲線通過性能の不足を補うため、鉄道車両が曲線を検知し、曲線進入時に車輪のフランジに摩擦調整剤や潤滑材を押し付けることにより、車輪とレール間の摩擦係数を低減させる提案がなされていた。
【0003】
さらに、車輪転削後の少ない走行距離の間、フランジの摩耗により摩耗係数が一時的に増加する時期があり、これが原因で乗り上がり脱線が発生する場合があり、同様の方法でフランジに油などの潤滑材を塗布して摩擦係数を低減させるようにしていた。
【0004】
図7は従来の鉄道車輪の摩耗低減装置の要部拡大断面図である(下記特許文献1参照)。
【0005】
この図において、101は鉄道車輪、102は鉄道車輪101の踏面部、103は鉄道車輪101のフランジ部、104は車輪踏面摩擦子、105は車輪踏面摩擦子104のバックメタル、106は摩擦シュー、111は車輪踏面摩擦子104の連結子、112は固形潤滑材、113は中間接合層である。
【0006】
このように、車輪踏面摩擦子104の側面に中間接合層113を介して固形潤滑材112が配置されている。
【0007】
したがって、車輪踏面摩擦子104の押付機構を利用して、鉄道車輪101のフランジ部103にこの固形潤滑材112を作用させることにより、鉄道車輪101のフランジ部103及びレールの摩耗の低減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−096280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した車輪とレール間の摩擦係数を低減させる方法では、車輪踏面摩擦子に別部品としての摩擦調整剤や潤滑材を配置する必要があり、また、それらのメンテナンスも必要であった。
【0010】
本発明では、上記状況に鑑みて、基本的な車輪踏面の形状(車輪断面形状)を変更せずに局所的に微小な凹凸または凸部をつけることで、走行安定性を変えずに、曲線通過性能の向上及び乗り上がり脱線をし難くすることができる、車輪踏面の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕車輪踏面の形成方法において、車輪のフランジの車輪幅方向反対側の端部に位置する鉄道車両の曲線通過時にレールと接触する車輪踏面部分に車輪研磨装置により微小凹凸を形成し、車両が分岐や曲線を通過する際に前記車輪のフランジの車輪幅方向反対側の端部の微小凹凸に内軌側のレールが当接することにより内軌側の横圧が小さくなるので外軌側の横圧と脱線係数が下がり、外軌側の乗り上がり脱線をし難くすることを特徴とする。
【0012】
〔2〕上記〔1〕記載の車輪踏面の形成方法において、前記車輪研磨装置を車両の走行距離情報を用いて一定周期毎に動作させることを特徴とする。
【0013】
〔3〕車輪踏面の形成方法において、車輪のフランジの車輪幅方向反対側の端部に位置する鉄道車両の曲線通過時にレールと接触する車輪踏面部分に車輪削正時に凸部を付けて削正し、車両が分岐や曲線を通過する際に前記車輪のフランジの車輪幅方向反対側の端部の凸部に内軌側のレールが当接することにより内軌側の横圧が小さくなるので外軌側の横圧と脱線係数が下がり、外軌側の乗り上がり脱線をし難くすることを特徴とする。
【0014】
〔4〕上記〔3〕記載の車輪踏面の形成方法において、反フランジ側の端面から前記凸部の中心部との距離が14mmであり、かつ前記凸部が幅12mm、高さ90μmの断面三角形状からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基本的な車輪踏面形状を変更することなく、走行安定性を変えずに、曲線通過性能の向上及び乗り上がり脱線の安全余裕の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施例を示す車輪研磨装置の車輪への設置状態を示す模式図である。
図2】車輪研磨装置により微小凹凸形状を形成した車輪踏面形状(その1)を示す図である。
図3】車輪研磨装置により微小凹凸形状を形成した車輪踏面形状(その2)を示す図である。
図4】車輪・レール間の接触点位置を示す図である。
図5】本発明の第2実施例を示す車輪削正時に凸部を形成した車輪踏面形状を示す図である。
図6図5のA部拡大断面図である。
図7】従来の鉄道車輪の摩耗低減装置の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の車輪踏面の形成方法は、車輪のフランジの車輪幅方向反対側の端部に位置する鉄道車両の曲線通過時にレールと接触する車輪踏面部分に車輪研磨装置により微小凹凸を形成し、車両が分岐や曲線を通過する際に前記車輪のフランジの車輪幅方向反対側の端部の微小凹凸に内軌側のレールが当接することにより内軌側の横圧が小さくなるので外軌側の横圧と脱線係数が下がり、外軌側の乗り上がり脱線をし難くする。
【0018】
また、車輪のフランジの車輪幅方向反対側の端部に位置する鉄道車両の曲線通過時にレールと接触する車輪踏面部分に車輪削正時に凸部を付けて削正し、車両が分岐や曲線を通過する際に前記車輪のフランジの車輪幅方向反対側の端部の凸部に内軌側のレールが当接することにより内軌側の横圧が小さくなるので外軌側の横圧と脱線係数が下がり、外軌側の乗り上がり脱線をし難くする。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は本発明の第1実施例を示す車輪研磨装置の車輪への設置状態を示す模式図、図2は車輪研磨装置により微小凹凸形状を形成した車輪踏面形状(その1)を示す図、図3は車輪研磨装置により微小凹凸形状を形成した車輪踏面形状(その2)を示す図、図4は車輪・レール間の接触点位置を示す図である。
【0021】
これらの図において、1は輪軸、2は輪軸1に固定される車輪、3は車輪踏面、4は車輪2のフランジ、5,11はフランジ4の車輪幅方向反対側の車輪踏面3に位置する、微小凹凸5A,11Aが形成された車輪踏面研磨部、6は車輪研磨装置であり、この車輪研磨装置6は台車枠(図示なし)に固定されており、その先端を矢印7の方向に移動してフランジ4の車輪幅方向反対側に位置する車輪踏面研磨部5、11に押し付けることにより、車輪踏面3のフランジ4の車輪幅方向反対側の端部に位置する微小凹凸5A,11Aを形成する。また、8はレールである。
【0022】
車輪踏面の形状に微小な凹凸をつける方法としては、図2に示すように、台車枠に設置した車輪研磨装置を用いて、一定周期毎に車輪踏面3を削り、当該部位に常時微小凹凸5Aが存在する形状構造とする。
【0023】
さらに、車輪研磨装置の先端部の凹凸形状を変化させて図3に示すような間隔を有する微小凹凸11Aを有する車輪踏面研磨部11を形成するようにしてもよい。
【0024】
図4は車輪・レール間の接触点位置(図中○印)を示しており、図4(a)は輪軸1が中立位置にある場合、図4(b)は輪軸1が+10mm右移動位置にある場合を示している。図4(a)では、車輪2がレール8に図2で示した微小凹凸5Aを形成する位置で接触していないことがわかる。この条件は直線走行時の位置関係である。一方、図4(b)では、内軌側の車輪・レール間の接触点位置がフランジ4とは車輪幅方向反対側にあることがわかる。この位置は曲線通過時の接触点位置である。
【0025】
このように、車輪2とレール8の接触面に微小凹凸5Aを付けた方が微小凹凸5Aを形成しない場合と比べて接線力低減効果が得られるため、曲線通過性能が向上するとともに車両が分岐や曲線を通過する際に横圧と脱線係数が下がり、乗り上がり脱線防止に対する安全余裕を向上させることができる。なお、微小凹凸の高さ、ピッチ(山と山の間隔)ともに大きい方が、内軌側の接線力が低下するため、外軌側の横圧と脱線係数が下がる。
【0026】
本発明で形成する微小凹凸5A,11Aは、車輪2の寿命を延ばすために、常に削るのではなく、例えば、車両の走行距離情報を用いて一定周期ごとに車輪研磨装置を動作させて削ることで、曲線通過性能を向上させるのに好適な状態の微小凹凸5A,11Aを保つように構成する。
【0027】
また、車輪転削後の一時的にフランジ部の摩擦係数が増加する時期においても、上記したように、反フランジ側踏面に微小凹凸を設ける形状としたことで、横圧と脱線係数が下がるので、上記した乗り上がり脱線は発生し難くなる。つまり、車輪転削後の少ない走行距離の間に発生する乗り上がり脱線防止に対する安全余裕度を向上させることができる。
【0028】
図5は本発明の第2実施例を示す車輪研磨装置により凸部を形成した車輪踏面形状を示す図、図6図5のA部拡大断面図である。
【0029】
図6に示すように、車輪21のフランジ23の車輪幅方向反対側に位置する鉄道車両の曲線通過時にレールと接触する車輪踏面22部分に車輪研磨装置により凸部24を形成する。
【0030】
その凸部24の形状は、例えば、図6に示すように、幅Wが12mm、高さHが90μmの断面三角形状からなる。なお、Lは反フランジ側の端面から凸部24の中心部との間の距離であり、例えば、14mmである。
【0031】
特に、この実施例の車輪路面形状は、単純な形状で車輪削正がしやすいという利点もある。
【0032】
上記のように構成することにより、凸部24が摩耗してなくなるまでの間、横圧低減(脱線係数Q/P低減)に寄与することができる。また、走行距離の増加に伴い凸部24は摩耗して消滅するが、凸部24のない元の車輪踏面形状に戻るだけであるため、この摩耗が車輪の走行性能に悪影響を与えることはない。さらに、凸部24が消滅する時期には、フランジの摩耗も進行して摩擦係数が車輪転削後に比べて相対的に小さくなるため、乗り上がり脱線は発生し難くなる。つまり、上記した凸部24の形成により、フランジ部の摩擦係数が大きくなる間のみ、外軌側の横圧と脱線係数Q/Pを低減することができるため、乗り上がりを発生し難くし、安全余裕度を向上させることができる。
【0033】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の車輪踏面の形成方法は、走行安定性を低下させずに、輪軸の旋回性能を向上させることができる、車輪踏面の形成方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 輪軸
2,21 車輪
3,22 車輪踏面
4,23 車輪のフランジ
5,11 車輪踏面研磨部
5A,11A 微小凹凸
6 車輪研磨装置
7 矢印
8 レール
24 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7