(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、Al−Mg−Si系アルミニウム合金の鋳塊から製造したアルミニウム合金製塑性加工品が、車両、船舶、航空機、自動車又は自動二輪等の輸送機の構造材(部品)として使用されている。Al−Mg−Si系アルミニウム合金が、加工性に優れ、高強度で、耐食性も備えているからである。
例えば、Al−Mg−Si系アルミニウム合金の一種であるA6061が、サスペンションアーム等の自動車部品に多用されている。しかし、車体の軽量化を目的として、A6061よりも更に軽量な材料が要請されている。これに対応するため、Al−Mg−Siアルミニウム系合金の高強度化を通じ、必要な合金量を減らすことが試みられている。
例えば、Al−Mg−Si系アルミニウム合金の高強度化を図るため、過剰Si量としたり、Cu元素の添加量を増加したりすることが試みられている。特に、Cu元素の添加量の増加は、Mg2Siの析出を促進させるので強度が向上し、また、Cu元素がマトリクスに固溶して強度が向上するので、高強度化において有効な手段となる可能性がある。しかし、Cu元素量が0.05%以上になると、粒界腐食の感受性が高くなるので、Al−Mg−Si系アルミニウム合金を腐食環境下で使用した際に、応力腐食割れが引き起こされる恐れがある。
【0003】
従来の技術として、クロム、マンガン、ジルコニウム等の遷移元素を添加し、結晶粒径や晶出物を微細化することで粒界腐食や応力腐食割れを防ぎ、Al−Mg−Si系アルミニウム合金の耐食性の向上を図ることが知られている。
例えば、高強度高靱性アルミニウム合金鍛造材を提供することを目的として、下記特許文献1に次のことが開示されている。
Mg:0.6〜1.6%(質量%、以下同じ)、Si:0.6〜1.8%、Cu:0.05〜1.0%を含むとともに、Feを0.30%以下に規制し、Mn:0.15〜0.6%、Cr:0.1〜0.2%、Zr:0.1〜0.2%の一種または二種以上を含み、更に、水素:0.25cc/100gAl以下とし、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金鍛造材において、10℃/sec以上の冷却速度で鋳造されたアルミニウム合金鋳塊を、530〜600℃の温度で均質化熱処理した後に、熱間鍛造して鍛造材とし、該鍛造材におけるアルミニウム合金組織中のMg2SiとAl−Fe−Si−(Mn、Cr、Zr)系の晶出物の合計の面積率を単位面積当たり1.5%以下とすること。
【0004】
また、高強度高靱性であるとともに、耐食性や耐久性に優れたアルミニウム合金鍛造材を提供することを目的として、下記特許文献2に次のことが開示されている。
Mg:0.6〜1.8%(質量%、以下同じ)、Si:0.6〜1.8%を含み、更に、Cr:0.1〜0.2%およびZr:0.1〜0.2%の一種または二種を含むとともに、Cu:0.25%以下、Mn:0.05%以下、Fe:0.30%以下、水素:0.25cc/100gAl以下に各々規制し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金鍛造材において、アルミニウム合金組織の粒界上に存在するMg2SiやAl−Fe−Si−(Mn、Cr、Zr)系晶析出物(晶出物や析出物)の平均粒径を1.2μm以下とするとともに、これら晶析出物同士の平均間隔を3.0μm以上とすること。
これらのAl−Mg−Si系アルミニウム合金素材は、結晶粒径や晶出物を微細化することによって粒界腐食を防止し、応力腐食割れの発生を抑制する性能を有している。しかし、Cu元素の添加量の増加により耐食性が悪化するので、発生する腐食減量を抑制することができない。したがって、これらのAl−Mg−Si系アルミニウム合金素材からなる塑性加工品を薄肉化して軽量化すると、腐食減量で薄くなった肉厚の分だけ確実に強度が低下し、耐久性が悪化する。すなわち、これらのAl−Mg−Si系アルミニウム合金素材は、厳しい腐食環境での使用に適さないという問題点がある。
【0005】
また、合金元素量を多くして高強度化し、かつ薄肉化した強度部材用鍛造材であっても、350MPa以上の0.2%耐力が安定して得られる6000系アルミニウム合金鍛造材および鍛造用素材を提供することを目的として、下記特許文献3に次のことが開示されている。
Mg:0.6〜1.8%(質量%、以下同じ)、Si:0.8〜1.8%、Cu:0.2〜1.0%を含み、Si/Mgの質量比が1以上であり、更にMn:0.1〜0.6%、Cr:0.1〜0.2%およびZr:0.1〜0.2%の一種または二種以上を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金鍛造材において、人工時効硬化処理後のアルミニウム合金鍛造材の表面の導電率を41.0〜42.5IACS%とすること。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品
の製造方法に関する実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例であるサスペンションアームに関する。本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。
【0013】
本発明は、例えば、
図1(a)、(b)に示すような自動車用部品である直線棒状のリニアアーム11又は、アルファベットのAの形に似たAアーム12と呼ばれるサスペンションアーム等に適用され得るアルミニウム合金製塑性加工品に係る。
図2(a)に示すように、本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品は、断面が略H字形状であり、この略H字形状の両端部分であるリブ領域21と、このリブ領域21を連絡する連絡部分である肉盗み領域22からなる塑性加工部2を備えて構成される。なお、本発明は、
図2(b)に示すように、リブ領域21aと肉盗み領域22aとからなり、断面が略U字形状である塑性加工部2aを備えて構成されるアルミニウム合金製塑性加工品も、特許発明の技術的範囲に含まれる。
【0014】
本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品は、所定の組成からなるアルミニウム合金素材に対して溶解鋳造を施し、溶解鋳造で得られた鋳造品に対して均質化処理及び塑性加工を施した後、溶体化処理、水焼き入れ処理及び人工時効硬化処理を施して製造される。
鋳造品に対して塑性加工が施されることにより、肉盗み領域22が形成される。肉盗み領域22が形成されることにより、この肉盗み領域22の両端にリブ領域21が形成される。すなわち、本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品における塑性加工部2が断面視で略H字形状又は略U字形状に、塑性加工により形成される。なお、略H字形状又は略U字形状は、断面円形又は断面矩形のアルミニウム合金よりも、断面効率と呼ばれる重量当たりの曲げ剛性や曲げ強度において優れる形状である。
【0015】
本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品は、この塑性加工部2において、塑性加工によって発生する加工歪みとして、最大で4.0mm/mmの相当歪みが内在する歪み部位23を有している。この歪み部位23は、肉盗み領域22とリブ領域21との境界であって、塑性加工部2の表面近傍に位置している(
図2(b)において歪み部位は、23aで示される。)。相当歪みとは、有効歪みとも呼ばれ、一般の多軸ひずみ状態において、それまでに受けた塑性変形の大きさを評価し、比較するために計算される歪み値をいう。変形途中の微小時間に生じるひずみ増分について、相当応力と類似の考え方に基づいて相当歪み増分を定義し、この相当歪み増分を積分して相当歪みを求める。一般に、相当歪みによって材料の加工硬化や変形抵抗の変化が決まるとされる。
【0016】
歪み部位23は、
図3に示すように、塑性加工が施され、加工歪みが加わった後の溶体化処理によっても、アルミニウム(元素記号:Al)の再結晶化が起こっていない未再結晶組織Nを有している。また、塑性加工が施され、加工歪みが加わった後の溶体化処理によってアルミニウムが再結晶化して形成される最大径(最大長さ)が500μm以下の結晶粒からなる微細結晶組織Mを有している。未再結晶組織Nを構成する結晶粒の粒径は、微細結晶組織Mを構成する結晶粒の1〜1/2倍である。
図3中の黒枠内部が、微細結晶組織Mを示し、黒枠外部が未再結晶組織Nを示している。
すなわち、歪み部位23は、未再結晶組織N及び微細結晶組織Mで構成されている。このような組織形態により、本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品は、後述するように、その強度、耐力及び伸び等の各種の性能が優れている。なお、未再結晶組織とは、アルミニウム合金素材に対して溶解鋳造が施されたときに生成された結晶が、再結晶化されないでそのまま残っている組織をいう。
図3において、晶出物が粒界に存在していることが認められる。本発明の歪み部位23が未再結晶組織Nのみからなるアルミニウム合金製塑性加工品も、その強度、耐力及び伸び等の各種の性能が優れ、特許発明の技術的範囲に含まれる。
【0017】
また、再結晶化とは、溶体化処理が施されることにより、加工歪みが加わっている部位で生成される結晶をいう。
図4に参考例として、加工歪みが加わった部位が、溶体化処理によりアルミニウムが粗大に再結晶化し、粗大再結晶組織Lと呼ばれる組織形態になった顕微鏡写真を示す。粗大再結晶組織Lを構成する結晶粒の粒径は、未再結晶組織Nを構成する結晶粒の10〜50倍となる。このような組織形態を有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金製塑性加工品は、後述するように、その強度、耐力及び伸び等の性能が、本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品に比べて劣っている。
また、粗大再結晶組織Lは、耐食性という観点からも好ましくない。粒界腐食が粒界に沿って進展するため、結晶粒が粗大であればあるほど、腐食によって深い切り欠が形成されてしまう。すなわち腐食減量が増加してしまうからである。
したがって、本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品は、歪み部位23が、再結晶化されていないアルミニウムの未再結晶組織Nのみで構成されている形態を含む。さらに、本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品は、歪み部位23が、この未再結晶組織Nと、その結晶粒の最大径が500μm以下の再結晶化されたアルミニウムの微細結晶組織Mとで構成されている形態を含む。
【0018】
本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品の歪み部位23が、
図3に示すような未再結晶組織N、及び微細結晶組織Mからなる理由は、以下のとおりであると考えられる。
歪み部位23において未再結晶組織Nが形成されるのは、本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品の組成に含まれるクロム、マンガン、鉄等の遷移金属系の微細析出物で、アルミニウムの結晶粒界がピンニングされて固定されるからである。これにより、アルミニウムの結晶粒界が、溶体化処理によっても移動することができず、鋳造時に生成された結晶が、再結晶化されないでそのまま残る。アルミニウムの結晶粒界が確実にピンニングされて固定されるのは、歪み部位23のアルミニウムの加工歪みの量が所定量以下(例えば、相当歪みとして4.0mm/mm以下)の場合である。
【0019】
歪み部位23において微細結晶組織Mが形成されるのは、本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品の組成に含まれるクロム、マンガン、鉄等の遷移金属系の微細析出物で、アルミニウムの結晶粒界がピンニングされ、移動が抑制されるからである。これにより、アルミニウムの結晶粒界は、溶体化処理によっても移動することが抑制され、再結晶化される場合であっても、その結晶粒の最大径が500μm以下にとどまる。さらに、強度、耐力及び伸び等の各種の性能が特に優れ、好ましい形態となるアルミニウム合金製塑性加工品である場合、アルミニウムの再結晶化された結晶粒の最大径は100μmとなる。すなわち粗大化することがなくなる。
【0020】
本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品の組成において、歪み部位23のアルミニウムの加工歪みの量が所定量以下であれば、特に、相当歪みとして4.0mm/mm以下であれば、アルミニウムの結晶粒界がピンニングされ、移動が抑制されることが確認できる。結晶粒の大きさ(粒径)は、例えば光学顕微鏡写真上での切片法により測定することができる。
【0021】
本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品は、Al−Mg−Si系アルミニウム合金である。その組成は、銅(元素記号:Cu)を0.15〜0.5質量%、マグネシウム(元素記号:Mg)を0.8〜1.15質量%、珪素(元素記号:Si)を0.95〜1.15質量%、マンガン(元素記号:Mn)を0.4〜0.6質量%、鉄(元素記号:Fe)を0.2〜0.3質量%、クロム(元素記号:Cr)を0.11〜0.19質量%、亜鉛(元素記号:Zn)を0.25質量%以下、ジルコニウム(元素記号:Zr)を0.05質量%以下、チタン(元素記号:Ti)を0.012〜0.035質量%、ホウ素(元素記号:B)を0.0001〜0.03質量%含有し、残りがアルミニウム及び不可避不純物からなる。
【0022】
Siは、Mgと共存してケイ化マグネシウム(組成式:Mg2Si)系析出物を形成し、最終製品の強度向上に寄与する。Siを後述するMgの量に対してMg2Siを生成する量を越えて過剰に添加することにより、時効処理後の最終製品の強度がさらに高まるため、Siの含有量は0.95質量%以上が望ましい。一方、Siの含有量が1.15質量%を越えると、Siの粒界析出が多くなり、粒界脆化が生じ易く、鋳塊の塑性加工性、および最終製品の靭性が低下する恐れがある。また、Siの含有量が1.15質量%を越えると、鋳塊の晶出物の平均粒径が所定の上限を越える恐れがある。したがって、Siの含有量は、0.95質量%〜1.15質量%の範囲にするのが好ましい。
【0023】
Mgは、Siと共存してMg2Si系析出物を形成し、最終製品の強度向上に寄与する。Mgの含有量が0.8質量%よりも少ないと、析出強化の効果が少なくなる恐れがある。一方、Mgの含有量が1.15質量%を越えると、鋳塊の塑性加工性、および最終製品の靭性が低下する恐れがある。また、Mgの含有量が1.15質量%を越えると、鋳塊の晶出物の平均粒径が所定の上限を越えるおそれがある。したがって、Mgの含有量は、0.8質量%〜1.15質量%の範囲にするのが好ましい。
【0024】
Cuは、Mg2Si系析出物の見かけの過飽和量を増加させ、Mg2Si析出量を増加させることにより、最終製品の時効硬化を著しく促進させる。Cuの含有量が0.5質量%を越えると、鋳塊の鍛造加工性、及び最終製品の靭性が低下し、さらに耐食性が低下する恐れがある。したがって、Cuの含有量は、0.5質量%以下の範囲にする必要がある。一方、Cuの含有量が0.15質量%よりも少ないと、Mg2Si系析出物の見かけの過飽和量を増加させ、Mg2Si析出量を増加させる効果が十分に得られない恐れがある。
【0025】
MnはAlMnSi相として晶出し、晶出しないMnは、析出して再結晶を抑制する。この再結晶を抑制する作用により、塑性加工後も結晶粒を微細にし、最終製品の靭性向上および耐食性向上の効果がもたらされる。Mnの含有量が0.4質量%よりも少ないと、そのような効果が少なくなる恐れがある。一方、Mnの含有量が0.6質量%を越えると、巨大金属間化合物が生じ、本発明の鋳塊組織が満たされなくなる恐れがある。したがって、Mnの含有量は、0.4質量%〜0.6質量%の範囲にするのが好ましい。
特に、Mnの含有量(質量%)は、0.4質量%〜0.6質量%である。さらに、リブ領域21の幅方向長さをx(cm)、肉盗み領域22の高さ方向長さをy(cm)、リブ領域21の高さ方向長さをz(cm)で表したとき(
図2(a)、(b)に例示される塑性加工部2の断面形状を参照)、下記[数2]の関係式を満たす。そのようなMnの含有量とすることにより、遷移金属系の微細析出物により、アルミニウムの結晶粒界をピンニングし、再結晶化を抑制する効果を好適に得ることができる。
[数2]
Mn(質量%)=0.4α{z/(x+y)+0.25}
但し、z/(x+y)≧0.65
α=0.8〜0.9
【0026】
CrはAlCrSi相として晶出し、晶出しないCrは、析出して再結晶を抑制する。この再結晶を抑制する作用により、塑性加工後も結晶粒を微細にし、最終製品の靭性向上および耐食性向上の効果がもたらされる。Crの含有量が0.1質量%よりも少ないと、そのような効果が少なくなる恐れがある。一方、Crの含有量が0.2質量%を越えると、巨大金属間化合物が生じ、本発明の鋳塊組織が満たされなくなる恐れがある。したがって、Crの含有量は、0.11質量%〜0.19質量%の範囲にするのが好ましい。
【0027】
Feは、合金中でAl、Siと結合して晶出するとともに、結晶粒の粗大化を防止する。Feの含有量が0.2質量%より少ないと、そのような効果が得られなくなる恐れがある。また、Feの含有量が0.3質量%を越えると、粗大な金属間化合物を生成するようになり、塑性加工性が悪化する恐れがある。したがって、Feの含有量は、0.2質量%〜0.3質量%にするのが好ましい。
【0028】
Znは不純物として扱われる。Znの含有量は0.25質量%を超えるとアルミニウムの腐食自体が促進され、耐食性が劣化するため、0.25質量%以下にするのが好ましい。
【0029】
Zrは不純物として扱われる。Zrの含有量は0.05質量%を超えると、Al−Ti−B系合金の結晶粒微細化効果が弱められ、塑性加工後の加工品の強度低下を招くため、0.05質量%以下にするのが好ましい。
【0030】
Tiは、結晶粒の微細化を図る上で有効な合金元素である。さらに、Tiによって、連続鋳造棒に鋳塊割れなどが発生するのを防止することができる。Tiの含有量が0.012質量%よりも少ないと、微細化効果が得られない恐れがある。一方、Tiの含有量が0.035%質量%を越えると、粗大なTi化合物が晶出し、靭性が劣化する恐れがある。したがって、Tiの含有量は、0.012質量%〜0.035質量%の範囲にするのが好ましい。
【0031】
BもTiと同様に、結晶粒の微細化に有効な元素である。Bの含有量が0.0001質量%よりも少ないと、微細化効果が得られない恐れがある。一方、Bの含有量が0.03質量%を越えると、靭性が劣化する恐れがある。したがって、Bの含有量は、0.0001質量%〜0.03質量%の範囲にするのが好ましい。
【0032】
本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品は、z/(x+y)≧0.65(但し、xは、リブ領域21の幅方向長さ(cm)であり、yは、肉盗み領域22の高さ方向長さ(cm)であり、zは、リブ領域21の高さ方向長さ(cm)である。
図2(a)、(b)参照)で規定されるリブ領域21や肉盗み領域22の形状を備え、その合金を構成する各元素の組成が上述したような所定の範囲で特定される。
すなわち、本発明は、リブ領域21や肉盗み領域22を有するアルミニウム合金製塑性加工品であって、そのリブ領域21や肉盗み領域22の形状が、z/(x+y)≧0.65(但し、xは、リブ領域21の幅方向長さ(cm)であり、yは、肉盗み領域22の高さ方向長さ(cm)であり、zは、リブ領域21の高さ方向長さ(cm)である。
図2(a)、(b)参照)で特定される。かつ、本発明は、その合金を構成する各元素の組成が上述したような所定の範囲で特定されるものが特許発明の技術的範囲となる。
このとき、歪み部位23がアルミニウムの未再結晶組織N及び微細結晶組織Mからなり、粗大再結晶組織Lが認められない本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品を得ることができる。そして、本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品は、引っ張り強度で380MPa以上、0.2%耐力で350MPa以上、伸びで10.0%以上という好ましい性能を得ることができる。また、所定の腐食液中に浸漬させたときの割れ等も確認されず、耐食性に優れている。
【0033】
本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品の用途は、車両、輸送機の構造材とすることが好ましい。例えば、自動車部品、自動二輪部品、船舶部品、航空機部品、電車、貨物の車両部品などを挙げることができる。
さらに、アルミニウム合金製塑性加工品の自動車部品とし、アッパーアーム、ロアアーム、ナックル、コントロールアーム、ロアリンク、サブフレーム、コンプレッションロッド、トランスバースリンク等を挙げることができる。これらの部品における略H字形状又は略U字形状のリブ領域や肉盗み領域に相当する部分の形状は、z/(x+y)≧0.65(但し、xは、リブ領域21の幅方向長さ(cm)であり、yは、肉盗み領域22の高さ方向長さ(cm)であり、zは、リブ領域21の高さ方向長さ(cm)である。
図2(a)、(b)参照)で規定される関係式を満たしている。
また、これらの部品は、その全体を本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品から製造することもできるが、本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品と他の部材を組み合わせ、又は接合して部品として製造することができる。すなわち本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品を部品の一部として用いることもできる。
【0034】
以下、本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品の好ましい製造方法について説明していく。
まず、本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品の組成を構成する各元素が、その含有量の範囲内となるように調整され、溶解されているアルミニウム合金溶湯から、アルミニウム合金鋳塊を鋳造する。この場合、水平連続鋳造法、縦型連続鋳造法、連続鋳造圧延法、半連続鋳造法(DC鋳造法)、ホットトップ鋳造法、気体加圧連続鋳造法、気体加圧ホットトップ連続鋳造法等の溶解鋳造法の何れを選択しても、鋳造することができる。健全な鋳塊を得るため、鋳造温度750±50℃、鋳造速度240±50mm/分の条件で鋳造することが好ましい。
【0035】
次に、得られた鋳塊に対し、470℃〜540℃で均質化処理を施す。この温度範囲で均質化処理を施すことにより、鋳塊の均質化と溶質原子の溶入化が十分になされ、その後の時効処理によって必要とされる強度が得られるからである。均質化処理における保持時間を、3〜10時間とすることができる。
【0036】
均質化処理後に塑性加工を施し、必要に応じて、機械加工により所定の大きさに加工する。塑性加工は、加工時の素材の加熱温度を所定の範囲とする加工方法であれば、従来の塑性加工方法を用いることができる。
例えば、押出加工、鍛造加工又は圧延加工等の加工法を用いることができる。加工後の組織の再結晶を抑制して強度向上を図るため、素材の加熱温度を、〔430+塑性加工率(%)〕℃以上550℃以下の範囲に制御することが望ましい。塑性加工率を条件に入れた温度とすることで粗大再結晶の発生をより抑制し、その後の時効処理で強度をより一層向上させることができる。
塑性加工率(%)は、押出加工の場合、〔(変形を受ける断面積)÷(初期断面積)×100〕(%)で定義することができる。鍛造加工の一種の据込加工の場合、〔(変形した高さ)÷(初期高さ)×100〕(%)で定義することができる。また、多段で複数回の工程を経る塑性加工品の素材の加熱温度は、その最終形状についての塑性加工率(%)を上記式の条件に入れて算出すればよい。複雑な形状の塑性加工品の素材の加熱温度は、各部ごとの塑性加工率(%)を算出し、その平均値を上記式の条件に入れて算出すればよい。
【0037】
塑性加工後は、溶体化処理、水焼入れ、および時効処理を施す。用途に応じ、例えば、車両、船舶、航空機、自動車あるいは自動二輪等の輸送機の構造材(部品)に必要とされる強度および耐食性を得るためである。
【0038】
溶体化処理は、520〜560℃の範囲とするのが好ましい。溶体化温度が520℃未満であると、Mg2Siなどが十分に固溶せず、その後の時効処理によって必要とされる強度が得られない恐れがある。また、溶体化温度が560℃を超えると、バーニング(局部溶解)が発生する恐れがある。また、溶体化処理の保持時間を、2〜6時間とすることができる。
【0039】
溶体化処理後の水焼入れ処理は、水温を70℃以下とする条件で行うのが好ましい。また、水焼入れ処理は水冷が望ましい。水温が70℃を超えた場合、焼入れの効果が得られずに、その後の時効処理によって必要な強度が得られない恐れがある。
【0040】
その後、本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品は必要に応じてさらに機械加工、例えば切削加工、曲げ加工、絞り加工などが施され、車両、船舶、航空機、自動車あるいは自動二輪等の輸送機の構造材(部品)などに仕上げられる。
【0041】
溶解鋳造したアルミニウム合金鋳塊の組織について説明する。鋳塊の結晶粒径の大きさは、塑性加工、その後の時効処理を施して得られるアルミニウム合金製塑性加工品の強度に大きく影響する。鋳塊におけるアルミニウムの結晶粒径が大きいと塑性加工後の強度向上が得られないため、結晶粒径の大きさを平均値で300μm以下にすることが好ましく、さらに好ましくは250μm以下とする。なお、アルミニウムの結晶粒径の大きさは、例えば光学顕微鏡写真上での切片法により測定することができる。
鋳塊のDAS(デンドライトアームスペース、Dendrite Arm Space)の大きさも、平均値で40μm以下にする必要があり、好ましくは20μm以下とする。DASの大きさが40μmを超えると塑性加工、その後の時効処理を施して得られるアルミニウム合金製塑性加工品の強度が低下するからである。なお、DASの大きさは、例えば、一般社団法人軽金属学会発行の『軽金属(1988年)、vol.38、No.1、p.45』に記載の『デンドライトアームスペーシングの測定方法』に従って測定することができる。
鋳塊の晶出物を含め、本願で記載される晶出物とは、AlMnSi相、Mg2Si相、FeおよびCrを含む2次相が、アルミニウムの結晶粒界に粒状や片状の形で晶出したものをいう。晶出物の平均粒径は、8μm以下であれば塑性加工性に影響を与えないため、8μm以下にする必要があり、好ましくは6.8μm以下にするのがよい。なお、晶出物の大きさは、例えば、顕微鏡を有した画像解析装置(ルーゼックス、Luzex:登録商標)でミクロ組織を同定し、個々の晶出物の断面積を円に換算したときの直径として測定できる。
【0042】
本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品の好ましい製造方法に基づいて構成した製造ラインの一例を、
図5を用いて説明する。
製造ラインは、合金溶解炉31、鋳造装置32、均質化処理炉33、素材予備加熱装置34、鍛造装置35、機械加工装置36、溶体化処理炉37、焼き入れ装置38、
人工時効処理炉39、酸洗装置40、ショットブラスト装置41、最終機械加工装置42、および検査装置43から構成されている。
【0043】
合金溶解炉31は、その炉内で合金組成を調整し、所定の温度に合金溶湯を保持する装置である。溶解保持炉、溶湯清浄装置を設けてもよい。
【0044】
鋳造装置32は、合金溶湯を凝固させて鋳塊を得る装置である。冷却水温度、冷却水量などの冷却能を調整することによって凝固速度を調整することができる。
【0045】
均質化処理炉33は、その炉内に鋳塊を挿入し、鋳塊に均質化処理を施す装置である。炉内を所定の温度状態となるように温度を制御することができる。
鋳塊は適当な成形加工、たとえば押出加工、機械加工、切断加工により、素材に加工される。
【0046】
素材予備加熱装置34は、成形する素材に対して予め加熱処理を施す装置である。
鍛造装置35は、成形孔を有する上金型下金型を配置し、鋳塊を成形用素材として成形孔内にセットし、金型を上下稼動して塑性加工する装置である。必要に応じて、金型の成形孔に潤滑材塗布処理、素材に潤滑材塗布処理を施すための潤滑材噴霧装置を設けてもよい。
【0047】
機械加工装置36は、塑性加工された成形品に切削、穴あけ、面取りなどの機械加工を施す装置である。製品仕様によっては省略することができる。
【0048】
溶体化処理炉37は、塑性加工された成形品に溶体化処理を施す装置である。炉内が所定の温度状態となるように温度を制御することができる。
【0049】
焼き入れ装置38は、高温状態の成形品を急冷する装置である。一定温度範囲に制御された水中に、成形品を投入して急冷する。
【0050】
人工時効処理炉39は、時効処理を施す装置であり、炉内が所定の温度状態となるように温度を制御することができる。
【0051】
酸洗装置40は、成形品を酸溶液で洗浄する装置である。製品仕様によっては省略することができる。
【0052】
ショットブラスト装置41は、成形品の表面をショットブラスト処理する装置である。製品仕様によっては省略することができる。
【0053】
最終機械加工装置42は、成形品を最終的な形状にするため、切削、穴あけ、面取りなどの機械加工を施す装置である。または、成形品と他の部材を組み合わせたり、接合したりして最終部品の形状とする装置である。製品仕様によっては省略することができる。
【0054】
検査装置43は、外観検査や、必要に応じて重量検査などを行う装置である。場合によっては、人間による直接的な目視検査とすることができる。
各装置間は、コンベア、搬送車などの搬送装置によって結ばれているのが好ましい。
【0055】
[実施例]
次に本発明の実施例を説明する。
下記[表1]に、A6000系のアルミニウム合金から構成したアルミニウム合金製塑性加工品(比較例1)、出願人が所有する従来のアルミニウム合金製塑性加工品(比較例2、比較例3)及び、本発明に係るアルミニウム合金製塑性加工品(実施例1、実施例2、実施例3)のそれぞれについて、その組成及び塑性加工部の断面形状、リブ領域や肉盗み領域の形状を特定するリブ領域の幅方向長さx(cm)、肉盗み領域の高さ方向長さy(cm)、リブ領域の高さ方向長さz(cm)の値を示した。
【0057】
比較例1〜3及び実施例1〜3として、それぞれ表1に示した化学成分組成のアルミ合金鋳塊を、ホットトップ鋳造法により、鋳造温度750±50℃、鋳造速度240±50mm/分の条件で鋳造した。この鋳造により得られた鋳塊に対して470℃(保持時間6時間)で均質化処理を行なった。続いて均質化処理を行なった鋳塊を530℃に加熱し、熱間鍛造によって、
図1に示すような自動車のサスペンションアームの形状(リニアアーム)となるように塑性加工を施した。なお、塑性加工率は50%であった。次に、この塑性加工品を530℃(保持時間4時間)で溶体化処理を行い、60℃で水焼入れ後、180℃(保持時間2〜15時間の範囲内)又は200℃(保持時間0.5〜12時間の範囲内)で時効処理を行った。
なお、加工率50%の塑性加工及び、その後の530℃による溶体化処理により、各実施例及び比較例の鋳塊には、その歪み部位において1.33mm/mmの相当歪みが内在されていると考えられる。
【0058】
比較例1〜3及び実施例1〜3のアルミニウム合金製塑性加工品のそれぞれで、JIS14A号比例試験片(JIS Z2201参照)を採取し、引っ張り強度を測定した。
また、引張試験片を採取した部分の断面にて、光学顕微鏡(順光)によるミクロ組織観察を行い、晶出物の平均粒径を測定した。晶出物の平均粒径の測定法は、画像解析装置(ルーゼックス、Luzex:登録商標)により晶出物が円相当の直径を持つものとして平均粒径を測定した。その後、観察面をエッチング液で腐食させた後、偏光顕微鏡によるミクロ組織観察を行い、アルミニウムの結晶粒径を測定した。
さらに、上記の手順で作成した比較例1〜3及び実施例1〜3に基づくサスペンションアーム部品から、2mm×4.3mm×42.4mmの試験片を切り出し、4.3mm×42.4mmの面の中央部に、3点曲げ治具を用いて耐力の90%に相当する応力を負荷した。負荷の際には、試験片と治具の間を電気的に絶縁にした。純水1リットル当たり、酸化クロム(IV)36g、二クロム酸カリウム30g、塩化ナトリウム3gを溶解し、95〜100℃に保持した溶液を腐食液として用意した。この腐食液中に応力を負荷した試験片を16時間、浸漬した後、試験片を外観観察し、割れが発生しているかどうかについて確認し、割れが発生したものについては、耐食性に劣ると判断した。
【0059】
比較例1〜3及び実施例1〜3の機械的特性(引張強度、0.2%耐力、伸び)と晶出物の結晶粒径、耐食性、総合判定からなる評価表を下記[表2]に示す。なお、評価欄の記号(〇、△、×)の定義は以下の通りである。
耐食性の判定は、n=3の試験において、3個のうちすべてで割れがなかったものを〇、3個のうち1〜2個で割れが発生したものを△、3個のうちすべてで割れが発生したものを×とした。
機械的特性の判定は、引張強度が380MPa以上の特性、0.2%耐力が350MPa以上の特性、伸びが10.0%以上の特性を、すべての項目で満たすものを〇、1〜2つの項目で満たさないものを△、すべての項目で満たさないものを×とした。
総合判定としては、耐食性及び機械的特性がいずれも〇のものを〇、耐食性及び機械的特性のいずれか一方が〇で、他方が△のものを△、耐食性及び機械的特性がいずれも△、いずれか一方が×及び、いずれも×のものを×とした。
【0061】
実施例1〜3のように、合金を構成する各元素の組成が上述したような所定の範囲に収まり、かつ、リブ領域や肉盗み領域の形状がz/(x+y)≧0.65の条件を満たすアルミニウム合金製塑性加工品において引っ張り強度で380MPa以上、0.2%耐力で350MPa以上、伸びで10.0%以上(特に、14.0%以上)という好ましい性能を得ることができた。また、結晶粒の平均粒径も50μm程度であって、アルミニウムの未再結晶組織又は微細結晶組織で構成されていることが分かった。
一方、合金を構成する各元素の組成のいずれかが上述したような所定の範囲から外れ、かつ、リブ領域や肉盗み領域の形状がz/(x+y)≧0.65の条件を満たすことがない比較例1は、引っ張り強度が336MPa、0.2%耐力が308MPa、伸びが17.2%となった。結晶粒の平均粒径も450μm程度となって、塑性加工の加工率や、その後の溶体化処理の条件によって、例えば、リブ領域や肉盗み領域中の相当歪みが2.00mm/mmを超えるようになると、粗大再結晶組織を呈するようになることが分かった(尚、
図7も参照)。腐食量が多く、耐食性も良いとはいえなかった。
【0062】
リブ領域や肉盗み領域の形状がz/(x+y)≧0.65の条件を満たすものの、合金を構成する各元素の組成のいずれかが上述したような所定の範囲から外れる比較例2は、腐食量が少なくて耐食性も良く、結晶粒の平均粒径も50μm程度であり、粗大再結晶組織が認められなかったが、引っ張り強度が367MPa、0.2%耐力が320MPa、伸びが18.0%と、本願の出願人が期待する機械的特性の値をすべて満たしているとはいえなかった。
【0063】
また、合金を構成する各元素の組成が上述したような所定の範囲に収まるものの、リブ領域や肉盗み領域の形状がz/(x+y)≧0.65の条件を満たさない比較例3は、腐食量が少なくて耐食性も良く、結晶粒の平均粒径も50μm程度であり、粗大再結晶組織が認められなかったが、引っ張り強度が392MPa、0.2%耐力が332MPa、伸びが10.5%と、本願の出願人が期待する機械的特性の値をすべて満たしているとはいえなかった。
【0064】
また、
図6〜
図8において、比較例1〜2及び実施例1における歪み部位に関し、相当歪みの大きさと組織状態との関係を模式的に示したので、これらの図について説明する。これらの図において、(a)は、相当歪みが0mm/mmの大きさであるときの、(b)は、相当歪みが0.67mm/mmの大きさであるときの、(c)は、相当歪みが1.25mm/mmの大きさであるときの、(d)は、相当歪みが2.00mm/mmの大きさであるときの、(e)は、相当歪みが2.75mm/mmの大きさであるときの、(f)は、相当歪みが3.5mm/mmの大きさであるときの、それぞれアルミニウム合金製塑性加工品の歪み部位の組織状態を模式的に示している。
【0065】
図6に示すように、実施例1における歪み部位では、相当歪みが2.0mm/mmまでの大きさであれば、未再結晶組織Nのみから構成される。相当歪みが2.75mm/mmの大きさのときに未再結晶組織Nと、一部が微細結晶組織Mとなる組織状態で構成される。また、相当歪みが3.5mm/mmの大きさであっても微細結晶組織Mから構成されることが分かる。したがって、相当歪みが0〜4.0mm/mmの範囲、特に、0〜3.5mm/mmの範囲で粗大再結晶組織Lは認められないことが理解される。
【0066】
一方、
図7に示すように、比較例1における歪み部位では、相当歪みが2.0mm/mmの大きさで、粗大再結晶組織Lが認められてしまった。
図8に示すように、比較例2における歪み部位においても、相当歪みが3.5mm/mmの大きさになると粗大再結晶組織Lが認められてしまった。
【0067】
また、
図9において、実施例1、比較例1及び比較例2の間で、歪み部位における相当歪みの大きさと引張強度との関係が比較できるようにグラフで示した。このグラフから理解されるように、比較例1及び比較例2と異なり、実施例1のアルミニウム合金製塑性加工品は、歪み部位の相当歪みが大きくなっても、その引張強度の強さが維持され、優れていることが分かる。特に、自動車部品であるサスペンションアームで数多く認められる相当歪みが1〜3mm/mm程度であるときに、実施例1の引張強度は、比較例1及び比較例2に比して極めて優れていると認められる。
【0068】
図10において、実施例1、比較例1及び比較例2の間で、歪み部位における相当歪みの大きさと0.2%耐力との関係が比較できるようにグラフで示した。このグラフから理解されるように、比較例1及び比較例2と異なり、実施例1のアルミニウム合金製塑性加工品は、歪み部位の相当歪みが大きくなっても、その0.2%耐力の値が維持され、優れていることが分かる。特に、自動車部品であるサスペンションアームで数多く認められる相当歪みが1〜3mm/mm程度であるときに、実施例1の0.2%耐力は、比較例1及び比較例2に比して極めて優れていると認められる。
【0069】
図11において、実施例1、比較例1及び比較例2で歪み部位における相当歪みの大きさと伸び(%)の関係をグラフで示した。このグラフから理解されるように、比較例1及び比較例2と同様なレベルで、実施例1のアルミニウム合金製塑性加工品は、歪み部位の相当歪みが大きくなってもその伸び(%)において優れていることが分かる。
【0070】
したがって、本発明に係るアルミ合金製塑性加工品は、塑性加工によって加工歪みが加わった後に溶体化処理されても、その歪み部位がアルミニウムの未再結晶組織及び微再結晶組織からなり、粗大結晶組織が認められないで良好なアルミニウムの組織状態が形成、維持されている。本発明に係るアルミ合金製塑性加工品は、引っ張り強度で380MPa以上、0.2%耐力で350MPa以上、伸びで10.0%以上という好ましい性能を得ることができる。これにより、高強度化し、耐食性が向上し、薄肉化が可能になるため、必要な合金量を減らして確実に軽量化することができる。Al−Mg−Si
アルミニウム系合金製塑性加工品の用途を拡大、例えば、軽量化への追求が激しい輸送機用途として自動車用部品に好適に採用されて、その用途をさらに拡大することができるようになる。