【実施例】
【0022】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0023】
実施例1
非働化5%牛胎児血清(JRH bioscoences)および非働化10%ウマ血清(Gibco)を含むDMEM培地(ニッスイ)に懸濁したラット副腎髄質由来褐色細胞腫PC12D細胞(4×10
4個)を48wellプラスチックプレートに播き、37℃、5%CO
2で24時間培養させた後に、NGF(neuro growth factor ; Alomone Labs)100ng/mlを加え分化させた。48時間後に神経毒であるロテノン(calbiochem)0.3μMと熱水およびアセトンにより抽出した漢方薬抽出物を加えた。48時間後にトリパンブルー細胞外排出試験法により細胞死を評価した。すなわち、ピペッティングにより細胞を解離した後、5倍濃縮トリパンブルー溶液(9g/l NaCl、4g/l トリパンブルー(sigma))を加えてよく混ぜ、血球計算板(エルマ)にて染色された細胞を数えた。なお、細胞生存率は以下の式により求めた。
【0024】
(数1)
(細胞生存率)=((生細胞数)/(全細胞数))×100
【0025】
その結果ロテノンによる細胞死を十分回復させる漢方薬として調胃承気湯(ちょういじょうきとう)及び大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)を見出した(
図1)。
【0026】
実施例2
調胃承気湯・大黄甘草湯がいずれも大黄:甘草を2:1の混合比で含むことに注目し、共通成分の混合比と細胞死回復効果の関係性の評価を下記の実施例のように行った。
【0027】
細胞死の評価法は実施例1と同様のプロトコールで行った。ただし、神経毒はパーキンソン病模倣剤としてより一般的に用いられているMPP+(1−methyl−4−phenylpyridinium;sigma)0.3mMを用いた。
【0028】
その結果、甘草の含有量に比例して細胞死回復効果が増強された(
図2)。
【0029】
実施例3
甘草を有効成分と決定し、甘草単体からの活性成分の抽出を試みた。甘草単体からの活性成分の抽出は実施例2と同様のプロトコールによる細胞死回復効果の活性を指標に植物化学物質を単離する際に用いる通常の抽出、精製手段を適宜利用して単離精製を行った。
【0030】
甘草粉末50gを90%エタノールで抽出後、濾過した水溶液5lをpH7.0に調整し、濾液と等量の酢酸エチルを加えて抽出し、濃縮乾固した。得られた酢酸エチル抽出物4.25gを遠心液液分配クロマトグラフィー(センシュー科学)(溶媒系:クロロホルム:メタノール:水=5:6:4(容量比))にかけ、化合物(1)を含む一次精製物273.9mgを得た。次に一次精製物をセファデックスLH−20カラム(GE Healthcare)を用いてメタノールで展開して二次精製物29.6mgを得た。最後に二次精製物を高速液体クロマトグラフィーのカラム(野村化学社製)に吸着させ、40%アセトニトリルで溶出することにより化合物(1)の純品2.4mgを得た。
化合物(1)の化学構造は種々の核磁気共鳴スペクトル、質量分析スペクトルを詳細に検討することにより決定した。
【0031】
以下に化合物(1)の物理化学的性状を示す。
(1)外観:淡黄色油状
(2)溶解性DMSO,メタノールに可溶、水、クロロホルムに難溶。
(3)Rf値(メルク社製「シリカゲル60F254」使用):0.49(展開溶媒:クロロホルム:メタノール、5:1)
(4)マススペクトル(HRESI−MS):m/z 383(negative)
(5)赤外部吸収スペクトル(cm
-1)(KBr):3454,2966,1719,1633
(6)非旋光度:[α]
D21−0.0158°(c0.1,メタノール)
(7)プロトン核磁気共鳴スペクトル(500MHz,DMSO−d
6):
図3に示す通り
(8)炭素13核磁気共鳴スペクトル(500MHz,DMSO−d
6):
図4に示す通り
(9)分子式:C
21H
20O
7
【0032】
実施例4
化合物(1)の細胞死回復効果は実施例2と同様のプロトコールによりトリパンブルー細胞外排出試験法で確認出来た(
図5)。また、以下に実施例を示すPI染色法でも測定することが出来る。
【0033】
実施例5
実施例1と同様の組成である培地に懸濁したPC12D細胞(8×10
4個)を24wellプラスチックプレートに播き、37℃、5%CO
2で24時間培養させた後に、NGF(neuro growth factor;Alomone Labs)100ng/mlを加え分化させた。48時間後に神経毒であるMPP
+(1−methyl−4−phenylpyridinium;sigma)0.3mMと化合物(1)を加えた。48時間後に細胞をピペッティングによりマイクロテストチューブに回収し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で一度洗浄後、200μlのPBSに再懸濁させた。ここに冷却した70%エタノール1mlを加えてよく攪拌し、30分以上4℃で静置することで固定化した。上清を除去後RNase10μg/mlを含むPBSで再懸濁し、37℃で15分インキュベートした。上清を除去後、PBSで希釈した50μg/mlヨウ化プロピジウム(和光純薬)で再懸濁し、フローサイトメーター(ベックマンコールター)で細胞内DNA含有量を測定した。その結果、化合物(1)はMPP+によって誘導されたアポトーシス(subG1期の割合)を濃度依存的に減少させていることが認められた(
図6)。