【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、窒化物半導体からなる電子走行層と、前記電子走行層に積層され、Alを含むとともに前記電子走行層とはAl組成が異なる窒化物半導体からなる電子供給層と、前記電子供給層上に互いに間隔を開けて形成されたソース電極およびドレイン電極と、前記ソース電極およびドレイン電極の間の前記電子供給層の表面を覆うゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜の表面を覆い、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間において前記ソース電極および前記ドレイン電極から間隔を開けた位置に開口を有するパッシベーション膜と、前記パッシベーション膜に形成された前記開口内に配置されて前記ゲート絶縁膜に接し、前記ゲート絶縁膜を挟んで前記電子供給層に対向するゲート本体部を有するゲート電極とを含む、窒化物半導体装置
を提供する。
前記ソース電極と前記電子供給層との接合域であるソース接合域と、前記ドレイン電極と前記電子供給層との接合域であるドレイン接合域とは、長手方向が平行な矩形領域であり、その矩形領域の短手方向に沿って配列されている。また、前記パッシベーション膜に形成された前記開口内の領域である有効ゲート域は、前記ソース接合域および前記ドレイン接合域の間を通るジグザグ形状に形成されて、前記ソース接合域と前記ドレイン接合域とを分離する帯状パターンに形成されている。
また、前記ゲート絶縁膜が、前記電子供給層に接する第1絶縁層と、前記第2絶縁層に積層された第2絶縁層とを含む多層絶縁膜であり、前記ソース電極および前記ドレイン電極が、前記第1絶縁層に形成されたソースコンタクト孔およびドレインコンタクト孔をそれぞれ貫通して前記電子供給層に接触しており、前記ソース電極の下面が前記ソースコンタクト孔の縁部において前記第1絶縁層の表面に接し、前記ドレイン電極の下面が前記ドレインコンタクト孔の縁部において前記第1絶縁層の表面に接しており、前記第2絶縁層が前記ソース電極の上面および前記ドレイン電極の上面に接している。
【0006】
この構成によれば、互いにAl組成が異なる窒化物半導体からなる電子走行層および電子供給層が接することにより、ヘテロ接合が形成されている。したがって、電子走行層と電子供給層との界面付近の電子走行層内に二次元電子ガスが形成され、この二次元電子ガスをチャネルとして利用したHEMT(高電子移動度トランジスタ)が形成されている。
電子供給層上には、間隔を開けてソース電極およびドレイン電極が形成されており、それらの間の電子供給層の表面はゲート絶縁膜で覆われている。さらに、このゲート絶縁膜がパッシベーション膜で覆われている。パッシベーション膜には、ソース電極とドレイン電極との間の位置に開口が形成されており、この開口内に、ゲート電極のゲート本体部が配置されている。ゲート本体部は、ゲート絶縁膜を介して、電子供給層に対向している。
【0007】
ソース−ドレイン間のチャネルを提供する二次元電子ガスは、ゲート電極に制御電圧を印加することによって制御することができる。これによって、ソース−ドレイン間をオン/オフできる。
パッシベーション膜と電子供給層との間にゲート絶縁膜が介在しているので、パッシベーション膜をエッチングによって開口するときに、ゲート絶縁膜によってエッチングが停止する。したがって、電子供給層の表面にエッチングダメージが入らない上に、電子供給層の表面が大気にさらされない。したがって、ゲート絶縁膜と電子供給層との界面状態は良好であり、それによって、優れたデバイス特性を実現できる。
【0008】
この発明の一実施形態では、
前記第1絶縁層がNを含
み、
前記第2絶縁層がAl、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属を含む酸化金属から
なる。
この構成によれば、電子供給層に接する第1絶縁層は、電子供給層を構成する窒化物半導体と同種のアニオンを用いた絶縁層、すなわち、Nを含む絶縁層からなる。これにより、電子供給層からの窒素抜けを抑制でき、界面準位を少なくすることができるので、電流コラプスを抑制できる。一方、窒化物は組成の安定性が悪く、単独では安定したゲート絶縁膜を形成し難い。そこで、Nを含む第1絶縁層に、Al、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属を含む酸化金属からなる第2絶縁層を積層して、多層ゲート絶縁膜が構成されている。これにより、安定したゲート絶縁膜を提供できる。Al、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属を含む酸化金属からなる絶縁層は、ALD(Atomic Layer Deposition)法のように膜厚の精密な制御が可能な成膜方法で成膜することができる。それによって、ゲート絶縁膜の膜厚を精密に制御できるので、安定したデバイス特性を実現できる。加えて、Al、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属は、酸素との親和性が高いので、第1絶縁層との界面に対する酸素の影響を小さくできる。
【0009】
Nを含む絶縁物としては、SiN、AlN、GaN、InN等を例示でき、これらは第1絶縁層の材料として用いることができる。Al、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属を含む酸化金属からなる絶縁物としては、Alの酸化物、Yの酸化物、Hfの酸化物、Taの酸化物、Nbの酸化物、Laの酸化物等を例示でき、これらを第2絶縁層の材料として用いることができる。
【0010】
この発明の一実施形態では、前記第1絶縁層が、SiおよびNからなる絶縁体層であ
る。この構成によれば、窒化物半導体からなる電子供給層との界面における界面準位を抑制でき、電流コラプスを抑制または防止できる。
この発明の一実施形態では、前記第2絶縁層が、AlおよびOからなる絶縁体層であ
る。この構成によれば、第2絶縁層をALD法で精密な膜厚に作り込むことができる。また、パッシベーション膜が窒化物からなる場合であっても、そのパッシベーション膜に開口を形成するときに、パッシベーション膜のエッチングを第2絶縁層で確実に停止させることができる。すなわち、第2絶縁層をエッチングストップ層として利用できる。これにより、電子供給層の表面に対するエッチングダメージを確実に回避できる。AlおよびOからなる絶縁体層は、必ずしも全部がAl
2O
3である必要はなく、AlおよびOをその他の組成比で含む部分を有していてもよい。ALD法でアルミナ膜を成膜しようとするとき、一般に、AlとOとの組成比にはばらつきが生じる。AlおよびOからなる絶縁体は、その組成を厳密に制御しなくても、バンドギャップが大きく、耐圧が大きい絶縁体層を形成できる。
【0011】
この発明の一実施形態では、前記ゲート絶縁膜の厚さが、1nm以上20nm以下であ
る。1nm以下のゲート絶縁膜は膜厚の制御が困難であり、安定したデバイス特性を得難い。ゲート絶縁膜の厚さが20nmを超えると、ゲート電極直下で二次元電子ガスを消失させてソース−ドレイン間を遮断するための閾値電圧(負値)の絶対値が大きくなりすぎ、駆動回路の設計が困難になる。
【0012】
この発明の一実施形態では、前記電子供給層が、前記電子走行層と同じ組成の窒化物半導体からなるキャップ層を含み、前記キャップ層に接するように、前記ソース電極および前記ドレイン電極ならびに前記ゲート絶縁膜が形成されてい
る。この構成によれば、電子供給層上に形成されたキャップ層が電子走行層と同じ組成の窒化物半導体で構成されているので、電子供給層の表面モホロジー(morphology)を改善できる。それによって、特性の安定したHEMT構造の窒化物半導体装置を提供できる。
【0013】
この発明の一実施形態では、前記キャップ層の厚さが16nm以下(より好ましくは8nm以下)であ
る。キャップ層の厚さが16nmを超えると、表面モホロジーを改善する効果が少なくなるうえに、ソース電極およびドレイン電極のオーミック接触を阻害するおそれがある。キャップ層の厚さは、表面モホロジー改善のためには、2nm以上であることが好ましい。
【0014】
この発明の一実施形態では、前記ゲート電極が、前記ゲート本体部に連続し前記開口外の前記パッシベーション膜の表面上において前記ドレイン電極に向かって所定のフィールドプレート長に渡って延びたフィールドプレート部をさらに有してい
る。この構成によれば、ゲート電極はゲート本体部からパッシベーション膜上に延びたフィールドプレート部を有している。これにより、ゲート本体部のドレイン電極側端部における電界集中を抑制できる。しかも、ゲート本体部と電子供給層の表面との間にはゲート絶縁膜が介在されている一方で、フィールドプレート部と電子供給層の表面との間には、ゲート絶縁膜だけでなくパッシベーション膜も介在されている。したがって、ゲート本体部は電子供給層に充分に近づ
けて配置でき、フィールドプレート部は電子供給層から充分に引き離して配置できる。つまり、ゲート本体部と電子供給層との間の距離と、フィードプレート部と電子供給層との間の距離とを、互いに独立に定めることができる。その結果、ソース−ドレイン間を遮断するための閾値電圧と、ゲート電極とドレイン電極との間の耐圧を、いずれも適切な値に設定でき、それらの特性を両立できる。
【0015】
この発明の一実施形態では、前記フィールドプレート長が前記ゲート本体部と前記ドレイン電極との間の距離の1/6以上1/2以下であ
る。これにより、ゲート本体部のドレイン電極側端部における電界集中を抑制でき、かつ、フィールドプレート部の端部とドレイン電極との間の電界に起因する短絡(パッシベーション膜の破壊)を回避できる。
【0016】
この発明の一実施形態では、前記電子供給層が、13%以上30%以下のAl組成を有し、5nm以上30nm以下の厚さを有するAlGaN層を含
む。電子供給層のAl組成が13%未満であると、二次元電子ガスのキャリヤ濃度が低くなり、特性が悪くなるおそれがある。また、電子供給層のAl組成が30%を超えると、閾値電圧(負値)絶対値が大きくなり過ぎるうえに、リーク電流が増大するおそれがある。一方、電子供給層の厚さが5nm未満では、二次元電子ガスのキャリヤ濃度が低くなり、特性が悪くなるおそれがある。また、電子供給層の厚さが30nmを超えると、ソース電極およびドレイン電極を二次元電子ガスにオーミック接触させるのが困難になるおそれがあるうえ、閾値電圧(負値)の絶対値が大きくなり過ぎるおそれがある。
【0017】
この発明は、また、窒化物半導体からなる電子走行層を形成する工程と、Alを含むとともに前記電子走行層とはAl組成が異なる窒化物半導体からなる電子供給層を前記電子走行層に積層して形成する工程と、前記電子供給層上に
第1絶縁層を形成する工程と、
前記第1絶縁層に互いに間隔を開けてソースコンタクト孔およびドレインコンタクト孔を形成する工程と、前記ソースコンタクト孔および前記ドレインコンタクト孔をそれぞれ貫通して前記電子供給層に接するソース電極およびドレイン電極を
、互いに間隔を開けて
、かつ前記ソース電極の下面が前記ソースコンタクト孔の縁部において前記第1絶縁層の表面に接し、前記ドレイン電極の下面が前記ドレインコンタクト孔の縁部において前記第1絶縁層の表面に接するように形成する工程と、
前記第1絶縁層の表面を被覆し、さらに前記ソース電極の上面および前記ドレイン電極の上面を覆う第2絶縁層を形成して、前記第1絶縁層と当該第1絶縁層に積層された前記第2絶縁層とを含む多層絶縁膜からなるゲート絶縁膜を形成する工程と、前記ゲート絶縁膜上に、パッシベーション膜を形成する工程と、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間において前記ソース電極および前記ドレイン電極から間隔を開けた位置で、前記パッシベーション膜に開口を形成する工程と、前記パッシベーション膜に形成された前記開口内に配置されて前記ゲート絶縁膜に接し、前記ゲート絶縁膜を挟んで前記電子供給層に対向するゲート本体部を有するゲート電極を形成する工程とを含む、窒化物半導体装置の製造方法
を提供する。前記ソース電極と前記電子供給層との接合域であるソース接合域と、前記ドレイン電極と前記電子供給層との接合域であるドレイン接合域とは、長手方向が平行な矩形領域となり、その矩形領域の短手方向に沿って配列されるように、前記ソース電極および前記ドレイン電極が形成される。また、前記パッシベーション膜に形成された前記開口内の領域である有効ゲート域が、前記ソース接合域および前記ドレイン接合域の間を通るジグザグ形状に形成されて、前記ソース接合域と前記ドレイン接合域とを分離する帯状パターンとなるように、前記開口が前記パッシベーション膜に形成される
。
【0018】
この発明の一実施形態では、前記パッシベーション膜に開口を形成する工程が、前記ゲート絶縁膜をエッチングストッパとして用いたエッチング工程を含
む。この方法により、パッシベーション膜に開口を形成する際に、ゲート電極直下の電子供給層の表面が露出しないので、電子供給層の表面に対するエッチングダメージを回避し、かつ電子供給層の表面が大気に晒されることを回避できる。これにより、特性の優れた窒化物半導体装置を製造できる。
【0019】
この発明の一実施形態では、
前記第1絶縁層が、前記電子供給層に接しNを含
む絶縁
体層
でありと、
前記第2絶縁層が、Al、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属を含む酸化金属からな
る絶縁
体層
である。
【0020】
この発明の一実施形態では、前記第1絶縁層が、SiおよびNからなる絶縁体層であ
る。
この発明の一実施形態では、前記第2絶縁層が、AlおよびOからなる絶縁体層であ
る。
【0021】
この発明の一実施形態では、前記電子供給層を形成する工程が、前記電子走行層と同じ組成の窒化物半導体からなるキャップ層を形成する工程を含み、前記キャップ層に接するように、前記ソース電極および前記ドレイン電極ならびに前記ゲート絶縁膜が形成され
る。
【0022】
この発明の一実施形態では、前記ゲート電極が、前記ゲート本体部に連続し前記開口外の前記パッシベーション膜の表面上において前記ドレイン電極に向かって所定のフィールドプレート長に渡って延びたフィールドプレート部とを有するように形成され
る。