特許第6090764号(P6090764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6090764
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20170227BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20170227BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   H01L29/80 H
   H01L29/80 Q
【請求項の数】17
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-118826(P2012-118826)
(22)【出願日】2012年5月24日
(65)【公開番号】特開2013-247196(P2013-247196A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 稔
(72)【発明者】
【氏名】藤原 徹也
【審査官】 棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−192719(JP,A)
【文献】 特開2011−249821(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/070824(WO,A1)
【文献】 特開2002−359256(JP,A)
【文献】 特開2011−238805(JP,A)
【文献】 特表2007−516615(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/096521(WO,A1)
【文献】 特開2011−198837(JP,A)
【文献】 特開2013−140956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/338
H01L 29/778
H01L 29/812
H01L 29/41
H01L 29/47
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体からなる電子走行層と、
前記電子走行層に積層され、Alを含むとともに前記電子走行層とはAl組成が異なる窒化物半導体からなる電子供給層と、
前記電子供給層上に互いに間隔を開けて形成されたソース電極およびドレイン電極と、
前記ソース電極およびドレイン電極の間の前記電子供給層の表面を覆うゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜の表面を覆い、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間において前記ソース電極および前記ドレイン電極から間隔を開けた位置に開口を有するパッシベーション膜と、
前記パッシベーション膜に形成された前記開口内に配置されて前記ゲート絶縁膜に接し、前記ゲート絶縁膜を挟んで前記電子供給層に対向するゲート本体部を有するゲート電極と
を含み、
前記ソース電極と前記電子供給層との接合域であるソース接合域と、前記ドレイン電極と前記電子供給層との接合域であるドレイン接合域とが、長手方向が平行な矩形領域であり、その矩形領域の短手方向に沿って配列されており、
前記パッシベーション膜に形成された前記開口内の領域である有効ゲート域が、前記ソース接合域および前記ドレイン接合域の間を通るジグザグ形状に形成されて、前記ソース接合域と前記ドレイン接合域とを分離する帯状パターンに形成されており、
前記ゲート絶縁膜が、前記電子供給層に接する第1絶縁層と、前記第2絶縁層に積層された第2絶縁層とを含む多層絶縁膜であり、
前記ソース電極および前記ドレイン電極が、前記第1絶縁層に形成されたソースコンタクト孔およびドレインコンタクト孔をそれぞれ貫通して前記電子供給層に接触しており、前記ソース電極の下面が前記ソースコンタクト孔の縁部において前記第1絶縁層の表面に接し、前記ドレイン電極の下面が前記ドレインコンタクト孔の縁部において前記第1絶縁層の表面に接しており、
前記第2絶縁層が前記ソース電極の上面および前記ドレイン電極の上面に接している、窒化物半導体装置。
【請求項2】
前記第1絶縁層がNを含前記第2絶縁層がAl、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属を含む酸化金属からなる、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項3】
前記第1絶縁層が、SiおよびNからなる絶縁体層である、請求項1または2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項4】
前記第2絶縁層が、AlおよびOからなる絶縁体層である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項5】
前記ゲート絶縁膜の厚さが、1nm以上20nm以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項6】
前記電子供給層が、前記電子走行層と同じ組成の窒化物半導体からなるキャップ層を含み、前記キャップ層に接するように、前記ソース電極および前記ドレイン電極ならびに前記ゲート絶縁膜が形成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項7】
前記キャップ層の厚さが16nm以下である、請求項6に記載の窒化物半導体装置。
【請求項8】
前記ゲート電極が、前記ゲート本体部に連続し前記開口外の前記パッシベーション膜の表面上において前記ドレイン電極に向かって所定のフィールドプレート長に渡って延びたフィールドプレート部をさらに有している、請求項1〜7のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項9】
前記フィールドプレート長が前記ゲート本体部と前記ドレイン電極との間の距離の1/6以上1/2以下である、請求項8に記載の窒化物半導体装置。
【請求項10】
前記電子供給層が、13%以上30%以下のAl組成を有し、5nm以上30nm以下の厚さを有するAlGaN層を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項11】
窒化物半導体からなる電子走行層を形成する工程と、
Alを含むとともに前記電子走行層とはAl組成が異なる窒化物半導体からなる電子供給層を前記電子走行層に積層して形成する工程と、
前記電子供給層上に第1絶縁層を形成する工程と、
前記第1絶縁層に互いに間隔を開けてソースコンタクト孔およびドレインコンタクト孔を形成する工程と、
前記ソースコンタクト孔および前記ドレインコンタクト孔をそれぞれ貫通して前記電子供給層に接するソース電極およびドレイン電極を互いに間隔を開けて、かつ前記ソース電極の下面が前記ソースコンタクト孔の縁部において前記第1絶縁層の表面に接し、前記ドレイン電極の下面が前記ドレインコンタクト孔の縁部において前記第1絶縁層の表面に接するように形成する工程と、
前記第1絶縁層の表面を被覆し、さらに前記ソース電極の上面および前記ドレイン電極の上面を覆う第2絶縁層を形成して、前記第1絶縁層と当該第1絶縁層に積層された前記第2絶縁層とを含む多層絶縁膜からなるゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜上に、パッシベーション膜を形成する工程と、
前記ソース電極および前記ドレイン電極の間において前記ソース電極および前記ドレイン電極から間隔を開けた位置で、前記パッシベーション膜に開口を形成する工程と、
前記パッシベーション膜に形成された前記開口内に配置されて前記ゲート絶縁膜に接し、前記ゲート絶縁膜を挟んで前記電子供給層に対向するゲート本体部を有するゲート電極を形成する工程と
を含み、
前記ソース電極と前記電子供給層との接合域であるソース接合域と、前記ドレイン電極と前記電子供給層との接合域であるドレイン接合域とが、長手方向が平行な矩形領域となり、その矩形領域の短手方向に沿って配列されるように、前記ソース電極および前記ドレイン電極が形成され、
前記パッシベーション膜に形成された前記開口内の領域である有効ゲート域が、前記ソース接合域および前記ドレイン接合域の間を通るジグザグ形状に形成されて、前記ソース接合域と前記ドレイン接合域とを分離する帯状パターンとなるように、前記開口が前記パッシベーション膜に形成される、窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記パッシベーション膜に開口を形成する工程が、前記ゲート絶縁膜をエッチングストッパとして用いたエッチング工程を含む、請求項11に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記第1絶縁層が、前記電子供給層に接しNを含む絶でありと、前記第2絶縁層が、Al、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属を含む酸化金属からな絶縁である、請求項11または12に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記第1絶縁層が、SiおよびNからなる絶縁体層である、請求項11〜13のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記第2絶縁層が、AlおよびOからなる絶縁体層である、請求項11〜14のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記電子供給層を形成する工程が、前記電子走行層と同じ組成の窒化物半導体からなるキャップ層を形成する工程を含み、前記キャップ層に接するように、前記ソース電極および前記ドレイン電極ならびに前記ゲート絶縁膜が形成される、請求項11〜15のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記ゲート電極が、前記ゲート本体部に連続し前記開口外の前記パッシベーション膜の表面上において前記ドレイン電極に向かって所定のフィールドプレート長に渡って延びたフィールドプレート部とを有するように形成される、請求項11〜16のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、III族窒化物半導体(以下単に「窒化物半導体」という場合がある。)からなる半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体とは、III-V族半導体においてV族元素として窒素を用いた半導体である。窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)が代表例である。一般には、AlInGa1−X−YN(0≦X≦1,0≦Y≦1,0≦X+Y≦1)と表わすことができる。
このような窒化物半導体を用いたMISFET(Metal-Insulator-Semiconductor Field Effect Transistor)が提案されている。このようなMISFETの一例は、特許文献1に示されている。特許文献1に記載されているMISFETは、GaN層とAlGaN層との積層構造を有し、AlGaN層上に層間絶縁層が形成されている。層間絶縁層には、AlGaN層の表面を露出させる開口部が形成されており、その開口部内にゲート絶縁層が埋め込まれている。このゲート絶縁層の上にゲート電極が形成されている。ゲート絶縁層は、Al膜とSiO膜との多層構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−103408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構造では、層間絶縁層をエッチングしてAlGaN層を露出させる開口部を形成する必要がある。そのため、AlGaN層の表面がエッチングによってダメージを受けることは避けられない。したがって、AlGaN層とゲート絶縁層との界面状態が必ずしも良好でなく、優れたデバイス特性を得難いという課題がある。
そこで、この発明の目的は、窒化物半導体とゲート絶縁膜との間に優れた界面を有し、それによってデバイス特性が向上された窒化物半導体装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、窒化物半導体からなる電子走行層と、前記電子走行層に積層され、Alを含むとともに前記電子走行層とはAl組成が異なる窒化物半導体からなる電子供給層と、前記電子供給層上に互いに間隔を開けて形成されたソース電極およびドレイン電極と、前記ソース電極およびドレイン電極の間の前記電子供給層の表面を覆うゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜の表面を覆い、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間において前記ソース電極および前記ドレイン電極から間隔を開けた位置に開口を有するパッシベーション膜と、前記パッシベーション膜に形成された前記開口内に配置されて前記ゲート絶縁膜に接し、前記ゲート絶縁膜を挟んで前記電子供給層に対向するゲート本体部を有するゲート電極とを含む、窒化物半導体装置を提供する。
前記ソース電極と前記電子供給層との接合域であるソース接合域と、前記ドレイン電極と前記電子供給層との接合域であるドレイン接合域とは、長手方向が平行な矩形領域であり、その矩形領域の短手方向に沿って配列されている。また、前記パッシベーション膜に形成された前記開口内の領域である有効ゲート域は、前記ソース接合域および前記ドレイン接合域の間を通るジグザグ形状に形成されて、前記ソース接合域と前記ドレイン接合域とを分離する帯状パターンに形成されている。
また、前記ゲート絶縁膜が、前記電子供給層に接する第1絶縁層と、前記第2絶縁層に積層された第2絶縁層とを含む多層絶縁膜であり、前記ソース電極および前記ドレイン電極が、前記第1絶縁層に形成されたソースコンタクト孔およびドレインコンタクト孔をそれぞれ貫通して前記電子供給層に接触しており、前記ソース電極の下面が前記ソースコンタクト孔の縁部において前記第1絶縁層の表面に接し、前記ドレイン電極の下面が前記ドレインコンタクト孔の縁部において前記第1絶縁層の表面に接しており、前記第2絶縁層が前記ソース電極の上面および前記ドレイン電極の上面に接している。
【0006】
この構成によれば、互いにAl組成が異なる窒化物半導体からなる電子走行層および電子供給層が接することにより、ヘテロ接合が形成されている。したがって、電子走行層と電子供給層との界面付近の電子走行層内に二次元電子ガスが形成され、この二次元電子ガスをチャネルとして利用したHEMT(高電子移動度トランジスタ)が形成されている。
電子供給層上には、間隔を開けてソース電極およびドレイン電極が形成されており、それらの間の電子供給層の表面はゲート絶縁膜で覆われている。さらに、このゲート絶縁膜がパッシベーション膜で覆われている。パッシベーション膜には、ソース電極とドレイン電極との間の位置に開口が形成されており、この開口内に、ゲート電極のゲート本体部が配置されている。ゲート本体部は、ゲート絶縁膜を介して、電子供給層に対向している。
【0007】
ソース−ドレイン間のチャネルを提供する二次元電子ガスは、ゲート電極に制御電圧を印加することによって制御することができる。これによって、ソース−ドレイン間をオン/オフできる。
パッシベーション膜と電子供給層との間にゲート絶縁膜が介在しているので、パッシベーション膜をエッチングによって開口するときに、ゲート絶縁膜によってエッチングが停止する。したがって、電子供給層の表面にエッチングダメージが入らない上に、電子供給層の表面が大気にさらされない。したがって、ゲート絶縁膜と電子供給層との界面状態は良好であり、それによって、優れたデバイス特性を実現できる。
【0008】
この発明の一実施形態では、前記第1絶縁層がNを含前記第2絶縁層がAl、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属を含む酸化金属からなる
この構成によれば、電子供給層に接する第1絶縁層は、電子供給層を構成する窒化物半導体と同種のアニオンを用いた絶縁層、すなわち、Nを含む絶縁層からなる。これにより、電子供給層からの窒素抜けを抑制でき、界面準位を少なくすることができるので、電流コラプスを抑制できる。一方、窒化物は組成の安定性が悪く、単独では安定したゲート絶縁膜を形成し難い。そこで、Nを含む第1絶縁層に、Al、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属を含む酸化金属からなる第2絶縁層を積層して、多層ゲート絶縁膜が構成されている。これにより、安定したゲート絶縁膜を提供できる。Al、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属を含む酸化金属からなる絶縁層は、ALD(Atomic Layer Deposition)法のように膜厚の精密な制御が可能な成膜方法で成膜することができる。それによって、ゲート絶縁膜の膜厚を精密に制御できるので、安定したデバイス特性を実現できる。加えて、Al、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属は、酸素との親和性が高いので、第1絶縁層との界面に対する酸素の影響を小さくできる。
【0009】
Nを含む絶縁物としては、SiN、AlN、GaN、InN等を例示でき、これらは第1絶縁層の材料として用いることができる。Al、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属を含む酸化金属からなる絶縁物としては、Alの酸化物、Yの酸化物、Hfの酸化物、Taの酸化物、Nbの酸化物、Laの酸化物等を例示でき、これらを第2絶縁層の材料として用いることができる。
【0010】
この発明の一実施形態では、前記第1絶縁層が、SiおよびNからなる絶縁体層である。この構成によれば、窒化物半導体からなる電子供給層との界面における界面準位を抑制でき、電流コラプスを抑制または防止できる。
この発明の一実施形態では、前記第2絶縁層が、AlおよびOからなる絶縁体層である。この構成によれば、第2絶縁層をALD法で精密な膜厚に作り込むことができる。また、パッシベーション膜が窒化物からなる場合であっても、そのパッシベーション膜に開口を形成するときに、パッシベーション膜のエッチングを第2絶縁層で確実に停止させることができる。すなわち、第2絶縁層をエッチングストップ層として利用できる。これにより、電子供給層の表面に対するエッチングダメージを確実に回避できる。AlおよびOからなる絶縁体層は、必ずしも全部がAlである必要はなく、AlおよびOをその他の組成比で含む部分を有していてもよい。ALD法でアルミナ膜を成膜しようとするとき、一般に、AlとOとの組成比にはばらつきが生じる。AlおよびOからなる絶縁体は、その組成を厳密に制御しなくても、バンドギャップが大きく、耐圧が大きい絶縁体層を形成できる。
【0011】
この発明の一実施形態では、前記ゲート絶縁膜の厚さが、1nm以上20nm以下である。1nm以下のゲート絶縁膜は膜厚の制御が困難であり、安定したデバイス特性を得難い。ゲート絶縁膜の厚さが20nmを超えると、ゲート電極直下で二次元電子ガスを消失させてソース−ドレイン間を遮断するための閾値電圧(負値)の絶対値が大きくなりすぎ、駆動回路の設計が困難になる。
【0012】
この発明の一実施形態では、前記電子供給層が、前記電子走行層と同じ組成の窒化物半導体からなるキャップ層を含み、前記キャップ層に接するように、前記ソース電極および前記ドレイン電極ならびに前記ゲート絶縁膜が形成されている。この構成によれば、電子供給層上に形成されたキャップ層が電子走行層と同じ組成の窒化物半導体で構成されているので、電子供給層の表面モホロジー(morphology)を改善できる。それによって、特性の安定したHEMT構造の窒化物半導体装置を提供できる。
【0013】
この発明の一実施形態では、前記キャップ層の厚さが16nm以下(より好ましくは8nm以下)である。キャップ層の厚さが16nmを超えると、表面モホロジーを改善する効果が少なくなるうえに、ソース電極およびドレイン電極のオーミック接触を阻害するおそれがある。キャップ層の厚さは、表面モホロジー改善のためには、2nm以上であることが好ましい。
【0014】
この発明の一実施形態では、前記ゲート電極が、前記ゲート本体部に連続し前記開口外の前記パッシベーション膜の表面上において前記ドレイン電極に向かって所定のフィールドプレート長に渡って延びたフィールドプレート部をさらに有している。この構成によれば、ゲート電極はゲート本体部からパッシベーション膜上に延びたフィールドプレート部を有している。これにより、ゲート本体部のドレイン電極側端部における電界集中を抑制できる。しかも、ゲート本体部と電子供給層の表面との間にはゲート絶縁膜が介在されている一方で、フィールドプレート部と電子供給層の表面との間には、ゲート絶縁膜だけでなくパッシベーション膜も介在されている。したがって、ゲート本体部は電子供給層に充分に近づけて配置でき、フィールドプレート部は電子供給層から充分に引き離して配置できる。つまり、ゲート本体部と電子供給層との間の距離と、フィードプレート部と電子供給層との間の距離とを、互いに独立に定めることができる。その結果、ソース−ドレイン間を遮断するための閾値電圧と、ゲート電極とドレイン電極との間の耐圧を、いずれも適切な値に設定でき、それらの特性を両立できる。
【0015】
この発明の一実施形態では、前記フィールドプレート長が前記ゲート本体部と前記ドレイン電極との間の距離の1/6以上1/2以下である。これにより、ゲート本体部のドレイン電極側端部における電界集中を抑制でき、かつ、フィールドプレート部の端部とドレイン電極との間の電界に起因する短絡(パッシベーション膜の破壊)を回避できる。
【0016】
この発明の一実施形態では、前記電子供給層が、13%以上30%以下のAl組成を有し、5nm以上30nm以下の厚さを有するAlGaN層を含む。電子供給層のAl組成が13%未満であると、二次元電子ガスのキャリヤ濃度が低くなり、特性が悪くなるおそれがある。また、電子供給層のAl組成が30%を超えると、閾値電圧(負値)絶対値が大きくなり過ぎるうえに、リーク電流が増大するおそれがある。一方、電子供給層の厚さが5nm未満では、二次元電子ガスのキャリヤ濃度が低くなり、特性が悪くなるおそれがある。また、電子供給層の厚さが30nmを超えると、ソース電極およびドレイン電極を二次元電子ガスにオーミック接触させるのが困難になるおそれがあるうえ、閾値電圧(負値)の絶対値が大きくなり過ぎるおそれがある。
【0017】
この発明は、また、窒化物半導体からなる電子走行層を形成する工程と、Alを含むとともに前記電子走行層とはAl組成が異なる窒化物半導体からなる電子供給層を前記電子走行層に積層して形成する工程と、前記電子供給層上に第1絶縁層を形成する工程と、前記第1絶縁層に互いに間隔を開けてソースコンタクト孔およびドレインコンタクト孔を形成する工程と、前記ソースコンタクト孔および前記ドレインコンタクト孔をそれぞれ貫通して前記電子供給層に接するソース電極およびドレイン電極を互いに間隔を開けて、かつ前記ソース電極の下面が前記ソースコンタクト孔の縁部において前記第1絶縁層の表面に接し、前記ドレイン電極の下面が前記ドレインコンタクト孔の縁部において前記第1絶縁層の表面に接するように形成する工程と、前記第1絶縁層の表面を被覆し、さらに前記ソース電極の上面および前記ドレイン電極の上面を覆う第2絶縁層を形成して、前記第1絶縁層と当該第1絶縁層に積層された前記第2絶縁層とを含む多層絶縁膜からなるゲート絶縁膜を形成する工程と、前記ゲート絶縁膜上に、パッシベーション膜を形成する工程と、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間において前記ソース電極および前記ドレイン電極から間隔を開けた位置で、前記パッシベーション膜に開口を形成する工程と、前記パッシベーション膜に形成された前記開口内に配置されて前記ゲート絶縁膜に接し、前記ゲート絶縁膜を挟んで前記電子供給層に対向するゲート本体部を有するゲート電極を形成する工程とを含む、窒化物半導体装置の製造方法を提供する。前記ソース電極と前記電子供給層との接合域であるソース接合域と、前記ドレイン電極と前記電子供給層との接合域であるドレイン接合域とは、長手方向が平行な矩形領域となり、その矩形領域の短手方向に沿って配列されるように、前記ソース電極および前記ドレイン電極が形成される。また、前記パッシベーション膜に形成された前記開口内の領域である有効ゲート域が、前記ソース接合域および前記ドレイン接合域の間を通るジグザグ形状に形成されて、前記ソース接合域と前記ドレイン接合域とを分離する帯状パターンとなるように、前記開口が前記パッシベーション膜に形成される
【0018】
この発明の一実施形態では、前記パッシベーション膜に開口を形成する工程が、前記ゲート絶縁膜をエッチングストッパとして用いたエッチング工程を含む。この方法により、パッシベーション膜に開口を形成する際に、ゲート電極直下の電子供給層の表面が露出しないので、電子供給層の表面に対するエッチングダメージを回避し、かつ電子供給層の表面が大気に晒されることを回避できる。これにより、特性の優れた窒化物半導体装置を製造できる。
【0019】
この発明の一実施形態では、前記第1絶縁層が、前記電子供給層に接しNを含む絶でありと、前記第2絶縁層が、Al、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属を含む酸化金属からな絶縁である。
【0020】
この発明の一実施形態では、前記第1絶縁層が、SiおよびNからなる絶縁体層である。
この発明の一実施形態では、前記第2絶縁層が、AlおよびOからなる絶縁体層である。
【0021】
この発明の一実施形態では、前記電子供給層を形成する工程が、前記電子走行層と同じ組成の窒化物半導体からなるキャップ層を形成する工程を含み、前記キャップ層に接するように、前記ソース電極および前記ドレイン電極ならびに前記ゲート絶縁膜が形成される。
【0022】
この発明の一実施形態では、前記ゲート電極が、前記ゲート本体部に連続し前記開口外の前記パッシベーション膜の表面上において前記ドレイン電極に向かって所定のフィールドプレート長に渡って延びたフィールドプレート部とを有するように形成される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、この発明の第1の実施形態に係る窒化物半導体装置の構成を説明するための断面図である。
図2図2は、前記第1の実施形態に係る窒化物半導体装置の平面図である。
図3A図3Aは、図1の窒化物半導体装置の製造工程の途中の段階における構成を示す断面図である。
図3B図3Bは、図3Aの後の段階における構成を示す断面図である。
図3C図3Cは、図3Bの後の段階における構成を示す断面図である。
図3D図3Dは、図3Cの後の段階における構成を示す断面図である。
図3E図3Eは、図3Dの後の段階における構成を示す断面図である。
図3F図3Fは、図3Eの後の段階における構成を示す断面図である。
図3G図3Gは、図3Fの後の段階における構成を示す断面図である。
図4図4は、この発明の第2の実施形態に係る窒化物半導体装置の構成を説明するための図解的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の第1の実施形態に係る窒化物半導体装置の構成を説明するための断面図である。また、図2は、前記窒化物半導体装置の平面図である。図1には、図2のI−I線断面が示されている。この窒化物半導体装置は、基板1(たとえばシリコン基板)と、基板1の表面に形成されたバッファ層2と、バッファ層2上にエピタキシャル成長された電子走行層3と、電子走行層3上にエピタキシャル成長された電子供給層4とを含む。さらに、この窒化物半導体装置は、電子供給層4の表面を覆うゲート絶縁膜10(図2では図示省略)と、ゲート絶縁膜10を覆うパッシベーション膜5(図2では図示省略)と、ゲート絶縁膜10に形成されたコンタクト孔6a,7aを貫通して電子供給層4にオーミック接触しているオーミック電極としてのソース電極6およびドレイン電極7とを含む。ソース電極6およびドレイン電極7は、間隔を開けて配置されており、それらの間に、ゲート電極8が配置されている。ゲート電極8は、ゲート絶縁膜10を介して電子供給層4に対向している。
【0025】
ゲート絶縁膜10は、第1絶縁層11と、第2絶縁層12とを積層した多層ゲート絶縁膜である。第1絶縁層11は電子供給層4の表面に接しており、この第1絶縁層11の表面(電子供給層4とは反対側の表面)に第2絶縁層12が積層されている。第1絶縁層11は、この実施形態ではSiN膜で構成されており、その膜厚は、たとえば30Å程度であってもよい。このような第1絶縁層11は、プラズマCVD(化学的気相成長)法、熱CVD法、スパッタリングなどで形成することができる。第2絶縁層12は、この実施形態では、アルミナ(Al)で構成されており、その膜厚は、たとえば50Å程度であってもよい。このような第2絶縁層12は、たとえば、たとえばALD法等によって精密に膜厚を制御して形成できる。
【0026】
ALD法でアルミナ膜を成膜しようとするとき、一般に、AlとOとの組成比a:bにはばらつきが生じ、必ずしも全部がAlとなるわけではない。これは、ALD法が比較的低温のプロセスだからである。しかし、AlおよびOからなる絶縁体は、その組成を厳密に制御しなくても、バンドギャップが大きく、耐圧が大きい絶縁体層を形成できる。この明細書では、AlとOとの組成比a:bが2:3以外の場合も含めて「アルミナ」ということにする。
【0027】
パッシベーション膜5は、たとえば、膜厚750Å程度のSiN膜からなっていてもよい。すなわち、パッシベーション膜5は、第1絶縁層11と同様な窒化物からなっていてもよい。パッシベーション膜5には、ゲート電極8を入り込ませてゲート絶縁膜10に接触させるための開口5aが形成されている。パッシベーション5に開口5aを形成するためのエッチングは、第2絶縁層12で停止するので、第1絶縁層11を傷付けることがない。したがって、電子供給層4の表面にエッチングダメージを与えることなく、かつ電子供給層4の表面を大気に晒すことなく、開口5aを形成できる。
【0028】
電子走行層3と電子供給層4とは、Al組成の異なるIII族窒化物半導体(以下単に「窒化物半導体」という。)からなっている。たとえば、電子走行層3は、GaN層からなっていてもよく、その厚さは、0.5μm程度であってもよい。電子供給層4は、この実施形態では、AlxGa1-xN層(0<x<1)からなっており、その厚さは、たとえば5〜30nm(より具体的には20nm程度)である。電子供給層4は、13%以上30%以下のAl組成を有するAlGaN層からなっていることが好ましい。
【0029】
このように、電子走行層3と電子供給層4とは、Al組成の異なる窒化物半導体からなっていて、ヘテロ接合を形成しているとともに、それらの間には格子不整合が生じている。そして、ヘテロ接合およびの格子不整合に起因する分極のために、電子走行層3と電子供給層4との界面に近い位置(たとえば界面から数Å程度の距離の位置)には、二次元電子ガス20が広がっている。
【0030】
電子供給層4は、電子走行層3との界面に、数原子厚程度(5nm以下。好ましくは1〜5nm、より好ましくは1〜3nm)の厚さのAlN層を有していてもよい。このようなAlN層は、電子の散乱を抑制して、電子移動度の向上に寄与する。
ゲート電極8は、ゲート絶縁膜10に接する下層と、この下層上に積層される上層とを有する積層電極膜からなっていてもよい。下層はNiまたはPtからなっていてもよく、上層はAuまたはAlからなっていてもよい。ゲート電極8は、ソース電極6寄りに偏って配置され、これにより、ゲート−ソース間距離よりもゲート−ドレイン間距離の方を長くした非対称構造となっている。この非対称構造は、ゲート−ドレイン間に生じる高電界を緩和して耐圧向上に寄与する。
【0031】
ゲート電極8は、ソース電極6とドレイン電極7との間においてパッシベーション膜5に形成された開口5a内に入り込んだゲート本体部81と、ゲート本体部81に連なり、開口5a外においてパッシベーション膜5上をドレイン電極7に向かって延びたフィールドプレート部82とを有している。開口5a内にはゲート絶縁膜10が露出していて、ゲート本体部81は、開口5aの底面においてゲート絶縁膜10に接している。ゲート本体部81とゲート絶縁膜10との界面におけるドレイン電極7側の端部であるドレイン端81aからフィールドプレート部82のドレイン電極7側の端部までの距離Lfp(たとえば2.25μm程度)は、フィールドプレート長と呼ばれる。フィールドプレート長Lfpは、ドレイン端81aからドレイン電極7までの距離Lgd(たとえば9μm程度)の1/6以上1/2以下であることが好ましい。これにより、ドレイン端81aにおける電界集中を緩和でき、かつフィールドプレート部82のドレイン側端とドレイン電極7との間の電界に起因するパッシベーション膜5の破壊を回避できる。
【0032】
ソース電極6およびドレイン電極7は、たとえば、TiおよびAlを含むオーミック電極であり、電子走行層41に形成される二次元電子ガス20にオーミック接触している。
バッファ層2は、たとえば、AlGaN層であってもよいし、AlN層およびGaN層を繰り返し積層した超格子構造を有する層であってもよい。
この窒化物半導体装置では、電子走行層3上にAl組成の異なる電子供給層4が形成されてヘテロ接合が形成されている。これにより、電子走行層3と電子供給層4との界面付近の電子走行層3内に二次元電子ガス20が形成され、この二次元電子ガス20をチャネルとして利用したHEMTが形成されている。ゲート電極8は、ゲート絶縁膜10を挟んで電子供給層4に対向している。ゲート電極8に適切な負値の電圧を印加すると、二次元電子ガス20で形成されたチャネルを遮断できる。したがって、ゲート電極8に制御電圧を印加することによって、ソース−ドレイン間をオン/オフできる。
【0033】
使用に際しては、たとえば、ソース電極6とドレイン電極7との間に、ドレイン電極7側が正となる所定の電圧(たとえば200V〜600V)が印加される。その状態で、ゲート電極8に対して、ソース電極6を基準電位(0V)として、オフ電圧(たとえば−5V)またはオン電圧(たとえば0V)が印加される。
図2に示されているように、平面視において、ソース電極6と電子供給層4との接合域(ソース接合域。コンタクト孔6a内の領域)Saと、ドレイン電極7と電子供給層4との接合域(ドレイン接合域。コンタクト孔7a内の領域)Daとを分離するように、ゲート電極8が引き回されている。すなわち、ゲート電極8のゲート本体部81とゲート絶縁膜10との接触域(有効ゲート域。開口5a内の領域)Gaが、ソース接合域Saとドレイン接合域Daとを分離する一定幅の帯状パターンに形成されている。より具体的には、ソース接合域Saおよびドレイン接合域Daは、長手方向が平行な矩形領域であり、その矩形領域の短手方向に沿って配列されている。有効ゲート域Gaは、ソース接合域Saおよびドレイン接合域Daの間を通るジグザグ形状に形成されている。有効ゲート域Gaは、ドレイン接合域Daよりもソース接合域Saに近い位置を通るように配置されている。有効ゲート域Gaとゲート電極8のドレイン接合域Da側のエッジとの間の距離がフィールドプレート長Lfpである。また、有効ゲート域Gaの幅は、ゲート長Lg(たとえば1μm程度)である。
【0034】
図3A図3Gは、前述の窒化物半導体装置の製造工程の一例を説明するための断面図であり、製造工程における複数の段階における断面構造が示されている。
まず、図3Aに示すように、基板1上に、バッファ層2および電子走行層3が順にエピタキシャル成長させられ、さらに電子走行層3上に電子供給層4がエピタキシャル成長させられる。そして、さらに、電子供給層4上の全面を被覆するように、ゲート絶縁膜10の第1絶縁層11が形成される。より具体的には、電子供給層4の表面を被覆するように、SiNからなる第1絶縁層11が形成される。これ以後は、電子供給層4の表面が大気に晒されることはない。第1絶縁層11の形成は、たとえば、プラズマCVD、熱CVDまたはスパッタ法によって行える。
【0035】
次に、図3Bに示すように、第1絶縁層11に、ソース電極用のコンタクト孔6aおよびドレイン電極用のコンタクト孔7aが、互いに間隔を開けて形成される。そして、それらのコンタクト孔6a,7aに埋め込まれて電子供給層4の表面に接するように、ソース電極6およびドレイン電極7が形成される。ソース電極6およびドレイン電極7の下面はそれぞれコンタクト孔6a,7aの縁部において第1絶縁層11の表面に接する。これらの電極6,7は、オーミック電極であり、たとえば、電子供給層4の表面に接するようにTi層を形成し、その上にAl層を形成し、この積層金属層に対してシンター(たとえば窒素雰囲気中において550℃で10分の熱処理)を施すことによって形成される。Ti層およびAl層の形成は、たとえば、スパッタリングによって行うことができる。
【0036】
次いで、図3Cに示すように、全面に、アルミナからなる第2絶縁層12が形成される。すなわち、第2絶縁層12は、第1絶縁層11の表面を被覆し、さらに、ソース電極6およびドレイン電極7の露出している表面(上面)を被覆する。第2絶縁層12の形成は、精密な膜厚制御が可能な方法、たとえばALD法によって行える。
次いで、図3Dに示すように、第2絶縁層12を被覆するように、全面に、SiNからなるパッシベーション膜5が形成される。パッシベーション膜5の形成は、たとえば、プラズマCVD法によって行える。
【0037】
次に、図3Eに示すように、ソース電極6およびドレイン電極7の間において、それらから間隔を開けた位置に、パッシベーション膜5を貫通する開口5aが形成される。開口5aの形成は、たとえば、レジスト膜15をマスクとして用いたドライエッチングによって行うことができる。このドライエッチングは、開口5aの底部に第2絶縁層12が露出するまで行われる。換言すれば、アルミナからなる第2絶縁層12をエッチングストッパとして用いて、開口5aを形成するためのエッチングが行われる。その後、レジスト膜15が剥離される。
【0038】
次いで、図3Fに示すように、ゲート電極8の形成位置に開口を有するレジスト膜16が形成され、その状態の表面全域を覆うように、電極膜17が形成される。電極膜17は、パッシベーション膜5の開口5a内に入り込み、開口5aの底部において、ゲート絶縁膜10を介して電子供給層3に対向する。レジスト膜16の開口は、パッシベーション膜5に形成された開口5aの領域を包含し、かつ開口5aの領域よりも広い領域に形成される。レジスト膜16の開口のドレイン電極7側の縁部は、パッシベーション膜5の開口5aのドレイン側端からドレイン電極7に向かってフィールドプレート長Lfpだけ後退している。電極膜17は、たとえば、NiまたはPtからなる下層と、AuまたはAlからなる上層とを積層した積層金属膜からなり、各層を順に蒸着して形成される。
【0039】
次に、図3Gに示すように、レジスト膜16とともに、当該レジスト膜16上の電極膜17(電極膜17の不要部分)がリフトオフされることによって、当該電極膜17がパターニングされて、ゲート電極8が得られる。その後、パッシベーション膜5および第2絶縁層12の選択エッチングが行われて、ソース電極6およびドレイン電極7が露出させられる。こうして、図1に示す構造の窒化物半導体装置が得られる。その後は、層間絶縁膜で全面が覆われ、ソース電極6およびドレイン電極7を露出させるコンタクト孔が層間絶縁膜に形成される。そして、層間絶縁膜上には、ソース電極6およびドレイン電極7にコンタクト孔でそれぞれ接続されるソース配線およびドレイン配線が形成される。
【0040】
以上のように、この実施形態によれば、電子供給層4上には、間隔を開けてソース電極6およびドレイン電極7が形成されており、それらの間の電子供給層4の表面はゲート絶縁膜10で覆われている。さらに、このゲート絶縁膜10がパッシベーション膜5で覆われている。パッシベーション膜5には、ソース電極6とドレイン電極7との間の位置に開口5aが形成されており、この開口5a内に、ゲート電極8のゲート本体部81が配置されている。ゲート本体部81は、ゲート絶縁膜10を介して、電子供給層4に対向している。よって、ソース−ドレイン間のチャネルを提供する二次元電子ガス20は、ゲート電極8に制御電圧を印加することによって制御することができる。これによって、ソース−ドレイン間をオン/オフできる。
【0041】
パッシベーション膜5と電子供給層4との間にゲート絶縁膜10が介在しているので、パッシベーション膜5をエッチングによって開口するときに、ゲート絶縁膜10によってエッチングが停止する。したがって、電子供給層4の表面にエッチングダメージが入らないうえに、電子供給層4の表面が大気にさらされない。したがって、ゲート絶縁膜10と電子供給層4との界面状態は良好であり、それによって、優れたデバイス特性を実現できる。
【0042】
また、この実施形態では、ゲート絶縁膜10は、第1絶縁層11および第2絶縁層12を積層した多層ゲート絶縁膜からなり、電子供給層4に接する第1絶縁層11は、電子供給層11を構成する窒化物半導体であるAlGaNと同種のアニオンを用いた絶縁材料、すなわち、Nを含む絶縁材料であるSiNからなる。これにより、電子供給層4からの窒素抜けを抑制でき、界面準位を少なくすることができるので、電流コラプスを抑制できる。その一方で、SiNは組成の安定性が悪く、単独では安定したゲート絶縁膜を形成し難い。そこで、この実施形態では、SiNからなる第1絶縁層11に、アルミナからなる第2絶縁層12を積層してゲート絶縁膜10を構成している。これにより、安定した特性のゲート絶縁膜10を有する窒化物半導体装置を提供できる。Al、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属を含む酸化金属(この実施形態ではアルミナ)からなる絶縁層は、ALD法のように膜厚の精密な制御が可能な成膜方法で成膜することができる。したがって、第2絶縁層12を備えることによって、ゲート絶縁膜10の膜厚を精密に制御できるので、安定したデバイス特性を実現できる。加えて、Al、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属は、酸素との親和性が高いので、第1絶縁層11との界面に対する酸素の影響を小さくできる。
【0043】
また、この実施形態では、第1絶縁層11は、パッシベーション膜5と同じ材料であるSiNからなっているものの、第2絶縁層12は、パッシベーション膜5とは異なる材料であるアルミナからなっている。これにより、第2絶縁層12を正確な膜厚に作り込むことができるうえに、パッシベーション膜5に開口5aを形成するときに、パッシベーション膜5のエッチングを第2絶縁層12で確実に停止させることができる。すなわち、第2絶縁層をエッチングストップ層として利用できる。これにより、電子供給層4の表面に対するエッチングダメージを確実に回避できる。
【0044】
前記ゲート絶縁膜10の全体の厚さは、1nm以上20nm以下とすることが好ましい。1nm以下のゲート絶縁膜10は膜厚の制御が困難であり、安定したデバイス特性を得難い。ゲート絶縁膜10の厚さが20nmを超えると、ゲート電極直下で二次元電子ガス20を消失させてソース−ドレイン間を遮断するための閾値電圧(負値)の絶対値が大きくなりすぎ、駆動回路の設計が困難になる。
【0045】
また、この実施形態の窒化物半導体装置では、ゲート電極8は、ゲート本体部81からパッシベーション膜5上に延びたフィールドプレート部82を有している。これにより、ゲート本体部81のドレイン電極側端部における電界集中を抑制できる。しかも、ゲート本体部81と電子供給層4の表面との間にはゲート絶縁膜10が介在されている一方で、フィールドプレート部82と電子供給層4の表面との間には、ゲート絶縁膜10だけでなくパッシベーション膜5も介在されている。したがって、ゲート本体部81は電子供給層4に充分に近づけることができ、フィールドプレート部82は電子供給層4から充分に引き離すことができる。つまり、ゲート本体部81と電子供給層4との間の距離と、フィードプレート部82と電子供給層4との間の距離とを、互いに独立に定めることができる。その結果、ソース−ドレイン間を遮断するための閾値電圧と、ゲート電極8とドレイン電極7との間の耐圧を、いずれも適切な値に設定でき、それらの特性を両立できる。
【0046】
そして、この実施形態では、フィールドプレート長Lfpがゲート本体部81とドレイン電極7との間の距離Lgdの1/6以上1/2以下とされている。これにより、ゲート本体部81のドレイン電極7側端部における電界集中を抑制でき、かつ、フィールドプレート部82の端部とドレイン電極7との間の電界に起因する短絡(パッシベーション膜5の破壊)を回避できる。
【0047】
前述のとおり、電子供給層4は、厚さは、たとえば5〜30nm(より具体的には20nm程度)である。電子供給層4は、13%以上30%以下のAl組成を有するAlGaN層からなっていることが好ましい。電子供給層4のAl組成が13%未満であると、二次元電子ガス20のキャリヤ濃度が低くなり、特性が悪くなるおそれがある。また、電子供給層4のAl組成が30%を超えると、閾値電圧(負値)絶対値が大きくなり過ぎるうえに、リーク電流が増大するおそれがある。一方、電子供給層4の厚さが5nm未満では、二次元電子ガス20のキャリヤ濃度が低くなり、特性が悪くなるおそれがある。また、電子供給層4の厚さが30nmを超えると、ソース電極6およびドレイン電極7を二次元電子ガス20にオーミック接触させるのが困難になるおそれがあるうえ、閾値電圧(負値)の絶対値が大きくなり過ぎるおそれがある。
【0048】
図4は、この発明の第2の実施形態に係る窒化物半導体装置の構成を説明するための図解的な断面図である。図4において、前述の図1の各部の対応箇所には同一参照符号を付して示す。
この実施形態では、電子供給層4は、AlGaNからなる第1層41上に形成されたキャップ層としての第2層42を含む。そして、第2層42に接するように、オーミック電極からなるソース電極6およびドレイン電極7、ならびにゲート絶縁膜10が形成されている。
【0049】
第2層42は、電子走行層3と同じ組成の窒化物半導体であるGaNからなっており、その厚さは、2nm以上16nm以下(より好ましくは8nm以下)とされている。
キャップ層としての第2層42は、電子供給層4の表面モホロジーの改善に寄与する。すなわち、GaNからなる電子走行層3の表面に格子定数の異なるAlGaNからなる第1層41が形成されており、しかもAlGaNは3元系の結晶であるため結晶性が必ずしもよくない。そのため、第1層41を電子供給層4の最表面とすると、表面モホロジーが必ずしもよくなく、それに応じてデバイス特性が安定しない。そこで、電子走行層3と同一組成のキャップ層である第2層42を第1層41上に積層することで、電子供給層4の表面モホロジーを改善でき、それによって、デバイス特性を向上できる。ただし、第2層42を厚くし過ぎると、表面モホロジーを改善する効果が少なくなるうえに、ソース電極6およびドレイン電極7のオーミック接触に悪影響を与えるので、その厚さは16nm以下(より好ましくは8nm以下)とすることが好ましい。
【0050】
以上、この発明の実施形態について説明してきたが、この発明は、さらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、電子走行層3がGaN層からなり、電子供給層4がAlGaNからなる例について説明したが、電子走行層3と電子供給層4とはAl組成が異なっていればよく、他の組み合わせも可能である。また、前述のとおり、電子供給層4は、電子走行層3との界面にAlN層を有していてもよい。電子供給層(界面のAlN層が設けられる場合にはそれ以外の部分)/電子走行層の組み合わせは、AlGaN層/GaN層、AlGaN層/AlGaN層(ただしAl組成が異なるもの)、AlInN層/AlGaN層、AlInN層/GaN層、AlN層/GaN層、AlN層/AlGaN層のうちのいずれかであってもよい。より一般化すれば、電子供給層(界面のAlN層以外の部分)は、組成中にAlおよびNを含む。電子走行層は、組成中にGaおよびNを含み、Al組成が電子供給層とは異なる。電子供給層と電子走行層とでAl組成が異なることにより、それらの間の格子不整合が生じ、それによって、分極に起因するキャリヤが二次元電子ガスの形成に寄与する。
【0051】
また、前述の実施形態では、基板1の材料例としてシリコンを例示したが、ほかにも、サファイア基板やGaN基板などの任意の基板材料を適用できる。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
この明細書および添付図面の記載から導き出される特徴の例を以下に示す。
項1.窒化物半導体からなる電子走行層と、
前記電子走行層に積層され、Alを含むとともに前記電子走行層とはAl組成が異なる窒化物半導体からなる電子供給層と、
前記電子供給層上に互いに間隔を開けて形成されたソース電極およびドレイン電極と、
前記ソース電極およびドレイン電極の間の前記電子供給層の表面を覆うゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜の表面を覆い、前記ソース電極および前記ドレイン電極の間において前記ソース電極および前記ドレイン電極から間隔を開けた位置に開口を有するパッシベーション膜と、
前記パッシベーション膜に形成された前記開口内に配置されて前記ゲート絶縁膜に接し、前記ゲート絶縁膜を挟んで前記電子供給層に対向するゲート本体部を有するゲート電極と
を含む、窒化物半導体装置。
項2.前記ゲート絶縁膜が、前記電子供給層に接しNを含む第1絶縁層と、Al、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属を含む酸化金属からなり前記第1絶縁層に積層された第2絶縁層とを含む多層ゲート絶縁膜である、項1に記載の窒化物半導体装置。
項3.前記第1絶縁層が、SiおよびNからなる絶縁体層である、項2に記載の窒化物半導体装置。
項4.前記第2絶縁層が、AlおよびOからなる絶縁体層である、項2または3に記載の窒化物半導体装置。
項5.前記ゲート絶縁膜の厚さが、1nm以上20nm以下である、項1〜4のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
項6.前記電子供給層が、前記電子走行層と同じ組成の窒化物半導体からなるキャップ層を含み、前記キャップ層に接するように、前記ソース電極および前記ドレイン電極ならびに前記ゲート絶縁膜が形成されている、項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
項7.前記キャップ層の厚さが16nm以下である、項6に記載の窒化物半導体装置。
項8.前記ゲート電極が、前記ゲート本体部に連続し前記開口外の前記パッシベーション膜の表面上において前記ドレイン電極に向かって所定のフィールドプレート長に渡って延びたフィールドプレート部をさらに有している、項1〜7のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
項9.前記フィールドプレート長が前記ゲート本体部と前記ドレイン電極との間の距離の1/6以上1/2以下である、項8に記載の窒化物半導体装置。
項10.前記電子供給層が、13%以上30%以下のAl組成を有し、5nm以上30nm以下の厚さを有するAlGaN層を含む、項1〜9のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
項11.窒化物半導体からなる電子走行層を形成する工程と、
Alを含むとともに前記電子走行層とはAl組成が異なる窒化物半導体からなる電子供給層を前記電子走行層に積層して形成する工程と、
前記電子供給層上にゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記電子供給層に接するソース電極およびドレイン電極を互いに間隔を開けて形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜上に、パッシベーション膜を形成する工程と、
前記ソース電極および前記ドレイン電極の間において前記ソース電極および前記ドレイン電極から間隔を開けた位置で、前記パッシベーション膜に開口を形成する工程と、
前記パッシベーション膜に形成された前記開口内に配置されて前記ゲート絶縁膜に接し、前記ゲート絶縁膜を挟んで前記電子供給層に対向するゲート本体部を有するゲート電極を形成する工程と
を含む、窒化物半導体装置の製造方法。
項12.前記パッシベーション膜に開口を形成する工程が、前記ゲート絶縁膜をエッチングストッパとして用いたエッチング工程を含む、項11に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
項13.前記ゲート絶縁膜を形成する工程が、前記電子供給層に接しNを含む第1絶縁層を形成する工程と、Al、Y、Hf、Ta、Nbまたはランタノイドからなる3価の金属を含む酸化金属からなり前記第1絶縁層に積層された第2絶縁層を形成する工程とを含む、項11または12に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
項14.前記第1絶縁層が、SiおよびNからなる絶縁体層である、項13に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
項15.前記第2絶縁層が、AlおよびOからなる絶縁体層である、項13または14に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
項16.前記電子供給層を形成する工程が、前記電子走行層と同じ組成の窒化物半導体からなるキャップ層を形成する工程を含み、前記キャップ層に接するように、前記ソース電極および前記ドレイン電極ならびに前記ゲート絶縁膜が形成される、項11〜15のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
項17.前記ゲート電極が、前記ゲート本体部に連続し前記開口外の前記パッシベーション膜の表面上において前記ドレイン電極に向かって所定のフィールドプレート長に渡って延びたフィールドプレート部とを有するように形成される、項11〜16のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【符号の説明】
【0052】
1 基板
2 バッファ層
3 電子走行層(GaN層)
4 電子供給層(AlGaN層)
41 第1層(AlGaN層)
42 第2層(GaN層)
5 パッシベーション膜
5a 開口
6 ソース電極
7 ドレイン電極
8 ゲート電極
81 ゲート本体部
82 フィールドプレート部
10 ゲート絶縁膜
11 第1絶縁層
12 第2絶縁層
15,16 レジスト膜
17 電極膜
20 二次元電子ガス
Lg ゲート長
Lfp フィールドプレート長
Lgd ゲート−ドレイン間距離
Sa ソース接合域
Da ドレイン接合域
Ga 有効ゲート域
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4