特許第6090772号(P6090772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6090772
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】高光触媒活性酸化チタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/047 20060101AFI20170227BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20170227BHJP
   B01J 21/06 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   C01G23/047
   B01J35/02 J
   B01J21/06 M
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-251534(P2012-251534)
(22)【出願日】2012年11月15日
(65)【公開番号】特開2014-97915(P2014-97915A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 永宏
(72)【発明者】
【氏名】寺島 千晶
(72)【発明者】
【氏名】上野 智永
(72)【発明者】
【氏名】高井 治
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/123124(WO,A1)
【文献】 特開2014−019782(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/087951(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0020213(US,A1)
【文献】 特開2008−050679(JP,A)
【文献】 特開2012−167335(JP,A)
【文献】 特表2013−529352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G1/00−23/08
B01J21/00−38/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式TiOで表される化学組成を有する粉末粒子を含む二酸化チタン粉末を含有する水溶液を用意すること、
前記水溶液中でグロー放電プラズマを発生させることで前記粉末粒子の表面に酸素欠陥を導入し、前記二酸化チタン粉末の光触媒活性を前記酸素欠陥の導入前の前記二酸化チタン粉末の光触媒活性よりも高めること
を含む、高光触媒活性酸化チタンの製造方法。
【請求項2】
前記水溶液の電気伝導度を100μS/cm〜3000μS/cmに調整する、請求項1に記載の高光触媒活性酸化チタンの製造方法。
【請求項3】
前記水溶液に塩化カリウムを含有させることで前記電気伝導度の調整を行う、請求項1に記載の高光触媒活性酸化チタンの製造方法。
【請求項4】
前記水溶液を5℃以上30℃以下の温度に保持した状態で前記プラズマを15分以上発生させる、請求項1または2に記載の高光触媒活性酸化チタンの製造方法。
【請求項5】
前記水溶液を循環させながら前記プラズマを発生させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の高光触媒活性酸化チタンの製造方法。
【請求項6】
前記プラズマは、前記水溶液中で線状電極間にパルス幅が0.1μs〜5μsで、周波数が10Hz〜10Hzの直流パルス電圧を印加することで発生させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の高光触媒活性酸化チタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高光触媒活性酸化チタンの製造方法に関する。より詳細には、可視光活性を有する高光触媒活性酸化チタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタン(TiO)は、光触媒活性を示すことに加え、化学的安定性が高く、安価かつ資源的に豊富であることから、光触媒材料として広く一般に利用されている。通常の二酸化チタンは、紫外光を照射することで光触媒として機能するため、紫外光の割合が少ない太陽光や蛍光灯等の光が照射される場合には、効率よく光触媒能を発現する事ができなかった。
【0003】
このような二酸化チタンについて、還元処理を施すことにより結晶格子に水素原子をドープしたり、酸素欠陥を導入することで、可視光に対しても光触媒活性を発現し得ることが知られている。かかる還元処理がされた二酸化チタンは、結晶構造が変化された可視光応答型の還元型チタン酸化物(例えば、TiやTi)や、TiOの結晶構造を維持した可視光応答型の二酸化チタンが知られている。そして、これら可視光応答型のチタン酸化物の製造方法としては、例えば、高温水素還元法、水素化カルシウム法、高圧水素化法およびプラズマ処理法等の手法が代表的なものとして挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3252136号
【特許文献2】国際公開第2009/087951号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tominaka et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2011, Vol. 50, Issue 32, pp.7418-7421
【非特許文献2】Chen et al., Science, 2011, Vol. 331, no. 6018, pp. 746-750
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高温水素還元法とは、800℃〜1100℃の水素ガス雰囲気中で二酸化チタンを加熱することで、直接的に還元型チタン酸化物を得るものである。かかる高温水素還元法によると、高温での熱処理中に還元型チタン酸化物の粒子が粗大化してしまい、ナノ粒子状の還元型チタン酸化物を得ることはできていない(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
また、水素化カルシウム法は、粒径が10nm〜30nm程度のルチル型の二酸化チタンのナノ粒子を、強い還元力を示す水素化カルシウム粉末とともに350℃程度の温度に加熱して反応させることで、還元型チタン酸化物(例えば、Ti)を得るものである。この手法は、上記の高温水素還元法と比較して低温での処理が可能で、ナノ粒子の成長を伴わないものの、15日間という極めて長時間の処理が必要とされる(例えば、非特許文献1参照)。なお、アナターゼ型の二酸化チタンを水素化カルシウムで還元することでもTiを得ることができるが、この場合はナノ粒子が粒成長を起こしてしまう。
【0008】
高圧水素化法は、アナターゼ型の二酸化チタンナノ粒子を200℃で2MPa程度の水素雰囲気中で5日間保持することで、水素化処理を施すものである(例えば、非特許文献2参照)。かかる手法では、上記の水素化カルシウム法よりもさらに低温での処理が可能であるものの、2MPaの高圧条件が必要であり、また5日間という比較的長期の処理時間も必要であった。
【0009】
プラズマ処理法は、二酸化チタンを、例えば1トール以下の大気の侵入が実質的にない状態で水素プラズマ処理または希ガス類元素プラズマ処理するものである(例えば、特許文献1参照)。かかる手法によると、数時間以下の比較的短時間での処理が可能であるものの、実質的に真空状態での処理が必要となるため、処理装置や準備が大掛かりでコストが嵩むものであった。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みて創出されたものであり、可視光応答型で、光触媒活性の高められた二酸化チタンを、例えば常温常圧で、しかも比較的短時間で簡便に得ることができる、高光触媒活性酸化チタンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によると、高光触媒活性酸化チタンの製造方法が提供される。かかる製造方法は、一般式TiOで表される化学組成を有する二酸化チタン粉末を含有する水溶液を用意すること、上記水溶液中でプラズマを発生させること、を含むことを特徴としている。
【0012】
かかる製造方法では、二酸化チタンによる光触媒機能の高機能化(すなわち、可視光応答化、および、光触媒機能の高活性化)に、液中で発生させたプラズマを利用するようにしている。以下、液中で発生させたプラズマを単に「液中プラズマ」という場合がある。この液中プラズマは、典型的には、液体中に浸漬した電極対にマイクロ波や高周波を印加することで液体中に発生される気相内に形成することができ、通常の気相中(典型的には、減圧ないしは大気圧中)で発生される気相プラズマとは異なる物理的および化学的性質を示す。
以上の構成によると、二酸化チタン粉末を含む水溶液中で液中プラズマが発生されるため、液中プラズマにより発生されるラジカルや電子および正または負の電位を有するイオン等により二酸化チタン粉末の極表面の結晶構造に乱れを生じさせ、結晶構造に酸素欠陥を導入することができる。これによって、二酸化チタンの紫外光に対する光触媒性能を高めることができ、さらに、可視光に対する光触媒活性を付与することができる。かかる液中プラズマによる二酸化チタンの高機能化は、常温、常圧の環境において比較的短時間(例えば、24時間以内)で行うことができる。したがって、簡便な高光触媒活性酸化チタンの製造方法が提供されることとなる。
【0013】
ここに開示される高光触媒活性酸化チタンの製造方法の好ましい一態様においては、上記水溶液の電気伝導度を100μS/cm〜3000μS/cmに調整することを特徴としている。
かかる構成によると、二酸化チタン粉末を含む水溶液中で液中プラズマを発生させるのに必要な電力量を抑えることができ、より安定した状態の液中プラズマを発生させることができる。したがって、より効率よく安定した条件で酸化チタンの高機能化を図ることができる。
【0014】
ここに開示される高光触媒活性酸化チタンの製造方法の好ましい一態様においては、上記水溶液に塩化カリウムを含有させることで上記電気伝導度の調整を行うことを特徴としている。
電気伝導度を調節する際には、各種の電解質を用いることができる。しかしながら、ここに開示される方法における二酸化チタンの高機能化は、代表的には、液中プラズマによる還元作用により達成されると考えられる。そのため、各種の電解質の中でも塩化カリウムを用いることで、プラズマ発生時に強い酸化力を有するヒドロキシラジカルの生成を抑制することができ、二酸化チタン粉末の光触媒活性の高機能化をより高めることができる。
【0015】
ここに開示される高光触媒活性酸化チタンの製造方法の好ましい一態様においては、上記水溶液を5℃以上30℃以下の温度に保持した状態で上記プラズマを15分以上発生させることを特徴としている。
かかる構成によると、プラズマ発生に伴う水溶液の温度上昇、延いては水溶液の蒸発および沸騰を抑えることができ、安定した状態の液中プラズマを発生させることができる。したがって、より効率よく安定した条件で二酸化チタンの高機能化を図ることができる。
【0016】
ここに開示される高光触媒活性酸化チタンの製造方法の好ましい一態様においては、上記水溶液を循環させながら上記プラズマを発生させることを特徴としている。
かかる構成によると、水溶液中に二酸化チタン粉末を高分散させることができ、またかかる高分散状態を比較的安定して維持することができ、プラズマと二酸化チタン粉末との接触効率を高めることができる。加えて、水溶液の温度を所定の温度に容易に維持することができ、安定した状態の液中プラズマを所望の時間(例えば、15分以上、例えば2時間程度またはそれ以上)発生させることができる。
【0017】
ここに開示される高光触媒活性酸化チタンの製造方法の好ましい一態様においては、上記プラズマは、上記水溶液中で線状電極間にパルス幅が0.1μs〜5μsで、周波数が10Hz〜10Hzの直流パルス電圧を印加することで発生させることを特徴としている。
かかる構成によると、ジュール熱により水溶液中に発生する気泡を水面に向かって浮上させることなく、水溶液中に安定した状態で維持することができ、かかる気泡中に安定した状態でプラズマを発生させることもが可能となる。これにより、より効率よく安定した状態で二酸化チタンの高機能化を図ることが可能となる。
【0018】
ここに開示される高光触媒活性酸化チタンの製造方法の好ましい一態様においては、上記プラズマは、グロー放電プラズマであることを特徴としている。
液中のグロー放電プラズマは、液中に配置した電極間に高周波数の電圧を印加することで発生させることができる。かかる構成によると、電極間に発生するジュール熱により液相中に発生される気相の内部に、グロー放電プラズマを定常的に発生させることができる。すなわち、液相/気相/プラズマ相の界面が安定に形成され、プラズマ相で発生された活性種が気相を介して気液界面に供給されるため、液相に含まれる二酸化チタン粉末の高機能化を高効率で行うことが可能となる。また、非平衡な低温プラズマを発生させるため、より少ないエネルギーで安定的に二酸化チタンの高機能化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】高光触媒活性酸化チタンの製造に用いる液中プラズマ発生装置の構成の一例を示す模式図である。
図2】高光触媒活性酸化チタンの製造に利用する液中プラズマによる反応場の構成を例示した模式図である。
図3】一実施形態において製造した高光触媒活性酸化チタンおよび出発材料である二酸化チタン粉末のX線回折分析パターンを例示した図である。
図4】他の実施形態において製造した高光触媒活性酸化チタンのX線回折分析パターンを例示した図である。
図5】一実施形態で得られた高光触媒活性酸化チタンによるメチレンブルーの分解の様子を示す紫外−可視(UV−Vis)吸光スペクトルの経時変化を示す図である。
図6】複数の高光触媒活性酸化チタンについてメチレンブルー分解試験を行った際の濃度変化を例示した図である。
図7】複数の高光触媒活性酸化チタンについて測定したUV−Vis拡散反射スペクトルを例示した図である。
図8】一実施形態で得られた高光触媒活性酸化チタンおよび出発材料である二酸化チタン粉末について測定した電子スピン共鳴スペクトルを例示した図である。
図9】一実施形態で得られた高光触媒活性酸化チタンの高分解能透過型電子顕微鏡像を例示した図である。
図10】一実施形態で得られた高光触媒活性酸化チタンのX線光電子分光スペクトルを例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の高光触媒活性酸化チタンの製造方法について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、水溶液中で発生させるプラズマの特徴等)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、出発材料として用いる二酸化チタン粉末やプラズマ発生装置などの製造方法等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書および図面に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
ここに開示される高光触媒活性酸化チタンの製造方法は、以下の(1)および(2)の工程を必須の要件として含むことを特徴としている。
(1)一般式TiOで表される化学組成を有する二酸化チタン粉末を含有する水溶液を用意する。
(2)この水溶液中でプラズマを発生させる。
ここで、「水溶液」とは導電性を付与する電解質を含む水系材料、水系溶媒をいう。
【0021】
本発明において高光触媒活性酸化チタンの出発材料として用いることができる二酸化チタン粉末は、主として一般式TiOで表される化学組成を有する二酸化チタン粉末であれば、その結晶構造や形状等に特に制限はない。このような二酸化チタン粉末は、例えば、結晶構造が、アナターゼ型(正方晶)、ルチル型(正方晶)およびブルッカイト型(斜方晶)、さらには無定形の何れの二酸化チタンであっても良い。より光触媒活性の高い高光触媒活性酸化チタンを得るには、アナターゼ型の二酸化チタンであるのが好ましい。また、二酸化チタンは、TiOで表される化学組成を有するものが主として含まれるものであれば、その一部がTiOからずれた組成であったり、異種の元素が含まれるものであっても良い。
ここで、TiOで表される化学組成を有するものが「主として」含まれるとは、出発材料として用いる二酸化チタンのうち50質量%以上、好ましくは70質量%以上(例えば、90質量%以上)のものの化学組成がTiOで表されるものでことを意味し、かかるTiO含有量は、例えば、得られる高光触媒活性酸化チタンにおける所望のTiO含有量を考慮して決定することができる。
【0022】
かかる出発材料としての二酸化チタン粉末は、形状についても特に制限はなく、所望の形態の粉末状のものを用いることができる。また、その粒径については特に制限はないものの、例えば、活性表面積を拡大できる点で、平均粒径が10μm以下のもの、好ましくは平均粒径が500nm以下のもの、さらに限定的には100nm以下、例えば50nm以下(典型的には、数nm〜20nm程度)のものを好ましく用いることができる。なお、粉末状の二酸化チタンについては、例えば、球状の粉末粒子から構成されていても良いし、棒状、針状、薄片状等の粒子で構成されていても良い。なお、二酸化チタン粉末は必ずしも各々の粉末粒子が一次粒子の形態で存在するのものに限定されることなく、例えば、一次粒子が凝集した二次粒子の形態や、さらに複数の粒子が膜状(シート状、被覆膜状等であり得る。)に凝集あるいは結合等した形態等であっても良い。例えば、二酸化チタン粉末は、任意の異種材料からなる担体に担持された状態や、任意の異種材料からなる基材を被覆した状態など、二酸化チタン粉末と異種材料とが一体化された状態であってよい。かかる任意の異種材料としては、各種の有機材料、金属材料、無機材料、ガラス材料等を考慮することができ、その形状や大きさは特に制限されない。例えば、球状、ロッド状、繊維状、ワイヤ状、チューブ状、シート状、板状等の任意の形状であってよい。
【0023】
本発明では、かかる二酸化チタン粉末を水溶液中に含ませた状態で、液中プラズマによる処理を施す。水溶液としては、導電性を付与する電解質を含む水系材料、水系溶媒であれば特に制限はない。したがって、溶媒自体は、イオン交換水、純水等を用いて調製しても良い。また、有機系の溶媒が混合されていても良く、この場合、得られる高光触媒活性酸化チタンに、かかる有機溶媒と二酸化チタン粉末とが反応した反応物が含まれ得る。二酸化チタン粉末が異種材料と一体化されている場合は、かかる異種材料と共に水溶液中に含まれ得る。異種材料と一体化された二酸化チタン粉末についても、典型的には、粒子状のものが水溶液中で分散状態にあることが、液中プラズマによる処理を効率的に施すことができるためにより好ましい。かかる分散状態は、以上のような二酸化チタン粉末を含む水溶液を、例えば、撹拌したり、還流等したりすることで好適に実現することができる。水溶液中に含まれる二酸化チタン粉末の量は、当該二酸化チタン粉末の粒径(すなわち、比表面積)や形態等にもよるために一概には言えないが、一例として、平均粒径が10nm以下程度の二酸化チタン粉末の高機能化を図る場合には、当該二酸化チタン粉末を水溶液中に0.1g/L〜10g/L程度の割合で含むよう水溶液を調製することで、高光触媒活性酸化チタンを効率的に得ることが例示される。なお、かかる二酸化チタン粉末の水溶液中の含有量や処理時間等は、例えば、上記の例を目安として適宜調整することができる。
【0024】
そして本発明では、以上のように二酸化チタン粉末を含む水溶液を用意し、かかる水溶液中でプラズマを発生させる。ここで、高光触媒活性酸化チタンの製造方法では、二酸化チタン粉末の処理の場として、該水溶液中で発生させる液中プラズマを利用するようにしている。すなわち、プラズマを構成する正負のイオン、電子およびラジカル等の活性種の作用によって、水溶液中に含まれる二酸化チタン粉末表面の結晶構造への酸素欠陥の導入が実現される。ここで、活性種としては、典型的には、水溶液中の水分子が分解されて生成する、水素イオン、水酸化物イオン、酸素イオン、水素ラジカル、酸素ラジカルおよびヒドロキシラジカル等が考慮される。
【0025】
ここで、上記の高機能化処理の場となる液中プラズマは、液体中の電極間にマイクロ波や高周波を印加して発生された気体(気相)の中に、当該気体を構成する分子を部分的ないしは完全に電離させることで、形成することができる。つまり、液中プラズマにおいては、プラズマ相を取り囲む気相はさらに液相に取り囲まれており、プラズマを構成する上記のイオン、電子およびラジカル等の活性種は制限された気相中において自由に運動し得る状態である。そのため、解放された気相中に発生される気相プラズマ(典型的には、大気圧プラズマ、低圧プラズマ等)とは異なる物理的および化学的性質を示す。
【0026】
例えば、気相プラズマは、気体の温度を上げて行った際にこの気体を構成する中性分子が電離してプラズマ化することで発生する。このとき、固体・液体・気体間の相転移とは異なり気体からプラズマへの転移は徐々に起こるため、構成分子のごく一部が電離した電離度が非常に低い状態でも充分にプラズマであり得る。これに対し液中プラズマは、典型的には、まず液中での放電により当該液体がジュール加熱により気化されて気相を形成し、さらにこの気相においてプラズマが発生することで形成される。すなわち、液中プラズマは、プラズマという高エネルギー状態が液中(すなわち凝縮相)に閉じ込められており、閉鎖系の物理が実現するとともに、解放されない高密度なプラズマ反応場が形成されているといえる。
【0027】
また、出発材料としての二酸化チタン粉末は、液中プラズマ処理においては液相を介して供給される。すなわち、本発明では、二酸化チタン粉末は反応場に比較的高密度で効率的に供給される。したがって、本発明の製造方法においては、二酸化チタン粉末の高機能化処理を高効率で行うことができ、高光触媒活性酸化チタンを生産性良く形成することができる。
【0028】
なお、以上のような液中プラズマは、電極間にかかる電位差の違い等によって、雷のような火花放電、コロナ放電、グロー放電、アーク放電等に分類される。火花放電が継続的に流れるとグロー放電あるいはアーク放電となる。ここで、液中で発生されるグロー放電プラズマ(以下、ソリューションプラズマとも言う。)は、その他の液中プラズマに対して、さらに異なる特徴を有している。例えば、アーク放電プラズマは粒子密度が高く、イオンや中性粒子の温度が電子温度とほぼ等しい局所熱平衡状態にある熱プラズマである。これに対し、グロー放電プラズマは、電子温度は高いがイオンや中性粒子の温度が低い非平衡状態にある低温プラズマである。また、コロナ放電では連続的なプラズマの発生は難しいことに加え、水の分解により水素ラジカルと共に酸化性のヒドロキシラジカルが比較的多く形成されるという特徴がある。これに対し、グロー放電プラズマではプラズマの持つエネルギーが高く、酸化性のヒドロキシラジカルがさらに分解されて還元性の水素ラジカルが多く生成される。すなわち、グロー放電プラズマによると、二酸化チタン粉末の高機能化処理がより効率的に行われることとなる。このことから、本発明では、液中プラズマとしてグロー放電プラズマを発生させることを好ましい形態としている。
【0029】
かかるグロー放電プラズマは、サブマイクロ秒のパルス幅の電圧を、高い繰り返し周波数で印加することにより、比較的安定して発生可能である。そのため、プラズマ相を囲む液体の膨張・圧縮運動とプラズマ相とは連動しつつ安定な状態が長時間(例えば、2時間以上)維持され得る。そのため、例えば、ソリューションプラズマにおいては、電極間に発生される気相はその一部が浮力により電極間から浮上して液表面に到達することがあり得るものの、その大部分は電極間に一定の大きさの気相として定常的に維持される。したがって、ソリューションプラズマにおいてはプラズマの発生状態を定常的にコントロールすることができる。本発明の高光触媒活性酸化チタンの製造方法では、このような制御されたプラズマを利用することを好ましい形態としており、より効率的に高光触媒活性酸化チタンを製造することができる。発生したプラズマがグロー放電プラズマであるかどうかは、例えば、プラズマ発光分光分析等により求められるタウンゼント第2係数が0.0005〜0.005の範囲にあることで確認することができる。
【0030】
なお、ここで、プラズマを安定的に発生させるためには、水溶液を5℃以上30℃以下の温度に保持するのが好ましい。例えば、出発材料として二酸化チタンのナノ粒子を用いた場合には、水溶液の温度が30℃を超過するとナノ粒子が粗大化する可能性があるために好ましくない。また、水溶液の温度が30℃を超えるようなプラズマの発生は、電極の消耗や、プラズマの不安定状態を招き易い傾向にある。例えば、水溶液の温度を25℃以下(例えば、20℃以下、好ましくは15℃以下)に保つことで、プラズマ反応場が安定した状態となり得、二酸化チタンナノ粒子の高機能化を好適に行うことがきる。ここで、水溶液を例えば15℃以下に保つ手段としては特に制限はなく、各種の冷却機構を利用することができる。かかる冷却機構としては、スターラー、フィン等の撹拌手段、恒温水槽等の恒温器、冷却ガス、冷却水等を環流させる循環(還流)冷却手段等が例示される。これらの冷却機構は、2種以上を組み合わせて用いるようにしても良い。なお、水溶液の温度保持と、液中プラズマによる連続的な処理とを両立させるために、当該水溶液は循環(還流)させておくのも好ましい態様の一つである。
【0031】
また、安定した液中プラズマをより少ないエネルギーで安定的に発生させるためには、水溶液の電気伝導度を100μS/cm〜3000μS/cmの範囲に調整しておくのが好ましい。電気伝導度の調整が必要な場合は、例えば、塩化カリウム(KCl)や水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等の電解質を水溶液に溶解させる等して行うとよい。本発明では、プラズマ相中でのヒドロキシラジカルの発生を抑えるために、塩化カリウムを用いるのが好適な例として示される。電気伝導度が100μS/cm未満であると、液中プラズマの発生に多くの電力を要し、好適にプラズマを発生し難くなるために好ましくない。また、電気伝導度が3000μS/cmを超過する場合は、プラズマ発生のために電極間に投入した電力がイオン電流として消費されるおそれがあり、定常的にプラズマを発生させるのが困難となるために好ましくない。電気伝導度は、100μS/cm〜2000μS/cm程度とするのが好ましく、更には、100μS/cm〜1500μS/cm程度とするのが好ましい。
【0032】
以上の液中プラズマは、詳細なプラズマ発生条件や、二酸化チタン粉末の分散状態等にもよるため一概には言えないものの、例えば、所望の光触媒能に応じて、10分以上、典型的には1時間以上を目安に発生させるのが良い。例えば、二酸化チタン粉末の処理量に応じてかかる液中プラズマによる処理を、具体的には、1時間程度以上、3時間程度以上、5時間以上、さらに限定的には10時間以上、15時間以上等と調整することが例示される。一方で、本発明に方法によると、例えば、24時間以内に処理を完了するように二酸化チタン粉末の分散状態を調整することができる。液中プラズマによる実質的な処理時間が長いほど、二酸化チタン粉末の表面に導入される酸素欠陥の量が増大する。かかる酸素欠陥の導入は、液中プラズマの還元作用によるものであると考えられる。これにより、例えば、紫外光よりも長波長側(すなわち可視領域)の光の吸収特性(すなわち、可視光応答性)が発現する。そしてさらに、かかる酸素欠陥によって光励起電子が捕捉され、電子−正孔(ホール)の表面再結合の確率が低減されて、光触媒活性が高められる。
【0033】
かかる液中プラズマによる処理を終えた二酸化チタン粉末は、かかる水溶液(流体)のまま使用に供しても良いし、例えば適切な手段により水溶液から二酸化チタン粉末(高光触媒活性酸化チタン)を回収して用いるようにしても良い。かかる高光触媒活性酸化チタンの回収は、当該高光触媒活性酸化チタンの形態等に応じて適宜公知の手法を利用して行えばよい。例えば、乾燥、ろ過、遠心分離等の手段により水溶液を除去することが例示される。
【0034】
以上のようにして得られる高光触媒活性酸化チタンは、上記のとおり、表面の結晶構造に酸素欠陥が導入されていることから、外観が淡青色を呈する。これは、二酸化チタンに含まれるTi(IV)が部分的に青色のTi(III)に還元されることに基づくものと考えられる。還元型チタン酸化物としては、例えば、各種のTiOとはまたさらに結晶構造が異なるTiやTi、TiO等が知られているが、本発明により得られる高光触媒活性酸化チタンは、概ね、出発材料として用いたTiOの結晶構造を維持するものであり得る。ただし、かかる高光触媒活性酸化チタンは、例えば、Ti、Ti、TiO等の結晶相の混入を否定するものではない。
【0035】
以下、本発明の好適な実施形態としての、ソリューションプラズマを反応場とした高光触媒活性酸化チタンの製造を例にして、本発明の高光触媒活性酸化チタンの製造方法についてより詳細に説明する。
図1は、水溶液2中でソリューションプラズマ4を発生させるためのソリューションプラズマ発生装置10の概略を示す図である。この実施形態において、出発原料としての二酸化チタン粉末を含む水溶液2は、ビーカー等の容器11に入れられるとともに、かかる容器11から液送ポンプ13等により循環路14内を所定の流速で循環されている。また、この図の例において、水溶液2を貯留する容器11は恒温槽12中に配置されており、水溶液2の温度が所定の温度を超えて高くなる場合に水溶液2はかかる恒温槽12により冷却され、水溶液2の温度が所定の温度よりも低くなる場合には水溶液2はかかる恒温槽12により加熱され、所定の温度範囲に維持され得る。また、循環路14の途中には、プラズマ発生部16が設けられている。かかるプラズマ発生部16には、また、プラズマ4を発生させるための一対の電極17は所定の間隔を以て水溶液2中に配設されており、例えば水密を保持するゴム栓19等を介して容器11に保持されている。電極17は、外部電源15に接続されており、この外部電源15から所定の条件のパルス電圧が一対の電極17間に印加される。これによって、電極17の間に、定常的にソリューションプラズマ4を発生させることができる。
【0036】
電極17としては、例えば、平板状電極や線状電極およびその組み合わせ等の様々な形態であってよく、その材質についても特に制限はない。例えば、鉄(Fe)、金(Au)、タングステン(W)、白金(Pt)等の電極であり得る。この実施形態においては、タングステン製で、電界を局所的に集中させることが可能な線状(針状)電極17を用いている。かかる電極17は、電界集中を妨げる余分な電流を抑えるために、好適には先端部(例えば、0.1〜2mm程度)のみが露出されており、残りの部分は絶縁材18等により絶縁されている。絶縁材18は、例えばゴム製あるいは樹脂(例えば、フッ素樹脂)製の皮膜であることが例示される。かかる装置10において、ソリューションプラズマ4を発生させるためのパルス電圧の印加条件は、水溶液2中に含まれる出発材料(二酸化チタン粉末)の形状やその量等の条件、さらには装置10の構成条件等にもよるものの、例えば、電圧(二次電圧)を約1000〜2000V程度とし、パルス幅が約0.1〜5μs程度のパルス電流を、繰り返し周波数約10Hz〜10Hz程度となる範囲印加することが例示される。
【0037】
そして、ソリューションプラズマ発生装置10によって水溶液2中に上記のパルス電圧を印加することで、ソリューションプラズマ4が形成される。ソリューションプラズマ発生装置10により発生されるプラズマ反応場は、例えば、図2に示したような構成となる。すなわち、水溶液(液相)2中に気相3が形成され、この気相3中にソリューションプラズマ(プラズマ相)4が形成されている。このプラズマ反応場は、電極17間に定常的に維持されている。かかるプラズマ反応場では、プラズマ相4から液相2に向かって、高いエネルギーを有した電子、イオン、ラジカル等の活性種が供給される。一方、液相2から気相3およびプラズマ相4に向けては、液相2を構成する水あるいはこれに分散された二酸化チタン粒子が供給され得る。そしてこれらは、主として液相2と気相3の界面において接触(衝突)する。とりわけ、水から発生される水素ラジカル,水素イオン,ヒドロキシラジカル等は反応性が高く、特に水素ラジカルが液相2中に含まれる二酸化チタン粉末と接触することで、かかる二酸化チタンに対して酸素欠陥を導入すると考えられる。なお、図2では理解を容易にするために、液相2と気相3、気相3とプラズマ相4の間の各界面が略球状に明確に形成されたような様子を示しているが、かかる界面は必ずしも明確に形成されることに限定されない。例えば、気相3とプラズマ相4の間の界面に臨界的なものがなく、かかる界面は空間的な広がりを持っていても良い。二酸化チタン粉末が異種材料と一体化されて水溶液中に含まれる場合は、かかる水溶液中に広く存在し得るプラズマ相4により、二酸化チタン粉末に対する高機能化処理が行われる。
【0038】
以上の構成によると、例えば、ソリューションプラズマの作用によって、二酸化チタン粉末に対して酸素欠陥が導入され、溶液中に上記の通りの高い光触媒活性を示す酸化チタンが形成される。なお、かかるソリューションプラズマは、例えば、常温(典型的には、25℃)、常圧(典型的には、1atm)において安定して発生させることができる。したがって、かかる高光触媒活性酸化チタンの製造方法は、特に特殊な装置や機構等を要することなく、低コストで簡便に実施することができる。
【0039】
なお、特許文献2には、水中でチタン電極間にパルスプラズマを発生させるアナターゼ型酸化チタンの製法が開示されている。かかる手法は、特許文献2の図6に示されるように、酸素欠陥を潜在的に含む酸化チタンをアモルファスの形態で生成するものと考えられる。また、かかる酸化チタンの生成効率を考慮すると水溶液の温度を60℃以上200℃以下の温度範囲に制御することが必要と記載されている。したがって、水溶液の沸騰、電極の消耗(あるいは、これによる電極間距離の調整)等により長時間安定したプラズマを形成することは困難となる。また、結晶性の高い酸化チタンを得るには高温での焼成処理が必須となり、工業的には煩雑な手法となってしまう。そして、得られる酸化チタンに導入される酸素欠陥の量を調整することはできておらず、例えば、触媒性能がより高いナノ粒子からなる可視光応答型の二酸化チタンを高効率に製造することは困難であると考えられる。
【0040】
以上、好適な実施形態に基づき高光触媒活性酸化チタンの製造方法について説明したが、かかる製造方法はこの例に限定されず、適宜に態様を変化して行うことができる。例えば、ソリューションプラズマの発生に際しては、必ずしもタングステンからなる針状電極を用いる必要はなく、例えば、低インダクタンスの誘導コイルによりソリューションプラズマを発生するようにしても良い。さらに、液中プラズマは、ソリューションプラズマ(グロー放電プラズマ)によるものに限定されず、例えば、液中でのアーク放電プラズマ等を利用して実施しても良い。そして、ソリューションプラズマ4は、一つの装置10において一箇所で発生させるものに限定されず、二酸化チタン粉末を含有する水溶液中の複数の箇所で発生させても良い。例えば、プラズマ発生部16が複数備えられた装置10や、一つのプラズマ発生部16に複数対の電極17が備えられた装置10を用いるなどして、プラズマ反応場を拡大させるようにしてもよい。以上の例示において、ソリューションプラズマの発生条件は、水溶液や装置等の条件に応じて適宜調節できることは言うまでもない。
【0041】
以上の通り、本発明の高光触媒活性酸化チタンの製造方法は、これまでにないプラズマ反応場を利用した新規な高光触媒活性酸化チタンの製造手法であって、更なる二酸化チタンの高機能化の可能性を含むものであり得る。
次に、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0042】
(実施形態1)
0.3gのアナターゼ型のチタニア粉末(TiO、石原産業株式会社製、平均一次粒径:7nm)を150mlの溶媒A〜Eにそれぞれ分散させて、チタニア分散液A〜Eを用意した。ここで、溶媒A〜Eとしては、以下のものを用いた。なお、溶媒の調製に用いた試薬を併せて標記した。
A:電気伝導度を150μS/cmに調整した塩化カリウム水溶液(和光純薬工業(株)製、塩化カリウム)
B:35質量%ヒドラジン水溶液(和光純薬工業(株)製、ヒドラジン一水和物)
C:エタノール(和光純薬工業(株)製)
D:アセトニトリル(関東化学(株)製)
E:ドデカン(関東化学(株)製)
【0043】
本実施形態では、上記のチタニア分散液A〜Fを、それぞれ図1に示した装置の循環路内を循環させ、この循環経路内を流れる液中でソリューションプラズマを発生させるようにした。
図1は、循環させた溶液中でプラズマを発生させるためのソリューションプラズマ発生装置10の概略を示す図である。上記で調製したA〜Fの溶液2は、それぞれガラス製のビーカーからなる容器11に入れられており、液送ポンプ13にてシリコンチューブからなる循環路14を所定の流速で循環されている。循環路14の途中には、ガラス管で構成されたプラズマ発生部16が設けられており、かかるプラズマ発生部16には、プラズマを発生させるための一対の電極17が循環路14内の溶液2中で所定の間隔を以て配設されている。この電極17は外部電源15に接続されており、この外部電源15から所定の条件のパルス電圧が印加されることで、電極17間にソリューションプラズマ4が発生される。かかるソリューションプラズマ4は、プラズマ発光分光分析等により求められるタウンゼント第2係数が0.0005〜0.005の範囲にあることが確認される。
【0044】
本実施形態においては、電極17として、電界を局所的に集中させることが可能な針状電極が用いられる。また、電極17は、直径が1.0mmのタングステンワイヤー(ニラコ社製)で構成され、対向する電極17間の距離が0.5mmに設定されたほか、電界集中を妨げる余分な電流を抑えるために先端部(例えば、数mm程度)のみを露出させて、後の部分は絶縁部材18で被覆されている。また、電極17は、水密を保つためのシリコン製の栓19により、プラズマ発生部16を構成するガラス管に固定されている。この実施形態では、外部電源15として、バイポーラパルス電源(株式会社栗田製作所製、MPS−R06K02C−WP1F)が用いられている。なお、容器11はプラズマ4の発生に伴う発熱により溶液2の温度が上昇しないよう、15℃を保つよう設定された恒温水槽12に収容されている。
本実施形態においてソリューションプラズマを発生させるためのパルス電圧の印加条件は、一次電圧:130V、パルス幅:1μs、繰り返し周波数:15kHzとし、この条件で各溶液2中にソリューションプラズマを2時間発生させた。
【0045】
チタニア分散液A〜Fはいずれも懸濁したチタニアにより白色を呈していたが、ソリューションプラズマの発生直後から徐々に変色するのが確認された。すなわち、チタニア分散液Aは淡青色に変化し、チタニア分散液Bは淡灰色に変化し、チタニア分散液C〜Eはいずれも黒色に変化した。
【0046】
そこで、ソリューションプラズマ処理を施したチタニア分散液A〜Fからチタニア粉末A〜Fを回収し、粉末X線回折(XRD)分析を行った。その結果を、図3および図4に示した。また、参考のために、未処理のチタニア粉末(以下、チタニア粉末Rとする。)についての結果も図3に示した。なお、図中のデータ系列に付したアルファベットは、当該データ系列が帰属するチタニア粉末の種類を省略して示した(例えば、チタニア分散液Aに関するデータ系列については、“A”と省略して示す。以下同じ。)ものである。
図3に示したXRDパターンから明らかなように、ソリューションプラズマ処理の溶媒として塩化カリウム溶液を用いたチタニア分散液Aから得られたチタニア粉末Aは、アナターゼ型のチタニアに帰属するピークのみが明瞭に検出され、チタニアの結晶構造に変化は見られなかった。
【0047】
これに対し、溶媒として強い還元性を示すヒドラジン水溶液を用いて得られたチタニア粉末Bは、図3に示したXRDパターンから明らかなように、アナターゼ型のチタニアに帰属されるピークがややブロードになり、さらにTiN0.80.42に帰属するピークが確認された。すなわち、ソリューションプラズマ処理により、チタニアがヒドラジンと反応して新たな化合物を形成していることが確認された。
また、ソリューションプラズマ処理の溶媒として溶媒C〜Eの有機溶媒を用いて得られたチタニア粉末C〜Eについても、図4に示したXRDパターンから明らかなように、アナターゼ型のチタニアのピークがブロードとなっていることが確認されたほか、いずれの粒子についてもTiC0.50.21に帰属するピークが確認された。すなわち、ソリューションプラズマ処理により、チタニアが有機溶媒と反応して新たな化合物を形成していることが確認された。結晶性が高く、不純物の少ない高光触媒活性酸化チタンを得るには、二酸化チタン粉末は水系溶媒に含ませるのが好ましいといえる。
【0048】
(実施形態2)
実施形態1で用いたのと同じアナターゼ型のチタニアを、150μS/cmに調整した塩化カリウム水溶液300mlに0.6gの割合で分散させて、チタニア分散液Fを用意した。このチタニア分散液Fに対し、実施形態1と同様のソリューションプラズマ処理を施し、チタニア粉末を得た。ただし、チタニア分散液Fに対するソリューションプラズマの発生条件は、電極間距離:0.1mm、一次電圧:130V、パルス幅:2μs、繰り返し周波数:20kHzとした。また、かかるソリューションプラズマによる処理は、300mlのチタニア分散液Fを3つ用意し、1時間,3時間および8時間の3通りで施した。ソリューションプラズマ処理後のチタニア分散液Fからチタニア粉末を回収し、それぞれ、チタニア粉末F1、F3およびF8とした。
【0049】
また同様に、実施形態1で用いたのと同じアナターゼ型のチタニアを、150μS/cmに調整した塩化カリウム水溶液200mlに0.4gの割合で分散させて、チタニア分散液Gを用意した。このチタニア分散液Gに対するソリューションプラズマの発生条件を、電極間距離:1.0mm、一次電圧:150V、パルス幅:2μs、繰り返し周波数:20kHzとし、かかるソリューションプラズマによる処理を、15時間施した。かかるソリューションプラズマ処理後のチタニア分散液Gからチタニア粉末を回収し、チタニア粉末G15とした。
【0050】
<メチレンブルー分解試験>
ソリューションプラズマ処理を施していない未処理のチタニア粉末Rと、上記のソリューションプラズマ処理により得られたチタニア粉末F1、F3、F8およびG15の光触媒性能を、メチレンブルーの分解特性を利用して評価した。すなわち、まず、塩基性染料であるメチレンブルー(C1618ClNS、和光純薬工業(株)製)を用いて、10μmol/mLのメチレンブルー水溶液を調製した。このメチレンブルー水溶液30mLと上記のチタニア粉末15mgとをポリスチレン製のシャーレに入れ、シャーレの上方からブラックライトを照射して、所定の照射時間ごとにメチレンブルー水溶液の紫外・可視吸光(UV−Vis)分光光度計を用いて吸光度測定を行い、チタニア粉末毎にメチレンブルー水溶液濃度の経時変化を調べた。
なお、チタニア粉末は深さ24mmのシャーレの底面に沈んだ状態で存在し、水溶液の撹拌は行わなかった。シャーレに入れたメチレンブルー水溶液の深さは9mmであって、ブラックライトをシャーレの上に載置することで照射距離の一定を保った。ブラックライトとしては、主波長が352nmで20Wの直管形のものを用いた。
【0051】
UV−Vis吸光度測定の結果を、図5および図6に示した。図5は、チタニア粉末G15を用いた場合のメチレンブルー水溶液のUV−Visスペクトルの変化を示した図である。ブラックライトの照射と共に、655nm付近のメチレンブルーの最大吸光度ピークが急激に低下し、メチレンブルーが光触媒作用により分解されて退色しているのが確認できた。
図6は、チタニア粉末R、F1、F3、F8およびG15を用いた時の、ブラックライトの照射時間と吸光度との関係を示した図である。図6の縦軸は、ブラックライトを照射する前の吸光度を100%として、各照射時間における吸光度を百分率で示している。図6から明らかなように、チタニア粉末に対するソリューションプラズマの処理時間が長いものほど、メチレンブルーの分解速度が高いことが確認できた。特に、ソリューションプラズマ処理の際のチタニア分散液の分散濃度が同じであっても、分散液量を少なくし、かつ処理時間を長くして得られたチタニア粉末G15については、未処理のチタニア粉末Rに比較して、メチレンブルーの分解所要時間が1/8以下となることがわかった。このことから、チタニア粉末がソリューションプラズマに処理される頻度が高いほど、触媒性能が高められることが確認できた。
【0052】
<拡散反射率測定>
チタニア粉末R、F1、F3およびF8の可視光吸収特性を測定するために、積分球を使用してUV−Vis拡散反射スペクトルを測定し、その結果を図7に示した。図7は、各拡散反射率測定データを、チタニア粉末F8の波長350nmの光の拡散反射率を1(基準)とした比で表している。図7から明らかなとおり、いずれのチタニア粉末についても紫外光領域では紫外光の吸収が確認できるが、ソリューションプラズマ処理を施したチタニア粉末については、可視光領域までをもカバーするブロードバンドの吸収スペクトルが得られている。すなわち、ソリューションプラズマ処理を施したチタニア粉末の吸収端は、ソリューションプラズマ処理を施していないチタニア粉末Rと比較して、可視光側にシフトしていることが確認された。
【0053】
<ESR分析>
チタニア粉末RおよびF8について、電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)分析を行った。得られたESRスペクトルを図8に示した。ソリューションプラズマ処理を施していないチタニア粉末Rについては、吸着有機物に帰属されるg=1.998の強いシグナルが観測されたのに対し、リューションプラズマ処理を施したチタニア粉末F8については、酸素欠陥に由来するg=2.008のシグナルが観測された。
【0054】
<TEM観察>
チタニア粉末F8について、高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM)による観察を行い、得られたTEM像を図9に示した。図9から明らかなように、チタニア粒子の大部分において規則正しい結晶格子が観察できるものの、粒子表面から1nm程度の領域では結晶格子に乱れが生じているのが確認できた。
拡散反射率測定、ESR分析およびTEM観察の結果から、チタニア粉末をソリューションプラズマにより処理することで、チタニアの表面から酸素原子の欠損が生じ、酸素欠陥が存在していることがわかった。また、光触媒作用においては、この結晶格子の欠陥に励起電子が捕捉され、励起電子−ホールの再結合が妨げられて、光触媒性能が向上されていると考えられる。
【0055】
(実施形態3)
実施形態1で用いたのと同じアナターゼ型のチタニアを、150μS/cmに調整した塩化カリウム水溶液300mlに0.6g分散させて、チタニア分散液Hを用意した。このチタニア分散液Hに対し、実施形態1と同様のソリューションプラズマ処理を施し、チタニア粉末を得た。ただし、チタニア分散液Hに対するソリューションプラズマの発生条件は、電極間距離:1.0mm、一次電圧:150V、パルス幅:2μs、繰り返し周波数:10kHzとし、処理時間は15時間とした。ソリューションプラズマ処理後のチタニア分散液Hからチタニア粉末を回収し、チタニア粉末Hとした。
【0056】
<銀還元実験>
上記のソリューションプラズマ処理により得られたチタニア粉末Hの可視光域での光触媒性能を評価するために、可視光による硝酸銀水溶液の還元実験を行った。すなわち、まず、ビーカーに10mmol/Lの硝酸銀水溶液を30mL用意し、チタニア粉末32mgを加えて磁気スターラーでチタニア粉末が分散状態を保つように撹拌した。このチタニアを分散させた硝酸銀水溶液に、カットオフ型のガラスフィルタを備えた水銀キセノンランプ(株式会社ケンコー・トキナー製、UVF−203S)を用いて、波長380nm以上の可視光線を2時間照射し、銀イオンの還元を試みた。かかる銀還元実験は、ソリューションプラズマ処理を施していないチタニア粉末Rと、上記で得られたチタニア粉末Hとについてそれぞれ行い、銀還元実験後のチタニア粉末分散液からチタニア粉末を回収し、それぞれチタニア粉末RAgおよびHAgとした。
【0057】
得られたチタニア粉末RAgおよびHAgについて、X線光電子分光(XPS:X-ray
photoelectron spectroscopy)分析により表面状態の解析を行った。図10は、XPS分析により得られた元素Agの3dピーク位置の狭域スペクトルである。
ソリューションプラズマ処理を施していないチタニア粉末RAgについては、Agに由来するピークは認められなかったものの、ソリューションプラズマ処理を施したチタニア粉末HAgについては、金属性のAgに由来するピークが確認された。すなわち、可視光の照射によりチタニア粉末HAgの表面では銀イオン(Ag)から金属銀(Ag)へ還元が行われ、チタニア粉末HAgの表面にAgが析出したことが確認できた。このことから、チタニア粉末にソリューションプラズマ処理を施すことにより、可視光のみによる光触媒活性が確認でき、チタニアの光触媒性能を発現し得る波長域を拡大できることがわかった。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれ得る。
【符号の説明】
【0058】
2 水溶液(液相)
3 気相
4 ソリューションプラズマ(プラズマ相)
10 ソリューションプラズマ発生装置
11 容器
12 恒温槽
13 液送ポンプ
14 循環路
15 外部電源
16 プラズマ発生部
17 電極
18 絶縁材
19 栓
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図10
図9