特許第6090773号(P6090773)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6090773
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】合金ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/14 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
   B22F9/14 Z
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-252031(P2012-252031)
(22)【出願日】2012年11月16日
(65)【公開番号】特開2014-101530(P2014-101530A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100142239
【弁理士】
【氏名又は名称】福富 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 永宏
(72)【発明者】
【氏名】ブラテスク マリア
(72)【発明者】
【氏名】ポヌファオン ポタワン
(72)【発明者】
【氏名】上野 智永
(72)【発明者】
【氏名】高井 治
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−504944(JP,A)
【文献】 特開2012−167335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00〜9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AuとAu以外の少なくとも一種の金属元素とを含む合金ナノ粒子の製造方法であって:
前記Au以外の目的とする金属元素の金属イオンを含む溶液を用意すること;
前記用意した溶液中に少なくとも一方がAuからなる一対の電極を配置すること;
前記電極間に電圧を印加して前記溶液中でグロー放電プラズマを発生させること;および、
前記グロー放電プラズマによって前記電極から放出されたAuと、前記グロー放電プラズマによって前記金属イオンから還元された金属と、から構成された合金ナノ粒子を形成すること;
を包含する、合金ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記合金ナノ粒子のTEM観察に基づく平均粒径が20nm以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記Au以外の目的とする金属元素は、周期表の第1族、第2族、第8族〜第14族に属する元素からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記Au以外の目的とする金属元素は、K、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Pd、Ag、CdおよびInからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記Au以外の目的とする金属元素は、Gaおよび/またはInである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記プラズマは、前記溶液中で前記一対の電極間にパルス幅が1μs〜10μsで、周波数が1kHz〜100kHzの直流パルス電圧を印加することで発生させる、請求項1〜5の何れか一つに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金ナノ粒子の製造方法に関する。より詳細には、AuとAu以外の少なくとも一種の金属元素とを含む合金ナノ粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AuとAu以外の金属元素とを含む合金粒子は、触媒作用、光学特性、磁場特性などの種々の特別な性質を有することから、今後いろいろな分野での応用が期待されている。例えば、AuとPdとの合金粒子は、燃料電池に代表される電気化学電極の触媒として利用することが検討されている。この場合、高い触媒活性を発現させるために、触媒金属の表面積を可能な限り大きくする必要があり、一般に粒径がナノメートル(nm)単位で表されるごく微小な合金ナノ粒子を触媒として用いることが求められている。
【0003】
ところで、金属のナノ粒子の製造方法としては、例えば、目的の金属イオンを含む溶液に還元性溶液を加えて金属イオンを還元することにより金属ナノ粒子を析出させる化学的還元法が知られている。あるいは、金ナノクラスターを製造する方法として、熱応答性高分子を利用した製造方法等が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−179074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の化学的還元法を合金ナノ粒子の合成に適用することが考えられる。しかしながら、従来の化学的還元法による製造方法をそのまま適用したのでは、合金化する金属の化学的挙動や還元電位が異なると、還元反応(核生成)の制御が難しく、合金化できる金属の種類が限定されるため、汎用性が低いという問題がある。また、1nm〜20nm程度の粒径を持った微小粒子を安定して得ることが難しく、例えば粗大な粒子が混在してしまうという問題がある。さらに、還元性溶液や分散溶解剤などの薬品を使用するのでコストがかかり、また多くの薬品を使用するため液の管理が難しいなどの問題がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みて創出されたものであり、その主な目的は、金属の種類を限定することなく簡単な操作により微小な合金ナノ粒子を製造可能な合金ナノ粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、金属イオンを含む溶液中に少なくとも一方がAuからなる一対の電極を配置し、電極間に電圧を印加して溶液中でプラズマを発生させることにより、プラズマによって電極から放出されたAuと、プラズマによって金属イオンから還元された金属とを粒成長させることなく、微細な粒子径のままで効率よく合金化し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の合金ナノ粒子の製造方法は、AuとAu以外の少なくとも一種の金属とを含む合金ナノ粒子を製造する方法であって、前記Au以外の目的とする金属の金属イオンを含む溶液を用意することを包含する。また、前記用意した溶液中に少なくとも一方がAuからなる一対の電極を配置することを包含する。また、前記電極間に電圧を印加して前記溶液中でプラズマを発生させることを包含する。さらに、前記プラズマによって前記電極から放出されたAuと、前記プラズマによって前記金属イオンから還元された金属と、から構成された合金ナノ粒子を形成することを包含する。
【0009】
本発明の合金ナノ粒子の製造方法によれば、金属イオンを含む溶液中に少なくとも一方がAuからなる一対の電極を配置し、電極間に電圧を印加して溶液中でプラズマを発生させることにより、プラズマによって電極から放出されたAuと、プラズマによって金属イオンから還元された金属とを粒成長させることなく、微細な粒子径のままで合金化することができる。したがって、粒子径が小さいナノメートル級の合金ナノ粒子を得ることができる。かかる合金ナノ粒子は、典型的には、平均粒径が20nm以下のナノ粒子であり、この合金ナノ粒子を構成する元素によっては種々の特性(例えば触媒作用)を発現し得る。例えば、上記製造方法により得られた合金ナノ粒子は、電池電極材料等の触媒、半導体材料、その他の機能性粉末等として好適に使用し得る。
【0010】
以下、液中で発生されたプラズマを単に「液中プラズマ」という場合がある。この液中プラズマは、典型的には、液体中に浸漬した一対の電極にマイクロ波や高周波を印加することで液体中に発生される気泡内に形成することができ、気相中(典型的には、減圧ないしは大気圧中)で発生される気相プラズマとは異なる物理的および化学的性質を示す。例えば、液中プラズマでは、気相プラズマよりも高密度かつ高エネルギー状態にある反応活性種(イオンやラジカル)が生成される。そのため、該活性種の作用によって電極から放出されたAuと、該活性種の還元作用によって金属イオンから還元された金属とが反応場に高密度で供給され、合金の核生成が促される。その一方で、液中プラズマは低温プラズマであり、プラズマ相以外の液相温度は比較的低温(例えば15℃以下)に保たれているので、上記生成した粒子核についての粒成長は抑制される。すなわち、液中プラズマにおいては、合金の核生成を促す一方で、生成した粒子核についての粒成長は抑制される。これらのことから、本発明の合金ナノ粒子の製造方法においては、微細な合金ナノ粒子を簡便かつ高効率に形成することが可能となる。
【0011】
ここに開示される合金ナノ粒子の製造方法の好ましい一態様では、上記合金ナノ粒子のTEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)観察に基づく平均粒径が20nm以下である。かかる構成によると、例えば、新規な機能を備えることが期待される合金ナノ粒子の製造が可能となる。なお、本明細書における「平均粒径」とは、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察される複数(例えば2以上)の観察視野あるいは観察像内で選定された10個以上の粒子の円相当径の算術平均値として定義される。
【0012】
ここに開示される合金ナノ粒子の製造方法の好ましい一態様では、前記Au以外の目的とする金属元素は、周期表の第1族、第2族、第8族〜第14族に属する元素のうちの少なくとも一種である。例えば、上記金属元素がK、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Pd、Ag、CdおよびInのうちの少なくとも一種であることが好ましい。ここで開示される製造方法は、従来の化学的還元法を用いたプロセスとは異なり、上述のような種々の金属元素に対しても広く適用することができ、汎用性が高い。この点からも画期的な技術であると云える。
【0013】
ここに開示される合金ナノ粒子の製造方法の好ましい一態様では、前記Au以外の目的とする金属元素は、Gaおよび/またはInである。Ga/AuおよびIn/Auの合金ナノ粒子は、半導体材料として有用である一方で、従来の化学的還元法では核生成の制御が難しく、Auとの合金化が難しい。しかし、本発明の合金ナノ粒子の製造方法によれば、金属の種類を選ばず、GaおよびInのような金属元素に対しても有効である。したがって、ここで開示される製造方法は、Au/GaおよびAu/Inのような有用な合金ナノ粒子を簡便かつ高効率に形成することができるという利点を有する。
【0014】
ここに開示される合金ナノ粒子の製造方法の好ましい一態様では、前記プラズマは、前記溶液中で前記一対の電極間にパルス幅が1μs〜10μsで、周波数が1kHz〜100kHzの直流パルス電圧を印加することで発生させる。かかる構成によると、ジュール熱により溶液中に発生する気泡を水面に向かって浮上させることなく、溶液中に安定した状態で維持することができ、この気泡中に安定した状態でプラズマを発生させることが可能となる。これにより、より効率よく安定した状態で合金ナノ粒子を製造することができる。
【0015】
ここに開示される合金ナノ粒子の製造方法の好ましい一態様では、前記プラズマが、グロー放電プラズマである。液中で発生されるプラズマは、火花放電、コロナ放電、グロー放電、アーク放電の形態であり得る。なかでも、本態様の製造方法では、液中プラズマのより好ましい形態としてグロー放電プラズマを合金ナノ粒子の製造に利用しており、非平衡な低温プラズマを発生させることができ、より安定的に合金ナノ粒子の作製を行うことができる。
【0016】
ここに開示される好ましい技術では、前記グロー放電プラズマは、前記水溶液中に発生した気相中に形成される。液中のグロー放電プラズマは、液中に配置した電極間に高周波数の電圧を印加することを発生させることができる。かかる構成によると、電極間に発生するジュール熱により液相中に発生される気相の内部に、グロー放電プラズマを定常的に発生させることができる。すなわち、液相/気相/プラズマ相の界面が安定に形成され、プラズマ相で発生された活性種が気相を介して気液界面に供給されるため、金属イオンを高効率で還元することが可能となる。また、電極からAuを高効率で放出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】合金ナノ粒子の製造に用いる液中プラズマ発生装置の構成の一例を示す模式図である。
図2】合金ナノ粒子の製造に利用する液中プラズマによる反応場の構成を例示した模式図である。
図3A】試験例1(サンプル1)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図3B】試験例1(サンプル1)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図4A】試験例1(サンプル2)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図4B】試験例1(サンプル2)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図5A】試験例1(サンプル3)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図5B】試験例1(サンプル3)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図6A】試験例1(サンプル4)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図6B】試験例1(サンプル4)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図7】試験例1(サンプル4)のイオン濃度と各組成の含有量との関係を示すグラフである。
図8A】試験例1(サンプル5)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図8B】試験例1(サンプル5)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図9】試験例1(サンプル5)のイオン濃度と各組成の含有量との関係を示すグラフである。
図10A】試験例1(サンプル8)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図10B】試験例1(サンプル8)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図11A】試験例1(サンプル9)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図11B】試験例1(サンプル9)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図12】試験例1(サンプル9)のイオン濃度と各組成の含有量との関係を示すグラフである。
図13A】試験例1(サンプル10)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図13B】試験例1(サンプル10)に係るナノ粒子のTEM写真である。
図14A】試験例2に係るナノ粒子のTEM写真である。
図14B】試験例2に係るナノ粒子のTEM写真である。
図15】試験例2のイオン濃度と各組成の含有量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の合金ナノ粒子の製造方法について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書および図面に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0019】
ここに開示される合金ナノ粒子の製造方法は、AuとAu以外の少なくとも一種の金属とを含む合金ナノ粒子の製造方法であって、Au以外の目的とする金属の金属イオンを含む溶液を用意することを包含する。また、用意した溶液中に少なくとも一方がAuからなる一対の電極を配置することを包含する。また、一対の電極間に電圧を印加して溶液中でプラズマを発生させることを包含する。さらに、プラズマによって電極から放出されたAuと、プラズマによって金属イオンから還元された金属元素と、から構成された合金ナノ粒子を形成することを包含する。なお、本明細書でいう「合金」とは、微視的なレベルで2種以上の金属を混合したものを意味し、合金の組織としては、例えば、固溶体、金属間化合物あるいはそれらが共存するものが含まれ得る。
【0020】
かかる製造方法では、合金ナノ粒子の製造に液中プラズマを利用するようにしている。すなわち、プラズマを構成する正負のイオン、電子およびラジカル等の活性種の作用(例えばスパッタリング作用)によって電極を構成するAuを放出させるとともに、該活性種の還元作用によって溶液中に含まれるAu以外の目的とする金属の金属イオンを還元する。これにより、電極から放出されたAuと、金属イオンから還元された金属と、から構成された合金ナノ粒子を製造するものである。かかる活性種としては、典型的には、水溶液中の水分子が分解されて生成する、水素イオン、水酸化物イオン、酸素イオン、水素ラジカル、酸素ラジカルおよびヒドロキシラジカル等であり得る。
【0021】
ここで、液中プラズマは、液体中に発生された気体(気相)にマイクロ波や高周波を印加して当該気体を構成する分子を部分的ないしは完全に電離させることで、形成することができる。つまり、液中プラズマにおいては、プラズマ相を取り囲む気相はさらに液相に取り囲まれており、プラズマを構成する上記のイオン、電子およびラジカル等の活性種は制限された気相中において自由に運動し得る状態である。そのため、解放された気相中に発生される気相プラズマ(典型的には、大気圧プラズマ、低圧プラズマ等)とは異なる物理的および化学的性質を示す。例えば、気相プラズマは、気体の温度を上げて行った際にこの気体を構成する中性分子が電離してプラズマ化することで発生する。このとき、固体・液体・気体間の相転移とは異なり気体からプラズマへの転移は徐々に起こるため、構成分子のごく一部が電離した電離度が非常に低い状態でも充分にプラズマであり得る。これに対し液中プラズマは、典型的には、まず液中での放電により当該液体がジュール加熱により気化されて気相を形成し、さらにこの気相においてプラズマが発生することで形成される。すなわち、液中プラズマは、プラズマという高エネルギー状態が液中(すなわち凝縮相)に閉じ込められており、閉鎖系の物理が実現するとともに、解放されない高密度なプラズマ反応場が形成されているといえる。
【0022】
つまり、液中プラズマでは、気相プラズマよりも高密度かつ高エネルギー状態にある反応活性種(イオンやラジカル)が生成されるといえる。そのため、該活性種の作用(例えばスパッタリング作用)によって電極から放出されたAuと、該活性種の還元作用によって金属イオンから還元された金属とが反応場に高密度で供給され、合金の核生成が促される(合金核の数が増大する)。その一方で、液中プラズマは低温プラズマであり、プラズマ相以外の液相温度は比較的低温(例えば25℃以下、好ましくは20℃以下、特に好ましくは15℃以下)に保たれているので、上記生成した粒子核についての粒成長は抑制される。すなわち、液中プラズマにおいては、合金の核生成を促す一方で、生成した粒子核についての粒成長は抑制される。これらのことから、ここで開示される合金ナノ粒子の製造方法においては、微細な合金ナノ粒子を簡便かつ高効率に形成することが可能となる。
【0023】
なお、以上のような液中プラズマは、電極間にかかる電位差の違い等によって、雷のような火花放電、コロナ放電、グロー放電、アーク放電等に分類される。火花放電が継続的に流れるとグロー放電あるいはアーク放電となる。ここで、液中で発生されるグロー放電プラズマ(以下、ソリューションプラズマとも言う。)は、その他の液中プラズマに対して、さらに異なる特徴を有している。例えば、アーク放電プラズマは粒子密度が高く、イオンや中性粒子の温度が電子温度とほぼ等しい局所熱平衡状態にある熱プラズマである。これに対し、グロー放電プラズマは、電子温度は高いがイオンや中性粒子の温度が低い非平衡状態にある低温プラズマである。また、コロナ放電では連続的なプラズマの発生は難しいことに加え、水の分解により水素ラジカルと共に酸化性のヒドロキシラジカルが比較的多く形成されるという特徴がある。これに対し、グロー放電プラズマではプラズマの持つエネルギーが高く、酸化性のヒドロキシラジカルがさらに分解されて還元性の水素ラジカルが多く生成される。
【0024】
かかるグロー放電プラズマは、高い繰り返し周波数で、サブマイクロ秒のパルス幅の電圧を印加することにより、比較的安定して発生可能であることから、プラズマ相を囲む液体の膨張・圧縮運動とプラズマ相とは連動しつつ安定な状態が長時間(例えば、2時間以上)維持され得る。そのため、例えば、ソリューションプラズマにおいては、電極間に発生される気相はその一部が浮力により電極間から浮上して液表面に到達することがあり得るものの、その大部分は電極間に一定の大きさの気相として定常的に維持される。したがって、ソリューションプラズマにおいてはプラズマの発生状態を常にコントロールすることができる。本発明の合金ナノ粒子の製造方法では、このような制御されたプラズマを利用することを好ましい形態としており、より高効率かつ微細な(典型的には平均粒径が20nm以下であり、好ましくは15nm以下であり、より好ましくは10nm以下であり、特に好ましくは5nm以下である)合金ナノ粒子の製造が可能とされる。発生したプラズマがグロー放電プラズマであるかどうかは、例えば、プラズマ発光分光分析等により求められるタウンゼント第2係数が0.0005〜0.005の範囲にあることで確認することができる。
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態としての、ソリューションプラズマを反応場とした合金ナノ粒子の製造を例にして、本発明の合金ナノ粒子の製造方法についてより詳細に説明するが、本発明の適用対象を限定する意図ではない。
【0026】
図1は、水溶液中でソリューションプラズマ4を発生させるためのソリューションプラズマ発生装置10の概略を示す図である。この実施形態において、水溶液2は、台7に裁置されたガラス製のビーカーなどの容器5に入れられている。水溶液2中には、Au以外の目的とする金属の金属イオンが含まれている。また、プラズマを発生させるための一対の電極6は所定の間隔(例えば0.5mm)を以て水溶液2中に配設されている。一対の電極6は何れもAuを主体として構成されており、絶縁部材9を介して容器5に保持されている。電極6は外部電源8に接続されており、この外部電源8から所定の条件のパルス電圧が印加される。これによって、一対の電極6間に、定常的にソリューションプラズマ4を発生させることができる。
【0027】
電極6の形状としては、例えば、平板状電極や棒状電極およびその組み合わせ等の様々な形態であってよいが、電界を局所的に集中させる観点から(例えば直径1mm程度の)針状電極6を用いることが好ましい。かかる電極6は、電界集中を妨げる余分な電流を抑えるために、先端部(例えば、数mm程度)のみを露出させ、後の部分は絶縁部材9等で絶縁しておくことが望ましい。絶縁部材9は、例えばゴム製あるいは樹脂(例えば、フッ素樹脂)製であることが例示される。この実施形態では、絶縁部材9は電極6を容器5に固定するとともに、電極6と容器5との水密を保つための栓をも兼ねた構成である。かかる装置10において、ソリューションプラズマを発生させるためのパルス電圧の印加条件は、電極6の形状、電極6間の距離、水溶液2中に含まれる金属イオンの種類やその濃度等の条件、さらには装置10の構成条件等にもよるものの、例えば、電圧:約0.5kV〜5kV、周波数:約1kHz〜100kHz(好ましくは10kHz〜20kHz)、パルス幅:約1μs〜10μs(好ましくは1μs〜2μs)の範囲とすることができる。
【0028】
上記溶液中に含ませる金属イオンは、ソリューションプラズマによる還元によってAuと合金ナノ粒子を形成可能なものであれば特に制限されることはなく、各種の金属イオンであってよい。例えば、かかる金属イオンを構成する元素としては、周期表の第1族(カリウム等のアルカリ金属)、第2族(ナトリウム、カルシウム等のアルカリ土類金属)、第8族(鉄等の遷移金属)、第9族(コバルト等の遷移金属)、第10族(ニッケル等の遷移金属)、第11族(銅等の遷移金属)、第12族(亜鉛のような金属)、第13族(ガリウムのような金属)および第14族(ゲルマニウム、錫、鉛のような金属)に属するいずれかの元素を挙げることができる。典型例として、K、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Pd、Ag、CdおよびInが例示される。例えば、本発明の合金ナノ粒子を半導体材料として用いる場合には、かかる金属イオンとして、Ga、Inなどの金属元素のイオンとするのが好ましい。Au/Ga、Au/Inなどの合金は、半導体材料として利用価値が高い一方で、従来の化学的還元法では合金化が難しい。しかし、ここで開示される合金ナノ粒子の製造方法によれば、金属イオンの種類を選ばず、GaおよびInのような金属イオンに対しても有効である。
【0029】
このような金属イオンは、例えば、目的の金属の各種の塩または錯体を溶解させることで好適に水溶液中に含ませることができる。かかる塩としては、例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物などのハロゲン化物や、水酸化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、さらには、カリウム複合酸化物、アンモニウム複合酸化物、ナトリウム複合酸化物などの複合酸化物などを考慮することができる。特に硝酸塩の使用が製造容易化の観点からは好ましい。また、錯体としては、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体などを考慮することができる。溶液中に含ませる金属イオンの濃度については特に制限されない。かかる金属イオンの濃度としては、目的とする合金の組成等によっても異なり得るが、通常は0.1mM〜10mMの範囲内とすることが製造容易化の観点からは好ましい。
【0030】
以上の水溶液は、安定したソリューションプラズマの発生を可能とするために、電気伝導度を300μS・cm−1〜2500μS・cm−1程度の範囲に調整しておくのが好ましい。電気伝導度の調整は、例えば、塩化カリウム(KCl)等の電解質を溶解させる等して行うとよい。電気伝導度が300μS・cm−1未満であると、ソリューションプラズマの発生に多くの電力を要し、好適にソリューションプラズマを発生し難くなるために好ましくない。また、電気伝導度が2500μS・cm−1を超過する場合は、プラズマ発生のために電極間に投入した電力がイオン電流として消費されてしまい、定常的にプラズマを発生させるのが困難となるために好ましくない。電気伝導度は、500μS・cm−1〜2300μS・cm−1程度とするのが好ましく、更には、1000μS・cm−1〜2000μS・cm−1程度とするのが好ましい。
【0031】
上記のソリューションプラズマ発生装置10により発生されるプラズマ反応場は、例えば、図2に示したような構成となる。すなわち、水溶液(液相)2中に気相3が形成され、この気相3中にソリューションプラズマが形成されている。このプラズマ反応場は、カソード電極6Aおよびアノード電極6B間に定常的に維持されている。かかるプラズマ反応場では、高いエネルギーを有した電子,陽イオン,陰イオン,ラジカル等の活性種が供給される。ここで、上記供給された活性種(例えばイオン、典型的には水素イオン)は電極の表面に高速で入射(衝突)し、電極を構成するAuが叩き出されることによって、電極から多量のAuが放出される。同時に、プラズマ反応場では、気相3から液相2に向かって、高いエネルギーを有した電子、イオン、ラジカル(例えば水素ラジカル)等の活性種が供給される。一方、液相2から気相3に向けては、液相2を構成する水および水に溶解した金属イオン成分等が供給される。そしてこれらは、主として液相2と気相3の界面において接触(衝突)する。とりわけ、水から発生される水素ラジカル,水素イオン,ヒドロキシラジカル等は反応性が高く、特に水素ラジカルが液相2中に含まれる金属イオンと接触することで、かかる金属イオンを還元する作用を示す。この還元作用により金属イオンから還元された金属は、電極から放出されたAuと結合して、Auとの金属間化合物等を形成する。このようにして、電極から放出されたAuと、金属イオンから還元された金属とが合金化すると考えられる。なお、図2では理解を容易にするために、液相2と気相3の界面が楕円状に明確に形成されたような様子を示しているが、かかる界面は必ずしも明確に形成されることに限定されない。例えば、液相2と気相3との間の界面に臨界的なものがなく、かかる界面は空間的な広がりを持っていても良い。
【0032】
なお、本発明は、ここで開示される情報(プラズマ発生装置の構成等)に基づいて容易に実施することができる。従って、合金ナノ粒子の製造に関わる本発明の作用機序は本発明の把握や実施に必要ではない。上述の作用機序に関わる記載は一例を示したものにすぎず、かかる説明の作用機序に本発明を限定することを意図したものではない。
【0033】
以上の構成によると、金属イオンを含む溶液中にAuからなる一対の電極を配置し、電極間に電圧を印加して溶液中でプラズマを発生させることにより、プラズマによって電極から放出されたAuと、プラズマによって金属イオンから還元された金属とを粒成長させることなく、微細な粒子径のままで合金化することができる。したがって、粒子径が小さく、かつ粗大な粒子(例えば粒径が100nmを上回る粒子)が混在しないナノメートル級の合金ナノ粒子を得ることができる。ここで開示される製造方法により得られた合金ナノ粒子としては、平均粒径が1nm〜20nmの範囲であり、好ましくは1nm〜15nmであり、より好ましくは1nm〜10nmであり、特に好ましくは1nm〜5nmである。このような所定の範囲内の平均粒径を有することにより、合金ナノ粒子は種々の特性(例えば触媒作用)を発現し得る。例えば、上記製造方法により得られた合金ナノ粒子は、電池電極材料等の触媒、半導体材料、その他の機能性粉末等として好適に使用し得る。
【0034】
また、ここで開示される製造方法によると、従来の化学的還元法ではAuとの合金化が不可能であった種々の金属(例えばIn,Ga等)に対しても広く適用することができ、汎用性が高い。この点からも画期的な技術であると云える。さらに、還元性溶液や分散溶解剤などの薬品を使用しないため、該薬品を使用する場合に必要となる環境対策(例えば処理に使用した後の回収操作)が不要となり、より効率よく合金ナノ粒子の製造を行うことができる。また、製造コストも安価である。
【0035】
以上、好適な実施形態に基づき合金ナノ粒子の製造方法について説明したが、かかる製造方法はこの例に限定されず、適宜に態様を変化して行うことができる。例えば、液中プラズマによる還元は、ソリューションプラズマ(グロー放電プラズマ)によるものに限定されず、例えば、液中でのアーク放電プラズマ等による還元作用を利用して実施しても良い。また、上述した実施形態では、カソード電極6Aおよびアノード電極6Bの双方をAuで構成したが、何れか一方のみをAu電極としてもよい。ただし、カソード電極およびアノード電極の双方をAuで構成した方が、合金ナノ粒子をより効率よく形成し得る点からは好ましい。
【0036】
次に、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0037】
(試験例1)
<サンプル1:Au−Ga>
AuとGaとの合金ナノ粒子を形成した。具体的には、硝酸ガリウム(Ga(NO)を水に溶かして1.0mMのGaイオンを含む水溶液150mlを用意した。次いで、図1に示したソリューションプラズマ発生装置10を用い、Gaイオンを含む水溶液中でプラズマを発生させた。電極6はAuで構成し、直径が約1mmの針状電極を使用した。電極間距離は0.5mmに設定した。電極6を外部電源8に接続し、この外部電源8から所定の条件のパルス電圧を電極6間に印加した。外部電源8としては、バイポーラパルス電源(株式会社栗田製作所製、MPS−R06K02C−WP1F)を用いた。
【0038】
本実施形態においてソリューションプラズマを発生させるためのパルス電圧の印加条件は、電圧:1000V、パルス幅:1.5μs、繰り返し周波数:15kHzとし、この条件で水溶液中にソリューションプラズマを15分間発生させた。その後、水溶液をろ過して生成物を回収し、純水で洗浄して、サンプル1のナノ粒子を得た。
【0039】
上記得られたナノ粒子のTEM写真を図3Aおよび図3Bに示す。各図に示すように、略球状の粒子が良好に生成されており、粒子同士の凝集は認められなかった。かかる粒子のTEM観察に基づく平均粒径を測定したところ、約5nmであった。
【0040】
上記得られたナノ粒子のX線回折パターンを測定し、RIR法(参照強度比(Reference Intensity Ratios)を利用したX線回折法による簡易定量分析方法)を用いて、ナノ粒子の組成分析(定量)を行った。結果を表1の該当欄に示す。表1から明らかなように、得られたナノ粒子の大部分(97質量%)は、AuとGaとの合金ナノ粒子であることが確認された。これにより、本発明の方法により、AuとGaとの合金ナノ粒子を製造できることが分かった。また、ソリューションプラズマによる処理を施すことにより、
析出される粒子の粗大化を抑制して粒径が5nm以下のごく微小なAu/Gaナノ粒子を形成できることが分かった。さらに、ソリューションプラズマによる処理によって、同程度の形状および大きさを有するAu/Gaナノ粒子が得られるとともに、粒子の凝集を抑えて高分散状態を良好に維持できることが分かった。
【0041】
【表1】
【0042】
<サンプル2:Au−In>
AuとInとの合金ナノ粒子を形成した。具体的には、硝酸インジウム(In(NO)を水に溶かして1.0mMのInイオンを含む水溶液150mlを用意した。次いで、図1に示したソリューションプラズマ発生装置10を用い、Inイオンを含む水溶液中でプラズマを発生させた。プラズマ発生条件については実施例1と同じ条件とした。結果を図4Aおよび図4Bに示す。各図に示すように、略球状の粒子が良好に生成されており、粒子同士の凝集は認められなかった。かかる粒子のTEM観察に基づく平均粒径を測定したところ、約3nmであった。また、RIR法による組成分析の結果(表1参照)、得られたナノ粒子の多く(59質量%)は、AuとInとの合金ナノ粒子であることが確認された。これにより、本発明の方法により、AuとInとの合金ナノ粒子を製造できることが分かった。また、ソリューションプラズマによる処理を施すことにより、析出される粒子の粗大化を抑制して粒径が5nm以下のごく微小なAu/Inナノ粒子を形成できることが分かった。さらに、ソリューションプラズマによる処理によって、同程度の形状および大きさを有するAu/Inナノ粒子が得られるとともに、粒子の凝集を抑えて高分散状態を良好に維持できることが分かった。
【0043】
<サンプル3:Au−Zn>
AuとInとの合金ナノ粒子を形成した。具体的には、Znの硝酸塩を水に溶かして1.0mMのZnイオンを含む水溶液150mlを用意した。次いで、図1に示したソリューションプラズマ発生装置10を用い、Znイオンを含む水溶液中でプラズマを発生させた。プラズマ発生条件については実施例1と同じ条件とした。結果を図5Aおよび図5Bに示す。各図に示すように、不定形の粒子が生成されており、粒子同士の凝集が認められた。かかる粒子のTEM観察に基づく平均粒径を測定したところ、約20nmであった。また、RIR法による組成分析の結果(表1参照)、AuとZnとの合金ナノ粒子が含まれていることが確認された。これにより、本発明の方法により、AuとZnとの合金ナノ粒子を製造できることが分かった。また、ソリューションプラズマによる処理を施すことにより、析出される粒子の粗大化を抑制して粒径が20nm以下のごく微小なAu/Znナノ粒子を形成できることが分かった。
【0044】
<サンプル4:Au−Cd>
AuとCdとの合金ナノ粒子を形成した。具体的には、Cdの硝酸塩を水に溶かして1.0mMのCdイオンを含む水溶液150mlを用意した。次いで、図1に示したソリューションプラズマ発生装置10を用い、Cdイオンを含む水溶液中でプラズマを発生させた。プラズマ発生条件については実施例1と同じ条件とした。結果を図6Aおよび図6Bに示す。各図に示すように、不定形の粒子が生成されており、粒子同士の凝集が認められた。かかる粒子のTEM観察に基づく平均粒径を測定したところ、約20nmであった。また、RIR法による組成分析の結果(表1参照)、AuとCdとの合金ナノ粒子が含まれていることが確認された。これにより、本発明の方法により、AuとCdとの合金ナノ粒子を製造できることが分かった。また、ソリューションプラズマによる処理を施すことにより、析出される粒子の粗大化を抑制して粒径が20nm以下のごく微小なAu/Cdナノ粒子を形成できることが分かった。
さらに、ソリューションプラズマ発生装置10に供した水溶液中のCdイオンの濃度を0.5mM、2.0mMにそれぞれ変更して同様の試験を行った。結果を図7に示す。図7に示すように、得られたAu/Cdナノ粒子の組成およびその含有量は、水溶液中のCdイオンの濃度によって変動することが分かった。Au/Cdナノ粒子を高効率に得る観点からは、Cdイオンの濃度は0.5mM〜2.0mMの範囲にすることが適当であり、好ましくは0.8mM〜1.5mMである。
【0045】
<サンプル5:Au−Fe>
AuとFeとの合金ナノ粒子を形成した。具体的には、Feの硝酸塩を水に溶かして1.0mMのFeイオンを含む水溶液150mlを用意した。次いで、図1に示したソリューションプラズマ発生装置10を用い、Feイオンを含む水溶液中でプラズマを発生させた。プラズマ発生条件については実施例1と同じ条件とした。結果を図8Aおよび図8Bに示す。各図に示すように、不定形の粒子が良好に生成されており、粒子同士の凝集はほとんど認められなかった。かかる粒子のTEM観察に基づく平均粒径を測定したところ、約5nmであった。また、RIR法による組成分析の結果(表1参照)、AuとFeとの合金ナノ粒子が含まれていることが確認された。これにより、本発明の方法により、AuとFeとの合金ナノ粒子を製造できることが分かった。また、ソリューションプラズマによる処理を施すことにより、析出される粒子の粗大化を抑制して粒径が5nm以下のごく微小なAu/Feナノ粒子を形成できることが分かった。さらに、ソリューションプラズマによる処理によって、同程度の形状および大きさを有するAu/Feナノ粒子が得られるとともに、粒子の凝集を抑えて高分散状態を良好に維持できることが分かった。
さらに、ソリューションプラズマ発生装置10に供した水溶液中のFeイオンの濃度を0.5mM、2.0mMにそれぞれ変更して同様の試験を行った。結果を図9に示す。図9に示すように、得られたAu/Feナノ粒子の組成およびその含有量は、水溶液中のFeイオンの濃度によって変動することが分かった。Au/Feナノ粒子を高効率に得る観点からは、Feイオンの濃度は0.5mM〜2.0mMの範囲にすることが適当であり、好ましくは1.5mM〜2.0mMまたはそれ以上である。
【0046】
<サンプル6:Au−Co>
AuとCoとの合金ナノ粒子を形成した。具体的には、Coの硝酸塩を水に溶かして1.0mMのCoイオンを含む水溶液150mlを用意した。次いで、図1に示したソリューションプラズマ発生装置10を用い、Coイオンを含む水溶液中でプラズマを発生させた。プラズマ発生条件については実施例1と同じ条件とした。その結果、不定形の粒子が生成されており、粒子同士の凝集が認められた。かかる粒子のTEM観察に基づく平均粒径を測定したところ、約10nmであった。また、RIR法による組成分析の結果(表1参照)、AuとCoとの合金ナノ粒子が含まれていることが確認された。これにより、本発明の方法により、AuとCoとの合金ナノ粒子を製造できることが分かった。また、ソリューションプラズマによる処理を施すことにより、析出される粒子の粗大化を抑制して粒径が10nm以下のごく微小なAu/Coナノ粒子を形成できることが分かった。
【0047】
<サンプル7:Au−Ni>
AuとNiとの合金ナノ粒子を形成した。具体的には、Niの硝酸塩を水に溶かして1.0mMのNiイオンを含む水溶液150mlを用意した。次いで、図1に示したソリューションプラズマ発生装置10を用い、Niイオンを含む水溶液中でプラズマを発生させた。プラズマ発生条件については実施例1と同じ条件とした。その結果、不定形の粒子が生成されており、粒子同士の凝集が認められた。かかる粒子のTEM観察に基づく平均粒径を測定したところ、約10nmであった。また、RIR法による組成分析の結果(表1参照)、AuとNiとの合金ナノ粒子が含まれていることが確認された。これにより、本発明の方法により、AuとNiとの合金ナノ粒子を製造できることが分かった。また、ソリューションプラズマによる処理を施すことにより、析出される粒子の粗大化を抑制して粒径が10nm以下のごく微小なAu/Niナノ粒子を形成できることが分かった。
【0048】
<サンプル8:Au−Cu>
AuとCuとの合金ナノ粒子を形成した。具体的には、Cuの硝酸塩を水に溶かして1.0mMのCuイオンを含む水溶液150mlを用意した。次いで、図1に示したソリューションプラズマ発生装置10を用い、Cuイオンを含む水溶液中でプラズマを発生させた。プラズマ発生条件については実施例1と同じ条件とした。結果を図10Aおよび図10Bに示す。各図に示すように、不定形の粒子が生成されており、粒子同士の凝集が認められた。かかる粒子のTEM観察に基づく平均粒径を測定したところ、約10nmであった。また、RIR法による組成分析の結果(表1参照)、AuとCuとの合金ナノ粒子が含まれていることが確認された。これにより、本発明の方法により、AuとCuとの合金ナノ粒子を製造できることが分かった。また、ソリューションプラズマによる処理を施すことにより、析出される粒子の粗大化を抑制して粒径が10nm以下のごく微小なAu/Cuナノ粒子を形成できることが分かった。
【0049】
<サンプル9:Au−Ag>
AuとAgとの合金ナノ粒子を形成した。具体的には、Agの硝酸塩を水に溶かして1.0mMのAgイオンを含む水溶液150mlを用意した。次いで、図1に示したソリューションプラズマ発生装置10を用い、Agイオンを含む水溶液中でプラズマを発生させた。プラズマ発生条件については実施例1と同じ条件とした。結果を図11Aおよび図11Bに示す。各図に示すように、略球状の粒子が良好に生成されており、粒子同士の凝集は認められなかった。かかる粒子のTEM観察に基づく平均粒径を測定したところ、約8nmであった。また、RIR法による組成分析の結果(表1参照)、得られたナノ粒子の45質量%がAuとAgとの合金ナノ粒子であることが確認された。これにより、本発明の方法により、AuとAgとの合金ナノ粒子を製造できることが分かった。また、ソリューションプラズマによる処理を施すことにより、析出される粒子の粗大化を抑制して粒径が8nm以下のごく微小なAu/Agナノ粒子を形成できることが分かった。さらに、ソリューションプラズマによる処理によって、同程度の形状および大きさを有するAu/Agナノ粒子が得られるとともに、粒子の凝集を抑えて高分散状態を良好に維持できることが分かった。
さらに、ソリューションプラズマ発生装置10に供した水溶液中のAgイオンの濃度を0.5mM、2.0mMにそれぞれ変更して同様の試験を行った。結果を図12に示す。図12に示すように、得られたAu/Agナノ粒子の組成およびその含有量は、水溶液中のAgイオンの濃度によって変動することが分かった。Au/Agナノ粒子を高効率に得る観点からは、水溶液中のZnイオンの濃度は0.5mM〜2.0mMの範囲にすることが適当であり、好ましくは0.8mM〜1.2mMである。
【0050】
<サンプル10:Au−Pd>
AuとPdとの合金ナノ粒子を形成した。具体的には、Pdの硝酸塩を水に溶かして1.0mMのPdイオンを含む水溶液150mlを用意した。次いで、図1に示したソリューションプラズマ発生装置10を用い、Pdイオンを含む水溶液中でプラズマを発生させた。プラズマ発生条件については実施例1と同じ条件とした。結果を図13Aおよび図13Bに示す。各図に示すように、不定形の粒子が生成されており、粒子同士の凝集が認められた。かかる粒子のTEM観察に基づく平均粒径を測定したところ、約8nmであった。また、RIR法による組成分析の結果(表1参照)、AuとPdとの合金ナノ粒子が含まれていることが確認された。これにより、本発明の方法により、AuとPdとの合金ナノ粒子を製造できることが分かった。また、ソリューションプラズマによる処理を施すことにより、析出される粒子の粗大化を抑制して粒径が8nm以下のごく微小なAu/Pdナノ粒子を形成できることが分かった。
【0051】
(試験例2)
また、AuとKとの合金ナノ粒子を合成可能か否かを確認するため、以下の試験を行った。すなわち、Kの硝酸塩を水に溶かして1.0mMのKイオンを含む水溶液150mlを用意した。次いで、図1に示したソリューションプラズマ発生装置10を用い、Kイオンを含む水溶液中でプラズマを発生させた。プラズマ発生条件については実施例1と同じ条件とした。結果を図14Aおよび図14Bに示す。各図に示すように、不定形の粒子が生成されており、粒子同士の凝集が認められた。かかる粒子のTEM観察に基づく平均粒径を測定したところ、約20nmであった。また、RIR法による組成分析の結果、AuとKとの合金ナノ粒子、具体的にはKAuO、AuK、AuKなどの相を含む合金ナノ粒子が含まれていることが確認された。これにより、本発明の方法により、AuとKとの合金ナノ粒子を製造できることが分かった。また、ソリューションプラズマによる処理を施すことにより、析出される粒子の粗大化を抑制して粒径が20nm以下のごく微小なAu/Kナノ粒子を形成できることが分かった。
さらに、ソリューションプラズマ発生装置10に供した水溶液中のKイオンの濃度を0.5mM、2.0mMにそれぞれ変更して同様の試験を行った。結果を図15に示す。図15に示すように、得られたAu/Kナノ粒子の組成およびその含有量は、水溶液中のKイオンの濃度によって変動することが分かった。ここで供試したAu/Kナノナノ粒子の場合、高効率の観点からは、水溶液中のKイオンの濃度は0.5mM〜2.0mMの範囲にすることが適当であり、好ましくは1.0mM〜2.0mMまたはそれ以上である。
【0052】
以上より、本試験例によると、本発明の方法により、AuとAu以外の他の金属との合金ナノ粒子を製造することができた。また、ソリューションプラズマによる処理を施すことにより、析出される粒子の粗大化を抑制して粒径が20nm以下のごく微小な合金ナノ粒子を形成することができた。そのため、本構成によると、触媒作用、光学特性、磁場特性などの種々の特別な性質を有する合金ナノ粒子を実現することができる。
【0053】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0054】
2 液相(水溶液)
3 気相
4 ソリューションプラズマ
5 容器
6 電極
6A カソード電極
6B アノード電極
8 外部電源
9 絶縁部材
10 ソリューションプラズマ発生装置


図1
図2
図7
図9
図12
図15
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図8A
図8B
図10A
図10B
図11A
図11B
図13A
図13B
図14A
図14B