(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6090789
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】溶接における部品識別方法および溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 37/04 20060101AFI20170227BHJP
B23K 9/007 20060101ALI20170227BHJP
B23K 9/235 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
B23K37/04 Y
B23K9/007
B23K9/235 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-224245(P2013-224245)
(22)【出願日】2013年10月29日
(65)【公開番号】特開2015-85344(P2015-85344A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2015年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】恒吉 剛
【審査官】
竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−58064(JP,A)
【文献】
特開昭60−50082(JP,A)
【文献】
特開2000−61634(JP,A)
【文献】
特開平7−88727(JP,A)
【文献】
特開2000−129712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00 − 37/08
B23K 9/00 − 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方部品を他方部品に仮溶接する溶接において、
一方部品の仮溶接予定箇所に設けた切欠溝状の部品識別用の凹部により一方部品と他方部品とが互いに離れて形成される目視可能な隙間から一方部品の選択の正誤を識別する
ことを特徴とする溶接における部品識別方法。
【請求項2】
一方部品に設けられた部品識別用の凹部と、この部品識別用の凹部と対応する他方部品の非溶接箇所に設けられた誤組み防止用の凹部とにより、部品の組み合わせの正誤を識別する
ことを特徴とする請求項1記載の溶接における部品識別方法。
【請求項3】
一方部品を他方部品に仮溶接した後に本溶接する溶接方法において、
一方部品の仮溶接予定箇所に切欠溝状の部品識別用の凹部を設け、
この一方部品の凹部が設けられた部分を他方部品に仮溶接して一方部品と他方部品とが互いに離れて形成される目視可能な凹部の隙間を埋め、
この仮溶接された部分によりルート部溶け込みを確保しつつ一方部品を他方部品に本溶接する
ことを特徴とする溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮溶接をする際に溶接しようとする部品の正誤を識別する溶接における部品識別方法および溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械のある1つの車両クラスに対して出荷先地域の規制の違いなどにより2種類以上の仕様が存在しており、フレームなどの構造部品などにおいても仕様毎に類似形状の異なる部品(類似部品)が多く使用されている。ここで各仕様は同一の生産ラインにて組み立てられることが多く、製造上管理が困難となっている。
【0003】
従来は、部品毎に部品番号をマーキングしたり、刻印を行なうことで識別を行なっているが、部品番号のマーキングについては対象部品番号が多数となることで作業者の識別は困難になっており、部品番号の刻印については車両外観に影響しない程度の大きさのものであることから遠くからの判別が難しく、やはり対象部品が多数の場合に識別の効率が悪化している。また、いずれの場合も作業者が間違ったマーキングや刻印を施行するおそれもある。
【0004】
一方、電子タグやバーコードなどを利用して類似部品を識別する技術も存在するが、これらの技術は、それぞれ導入コストが必要である。
【0005】
さらに、同一形状で種類の異なるパネル部品を同一形状のパネルに組み付ける際の識別手段として、パネル部品に識別用の突起あるいは孔を設けこれらを接触感知式の検出器で検知して識別する技術が開示されているが(特許文献1参照)、この技術も、導入コストが必要である。
【0006】
このため、複数の類似部品の中から選択した部品が正しいことを作業者が短時間の目視で識別し正しい部品の組み合わせであることを確認することが容易に可能となるような、安価な識別方法が製造サイドより求められている。
【0007】
また、溶接方法と関連する板金部品のマーキング方法として、溶接加工の際の溶接位置を示す複数の目印穴を母材の溶接箇所に加工し、これらの目印穴によって母材に位置決めされた部品を溶接する技術が開示され(特許文献2参照)、さらに、ローダ用のバケット構造として、構造部品にこの部品を自動的に位置決めする位置決めタブおよび係合縁部を設けてロボットで取り扱えるとともに仮溶接できるようにした技術が開示されている(特許文献3参照)。
【0008】
このような溶接方法と関連する位置決め技術は、部品が所定の場所に位置決めされていれば、それが類似の誤部品であっても、識別されることなく溶接されてしまうおそれがある。
【0009】
さらに、
図4に示される作業機械1の下部走行体2に対し旋回可能な上部旋回体3には、ブーム4bm、スティック4stおよびバケット4bkなどで構成される作業装置4を支持するために、
図5に示されるメインフレーム5が設けられているが、このようなメインフレーム5を複数のプレート部品を溶接して組み立てる際に、複数の類似部品の中から該当部品を選択するために、例えばプレート部品5aに加工された切欠部6、プレート部品5bに加工された切欠部7、プレート部品5cに加工された突起8または孔などを用いて該当部品を識別している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭60−50082号公報
【特許文献2】特開平11−28516号公報
【特許文献3】特開2000−129712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これらの切欠部6,7、突起8または孔などを用いた識別方法は、外観に影響する箇所や、強度に影響する箇所には適用できない場合があり、また、周囲を板部品に囲まれるなどのレイアウト上適用できない箇所もある。
【0012】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、一方部品を他方部品に溶接しようとする作業者が短時間の目視で容易に一方部品の正誤を正確に識別することが可能となる溶接における安価な部品識別方法と、上記識別が可能となるとともに外観や強度に影響する箇所にも適用できる溶接方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載された発明は、一方部品を他方部品に仮溶接する溶接において、一方部品の仮溶接予定箇所に設けた
切欠溝状の部品識別用の凹部により一方部品と他方部品と
が互いに離れて形成される目視可能な隙間から一方部品の選択の正誤を識別する溶接における部品識別方法である。
【0014】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載の溶接における部品識別方法において、一方部品に設けられた部品識別用の凹部と、この部品識別用の凹部と対応する他方部品の非溶接箇所に設けられた誤組み防止用の凹部とにより、部品の組み合わせの正誤を識別する溶接における部品識別方法である。
【0015】
請求項3に記載された発明は、一方部品を他方部品に仮溶接した後に本溶接する溶接方法において、一方部品の仮溶接予定箇所に
切欠溝状の部品識別用の凹部を設け、この一方部品の凹部が設けられた部分を他方部品に仮溶接して
一方部品と他方部品とが互いに離れて形成される目視可能な凹部の隙間を埋め、この仮溶接された部分によりルート部溶け込みを確保しつつ一方部品を他方部品に本溶接する溶接方法である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明によれば、一方部品の仮溶接予定箇所に設けた
切欠溝状の凹部により一方部品と他方部品と
が互いに離れて形成される目視可能な隙間から一方部品の選択の正誤を識別するので、この識別を溶接に係わる作業者が短時間の目視で容易にかつ正確にすることが可能となり、複数の類似部品の中から誤選択された一方部品の溶接を防止できる安価な部品識別方法を提供できる。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、部品識別用の凹部を有する一方部品に対して相手方の他方部品にも誤組み防止用の凹部を設けたので、これらの凹部により部品の組み合わせの正誤を識別することも可能であり、部品選択の誤りを防止する上でより高い効果を得ることができる。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、一方部品の仮溶接予定箇所に
切欠溝状の部品識別用の凹部を設けることで、この一方部品が複数の類似部品の中から誤選択されたものであれば、
凹部により一方部品と他方部品とが互いに離れて形成される目視可能な隙間から作業者が短時間の目視で正確に識別することが容易に可能となり、仮溶接前の作業者の目視によって、誤選択された一方部品の仮溶接を防止でき、しかも、最終的に本溶接が完了した時点で凹部が本溶接のルート部溶け込みによって確実に埋まるので、凹部が外観や強度に影響しない溶接方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る溶接における部品識別方法および溶接方法の一実施の形態を示す斜視図であり、(a)は凹部を有する一方部品を他方部品に位置合せした状態であり、(b)は仮溶接した状態であり、(c)は本溶接した状態である。
【
図2】同上識別方法および溶接方法における凹部のメインフレームにおける設置箇所を示す斜視図である。
【
図3】同上識別方法および溶接方法における凹部の変形例を示す斜視図である。
【
図5】従来の部品識別手段を有するメインフレームの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を、
図1および
図2に示された一実施の形態、
図3に示された変形例に基いて、
図4に示された作業機械も参照しつつ、詳細に説明する。
【0021】
図2は、
図4に示された作業機械1の下部走行体2に対し旋回可能の上部旋回体3にあって作業装置4を支持する溶接構造物としてのメインフレーム5を示し、その一方部品(縦板部)11を他方部品(底板部)12に溶接して組み立てるに際して、溶接ひずみ等を低減し正しい寸法を保つため本溶接の前には必ず仮溶接を行なうことから、この仮溶接を行なう仮溶接予定箇所に一方部品11の識別マークとして機能する切欠溝状の凹部13を設ける。
【0022】
すなわち、
図1(a)に示されるように、一方部品11を他方部品12に仮溶接する仮溶接予定箇所に一方部品識別用の凹部13を設ける。
【0023】
具体的には、組立時に仮溶接を行なう予定の箇所に2mm程度の深さを有する凹部13を設けて識別手段とする。脚長が6mm以上となる2つの部品を溶接する箇所であれば、部品の種類を問わず種々の部品間での適用が可能である。
【0024】
凹部13の長さ、個数などを変えることで機種に応じた多くの識別パターンを準備する
。
【0025】
そして、作業者は、一方部品11の仮溶接予定箇所に設けた部品識別用の凹部13により一方部品11と他方部品12との間に生じた隙間を目視することで一方部品11の選択の正誤を識別し、この一方部品11が適切な部品(構造部品の組み合わせ)であることを確認した後、
図1(b)に示されるように、この一方部品11の凹部13が設けられた部分を他方部品12に仮溶接し、この仮溶接された部分14により凹部13の隙間を埋めるとともに、一方部品11を他方部品12に本溶接して組み立てるに際して溶接ひずみ等を低減し正しい寸法を保つようにする。
【0026】
さらに、
図1(c)に示されるように、この仮溶接された部分14によりルート部溶け込みを確保しつつ一方部品11の当接縁全体を他方部品12に本溶接することで、本溶接された部分15により凹部13の隙間を完全に埋めるようにする。
【0027】
次に、
図1に示された実施の形態の効果を説明する。
【0028】
仮溶接予定箇所は溶接に係わる作業者が溶接作業を開始する際、最初に必ず目視する箇所であり、その仮溶接予定箇所に識別となる凹部13を設けることで、溶接に係わる作業者の見落としが無くなり、作業者に容易かつ確実に識別を確認させることができる。
【0029】
すなわち、一方部品11の仮溶接予定箇所に設けた凹部13により一方部品11の正誤を溶接に係わる作業者に識別させるので、この作業者は一方部品11の正誤を短時間の目視で容易にかつ正確に識別することができ、複数の類似部品の中から誤選択された部品の仮溶接を防止できる。
【0030】
また、部品識別用の凹部13により生じた隙間は仮溶接された部分14によって埋められ、本溶接された部分15によってルート部溶け込みがなされることから、本溶接後は外側から凹部13が全く見えなくなり、車両の外観に影響しない。
【0031】
さらに、一方部品11の仮溶接予定箇所に深さ2mm程度の凹部13を設けることで、作業者の目視確認が確実になされるとともに、仮溶接にて凹部13の隙間を埋めて本溶接時におけるルート部溶け込みを確保し強度を保つことができることから、部品識別用の凹部13を設けても強度面での問題が発生しない。
【0032】
凹部13の有無、長さや個数を変えるだけで複数機種に対応する複数部品の部品識別が可能となる。また、部品単品の識別だけでなく、複数部品間で長さや個数などの識別形状を統一することで、部品を組み合わせるときの間違いすなわち誤組みのおそれを低減できる。
【0033】
電子タグやバーコードなどを用いることなく安価に識別が可能である。
【0034】
以上のように、仮溶接前で誤選択された一方部品11の仮溶接を防止するために、この一方部品11の部品端部の仮溶接予定箇所に凹部13を設けることで、作業者の目視により一方部品11の正誤を容易にかつ確実に識別することができるとともに、凹部13を仮溶接予定箇所に設けることで、最終的に本溶接が完了した時点で、凹部13が本溶接のルート部溶け込みによって確実に埋まるので、強度にも外観にも影響しない溶接方法を提供できる。
【0035】
次に、
図3は、
図1(a)の変形例を示し、一方部品11に設けられた部品識別用の凹部13と、この凹部13と対応する他方部品12の非溶接箇所(側端縁部)に切欠溝状に設けられた誤組み防止用の凹部16とにより、部品の組み合わせの正誤を識別する際の識別パターンを形成する。
【0036】
このように、一方部品11を溶接する相手方の他方部品12にも、部品識別用の凹部13と対応する誤組み防止用の凹部16を設け、すなわち溶接する2つの部品それぞれに対応する凹部13,16を設け、これらの凹部13,16の組み合わせで識別を行なう場合は、隣り合う2つの部品の組み合わせが正しいかどうかの識別も可能となり、部品選択の誤りを防止する上でより高い効果、すなわち誤選択防止効果に加えて誤組み防止効果を得ることができる。
【0037】
なお、
図1乃至
図3に示された実施の形態は、
図4に示される作業機械1の上部旋回体3におけるメインフレーム5に適用されたものであるが、作業機械1の作業装置4を構成するブーム4bm、スティック4stなどの溶接構造物の組立に際しても本発明を適用できる。
【0038】
さらには、作業機械1だけでなく、他の技術分野における溶接構造物の組立に際しても本発明を適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、溶接方法を実施する事業者にとって産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0040】
11 一方部品
12 他方部品
13 部品識別用の凹部
14 仮溶接された部分
15 本溶接された部分
16 誤組み防止用の凹部