(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、イソロイシン、ロイシンおよびバリンから選ばれる少なくとも一種の分岐鎖アミノ酸またはその塩(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)を含む、癌幹細胞を含む癌に対する、化学療法剤の抗腫瘍活性を増強するための剤(または組成物)および/または癌幹細胞の分化を誘導するための剤(または組成物)(以下、これらの製剤を本発明の剤または組成物とも称する)を提供するものである。
【0015】
更なる態様において、本発明の剤(または組成物)は、癌幹細胞を含む癌の転移を抑制するための剤(または組成物)であり得る。
【0016】
本発明の剤または組成物は、イソロイシン、ロイシンおよびバリンから選ばれる少なくとも一種の分岐鎖アミノ酸またはその塩(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩を含む組み合わせ)が、癌幹細胞の癌非幹細胞への分化を促進し、この効果により癌幹細胞を含む癌に対する化学療法剤の抗腫瘍活性を増強することを見出したことに基づき完成したものである。一般に、癌幹細胞は増殖のスピードが遅いために、化学療法剤に対して抵抗性を示す。これに対して、分化した癌細胞(癌非幹細胞)は、一般に増殖のスピードが速いために、化学療法剤に対する感受性が高い。従って、イソロイシン、ロイシンおよびバリンから選ばれる少なくとも一種の分岐鎖アミノ酸またはその塩(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩を含む組み合わせ)を、癌幹細胞を含む癌に適用し、癌幹細胞の癌非幹細胞への分化を促進することにより、当該癌の化学療法剤に対する感受性が高まり、その結果、当該癌に対する化学療法剤の抗腫瘍活性が増強される。
【0017】
更なる態様において、本発明の剤または組成物は、イソロイシン、ロイシンおよびバリンから選ばれる少なくとも一種の分岐鎖アミノ酸またはその塩(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩を含む組み合わせ)が、癌幹細胞の癌非幹細胞への分化を促進し、この効果により癌幹細胞を含む癌の転移能を抑制することを見出したことに基づき完成したものである。
【0018】
本発明において、癌幹細胞とは、自己複製能および多分化能を有しており、同所性の移入を行ったときに、腫瘍惹起能力を有している(ここで形成される腫瘍は、癌幹細胞が由来する起源の腫瘍のフェノコピーである)癌細胞をいう(Nat Rev Cancer, vol.5, pages425-436, 2006)。
【0019】
種々の癌において、癌幹細胞に特異的に発現するマーカーの存在が知られているので、これらのマーカーの発現に基づいて、癌細胞が癌幹細胞であるか否か、あるいは癌に癌幹細胞が含まれるかを評価することができる。一態様において、肝臓癌幹細胞はEpCAM
+AFP
+である(Cancer Research, vol. 65, No. 8, pages 1451-1461, 2008)。一態様において、大腸癌幹細胞はCD44
+CD24
+である(PNAS, vol. 171, No. 8, pages 3722-3727, 2010)。一態様において、乳癌幹細胞はCD44
+CD24
low+EpCAM
+である(PNAS, vol. 100, No. 7, pages 3982-3988, 2003)。一態様において、膵臓癌幹細胞はCD44
+である。ここで、これらのマーカーの発現は、これらのマーカータンパク質に対する特異的抗体を用いたフローサイトメトリーまたは免疫組織学的染色によって評価し、少なくともいずれか一方の方法によって特異的染色が認められた場合に当該マーカー発現陽性(+)と決定する。フローサイトメトリーまたは免疫組織学的染色に有用なこれらのマーカータンパク質に対する特異的抗体は広く市販されているので、当業者であればこれらの抗体を用いて容易に癌細胞が癌幹細胞であるか否か、あるいは癌に癌幹細胞が含まれるかを評価することができる。
【0020】
更なる態様において、胃癌幹細胞はCD44
+である。
【0021】
また、これらの癌幹細胞のマーカー発現の減少を指標に、癌幹細胞の癌非幹細胞への分化を評価することができる。特定条件下での処理前と比較して当該処理後に癌における癌幹細胞のマーカーの発現が減少した場合、当該処理により癌幹細胞の癌非幹細胞への分化が誘導されたとすることができる。ここで、癌細胞全体における癌幹細胞のマーカータンパク質を発現している細胞数の比率、または癌全体における癌幹細胞のマーカータンパク質量のいずれか一方が減少した場合に、癌幹細胞のマーカーの発現が減少したと判断される。
【0022】
本発明において、癌にはあらゆる組織由来の癌が包含される。癌としては、例えば、肝癌、大腸癌、腎臓癌、黒色腫、膵癌、甲状腺癌、胃癌、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌)、脳腫瘍、子宮癌、乳癌、多発性骨肉腫、卵巣癌、慢性白血病、前立腺癌、急性リンパ性白血病、胚細胞腫、急性骨髄性白血病、悪性リンパ腫、繊毛癌、小児悪性腫瘍、胆嚢・胆管癌等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
一態様において、本発明の剤が適用される、癌幹細胞を含む癌は、化学療法剤抵抗性である。「化学療法剤抵抗性」とは、ヒトへの適用が認められている最大用量の化学療法剤の投与時において、有意に検出可能な応答を示さない性質をいう。上述のように、癌幹細胞は増殖のスピードが遅いために、化学療法剤に対して抵抗性を示すため、化学療法剤抵抗性の癌には、多くの癌幹細胞が含まれている可能性がある。そこで、特定の化学療法剤に抵抗性を有する癌に対して、本発明の剤または組成物を適用することにより、癌幹細胞から癌非幹細胞への分化が促進され、癌の当該化学療法剤に対する感受性が高くなることが期待される。
【0024】
上述の癌のうち、肝癌、大腸癌、腎臓癌、黒色腫、膵癌、甲状腺癌、胃癌、肺癌、乳癌および非小細胞肺癌は、一般的に化学療法剤に対する感受性が低く、化学療法剤が効きにくいことが知られている。従って、本発明の剤または組成物をこれらの癌(好ましくは胃癌、肝癌、乳癌または大腸癌)に適用し、これらの癌に含まれる癌幹細胞の分化を促進することにより、これらの癌の化学療法剤への感受性が高くなることが期待される。
【0025】
本発明において、化学療法剤とは、癌細胞に直接作用し、その分裂を抑制し、殺傷する能力を有する化合物をいう。化学療法剤としては、代謝拮抗剤、白金製剤、アルキル化剤、抗癌性抗生物質、植物アルカロイド、分子標的治療剤等を挙げることができる。
【0026】
代謝拮抗剤とは、癌細胞が分裂・増殖する際に、核酸の材料となる物質と化学的構造が近似している物質でDNAの合成を妨げ、癌細胞の代謝を阻害して、増殖を抑制する化学療法剤をいう。代謝拮抗剤としては、5−フルオロウラシル(5FU)、テガフール、カルモフール、ドキシフルリジン、ブロクスウリジン、シタラビン、エノシタビン、ヒドロキシフリジン、ヒドロキシカルバミド、メトトレキサート、リン酸フルダラビン等のピリミジン代謝拮抗剤;6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、チオイノシン、塩酸ゲムシタビン等のプリン代謝拮抗剤等が挙げられる。一態様において、代謝拮抗剤は好ましくはピリミジン代謝拮抗剤であり、より好ましくは5−フルオロウラシルまたはテガフールである。
【0027】
白金製剤とは、DNAの構成塩基であるグアニン、アデニンのN−7位に、2つの塩素原子部位で結合し、DNA鎖内に架橋を形成し、DNA合成を阻害することによって癌細胞の増殖を抑制する効果を発揮する化学療法剤をいう。白金製剤としては、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン等が挙げられる。
【0028】
アルキル化剤とは、DNAをアルキル化することにより切断して癌細胞の増殖を抑制する効果を発揮する化学療法剤をいう。アルキル化剤としては、ナイトロジェンマスタード、ナイトロジェンマスタードN−オキシド、クロラムブシル等のナイトロジェンマスタード系アルキル化剤;カルボコン、チオテパ等のエチレンイミン誘導体;ブスルファン、トシル酸インプロスルファン等のスルホン酸エステル類;塩酸ニムスチン等のニトロソウレア誘導体等が挙げられる。
【0029】
抗癌性抗生物質としては、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、THP−アドリアマイシン、4’−エピドキソルビシン、エピルビシン等のアントラサイクリン系抗生物質抗腫瘍剤;クロモマイシンA
3、アクチノマイシンD等が挙げられる。
【0030】
植物アルカロイドとしては、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン等のビンカアルカロイド類;エトポシド、テニポシド等のエピポドフィロトキシン類;パクリタキセル、ドタキセル等のタキサン系アルカロイド等が挙げられる。
【0031】
分子標的治療剤とは、癌細胞の増殖に関わる分子を標的にして、その分子を阻害することにより癌細胞を殺傷する活性を有する化合物をいう。分子標的治療剤としては、イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、バンデタニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、リツキシマブ、セツキシマブ、インフリキシマブ、トラスツズマブ、ベバシツマブ等を挙げることができる。
【0032】
一態様において、本発明の剤または組成物は、肝臓癌幹細胞を含む肝臓癌に対する、代謝拮抗剤(好ましくはピリミジン代謝拮抗剤、より好ましくは5−フルオロウラシルまたはテガフール)の抗腫瘍活性を増強するためのものである。
【0033】
一態様において、本発明の剤または組成物は、大腸癌幹細胞を含む大腸癌に対する、代謝拮抗剤(好ましくはピリミジン代謝拮抗剤、より好ましくは5−フルオロウラシルまたはテガフール)の抗腫瘍活性を増強するためのものである。
【0034】
一態様において、本発明の剤または組成物は、胃癌幹細胞を含む胃癌、結腸癌幹細胞を含む結腸癌、子宮頸癌幹細胞を含む子宮頸癌、子宮体癌幹細胞を含む子宮体癌、消化器癌幹細胞を含む消化器癌、膵癌幹細胞を含む膵癌、直腸癌幹細胞を含む直腸癌、乳癌幹細胞を含む乳癌、又は卵巣癌幹細胞を含む卵巣癌に対する、代謝拮抗剤(好ましくはピリミジン代謝拮抗剤、より好ましくは5−フルオロウラシルまたはテガフール)の抗腫瘍活性を増強するためのものである。
【0035】
本発明の剤または組成物における有効成分(分岐鎖アミノ酸)である、イソロイシン、ロイシンおよびバリンはそれぞれL−体、D−体、DL−体いずれも使用可能であるが、好ましくはL−体、DL−体であり、さらに好ましくはL−体である。
【0036】
イソロイシン、ロイシンおよびバリンは、それぞれ、遊離体のみならず、塩の形態でも使用することができる。塩の形態としては、酸付加塩や塩基付加塩等を挙げることができるが、化学的に許容されうる塩であればいずれの形態を採ることもできる。本発明の剤または組成物が通常は医療目的で用いられる観点から、塩の形態としては、医薬として許容される塩が好ましい。
【0037】
医薬として許容される塩としては、例えば酸との塩、塩基との塩が挙げられる。イソロイシン、ロイシンまたはバリンにそれぞれ付加して医薬として許容される塩を形成する酸としては、例えば、塩化水素、臭化水素酸、硫酸、リン酸等の無機酸や、酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸またはモノメチル硫酸等の有機酸が挙げられる。イソロイシン、ロイシン、またはバリンにそれぞれ付加して医薬として許容される塩を形成する塩基としては、例えば、ナトリウム、カリウムなどの金属の水酸化物や、カルシウム等の金属の炭酸化物、アンモニア等の無機塩基、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、エタノールアミン、モノアルキルエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基が挙げられる。
【0038】
本発明の剤または組成物は、イソロイシン、ロイシンおよびバリンから選ばれる少なくとも一種の分岐鎖アミノ酸またはそれらの塩が含有されていれば良く、以下の態様が本発明に包含される:
イソロイシンまたはその塩のみを分岐鎖アミノ酸として含有する態様;
ロイシンまたはその塩のみを分岐鎖アミノ酸として含有する態様;
バリンまたはその塩のみを分岐鎖アミノ酸として含有する態様;
イソロイシンまたはその塩およびロイシンまたはその塩を分岐鎖アミノ酸として含有する態様;
イソロイシンまたはその塩およびバリンまたはその塩を分岐鎖アミノ酸として含有する態様;
ロイシンまたはその塩およびバリンまたはその塩を分岐鎖アミノ酸として含有する態様;並びに
イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩を分岐鎖アミノ酸として含有する態様。
本発明の剤または組成物は、好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩を含有する。
【0039】
本発明の剤または組成物に含まれる分岐鎖アミノ酸の配合比(重量比)は、当業者であれば、本発明の剤が所望の活性(例えば、癌幹細胞の分化を誘導する活性、或いは癌幹細胞を含む癌に対する、化学療法剤の抗腫瘍活性を増強する活性)を有する範囲で、適宜調整することが可能であるが、例えばイソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩を含有する態様においては、かかる3種のアミノ酸の配合比(イソロイシン:ロイシン:バリン)は、重量比として、通常1:1〜3:0.5〜2.0であり、好ましくは1:1.5〜2.5:0.8〜1.5であり、より好ましくは1:1.9〜2.2:1.1〜1.3であり、最も好ましくは1:2:1.2である。尚、本発明の剤が、イソロイシンの塩、ロイシンの塩、またはバリンの塩を含有する場合、重量比の計算は、各分岐鎖アミノ酸の塩を、全て遊離体に換算した上で行うものとする。
【0040】
本発明の剤および組成物は、動物(好ましくは、ヒト等の哺乳動物)に投与することができる。
【0041】
本発明の剤または組成物を、癌幹細胞を含む癌に対する、化学療法剤の抗腫瘍活性を増強するための剤(または組成物)、或いは癌幹細胞の分化を誘導するための剤(または組成物)として使用する場合、その投与形態・剤型は、経口投与、非経口投与のいずれでもよく、経口投与剤としては、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、チュアブル剤などの固形剤、溶液剤、シロップ剤などの液剤が、また、非経口投与剤としては、注射剤、輸液剤、経鼻・経肺用スプレー剤などが挙げられる。本発明の剤または組成物は、通常の方法によって、これらの剤型の医薬に製剤化することができる。
【0042】
患者への負担を軽減する観点からは、分岐鎖アミノ酸は対象者に対して経口投与することが好ましい。一方、経口投与が困難な患者に対しては、分岐鎖アミノ酸をアミノ酸輸液として経静脈・動脈投与することができる。
【0043】
また、本発明の剤は、製剤上の必要に応じて、適宜の薬学的に許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、溶剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、矯味矯臭剤、着色剤などを配合して製剤化される。さらに本発明の組成物は、上記担体と共に調製することができる。
【0044】
賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトールなどの糖類、でんぷん類、結晶セルロースなどのセルロース類などの有機系賦形剤、炭酸カルシウム、カオリンなどの無機系賦形剤などが、結合剤としては、α化デンプン、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、D−マンニトール、トレハロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが、滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸塩などの脂肪酸塩、タルク、珪酸塩類などが、溶剤としては、精製水、生理的食塩水などが、崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、化学修飾されたセルロースやデンプン類などが、溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが、懸濁化剤あるいは乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、アラビアゴム、ゼラチン、レシチン、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース類、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが、等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリン、尿素などが、安定化剤としては、ポリエチレングリコール、デキストラン硫酸ナトリウム、その他のアミノ酸類などが、無痛化剤としては、ブドウ糖、グルコン酸カルシウム、塩酸プロカインなどが、防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが、抗酸化剤としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸などが、矯味矯臭剤としては、医薬および食品分野において通常に使用される甘味料、香料などが、着色剤としては、医薬および食品分野において通常に使用される着色料が挙げられる。
【0045】
本発明の剤または組成物における有効成分がアミノ酸であり、安全性に優れているため、一態様において、本発明の剤または組成物は飲食品として提供することが可能である。本発明の剤または組成物を飲食品として提供する場合には、特に困難はなく、例えば、有効成分である分岐鎖アミノ酸(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)を、ジュース、牛乳、菓子、ゼリー等の飲食品と混合することにより調製することができる。ビタミン類や他のサプリメント類を添加してもよい。得られた飲食品は保健機能食品として提供することも可能である。
【0046】
保健機能食品とは、身体の生理学的機能や生物学的活動に影響を与える保健機能成分を含み、食生活において特定の保健の目的で摂取をするものに対し、その摂取により当該保健の目的が期待できる食品である。
【0047】
保健機能食品は、場合によっては機能性食品、健康食品(栄養サプリメントを含む)などと称されることもある。機能性食品とは食品中に含まれる生体調節成分の機能を生かして作られる食品であり、健康食品とは一般的には健康増進に役立つとされている食品群のことをいう。その中には特定の栄養素を主成分にした栄養サプリメントも含まれる。
【0048】
保健機能食品には、特定保健用食品および栄養機能食品を含み、化学療法剤の投与を受けている、癌幹細胞を含む癌に罹患している患者、または癌幹細胞を含む癌に罹患歴を有する患者における日常の栄養補助食品として摂食させることによって、癌の当該化学療法剤に対する感受性を高めることができる。
【0049】
このような保健機能食品には、癌幹細胞を含む癌に対する化学療法剤の抗腫瘍活性を増強するために用いるものであることの表示を付すことができる。
【0050】
本発明の剤または組成物に含まれる分岐鎖アミノ酸(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)の含有量は、製剤の形態等によって相違するが、通常、製剤全体に対して通常1〜100重量%、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは30〜100重量%、更に好ましくは50〜100重量%である。
【0051】
本発明の剤および組成物の好適な例としては、イソロイシン、ロイシンおよびバリンを、1:2:1.2(イソロイシン:0.952g、ロイシン:1.904g、バリン:1.144g)の重量比で含有する分岐鎖アミノ酸製剤リーバクト(登録商標)顆粒(味の素株式会社)(経口投与剤)を挙げることができる。
【0052】
また、好適な非経口投与剤としては、高濃度アミノ酸輸液類のアミニック((登録商標)点滴静注(味の素製薬株式会社))、モリヘパミン((登録商標)点滴静注(味の素製薬株式会社))を挙げることができる。
【0053】
本発明の剤または組成物の投与量は、対象患者の年齢・体重・病態、投与方法などによっても異なるが、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩を含有する態様においては、一般の成人の場合、通常1日量として、イソロイシン0.5〜30.0g、ロイシン1.0〜60.0g、バリン0.5〜30.0gを目安とする。好ましくは、一日量として、イソロイシン2.0〜10.0g、ロイシン3.0〜20.0g、バリン2.0〜10.0g、より好ましくは、イソロイシン2.5〜3.5g、ロイシン5.0〜7.0g、バリン3.0〜4.0gであり、3種の分岐鎖アミノ酸の全体量としては1日当たり2.0g〜50.0g程度が好ましく、これを必要に応じて1〜6回、好ましくは1〜3回に分割して投与する。尚、本発明の剤または組成物が、分岐鎖アミノ酸の塩を含有する場合、投与量の計算は、各分岐鎖アミノ酸の塩を、全て遊離体に換算した上で行うものとする。
【0054】
上記本発明で使用する有効成分である分岐鎖アミノ酸の投与量(摂取量)について算出する際、本発明で目的とする疾患の治療、予防等の目的で使用される薬剤の有効成分として前記の算定範囲が決められているので、これとは別目的で、例えば通常の食生活の必要から、あるいは別の疾患の治療目的で、摂取または投与される分岐鎖アミノ酸についてはこれを前記算定に含める必要はない。例えば、通常の食生活から摂取される一日あたりの分岐鎖アミノ酸の量を前記本発明における有効成分の一日あたりの投与量から控除して算定する必要はない。
【0055】
本発明の剤が、イソロイシン、ロイシンおよびバリンから選ばれる二種または三種の分岐鎖アミノ酸またはその塩を含む態様である場合、本発明の有効成分であるイソロイシン、ロイシンおよびバリンまたはそれらの塩は、それぞれが単独で、若しくは任意の組み合わせで製剤に含有されていてもよく、または全てが1種の製剤中に含有されていてもよい。別途製剤化して投与する場合、それらの投与経路、投与剤形は同一であっても、異なっていてもよく、また各々を投与するタイミングも、同時であっても別々であってもよい。併用する薬剤の種類や効果によって適宜決定する。即ち、本発明の剤は、複数の分岐鎖アミノ酸またはそれらの塩を同時に含有する製剤であってもよく、又、それぞれを別途製剤化して併用するような併用剤であってもよい。これらの形態全てを包含するものである。特に、同一製剤中に全ての分岐鎖アミノ酸またはそれらの塩を含有する態様(例えば、同一製剤中に、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩を含有する態様)が、簡便に投与できて好ましい。
【0056】
本発明において、「重量比」とは、本発明の剤および組成物中のそれぞれのアミノ酸成分の重量の比を示す。例えば、イソロイシン、ロイシンおよびバリンの各有効成分を1つの製剤中に含めた場合には個々の含有量の比であり、各有効成分のそれぞれを単独でまたは任意の組み合わせで複数製剤中に含めた場合には、各製剤に含められる各有効成分の重量の比である。
【0057】
また本発明において、実際の投与量の比は、投与対象(即ち患者)あたりの各有効成分1回投与量あるいは1日投与量の比である。例えば、イソロイシン、ロイシンおよびバリンの各有効成分を1つの製剤中に含め、それを投与対象に投与する場合には、重量比が投与量比に相当する。各有効成分を単独でまたは任意の組み合わせで複数の製剤中に含めて投与する場合には、1回あるいは1日投与した各製剤中の各有効成分の合計量の比が重量比に相当する。
【0058】
イソロイシン、ロイシン、およびバリンは既に、医薬・食品分野において広く用いられていて、安全性は確立しており、例えば、これらの分岐鎖アミノ酸を1:2:1.2の比で含有する本発明の剤および組成物における急性毒性(LD50)は、マウスの経口投与において10g/Kg以上である。
【0059】
上述の通り、イソロイシン、ロイシンおよびバリンから選ばれる少なくとも一種の分岐鎖アミノ酸またはその塩(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩を含む組み合わせ)が、癌幹細胞の癌非幹細胞への分化を促進し、この効果により癌幹細胞を含む癌に対する、化学療法剤の抗腫瘍活性を増強する。従って、一態様において、本発明の剤または組成物は、癌幹細胞を含む癌を罹患している哺乳動物(例、ヒト)に対して投与される。該哺乳動物が保持している癌に含まれる癌幹細胞に、イソロイシン、ロイシンおよびバリンから選ばれる少なくとも一種の分岐鎖アミノ酸またはその塩(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩を含む組み合わせ)が作用することにより、癌幹細胞の癌非幹細胞への分化が促進され、該癌に対する化学療法剤の抗腫瘍活性が増強される。
【0060】
更なる態様において、イソロイシン、ロイシンおよびバリンから選ばれる少なくとも一種の分岐鎖アミノ酸またはその塩(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩を含む組み合わせ)が、癌幹細胞の癌非幹細胞への分化を促進し、CD44等の癌の転移に関与する接着分子の発現を抑制し、この効果により癌幹細胞を含む癌の転移能が抑制される。従って、一態様において、本発明の剤または組成物は、癌幹細胞を含む癌を罹患している哺乳動物(例、ヒト)に対して投与される。該哺乳動物が保持している癌に含まれる癌幹細胞に、イソロイシン、ロイシンおよびバリンから選ばれる少なくとも一種の分岐鎖アミノ酸またはその塩(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩を含む組み合わせ)が作用することにより、癌幹細胞の癌非幹細胞への分化が促進され、化学療法剤の併用を要することなく、該癌の転移が抑制される。
【0061】
別の態様において、本発明の剤または組成物は、癌幹細胞を含む癌の罹患歴を有する哺乳動物(例、ヒト)に対して投与される。癌幹細胞は、一般に細胞増殖がおそく、化学療法剤に対して抵抗性であるため、いったん癌幹細胞を含む癌を発症した場合、化学療法剤等による治療の結果、見かけ上は癌が寛解し、癌の症状が消失した場合であっても、体内に癌幹細胞が残存していて、これが癌の転移や再発の原因となっていると考えられている。癌の再発とは、治療により癌の症状が完全にまたは一部寛解した後に、再び癌細胞が増殖し、癌の症状が再び現れるかまたは悪化することを意味する。従って、本発明の剤または組成物を、癌幹細胞を含む癌の罹患歴を有する哺乳動物(例、ヒト)に対して投与することにより、その哺乳動物の体内に残存している可能性がある癌幹細胞の癌非幹細胞への分化を促進し、化学療法剤に対する感受性を増強する。
【0062】
従って、好ましい態様において、本発明の剤または組成物は、化学療法剤と組み合わせて、哺乳動物に投与される。本発明の剤または組成物を、化学療法剤と組み合わせて、癌幹細胞を含む癌を罹患している哺乳動物に投与することにより、該癌を効率的に治療することができる。また、本発明の剤または組成物を、化学療法剤と組み合わせて、癌幹細胞を含む癌の罹患歴を有する哺乳動物に投与することにより、該癌の転移や再発を効率的に予防することができる。
【0063】
従って、本発明は、イソロイシン、ロイシンおよびバリンから選ばれる少なくとも一種の分岐鎖アミノ酸またはその塩(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)(以下これらを単に分岐鎖アミノ酸と呼ぶことがある)と、化学療法剤とを組み合わせてなる、癌幹細胞を含む癌を治療するための剤(または組成物)および/または癌幹細胞を含む癌の転移または再発を予防するための剤(または組成物)(以下、これらの製剤を本発明の予防または治療剤とも称する)をも提供するものである。
【0064】
本発明の予防または治療剤に係る各用語の定義は、特に断りのない限り、上述の本発明の剤または組成物に係る各用語の定義と同一である。
【0065】
本発明の予防または治療剤を適用することが可能な癌は、上記本発明の剤または組成物が適用可能な癌と同一である。一態様において、本発明の剤が適用される、癌幹細胞を含む癌は、化学療法剤抵抗性である。
【0066】
癌のうち、肝癌、大腸癌、腎臓癌、黒色腫、膵癌、甲状腺癌、胃癌、肺癌、乳癌および非小細胞肺癌は、一般的に化学療法剤に対する感受性が低く、化学療法剤が効きにくいことが知られている。従って、本発明の予防または治療剤をこれらの癌(好ましくは胃癌、肝癌、乳癌または大腸癌)に適用すると、本発明の予防または治療剤に含まれる分岐鎖アミノ酸(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)が癌に含まれる癌幹細胞の分化を促進し、これらの癌の化学療法剤への感受性が高くなり、そこへ本発明の予防または治療剤に含まれる化学療法剤が作用することにより、結果的に癌幹細胞の効果的な殺傷が期待される。
【0067】
一態様において、本発明の予防または治療剤は、化学療法剤として代謝拮抗剤(好ましくはピリミジン代謝拮抗剤、より好ましくは5−フルオロウラシルまたはテガフール)を含み、肝臓癌幹細胞を含む肝臓癌を予防または治療するためのものである。
【0068】
一態様において、本発明の予防または治療剤は、化学療法剤として代謝拮抗剤(好ましくはピリミジン代謝拮抗剤、より好ましくは5−フルオロウラシルまたはテガフール)を含み、大腸癌幹細胞を含む大腸癌を予防または治療するためのものである。
【0069】
更なる態様において、本発明の予防または治療剤は、化学療法剤として代謝拮抗剤(好ましくはピリミジン代謝拮抗剤、より好ましくは5−フルオロウラシルまたはテガフール)を含み、胃癌幹細胞を含む胃癌を予防または治療するためのものである。
【0070】
一態様において、本発明の予防または治療剤は、化学療法剤として代謝拮抗剤(好ましくはピリミジン代謝拮抗剤、より好ましくは5−フルオロウラシルまたはテガフール)を含み、胃癌幹細胞を含む胃癌、結腸癌幹細胞を含む結腸癌、子宮頸癌幹細胞を含む子宮頸癌、子宮体癌幹細胞を含む子宮体癌、消化器癌幹細胞を含む消化器癌、膵癌幹細胞を含む膵癌、直腸癌幹細胞を含む直腸癌、乳癌幹細胞を含む乳癌、又は卵巣癌幹細胞を含む卵巣癌を予防または治療するためのものである。
【0071】
分岐鎖アミノ酸と化学療法剤の併用に際しては、分岐鎖アミノ酸と化学療法剤の投与時期は限定されず、分岐鎖アミノ酸と化学療法剤とを、投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。分岐鎖アミノ酸および化学療法剤の投与量は、目的とする効果(癌幹細胞を含む癌を治療する効果、癌幹細胞を含む癌の転移または再発を予防する効果)を達成し得る範囲で特に限定されず、投与対象、投与ルート、症状、組み合わせ等により適宜選択することが出来る。分岐鎖アミノ酸は、好ましくは、癌幹細胞の癌非幹細胞への分化を促進する量が投与され、化学療法剤は、当該癌非幹細胞を殺傷する量が投与される。
【0072】
分岐鎖アミノ酸と化学療法剤の投与形態は、特に限定されず、投与時に、分岐鎖アミノ酸と化学療法剤とが組み合わされていればよい。このような投与形態としては、例えば、(1)分岐鎖アミノ酸と化学療法剤とを同時に製剤化して得られる単一の製剤の投与、(2)分岐鎖アミノ酸と化学療法剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、(3)分岐鎖アミノ酸と化学療法剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与、(4)分岐鎖アミノ酸と化学療法剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、(5)分岐鎖アミノ酸と化学療法剤とを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与(例えば、分岐鎖アミノ酸→化学療法剤の順序での投与、あるいは逆の順序での投与)等が挙げられる。
【0073】
本発明の予防または治療剤の投与形態・剤型は、経口投与、非経口投与のいずれでもよく、経口投与剤としては、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、チュアブル剤などの固形剤、溶液剤、シロップ剤などの液剤が、また、非経口投与剤としては、注射剤、輸液剤、経鼻・経肺用スプレー剤などが挙げられる。本発明の剤または組成物は、通常の方法によって、これらの剤型の医薬に製剤化することができる。
【0074】
また、本発明の予防または治療剤は、製剤上の必要に応じて、適宜の薬学的に許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、溶剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、矯味矯臭剤、着色剤などを配合して製剤化される。
【0075】
分岐鎖アミノ酸と化学療法剤とを別々に製剤化する場合、分岐鎖アミノ酸を含む製剤中の分岐鎖アミノ酸の含有量は、上述の本発明の剤または組成物と同一である。
【0076】
また、分岐鎖アミノ酸と化学療法剤とを別々に製剤化する場合、化学療法剤を含む製剤中の化学療法剤の含有量は、分岐鎖アミノ酸との併用により、癌幹細胞を含む癌を治療し、または癌幹細胞を含む癌の転移または再発を予防し得る限り特に限定されず、製剤の形態や化学療法剤の種類によって相違するが、通常、製剤全体に対して約0.1〜99.9重量%、好ましくは約1〜99重量%、さらに好ましくは約10〜90重量%程度である。
【0077】
分岐鎖アミノ酸および化学療法剤を同時に製剤化して単一の製剤として使用する場合も、上記に準じた含有量でよい。この場合、分岐鎖アミノ酸と化学療法剤との配合比は、投与対象、投与ルート、症状、化学療法剤の種類等により適宜選択することができる。
【0078】
分岐鎖アミノ酸の投与量は、上述の本発明の剤または組成物における分岐鎖アミノ酸の投与量と同一であり、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩を含有する態様においては、一般の成人の場合、通常1日量として、イソロイシン0.5〜30.0g、ロイシン1.0〜60.0g、バリン0.5〜30.0gを目安とする。好ましくは、一日量として、イソロイシン2.0〜10.0g、ロイシン3.0〜20.0g、バリン2.0〜10.0g、より好ましくは、イソロイシン2.5〜3.5g、ロイシン5.0〜7.0g、バリン3.0〜4.0gであり、3種の分岐鎖アミノ酸の全体量としては1日当たり2.0g〜50.0g程度が好ましく、これを必要に応じて1〜6回、好ましくは1〜3回に分割して投与する。
【0079】
化学療法剤の投与量は、分岐鎖アミノ酸との併用により、癌幹細胞を含む癌を治療し、または癌幹細胞を含む癌の転移または再発を予防し得る限り特に限定されず、投与対象、症状、投与ルート、抗腫瘍剤の種類等により適宜設定することができる。
【0080】
分岐鎖アミノ酸および/または化学療法剤の投与頻度は、投与対象、症状、投与ルート、抗腫瘍剤の種類などによっても異なるが、例えば1〜7日に1回の頻度、好ましくは1〜3日に1回の頻度である。分岐鎖アミノ酸および/または化学療法剤の投与回数は、投与対象、症状、投与ルート、抗腫瘍剤の種類などによっても異なるが、通常1〜15回、好ましくは2〜10回程度である。
【0081】
上述の分岐鎖アミノ酸と化学療法剤をそれぞれ別々に製剤化して併用投与するに際しては、分岐鎖アミノ酸を含有する製剤と化学療法剤を含有する製剤とを同時期に投与してもよいが、化学療法剤を含有する製剤を先に投与した後、分岐鎖アミノ酸を含有する製剤を投与してもよいし、分岐鎖アミノ酸を含有する製剤を先に投与し、その後で化学療法剤を含有する製剤を投与してもよい。時間差をおいて投与する場合、時間差は投与する有効成分、剤形、投与方法により異なるが、例えば、分岐鎖アミノ酸を含有する製剤を先に投与する場合、分岐鎖アミノ酸を含有する製剤を投与した後、1分〜14日以内に化学療法剤を含有する製剤を投与する方法が挙げられる。化学療法剤を含有する製剤を先に投与する場合、化学療法剤を投与した後1分〜14日以内に分岐鎖アミノ酸を含有する製剤を投与する方法が挙げられる。
【0082】
上述の通り、癌幹細胞は、増殖のスピードが遅いために、化学療法剤に対して抵抗性を有する。これに対して、分化した癌細胞(癌非幹細胞)は、一般に増殖のスピードが速いために、化学療法剤に対する感受性が高い。そこで、癌幹細胞にイソロイシン、ロイシンおよびバリンから選ばれる少なくとも一種の分岐鎖アミノ酸またはその塩(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)を適用し、癌幹細胞の癌非幹細胞への分化を促進することにより、癌幹細胞を含む癌の化学療法剤への感受性が高まり、結果として、高い効率で癌幹細胞を含む癌を殺傷することが可能になる。
【0083】
このような理論に基づけば、化学療法剤の投与は、上述の分岐鎖アミノ酸(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)の投与と同時または上述の分岐鎖アミノ酸(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)の投与から一定期間後であることが好ましい。即ち、本発明の治療または予防剤の投与態様には、好ましくは上述の分岐鎖アミノ酸(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)と化学療法剤とを同時に投与する工程、または上述の分岐鎖アミノ酸(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)を投与し、その後化学療法剤を投与する工程が含まれる。
【0084】
従って、本発明の予防または治療剤の投与プロトコールには、好ましくは、
(1)上述の分岐鎖アミノ酸(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)および化学療法剤を同時に単回または複数回投与すること、
(2)第一段階として上述の分岐鎖アミノ酸(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)を単回または複数回投与し、第二段階として化学療法剤を単回または複数回投与すること、
(3)第一段階として上述の分岐鎖アミノ酸(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)を単回または複数回投与し、第二段階として上述の分岐鎖アミノ酸(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)および化学療法剤を同時期に単回または複数回投与すること、
(4)(2)または(3)の工程を複数回繰り返すこと
等の工程が含まれる。
【0085】
(1)の具体的な態様としては、例えば、肝臓癌幹細胞を含む肝臓癌を予防または治療する場合に、上述の分岐鎖アミノ酸(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)を含有する輸液剤を、肝動脈注入化学療法施行時に化学療法剤とともに動脈内に注入することを挙げることができる。更に、インターフェロンを上記輸液剤及び化学療法剤とともに動脈内に注入してもよい。
【0086】
(2)〜(4)において、第一段階の最後の投与と第二段階の最後の投与との間隔は、投与対象、症状、投与ルート、化学療法剤の種類などによっても異なるが、通常1分〜14日以内である。
【0087】
(2)〜(4)において、第一段階における上述の分岐鎖アミノ酸(好ましくは、イソロイシンまたはその塩、ロイシンまたはその塩、およびバリンまたはその塩)の投与の後に、癌幹細胞が癌非幹細胞へ分化したか否かを確認してもよい。当該確認は、例えば上述したように、癌幹細胞のマーカーの発現を、当該マーカータンパク質を特異的に認識する抗体を用いた免疫学的手法により、測定することにより実施することができる。上述の分岐鎖アミノ酸の投与前と比較して当該投与後において癌における癌幹細胞のマーカーの発現が減少した場合に、当該投与により癌幹細胞の癌非幹細胞への分化が誘導されたとすることができる。そして、癌幹細胞の癌非幹細胞への分化の誘導を確認した後で、第二段階である化学療法剤の投与を実施することができる。
【0088】
更なる態様において、本発明の剤または組成物を、癌幹細胞を含む癌の罹患歴を有する哺乳動物(例、ヒト)に対して投与することにより、その哺乳動物の体内に残存している可能性がある癌幹細胞の癌非幹細胞への分化を促進し、癌幹細胞の癌非幹細胞への分化が促進され、CD44等の癌の転移に関与する接着分子の発現を抑制し、この効果により癌幹細胞を含む癌の転移能が抑制される。従って、本発明の剤または組成物を、癌幹細胞を含む癌の罹患歴を有する哺乳動物に投与することにより、化学療法剤の併用を要することなく、該癌の転移や再発を効率的に予防することができる。
【実施例】
【0089】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に述べる。なお、以下の実施例は、本発明の一例について具体的に説明するものであって、本発明をこれに限定するものではない。
【0090】
実施例1:ヒト肝臓癌細胞株HAK4における幹細胞マーカーおよび分化マーカーの発現に対するBCAAの効果
ヒト肝臓癌細胞株HAK4を12000個/wellの濃度でプレートに播種し、2mM BCAAまたはLC 2.5%培地中で72時間培養した。BCAAはイソロイシン、ロイシンおよびバリンからなる混合物(重量比:イソロイシン:ロイシン:バリン=1:2:1.2)である。BCAAの濃度「2mM」は、イソロイシン、ロイシンおよびバリンの全アミノ酸の濃度の合計である。
LC 2.5%培地の組成を以下の表に示す。尚、LC 2.5%の「2.5%」は牛血清の含有量を示している。
【0091】
【表1】
【0092】
なお、Fischer’s ratioは、Valine + Leucine + Isoleucine/ Tyrosine + Phenylalanineを意味する。
【0093】
72時間培養後に細胞を回収し、細胞のペレットに1mlのISOGEN(ニッポン・ジーン)を加えることにより細胞を溶解し、5分間室温に静置した。得られた溶解物に0.2mlのクロロホルムを加え、15秒間激しく振り、2〜3分間室温に静置し、12000×g、4℃にて15分間遠心分離した。有機相および中間相を除去し、得られた水相に0.5mlのイソプロパノールを加え、5〜10分間室温に静置し、12000×g、4℃にて10分間遠心分離した。上清を除き、沈殿物に少なくとも1mlの75(v/v)%エタノールを加え、ボルテックスをし、7500×g、4℃にて5分間遠心分離した。上清を除き、沈殿物を短時間乾燥し、蒸留水を加え、溶解することにより、全RNA溶液を得た。
【0094】
RT−PCR 7500を用いたRT−PCRにより、EpCAM(Epithelial cell adhesion molecule;肝臓癌幹細胞のマーカー)、AFP(α-feto protein;肝臓癌マーカーおよび肝臓癌幹細胞のマーカー)およびCYP3A4(cytochrome P450 3A4;分化マーカー)のmRNAの発現を定量した。RT−PCRに用いたプライマーを以下の表に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
結果を
図1に示す。BCAAにより、HAK4細胞において、肝臓癌幹細胞のマーカーであるEpCAMおよびAFPの発現が低下し、分化マーカーであるCYP3A4の発現が上昇した。
【0097】
実施例2:ヒト肝臓癌細胞株HAK4に対する5FU(5-fluorouracil)とBCAAとの併用の効果(in vitro試験)
ヒト肝臓癌細胞株HAK4を3000個/wellの濃度でプレートに播種し、以下の条件下で72時間培養した:
・LC 2.5%培地
・BCAA(2mM)
・5FU(2.5μg/ml)
・BCAA(2mM)+5FU(2.5μg/ml)
【0098】
72時間後に、ApoAlert Annexin V-FITC Apoptosis kit(Clontech)を用いて細胞をannexin Vで染色および固定し、Array Scan(Thermo Fisher)でアポトーシス細胞(%)を検出した。
即ち、96穴プレート中の細胞を1X Binding Bufferでリンスし、各ウェルにannexin V(1μl)を含有する1X Binding Bufferを40μl加え、暗中、室温にて5〜15分間、インキュベートした。細胞を洗浄し、2%ホルムアルデヒド中で固定した。ヘキスト33258溶液を含むPBSを100μl加え、暗中5分間インキュベートした後、Array Scanでアポトーシス細胞(%)を検出した。
【0099】
結果を
図2に示す。BCAA単独処理では、アポトーシス細胞数に有意な変化は認められなかった。5FU単独処理によりアポトーシス細胞が増加し、BCAAを併用すると、5FUによるアポトーシス誘導を増強した。以上の結果から、BCAAは、5FUの抗腫瘍効果を増強することが示唆された。
【0100】
実施例3:ヒト肝臓癌細胞株HAK1Bにおける幹細胞マーカーおよび分化マーカーの発現に対するBCAAの効果
実施例1と同様に、ヒト肝臓癌細胞株HAK1Bを4000個/wellの濃度でプレートに播種し、2mM BCAAまたはLC 2.5%培地中で72時間培養した。72時間培養後に細胞を回収し、ISOGEN(ニッポン・ジーン)により全RNAを精製した。RT−PCRにより、EpCAM、AFPおよびCYP3A4のmRNAの発現を定量した。
【0101】
結果を
図3に示す。BCAAにより、HAK4細胞と同様に、HAK1B細胞においても、肝臓癌幹細胞のマーカーであるEpCAMおよびAFPの発現が低下し、分化マーカーであるCYP3A4の発現が上昇した。以上の結果から、BCAAが肝臓癌の癌幹細胞の癌非幹細胞への分化を誘導し、癌幹細胞を減少させることが示唆された。
【0102】
実施例4:ヒト肝臓癌細胞株HAK1Bに対する5FU(5-fluorouracil)とBCAAとの併用の効果(in vivo試験)
7週齢の雌のBALB/cヌードマウス(日本チャールスリバーより購入)にHAK1B細胞を700万個/個体 皮下移植した。1週間後に腫瘍面積に基づき群分けを実施した。5FU 250μg/tumor(vehicle 10% DMSO/DW)を腫瘍内に投与すると共に(Cancer Research, 70(11), 4687-4697, 2010参照)、3(w/w)% BCAA混餌食または3(w/w)% カゼイン混餌食を2週間供与した。即ち、4つの群における処置は以下の通りである:
1群:vehicle + カゼイン混餌食(コントロール群)
2群:5FU + カゼイン混餌食
3群:vehicle + BCAA混餌食
4群:5FU + BCAA混餌食
ノギスを用いて腫瘍外側から腫瘍体積(長径x短径x高さ(mm
3))を測定することにより、経時的な腫瘍体積変化をモニターした。43日目に剖検をし、腫瘍の重量および体積を計測した。
【0103】
結果を
図4〜6に示す。BCAA単独処理群(3群)では、コントロール群(1群)と比較して、腫瘍重量および腫瘍体積における有意な変化は認められなかった。5FU単独処理により腫瘍重量および腫瘍体積が有意に減少し(2群)、BCAAを併用すると、5FUによる腫瘍重量および腫瘍体積の減少効果が増強された。以上の結果から、BCAAは、インビボにおいても5FUの抗腫瘍効果を増強することが示唆された。
【0104】
実施例5:ヒト大腸癌細胞株HCT116における幹細胞マーカーの発現に対するBCAAの効果
HCT116細胞(ヒト大腸癌細胞株)を4000個/wellでプレートに播種し、2mM BCAAまたはLC 2.5%培地中で72時間培養した。72時間培養後に細胞を回収し、抗CD44抗体(一次抗体)と1時間室温にてインキュベートし、更にCy5をコンジュゲートした二次抗体と1時間室温にてインキュベートした。細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、ヘキスト33258溶液で染色し(5分間室温にてインキュベーション)、染色液をPBSで置換し、Array ScanによりCD44陽性細胞の割合を解析した。CD44は大腸癌幹細胞マーカーである。
【0105】
結果を
図7に示す。BCAAにより、HCT116細胞において、大腸癌幹細胞のマーカーであるCD44の発現が有意に低下した。以上の結果から、BCAAが肝臓癌幹細胞のみならず、大腸癌幹細胞の非幹細胞への分化を誘導することが示唆された。
【0106】
実施例6:ヒト大腸癌細胞株HCT116に対する5FUとBCAAとの併用の効果(in vitro試験)
HCT116細胞(ヒト大腸癌細胞株)を4000個/wellの濃度でプレートに播種し、以下の条件下で72時間培養した:
・LC 2.5%培地
・BCAA(2mM)
・5FU(2μg/ml)
・BCAA(2mM)+5FU(2μg/ml)
【0107】
72時間後に、ApoAlert Annexin V-FITC Apoptosis kit(Clontech)を用いて細胞をannexin Vで染色および固定し、Array Scan(Thermo Fisher)でアポトーシス細胞(%)を検出した。
【0108】
結果を
図8に示す。5FU単独処理によりアポトーシス細胞が増加し、BCAAを併用すると、5FUによるアポトーシス誘導が増強された。以上の結果から、BCAAは、肝臓癌のみならず大腸癌においても、5FUの抗腫瘍効果を増強することが示唆された。
【0109】
実施例7:ヒト大腸癌細胞株HCT116の転移に対するBCAAの効果(in vivo試験)
ヒト大腸癌細胞HCT116を、BALB/cヌードマウス(雌、6週齢、各群5匹)に1x10
5個/匹移植した。HCT116細胞は、予め7日間、4mM BCAAで処理をした。コントロール群は、HCT116細胞を4mM BCAAで処理していない。細胞の移植は、マウスの筋層を切開後、脾臓を露出し、脾臓の両端血管を緩く糸で縛り、脾臓へ注射針でゆっくりHCT116細胞を移入し(100μl)、両端の糸を縛って止血後、脾臓を摘出し、筋層を縫合し、皮膚をホッチキスで止めることにより行った。3週間、マウスを通常飼育した後に、マウスを安楽死させ、肝臓表面の転移癌の個数を測定した。
【0110】
その結果、コントロール群では、5匹全てのマウスにおいて肝臓表面に転移癌の形成が認められたが、BCAA処理群では、1匹のみにおいて、転移癌の形成が認められた。また、1匹あたりの転移癌の個数も、BCAA処理により有意に抑制された(
図9)。以上の結果から、BCAAは大腸癌の転移能を減少させることが示された。また、実施例5の結果と併せると、このBCAAによる大腸癌の転移抑制効果は、CD44の発現低下による可能性が示唆された。
【0111】
実施例8:ヒト胃癌細胞株MKN45に対する5FUとBCAAとの併用の効果(in vitro試験)
MKN45細胞(ヒト胃癌細胞株)を4000個/100μl/wellで96穴プレートに播種し、以下の条件で72時間培養した:
・LC培地(10% FBS)
・LC培地+BCAA(2mM又は4mM)
・LC培地+5FU(0.05μg/ml、0.1μg/ml、0.5μg/ml又は1μg/ml)
・LC培地+BCAA(2mM又は4mM)+5FU(0.05μg/ml、0.1μg/ml、0.5μg/ml又は1μg/ml)
【0112】
72時間後に、WST−8試薬を添加し(10μl/well)、1時間発色後、OD450nmの吸光度を測定した。無刺激群の吸光度を100%としたときの相対値で各群の吸光度を表した。尚、WST−8は細胞内脱水素酵素により還元され、水溶性のホルマザンを生成し、このホルマザンの450nmの吸光度を直接測定することにより、容易に生細胞数を計測することができる。細胞数と生成するホルマザンの量は直線的な比例関係にある。
【0113】
結果を
図10に示す。5FU単独処理により生細胞数が減少し、BCAAを併用すると、5FUによる生細胞数の減少が増強された。以上の結果から、BCAAは、胃癌においても、5FUの抗腫瘍効果を増強することが示唆された。
【0114】
実施例9:ヒト胃癌細胞株MKN45に対する5FUとBCAAとの併用の効果(in vitro試験)
MKN45細胞(ヒト胃癌細胞株)を4000個/100μl/wellで96穴プレートに播種し、以下の条件下で72時間培養した:
・LC培地(10% FBS)
・LC培地+BCAA(2mM又は4mM)
・LC培地+5FU(0.05μg/ml又は0.1μg/ml)
・LC培地+BCAA(2mM又は4mM)+5FU(0.05μg/ml又は0.1μg/ml)
【0115】
72時間後に、上清を除去し、パラホルムアルデヒドで細胞を固定後、Hoechst試薬で核染色し、アレイスキャンのcell cycleモードでアポトーシス細胞の割合を解析した。
【0116】
結果を
図11に示す。5FUとBCAAとの併用により、アポトーシス細胞数が有意に増加した。以上の結果から、BCAAによる、5FUの胃癌に対する抗腫瘍効果の増強は、アポトーシスの増強による可能性が示唆された。
【0117】
実施例10:ヒト胃癌細胞株MKN45における幹細胞マーカーの発現に対するBCAAの効果
MKN45細胞(ヒト胃癌細胞株)を4000個/100μl/wellで96穴プレートに播種し、RPMI1640培地(10%FBS)或いはBCAA(2mM又は4mM)含有RPMI1640培地(10%FBS)中で72時間培養した。72時間後に上清を除去し、パラホルムアルデヒドで固定後、抗CD44抗体(一次抗体)と1時間室温にてインキュベートし、更にTexas Redをコンジュゲートした二次抗体と1時間インキュベートした。上清を除去し、Hoechst試薬で核染色後、Array Scanのtarget activationモードでCD44陽性細胞の割合を解析した。
【0118】
結果を
図12に示す。BCAAにより、MKN45細胞において、胃癌幹細胞のマーカーであるCD44の発現が有意に低下した。以上の結果から、BCAAが胃癌幹細胞の非幹細胞への分化を誘導することが示唆された。
【0119】
実施例11:ヒト胃癌細胞株MKN45に対するTS−1とBCAAとの併用の効果(in vivo試験)
6週齢の雌のBALB/cヌードマウスにMKN45細胞を1×10
6個/マウス 皮下移植した。1週間後に腫瘍体積に基づき群分けを実施した。TS−1 10mg/kg(vehicle 0.5% CMC)、TS−1 10mg/kg+BCAA 0.75g/kg、又はBCAA 0.75g/kgを土日を除く毎日、6週間経口投与した。即ち、4つの群における処置は以下の通りである:
1群:CMC(vehicle)
2群:TS−1
3群:TS−1+BCAA
4群:BCAA
【0120】
尚、TS−1は、テガフール、ギメラシル、及びオテラシルカリウムを以下の組成で含有する抗癌剤である。
TS−1 0.2g中
テガフール 20mg
ギメラシル 5.8mg
オテラシルカリウム 19.6mg
【0121】
ノギスを用いて腫瘍外側から腫瘍体積(長径x短径x高さ(mm
3))を測定することにより、経時的な腫瘍体積変化をモニターした。43日目に剖検をし、腫瘍の重量および体積を計測した。
【0122】
結果を
図13に示す。TS−1又はBCAA単独処理群では、CMC群と比較して、腫瘍体積の減少傾向は認められるものの、有意な変化は認められなかった。TS−1とBCAAの併用により、腫瘍体積が有意に減少した。以上の結果から、BCAAは、インビボにおいてTS−1の抗腫瘍効果を増強することが示唆された。
【0123】
実施例12:ヒト乳癌細胞株MDA−MB231の増殖及び幹細胞マーカー発現に対する5FU及びBCAAの効果
MDA−MB231細胞をRPMI−10%(10%FBSを含有するRPMI培地)に懸濁し、2000個/wellでプレートに播種した。次の日に、培地を、以下の通りに交換し、更に5日間培養した。
1群:RPMI−10%
2群:BCAA(4mM)を含有するRPMI−10%
3群:5−FU(0.25μg/ml)を含有するRPMI−10%
4群:5−FU(0.25μg/ml)を含有するRPMI−10%
【0124】
5日後に細胞核をヘキスト試薬により染色し、細胞数をカウントした。また、1群及び2群については、抗CD44抗体により染色し、蛍光顕微鏡定量装置(Thermo Fisher)を用いたArray ScanによりCD44陽性細胞の割合を解析した。
【0125】
結果を
図14及び15に示す。5FU単独処理により生細胞数が減少し、BCAAを併用すると、5FUによる生細胞数の減少が増強された。以上の結果から、BCAAは、乳癌において、5FUの抗腫瘍効果を増強することが示唆された。また、BCAAにより、MDA−MB231細胞において、乳癌幹細胞のマーカーであるCD44の発現が低下する傾向が認められた。以上の結果から、BCAAが乳癌幹細胞の非幹細胞への分化を誘導する可能性が示唆された。
【0126】
実施例13:ヒト肝臓癌細胞株HAK1Bの幹細胞マーカー発現に対するBCAAの効果(in vivo試験)
7週齢の雌のBALB/cヌードマウス(日本チャールスリバーより購入)にHAK1B細胞を700万個/個体 皮下移植した。1週間後に腫瘍面積に基づき群分けを実施した。5FU 250μg/tumor(vehicle 10% DMSO/DW)を腫瘍内に投与すると共に(Cancer Research, 70(11), 4687-4697, 2010参照)、3(w/w)% BCAA混餌食または3(w/w)% カゼイン混餌食を2週間供与した。即ち、4つの群における処置は以下の通りである:
1群:vehicle + カゼイン混餌食(コントロール群)
2群:5FU + カゼイン混餌食
3群:vehicle + BCAA混餌食
4群:5FU + BCAA混餌食
【0127】
15日目に、腫瘍組織を摘出し、TriPure Isolation Reagent (Roche)を用いてRNAを抽出した。High Capacity cDNA RT kit (Applied Biosystems)を用いてcDNAを合成した。RT-PCRにより、EpCAM(Epithelial cell adhesion molecule;肝臓癌幹細胞のマーカー)のmRNAの発現を定量した。RT-PCRに用いたプライマーは実施例1と同一である。
【0128】
結果を
図16に示す。BCAAにより、HAK1B細胞における肝臓癌幹細胞のマーカーであるEpCAMが低下した。以上の結果から、BCAAが、インビボにおいても、肝臓癌の癌幹細胞の癌非幹細胞への分化を誘導し、癌幹細胞を減少させることにより、腫瘍の5FUへの感受性を増大させることが示唆された。
【0129】
実施例14:ヒト胃癌細胞株MKN45の幹細胞マーカー発現に対するBCAAの併用の効果(in vivo試験)
6週齢の雌のBALB/cヌードマウスにMKN45細胞を1×10
6個/マウス 皮下移植した。1週間後に腫瘍体積に基づき群分けを実施した。TS−1 10mg/kg(vehicle 0.5% CMC)、TS−1 10mg/kg+BCAA 0.75g/kg、又はBCAA 0.75g/kgを土日を除く毎日、6週間経口投与した。即ち、4つの群における処置は以下の通りである:
1群:CMC(vehicle)
2群:TS−1
3群:TS−1+BCAA
4群:BCAA
【0130】
43日後に、腫瘍組織を摘出し、TriPure Isolation Reagent (Roche)を用いてRNAを抽出した。High Capacity cDNA RT kit (Applied Biosystems)を用いてcDNAを合成した。RT-PCRにより、CD44(癌幹細胞のマーカー)、nanog(未分化マーカー)及びABCB5(ABCトランスポーター、癌幹細胞に発現していることが報告されている)のmRNAの発現を定量した。RT-PCRに用いたプライマーは以下の通りである。
【0131】
【表3】
【0132】
結果を
図17に示す。BCAAにより、MKN45細胞におけるCD44、nanog及びABCB5の発現が低下した。以上の結果から、BCAAが、インビボにおいても、胃癌の癌幹細胞の癌非幹細胞への分化を誘導し、癌幹細胞を減少させることにより、腫瘍のTS−1への感受性を増大させることが示唆された。