【実施例】
【0029】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
なお、本実施例における「数平均分子量」は、特に断りの無い限り、HPLC分析でのピーク面積値のデータを用いて算出したものである。
【0030】
<蛍光物質の製造>
[実施例1]
マリンブロスに、初期濃度が10mg/mLとなるようにSYALを添加した培地を作製し、本菌株をこの培地に添加して、25℃で96時間振とう培養を行った。
次いで、培養によって得られ、菌体外に産出された黒色溶液状の培養物を40℃で減圧乾固させ、黒色の固形状の濃縮物を得た。
次いで、この濃縮物15gに、メタノール(和光純薬社製、特級メタノール、以下、同様)80gを添加し、25℃で1分間撹拌することにより、黒色の不溶物を含み、液相部分が薄青緑色に蛍光発色する液体を得た。そして、この液体から上澄みを回収し、残った前記不溶物に対して、メタノールを添加してから上澄みを回収するまでの上記操作を3回繰り返し、回収した上澄みをすべてあわせて300mLの抽出液を得た。
次いで、この抽出液から、エバポレーターを用いてメタノールを除去し、得られた濃縮物に水を添加して溶解させた後、この水溶液を凍結乾燥させることにより、目的物である蛍光物質を得た。
【0031】
一方、固液分離で得られた黒色の前記不溶物10gには、水100gを添加し、25℃で1分間撹拌することにより、前記不溶物が溶解した水溶液を得た。
次いで、得られた水溶液を、膨潤させたイオン交換樹脂(Amberlite XAD2000)(カラム:3.0×38cm)に充填し、水及び20質量%メタノール水溶液で順次洗浄した後、80質量%メタノール水溶液を用いて溶出させることにより、黒色色素含有画分を得た後、溶媒を除去することにより、黒色色素を得た。
【0032】
得られた蛍光物質及び黒色色素について、
1H−NMR、
13C−NMR及びFT−IRによる構造解析を行った。このとき取得したスペクトルデータを
図1〜3に示す。
図1中、(a)が黒色色素の、(b)が蛍光物質の
1H−NMRスペクトルであり、
図2中、(a)が黒色色素の、(b)が蛍光物質の
13C−NMRスペクトルである。また、
図3は蛍光物質のFT−IRスペクトルであり、
図4は黒色色素のFT−IRスペクトルであり、それぞれにおいて、aはKBr錠剤法でのスペクトルであり、bはATR(Attenuated Total Reflection)補正を行って得られたスペクトルである。なお、
図3及び4において、縦軸は吸光度(Abs)であり、横軸は波数(cm
−1)である。FT−IRでは、試料の屈折率を1.5、プリズムの屈折率を2.4とし、入射光の入射角度を45°に設定して解析を行った。
【0033】
図1及び2に示すように、
1H−NMR及び
13C−NMRにおいて、蛍光物質は黒色色素と概ね類似のスペクトルを示したが、
1H−NMRにおいては2.8ppmに、
13C−NMRにおいては40ppmに、それぞれ特徴的なシグナルが見られた。これらのシグナルは、−C(=O)−CH
3のメチル基(CH
3)、又は−C(=O)−CH
2−C(=O)−のメチレン基(CH
2)に対応するものと推測された。そして、
1H−NMR及び
13C−NMRにおいて、蛍光物質及び黒色色素はいずれも、カルボニル基(C=O)、メチン基(CH)、メチレン基(CH
2)、メチル基(CH
3)の各基に相当するシグナルが多数見られたのに対し、
図1に示すように
1H−NMRにおいては、6〜8ppm辺りの領域に通常見られる、芳香族環に特有のシグナルは見られず、蛍光物質及び黒色色素が非芳香族有機化合物であることを示していた。
【0034】
また、
図3及び4に示すように、蛍光物質及び黒色色素は、いずれもFT−IRにおいて、C=Oと、C−H、O−H又はN−Hの各結合に相当するシグナルが見られたのに対し、500〜1000cm
−1辺りの領域に通常見られる、芳香族環に特有のシグナルが見られず(
図3及び4において、この領域に見られるピークらしきものは、ベースラインのせり上がりによるノイズであり、何らかのシグナルを示すものではない)、NMRの場合と同様に、蛍光物質及び黒色色素が非芳香族有機化合物であることを示していた。
【0035】
蛍光物質は、極大波長が356nmの励起光の照射によって、極大波長が498nmの蛍光を発生した。このときの励起光及び蛍光のスペクトルを
図5に示す。
【0036】
蛍光物質は、FT−IRスペクトルが硫酸カルシウムのものと類似していた。なお、原子吸光による解析の結果、蛍光物質はカルシウム塩を多く含んでいたが、これは培地中の塩化カルシウムに由来する可能性がある。
【0037】
上記で得られた蛍光物質を、さらに下記条件でゲルろ過に供した。
(ゲルろ過の条件)
カラム:TSKgel G3000SWXL(7.8mm i.d.×300mm、東ソー社製)
移動相:0.2モル/L塩化ナトリウム含有0.1モル/Lリン酸緩衝液(pH 7.0)
流速:1.2mL/分
カラム温度:室温
検出波長:210nm、254nm
【0038】
その結果、得られた蛍光物質は数平均分子量が7.2kDaであった。ゲルろ過で得られた、蛍光物質を含む画分を、さらにアミコンウルトラ−遠心式フィルターユニット(3K)(ミリポア社製)を用いて、4000×gで50分間遠心処理した後、得られた上清を、さらにアミコンウルトラ−遠心式フィルターユニット(10K)(ミリポア社製)を用いて、4000×gで50分間遠心処理することにより、合計で3つの試料を得た。そして、これら試料をさらにゲルろ過に供して解析した結果、最初のゲルろ過で得られた蛍光物質は、複数種の蛍光物質の混合物であり、分子量が2.1kDa、5.2kDa、8.5kDaの3種のものに大別され、8.5kDaのものが主たる成分であった。
【0039】
これに対して、上記で得られた蛍光物質を別途、ODSカラムを用いたHPLC解析に供したところ、複数のピークが分離されて観測されることはなかった。
【0040】
蛍光物質の場合と同じ方法で、黒色色素もゲルろ過及び遠心処理で解析した結果、黒色色素は数平均分子量が12.8kDaであり、これは分子量が5.8kDa、8.5kDa、16.8kDaの3種のものに大別され、16.8kDaのものが主たる成分であった。
【0041】
<蛍光物質の安定性試験>
[試験例1]
実施例1で得られた蛍光物質を、pH1〜13の緩衝液に溶解させたところ、pH1の場合には、得られた溶液は蛍光を発生しなかったが、pH2〜13の場合には、得られた溶液は蛍光を発生した。一方、pH1の場合には、得られた溶液にさらにアルカリを加えてpHを7に調整したところ、蛍光を発生するようになり、前記蛍光物質は、pH依存性の光吸収と蛍光発色を示すことが確認された。また、いずれのpHの場合も、得られた溶液をHPLCで分析すると、全く同じクロマトグラムを示し、いずれのpHでも蛍光物質の分解は確認されなかった。また、蛍光物質をpH7の緩衝液に溶解させて95℃で3日間加熱しても、蛍光は変化しなかった。このように、前記蛍光物質はアルカリ性条件下及び酸性条件下のいずれにおいても安定であり、またその水溶液は95℃での加熱に対しても安定であることが確認できた。