特許第6090867号(P6090867)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6090867ウコン油及びビサボレンセスキテルペノイドの抗痙攣活性
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6090867
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】ウコン油及びビサボレンセスキテルペノイドの抗痙攣活性
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/121 20060101AFI20170227BHJP
   A61K 36/9066 20060101ALI20170227BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20170227BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   A61K31/121
   A61K36/9066
   A61K9/08
   A61P25/08
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-517788(P2014-517788)
(86)(22)【出願日】2012年7月4日
(65)【公表番号】特表2014-518241(P2014-518241A)
(43)【公表日】2014年7月28日
(86)【国際出願番号】EP2012063027
(87)【国際公開番号】WO2013004740
(87)【国際公開日】20130110
【審査請求日】2015年7月3日
(31)【優先権主張番号】1111319.8
(32)【優先日】2011年7月4日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514005397
【氏名又は名称】カトリック ユニベルシテット ルーヴェン
(73)【特許権者】
【識別番号】514005401
【氏名又は名称】ユニヴェルシダッド デ クエンカ
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100152319
【弁理士】
【氏名又は名称】曽我 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ ヴィッテ,ペテル,アー.エム.
(72)【発明者】
【氏名】エスグエラ,カミラ,ファウ.
(72)【発明者】
【氏名】クロフォード,アレクサンダー デー.
(72)【発明者】
【氏名】オレラナ パウカル,アドリアナ モンセラス
【審査官】 小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−530305(JP,A)
【文献】 特開2004−331539(JP,A)
【文献】 AHMED T,INHIBITORY EFFECT OF CURCUMINOIDS ON ACETYLCHOLINESTERASE ACTIVITY AND ATTENUATION 以下備考,PHARMACOLOGY BIOCHEMISTRY AND BEHAVIOR,米国,ELSEVIER,2009年 2月 1日,V91 N4,P554-559,OF SCOPOLAMINE-INDUCED AMNESIA MAY EXPLAIN MEDICINAL USE OF TURMERIC IN ALZHEIMER'S DISEASE
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 36/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クルクマ属、ウコン由来のウコン油のビサボレンセスキテルペノイドを含む、てんかんの処置における抗痙攣用医薬組成物。
【請求項2】
Ar−ターメロン、α−ターメロン、β−ターメロン及びα−アトラントンを含む一覧より選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
液体組成物である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、てんかんの治療用の抗痙攣剤及び/又は振戦、疼痛、気分障害(鬱病、双極性障害、注意欠陥多動性障害、及び統合失調症を含む)、及び神経変性疾患を含む中枢神経系の障害の治療用治療薬としての、ウコン油及びその揮発性ビサボレンセスキテルペノイドであるar−ターメロン、α−ターメロン、β−ターメロン(クルロン)及びα−アトラントンの抗痙攣活性に関する。
【背景技術】
【0002】
てんかんは、世界中でおよそ5000万人の人々に影響を及ぼす広汎な神経障害である(1)。世界保健機構(WHO)によれば、総疾病負荷の約1%が様々なタイプのてんかんに相当する。その薬物治療には、現在利用可能な数多くの抗てんかん薬(AED)が含まれる(2)。AEDに関する主な問題は、胃腸障害、肝毒性、鬱病、認識機能障害、更には難治性の発作にまで及ぶ高頻度の副作用である(2)(3)(4)(5)(6)。さらに、てんかんを患う患者の約3分の1が、利用可能な治療に対して抵抗性のままである(1)(2)。それゆえ、発作を制御し、有害作用が最小限である新規のAEDを同定し続ける明確な必要性が存在する。
【0003】
薬草及びそれに含有される化合物は、新規なAEDの潜在的な起源となる。発作の治療への民間薬植物の使用に関する数々の研究が報告されている(7)。小分子化合物及び植物から抽出された精油は、抗痙攣特性を呈することが示されている(18)(19)(20)。カヴァカヴァ植物由来であり、本来は南太平洋において信仰治療家により抗不安薬として使用される1つの化合物、ロシガモンは、現在、新規な抗てんかん薬として臨床開発の初期にある(8)(9)。その他の植物、ウコン(Curcumalonga L.)は、南アジア原産のショウガ科の薬用多年草である。伝統的には、ウコンは駆風薬、緩下剤、駆虫薬として使用され、また肝障害の治療に使用されている。その根茎の粉末であるターメリックは、食品の香辛料及び着色剤として使用されているのみならず、てんかんに対する伝統医学においても使用されている(10)。その主要な活性化学成分は、クルクミノイド(3%〜5%)及び揮発性ウコン油(2%〜7%)である。ウコン油は、主に、ビサボレンセスキテルペノイド:ar−ターメロン、α−ターメロン、β−ターメロン、α−アトラントン及びクルロンで構成されるのに対し、クルクミノイドはクルクミン、モノデメトキシクルクミン及びビスデメトキシクルクミンを含む。ターメリックの医薬特性に関するほぼ全ての調査がクルクミンに焦点を当てており、その抗痙攣活性は鉄誘発性てんかん発生モデル(11)、最大電撃モデル(12)、カイニン酸誘発性モデル(13)及びペンチレンテトラゾール−キンドリングモデル(14)等の幾つかの齧歯類モデルにおいて立証されている。しかしながら、ウコン油の神経保護活性に関する2〜3の研究が行われている一方(15)(16)(17)、抗痙攣活性と揮発性ウコン油又はビサボレンセスキテルペノイド等の非クルクミノイド化合物との間の具体的な結びつきについては評価されていない。とりわけ、ウコン油の揮発性成分に関する従前の研究は、複雑な単離工程が関与するために制限されていた。
【0004】
本明細書には、RP−HPLCによってウコン油の主要な成分を単離する実用的な方法が記載される。単離された化合物を、2つの脊椎動物モデル系:ゼブラフィッシュ(ゼブラ・ダニオ(Danio rerio))及びマウス(ハツカネズミ(Mus musculus))において個別に評価した。過去10年に亘って、ゼブラフィッシュは遺伝学的研究及び薬物スクリーニングの有益なモデルであることが明らかとなっている。このin vivoモデルの強みは、そのヒトに対する高い遺伝学的、生理学的及び薬理学的な同一性にある。その繁殖力が高いこと及びサイズが小型であることが、微小な(マイクログラム規模)量の化合物を使用するミディアムスループット方式からハイスループット方式での試験の実施を可能としている。また、ゼブラフィッシュは、ドーパミン作動性システム、セロトニン作動性システム、及びGABA作動性システムが胚発生の早期に発達し、幼魚において既に機能していることから、新規な神経活性化合物の同定のin vivoモデルとして有望である(21)。さらに、その子宮外での急速な発達及び光透過性が、生きている胚及び幼魚に対する試験化合物の形態学的影響及び行動的影響の容易な検出を可能としている(22)。
【0005】
つい最近になって、ゼブラフィッシュが潜在的な新規な抗痙攣薬の一次スクリーニングに有用であることも証明された(23)(24)(25)。痙攣誘発薬ペンチレンテトラゾール(PTZ)に基づく急性ゼブラフィッシュ発作モデルが記載されている(23)。ゼブラフィッシュ幼魚のPTZへの暴露により、3つの相に分類される一連の行動的変化:泳動活動の著しい増加(ステージI);早い「渦巻き様」の環状遊泳運動(ステージII)、並びに後の1〜3秒間の姿勢の喪失(loss of posture)及び運動の喪失(loss of movement)の後の強直性収縮を伴う間代性運動(ステージIII)が惹起された(23)。さらに、電気生理学的記録により、PTZで処理されたゼブラフィッシュ幼魚の脳は、一連の発作時放電及び発作間欠期放電を示すことが確認された。追跡研究より、14種の臨床的に使用されるAEDのうち13種がゼブラフィッシュにおけるPTZ誘発性発作行動を抑制可能であったことを示すことにより、このゼブラフィッシュ薬物痙攣(chemoconvulsant)モデルの正当性が立証された(24)。
【0006】
ゼブラフィッシュPTZ薬物痙攣モデルにおける一連の薬草の潜在的な抗痙攣活性に関するスクリーニング過程で、我々は、クルクミンの報告されている抗痙攣特性を確認した。しかしながら、驚いたことに、ウコン油及びそのクロマトグラフィー画分の更なる試験により、ゼブラフィッシュ幼魚におけるPTZ誘発性発作行動の抑制が可能な更なる成分が明らかとなった。これらの活性な精製画分の質量分析及びNMR解析により、それらがビサボレンセスキテルペノイドに属するar−ターメロン、α−ターメロン、β−ターメロン(クルロン)及びα−アトラントンであることが明らかとなった。ゼブラフィッシュPTZアッセイを使用して同定された抗痙攣活性は、その後、相当するマウスPTZ誘発性発作モデル及び部分てんかんの6Hz精神運動発作モデルにおいて確認された。さらに、運動障害をもたらすあらゆる副作用を特定するためにar−ターメロンの静脈内注射の後に高架橋を使用して、運動協調性及び平衡に関する評価をマウスにおいて実施した。
【0007】
医学において使用されるターメリック抽出物を提供する幾つかの刊行物が存在するが、これらのいずれも中枢神経系の障害の治療における抗痙攣剤としてのそれらの使用を提供していない。例えば、特許文献1及び特許文献2は、クルクマ植物の抽出物、及びアミロイド斑凝集及び線維形成と関連する障害(例えば、アルツハイマー病)等の神経変性障害を治療する方法を提供するが、いずれの特許出願もクルクマ抽出物の抗痙攣剤としての使用可能性について開示も示唆もしていない。特許文献3は、抗炎症活性、鎮痛活性及び/又は抗癌活性を有するウコン油の製剤を提供するが、ここでも、クルクマ抽出物の抗痙攣剤としての使用可能性について開示も示唆もされていない。
【0008】
さらに、ビサボレン型セスキテルペノイドは、アセチルコリンエステラーゼ阻害活性を呈することが知られている一方で(41)、AChE遮断薬は、一般的に発作を誘発して、てんかん重積状態をもたらす可能性があり、結果として潜伏期間の後に自発発作を生じることも示されている(42)。したがって、ビサボレン型セスキテルペノイドが、実際にてんかん発作の程度を軽減可能であり、それらが中枢神経系障害の治療において抗痙攣剤として好適であるということを見出したのは予想外であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2007109210号
【特許文献2】国際公開第2010045577号
【特許文献3】国際公開第2011080090号
【発明の概要】
【0010】
本発明の第1の態様は、中枢神経系の障害における抗痙攣剤として使用されるビサボレンセスキテルペノイドに関する。幾つかの実施の形態において、本発明は中枢神経系の障害における抗痙攣剤として使用されるウコン油のビサボレンセスキテルペノイドに関する。ウコン油はクルクマ属、具体的にはウコンに由来し得る。
【0011】
或る特定の実施の形態において、本発明によるビサボレンセスキテルペノイドは、ar−ターメロン、α−ターメロン、β−ターメロン及びα−アトラントンを含む一覧より選択される。更なる態様において、本発明は、本発明による1又は複数のビサボレンセスキテルペノイドを含む、中枢神経系の障害における抗痙攣剤として使用される液体組成物を提供する。好ましい実施の形態において、本発明による液体組成物は、クルクマ属、具体的にはウコン由来のウコン油である。
【0012】
更なる態様において、本発明は、中枢神経系の障害の治療用治療薬として使用される、ビサボレンセスキテルペノイド又は1若しくは複数のビサボレンセスキテルペノイドを含む組成物に関し、上記障害は、てんかん、振戦、疼痛、気分障害及び神経変性疾患を含む一覧より選択され、特にてんかんである。上記気分障害は、鬱病、双極性障害、注意欠陥多動性障害、及び統合失調症であってもよい。上記神経変性障害は、アルツハイマー病を含まなくてもよい。
【0013】
上記中枢神経系の障害は、脳血管障害ではないことが好ましい。脳血管障害とは、2003年6月26日付で公開された国際公開第03/051380号において脳血管障害として示される障害を意味する。したがって、「脳血管障害」とは、虚血、脳卒中、脳卒中後傷害、出血、再灌流傷害、血栓症、血管収縮、一酸化炭素誘導性フリーラジカル酸化的損傷、梗塞(infarction)、炎症、及びアルツハイマー病を含む群より選択される障害を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】抗痙攣活性の評価のための受精後7日のゼブラフィッシュ幼魚を使用した96ウェルプレートにおけるビデオトラッキング手法の概要図である(図1A)。ビヒクル又は薬物100μLと1ウェル当たり1匹の幼魚とを含むプレートをゼブラボックス内で暗条件下にてインキュベートした。1時間のインキュベーションの後、ビヒクル/化合物及び痙攣誘発薬の存在下における幼魚の行動を30分間に亘ってモニターするために、PTZのビヒクル100μLを、第1ウェル及び第2ウェルにそれぞれ添加した。図1Bは、ゼブラボックス、コアシステム、及び幼魚行動スクリーンを示す。
図2-1】A)クルクミノイド(クルクミン)及びB)ウコン油の抗痙攣活性の比較を示す図である。クルクミンは、PTZ誘発性発作の阻害において強力な活性を示した(p<0.05)。また、ウコン油も抗痙攣活性を表した(p<0.05)。(C)ターメリックメタノール抽出物;(D)クルクミノイド及び(E)ウコン油のゼブラフィッシュPTZ発作アッセイにおけるターメリックの抗痙攣活性評価の要約を示す図である。試験濃度はx軸に沿って表示され、30分以内のゼブラフィッシュ幼魚によって呈された総自発運動がy軸に沿って表される。データを平均±SDとして表す(n=10〜12)。ビヒクル処理群及び試料処理群(白色バー)間、又はPTZ処理群並びに試料及びPTZ処理群(灰色バー)間の統計学的有意差を、p<0.05に対して、及びp<0.01に対して**で標識する。
図2-2】同上
図3】PTZ誘発性ゼブラフィッシュ急性発作モデルに対するポジティブコントロールとしての役割を果たすフェニトイン(A)及びジアゼパム(B)の抗痙攣効果の評価を示す図である。
図4】ウコン油及びその主要な成分のHPLCクロマトグラムを示す図である。ピーク4はar−ターメロン;ピーク5はα−ターメロン及びβ−ターメロン(クルロン)並びにピーク6はα−アトラントンに対応する。
図5】ar−ターメロンの抗痙攣活性評価を示す図である。x軸は処理の種類を表す。y軸は30分間の合計運動距離を表示する。PTZ群については、統計学的有意性をp<0.05に対して、及びp<0.01に対して**と特定する;コントロール群はp<0.05に対してs、及びp<0.01に対してssで表示される。
図6】α−ターメロン及びβ−ターメロン(クルロン)の抗痙攣活性評価を示す図である。x軸は処理の種類を表す。y軸は30分間の合計運動距離を表示する。PTZ群について、統計学的有意性をp<0.05に対して、及びp<0.01に対して**と特定する;コントロール群はp<0.05に対してs、及びp<0.01に対してssで表示される。
図7-1】α−アトラントンの抗痙攣活性評価を示す図である。(A)x軸は処理の種類を表す。y軸は30分間の合計運動距離を表示する。PTZ群について、統計学的有意性をp<0.05に対して、及びp<0.01に対して**と特定した;コントロール群はp<0.05に対してs、及びp<0.01に対してssで表示される。ゼブラフィッシュPTZ発作アッセイにおけるビサボレンセスキテルペノイドの抗痙攣活性評価の要約を示す図である。(B)ar−ターメロン;(C)α、β−ターメロン及び(D)α−アトラントン。x軸は個々のセスキテルペノイドの試験濃度を表す。y軸は30分以内にゼブラフィッシュ幼魚によって呈された総自発運動を表示する。データを平均±SDとして表す(n=10〜12)。ビヒクル処理群及び試料処理群(白色バー)間、又はPTZ処理群並びに試料及びPTZ処理群(灰色バー)間の統計学的有意差を、p<0.05に対して、及びp<0.01に対して**で標識する。
図7-2】同上
図8】マウスPTZ誘発性発作アッセイにおけるウコン油及びar−ターメロンの抗痙攣活性を示す図である。グラフは、様々な発作行動を惹起するために必要なPTZの用量を図示する。コントロールに対するPTZ用量を100%と設定し(A及びBにおける内側の七角形)、ウコン油(Aにおける外側の七角形)及びar−ターメロン(Bにおける外側の七角形)により得られた結果をコントロールと相対的に図示する。コントロールと各発作行動を誘発するために必要な実験的PTZ用量間の統計学的有意性を、対応のない(unpaired)Studentのt検定を使用して算出した。コントロールに対する統計学的有意性を、p<0.05に対して()、p<0.01に対して(**)で標識する。
図9】マウスPTZ発作モデルにおけるウコン油の抗痙攣活性評価を示す図である。上パネル:ウコン油又はビヒクルのみで処理された後の表示される発作行動を生じるために必要なPTZ用量を掲載する表。データを平均±SDとして表す(n=5)。(A)50mg/kg及び(B)100mg/kgのウコン油からの表に示された結果のグラフによる図示である。結果を、コントロール(100%に設定)と比較した相対値として表す。試料群(濃い灰色)とコントロール群(薄い灰色)との間の統計学的有意差を、p<0.05に対して、p<0.01に対して**(対応のないStudentのt検定)で標識する。明確にするため、SDはグラフに図示されていないが、表に表示されている。しかしながら、変動係数が28%を超えることはなかった(対応のないStudentのt検定)。
図10】マウスPTZ発作モデルにおけるα、β−ターメロン及びar−ターメロンの抗痙攣活性評価を示す図である。上パネル:ビサボレンセスキテルペノイド又はビヒクルのみで処理された後の表示される発作行動を生じるために必要なPTZ用量を掲載する表。(A)100mg/kgでのα、β−ターメロン及び(B)50mg/kgでのar−ターメロンからの表に示された結果のグラフによる図示である。「コントロールA」欄はα、β−ターメロンに対するビヒクル処理コントロールに相当する;「コントロールB」欄はar−ターメロンに対するビヒクル処理コントロールに相当する。データを平均±SDとして表す(n=5)。明確にするため、SDはグラフに図示していないが、表に表示されている。結果を、コントロール(100%に設定)と比較した相対値として表す。試料群(濃い灰色)とコントロール群(薄い灰色)との間の統計学的有意差を、p<0.05に対して、及びp<0.01に対して**(対応のないStudentのt検定)で標識する。明確にするため、SDは図示されていない。しかしながら、ar−ターメロン及びα、β−ターメロンの場合、それぞれ変動係数が28%及び37%を超えることはなかった。
図11】ゼブラフィッシュ及びマウスPTZ発作アッセイにおけるバルプロ酸ナトリウム(ポジティブコントロール)の抗痙攣活性評価を示す図である。(A)ゼブラフィッシュPTZアッセイ。x軸は評価したバルプロ酸ナトリウムの濃度を表す。y軸は、30分以内にゼブラフィッシュ幼魚によって呈された総自発行動を表示する。データを平均±SDとして表す(n=10〜12)。ビヒクル処理群及び試料処理群(白色バー)間、又はPTZ処理群並びに試料及びPTZ処理群(灰色バー)間の統計学的有意差を、p<0.05に対して、及びp<0.01に対して**で標識する。(B)マウスPTZアッセイ。上パネル:バルプロ酸ナトリウム又はビヒクルのみで処理された後の表示される発作行動を生じるために必要なPTZ用量を掲載する表。下パネル:50mg/kgの用量でのバルプロ酸ナトリウムによる処理からの表に示された結果のグラフによる図示。結果を、コントロール(100%に設定)と比較した相対値として表す。バルプロ酸ナトリウム群(濃い灰色)とコントロール群(薄い灰色)との間の有意差を、p<0.05に対して、p<0.01に対して**(対応のないStudentのt検定)で標識する。明確にするため、SDは図示されていない。しかしながら、変動係数が45%を超えることはなかった。
図12】ビヒクル(ネガティブコントロール)、ジアゼパム1mg/kg(ポジティブコントロール)、及びar−ターメロン50mg/kgの静脈内注射後の高架橋装置上でのC57Bl/6雄性マウスからのデータセットを示す図である。フットスリップ(footslips)の回数(A)、転落回数(B)及び橋桁上での合計時間(C)の測定を示す。マウスにおける静脈内/腹腔内投与後の既知の運動障害副作用より、ジアゼパムをポジティブコントロールとして選択した。
図13】6Hzモデルにおけるar−ターメロンの保護活性評価を示す図である。ビヒクル(ネガティブコントロール)及びバルプロ酸300mg/kg(ポジティブコントロール)をこの評価に含めた。データポイントは対応する用量での発作から保護された動物数を表示する(n=6)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1の態様は、中枢神経系の障害における抗痙攣剤として使用されるビサボレンセスキテルペノイドに関する。1又は複数のビサボレンセスキテルペノイドを、単独で又は組み合わせて使用してもよい。ビサボレンセスキテルペノイドは、ウコン油のセスキテルペノイドであってもよい。幾つかの実施形態において、ビサボレンセスキテルペノイドは、ウコン油から単離される。ウコン植物が、ウコン油及び/又はビサボレンセスキテルペノイドの供給源であってもよい。ビサボレンセスキテルペノイドのその他の供給源として、植物由来の精油(例えば、イエローバタイ(Peltphorum dasyrachis Kurz exBakar (YellowBatai)))、昆虫、生体により産生される天然製品(例えば、ハチの巣抽出物)、菌類、細菌、及び/又は微生物が挙げられるが、これらに限定されない。また、ビサボレンセスキテルペノイドは、化学合成により産生されてもよい。
【0016】
「ビサボレン」は、セスキテルペン(3つのイソプレン単位からなるテルペンの種類)として分類される密接に関連する一群の天然化合物である。酸化又は転位等の生化学的修飾により、関連するセスキテルペノイドが産生される。
【0017】
また、「ターメリック(turmeric)」の用語は、「クルクマ(curcuma)」と交換可能であり、ショウガ科の植物由来の植物、クローン、変異体及び変種を含む。具体的には、ターメリックは、クルクマ属の植物由来の植物、クローン、変異体及び変種を含み、より具体的にはウコンを含む。したがって、好ましい実施形態において、ウコン油はクルクマ属由来であり、具体的にはウコン由来である。ターメリック、具体的にはその根茎は、クルクミン等のクルクミノイド約3%〜5%及びウコン油約2%〜7%を含有する。「根茎」は、通常地下に見出され、しばしば、その節から伸びる根及び芽である植物の茎である。
【0018】
「ウコン油」は、本明細書において後述の実施例で詳述される通り、クルクマの乾燥根茎粉末の水蒸気蒸留等により得ることができる。しかしながら、その他の任意適当な方法によって得てもよい。ウコン油は、主にビサボレンセスキテルペノイド、すなわちar−ターメロン、α−ターメロン、β−ターメロン及びα−アトラントンで構成され、したがって、具体的な実施形態においては、本発明は、中枢神経系の障害における抗痙攣剤として使用されるar−ターメロン、α−ターメロン、β−ターメロン及び/又はα−アトラントンを提供する。或る特定の実施形態において、ar−ターメロン、α−ターメロン、β−ターメロン及びα−アトラントンは、単独で投与される。幾つかの実施形態において、ar−ターメロンは、α−ターメロン、β−ターメロン及び/又はα−アトラントンと組み合わせて投与される。また、ar−ターメロンは、ターメロン、β−ターメロン、及び/又はα−アトラントンの1又は複数と組み合わせて投与されてもよい。或る特定の実施形態において、α−ターメロンは、ar−ターメロン、β−ターメロン及び/又はα−アトラントンと組み合わせて投与される。また、α−ターメロンは、ar−ターメロン、β−ターメロン、及び/又はα−アトラントンの1又は複数と組み合わせて投与されてもよい。幾つかの実施形態において、β−ターメロンは、ar−ターメロン、α−ターメロン、及び/又はα−アトラントンと組み合わせて投与される。また、β−ターメロンは、ar−ターメロン、α−ターメロン、及び/又はα−アトラントンの1又は複数と組み合わせて投与されてもよい。或る特定の実施形態において、α−アトラントンは、ar−ターメロン、α−ターメロン、及び/又はβ−ターメロンと組み合わせて投与されてもよい。α−アトラントンは、ar−ターメロン、α−ターメロン、及び/又はβ−ターメロンの1又は複数と組み合わせて投与されてもよい。2以上の化合物が投与される場合、投与は同時であってもよく、又は逐次であってもよい。
【0019】
ウコン油及び/又はビサボレンセスキテルペノイドは脂溶性であり、血液脳関門及びその他の細胞膜を通過し、これは神経系における化合物のバイオアベイラビリティーを高め得る性質である。よって、ウコン油及び/又はビサボレンセスキテルペノイドの使用は、クルクミン等のその他の化合物の使用に対する利益を与える。また、クルクミンは、ウコン植物の成分でもあり、クルクマの抗痙攣活性はこの化合物に起因する(11)(12)(32)。しかしながら、クルクマの或る特定の製剤は、腸内において水溶性の代謝産物に容易に転換されて排泄され、化合物のほとんどは血液又は神経系に到達しない。
【0020】
本明細書において使用される「抗痙攣剤」の用語は、てんかん発作、双極性障害、気分障害及び/又は神経因性疼痛の治療に適当な任意の化合物を含むことを意味する。てんかん発作は、脳内でのニューロンの任意の異常活動、過剰活動、又は過同期性活動の結果生じてもよい。幾つかの実施形態において、抗痙攣薬による治療を必要とするてんかん発作は、感染、脳卒中、外傷、発熱、腫瘍、薬物使用、血液脳関門の損傷、及び/又は神経変性疾患により発症する。或る特定の実施形態において、てんかん発作は、情動状態により、光及び/又は音に対する反応、睡眠、睡眠遮断、ホルモン、代謝障害、及び/又は先天的欠陥により引き起こされる。本明細書に開示される抗痙攣薬により治療が提供されるてんかん発作は、単純部分発作及び/又は複雑部分発作等の部分発作に分類されてもよく、又は欠神発作、ミオクローヌス発作、間代性発作(seizures)、強直性発作、強直間代性発作、及び/又は脱力発作、並びに混合発作等の全身発作として分類されてもよい。また、ウコン油、ar−ターメロン、α−ターメロン、β−ターメロン及び/又はα−アトラントン等の本明細書に記載される抗痙攣薬は、治療抵抗型発作に対する治療も提供し得る。とりわけ、部分てんかんの6Hz精神運動発作モデルが、辺縁系発作を含む治療抵抗型発作のモデルとして使用されている(40)。
【0021】
てんかん発作を患う患者は、0カ月齢〜6カ月齢、6カ月齢〜12カ月齢、12カ月齢〜18カ月齢、18カ月齢〜24カ月齢の乳児であってもよい。或る特定の実施形態において、てんかん発作を患う患者は、年齢65歳〜70歳、75歳〜80歳、85歳〜90歳、95歳〜100歳、100歳〜105歳及びそれ以上の個人である。また、患者は、年齢2歳〜12歳の子供、13歳〜19歳の青少年、又は20歳〜64歳の成人であってもよい。
【0022】
抗痙攣薬は、てんかん発作及び/又はてんかんに関連する症状の治療を含むてんかん発作の治療に使用されてもよい。また、抗痙攣薬は、脳血管疾患及び/又は神経変性疾患等の中枢神経系障害に起因するてんかん発作の治療に使用されてもよい。抗痙攣剤(すなわち、「抗痙攣薬」)の1つの目標は、発作を開始するニューロンの迅速かつ過剰な発火を抑制することである。抗痙攣薬の他の目標は、脳内での発作の拡散を予防し、脳損傷を生じ得る、可能性のある興奮毒性作用に対する保護を提供することである。また、抗痙攣薬は抗てんかん薬(「AED」と略記される)とも呼ばれ、時に発作抑制薬(antiseizure drugs)とも呼ばれる。てんかんにおいて、脳の領域及び/又は神経系は、典型的には過剰興奮性である。抗痙攣薬物は、この領域の興奮性を軽減しやすくするように機能し、そのようにして、てんかん発作を予防する。
【0023】
「中枢神経系障害」の用語は、てんかん、振戦、疼痛、気分障害(鬱病、双極性障害、注意欠陥多動性障害、統合失調症を含む)を含む任意の中枢神経系(CNS)の疾患又は障害;CNSの感染(例えば、脳炎)、神経変性疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophiclateral sclerosis)、パーキンソン病)、自己免疫疾患及び炎症性疾患(例えば、多発性硬化症)及び遺伝子疾患(例えば、ハンチントン病);具体的にはてんかんを含むことを意味する。具体的な実施形態において、本発明の神経変性疾患にはアルツハイマーは含まれない。幾つかの実施形態において、アルツハイマー病及び/又はその他の神経変性疾患は、てんかん発作をもたらし、本明細書に記載される抗痙攣薬を使用して治療され得る。
【0024】
本発明は、本発明によるビサボレンセスキテルペノイドの1又は複数を含む、中枢神経系の障害における抗痙攣剤として使用される液体組成物を更に提供する。具体的な実施形態において、上記液体組成物は、クルクマ属、具体的にはウコン由来のウコン油である。
【0025】
本発明による液体組成物は、具体的には、有効量のビサボレンセスキテルペノイドを含む。当業者に明らかなように、上記有効量は、使用されるビサボレンセスキテルペノイドの数及び種類により変化してもよい。例えば、液体組成物としてのウコン油を純物質として使用してもよく、又は約1μg/ml〜50μg/mlの濃度、より具体的には約2.5μg/ml〜20μg/mlの濃度、具体的には約10μg/mlの濃度まで更に希釈して使用してもよい。ar−ターメロン、α−ターメロン、β−ターメロン及びα−アトラントンは、互いに組み合わせて、又は組み合わせずに、例えば、約11μM〜46μMの濃度、より具体的には約23μM〜46μMの濃度で存在してもよい。
【0026】
これらの液体組成物は、製剤化され、全身的に又は局所的に投与されてもよい。製剤化及び投与の技術は、"Remington's Pharmaceutical Sciences" (Mack Publishing Co.Easton Pa.)の最新版に見出すことができる。適当な経路として、例えば、経口投与又は経粘膜投与、並びに筋肉内投与、皮下投与、髄内投与、髄腔内投与、脳室内投与、静脈内投与、腹腔内投与又は鼻腔内投与を含む非経口輸送が挙げられる。
【0027】
更なる実施形態において、上記組成物は、錠剤、カプセル、ゲル、ペースト、エマルジョン、溶液、カプレット等を含む栄養補助食品又は健康補助食品の剤形であってもよい。
【実施例】
【0028】
一般的な開示を提供したが、下記実施例は該一般的な開示を説明しやすいものとする。これらの具体的な実施例は、本開示の或る特定の態様及び実施形態を説明するに過ぎず、いかなる点においても限定を意図するものではない。しかしながら、実施例において記載される或る特定の一般的な原理は、本開示の他の態様又は実施形態に通常適用可能であってもよい。
【0029】
実施例1:材料及び方法
化学物質及び試薬
ジメチルスルホキシド(99.9%、分光法グレード)をAcros Organics(ベルギー)から調達した;ジエチルエーテル(99.9%、分光法グレード)をAldrich Chemicalから調達した;及びアセトニトリル(100%、HPLCグレード)をFisher Scientific(イギリス)から調達した。再蒸留水(ddHO)をMilli−Q精製システムから得た。
【0030】
ターメリック由来のクルクミノイド混合物(クルクミン98%、デメトキシクルクミン及びビスデメトキシクルクミン)及びフェニトインをAcros Organicsから調達した。PTZをSigma-Aldrich(ドイツ)から入手し、ジアゼパムをRocheから入手した。
【0031】
植物材料
インドを原産とするウコンの乾燥根茎粉末(ターメリック)をベルギーの地元供給業者から調達した。リサーチフェローであるR.Ansalloni(クエンカ大学、クエンカ、エクアドル)が顕微鏡的な立証を完了した(26)。
【0032】
実験動物
動物実験に関する全ての手続きは、欧州及び国内の規則に従って行われ、ルーヴェンカトリック大学の動物実験委員会により承認された。
【0033】
ゼブラフィッシュ(ゼブラ・ダニオ)
Tg(fli 1a:EGFP)y1株のゼブラフィッシュ成魚を28.5℃にて14/10時間の明/暗サイクルで飼育した。卵を自然繁殖から採取し、胚培養液(NaCl 17mM、KCl 2mM、Ca(NO 1.8mM、MgSO 0.12mM、HEPES緩衝溶液pH7.1〜7.3 1.5mM及びメチレンブルー0.6μM)中で28.5℃のインキュベーターにおいて育てた。ゼブラフィッシュ胚及び幼魚の選別及び培養液交換を受精後7日まで毎日行った。全ての幼魚を過量の麻酔薬(トリカイン)の投与により犠牲した。
【0034】
マウス(ハツカネズミ)
8週齢からの雄性C57Bl/6マウス(20g〜30g)を、28℃の静かな部屋において12/12時間の明/暗サイクル下で適切なケージで飼育した。動物を10週齢〜12週齢になるまでペレット食及び水による不断給餌とした。
【0035】
実施例2:ウコン精油の蒸留
欧州薬局方に従い、クレベンジャー型装置を使用する水蒸気蒸留により、ターメリックから揮発油を得た。ターメリック試料(100g)を2LのddHOで3時間抽出した。4回の水蒸気蒸留(400g)を完了し、淡黄色の芳香性の油(収率2.14%)を得た。ウコン油を無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、使用するまで4℃で保管した。
【0036】
実施例3:ウコン油のRP−HPLC解析及びその成分の単離
ウコン油試料(334mg)をアセトニトリル10mlに溶解した。注入容量は300μlであった。ウコン油のRP−HPLC解析及び後のその成分の単離は、He及び同僚の原著から適合させた(27)。RP−HPLC解析を、ダイオードアレイ検出(DAD)システムを装備した高速液体クロマトグラファー(LaChrom Elite HPLC System、VWR Hitachi)上で行った。分取スケールでのウコン油成分のRP−HPLC分離を、Econosphere 10μm C18(33mm×7mm)ガードカラム(Grace Davison Discovery Sciences、ベルギー)に取り付けたEconosphere 10μm C18(250mm×10mm)逆相カラム(Grace Davison Discovery Sciences、ベルギー)を使用して達成した。室温にて5ml/分の流速でカラムが作動した。グラジエント溶離のプロファイルは、再蒸留水(ddHO)(A)及びアセトニトリル(B);0分〜15分、40%〜60%B;15分〜20分、60%〜100%B;20分〜25分、100%B;25分〜30分、100%〜40%Bであった。検体をDADにより260nmでモニターした。8つの画分を個別に採取した(図4)。採取された画分からの溶媒をジエチルエーテル及びddHO間の分離により除去した。
【0037】
エーテル相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥し、室温にて試料上に窒素緩流を通すことにより溶媒を除去した。濃縮された試料を解析まで4℃にて保管した。
【0038】
実施例4:ビサボレンセスキテルペンの化学構造の解明
核磁気共鳴(NMR)解析
画分4、5及び6のH及び13C NMRスペクトルを、溶媒として重水素化クロロホルム、内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を使用して、Bruker 300 Avance及びBruker 600 Avance II設備より得た。
【0039】
質量分析(MS)の解析
脱ガス装置、クォータナリーポンプ、オートサンプラ、UV−DAD検出器及びAgilent 6110シングル四重極MSに連結されたサーモスタット付(thermostatised)カラムモジュールが装備されたAgilent 1100システム上でLC−MS解析を行った。データの取得及び定量化は、Agilent LC/MSD Chemstationソフトウェアより行った。画分4、5及び6を、Grace Prevail RP−C18カラム3μm(150mm×2.1mm)上で流速0.2ml/分にて解析した。LC勾配に2種の溶媒を含めた:再蒸留水(ddHO)+0.1%ギ酸(A)及びアセトニトリル(B);0分〜17分、40%〜60%B;17分〜32分、60%〜100%B;32分〜55分、100%B。
【0040】
Xcaliburデータ解析ソフトウェアに連結されたAgilent 1100ポンプ及び注入システムを有するThermo Electron LCQ Advantage機器においてESI−MS解析を完了した。
【0041】
実施例5:ゼブラフィッシュモデルにおける毒性評価
このアッセイの目的は、抗痙攣活性評価のためゼブラフィッシュにおいて試験される適切な濃度範囲を決定することであった。受精後7日のゼブラフィッシュを24ウェルプレート(組織培養プレート、平底、FALCON(商標)、USA)に置き、1ウェル当たり幼魚6匹とした。1mlの胚培養液(1%DMSO)に溶解した種々の濃度の試験化合物と共にそれらをインキュベートした。6時間に亘って毎時間、幼魚を検査し、コントロール群と比較して以下の毒性兆候を検出した:プレートを軽く叩いた際の驚愕反応の欠如、心拍数及び血液循環の変化、浮腫の存在、麻痺及び死亡。このようにして、6時間以内の試験化合物への暴露でゼブラフィッシュ幼魚6匹中6匹において何らの毒性兆候も観察されなかった最も高い濃度により、最大許容濃度(MTC)を規定した。
【0042】
さらに、試料中で24時間に亘って幼魚を検査し、コントロール群と比較して毒性を検出した。したがって、ここでも24時間以内の試料への暴露でゼブラフィッシュ6匹中6匹において何らの毒性の兆候も観察されなかった最も高い濃度により最大許容濃度(MTC)を規定した。
【0043】
実施例6:ゼブラフィッシュPTZモデルにおける抗痙攣活性評価
受精後7日からのゼブラフィッシュ幼魚を、ViewPoint VideoTrack System for Zebrafish(商標)(Version 2.3.1.0、ViewPoint、フランス)を使用して追跡した。このシステムは、赤外光源、規定される時間(我々の実験設定においては30分間)のうちに幼魚の運動を捕捉するための高解像度デジタルビデオカメラ、及び幼魚の自発運動を解析するためのソフトウェアで構成される(図1)。
【0044】
試験された最も高い濃度は、予め決定されたMTCに相当する。ゼブラフィッシュ幼魚を96ウェルプレート(組織培養プレート、平底、FALCON(商標)、USA)に置いた;1ウェル当たり幼魚1匹。このプレートの各列(12ウェル)に異なる処理群を含めた。2つの隣接する列に同じ化合物を含めたが、2つの異なる処理を受けた:a)第1列、胚培養液(DMSO1%)、及びb)第2列、PTZ20mM。プレートの最初の2列(ビヒクルコントロール群であり、ビヒクルは胚培養液であった)は、1ウェル当たり容量100μlの胚培養液(1%DMSO)を含有した。以下3つの試験群(各々2列)は、異なる濃度の試験化合物を含む胚培養液100μlを含有した。そのように処理された幼魚を、1時間に亘って暗く静かな条件下で室温にてインキュベートした。4群中の各群の第1列に胚培養液(100μl)を添加した。同様に、100μlのPTZ 40mMを各処理群の第2列に添加した(PTZの最終濃度:20mM)。そのようにして、暴露されたゼブラフィッシュ幼魚の運動パターンを胚培養液(1%DMSO)及びPTZ20mMの存在下でビデオにより追跡し、評価した。幼魚運動のビデオトラッキングは、ウェルへの胚培養液又はPTZの添加5分後に開始し、30分間記録した。各プレートにおいて合計8ウェルをネガティブコントロールとして幼魚無し(培養液のみ)のままとし、各実験のパラメーターが幼魚10匹〜12匹の平均で構成されるようにした。追跡ソフトウェアにより、10分間の幼魚運動を3回測定した。結果は、30分間の幼魚運動の合計時間の平均値として登録された。示される図は、2つの類似する一連の実験の代表例である。
【0045】
クルクミノイドの抗痙攣特性を、ゼブラフィッシュ幼魚の発作様運動のビデオトラッキング解析により評価した。より高い試験濃度がMTCに相当し、したがって、いずれの場合も幼魚がこれらの用量において何らの毒性兆候も表すことはなかった。クルクミノイドに対するMTCは10μg/mLに相当する。クルクミノイドは、2.5μg/mL(p<0.05)並びに5μg/mL及び10μg/mL(p<0.001)において有意な抗痙攣活性を示した(図2)。この知見は、齧歯類モデルにおいて明らかにされているクルクミンの抗痙攣特性と合致する(11)(12)(13)(14)。一方、更なる解析により、ウコン油の抗痙攣活性が見出された。幼魚は、ウコン油(10μg/ml)に暴露された後のPTZ誘発性発作の有意な減少(p<0.001)を示した(図2)。
【0046】
クルクミノイド及びウコン油の抗痙攣活性を、てんかんの治療に広く使用されている2種の薬物、フェニトイン及びジアゼパムと比較した。より高い試験濃度がMTCに相当した。フェニトインは、75μg/ml(p<0.05)及び252.26μg/ml(p<0.001)で有意な活性を示した。ジアゼパムは、1.42μg/ml及び14.23μg/ml(p<0.001)の濃度において幼魚におけるPTZ誘発性運動を減少した(図3)。クルクミン及びウコン油は、フェニトインよりも顕著に低い濃度において、またジアゼパムと同等の濃度において発作の発生を遅延する興味深い活性を表した。
【0047】
ウコン油のRP−HPLC解析により、8つのピークが明らかとなった(図4)。ピークを個別に採取して抗痙攣活性を評価し、活性成分を見出した。画分2及び7は、採取量がアッセイの実施に不十分であったためゼブラフィッシュモデルにおいて試験しなかった。PTZにより引き起こされる発作の有意な減少が、10μg/mlの画分4(p<0.05)、5μg/mlの画分5(p<0.001)、並びに5μg/ml(p<0.001)及び10μg/ml(p<0.05)の濃度の画分6で観察された(図5図6図7A)。ビサボレンセスキテルペノイドは、フェニトインに比べてより低い濃度で抗痙攣特性を呈した。画分4及び6は、ジアゼパムと同様の濃度で陽性反応を表した。画分5は、ジアゼパム及びフェニトインよりも低い濃度で有効であった。
【0048】
化学構造の解明のため、ゼブラフィッシュPTZモデルにおいて陽性活性を示した画分4、5及び6を更に解析した。画分4の保持時間、分子量及びUVmaxは、図4に提示される生成物と一致する。この画分のH−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルは、ar−ターメロンに関して報告されている値と一致しており(29)、おそらくエナンチオマーの混合物である。NMR解析は、画分5が2つの異性体構造物の1:1の混合物、おそらくエナンチオマーの混合物であることを示す。この画分の化合物は、1D−NMR解析及び2D−NMR解析によりα−ターメロン及びβ−ターメロン(クルロン)と同定された(30)。芳香族アナログar−ターメロンへの異性化は、1週間後のNMRで観察されなかった。画分6の構造を、分子量、1D−NMRスペクトル及び2D−NMRスペクトルに基づいて(29)(31)、α−アトラントン(おそらくE異性体)と同定した(図4;表1)。
【0049】
表1 ウコン油由来のビサボレンセスキテルペノイドのUV及びMSデータ。解析より得られたデータを括弧[]の間に引用されるX.He及び同僚の解析(24)からの値と比較する。
【表1】
画分4:ar−ターメロン;画分5:α、β−ターメロン(クルロン);画分6:α−アトラントン
【0050】
ターメリック(ウコン根茎粉末)のメタノール抽出物の解析により、ゼブラフィッシュ幼魚PTZアッセイにおける抗痙攣活性が明らかとなった。ターメリックのメタノール抽出物中に存在する活性成分を同定するため、クルクミノイド及びウコン油の抗痙攣特性もビデオトラッキング解析により評価した。クルクミノイドは、我々の幼魚PTZアッセイにおいて、2.5μg/ml(p<0.05)並びに5μg/ml及び10μg/ml(p<0.01)で抗痙攣活性を示した。追加の解析より、ウコン油について更なる抗痙攣活性を見出した。幼魚は、ウコン油(10μg/ml)に暴露後のPTZ誘発性痙攣の減少(p<0.01)を示した(図2C図2E)。すなわち、クルクミノイド又はウコン油単独(すなわち、痙攣誘発薬の不存在)に対するゼブラフィッシュ幼魚の暴露もまた、ビヒクル処理されたコントロールに比べて、自発運動の僅かな増加を生じた。しかしながら、明白な毒性兆候(心拍数、姿勢の喪失、触覚刺激に対する応答の欠損及び遅延、又は死亡により測定される)は、これらの幼魚では観察されなかった。
【0051】
また、ビサボレンセスキテルペノイドの抗痙攣特性も、ゼブラフィッシュ幼魚の発作様運動のビデオトラッキング解析により評価した。より高い試験濃度がMTCに相当し、したがって、いずれの場合も幼魚がこれらの用量において何らの毒性兆候も表すことはなかった。ar−ターメロン、α、β−ターメロン及びα−アトラントンの画分について、PTZにより引き起こされる痙攣において有意な減少が観察された。ar−ターメロンは46μM(p<0.05)、α、β−ターメロンは23μM(p<0.01)、及びαアトラントンは23μM(p<0.05)及び46μM(p<0.01)の濃度で抗痙攣活性を示した(図7B図7D)。
【0052】
実施例7:マウスにおけるPTZ誘発性発作の発生
マウスを無作為に5匹の動物群に分けた(ビヒクル(ここで、ビヒクルはポリエチレングリコール200(PEG200):水 1:1であった)及び試料)。動物を10分間赤外線ランプのもとで予め温め尾静脈を拡張させた。その後、それらを保定器に置いて、1cm長、29ゲージの針を用いて外側尾静脈にカテーテル挿入を行った。正しい配置を確認した後に針をサージカルテープで尾に固定した。針を、a)試料(コントロールビヒクル又は試験化合物)及びb)PTZ(7.5mg/ml ddHO)を含有する2つの2.5mlグラスシリンジに接続された0.7m長のポリエチレンチューブにつないだ。これらのシリンジを注入ポンプ(ALADOIN−1000 11VDC、0.75Å、World Precision Instruments)に取り付けた。このようにして、100μLのコントロールビヒクル(PEG200:ddHO 1:1)又は試験化合物(ウコン油及びar−ターメロン)を、50μl/分の速度で2分間、静脈内注入した。10分後、マウスを保定器から解放し、観察用の透明なプラスチックケージに置いた。
【0053】
PTZを150μl/分の速度で絶えず注入した。マウスにおける発作発現段階は、PTZ注入の開始から以下の行動事象までの時間により採点した:耳単攣縮、尾単攣縮及び筋間代性単攣縮、前肢間代性痙攣、転落、強直性後肢伸展並びに死亡(28)。行動をPTZ注入の5分以内に観察した。生存マウスがいた場合には、それらを犠牲した。
【0054】
PTZ用量を下記式に従って算出した:PTZ容量(mg/kg)=(PTZ濃度(mg/ml)×注入速度(ml/秒)×注入期間(秒)×1000)/マウス体重(g))。全ての試験溶液はヘパリン(20μl/ml)を含有した。
【0055】
ウコン油がマウスにおけるPTZ誘発性発作の発生を制御することについての更なる評価により、マウスPTZアッセイにおける発作パラメーターの開始に対する遅延が示された。ウコン油(50mg/kg)で処理されたマウスは、コントロール群に比べて、全ての行動エンドポイント、すなわち、尾単攣縮(p<0.001)、耳単攣縮、筋間代性単攣縮、前肢間代性痙攣、転落、強直性後肢伸展及び死亡(p<0.05)を引き起こすために必要なPTZ用量の有意な増加を示した(図8A)。興味深いことに、200mg/kgの用量でのar−ターメロンもまた、コントロールに比べて、マウスにおける耳単攣縮、尾単攣縮及び筋間代性単攣縮、強直性後肢伸展並びに死亡(p<0.05)を発生させるPTZ用量の有意な増加を示した(図8B)。
【0056】
ビヒクルPEB200:DMSO 1:1を使用した場合、ウコン油(50mg/kg)で処理されたマウスは、コントロール群に比べて、全ての行動エンドポイント、すなわち、前肢間代性痙攣、転落及び強直性後肢伸展(p<0.05)、並びに耳単攣縮、筋間代性単攣縮、尾単攣縮及び死亡(p<0.01)を引き起こすために必要なPTZ用量の有意な増加を示した(図9A)。
【0057】
さらに、マウスPTZアッセイにおいて100mg/kgの用量のウコン油は、コントロールに比べて全ての発作パラメーター及び死亡に関し、発作発生の遅延に有意な活性を呈した(p<0.01)(図9B)。活性型ビサボレンセスキテルペノイドに関し、ar−ターメロン及びα、β−ターメロンを、マウスPTZ発作モデルを使用して評価した(図10)。50mg/kgの用量のar−ターメロンが注入されたマウスは、発作の発生に対して有意な抵抗性を呈し、全ての評価事象、すなわち、強直性後肢伸展(p<0.05)、並びに耳単攣縮、筋間代性単攣縮及び尾単攣縮、前肢間代性痙攣、転落並びに死亡(p<0.01)を引き起こすために必要なPTZの用量の増加をもたらした。同様に、α、β−ターメロンの抗痙攣活性を評価し、ここでも100mg/kgの用量で、全ての発作パラメーター、すなわち、前肢間代性痙攣、転落、耳単攣縮及び尾単攣縮(p<0.05)、並びに筋間代性単攣縮、強直性後肢伸展並びに死亡(p<0.01)について陽性の結果が見られた。α−アトラントンについては、採取量がこのアッセイを実施するために十分ではなかったため、このマウスモデルにおいては試験しなかった。
【0058】
バルプロ酸ナトリウムを、我々のマウスにおけるAEDスクリーニング用PTZ尾部注入法におけるポジティブコントロールとして含めた(図11)。このアッセイを使用することにより、バルプロ酸ナトリウム(50mg/kg)は、強直性後肢伸展(p<0.01)及び死亡(p<0.05)の遅延が可能であった。また、バルプロ酸ナトリウムは、同様にポジティブコントロールとして使用され、ゼブラフィッシュ幼魚における発作の発生を制御することができた(図11)。
【0059】
実施例8:統計学的解析
全ての統計学的解析をGraphPad Prism 5ソフトウェア(GraphPad Software, Inc.)を使用して行った。値は、平均±標準偏差(SD)として表した。ゼブラフィッシュ幼魚の自発運動をone−way ANOVAの後のDunnettの多重比較検定を使用して解析した。処理群及び同等のコントロール群(ビヒクル又はPTZ)間の統計学的有意差(p<0.05)をゼブラフィッシュ幼魚の自発運動における減少又は増加の指標とみなした。マウス実験については、上記発作ステージ前に推定された時間間隔の間の有意差を対応のないStudentのt検定を使用して算出した。
【0060】
実施例9:部分てんかんの6Hz精神運動発作モデルにおけるar−ターメロンの抗痙攣活性評価
ar−ターメロンの抗痙攣活性を評価するため、部分てんかんの6Hz精神運動発作モデル(Barton M.E. et al., 2001)を使用し、それにより、以下の刺激パラメーターを適用した:6Hz、0.2ミリ秒矩形波パルス幅、3秒持続。
【0061】
各マウス(雄性NMRI ±30g)に化合物(ar−ターメロン50mg/kg、20mg/kg、1mg/kg及び100μg/kg)又はビヒクル(PEG200:DMSO 1:1)を腹腔内注射により投与した。30分間のインキュベーションの後、Ugo−Basil機器を使用して角膜刺激により発作を誘発した。角膜電極を置く前に、キシロカイン0.5%を一滴、動物の眼に適用した。動物を手で押さえ、刺激後すぐに透明なプラスチックケージに解放した。その後、動物を観察した。発作は、失神、前肢間代性痙攣、触毛の単攣縮、少なくとも45秒の挙尾を特徴とした。保護を、発作の不存在により定義した。各用量当たり最低6匹の動物を使用した。マウス6匹中6匹が、ar−ターメロン100μg/kg、及び1mg/kg、20mg/kg、50mg/kgの濃度で保護を示した(図13)。ネガティブコントロール(ビヒクルのみ)及びポジティブコントロール(バルプロ酸300mg/kg)も同様に含んだ。予想されたように、ビヒクルのみにより処理されたマウス6匹中6匹は保護されず、バルプロ酸により処理されたマウス6匹中6匹が保護された。
【0062】
実施例10:高架橋上での運動協調性及び平衡
本実施例において、高架橋を使用するマウスの運動協調性及び平衡を(Brooks et al., 2012)に記載されるように観察した。
【0063】
高架橋は、マウス(雄性C57Bl/6 ±25g)がその平衡(フットスリップで測定)を失うことなく橋桁を横切る能力を測定する。橋桁を横切る間、中断することなく走ることに熟達するまで各マウスを訓練した。橋桁の2つの領域を「開始」領域及び「停止」領域と設計し、橋桁を走る際の動物のタイミングを操作者が開始及び停止できるようにした。訓練の後、各マウスに上記化合物又はビヒクルを静脈内投与した。10分後、橋桁の方に向いている状態(state)で橋桁の先端にマウスを置いた。操作者は、開始線からマウスが停止線に到達するまでの時間を計測した。橋桁上(「開始」領域から「停止」領域まで)のフットスリップ回数(図12A)、転落回数(図12B)及び合計時間(図12C)を数えた。この試験において、ar−ターメロン50mg/kgで処理されたマウス5匹中5匹が、コントロール群(ビヒクルにより処理された)に匹敵する行動を見せた。よって、得られた結果より、ar−ターメロンはその抗痙攣活性の副作用として運動障害及び平衡障害を引き起こさないことが示唆され得る。ジアゼパムで処理されたマウスを、静脈内/腹腔内投与後のマウスにおける運動変化及び平衡変化を引き起こす、このAEDの既知の副作用のため含めた。
【0064】
考察
ゼブラフィッシュPTZ誘発性発作モデル(24)は、第一選択のAED、すなわちフェニトイン及びジアゼパムを使用することにより正当であることが立証された。このスクリーニングシステムの更なる正当化は、クルクミノイドの既知の抗痙攣特性の同定により達成された。クルクミンは、ターメリックの抗痙攣特性を担う主な活性物質としてしばしば引用されてきた(11)(12)(32)。その医薬特性が立証されているものの、第I相臨床試験では、クルクミンの重要な薬物動態上の制限が明らかとなった。経口投与された場合、消化管を通して吸収された少量のクルクミンは、ほとんどが水様性の代謝産物に転換されて排泄される。よって、循環系に到達するクルクミンの量は非常に少ない。したがって、とりわけバイオアベイラビリティーの問題がその治療適用を制限している。よって、幾つかの製剤研究がクルクミンのバイオアベイラビリティーを向上するために行われている(33)。
【0065】
一方、齧歯類モデルにおける神経保護研究により、ウコン油及びその主なビサボレンセスキテルペノイドが容易に血液脳関門を通過することが示され、これは細胞膜の通過を可能とする親油性に起因すると思われる(18)。ウコン油及びその成分がより良好なバイオアベイラビリティーを示し、クルクミンと比較した場合により困難なく生体膜を通過することから(15)(16)(33)、ウコン油も抗痙攣特性を表すという我々の知見は実に興味深いものである。さらに、ターメリックの安全性は、ターメリックが主にインドにおいて何世紀にもわたって食品の香辛料として広く使用されてきており、その使用がヒトの摂取について承認されてきたという事実により支持されている。さらに、ヒトの健康な患者において(34)及びin silico解析において(35)行われた毒性研究により、ar−ターメロンが更なる薬物開発の安全な有力候補として予測されている。
【0066】
ウコン油の揮発性成分に関する以前の研究は、それらの複雑な単離により制限されていた。我々の業績は、RP−HPLCによるウコン油の主成分を単離するための実用的な方法を提供する。単離された化合物を、ゼブラフィッシュPTZてんかんモデルにおいて個別に評価した(ピーク1、3、8についてデータは示していない)。このモデルは、ウコン油及び主要なビサボレンセスキテルペノイド:ar−ターメロン;α、β−ターメロン(クルロン)及びα−アトラントンの顕著な活性を明らかにした。さらに、ウコン油(50mg/kg及び100mg/kg)、ar−ターメロン(200mg/kg)、及びα、β−ターメロン(100mg/kg)の抗痙攣特性を、マウスPTZモデル及び部分てんかんの6Hz精神運動発作モデルにおいて裏付けることに成功した。ウコン油対ar−ターメロンの活性については、このモデルにおいて抗痙攣特性を観察するためにより高用量の単離されたビサボレンセスキテルペノイドが必要であることから、付加的な活性のように見える。それでも、これらの知見より、主要なビサボレンセスキテルペノイド、特にar−ターメロンが、更に調査される有力な抗痙攣薬物候補として明らかとなった。
【0067】
参照による援用
本明細書において言及される全ての刊行物及び特許は、各個別の刊行物又は特許が具体的にかつ個別に引用することにより本明細書の一部をなすことが示されているかのように、その全体が引用することにより本明細書の一部をなすものとする。不一致の場合、本明細書中のあらゆる定義を含め、本出願が支配する。
【0068】
均等物
本発明の具体的実施形態を説明したが、上記明細書は例証であって制限ではない。本明細書及び添付の特許請求の範囲を検討することにより、本発明の多くの変形形態が当業者に明白となるであろう。本発明の全範囲は、特許請求の範囲と共にそれらの均等物の全範囲、及び明細書と共にそのような変形形態を参照して決定されるべきである。
【0069】
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