特許第6090905号(P6090905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6090905高温延性と高温クリープ破断寿命に優れた球状黒鉛鋳鉄およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6090905
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】高温延性と高温クリープ破断寿命に優れた球状黒鉛鋳鉄およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 37/04 20060101AFI20170227BHJP
   C21D 5/00 20060101ALI20170227BHJP
   C21C 1/10 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   C22C37/04 E
   C21D5/00 T
   C21C1/10 102
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-257347(P2012-257347)
(22)【出願日】2012年11月26日
(65)【公開番号】特開2014-105342(P2014-105342A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】506196694
【氏名又は名称】日鋼テクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】田中 慎二
(72)【発明者】
【氏名】成田 英記
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 聡
(72)【発明者】
【氏名】廣藤 朋一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 義裕
(72)【発明者】
【氏名】石田 俊一
【審査官】 本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−339033(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02511394(EP,A1)
【文献】 特開平07−118790(JP,A)
【文献】 特開昭61−073859(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0123321(US,A1)
【文献】 特開2011−007182(JP,A)
【文献】 特開平10−195587(JP,A)
【文献】 米国特許第04484953(US,A)
【文献】 特開2011−162835(JP,A)
【文献】 特開昭58−058248(JP,A)
【文献】 特開2003−193176(JP,A)
【文献】 特開2002−371335(JP,A)
【文献】 特開2004−360071(JP,A)
【文献】 特開2004−169135(JP,A)
【文献】 K.REIFFERSCHEID,Verbesserung des Zeistandverhaltens von ferritischem Gusseisen mit Kugelgraphit durch Legieren,GIESSEREI-PRAXIS,ドイツ,1978年,No.18,Page.291-294
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/10
C21D 5/00
C22C 37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でC:3.2〜4.4%、Si:3〜4.8%、Mn:0.1〜0.9%、P:0.03〜0.2%、Ni:0.3〜3.0%、Mo:0.1〜1.5%、Mg:0.02〜0.1%、Cu:0.01%〜0.3%未満を含有し、さらに、Cr、V、Nbの1種または2種以上を合計量で0.01%以上0.3%未満含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる組成を有し、350〜430℃での伸びが10%以上、350〜430℃、320MPaでのクリープ破断寿命が250時間以上であることを特徴とする高温延性と高温クリープ破断寿命に優れた球状黒鉛鋳鉄。
【請求項2】
請求項1に記載の前記組成の鋳鉄に対する球状化処理を行った後、700〜900℃、1時間以上のフェライト化熱処理を行うことを特徴とする高温延性と高温クリープ破断寿命に優れた球状黒鉛鋳鉄の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高温における延性とクリープ特性に優れた球状黒鉛鋳鉄およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
JIS FCD400、FCD450−10などに代表される球状黒鉛鋳鉄は、普通鋳鉄に比べて高い強度を有しており、安価な工業材料としてクランク軸や発電タービンケーシングの低温部などの用途に広く利用されている。しかし、一般に球状黒鉛鋳鉄は、高温での強度が低く、350〜430℃の高温で、引張強さ、破断伸び、及び疲労強度が急激に低下する脆化現象が生じることが知られている。前記脆化現象はクリープ特性の低下も招く。このため高温において、高い強度とクリープ特性が必要とされる用途に使用することは困難であると考えられており、例えば、発電タービンケーシングの高温部に使用することはできない。したがって、一般に高温強度が要求される部位には高温強度の高い合金鋼を使用し、これを溶接することによって所望の形状を得る方法が採られている。高温強度が要求される部位にも鋳鉄を使用することができれば、材料費は低減され、さらに溶接などの手間を省くことができるので、製造コストを大幅に低減することが可能になる。
【0003】
一方、特許文献1では、C、Si、P、Ni、Mo、Mgを所定範囲量含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる高温強度に優れた球状黒鉛鋳鉄が提案されている。
また、特許文献2では、C、Si、Cu、Mn、P、Ni、Mo、Mgを所定範囲量含有し、残部が主としてFeより成る高クリープ抵抗を有する球状黒鉛鋳鉄が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−118790号公報
【特許文献2】特公昭33−2113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記特許文献1及び特許文献2に記載された球状黒鉛鋳鉄においてもクリープ特性の点で十分な特性を得られていない。クリープ特性が改善されれば、高温で、高い強度及びクリープ特性が必要とされる用途に使用が可能となる。また、鋳鉄は引け巣が生じ難いため、チルの生成にさえ気をつければ薄肉化が容易であり、形状の自由度が高い。そのため、例えば、発電タービンケーシングを製造する場合、内面を滑らかな形状とすることで高圧高温の蒸気をスムーズに流すことが可能となる。その結果として、発電効率の向上も期待できる。
【0006】
本願発明は上記事情を背景としてなされたものであり、高温で、高い強度及びクリープ特性を有し、高温環境での使用を可能とした球状黒鉛鋳鉄およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の球状黒鉛鋳鉄のうち、第1の本発明は、質量%でC:3.2〜4.4%、Si:3〜4.8%、Mn:0.1〜0.9%、P:0.03〜0.2%、Ni:0.3〜3.0%、Mo:0.1〜1.5%、Mg:0.02〜0.1%、Cu:0.01%〜0.3%未満を含有し、さらに、Cr、V、Nbの1種または2種以上を合計量で0.01%以上0.3%未満含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる組成を有し、350〜430℃での伸びが10%以上、350〜430℃、320MPaでのクリープ破断寿命が250時間以上であることを特徴とする。
【0010】
の本発明の球状黒鉛鋳鉄の製造方法は、前記第1の本発明に記載の前記組成の鋳鉄に対する球状化処理を行った後、700〜900℃、1時間以上のフェライト化熱処理を行うことを特徴とする。
【0011】
以下に本発明における球状黒鉛鋳鉄の成分の具体的な作用とその限定理由について説明する。
C:3〜4.4%
Cは球状化処理により黒鉛化、球状化した黒鉛粒を確保するため含有させる。但し、C含有量が3%未満では炭化物が生成しやすく、引け巣が発生して延性が低下する。また、4.4%を越えて含有させると、Cドロスが発生したり偏析が生成したりして強度、延性が低下するので、C含有量は上記範囲に限定する。なお、同様の理由で下限を3.2%、上限を4.0%とするのが望ましい。
【0012】
Si:3〜4.8%
Siは黒鉛化を促進し、黒鉛を囲むフェライトを生成させて強度を上げるために含有させる。但し、Si含有量が3%未満ではこれらの作用は不十分であり、また熱処理によって基地をフェライト化した場合、延性は得られるが引張強さは低下する。また、4.8%を越えて含有させると、基地が強化されるものの、シリコフェライトが生じて靭性が低下するのでSi含有量は3〜4.8%に限定する。なお、同様の理由で下限を3.1%、上限を4.0%とするのが望ましい。
なお、CとSiにはよい相関があり、C/Siの比を1.5以下に設定することにより、より優れた高温延性が得られる。
具体的には、この比を1.5以下にすることで、400℃での伸びを10%以上、400℃320MPaでのクリープ破断寿命において100時間以上確保することができる。従って、C、Siの上記含有量に加えて、C/Si比を1.5以下に規制するのが望ましい。
【0013】
Mn:0.1〜0.9%
Mnはセル境界に炭化物を生成してクリープ破断寿命を延長させる。また、含有量を少なくしようとするとスクラップの使用が困難になり原料コストが上昇してしまう。従って、0.1%以上含有することが望ましい。しかしながら、含有量を増すと炭化物を多量に生成して逆にクリープ破断寿命を低下させるため、Mn合有量は0.1〜0.9%に限定する。同様の理由で0.1〜0.5%とするのが望ましい。
【0014】
P:0.03〜0.2%
Pは高温における伸びやクリープ破断伸びを確保するために含有させる。但し、0.03%未満の含有量では高温での伸びやクリープ破断寿命は十分ではなく、また、0.2%を越えて含有させると、ステダイトを生成して脆化するので、P含有量は0.03〜0.2%に限定する。なお、同様の理由で下限を0.04%、上限を0.1%とするのが望ましい。
【0015】
Ni:0.3〜3.0%
Niは高温強度とクリープ破断寿命を確保するために含有させる。但し、0.3%未満の含有量では高温延性やクリープ破断寿命の向上は不十分であり、また、3.0%を越えて含有させると特性は向上するものの、原料コストの上昇を招くため、Niの含有量は0.3〜3.0%に限定する。なお、同様の理由で下限を0.5%、上限を2.0%とするのが望ましい。
【0016】
Mo:0.1〜1.5%
Moは高温におけるクリープ破断寿命を向上させるために含有させる。但し、0.1%未満の含有量ではその作用は不十分であり、また、1.5%を越えて含有させると、基地を固溶強化し過ぎたり、Moカーバイドを生成したりしてクリープ破断寿命を低下させるのでMo含有量は0.1〜1.5%に限定する。なお、同様の理由で下限を0.2%、上限を1.0%とするのが望ましい。
【0017】
Mg:0.02〜0.1%
Mgは球状化処理に必要な元素であり、十分な球状化を確保するために0.02%以上を含有させる。但し、0.1%を越えて含有させると、逆チルが生成されてクリープ破断寿命が低下するのでMg含有量は0.02〜1.0%に限定する。なお、同様の理由で下限を0.03%、上限を0.07%とするのが望ましい。
【0018】
Cr、V、Nb:1種類以上、合計で0.3%未満
Cr、V、NbはMnと同様にセル境界に炭化物を生成して強度やクリープ破断寿命を上昇させる。無含有でも上記成分系であれば十分にクリープ破断寿命に優れるが、これらを1種類以上含有することができる。但し、合計で0.3%を以上含有させると高温延性やクリープ破断寿命を低下させるため、合計の含有量は0.3%未満とする。なお、上記作用を確実に得るためには、合計量で0.01%以上含有するのは望ましい。また、同様の理由で合計量の下限を0.02%、上限を0.2%とするのが一層望ましい。
【0019】
Cu:0.3%未満
Cuは微量であれば炭化物の生成を促進して強度やクリープ破断寿命を上昇させる。但し、0.3%以上含有すると延性とクリープ破断寿命を低下させるので、含有量は0.3%未満に限定する。なお、同様の理由で下限を0.01%、上限を0.1%とするのが望ましい。
【0020】
S:0.03%以下
Sは溶解材料から不可避的に入るが、0.03%を越えて含有していると、球状化処理時にはSとMgが反応してドロスを生成し、このドロスが巻き込みによる欠陥やMgの歩留り低下による球状化率低下を起こし、強度やクリープ破断寿命を低下させるので、含有率を0.03%以下に限定するのが望ましい。
その他不可避元素として、Al:0.05%以下、Ca:0.02%以下、Ce:0.02%以下、REM:0.1%以下が、球状化処理剤および接種剤などから鋳鉄中に入り、残留することがある。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、高温強度と高温クリープ特性に優れた球状黒鉛鋳鉄を得ることができる。この球状黒鉛鋳鉄は、高温で、高い強度及びクリープ特性が必要とされる用途に使用が可能となり、例えば、発電タービンケーシングなどに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例における2インチY型ブロックを示す図である。
図2】同じく、引張試験片形状を示す図である。
図3】同じく、クリープ試験片形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の球状黒鉛鋳鉄は、前記組成を得るべく常法に従って溶製することができ、その溶製方法が特に限定されるものではない。
前記溶製では、真空雰囲気や不活性雰囲気、大気雰囲気などで材料を溶解して鋳塊を得ることができる。溶製の雰囲気は真空雰囲気、不活性雰囲気が望ましいが例えば大気高周波炉で溶製することもできる。
鋳鉄の球状化処理は、溶製時にマグネシウムを添加するなどして行うことができ、本発明としては、球状化処理の方法が特に限定されるものではない。また、本発明の鋳鉄では、フェライト化熱処理を施すことでフェライト化率を高めることができる。フェライト化熱処理の条件として、好適には700〜900℃×1時間以上の条件を挙げることができる。但し、本発明としては、フェライト化熱処理が上記条件に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
以下に、本発明の実施例について説明する。
表1の組成(残部がFeおよびその他の不可避不純物)において高周波溶解炉で50kgの鋳塊を溶解し、球状化処理を施して図1に示す2インチY型ブロック1(JIS G 5502:全高さa:140mm、奥行きb:165mm、上幅c:55mm、下方柱部の高さd:40mm、下幅e:25mm)に鋳込んで、発明材および比較材をそれぞれ溶製した。これら試験材に850℃×3時間保持後に熱処理炉内で冷却するフェライト化熱処理を施した。この試験材から図2に示す引張試験片2と図3に示すクリープ試験片3を切り出し、400℃の引張試験、ならびに400℃のクリープ破断試験を行った。
【0025】
引張試験片2は、全長L:120mm、平行部径D:12.5mm、標点距離A:50mm、つかみ間隔B:75mm、つかみ肩部径R:10mmの寸法を有する。
クリープ試験片3は、両端のつかみ部間に幅の狭い平行部が形成された丸棒であり、全長L:70mm、標点距離A:30mm、つかみ部の幅W:14mm、つかみ肩部径R:5mm、つかみ間隔B:40mm、幅の狭い平行部径D:6mmの試験片である。
【0026】
試験は、0.2%耐力、引張強さ、引張破断伸び、クリープ破断寿命について行い、その結果は表2に示した。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【符号の説明】
【0029】
1 2インチY型ブロック
2 引張試験片
3 クリープ試験片
図1
図2
図3