特許第6090937号(P6090937)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6090937新規ドーパミン産生神経前駆細胞マーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6090937
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】新規ドーパミン産生神経前駆細胞マーカー
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0797 20100101AFI20170227BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20170227BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20170227BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20170227BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   C12N5/0797
   A61K35/12
   A61K35/30
   A61P25/16
   G01N33/53 Y
【請求項の数】13
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-502915(P2014-502915)
(86)(22)【出願日】2012年7月27日
(65)【公表番号】特表2014-523734(P2014-523734A)
(43)【公表日】2014年9月18日
(86)【国際出願番号】JP2012069785
(87)【国際公開番号】WO2013015457
(87)【国際公開日】20130131
【審査請求日】2015年7月24日
(31)【優先権主張番号】61/512,162
(32)【優先日】2011年7月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506137147
【氏名又は名称】エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳
(72)【発明者】
【氏名】土井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐俣 文平
(72)【発明者】
【氏名】尾野 雄一
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/119759(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/038018(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/052190(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/009241(WO,A1)
【文献】 EXPERIMENTAL CELL RESEARCH,2008年 3月 8日,Vol. 314,p. 2123-2130
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
CiNii
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団を用意する工程、および
該ドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団からLrtm1が陽性であることを指標と
してドーパミン産生神経前駆細胞を抽出する工程
を含む、ドーパミン産生神経前駆細胞の製造方法。
【請求項2】
前記ドーパミン産生神経前駆細胞を抽出する工程が、さらにcorinおよび/またはLmx1aが陽性であることを指標とする、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記ドーパミン産生神経前駆細胞がヒトドーパミン産生神経前駆細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団が、多能性幹細胞から分化誘導された細胞集団または摘出組織細胞から成る細胞集団である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記多能性幹細胞から分化誘導された細胞集団が、多能性幹細胞をBMP阻害剤およびTGFβ阻害剤を含有する培地で培養することによって得られた細胞集団である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
ドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団においてドーパミン産生神経前駆細胞を検出する方法であって、Lrtm1が陽性であることを指標としてドーパミン産生神経前駆細
胞を検出することを特徴とする方法。
【請求項7】
さらにcorinおよび/またはLmx1aが陽性であることを指標とする、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記ドーパミン産生神経前駆細胞がヒトドーパミン産生神経前駆細胞である、請求項6ま
たは7に記載の方法。
【請求項9】
前記ドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団が多能性幹細胞から分化誘導された細胞集団、または単離された組織の細胞からなる細胞集団である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記多能性幹細胞から分化誘導された細胞集団が、多能性幹細胞をBMP阻害剤とTGFβ阻害剤が添加された培地で培養することによって得られた細胞集団である、請求項に記載の方法。
【請求項11】
Lrtm1を検出する試薬を含むドーパミン産生神経前駆細胞の検出用キット。
【請求項12】
Lrtm1を検出する試薬が抗Lrtm1抗体である、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記抗Lrtm1抗体がLrtm1の細胞外ドメインを認識する抗Lrtm1抗体である、請求項12
記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
パーキンソン病は、中脳黒質のドーパミン産生神経細胞の脱落によって起きる神経変性疾患であり、現在、世界中で約400万人の罹患者がいる。パーキンソン病の治療として、L-dopaまたはドーパミンアゴニストによる薬物治療、定位脳手術による凝固術または深部電気刺激治療および胎児中脳移植などが行われている。
【0002】
胎児中脳移植はその供給源の組織の倫理的な問題があるともに、感染の危険性も高い。そこで、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞から誘導した神経細胞を用いた治療法が提案されている(非特許文献1)。しかし、誘導した神経細胞を移植した際に、良性腫瘍を形成する可能性が指摘されており、生着し尚且つ安全な細胞を選択して移植することが求められている。
【0003】
そこで、ドーパミン産生神経細胞またはドーパミン産生神経前駆細胞のマーカーとなる遺伝子が報告されているが(特許文献1〜3)、移植に適した特異的な細胞を限定的に抽出するためには、さらに多くのマーカーが必要であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO 2005/052190
【特許文献2】WO 2006/009241
【特許文献3】WO 2007/119759
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Wernig M, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2008, 105: 5856-5861
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、ドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団よりドーパミン産生神経前駆細胞を抽出することである。したがって、本発明の課題は、ドーパミン産生神経前駆細胞に特異的なマーカーを提供することである。
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、ドーパミン産生神経前駆細胞のマーカーと考えられている細胞表面膜タンパク質のcorinに着目し、多能性幹細胞より分化誘導した神経前駆細胞または神経細胞を含む細胞集団よりcorinが陽性である細胞を抽出し、これらの細胞に特異的に発現している細胞表面マーカーとしての遺伝子もしくは糖脂質を見出し、これらを指標とすることで、ドーパミン産生神経前駆細胞を得られることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の一つの態様は、
ドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団を用意する工程、
該ドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団から、CD15 (SSEA-1)、CD24、CD46、CD47、CD49b、CD57、CD58、CD59、CD81、CD90、CD98、CD147、CD184、Disalogangliosid GD2、SSEA-4、CD49f、SERINC4、CCR9、PHEX、TMPRSS11E、HTR1E、SLC25A2、Ctxn3、Ccl7、Chrnb4、Chrna3、Kcnv2、Grm2、Syt2、Lim2、Mboat1、St3gal6、Slc39a12、Tacr1、Lrtm1およびDscamから成る群から選ばれるいずれか一つ以上のマーカーが陽性であることおよび/またはCD201が陰性であること、を指標としてドーパミン産生神経前駆細胞を抽出する工程
を含む、ドーパミン産生神経前駆細胞の製造方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記陽性マーカーがLrtm1である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記ドーパミン産生神経前駆細胞を抽出する工程が、さらにcorinおよび/またはLmx1aが陽性であることを指標とする、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記ドーパミン産生神経前駆細胞がヒトドーパミン産生神経前駆細胞である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記ドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団が、多能性幹細胞から分化誘導された細胞集団または摘出組織細胞から成る細胞集団である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記多能性幹細胞から分化誘導された細胞集団が、多能性幹細胞をBMP阻害剤およびTGFβ阻害剤を含有する培地で培養することによって得られた細胞集団である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、ドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団においてドーパミン産生神経前駆細胞を検出する方法であって、CD15 (SSEA-1)、CD24、CD46、CD47、CD49b、CD57、CD58、CD59、CD81、CD90、CD98、CD147、CD184、Disalogangliosid GD2、SSEA-4、CD49f、SERINC4、CCR9、PHEX、TMPRSS11E、HTR1E、SLC25A2、Ctxn3、Ccl7、Chrnb4、Chrna3、Kcnv2、Grm2、Syt2、Lim2、Mboat1、St3gal6、Slc39a12、Tacr1、Lrtm1およびDscamから成る群から選ばれるいずれか一つ以上のマーカーが陽性であること、および/またはCD201が陰性であることを指標としてドーパミン産生神経前駆細胞を検出することを特徴とする方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記陽性マーカーがLrtm1である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、さらにcorinおよび/またはLmx1aが陽性であることを指標とする、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記ドーパミン産生神経前駆細胞がヒトドーパミン産生神経前駆細胞である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記ドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団が多能性幹細胞から分化誘導された細胞集団、または単離された組織の細胞からなる細胞集団である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記多能性幹細胞から分化誘導された細胞集団が、多能性幹細胞をBMP阻害剤とTGFβ阻害剤が添加された培地で培養することによって得られた細胞集団である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、CD15 (SSEA-1)、CD24、CD46、CD47、CD49b、CD57、CD58、CD59、CD81、CD90、CD98、CD147、CD184、Disalogangliosid GD2、SSEA-4、CD49f、SERINC4、CCR9、PHEX、TMPRSS11E、HTR1E、SLC25A2、Ctxn3、Ccl7、Chrnb4、Chrna3、Kcnv2、Grm2、Syt2、Lim2、Mboat1、St3gal6、Slc39a12、Tacr1、Lrtm1、DscamおよびCD201からなる群から選ばれるいずれか一つ以上のマーカーを検出する試薬を含むドーパミン産生神経前駆細胞の検出用キットを提供することである。
本発明の他の態様は、検出する試薬が抗体である、前記キットを提供することである。
本発明の他の態様は、前記抗体がLrtm1の細胞外ドメインを認識する抗Lrtm1抗体である、前記キットを提供することである。
本発明の他の態様は、前記いずれかに記載の方法で製造されたドーパミン産生神経前駆細胞を含むパーキンソン病治療剤を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は免疫染色のための蛍光像を示す(写真)。図1Aは選別直後のマウスLrtm1陽性及び陰性細胞の像を示す。Lmx1a, DAPIおよびCorinをそれぞれ赤、青、緑で示す。図1Bは選別7日後のマウスLrtm1陽性及び陰性細胞の像を示す。左のパネルでは、THおよびDAPIをそれぞれ緑および青で示し、左から二番目のパネルではTHおよびTuj1をそれぞれ緑および白で示し、左から三番目のパネルではNurr1およびTHをそれぞれ赤および緑で示し、右のパネルではDATおよびDAPIをそれぞれ緑および青で示す。
図2図2Aは選別直後のマウスのLrtm1 陽性及び陰性細胞のPCR解析を示す。図2Bは選別後の細胞の生育チャートを示す。
図3図3は免疫染色のための蛍光像を示す(写真)。図3Aは選別直後のヒトLRTM1 陽性及び陰性細胞の像を示す。LMX1a, DAPIおよびCORINをそれぞれ赤、青、緑で示す。図3Bは選別7日後のヒトLRTM1陽性及び陰性細胞の像を示す。LMX1a, DAPI,NURR1およびTHをそれぞれ赤、青、白、緑で示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を以下に詳細に説明する。
【0011】
本発明は、ドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団を用意する工程、該ドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団から、CD15 (SSEA-1)、CD24、CD46、CD47、CD49b、CD57、CD58、CD59、CD81、CD90、CD98、CD147、CD184、Disalogangliosid GD2、SSEA-4、CD49f、SERINC4、CCR9、PHEX、TMPRSS11E、HTR1E、SLC25A2、Ctxn3、Ccl7、Chrnb4、Chrna3、Kcnv2、Grm2、Syt2、Lim2、Mboat1、St3gal6、Slc39a12、Tacr1、Lrtm1およびDscamから成る群より選ばれるいずれか一つ以上のマーカーが陽性であることおよび/またはCD201が陰性であることを指標としてドーパミン産生神経前駆細胞を抽出する工程を含む、ドーパミン産生神経前駆細胞の製造方法、またはドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団においてドーパミン産生神経前駆細胞を検出する方法であって、CD15 (SSEA-1)、CD24、CD46、CD47、CD49b、CD57、CD58、CD59、CD81、CD90、CD98、CD147、CD184、Disalogangliosid GD2、SSEA-4、CD49f、SERINC4、CCR9、PHEX、TMPRSS11E、HTR1E、SLC25A2、Ctxn3、Ccl7、Chrnb4、Chrna3、Kcnv2、Grm2、Syt2、Lim2、Mboat1、St3gal6、Slc39a12、Tacr1、Lrtm1およびDscamから成る群より選ばれるいずれか一つ以上のマーカーが陽性であること、および/またはCD201が陰性であることを指標としてドーパミン産生神経前駆細胞を検出することを特徴とする方法に関する。
【0012】
本発明において、ドーパミン産生神経前駆細胞とは、少なくともcorin(WO2006/009241)およびLmx1a(WO2005/052190))のいずれか一方が陽性であることによって特徴づけられ、成熟してドーパミン産生神経細胞となる細胞を意味する。一方、ドーパミン産生神経細胞は、特に限定されないが、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)陽性であることによって特徴づけられる。ただし、本発明において、ドーパミン産生神経前駆細胞およびドーパミン産生神経細胞とは明確に区別を付けず、例えば、TH陽性であってもドーパミン産生神経前駆細胞と言える。
【0013】
本発明において、ドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団とは、ドーパミン産生神経前駆細胞を含有している細胞の集合体であれば、その由来は特に問わない。例えば、任意の方法で得られた組織に含有される細胞集団または組織から樹立された細胞株であってもよく、ここで組織は、脳組織であり、好ましくは胎児中脳である。また、上記細胞集団は、骨髄間質細胞(Dezawa M, et al., J Clin Invest. 2004, 113: 1701-1710)、もしくは多能性幹細胞から分化誘導された神経前駆細胞を含む細胞集団または線維芽細胞から直接誘導された神経前駆細胞を含む細胞集団(Vierbuchen T, et al., Nature. 2010, 463: 1035-1041)であってもよい。
【0014】
本発明において、ドーパミン産生神経前駆細胞を抽出するとは、他の細胞種と比してドーパミン産生神経前駆細胞の割合を高くすることを意味し、好ましくは、ドーパミン産生神経前駆細胞を50%、60%、70%、80%または90%以上含有するよう濃縮させることである。より好ましくは、100%ドーパミン産生神経前駆細胞から成る細胞集団を得ることで
ある。
【0015】
本発明において、マーカーとして用いられるCD15 (SSEA-1)、CD24、CD46、CD47、CD49b、CD57、CD58、CD59、CD81、CD90、CD98、CD147、CD184、Disalogangliosid GD2、SSEA-4、CD49f、SERINC4、CCR9、PHEX、TMPRSS11E、HTR1E、SLC25A2、Ctxn3、Ccl7、Chrnb4、Chrna3、Kcnv2、Grm2、Syt2、Lim2、Mboat1、St3gal6、Slc39a12、Tacr1、Lrtm1、DscamおよびCD201は、表1に記載のNCBIのアクセッション番号で示されるポリヌクレオチドおよびこれらがコードするタンパク質、または転写変異体、スプライシング変異体、ホモログもしくはこれらの断片が含有される。ここで、断片とは、本発明においてマーカーが細胞を認識するために用いられることを考慮すると、各遺伝子の細胞外ドメインであることが好ましい。本発明において、好ましいマーカーはLrtm1である。より好ましくは、マーカーは、Lrtm1の細胞外ドメインの断片である。マーカーは、corin (WO2006/009241), Lmx1a (WO2005/052190), 65B13 (WO2004/038018) および185A5 (WO2007/119759)のような公知のマーカーと一緒に使用してもよい。
【0016】
【表1-1】

【表1-2】
【0017】
本発明において、マーカーとして用いられるDisalogangliosid GD2およびSSEA-4は、糖脂質である。Disalogangliosid GD2は、Cer-Glc-Gal(NeuAc-NeuAc)-GalNAcで表されるスフィンゴ糖脂質であり、式中Cerはセラミド、Glcはグルコピラノース、Galはガラクトピラノース、NeuAcはアセチルノイラミン酸、GalNAcはアセチルガラクトピラノースを意味する。SSEA-4は、sialosyl-galactosyl-globoside(sialosyl-Gb5)をエピトープとして有するスフィンゴ糖脂質である。
【0018】
<多能性幹細胞>
多能性幹細胞を分化させることによってドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団を用意する場合、使用可能な多能性幹細胞は、生体に存在するすべての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、それには、特に限定されないが、例えば胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、ES細胞、ntES細胞、およびiPS細胞である。
【0019】
(A) 胚性幹細胞
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物の初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹
立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。
【0020】
ES細胞は、受精卵の8細胞期、桑実胚後の胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚由来の幹細胞であり、成体を構成するあらゆる細胞に分化する能力、いわゆる分化多能性と、自己複製による増殖能とを有している。ES細胞は、マウスで1981年に発見され(M.J. Evans and M.H. Kaufman (1981), Nature 292:154-156)、その後、ヒト、サルなどの霊長類でもES細胞株が樹立された (J.A. Thomson et al. (1998), Science 282:1145-1147; J.A. Thomson et al. (1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848;J.A. Thomson et al. (1996), Biol. Reprod., 55:254-259; J.A. Thomson and V.S. Marshall (1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)。
【0021】
ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。また、継代培養による細胞の維持は、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor (LIF))、塩基性線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor (bFGF))などの物質を添加した培養液を用いて行うことができる。ヒトおよびサルのES細胞の樹立と維持の方法については、例えばUSP5,843,780; Thomson JA, et al. (1995), Proc Natl. Acad. Sci. U S A. 92:7844-7848; Thomson JA, et al. (1998), Science. 282:1145-1147; H. Suemori et al. (2006),
Biochem. Biophys. Res. Commun., 345:926-932; M. Ueno et al. (2006), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:9554-9559; H. Suemori et al. (2001), Dev. Dyn., 222:273-279;H. Kawasaki et al. (2002), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:1580-1585;Klimanskaya I, et al. (2006), Nature. 444:481-485などに記載されている。
【0022】
ES細胞作製のための培養液として、例えば0.1mM 2-メルカプトエタノール、0.1mM 非必須アミノ酸、2mM L-グルタミン酸、20% KSRおよび4ng/ml bFGFを補充したDMEM/F-12培養液を使用し、37℃、2% CO2/98% 空気の湿潤雰囲気下でヒトES細胞を維持することができる(O. Fumitaka et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:215-224)。また、ES細胞は、3〜4日おきに継代する必要があり、このとき、継代は、例えば1mM CaCl2および20% KSRを含有するPBS中の0.25% トリプシンおよび0.1mg/mlコラゲナーゼIVを用いて行うことができる。
【0023】
ES細胞の選択は、一般に、アルカリホスファターゼ、Oct-3/4、Nanogなどの遺伝子マーカーの発現を指標にしてReal-Time PCR法で行うことができる。特に、ヒトES細胞の選択では、OCT-3/4、NANOG、ECADなどの遺伝子マーカーの発現を指標とすることができる(E. Kroon et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:443-452)。
【0024】
ヒトES細胞株は、例えばWA01(H1)およびWA09(H9)は、WiCell Reserch Instituteから、KhES-1、KhES-2およびKhES-3は、京都大学再生医科学研究所(京都、日本)から入手可能である。
【0025】
(B) 精子幹細胞
精子幹細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、精子形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(M. Kanatsu-Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612-616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001-1012)。神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF))を含む培養液で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、精子幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41〜46頁,羊土社(東京、日本))。
【0026】
(C) 胚性生殖細胞
胚性生殖細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞であり、LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立しうる(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550-551)。
【0027】
(D) 人工多能性幹細胞
人工多能性幹(iPS)細胞は、特定の初期化因子を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008);国際公開WO 2007/069666)。初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-coding RNAまたはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-coding RNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO 2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO 2010/111409、WO 2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D,
et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D, et al. (2008), Nat Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotech., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al. (2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-100、Mali
P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al. (2011), Nature. 474:225-9.に記載の組み合わせが例示される。
【0028】
上記初期化因子には、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (VPA)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool (登録商標)(Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、MEK阻害剤(例えば、PD184352、PD98059、U0126、SL327およびPD0325901)、Glycogen synthase kinase-3阻害剤(例えば、BioおよびCHIR99021)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、5-azacytidine)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、BIX-01294 等の低分子阻害剤、Suv39hl、Suv39h2、SetDBlおよびG9aに対するsiRNAおよびshRNA等の核酸性発現阻害剤など)、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644)、酪酸、TGFβ阻害剤またはALK5阻害剤(例えば、LY364947、SB431542、616453およびA-83-01)、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)、ARID3A阻害剤(例えば、ARID3Aに対するsiRNAおよびshRNA)、miR-291-3p、miR-294、miR-295およびmir-302などのmiRNA、Wnt
Signaling(例えばsoluble Wnt3a)、神経ペプチドY、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンE2およびプロスタグランジンJ2)、hTERT、SV40LT、UTF1、IRX6、GLISl、PITX2、DMRTBl等の樹立効率を高めることを目的として用いられる因子も含まれており、本明細書においては、これらの樹立効率の改善目的にて用いられた因子についても初期化因子と別段の区別をしないものとする。
【0029】
初期化因子は、タンパク質の形態の場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよい。
【0030】
一方、DNAの形態の場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(WO 2010/008054)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、初期化因子をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する初期化因子をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。
【0031】
また、RNAの形態の場合、例えばリポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよく、分解を抑制するため、5-メチルシチジンおよびpseudouridine (TriLink Biotechnologies)を取り込ませたRNAを用いてもよい(Warren L, (2010) Cell Stem Cell. 7:618-630)。
【0032】
iPS細胞誘導のための培養液としては、例えば、10〜15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12又はDME培養液(これらの培養液にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)または市販の培養液[例えば、マウスES細胞培養用培養液(TX-WES培養液、トロンボX社)、霊長類ES細胞培養用培養液(霊長類ES/iPS細胞用培養液、リプロセル社)、無血清培地(mTeSR、Stemcell Technology社)]などが含まれる。
【0033】
培養法の例としては、たとえば、37℃、5%CO2存在下にて、10%FBS含有DMEM又はDMEM/F12培養液上で体細胞と初期化因子とを接触させ約4〜7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上にまきなおし、体細胞と初期化因子の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培養液で培養し、該接触から約30〜約45日又はそれ以上ののちにiPS様コロニーを生じさせることができる。
【0034】
あるいは、37℃、5% CO2存在下にて、フィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上で10%FBS含有DMEM培養液(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプ
トエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25〜約30日又はそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。望ましくは、フィーダー細胞の代わりに、初期化される体細胞そのものを用いる(Takahashi K, et al. (2009), PLoS One. 4:e8067またはWO2010/137746)、もしくは細胞外基質(例えば、Laminin-5(WO2009/123349)およびマトリゲル(BD社))を用いる方法が例示される。
【0035】
この他にも、血清を含有しない培地を用いて培養する方法も例示される(Sun N, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:15720-15725)。さらに、樹立効率を上げるため、低酸素条件(0.1%以上、15%以下の酸素濃度)によりiPS細胞を樹立しても良い(Yoshida Y, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:237-241またはWO2010/013845)。
【0036】
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培養液と培養液交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm2あたり約5×103〜約5×106細胞の範囲である。
【0037】
iPS細胞は、形成したコロニーの形状により選択することが可能である。一方、体細胞が初期化された場合に発現する遺伝子(例えば、Oct3/4、Nanog)と連動して発現する薬剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として導入した場合は、対応する薬剤を含む培養液(選択培養液)で培養を行うことにより樹立したiPS細胞を選択することができる。また、マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、iPS細胞を選択することができる。
【0038】
本明細書中で使用する「体細胞」なる用語は、卵子、卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞または分化全能性細胞を除くあらゆる動物細胞(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物細胞)をいう。体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
【0039】
また、iPS細胞を移植用細胞の材料として用いる場合、拒絶反応が起こらないという観点から、移植先の個体のHLA遺伝子型が同一もしくは実質的に同一である体細胞を用いることが望ましい。ここで、「実質的に同一」とは、移植した細胞に対して免疫抑制剤により免疫反応が抑制できる程度にHLA遺伝子型が一致していることであり、例えば、HLA-A、HLA-BおよびHLA-DRの3遺伝子座あるいはHLA-Cを加えた4遺伝子座が一致するHLA型を有する体細胞である。
【0040】
(E) 核移植により得られたクローン胚由来のES細胞
nt ES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している (T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al.
(2007), Nature, 450:497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がnt ES(nuclear transfer ES)細胞である。nt ES細胞の作製のためには、核移植技術(J.B. Cibelli et al. (1998), Nature Biotechnol., 16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊), 47〜52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで
初期化することができる。
【0041】
(F) Multilineage-differentiating Stress Enduring cells(Muse細胞)
Muse細胞は、WO2011/007900に記載された方法にて製造された多能性幹細胞であり、詳細には、線維芽細胞または骨髄間質細胞を長時間トリプシン処理、好ましくは8時間または16時間トリプシン処理した後、浮遊培養することで得られる多能性を有した細胞であり、SSEA-3およびCD105が陽性である。
【0042】
<多能性幹細胞からドーパミン産生神経前駆細胞を含む細胞集団を調製する方法>
多能性幹細胞からドーパミン産生神経前駆細胞を含む細胞集団への分化誘導方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法を用いることができる。
【0043】
多能性幹細胞を任意の方法で分離し、浮遊培養またはコーティング処理された培養皿を用いて接着培養を行ってもよい。ここで、分離の方法としては、力学的、EDTA溶液(例えば、0.5mM EDTA溶液またはVersene(Invitrogen社)が挙げられる)、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する分離溶液(例えば、CTK(collagenase-trypsin-KSR)溶液(Suemori H, et al. Biochem Biophys Res Commun. 345: 926-32, 2006)、Accutase(TM)およびAccumax(TM)が挙げられる)またはコラゲナーゼ活性のみを有する分離液を用いても良い。ここで、浮遊培養においては、培養皿の表面が、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていないもの、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)によるコーティング処理)したもの、もしくはLipidure(日油)で処理されたものを使用できる。接着培養においては、例えば、マトリゲル(BD)、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはエンタクチン、およびこれらの組み合わせを用いてコーティング処理された培養皿を使用できる。
【0044】
接着培養はフィーダー細胞と共培養を行っても良い。ここで、共培養に用いられるフィーダー細胞は、PA6細胞(Kawasaki H, et al., Neuron. 2000, 28: 31-40)が例示される。
【0045】
動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばGMEM (Glasgow Minimum Essential Medium)培地、IMDM(Iscove's Modified Dulbecco's Medium)培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium (DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地などが包含される。好ましくは、GMEM 培地である。培地には、血清が含有されていてもよいが、異種成分を排除することが望ましいことを考慮すると無血清培地であることが望ましい。この場合必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、
ITS−サプリメントなど1つ以上の血清代替物を含んでもよい。
【0046】
さらに培地には、細胞の生存、増殖および分化誘導を促進するため、特に限定されないが、2-メルカプトエタノール、チオグリセロール、B27-サプリメント、N2-サプリメント、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、サイトカイン、ヘッジホッグファミリー、BMP阻害剤、TGFβファミリー阻害剤、Rhoキナーゼ阻害剤、Wntシグナル阻害剤、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、レチノイン酸、アスコルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有しうる。サイトカインとしては神経栄養因子および線維芽細胞成長因子(FGF)が例示され、好ましくは、GDNF、BDNF、FGF-2、FGF-8、FGF-20が例示される。ヘッジホッグファミリーとして、ソニック・ヘッジホッグ(SHH)が例示される。BMP阻害剤として、Chordin、Noggin、Follistatin、などのタンパク質性阻害剤、Dorsomorphin (すなわち、6-[4-(2-piperidin-1-yl-ethoxy)ph
enyl]-3-pyridin-4-yl-pyrazolo[1,5-a]pyrimidine)、その誘導体 (P. B. Yu et al. (2007), Circulation, 116:II_60; P.B. Yu et al. (2008), Nat. Chem. Biol., 4:33-41; J. Hao et al. (2008), PLoS ONE, 3(8):e2904)およびLDN-193189(すなわち、4-(6-(4-(piperazin-1-yl)phenyl)pyrazolo[1,5-a]pyrimidin-3-yl)quinoline)が例示される。DorsomorphinおよびLDN-193189は市販されており、それぞれSigma-Aldrich社およびStemgent社から入手可能である。TGFβファミリー阻害剤は、Lefty-1(NCBI Accession No.として、マウス:NM_010094、ヒト:NM_020997が例示される)、SB431542、SB202190(以上、R.K.Lindemann et al., Mol. Cancer, 2003, 2:20)、SB505124 (GlaxoSmithKline)、 NPC30345 、SD093、SD908、SD208 (Scios)、LY2109761、LY364947、 LY580276 (Lilly Research
Laboratories)、A-83-01(WO 2009146408) およびこれらの誘導体などが例示される。Rhoキナーゼ阻害剤として、Fasudil(すなわち、1-(5-Isoquinolinesulfonyl)homopiperazine Hydrochloride)、Y-27632(すなわち、(R)-(+)- trans-N-(4-pyridyl)-4-(1-aminoethyl)-cyclohexanecarboxamide・2HCl・H2O)およびH-1152(例、Sasaki, et al., Pharmacol. Ther. 2002, 93: 225-232)、Wf-536(例、Nakajima, et al., Cancer Chemother Pharmacol. 2003, 52(4): 319-324)が例示される。Wntシグナル阻害剤として、XAV939(Shih-Min A. Huang, et al, Nature 461, 614-620, 2009)、Dickkopf1(Dkk1)、インスリン様増殖因子結合タンパク質(IGFBP)(WO2009/131166)、β−カテニンに対するsiRNA等が例示される。
【0047】
ドーパミン産生神経前駆細胞を含む細胞集団への分化誘導するためには、培地にBMP阻害剤およびTGFβ阻害剤を含有させることが好ましい。
【0048】
より好ましい培地として、BMP阻害剤、TGFβファミリー阻害剤、Rhoキナーゼ阻害剤、KSR、ピルビン酸、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノールを含有したGMEMが例示され、さらに薬剤を加える場合、培養時期ごとに加える薬剤を変えてもよい。より好ましくは、上記培地にて、4日以上培養した後、KSR、ピルビン酸、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノールを含有したGMEMへ適宜FGF-2、FGF-8およびFGF-20を加えて培養する方法である。
【0049】
培養温度は、特に限定されないが、好ましくは約30〜40℃、より好ましくは約37℃であり、CO2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO2濃度は、好ましくは約2〜5%である。培養時間は、corinおよび/またはLmx1aが発現するために必要な日数であり、例えば4日以上である。
【0050】
このように製造されたドーパミン産生神経前駆細胞を含む細胞集団は、単一の細胞集団ではなく、他の種類の細胞が含有された細胞集団であってもよい。
【0051】
<ドーパミン産生神経前駆細胞の抽出または検出方法>
ドーパミン産生神経前駆細胞を含有する細胞集団よりドーパミン産生神経前駆細胞の抽出または検出するために使用する試薬は、CD15 (SSEA-1)、CD24、CD46、CD47、CD49b、CD57、CD58、CD59、CD81、CD90、CD98、CD147、CD184、Disalogangliosid GD2、SSEA-4、CD49f、SERINC4、CCR9、PHEX、TMPRSS11E、HTR1E、SLC25A2、Ctxn3、Ccl7、Chrnb4、Chrna3、Kcnv2、Grm2、Syt2、Lim2、Mboat1、St3gal6、Slc39a12、Tacr1、Lrtm1、Dscam、CD201、corinおよび/またはLmx1aに特異的親和性を有する試薬であれば何でもよく、抗体、アプタマー、ペプチドまたは特異的に認識する化合物などを用いることができるが、好ましくは、抗体もしくはその断片である。
【0052】
本発明において、抗体はポリクローナルまたはモノクローナル抗体であってよい。これらの抗体は、当業者に周知の技術を用いて作成することが可能である(Current protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al.(1987) Publish.John Wiley and Sons.Secti
on 11.12-11.13)。具体的には、抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌または哺乳類細胞株等で発現し精製したCD15 (SSEA-1)、CD24、CD46、CD47、CD49b、CD57、CD58、CD59、CD81、CD90、CD98、CD147、CD184、Disalogangliosid GD2、SSEA-4、CD49f、SERINC4、CCR9、PHEX、TMPRSS11E、HTR1E、SLC25A2、Ctxn3、Ccl7、Chrnb4、Chrna3、Kcnv2、Grm2、Syt2、Lim2、Mboat1、St3gal6、Slc39a12、Tacr1、Lrtm1、Dscam、CD201、corinおよび/またはLmx1aのタンパク質、これらの部分アミノ酸配列(好ましくはタンパク質の細胞外ドメインに相当する断片)を有するオリゴペプチドあるいは糖脂質を精製して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。なお、オリゴペプチドや糖脂質を免疫に使用する場合には、これらを適当なキャリアータンパク質に架橋して免疫原とすることが好ましい。この場合のキャリアータンパク質は、特に限定されるものではないが、ムラサキイガイヘモシアニン(KLH)やウシ血清アルブミン(BSA)等がよく用いられる。本発明において、マウスまたはヒトのLrtm1の細胞外ドメインに相当する断片として、配列番号1または2の部分配列からなるタンパク質断片が例示される。
【0053】
一方、モノクローナル抗体の場合には、上述の免疫された非ヒト動物から得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al.(1987) Publish.John Wiley and Sons.Section 11.4-11.11)。抗体の断片としては、抗体の一部(たとえばFab断片)または合成抗体断片(たとえば、一本鎖Fv断片「ScFv」)が例示される。FabおよびF(ab)2断片などの抗体の断片もまた、遺伝子工学的など周知の方法によって作製することができる。例えば、corinに対する抗体として、WO2006/009241に記載の抗体が例示される。
また、Lmx1aに対する抗体として、WO2005/052190に記載の抗体が例示される。
【0054】
CD15 (SSEA-1)、CD24、CD46、CD47、CD49b、CD57、CD58、CD59、CD81、CD90、CD98、CD147、CD184、Disalogangliosid GD2、SSEA-4、CD49f、SERINC4、CCR9、PHEX、TMPRSS11E、HTR1E、SLC25A2、Ctxn3、Ccl7、Chrnb4、Chrna3、Kcnv2、Grm2、Syt2、Lim2、、Mboat1、St3gal6、Slc39a12、Tacr1、Lrtm1、Dscam、CD201、corinおよび/またはLmx1aを発現する細胞を認識または分離することを目的として使用する抗体などの親和性を有する試薬は、例えば、蛍光標識、放射性標識、化学発光標識、酵素、ビオチンまたはストレプトアビジン等の検出可能な物質またはプロテインA、プロテインG、ビーズまたは磁気ビーズ等の単離抽出を可能とさせる物質と結合または接合されていてもよい。
【0055】
当該親和性を有する試薬はまた、間接的に標識してもよい。当業者に公知の様々な方法を使用して行い得るが、例えば、当該抗体に特異的に結合する予め標識された抗体(二次抗体)を用いる方法が挙げられる。
【0056】
ドーパミン産生神経前駆細胞を検出する方法としては特に制限されないが、フローサイトメーターまたはプロテインチップ等を用いることが含まれる。
【0057】
ドーパミン産生神経前駆細胞を抽出する方法としては特に制限されないが、当該親和性を有する試薬へ粒子を接合させ沈降させる方法、磁気ビーズを用いて磁性により細胞を選別する方法(例えば、MACS)、蛍光標識を用いてセルソーターを用いる方法、または抗体等が固定化された担体(例えば、細胞濃縮カラム)を用いる方法等が例示される。
【0058】
<再生医療への応用>
本発明により得られたドーパミン産生神経前駆細胞は、欠損したドーパミン産生細胞の補充のために再生医療の分野で有効に使用し得る。適用される疾患の例としては、パーキンソン病が例示される。
【0059】
本発明において、移植後の腫瘍の発生を抑制するため、多分化能マーカーを発現しない細胞を投与することが望まれる。ここで、多分化能マーカーとして、Nanog、Oct3/4が例示される。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【0061】
<実施例1>
ヒトES細胞(KhES-1)は、京都大学再生医科学研究所より受領した(Suemori H, et al.
Biochem Biophys Res Commun. 345: 926-32, 2006)。ヒトiPS細胞(253G4)は、京都大学iPS細胞研究所より受領した(Nakagawa M, et al. Nat Biotechnol. 26: 101-6, 2008)。
【0062】
上記ヒトES細胞およびヒトiPS細胞は、Kawasaki H, et al., Neuron. 2000, 28: 31-40に記載されたSDIA(stromal cell-derived inducing activity)法を少し改良した方法により神経細胞を分化誘導した。簡潔には、ヒトES細胞およびヒトiPS細胞をCTK(collagenase-trypsin-KSR)溶液によって細胞を遊離させcell clump (10-20 cells)とし、これを10cm ディッシュのPA6 feeder上に1:2の割合で播種した。10μM Y-27632 (ROCK inhibitor, WAKO)、2μM dorsomorphin (BMP inhibitor, Sigma)、10μM SB431542 (TGFβ/Activin/Nodal inhibitor, Sigma)、8%KSR、1mM pyruvate (Sigma)、0.1mM MEM non essential amino
acid (NEAA, Invitrogen)、0.1mM 2-Mercaptoethanol (2-ME , WAKO)を含有したGMEM (GIBCO)中で4日間培養した。さらに、8%KSR、1mM pyruvate、0.1mM NEAA、0.1mM 2-MEを含有したGMEMへ培地を交換し、10日から17日間培養した。
【0063】
産生したドーパミン産生神経前駆細胞を含む細胞集団をLyoplate(BD)に含まれる各ヒト細胞表面マーカーに対する抗体および抗corin抗体(Ono Y, et al., Development. 2007, 134: 3213-3225)を用いて染色し、フローサイトメトリーにより解析した。その結果、corin陽性細胞に発現する細胞表面マーカーとして表2に記載の遺伝子または糖脂質が確認された。また、corin陽性細胞では発現しない細胞表面マーカーとして、表3に記載の遺伝子が確認された。
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
<実施例2>
ヒトES細胞(KhES-1)は、京都大学再生医科学研究所より受領した。ヒトiPS細胞(253
G4)は、京都大学iPS細胞研究所より受領した。
【0067】
上記ヒトES細胞およびヒトiPS細胞は、上述したSDIA法およびEiraku M, et al., Cell Stem Cell. 2008, 3: 519-532に記載のSFEBq(serum-free embryoid body quick)法を少し改良した方法により神経細胞へ分化誘導した。ここで、SFEBq変法は、ヒトES細胞およびヒトiPS細胞をAccumax(Innovate cell technologies)で処理し、single cellへ遊離させ、96well plate (Lipidure-coat U96w, Nunc)に9,000 cells/150μL/wellで播種した。10μM Y-27632、0.1μM LDN193186(BMP inhibitor, STEMGENT), 0.5μM A-83-01 (TGFβ/Activin/Nodal inhibitor, WAKO)、8%KSR、1mM pyruvate、0.1mM NEAA、0.1mM 2-MEを含有したGMEM中で5日間培養した。さらに、8%KSR、1mM pyruvate、0.1mM NEAA、0.1mM 2-MEを含有したGMEMへ培地を交換し、5日から9日間培養した。
【0068】
SDIA変法およびSFEBq変法により産生したドーパミン産生神経前駆細胞を含む細胞集団から、フローサイトメーターによりcorin陽性細胞および陰性細胞をソーティングした。マイクロアレイ法を用いて、corin陰性細胞に比してcorin陽性細胞で特異的に高い発現を示す遺伝子を確認した。ここで確認された特異的に高い発現を示す遺伝子のうち細胞表面マーカーを表4に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
<実施例3>
Lmx1a遺伝子座にGFP遺伝子をノックインすることで、内在性のLmx1aのプロモーターによってGFPの発現が制御されるマウスES細胞をSFEB法を用いて神経細胞へ分化誘導した。簡潔には、上記ES細胞を2mM L-Gln、0.1mM NEAA、1mM Sodium pyruvate、0.1mM 2-ME、5%KSRを含有するGMEMに懸濁し、3,000cells/150μl/wellとなるよう96well plateを用いて浮遊培養した。浮遊培養3日目に、100ng/ml FGF8を培地へ添加した。翌日、100ng/ml SHHを培地へ添加した。浮遊培養7日目に、100ng/ml SHH、20ng/ml BDNF、200nM Ascorbic acid、2mM L-Gln、0.1mM NEAA、1mM Sodium pyruvate、0.1mM 2-MEを含有するGMEMへ培地を交換した。浮遊培養11日目に細胞を回収し、フローサイトメーターを用いて、(1)GFP(Lmx1a)陽性およびcorin陽性、(2)GFP(Lmx1a)陽性およびcorin陰性、(3)GFP(Lmx1a)陰性およびcorin陽性および(4)GFP(Lmx1a)陰性およびcorin陰性の4分画を分離した。マイクロアレイ法を用いて、(1)、(2)および(3)分画において、(4)分画よりも強く発現する遺伝子を確認した。ここで確認されたcorinおよび/またはLmx1a陽性細胞に特異的に発現する遺伝子のうち細胞表面マーカーを表5に示す。
【0071】
【表5】
【0072】
<実施例4>
マウスiPS細胞(440A-3)はRIKEN BRC (Okita K et al. Science 322: 949-953 (2008))から入手した。
【0073】
下記のSFEBq法にてマウスiPS細胞を神経細胞に分化誘導した。
0日目:マウスiPS細胞を単一細胞に解離させ、次いで96ウェルプレート(Lipidure-coat U96w, Nunc)に6,000 細胞/150 μL/ウェルの濃度で播種した。細胞を、5% KSRを添加したmSFEB 培地(GMEM に2mM L-グルタミン、1mM ピルビン酸ナトリウム、0.1mM NEAA
および1mM 2-MEを加えた培地)で培養した。
1日目:培地の半分を5% KSR、200 ng/μl rhFGF8b (Peprotech)および200 ng/μl rmSHH (R&D)を添加したmSFEB 培地に交換した。
3日目:培地の半分を5% KSR、100 ng/μl rhFGF8bおよび100 ng/μl rmSHHを添加したmSFEB 培地に交換した。
5日目:培地の半分を5% KSR、100 ng/μl rhFGF8bおよび100 ng/μl rmSHHを添加し
たmSFEB 培地に交換した。
7日目:培地の半分をN2、200 nM アスコルビン酸および20 ng/ml rhBDNFを添加したSFEB 培地に交換した。
9日目:細胞をAccutaseを用いて単一細胞に解離させた。FACSバッファー(PBSに20 mM グルコース(Wako) および 2%FBS (Cell culture bioscience)を加えたもの)を細胞液に加え、抗マウスLrtm1モノクローナル抗体を用いて4℃で20分間免疫染色した。染色された細胞と染色されない細胞をFACSAriaII (BD Biosciences)で選別し、8ウェルチャンバー(OFL (Poly-L-ornithine Fibronectin and Laminin)-coat)に 50,000細胞/ウェルの濃度で播種した。細胞を30 μM Y-27632を添加したmAdhesion培地(DMEM/F12に2 mM L-グルタミン、N2、B27、200 nM アスコルビン酸、20 ng/ml rhBDNF、10 ng/ml rhGDNF、1%KSRおよびペニシリン・ストレプトマイシンを加えたもの)で培養した。抗マウスLrtm1モノクローナル抗体はミエローマ融合細胞の培養上清から得た。融合細胞は周知の方法で作製した。すなわち、ラットをマウスLrtm1遺伝子における細胞外ドメインコード配列からなる単離タンパク質で免疫し、リンパ球を除いてミエローマ細胞と融合させた。抗マウスLrtm1抗体はマウスLrtm1を過剰発現する形質転換細胞およびマウス胎生中脳蓋板の認識によってチェックした。
11日目:全培地をmAdhesion培地に交換した。
14日目:全培地をmAdhesion培地に交換した。
【0074】
選別後0日および7日に細胞をPCRと免疫染色にて解析した。結果を図1および図2に示す。各神経マーカー陽性の細胞の含有率を表6および7に示す。選別直後、Lmx1aおよびCorin陽性細胞はLrtm1陽性細胞において頻繁に確認された。同様に、選別後7日の時点で、ドーパミン産生神経マーカー陽性細胞はLrtm1陽性細胞において頻繁に確認された。さらに、Lrtm1陽性細胞は選別後には増殖しなかった。これらの結果は、Lrtm1がLmx1a およびCorinを代替することができ、有糸分裂後ドーパミン産生神経前駆細胞の有効なマーカーであることを示す。
【0075】
【表6】
【0076】
【表7】
【0077】
<実施例5>
下記のSFEBq法にてヒトES細胞(Kh-ES1) を神経細胞に分化誘導した。
0日目:ヒトES細胞をAccumax (Innovate cell technologies)にて処理し、懸濁して単一細胞にし、次いで96ウェルプレート(Lipidure-coat U96w, Nunc)に6,000 細胞/150 μL/ウェルの濃度で播種した。細胞を、8% KSR、0.1 μM LDN193186、0.5 μM A-83-01および30 μM Y-27632を添加したhSFEB 培地 (GMEM に1mM ピルビン酸ナトリウム、0.1mM NEAA および1mM 2-MEを加えた培地)で培養した。
1日目:培地の半分を8% KSR、0.1 μM LDN193186、0.5 μM A-83-01、30 μM Y-27632、100 ng/μl rhFGF8b (Peprotech)、100 ng/μl rmSHH (R&D)および4 μM Purmorphamine (Wako)を添加したhSFEB 培地に交換した。
3日目:培地の半分を8% KSR、0.1 μM LDN193186、0.5 μM A-83-01、30 μM Y-27632、100 ng/μl rhFGF8b、100 ng/μl rmSHH、2μM Purmorphamineおよび6 μM CHIR99021を添加したhSFEB 培地に交換した。
5日目:培地の半分を8% KSR、0.1 μM LDN193186、100 ng/μl rhFGF8b、100 ng/μl rmSHH、2μM Purmorphamineおよび3 μM CHIR99021を添加したhSFEB 培地に交換した。
7日目:培地の半分を8% KSRおよび3 μM CHIR99021を添加したhSFEB 培地に交換した。
9日目:培地の半分を8% KSRおよび3 μM CHIR99021を添加したhSFEB 培地に交換した。
12日目:細胞をAccutaseを用いて単一細胞に解離させた。FACSバッファー(PBSに20
mM グルコース(Wako) および 2%FBS (Cell culture bioscience)を加えたもの)を細胞液に加え、抗ヒトLrtm1モノクローナル抗体を用いて4℃で20分間免疫染色した。染色された細胞と染色されない細胞をFACSAriaII (BD Biosciences)で選別し、8ウェルチャンバー(OL (Poly-L-ornithine and Laminin)-coat)に 50,000細胞/ウェルの濃度で播種した。細胞を30 μM Y-27632を添加したhAdhesion培地(Neurobasalに2 mM L-グルタミン、B27、200 nM アスコルビン酸、20 ng/ml rhBDNF、10 ng/ml rhGDNFおよびペニシリン・ストレプトマイシンを加えたもの)で培養した。抗ヒトLRTM1モノクローナル抗体はミエローマ融合細胞の培養上清から得た。融合細胞は周知の方法で作製した。すなわち、ラットをヒトLRTM1遺伝子における細胞外ドメインコード配列からなる単離タンパク質で免疫し、リンパ球を除いてミエローマ細胞と融合させた。抗ヒトLRTM1抗体はヒトLRTM1を過剰発現する形質転換細胞の認識によってチェックした。
14日目:全培地をhAdhesion培地に交換した。
17日目:全培地をhAdhesion培地に交換した。
【0078】
選別後0日および7日に細胞を免疫染色にて解析した。結果を図3に示す。各神経マーカー陽性の細胞の含有率を表8および9に示す。選別後0日および7日の時点で、LMX1a 陽性細胞はLrtm1陽性細胞において頻繁に確認された。これらの結果は、LRTM1がLMX1aを代替し得ることを示す。選別後7日の時点で、LRTM1陽性細胞の中のNURR1陽性細胞は、TH陽性細胞にかなり高いパーセンテージで含まれていた。Lrtm1は細胞膜タンパク質の一つである。したがって、生存するドーパミン産生神経前駆細胞がLRTM1をマーカーとして用いることで抽出できる。
【0079】
【表8】
【0080】
【表9】
図1
図2
図3