【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、標的核酸に含まれる核酸鎖を鎖長別に分離する核酸鎖の分離方法であって、標的核酸をカチオン性充填剤が充填されたアニオン交換カラムに導入する工程と、
グアニジン塩酸塩又はグアニジン硫酸塩を含有するイオン交換クロマトグラフィー用溶離液を用いて標的核酸をアニオン交換カラムから溶出することにより、核酸鎖を鎖長別に分離する工程とを有する核酸鎖の分離方法である。以下に本発明を詳述する。
【0009】
【化1】
【0010】
本発明者らは、イオン交換クロマトグラフィーに用いる溶離液に、グアニジン塩を添加することにより、核酸鎖が異なる試料の分離性能を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明のイオン交換クロマトグラフィー用溶離液は、上記式(1)で示されるグアニジンから誘導されるグアニジン塩を含有する。
上記グアニジン塩としては、例えば、グアニジン塩酸塩、グアニジン硫酸塩、グアニジン硝酸塩、グアニジン炭酸塩、グアニジンリン酸塩、グアニジンチオシアン酸塩、グアニジンスルファミン酸塩、アミノグアニジン塩酸塩、アミノグアニジン重炭酸塩等が挙げられる。なかでも、グアニジン塩酸塩、グアニジン硫酸塩が好適に用いられる。
【0012】
本発明のイオン交換クロマトグラフィー用溶離液におけるグアニジン塩の分析時の濃度は、分析対象物に合わせて、適宜調整すればよいが、2000mmol/L以下であることが望ましい。
具体的には、グアニジン塩の濃度を0〜2000mmol/Lの範囲でグラジエント溶出させる方法を挙げることができる。従って、分析開始時のグアニジン塩の濃度は0mmol/Lである必要はなく、また、分析終了時のグアニジン塩の塩濃度も2000mmol/Lである必要はない。
上記グラジエント溶出の方法は、低圧グラジエント法であっても高圧グラジエント法であっても良いが、高圧グラジエント法による精密な濃度調整を行いながら溶出させる方法が好ましい。
【0013】
上記グアニジン塩は、溶離液に単独で添加してもよいし、他の塩と組み合わせて添加してもよい。上記グアニジン塩に組み合わせて用いることができる塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等のハロゲン化物とアルカリ金属とからなる塩や、塩化カルシウム、臭化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム等のハロゲン化物とアルカリ土類金属とからなる塩や、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の無機酸塩等が挙げられる。また、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム等の有機酸塩を用いてもよい。
【0014】
本発明のイオン交換クロマトグラフィー用溶離液に用いる緩衝液としては、公知の緩衝液類や有機溶媒類を用いることができ、具体的には例えば、トリス塩酸緩衝液、トリスとEDTAからなるTE緩衝液、トリスと酢酸とEDTAからなるTAE緩衝液、トリスとホウ酸とEDTAからなるTBA緩衝液等が挙げられる。
【0015】
上記溶離液のpHは特に制限されず、アニオン交換によって核酸鎖を分離できる範囲であればよい。
【0016】
本発明のイオン交換クロマトグラフィー用溶離液を用いる核酸鎖の分析方法もまた、本発明の一つである。
【0017】
本発明の核酸鎖の分析方法に用いるカラムは、カチオン性充填剤が充填されたアニオン交換カラムであればよく、市販されているものや、基材微粒子の表面に強カチオン性基と弱アニオン性基とを有する充填剤を用いたアニオン交換カラム等を用いることができる。
【0018】
本発明の核酸鎖の分析方法が適用可能な標的核酸(検出対象)としては、核酸のPCR増幅産物、該PCR増幅産物の制限酵素断片、又は核酸の制限酵素断片が挙げられ、ウイルス由来又は遺伝子多型の疑われるヒト由来のもの、即ち、ウイルスの存在や型を判別するためのウイルス由来の核酸(DNAやRNA)や遺伝子多型(一塩基多型)を判別するためのヒト由来のDNAを例示することができる。
【0019】
上記DNA又は上記RNAは、公知の方法により抽出、精製した後、必要によりPCR(Polymerase Chain Reaction)法等により増幅し、該増幅産物を本発明のイオン交換クロマトグラフィー用溶離液を用いたイオン交換クロマトグラフィーに供する。
【0020】
ウイルスがRNAウイルスである等の場合は、抽出、精製したRNAに対してRT−PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)反応を行い、PCR増幅産物を得ることができる。
【0021】
また、本発明の核酸鎖の分析方法を用いて遺伝子多型を判別する場合には、PCR−RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism:制限酵素断片長多型)法として公知の技術を応用することができる。RFLP法は、PCR増幅産物中の遺伝子変異部を認識する制限酵素が存在する場合、共通配列部位にプライマーを設定し、その内側、即ち、PCR増幅産物内に多型性をもたせて増幅し、得られたPCR増幅産物を上記制限酵素で切断し、その断片の長さにより、多型の有無を判定する方法である。制限酵素による切断が起きた場合と起きなかった場合とでは、生じる断片の数もサイズも異なるので、それに基づいて切断が起きたか否か、ひいては目的の位置の塩基が何であったかを知ることができる。
【0022】
プライマーによる増幅領域は、制限酵素による切断が起きた場合に生じる2個の断片が、それぞれ本発明のイオン交換クロマトグラフィー用溶離液を用いたイオン交換クロマトグラフィーで明瞭に検出できるサイズ、好ましくは小さい方の断片が1bp以上、より好ましくは20bp以上となるように設定する。また、生じる2個の断片のサイズの差が、本発明の核酸鎖の分析方法で明瞭に検出できるように、好ましくは1bp以上、より好ましくは20bp以上になるように設定する。増幅領域のサイズの上限は特にないが、あまりに大きいとPCRの時間もコストもかかり、また、それによる利点もないので、好ましくは1000bp以下である。プライマーの塩基長は、それぞれの機能が発揮される長さであればよく、プライマーの塩基長の例としては15〜30bp、好ましくは20〜25bpである。
【0023】
上記PCR法による増幅は、1段階で行ってもよいが、感度をより高めるために、第1段階のPCRでより広い範囲の領域を増幅し、得られたPCR増幅産物を鋳型として、その中に含まれる領域を第2段階のPCRでさらに増幅してもよい(nested PCR)。この場合、第2段階のPCRに用いるプライマーは両方とも、第1段階のPCRに用いるプライマーと異なるものであってもよいし、一方のみ異なるプライマーを用い、他方は第1段階のPCRで用いたプライマーと同じものを用いてもよい(hemi−nested PCR)。
【0024】
上記PCR法自体は、公知であり、PCR法による分離検出のためのキットも市販されているので、容易に実施することができる。PCR法に用いるプライマーの設計やDNAの増幅の条件は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(3rd ed.),Volume 2,Chapter 8,pp.8.1−8.126,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Sping Harbor,2001を参照できる。