【実施例1】
【0018】
図1に実施例1の半導体装置の平面図(保護膜などは省略)、
図2に断面図を示す。
【0019】
本実施例の半導体装置は、SiC基板を有するショットキーダイオードである。半導体基板1上にはエピタキシャル成長法で形成されたn型の半導体領域であるドリフト層2と、その上面の主接合領域に形成されたショットキー電極10と、その外縁にガードリングとしてp型の不純物であるAlが注入されたp型半導体領域3と、半導体基板1の裏面に設けられたカソード電極4とを備えている。また、主接合領域を囲むように、環状のp型半導体領域で構成されたJTE(ジャンクション・ターミネーション・エクステンション)6を備えている。
【0020】
半導体基板1は、高い濃度でn型の不純物であるNが導入されたSiCを主に含むn
+型の半導体基板である。
【0021】
ドリフト層は、n型の不純物であるNが導入されたSiCを主に含むn
-型の半導体層である。不純物濃度は、半導体基板1よりも低い濃度である。
【0022】
JTE領域6は、不純物密度の高い領域(第1JTE)7と不純物密度の低い領域(第2JTE)8から構成され、第2JTE領域の幅と間隔の比が前記主接合3から外側に向かうほど小さくなっている。
【0023】
本実施例では、第1JTEおよび第2JTEを以下の注入エネルギーからなる多段Alイオン注入により形成した。
【0024】
第1イオン注入(第1JTEの領域):25、55、95、150、220、320keV
第2イオン注入(第1JTEの領域及び第2JTEの領域):25、55、95、150、220、320、450keV
第1JTE領域におけるAlの最大濃度(ボックスプロファイルのピーク設定濃度)を6×10
17cm
-3とし、第2JTE領域におけるAlの最大濃度を2×10
17cm
-3としたが、高ドープ領域へのイオン注入の最高エネルギー(第1イオン注入エネルギー)を第2イオン注入エネルギーよりも低くすることで、Alの濃度分布を
図5のように、pn接合深さの水平方向における第1JTEと第2JTEの2つの領域における濃度差がほぼ零となるようにした。
【0025】
比較例として、非特許文献1のように、同じ注入エネルギーで第1イオン注入と第2イオン注入を行った場合の注入したAl濃度の深さ方向分布を
図7および
図8に示す。すなわち、ドリフト層2とJTE領域6とで構成されるpn接合深さ(深さ0.7ないし0.9μm)における水平方向(基板面内方向)におけるAl濃度分布に大きな不連続が生じる。特に、イオン注入エネルギーを非特許文献1の700keVと高くした場合と異なり、450keV以下の低い場合には、非特許文献3に開示されているように、Alイオンのチャネリングが無視できなくなる。具体的には、第1JTEと第2JTEの注入量比を非特許文献1と同様、3:1とし、第1JTE、第2JTEともに最大値が450keV以下の同一多段エネルギーでAlイオン注入した場合の深さ方向のAl濃度分布は
図7のように、深さ0.6μm以上でAl濃度は尾を引く形状となるからである。その結果、
図8のように作製したダイオードではサイズが無限大の場合、すなわち周辺領域がなく、垂直方向の一次元構造とみなせる場合の理想耐圧に対して、実際の耐圧が70%程度しか得られなかった。
【0026】
それに対して、本実施例により作製した
図1のようなダイオードの耐圧は、ダイオードサイズが無限大の場合の理想耐圧に対して90%を超えた。これは、第1JTE領域と第2JTE領域との濃度設定を調整するとともに、pn接合深さの水平方向における第1JTEと第2JTEの2つの領域における濃度差をほぼ零としたことにより、電界が第1JTEと第2JTEの境界に集中しにくくなったためと考えられる。
【0027】
また、本実施例の、JTE領域におけるAlの最大濃度(ボックスプロファイルのピーク設定濃度)によれば、第2JTE領域最外周位置での保護絶縁膜(
図2に図示せず)の電界強度が2MV/cmを超えないため、初期特性測定時に絶縁膜の破壊する問題が発生しなかった。
【0028】
さらに、逆方向電圧を定格耐圧値の80%に設定した状態で、125℃にて1000時間保持した後、逆方向電圧を印加したまま、室温まで冷却して測定したところ、初期耐圧以下の電圧印加でショットキーダイオードが破壊する現象は全く見られなかった。これは第1JTEの最大濃度が高いために、界面電荷密度が7×10
12cm
-2を超えるような過度な試験条件においても、耐圧が劣化しない構造となったためと考えられる。
【0029】
なお、第1JTE領域における最大Al濃度を4×10
17cm
-3、第2JTE領域における最大Al濃度を2×10
17cm
-3とした場合、ショットキーダイオードの耐圧は理想耐圧の90%を超えたものの逆方向電圧を定格耐圧値の80%に設定した状態で、125℃にて1000時間保持した後、逆方向電圧を印加したまま、室温まで冷却して測定したところ、初期耐圧以下の電圧印加でショットキーダイオードが破壊する現象が見られた。SiCを用いた半導体装置の場合、初期状態で絶縁膜/半導体界面に密度が1〜2×10
12cm
-2程度の正電荷の存在することが知られているが、試験中に界面電荷量が正のさらに大きな値に向かって変動し、耐圧が低下したことが原因と推定される。本実施例のように、第1JTE領域における最大Al濃度を6×10
17cm
-3、第2JTE領域における最大Al濃度を2×10
17cm
-3とした場合には、上述のショットキーダイオードが破壊する現象は全く見られなかった。そこで,第2JTE領域における最大Al濃度を2×10
17cm
-3固定とし,第1JTE領域における最大Al濃度を4.0×10
17cm
-3から4×10
16cm
-3ステップで増加させたところ,第1JTE領域における最大Al濃度が4.4×10
17cm
-3以上の時,上述のショットキーダイオード破壊現象は起こらなくなることが分かった。しかし,第1JTE領域における最大Al濃度を8.4×10
17cm
-3まで増加させると,初期耐圧自体が低下してしまうことが明らかとなった。したがって,半導体装置としてショットキーダイオードを信頼性よく実現するには、第1JTEの最大濃度の範囲は4.4×10
17cm
-3以上8×10
17cm
-3以下とすることが望ましい。
【0030】
このように、本実施例によれば、SiCを用いたショットキーダイオード等の半導体装置の耐圧を向上できるとともに、半導体装置を信頼性よく実現できる効果がある。
【実施例2】
【0031】
図3に実施例2の半導体装置の平面図を、
図4に断面図を示す。
【0032】
実施例1との大きな相違点は、ガードリングとして用いていたp型半導体領域3の代わりに、ショットキー電極10下部に離散的に、ショットキー電極10周辺に環状に第1JTEを配置することで、JBSダイオードとした点である。なお、第1JTEおよび第2JTEの注入エネルギーは実施例1と同じとし、第1JTEの注入量を第1JTE領域における最大Al濃度が4.4×10
17cm
-3(図示せず),6×10
17cm
-3(
図5),8×10
17cm
-3(
図6)の3通り,第2JTEの注入量を第2JTE領域における最大Al濃度が2×10
17cm
-3(
図5および
図6)とした。
【0033】
本実施例により作製したJBSダイオードの耐圧は、第1JTE領域における最大Al濃度が4.4×10
17cm
-3の場合にダイオードサイズが無限大の場合の理想耐圧に対して60%まで低下した。これは,実施例1におけるp型領域3を代替させるには,第1JTE領域における最大Al濃度が4.4×10
17cm
-3では低すぎたためと考えられる。一方,第1JTE領域における最大Al濃度が6×10
17cm
-3および8×10
17cm
-3の場合にダイオードサイズが無限大の場合の理想耐圧に対して90%を超えた。そして、第1JTE領域における最大Al濃度が6×10
17cm
-3および8×10
17cm
-3の場合には,逆方向電圧を定格耐圧値の80%に設定した状態で、125℃にて1000時間保持した後、逆方向電圧を印加したまま、室温まで冷却して測定したところ、初期耐圧以下の電圧印加でJBSダイオードが破壊する現象は全く見られなかった。したがって,半導体装置としてJBSダイオードを信頼性よく実現するには、第1JTEの最大濃度の範囲は6×10
17cm
-3以上8×10
17cm
-3以下とすることが望ましい。
【0034】
本実施例によれば、SiCを用いたJBSダイオード等の半導体装置を信頼性よく実現できる効果に加え、実施例1でガードリングとして形成したp型半導体領域3の形成工程を省略でき、半導体装置の製造コストを低減できる効果もある。
【0035】
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。