【実施例】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例に係る車両用シートの概略側面図、
図2は車両用シートのベゼル、キャップの斜視図をそれぞれ示す。なお、前後左右はドライバーシートに着座したドライバーから見た方向をいい、Fr、Rr、L、Rで示す。
【0021】
図1に示すように、車両用シート10は、シートバック12、シートクッション14を備え、シートベルト(図示しない)がシートに装着されている。シートクッション14は、クッションフレーム(図示しない)に発泡ウレタン等の発泡材からなるパッド(シートパッド)14−1を被せ、パッドをトリムカバー14−2で被覆して構成され、シートバック12も同様の構成となっている。
【0022】
シートクッション14の後端でパッド14−1を切り欠いてパッド凹部14−1aが形成され、パッドを被覆するトリムカバー(図示しない)がパッド凹部の上で開口されている。なお、
図1ではパッド凹部14−1aがシートクッション後端に形成されているが、この構成に限定されずパッド凹部をシートバック下端に設けてもよい。
【0023】
たとえば、シートクッション14の後端には、シートクッション上にISO−FIXタイプのチャイルドシート20を保持するための左右のISO−FIX対応の左右のアンカ30が、車両用シート10の左右方向に所定の間隔をあけて配設されている。
チャイルドシート20は、たとえばその背面22の下部から後方へ延びた左右の係合部材24を持ち、係合部材は、長溝状の切欠きからなる係合口24aを先端に有している。アンカ30は、前方に互いに平行に延びた左右のサイドバー30aの前端をフロントバー30bで連結した平面視略コ字形状にワイヤ材を折曲加工して成形され、たとえばシートクッションのサイドフレーム(図示しない)の後端間で左右方向に架設された連結パイプ(図示しない)に固定されて、前方に延出している。
【0024】
通常、チャイルドシート20は、背面側が沈んで傾斜した状態で左右の係合部材24を対応するアンカ30に前方から近づけ、係合部材の係合口(切欠き)24aをフロントバー30bに係合させることによって、チャイルドシート20がアンカに保持されてシートクッション14上に配置される。アンカのフロントバー30bが係合部材の係合口24aの末端に至るまで係合されることにより、アンカ30によるチャイルドシート20の保持が完全なものとなる。
【0025】
パッド凹部14−1aには、前面が開口した断面略矩形の箱型形状のベゼル40が被せられ、ベゼルの開口(前面開口)40Fには開口を覆うようにキャップ50が取付けられる。たとえば、ベゼル40、キャップ50は、熱可塑性樹脂などから成形される。
実施例では、ベゼル40はその開口40Fの周囲にフランジ41を一体に有して形成されているが、これに限られない。しかし、ベゼル40をフランジ付とすれば、パッド凹部14−1aの周囲のトリムカバー端末をフランジの下面に重ねて縫着することより、ベゼルをトリムカバーに容易に取付けられる。
【0026】
ベゼル40は後面(背面)も開口した形状とされ、ベゼルがパッド凹部14−1aに被せられると、アンカはベゼル内に延ばされて位置し、ベゼルの開口40Fがキャップ50に覆われるとアンカ30が隠されて、アンカの位置が分かり難い。そのため、ISO−FIXアンカのマーク(絵文字)Mをキャップの前面(正面)に描いて、アンカの位置を明示するとよい(
図2参照)。
ベゼル40を底付とし、底壁(背面)にアンカ30の挿通される挿通穴を設けて、アンカを挿通穴からベゼル内に突出させてもよい。
【0027】
図3は車両用シートのベゼル、キャップの右側面図を示す。
ベゼル40は、たとえばその前面の下方が上方より前に位置する斜面形状にその前面が形成され、キャップ50は左右の袖(側部)50Sを持つ平面視略コ字形状に形成されている。
ベゼルの左右の側面40Sの上部には、前後方向に直線状に延びた左右一対のガイド溝42が設けられているとともに、ガイド溝に嵌合されてガイド溝に沿ってスライド可能な左右一対のヒンジピン52が袖50Sの上部から外側に突出し、ヒンジピンをガイド溝に嵌合させてキャップがベゼルに取付けられている(組み込まれている)。
ガイド溝42は、前後方向で略水平に延びた貫通溝形状とされ、ベゼルの天井面(上面)40Upとの間にキャップ50を格納する空間を確保するように、前後方向でのキャップの長さ(厚さ)に対応する距離だけベゼルの天井面から離反して形成されている。
【0028】
ガイド溝の前端42Frの下方でその前方に、左右一対の規制ピン44がベゼルの左右側面40Sから内側に突出して設けられており、規制ピンがキャップの背面、たとえば、キャップの袖の背面50Saに当接することにより、キャップの揺動が規制される。
たとえば、規制ピン44、ヒンジピン52はいずれも円柱形状とされる。
【0029】
規制ピン44はキャップ50の背面に当接してその揺動を規制すれば足り、規制ピンがキャップの背面に当接する位置は袖の背面に限定されない。しかしながら、左右の袖
50Sを持つ平面視略コ字形状にキャップ50を形成して左右の袖の背面で規制ピンがキャップの背面に当接する構成では、左右均一に当接させることができ、左右方向でのキャップの捻じれが生じ難く、ヒンジピン52がガイド溝に沿って円滑にスライドできる。また、規制ピン44の突出長さを短く形成でき、構成的に複雑化しない。
【0030】
図4(A)(B)(C)は
図2の線X−Xに沿った、キャップの初期位置(ベゼルの開口を覆う位置)、中間位置、格納位置でのベゼル、キャップの断面図、
図5は
図4(A)の線Y−Yに沿った断面図をそれぞれ示す。
ベゼル40、キャップ50の間にはベゼルの開口を覆う位置でキャップをベゼルに保持する保持手段60が設けられている。保持手段60は、キャップの左右の袖50Sの下部で外側に突出する左右一対の係合突起54と、規制ピン44の下方でベゼルの左右の側面40Sに形成された対応する左右一対の係合穴46との組み合わせから構成されている。たとえば、
図5に示すように、係合突起54は部分球形状の突起、係合穴46はベゼルの側面を貫通する穴(貫通穴)とされ、係合突起が係合穴に嵌まり込む(係合する)ことによって、キャップはベゼルに保持される。貫通穴に代えて、部分球形状の係合突起54に対応した部分球形のくぼみを係合穴としてもよい。
【0031】
保持手段60は、ベゼルの開口40Fを覆った位置にキャップ50を保持する構成であれば足り、係合突起54、係合穴46の組合せに限定されない。しかしながら、係合突起54、係合穴46の組合せから保持手段を構成すれば、保持手段が簡単化されるだけでなく、係合突起、係合穴の係合によって、ベゼルの開口40Fを覆う位置(初期位置)にキャップを迅速、容易に保持できる。
【0032】
たとえば、
図3に示すように、キャップ50をベゼルの開口40Fに整列させて、矢視方向(後方)に押し込んで係合突起54をベゼル側面の係合穴46に係合させれば、キャップがベゼルの前面開口40Fを覆う位置に保持されてベゼル内のアンカ30がキャップに隠される。
【0033】
キャップ50をベゼル40に押し込むと、係合突起54がベゼル側面の係合穴46に係合されるとともに、ヒンジピン52がガイド溝42に嵌合され、この位置でキャップ50は開口40Fを覆ってベゼル40に取り付けられる(初期位置;
図4(A))。キャップの下半部に位置する係合突起54がベゼル側面の係合穴46に係合されるだけでなく、上半部に位置するヒンジピン52がベゼル側面のガイド溝42に嵌合されており、上下の2ヶ所でベゼルに取付けられるため、キャップ50は開口40Fを覆うその初期位置に確実に保持される。
そして、保持板ばねなどの独立部材を必要とすることなく、キャップ50は初期位置に保持されるため、部材点数が増えることもなく、構成の複雑化を招くこともない。
【0034】
キャップ50が開口40Fを覆ってベゼル40に取り付けられたキャップの初期位置(
図4(A))では、キャップのヒンジピン52はベゼルのガイド溝42に嵌合されるとともにキャップの係合突起54がベゼルの係合穴46に係合されるが、ベゼルの規制ピン44にキャップの背面50Saが当接し、ヒンジピンがガイド溝の前端42Frに押し付けられるような位置関係に、ヒンジピン、ガイド溝、規制ピン、係合突起、
係合穴が設定されている。
このように、後方へのキャップ50の動き(揺動)が規制ピン44で規制されるとともに、前方へのキャップの動き(揺動)がガイド溝の前端42Frへのヒンジピン52の押し付けによって規制されて、キャップがガタなく保持されるため、車両の走行時におけるガタに起因する異音の発生が防止できる。
【0035】
キャップ50をベゼル40に押し込む押力がその下半部に加わっても、ヒンジピン52の下方に位置する規制ピン44がキャップの背面50Saに当接して、ヒンジピンを揺動中心とするキャップの揺動を阻止するため、キャップはベゼルに押し込まれることなくその初期位置に保持される。
【0036】
本発明では、キャップ50を押し込むだけでは格納できず、押し込む前にキャップ50を引き出して上方に揺動させる操作が必要となる。すなわち、
図4(A)に矢視するように、キャップ50を引き出して上方に揺動させ、跳ね上げながらベゼル40にキャップを押し込むことによって(
図4(B))、キャップはベゼルの開口40Fを覆う位置(初期位置)から除かれる。そして、ベゼル内のアンカ30に、チャイルドシートの係合部材24が係合されて、シート10にチャイルドシート20が装着される。
【0037】
キャップ50の格納について詳細に説明すると、
図4(A)に示すように、キャップは下方に空間を残して
ベゼルの開口40Fを覆っているため、キャップ下方の空間から挿入した指をキャップの下端に係止させることができ、矢視のように手前に引けば、キャップの係合突起54がベゼルの係合穴46から離脱して係合が解除される。そして、キャップ50をそのまま持ち上げて、その背面50Saを規制ピン44に摺接させながらキャップをその上端からベゼル40に押し込めば、ヒンジピン52がガイド溝42に沿ってスライドして、
図4(B)に示すように、キャップが規制ピンに乗り上げ、その周りで揺動して跳ね上げられる。
【0038】
キャップ50の下方に空間を残しても、アンカ30はベゼル40の奥に位置しているため、アンカが見えることはなく、外観意匠を損なうおそれはない。もちろん、ベゼルの開口40Fの全面を覆う形状にキャップ40を形成してもよく、この場合は、たとえば、キャップの前面下部に指の係止される係止溝を設けるとよい。
【0039】
規制ピン44に当接するキャップの背面50Saは、キャップが規制ピンに乗り上げてその周りで円滑に揺動して跳ね上げられるように、背面の上端部(全長の1/3〜1/4)はキャップの前面と平行とされ、それ以降は、下方に行くに従ってキャップの前面から離反する斜面形状のガイド面(カム面)となっている。
キャップの背面50Saの後端が規制ピン44に乗り上げられるまでキャップ50が跳ね上げられると、ガイド溝42に沿ってスライドしたヒンジピン52はガイド溝の後端42Rrに当接してスライドが阻止される。そしてこの位置で、キャップ50の前面はベゼルの天井面40Upから僅かに離反し、キャップの下端がベゼルの開口40Fとほぼ面一(つらいち)となって、キャップはベゼル40に格納される(格納位置;
図4(C))。
【0040】
このように、キャップ50を押し込むとベゼルの規制ピン
44に規制されて、係合部材24の押し込みと関係なく、キャップが揺動し、跳ね上げられてベゼルに格納される。また、チャイルドシートの装着時に、ベゼル内のアンカ30(詳細にいえばそのフロントバー30b)に係合させるために係合部材24をベゼル40に押し込んでも、キャップ50はベゼルに格納されて係合部材の押込み経路上になく、係合部材がキャップの前面を押圧せず、キャップの前面に接触しない。
【0041】
係合部材24の押込み時に係合部材がキャップの前面を押圧せず、接触しないため、係合部材でキャップの前面を傷付けることがない。また、係合部材によってキャップの前面が傷付くことがないため、キャップの外観意匠が損なわれるおそれがない。なお、ベゼルの天井面40Upから前面が離反して格納されるため、この点からもキャップの前面が傷付かない。
また、係合部材24がキャップ50の前面を押圧せず、キャップの前面が係合部材と接触しないため、ISO−FIXアンカのマークMをキャップの前面に描いてアンカの位置を明示できる。
【0042】
そして、キャップ50はベゼル40の中で揺動しているため、キャップの揺動軌跡を確保する空間をベゼルの開口40Fの周りに設ける必要がなく、ベゼルの開口の周辺部品の形状、配置が設計上制約されない。
【0043】
キャップ50は、ヒンジピン52をベゼルのガイド溝の後端42Rrに当接させるとともにその背面50Saが規制ピン44を乗り上げてベゼルの天井面40Upの直下に格納されているため、格納位置から離脱することなくキャップをその格納位置に保持できる。
必要なら、格納位置でキャップの前面の下端が上端よりも上に位置するようにキャップの背面50Saに斜面形状を設定したり、ガイド溝42を前後方向で水平に延ばすことなく、その後端42Rrが前端42Frより下に位置するように前後方向で傾斜した直線形状にガイド溝を形成すれば、格納位置からのキャップの離脱を防止できる。
さらに、
図3に一点鎖線で示すように、キャップの背面50Saの後端に規制ピン44の係合可能な係合穴50Sa’を設けて、格納位置で規制ピン44を係合孔に係合させれば、キャップが格納位置から容易に離脱せず、格納位置に確実に保持できる。たとえば、係合穴50Sa’は円弧形状とされる。
【0044】
また、チャイルドシート装着時においては、キャップ50がベゼル40に格納されているため、見栄えがよく、さらに、キャップに外力が加わらないため、破損しない。
【0045】
キャップをベゼル内でその上部(天井面直下)に格納する代わりに、ベゼル内でその下部(下面の上)に格納してもよい。
図6(A)(B)は本発明の他の実施例(実施例2)に係る車両用シートにおける、
図4の(A)(C)に対応するキャップの初期位置、格納位置でのベゼル、キャップの断面図をそれぞれ示す。この実施例2において、上記実施例(実施例1)と共通する構成部材については同じ参照符号を付してその説明を省略し、実施例1と異なる構成を主として説明する。
実施例1では、キャップをベゼル内でその上部(天井面直下)に格納するために、ガイド溝、規制ピンがベゼルの上部、ヒンジピンがキャップの上部にそれぞれ設けられているのに対して、実施例2では下部(下面の上)に格納するために、ガイド溝、規制ピンがベゼルの下部、ヒンジピンがキャップの下部にそれぞれ設けられている点で、実施例2は実施例1と相違する。
【0046】
実施例2では、ガイド溝42はベゼル40の左右側面の下部に設けられ、ガイド溝には、キャップ50の下部に設けられた左右一対のヒンジピン52がスライド可能に嵌合されている。ここで、ガイド溝42は、ベゼルの下面40Loの上にキャップ50を格納する空間を確保するように、前後方向でのキャップの長さ(厚さ)に対応する距離だけベゼルの下面から離反して形成されている。
【0047】
ガイド溝の前端42Frの上方で後方には、左右一対の規制ピン44がベゼルの左右側面から内側に突出している。そして、ベゼル40、キャップ50の間には保持手段60が設けられ、保持手段は、実施例1と同様に、部分球形状の係合突起54と、係合突起と係合可能な貫通溝よりなる
係合穴46との組み合わせから構成され、係合突起はキャップの左右の袖の上部に、
係合穴はベゼルの左右の側面の上部にそれぞれ設けられている。
【0048】
キャップのヒンジピン52がベゼルの対応するガイド溝42に嵌合されるとともに、キャップの係合突起54がベゼルの対応する係合穴46に係合されて、ベゼルの前面開口40Fを覆う位置にキャップ50は保持され(初期位置;
図6(A))、規制ピン44は、キャップの背面50Saに当接してヒンジピン52を中心としたキャップ50の揺動を規制している。
【0049】
キャップ50をベゼル40に格納するためには、まず、キャップを手前に引きだして保持手段60による係合を解除する。実施例2では、キャップ上部に指を係止させる隙間を残すことなく、キャップ50がベゼルの開口40Fの全面を覆っているため、指を係止させて手前に引き出すための係止溝をキャップの前面の上部に設けるとよい。
そして、キャップの左右の袖の後端50Saに規制ピン44を摺接させながら、ヒンジピン52を中心としてキャップ50を揺動させ、ヒンジピンがガイド溝の後端42Rrに当接するまでスライドさせると、キャップ50が下面40Loの上でベゼルに格納される(格納位置;
図6(B))。
【0050】
キャップ50をベゼル40の下部(下面の上)に格納する実施例2の構成においても、ベゼルの上部(天井面直下)に格納する実施例1と同様の効果が得られる。すなわち、係合部材で前面を傷付けることなくキャップ50をベゼル40に格納できる。
【0051】
上記のように本発明によれば、キャップを押し込むとベゼルに設けた規制ピンに規制されてキャップが揺動してベゼルに格納され、パッド凹部へのチャイルドシートの係合部材の押し込みと関係なく揺動して係合部材と接触しないため、その前面を傷付けることなくキャップをベゼルに格納できる。
【0052】
上述した実施例は、この発明を説明するためのものであり、この発明を何等限定するものでなく、この発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全てこの発明に包含されることはいうまでもない。
【0053】
なお、実施例では、チャイルドシートの係合部材と係合するアンカがシートクッション後端、シートバック下端のいずれかに設けられている場合を想定しているが、これに限定されず、たとえばシートクッションやシートバックの上面または背面にテザーアンカを設けた構成にも本発明を適用することができる。すなわち、チャイルドシートの頂部から延ばされたフックなどの係合部材と係合可能なテザーアンカがシートクッションやその背面などに設けられ、テザーアンカの格納可能な凹部を覆うキャップ付きベゼルを持つ車両用シートにも本発明を適用できる。