特許第6091106号(P6091106)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091106
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】マーキング材料サブシステム
(51)【国際特許分類】
   B41F 31/32 20060101AFI20170227BHJP
   B41F 31/30 20060101ALI20170227BHJP
   B41N 3/08 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   B41F31/32
   B41F31/30
   B41N3/08 101
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-165510(P2012-165510)
(22)【出願日】2012年7月26日
(65)【公開番号】特開2013-35285(P2013-35285A)
(43)【公開日】2013年2月21日
【審査請求日】2015年7月21日
(31)【優先権主張番号】13/204,567
(32)【優先日】2011年8月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502096543
【氏名又は名称】パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・ディー・ストウ
(72)【発明者】
【氏名】エリック・ピーターズ
【審査官】 外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−148356(JP,A)
【文献】 特表2005−527395(JP,A)
【文献】 特開2005−205630(JP,A)
【文献】 特表平10−510491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 31/00−35/06
B41N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変データ平版印刷システムに関するマーキング材料サブシステムであって、
複数のマーキング材料組立体であって、各マーキング材料組立体が、
マーキング材料供給源と、
前記マーキング材料供給源からマーキング材料を受取り、前記マーキング材料を画像作成部の表面に塗布するマーキング材料転写サブシステムと
を含むマーキング材料組立体と、
前記複数のマーキング材料組立体のうちの各組立体と前記画像作成部の表面とを選択的に係合・分離させる制御機構と
を含み、
前記画像作成部の前記表面には、液体層が付与され、
前記液体層には、光線の照射により、パターンが形成されており、
前記液体層は、照射される前記光線を吸収するために選択された放射線感受性成分を含む、
マーキング材料サブシステム。
【請求項2】
前記制御機構が、前記マーキング材料組立体のうちの1個だけが、常にどの時点においても前記画像作成部の前記表面と係合するように、各前記マーキング材料組立体と前記画像作成部との前記係合および分離を制御する、請求項1に記載のマーキング材料サブシステム。
【請求項3】
前記マーキング材料転写サブシステムが、マーキング材料形成ローラを含み、さらに前記制御機構が機械的に前記マーキング材料形成ローラを、前記画像作成部の前記表面と係合・分離させる組立体を含む、請求項1に記載のマーキング材料サブシステム。
【請求項4】
前記制御機構により、前記マーキング材料形成ローラが、前記画像作成部の前記表面と係合・分離させられ、一方で前記マーキング材料サブシステムの残り全ての構成要素は前記画像作成部に相対する位置に固定される、請求項3に記載のマーキング材料サブシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はマーキングおよび印刷方法およびシステムに関し、より具体的にはUV平版印刷インクおよびオフセットインク等のマーキング材料、即ち印刷材料を用いて複数のコンポーネント(例えば、複数の色)のデータを可変的にマーキングまたは印刷する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、オフセット平版印刷が一般的な印刷の方法である(本明細書の説明では、用語「印刷する」および用語「マークする」のどちらも同じ意味で使用可能である)。一般的な平版印刷の過程では、疎水性および親油性材料から成る「画像領域」と、親水性材料から成る「非画像領域」と、を含む刷版を作成する。この刷版は平坦なプレート、シリンダ、またはベルトの面等でよい。画像領域とは、最終印刷物(即ち、対象の下地)上でインク等の印刷材料またはマーキング材料によって満たされる部分に対応する領域であり、非画像領域とは、最終印刷物上で前記マーキング材料によって満たされていない部分に対応する領域である。親水性の領域は、水ベースの液体を受け入れ、そしてその水ベースの液体により容易に湿る。この水ベースの液体は、一般に湿し水(典型的に水と少量のアルコール、およびその他の添加剤および/または表面張力を減らすための界面活性剤から成る)と呼ばれる。疎水性の領域は、湿し水とは混じり合わずにインクを受け入れる。一方で親水性領域上に形成された湿し水は、液体の「剥離層」を形成してインクをはじく。したがって、刷版の親水性領域は、最終印刷物の印刷されていない場所、即ち「非画像領域」に対応する。
【0003】
インクを紙等の下地に直接転写することができる、またはオフセット印刷システム内のオフセット(またはブランケット)シリンダ等の中間面に塗布することもできる。オフセットシリンダは、下地の凹凸とフィット可能な表面を有する形状適合性被覆材またはスリーブで覆われており、これらの形状適合性被覆材またはスリーブは画像作成する印判の表面の山から谷までの深さより若干深い山から谷まで深さの表面を有することができる。また、オフセットのブランケットシリンダの表面粗さにより斑点等の不具合がなく印刷材料のより均一な層を下地に塗布することができる。十分な圧力をかけて、画像をオフセットシリンダから下地に転写する。この圧力は、オフセットシリンダと圧シリンダとの間に下地を挟むことで作り出される。
【0004】
ある変形例は、乾燥、または水を必要としない平版印刷、即ちドリオグラフィと呼ばれ、刷板のシリンダが油分をはじくシリコンゴムで被覆され、パターン形成されて印刷画像の陰画を形成する。上記に説明した従来の、即ち「湿らせる」平版印刷のように最初にいくらかの湿し水を塗布することなく、印刷材料が直接刷板シリンダに塗布される。印刷材料にはインクが含まれ、このインクはいくらかの揮発性の溶剤添加物を含んでも、含まなくもよい。このインクは、優先的に画像作成領域に塗布されて潜像の画像を形成する。インク配合に溶剤添加物を用いた場合、それらの溶剤添加物がシリコンゴムの表面に優先的に拡散し、それに伴い剥離層を形成し印刷材料をはじく。表面エネルギの低いシリコンゴムにより、印刷材料はさらにはじかれる。上記に説明した通り、潜像画像を下地に再度転写することができる、またはオフセットシリンダを介して下地に転写するするこができる。
【0005】
上記の平版印刷およびオフセット印刷の技術は、恒久的にパターン形成された刷版を用い、したがって、雑誌、新聞等の多くの同じ画像のコピーを印刷する(長い印刷作業)ときに限って有用である。しかし、これらの技術では、印刷シリンダおよび/または刷版を取り除いて交換することなしに、ページとページの間で新しいパターンを作成して印刷することはできない(即ち、この技術では、例えばデジタル印刷システムのように刷と刷との間で画像を変更して、本当に高速な可変データ印刷を実現することはできない)。さらに、恒久的にパターン形成された刷版またはシリンダのコストは、多数の印刷物を印刷することによって償却可能である。したがって、デジタル印刷システムによる印刷とは対照的に、同じ画像の少量の印刷作業に関する印刷物ごとのコストは、同一の画像のより大量の印刷作業に関する印刷物ごとのコストより高くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
可変データ平版印刷を行う既知のシステムにおいて未だに解消されていない制約の一つは、そうしたシステムの多くが単色画像しか作成できないということである。そのようなシステムのいずれかが多色の印刷を提供する限り、複数の印刷処理で複数の別々の印刷エンジンを1回ごとに1色用いて印刷を行っている。複数の印刷エンジンシステムでは最適とは言えない、コスト、煩雑性、保守、サイズ、エネルギ消費等の数々の理由から多色刷りが切望されている。
【0007】
したがって、本開示は可変データ平版印刷とオフセット平版印刷とを提供するシステムおよび方法に関し、このシステムおよび方法により、上記で認識された短所、および本開示により下記に明らかとなるその他の短所を克服することができる。本開示は、湿し水の可変的なパターン形成に基づく多色の可変画像作成平版印刷マーキングシステムおよびそれに関連する方法の種々の実施形態に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このようなシステムには、ドラム、刷板、ベルト、ロール等の画像作成部には、画像再作成可能層が設けられる。湿し水サブシステムから湿し水の層を受け取り、運搬することができるように、この層には組成や表面粗さ等に特別な特性がある。走査変調レーザ等の光学パターン形成サブシステムは、このパターン形成を容易にするために選択された画像再作成可能層の特性を用いて、湿し水層にパターン形成する。次いで、インク塗布サブシステムでインクが塗布されて、湿し水層内にパターン形成サブシステムによって形成された間隙の中にこのインクが選択的に存在し、これによりインクの潜像画像が形成される。次いで、このインクの潜像画像は下地へ転写され、画像再作成可能面はクリーニングされ、この処理を繰り返すことができる。これにより、高速な可変マーキングが提供される。
【0009】
本開示の一態様によれば、複数のインク塗布サブシステムが提供され、それぞれ異なる色のインクを有する。各インク塗布サブシステムは、独立して動いて画像作成部の画像再作成可能面の層と係合(即ち、近接)・分離する。パターン形成サブシステムが、第1のパターンを湿し水の中に作成し、上記に説明した通り、第1のインク塗布サブシステムが画像再作成可能面と係合して第1の色のインクの潜像画像を作成する。この第1の色のインクの潜像画像は、転写ニップ等で下地に転写され、画像作成部の画像再作成可能面の層はクリーニングされる。湿し水の中に第2のパターンが作成され、第1のインク塗布サブシステムは画像再作成可能面から分離し、上記に説明した通り、第2のインク塗布サブシステムが画像再作成可能面と係合して第2の色のインクの潜像画像を作成する。次いでこの下地は、再度転写ニップを通過して第1の色のインクの潜像画像の上に第2の色のインクの潜像画像を受け取る。一般的な4色の処理では、このパターン形成、係合、インク印刷の連続動作を色ごとに1回合計4回繰り返すことができる。実際には、異なる色のシステムを用いる場合、または、異なる印刷効果が所望される場合、この処理をより頻繁に繰り返すことができる。
【0010】
本開示の別の態様によれば、第1の色インクの潜像画像を下地に転写した後、画像を下地上で部分的に硬化させて、転写された色が下地から画像作成部に戻り、次の色の層がその上に塗布されることで生じる油汚れを抑えることができる。この部分的硬化は、下地の裏側または表側(あるいは両側)から行うことができ、UV照射、加熱、または使用された特定のインクおよび下地に適したその他の方法により実行可能である。ある実施形態では、紙等のシート状の下地が、単一のドラム上を最初のパスから最後のパスまで搬送される。別の実施形態では、別の下地操作機構が用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の実施形態による複数のコンポーネントの可変平版印刷に関するシステムの側面図である。
図2A図2Aは、本開示の実施形態による、中間層を用いない画像作成ドラム、刷板またはベルトの画像再作成部の一部を切り取った側面図であり、画像再作成可能面の層の中に吸収性のある微粒子が分散して含まれている様子が示されている。
図2B図2Bは、本開示の実施形態による、中間層を用いる画像作成ドラム、刷板またはベルトの画像再作成部の一部を切り取った側面図である。
図3図3は、本開示の別の実施形態による画像作成ドラム、刷板またはベルトの画像再作成部の一部を切り取った側面図であり、光を吸収するために画像再作成可能面の層が着色されている様子が示されている。
図4図4は、本開示のさらに別の実施形態による画像作成ドラム、刷板またはベルトの画像再作成部の一部を切り取った側面図であり、画像再作成可能面の層が光学的に透明または半透明であり、光を吸収する層の上に載せられている様子が示されている。
図5A図5Aは、RSmを規定するための画像作成面の凹凸の間隔の特徴、およびその大きさの特徴を示す説明図である。
図5B図5Bは、Raを規定するための画像作成面の凹凸の間隔の特徴、およびその大きさの特徴を示す説明図である。
図6図6は、本開示の実施形態による、湿り水がその上に塗布され光線Bによってパターン形成される図2に示す画像再作成部の一部を切り取った側面の拡大図である。
図7図7は、本開示の実施形態による、供給ローラからインクを受けて画像再作成可能面にインクを選択的に転写する、回転可能に設置された計量(形成)ローラを有するインク塗布サブシステムの側面図である。
図8図8は、本開示の実施形態による、湿り水のパターン形成された層および湿り水のパターン形成によって現れた画像再作成可能面の層の一部の上にインクの均一な層を塗布するために用いるインク塗布サブシステムの側面図である。
図9図9は、本開示の別の実施形態による複数の色の可変平版印刷に関するシステムの側面図である。
図10図10は、本開示の実施形態による複数のコンポーネントの可変平版印刷に関する直列構造のシステムの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照すると、本開示の一実施形態による複数の色の可変平版印刷に関するシステム10が示されている。システム10は、画像作成部12(この実施形態ではドラムであるが、プレート、ベルト等も同様に用いることができる)を含み、その周りには、数多くのサブシステムが配置されている。これらのサブシステムに関しては下記に詳しく説明する。画像作成部12は、ニップ16で画像作成部12と圧力ローラ18との間に下地14を挟んで、インク画像を下地14に塗布する。紙、プラスチックまたは複合材シートフィルム、セラミック、ガラス等の様々な種類の下地を使用することができる。この説明を明瞭かつ簡潔にするために、この下地は紙と仮定するが、本開示はこれら下地の形態に限定されない。例えば、その他の下地には、ボール紙、波を打った梱包材料、木材、セラミックのタイル、生地(例えば、布、カーテン生地、衣類等)、透明フィルムまたはプラスチックフィルム、金属箔等が含まれ得る。顔料密度が10重量%より高いものを含む幅広いマーキング材料を使用することができ、それらには梱包に便利な金属インクまたは白インクも含まれるがこれに限定されない。本開示のこの部分を明瞭で簡潔にするために、我々は、インクという用語を概して使用するが、これには、顔料、および本明細書で開示したシステムおよび方法によって適用することが可能なその他の材料等の一連のマーキング材料も含まれることは言うまでもない。
【0013】
図2を参照すると、画像作成部12が部分断面で示されている。ある実施形態では、画像作成部12は構造取付け層22(例えば金属、セラミック、プラスチック等。)と、その上に形成された薄い画像再作成可能面の層20と、と含み、共に画像再作成部24を形成し再書込み可能な印刷ブラケットを形成する。画像再作成部24は、図2Bに示す中間層21等の付加的な構造層をさらに含み、この層は、画像再作成可能面の層20の下、および構造取付け層22の上と下のどちらかに配置される。中間層21は電気絶縁(または導電)性、熱絶縁(または導熱)性でよく、可変圧縮率および可変デュロメータ等を有することができる。ある実施形態では、中間層21は独立気泡ポリマーフォームシートと網目のメッシュ層(綿等)から成り、これらは共に薄い接着層により積層されている。一般にブランケットは、最適な粗さおよび表面エネルギの特性を得るために設計された、薄い上面層20を含む1mm〜3mmの間の厚みの3層〜4層のシステムを用いて圧縮率およびデュロメータに関して最適化されている。画像再作成部24は、独立したドラムもしくはロール、またはシリンダ本体26の周りに巻きつけられた平坦なブランケットの形態をとることができる。別の実施形態では、画像再作成可能部24は、シリンダ本体26を覆って配置される伸縮性のある連続したスリーブである。平坦な刷板、ベルト、ウェブおよびその他の構成(下部のドラム構造により支持されても支持されなくてもよい)も本開示の範囲内である。続く議論のため、画像再作成可能部24はシリンダ本体26により搬送されると仮定するが、上記で議論した通り本開示により多くの異なる構成も予期できることは言うまでもない。
【0014】
画像再作成可能面の層20は、ポリジメチルシロキサン(PDMS、またはより一般的にはシリコンと呼ばれる)等のポリマーから成り、例えばシリコンを補強してそのデュロメータを最適化するためのシリカ等の耐摩耗性充填材を有しており、シリコン材料の硬化および架橋を促進する触媒粒子を含むことができる。あるいは、触媒硬化(白金硬化としても知られる)シリコンとは対照的にシリコン湿気硬化(スズ硬化としても知られる)シリコンを用いることができる。図2Aに戻ると、画像再作成可能面の層20には、非常に効率よくレーザエネルギを吸収する放射線感受性の微粒子材料27が少ない割合で分散して含まれ得る。ある実施形態では、例えば(例えば、平均粒子サイズが10μmより小さい)マイクロスケールの、または(例えば平均粒子サイズが1000nmより小さい)ナノスケールの粒子、あるいはナノチューブの形態をとるカーボンブラックを少ない割合でポリマーに混ぜることにより、放射線感受性を得ることができる。その他のシリコン内に配合可能な放射線感受性材料としては、グラフェン、酸化鉄ナノ粒子、ニッケルメッキを施したナノ粒子等が含まれる。
【0015】
あるいは、図3に示すように画像再作成可能面の層20を着色する、または別の方法で処理して均一に放射線感受性を与えることができる。さらに別の方法では、下記により詳しく説明するが、供給源からの光エネルギに対して画像再作成可能面の層20を実質的に透過性にし、図4に示すように、構造取付け層22がその光エネルギ(例えば層22は、少なくとも部分的に吸収性である構成要素を含む)を吸収できるようにすることができる。
【0016】
インクを均一に(ピンホール、ビーズまたはその他の不都合の無い)画像再作成可能面へ塗布し、続いてインクを離昇させて下地の上に転写させることを促すために、画像再作成可能面の層20は、接触点でインクに対して弱い粘着力を有するが、なおもインクに対して良好な親油性かつ湿潤性を有する必要がある。このような特性を有する材料の一つとしてシリコンがある。あるいは、この特性を提供する、ポリウレタン、フッ化炭素等の特定の混合物等の別の材料を用いることもできる。湿し水(水ベースの噴水液体等)による好適な湿潤性の提供に関して、シリコン面は親水性である必要はなく、実際には疎水性でもよい。というのも、シリコングリコールコポリマー等の湿潤性界面活性剤を湿し水に加えることができ、これにより湿し水がシリコン面を湿らすことができるためである。
【0017】
したがって、水ベースの溶液が本開示の実施形態で用いることができる湿し水の一実施形態である一方で、油をはじき、気化しやすく、分解可能な、あるいは選択的に除去可能等の特徴を有する、小さい表面張力を有するその他の非水性の湿し水を用いることができることは言うまでもない。このようなクラスの液体の一つには、ミネソタ州セントポール所在の3M社により製造されるノベック(Novec)ブランドのエンジニアード・フルード(Engineered Fluid)等のヒドロフルオロエーテル類(HFE)がある。これらの液体には様々な好都合な特性があり、その中には下記の通り、本開示に関連するものもある。:(1)気化熱が水よりも著しく低い、これにより、湿り水を選択的に気化させて潜像画像を形成するために光レーザを用いるとき、所与の印刷速度を得るためにより小さなレーザパワーしか必要としない、または所与のレーザパワーでより速い印刷速度を得ることができる。(2)熱容量がより小さい、これによって上記と同じ効果を得ることができる。(3)気化後、固形残渣がほとんど残らない、これによりクリーニングに関する要求事項を緩和できるおよび/または長期的な安定性の向上を図ることができる。(4)蒸気圧および沸点を操作することができ、これにより、空間を選択して行う強制的な気化処理の安定性を向上させることができる。(5)画像作成部の適切な湿潤性に対して要求される低い表面エネルギを有する。および(6)環境および毒性に関して無害である。追加的な添加物を加えることにより、湿り水の導電率を制御することができる。その他の好適な代替物としては、上記の特性の全てまたはほとんどを有するフロリナートおよびその他の当技術分野で周知の液体を挙げることができる。こういった種類の液体は不希釈の状態だけでなく、水性の溶液または非水性の溶液、あるいは乳液の構成成分としても使用することができることも言うまでもない。
【0018】
また、シリコン内の充填剤ナノ粒子の適切な量、ならびにポリマー鎖の長さおよび末端基キャッピング法(capping chemistries)の異なる配合から成るシリコン材料の正確な化学的性質を制御し規定することにより、シリコンの表面エネルギを最適化して良好な湿潤性を提供することができる。例えば、低密度のシリカ充填剤でスズ触媒された単一構成成分の湿気硬化シリコンは、24〜26ダイン/cmの間の分散表面エネルギを有することが確認されている。マーキング材料の表面張力を著しく抑え、シリコンに対するその表面湿潤性を向上させるために、特定の添加物をマーキング材料に加えることもできる。分散・硬化を容易にするために、これらの添加物にはその他のポリマー基も組み込んだ、既知のコポリマーフルオロまたはシリコン化学的性質に基づくレベリング剤等が含まれ得る。例えば、レベリング剤はインクの表面張力を21ダイン/cmまで抑えることができる。
【0019】
画像再作成可能面の層20としてシリコンを使用した場合、その他の粒子27を層20の中に埋め込んでシリコンの硬化および架橋に対する触媒を促進することができる。
【0020】
ある実施形態によれば、画像再作成可能面の層20の粗さを所望の湿り水層の厚みとほぼ同じ高さにして、効率よく湿り水を溜め、湿り水が所望の非画像作成領域の境界を越えて拡散することを防ぐ。例えば、画像再作成可能面の層20は、計測された表面粗さの特性RSmおよびRを有することができ、それらは下記に規定される。
【数1】
図5Aおよび図5Bを参照すると、RSmはサンプル長L内の形状要素の幅Xの平均値として規定され、Raはサンプル長Lに渡る平均基線測定に対する頂点の平均に関連する。したがって、RSmは、山から山の間隔の特性であり、Raは山の高さの特性である。A〜Lの寸法を有するサンプル領域Aの特性を用いることで、これらの定義を2つの寸法に渡って展開することができる。
【0021】
山と谷を若干不規則に配置して万線スクリーンパターンを有するモアレ干渉の可能性を削減することが望ましい。さらに、山と山の間の空間距離を、最も小さい万線スクリーンのドットサイズより若干小さく、例えば、10μmより小さく、することが望ましい。この粗さにより表面が湿り水を簡単に保持すると同時にモアレ効果を削除することができ、インクをより均一に塗布させ、より効率よく転写させることができる。これに関しては、より詳しく下記に説明する。ある実施形態では、RSmは約20μmより小さく、Raは約4.0μmより小さい。より具体的な実施形態では、RSmは10μmより小さく、Raは0.1μmと4.0μmとの間である。
【0022】
また、画像再作成可能面の層20は、その表面から多孔質の即ち粗さのある紙媒体にインクを均一に転写するために、耐摩耗性を有し、(引っ張られているときでさえ)柔軟性を若干有さなければならない。画像再作成可能面の層20は、適切な弾力性およびデュロメータを実現するために充分な厚みと、異なるレベルの粗さを有する異なる種類の媒体上にインクを被覆するための十分な柔軟性とを持たせて作成することができる。もちろん、様々な種類の媒体へ対応する必要性を省いて、特定の種類の媒体への印刷用にシステムを設計することが可能である。ある実施形態では、画像再作成可能面の層20を形成するシリコン層の厚みは、0.5μmから4mmの範囲内である。
【0023】
最終的には、画像再作成可能面の層20の表面に水滴やディウェッティングがなく、インクがその表面を均一に流れ易くしなければならい。シリコン等の様々な材料を製造し、または凹凸付けして様々な表面エネルギを持たせることができ、添加物を用いてそれらの表面エネルギを調整することができる。画像再作成可能面の層20は、名目上は低い値の動的な化学的粘着力しかないが、インクディウェッティングや水滴の無いインクの十分な湿潤性/親和性を向上させるために十分な表面エネルギを有することができる。
【0024】
図1に戻ると、画像作成部12の周りの第1の位置に配置されているのは、湿り水サブシステム30である。湿り水サブシステム30は、一般に画像再作成可能面の層20の表面に均一な湿潤性を提供するための一連のローラ(水付けユニットと称する)を含む。様々な種類および構成の水付けユニットが存在することは周知である。水付けユニットの目的は、均一で制御可能な厚みを有する湿り水32の層を提供することである。ある実施形態では、この層は0.2μmから1.0μmの範囲の厚みを有し、ピンホールが無く非常に均一である。湿り水32は主に水から成り、随意的に少量のイソプロピルアルコールまたはエタノールを加えて本来の表面張力を抑え、次のレーザパターン形成に必要な気化エネルギを低くする。さらに、理想的には重量換算の割合で少量の好適な界面活性剤を加えて、大量の水付けを、画像再作成可能面の層20へ促す。ある実施形態では、この界面活性剤は、トリシロキサンコポリオール化合物またはジメチコンコポリオール化合物等のシリコングリコールコポリマーファミリーからなり、これらは重量換算の割合で少量加えるだけで均一な拡散および22ダイン/cmより低い表面張力を容易に促す。その他のフルオロ界面活性剤でも表面張力を抑えることができる。随意的に湿り水32に放射線感受性着色剤を含ませてパターン形成工程でレーザエネルギを部分的に吸収させることができるが、これに関しては下記に詳しく説明する。
【0025】
化学的な方法に加え、またはそれに代わって、力学的/電気的な方法を用いて画像再作成可能面の層20上への湿り水32の水付けを促進することができる。一例を挙げると、水付けローラと画像再作成可能面の層20との間に高い電場を印加することにより、静電気の力が働いて均一な湿り水32の膜を画像再作成可能面の層20上に引き寄せる。この電場は、水付けローラと画像再作成可能面の層20との間に電圧を印加することにより、または画像再作成可能面の層20自体に過渡電流を帯電させ電荷を十分に持続させることにより、生成される。湿り水32は導電性であってもよい。したがって、この実施形態では、水付けローラにおよび/または画像再作成可能面の層20の下に絶縁層(図示せず)を加えることができる。静電気の力を用いることで、界面活性剤の量を抑える、または湿り水から取り除くことが可能である。
【0026】
湿り水サブシステム30により、湿り水32を計量し、画像再作成可能面の層20に塗布した後、現場型非接触レーザ光沢センサまたはレーザ・コントラスト・センサ等のセンサ34を用いて、計量された湿り水の厚みを測定することができる。上記のセンサの例としてWenglor Sensors社(オハイオ州ビーバークリーク所在)で販売されているものが挙げられる。これらのセンサを用いて湿り水サブシステム30の制御を自動化することができる。
【0027】
ある実施形態では、正確で均一な量の湿り水を塗布した後、光学パターン形成サブシステム36を用いて、例えば、レーザエネルギを用いて、湿り水層を像様に気化させることにより、選択的に湿り水内に潜像画像を形成する。但しここで、画像再作成可能面の層20は、理想的には、上面28(図2)に可能な限り近づいてほとんどのエネルギを吸収して、空間解像度を維持するために湿り水を加熱する際に浪費される全エネルギを最小にし、水平方向に拡散する熱を抑えなければならない。あるいは、例えば、入射放射線の波長において少なくとも部分的に吸収性のある好適な放射線感受性構成成分を湿り水に加えることにより、あるいは、湿り水により容易に吸収される適切な波長(例えば、水は2.94マイクロメートルの波長の近くにピーク吸収帯を有する)の放射供給源を選択することにより、湿り水の層自体の中の入射放射(レーザ等)エネルギをほとんど吸収することが好ましい。
【0028】
画像再作成可能面にわたって湿り水をパターン形成するためにエネルギを供給する様々なシステムおよび方法が存在し、本明細書で開示し、権利を請求した種々のシステム構成要素と共に、これらのシステムおよび方法を用いることができる。しかしながら、本開示は特定のパターン形成システムおよび方法によって制限されないことは言うまでもない。
【0029】
図6を参照すると、画像再作成可能面の層20上に塗布された湿り水の層32を有する画像再作成可能部24の領域の拡大図であり、光学パターン形成サブシステム36からの光学パターン形成エネルギ(例えば光線B)の照射により、湿り水の層32の部分が選択的に気化されている様子が示されている。気化した湿り水は、システム10の周囲の雰囲気の一部となる。これにより画像再作成可能面の層20上に湿り水領域38およびインクを受ける間隙40のパターンが形成される。画像作成部12と光学パターン形成サブシステム36との間の相対運動(例えば矢印Aの方向への)により、湿り水の層32のパターン形成が処理方向に向って進むことができる。
【0030】
図1に戻ると、湿り水の層32のパターニング形成後、一連のインク塗布サブシステム46a、46b、46c、46dのうちの1つを用いて、湿り水の層32および画像再作成可能面の層20の上に均一なインクの層48(図6に示す)を塗布する。本明細書で開示された実施形態では、インク以外のマーキング材料(非水性マーキング材料、仕上げ剤、表面処理剤等)を可視か否かに関わらず使用することができることは言うまでもない。したがって、「マーキング材料塗布器」の方がより一般的かつ包括的であるかもしれないが、続く説明では参照し易いように「インク塗布」サブシステムという用語を用いる。4個のインク塗布サブシステムを図1に示す。これらのサブシステムはそれぞれ、シアン、マゼンタ、イエロー、およびブラックのカラーシステム等の色の構成要素に対応する。あるいは、システム10は、別のカラーシステム、印刷効果等に合わせて、インク塗布サブシステムを適切に追加することも、または減らすこともできる。このようにインク塗布サブシステムを追加または減らすことは、本開示から当業者なら容易に理解することができる。ここでは例示のために、各インク塗布サブシステムは異なる色のインクを塗布すると仮定するが、様々な形態が考えられ、これにより各インク塗布サブシステムは(単に)色だけでなく異なるマーキング材料を塗布することができる。例えば、このような2つのインク塗布サブシステム間で、一方のサブシステムではある色を平面仕上げで塗布でき、もう一方のサブシステムではその同一の色を反射仕上げで塗布することができる(場合によっては、2つのサブシステムの間で異なるパターンも可能である)。一方で標準のインクを塗布し、もう一方で磁気的に読取可能なインクを塗布することもできる。同様に一方で標準のインクを塗布し、もう一方で均一な表面仕上げ被覆を塗布すること等も可能である。したがって、本明細書で開示および権利を請求される方法およびシステムの範囲は、塗布される実際の材料によって本質的に制限されない。
【0031】
随意的に、画像再作成可能面の層20にエアーナイフ44を噴射することができる。クリーンで乾燥した空気の供給および空気温度の制御を維持し、埃による汚染を抑えるために、エアーナイフ44により、インク塗布サブシステムの手前で表面層上の空気の流れを制御することができる。
【0032】
各インク塗布サブシステム46a、46b、46c、46dは、アニロックスローラを用いて1つ以上の形成ローラ上に塗布されるオフセットインクを計量する「キーの必要ない」システムを含むことができる。あるいは、各インク塗布サブシステム46a、46b、46c、46dは、電気機械のキーを用いて正確なインクの供給量を決定する一連の形成ローラを有する従来の構成部品で構成されることもできる。インク塗布サブシステムのアーキテクチャの一般的な態様は、本開示の用途に依存し、当業者には容易に理解することができる。
【0033】
各インク塗布サブシステム46a、46b、46c、46dを作動させて画像再作成可能面20と係合・分離させることができる。係合とは、インク塗布サブシステムまたはその構成部品が、画像再作成可能面に近接して、それにより運ばれてきた材料を画像再作成可能面上に転写させるようにすることを意味する。これには、この2つの間に物理的接触があることも、または物理的接触がないことも意味することができ、それは多くの要因による。同様に分離とは、運ばれてきた材料が簡単にインク塗布サブシステムから転写画像再作成可能面に転写されない場所に、インク塗布サブシステムまたはその構成部品を配置させることを意味する。図1に示す実施形態では、各インク塗布サブシステムを、画像作成部12に対して略放射状のトラックまたは接極子と見なすことができる。インク塗布サブシステムと画像再作成可能面20との係合・分離に関して、その他にも多くの実施形態があり、それらもまた本開示の範囲内である。そのような1つの代替的な実施形態50を図8に示す。この実施形態50はインク塗布サブシステム52を含み、このインク塗布サブシステムが、回転可能に配置された計量(形成)ローラ54を含み、アニロックスローラ56からインクを受け、インクを画像作成部12の画像再作成可能面20へ選択的に転写する。形成ローラ54の表面が画像再作成可能面20と係合しないように、形成ローラ54は、第1のポジション54aで中心軸の周りを回転する。形成ローラ54の表面が画像再作成可能面20と係合するように、形成ローラ54の回転の中心をアニロックスローラ56の中心56aの周りを回転して第2のポジション54bに移動させることができる。このように、形成ローラ54が画像再作成可能面20と係合するときは、タンク58からのインクが画像再作成可能面20に塗布され、形成ローラ54が画像再作成可能面20から分離されるときは、タンク58からのインクが画像再作成可能面20に塗布されない。
【0034】
図6に戻ると、インク塗布サブシステム46からのインクが最初に画像再作成可能面の層20上を湿らすために、このインクは、画像再作成可能面の層20の照射された部分(インクを受ける湿り水間隙40)に分離して塗布されるのに十分な低い凝集エネルギ、および湿り水領域38ではじかれるための十分な疎水性を備えなければならない。湿り水の粘性は弱く、油分をはじくため、非常に低い動的な凝集エネルギを有する湿り水の層の中では分離が自然に発生する。このため湿り水で覆われた領域は全てのインクをはじく。湿り水の無い領域では、インク間の凝集力がインクと画像再作成可能面の層20との間の粘着力よりもかなり低い場合、形成ローラのニップの出口においてインクがこれらの領域の間で分離する。したがって間隙40を効率よく満たし、画像再作成可能面の層20に効率よく粘着するために、使用されるインクの粘性は、比較的低くなければならない。例えば、別の既知のUVインクが用いられ、画像再作成可能面の層20がシリコンから成る場合、インクの粘性および粘弾性を少し変更して凝集性を下げる必要がある可能性があり、これによりシリコンを湿らせることができる。低い分子量のモノマーを少ない割合で加えることで、または低い粘性を有するオリゴマーをインク配合に用いることで、このレオロジーの修正を実現できる。さらに、シリコンの表面を効率よく湿らせるようインクの表面張力を下げるために湿潤剤およびレベリング剤をインクに加えることもできる。
【0035】
このレオロジーに関する配慮に加え、湿り水領域38によりはじかれるように、インクの組成が疎水性の特性を維持することも重要である。これは、疎水性および無極性の化学基(分子)を有するオフセットインクの樹脂および溶剤を選択することにより維持することができる。湿り水が層20を覆うと、インクは拡散することができず、乳化して湿り水の中に素早く溶け込み、湿り水がインクより非常に低い粘性を有するため、湿り水の層全体に膜の分離が起こり、これによりインクをはじき全てのインクが十分な量の湿り水で覆われた層20の領域に粘着することを防ぐ。一般に、層20を覆う湿り水の厚みは、0.1μm〜4.0μmの間であり、ある実施形態では表面凹凸の正確な性質により0.2μm〜2.0μmである。
【0036】
特定の実施形態では、図7に示すような形成ローラ60を有する計量ローラ62を用いることができる。分配ローラを用いたローラシステムを通してインクの供給量を調整し、供給ローラおよび形成ローラ60と形成ローラ62との間の圧力を調整し、インクキーを用いてインクトレイからの流出を調整することで、アニロックスローラ等の元ローラからのローラ60および随意的なローラ62を覆うインクの厚みを制御することができる。理想的には、ローラ60、62に塗布されるインクの厚みは、膜の分離が起こるため、画像再作成可能層20に転写される所望の最終的な厚みの少なくとも2倍でなければならない。インクを運ぶための均一に形成された穴を有するアニロックスローラを使用し、温度を維持して所望のインク粘性を実現することにより、インクの膜全般の厚みを制御することができるキーの必要ないシステムを使用することも可能である。一般に、最終的な膜厚は、おおよそ1〜2μmでよい。
【0037】
理想的には、最適化されたインクシステムは約50:50の割合でインクを分離し画像再作成可能面に塗布する(即ちパスごとに50%がインク形成ローラに残り、50%が画像再作成可能面に転写される)。しかし、分離する割合をうまく制御できれば、それ以外の割合で分離することも可能である。例えば、70:30の割合で分離するために、画像再作成可能面の層20の上のインク層は、形成ローラの外周面に存在するときその名目上の厚みの30%となる。インク層の厚みを抑えることにより、さらに分離する能力が低下することは周知である。このように厚みを抑えることにより、残余バックグランドインクを残して、インクを画像再作成可能面から非常にきれいにはがすことができる。しかし、このインクの凝集力または内部結合は、重要な役割も果たす。
【0038】
図1に戻ると、第1のインク塗布サブシステムにより供給された第1の色のインクがその上に提供された湿し水の層の中の間隙の領域内の画像再作成可能面に塗布され、それにより第1の色のインクの潜像画像が形成されるように、サブシステム46a等の第1のインク塗布サブシステムが画像再作成可能面20と係合している。次に、第1の色のインクの潜像画像は、例えば、画像作成部12と圧力ローラ18との間のニップ16に下地14を通過させることにより、下地14に転写される。間隙40(図8)内のインクが下地14と物理的に接触するように、画像作成部12と圧力ローラ18との間に十分な圧力がかけられる。インクの下地14への粘着性および強力な内部凝集性により、インクは画像再作成可能面の層20から分離し下地14に粘着する。圧力ローラまたはその他のニップ16の構成要素を冷却してインクの潜像画像の下地14への転写をさらに向上させることができる。実際は、下地14自体を画像作成部12上のインクよりも比較的低い温度に維持して、または局部的に冷却して、インク転写処理を補助することができる。転写(質量で計測して)95%より高い効率でインクを画像再作成可能面の層20から転写することができ、システムを最適化すれば、99%を超える効率で転写することも可能である。
【0039】
それぞれが1色のインクの潜像画像を塗布する連続したパスごとに、下地14がニップ16を容易に再通過するように、下地14をシステム内のある場所に保持することができる。より具体的には、ニップ16の後の画像再作成可能面20上に残る全ての残余インクおよび残余湿り水を、好ましくは表面を傷つけるまたは削ることなしに、取り除かなければならない。大半の湿り水は、十分な空気流を噴射するエアーナイフ70を用いることにより、容易に且つ迅速に取り除くことができる。クリーニングサブシステム72により、残余インクを取り除くことができる。上記の湿し水の塗布および湿し水のパターン形成が繰り返される。これにより、湿し水の層の中に新しいパターンが形成される。インク塗布サブシステム46aは画像再作成可能面20から分離し、インク塗布サブシステム46bが移動して画像再作成可能面20と係合する。これにより、インク画像再作成可能面20上のパターン形成された湿し水の層に第2の色が塗布されて、第2の色のインクの潜像画像が形成されることができる。例えば、下地14を画像作成部12と圧力ローラ18との間のニップ16に通過させることにより、この第2の色のインクの潜像画像が下地14に転写される。第2の色のインクの潜像画像を受け取る下地14の位置合わせには様々な方法があるが、そのうちの1つを用いて(この方法の説明は本開示の範囲外である)、2つの潜像画像の位置合わせを確保する。この処理をインク塗布サブシステム46cおよび46dに関しても同様に繰り返す。
【0040】
油汚れ、色汚れ、転写された色が下地から画像作成部に戻ること等を防ぐ手助けをするため、ある色のインクの付いた潜像画像が下地へ転写された後、その画像を部分的に硬化させることができる。この部分的硬化は、下地の裏側または表側(あるいは両側)から、UV照射、熱、または使用する特定のインクおよび下地に対して適切なその他の供給源74を照射することにより行うことができる。さらに、UV、熱、またはその他の供給源76等により、下地14へ転写する前に、画像再作成可能面20上でインクを部分的に硬化させることができる。
【0041】
例示の実施形態では、ニップ16を介するそれぞれのパスのために、下地14は圧力ローラ18の表面上に保持される。画像作成部12の回転と圧力ローラ18の回転は、同期して前述した位置合わせを確保する。下地14は、n回転(例えば、nはインク塗布サブシステムの数)し、次いで圧力ローラ18から離れる。図9に示す別の実施形態80によれば、各色の潜像画像を直接下地14に転写する代わりに、連続してベルト82に塗布する(ウェブ、刷板またはその他の中間部材を同様に用いることができる)。
【0042】
インクパターンを画像作成部から下地に間接的に転写する別の方法もこの開示により予期される。例えば、図9を参照すると、本開示の別の実施形態80は、質量の少ない、比較的柔軟性を有するベルト、即ちウェブ画像受取り部82を含み、このウェブ画像受取り部82はその上に画像再作成可能面を有する。上記の実施形態と同様に、水付けシステム84が湿し水の層86を画像受取り部82の表面上に塗布する。種々の方法およびシステムのうちの1つを用いて、湿し水の層の均一で所望される厚みを確保する。走査および変調レーザ供給源等のパターン形成サブシステム88により湿し水の層にパターン形成する。複数のインク塗布サブシステム90a、90b、90c、90d等を画像作成部82の画像再作成可能面に接触させないで近接して配置させる。画像作成部82は、ある程度の柔軟性を有する。複数の係合機構91a、91b、91c、91d等を、インク塗布サブシステム90a、90b、90c、90d等の反対側に配置させ、その間に画像作成部82を配置させる。画像作成部82を屈曲させてインク塗布サブシステム90a、90b、90c、90d等のうちの対応するサブシステムと係合させるために、各係合機構91a、91b、91c、91d等は単独で移動可能であり、これによりインクは画像作成部82の上に塗布される。したがって、例えば図示されているように、係合機構91aは画像作成部82を屈曲させてインク塗布サブシステム90aに係合させて、第1の色または配合のインクを画像作成部82の画像再作成可能面上に塗布することができる。上記で説明した通り、このインクは、パターン形成サブシステム88により形成された間隙へ優先的に堆積して色の付いたインクの潜像画像を画像作成部82の表面上に形成する。
【0043】
例えば、画像作成部82と圧力ローラ96との間のニップ94に下地92を通過させることにより、色の付いたインクの潜像画像は下地92に転写される。画像最適化のその他の局面を部分的に硬化させ、画像の塗布に関する一連のパスのために下地92をある場所に保持することが可能である。
【0044】
ニップ94を通過後、画像作成部82の画像再作成可能面上に残る全ての残余インクおよび残余湿り水は、クリーニングサブシステム100(またはその他の好適なクリーニング方法およびサブシステム)と組み合わせたエアーナイフ98を用いて取り除かれる。前述した通り、湿し水の塗布および湿し水のパターン形成は繰り返される。これにより、湿し水の層の中に新しいパターンが形成される。係合部91aは引っ込み、係合部91bが画像作成部82の画像再作成可能面を屈曲させてインク塗布サブシステム90bと係合させるために起動する。これにより、インク塗布サブシステム90bにより、画像作成部82の画像再作成可能面上のパターン形成された湿し水の層に第2の色インクを塗布して、第2の色のインクの付いた潜像画像を形成することができる。この第2の色のインクの潜像画像が下地92に転写される。同様に、この処理はインク塗布サブシステム90cおよび90dに関しても繰り返される。
【0045】
前述の実施形態では、主に複数のパスによる印刷が行われる。これにより、パターン形成された中間転写部に複数の色が連続して塗布され、下地に色の付いたパターンが転写され、そして中間転写部がクリーニングされる。一方で特定の実施形態では、個々の色画像を直接下地に連続して転写することが望まれる。このようなケースとは、例えば、下地が連続している、または圧力ローラの外周よりも長い場合であり、下地を保持しその下地を何度もニップに通すことはあまり実用的ではない。
【0046】
図10を参照すると、直接下地に印刷を行う多色可変データ平版印刷に関する直列構造の実施形態110が示されている。実施形態110によれば、複数の画像作成部112a、112b、112c、112d等が、それらの画像作成部に近接して移動する下地116に係合するよう構成されており、これらの画像作成部はそれぞれ、例えば、異なる色のインク塗布サブシステム114a、114b、114c、114d等を含む。基本的には上記で議論したが、各画像作成部112a、112b、112c、112dは、それらの上に画像再作成可能層を含んで、湿し水サブシステム118a、118b、118c、118d等からそれぞれ湿し水を受け取る。各画像再作成可能面の上の湿し水の層は、パターン形成サブシステム120a、120b、120c、120d等によりそれぞれパターン形成される。各インク塗布サブシステム114a、114b、114c、114d等では、一意のインク材料(例えば異なる色、異なるインク組成、異なる不透明性等)を、パターン形成された湿し水層の上に塗布して、一意の潜像画像をそれぞれ画像作成部112a、112b、112c、112d等の上に形成する。一意の潜像画像はそれぞれニップ122a、122b、122c、122d等で連続して下地116に転写される。次いで各画像再作成可能面を、クリーニングサブシステム124a、124b、124c、124d等でクリーニングすることができる。各画像作成部112a、112b、112c、112d等がそれらの潜像画像を下地116に転写した後、随意的に硬化サブシステム126a、126b、126c等(UV硬化インクに関してはUV硬化)により、下地116上の画像を少なくとも部分的に硬化させることができる。最後のインクを塗布した後に、完全UV硬化(またはその他の材料処理)サブシステム128を設けることもできる。
【0047】
このような実施形態では、各画像作成部が画像再作成可能な下地を含み、この画像再作成可能な下地の上に、パターン形成されてインクが塗布された独自の湿し水の層が設けられることが前提となっているが、特定の実施形態では、画像作成部のうちの一つ以上が恒久的な画像パターンを運ぶことができ、この恒久的な画像パターンにインクが付けられ、画像作成部の画像再作成可能面からの画像と共に中間または最終下地に転写される。このように、可変印刷要素および非可変印刷要素とを下地に印刷する前に組み合わせることができる、または下地に印刷するときに組み合わせることができる。
【0048】
オフセットシリンダやブランケットシリンダを用いない単一の画像作成シリンダを有するシステムを本明細書で記述し説明してきた。画像再作成可能面の層は、高圧の圧力シリンダを介して印刷媒体の粗さに適合する材料から作られているが、大量印刷に必要な良好な引張強度を維持している。従来、この大量印刷は、オフセット印刷システム内のオフセットシリンダやブランケットシリンダの役割である。しかし、オフセットローラを用いるということは、付加的な部品の保守および修理/部品交換の問題、生産コストの増加、ドラム(あるいはベルト、プレート等)の回転運動を維持するための付加的なエネルギ消費を伴う、より大型のシステムを示唆する。したがって、本開示によって完全な印刷システム内でオフセットシリンダを使用できることが予期されるが、そのようなことは必要ない。その代わりにむしろ、画像再作成可能面の層を直接下地に接触させて画像再作成可能面の層から下地へのインク画像の転写を行う。これにより、部品コスト、修理/部品交換のコスト、および必要な運転エネルギを全て抑えることができる。
【0049】
第一の層が第二の層または下地「上に」または「の上に」あると言うときは、第一の層が直接第二の層または下地に直接接しているか、あるいは第一の層と第二の層または下地との間に設置可能な仲介層(1または複数)に直接接していることを意味することは言うまでもない。さらに、第一の層が第二の層または下地「上に」または「の上に」あると言うときは、第一の層は第二の層もしくは下地の全体、または第二の層もしくは下地の一部を覆うことができる。
【0050】
本明細書で説明した方法に従って動作するとき、本明細書に記載した発明によって、高いインク転写効率の基準に一致する、画像作成部から下地へのインク転写効率は、例えば95%よりも高く、場合によっては99%を超える。また本開示は、印刷シリンダの機能をオフセットシリンダの機能と組合せることを教示する。その中で、高圧の圧力シリンダを介してプリント媒体の粗さに適合させることができる材料から再書込み可能な画像作成面を作ることができ、その画像作成面は、大量の印刷に必要な良好な引張強度を維持する。したがって、ここで開示したシステムおよび方法には、典型的なオフセット印刷システムと比較して高い慣性のドラム(high inertia drum)の構成要素の数を減らすことができるという付加的な長所がある。あらゆる数のオフセットインクの種類を用いて、開示されたシステムおよび方法を実行することができるが、特にUV平版印刷インクに関して実用性がある。
【0051】
現代の装置およびその製造方法に関する物理学は絶対的なものではく、むしろ所望の装置および/または結果を産み出すための統計的な取り組みである。処理の再現性、製造設備の清潔性、出発材料および処理材料の純度等に最大限の注意を払ったとしても変形や不具合が発生する。したがって、本開示の記載またはその請求項の中の制限は、絶対的なものとして読み取ることはできない、または読み取るべきでない。請求項の制限は、それらの制限まで、およびそれらの制限を含む本開示の境界を規定することを意図しない。このことをさらに強調するために、「実質的に」という用語を本明細書で、請求項の制限と関連して、折に触れて使用することができる(変形や不具合に対する配慮は、その用語と共に使用するその制限にのみ限定されないが)。本開示の制限として、これら自体を正確に規定することは難しいが、「かなりの程度まで」、「ほとんど実用的な」、「技術的制限内で」等としてこの用語が解釈されることを意図する。
【0052】
さらに、上記の詳細な説明では好ましい例示的な実施形態が複数提示されているが、膨大な数の変更例が存在し、これらの好ましい例示的な実施形態は、単にそれらの代表例として示されたもので、決して本開示の範囲、適用性または構成を限定することを意図しないことは言うまでもない。上記で開示されたおよびその他の特性および機能またはその代替物は、望ましくは、別の様々なシステムまたは用途に組み込むことができる。現時点で予見または予測できない種々の、その中のもしくはそれに対する代替物、修正物、変更物、または改良物は、当業者により今後実行可能であり、それらもまた以下の請求項に包含されることを意図する。
【0053】
したがって、上記の説明が当業者に本開示の実行に対して有益な指針を提供し、それらに対する請求項により規定された本開示の趣旨および範囲を逸脱することなく、上記に記載した実施形態の機能および構成の種々の変更を実行可能なことが予期される。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10