(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
面状に広がりを有する基材上に、第1電極層、有機発光層、及び第2電極層がこの順に積層された積層体を備え、少なくとも一方の面が発光面となる有機ELパネルであって、
発光面には発光領域があり、
発光面とは反対側の面の一部には、均熱シートが設置されており、
発光領域内には、発光面とは反対側の面である背面側に前記均熱シートが設置された領域である均熱領域と、当該均熱領域を囲む非均熱領域があり、
非均熱領域の一部であって、均熱領域と非均熱領域との境界線に沿う境界領域を想定した場合に、発光領域の発光時において当該境界領域内の温度分布が不均一であり、
発光領域の発光時において、発光領域内に前記均熱シートの形状を表示可能であることを特徴とする有機ELパネル。
発光領域内において、発光領域の重心を中心として1/2の尺度で縮小した相似形状からなる相似領域を想定した場合に、前記均熱領域の一部が相似領域と重なっていることを特徴とする請求項1に記載の有機ELパネル。
均熱シートと第2電極層との間に、発光領域全域に亘る封止層を含み、この封止層が、少なくとも厚みが1μm以上の無機封止層を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の有機ELパネル。
さらに、無機封止層と均熱シートとの間の発光領域全域を含む領域に、厚みが2μm以上、1000μm以下の軟質樹脂層を含むことを特徴とする請求項3又は4に記載の有機ELパネル。
所望形状の図形からなる均熱シートを用いて、請求項1乃至9のいずれかに記載の有機ELパネルの発光領域に当該均熱シートの形状を表示させることを特徴とする図形の表示方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の技術は輝度ムラを解消することを前提にしたものであり、所望形状をより鮮明に表示するための方策については検討されていない。そこで本発明は、有機ELパネルにおいて、発光領域に所望形状を表示させる際に、当該形状をより鮮明に表示させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、面状に広がりを有する基材上に、第1電極層、有機発光層、及び第2電極層がこの順に積層された積層体を備え、少なくとも一方の面が発光面となる有機ELパネルであって、発光面には発光領域があり、発光面とは反対側の面の一部には、均熱シートが設置されており、発光領域内には、
発光面とは反対側の面である背面側に前記均熱シートが設置された領域である均熱領域と、当該均熱領域を囲む非均熱領域があり、非均熱領域の一部であって、均熱領域と非均熱領域との境界線に沿う境界領域を想定した場合に、発光領域の発光時において当該境界領域内の温度分布が不均一であり、発光領域の発光時において、発光領域内に前記均熱シートの形状を表示可能であることを特徴とする有機ELパネルである。
【0009】
本発明の有機ELパネルは、発光面の反対側の面に均熱シートを有しており、当該均熱シートの形状を発光領域に表示可能なものである。本発明の有機ELパネルでは、発光領域内に、均熱シートが設置された領域に対応する「均熱領域」と、当該均熱領域を囲む「非均熱領域」とがある。そして、発光領域の発光時において、非均熱領域の一部であって均熱領域と非均熱領域との境界線に沿う「境界領域」内の温度分布が不均一である。本発明の有機ELパネルでは、上記境界領域の温度分布が不均一であるので、上記境界線に着目したとき、境界線の内外(均熱領域側と境界領域側)の温度差が大きくなる部分が多い。そのため、境界線の内外における輝度差を出しやすい。本発明の有機ELパネルによれば、境界線を明確に認識でき、均熱領域の形状(すなわち、均熱シートの形状)がより鮮明に表示される。
【0010】
上記均熱領域は、別の表現をすれば、発光面側から発光領域を透視した場合において、均熱シートの形状と重なる発光領域上の領域である。基本的に、均熱領域の形状は均熱シートの形状と同じである。
【0011】
請求項2に記載の発明は、発光領域内において、発光領域の重心を中心として1/2の尺度で縮小した相似形状からなる相似領域を想定した場合に、前記均熱領域の一部が相似領域と重なっていることを特徴とする請求項1に記載の有機ELパネルである。
【0012】
本発明の有機ELパネルは、発光領域の重心を中心として1/2の尺度で縮小した相似形状からなる「相似領域」に、均熱領域の一部が重なっている。換言すれば、均熱領域が相似領域と相似領域以外の領域とに跨るように、均熱シートが設置されている。本発明は、特に、発光領域の中央部分と周縁部分との間に温度差が生じる有機ELパネルにおいて、所望形状を表示させるのに有用である。
【0013】
請求項1又は2に記載の有機ELパネルにおいて、均熱シートと第2電極層との間に、発光領域全域に亘る封止層を含み、この封止層が、少なくとも厚みが1μm以上の無機封止層を含む構成が好ましい(請求項3)。
【0014】
請求項3に記載の有機ELパネルにおいて、さらに、均熱シート
における前記発光面側とは反対側の面に、Si、O、及びN原子を含む堆積膜を水蒸気バリア層として含む樹脂フィルム防湿部材を備えた構成が好ましい(請求項4)。
【0015】
請求項3又は4に記載の有機ELパネルにおいて、さらに、無機封止層と均熱シートとの間の発光領域全域を含む領域に、厚みが2μm以上、1000μm以下の軟質樹脂層を含む構成が好ましい(請求項5)。
【0016】
請求項1乃至5のいずれかに記載の有機ELパネルにおいて、均熱シートは、金属又はグラファイトからなる構成が好ましい(請求項6)。
【0017】
請求項1乃至6のいずれかに記載の有機ELパネルにおいて、均熱領域の面積は、発光領域の面積の5〜50%である構成が好ましい(請求項7)。
【0018】
請求項1乃至7のいずれかに記載の有機ELパネルにおいて、基材側の面が発光面であり、均熱シートは第2電極層側の面に設置されている構成が好ましい(請求項8)。
【0019】
請求項9に記載の発明は、均熱シートの形状は、多角形、円形、文字図形、又は模様状図形であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の有機ELパネルである。
【0020】
かかる構成により、より意匠性に優れた発光パターンを実現することができる。
【0021】
請求項10に記載の発明は、所望形状の図形からなる均熱シートを用いて、請求項1乃至9のいずれかに記載の有機ELパネルの発光領域に当該均熱シートの形状を表示させることを特徴とする図形の表示方法である。
【0022】
本発明は図形の表示方法に係るものであり、所望形状の図形からなる均熱シートを用いて、上記した有機ELパネルの発光領域に当該均熱シートの形状を表示させるものである。本発明によれば、有機ELパネルの発光領域に、所望形状を鮮明に表示することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の有機ELパネルによれば、発光面に所望形状を表示する際に、当該形状をより鮮明に表示させることができる。
【0024】
本発明の図形の表示方法についても同様であり、有機ELパネルの発光面に、所望形状をより鮮明に表示させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、発明の理解を容易にするために、各図面において、各部材の大きさや厚み等については一部誇張して描かれており、実際の大きさや比率等とは必ずしも一致しないことがある。さらに、本発明が以下の実施形態に限定されないことは当然である。
有機ELパネルを見る方向については、有機ELパネルの発光面がある面を正面とする。
【0027】
本発明の一実施形態に係る有機ELパネル1は、いわゆるボトムエミッション方式のものである。有機ELパネル1の積層構造は
図1に示すとおりであり、面状に広がりを有する透明性の基板(基材)3の上に、透明電極層である第1電極層(陽極)4、有機発光層5、及び第2電極層(陰極)6がこの順に積層され、これらが封止層7で封止された構造を有している。有機ELパネル1においては、基板3における第1電極層とは反対側の面が発光面8となる(ボトムエミッション方式)。なお、第1電極層4、有機発光層5、及び第2電極層6によって、有機EL素子2が構成されている。
基板3、第1電極層4、有機発光層5、第2電極層6、及び封止層7の素材等については後述する。
【0028】
有機ELパネル1の全体形状は、正面視が長方形状の薄い板状である。有機ELパネル1における対向する2つの側面には、第1電極層4と第2電極層6に給電するための端子(図示せず)が設けられている。
【0029】
そして
図2に示すように、有機ELパネル1には均熱シート10が設置されている。均熱シート10は、有機ELパネル1における発光面8(正面)とは反対側の面である背面12上に設置されている。背面12は封止層7で構成されているから、均熱シート10は封止層7の上に設置されていることになる。
【0030】
均熱シート10は、金属やグラファイト等の高熱伝導性素材からなる薄いシート材である。均熱シート10は意匠性を考慮した形状を有しており、本実施形態では
図3に示すような星型の形状を有している。均熱シート10は、背面12(封止層7)の一部を覆うように設けられており、背面12に面接触している。均熱シート10の配置についてみると、均熱シート10は背面12の中央から外れた位置に配置されており、より詳細には、中央から端部に渡るように配置されている。
均熱シート10が面接触している領域は、温度のバラツキが抑えられ、温度分布が均一化される。
【0031】
有機ELパネル1を正面側から見ると、発光面8がある。そして発光面8には、発光領域15がある。発光領域15は、発光面8において背後に有機発光層5が存在する領域であり、発光面8の略全域を占めている。本実施形態において、発光領域15は長方形状である。
【0032】
図4は発光領域15を表す正面図である。ここで
図4に示すように、発光領域15内には、均熱領域16と非均熱領域17とがある。
均熱領域16は、背後に均熱シート10が設置された領域である。より詳細には、発光領域15を正面(発光面8側)から透視した場合において、背面12に設置された均熱シート10の形状と重なる星型の領域である。
図4の破線で示すように、均熱シート10の形状と均熱領域16の形状は、基本的に一致する。
【0033】
一方、非均熱領域17は、均熱領域16に隣接しており、均熱領域16を囲んで存在している。本実施形態において、非均熱領域17は、均熱シート10が設置されていない領域であり、すなわち発光領域15における均熱領域16以外の領域である。ただし、均熱シート10が設置されていない領域であっても、他の手法によって実質的に均熱処理がされている領域は、非均熱領域17から除外され得る。
【0034】
また
図4に示すように、発光領域15内において、相似領域22を想定することができる。相似領域22は
図4の一点鎖線で囲んだ領域であり、発光領域15(長方形)の重心21(長方形の対角線の交点)を中心として1/2の尺度で縮小した相似形状からなる領域である。当然ながら、本実施形態では相似領域22も長方形状である。
【0035】
なお、発光領域15の形状が長方形状以外の場合における相似領域22の例を、
図5に示す。
図5(a)は発光領域15の形状が楕円形の場合、
図5(b)は平行四辺形の場合である。いずれの場合も、相似領域22は、発光領域15の重心(楕円形の場合は長軸と短軸の交点、平行四辺形の場合は対角線の交点)を中心として1/2の尺度で縮小した相似形状から成っている。
【0036】
本実施形態の有機ELパネル1は、発光領域15の中央部分の温度がより高く、周辺部分の温度がより低くなる様式の温度分布を示すものである。したがって、有機ELパネル1の発光時において、相似領域22の温度は、それ以外の領域(周辺領域)の温度よりも高くなる。
【0037】
また均熱領域16の周縁近傍の領域として、境界領域20を想定することができる。境界領域20は、非均熱領域17に属する領域であって、均熱領域16と非均熱領域17との境界線18に沿う領域である。例えば、
図6に示すように、均熱領域16の重心を中心として1.2倍〜1.5倍程度の尺度で拡大した拡大形状23を想定したとき、均熱領域16の周縁と拡大形状23の周縁とで挟まれた領域(
図6のハッチング部分)である。
【0038】
本実施形態では、発光領域15の発光時において、境界領域20内の温度分布が不均一である。ここで「温度が不均一」とは、概ね、境界領域20内での、最高温度が最低温度より5℃以上高く、かつ、温度勾配が10℃/cm以上大きい程度の不均一さを指す。
【0039】
図4に示すように、本実施形態では、均熱領域16の一部が相似領域22と重なるように均熱シート10の位置が設定されている。換言すれば、均熱領域16が、相似領域22と相似領域22以外の領域とに跨っている。
【0040】
本実施形態において、均熱シート10の面積は、発光領域の一部を覆うものであれば特に限定はないが、例えば発光領域15の面積の5〜50%の範囲とすることができる。
【0041】
続いて、有機ELパネル1の作用について説明する。
有機ELパネル1を発光させる際には、有機ELパネル1の対向する2つの側面に設けられた端子を介して、第1電極層4と第2電極層6との間に電圧を印加する。これにより有機発光層5が発光し、第1電極層4と基板3を介して光が外部に取り出され、発光面8の発光領域15が発光する。このとき、
図7(a)から
図7(b)に示す状態に変化し、発光領域15内に、均熱領域16の星型の形状(すなわち均熱シート10の形状)からなる図形26が明瞭に表示される。
【0042】
ここで、発光時における各領域の温度と輝度について説明する。
本実施形態では、均熱シート10を背面12に設置しているので、均熱領域16内の温度が均一化されている。したがって、均熱領域16の輝度が均一化されている。
【0043】
本実施形態では、境界領域20内の温度分布が不均一であるから、境界線18に着目したとき、境界線18の内外(均熱領域16側と境界領域20側)の温度差が大きくなる部分が多い。そのため、境界線18の内外における輝度差を出しやすい。そのため、境界線18を明確に認識でき、均熱領域16の形状(すなわち、均熱シート10の形状)がより鮮明に表示される。
【0044】
また前述のように、本実施形態の有機ELパネル1は、発光領域15の中央部分の温度がより高く、周辺部分の温度がより低くなる様式の温度分布を示すものである。したがって、発光領域15の中央部分の輝度がより高く、周辺部分の輝度がより小さくなる。結果として、相似領域22の輝度は、それ以外の領域の輝度よりも大きくなる。
そして本実施形態では、均熱領域16が、相似領域22とそれ以外の領域に跨っている。
【0045】
ここで、均熱領域16と相似領域22とが重なる部分については、相似領域22の輝度が均熱領域16の輝度よりも大きいので、均熱領域16が暗部として認識される。一方、均熱領域16の相似領域22以外の領域と重なる部分については、相似領域22以外の領域の輝度が均熱領域16の輝度よりも小さいので、均熱領域16が明部として認識される。
本実施形態では、均熱領域16が相似領域22とそれ以外の領域に跨っているので、均熱領域16の形状(すなわち、均熱シート10の形状)が、明部と暗部の組み合わせで表示される。その結果、均熱領域16の形状がより鮮明に表示される。
【0046】
本実施形態では均熱シート10の形状が星型であるが、他の形状でもよい。例えば、多角形でもよいし、円形でもよい。さらに、文字図形(抜き文字等)や模様を表した形状(模様状図形)でもよい。
【0047】
本実施形態では均熱シート10を1枚設置しているが、複数枚を設置してもよい。
【0048】
上記した実施形態では、有機ELパネル1が長方形状であるが、他の形状でもよい。例えば、三角形や五角形等の多角形でもよい。また、菱形や台形でもよい。さらに、円形(楕円を含む)でもよい。発光面8と発光領域15の形状についても同様であり、長方形状以外の形状でもよい。
【0049】
上記した実施形態では、ボトムエミッション方式の有機ELパネル1を採用しているが、トップエミッション方式の有機ELパネルであってもよい。
【0050】
本発明は、アクティブマトリクス方式とパッシブマトリクス方式のいずれの有機ELパネルにも適用できる。
【0051】
最後に、基板(基材)3、第1電極層4、有機発光層5、第2電極層6、及び封止層7を構成する素材等について説明する。
【0052】
基板3は透光性を有するものであり、フレキシブル基板、プラスチック基板、ガラス基板等から適宜選択され得る。基板3の厚みは、例えば0.3mm〜5mm程度であるが、この範囲に限定されるものではない。基板3の面積は、例えば25cm
2〜4m
2程度であり、好ましくは25cm
2〜2m
2程度、より好ましくは100cm
2〜1000cm
2程度である。
【0053】
第1電極層4の素材は特に限定されるものではなく、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化錫(SnO
2)、酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物や、銀(Ag)、クロム(Cr)等の金属などを採用することができる。なお、有機発光層5からの光を効率的に取り出せる点で、透明性が高いITOとIZOが特に好ましい。
【0054】
有機発光層5を構成する発光材料は、発光させる光の波長によって適宜選択することができる。
【0055】
第2電極層6の素材は特に限定されるものではなく、例えば銀(Ag)やアルミニウム(Al)等の金属を採用することができる。
【0056】
封止層7の材質は、絶縁性及び封止性を有していれば、特に限定されるものではないが、酸素、炭素、窒素の中から選ばれた1種類以上の元素と、ケイ素元素とからなるシリコン合金により形成されていることが好ましく、Si−O、Si−N、Si−H、N−H等の結合を含む窒化珪素や酸化珪素、および両者の中間固溶体である酸窒化珪素であることが特に好ましい。本実施形態では封止層7として、これらの構造を有した多層構造の無機封止層を使用している。
具体的には、封止層7は、有機EL素子側から乾式法によって形成される第1無機封止層と、湿式法によって形成される第2無機封止層がこの順に積層されて形成されていることが好ましい。
【0057】
第1無機封止層は、化学気相蒸着によって形成される層であり、さらに詳細にはシランガスやアンモニアガス等を原料としてプラズマCVD法で成膜される層である。第1無機封止層は、有機EL装置の製造工程において、水分含量が少ない雰囲気下で、有機EL素子の形成工程に連続して成膜できるため、空気や水蒸気に晒さずに成膜でき、使用直後の初期ダークスポットの発生を低減することができる。
【0058】
第2無機封止層は、液体状又はゲル状の原料を塗布した後、化学反応を介して成膜される層である。第2無機封止層は、より詳細には、緻密性を有したシリカを素材としている。また、第2無機封止層はポリシラザン誘導体を原料とするのが好ましい。ポリシラザン誘導体を用いてシリカ転化によって第2無機封止層を成膜した場合、シリカ転化時に重量増加を生じ、体積収縮が小さい。また、シリカ膜転化時(固化時)に樹脂の耐え得る温度で十分にしかもクラックを生じ難くすることができるという利点を有する。
【0059】
なお、ここでいうポリシラザン誘導体は、珪素−窒素結合を持つポリマーであり、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO
2、Si
3N
4、および両者の中間固溶体SiOxNy等のセラミック前駆体ポリマーである。また、このポリシラザン誘導体は、Siと結合する水素部分が一部アルキル基等で置換された誘導体も含む。ポリシラザン誘導体の中でも特に側鎖が全て水素であるペルヒドロポリシラザンや、珪素と結合する水素部分が一部メチル基に置換された誘導体が好ましい。第2無機封止層は、第1無機封止層に比べて緻密な層が形成できるため、封止性が高く、経時的な新たなダークスポットの発生を防止したり、発生したダークスポットの拡大化を抑制したりすることができる。
【0060】
図2に示すように、本実施形態では封止層7の上に均熱シート10が設置されるが、この際、封止層7と均熱シート10との間に軟質樹脂層を介在させることが好ましい。軟質樹脂層は、発光領域15の全域を含む領域に設けることが好ましい。
【0061】
軟質樹脂層は、柔軟性を有し、所定の条件によって塑性変形又は弾性変形する層である。JIS K 6253に準じた軟質樹脂層のショア硬さは、A30以上、A70以下であり、A40以上、A65以下であることが好ましく、A45以上、A63以下であることがより好ましい。
軟質樹脂層のショア硬さがA70より大きい場合、軟質樹脂層の剛性が大きすぎて、ふくらみや衝撃を十分吸収できない。また、ショア硬さがA30より小さい場合には、後述する防湿部材の形状を維持できない。
軟質樹脂層の材料の曲げ弾性率は、3MPa以上、30MPa以下であることが好ましく、3MPa以上、25MPa以下であることがより好ましい。
軟質樹脂層8の具体的な材質としては、アクリルゴム(ACM)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、シリコーンゴム(Q)、ブチルゴム(IIR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、フッ素ゴム(FKM)、ニトリルゴム(NBR)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム(U)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、エピクロルヒドリンゴム(CO,ECO)、クロロプレンゴム(CR)等のゴム材料が使用できるが、一定の水蒸気バリア性を有し、安価に入手可能である点から、アクリルゴム系樹脂、エチレンプロピレンゴム系樹脂、シリコーンゴム系樹脂、及びブチルゴム系樹脂から選ばれる1種以上であることが好ましく、その中でもフィルムとして入手が容易な、ブチルゴム系樹脂がより好ましい。
軟質樹脂層の平均厚みは、2μm以上、1000μm以下であることが好ましく、10μm以上、200μm以下がより好ましく、20μm以上、100μm以下がさらに好ましい。
【0062】
また軟質樹脂層の外縁全周に亘って、硬質樹脂からなる硬質壁部を設けることが好ましい。
【0063】
硬質壁部を構成する硬質樹脂は、軟質樹脂の材料よりも剛性が高く硬い材料となっている。具体的には、JIS K 6253に準じた硬質樹脂層10のショア硬さ(及び対応する曲げ弾性率の概算値)は、ショアA80以上、即ち、ショアD30以上(25MPa以上)であることが好ましく、より高信頼性の有機EL装置とする観点からショアD55以上(250MPa以上)、ショアD95以下(6000MPa以下)とすることがより好ましく、ショアD80以上(1500MPa以上)、ショアD90以下(4000MPa以下)とすることがさらに好ましい。硬質樹脂の具体的な材質としては、水蒸気バリア性に優れるエポキシ樹脂が好ましい。
【0064】
さらに、均熱シート10における発光面と反対側の面に、防湿部材を設けることが好ましい。防湿部材は、例えば、硬質壁部全体を覆うように設けることが好ましい。
【0065】
防湿部材は、防湿性を有した板状、又はシート状の部材である。防湿部材の材質は、例えば、ガラス、樹脂フィルム、金属箔等であってよく、これらの材料が複数の層として形成された多層膜であってもよい。本発明に係る均熱シートの形状の表示性を高める観点からは、好ましくは、ガラス板、樹脂フィルムであって、より好ましくは、Si、O、及びN原子を含む堆積膜を水蒸気バリア層として含む樹脂フィルム、又は、10μm以下の膜厚のアルミニウム、銅、ステンレススチール等の金属箔を水蒸気バリア層として含む樹脂フィルムであり、特に好ましくは、前述の水蒸気バリア層を含む樹脂フィルムである。
【実施例】
【0066】
以下、実施例、及び比較例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
図1に示す有機ELパネル1と同様の構成を有する有機ELパネルを作製した。
有機EL装置を形成するための基板3として、縦100mm×横100mm×厚み0.7mmのアルカリガラス基板を用いた。この基板3には、第1電極層4として、電極形成のためのパターニング加工が施されたITO(インジウム・錫酸化物、膜厚350nm)膜が形成されている。この基板3を界面括性剤によりブラシを用いて洗浄し、純水にて超音波洗浄した後、基板をオープン中で乾燥した。この基板3を真空蒸着装置に導入した。
【0068】
次に、真空中で第1電極層4を含む領域上に、マスクを用いて成膜領域を制限しながら以下に記載の材料を成膜することで、有機発光層5を形成した。まず、第1電極層3上に、正孔注入層として4,’4’−ビス[N−(2−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(以下、NPB)、及び三酸化モリブデンの混合膜を、膜厚比率(NPB:三酸化モリブデン)が9:1となるように、また、10nmの膜厚となるように共蒸着した。次いで、正孔輸送層としてNPBを50nmの膜厚で成膜した。次いで、発光層兼電子輸送層としてトリス(8−キノリノラート)アルミニウムを70nmの膜厚で成膜した。次いで、電子注入層としてLiFを1nmの膜厚で成膜した。このようにして有機発光層5を形成した。
【0069】
この電子注入層上を含む領域上に、マスクを用いて成膜領域を制限しながら、第2電極層6としてアルミニウム(Al)を450nmの膜厚で成膜した。
【0070】
その後、この基板3を、プラズマCVD装置に移動させて、第2電極層6を含む領域上に第1無機封止層として2μmの窒化珪素膜を形成した。さらに、この基板3を真空雰囲気から窒素雰囲気で満たされたグローブボックスに移動させて、ポリシラザン誘導体であるクラリアント社製アクアミカNL120A−05を固化時の膜厚が1μmとなるように塗布して固化して第2無機封止層を形成し、合計厚み3μmの無機封止層(封止層7)を形成することで1次封止を行った。このようにして、縦80mm×横80mmの正方形の発光領域を有する有機EL装置を作製した。
【0071】
その後、発光領域全域を含む及び無機封止層上に、表面に接着剤が塗布された厚み25μmのブチルゴム系樹脂フィルム(ショアA60、曲げ弾性率25MPa)を貼り合わせて、軟質樹脂層を形成した。
【0072】
その後、発光領域に対応する軟質樹脂層上の中央部に、厚みが80μmで各辺の長さが60mmの正三角形のグラファイトシートであって、表面に接着材が塗布されたグラファイトシートを均熱シート10として貼り付けた。
【0073】
その後、さらに、ディスペンサーで2液性エポキシ樹脂(硬化後の硬さショアD87、曲げ弾性率2500MPa)を軟質樹脂層の縁に沿って塗布することで、硬質樹脂からなる硬質壁部を発光領域の外側全周に亘って形成した。その後、この硬質壁部を覆う面積の防湿部材を載置した。この防湿部材は、有機EL装置に貼り合わせる側に、水蒸気バリア層としてSi、O、及びN原子を含む堆積膜が形成されてなる厚みが30μmのPETフィルムである。
その後、防湿部材が載置されたこの有機EL装置を真空ラミネーターに導入し、防湿部材を有機EL装置にラミネートすることで実施例1の有機ELパネルを完成させた。
【0074】
この実施例1の有機ELパネルに640mAの電流を流したところ、均熱シート10を添付した領域に対応する正三角形部分ではその周囲に比べて輝度が高く、正三角形の図形が輝度の差により浮かび上がって目視で確認できた。NECAvio製サーモカメラTH9100PMVにて発光領域の熱画像を得たところ、正三角形領域の温度は±1℃以下の範囲に均熱されており、発光領域外の最低温度に比べて12℃高かった。この最低温度の位置での輝度は、発光領域の輝度の70%の値にとどまっていた。輝度の差は概ね均熱シートに対応する領域の外側5mmの幅の境界領域20(
図6参照)で発生しており、この領域での温度勾配は13℃/cm程度であった。そのまま継続して点灯させたところ、200時間経過までダークスポット等の発生は無く、三角形の図形が確認できる状態で点灯を維持できた。
【0075】
(実施例2)
実施例1において、軟質樹脂層、及び硬質壁部を形成せず、また、防湿部材をラミネートしなかったこと以外は同様にして、実施例2の有機ELパネルを作製した。
【0076】
この実施例2の有機ELパネルに640mAの電流を流したところ、均熱シート10を添付した領域に対応する正三角形部分ではその周囲に比べて輝度が高く、正三角形の図形が輝度の差により浮かび上がって目視で確認できた。NECAvio製サーモカメラTH9100PMVにて発光領域の熱画像を得たところ、正三角形領域の温度は±1℃以下の範囲に均熱されており、発光領域外の最低温度に比べて13℃高かった。この最低温度の位置での輝度は、発光領域の輝度の67%の値にとどまっていた。輝度の差は概ね均熱シートに対応する領域の外側5mmの幅の境界領域20(
図6参照)で発生しており、この領域での温度勾配は15℃/cm程度であった。そのまま継続して点灯させていたところ50時間経過後からダークスポットが多数発生し、100時間経過したところで不点灯となった。
【0077】
(比較例1)
実施例1において、均熱シート10を貼り付けなかったこと以外は同様にして、比較例1の有機ELパネルを作製した。
【0078】
この比較例1の有機ELパネルに640mAの電流を流したところ、中央部分の輝度が高く、周囲の輝度が低くなったが、特に図形は目視で確認できなかった。NECAvio製サーモカメラTH9100PMVにて発光領域の熱画像を得たところ、発光領域の温度は中央で高く、周囲で低く、その温度差は、14℃であった。そのまま継続して点灯させたところ、200時間経過までダークスポット等の発生は無く点灯できた。
【0079】
(比較例2)
実施例1において、防湿部材として、厚みが50μmの圧延アルミ箔を用いたこと以外は同様にして、比較例2の有機ELパネルを作製した。
【0080】
この比較例2の有機ELパネルに640mAの電流を流したところ、発光領域全面でほぼ同じ輝度であり、特に図形は目視で確認できなかった。NECAvio製サーモカメラTH9100PMVにて発光領域の熱画像を得たところ、発光領域の温度は±1.5℃の範囲に収まっていた。そのまま継続して点灯させたところ、200時間経過までダークスポット等の発生は無く点灯できた。