特許第6091196号(P6091196)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091196
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】光学ガラス、プリフォーム及び光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/062 20060101AFI20170227BHJP
   C03C 3/064 20060101ALI20170227BHJP
   C03C 3/066 20060101ALI20170227BHJP
   C03C 3/068 20060101ALI20170227BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   C03C3/062
   C03C3/064
   C03C3/066
   C03C3/068
   G02B1/00
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-268732(P2012-268732)
(22)【出願日】2012年12月7日
(65)【公開番号】特開2014-114181(P2014-114181A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年7月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】土淵 菜那
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−025649(JP,A)
【文献】 特開2012−197211(JP,A)
【文献】 特開2013−227187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
G02B 1/10− 1/18
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
SiO成分を9.0〜29.0%、
Ta成分を17.0〜50.0%、
ZrO成分を2.5%超15.0%以下、
Nb成分を11.0〜43.0%、
TiO成分を0.5%超10.0%未満、
LiO成分を1.0〜5.606%、
NaO成分を1.0〜3.794%
含有し、
質量和NaO+KOが3.8%以下であり、
部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−0.00160×ν+0.63460)≦(θg,F)≦(−0.00421×ν+0.72060)の関係を満たし、ν>25の範囲において(−0.00250×ν+0.65710)≦(θg,F)≦(−0.00421×ν+0.72060)の関係を満たす光学ガラス。
【請求項2】
質量比ZrO/Nbが0.09以上である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
質量和ZrO+Nbが15.0〜55.0%である請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
質量比(Nb+TiO)/(Ta+ZrO+LiO)が3.00未満である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
O成分を含有しない請求項1から4のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の質量和が9.286%以下である請求項1から5のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項7】
質量%で
MgO成分 0〜20.0%
CaO成分 0〜20.0%
SrO成分 0〜20.0%
BaO成分 0〜20.0%
ZnO成分 0〜30.0%
である請求項1から6のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項8】
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)の質量和が20.0%以下である請求項1から7のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項9】
質量%で
成分 0〜10.0%
La成分 0〜10.0%
Gd成分 0〜10.0%
Yb成分 0〜10.0%
である請求項1から8のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項10】
Ln成分(式中、LnはY、La、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が20.0%以下である請求項1から9のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項11】
質量%で
成分 0〜30.0%
成分 0〜10.0%
GeO成分 0〜10.0%
Al成分 0〜15.0%
Ga成分 0〜15.0%
WO成分 0〜20.0%
Bi成分 0〜20.0%
TeO成分 0〜20.0%
Sb成分 0〜3.0%
である請求項1から10のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項12】
1.75以上2.00以下の屈折率(nd)を有し、20以上40以下のアッベ数(νd)を有する請求項1から11のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項13】
分光透過率が70%を示す波長(λ70)が500nm以下である請求項1から12のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【請求項15】
請求項1から13のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやビデオカメラ等の光学系は、その大小はあるが、収差と呼ばれるにじみを含んでいる。この収差は単色収差と色収差に分類されるが、特に色収差は、光学系に使用されるレンズの材料特性に強く依存している。
【0003】
一般に色収差は、低分散の凸レンズと高分散の凹レンズとを組み合わせて補正されるが、この組み合わせでは赤色領域と緑色領域の収差の補正しかできず、青色領域の収差が残る。この除去しきれない青色領域の収差を二次スペクトルと呼ぶ。二次スペクトルを補正するには、青色領域のg線(435.835nm)の動向を加味した光学設計を行う必要がある。このとき、光学設計で着目される光学特性の指標として、部分分散比(θg,F)が用いられている。上述の低分散のレンズと高分散のレンズとを組み合わせた光学系では、低分散側のレンズに部分分散比の大きい光学材料を用い、高分散側のレンズに部分分散比の小さい光学材料を用いることで、二次スペクトルが良好に補正される。
【0004】
部分分散比(θg,F)は、下式(1)により示される。
θg,F=(n−n)/(n−n)・・・・・・(1)
【0005】
光学ガラスには、短波長域の部分分散性を表す部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)との間に、およそ直線的な関係がある。この関係を表す直線は、部分分散比を縦軸に、アッベ数を横軸に採用した直交座標上で、NSL7とPBM2の部分分散比及びアッベ数をプロットした2点を結ぶ直線で表され、ノーマルラインと呼ばれている(図1参照)。ノーマルラインの基準となるノーマルガラスは光学ガラスメーカー毎によっても異なるが、各社ともほぼ同等の傾きと切片で定義している。(NSL7とPBM2は株式会社オハラ社製の光学ガラスであり、PBM2のアッベ数(ν)は36.3,部分分散比(θg,F)は0.5828、NSL7のアッベ数(ν)は60.5、部分分散比(θg,F)は0.5436である。)
【0006】
ここで、部分分散比の小さなガラスとしては、例えば特許文献1〜3に示されるような光学ガラスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−297198号公報
【特許文献2】国際公開第2001/072650号パンフレット
【特許文献3】特開平10−265238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1〜3で開示されたガラスは、屈折率(n)が低く、且つアッベ数(ν)が高いために低分散であるため、上述の二次スペクトルを補正するレンズとして使用するには好適でなかった。すなわち、部分分散比の小ささと、高屈折率及び高分散の光学特性と、を併せ持った光学ガラスが求められている。
【0009】
また、部分分散比の小ささと、高屈折率及び高分散の光学特性と、を併せ持った光学ガラスを用いて二次スペクトルを補正する際、光学ガラスに可視光線を透過させる必要があるため、二次スペクトルを補正された光をより高精度に得るためにも、可視光に対する透過率の高い光学ガラスが求められている。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率及びアッベ数が所望の範囲内にありながら、部分分散比が小さく、且つ、可視光に対する透過率の高い光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、SiO成分及びTa成分を併用し、これらの含有量を調整することによって、ガラスの高屈折率及び高分散化が図られながらも、ガラスの部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で所望の関係を有し、且つ分光透過率が70%を示す波長(λ70)が短くなることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0012】
(1) 質量%で、SiO成分を5.0〜60.0%、Ta成分を10.0〜55.0%含有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−0.00160×ν+0.63460)≦(θg,F)≦(−0.00421×ν+0.72060)の関係を満たし、ν>25の範囲において(−0.00250×ν+0.65710)≦(θg,F)≦(−0.00421×ν+0.72060)の関係を満たす光学ガラス。
【0013】
(2) 質量%で
ZrO成分 0〜25.0%
Nb成分 0〜60.0%
である(1)記載の光学ガラス。
【0014】
(3) 質量比ZrO/Nbが0.010以上である(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0015】
(4) 質量和ZrO+Nbが10.0〜60.0%である(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラス。
【0016】
(5) 質量%で
TiO成分 0〜20.0%
LiO成分 0〜25.0%
である(1)から(4)のいずれか記載の光学ガラス。
【0017】
(6) 質量比(Nb+TiO)/(Ta+ZrO+LiO)が10.00以下である(1)から(5)のいずれか記載の光学ガラス。
【0018】
(7) 質量%で
NaO成分 0〜30.0%
O成分 0〜15.0%
である(1)から(6)のいずれか記載の光学ガラス。
【0019】
(8) 質量和NaO+KOが30.0%以下である(1)から(7)のいずれか記載の光学ガラス。
【0020】
(9) RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の質量和が30.0%以下である(1)から(8)のいずれか記載の光学ガラス。
【0021】
(10) 質量%で
MgO成分 0〜20.0%
CaO成分 0〜20.0%
SrO成分 0〜20.0%
BaO成分 0〜20.0%
ZnO成分 0〜30.0%
である(1)から(9)のいずれか記載の光学ガラス。
【0022】
(11) RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znからなる群より選択される1種以上)の質量和が20.0%以下である(1)から(10)のいずれか記載の光学ガラス。
【0023】
(12) 質量%で
成分 0〜10.0%
La成分 0〜10.0%
Gd成分 0〜10.0%
Yb成分 0〜10.0%
である(1)から(11)のいずれか記載の光学ガラス。
【0024】
(13) Ln成分(式中、LnはY、La、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が20.0%以下である(1)から(12)のいずれか記載の光学ガラス。
【0025】
(14) 質量%で
成分 0〜30.0%
成分 0〜10.0%
GeO成分 0〜10.0%
Al成分 0〜15.0%
Ga成分 0〜15.0%
WO成分 0〜20.0%
Bi成分 0〜20.0%
TeO成分 0〜20.0%
Sb成分 0〜3.0%
である(1)から(13)のいずれか記載の光学ガラス。
【0026】
(15) 1.75以上2.00以下の屈折率(nd)を有し、20以上40以下のアッベ数(νd)を有する(1)から(14)のいずれか記載の光学ガラス。
【0027】
(16) 分光透過率が70%を示す波長(λ70)が500nm以下である(1)から(15)のいずれか記載の光学ガラス。
【0028】
(17) (1)から(16)のいずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【0029】
(18) (1)から(16)のいずれか記載の光学ガラスを研削及び/又は研磨してなる光学素子。
【0030】
(19) (1)から(16)のいずれか記載の光学ガラスを精密プレス成形してなる光学素子。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、屈折率及びアッベ数が所望の範囲内にありながら、部分分散比が小さく、且つ、可視光に対する透過率の高い光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】部分分散比(θg,F)が縦軸でアッベ数(ν)が横軸の直交座標に表されるノーマルラインを示す図である。
図2】本願の実施例のガラスについての部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の光学ガラスは、質量%で、SiO成分を5.0〜60.0%、Ta成分を10.0〜55.0%含有し、部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−0.00160×ν+0.63460)≦(θg,F)≦(−0.00421×ν+0.72060)の関係を満たし、ν>25の範囲において(−0.00250×ν+0.65710)≦(θg,F)≦(−0.00421×ν+0.72060)の関係を満たす。SiO成分及びTa成分を併用し、これらの含有量を調整することによって、ガラスの高屈折率及び高分散化が図られながらも、ガラスの部分分散比が低くなることでアッベ数との間で所望の関係を有し、且つ分光透過率が70%を示す波長(λ70)が短くなる。このため、高屈折率及び高分散の光学特性を有しながらも、部分分散比が小さく、且つ、可視光線のより幅広い波長に対して透過率が高く着色の少ない光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を得られる。
【0034】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0035】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中で特に断りがない場合、各成分の含有量は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0036】
<必須成分、任意成分について>
SiO成分は、ガラス形成酸化物であり、ガラスの骨格を形成する為に有用な成分である。すなわち、SiO成分を5.0%以上含有することで、安定なガラスが得られる程度にガラスの網目構造が増加するため、耐失透性を高められる。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは7.0%、さらに好ましくは9.0%、さらに好ましくは11.0%、さらに好ましくは15.0%を下限とする。
一方で、SiO成分の含有量を60.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下を抑えられる。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは60.0%、より好ましくは40.0%、さらに好ましくは29.0%、さらに好ましくは24.0%、さらに好ましくは22.0%を上限とする。
SiO成分は、原料としてSiO、KSiF、NaSiF等を用いることができる。
【0037】
Ta成分は、ガラスの屈折率を高められ、部分分散比を低くでき、可視光透過率を高められ、且つ液相温度を低くできる必須成分である。従って、Ta成分は、好ましくは10.0%、より好ましくは13.0%、さらに好ましくは17.0%、さらに好ましくは21.0%を下限として含有する。
一方で、Ta成分の含有量を55.0%以下にすることで、Ta成分の過剰な含有による材料コストの上昇を抑えられ、且つ、Ta成分による失透や脈理の発生を低減できる。従って、Ta成分の含有量は、好ましくは55.0%、より好ましくは50.0%、さらに好ましくは45.0%を上限とする。
Ta成分は、原料としてTa等を用いることができる。
【0038】
ZrO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、且つ部分分散比を低くできる任意成分である。従って、ZrO成分は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%超、さらに好ましくは2.5%超、さらに好ましくは4.0%超、さらに好ましくは5.0%超含有してもよい。
一方で、ZrO成分の含有量を25.0%以下にすることで、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を高められる。また、ガラス転移点の上昇を抑えられる。従って、ZrO成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは17.0%、さらに好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%を上限とする。
ZrO成分は、原料としてZrO、ZrF等を用いることができる。
【0039】
Nb成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、アッベ数を低くでき、且つ部分分散比を低くできる任意成分である。従って、Nb成分は、好ましくは0%超、より好ましくは5.0%超、さらに好ましくは11.0%以上、さらに好ましくは15.0%以上含有してもよい。
一方で、Nb成分の含有量を60.0%以下にすることで、ガラスの液相温度が低くなるため、耐失透性の高い光学ガラスを得られる。また、これによりガラスの可視光透過率を悪化し難くでき、且つソラリゼーションを低減できる。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは60.0%、より好ましくは50.0%、さらに好ましくは45.0%、さらに好ましくは43.0%、さらに好ましくは41.0%、さらに好ましくは39.0%を上限とする。
Nb成分は、原料としてNb等を用いることができる。
【0040】
Nb成分の含有量に対するZrO成分の含有量の比率(質量比)は、0.01以上が好ましい。この比率を大きくすることで、部分分散比を小さくでき、且つソラリゼーションを低減できる。従って、質量比ZrO/Nbは、好ましくは0.01、より好ましくは0.05、さらに好ましくは0.09、さらに好ましくは0.13を下限とする。
一方で、この比率の上限は、より耐失透性を高められ、且つガラス原料の熔解性を高められる観点で、好ましくは1.00、より好ましくは0.50、さらに好ましくは0.35を上限としてもよい。
【0041】
ZrO成分及びNb成分の含有量の和は、10.0〜60.0%が好ましい。
特に、この和を10.0%以上にすることで、ガラスの部分分散比を小さくでき、且つアッベ数を小さくできる。従って、質量和(ZrO+Nb)は、好ましくは10.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは20.0%、さらに好ましくは25.0%、さらに好ましくは46.0%を下限とする。
一方で、この和を60.0%にすることで、ガラスの耐失透性を高め、且つソラリゼーションを低減できる。従って、質量和(ZrO+Nb)は、好ましくは60.0%、より好ましくは55.0%、さらに好ましくは50.0%、さらに好ましくは46.0%を上限とする。
【0042】
TiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、アッベ数を低くでき、且つ耐失透性を高められる任意成分である。従って、TiO成分は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%超、さらに好ましくは0.7%以上、さらに好ましくは1.0%以上含有してもよい。
一方で、TiO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減できるため、可視光透過率を悪化し難くできる。また、これにより部分分散比の上昇を抑えられる。従って、TiO成分の含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、さらに好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは7.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満とする。
TiO成分は、原料としてTiO等を用いることができる。
【0043】
LiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの部分分散比を低くし、液相温度を低くし、且つガラス転移点を低くできる任意成分である。従って、LiO成分は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは2.2%以上、さらに好ましくは2.7%以上、さらに好ましくは3.0%以上含有してもよい。
一方で、LiO成分の含有量を25.0%以下にすることで、LiO成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減できる。また、再加熱時における耐失透性が高められるため、ガラスのプレス成形性を高められる。従って、LiO成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは14.0%、さらに好ましくは11.0%、さらに好ましくは8.0%を上限とする。
LiO成分は、原料としてLiCO、LiNO、LiF等を用いることができる。
【0044】
Ta成分、ZrO成分及びLiO成分の合計含有量に対する、Nb成分及びTiO成分の合計含有量の比率(質量比)は、10.00以下が好ましい。これにより、部分分散比を小さくできる。従って、質量比(Nb+TiO)/(Ta+ZrO+LiO)は、好ましくは10.00以下、より好ましくは6.00未満、さらに好ましくは3.00未満、さらに好ましくは1.50未満とする。
一方で、この比率は、ガラスの屈折率を高めてアッベ数を低くできる観点で、好ましくは0超、より好ましくは0.20、さらに好ましくは0.40を下限としてもよい。
【0045】
NaO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの部分分散比を低くでき、化学的耐久性、特に耐水性を高められ、且つガラス転移点を低くできる任意成分である。従って、NaO成分は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは2.0%以上、さらに好ましくは2.5%以上含有してもよい。
一方で、NaO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの部分分散比の上昇を抑えられる。また、NaO成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減でき、ガラスのプレス成形性を高められ、且つ化学的耐久性を高められる。従って、NaO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは7.0%を上限とする。
NaO成分は、原料としてNaCO、NaNO、NaF、NaSiF等を用いることができる。
【0046】
O成分は、0%超含有する場合に、ガラス転移点を低くできる任意成分である。
一方で、KO成分の含有量を15.0%以下にすることで、KO成分の過剰な含有によるガラスの失透を低減できる。また、再加熱時における耐失透性が高められるため、ガラスのプレス成形性を高められる。従って、KO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
O成分は、原料としてKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いることができる。
【0047】
NaO成分及びKO成分の含有量の和は、30.0%以下が好ましい。これにより、ガラスの耐失透性を高められ、且つソラリゼーションを低減できる。従って、質量和(NaO+KO)は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは8.0%、さらに好ましくは6.0%、さらに好ましくは3.8%を上限とする。
なお、ガラスの部分分散比を低くし、且つ化学的耐久性を高める観点で、質量和(NaO+KO)は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは2.0%、さらに好ましくは2.5%を下限としてもよい。
【0048】
RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の合計含有量(質量和)は、30.0%以下が好ましい。これにより、ガラスの耐失透性を高められ、且つ、化学的耐久性を高めて高湿度での曇りを低減できる。従って、RnO成分の合計含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは15.0%、さらに好ましくは12.0%を上限とする。
一方で、再加熱時における耐失透性をより高める観点で、RnO成分の合計含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは8.0%を下限としてもよい。
【0049】
MgO成分は、0%超含有する場合にガラスの溶融温度を低くできる任意成分である。CaO成分、SrO成分及びBaO成分は、0%超含有する場合にガラスの液相温度を低くして耐失透性を高められる任意成分である。このうちBaO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの部分分散比を低くできる成分でもある。
一方で、MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaOの含有量をそれぞれ20.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えられ、且つガラスの耐失透性を高められる。また、MgO成分及びCaO成分の含有量をそれぞれ20.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性を高めることもできる。
従って、MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaOの含有量は、それぞれ好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分は、原料としてMgO、MgCO、MgF、CaCO、CaF、Sr(NO、SrF、BaCO、Ba(NO等を用いることができる。
【0050】
ZnO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの液相温度を低くでき、且つガラス転移点を低くできる任意成分である。
一方で、ZnO成分の含有量を30.0%以下にすることで、所望の高屈折率を得つつ、ガラスの化学的耐久性を高められる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
ZnO成分は、原料としてZnO、ZnF等を用いることができる。
【0051】
RO成分(RはMg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種以上)の合計含有量(質量和)は、20.0%以下が好ましい。これにより、ガラスの耐失透性の悪化を抑えられ、且つ屈折率の低下を抑えられる。従って、RO成分の合計含有量は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満とする。
【0052】
成分、La成分、Gd成分及びYb成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、且つ耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、Y成分、La成分、Gd成分及びYb成分の各々の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高められ、且つガラスの分散を低下し難くできる。従って、Y成分、La成分、Gd成分及びYb成分の各々の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
成分、La成分、Gd成分及びYb成分は、原料としてY、YF、La、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF、Yb等を用いることができる。
【0053】
Ln成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の合計含有量(質量和)は、20.0%以下が好ましい。これにより、ガラスの分散の低下を抑制しつつ、ガラスの耐失透性を高められる。従って、Ln成分の含有量の和は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは4.0%未満とする。
【0054】
成分は、0%超含有する場合に、ガラスの骨格をより多く形成できる任意成分である。
一方で、B成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下を抑えられ、且つ可視光の透過率の悪化を抑えられる。また、ガラスのプレス成形性を高められる。従って、B成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは9.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
成分は、原料としてHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いることができる。
【0055】
成分は、0%超含有する場合に、ガラスの安定性を高められる任意成分である。
一方で、P成分の含有量を10.0%以下にすることで、P成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、P成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
成分は、原料としてAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いることができる。
【0056】
GeO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、成形時の失透を低減できる任意成分である。
一方で、GeO成分の含有量を10.0%以下にすることで、高価なGeO成分の使用量が低減されるため、ガラスの材料コストを低減できる。従って、GeO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
GeO成分は、原料としてGeO等を用いることができる。
【0057】
Al成分及びGa成分は、0%超含有する場合に、ガラスの化学的耐久性を改善できる任意成分である。
一方で、これら成分の含有量を各々15.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高められる。従って、Al成分及びGa成分の含有量は、それぞれ好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
Al成分及びGa成分は、原料としてAl、Al(OH)、AlF、Ga、Ga(OH)等を用いることができる。
【0058】
WO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、アッベ数を低くでき、且つ液相温度を低くできる任意成分である。
一方で、WO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの部分分散比を上昇し難くでき、且つ可視光透過率を高められる。従って、WO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
WO成分は、原料としてWO等を用いることができる。
【0059】
Bi成分及びTeO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、且つガラス転移点を低くできる任意成分である。
一方で、Bi成分及びTeO成分の各々の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減でき、可視光透過率の悪化を抑えられる。特に、Bi成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの部分分散比を上昇し難くできる。従って、Bi成分及びTeO成分の各々の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
Bi成分及びTeO成分は、原料としてBi、TeO等を用いることができる。
【0060】
Sb成分は、0%超含有する場合に、ガラスの脱泡を促進でき、且つガラスを清澄できる任意成分である。
一方で、Sb成分の含有量を3.0%以下にすることで、ガラス溶融時に過度の発泡を生じ難くすることができ、Sb成分と溶解設備(特にPt等の貴金属)との合金化を抑えられる。従って、Sb成分の含有量は、好ましくは3.0%、より好ましくは2.0%、さらに好ましくは1.0%を上限とする。但し、光学ガラスの環境上の影響を重視する場合には、Sb成分を含有しないことが好ましい。
Sb成分は、原料としてSb、Sb、NaSb・5HO等を用いることができる。
【0061】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0062】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0063】
上述されていない他の成分を、本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じて添加できる。ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じることで、可視光透過率を低下させる性質があるため、特に可視領域の波長を透過させる光学ガラスでは、実質的に含まないことが好ましい。
【0064】
また、PbO等の鉛化合物及びAs等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0065】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、使用した場合には、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要になる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0066】
本発明のガラス組成物は、その組成が酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表されているため直接的にモル%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のモル%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
SiO成分 10.0〜70.0モル%及び
Ta成分 5.0〜30.0モル%
並びに
ZrO成分 0〜30.0モル%
Nb成分 0〜30.0モル%
TiO成分 0〜35.0モル%
LiO成分 0〜50.0モル%
NaO成分 0〜40.0モル%
O成分 0〜25.0モル%
MgO成分 0〜50.0モル%
CaO成分 0〜40.0モル%
SrO成分 0〜25.0モル%
BaO成分 0〜20.0モル%
ZnO成分 0〜40.0モル%
成分 0〜8.0モル%
La成分 0〜5.0モル%
Gd成分 0〜5.0モル%
Yb成分 0〜5.0モル%
成分 0〜50.0モル%
成分 0〜10.0モル%
GeO成分 0〜10.0モル%
Al成分 0〜25.0モル%
Ga成分 0〜7.0モル%
WO成分 0〜15.0モル%
Bi成分 0〜7.0モル%
TeO成分 0〜20.0モル%
Sb成分 0〜2.0モル%
【0067】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶融した後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1100〜1400℃の温度範囲で3〜5時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1000〜1300℃の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより作製される。
【0068】
<物性>
本発明の光学ガラスは、低い部分分散比(θg,F)を有する。より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、アッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−0.00160×ν+0.63460)≦(θg,F)≦(−0.00421×ν+0.72060)の関係を満たし、ν>25の範囲において(−0.00250×ν+0.65710)≦(θg,F)≦(−0.00421×ν+0.72060)の関係を満たす。これにより、高分散を有しながらも低い部分分散比を有する光学ガラスが得られるため、この光学ガラスから形成される光学素子の色収差を低減できる。
ここで、ν≦25の光学ガラスの部分分散比(θg,F)の下限は、好ましくは(−0.00160×ν+0.63460)、より好ましくは(−0.00160×ν+0.63660)、さらに好ましくは(−0.00160×ν+0.63860)である。
また、ν>25の光学ガラスの部分分散比(θg,F)の下限は、好ましくは(−0.00250×ν+0.65710)、より好ましくは(−0.00250×ν+0.65910)、さらに好ましくは(−0.00250×ν+0.66110)である。
一方、光学ガラスの部分分散比(θg,F)の上限は、ν>25及びν≦25の光学ガラスの両方について、好ましくは(−0.00421×ν+0.72060)、より好ましくは(−0.00421×ν+0.71960)、さらに好ましくは(−0.00421×ν+0.71860)である。
なお、特にアッベ数(ν)が小さい領域では、一般的なガラスの部分分散比はノーマルラインよりも高い値にあり、一般的なガラスの部分分散比とアッベ数(ν)の関係は曲線で表される。しかしながら、この曲線の近似が困難であるため、本発明では、一般的なガラスよりも部分分散比が低いことを、ν=25を境に異なった傾きを有する直線を用いて表した。
【0069】
また、本発明の光学ガラスは、所定の屈折率及び分散(アッベ数)を有することが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.75、より好ましくは1.80、さらに好ましくは1.85を下限とする。一方、本発明の光学ガラスの屈折率(n)の上限は、好ましくは2.00以下、より好ましくは1.95以下、さらに好ましくは1.92以下であってもよい。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは40、より好ましくは35、さらに好ましくは30を上限とする。一方、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)の下限は特に限定されないが、好ましくは20以上、より好ましくは23以上、さらに好ましくは25以上であってもよい。これらにより、光学設計の自由度が広がり、さらに素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得られる。
【0070】
また、本発明の光学ガラスは、着色が少なく可視光透過率が高いことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長(λ70)が500nm以下であり、より好ましくは460nm以下であり、さらに好ましくは440nm以下である。また、本発明の光学ガラスは、厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す波長(λ)が440nm以下であり、より好ましくは400nm以下であり、さらに好ましくは380nm以下である。これにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍に位置するようになり、可視域のより幅広い波長の光に対してガラスの透過率が高められることで着色が低減されるため、可視光を透過させて二次スペクトルを補正する光学素子の材料として、この光学ガラスを好ましく用いられる。
【0071】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製できる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、研磨加工を行って作製したプリフォームや、公知の浮上成形等により成形されたプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりできる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0072】
このようにして作製されるガラス成形体は、様々な光学素子及び光学設計に有用である。特に、本発明の光学ガラスは、レンズやプリズム等の光学素子の用途に用いることが好ましい。これにより、光学素子が設けられる光学系の透過光における、色収差による色のにじみが低減される。そのため、この光学素子をカメラに用いた場合は撮影対象物をより正確に捉えることができ、この光学素子をプロジェクタに用いた場合は所望の映像をより高精彩に投影できる。
【実施例】
【0073】
本発明の実施例(No.1〜No.11)及び比較例(No.A)の組成、並びに、屈折率(n)、アッベ数(ν)、部分分散比(θg,F)、並びに分光透過率が5%及び70%を示す波長(λ、λ70)を表1〜表2に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0074】
本発明の実施例及び比較例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度の原料を選定し、表に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1100〜1400℃の温度範囲で3〜5時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1000〜1300℃に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0075】
実施例及び比較例のガラスの屈折率、アッベ数及び部分分散比は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。そして、求められたアッベ数及び部分分散比の値について、関係式(θg,F)=−a×ν+bにおける、傾きaが0.00160、0.00250、0.00421のときの切片bを求めた。なお、本測定に用いたガラスは、徐冷降温速度を−25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行ったものを用いた。
【0076】
実施例及び比較例のガラスの可視光透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02―2003に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの可視光透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ(透過率5%時の波長)及びλ70(透過率70%時の波長)を求めた。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表に表されるように、実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が25超であり、且つ部分分散比(θg,F)が(−0.00421×ν+0.72060)以下、より詳細には(−0.00421×ν+0.71709)以下であった。
一方で、実施例で得られる光学ガラスの部分分散比(θg,F)の下限は、(−0.00250×ν+0.65710)以上であった。そのため、本発明の実施例の光学ガラスは、部分分散比(θg,F)が所望の範囲内にあることがわかった。
一方、比較例(No.A)のガラスは、ν>25であるものの、部分分散比(θg,F)が(−0.00421×ν+0.72060)よりも大きかった。
従って、実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べ、アッベ数との関係において部分分散比が小さいことが明らかになった。
【0080】
また、実施例の光学ガラスは、λ70(透過率70%時の波長)がいずれも500nm以下、より詳細には430nm以下であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ(透過率5%時の波長)がいずれも440nm以下、より詳細には360nm以下であった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、着色し難く可視光の透過性が高いことが明らかになった。
【0081】
また、実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.75以上、より詳細には1.85以上であるとともに、この屈折率(n)は2.00以下、より詳細には1.91以下であり、所望の範囲内であった。
【0082】
また、実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が20以上、より詳細には25以上であるとともに、このアッベ数(ν)は40以下、より詳細には28以下であり、所望の範囲内であった。
【0083】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率(n)及びアッベ数(ν)が所望の範囲内にありながら、可視光線の透過率が高く着色が少なく、且つ色収差が小さいことが明らかになった。
【0084】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。
図1
図2