(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091263
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】粒子線治療設備
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
A61N5/10 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-44932(P2013-44932)
(22)【出願日】2013年3月7日
(65)【公開番号】特開2014-171560(P2014-171560A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100073759
【弁理士】
【氏名又は名称】大岩 増雄
(74)【代理人】
【識別番号】100088199
【弁理士】
【氏名又は名称】竹中 岑生
(74)【代理人】
【識別番号】100094916
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 啓吾
(74)【代理人】
【識別番号】100127672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】田尻 真也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 理
(72)【発明者】
【氏名】本田 泰三
(72)【発明者】
【氏名】調 恒治
(72)【発明者】
【氏名】関根 牧菜
【審査官】
松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−502221(JP,A)
【文献】
特表2003−528659(JP,A)
【文献】
特開2014−161396(JP,A)
【文献】
米国特許第05842987(US,A)
【文献】
米国特許第05851182(US,A)
【文献】
特開2012−148026(JP,A)
【文献】
特開2000−288102(JP,A)
【文献】
特開2007−289373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線の照射を行うために周囲を遮蔽体によって囲まれた3つ以上の照射室と、
前記3つ以上の照射室から隔てて設けられた、患者の位置決めを行うための準備室と、
前記照射室と前記準備室の間に設けられた共通通路と、
前記準備室で位置決めした患者を前記3つ以上の照射室のいずれかに搬送する患者搬送装置と、を備え、
前記3つ以上の照射室のそれぞれは、前記準備室に出入口を対向させて、前記準備室を囲むように配置されるとともに、前記準備室には前記3つ以上の照射室の出入口のそれぞれに対応する出入口が前記共通通路を介して設けられていることを特徴とする粒子線治療設備。
【請求項2】
前記準備室から前記3つ以上の照射室のそれぞれに至る前記患者搬送装置の経路は、それぞれ曲り角の数が同じになるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の粒子線治療設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん治療等に用いられる粒子線治療設備において、とくに患者の位置決めを照射室から隔てた準備室で行う粒子線治療設備に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療は、治療対象となる患部に荷電粒子のビーム(粒子線)を照射して、患部組織に損傷を与えることにより治療を行うものである。その際、周辺組織にダメージを与えず、患部組織に十分な線量を与えるため、照射線量や照射範囲(照射野)を高精度に制御することが求められている。一方、照射対象である患者についても、想定された体位及び位置に対してずれのないように位置決めすることが求められ、数段階に分けて状態を確認しながら位置決めを行っている。
【0003】
そのため、位置決めに要する時間は、実際の照射に必要な時間を上回り、一人の患者が照射室を占有する時間が長くなりすぎて、粒子線治療システムを効率的に運用することが困難になる場合があった。そこで、実際に照射が行われる照射室とは別に準備室を設け、準備室内で位置決めした後に、位置決めした患者を載せた寝台を照射室に搬送して治療を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1または2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−288102号公報(段落0019〜0023、
図1、
図2)
【特許文献2】特開2012−148026号公報(段落0011〜0034、
図1〜
図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、照射室は、外部への粒子線の漏えいを防止するために、周囲に厚い遮蔽壁を設置する必要があるので、空間効率および資材効率の観点から、隣接する照射室が遮蔽壁を共有するように、複数の照射室が直線状に配置されていた。そのため、一つの準備室で3つ以上の照射室に対応するようにすると、照射室によって準備室からの搬送経路が異なることになり、搬送中の患者のずれが、照射室間で異なる可能性が生ずる。一方、ずれが生じたとしても、そのずれに再現性がある場合は、ずれを考慮した修正等を行うことにより、治療計画に基づいた精度の高い照射を行うこともできる。そのような修正を可能とするために、同じ患者に対して、毎回、同じ照射室を割り当てた場合は、照射室の運用に制限が生じ、粒子線治療システムを効率よく運用することが困難になる。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、粒子線治療システムを効率よく運用できるとともに、治療計画に基づいた精度の高い粒子線治療を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の粒子線治療設備は、粒子線の照射を行うために周囲を遮蔽体によって囲まれた3つ以上の照射室と、前記3つ以上の照射室から隔てて設けられた、患者の位置決めを行うための準備室と、
前記照射室と前記準備室の間に設けられた共通通路と、前記準備室で位置決めした患者を前記3つ以上の照射室のいずれかに搬送する患者搬送装置と、を備え、前記3つ以上の照射室のそれぞれは、前記準備室に出入口を対向させて、前記準備室を囲むように配置されるとともに、前記準備室には前記3つ以上の照射室の出入口のそれぞれに対応する出入口が
前記共通通路を介して設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の粒子線治療設備によれば、準備室から3つ以上の照射室のそれぞれに至る経路が同様になるので、照射室の割り当ての制約がなくなり、粒子線治療システムを効率よく運用できるとともに、治療計画に基づいた精度の高い粒子線治療を行うことを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療設備の構成を説明するための平面模式図である。
【
図2】本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療設備の照射室周辺部分、および加速器の構成を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療設備の構成について説明する。
図1と
図2は、本実施の形態1にかかる粒子線治療設備について説明するためのもので、
図1は粒子線治療設備の構成を説明するための平面図と粒子線治療システムにおける粒子線の供給経路を合成した模式図、
図2は粒子線治療設備と粒子線治療システムの構成を説明するための図で、照射室と搬送台間での患者の移動の様子を示す模式図と加速器の構成を示す模式図を合わせたものである。
【0011】
本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療設備の特徴は、
図1に示すように、粒子線を照射するために周囲を遮蔽壁4wで囲まれた3つ以上の照射室4A、4B、4C、・・・(まとめて照射室4)を、患者の位置決めのために設けた準備室5に出入口4eA、4eB、4eC、・・・(まとめて出入口4e)を対向させて、囲むように配置し、かつ、準備室5にも各照射室4に対応して、対向する出入口5eA、5eB、5eC、・・・(まとめて出入口5e)を設けるようにしたことである。ここで、粒子線治療設備の説明の前に、加速器を含めた粒子線治療システムについて説明する。
【0012】
図2に示すように、粒子線治療システムは、粒子線の供給源として、シンクロトロンである円形加速器1(以降、単に加速器と称する)と、照射室4毎に設けられた照射装置3A、3B、・・・(まとめて照射装置3)と、加速器1と照射装置3とをつなぎ、加速器1から各照射室4の照射装置3に粒子線を輸送する輸送系2と、これら各系統を制御する図示しない制御系統とを備えている。なお、図では、簡略化のため複数ある照射室や照射装置の内の一部のみを示している。
【0013】
加速器1は、荷電粒子を周回させるための軌道経路となる真空ダクト11、前段加速器20から供給された荷電粒子を真空ダクト11に入射するための入射装置12、荷電粒子が真空ダクト11内の周回軌道に沿って周回するよう、荷電粒子の軌道を偏向させるための偏向電磁石13a,13b,13c,13d(まとめて偏向電磁石13)、周回軌道上の荷電粒子を発散しないように収束させる収束電磁石14a,14b,14c,14d(まとめて収束電磁石14)、周回する荷電粒子に同期した高周波電圧を与えて加速する高周波加速空洞15、加速器1内で加速させた荷電粒子を、所定エネルギーを有する粒子線として加速器1外に取り出し、輸送系2に出射するための出射装置16、出射装置16から粒子線を出射させるために周回軌道内で共鳴を励起する六極電磁石17を備えている。さらに、例えば、偏向電磁石13には、励磁電流を制御する直流電源、高周波加速空洞15には、高周波電圧を供給するための高周波源というように、各機器には、それぞれを駆動するための図示しない装置が設けられている。
【0014】
また、前段加速器20は、図では簡略化のためにひとつの機器のように記載しているが、実際には、陽子、炭素(重粒子)等の荷電粒子(イオン)を発生させるイオン源(イオンビーム発生装置)と、発生させた荷電粒子を初期加速する線形加速器系とを備えている。そして、前段加速器20から加速器1に入射した荷電粒子は、高周波数の電界で加速され、磁石で曲げられながら、光速の約70〜80%まで加速される。
【0015】
加速器1により加速されて出射された粒子線は、HEBT(高エネルギービーム輸送:High Energy Beam Transport)系と称される輸送系2へと出射される。輸送系2は、粒子線の輸送経路となる真空ダクトと、粒子線のビーム軌道を切替える切替装置である切替電磁石と、粒子線を所定角度に偏向する偏向電磁石とを備えている。これにより、ひとつの加速器1から出射された粒子線を、切替電磁石で必要に応じて軌道を切替えることで、任意の照射室4の照射装置3へ供給することができる。
【0016】
照射装置3は、輸送系2から供給された粒子線を照射対象の大きさや深さに応じた照射野に成形して患部へ照射するものである。照射装置3には、加速器1から供給された粒子線をビーム軸に対して略垂直な面内の任意の方向に向けて偏向させる走査電磁石、照射対象の厚さに応じて、ブラッグピークの幅を拡大させるためのリッジフィルタ、照射対象の深さ(照射深さ)に応じて、粒子線のエネルギー(飛程)を変えるためのレンジシフタ、場合によっては、マルチリーフコリメータ等の制限器などが設けられ、照射室4毎に設定されたアイソセンタCA、CB、・・・(まとめてアイソセンタC)を基準に、患部に応じた照射野に成形して照射を行っている。
【0017】
このような粒子線治療システムでの患者の治療台への位置決めは、mm単位の高精度が要求され、例えば、レーザポインタを用いた粗設定、X線画像を用いた精密設定というように、段階を踏んで綿密に行われている。そのため、背景技術で説明したように、照射室4内で位置決めを行うと、位置決めに要する時間によって患者一人当たりの照射室の占有時間が長くなり、粒子線治療システムを効率的に運用することが困難になる場合があった。そこで、本実施の形態1にかかる粒子線治療用患者位置決めシステムにおいても、
図1に示すように、照射室4とは別に、位置決めを行うための準備室5を設けるようにしている。
【0018】
そして、特許文献2で示されたように、照射室4および準備室5には、それぞれアイソセンタC、仮のアイソセンタCvを基準として、患者Kを載置するための天板7tを固定可能な天板設置部7i(図中、照射室4A内は7iA、4B内は7iBと記載)、7pを設置している。天板設置部7i、7pと搬送台7mおよび天板7tには、例えば、
図2に示すように、天板7tの姿勢を維持した状態で、天板7tを搬送台7mと自在に受け渡しするために、図示しない天板移動装置が設けられている。天板移動装置は、例えば、レールやベアリング、駆動装置等で構成され、天板7tが傾くことなく、天板設置部7iと搬送台7m間、または天板設置部7pと搬送台7m間を滑らかに移動できるようになっている。これにより、天板7tに位置決め固定された患者Kの姿勢を崩すことなく、天板7tを天板設置部7iと搬送台7m間、または天板設置部7pと搬送台7m間で自在に載せ替えを行うことができる。
【0019】
このように、照射室4と準備室5に設けた天板設置部7i、7pと、搬送台7m、および天板7tを備えた患者搬送装置7を用いることにより、準備室5内で位置決め固定した患者を照射室4内に搬送して、粒子線照射を行うことができる。このとき、準備室5内には、図示しないレーザポインタやX線撮像装置等が設置されており、レーザポインタによる粗据付などのセッティング、X線撮像装置等による仮のアイソセンタCvに対する精密位置決めを行うことができる。
【0020】
準備室5で設定された仮のアイソセンタCvは、照射室4におけるアイソセンタCに精密に対応するので、天板7tに対する患者Kの位置や姿勢が保たれている限り、照射室4においては、治療計画に基づいた精密な照射が可能となる。そして、一人の患者が照射室4で治療している時に、次の患者は準備室5で位置決め作業を行うことができ、粒子線治療システムの利用効率を高めることができる。
【0021】
しかし、粒子線治療システムにおいては、照射室は、室外への粒子線の漏えいを防止するために周囲を囲むように厚い遮蔽壁を設ける必要がある。そのため、資材効率や空間効率を重視して隣接する照射室間で遮蔽壁を共有して、3つ以上の照射室を直線状に配置することが多い。そのため、一つの準備室で3つ以上の照射室に対応するようにすると、距離や曲がり角の配置といった照射室と準備室を結ぶ搬送経路が他の照射室と異なる照射室が現れる。
【0022】
一般的に、搬送経路の距離が延びるほど、あるいは、曲がり角等の動作が変化する数や程度が増加するほど、患者が位置ずれする可能性が増大する。そのため、搬送経路の構成が異なると、搬送中の位置ずれの仕方にも違いが生じてくる。つまり、搬送経路が照射室によって異なると、照射室によって搬送中の患者のずれに差が生じることが考えられる。ここで、例えば、毎回同様のずれが生することが予測できるのであれば、ずれを考慮して照射室での載置の仕方を修正する等の対策もとれるが、ずれ自体が変化すれば、そのような対策がとれなくなる。そのため、照射室間でずれに差がある場合、再現性を保つために、同じ患者に対して、毎回、同じ照射室を割り当てた場合、照射室の運用に制約が生じて、粒子線治療システムを効率よく運用することが困難になる。
【0023】
そこで、本発明の実施の形態1にかかる粒子線治療設備では、各照射室4A、4B、4C、・・・から準備室5までの搬送経路WpA、WpB、WpC、・・・(まとめて搬送経路Wp)が照射室4によって変化しないようにした。詳細を以下に示す。
【0024】
各照射室4の出入口4eを準備室5に対向させて、準備室5を囲むように照射室4を準備室5を中心とする円周上に配置するとともに、準備室5にも、照射室4の出入口4eのそれぞれに対応するように、出入口5eも円周(できれば照射室4の配置と同心円)を形成するように設ける。そして、準備室5内の天板設置部7pから準備室の出入口5eのそれぞれまでが同様の経路になるように、例えば、上記円周の中心に天板設置部7pを配置する。
【0025】
ここで、円周上に配置した各照射室4には、いずれも同様の照射方法で照射する照射装置3等が設けられ、周囲を囲む遮蔽壁4wによって、迷路状となる内部の通路4aも、同様に形成されている。そのため、準備室5から各照射室4までの搬送経路wpは、どの照射室4を選んでも同様になる。つまり、その照射室4に搬送しても、経路長や曲がり角の数が同様になるので、準備室5から各照射室4までの搬送経路wp中での時間や、搬送台7mの方向転換や切り返し等の回数も同じになる。その結果、搬送中に患者Kや天板7tにかかる力の大きさや方向等の履歴は、どの照射室4を選んでも変化せず、患者Kにずれ等が生じても、再現性が高くなり、対処が可能になる。
【0026】
以上のように、本実施の形態1にかかる粒子線治療設備によれば、粒子線の照射を行うために周囲を遮蔽体(遮蔽壁4w)によって囲まれた3つ以上の照射室4と、3つ以上の照射室4から隔てて設けられた、患者Kの位置決めを行うための準備室5と、準備室5で位置決めした患者Kを3つ以上の照射室4のいずれか(4A、4B、4C、・・・)に搬送する患者搬送装置7と、を備え、3つ以上の照射室4のそれぞれは、準備室5に出入口4eを対向させて、準備室5を囲むように(例えば、準備室を中心とする円周上に)配置されるとともに、準備室5には3つ以上の照射室の出入口4eのそれぞれ(4eA、4eB、4eC、・・・)に対応する出入口5eA、5eB、5eC、・・・が設けられているように構成したので、準備室5から3つ以上の照射室4のそれぞれに至る経路Wpが同様になるので、どの照射室4を割り当てても、ずれ等の再現性があり、照射室4の割り当ての制約がなくなる。その結果、粒子線治療システムを効率よく運用できるとともに、治療計画に基づいた精度の高い粒子線治療を行うことができる。
【0027】
とくに、準備室5から3つ以上の照射室4のそれぞれに至る患者搬送装置7の経路(搬送経路Wp)は、それぞれ曲り角の数が同じになるように設定されているので、方向転換や切り返し等による患者への負担も同様になり、より再現性が向上する。
【符号の説明】
【0028】
1:加速器、2:輸送経路、3:照射装置、4:照射室、4a:照射室内通路、4d:遮蔽扉、4e:照射室の出入口、4w:遮蔽壁(遮蔽体)、5:準備室、5e:準備室の出入口、6:共通通路、7:回転台、7:患者搬送装置、 7i:(照射室内の)天板設置部、7m:天板搬送装置、7p:(準備室内の)天板設置部、7t:天板、
C:アイソセンタ、Cv:仮のアイソセンタ、Wp:搬送経路。