特許第6091322号(P6091322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 宮島 敏の特許一覧

<>
  • 特許6091322-飲料の製造方法および容器入り飲料 図000002
  • 特許6091322-飲料の製造方法および容器入り飲料 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091322
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】飲料の製造方法および容器入り飲料
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/02 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
   C12G3/02 119S
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-99648(P2013-99648)
(22)【出願日】2013年5月9日
(65)【公開番号】特開2014-217333(P2014-217333A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】511269772
【氏名又は名称】宮島 敏
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】宮島 敏
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平1−257456(JP,A)
【文献】 英国特許出願公告第1484786(GB,A)
【文献】 特開2009−89663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 1/00−3/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
醗酵により生じた炭酸ガスを溶け込ませた飲料の製造方法であって、
上端に口部を備えた飲料容器に、前記炭酸ガスを溶け込ませる前の前記飲料を入れると共に、上端開口を備えた醗酵容器に醗酵性物質を入れ、
前記醗酵容器を、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入して、当該醗酵容器を、前記飲料容器内における前記口部から飲料液面までの間の液面上方内部空間に配置し、
前記飲料容器内における前記液面上方内部空間と、前記醗酵性物質を入れた前記醗酵容器の内部とを、前記醗酵容器の前記上端開口を介して連通した状態を形成し、
前記飲料容器の口部に栓をして当該飲料容器を密閉し、
この状態で前記醗酵性物質を醗酵させて前記炭酸ガスを発生させ、発生した前記炭酸ガスを、前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間を経由させて前記飲料に溶け込ませ、
しかる後に、前記飲料容器から前記醗酵容器を取り出すことを特徴とする醗酵により生じた炭酸ガスを溶け込ませた飲料の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記醗酵性物質を入れた後の前記醗酵容器の前記上端開口を通気性の栓で封鎖し、この状態で前記醗酵容器を前記飲料容器内に挿入し、
前記醗酵容器内で発生した炭酸ガスが、前記通気性の栓を通って、前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込むことを特徴とする醗酵により生じた炭酸ガスを溶け込ませた飲料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記飲料容器として、前記口部の内周面部分に、内方に隆起して内径が絞られた膨れ部分が形成されたものを使用し、
前記醗酵容器として、前記上端開口の外周縁に、前記膨れ部分に上側から引掛り可能なリップルが形成されたものを使用し、
前記飲料容器の前記飲料液面が前記膨れ部分よりも下に位置するように、前記炭酸ガスを溶け込ませる前の前記飲料を前記飲料容器に入れ、
前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入した前記醗酵容器を、前記飲料容器の前記液面上方内部空間内に吊り下げられた状態を形成し、
前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込む前記炭酸ガスが、前記膨れ部分と前記リップルの間の微細な隙間を通って前記飲料に溶け込むことを特徴とする醗酵により生じた炭酸ガスを溶け込ませた飲料の製造方法。
【請求項4】
飲料が充填された飲料容器と、
前記飲料容器の栓と、
醗酵性物質が充填された醗酵容器とを備え、
前記飲料容器は、底付きの円筒状胴部と、当該円筒状胴部の上端部分に形成した口部と、当該口部の内周面部分において内方に隆起して内径が絞られている膨れ部分とを備えており、
前記醗酵容器は、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入可能であり、底付きの円筒状胴部と、当該円筒状胴部の上端開口と、当該上端開口の外周縁に形成されている当該円筒状胴部よりも大径のリップルとを備えており、
前記飲料容器には、前記飲料の液面が前記膨れ部分よりも下方に位置するように、前記飲料が充填されており、
前記醗酵容器は、前記飲料容器の前記口部から挿入され、前記リップルが前記膨れ部分に上側から引掛ることで、前記飲料容器の内部において前記液面の上方に位置するように吊り下げられており、
前記栓により前記飲料容器の前記口部が封鎖されて、前記飲料容器が密閉されており、
前記飲料容器内における前記液面の上方の液面上方内部空間と、前記醗酵容器の内部とは、当該醗酵容器の前記上端開口を介して前記醗酵性物質から発生した炭酸ガスが流通可能な連通状態に保持され、
前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込む前記炭酸ガスは、前記膨れ部分と前記リップルの間の微細な隙間を通って前記飲料に溶け込むことを特徴とする容器入り飲料。
【請求項5】
請求項4において、
前記醗酵容器の前記上端開口を封鎖している通気性の栓を有し、
前記通気性の栓は、前記炭酸ガスが流通可能であることを特徴とする容器入り飲料。
【請求項6】
請求項4または5において、
前記飲料容器は販売用容器であることを特徴とする容器入り飲料。
【請求項7】
請求項4ないし6のうちのいずれかの項において、
前記醗酵性物質は、酵母菌を含む醗酵活性のある醪または濁り酒であることを特徴とする容器入り飲料。
【請求項8】
請求項7において、
前記飲料容器に充填される前記飲料は清酒であることを特徴とする容器入り飲料。
【請求項9】
醗酵により生じた揮発性物質を溶け込ませた飲料の製造方法であって、
上端に口部を備えた飲料容器に、前記揮発性物質を溶け込ませる前の前記飲料を入れると共に、上端開口を備えた醗酵容器に醗酵性物質を入れ、
前記醗酵容器を、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入して、当該醗酵容器を、前記飲料容器内における前記口部から飲料液面までの間の液面上方内部空間に配置し、
前記飲料容器内における前記液面上方内部空間と、前記醗酵性物質を入れた前記醗酵容器の内部とを、前記醗酵容器の前記上端開口を介して連通した状態を形成し、
前記飲料容器の口部に栓をして当該飲料容器を密閉し、
この状態で前記醗酵性物質を醗酵させて前記揮発性物質を発生させ、発生した前記揮発性物質を、前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間を経由させて前記飲料に溶け込ませ、
しかる後に、前記飲料容器から前記醗酵容器を取り出すことを特徴とする醗酵により生じた揮発性物質を溶け込ませた飲料の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記醗酵性物質を入れた後の前記醗酵容器の前記上端開口を通気性の栓で封鎖し、この状態で前記醗酵容器を前記飲料容器内に挿入し、
前記醗酵容器内で発生した前記揮発性物質が、前記通気性の栓を通って、前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込むことを特徴とする醗酵により生じた揮発性物質を溶け込ませた飲料の製造方法。
【請求項11】
請求項9または10において、
前記飲料容器として、前記口部の内周面部分に、内方に隆起して内径が絞られた膨れ部分が形成されたものを使用し、
前記醗酵容器として、前記上端開口の外周縁に、前記膨れ部分に上側から引掛り可能なリップルが形成されたものを使用し、
前記飲料容器の前記飲料液面が前記膨れ部分よりも下に位置するように、前記揮発性物質を溶け込ませる前の前記飲料を前記飲料容器に入れ、
前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入した前記醗酵容器を、前記飲料容器の前記液面上方内部空間内に吊り下げられた状態を形成し、
前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込む前記揮発性物質が、前記膨れ部分と前記リップルの間の微細な隙間を通って前記飲料に溶け込むことを特徴とする醗酵により生じた揮発性物質を溶け込ませた飲料の製造方法。
【請求項12】
飲料が充填された飲料容器と、
前記飲料容器の栓と、
醗酵性物質が充填された醗酵容器とを備え、
前記飲料容器は、底付きの円筒状胴部と、当該円筒状胴部の上端部分に形成した口部と、当該口部の内周面部分において内方に隆起して内径が絞られている膨れ部分とを備えており、
前記醗酵容器は、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入可能であり、底付きの円筒状胴部と、当該円筒状胴部の上端開口と、当該上端開口の外周縁に形成されている当該円筒状胴部よりも大径のリップルとを備えており、
前記飲料容器には、前記飲料の液面が前記膨れ部分よりも下方に位置するように、前記飲料が充填されており、
前記醗酵容器は、前記飲料容器の前記口部から挿入され、前記リップルが前記膨れ部分に上側から引掛ることで、前記飲料容器の内部において前記液面の上方に位置するように吊り下げられており、
前記栓により前記飲料容器の前記口部が封鎖されて、前記飲料容器が密閉されており、
前記飲料容器内における前記液面の上方の液面上方内部空間と、前記醗酵容器の内部とは、当該醗酵容器の前記上端開口を介して前記醗酵性物質から発生した揮発性物質が流通可能な連通状態に保持され、
前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込む前記揮発性物質は、前記膨れ部分と前記リップルの間の微細な隙間を通って前記飲料に溶け込むことを特徴とする容器入り飲料。
【請求項13】
請求項12において、
前記醗酵容器の前記上端開口を封鎖している通気性の栓を有し、
前記通気性の栓は、前記揮発性物質が流通可能であることを特徴とする容器入り飲料。
【請求項14】
請求項12または13において、
前記飲料容器は販売用容器であることを特徴とする容器入り飲料。
【請求項15】
請求項12ないし14のうちのいずれかの項において、
前記醗酵性物質は、酵母菌を含む醗酵活性のある醪または濁り酒であることを特徴とする容器入り飲料。
【請求項16】
請求項15において、
前記飲料容器に充填される前記飲料は清酒であることを特徴とする容器入り飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醗酵により生じた炭酸ガス等の揮発性物質を溶け込ませた発泡性アルコール飲料、発泡性果実飲料、発泡性清涼飲料などの飲料の製造方法、および、容器入り飲料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
醗酵により生じた揮発性物質を溶け込ませた飲料、典型的には、炭酸ガスを溶け込ませた飲料としては、発泡性清酒(濁り酒を含む)、シャンパンなどのアルコール飲料が知られている。また、より商品価値を高めるために飲料内の滓を分離した発泡性のアルコール飲料、例えば発泡性清酒の製造方法には、耐圧密閉式の大型の醪タンク内で清酒を後醗酵させた後にろ過して得られる清浄ろ液を瓶詰めする方法、酵母等を含む濁り酒を瓶詰めした後に二次醗酵させ、しかる後に瓶内から滓を除去する方法などがある。特許文献1には後者の発泡性清酒の製造方法が提案されている。
【0003】
また、特許文献2には、酵母を入れた飲料を二次醗酵させて発泡酒を製造する方法が記載されている。ここでは、飲料容器内に、酵母を封入した多孔質セラミック体を浸漬し、酵母の醗酵により発生した炭酸ガスを多孔質セラミック体の微細な孔を通して飲料容器内の飲料に溶け込ませるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2009/048180号のパンフレット
【特許文献2】特開平01−257456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
醗酵によって生じた炭酸ガスを溶け込ませた従来の発泡性清酒の製造方法においては、醗酵後の滓を清酒からろ過して除去する作業工程が必要である。例えば、特許文献1に開示の製造方法では、醗酵後に容器を倒立させた状態で栓を開き、容器口部に溜まった滓を容器外に排出するようにしている。しかしながら、このような作業は煩雑で、時間も掛かり、生産性が低いという問題点がある。
【0006】
また、大型の醪タンク内で清酒を後醗酵させた後にろ過して得られる清浄ろ液を瓶詰めする方法では、清浄ろ液の工場内での移送や瓶詰め作業などの物理的刺激により、清浄ろ液に含まれる炭酸ガスが散逸しやすいという問題点がある。更に、醗酵に必要な糖分などの栄養分が製品自体に含まれる必要があり、製品の成分には自ずと制約がある。
【0007】
ここで、特許文献2に記載の方法では、酵母を封入した多孔質セラミック発泡体を飲料容器内の容器に浸漬させている。この方法は、特許文献1に記載の方法に比べて、醗酵後の滓の処理が簡単である。しかしながら、醗酵のために多孔質セラミック発泡体製の容器を製造して用いる必要があり、製造コストが掛かる。
【0008】
また、アルコール醗酵を利用する場合においては、醗酵により生じたアルコール等の成分が多孔質セラミック発泡体の微細な孔を通って、製品に溶け込む。このため、醗酵により生じた炭酸ガスを溶け込ませた発泡性果実飲料、発泡性清涼飲料など、アルコールを含まない飲料の製造には利用できないという問題点がある。
【0009】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、炭酸ガス等の揮発性物質を飲料に溶け込ませた後の醗酵性物質を飲料から分離除去する作業を省略できるようにした、醗酵により生じた炭酸ガス等の揮発性物質を溶け込ませた飲料の製造方法、および、容器入り飲料を提案することにある。
【0010】
また、本発明の課題は、飲料容器中の飲料に直接、醗酵により生じた炭酸ガス等の揮発性物質を溶け込ませることにより、炭酸ガス等の揮発性物質の散逸を最低限に防ぐことができるようにした、醗酵により生じた炭酸ガス等の揮発性物質を溶け込ませた飲料の製造方法、および、容器入り飲料を提案することにある。
【0011】
さらに、本発明の課題は、醗酵により生じた炭酸ガス等の揮発性物質を溶け込ませる飲料の成分の自由度を飛躍的に高めることができるようにした、醗酵により生じた炭酸ガス等の揮発性物質を溶け込ませた飲料の製造方法、および、容器入り飲料を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明は、醗酵により生じた炭酸ガスを溶け込ませた飲料の製造方法において、
上端に口部を備えた飲料容器に、前記炭酸ガスを溶け込ませる前の前記飲料を入れると共に、上端開口を備えた醗酵容器に醗酵性物質を入れ、
前記醗酵容器を、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入して、当該醗酵容器を、前記飲料容器内における前記口部から飲料液面までの間の液面上方内部空間に配置し、
前記飲料容器内における前記液面上方内部空間と、前記醗酵性物質を入れた前記醗酵容器の内部とを、前記醗酵容器の前記上端開口を介して連通した状態を形成し、
前記飲料容器の口部に栓をして当該飲料容器を密閉し、
この状態で前記醗酵性物質を醗酵させて前記炭酸ガスを発生させ、発生した前記炭酸ガスを、前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間を経由させて前記飲料に溶け込ませ、
しかる後に、前記飲料容器から前記醗酵容器を取り出すことを特徴としている。
【0013】
本発明の方法によれば、飲料から醗酵後の滓をろ過あるいは除去する工程が不要になり、炭酸ガスを溶け込ませた飲料の生産効率を高めることができる。また、醗酵性物質の滓が飲料内に残り、飲料の清浄度あるいは透明性が低下してしまうという弊害も発生しない。さらに、醗酵に必要な糖分などの栄養分は醗酵容器内における醗酵性物質に含まれているため、炭酸ガスを溶け込ませた飲料の成分には何ら制約がないという利点がある。これに加えて、アルコール醗酵を利用する場合には、醗酵により生じたアルコールが製品に溶け込むため、醗酵により生じた炭酸ガスを溶け込ませた発泡性果実飲料、発泡性清涼飲料など、アルコールを含まない飲料の製造には利用できない、という弊害があるが、本発明によればこのような弊害を解消できるという利点がある。
【0014】
本発明の方法において、前記醗酵性物質を入れた後の前記醗酵容器の前記上端開口を通気性の栓で封鎖し、この状態で前記醗酵容器を前記飲料容器内に挿入しておくことができる。このようにすれば、前記醗酵容器内で発生した炭酸ガスが、前記通気性の栓を通って、前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込む。醗酵性物質を入れた醗酵容器の取り扱い時に、醗酵容器の上端開口から醗酵性物質が漏れ出ることがなく、醗酵容器の取り扱いが容易になる。また、醗酵状態において、誤って飲料容器を倒した場合等においても、醗酵性物質が飲料容器内の飲料に混入してしまうことがない。
【0015】
醗酵容器を、飲料容器内における液面上方内部空間に配置することができるようにするためには次のようにすればよい。前記飲料容器として、前記口部の内周面部分に、内方に隆起して内径が絞られた膨れ部分が形成されたものを使用する。また、前記醗酵容器として、前記上端開口の外周縁に、前記膨れ部分に上側から引掛り可能なリップルが形成されたものを使用する。前記飲料容器の前記飲料液面が前記膨れ部分よりも下に位置するように、前記炭酸ガスを溶け込ませる前の前記飲料を前記飲料容器に入れ、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入した前記醗酵容器を、前記飲料容器の前記液面上方内部空間内に吊り下げられた状態を形成する。また、前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込む前記炭酸ガスが、前記膨れ部分と前記リップルの間の微細な隙間を通って前記飲料に溶け込むようにする。
【0016】
飲料容器内に醗酵容器を入れると、自動的に、飲料容器内の液面上方内部空間内に醗酵容器が配置された状態が形成される。したがって、醗酵容器を飲料容器内の液面上方内部空間内に配置する操作をワンタッチで簡単に行うことができる。また、飲料容器内から醗酵容器を取り出す操作も簡単に行うことができる。
【0017】
次に、本発明の容器入り飲料は、
飲料が充填された飲料容器と、
前記飲料容器の栓と、
醗酵性物質が充填された醗酵容器とを備え、
前記飲料容器は、底付きの円筒状胴部と、当該円筒状胴部の上端部分に形成した口部と、当該口部の内周面部分において内方に隆起して内径が絞られている膨れ部分とを備えており、
前記醗酵容器は、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入可能であり、底付きの円筒状胴部と、当該円筒状胴部の上端開口と、当該上端開口の外周縁に形成されている当該円筒状胴部よりも大径のリップルとを備えており、
前記飲料容器には、前記飲料の液面が前記膨れ部分よりも下方に位置するように、前記飲料が充填されており、
前記醗酵容器は、前記飲料容器の前記口部から挿入され、前記リップルが前記膨れ部分に上側から引掛ることで、前記飲料容器の内部において前記液面の上方に位置するように吊り下げられており、
前記栓により前記飲料容器の前記口部が封鎖されて、前記飲料容器が密閉されており、
前記飲料容器内における前記液面の上方の液面上方内部空間と、前記醗酵容器の内部とは、当該醗酵容器の前記上端開口を介して前記醗酵性物質から発生した炭酸ガスが流通可能な連通状態に保持され、
前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込む前記炭酸ガスは、前記膨れ部分と前記リップルの間の微細な隙間を通って前記飲料に溶け込むことを特徴としている。
【0018】
ここで、飲料容器として販売用飲料容器を用いれば、飲料が充填された飲料容器に、醗酵性物質が充填された醗酵容器を挿入した状態のままで出荷あるいは販売することができ、極めて便利である。また、購入者は醗酵容器を取り出すだけで良いので、購入者に負担が掛かることもない。
【0019】
醗酵性物質としては酒造に用いられている酵母菌を含む醪や濁り酒などを用いることができる。飲料として清酒を使用すれば、清浄度あるいは透明度の高い発泡性清酒を得ることができる。
【0020】
一方、本発明は、醗酵により生じた揮発性物質を溶け込ませた飲料の製造方法であって、
上端に口部を備えた飲料容器に、前記揮発性物質を溶け込ませる前の前記飲料を入れると共に、上端開口を備えた醗酵容器に醗酵性物質を入れ、
前記醗酵容器を、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入して、当該醗酵容器を、前記飲料容器内における前記口部から飲料液面までの間の液面上方内部空間に配置し、
前記飲料容器内における前記液面上方内部空間と、前記醗酵性物質を入れた前記醗酵容器の内部とを、前記醗酵容器の前記上端開口を介して連通した状態を形成し、
前記飲料容器の口部に栓をして当該飲料容器を密閉し、
この状態で前記醗酵性物質を醗酵させて前記揮発性物質を発生させ、発生した前記揮発性物質を、前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間を経由させて前記飲料に溶け込ませ、
しかる後に、前記飲料容器から前記醗酵容器を取り出すことを特徴としている。
【0021】
本発明は、醗酵容器に入れた醗酵性物質から、醗酵により発生する炭酸ガス以外の揮発性物質に着目したものである。一般的に醗酵により生成する物質としては、炭酸ガスの他にアルコールや各種有機酸などがあるが、量が格段に減るものの香気成分としてのエステル類も生成する。醗酵性物質からは、醗酵により、炭酸ガスとアルコールがパーセントのオーダーで生産され、エステル類はppmのオーダーで生産される。エステル類はppmのオーダーでも香気成分としては十分な量として臭覚に訴えることが可能である。
【0022】
また、日本酒などの製造で用いられる酵母は、ブドウ糖を代謝して、炭酸ガスとアルコールに分解するのが主たる働きであるが、それに付随してタンパク質や脂質を代謝する中で、香気成分としての各種エステル類を生産することが期待される。醗酵性物質に含まれる酵母としては、そのような各種エステル類を多く生産するものから、余り生産しないものまで色々な種類のものが知られている。
【0023】
したがって、醗酵容器内の醗酵性物質に、例えば、揮発性芳香性物質(各種エステル類)等を多く生産する酵母を含ませて、炭酸ガス以外の揮発性物質を飲料に溶け込ませるようにすることができる。具体的には、揮発性芳香性物質を水に溶け込ませることにより、清酒風味の清涼飲料などを製造することができる。また、炭酸ガスと、このような揮発性芳香性物質の双方を水に溶け込ませて芳香性の炭酸飲料を製造することができる。このとき、炭酸ガスは醗酵容器内の醗酵が進むにつれて醗酵容器内の液相で飽和し、溶けきれずに気相に放出されて飲料に溶け込むものの、同時に生産されるアルコールは親水性が高いために醗酵容器内の液相に溶け込んで留まるものが圧倒的で、気相に放出されるものはごく僅かであり、清酒風味の清涼飲料や芳香性の炭酸飲料に含まれるアルコール濃度は、酒税法で酒類とされる1パーセントに遠く及ばない。
【0024】
ここで、本発明の方法では、前記醗酵性物質を入れた後の前記醗酵容器の前記上端開口を通気性の栓で封鎖し、この状態で前記醗酵容器を前記飲料容器内に挿入し、前記醗酵容器内で発生した前記揮発性物質が、前記通気性の栓を通って、前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込むことを特徴としている。
【0025】
また、本発明の方法では、前記飲料容器として、前記口部の内周面部分に、内方に隆起して内径が絞られた膨れ部分が形成されたものを使用し、前記醗酵容器として、前記上端開口の外周縁に、前記膨れ部分に上側から引掛り可能なリップルが形成されたものを使用し、前記飲料容器の前記飲料液面が前記膨れ部分よりも下に位置するように、前記揮発性物質を溶け込ませる前の前記飲料を前記飲料容器に入れ、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入した前記醗酵容器を、前記飲料容器の前記液面上方内部空間内に吊り下げられた状態を形成し、前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込む前記揮発性物質が、前記膨れ部分と前記リップルの間の微細な隙間を通って前記飲料に溶け込むことを特徴としている。
【0026】
次に、本発明の容器入り飲料は、
飲料が充填された飲料容器と、
前記飲料容器の栓と、
醗酵性物質が充填された醗酵容器とを備え、
前記飲料容器は、底付きの円筒状胴部と、当該円筒状胴部の上端部分に形成した口部と、当該口部の内周面部分において内方に隆起して内径が絞られている膨れ部分とを備えており、
前記醗酵容器は、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入可能であり、底付きの円筒状胴部と、当該円筒状胴部の上端開口と、当該上端開口の外周縁に形成されている当該円筒状胴部よりも大径のリップルとを備えており、
前記飲料容器には、前記飲料の液面が前記膨れ部分よりも下方に位置するように、前記飲料が充填されており、
前記醗酵容器は、前記飲料容器の前記口部から挿入され、前記リップルが前記膨れ部分に上側から引掛ることで、前記飲料容器の内部において前記液面の上方に位置するように吊り下げられており、
前記栓により前記飲料容器の前記口部が封鎖されて、前記飲料容器が密閉されており、
前記飲料容器内における前記液面の上方の液面上方内部空間と、前記醗酵容器の内部とは、当該醗酵容器の前記上端開口を介して前記醗酵性物質から発生した揮発性物質が流通可能な連通状態に保持され、
前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込む前記揮発性物質は、前記膨れ部分と前記リップルの間の微細な隙間を通って前記飲料に溶け込むことを特徴としている。
【0027】
ここで、本発明の容器入り飲料では、前記醗酵容器の前記上端開口を封鎖している通気性の栓を有し、前記通気性の栓は、前記揮発性物質が流通可能であることを特徴としている。
【0028】
また、本発明の容器入り飲料では、前記飲料容器は販売用容器であることを特徴としている。
【0029】
さらに、本発明の容器入り飲料では、前記醗酵性物質は、酵母菌を含む醗酵活性のある醪または濁り酒であることを特徴としている。
【0030】
さらにまた、本発明の容器入り飲料では、前記飲料容器に充填される前記飲料は清酒であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0031】
本発明では、醗酵容器を飲料容器内における液面上方内部空間に配置し、醗酵容器の上端開口と飲料容器内の液面上方内部空間を連通させ、この状態で醗酵容器内の醗酵性物質を醗酵させるようにしている。醗酵容器としては一般的な試験管状のガラス容器を用いることができ、廉価に発泡性飲料を製造できる。
【0032】
また、醗酵に必要な糖分などの栄養分は醗酵容器内における醗酵性物質に含まれているため、炭酸ガス等の揮発性物質を溶け込ませた飲料の成分には何ら制約がないという利点がある。
【0033】
さらに、醗酵性物質は飲料から隔離されているので、醗酵性物質から発生する炭酸ガス等の揮発性物質以外の成分が飲料内に混入することがない。したがって、醗酵容器として多孔性セラミック素材を用いる場合等とは異なり、醗酵により生じた炭酸ガスを溶け込ませたアルコールを含まない発泡性果実飲料、発泡性清涼飲料などの発泡性飲料の製造等にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明を適用した発泡性清酒の製造方法を示す概略フローチャートである。
図2】(a)は清酒容器に醗酵容器を挿入する前の状態を示す説明図であり、(b)は清酒容器に醗酵容器を挿入して清酒容器を密閉した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下の実施の形態は、醗酵により生じた炭酸ガスを溶け込ませた飲料の製造方法、および、容器入り飲料に関するものである。本発明は、醗酵により生じた炭酸ガス以外の揮発性物質を溶け込ませた飲料の製造方法、および、容器入り飲料にも同様に適用可能である。
【0036】
図1および図2には本発明を適用した発泡性清酒の製造方法の一例を示してある。これらの図を参照して説明すると、発泡性清酒の製造に当っては、まず、通常の方法によって清酒1を製造し(図1のステップST1)、これを飲料容器としての清酒容器2に充填する(図1のステップST2)。また、醗酵活性のある醪3を用意し(図1のステップST3)、これを醗酵容器4に入れる(図1のステップST4)。ここで、醪の代わりに、醪を荒く漉した醗酵活性のある濁り酒を用いても一向に構わない。
【0037】
清酒容器2としては、図2(a)に示すように、出荷販売用の瓶を用いることができる。この清酒容器2は底付きの円筒状胴部2aの上端部分が上方に向かって徐々に小径となっている首部2bとなっている。首部2bの上端部分が外周面に雄ねじ2cが形成された口部2dとなっており、口部2dにおける雄ねじ2cの下側にはサポートリング2eが形成されている。口部2dにおけるサポートリング2eが形成されている部分の内周面部分は、内方に僅かに隆起して内径が絞られている膨れ部分2fとなっている。なお、図2においては、分かり易くするために、膨れ部分2fを誇張して描いてある。清酒容器2の口部2dには蓋5がねじ込まれて封鎖される。
【0038】
なお、口部2dは王冠式のようなねじ込式でなくても良いし、サポートリング2eは必ずしも必要ではない。また、飲料容器は、底付きの円筒状胴部および口部を備えたものであればよい。容器素材としては一般的にはガラスであるが、セラミックス、プラスチック、金属を用いることも可能である。
【0039】
醗酵容器4としては、図2(a)に示すように、市販の試験管と同様な細長いガラス製の容器を用いることができる。醗酵容器4の底付きの円筒状胴部4aと、この円筒状胴部4aの上端に形成した上端開口4bとを備えている。上端開口4bの外周縁には、僅かに大径のリップル4cが形成されている。醗酵容器4は清酒容器2の口部2dからその内部に挿入可能な細長い容器である。醗酵容器4の上端開口は必ずしも封鎖する必要は無いが、必要に応じて通気性を持つ発泡シリコンなどの通気性素材からなる栓6によって封鎖可能である。なお、醗酵容器4の素材は一般的にはガラスであるが、セラミックス、プラスチック、金属を用いることも可能である。
【0040】
清酒容器2に清酒1を充填し、醗酵容器4に醪3を充填した後は、醗酵容器4の上端開口はそのままでも良いし、必要に応じて栓6を用いて封鎖しても良い。しかる後に、醗酵容器4を清酒容器2の口部2dから当該清酒容器2の内部に挿入する。清酒容器2の口部2dの内周面部分には膨れ部分2fがあり、醗酵容器4の上端開口縁には僅かに大径のリップル4cが形成されている。したがって、清酒容器2に挿入した醗酵容器4のリップル4cが清酒容器2の膨れ部分2fに引掛り、清酒容器2の内部に醗酵容器4が吊り下げられた状態になる。
【0041】
ここで、醗酵容器4は、清酒容器2内において、口部2dから清酒1の液面1aまでの間の液面上方内部空間7に配置される。本例では、上記のように醗酵容器4のリップル4cが清酒容器2の膨れ部分2fに引掛かり、吊り下げられた状態で液面上方内部空間7に醗酵容器4が配置される。この後は、蓋5を清酒容器2の口部2dに被せて当該口部2dを密閉する(図1のステップST5)。
【0042】
図2(b)はこの状態を示す縦断面図である。この図に示すように、清酒容器2における清酒1の液面1a上方の液面上方内部空間7は、醗酵容器4の開放された上端開口部もしくは通気性の栓6を介して、醗酵容器4における醪3が充填された醗酵容器4の内部に連通している。また、醪3は、醗酵容器4の円筒状胴部4aによって、清酒1から隔離された状態となっている。
【0043】
この後は、醪3の醗酵に適した雰囲気中に、醗酵容器4が挿入された清酒容器2を安置し、醪3を醗酵させる(図1のステップST6)。醗酵により炭酸ガス8が発生する。図2(b)に示すように、発生した炭酸ガス8は、開放された醗酵容器4の上端開口部もしくは通気性の栓6を通って、清酒容器2の液面上方内部空間7における膨れ部分2fの上側に流れ込む。そして、清酒容器2の膨れ部分2fと醗酵容器4との微細な隙間を通って、液面上方内部空間7における膨れ部分2fの下側に流れ込み、液面1aから清酒1に徐々に溶け込む。この結果、発泡性清酒が徐々に生成される。
【0044】
予め定めた所定の醗酵期間を経過した後に醪3が醗酵容器4から吹きこぼれないように注意して蓋5を清酒容器2から外し、醗酵容器4を清酒容器2から取り出す(図1のステップST7)。すなわち、清酒1の炭酸ガス含有濃度が所定の値以上になった段階で清酒容器2から醗酵容器4を取り出す。醗酵容器4を取り出し易くするためには、例えば、栓6にタグなどの操作片を取り付けておけばよい。
【0045】
この後は、生成された発泡性清酒が充填されている清酒容器2に通常通り密栓をする(図1のステップST8)。また、必要に応じて火入れを行い、しかる後に、清酒容器2を冷却してもよい。これにより、販売容器である瓶に充填された発泡性清酒が得られ、出荷されるまで貯蔵される。
【0046】
(その他の実施の形態)
上記の例は、本発明の製造方法を発泡性清酒の製造方法に適用したものである。本発明の製造方法は発泡性清酒以外の発泡性飲料の製造方法にも同様に適用可能である。例えば、シャンパンなどの発泡性のアルコール飲料の製造に用いることができる。また、炭酸ガスを含む果実飲料、発泡性清涼飲料などの製造にも用いることができる。
【0047】
さらに、醗酵により生じた炭酸ガスを溶け込ませる飲料は、必ずしも清浄である必要はない。例えば、火入れをして酵母を不活性とした濁り酒や、果肉の含まれた果実飲料であっても一向に構わない。また、上記の例では、醗酵容器を清酒容器等の飲料容器から取り出して出荷するようにしている。飲料容器に醗酵容器を入れたままの状態で出荷あるいは販売する形態を採用することも可能である。
【0048】
一方、本発明は、より自然な食品を求める消費者意識の高まりに対応したものであり、食品添加物としての炭酸ガスを用いるのではなく、醗酵により生じた炭酸ガスを用いることによって、様々な液体に発泡性を持たせることができる。このため、単に飲料のみならず調味料や医薬品など、およそ人が摂取する液体に醗酵により生じた炭酸ガスによる発泡性を与えることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 清酒
1a 液面
2 清酒容器
2a 円筒状胴部
2b 首部
2c 雄ねじ
2d 口部
2e サポートリング
2f 膨れ部分
3 醪
4 醗酵容器
4a 円筒状胴部
4b 上端開口
4c リップル
5 蓋
6 通気性の栓
7 液面上方内部空間
8 炭酸ガス
図1
図2