【発明が解決しようとする課題】
【0005】
醗酵によって生じた炭酸ガスを溶け込ませた従来の発泡性清酒の製造方法においては、醗酵後の滓を清酒からろ過して除去する作業工程が必要である。例えば、特許文献1に開示の製造方法では、醗酵後に容器を倒立させた状態で栓を開き、容器口部に溜まった滓を容器外に排出するようにしている。しかしながら、このような作業は煩雑で、時間も掛かり、生産性が低いという問題点がある。
【0006】
また、大型の醪タンク内で清酒を後醗酵させた後にろ過して得られる清浄ろ液を瓶詰めする方法では、清浄ろ液の工場内での移送や瓶詰め作業などの物理的刺激により、清浄ろ液に含まれる炭酸ガスが散逸しやすいという問題点がある。更に、醗酵に必要な糖分などの栄養分が製品自体に含まれる必要があり、製品の成分には自ずと制約がある。
【0007】
ここで、特許文献2に記載の方法では、酵母を封入した多孔質セラミック発泡体を飲料容器内の容器に浸漬させている。この方法は、特許文献1に記載の方法に比べて、醗酵後の滓の処理が簡単である。しかしながら、醗酵のために多孔質セラミック発泡体製の容器を製造して用いる必要があり、製造コストが掛かる。
【0008】
また、アルコール醗酵を利用する場合においては、醗酵により生じたアルコール等の成分が多孔質セラミック発泡体の微細な孔を通って、製品に溶け込む。このため、醗酵により生じた炭酸ガスを溶け込ませた発泡性果実飲料、発泡性清涼飲料など、アルコールを含まない飲料の製造には利用できないという問題点がある。
【0009】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、炭酸ガス等の揮発性物質を飲料に溶け込ませた後の醗酵性物質を飲料から分離除去する作業を省略できるようにした、醗酵により生じた炭酸ガス等の揮発性物質を溶け込ませた飲料の製造方法、および、容器入り飲料を提案することにある。
【0010】
また、本発明の課題は、飲料容器中の飲料に直接、醗酵により生じた炭酸ガス等の揮発性物質を溶け込ませることにより、炭酸ガス等の揮発性物質の散逸を最低限に防ぐことができるようにした、醗酵により生じた炭酸ガス等の揮発性物質を溶け込ませた飲料の製造方法、および、容器入り飲料を提案することにある。
【0011】
さらに、本発明の課題は、醗酵により生じた炭酸ガス等の揮発性物質を溶け込ませる飲料の成分の自由度を飛躍的に高めることができるようにした、醗酵により生じた炭酸ガス等の揮発性物質を溶け込ませた飲料の製造方法、および、容器入り飲料を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明は、醗酵により生じた炭酸ガスを溶け込ませた飲料の製造方法において、
上端に口部を備えた飲料容器に、前記炭酸ガスを溶け込ませる前の前記飲料を入れると共に、上端開口を備えた醗酵容器に醗酵性物質を入れ、
前記醗酵容器を、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入して、当該醗酵容器を、前記飲料容器内における前記口部から飲料液面までの間の液面上方内部空間に配置し、
前記飲料容器内における前記液面上方内部空間と、前記醗酵性物質を入れた前記醗酵容器の内部とを、前記醗酵容器の前記上端開口を介して連通した状態を形成し、
前記飲料容器の口部に栓をして当該飲料容器を密閉し、
この状態で前記醗酵性物質を醗酵させて前記炭酸ガスを発生させ、発生した前記炭酸ガスを、前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間を経由させて前記飲料に溶け込ませ、
しかる後に、前記飲料容器から前記醗酵容器を取り出すことを特徴としている。
【0013】
本発明の方法によれば、飲料から醗酵後の滓をろ過あるいは除去する工程が不要になり、炭酸ガスを溶け込ませた飲料の生産効率を高めることができる。また、醗酵性物質の滓が飲料内に残り、飲料の清浄度あるいは透明性が低下してしまうという弊害も発生しない。さらに、醗酵に必要な糖分などの栄養分は醗酵容器内における醗酵性物質に含まれているため、炭酸ガスを溶け込ませた飲料の成分には何ら制約がないという利点がある。これに加えて、アルコール醗酵を利用する場合には、醗酵により生じたアルコールが製品に溶け込むため、醗酵により生じた炭酸ガスを溶け込ませた発泡性果実飲料、発泡性清涼飲料など、アルコールを含まない飲料の製造には利用できない、という弊害があるが、本発明によればこのような弊害を解消できるという利点がある。
【0014】
本発明の方法において、前記醗酵性物質を入れた後の前記醗酵容器の前記上端開口を通気性の栓で封鎖し、この状態で前記醗酵容器を前記飲料容器内に挿入しておくことができる。このようにすれば、前記醗酵容器内で発生した炭酸ガスが、前記通気性の栓を通って、前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込む。醗酵性物質を入れた醗酵容器の取り扱い時に、醗酵容器の上端開口から醗酵性物質が漏れ出ることがなく、醗酵容器の取り扱いが容易になる。また、醗酵状態において、誤って飲料容器を倒した場合等においても、醗酵性物質が飲料容器内の飲料に混入してしまうことがない。
【0015】
醗酵容器を、飲料容器内における液面上方内部空間に配置することができるようにするためには次のようにすればよい。前記飲料容器として、前記口部の内周面部分に、内方に隆起して内径が絞られた膨れ部分が形成されたものを使用する。また、前記醗酵容器として、前記上端開口の外周縁に、前記膨れ部分に上側から引掛り可能なリップルが形成されたものを使用する。前記飲料容器の前記飲料液面が前記膨れ部分よりも下に位置するように、前記炭酸ガスを溶け込ませる前の前記飲料を前記飲料容器に入れ、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入した前記醗酵容器を、前記飲料容器の前記液面上方内部空間内に吊り下げられた状態を形成する。また、前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込む前記炭酸ガスが、前記膨れ部分と前記リップルの間の微細な隙間を通って前記飲料に溶け込むようにする。
【0016】
飲料容器内に醗酵容器を入れると、自動的に、飲料容器内の液面上方内部空間内に醗酵容器が配置された状態が形成される。したがって、醗酵容器を飲料容器内の液面上方内部空間内に配置する操作をワンタッチで簡単に行うことができる。また、飲料容器内から醗酵容器を取り出す操作も簡単に行うことができる。
【0017】
次に、本発明の容器入り飲料は、
飲料が充填された飲料容器と、
前記飲料容器の栓と、
醗酵性物質が充填された醗酵容器とを備え、
前記飲料容器は、底付きの円筒状胴部と、当該円筒状胴部の上端部分に形成した口部と、当該口部の内周面部分において内方に隆起して内径が絞られている膨れ部分とを備えており、
前記醗酵容器は、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入可能であり、底付きの円筒状胴部と、当該円筒状胴部の上端開口と、当該上端開口の外周縁に形成されている当該円筒状胴部よりも大径のリップルとを備えており、
前記飲料容器には、前記飲料の液面が前記膨れ部分よりも下方に位置するように、前記飲料が充填されており、
前記醗酵容器は、前記飲料容器の前記口部から挿入され、前記リップルが前記膨れ部分に上側から引掛ることで、前記飲料容器の内部において前記液面の上方に位置するように吊り下げられており、
前記栓により前記飲料容器の前記口部が封鎖されて、前記飲料容器が密閉されており、
前記飲料容器内における前記液面の上方の液面上方内部空間と、前記醗酵容器の内部とは、当該醗酵容器の前記上端開口を介して前記醗酵性物質から発生した炭酸ガスが流通可能な連通状態に保持され、
前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込む前記炭酸ガスは、前記膨れ部分と前記リップルの間の微細な隙間を通って前記飲料に溶け込むことを特徴としている。
【0018】
ここで、飲料容器として販売用飲料容器を用いれば、飲料が充填された飲料容器に、醗酵性物質が充填された醗酵容器を挿入した状態のままで出荷あるいは販売することができ、極めて便利である。また、購入者は醗酵容器を取り出すだけで良いので、購入者に負担が掛かることもない。
【0019】
醗酵性物質としては酒造に用いられている酵母菌を含む醪や濁り酒などを用いることができる。飲料として清酒を使用すれば、清浄度あるいは透明度の高い発泡性清酒を得ることができる。
【0020】
一方、本発明は、醗酵により生じた揮発性物質を溶け込ませた飲料の製造方法であって、
上端に口部を備えた飲料容器に、前記揮発性物質を溶け込ませる前の前記飲料を入れると共に、上端開口を備えた醗酵容器に醗酵性物質を入れ、
前記醗酵容器を、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入して、当該醗酵容器を、前記飲料容器内における前記口部から飲料液面までの間の液面上方内部空間に配置し、
前記飲料容器内における前記液面上方内部空間と、前記醗酵性物質を入れた前記醗酵容器の内部とを、前記醗酵容器の前記上端開口を介して連通した状態を形成し、
前記飲料容器の口部に栓をして当該飲料容器を密閉し、
この状態で前記醗酵性物質を醗酵させて前記揮発性物質を発生させ、発生した前記揮発性物質を、前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間を経由させて前記飲料に溶け込ませ、
しかる後に、前記飲料容器から前記醗酵容器を取り出すことを特徴としている。
【0021】
本発明は、醗酵容器に入れた醗酵性物質から、醗酵により発生する炭酸ガス以外の揮発性物質に着目したものである。一般的に醗酵により生成する物質としては、炭酸ガスの他にアルコールや各種有機酸などがあるが、量が格段に減るものの香気成分としてのエステル類も生成する。醗酵性物質からは、醗酵により、炭酸ガスとアルコールがパーセントのオーダーで生産され、エステル類はppmのオーダーで生産される。エステル類はppmのオーダーでも香気成分としては十分な量として臭覚に訴えることが可能である。
【0022】
また、日本酒などの製造で用いられる酵母は、ブドウ糖を代謝して、炭酸ガスとアルコールに分解するのが主たる働きであるが、それに付随してタンパク質や脂質を代謝する中で、香気成分としての各種エステル類を生産することが期待される。醗酵性物質に含まれる酵母としては、そのような各種エステル類を多く生産するものから、余り生産しないものまで色々な種類のものが知られている。
【0023】
したがって、醗酵容器内の醗酵性物質に、例えば、揮発性芳香性物質(各種エステル類)等を多く生産する酵母を含ませて、炭酸ガス以外の揮発性物質を飲料に溶け込ませるようにすることができる。具体的には、揮発性芳香性物質を水に溶け込ませることにより、清酒風味の清涼飲料などを製造することができる。また、炭酸ガスと、このような揮発性芳香性物質の双方を水に溶け込ませて芳香性の炭酸飲料を製造することができる。このとき、炭酸ガスは醗酵容器内の醗酵が進むにつれて醗酵容器内の液相で飽和し、溶けきれずに気相に放出されて飲料に溶け込むものの、同時に生産されるアルコールは親水性が高いために醗酵容器内の液相に溶け込んで留まるものが圧倒的で、気相に放出されるものはごく僅かであり、清酒風味の清涼飲料や芳香性の炭酸飲料に含まれるアルコール濃度は、酒税法で酒類とされる1パーセントに遠く及ばない。
【0024】
ここで、本発明の方法では、前記醗酵性物質を入れた後の前記醗酵容器の前記上端開口を通気性の栓で封鎖し、この状態で前記醗酵容器を前記飲料容器内に挿入し、前記醗酵容器内で発生した前記揮発性物質が、前記通気性の栓を通って、前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込むことを特徴としている。
【0025】
また、本発明の方法では、前記飲料容器として、前記口部の内周面部分に、内方に隆起して内径が絞られた膨れ部分が形成されたものを使用し、前記醗酵容器として、前記上端開口の外周縁に、前記膨れ部分に上側から引掛り可能なリップルが形成されたものを使用し、前記飲料容器の前記飲料液面が前記膨れ部分よりも下に位置するように、前記揮発性物質を溶け込ませる前の前記飲料を前記飲料容器に入れ、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入した前記醗酵容器を、前記飲料容器の前記液面上方内部空間内に吊り下げられた状態を形成し、前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込む前記揮発性物質が、前記膨れ部分と前記リップルの間の微細な隙間を通って前記飲料に溶け込むことを特徴としている。
【0026】
次に、本発明の容器入り飲料は、
飲料が充填された飲料容器と、
前記飲料容器の栓と、
醗酵性物質が充填された醗酵容器とを備え、
前記飲料容器は、底付きの円筒状胴部と、当該円筒状胴部の上端部分に形成した口部と、当該口部の内周面部分において内方に隆起して内径が絞られている膨れ部分とを備えており、
前記醗酵容器は、前記飲料容器の前記口部から当該飲料容器内に挿入可能であり、底付きの円筒状胴部と、当該円筒状胴部の上端開口と、当該上端開口の外周縁に形成されている当該円筒状胴部よりも大径のリップルとを備えており、
前記飲料容器には、前記飲料の液面が前記膨れ部分よりも下方に位置するように、前記飲料が充填されており、
前記醗酵容器は、前記飲料容器の前記口部から挿入され、前記リップルが前記膨れ部分に上側から引掛ることで、前記飲料容器の内部において前記液面の上方に位置するように吊り下げられており、
前記栓により前記飲料容器の前記口部が封鎖されて、前記飲料容器が密閉されており、
前記飲料容器内における前記液面の上方の液面上方内部空間と、前記醗酵容器の内部とは、当該醗酵容器の前記上端開口を介して前記醗酵性物質から発生した揮発性物質が流通可能な連通状態に保持され、
前記醗酵容器の前記上端開口から前記飲料容器の前記液面上方内部空間に流れ込む前記揮発性物質は、前記膨れ部分と前記リップルの間の微細な隙間を通って前記飲料に溶け込むことを特徴としている。
【0027】
ここで、本発明の容器入り飲料では、前記醗酵容器の前記上端開口を封鎖している通気性の栓を有し、前記通気性の栓は、前記揮発性物質が流通可能であることを特徴としている。
【0028】
また、本発明の容器入り飲料では、前記飲料容器は販売用容器であることを特徴としている。
【0029】
さらに、本発明の容器入り飲料では、前記醗酵性物質は、酵母菌を含む醗酵活性のある醪または濁り酒であることを特徴としている。
【0030】
さらにまた、本発明の容器入り飲料では、前記飲料容器に充填される前記飲料は清酒であることを特徴としている。