【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例に係るカーボンナノチューブの製造方法について、図面に基づき説明する。
本実施例に係るカーボンナノチューブの製造方法に使用するものとして、まず、カーボンナノチューブの製造装置(熱CVD装置)について説明する。
【0017】
本実施例においては、カーボンナノチューブを連続的に形成する基板として、所定の薄鋼板(薄板材の一例であり、例えば箔材の場合は20〜300μm程度の厚さのものが用いられ、板材である場合には、300μm〜数mm程度の厚さのものが用いられる。)を用いるようにしたものである。上記所定の薄鋼板とは、融点が加熱温度(後述するが840℃である)よりも高い金属、例えばステンレス鋼板である。しかも、このステンレス鋼板としては、所定幅で長いもの、つまり帯状のものが用いられる。したがって、このステンレス鋼板はロールに巻き付けられており、カーボンナノチューブの形成に際しては、このロールから引き出されて連続的にカーボンナノチューブが形成されるとともに、このカーボンナノチューブが形成されたステンレス鋼板は、やはり、ロールに巻き取るようにされている。すなわち、一方の巻出しロールからステンレス鋼板を引き出し、この引き出されたステンレス鋼板の表面にカーボンナノチューブを形成した後、このカーボンナノチューブが形成されたステンレス鋼板を他方の巻取りロールに巻き取るようにされている。
【0018】
以下、上述した帯状のステンレス鋼板(以下では基板Kという)の表面に、熱CVD法によりカーボンナノチューブを連続的に形成するための製造装置(熱CVD装置)について説明する。
【0019】
この製造装置には、
図1に示すように、炉本体2の内部にカーボンナノチューブを形成するための細長い処理用空間部が設けられて成る加熱炉1が具備されており、この炉本体2の内部に設けられた処理用空間部は、区画壁3により、複数の、例えば5つの部屋に区画されて(仕切られて)いる。
【0020】
すなわち、この炉本体2の内部には、基板Kが巻き取られた巻出しロール(基板供給部の一例である)16が配置される基板供給室11と、この巻出しロール16から引き出された基板Kを導きその表面に前処理を施すための前処理室12と、この前処理室12で前処理が施された基板Kを導きその表面にカーボンナノチューブを形成するための加熱室(反応室ともいえる)13と、この加熱室13でカーボンナノチューブが形成された基板Kを導き後処理を施すための後処理室14と、この後処理室14で後処理が施された基板Kを巻き取るための巻取りロール(基板回収部の一例である)17が配置された基板回収室(製品回収室ということもできる)15とが具備されている。なお、上記両ロール16,17は、いずれも金属製または所定の樹脂製であり、それら回転軸心は水平方向にされている。したがって、加熱室13内に引き込まれる(案内される)基板Kは、水平面内を移動するとともに基板Kの上面にカーボンナノチューブを形成するようにされている。上記所定の樹脂とは、炉本体2の内部における所定の真空度(後述するが数KPa)でもガスの放出が少ない樹脂である。以下では、基板Kが送り出される方向を前後方向といい、巻取りロール17側を前側、巻出しロール16側を後側とする。また、この前後方向に水平面上で直交する方向を左右方向という。
【0021】
上記前処理室12では、基板Kの表面、特にカーボンナノチューブを形成する表面(上面である)の洗浄、不動態膜の塗布、カーボンナノチューブ形成用の触媒微粒子、具体的には、鉄の微粒子(金属微粒子)の塗布が行われる。洗浄については、アルカリ洗浄、UVオゾン洗浄が用いられる。また、不動態膜の塗布方法としては、ロールコータ、LPDが用いられる。触媒微粒子の塗布方法としては、スパッタ、真空蒸着、ロールコータなどが用いられる。
【0022】
また、後処理室14では、基板Kの冷却と、基板Kの表面、すなわち上面に形成されたカーボンナノチューブの検査とが行われる。
そして、基板回収室15では、基板Kの下面(裏面)に保護フィルムが貼り付けられ、この保護フィルムが貼り付けられたステンレス鋼板である基板Kが巻取りロール17に巻き取られる。なお、基板Kの下面に保護フィルムを貼り付けるようにしているのは、基板Kを巻き取った際に、その巻き取られる基板Kに形成されたカーボンナノチューブを保護するためである。
【0023】
上述したように、炉本体2内には、区画壁3により5つの部屋が形成されており、当然ながら、各区画壁3には、基板Kを通過させ得るスリット7がそれぞれ同一高さに形成されている。
【0024】
上記各ロール16,17は、
図2に示すように、それぞれ炉本体2の外部に配置された各ACサーボモータ5により駆動するものである。すなわち、炉本体2の外部に配置された各ACサーボモータ5は、それぞれの駆動軸が炉本体2の左右いずれかの側壁を貫通して、各ロール16,17の回転軸に接続されている。当然ながら、炉本体2の側壁における上記駆動軸の貫通部には、炉本体2の内部の真空度を維持するために、シール部(例えば磁気シール)6が設けられている。
【0025】
ここで、加熱室13について詳しく説明する。
図1に示すように、この加熱室13を形成する内壁面には所定厚さの断熱材4が貼り付けられている。また、区画壁3および区画壁3に貼り付けられた断熱材4には、基板Kを前処理室12から加熱室13内に引き込むためのスリット7(7A)と、基板Kを加熱室13内から後処理室14に送り出すためのスリット7(7B)とが、同一高さに形成されている。これら前後のスリット7(7A,7B)に亘って、基板Kを載置する平板状の石英ガラス台8が固定されている。したがって、この石英ガラス台8は、その上面において巻出しロール16から巻取りロール17に送り出される基板Kを載せて滑らせることで、当該基板Kに多大な張力を与えることなく弛みの発生を防止するものである。
【0026】
図1および
図2に示すように、加熱室13内には、複数の、例えば17基のガス供給部30が前後方向で水平に配置されている。各ガス供給部30は、
図3および
図4に示すように、原料ガス(例えば、アセチレン、メタン、ブタンなどの低級炭化水素ガスである)または混合ガス(例えば、窒素ガスと水素ガスとの混合)を炉本体2の外部のガス供給源33から加熱室13内に供給するガス供給管34と、このガス供給管34で供給された原料ガスまたは混合ガスを基板Kの上面に導く矩形状のダクト31と、このダクト31と石英ガラス台8との隙間を調整するスペーサ39と、基板Kの上面に導かれた原料ガスまたは混合ガスを炉本体2の外部に排出するガス排出管36と、炉本体2の外部に配置されて当該ガス排出管36に接続された真空ポンプ37とから構成される。なお、上記混合ガスは、窒素ガスまたはヘリウムガスなどの不活性ガス単体であってもよく、不活性ガスと還元ガスとの混合であってもよい。
【0027】
ここで、上記ガス供給管34は、その下端のガス供給口から原料ガスまたは混合ガスをダクト31に供給するものである。上記ガス供給口には、胴部が円柱状で且つ下端部が半球状にされた多孔質シリカよりなるガス分散部材41が配置されて、ガス供給口からダクト31に供給される原料ガスまたは混合ガスを放射状に分散させて基板Kの上面(表面)に均一な密度で到達し得るようにされている。
【0028】
また、上記ダクト31は、下端面が開口した中空の直方体形状であり、ガス供給管34を貫通させるため天板に形成されたガス供給孔32と、ガス排出管36を貫通させるため左右側板の下部にそれぞれ形成されたガス排出孔35とを有する。さらに、上記ダクト31は、基板Kから天板の下面(ダクト31の天壁面)までの高さが、下記(1)式で示す水力直径D以上となるようにされている。
【0029】
D=4a×b/(2a+2b) ・・・(1)
但し、aはダクト31の水平断面における左右方向(または前後方向)の長さ、bは同水平断面における前後方向(または左右方向)の長さを示す。
【0030】
以下では、これらダクト31のうち、最も後側(巻出しロール16側)から、第1ダクト31A,第2ダクト31B,…といい、最も前側(巻取りロール17側)を第17ダクト31Qという。上記スペーサ39は、その上端面で上記ダクト31の下端部の左右縁に当接するとともに下端面で石英ガラス台8の上面に当接して当該ダクト31を支持することにより、上記ダクト31と石英ガラス台8との隙間を調整するものである。この隙間は、ダクト31と基板Kとの接触を防ぐため基板Kの厚さを超える値で設定されるが、ダクト31の下端面が基板Kに十分近づく値で設定される。ダクト31の下端面が基板Kに十分近づくと、ダクト31からの原料ガスまたは混合ガスが、均一に基板Kに導かれるとともに、当該ダクト31から流出することを抑えられるからである。具体的に説明すると、上記隙間は、カーボンナノチューブが形成された基板Kの厚さにカーボンナノチューブの高さの1.5〜10倍(好ましくは2〜5倍)を加えた程度で設定される。上記隙間を精密に調整するため、上記スペーサ39は、0.05〜0.10mm単位で異なる高さのものが多種類用意されており、上記隙間を0.05〜0.10mm単位で調整し得るものである。なお、上記ダクト31およびスペーサ39は、耐熱性を要するとともに、熱膨張の影響およびガスの漏れを抑えるため、いずれも石英ガラス製である。ところで、上記真空ポンプ37は、基板Kの上面に導かれた原料ガスまたは混合ガスを、ガス排出管36を通じて炉本体2の外部まで吸引するとともに、加熱室13内を所定の真空度に減圧するものである。この減圧値としては、3kPa〜10kPaの範囲に維持され、好ましくは3kPa〜4kPaに維持される。なお、上限である10kPaは煤、タールの抑制という面での限界値である。上記加熱室13内を所定の真空度に減圧する目的は、(1)加熱室13内における原料ガスまたは混合ガスの平均自由行程を長くして拡散性を向上させることで、基板Kに当該ガスを均一に供給するためであり、(2)加熱室13内の対流熱伝達を低減することで、基板Kの温度分布を均一するためであり、(3)詳しくは後述する[実験]で説明するが、基板Kの加熱温度を制御することにより、カーボンナノチューブの成長工程を、カーボンナノチューブを所定の長さに成長させる工程と、所定の長さに成長させたカーボンナノチューブにアモルファス層を成長させる工程とに分けるためである。
【0031】
図1に示すように、加熱室13内の石英ガラス台8の下方位置には、当該加熱室13内の基板Kを加熱するための複数本の円柱形状(または棒状)の発熱体22よりなる加熱部21が設けられている。これら発熱体22は前後方向で所定間隔おきに配置され、後側のスリット7(7A)から最も前側のダクトである第17ダクト31Qにまで亘っている。これら発熱体22を含む平面は、基板Kおよび石英ガラス台8と平行、つまり水平に配置されている。また、上記各発熱体22は、
図3に示すように、ヒータ用電源23から電力の供給を受けて遠赤外線により周囲を加熱するものであり、非金属の抵抗発熱体が用いられる。具体的には、炭化ケイ素、ケイ化モリブデン、ランタンクロマイト、ジルコニア、黒鉛などが用いられる。特に、炭化ケイ素およびケイ化モリブデンは、窒素ガス、水素ガス雰囲気下で用いられ、ランタンクロマイトは大気下でのみ用いられ、黒鉛は不活性ガス雰囲気(還元雰囲気)下で用いられる。また、上記各発熱体22は、ヒータ用電源23からの電力を調整することで、自由に加熱温度を調整し得るものである。ところで、上記石英ガラス台8は、加熱室13内の左右側壁まで達しているため、原料ガスまたは混合ガスがダクト31から漏れて加熱部21に達するのを遮断し、また透明であるため、加熱部21からの遠赤外線を透過させて効率的に基板Kを加熱するものである。また、原料ガスの影響を無くすために、上記加熱室13の構成部材のうち、材料について説明したもの以外は、二酸化ケイ素(SiO
2)、アルミナ(Al
2O
3)などの無機材料で構成されている。なお、加熱室13内の異物の侵入を防止するため、断熱材4の内壁面を石英ガラスで覆ってもよい。
【0032】
上記加熱室13では、前後方向で複数(本実施例では5つ)の工程に分けられている。具体的には、
図5に示すように、後側のスリット7(7A)から第3ダクト31Cまでが1回目の基板均熱化(昇温)工程であり、第4ダクト31Dから第7ダクト31Gまでが1回目のカーボンナノチューブ成長工程である。また、第8ダクト31Hから第10ダクト31Jまでが2回目の基板均熱化(昇温)工程であり、第11ダクト31Kから第16ダクト31Pまでが2回目のカーボンナノチューブ成長工程である。さらに、第17ダクト31Qが徐冷工程である。すなわち、ガス供給源33からダクト31に供給されるガスは、第1ダクト31A〜第3ダクト31Cだと混合ガス、第4ダクト31D〜第7ダクト31Gだと原料ガス、第8ダクト31H〜第10ダクト31Jだと混合ガス、第11ダクト31K〜第16ダクト31Pだと原料ガス、第17ダクト31Qだと混合ガスである。なお、上記カーボンナノチューブの成長工程のうち、1回目のものはカーボンナノチューブの長さを成長させ(第一工程である)、2回目のものはカーボンナノチューブのアモルファス層を成長させる(第二工程である)。一方、各発熱体22は、対応する工程における基板Kを適切に加熱するような温度に設定されており、工程ごとの温度変化が断続的に行われることはない。
【0033】
以下、上記製造装置によるカーボンナノチューブの製造方法について説明する。
まず、巻出しロール16から基板Kを引き出し、前処理室12、加熱室13および後処理室14における各区画壁3のスリット7を挿通させ、その先端を巻取りロール17に巻き取らせる。ここで、基板Kは石英ガラス台8に載置されることで、多大な張力を与えられる必要がなく、基板Kの送り出しに必要な力は、基板Kと石英ガラス台8との摩擦力だけで足りる。このため、巻出しロール16および巻取りロール17は、ACサーボモータ5だけでも十分に駆動する。
【0034】
前処理室12では、巻出しロール16から引き出された基板Kが、洗浄された後に、少なくとも上面の全面にシリカ、アルミナなどの不動態膜が塗布され、さらにこの不動態膜の上面に、金属の触媒微粒子が塗布される。この触媒微粒子の金属は、例えば鉄(Fe)、コバルト(Co)またはニッケル(Ni)である。
【0035】
触媒微粒子が塗布された基板Kが引き込まれた加熱室13では、真空ポンプ37により、所定の真空度に、例えば3kPa〜10kPaの範囲に、好ましくは、上述したように3kPa〜4kPaに維持されている。上記基板Kは、加熱室13内で移動する際に、加熱部21により加熱される。基板Kの温度について説明すると、基板Kは、
図5に示すように、後側のスリット7(7A)を通過し第1ダクト31Aの下方に達するまで昇温し、第1ダクト31A〜第7ダクト31Gの下方では640℃〜720℃(第一温度である)の定温のまま移動する。また基板Kは、第8ダクト31H〜第10ダクト31Jの下方ではさらに昇温し、第11ダクト31K〜第16ダクト31Pの下方では780℃〜840℃(第二温度である)の定温のまま移動する。さらに基板Kは、第17ダクト31Qの下方から前側のスリット7(7B)に達するまで徐冷する。
【0036】
第1ダクト31A〜第3ダクト31Cの下方では、基板Kの上面に混合ガスが均一に導かれる。また、第4ダクト31D〜第7ダクト31Gの下方では、基板Kの上面に原料ガスが均一に導かれ、基板Kの上面の触媒微粒子上にカーボンナノチューブの長さを成長させていく。そして、第7ダクト31Gを通過した基板Kには、所望高さ(長さ)のカーボンナノチューブが形成されている。また、第8ダクト31H〜第10ダクト31Jの下方では、基板Kの上面に混合ガスが均一に導かれる。第11ダクト31K〜第16ダクト31Pの下方では、基板Kの上面に原料ガスが均一に導かれ、カーボンナノチューブのアモルファス層を成長させていく。結果として、第17ダクト31Qを通過した基板Kには、所望高さ(長さ)で十分なアモルファス層を有するカーボンナノチューブが形成されている。ところで、全てのダクト31と石英ガラス台8との隙間は、スペーサ39により基板Kの厚さにカーボンナノチューブの高さの1.5〜10倍(好ましくは2〜5倍)を加えた程度で設定されているため、原料ガスまたは混合ガスが均一に基板Kに導かれる。また、加熱室13内が所定の真空度にされるとともに、基板Kからダクト31の天板の下面までの高さが水力直径D以上であるから、原料ガスまたは混合ガスがより均一に基板Kに導かれる。さらに、各ダクト31のガス供給管34から供給された原料ガスまたは混合ガスが、ガス排出管36を通じて真空ポンプ37で吸引されることにより、当該ガスがダクト31の外に漏れず、他のダクト31による原料ガスの反応に悪影響を与えることがない。
【0037】
そして、後処理室14内では、基板Kの冷却と検査とが行われる。
その後、基板Kは基板回収室15内に移動されて、その下面に保護フィルムが貼り付けられるとともに、巻取りロール17に巻き取られる。すなわち、カーボンナノチューブが形成された基板Kが製品として回収されることになる。なお、カーボンナノチューブが形成された基板Kが全て巻取りロール17に巻き取られると、外部に取り出されることになる。
【0038】
このように、上記カーボンナノチューブの製造方法によると、十分な厚みのアモルファス層を有するカーボンナノチューブが形成されるので、凝集を抑制し得るカーボンナノチューブを連続的に製造することができる。
【0039】
また、基板Kに多大な張力を与えることなくカーボンナノチューブを連続的に形成するので、この張力を原因とする反りが発生せず、また、基板Kを平坦な石英ガラス台8に載置することで弛みの発生を防止することで、転写不良が生じないカーボンナノチューブを形成することができる。
【0040】
さらに、スペーサ39によりダクト31と基板Kとの隙間を精密に調整でき、且つ加熱室13内が所定の真空度にされるとともに、基板Kからダクト31の天板の下面までの高さが水力直径D以上であるから、原料ガスがより均一に基板Kに導かれることで、基板Kに形成されるカーボンナノチューブの品質のばらつきを抑え、歩留まりを向上させることができる。
【0041】
また、加熱室13内が所定の真空度にされることにより、基板Kの温度分布が均一になり、より高品質のカーボンナノチューブを得ることができる。
また、基板Kの送り出しにはACサーボモータ5だけで足りるので、トルクモータと減速機とを組み合わせた高価な駆動機器を必要とせず、装置として安価にすることができる。さらに、ACサーボモータ5により、基板Kの送り出しを適切に制御することができる。
【0042】
また、石英ガラス台8に遮断されて、加熱部21に原料ガスまたは混合ガスが達しないことにより、加熱部21の長寿命化を図ることができる。
また、ACサーボモータ5は少ない電力消費で駆動でき、また、各発熱体22は一定の温度に設定されて工程ごとの温度変化が断続的に行われないので、消費電力を大幅に下げることができる。
【0043】
また、連続的に多数(5つ)の工程を含むことにより、一層効率的に高品質のカーボンナノチューブを連続的に形成することができる。
また、上記実施例では、炉本体2の内部を所定の真空度にするとして説明したが、炉本体2の内部の全体ではなく、加熱室13内を所定の真空度にしてもよい。この場合、シール部6は、炉本体2の側壁における上記駆動軸の貫通部ではなく、前後のスリット7に設けられる。
【0044】
ところで、上記実施例では、後処理室14は、基板Kの冷却とカーボンナノチューブの検査とを行うものとして説明したが、さらに、冷却および検査が行われたカーボンナノチューブから電池の電極を形成するものであってもよい。
【0045】
また、上記実施例では、ダクト31は下端面が開口した中空の直方体形状、すなわち左右方向からの側面視および前後方向からの正面視がいずれも長方形状であると説明したが、当該側面視および/または正面視が下広がりの台形状(四角錐台形状)であってもよい。この場合、基板Kからダクト31の天板の下面までの高さは、上述した実施例で示した(1)式の値に、下記(2)式で示される割合(値)を掛けた値とされる。
【0046】
(ダクト31の下端面の水力直径)/(ダクト31の天板の下面の水力直径)・・・(2)
このように(2)式の値を掛けるのは、四角錐台形状のものでは、分散効果が直方体形状のものよりも少し低下するので、これを補うためである。
【0047】
さらに、上記実施例では、カーボンナノチューブが基板Kごと巻取りロール17に巻き取られるとして説明したが、カーボンナノチューブを基板Kから剥離させる工程(第三工程の一例であり以下では剥離工程という)を有し、この剥離工程により基板から剥離されたカーボンナノチューブを回収するようにしていてもよい。
【0048】
以下、この剥離工程について詳細に説明する。
[剥離工程]
徐冷工程を経た基板K、つまり十分な厚みのアモルファス層を有するカーボンナノチューブが形成された基板Kに、酸素を供給する。供給される酸素の量は、カーボンナノチューブを剥離しようとする基板Kの単位面積(cm
2)あたり、0.1〜0.5μL/分とする。このような微量酸素の供給を5〜20分継続することにより、基板Kからカーボンナノチューブを剥離させる。上記微量酸素の供給は、酸素と不活性ガス(例えば窒素など)との混合ガスを供給することにより実現させる。
【0049】
こうして、微量酸素により上記基板Kから剥離されたカーボンナノチューブの根元部は、第一アモルファス層に覆われている。この第一アモルファス層には、その成長過程で生じた短いカーボンナノチューブが存在する。また、上記カーボンナノチューブの上部は、第二アモルファス層で覆われている。このため、上記カーボンナノチューブにおける1本1本のカーボンナノチューブは、上記第一アモルファス層および/または短いカーボンナノチューブと、上記第二アモルファス層とによりファンデルワールス力で結合されている。すなわち、上記カーボンナノチューブは、このファンデルワールス力でシート形状を維持している。したがって、微量酸素により上記基板Kから剥離されたカーボンナノチューブは、上記巻取りロール17などに巻き取られて、製品として回収されることが可能になる。
【0050】
このように回収されたカーボンナノチューブは、そのまま電極部材や放熱部材に用いられる。また、必要に応じて、上記カーボンナノチューブの裏面(根元部端)を導電性部材で支持して用いてもよい。この導電性部材での支持としては、真空蒸着やスパッタリングによる導電性薄膜(銅、アルミニウム、銀など)の形成や、カーボンペーパーの配置などが挙げられる。
【0051】
ところで、上述した本発明の実施例に係るカーボンナノチューブの製造方法では、基板Kの加熱温度や加熱室13内の圧力など具体的な条件を数値で示したが、これら条件を決定するために行った実験およびその結果について、以下に説明する。
【0052】
[実験1]
カーボンナノチューブの長さの成長について、加熱温度および圧力への依存性を知るために、加熱温度を変化させるとともに、圧力を0.2kPa,1kPa,3kPa,3.4kPaの4通りとしてカーボンナノチューブを成長させ、これらカーボンナノチューブの長さを計測した。なお、加熱時間は10分で一定とした。
【0053】
図6に示すように、カーボンナノチューブ(CNT)の長さは、3kPa以上の圧力だと所定温度以上で成長せず、3kPa未満の圧力だと所定温度以上でも成長した。
これにより、カーボンナノチューブの長さの成長を加熱温度で制御するには、3kPa以上の圧力が適しているという結果を得た。
【0054】
[実験2]
カーボンナノチューブの長さの成長について、加熱時間および圧力への依存性を知るために、加熱時間を0分〜30分に変化させるとともに、圧力を0.2kPa,1kPa,3kPaの3通りとしてカーボンナノチューブを成長させ、これらカーボンナノチューブの長さを計測した。
【0055】
図7に示すように、カーボンナノチューブの長さは、15分までだと加熱時間に比例して成長し、15分以上だとそれ以上成長しなかった。
これにより、カーボンナノチューブの長さを成長させるには、加熱時間を15分程度までにすることが適しているという結果を得た。
【0056】
[実験3]
カーボンナノチューブの嵩密度の増加(アモルファス層の成長)について、加熱温度および圧力への依存性を知るために、加熱温度を700℃〜820℃に変化させるとともに、加熱時間を0分,10分,15分,20分,25分,30分の6通りとしてカーボンナノチューブを成長させ、これらカーボンナノチューブの嵩密度を計測した。
【0057】
図8に示すように、カーボンナノチューブの嵩密度は、加熱時間に比例して成長した。
これにより、カーボンナノチューブのアモルファス層を成長させるには、加熱時間を長くすることが適しているという結果を得た。
【0058】
[実験4]
カーボンナノチューブの嵩密度の増加(アモルファス層の成長)について、加熱温度および原料ガスの供給量への依存性を知るために、加熱温度を700℃〜820℃に変化させるとともに、原料ガスの供給量を200sccm(3.38×10
−2Pa・m
3/sec),400sccm(6.76×10
−2Pa・m
3/sec),600sccm(10.14×10
−2Pa・m
3/sec)の3通りとしてカーボンナノチューブを成長させ、これらカーボンナノチューブの嵩密度を計測した。
【0059】
図9に示すように、カーボンナノチューブの嵩密度は、原料ガスの供給量に殆ど依存しなかった。
これにより、カーボンナノチューブにアモルファス層を成長させるには、原料ガスの供給量を200sscm〜600sscmから任意に選択し得るという結果を得た。