特許第6091390号(P6091390)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社河合楽器製作所の特許一覧

<>
  • 特許6091390-鍵盤楽器の鍵盤装置 図000002
  • 特許6091390-鍵盤楽器の鍵盤装置 図000003
  • 特許6091390-鍵盤楽器の鍵盤装置 図000004
  • 特許6091390-鍵盤楽器の鍵盤装置 図000005
  • 特許6091390-鍵盤楽器の鍵盤装置 図000006
  • 特許6091390-鍵盤楽器の鍵盤装置 図000007
  • 特許6091390-鍵盤楽器の鍵盤装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091390
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】鍵盤楽器の鍵盤装置
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/34 20060101AFI20170227BHJP
   G10B 3/12 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   G10H1/34
   G10B3/12 111
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-199720(P2013-199720)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2015-64536(P2015-64536A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001410
【氏名又は名称】株式会社河合楽器製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100187805
【弁理士】
【氏名又は名称】毛利 弘人
(74)【代理人】
【識別番号】100105119
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 孝治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭裕
【審査官】 菊池 智紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−20850(JP,A)
【文献】 特開2011−27854(JP,A)
【文献】 特開2000−56768(JP,A)
【文献】 特開平03−62097(JP,A)
【文献】 特開平08−115079(JP,A)
【文献】 特開2000−122657(JP,A)
【文献】 実開平7−34479(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10B 1/00− 3/22
G10C 1/00− 5/00
G10H 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が前後方向に延びるとともに後端部に左右方向に延びる支点軸を有する複数の鍵と、
これらの複数の鍵を、それぞれの前記支点軸を中心として回動自在に支持するための複数の鍵支持部を有し、前記複数の鍵を左右方向に並んだ状態に保持する鍵盤シャーシと、
を備え、
前記複数の鍵支持部の各々は、
支持すべき鍵の前記支点軸を下方から支持する下側支持部と、
互いに左右方向に所定間隔を隔てた状態で立設され、前記鍵の後端部に対し、前記支点軸よりも上方の部位を上方から支持する左右一対の上側支持部と、
を有し、
前記一対の上側支持部は、前記鍵支持部への前記鍵の取付けの際に、当該一対の上側支持部間が当該鍵の後端部で押し広げられることで弾性変形することによって、当該鍵の後端部の通過を許容し、その通過後に弾性復帰することによって、当該鍵の後端部を、前記下側支持部と協働して抜け止め状態に保持するように構成されていることを特徴とする鍵盤楽器の鍵盤装置。
【請求項2】
前記一対の上側支持部の各々は、支持すべき鍵の前記支点軸を中心とする同心円に沿って凹状に湾曲するように形成された支持面を有しており、
前記鍵の後端部には、前記支点軸を中心とする同心円に沿って凸状に湾曲しかつ前記支持面に摺接する摺接面を有していることを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ピアノなどの鍵盤楽器に適用される鍵盤装置に関し、特に鍵を回動自在に支持する鍵の支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子鍵盤楽器の鍵盤装置として、例えば本出願人がすでに出願した特許文献1及び2に記載されたものが知られている。両特許文献の鍵盤装置はいずれも、鍵盤シャーシと、前後方向に延びるとともに後端部において鍵盤シャーシに回動自在に支持され、左右方向に並設された白鍵及び黒鍵から成る複数の鍵とを備えている。また、これらの鍵盤装置では、鍵盤シャーシ及び鍵がいずれも所定の合成樹脂を射出成形することなどによって構成されている。より具体的には、鍵盤シャーシには、ABS樹脂が用いられる一方、鍵には、傷が付きにくいようにするために、ABS樹脂よりも硬度が高い材料であるAS樹脂が用いられている。
【0003】
特許文献1の鍵盤装置では、鍵及び鍵盤シャーシが次のように構成されている。すなわち、鍵は、その後端部の左右両側に外方に突出する支点軸を有している。一方、鍵盤シャーシは、鍵の支点軸を支持するための円弧状の第1支持部を有しており、この第1支持部と協働して上記支点軸の軸受を構成する第2支持部を有する支点軸受部材が、鍵盤シャーシにねじ止めされることによって、着脱自在に取り付けられている。このように構成された鍵盤装置では、鍵の安定した回動を確保しながら、製造時の組立性及び廃棄時の分解性を向上させることができるようになっている。
【0004】
一方、特許文献2の鍵盤装置では、鍵及び鍵盤シャーシが次のように構成されている。すなわち、鍵は、頂壁の後端部がU字状に切り欠かれ、左右の両側壁の後端部が下方に大きく張り出すように形成されるとともに、それらの両側壁の内面に互いに対向する突起が設けられている。一方、鍵盤シャーシは、鍵ごとに、それを支持する鍵盤支点部が設けられており、各鍵盤支点部には、左右方向に貫通し、鍵の後端部の両突起が両側から挿入した状態で係合する係合孔が形成されている。上記の鍵を鍵盤シャーシに取り付ける際には、鍵の後端部を鍵盤シャーシの鍵盤支点部に向かって押圧することにより、鍵の後端部において、その左右の両側壁が押し広げられるように弾性変形する。そして、鍵をさらに押圧することにより、鍵の後端部の両側壁が弾性復帰し、両突起が鍵盤支点部の係合孔にスナップ嵌めされる。このように構成された鍵盤装置では、鍵の安定した回動を確保しながら、部品点数及び組立工数の削減によって、製造コストの低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−27854号公報
【特許文献2】特開2003−330450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の鍵盤装置では、鍵を支持するために、鍵盤シャーシに、別部品である支点軸受部材を取り付け、かつねじ止めする必要があり、部品点数や組立工数が多くなってしまう。また、支点軸受部材に取付誤差があると、鍵の支点軸にガタツキが生じ、押鍵時に雑音が発生しやすくなる。一方、特許文献2の鍵盤装置では、特許文献1に比べて部品点数や組立工数は少ないものの、次のような問題がある。すなわち、前述したように、鍵はその性質上、硬質のAS樹脂を材料として構成されているため、鍵盤シャーシへの取付けや取外しの際に、後端部の左右の側壁が無理に押し広げられると、それらの側壁に割れなどの損傷が生じるおそれがある。また、運送時などの衝撃により、鍵盤がその前方に押されることなどによって、鍵の側壁が広がる方向に変形し、それにより、後端部の突起が鍵盤支点部の係合孔から外れてしまうという問題もある。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、鍵の安定した回動を確保しながら、鍵盤シャーシへの鍵の取付けの際に、鍵に損傷が発生することなく、その取付けを簡単に行うことができる鍵盤楽器の鍵盤装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、各々が前後方向に延びるとともに後端部に左右方向に延びる支点軸を有する複数の鍵と、これらの複数の鍵を、それぞれの支点軸を中心として回動自在に支持するための複数の鍵支持部を有し、複数の鍵を左右方向に並んだ状態に保持する鍵盤シャーシと、を備え、複数の鍵支持部の各々は、支持すべき鍵の支点軸を下方から支持する下側支持部と、互いに左右方向に所定間隔を隔てた状態で立設され、鍵の後端部に対し、支点軸よりも上方の部位を上方から支持する左右一対の上側支持部と、を有し、一対の上側支持部は、鍵支持部への鍵の取付けの際に、一対の上側支持部間が鍵の後端部で押し広げられることで弾性変形することによって、鍵の後端部の通過を許容し、その通過後に弾性復帰することによって、鍵の後端部を、下側支持部と協働して抜け止め状態に保持するように構成されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、前後方向に延びる複数の鍵の各々が、後端部に左右方向に延びる支点軸を有しており、これらの鍵は、鍵盤シャーシによって左右方向に並んだ状態に保持されるとともに、複数の鍵支持部によってそれぞれ、支点軸を中心として回動自在に支持される。各鍵支持部は、下側支持部によって、支持すべき鍵の支点軸を下方から支持するとともに、立設された左右一対の上側支持部によって鍵の後端部の支点軸よりも上方の部位を支持する。
【0010】
また、鍵支持部への鍵の取付けの際には、一対の上側支持部は次のように変形する。すなわち、鍵の後端部を一対の上側支持部間に挿入するよう押圧すると、両上側支持部間が押し広げられることで弾性変形し、鍵の後端部の通過を許容する。そして、その通過後、両上側支持部が弾性復帰し、鍵の後端部を、下側支持部と協働して抜け止め状態に保持する。これにより、鍵支持部によって支持された鍵は、後端部の支点軸を中心として、安定した回動を確保することができる。また、運送時などに衝撃を受けた場合でも、鍵の後端部が鍵盤シャーシから外れるなどの不具合を生じることはない。
【0011】
また、鍵盤シャーシへの鍵の取付けの際には、鍵盤シャーシに別部品やねじ止めが必要な前述した特許文献1と異なり、鍵の後端部を鍵盤シャーシの鍵支持部に簡単に支持させることができ、それにより、部品の取付誤差に起因する雑音の発生防止や、部品点数及び組立工数の削減を図ることができる。さらに、鍵の取付けの際には、鍵盤シャーシにおける鍵支持部の上側支持部を弾性変形させるものの、鍵の後端部を弾性変形させながら鍵盤シャーシへの取付けを行う前述した特許文献2と異なり、鍵を弾性変形させることがないので、鍵盤シャーシへの鍵の取付けの際に、鍵に損傷が発生することはない。
【0012】
加えて、鍵の取付けの際に弾性変形する鍵支持部の一対の上側支持部は、互い左右方向に間隔を隔てた状態で立設され、支点軸部よりも上方の部位を上方から支持するので、例えば、支点軸を上方から支持する場合に比べて、上側支持部の高さ寸法を大きくすることができ、鍵の取付けの際における上側支持部の弾性変形時の応力を小さくすることができる。それにより、鍵盤シャーシにおける上側支持部の損傷の発生も防止することができる。
【0013】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤装置において、一対の上側支持部の各々は、支持すべき鍵の支点軸を中心とする同心円に沿って凹状に湾曲するように形成された支持面を有しており、鍵の後端部には、支点軸を中心とする同心円に沿って凸状に湾曲しかつ支持面に摺接する摺接面を有していることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、鍵を、その支点軸を中心として回動自在に支持する鍵盤シャーシの鍵支持部において、下側支持部が支点軸を下方から直接、支持する一方、一対の上側支持部の各々は、その支持面を介して、鍵の上記摺接面に摺接した状態で、鍵の後端部を支持する。上側支持部の支持面は、鍵の支点軸を中心とする同心円に沿って凹状に湾曲するように形成される一方、鍵の後端部の摺接面は、支点軸を中心とする同心円に沿って凸状に湾曲しかつ上側支持部の支持面に摺接するので、支点軸を中心とする鍵の円滑かつ安定した回動を容易に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態による鍵盤装置(1オクターブ分)を示す斜視図である。
図2】(a)は図1の鍵盤装置の平面図、(b)は(a)のb−b線で切断したときの図である。
図3】(a)は図1の鍵盤装置の鍵盤シャーシ及び鍵を分解して示す斜視図であり、(b)は鍵盤シャーシの後部の一部を拡大して示す斜視図である。
図4】白鍵及び黒鍵を示す斜視図である。
図5】鍵の後部を拡大して示す図であり、(a)は平面図、(b)は右側面図である。
図6】ハンマーを示す図であり、(a)はハンマーの外観を示す斜視図、(b)はハンマー本体と重りを分解した状態を示す斜視図である。
図7】鍵盤シャーシにおける鍵の回動支持構造を説明するための説明図であり、(a)は鍵盤シャーシ及び鍵の後部を示す平面図、(b)は側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1及び図2は、本発明の一実施形態による電子ピアノの鍵盤装置を、離鍵状態において示している。なお、両図では、1オクターブ分のみを示している。
【0017】
図1及び図2に示すように、この鍵盤装置1は、鍵盤シャーシ2と、この鍵盤シャーシ2に回動自在に取り付けられた白鍵3a及び黒鍵3bから成り、左右方向に並んだ状態に配置された複数の鍵3と、鍵3ごとに鍵盤シャーシ2に回動自在に取り付けられた複数のハンマー4と、各鍵3の押鍵情報を検出するための鍵スイッチ5などを備えている。
【0018】
鍵盤シャーシ2は、所定の樹脂材料(例えばABS樹脂)を射出成形することなどにより、所定形状の樹脂成形品で構成されている。図3(a)に示すように、この鍵盤シャーシ2では、その前部11、中央部12及び後部13がいずれも全体として左右方向に延びるように形成され、これらが左右方向に適宜、間隔を隔てた複数のリブ14によって連結されている。なお、以下の説明では、鍵盤シャーシ2の前部11、中央部12及び後部13をそれぞれ、「シャーシ前部11」、「シャーシ中央部12」及び「シャーシ後部13」というものとする。
【0019】
シャーシ前部11は、白鍵3aをガイドするものである。このシャーシ前部11には、白鍵3aごとに、下方から挿入され、その白鍵3aの横振れを防止するための複数(図3(a)では7つ)の白鍵ガイド部11aが立設されている。また、シャーシ前部11には、各白鍵ガイド部11aの左右両側に、上下方向に貫通する係合孔11b、11bが設けられており、両係合孔11b、11bに、白鍵3aの後述する左右2つの上限位置規制部21a、21aがそれぞれ貫通した状態で係合する。
【0020】
シャーシ中央部12は、黒鍵3bをガイドするものである。このシャーシ中央部12には、前記シャーシ前部11と同様、黒鍵3bごとに、下方から挿入され、その黒鍵3bの横振れを防止するための複数(図3(a)では5つ)の黒鍵ガイド部12aが立設されている。また、シャーシ中央部12の前方には、ハンマー4を支持するハンマー支持部15が設けられている。このハンマー支持部15は、左右方向に延びる一直線上に沿って延びる複数の支軸15aを有しており、これらの支軸15aに、ハンマー4が回動自在に支持されている。
【0021】
また、上記のハンマー支持部15とシャーシ前部11の間には、前記鍵スイッチ5が取り付けられている。この鍵スイッチ5は、左右方向に延びる横長のプリント基板5aと、このプリント基板5a上に鍵3ごとに取り付けられたゴムスイッチから成る複数のスイッチ本体5bとで構成されている。
【0022】
シャーシ後部13は、鍵3を、その後端部において上下方向に回動自在に支持するものである。図3(b)に示すように、シャーシ後部13は、隣接する鍵3、3同士を仕切るよう、互いに左右方向に所定間隔を隔てて、複数の仕切壁16が設けられている。そして、互いに隣り合う仕切壁16、16間には、左右対称に形成され、鍵3を回動自在に支持する所定の鍵支持部17が設けられている。具体的には、鍵支持部17は、鍵3の後述する左右の支点軸24、24を下方からそれぞれ支持する左右の下側支持部18、18(図3(b)では左側のもののみ図示)と、鍵3の後端部において、その上面から背面に亘る部位を上方から支持する左右一対の上側支持部19、19とを備えている。
【0023】
鍵3は、所定の樹脂材料(例えばAS樹脂)を射出成形することなどにより、前後方向に所定長さ延びるとともに、下方に開放する中空状に形成されている。図3(a)及び図4に示すように、白鍵3aの前端部には、左右の側壁から下方に延びかつその下端部が前方に屈曲するように形成された左右一対の上限位置規制部21(21a)が設けられており、前記シャーシ前部11の左右の係合孔11b、11bにそれぞれ貫通した状態で係合している。また、白鍵3aは、上限位置規制部21aよりも後方の所定位置に、下方に突出するアクチュエータ部22(22a)が、ハンマー4の後述する係合凹部34に収容された状態で、これに係合している。一方、黒鍵3bは、その前端部に、白鍵3aの上限位置規制部21a及びアクチュエータ部22aと同様の機能を有する上限位置規制部21(21b)及びアクチュエータ部22(22b)を有している。
【0024】
また、図4及び図5に示すように、鍵3の後部は、それよりも前側部分に対して横幅が狭く形成され、前後方向に延びる後部本体23を有している。この後部本体23の左右の側面にはそれぞれ、後端寄りの所定位置に、外方(左方及び右方)に突出する支点軸24、24が設けられている。各支点軸24は、下半部に円弧面を有しかつ側面形状が半円状に形成された半円部24aと、この半円部24aの前後方向の中央から上方に突出するように形成された凸部24bとを有している。なお、各支点軸24の半円部24aには、その周面に溝24cが形成されており、半円部24aの周面にグリスなどの潤滑剤が塗布されたときに、そのグリスを長期にわたって保持できるようになっている。
【0025】
また、後部本体23の後端部には、その上面から背面に亘り、所定の曲率を有する曲面25が形成されている。この曲面25は、その側面形状が、鍵3の支点軸24を中心とする同心円に沿って凸状に湾曲するように形成されている。さらに、後部本体23の後端部には、上記曲面25に連なり、下方に向かって左右方向の横幅が次第に小さくなるテーパ部26が設けられている。なお、上記の曲面25には、支点軸24の溝24cと同様の機能を有する溝25aが形成されている。
【0026】
図6に示すように、ハンマー4は、ハンマー本体31と、このハンマー本体31に取り付けられた2つの重り32、32とで構成されている。ハンマー本体31は、所定の樹脂材料(例えばPOM(ポリアセタール))を射出成形することなどにより、所定形状の樹脂成形品で構成されている。このハンマー本体31は、前後方向に所定長さ延びていて、前後方向の中央よりも前寄りの所定位置に、側面形状が下方に開放するU字状の軸受部33を有しており、この軸受部33が、鍵盤シャーシ2におけるハンマー支持部15の支軸15aに回動自在に係合している。また、ハンマー本体31の前半部には、軸受部33の前方に、鍵3のアクチュエータ部22に係合する係合凹部34が設けられている。この係合凹部34は、上方及び前方に開放しており、鍵3のアクチュエータ部22の下端が係合凹部34内の底面に当接した状態で、アクチュエータ部22の下部を収容している。さらに、ハンマー本体31の前半部には、係合凹部34の下方に、鍵スイッチ5のスイッチ本体5bを押圧するための複数のスイッチ押圧部35が設けられている。
【0027】
ハンマー本体31の後半部である重り取付部36には、左右両側面の所定位置に、外方に突出する前後2つの係合凸部37、37が設けられるとともに、後ろ側の係合凸部37の付近に、左右方向に貫通する取付孔38が形成されている。なお、重り取付部36の中央に設けられた切欠き36aは、離鍵状態の鍵盤装置1において、これを電子ピアノの棚板10(図2参照)上に固定するためのねじなどが、ハンマー4に当たるのを回避するためのものである。
【0028】
重り32は、ハンマー本体31よりも比重の大きな材料(例えば鉄などの金属)から成り、細長い板状の2枚の重りで構成されている。各重り32は、所定の厚さ及び横幅を有する長尺の金属板をプレス加工することなどによって、所定形状に形成されている。具体的には、各重り32には、ハンマー本体31の2つの係合凸部37、37、取付孔38及び切欠き36aにそれぞれ対応する前後2つの係合孔41、41、取付孔42及び凹部43が形成されている。また、両重り32、32は、ハンマー本体31の重り取付部36を両側から挟んだ状態で、それらの取付孔42、42及び38に挿入されたリベット44をかしめることによって、ハンマー本体31に固定されている。
【0029】
また、各ハンマー4の2つの重りの一方(以下「共通重り32A」という)は、所定長さを有し、全てのハンマー4において共通のものである。また、他方の重り(以下「調整重り32B」という)は、共通重り32Aと同じ長さ、あるいはそれよりも短く形成されている。したがって、調整重り32Bの長さを調整することにより、両重り32A、32Bによるハンマー4の重さを変えることができるようになっている。
【0030】
以上のように構成された鍵盤装置1では、図1及び図2に示す離鍵状態において、鍵3を押鍵すると、その鍵3が、後端部の左右の支点軸24、24を中心として下方に回動する。これに伴い、鍵3のアクチュエータ部22が、ハンマー4の係合凹部34を下方に押圧する。それにより、ハンマー4は、ハンマー支持部15の支軸15aを中心として、図2(b)の反時計方向に回動しながら、スイッチ押圧部35で鍵スイッチ5の対応するスイッチ本体5bを上方から押圧する。なおこの場合、ハンマー4は、その後端部(共通重り32Aの後端部)がシャーシ後部13のハンマーストッパ13aに下方から当接することによって、それ以上の回動が阻止される。以上の押鍵動作により、ハンマー4の重量及びトルクに応じた所定のタッチ重さが、鍵3に付与されるとともに、鍵3の押鍵情報が鍵スイッチ5を介して検出される。
【0031】
一方、押鍵した鍵3を離鍵すると、ハンマー4が上記と逆方向に回動し、それに伴い、鍵3が、アクチュエータ部22を介して押し上げられることにより、上方に回動する。その結果、鍵3及びハンマー4は、図1及び図2に示すように、もとの離鍵状態に復帰する。なお、この場合、鍵3は、その前端部の上限位置規制部21が鍵盤シャーシ2の所定のストッパ20に下方から当接することによって、それ以上の回動が阻止される。
【0032】
次に、本発明に係る鍵盤装置1について、鍵盤シャーシ2の鍵支持部17による鍵3の回動支持構造をさらに詳細に説明する。図7は、鍵盤シャーシ2のシャーシ後部13と鍵3の後部を示している。同図に示すように、鍵支持部17の左右一対の上側支持部19、19は、シャーシ後部13において、鍵3の後部本体23の横幅よりも狭い間隔を隔てた状態で立設されており、各上側支持部19の前面には、鍵3の支点軸24を中心とする同心円に沿って凹状に湾曲する支持面19aを有している。一方、鍵3は、前述したように、後部本体23の後端部に曲面25を有しており、この曲面25(摺接面)は、鍵3の支点軸24を中心とする同心円に沿って凸状に湾曲し、鍵支持部17の各上側支持部19の支持面19aに摺接している。
【0033】
そして、鍵支持部17の左右の下側支持部18、18によって、鍵3の左右の支点軸24、24を下方から支持するとともに、鍵支持部17の左右の上側支持部19、19により、それらの支持面19a、19aを介して、鍵3の上記曲面25の左右縁部を上方から支持している。これにより、鍵3は、押鍵されたときに、支点軸24、24を中心として、安定して回動する。
【0034】
また、鍵盤シャーシ2の鍵支持部17への鍵3の取付けの際には、鍵3の後端部(テーパ部26)を、左右の上側支持部19、19間に上方から挿入するよう押圧する。これにより、両上側支持部19、19が左右に押し広げられながら弾性変形し、鍵3の後端部の下方への通過を許容する。そして、その通過後、両上側支持部19、19が弾性復帰し、鍵3の後端部を、左右の下側支持部18、18と協働して抜け止め状態に保持する。
【0035】
以上詳述したように、本実施形態によれば、下側支持部18、18及び上側支持部19、19を有する鍵支持部17によって、鍵3の後端部を回動自在に支持するので、鍵3を、支点軸24、24を中心として、安定した回動を確保することができる。また、鍵盤シャーシ2への鍵3の取付けの際には、従来と異なり、鍵3を弾性変形させることがないので、鍵3に損傷が発生することなく、その取付けを簡単に行うことができる。
【0036】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、本実施形態の鍵3では、後端部の左右の支点軸24、24を後部本体23の左右の側面から突出するように構成したが、左右方向に延びる単一の支点軸となるように構成することも可能である。また、実施形態で示した鍵盤装置1の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 鍵盤装置
2 鍵盤シャーシ
3 鍵
3a 白鍵
3b 黒鍵
11 鍵盤シャーシの前部
12 鍵盤シャーシの中央部
13 鍵盤シャーシの後部
17 鍵支持部
18 下側支持部
19 上側支持部
19a 支持面
23 鍵の後部本体
24 支点軸
25 曲面(摺接面)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7