特許第6091440号(P6091440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧 ▶ 公益財団法人鉄道総合技術研究所の特許一覧 ▶ 株式会社大林組の特許一覧

<>
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000006
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000007
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000008
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000009
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000010
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000011
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000012
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000013
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000014
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000015
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000016
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000017
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000018
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000019
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000020
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000021
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000022
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000023
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000024
  • 特許6091440-鋼矢板基礎構造 図000025
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091440
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】鋼矢板基礎構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/30 20060101AFI20170227BHJP
   E02D 5/04 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   E02D27/30
   E02D5/04
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-12322(P2014-12322)
(22)【出願日】2014年1月27日
(65)【公開番号】特開2015-140517(P2015-140517A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100178283
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 孝太
(72)【発明者】
【氏名】中山 裕章
(72)【発明者】
【氏名】原田 典佳
(72)【発明者】
【氏名】田中 隆太
(72)【発明者】
【氏名】戸田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】西岡 英俊
(72)【発明者】
【氏名】松浦 光佑
(72)【発明者】
【氏名】喜多 直之
(72)【発明者】
【氏名】光森 章
【審査官】 西田 光宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−248503(JP,A)
【文献】 特開2013−142275(JP,A)
【文献】 特開2008−063765(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/029835(WO,A1)
【文献】 実開昭58−140233(JP,U)
【文献】 特公昭45−013375(JP,B1)
【文献】 特開2011−157781(JP,A)
【文献】 特開2010−222818(JP,A)
【文献】 特開2010−209548(JP,A)
【文献】 特開昭62−133209(JP,A)
【文献】 特開2012−007325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/02
E02D 5/04
E02D 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼矢板がフーチングから下方に向けて設けられる鋼矢板基礎構造であって、
フーチングの前後面から下方に向けて設けられる前後矢板群と、フーチングの両側面から下方に向けて設けられる側面矢板群とを備え、
前記前後矢板群は、前後補強部材が取り付けられて支持地盤まで立設される前後長尺矢板と、軟弱地盤まで立設される前後短尺矢板とが並べられて設けられるものであり、
前記側面矢板群は、側面補強部材が取り付けられて支持地盤まで立設される側面長尺矢板と、軟弱地盤まで立設される側面短尺矢板とが並べられて設けられるものであり、
前記前後長尺矢板は、支持地盤に埋め込まれる先端部に先端加工部が形成されるとともに、フーチングの内側に埋め込まれる接続部から、前記前後短尺矢板の下端部と支持地盤との間に設けられる延出長の1/2以下の深度となる位置までの深度範囲で、軟弱地盤で作用する曲げモーメントに抵抗することができるように、前記前後長尺矢板の材軸方向に前記前後補強部材が固定されること
を特徴とする鋼矢板基礎構造。
【請求項2】
前記側面長尺矢板は、支持地盤に埋め込まれる先端部に先端加工部が形成されるとともに、フーチングの内側に埋め込まれる接続部から、前記側面短尺矢板の下端部と支持地盤との間に設けられる延出長の1/2以下の深度となる位置までの深度範囲で、軟弱地盤で作用する曲げモーメントに抵抗することができるように、前記側面長尺矢板の材軸方向に前記側面補強部材が固定されるものであり、
複数の前記側面補強部材は、複数の前記側面長尺矢板の各々に固定されて、前記前後補強部材に比べ剛性や強度が半分以下のものが用いられて、又は、前記前後補強部材と同じ仕様の補剛材を用いる場合、前記前後補強部材はそれぞれの前記前後長尺矢板に対して2列ずつ、前記側面補強部材は前記側面長尺矢板に対して1列ずつ配置されること
を特徴とする請求項1記載の鋼矢板基礎構造。
【請求項3】
前記前後補強部材は、断面略H形状に形成されて前記前後長尺矢板の材軸方向に延びるH形状部材が用いられて、H形状部材の一端のフランジ部が前記前後長尺矢板に当接されること
を特徴とする請求項1又は2記載の鋼矢板基礎構造。
【請求項4】
前記前後長尺矢板は、ウェブと一対のフランジとによって溝部が形成されたハット形鋼矢板又はU形鋼矢板が用いられて、H形状部材の他端のフランジ部が前記溝部の内側又はフーチング側に配置されるように、前記前後補強部材が前記前後長尺矢板に固定されること
を特徴とする請求項3記載の鋼矢板基礎構造。
【請求項5】
前記側面補強部材は、前記側面長尺矢板の材軸方向に延びる鋼板が前記側面長尺矢板の両側部で一対となって用いられて、各々の鋼板の一端部が前記側面長尺矢板に当接されること
を特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載の鋼矢板基礎構造。
【請求項6】
前記側面補強部材は、前記側面長尺矢板の矢板断面の強軸方向中立軸から離間させて、前記側面長尺矢板の矢板断面の強軸方向中立軸と略平行となるように、前記側面長尺矢板の両側部に固定されること
を特徴とする請求項5記載の鋼矢板基礎構造。
【請求項7】
前記側面長尺矢板は、ウェブと一対のフランジとによって溝部が形成されたハット形鋼矢板又はU形鋼矢板が用いられて、各々の鋼板の他端部が前記溝部の内側又はフーチング側に配置されるように、前記側面補強部材が前記側面長尺矢板に固定されること
を特徴とする請求項5又は6記載の鋼矢板基礎構造。
【請求項8】
前記前後補強部材及び前記側面補強部材は、前記前後長尺矢板又は前記側面長尺矢板と断面形状を略同一にしたものが用いられること
を特徴とする請求項1又は2記載の鋼矢板基礎構造。
【請求項9】
前記前後長尺矢板及び前記側面長尺矢板は、ウェブと一対のフランジとによって溝部が形成されたハット形鋼矢板又はU形鋼矢板が用いられて、前記溝部を塞ぐように鋼板を架設させることによって、前記前後補強部材が前記前後長尺矢板に固定されて、又は、前記側面補強部材が前記側面長尺矢板に固定されること
を特徴とする請求項1又は2記載の鋼矢板基礎構造。
【請求項10】
前記前後補強部材及び前記側面補強部材は、前記前後長尺矢板及び前記側面長尺矢板とともにフーチングの内側に埋め込まれる上端部で、前記前後長尺矢板及び前記側面長尺矢板の材軸直交方向に貫通する孔部、材軸直交方向に陥没する凹部、又は、材軸直交方向に隆起する凸部が形成されること
を特徴とする請求項1〜9の何れか1項記載の鋼矢板基礎構造。
【請求項11】
前記前後長尺矢板及び前記側面長尺矢板は、前記前後長尺矢板及び前記側面長尺矢板を支持地盤まで立設するときに使用したウォータージェット管を用いて補強されること
を特徴とする請求項1〜10の何れか1項記載の鋼矢板基礎構造。
【請求項12】
前記前後補強部材又は前記側面補強部材は、前記前後短尺矢板及び前記側面短尺矢板の何れか一方又は両方にも取り付けられること
を特徴とする請求項1〜11の何れか1項記載の鋼矢板基礎構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の鋼矢板がフーチングから下方に向けて設けられる鋼矢板基礎構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地盤に立設された複数の鋼矢板によってフーチングを支持することを目的として、特許文献1に開示された鋼矢板基礎構造が提案されている。
【0003】
特許文献1に開示された鋼矢板基礎構造は、フーチングの前後面でフーチングに結合される鋼矢板壁体が、先端に閉合鋼材が取り付けられて地盤の支持層まで到達させた長尺鋼矢板と、先端を地盤の支持層まで到達させない短尺鋼矢板とを有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−209548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された鋼矢板基礎構造は、閉合鋼材が取り付けられた長尺鋼矢板の下端部が支持層に固定されるとともに、フーチングに結合された短尺鋼矢板及び長尺鋼矢板の上端部がフーチングに固定されて、フーチングから作用する荷重に短尺鋼矢板及び長尺鋼矢板で抵抗するものである。
【0006】
このとき、特許文献1に開示された鋼矢板基礎構造は、フーチングから大きな水平荷重が作用した場合に、材軸方向の長さの長い長尺鋼矢板により大きな曲げモーメントが発生するものとなる。
【0007】
特に、特許文献1に開示された鋼矢板基礎構造は、地表面から支持層までの間で軟弱地盤層が厚い場合に、長尺鋼矢板のスパン長が長くなることから、水平荷重の作用方向に対して直交する前後鋼矢板壁には矢板断面の弱軸方向に、また、水平荷重の作用方向に平行な側面鋼矢板壁には矢板断面の強軸方向に、過大な曲げモーメントが発生するものとなる。
【0008】
このため、特許文献1に開示された鋼矢板基礎構造は、フーチングから作用する鉛直荷重に抵抗する長尺鋼矢板の鉛直支持力が発揮される前に、過大な曲げモーメントにより長尺鋼矢板が降伏することで、長尺鋼矢板による鉛直支持材としての効果を十分に発揮することができないものとなるおそれがあった。
【0009】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、フーチングに取り付けた鋼矢板、特に、前後長尺矢板及び側面長尺矢板の水平荷重に対する曲げ降伏変形を防止して、先端加工部が形成された前後長尺矢板及び側面長尺矢板の鉛直支持力を十分に発揮させることが可能となる鋼矢板基礎構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係る鋼矢板基礎構造は、複数の鋼矢板がフーチングから下方に向けて設けられる鋼矢板基礎構造であって、フーチングの前後面から下方に向けて設けられる前後矢板群と、フーチングの両側面から下方に向けて設けられる側面矢板群とを備え、前記前後矢板群は、前後補強部材が取り付けられて支持地盤まで立設される前後長尺矢板と、軟弱地盤まで立設される前後短尺矢板とが並べられて設けられるものであり、前記側面矢板群は、側面補強部材が取り付けられて支持地盤まで立設される側面長尺矢板と、軟弱地盤まで立設される側面短尺矢板とが並べられて設けられるものであり、前記前後長尺矢板は、支持地盤に埋め込まれる先端部に先端加工部が形成されるとともに、フーチングの内側に埋め込まれる接続部から、前記前後短尺矢板の下端部と支持地盤との間に設けられる延出長の1/2以下の深度となる位置までの深度範囲で、軟弱地盤で作用する曲げモーメントに抵抗することができるように、前記前後長尺矢板の材軸方向に前記前後補強部材が固定されることを特徴とする。
【0011】
第2発明に係る鋼矢板基礎構造は、第1発明において、前記側面長尺矢板は、支持地盤に埋め込まれる先端部に先端加工部が形成されるとともに、フーチングの内側に埋め込まれる接続部から、前記側面短尺矢板の下端部と支持地盤との間に設けられる延出長の1/2以下の深度となる位置までの深度範囲で、軟弱地盤で作用する曲げモーメントに抵抗することができるように、前記側面長尺矢板の材軸方向に前記側面補強部材が固定されるものであり、複数の前記側面補強部材は、複数の前記側面長尺矢板の各々に固定されて、前記前後補強部材に比べ剛性や強度が半分以下のものが用いられて、又は、前記前後補強部材と同じ仕様の補剛材を用いる場合、前記前後補強部材はそれぞれの前記前後長尺矢板に対して2列ずつ、前記側面補強部材は前記側面長尺矢板に対して1列ずつ配置されることを特徴とする。
【0012】
第3発明に係る鋼矢板基礎構造は、第1発明又は第2発明において、前記前後補強部材は、断面略H形状に形成されて前記前後長尺矢板の材軸方向に延びるH形状部材が用いられて、H形状部材の一端のフランジ部が前記前後長尺矢板に当接されることを特徴とする。
【0013】
第4発明に係る鋼矢板基礎構造は、第3発明において、前記前後長尺矢板は、ウェブと一対のフランジとによって溝部が形成されたハット形鋼矢板又はU形鋼矢板が用いられて、H形状部材の他端のフランジ部が前記溝部の内側又はフーチング側に配置されるように、前記前後補強部材が前記前後長尺矢板に固定されることを特徴とする。
【0014】
第5発明に係る鋼矢板基礎構造は、第1発明〜第4発明の何れかにおいて、前記側面補強部材は、前記側面長尺矢板の材軸方向に延びる鋼板が前記側面長尺矢板の両側部で一対となって用いられて、各々の鋼板の一端部が前記側面長尺矢板に当接されることを特徴とする。
【0015】
第6発明に係る鋼矢板基礎構造は、第5発明において、前記側面補強部材は、前記側面長尺矢板の矢板断面の強軸方向中立軸から離間させて、前記側面長尺矢板の矢板断面の強軸方向中立軸と略平行となるように、前記側面長尺矢板の両側部に固定されることを特徴とする。
【0016】
第7発明に係る鋼矢板基礎構造は、第5発明又は第6発明において、前記側面長尺矢板は、ウェブと一対のフランジとによって溝部が形成されたハット形鋼矢板又はU形鋼矢板が用いられて、各々の鋼板の他端部が前記溝部の内側又はフーチング側に配置されるように、前記側面補強部材が前記側面長尺矢板に固定されることを特徴とする。
【0017】
第8発明に係る鋼矢板基礎構造は、第1発明又は第2発明において、前記前後補強部材及び前記側面補強部材は、前記前後長尺矢板又は前記側面長尺矢板と断面形状を略同一にしたものが用いられることを特徴とする。
【0018】
第9発明に係る鋼矢板基礎構造は、第1発明又は第2発明において、前記前後長尺矢板及び前記側面長尺矢板は、ウェブと一対のフランジとによって溝部が形成されたハット形鋼矢板又はU形鋼矢板が用いられて、前記溝部を塞ぐように鋼板を架設させることによって、前記前後補強部材が前記前後長尺矢板に固定されて、又は、前記側面補強部材が前記側面長尺矢板に固定されることを特徴とする。
【0019】
第10発明に係る鋼矢板基礎構造は、第1発明〜第9発明の何れかにおいて、前記前後補強部材及び前記側面補強部材は、前記前後長尺矢板及び前記側面長尺矢板とともにフーチングの内側に埋め込まれる上端部で、前記前後長尺矢板及び前記側面長尺矢板の材軸直交方向に貫通する孔部、材軸直交方向に陥没する凹部、又は、材軸直交方向に隆起する凸部が形成されることを特徴とする。
【0020】
第11発明に係る鋼矢板基礎構造は、第1発明〜第10発明の何れかにおいて、前記前後長尺矢板及び前記側面長尺矢板は、前記前後長尺矢板及び前記側面長尺矢板を支持地盤まで立設するときに使用したウォータージェット管を用いて補強されることを特徴とする。
【0021】
第12発明に係る鋼矢板基礎構造は、第1発明〜第11発明の何れかにおいて、前記前後補強部材又は前記側面補強部材は、前記前後短尺矢板及び前記側面短尺矢板の何れか一方又は両方にも取り付けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
第1発明〜第12発明によれば、軟弱地盤内に設置された鋼矢板、特に、フーチングと支持層とで固定されてその間の距離が長くなる前後長尺矢板及び側面長尺矢板においては、軟弱地盤の水平荷重が作用するフーチングに近い地盤側に曲げモーメントが集中し、特有の分布となる曲げモーメントが発生するものとなるが、この特有の曲げモーメントに抵抗することができるように、前後矢板群及び側面矢板群、特に、前後長尺矢板又は側面長尺矢板の所定の深度範囲に、前後補強部材又は側面補強部材が固定されて補強される。
【0023】
これにより、第1発明〜第12発明によれば、前後矢板群及び側面矢板群に発生する特有の曲げモーメントに対して、前後補強部材及び側面補強部材で抵抗して、矢板の降伏変形を防止することが可能となる。第1発明〜第12発明によれば、特に、前後長尺矢板及び側面長尺矢板の降伏変形を防止して、先端加工部が形成された前後長尺矢板及び側面長尺矢板の鉛直支持力を十分に発揮させることが可能となる。
【0024】
また、第1発明〜第12発明によれば、前後矢板群又は側面矢板群に前後補強部材又は側面補強部材を固定することで、矢板の補強を簡易に実施することができるため、鋼矢板の型式を引き上げたり高強度鋼を用いることを必要としないで、容易かつ低コストに矢板を補強することが可能となる。
【0025】
第2発明によれば、フーチングを支える橋脚に水平荷重が作用し、フーチングに回転変形が発生して、側面矢板群のフーチングに近い地盤側に曲げモーメントが集中し、特有の分布で曲げモーメントが発生するものとなる。
【0026】
第2発明によれば、側面矢板群は前後矢板群と異なり、鋼矢板断面の強軸方向で曲げモーメントに抵抗することになるため、強軸方向の曲げ剛性は弱軸方向の曲げ剛性の少なくとも2倍以上となることから、側面補強部材の剛性や強度は前後補強部材の半分以下としても同等の曲げモーメントに抵抗でき、側面矢板の降伏変形を効率的に防止することができ、低コストに側面矢板を補強することが可能となる。また、前後補強部材と同じ仕様の補剛材を用いる場合には、前後補強部材はそれぞれの前後長尺矢板に対して2列ずつ、側面補強部材は側面長尺矢板に対して1列配置することで、過度な補強となることを防ぎ効率的で経済的な補強方法とすることができ、補強材仕様を1つに限定できることで作業性や資材調達性も向上する。
【0027】
第10発明によれば、前後補強部材及び側面補強部材の上端部に、孔部、凹部又は凸部が形成されるため、前後補強部材及び側面補強部材の上端部がフーチングの内側に埋め込まれた状態で、フーチングとの付着強度を確実に向上させることが可能となる。これにより、接合部に過大なせん断力や曲げモーメントが発生したときにでも、接合部の破壊を防止し基礎構造としての機能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明を適用した鋼矢板基礎構造を示す斜視図である。
図2】本発明を適用した鋼矢板基礎構造の前後矢板群を示す正面図である。
図3】(a)は、本発明を適用した鋼矢板基礎構造の長尺矢板及び短尺矢板のハット形鋼矢板を示す平面図であり、(b)は、そのU形鋼矢板を示す平面図である。
図4】(a)は、本発明を適用した鋼矢板基礎構造の長尺矢板に形成された先端加工部を示す正面図であり、(b)は、その平面図である。
図5】(a)は、本発明を適用した鋼矢板基礎構造の前後長尺矢板に固定された前後補強部材を示す正面図であり、(b)は、その平面図である。
図6】本発明を適用した鋼矢板基礎構造の前後補強部材の深度範囲を示す正面図である。
図7】本発明を適用した鋼矢板基礎構造の前後補強部材を示す斜視図である。
図8】本発明を適用した鋼矢板基礎構造の前後短尺矢板を示す正面図である。
図9】本発明を適用した鋼矢板基礎構造の側面矢板群を示す側面図である。
図10】(a)は、本発明を適用した鋼矢板基礎構造の側面長尺矢板に固定された側面補強部材を示す側面図であり、(b)は、その平面図である。
図11】本発明を適用した鋼矢板基礎構造のハット形鋼矢板に固定された側面補強部材を示す平面図である。
図12】本発明を適用した鋼矢板基礎構造のU形鋼矢板のフランジに固定された側面補強部材を示す平面図である。
図13】本発明を適用した鋼矢板基礎構造のU形鋼矢板のウェブに固定された側面補強部材を示す平面図である。
図14】本発明を適用した鋼矢板基礎構造の側面補強部材の深度範囲を示す側面図である。
図15】本発明を適用した鋼矢板基礎構造の側面補強部材を示す斜視図である。
図16】本発明を適用した鋼矢板基礎構造の側面短尺矢板を示す側面図である。
図17】本発明を適用した鋼矢板基礎構造の前後補強部材及び側面補強部材の第1変形例を示す平面図である。
図18】本発明を適用した鋼矢板基礎構造の前後補強部材及び側面補強部材の第2変形例を示す平面図である。
図19】本発明を適用した鋼矢板基礎構造の前後長尺矢板に作用する曲げモーメントを示す正面図である。
図20】本発明を適用した鋼矢板基礎構造の側面長尺矢板に作用する曲げモーメントを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、図1に示すように、複数の鋼矢板がフーチング21から下方に向けて設けられる。フーチング21は、軟弱地盤81の地盤面近傍に埋設されて、橋脚22の上方に構築された橋梁23等の構造物を支持するものである。
【0031】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、橋梁23等の幅方向Zの両側で、フーチング21の前面21a及び後面21bに設けられる前後矢板群3と、橋梁23等の長さ方向の両側で、フーチング21の左側面21c及び右側面21dに設けられる側面矢板群4とを備える。
【0032】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、前後矢板群3と側面矢板群4とが下方に向けて地盤内に延びて設けられることで、フーチング21の前面21a、後面21b、左側面21c及び右側面21dを複数の鋼矢板で四方から取り囲むものとなる。
【0033】
前後矢板群3は、図2に示すように、地盤面近傍から支持地盤82まで到達するように埋設して立設される複数の前後長尺矢板31と、支持地盤82まで到達させないで地盤面近傍から軟弱地盤81に埋設して立設される複数の前後短尺矢板32とを備える。
【0034】
前後矢板群3は、橋梁23等の長さ方向となる地盤内の左右方向Xで、複数の前後短尺矢板32の全部又は一部と前後長尺矢板31とが隣り合うように、複数の前後長尺矢板31と複数の前後短尺矢板32とが並べられて設けられるものである。
【0035】
前後長尺矢板31及び前後短尺矢板32は、図3(a)に示すように、フランジ51と一対のウェブ52とによって溝部50が形成されるとともに、一対のウェブ52から延びるように設けられたアーム53の端部に継手54を形成させたハット形鋼矢板5が用いられる。前後長尺矢板31及び前後短尺矢板32は、これに限らず、図3(b)に示すように、フランジ51と一対のウェブ52とによって溝部50が形成されるとともに、一対のウェブ52の端部に継手54を形成させたU形鋼矢板55が用いられてもよい。
【0036】
前後長尺矢板31は、図4図5に示すように、地盤内に立設されて支持地盤82に埋め込まれる先端部31aに先端加工部56が形成されるとともに、前後長尺矢板31の材軸方向で地盤内の高さ方向Yに延びる前後補強部材6がフランジ51に取り付けられる。
【0037】
前後長尺矢板31は、必要に応じて、アーム53等に取り付けられたウォータージェット管59を用いて補強されてもよい。ウォータージェット管59は、所定の圧力で水を噴出させながら軟弱地盤81や支持地盤82を掘り進めるものであり、前後長尺矢板31を支持地盤82まで立設するときに使用されるものである。
【0038】
先端加工部56は、図4に示すように、支持地盤82に埋め込まれる前後長尺矢板31の先端部31aから、前後長尺矢板31の溝部50を塞ぐようにして、断面略ハット形状又は略U形状の加工部用鋼矢板が溶接等で取り付けられて形成される。加工部用鋼矢板は、ハット形鋼矢板が用いられる場合に、前後長尺矢板31の継手54と干渉しないように継手部が切断される。前後長尺矢板31は、図5(a)に示すように、前後補強部材6が上端から離間させて取り付けられることで、バイブロハンマー等のチャックで掴むためのチャック部24が形成される。
【0039】
前後補強部材6は、図5(b)に示すように、前後長尺矢板31に当接される一端フランジ部61と、一端フランジ部61と略平行に設けられる他端フランジ部62と、一端フランジ部61と他端フランジ部62とに架設されるウェブ部63とを有して断面略H形状に形成されたH形状部材が用いられる。前後補強部材6は、矢板に作用する曲げモーメントに対して強軸方向で抵抗できるように、前後長尺矢板31のフランジ51に一端フランジ部61が溶接等で固定されて、他端フランジ部62が溝部50の内側に配置されるものとなる。前後補強部材6は、溝部50の内側Bに収まることで施工スペースの増大を抑え、打設時の抵抗増大も抑制することができる。但し、前後補強部材6は、溝部50の内側から飛び出してもよく、このとき、前後補強部材6をフーチング側に取り付けて、施工スペース全体が増大しないようにすることが望ましい。
【0040】
前後補強部材6は、図6に示すように、軟弱地盤81の地盤面近傍で、フーチング21の内側に埋め込まれる前後長尺矢板31の接続部57に固定されて、前後長尺矢板31とともに前後補強部材6の上端部6aがフーチング21の内側に埋め込まれる。前後補強部材6は、前後長尺矢板31の接続部57から、前後短尺矢板32の下端部32aと支持地盤82との間に設けられる前後長尺矢板31の延出長Lの1/3〜1/2の深度となる位置まで、所定の深度範囲hに取り付けられるものとなる。
【0041】
前後補強部材6は、図7に示すように、フーチング21の内側に埋め込まれる前後補強部材6の上端部6aのウェブ部63に、孔開き鋼板や縞鋼板等が用いられる。このとき、前後補強部材6は、図7(a)に示すように、前後長尺矢板31の材軸直交方向となるウェブ面を貫通する孔部63aや、図7(b)に示すように、ウェブ面において陥没する凹部63b、又は、図7(c)に示すように、ウェブ面において隆起する凸部63cが形成されるものとなる。
【0042】
前後短尺矢板32は、図8に示すように、地盤内の左右方向Xで隣り合う他の前後短尺矢板32又は他の前後長尺矢板31と、互いの継手54を嵌合させた状態で連結される。前後短尺矢板32は、フーチング21の内側に埋め込まれる接続部57にジベル58等が取り付けられた状態で、前後長尺矢板31とともにフーチング21の内側に埋め込まれる。若しくは、前後短尺矢板32は、前後長尺矢板31と同様に前後補強部材6が取り付けられて、フーチング21の内側に埋め込まれる。このとき、前後短尺矢板32に取り付けられる前後補強部材6の長さは、前後短尺矢板32の長さ以下とする。
【0043】
側面矢板群4は、図9に示すように、地盤面近傍から支持地盤82まで到達するように埋設して立設される複数の側面長尺矢板41と、支持地盤82まで到達させないで地盤面近傍から軟弱地盤81に埋設して立設される複数の側面短尺矢板42とを備える。
【0044】
側面矢板群4は、橋梁23等の幅方向Zとなる地盤内の前後方向Zで、複数の側面短尺矢板42の全部又は一部と側面長尺矢板41とが隣り合うように、複数の側面長尺矢板41と複数の側面短尺矢板42とが並べられて設けられるものである。
【0045】
側面長尺矢板41及び側面短尺矢板42は、図3(a)に示すように、フランジ51と一対のウェブ52とによって溝部50が形成されるとともに、一対のウェブ52から延びるように設けられたアーム53の端部に継手54を形成させたハット形鋼矢板5が用いられる。側面長尺矢板41及び側面短尺矢板42は、これに限らず、図3(b)に示すように、フランジ51と一対のウェブ52とによって溝部50が形成されるとともに、一対のウェブ52の端部に継手54を形成させたU形鋼矢板55が用いられてもよい。
【0046】
側面長尺矢板41は、図4図10に示すように、地盤内に立設されて支持地盤82に埋め込まれる先端部41aに先端加工部56が形成されるとともに、側面長尺矢板41の材軸方向で地盤内の高さ方向Yに延びる側面補強部材7がアーム53に取り付けられる。
【0047】
側面長尺矢板41は、必要に応じて、アーム53等に取り付けられたウォータージェット管59を用いて補強されてもよい。ウォータージェット管59は、所定の圧力で水を噴出させながら軟弱地盤81や支持地盤82を掘り進めるものであり、側面長尺矢板41を支持地盤82まで立設するときに使用されるものである。
【0048】
先端加工部56は、図4に示すように、支持地盤82に埋め込まれる側面長尺矢板41の先端部41aから、側面長尺矢板41の溝部50を塞ぐようにして、断面略ハット形状又は略U形状の加工部用鋼矢板が溶接等で取り付けられて形成される。加工部用鋼矢板は、ハット形鋼矢板が用いられる場合に、側面長尺矢板41の継手54と干渉しないように継手部が切断される。
【0049】
側面補強部材7は、図10(b)に示すように、側面長尺矢板41に当接される長辺の一端部71と、長辺の一端部71と略平行に設けられる長辺の他端部72とを有する略平板状の鋼板等が用いられる。側面補強部材7は、側面長尺矢板41の材軸方向に延びる鋼板等が側面長尺矢板41の両側部に一対となって取り付けられる。
【0050】
側面補強部材7は、図11に示すように、側面長尺矢板41にハット形鋼矢板5が用いられる場合に、側面長尺矢板41のアーム53に、長辺の一端部71が溶接等で固定される。また、側面補強部材7は、図12図13に示すように、側面長尺矢板41にU形鋼矢板55が用いられる場合に、側面長尺矢板41のフランジ51又はウェブ52に、長辺の一端部71が溶接等で固定される。側面補強部材7は、水平荷重Pの作用方向に対する側面長尺矢板41の断面の強軸方向中立軸Nから離間させて、強軸方向中立軸Nと略平行となるように固定される。
【0051】
側面補強部材7は、図12に示すように、側面長尺矢板41にU形鋼矢板55が用いられる場合に、側面長尺矢板41のフランジ51に溶接等で固定されるとき、長辺の一端部71の溶接作業が容易なものとなる。側面補強部材7は、図13に示すように、側面長尺矢板41にU形鋼矢板55が用いられる場合に、側面長尺矢板41のウェブ52に溶接等で固定されるとき、強軸方向中立軸Nからの離間距離を大きくすることができるものとなる。
【0052】
側面補強部材7は、図11に示すように、側面長尺矢板41にハット形鋼矢板5が用いられる場合に、隣り合う側面短尺矢板42のフランジ51よりも鋼板を突出させないように、各々の鋼板の他端部72を側面矢板群4の壁内側Aに配置して固定される。また、側面補強部材7は、図12図13に示すように、側面長尺矢板41にU形鋼矢板55が用いられる場合に、隣り合う側面短尺矢板42のフランジ51よりも鋼板を突出させないように、各々の鋼板の他端部72を側面矢板群4の壁内側Aに配置して固定される。側面補強部材7は、壁内側Aに収まる限りは、U形鋼矢板55の表側又は裏側の何れに取り付けられてもよい。側面補強部材7は、溝部50の内側に収まることで施工スペースの増大を抑え、打設時の抵抗増大も抑制することができる。但し、側面補強部材7は、溝部50の内側から飛び出してもよく、このとき、側面補強部材7をフーチング側に取り付けて、施工スペース全体が増大しないようにすることが望ましい。
【0053】
側面補強部材7は、図14に示すように、軟弱地盤81の地盤面近傍で、フーチング21の内側に埋め込まれる側面長尺矢板41の接続部57に固定されて、側面長尺矢板41とともに側面補強部材7の上端部7aがフーチング21の内側に埋め込まれる。側面補強部材7は、側面長尺矢板41の接続部57から、側面短尺矢板42の下端部42aと支持地盤82との間に設けられる側面長尺矢板41の延出長Lの1/3〜1/2の深度となる位置まで、所定の深度範囲hに取り付けられるものとなる。
【0054】
複数の側面補強部材7は、複数の側面長尺矢板41の各々に固定される。複数の側面補強部材7は、前後補強部材6に比べ剛性や強度が半分以下となるように、各々の側面長尺矢板41の接続部57から取り付けられて用いられる。
【0055】
複数の側面補強部材7は、これに限らず、前後補強部材6と同様の形状、剛性、強度等で同じ仕様の補剛材を用いる場合、前後補強部材6はそれぞれの前後長尺矢板31に対して2列ずつ、側面補強部材7は側面長尺矢板41に対して1列ずつ配置して用いられてもよい。なお、側面補強部材7は、局部座屈の発生を防止するために、鋼板の板幅を板厚の16倍未満とすることが望ましい。
【0056】
側面補強部材7は、図15に示すように、フーチング21の内側に埋め込まれる部位等において、孔開き鋼板や縞鋼板等が用いられる。このとき、側面補強部材7は、図15(a)に示すように、側面長尺矢板41に取り付けられた側面補強部材面を材軸直交方向に貫通する孔部63aや、図15(b)に示すように、側面補強部材面に陥没する凹部63b、又は、側面補強部材面に隆起する凸部63cが形成されるものとなる。
【0057】
側面短尺矢板42は、図16に示すように、地盤内の前後方向Zで隣り合う他の側面短尺矢板42又は他の側面長尺矢板41と、互いの継手54を嵌合させた状態で連結される。側面短尺矢板42は、フーチング21の内側に埋め込まれる接続部57にジベル58等が取り付けられた状態で、側面長尺矢板41とともにフーチング21の内側に埋め込まれる。若しくは、側面短尺矢板42は、側面長尺矢板41と同様に側面補強部材7が取り付けられて、フーチング21の内側に埋め込まれる。このとき、側面短尺矢板42に取り付けられる側面補強部材7の長さは、側面短尺矢板42の長さ以下とする。
【0058】
前後補強部材6及び側面補強部材7は、図2図9に示すように、前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41にのみ取り付けられる。前後補強部材6及び側面補強部材7は、これに限らず、前後短尺矢板32又は側面短尺矢板42にも取り付けられてもよい。このとき、前後補強部材6及び側面補強部材7は、前後短尺矢板32又は側面短尺矢板42の接続部57から、前後短尺矢板32の下端部32a又は側面短尺矢板42の下端部42aとなる位置まで、又はそれより浅い位置まで、前後短尺矢板32又は側面短尺矢板42に所定の範囲で取り付けられる。
【0059】
前後補強部材6及び側面補強部材7は、図17に示すように、第1変形例において、前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41と断面形状を略同一にして、断面略ハット形状又は略U形状の補強用鋼矢板が用いられてもよい。補強用鋼矢板は、ハット形鋼矢板5が用いられる場合に、前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41の継手54と干渉しないように継手部が切断される。前後補強部材6及び側面補強部材7は、第1変形例において、前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41に対して、ハット形鋼矢板5又はU形鋼矢板55の溝部50を塞ぐようにして、アーム53又は継手54に溶接等で取り付けられる。
【0060】
前後補強部材6及び側面補強部材7は、図18に示すように、第2変形例において、前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41の一対のアーム53又は継手54に架設される略平板状の鋼板が用いられてもよい。前後補強部材6及び側面補強部材7は、第2変形例において、前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41に対して、ハット形鋼矢板5又はU形鋼矢板55の溝部50を塞ぐようにして、アーム53又は継手54に溶接等で取り付けられる。なお、前後補強部材6及び側面補強部材7は、必要に応じて、孔部63a等を形成させることもできる。
【0061】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、図1に示すように、橋梁23等の幅方向Zに地震、風荷重等が作用して、橋梁23等を支持するフーチング21に外力が伝達されるものとなり、前後矢板群3や側面矢板群4に地盤内の前後方向Zで水平荷重Pが作用するものとなる。
【0062】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、図1図19に示すように、前後矢板群3の前後長尺矢板31の接続部57がフーチング21に固定されるとともに、前後長尺矢板31の先端加工部56が支持地盤82に固定されるものである。このとき、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、前後長尺矢板31に先端加工部56が形成されることで、前後長尺矢板31の上下端が固定された状態で、前後長尺矢板31の上端で地盤内の前後方向Zに水平荷重Pが作用して、軟弱地盤81の所定の範囲で前後長尺矢板31に過大な曲げモーメントMが作用する。
【0063】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、図1図20に示すように、側面矢板群4の側面長尺矢板41の接続部57がフーチング21に固定されるとともに、側面長尺矢板41の先端加工部56が支持地盤82に固定されるものである。このとき、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、側面長尺矢板41に先端加工部56が形成されることで、側面長尺矢板41の上下端が固定された状態で、側面長尺矢板41の上端で地盤内の前後方向Zに水平荷重Pが作用して、軟弱地盤81の所定の範囲で側面長尺矢板41に過大な曲げモーメントMが作用する。
【0064】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、特に、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41の上下端がフーチング21及び支持地盤82に固定されるものとなることから、軟弱地盤81の地盤面側に曲げモーメントMが集中するものとなる。このため、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、水平荷重Pの作用方向に対する前後長尺矢板31の断面の弱軸方向や側面長尺矢板41の断面の強軸方向で、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41が降伏変形するおそれがあるものとなる。このとき、一般的には、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41に先端加工部56を形成させて鉛直支持力の強化を図ったにもかかわらず、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41が降伏変形することで、この鉛直支持力を発揮することができないおそれがある。
【0065】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41の上下端が固定されることで、特有の分布となる曲げモーメントMが発生するものとなる。前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41は、軟弱地盤81で作用する特有の曲げモーメントMに抵抗することができるように、前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41の所定の深度範囲hに、前後補強部材6又は側面補強部材7が固定されて補強される。
【0066】
これにより、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41の上下端が固定されることで発生する特有の曲げモーメントMに対して、前後補強部材6及び側面補強部材7が抵抗部材として付加されることで、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41の降伏変形を防止することが可能となる。このとき、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41の降伏変形を防止して、先端加工部56が形成された前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41の鉛直支持力を十分に発揮させることが可能となる。
【0067】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41に前後補強部材6又は側面補強部材7を固定することで、前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41の補強を簡易に実施することができる。これにより、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、鋼矢板の型式を引き上げたり高強度鋼を用いることを必要としないで、容易かつ低コストに前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41を補強することが可能となる。本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、鋼矢板型式を引き上げることが不要なため、コンパクトな鋼矢板によるフーチング21の補強が可能となる。特に、より高剛性の鋼矢板型式が存在しない場合には、既存の鋼矢板でも補強効果を発揮することが可能となる。
【0068】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41の延出長Lの1/3〜1/2の深度となる位置を上限として、所定の深度範囲hに前後補強部材6及び側面補強部材7が取り付けられる。前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41は、特に、N値20以下の軟弱地盤81において、接続部57から延出長Lの1/2の深度となる位置までに、曲げモーメントMが卓越して作用するものとなる。但し、延出長Lの1/3深度付近では発生する曲げモーメントが小さくなり、補強部材取り付けによる剛性増加の効果が小さくなるため、長尺矢板材軸方向に沿った最大曲げモーメントの発生深度が、延出長Lの1/3深度より浅く短尺矢板下端以浅にあるときは、補強部材の長さとして、延出長Lの1/3を上限としても構わない。このとき補剛部材の総重量を減らせるため、より経済的な補強工法を実現できる。前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41は、接続部57から延出長Lの1/2の深度となる位置までの深度範囲hで、軟弱地盤81の地盤面近傍に前後補強部材6及び側面補強部材7が取り付けられても、支持層内又は支持層近傍での打設には影響を与えないため、軟弱地盤81への打設抵抗の著しい上昇を回避することができる。
【0069】
これにより、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、特に、N値20以下の軟弱地盤81において、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41の延出長Lの1/2の深度となる位置を上限に前後補強部材6及び側面補強部材7が取り付けられることで、打設抵抗の著しい上昇を回避しながら、曲げモーメントMが卓越して作用する深度範囲hのみを、前後補強部材6及び側面補強部材7で効率的に補強することが可能となる。なお、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41の延出長Lの1/3の深度となる位置を上限に前後補強部材6及び側面補強部材7が取り付けられれば、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41の打設抵抗の著しい上昇をより効果的に回避することができる。
【0070】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、図1に示すように、フーチング21が支える橋脚22に水平荷重Pが作用し、フーチング21に回転変形が発生することから、側面矢板群4のフーチング21に近い地盤側に曲げモーメントが集中し、特有の分布となる曲げモーメントMが発生するものとなる。
【0071】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、前後補強部材6に比べ剛性や強度が半分以下のものが用いられて、又は、前後補強部材6と同様の形状、剛性、強度等で同じ仕様の補剛材を用いる場合、前後補強部材6はそれぞれの前後長尺矢板31に対して2列ずつ、側面補強部材7は側面長尺矢板41に対して1列ずつ配置されることで、必要以上に高剛性化することを要さないものとなる。これにより、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、側面長尺矢板41の断面強軸方向に対する曲げモーメントMの方向を考慮した側面補強部材7が用いられることで、側面長尺矢板41の降伏変形を効率的に防止することができ、低コストに側面長尺矢板41を補強することが可能となる。
【0072】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、図5図11に示すように、前後補強部材6が溝部50の内側に配置されるとともに、側面補強部材7が側面矢板群4の壁内側Aに配置して固定される。これにより、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、前後矢板群3及び側面矢板群4の壁厚を増大させることなく、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41を前後補強部材6及び側面補強部材7で補強することが可能となる。
【0073】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、図5図10に示すように、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41にウォータージェット管59が取り付けられる。これにより、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、支持地盤82又は支持地盤82近傍まで立設するときに使用したウォータージェット管59を直接に利用して、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41を補強することが可能となる。
【0074】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、図7図15に示すように、前後補強部材6の上端部6a及び側面補強部材7の上端部7aに、孔部63a、凹部63b又は凸部63cが形成される。これにより、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、前後補強部材6の上端部6a及び側面補強部材7の上端部7aがフーチング21の内側に埋め込まれた状態で、フーチング21との付着強度を確実に向上させることが可能となる。本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、前後補強部材6及び側面補強部材7がフーチング21との結合のためのジベルとしての機能を兼用できるため、別途孔開き鋼板又はスタッドジベル等の他の部材を不要とすることができる。
【0075】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、図11図13に示すように、側面長尺矢板41の断面の強軸方向中立軸Nから離間させて、強軸方向中立軸Nと略平行となるように側面補強部材7が固定される。これにより、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、側面補強部材7の溶接作業や耐力設計を容易にしながら、強軸方向中立軸Nに対する側面長尺矢板41の断面2次モーメントを増大させて、水平荷重Pに対する抵抗力を向上させることが可能となる。
【0076】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、図17に示すように、前後補強部材6及び側面補強部材7の第1変形例において、前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41と断面形状を略同一にした補強用鋼矢板が用いられる。これにより、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41と同一型式の補強用鋼矢板を用意するのみで、効率的かつ低コストに前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41を補強することが可能となる。
【0077】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、図18に示すように、前後補強部材6及び側面補強部材7の第2変形例において、前後長尺矢板31又は側面長尺矢板41の一対のアーム53又は継手54に架設される略平板状の鋼板が用いられる。これにより、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、特に、側面長尺矢板41の断面の強軸方向に作用する水平荷重Pに対して、側面長尺矢板41の溝部50が縮径しないように、側面補強部材7で間隔保持をすることができ、側面長尺矢板41の溝部50の縮径による剛性の低下を防止することが可能となる。
【0078】
本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、図19図20に示すように、前後補強部材6及び側面補強部材7が、前後短尺矢板32の下端部32a及び側面短尺矢板42の下端部42aよりも下方に向けて延出して、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41に取り付けられる。これにより、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、前後短尺矢板32の下端部32a及び側面短尺矢板42の下端部42aとなる位置で、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41に応力集中することを回避することが可能となる。
【0079】
なお、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、これに限らず、前後補強部材6及び側面補強部材7が、前後短尺矢板32の下端部32a及び側面短尺矢板42の下端部42aとなる位置まで、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41に取り付けられてもよい。また、本発明を適用した鋼矢板基礎構造1は、前後長尺矢板31及び側面長尺矢板41に対して、フーチング下面からの深度として、表層地盤の平均N値と矢板型式に応じて変化する1/βとなる位置まで、前後補強部材6及び側面補強部材7が取り付けられてもよい。1/βは、下記(1)〜(4)式により規定される関係を満足する特性値βによって算出される。
【0080】
【数1】
【0081】
【数2】
【0082】
【数3】
【0083】
【数4】

ここで、kH:水平方向地盤反力係数(kN/m3)、D:荷重作用方向に直交する鋼矢板基礎の載荷幅(m)、EI:鋼矢板基礎の曲げ剛性(kN/m2)、BH:荷重作用方向に直交する基礎の換算載荷幅(m)、α=2、N:表層地盤の平均N値とする。
【0084】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、上述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0085】
1 :鋼矢板基礎構造
21 :フーチング
21a :前面
21b :後面
21c :左側面
21d :右側面
22 :橋脚
23 :橋梁
24 :チャック部
3 :前後矢板群
31 :前後長尺矢板
31a :先端部(前後長尺矢板)
32 :前後短尺矢板
32a :下端部(前後短尺矢板)
4 :側面矢板群
41 :側面長尺矢板
41a :先端部(側面長尺矢板)
42 :側面短尺矢板
42a :下端部(側面長尺矢板)
5 :ハット形鋼矢板
50 :溝部
51 :フランジ
52 :ウェブ
53 :アーム
54 :継手
55 :U形鋼矢板
56 :先端加工部
57 :接続部
58 :ジベル
59 :ウォータージェット管
6 :前後補強部材
61 :一端フランジ部
62 :他端フランジ部
63 :ウェブ部
63a :孔部
63b :凹部
63c :凸部
6a :上端部(前後補強部材)
7 :側面補強部材
7a :上端部(側面補強部材)
71 :一端部
72 :他端部
81 :軟弱地盤
82 :支持地盤
X :左右方向
Y :高さ方向
Z :前後方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20