特許第6091498号(P6091498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091498
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】眼内レンズの挿入器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
   A61F2/16
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-514378(P2014-514378)
(86)(22)【出願日】2013年5月7日
(86)【国際出願番号】JP2013002938
(87)【国際公開番号】WO2013168410
(87)【国際公開日】20131114
【審査請求日】2016年4月28日
(31)【優先権主張番号】特願2012-106206(P2012-106206)
(32)【優先日】2012年5月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 一晴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 保彦
(72)【発明者】
【氏名】野村 弘子
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅良
【審査官】 松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−528078(JP,A)
【文献】 特開平08−019558(JP,A)
【文献】 特開2011−139863(JP,A)
【文献】 特開昭64−015042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/14 − 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部と長手形状の一対の支持部の何れもが折り畳み可能な軟質の合成樹脂材料で形成された眼内レンズを眼内に挿入するための眼内レンズの挿入器具であって、
前記眼内レンズが載置される載置部を備えた筒形状の器具本体と、
前記器具本体の後端部から挿入されて前記眼内レンズを該器具本体の先端部に設けられた挿入筒部から前記眼内へ押し出す押出部材とを備えており、
前記眼内レンズの前記一対の支持部が該器具本体の先端側と後端側に延び出すように前記載置部に載置されて、該後端側に延び出す該支持部における長さ方向一端側の付け根部が該載置部の幅方向一方の側に位置せしめられると共に該支持部の長さ方向他端側の先端部が該載置部の幅方向他方の側に位置せしめられることにより、該支持部の長さ方向の中間部分が該光学部の後方側に離隔して該載置部を幅方向の一方側から他方側へ向けて延びるようになっている一方、
前記押出部材の先端部には、該押出部材の押出方向において前記光学部と該押出部材との間に位置せしめられる前記支持部の長さ方向中間部分に対して接触する中間接触面と、該中間接触面の両側縁部から前記押出部材の基端部側に向かって延び出すと共に該押出部材が押し当てられて該押出部材の先端部に沿うように変形せしめられた前記支持部において前記長さ方向中間部分を間に挟んだ長さ方向の左側部分および右側部分に接触する左側接触面および右側接触面とが、それぞれ設けられており、
前記支持部が、前記押出部材の前記中間接触面と前記左側接触面と前記右側接触面とにそれぞれ接触した状態で、前記押出部材により前記眼内レンズが前記挿入筒部へ押し出されるようになっていること、を特徴とする眼内レンズの挿入器具。
【請求項2】
前記押出部材の前記先端部に対して、前記器具本体の後端側の前記支持部が最も接触した状態において、前記支持部の長さ寸法の50%以上の長さに亘って、該支持部が該押出部材の該先端部に接触している請求項1に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項3】
前記押出部材の前記先端部がロッド形状を有しており、前記先端部の先端面が前記中間接触面とされている一方、前記先端部の両側面に前記先端面から前記押出部材の基端部側に延び出す長手形状の一対の切欠部が形成されて前記押出部材の前記先端部が前記基端部よりも狭幅とされていると共に、該一対の切欠部によって前記左側接触面および前記右側接触面が構成されている請求項1又は2に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項4】
前記載置部と前記挿入筒部との間に前記眼内レンズの前記光学部を上方に凸となるように変形させる変形作用部が形成されている一方、
前記押出部材の前記中間接触面が、その上端側よりも下端側が該押出部材の先端側に向かって延び出す傾斜面を含んでいる請求項1〜3の何れか1項に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項5】
前記中間接触面の前記上端側の端縁部には、前記押出部材の軸直方向に立ち上がる垂直面が形成されている請求項4に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項6】
前記中間接触面の前記下端側の端縁部には、前記傾斜面よりも傾斜角度が小さな緩傾斜面が形成されている請求項4又は5に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項7】
前記器具本体の前記載置部に前記眼内レンズが内蔵された状態で提供されるものであって、前記眼内レンズの前記一対の支持部のうち、前記器具本体の後端側に延び出す前記支持部が、前記眼内レンズの前記光学部の外周縁部から前記器具本体の軸方向に斜交して前記後端側に延び出している請求項1〜6の何れか1項に記載の眼内レンズの挿入器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内レンズを嚢内に挿入するために用いられる、眼内レンズの挿入器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、白内障等の手術においては、角膜(鞏膜)や水晶体前嚢部分などの眼組織に設けた切開創を通じて、嚢内の水晶体を摘出、除去した後、その水晶体に代替する眼内レンズを、前記切開創より挿入して嚢内に配する手法が採用されている。
【0003】
特に近年においては、例えば、特開2006−181269号公報(特許文献1)や特開2010−46241号公報(特許文献2)に記載の如き眼内レンズの挿入器具を用いた手法が広く採用されている。一般的には、筒状の器具本体の先端部に設けられた挿入筒部の先端開口部を切開創を通じて眼内に挿し入れると共に、器具本体の基端部から挿入する押出部材で、器具本体内の載置部に載置された眼内レンズを小さく変形させて挿入筒部の先端開口部から押し出すことによって、眼内レンズが眼内に挿入される。このような挿入器具を用いれば、水晶体の摘出除去のために形成した切開創を広げることなく眼内レンズを挿入出来ることから、施術に要する手間を軽減出来ると共に、術後乱視の発生や感染の危険を低減することも出来る。
【0004】
ところで、このような眼内レンズの挿入器具を用いて眼内レンズの挿入を行う際には、眼内レンズを押出部材により挿入筒部に向かって小さく変形させる必要がある。ここで、眼内レンズは、光学部と光学部の径方向両側に延び出す一対の支持部を含んで構成されており、一対の支持部が器具本体の先端側と後端側に延び出すように器具本体の載置部に載置されている。特に、近年使用が増加している光学部と一対の支持部の何れもが折り畳み可能な軟質の合成樹脂材料で形成された所謂シングルピースタイプの眼内レンズにおいては、一対の支持部は、薄肉の細長形状で光学部の外周縁部から延び出している。従って、特許文献1や特許文献2に記載の如き眼内レンズの挿入器具では、眼内レンズが挿入筒部に向かって小さく変形される際に、押出部材の先端面で眼内レンズの光学部の外周縁部を押圧する一方、後端側に延び出す支持部には、極力押出部材による負荷がかからないようにされていた。
【0005】
ところが、このような従来構造の眼内レンズの挿入器具では、眼内レンズの後端側に延びる支持部の変形を巧く制御することができず、様々な問題を招いていた。例えば、特許文献1に記載の如く、押出部材の先端面よりも後方に支持部を逃して支持部に負荷がかからないようにした場合には、軟質で密着し易い支持部が器具本体の内周面に摺動等することにより、支持部に応力が集中して亀裂等が発生するおそれがあった。また、特許文献2の図6には、後端側の支持部も押出部材により前方に押し出されて、折り畳まれた光学部の間に挟み込まれるように変形する場合が示されている。この場合には、後端側の支持部と光学部の接触面積が大きくなるため、後端側の支持部が光学部に密着してしまい、眼内レンズが嚢内に開放された後も、支持部と光学部の密着が解消されないおそれもあった。
【0006】
また、特許文献1および特許文献2に記載の何れの挿入器具の場合でも、後端側の支持部の光学部への付け根部が、押出部材の先端部の一方側(特許文献1、図6(b)のプランジャー25の左側;特許文献2、図6の押出軸22の左側)に残され、押出部材の先端部の他方側(特許文献1、図6(b)のプランジャー25の右側;特許文献2、図6の押出軸22の右側)は光学部の外周縁部のみが存在することとなる。そうすると、押出部材を先端側に押し進める際に、押出部材の先端部が右側部分にずれ易くなり、押出部材による押出力が伝達されるベクトル方向が器具本体の軸方向から変位して、押出部材の押出力が眼内レンズに効率よく伝わらないおそれがあった。
【0007】
加えて、特許文献1および特許文献2の何れの場合にも、押出部材の先端面で眼内レンズの光学部の外周縁部を直接押圧することから、眼内レンズの光学部の外周縁部に対して、局所的な外力が加わり、傷やクラック等の問題が発生し易いという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−181269号公報
【特許文献2】特開2010−46241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、眼内レンズの後端側に延び出す支持部の変形状態を安定させることにより、支持部や光学部の損傷の発生を低減すると共に、押出部材による眼内レンズの押出状態を安定させることができる、新規な構造の眼内レンズの挿入器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、前述の如き課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0011】
すなわち、本発明の第一の態様は、光学部と長手形状の一対の支持部の何れもが折り畳み可能な軟質の合成樹脂材料で形成された眼内レンズを眼内に挿入するための眼内レンズの挿入器具であって、前記眼内レンズが載置される載置部を備えた筒形状の器具本体と、前記器具本体の後端部から挿入されて前記眼内レンズを該器具本体の先端部に設けられた挿入筒部から前記眼内へ押し出す押出部材とを備えており、前記眼内レンズの前記一対の支持部が該器具本体の先端側と後端側に延び出すように前記載置部に載置されて、該後端側に延び出す該支持部における長さ方向一端側の付け根部が該載置部の幅方向一方の側に位置せしめられると共に該支持部の長さ方向他端側の先端部が該載置部の幅方向他方の側に位置せしめられることにより、該支持部の長さ方向の中間部分が該光学部の後方側に離隔して該載置部を幅方向の一方側から他方側へ向けて延びるようになっている一方、前記押出部材の先端部には、該押出部材の押出方向において前記光学部と該押出部材との間に位置せしめられる前記支持部の長さ方向中間部分に対して接触する中間接触面と、該中間接触面の両側縁部から前記押出部材の基端部側に向かって延び出すと共に該押出部材が押し当てられて該押出部材の先端部に沿うように変形せしめられた前記支持部において前記長さ方向中間部分を間に挟んだ長さ方向の左側部分および右側部分に接触する左側接触面および右側接触面とが、それぞれ設けられており、前記支持部が、前記押出部材の前記中間接触面と前記左側接触面と前記右側接触面とにそれぞれ接触した状態で、前記押出部材により前記眼内レンズが前記挿入筒部へ押し出されるようになっているものである。
【0012】
本態様によれば、器具本体の後端側に延び出す支持部を、押出部材の先端部に設けられた中間接触面および左右側接触面に接触させ、支持部の長さ方向中間部分の任意の部位と当該部位を間に挟んだ左側接触面および右側接触面に亘る支持部の長さ方向の中間部分の広範囲を先端部に沿うように変形させることができ、後端側の支持部の変形形状を安定させることができる。これにより、後端側の支持部が予期せぬ形状に変形されて、押出時に器具本体の内面に摺動して破損が生じたり、光学部に密着することにより嚢内での眼内レンズの展開に悪影響を及ぼす等といった不具合を可及的に低減乃至は防止することができる。
【0013】
また、後端側支持部の中間部分を押出部材の先端部に沿うように屈曲させることにより、後端側支持部の光学部への付け根部と後端側支持部の先端部が、押出部材の先端部の両側部にバランスよく位置させることができる。これにより、押出部材の先端部の両側面が後端側支持部に安定的に支持された状態となり、押出部材が押し出される際に一方の側に変位することが防止され、押出部材による押出力を眼内レンズに効率よく及ぼすことができる。しかも、後端側支持部を光学部の広範囲に亘って接触させることが回避されることから、光学部と一対の支持部の何れもが折り畳み可能な軟質の合成樹脂材料で形成された眼内レンズにおいて、押出変形時の光学部と支持部の密着を有効に回避しつつ、変形形状を安定化させることができる。
【0014】
さらに、押出部材の先端部に後端側の支持部が接触された状態で、眼内レンズが押し出されることから、押出部材が直接光学部の外周縁部を押圧することによる光学部の外周縁部の破損や亀裂発生を未然に防止することができる。
【0015】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る眼内レンズの挿入器具において、前記押出部材の前記先端部に対して、前記器具本体の後端側の前記支持部が最も接触した状態において、前記支持部の長さ寸法の50%以上の長さに亘って、該支持部が該押出部材の該先端部に接触しているものである。
【0016】
本態様によれば、支持部と押出部材の最大接触長さが、支持部の長さ寸法の50%以上とされていることから、押出部材から局所的に力が加わることがなく、レンズへのダメージが軽減される。さらに、支持部の変形状態を一層安定して実現することができ、第一の態様と同様の効果を一層有利に実現できる。
【0017】
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係る眼内レンズの挿入器具において、前記押出部材の前記先端部がロッド形状を有しており、前記先端部の先端面が前記中間接触面とされている一方、前記先端部の両側面に前記先端面から前記押出部材の基端部側に延び出す長手形状の一対の切欠部が形成されて前記押出部材の前記先端部が前記基端部よりも狭幅とされていると共に、該一対の切欠部によって前記左側接触面および前記右側接触面が構成されているものである。
【0018】
本態様によれば、ロッド状押出部材の先端面を中間接触面とし、その左右両側面を押出部材の基端部側に向かって切り欠く切欠部を形成して左右側接触面を形成していることから、後端側に延び出す支持部の中間部分を先端面(中間接触面)で押圧することにより、中間部分を挟んだ支持部の左右両側部分を容易に左右側接触面に沿わせることができる。これにより、支持部の変形形状を安定して実現することができ、第一の態様と同様の効果が容易かつ確実に実現され得る。
【0019】
本発明の第四の態様は、前記第一乃至第三の何れか一つの態様に係る眼内レンズの挿入器具において、前記載置部と前記挿入筒部との間に前記眼内レンズの前記光学部を上方に凸となるように変形させる変形作用部が形成されている一方、前記押出部材の前記中間接触面が、その上端側よりも下端側が該押出部材の先端側に向かって延び出す傾斜面を含んでいるものである。
【0020】
本態様によれば、眼内レンズが上方に凸となる山折れ形状で折り畳まれる際には、先端側に延び出す支持部を光学部の間に入り込ませることが可能となり、先端側の支持部の変形状態を安定させることができる。さらに、押出部材の中間接触面が上端側よりも下端側が該押出部材の先端側に向かって延び出す傾斜面を有していることから、押出部材の先端部に沿って変形する後端側の支持部を中間接触面の比較的上方に位置させることができる。従って、上方に凸となる山折れ形状で折り畳まれた光学部の外周縁部を後端側の支持部を介して押出部材で安定して押圧することができ、後端側の支持部の光学部内へ入り込み、光学部の外周縁部が押出部材で直接押圧される等の不具合を有利に防止できる。
【0021】
本発明の第五の態様は、前記第四の態様に係る眼内レンズの挿入器具において、前記中間接触面の前記上端側の端縁部には、前記押出部材の軸直方向に立ち上がる垂直面が形成されているものである。
【0022】
本態様によれば、傾斜面により上方への変位力が支持部に作用しても、上端側の端縁部に垂直面が形成されていることから、後端側の支持部が中間接触面を乗り越えて押出部材の基端部側に移動することを、支持部と垂直面との係合により阻止することができ、支持部を所望の変形形状に安定して維持することができる。
【0023】
本発明の第六の態様は、前記第四又は第五の態様に係る眼内レンズの挿入器具において、前記中間接触面の前記下端側の端縁部には、前記傾斜面よりも傾斜角度が小さな緩傾斜面が形成されているものである。
【0024】
本態様によれば、押出部材の中間接触面(先端面)の下端側の端縁部に緩傾斜面が形成されていることから、後端側の支持部が中間接触面と当接した際に、支持部をスムーズに上方に導くことができると共に、支持部が中間接触面から下方に離脱して、押出部材と器具本体との間で支持部が挟まれる等の不具合も有利に防止することができる。
【0025】
本発明の第七の態様は、前記第一乃至第六の何れか一つの態様に係る眼内レンズの挿入器具において、前記器具本体の前記載置部に前記眼内レンズが内蔵された状態で提供されるものであって、前記眼内レンズの前記一対の支持部のうち、前記器具本体の後端側に延び出す前記支持部が、前記眼内レンズの前記光学部の外周縁部から前記器具本体の軸方向に斜交して前記後端側に延び出しているものである。
【0026】
本態様によれば、後端側の支持部が器具本体の軸方向に斜交して後端側に延び出していることから、押出部材の中間接触面を支持部の長さ方向中間部分に有利に接触させることができ、後端側の支持部を所望の変形形状に有利に変形させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の眼内レンズの挿入器具によれば、押出部材の先端部に中間接触面および左右側接触面を設けることにより、器具本体の後端側に延び出す支持部をこれらの面に接触させ、支持部の長さ方向中間部分の広範囲を先端部に沿うように変形させることができるので、後端側の支持部の変形形状を安定させることができる。これにより、支持部や光学部の損傷の発生を低減すると共に、押出部材による眼内レンズの押出状態を安定させることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態としての眼内レンズの挿入器具の上面図。
図2】同挿入器具の側面図。
図3】同挿入器具における挿入筒部の上面図。
図4】同挿入筒部の側面図。
図5図3におけるA−A乃至C−C断面図。
図6図1に示した挿入器具における押出部材の上面図。
図7】同押出部材の側面図。
図8図6に示した押出部材の先端部の拡大図。
図9図7に示した押出部材の先端部の拡大図。
図10】眼内レンズの押出し時の変形状態を説明するための上面説明図。
図11図10のXI−XI断面に相当する断面説明図。
図12図11のXII−XII断面に相当する断面説明図。
図13】本発明の一実施形態の変形例としての押出部材の先端部の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0030】
先ず、図1および図2に、本発明の一実施形態としての眼内レンズの挿入器具10を示す。眼内レンズの挿入器具10は合成樹脂製とされており、眼内レンズ12が載置される載置部14を備えた筒形状の器具本体16と、器具本体16の後端部18から挿入されて眼内レンズ12を器具本体16の先端部に設けられた挿入筒部20から眼内へ押し出す押出部材22とを備えており、予め眼内レンズ12を内蔵して提供される。なお、以下の説明において、前方とは、押出部材22の押出方向(図1中、左方向)を言うものとし、上方とは、図2中、上方向を言うものとする。また、左右方向とは、眼内レンズの挿入器具10の背面視における左右方向(図1中、上方が右、下方が左)を言うものとする。
【0031】
眼内レンズ12は、従来公知の眼内レンズであって、光学特性を与える光学部24と、光学部24から外周側に突出せしめられた一対の支持部すなわち先端側の支持部26と後端側の支持部28を含んで構成されている。そして、光学部24が一対の支持部26,28で支持されて、水晶体嚢内に位置決め状態で配されるようになっている。後述するように、光学部24は水晶体嚢内に配された状態で、嚢内の前面に位置せしめられる光学部前面142と、硝子体側に位置せしめられる光学部後面140を備えており、光学部前面142と光学部後面140の曲率は要求される光学特性等を考慮して適宜に設定される。かかる光学部24と一対の支持部26,28は同じ材料から形成されており、具体的には、特開平10−24097号公報や特開平11−56998号公報等に記載されている、折り畳み可能な軟質の合成樹脂材料が採用される。その中でも、形状回復性に優れた眼内レンズを得るために、以下(i)に示す如き(メタ)アクリル酸エステルを、一種又は二種以上含むモノマーを採用することが望ましい。また、以下(ii)に示す如き任意モノマーが適宜に配合される。更に、必要に応じて、以下(iii)に示す如き添加物が必要に応じて加えられる。
【0032】
(i)含有モノマー
以下の如き、直鎖状,分岐鎖状又は環状のアルキル(メタ)アクリレート類;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等
以下の如き、水酸基含有(メタ)アクリレート類;
ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等
以下の如き、芳香環含有(メタ)アクリレート類;
フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート等
以下の如き、シリコン含有(メタ)アクリレート類;
トリメチルシロキシジメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート等
なお、「(メタ)アクリレート」とは、「・・・アクリレート」並びに「・・・メタクリレート」の二つの化合物を総称するものであり、後述するその他の(メタ)アクリル誘導体についても同様とする。
【0033】
(ii)任意モノマー
以下の如き、(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体;
(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等
以下の如き、N−ビニルラクタム類;
N−ビニルピロリドン等
スチレンまたはその誘導体
以下の如き、架橋性モノマー;
ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート
【0034】
(iii)添加物
熱重合開始剤、光重合開始剤、光増感剤等
色素等
紫外線吸収剤等
【0035】
また、一対の支持部26,28は、光学部24の径方向で対向する外周部分から互いに反対方向に突出せしめられると共に、それぞれの突出先端部が、光学部24を互いに同方向に回り込んだ先端部分に位置せしめられた、平面視において逆S字形状とされている。
【0036】
一方、器具本体16は、略筒形状とされた本体筒部30を有している。本体筒部30の内部には、略矩形断面形状をもって軸方向に貫通する貫通孔32が形成されている。また、本体筒部30の後端部からやや前方の部位には、本体筒部30の延出方向と直交する方向に広がる板状部34が一体的に形成されている。
【0037】
さらに、器具本体16における本体筒部30の前方には、載置部14が形成されている。載置部14には、眼内レンズ12の光学部24の径寸法より僅かに大きな幅寸法をもって軸方向に延びる凹状溝36が形成されている。凹状溝36は、眼内レンズ12の一対の支持部26,28を含む最大幅寸法(図1における左右方向寸法)よりもやや大きな軸方向長さ寸法をもって形成されている。
【0038】
ここにおいて、凹状溝36は上方に開口せしめられた開口部38を有する一方、その底面には載置面40が形成されている。載置面40は、眼内レンズ12の最小幅寸法(図1における上下方向寸法)よりも僅かに大きな幅寸法を有すると共に、眼内レンズ12の最大幅寸法(図1における左右方向寸法)よりも大きな軸方向長さ寸法を有する平坦面とされている。なお、載置面40の高さ位置は、本体筒部30における貫通孔32の底面の高さ位置よりも上方に位置しており、本体筒部30における貫通孔32の前端縁部には、貫通孔32の底面から上方に延び出して載置面40の後端縁部に接続する壁部42(図2参照)が形成されている。このようにして、凹状溝36は貫通孔32と連通されており、凹状溝36の幅寸法が貫通孔32の幅寸法と略等しくされている。
【0039】
そして、凹状溝36の側方(本実施形態においては、右側)には、カバー部材44が器具本体16と一体形成されている。カバー部材44は、凹状溝36の軸方向寸法と略等しい軸方向寸法を有すると共に、凹状溝36の幅寸法よりもやや大きな幅寸法をもって形成されている。更に、カバー部材44は、載置部14の上端縁部が側方(本実施形態においては、右側)に延び出して形成された略薄板形状の連結部46によって器具本体16と連結されている。連結部46は、幅方向略中央部分を器具本体16の軸方向に延びる屈曲部48において最も薄肉とされており、屈曲部48で折り曲げ可能とされている。これにより、カバー部材44は、連結部46を折り曲げて凹状溝36に重ね合わせ、開口部38を覆蓋することが出来るようにされている。
【0040】
さらに、カバー部材44においてレンズ載置面40と対向せしめられる対向面50には、器具本体16の軸方向に延びる一対の左右案内板部52,54が突出して一体形成されている。これら左右案内板部52,54は凹状溝36の幅寸法よりもやや小さな対向面間距離をもって、カバー部材44の軸方向の全体に亘って形成されている。なお、対向面50の外周縁部は、全周に亘ってやや厚肉に形成されており、左右案内板部52,54は、かかる対向面50の外周縁部よりも更に突出せしめられている。
【0041】
また、対向面50における左右案内板部52,54の対向面間の略中央位置には、左右案内板部52,54と平行に器具本体16の軸方向に延びる中央案内板部56が一体形成されている。中央案内板部56は、厚肉に形成された対向面50の外周縁部から僅かに突出する高さ寸法とされており、対向面50の軸方向の全長に亘って外周縁部から延びるように一体形成されている。
【0042】
そして、カバー部材44における連結部46と反対側の縁部には、係合片60が突出形成されている一方、載置部14におけるカバー部材44と反対側の端部には、外側に突出する突出縁部62が形成されており、かかる突出縁部62における係合片60と対応する位置には、係合切欠64が形成されている。
【0043】
また、カバー部材44には、厚さ方向に貫通する注入孔66が適当な位置に適当な個数形成されており、かかる注入孔66を通じて、適当な潤滑剤を必要に応じて器具本体16内に注入出来るようになっている。
【0044】
さらに、載置部14の前方で、器具本体16の軸方向先端部には、挿入筒部20が一体形成されている。図3および図4に、挿入筒部20を示す。挿入筒部20は、全体として載置部14側の基端部から延出方向(図3中、左方向)の先端部に行くに連れて次第に先細となる外形形状をもって形成されていると共に、延出方向の全長に亘って貫通する通孔68が形成されている。そして、通孔68における一方の端部が載置部14と連通する基端開口部70とされる一方、基端開口部70と反対側の端部が先端開口部72とされている。
【0045】
特に本実施形態における挿入筒部20は、図3に示すように、載置部14側から順に基端部74、中間部76、先端部78とされている。基端部74は、略一定の断面形状をもって軸方向に延びる形状とされている。一方、中間部76および先端部78は、軸直角方向の断面積が略一定の面積縮小率をもって先端部に行くに連れて次第に小さくなる先細形状とされている。ここにおいて、中間部76の軸方向長さあたりの面積縮小率は、先端部78の軸方向長さあたりの面積縮小率よりも大きくされており、挿入筒部20の軸方向長さあたりの面積縮小率は、中間部76において最大とされる一方、先端部78においては面積縮小率が十分に小さくされて、略一定の断面形状をもってストレートに延び出されている。
【0046】
また、通孔68には、レンズ載置面40から段差無く連続する底面80と、底面80の上方に対向位置せしめられた天面82が形成されている。そして、底面80の幅寸法は、基端部74において載置部14におけるレンズ載置面40と等しく、眼内レンズ12の光学部24の外径寸法よりも僅かに大きな一定の幅寸法とされている一方、中間部76において、基端部74側から先端部78側に行くに連れて、光学部24の外径寸法よりも僅かに大きな幅寸法から小さな幅寸法まで次第に変化せしめられている。そして、本実施形態においては、先端部に行くに連れて幅寸法が次第に小さくなる通孔68において、幅寸法が眼内レンズ12の光学部24の外径寸法よりも大きい範囲が導入部84、小さい範囲が送出部86とされており、導入部84は、基端部74と、中間部76において通孔68の幅寸法が光学部24の外径寸法よりも大きい範囲を含んで形成されている。従って、眼内レンズ12は、非変形の自由状態で送出部86に入ることは困難とされており、送出部86に送り込まれた段階では光学部24が湾曲変形せしめられていることとなる。
【0047】
さらに、図5に示すように、通孔68は、基端開口部70において半月形状又は鏡餅形状を有すると共に、先端開口部72に行くに連れて次第に略オーバル形状に変形せしめられている。これにより、導入部84において、器具本体16の軸直方向断面における底面80の曲率半径は、天面82の曲率半径よりも大きくされており、特に本実施形態においては、導入部84における底面80は曲率半径が無限大とされた平坦面とされている。なお、導入部84の先端部分における底面80には、軸方向前方に行くに連れて次第に上方に傾斜せしめられた傾斜面88が形成されており、通孔68の底面80は、傾斜面88を含んだ平坦面とされている。一方、通孔68の天面82は、軸方向の全長に亘って段差の無い平坦面とされている。
【0048】
かかる導入部84の底面80における幅方向中央部分には、天面82に向けて突出する一対のガイドレール90,90が形成されている。ガイドレール90は、所定寸法に亘って器具本体16の軸方向に直線状に延びる突条とされている。特に本実施形態におけるガイドレール90は、先端部が導入部84の先端部を僅かに超えて、傾斜面88の先端部に位置せしめられている。特に、ガイドレール90の先端部は、中間部76のレンズ押出方向においてその底面80の幅寸法が眼内レンズ12の光学部24の外径寸法よりも小さくなった位置にまで延びている。一方、ガイドレール90の後端部は、導入部84の後端部を越えてレンズ載置面40にまで延び出されており、後述する初期位置に位置せしめられた押出部材22の最先端面130からレンズ押出方向で僅かに前方に位置せしめられている。なお、特に本実施形態においては、ガイドレール90の先端部は、傾斜面88が軸方向前方に行くに連れて次第に高くされることによって、先端部に行くに連れて底面80に次第に吸い込まれるようにして、底面80と等しい高さ位置となるようにされている。一方、ガイドレール90の後端部は、好適には、ガイドレール90の延出方向でレンズ載置面40から天面82に向けて次第に突出する傾斜面とされる。このようにすれば、押出部材22のガイドレール90への引っ掛かりのおそれや、ガイドレール90の後端部がレンズ載置面40よりも前方に位置せしめられて、眼内レンズ12が押し出しの途中からガイドレール90に乗り上げる場合などの引っ掛かりのおそれを軽減出来る。
【0049】
これら一対のガイドレール90,90は、底面80の幅方向中心を挟んで底面80の幅方向で所定距離を隔てて互いに略平行に形成されており、一対のガイドレール90,90の幅方向の離隔距離は、好適には、押出部材22の後述する棒状部110の幅寸法と略等しくされ、本実施形態においては、棒状部110の幅寸法よりも僅かに小さくされている。これにより、本実施形態における一対のガイドレール90,90は、押出部材22の押し込みに際して、器具本体16の軸直角方向で棒状部110の両側に位置せしめられるようになっている。更に、特に本実施形態においては、一対のガイドレール90,90は互いに略平行に形成されており、これら一対のガイドレール90,90における器具本体16の幅方向の離隔距離は、ガイドレール90の全長に亘って略一定とされている。
【0050】
さらに、導入部84の天面82における幅方向の両端部には、それぞれ、底面80に向けて突出する一対のサイドレール92,92が形成されている。サイドレール92は、所定寸法に亘って器具本体16の軸方向に直線状に延びる突条とされている。特に本実施形態におけるサイドレール92は、先端部が導入部84を僅かに超えて、挿入筒部20の軸方向においてガイドレール90の先端部と略等しく位置せしめられている一方、後端部が導入部84の後端部となる基端開口部70に位置せしめられており、導入部84の天面82を含んで形成されている。また、特に本実施形態においては、サイドレール92の先端部は、先端に行くに連れて通孔68の内面に次第に吸い込まれるようにして、通孔68の内面と等しくされるようになっている。一方、サイドレール92の後端部は、好適には、サイドレール92の延出方向で天面82から底面80に向けて次第に突出する傾斜面とされる。このようにすれば、眼内レンズ12のサイドレール92への引っ掛かりのおそれを軽減出来る。更に、特に本実施形態においては、一対のサイドレール92,92は互いに略平行に形成されており、これら一対のサイドレール92,92における器具本体16の幅方向の離隔距離は、サイドレール92の全長に亘って略一定とされている。
【0051】
以上のように、本実施形態における器具本体16は、本体筒部30、載置部14、カバー部材44、および挿入筒部20を備えた一体成形品とされている。なお、器具本体16は光透過性を有する部材で形成されており、載置部14の開口部38がカバー部材44で覆蓋せしめられた状態においても、カバー部材44を通して、器具本体16に収容された眼内レンズ12が視認可能とされている。
【0052】
そして、このような構造とされた器具本体16の後方から、押出部材22が貫通孔32に挿し入れられて、器具本体16に組み付けられている。図6〜9に、押出部材22を示す。押出部材22は、例えば器具本体16と同じ材料から形成されている一方、器具本体16の軸方向長さ寸法よりもやや大きな軸方向長さ寸法を有する略ロッド形状とされており、略円柱形状とされた作用部106と、略矩形ロッド形状とされた挿通部108が一体形成されている。
【0053】
作用部106は、押出部材22の中心軸上を延びる略ロッド形状とされた棒状部110と、棒状部110の幅方向両側に広がる薄板状の扁平部112とを含んで構成されている。扁平部112は、棒状部110の後端部から挿通部108と等しい幅寸法をもって先端方向に向けて延び出すと共に、棒状部110の長さ方向略中間部分から、棒状部110の先端からやや後方の部位に行くに連れて次第に幅寸法が小さくされた先鋭部114が形成されている。ここにおいて、先鋭部114の上面視形状は、挿入筒部20の通孔68における中間部76の水平方向断面形状に沿う形状とされている。
【0054】
棒状部110は略オーバル形状の一定の断面形状をもって軸方向にストレートに延びる形状とされており、棒状部110の先端面が中間接触面116とされている一方、棒状部110の両側面に中間接触面116から押出部材22の基端部側に延び出す長手形状の一対の切欠部が形成されて棒状部110の先端部118が基端部よりも狭幅とされていると共に、該一対の切欠部によって左側接触面120および右側接触面122が構成されている。また中間接触面116は、その上端側よりも下端側が棒状部110の先端側に向かって延び出す傾斜面を形成していると共に、中間接触面116の上端側の端縁部には、棒状部110の軸直方向に立ち上がる垂直面124が形成されている一方、中間接触面116の下端側の端縁部には、中間接触面116よりも傾斜角度が小さな緩傾斜面126が形成されている。このように、棒状部110の先端部118は全体として略同じ幅で形成されている。なお、緩傾斜面126の軸方向先端部には、緩傾斜面126よりも狭幅とされた、押出部材22の最先端面130が形成されている。
【0055】
一方、挿通部108は、貫通孔32の軸方向寸法よりも僅かに大きな軸方向寸法をもって形成されている。かかる挿通部108は略全体が略H字状の横断面形状とされており、その幅寸法および高さ寸法が、貫通孔32の幅寸法および高さ寸法よりも僅かに小さくされている。また、挿通部108の後端縁部には、軸直角方向に広がる円板状の押圧板部132が一体形成されている。
【0056】
さらに、挿通部108の軸方向中間部分からやや前方には、係止部134が形成されている。係止部134には、挿通部108の軸直方向に貫通する貫通孔内に突出すると共に、挿通部108の上方に向けて突出する爪部136が形成されている。そして、押出部材22が器具本体16の本体筒部30に挿通された状態で、爪部136が本体筒部30の上面において厚さ方向に貫設された係止孔138と係合せしめられることによって、押出部材22が、器具本体16に対する相対位置が位置決めされた挿通状態で保持されるようになっている。なお、爪部136と係止孔138の形成位置は、係合状態において、押出部材22の最先端面130が、載置部14内に収容された眼内レンズ12の後端側の支持部28から押出方向の後方に僅かに離隔する位置となるように設定されている。なお、係止部134や係止孔138は、例えば、挿入器具10の下面や側面に形成しても良い。
【0057】
このような構造とされた眼内レンズ12の挿入器具10は、押出部材22の先端部分が器具本体16の本体筒部30に後方から挿入されて、爪部136が係止孔138に係止せしめられた初期位置の状態とされる。
【0058】
そして、予めカバー部材44が開放状態とされた載置部14のレンズ載置面40に、眼内レンズ12が光学部後面140をレンズ載置面40に対向せしめた向きで且つ眼内レンズ12の一対の支持部26,28が眼内レンズ12の光学部24の外周縁部から器具本体16の軸方向に斜交して先端側および後端側に延び出している状態で載置される。その後、屈曲部48が屈曲せしめられて、カバー部材44によって載置部14の開口部38が覆蓋されることによって、眼内レンズ12が器具本体16内に収容状態でセットされる。なお、カバー部材44は、係合片60が係合切欠64に係合されることによって、閉状態に維持される。
【0059】
かかるレンズ載置面40への載置状態において、眼内レンズ12は、初期位置に設定された押出部材22の最先端面130から押出方向の前方に僅かに離隔して位置せしめられている。また、凹状溝36の幅寸法が眼内レンズ12における光学部24の径寸法より僅かに大きい程度とされていることから、レンズ載置面40上での眼内レンズ12の周方向の回転も阻止されるようになっている。更に、特に本実施形態においては、ガイドレール90がレンズ載置面40まで延び出されていることによって、レンズ載置面40への載置状態で、眼内レンズ12の光学部後面140の中央部分並びに一対の支持部26,28が、ガイドレール90に接触せしめられるようになっている。
【0060】
以上のようにして、眼内レンズ12が挿入器具10内に収容される。そして、本実施形態における挿入器具10は、眼内レンズ12を収容した状態で殺菌処理等がなされた後に、梱包されて配送される。眼内レンズは必ずしも予め挿入器具10内に収容されている必要はなく、施術時に載置面40に載置されるものであってもよい。
【0061】
このように、眼内レンズ12を内蔵して提供された、本実施形態における挿入器具10が白内障等の手術に用いられる具体的な手順について、図10〜12を用いて説明する。
【0062】
梱包から取り出した後、始めに、ヒアルロン酸ナトリウム等の粘弾性物質を主成分とする潤滑剤を載置部14や挿入筒部20の内部に注入することが望ましい。特に本実施形態においては、カバー部材44に厚さ方向に貫通する注入孔66が形成されており、かかる注入孔66を通じて、カバー部材44を閉じた状態で潤滑剤が注入出来るようになっているが、潤滑剤の注入は、例えば、挿入筒部20の先端開口部72から注入したり、一旦カバー部材44を開いて、載置部14の開口部38から注入したり、或いは、一旦押出部材22を器具本体16から引き抜いて、貫通孔32の後端の後端部18から注入するなどしても良い。
【0063】
続いて、眼組織に設けた切開創に挿入筒部20の先端開口部72を挿入する。ここにおいて、本実施形態においては、先端開口部72が斜めの開口形状とされていることから、切開創への挿入を容易に行うことが出来る。
【0064】
そして、切開創への挿入筒部20の挿入状態を維持しつつ、押出部材22の押圧板部132を器具本体16側に押し込む。これにより、図10(a)(b)および図11(a)(b)に示すように、レンズ載置面40に載置された眼内レンズ12の後端側の支持部28の中央部分に、押出部材22の中間接触面116が当接せしめられて、押出部材22によって眼内レンズ12が基端開口部70に向けて案内される。ここにおいて、後端側の支持部28はガイドレール90上に載置されていることにより、押出部材22の最先端面130に引っ掛かることなく、中間接触面116の下端側の端縁部に設けられた緩傾斜面126を通して、中間接触面116に案内される。同様にして、眼内レンズ12の光学部24の外周縁部の後端部分も緩傾斜面126を通して、押出部材22の中間接触面116に案内される。押出部材22の中間接触面116が上端側よりも下端側が押出部材22の先端側に向かって延び出す傾斜面を有していることから、後端側の支持部28および光学部24の後端部分は中間接触面116の上方に導かれる。しかしながら、図11(a)および図12(a)に示すように、カバー部材44に設けられた中央案内板部56および左右案内板部52,54により、眼内レンズ12の後端側の支持部28および光学部24の上方への変位が制限されていることから、中間接触面116上にある眼内レンズ12の後端側の支持部28および光学部24の後端部分を略同一の高さ位置と出来て、押出部材22によって後端側の支持部28を介して光学部24を基端開口部70に向けて案内することが出来る。
【0065】
そして、基端開口部70を通じて導入部84(基端部74)に送り込まれた眼内レンズ12は、図12(b)にモデル的に示すように、光学部後面140の中央部分が底面80から突出せしめられたガイドレール90に接触せしめられると共に、光学部前面142において押出方向に直交する方向の両側端部に、天面82から突出せしめられたサイドレール92がそれぞれ接触せしめられる。これにより、光学部後面140の中央部分には天面82に向かう応力が及ぼされる一方、光学部前面142において押出方向に直交する方向の両側端部には、底面80に向かう応力が及ぼされる。その結果、眼内レンズ12の光学部24は、光学部前面142が天面82に向けて凸となる山折状態に変形せしめられる。要するに、本実施形態ではガイドレール90およびサイドレール92を含んで変形作用部が構成されている。
【0066】
そして、導入部84で山折状態の初期変形が及ぼされた眼内レンズ12の光学部24は、図12(c)(図10(c),図11(c)も併せて参照)にモデル的に示すように、中間部76を通じて、丸め込まれるようにしてより小さく変形せしめられる。そこにおいて、光学部24は通孔68の内面形状に沿って変形せしめられ、山折状態が更に進められて、光学部前面142が天面82に当接せしめられた状態で丸められる。そして、先端部に行くに連れて次第に略オーバル形状とされた通孔68に従って、光学部24は、図12(d)(図10(d),図11(d)も併せて参照)にモデル的に示すように、挿入筒部20の先端部78において、略オーバル形状に小さく丸められる。
【0067】
このように、光学部24の山折状態が更に進められて、光学部前面142が天面82に当接せしめられた状態になると、後端側の支持部28も光学部24の後端部分に押されて中間接触面116の傾斜面に沿ってより上方へと導かれ、中間接触面116の上端側の端縁部にある垂直面124もしくはその近傍まで到達する。すなわち、押出部材22の先端部118にある、眼内レンズ12の後端側の支持部28および光学部24の後端部分を略同一の高さ位置と出来て、押出部材22によって後端側の支持部28を介して光学部24を挿入筒部20の先端部78に向けて案内することが出来る。
【0068】
また、光学部24と同様に、後端側の支持部28も先端部に行くに連れて次第に通孔68に従って小さく縮められることにより、図10(d)に示すように、後端側の支持部28を、押出部材22の先端部118に設けられた中間接触面116および左右側接触面120,122に接触させた状態で、眼内レンズ12を挿入筒部20の先端部78に向けて案内することが出来る。
【0069】
以上のように、後端側の支持部28の長さ方向中間部分の広範囲を押出部材22の先端部118に沿うように略S字状に変形させることが出来ることから、後端側の支持部28の変形形状を安定させることが出来る。またこれにより、後端側の支持部28が予期せぬ形状に変形されて、押出時に器具本体16の内面に摺動して破損が生じたり、光学部24に密着することにより嚢内での眼内レンズ12の展開に悪影響を及ぼす等といった不具合を可及的に低減乃至は防止することができる。
【0070】
また、後端側の支持部28の中間部分を押出部材22の先端部118に沿うように屈曲させることにより、後端側の支持部28の光学部24への付け根部と先端部を、押出部材22の先端部118の両側部120,122にバランスよく位置させることが出来る。これにより、押出部材22の先端部118すなわち中間接触面116および左右側接触面120,122によって、後端側の支持部28が安定的に支持された状態となる。従って、押出部材22により眼内レンズ12が挿入筒部20へ押し出される際に、押出部材22が一方の側に変位することが防止され、押出部材22による押出力を眼内レンズ12に効率よく及ぼすことができる。なお、押出部材22の先端部118に後端側の支持部28が最も接触した状態において、後端側の支持部28の長さ寸法の50%以上の長さに亘って、後端側の支持部28が押出部材22の先端部118に接触していることが望ましい。
【0071】
しかも、後端側の支持部28を光学部24の広範囲に亘って接触させることが回避されることから、押出変形時の後端側の支持部28と光学部24との密着を有効に回避しつつ、変形形状を安定化させることが出来る。さらに、押出部材22の先端部118に後端側の支持部28が接触された状態で、眼内レンズ12が押し出されることから、押出部材22が直接光学部24の外周縁部を押圧することによる光学部24の外周縁部の破損や亀裂発生を未然に防止することができる。
【0072】
また、押出部材22の中間接触面116が上端側よりも下端側が押出部材22の先端側に向かって延び出す傾斜面を有していることから、押出部材22の先端部118に沿って変形する後端側の支持部28を中間接触面116の比較的上方に位置させることができる。従って、上方に凸となる山折れ形状で折り畳まれた光学部24の外周縁部を後端側の支持部28を介して押出部材22で安定して押圧することができ、後端側の支持部28の光学部24内へ入り込み、光学部24の外周縁部が押出部材22で直接押圧される等の不具合を有利に防止できる。
【0073】
また、中間接触面116の傾斜面により上方への変位力が後端側の支持部28に作用しても、中間接触面116の上端側の端縁部に垂直面124が設けられていることから、後端側の支持部28が中間接触面116を乗り越えて押出部材22の基端部側に移動することを、後端側の支持部28と中間接触面116の垂直面124との係合により阻止することができ、後端側の支持部28を所望の変形形状に安定して維持することができる。
【0074】
また、眼内レンズ12の押出方向で前方に位置する先端側の支持部26は、光学部24が通孔68の内面形状に従って丸められるのに伴って、丸められた光学部24の内部に入り込まされる。これにより、通孔68内の眼内レンズ12に、タッキング状態が発現せしめられる。
【0075】
そして、眼内レンズ12は、かかるタッキング状態を維持しつつ、挿入筒部20の先端開口部72まで送り込まれる。そこにおいて、先端開口部72が斜め形状とされていることから、眼内レンズ12の変形状態、即ち、本実施形態によればタッキング状態をより長く維持しつつ、少しずつ先端開口部72から露出させることが出来る。これにより、眼内レンズ12をタッキング状態で器具本体16から押し出して嚢内に挿入することが可能とされており、光学部24に先行する先端側の支持部26の嚢内への接触を抑えることによって、これに伴う眼内レンズ12の反転のおそれを低減することが出来る。
【0076】
また、眼内レンズ12が載置面40に載置された状態で、後端側の支持部28が器具本体16の軸方向に斜交して後端側に延び出しており、後端側の支持部28の付け根側が凹状溝36の一方の側面側(図10中、下側)に位置されていると共に後端側の支持部28の先端側が凹状溝36の他方の側面側(図10中、上側)に位置されている。これにより、押出部材22の中間接触面116を後端側の支持部28の長さ方向中間部分に有利に接触させることができ、後端側の支持部28を所望の変形形状に有利に変形させることができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、これら実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものでない。
【0078】
本実施形態では、棒状部110の先端部118は全体として略同じ幅で形成されていたが、棒状部110の先端部118は軸方向前方に向かってなだらかに狭幅とされていてもよい。これにより、押出部材22の先端部118すなわち左右側接触面120,122に後端側の支持部28をより広範囲に接触させることが出来る。
【0079】
また本実施形態では、後端側の支持部28と接触する棒状部110の先端部118の中間接触面116や垂直面124は平面形状とされていたが、図13に示すように、上面視で軸方向前方(図13中、左方向)に凸の湾曲面とされていてもよい。これにより後端側の支持部28の先端部118に沿う略S字状の屈曲を有利に発現でき、押出部材22の先端部118すなわち中間接触面116や垂直面124に後端側の支持部28をより密着させることが出来る。
【0080】
加えて、後端側の支持部28と接触する棒状部110の先端部118の緩傾斜面126や中間接触面116や垂直面124は平面形状とされていたが、側面視で下方(図9中、下方向)に凸の湾曲面とされていてもよい。これにより、押出部材22の先端部118すなわち緩傾斜面126や中間接触面116や垂直面124に後端側の支持部28をより滑らかに導くことが出来る。なお、緩傾斜面126、中間接触面116および垂直面124を1つの湾曲面としてもよい。
【0081】
さらに本実施形態では、後端側の支持部28がガイドレール90上に載置されている場合について述べたが、無くても同様の効果が得られる。例えば、中間接触面116の下端側の端縁部に緩傾斜面126に設けられたこと自体で、後端側の支持部28が中間接触面116と当接した際に、後端側の支持部28をスムーズに上方に導くことが出来る。
【0082】
また本実施形態では、変形作用部はガイドレール90およびサイドレール92を含んで構成されていたが、眼内レンズ12の光学部24を上方に凸となるように変形させるものであれば採用可能である。
【符号の説明】
【0083】
10:挿入器具、12:眼内レンズ、14:載置部、16:器具本体、18:後端部、20:挿入筒部、22:押出部材、24:光学部、26:先端側の支持部、28:後端側の支持部、40:載置面、44:カバー部材、70:基端開口部、74:基端部、76:中間部、78:先端部、80:底面、82:天面、84:導入部、90:ガイドレール、92:サイドレール、106:作用部、110:棒状部、112:扁平部、116:中間接触面、118:先端部(棒状部)、120:左側接触面、122:右側接触面、124:垂直面、126:緩傾斜面、140:光学部後面、142:光学部前面
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