(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091503
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】容量制御弁
(51)【国際特許分類】
F04B 27/18 20060101AFI20170227BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
F04B27/18 A
F16K31/06 305L
F16K31/06 305V
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-516767(P2014-516767)
(86)(22)【出願日】2013年5月15日
(86)【国際出願番号】JP2013063501
(87)【国際公開番号】WO2013176012
(87)【国際公開日】20131128
【審査請求日】2015年11月25日
(31)【優先権主張番号】特願2012-118385(P2012-118385)
(32)【優先日】2012年5月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100116506
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 義宏
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100116757
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 英雄
(74)【代理人】
【識別番号】100123216
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 祐一
(72)【発明者】
【氏名】岩 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】小川 義博
(72)【発明者】
【氏名】福留 康平
(72)【発明者】
【氏名】森脇 研児
【審査官】
所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−172449(JP,A)
【文献】
特表2011−508077(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/119380(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 27/18
F16K 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を吐出する吐出室と流体の吐出量を制御する制御室とを連通させる吐出側通路と、
前記吐出側通路の途中に形成された第1弁室と、
流体を吸入する吸入室と前記制御室とを連通させる吸入側通路と、
前記吸入側通路の途中に形成された第2弁室と、
前記第1弁室にて前記吐出側通路を開閉する第1弁部及び前記第2弁室にて前記吸入側通路を開閉する第2弁部を一体的に有しその往復動によりお互いに逆向きの開閉動作を行う弁体と、
前記吸入側通路の途中において前記第2弁室よりも前記制御室寄りに形成された第3弁室と、
前記第3弁室内に配置されてその伸長により前記第1弁部を開弁させる方向に付勢力を及ぼすと共に周囲の圧力増加に伴って収縮する感圧体と、
前記感圧体の伸縮方向の自由端に設けられて環状の座面を有するアダプタと、
前記第3弁室にて前記弁体と一体的に移動すると共に前記アダプタの座面との係合及び離脱により前記吸入側通路を開閉する環状の係合面を有する第3弁部と、
前記弁体に対して前記第1弁部を閉弁させる方向に電磁駆動力を及ぼすソレノイドを備え、
前記感圧体は、ベローズ、アダプタ及び仕切調整部材を備え、
前記ベローズは、りん青銅より降伏応力の大きい材質による成形ベローズで形成され、該成形ベローズの一端が固定端として前記仕切調整部材に固定されるとともに他端が自由端として前記アダプタに保持されており、
前記アダプタ及び前記仕切調整部材は、非磁性体の材質で形成されていることを特徴とする容量制御弁。
【請求項2】
前記成形ベローズは、オーステナイト系ステンレス材で形成されることを特徴とする請求項1記載の容量制御弁。
【請求項3】
前記仕切調整部材は、オーステナイト系ステンレス材で形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の容量制御弁。
【請求項4】
前記成形ベローズと前記アダプタ及び前記仕切調整部材とは電子ビーム溶接で固定され、成形ベローズ内は絶対真空状態に保持されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の容量制御弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動流体の容量又は圧力を可変制御する容量制御弁に関し、特に、自動車等の空調システムに用いられる容量可変型圧縮機等の吐出量を圧力負荷に応じて制御する容量制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の空調システムに用いられる斜板式容量可変型圧縮機は、エンジンの回転力により回転駆動される回転軸、回転軸に対して傾斜角度を可変に連結された斜板、斜板に連結された圧縮用のピストン等を備え、斜板の傾斜角度を変化させることにより、ピストンのストロークを変化させて冷媒ガスの吐出量を制御するものである。
この斜板の傾斜角度は、冷媒ガスを吸入する吸入室の吸入圧力、ピストンにより加圧した冷媒ガスを吐出する吐出室の吐出圧力、斜板を収容した制御室(クランク室)の制御室圧力を利用しつつ、電磁力により開閉駆動される容量制御弁を用いて、制御室内の圧力を適宜制御し、ピストンの両面に作用する圧力のバランス状態を調整することで連続的に変化させ得るようになっている。
【0003】
このような容量制御弁としては、
図4に示すように、吐出室と制御室とを連通させる吐出側通路73、77、該吐出側通路の途中に形成された第1弁室82、吸入室と制御室とを連通させる吸入側通路71、72、吸入側通路の途中に形成された第2弁室(作動室)83、第1弁室82内に配置されて吐出側通路73、77を開閉する第1弁部76と第2弁室83内に配置されて吸入側通路71、72を開閉する第2弁部75とが一体的に往復動すると同時にお互いに逆向きに開閉動作を行うように形成された弁体81、吸入側通路71、72の途中において制御室寄りに形成された第3弁室(容量室)84、第3弁室内に配置されて伸長(膨張)する方向に付勢力を及ぼすと共に周囲の圧力増加に伴って収縮する感圧体(ベローズ)78、感圧体の伸縮方向の自由端に設けられ環状の座面を有する弁座体(係合部)80、第3弁室84にて弁体81と一体的に移動すると共に弁座体80との係合及び離脱により吸入側通路を開閉し得る第3弁部(開弁連結部)79、弁体81に電磁駆動力を及ぼすソレノイドS等を備えたものが知られている(以下、「従来技術1」という。例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
そして、この容量制御弁70では、容量制御時において容量可変型圧縮機にクラッチ機構を設けなくても、制御室圧力を変更する必要が生じた場合には、吐出室と制御室とを連通させて制御室内の圧力(制御室圧力)Pcを調整できるようにしたものである。また、容量可変型圧縮機が停止状態において制御室圧力Pcが上昇した場合には、第3弁部(開弁連結部)79を弁座体(係合部)80から離脱させて吸入側通路を開放し、吸入室と制御室とを連通させるような構成となっている。
【0005】
このように構成された容量制御弁70に於いて、配置されている弾発力発生の各ばね力と、流入する作動流体圧力により発生する釣り合い力の関係式は、
図4に示す構成を基にして考えると、Pc(Ab−Ar1)+Pc(Ar1−As)+Pd(As−Ar2)+Ps(Ar2−Ar1)+Ps×Ar1=Fb+S1−Fsolとなる。この関係式を整理すると、Pc(Ab−As)+Pd(As−Ar2)+Ps×Ar2=Fb+S1−Fsolとなる。
そして、感圧体(ベローズ)78の有効受圧面積Ab、第1弁部76のシール受圧面積As、及び第2弁部75の受圧面積Ar2の各受圧面積の関係をAb=As=Ar2とすると、上式はPs×Ar2=Fb+S1−Fsolとなる。
つまり、感圧体(ベローズ)78の有効受圧面積Abと、第1弁部76のシール受圧面積Asと、第2弁部75の受圧面積Ar2を同一又はほぼ同一にすると、容量制御弁1は、吸入側通路71から流入する吸入圧力Psのみが弁体81に作用することになり、制御精度が向上する。
【0006】
尚、上述の式に於ける符号は下記の通りである。
Ab・・・感圧体(ベローズ)78の有効受圧面積、
Ar1・・・第3弁部79の受圧面積(断面積)、
As・・・第1弁部76のシール受圧面積、
Ar2・・・第2弁部75の受圧面積、
Fb・・・感圧体(ベローズ)(全体)の弾発(ばね)力、
S1・・・ばね(弾発)手段85、
Fsol・・・電磁コイルの電磁力、
Ps・・・吸入圧力、
Pd・・・吐出圧力、
Pc・・・制御圧力(クランク室圧力)。
【0007】
このように、制御精度のよい容量制御弁を得るためには、感圧体78の有効受圧面積Ab、第1弁部76のシール受圧面積As、及び第2弁部75の受圧面積Ar2の各受圧面積の関係をAb=As=Ar2する必要があり、容量制御弁の径は、感圧体78の径または弁体81の径により決められるといってよい。
【0008】
ところで、従来技術1において、感圧体78は、金属製のベローズ78Aの一端部を仕切調整部86に密封に結合すると共に、他端を弁座体80に結合し、ベローズ78A内にはコイルばね87を内在している。このベローズ78Aは、加工性の良好さからりん青銅により製作されているが、バネ性の面からみると、りん青銅は材料自体の降伏応力が小さく、大きなストロークを確保することが出来ず、また、過大圧力の付加や高温使用条件下においてベローズ荷重低下といった特性の変化が起き易い傾向を有していることなどから、小径化やコイルばね87の廃止を行うことができなかった。りん青銅で小径化を行う場合は、ベローズの板厚を増やし、且つ、長さを長くしなければストロークを確保できず、現行のベローズ全長より長い寸法を必要とすることが必要となり、成形性の悪化が生じると同時に、軸方向の全長を延ばす必要がある事から、コンプレッサーの外径寸法から飛び出してしまう事が考えられる。そのため、容量制御弁に求められる重要な特性である「最大流量(バルブ全開流量)」を確保するためには、弁体81の径を大きくする必要があった。すなわち、ベローズ78Aをりん青銅により製作した場合、大きなストロークを確保することができないことから感圧体78及び弁体81の径を大きくする必要があり、また、特性の変化が起き易い傾向にあることからコイルばね87を内在せざるを得ず、結果として、容量制御弁の径も大きいものとならざるを得なかった。
【0009】
一方、感圧ユニットをソレノイドユニット内に配設した簡素な構造の制御弁を得るため、感圧ユニットは、ベローズの一端に強磁性材料で形成された可動端部を、ベローズの他端に強磁性材料で形成された固定端部を有し、ベローズの内部において、可動端部と固定端部が所定の隙間を隔てて対峙し、可動端部と固定端部がソレノイドユニットの磁気回路を形成する制御弁において、強磁性材料で形成された可動端部及び固定端部との接合性を考慮してベローズをステンレス系材料で形成することが提案されている(以下、「従来技術2」という。特許文献2参照。)。
しかし、従来技術2の発明は、感圧ユニットの内部にソレノイドユニットの磁気回路が形成されるため、感圧ユニットの構成部品がソレノイドユニットの構成部品を兼ねることができ、構造が簡素化されてコスト低減に寄与するとともに、制御弁の組立が容易となるという課題のもとになされているものであって、ベローズをステンレス系材料で形成するという発想も強磁性材料で形成された可動端部及び固定端部との接合性を考慮したものに過ぎず、容量制御弁の小径化を図るものではないため、コイルの外径を含め、容量制御弁の径は大きいものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2007/119380号
【特許文献2】特開2011−117396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術1及び2の有する問題点を解決するためになされたものであって、感圧ユニットのベローズ内に配置された内部スプリングを廃止すると共に、弁体及びベロ−ズの小径化を図り、小径化及び軽量化された容量制御弁を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため本発明の容量制御弁は、第1に、
流体を吐出する吐出室と流体の吐出量を制御する制御室とを連通させる吐出側通路と、
前記吐出側通路の途中に形成された第1弁室と、
流体を吸入する吸入室と前記制御室とを連通させる吸入側通路と、
前記吸入側通路の途中に形成された第2弁室と、
前記第1弁室にて前記吐出側通路を開閉する第1弁部及び前記第2弁室にて前記吸入側通路を開閉する第2弁部を一体的に有しその往復動によりお互いに逆向きの開閉動作を行う弁体と、
前記吸入側通路の途中において前記第2弁室よりも前記制御室寄りに形成された第3弁室と、
前記第3弁室内に配置されてその伸長により前記第1弁部を開弁させる方向に付勢力を及ぼすと共に周囲の圧力増加に伴って収縮する感圧体と、
前記感圧体の伸縮方向の自由端に設けられて環状の座面を有するアダプタと、
前記第3弁室にて前記弁体と一体的に移動すると共に前記アダプタの座面との係合及び離脱により前記吸入側通路を開閉する環状の係合面を有する第3弁部と、
前記弁体に対して前記第1弁部を閉弁させる方向に電磁駆動力を及ぼすソレノイドを備え、
前記感圧体は、りん青銅より降伏応力の大きい材質による成形ベローズで形成され、
前記成形ベローズは、りん青銅製のベローズより径が小さく、かつ、ストロークが大きく設定されていることを特徴としている。
この特徴によれば、ベローズ及び弁体の径を小さくすることができ、弁体の応答性を向上することができると共に、バルブボデーの径を小さくすることができる。更に、ソレノイドを含む容量制御弁の径も小さくすることができ、容量制御弁の軽量化、省スペース化を図ることができる。ひいては、斜板式容量可変型圧縮機の小型化、軽量化、及び車両の軽量化にも貢献することができ、環境にやさしい製品を得ることが可能である。更に、ベローズの小径化は、アダプタの小径化をもたらすことから、これによるベローズの耐振性の向上、並びに、その他可動部品においても小径化による部品重量の低減に伴う耐振性の向上を得ることができることから、耐久性の向上にも寄与することが可能である。
【0013】
また、本発明の容量制御弁は、第2に、第1の特徴において、前記感圧体は、好ましくは、オーステナイト系ステンレス材で形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、バネ性が高く、降伏応力が高く、及び小径化に適した感圧体を得ることができる。
【0014】
また、本発明の容量制御弁は、第3に、第1または第2の特徴において、前記成形ベローズの自由端に設けられたアダプタ及び固定端に設けられた仕切調整部材は非磁性体の材質で形成されることを特徴としている。
また、本発明の容量制御弁は、第4に、第3の特徴において、前記仕切調整部材は、好ましくは、オーステナイト系ステンレス材で形成されることを特徴としている。
第3及び第4特徴によれば、感圧体を仕切調整部材を介してバルブボデーに圧入する際、滑り性が良化され、製造を容易に行うことができる。
【0015】
また、本発明の容量制御弁は、第5に、第3または第4の特徴において、前記成形ベローズと前記アダプタ及び前記仕切調整部材とは電子ビーム溶接で固定され、成形ベローズ内は絶対真空状態に保持されることを特徴としている。
この特徴によれば、電子ビーム溶接の利点を生かして成形ベローズ内を絶対真空状態に保持できるため、吸入圧の絶対圧を感知することができるものであり、感知精度を向上させることができる。また、同じ非磁性体の材質で形成されたベローズ、仕切調整部材及びアダプタを電子ビーム溶接で固定するものであるから、溶接作業が容易であると共に溶接の信頼度を向上することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)感圧体が、りん青銅より降伏応力の大きい材質による成形ベローズで形成され、
前記成形ベローズは、りん青銅製のベローズより径が小さく、かつ、ストロークが大きく設定されていることにより、ベローズ及び弁体の径を小さくすることができ、弁体の応答性を向上することができると共に、バルブボデーの径を小さくすることができる。更に、ソレノイドを含む容量制御弁の径も小さくすることができ、容量制御弁の軽量化、省スペース化を図ることができる。ひいては、斜板式容量可変型圧縮機の小型化、軽量化、及び車両の軽量化にも貢献することができ、環境にやさしい製品を得ることが可能である。更に、ベローズの小径化は、アダプタの小径化をもたらすことから、これによるベローズの耐振性の向上、並びに、その他可動部品においても小径化による部品重量の低減に伴う耐振性の向上を得ることができることから、耐久性の向上にも寄与することが可能である。
【0017】
(2)感圧体が、好ましくは、オーステナイト系ステンレス材で形成されることにより、バネ性が高く、降伏応力が高く、及び小径化に適した感圧体を得ることができる。
【0018】
(3)成形ベローズの自由端に設けられたアダプタ及び固定端に設けられた仕切調整部材は非磁性体の材質で形成され、好ましくは、仕切調整部材は、オーステナイト系ステンレス材で形成されることにより、感圧体を仕切調整部材を介してバルブボデーに圧入する際、滑り性が良化され、製造を容易に行うことができる。
【0019】
(4)成形ベローズと前記アダプタ及び前記仕切調整部材とは電子ビーム溶接で固定され、成形ベローズ内は絶対真空状態に保持されることにより、電子ビーム溶接の利点を生かして成形ベローズ内を絶対真空状態に保持できるため、吸入圧の絶対圧を感知することができるものであり、感知精度を向上させることができる。また、同じ非磁性体の材質で形成されたベローズ、仕切調整部材及びアダプタを電子ビーム溶接で固定するものであるから、溶接作業が容易であると共に溶接の信頼度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る容量制御弁を備えた斜板式容量可変型圧縮機を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る容量制御弁の全体を示す縦断面図である。
【
図3】容量制御弁の感圧体の部分の拡大図であって、(a)は本発明の実施形態に係る容量制御弁の場合を、(b)は従来技術1の容量制御弁の場合を示したものである。
【
図4】従来技術1の容量制御弁の全体を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る容量制御弁を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加えうるものである。
【0022】
斜板式容量可変型圧縮機Mは、
図1に示すように、吐出室11、制御室(クランク室とも称す)12、吸入室13、複数のシリンダ14、シリンダ14と吐出室11とを連通させ吐出弁11aにより開閉されるポート11b、シリンダ14と吸入室13とを連通させ吸入弁13aにより開閉されるポート13b、外部の冷却回路に接続される吐出ポート11c及び吸入ポート13c、吐出室11と制御室12とを連通させる吐出側通路としての連通路15、前述の吐出側通路としての役割及び制御室12と吸入室13とを連通させる吸入側通路としての役割を兼ねる連通路16、吸入側通路としての連通路17等を画定するケーシング10、制御室(クランク室)12内から外部に突出して回動自在に設けられた回転軸20、回転軸20と一体的に回転すると共に回転軸20に対して傾斜角度を可変に連結された斜板21、各々のシリンダ14内に往復動自在に嵌合された複数のピストン22、斜板21と各々のピストン22を連結する複数の連結部材23、回転軸20に取り付けられた被動プーリ24、ケーシング10に組み込まれた本発明の容量制御弁V等を備えている。
また、斜板式容量可変型圧縮機Mには、制御室(クランク室)12と吸入室13とを直接連通する連通路18が設けられており、該連通路18には固定オリフィス19が設けられている。
さらに、この斜板式容量可変型圧縮機Mには、吐出ポート11c及び吸入ポート13cに対して冷却回路が接続され、この冷却回路には、コンデンサ(凝縮器)25、膨張弁26、エバポレータ(蒸発器)27が順次に配列して設けられている。
【0023】
容量制御弁Vは、
図2に示すように、金属材料又は樹脂材料により形成されたバルブボデー30、バルブボデー30内に往復動自在に配置された弁体40、弁体40を一方向に付勢する感圧体50、バルブボデー30に接続されて弁体40に電磁駆動力を及ぼすソレノイド60等を備えている。
【0024】
ソレノイド60は、バルブボデー30に連結されるケーシング62、一端部が閉じたスリーブ63、ケーシング62及びスリーブ63の内側に配置された円筒状の固定鉄芯64、固定鉄芯64の内側において往復動自在にかつその先端が弁体40に連結されて連通路44を形成する駆動ロッド65、駆動ロッド65の他端側に固着された可動鉄芯66、第1弁部41を開弁させる方向に可動鉄芯66を付勢するコイルスプリング67、スリーブ63の外側にボビンを介して巻回された励磁用のコイル68等を備えている。
【0025】
バルブボデー30は、吐出側通路として機能する連通路31、32、33、後述する弁体40の連通路44と共に吸入側通路として機能する連通路33、34、吐出側通路の途中に形成された第1弁室35、吸入側通路の途中に形成された第2弁室36、弁体40をガイドするガイド通路37、吐出側通路及び吸入側通路の制御室12寄りに形成された第3弁室38等を備えている。また、バルブボデー30には、第3弁室38を画定すると共にバルブボデー30の一部を構成する仕切調整部材39が圧入により取り付けられている。
【0026】
すなわち、連通路33及び第3弁室38は、吐出側通路及び吸入側通路の一部を兼ねるように形成され、連通路32は、第1弁室35と第3弁室38とを連通させると共に弁体40を挿通させる(流体が流れる隙間を確保しつつ弁体40を通す)弁孔を形成している。なお、連通路31、33、34は、それぞれ周方向に放射状に配列して複数(例えば、90度の間隔をおいて4個)形成されている。
そして、第1弁室35において、連通路(弁孔)32の縁部には、後述する弁体40の第1弁部41が着座する座面35aが形成され、又、第2弁室36において、後述する固定鉄芯64の端部には、後述する弁体40の第2弁部42が着座する座面36aが形成されている。
【0027】
弁体40は、略円筒状に形成されて一端側に第1弁部41、他端側に第2弁部42、第1弁部41を挟んで第2弁部42と反対側に後付けにより連結された第3弁部43、その軸線方向において第2弁部42から第3弁部43まで貫通し吸入側通路として機能する連通路44等を備えている。
第3弁部43は、第1弁室35から第3弁室38に向かって縮径した状態から末広がり状に形成されて連通路(弁孔)32を挿通すると共に、その外周縁において後述するアダプタ53と対向する環状の係合面43aを備えている。
【0028】
感圧体50は、ベローズ51、アダプタ53及び仕切調整部材39等を備えている。ベローズ51は、その一端が仕切調整部材39に固定され、その他端(自由端)にアダプタ53を保持している。
アダプタ53は、
図3に示すように、第3弁部43に先端が係合する断面が略コ字状をした中空円筒形部53aとベローズ51内に膨出する膨出部53cを有し、中空円筒形部53aの先端に第3弁部43の係合面43aと対向して係合及び離脱する環状の座面53bを備えている。
感圧体50は、第3弁室38内に配置されて、その伸長(膨張)により第1弁部41を開弁させる方向に付勢力を及ぼすと共に周囲(第3弁室38及び弁体40の連通路44内)の圧力増加に伴って収縮して第1弁部41に及ぼす付勢力を弱めるように作動する。
【0029】
図3は、容量制御弁の感圧体の部分の拡大図であって、(a)は本発明の実施形態に係る容量制御弁の場合を、(b)は従来技術1の容量制御弁の場合を示したものである。
図3において、(a)に示す本発明の実施形態に係る容量制御弁Vにおける感圧体50のベローズ51は、りん青銅より降伏応力の大きい材質による成形ベローズ、例えば、好ましくは、オーステナイト系ステンレス材による成形ベローズで形成され、該ベローズ51は、(b)に示す従来技術1のりん青銅製のベローズ78Aより径が小さく、かつ、ストロークが大きく設定されている。また、従来技術1の感圧体78は、ベローズ78A内にはコイルばね87を内在しているが、本発明の感圧体50のベローズ51内には内部スプリングなどの部材は設けられていない。更に、仕切調整部材39のベローズ51内に膨出する膨出部39aの端部とアダプタ53のベローズ51内に膨出する膨出部53cの端部との間の間隙αは、従来技術1に比較して大きく設定されている。
【0030】
ベローズ51は、その一端(固定端)が仕切調整部材39に固定され、その他端(自由端)にアダプタ53を保持するものであり、仕切調整部材39及びアダプタ53は非磁性体の材質で形成されている。仕切調整部材39は、好ましくは、オーステナイト系ステンレス材で形成される。
ベローズ51と仕切調整部材39及びアダプタ53とは電子ビーム溶接で固定され、成形ベローズ内は絶対真空状態に保持される。
【0031】
りん青銅より降伏応力の大きい材質による本発明の実施形態に係る成形ベローズは、りん青銅のベローズと比較すると、バネ性が高いことから内部スプリングの廃止が可能であり、ベローズ51の径B1を小さくすることができ、且つ、降伏応力自体も高いことから、ストロークを長く取ることが可能である。このため、弁体40を小径化したとしてもストロークを大きく取ることで弁体40の開口量を補うことができることから、弁体40を小径化することができ、弁体40の応答性を向上することができる。弁体40の小径化が可能になると、バルブボデー30の径B2を小さくすることができる。更に、ソレノイド60を含む容量制御弁Vの径B3も小さくすることができ、容量制御弁の軽量化、省スペース化を図ることができる。この省スペース化は、斜板式容量可変型圧縮機Mの小型化、軽量化、及び車両の軽量化にも貢献するものであるから、環境にやさしい製品となることが可能である。
【0032】
更に、ベローズ51の小径化は、アダプタ53の小径化をもたらすことから、これによるベローズ51の耐振性の向上、並びに、その他可動部品においても小径化による部品重量の低減に伴う耐振性の向上を得ることができることから、耐久性の向上にも寄与することが可能である。
【0033】
本発明の実施形態に係る容量制御弁Vを従来技術1の容量制御弁70と比較すると、
ベローズの径B1/B1’=5.95/7.9=0.75
バルブボデーの径B2/B2’=14.9/18.8=0.79
容量制御弁の径B3/B3’=21.7/23.6=0.92
となり、大幅に小径化されていることがわかる。
【0034】
また、通常、バルブボデー30は真鍮製であるため、従来技術1の感圧体78のようにりん青銅製である場合、両者の硬度が類似していることから、バルブボデー30内に仕切調整部86を圧入する際、滑り性がよくないのに対し、本発明の実施形態に係る容量制御弁Vにおける仕切調整部材39及びアダプタ53は、従来技術2のように強磁性材料ではなく、非磁性体の材質で形成することができるので、少なくとも仕切調整部材39をオーステナイト系ステンレス材で形成した場合、仕切調整部材39をバルブボデー30に圧入する際、両者の硬度が異なり滑り性が良化され、製造し易い。
【0035】
更に、本発明の実施形態に係る容量制御弁Vでは、ベローズ51と仕切調整部材39及びアダプタ53とは電子ビーム溶接で固定され、その際、陰極を成形ベローズ内に配置することで、成形ベローズ内を絶対真空状態に保持できるため、吸入圧Psの絶対圧を感知することができるものであり、従来技術2のように単にベローズ内を負圧にするものと比較して、感知精度を向上させることができる。また、ベローズ51と仕切調整部材39及びアダプタ53とを同じステンレス系材料で形成することができるため、電子ビーム溶接により安定して製作する事が可能であり、信頼度を向上することができる。
【0036】
以上、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明してきたが、具体的な構成は実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0037】
例えば、前記実施の形態では、感圧体について、りん青銅より降伏応力の大きい材質として、バネ性が高いこと、降伏応力が高く、小径化に適していることから、好ましい材料としてオーステナイト系ステンレス材を挙げているが、これに限らず、フェライト系ステンレス材でもよい。
【0038】
また、例えば、前記実施の形態では、仕切調整部材及びアダプタについて、非磁性体の材質で形成されるとしているが、これに限らず、感圧体の材質がフェライト系ステンレス材である場合、これと同じであってもよい。
【符号の説明】
【0039】
10 ケーシング
11 吐出室
12 制御室(クランク室)
13 吸入室
14 シリンダ
15 連通路
16 連通路
17 連通路
18 連通路
19 固定オリフィス
20 回転軸
21 斜板
22 ピストン
23 連結部材
24 被動プーリ
25 コンデンサ(凝縮器)
26 膨張弁
27 エバポレータ(蒸発器)
30 バルブボデー
31、32 連通路(吐出側通路)
33 連通路(制御室側通路)
34 連通路(吸入側通路)
35 第1弁室
35a 座面
36 第2弁室
36a 座面
37 ガイド通路
38 第3弁室
39 仕切調整部材
40 弁体
41 第1弁部
42 第2弁部
43 第3弁部
43a 係合面
44 連通路
50 感圧体
51 ベローズ
53 アダプタ
53a 中空円筒形部
53b 環状の座面
53c 膨出部
60 ソレノイド
62 ケーシング
63 スリーブ
64 固定鉄芯
65 駆動ロッド
66 可動鉄芯
67 コイルスプリング
68 励磁用のコイル
M 斜板式容量可変型圧縮機
V 容量制御弁
Pd 吐出圧力
Ps 吸入圧力
Pc 制御室圧力