特許第6091512号(P6091512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091512
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】摩擦締結装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/0638 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
   F16D25/0638
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-538259(P2014-538259)
(86)(22)【出願日】2013年8月5日
(86)【国際出願番号】JP2013071153
(87)【国際公開番号】WO2014050315
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2014年12月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-211904(P2012-211904)
(32)【優先日】2012年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】大本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】小形 秀一
【審査官】 増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】 特公平5−83768(JP,B2)
【文献】 実開昭62−158225(JP,U)
【文献】 特開2009−14142(JP,A)
【文献】 特開平7−269667(JP,A)
【文献】 特開2006−300095(JP,A)
【文献】 特開2008−2592(JP,A)
【文献】 特開2005−90568(JP,A)
【文献】 特開昭61−167740(JP,A)
【文献】 米国特許第3378111(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/0638
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部材と噛み合う第1の摩擦板と第2の部材と噛み合う第2の摩擦板とが軸方向交互に並んだ摩擦板列が、リング状のシリンダ内に配置されているピストンの油圧駆動により押圧されて第1の部材と第2の部材とが接続される摩擦締結装置において、
前記摩擦板列が変速機ケースの外壁に沿って配置され、
前記シリンダが前記変速機ケースの内部隔壁に形成され、
前記ピストンは、外径面と内径面を有する筒部と、
筒部の軸端に連なって径方向外方に延びリターンスプリングによって前記変速機ケースの内部隔壁に着座するように付勢されるフランジ部と、
フランジ部から軸方向に延び油圧駆動により摩擦板列を押圧する押圧部と、を備え、
前記ピストンの受圧面積が前記シリンダの径方向幅に基づく断面積よりも小さく設定され、
前記シリンダの断面積における前記ピストンの受圧面積を除く残余の断面積を埋めるスペーサが前記シリンダ内に固定され、
前記シリンダと前記スペーサの間にリング状の間隙が形成されて、
前記ピストンの筒部が前記間隙を摺動するように配置され、
前記ピストンの筒部は前記摩擦板列に近い側であって前記シリンダの径方向外側に配置され、
前記スペーサは前記摩擦板列から遠い側であって前記シリンダの径方向内側に配置され
前記スペーサと前記シリンダの底壁側との間にシール構造が設けられ、
前記シール構造は、シリンダの底壁に形成されたリング状のストッパ突起と、そのストッパ突起に対向する径方向位置の溝に保持されているシールリングと、を有した摩擦締結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の動力伝達系に組み込まれ、油圧を受けて移動して摩擦板を押圧するピストンを備えた摩擦締結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種摩擦締結装置は、例えば図5の(a)に示す構成を有している。
すなわち、変速機ケース90の内側にスプライン91が形成されており、リテーナプレート97およびドリブンプレート96(外側の摩擦板)が、その外周に形成された歯をスプライン91に噛み合わせて変速機ケース90に対する回転を規制されている。ドリブンプレート96は、スプライン91に沿って軸方向に移動可能である。
ドリブンプレート96と交互に重ね合せたドライブプレート95(内側の摩擦板)は、その内周に形成された歯を回転部材100のスプライン101に噛み合わせて回転部材100と一体に回転するとともに、スプライン101に沿って軸方向に移動可能である。
【0003】
変速機ケース90内にはスプライン91に隣接してシリンダ93が形成され、シリンダ93に配置したピストン103を油圧駆動する機構が設けられている。リターンスプリング105によって付勢されたピストン103は、シリンダ93に油圧が供給されると、リターンスプリング105を押し縮めて移動し、ピストン103から延びる押圧部104が交互に重なったドライブプレート95とドリブンプレート96からなる摩擦板列94を圧縮して摩擦力を発生させ、回転部材100の回転を停止させる。
ここで、シリンダ93は変速機ケース90の内部隔壁92にそれぞれ軸方向に延びる外筒と内筒とを形成して断面コ字形のリング状に区画され、ピストン103もこれに対応してリング状をなしている。
同一構成が特開2006−300095号公報に示されている。
【0004】
ピストン103による押圧力は摩擦板列94で伝達するべきトルクによって必要な値が定まり、押圧力はシリンダ93に供給される油圧とピストン103の受圧面積で求められる。その受圧面積を得るため、シリンダ93は摩擦板列94が位置する変速機ケース90の外壁近傍に設定された外径側の壁面から内方に例えば半径の1/4〜1/2に相当する径方向幅Sを有するのが一般である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−300095号公報
【発明の概要】
【0006】
本願発明者は、ドライブプレート95とドリブンプレート96の摩擦特性や供給油圧の高さ、あるいは伝達するべきトルクによっては、受圧面積の小さいピストン103’を設定しなければならない場合もあることを発見した。
この場合、従来シリンダ空間に設定していた領域を内部隔壁92’で埋めることにより、シリンダの径方向幅Sを小さくすることになるが、ピストン103’で押圧すべき摩擦板列94が変速機ケース90の外壁近傍に位置することから、シリンダ93’も例えば図5の(b)に示すように、軸心から離間した外壁寄りに設定するのが好ましい。
【0007】
しかしながら、受圧面積を同一とするシリンダでは軸心側より外壁寄りに設定するほどその径方向幅S’が狭くなり、例えば5〜10mm程度になると、シリンダ93’の切削加工が困難あるいは不可能となる問題が生じる。
また、内部隔壁92’におけるシリンダ93’空間以外の広領域、すなわちシリンダ93’の内径側の壁面と出力軸等を通す軸穴間Mが、複雑な肉抜きを形成しないと極端な厚肉断面となり、変速機ケース成形時にヒケや巣の発生を招いてしまうおそれがある。
【0008】
そこで、本願発明者は、上記の問題点にかんがみ、摩擦板を押圧するピストン用のシリンダの切削加工が容易で、しかもシリンダ周辺に極端な厚肉断面を招かないで済む摩擦締結装置を提供することを目的とした。
【0009】
このため本発明は、第1の部材と噛み合う第1の摩擦板と第2の部材と噛み合う第2の摩擦板とを軸方向交互に並べた摩擦板列を、リング状のシリンダ内に配置したピストンの油圧駆動により押圧して第1の部材と第2の部材とを接続する摩擦締結装置において、ピストンの受圧面積がシリンダの径方向幅に基づく断面積よりも小さく設定され、シリンダの断面積におけるピストンの受圧面積を除く残余の断面積を埋めるスペーサをシリンダ内に固定してあるものとした。
【発明の効果】
【0010】
ピストンが摺動する相手側摺動面が、広い径方向幅をもつシリンダの壁面と、別部品のスペーサ60の壁面とになるので、摺動面の切削加工等が容易で、製作に何らの不都合も生じない。
スペーサが移動しない分、シリンダに供給されるオイル量が少なくて済み、高い応答性が得られる。
さらに、残余の断面積を埋めるのに別部品のスペーサを用いるので、シリンダの形成部位に極端な厚肉断面を設ける必要がなく、ヒケや巣の発生を招くおそれもない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態にかかる摩擦締結装置の部分断面図である
図2】ピストンおよびスペーサを示す図である。
図3】リターンスプリングの設置状態を示す部分断面図である。
図4】変形例を示す図である。
図5】従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は実施の形態にかかる摩擦締結装置の部分断面図である。
摩擦締結装置1には、遊星歯車機構20を介した入力側の第1軸8から出力側の第2軸9への動力伝達経路に、ドラム30を共通の構成部材とする2つの摩擦締結部CL1、CL2が設けられている。
遊星歯車機構20は、そのサンギア21が第1軸8にスプライン結合された第1回転部材22に固定されてピニオンギア24と噛み合い、ピニオンキャリア25はドラム30の後述する内面スプライン36と噛み合っている。ピニオンギア24と噛み合うリングギア28は第2軸9にスプライン結合された第2回転部材27の外周に設けられている。
第2軸9は変速機ケース2の内部隔壁7におけるシリンダ10形成部に隣接する内径側に取り付けられたベアリング19に支持されており、第1軸8は一端を第2軸9の中心孔に回転可能に支持されている。
【0013】
ドラム30はプレス成型品で、円盤部31と、円盤部31の外縁から軸方向に延びる外筒32と、円盤部31の内縁から外筒32と同方向に延びる中間筒33と、中間筒33の先端に連なってさらに内径側で軸方向円盤部31側へ延びる内筒34とからなり、内筒34において第1軸8に回転可能に支持されている。
円盤部31には中間筒33と協同してリング状のシリンダ38が形成されている。
外筒32はその外側と内側にそれぞれ軸方向の外面スプライン35と内面スプライン36を備え、外面スプライン35の山部は内面スプライン36の谷部となっている。
内面スプライン36には被駆動側の摩擦板として複数のドリブンプレート72が噛み合い、ドリブンプレート72と軸方向交互に配置された駆動側の摩擦板としてのドライブプレート71が第1回転部材22の外周に設けられたスプライン23と噛み合っている。
【0014】
前述のピニオンキャリア25はその外周に設けられた歯26が、ドライブプレート71とドリブンプレート72からなる摩擦板列70よりドラム30の開口側で内面スプライン36と噛み合っている。内面スプライン36の歯を横切って形成された溝39にスナップリング80が嵌め込まれて、ピニオンキャリア25が抜け止めされている。
シリンダ38にはプレス成型品のピストン75が軸方向スライド可能に配置され、ピストン75は摩擦板列70に向かって延びる押圧部76を有している。
また、スナップリング81により中間筒33に係止された遠心キャンセルピストン78がピストン75と相対的にスライド可能に設けられ、ピストン75との間に遠心キャンセル油室を形成している。遠心キャンセルピストン78とピストン75の間にはリターンスプリング79が設けられている。
【0015】
これにより、ドラム30の内側の摩擦締結部CL2が形成され、シリンダ38に油圧が供給されると、ピストン75がリターンスプリング79を押し縮めて移動する。ピニオンキャリア25は摩擦板列70の受け部となり、ピストン75の押圧部76が摩擦板列70をピニオンキャリア25との間に圧縮して摩擦力を発生させて、ピニオンキャリア25を第1回転部材22と一体に回転させ、したがって第1軸8と接続させる。
【0016】
つぎに、外筒32の外側では、軸方向交互に配置されて摩擦板列40を形成する複数のドライブプレート41とドリブンプレート42とが外面スプライン35と変速機ケース2の外壁の内面に形成されたスプライン3と噛み合い、内面に形成された溝4に嵌め込まれたスナップリング44によりリテーナ43とともに抜け止めされている。
摩擦板列40は遊星歯車機構20を挟んで変速機ケース2の内部隔壁7から離間した位置にある。
内部隔壁7に形成されたシリンダ10は、外筒11と内筒12とで画成されたリング状で、遊星歯車機構20および摩擦板列40側に開口している。外筒11と内筒12の肉厚はいずれも内部隔壁7の基本厚Dと同等で、これによりシリンダ10は従来と同様の広い径方向幅Sを有して、後述するピストン50の受圧面積faと比較される断面積fを有する。
【0017】
シリンダ10には、ピストン50とスペーサ60が配置されている。
図2の(a)はピストン50を示す斜視図、図2の(b)はスペーサ60を示す斜視図である。
図1および図2の(a)に示すように、ピストン50は、筒部51と、筒部51の軸端に連なって径方向外方に延びたフランジ部52と、フランジ部52から周方向等間隔で軸方向に延びる複数の押圧部53とからなり、フランジ部52にはさらに後述するリターンスプリング48の支持ボス55が押圧部53間に形成されている。筒部51はそれぞれ軸方向所定長さの外径面54aおよび内径面54bを摺動部54とし、摺動部54の径方向肉厚Hを伝達するべきトルクその他に基づく(比較的に小さい)所定の受圧面積faを得る値に設定してある。
ピストン50の摺動部54の外径面54aはシリンダ10の外筒11の内壁面との摺動面となる。
【0018】
図3はリターンスプリング48の設置状態を示す部分断面図である。
変速機ケース2の外壁内面には、スナップリング47で抜け止めされたスプリング受け45がドラム30と内部隔壁7の間に設けられ、支持ボス55で位置決めされたリターンスプリング48がフランジ部52とスプリング受け45の間に配置されている。ピストン50はリターンスプリング48によりそのフランジ部52が内部隔壁7に着座するように付勢される一方、図1に示されるように、押圧部53はスプリング受け45に形成された通過穴46を貫通して摩擦板列40に向かっている。
【0019】
図1に示すように、スペーサ60は、シリンダ10の径方向幅(S)においてピストン50の摺動部54が摺動するリング状の間隙(H相当)を除いた残余空間を占める径方向幅Ssと、ピストン50の摺動部54の内径面54bをカバーする軸方向長さを有する断面が略矩形のリング状である。
スペーサ60はシリンダ10の底壁13に形成されたリング状のストッパ突起14に当接するとともに、シリンダ10の内筒12に形成された溝15に嵌め込まれたスナップリング67により抜け止めされ、実質移動不可となっている。
【0020】
このようにシリンダ10内に固定的に配置されたスペーサ60の外周面がピストン50の摺動部54の内径面54bとの摺動面となる。これにより、シリンダ10内でもとくにストッパ突起14より外径側が、径方向におけるシリンダ10の外筒11とスペーサ60間のピストン50に対する有効空間Qとなる。不図示のオイル供給路が有効空間Qに開口する。
ピストン50は摺動部54の外径面54aに溝56(図3参照)を有して、外筒11の内壁面に密に接するシールリング57を保持している。
そして、図1および図2の(b)に示すように、スペーサ60は外周面に溝64を有して、ピストン50の摺動部54の内径面54bに密に接するシールリング65を保持し、スペーサ60の内周面には溝62を有して、内筒12の内壁面に密に接するシールリング63を保持している。
【0021】
以上の構成によりドラム30の外側の摩擦締結部CL1が形成され、シリンダ10(有効空間Q)に油圧が供給されると、ピストン50がリターンスプリング48を押し縮めて移動し、ピストン50から延びる押圧部53が摩擦板列40をリテーナ43との間に圧縮して摩擦力を発生させ、所定のトルクに対して適切な締結作動を行ってドラム30の回転を停止させる。また、シリンダ10から油圧が抜かれるとリターンスプリング48に付勢されてピストン50が戻り、摩擦板列40が圧縮状態から解放されてドラム30の回転を許す。
この際、スペーサ60は移動しないので、シリンダ10(有効空間Q)に供給されるオイル量が少なくて済むから、応答性が高い。
【0022】
なお、同じ受圧面積をもつピストンは内径側に配置してスペーサを外径側に配置することもできるが、その場合ピストンの受圧部(摺動部)と押圧部間に大きな径方向距離が生じるため、ピストンに油圧による回転モーメントが作用して押圧部が摩擦板を抉る事象が発生する。
これに対して、実施の形態ではピストン50がシリンダ10内の外径側に配置されているので、同じ受圧面積faでも内径側に配置される場合と比較してより薄い径方向幅Hで済むことも相俟って、ピストン50の筒部51、押圧部53および摩擦板列40が一直線上に極めて近い整列状態となり、押圧部53が垂直に摩擦板列40を押圧して効率の良い滑らかな締結作動が得られる。
【0023】
さらに、摩擦締結部CL1については、受圧面積の大きなピストンを用いていた変速機に対して、摩擦締結特性の変更により受圧面積の小さいピストンが要求された場合にも、従来のシリンダを変更せず、したがって新たな変速機ケースを設定する必要なしに、スペーサを追加するだけで対応できる。
【0024】
本実施の形態では、摩擦締結部CL1が発明における摩擦締結装置に該当し、ドラム30が第1の部材に、変速機ケース2が第2の部材に、そして摩擦板列40を構成するドライブプレート41が第1の摩擦板に、ドリブンプレート42が第2の摩擦板に該当する。
シリンダ10が発明におけるシリンダに該当し、ピストン50がピストンに該当する。
【0025】
実施の形態は以上のように構成され、ドラム30(の外面スプライン35)と噛み合うドライブプレート41と変速機ケース2(のスプライン3)と噛み合うドリブンプレート42とを軸方向交互に並べた摩擦板列40を、リング状のシリンダ10内に配置したピストン50の油圧駆動により押圧してドラム30と変速機ケース2とを接続する摩擦締結部CL1において、ピストン50の受圧面積faがシリンダ10の径方向幅Sに基づく断面積fよりも小さく設定され、シリンダ10の断面積fにおけるピストン50の受圧面積faを除く残余の断面積を埋めるスペーサ60をシリンダ10内に固定したので、スペーサ60が移動しない分、シリンダ10に供給されるオイル量が少なくて済み、高い応答性が得られる。
そして、ピストン50が摺動する相手側摺動面は広い径方向幅Sをもつシリンダ10の壁面と別部品のスペーサ60の壁面となるので、摺動面の切削加工等が容易で、製作に何らの不都合も生じない。
さらに、残余の断面積を埋めるのに別部品のスペーサ60を用いるので、内部隔壁7におけるシリンダ10の形成部位に極端な厚肉断面を設ける必要がなく、ヒケや巣の発生を招くおそれもない
【0026】
ピストン50は外径面54aと内径面54bを有する筒部51を備え、シリンダ10とスペーサ60の間にリング状の間隙が形成されて、当該間隙をピストン50の筒部51が摺動するように構成されているので、スペーサ60も径方向幅Ssを有する単純なリング形状となり、製作が容易である
【0027】
シリンダ10の径方向においてピストン50の筒部51は摩擦板列40に近い側に配置され、スペーサ60は摩擦板列40から遠い側に配置されているので、ピストン50に油圧による大きな回転モーメントが作用することなく、筒部51と摩擦板列40とを整列させるのが容易で、垂直に摩擦板列40を押圧して効率の良い滑らかな締結作動が得られる
とくに、摩擦板列40が変速機ケース2の外壁に沿って配置され、シリンダ10が変速機ケース2の内部隔壁7に形成され、ピストン50の筒部51がシリンダ10の径方向外側に配置され、スペーサ60が径方向内側に配置されているので、筒部51が内径側に配置される場合と比較してより薄い径方向幅Hで済み、筒部51と摩擦板列40とを整列させるのが一層容易となる。(請求項に対応する効果)
【0028】
なお、上述の実施の形態では、スペーサ60はシリンダ10の底壁13のストッパ突起14に当接させ、スナップリング67により抜け止めしてあるが、もし有効空間Qからスペーサ60とストッパ突起14との当接部を通過してストッパ突起14より内径側の空間へ油圧が及んでくると、ピストン50よりも径方向幅の大きいスペーサ60に大きな軸方向の押圧力がかかることになる。
そこで、変形例として、スペーサ60とストッパ突起14の当接部にシール構造を形成すれば、スペーサ60に軸方向の力が作用するのを防止することができる。
【0029】
例えば、図4に示すように、スペーサ60の底壁13に面する端面におけるストッパ突起14に対向する径位置に溝68を形成し、この溝68にストッパ突起14の端面に密に接するシールリング69を保持させてシール構造とすることにより、有効空間Qからの油圧進入によるスペーサ60への押圧力が阻止されるから、スナップリング67に要求される耐加重特性も軽減される。(請求項に対応する効果)
シール位置はスペーサ60のできるだけ径方向外側が望ましく、もしストッパ突起14の位置が内径側に偏っている場合は、スペーサ60の外周近傍からシールリング69の保持部を底壁13へ向けて突出させればよい。
図1
図2
図3
図4
図5