特許第6091528号(P6091528)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6091528ファスナーテープ無しストリンガーの被着物品及びスライドファスナー付き物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091528
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】ファスナーテープ無しストリンガーの被着物品及びスライドファスナー付き物品
(51)【国際特許分類】
   A44B 19/00 20060101AFI20170227BHJP
   A44B 19/42 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   A44B19/00
   A44B19/42
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-559516(P2014-559516)
(86)(22)【出願日】2013年12月16日
(86)【国際出願番号】JP2013083604
(87)【国際公開番号】WO2014119150
(87)【国際公開日】20140807
【審査請求日】2015年5月19日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2013/052237
(32)【優先日】2013年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(74)【代理人】
【識別番号】100091948
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 武男
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(72)【発明者】
【氏名】庄 佳之
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 誠
【審査官】 ▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭49−038404(JP,U)
【文献】 特開平11−070007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B19/00−19/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノフィラメントから成形される連続した複数のファスナーエレメント(12,22) と、前記ファスナーエレメント(12,22) が第1及び第2縫製糸(13 ,6) により一連に縫着される細幅のエレメント固定部材(14,51,52)とを有し、
前記ファスナーエレメント(12,22) は、ファスナー長さ方向に隣接するファスナーエレメントが噛合する噛合頭部(12a,22a) と、前記噛合頭部(12a,22a) からファスナー幅方向に延出する上下脚部(12b,12c,22b,22c) と、同連続ファスナーエレメントの前記上脚部(12b,22b) 及びファスナー長さ方向に連続する下脚部(12c,22c) から延出し、ファスナー長さ方向に隣接する前記ファスナーエレメント(12,22) とを連結する連結部(12d,22d) とを備え、
前記エレメント固定部材(14,51,52)は、前記噛合頭部(12a,22a) の噛合時における前記ファスナーエレメント(12,22) の上下脚部(12b,12c) 間に形成される内部空間に前記ファスナー長さ方向に沿って挿通されてなり、
前記第1縫製糸(13)は、各ファスナーエレメント(12,22) の前記上脚部(12b,22b) 及び下脚部(12c,22c) を接触しながら跨ぐとともに、前記ファスナー長さ方向に互いに隣接する前記ファスナーエレメント(12,22) 間にて前記エレメント固定部材(14,51,52)を刺通して、前記ファスナーエレメント(12,22) と前記エレメント固定部材(14,51,52)とを縫い合わせてなり、
前記第2縫製糸(6) は前記エレメント固定部材(14,51,52)を刺通するとともに、ファスナー被着部材(5) を刺通して縫い合わせてなる、
ことを特徴とするファスナーテープ無しストリンガーの被着物品
【請求項2】
モノフィラメントから成形される連続した複数のファスナーエレメント(12,22) と、前記ファスナーエレメント(12,22) が第1及び第2縫製糸(13 ,6) により一連に縫着される細幅のエレメント固定部材(14,51,52)とを有し、
前記ファスナーエレメント(12,22) は、ファスナー長さ方向に隣接するファスナーエレメントが噛合する噛合頭部(12a,22a) と、前記噛合頭部(12a,22a) からファスナー幅方向に延出する上下脚部(12b,12c,22b,22c) と、同連続ファスナーエレメントの前記上脚部(12b,22b) 及びファスナー長さ方向に連続する下脚部(12c,22c) から延出し、ファスナー長さ方向に隣接する前記ファスナーエレメント(12,22) とを連結する連結部(12d,22d) とを備え、
前記エレメント固定部材(14,51,52)は、前記噛合頭部(12a,22a) の噛合時における前記ファスナーエレメント(12,22) の上下脚部(12b,12c) 間に形成される内部空間に前記ファスナー長さ方向に沿って挿通されてなり、
前記第1縫製糸(13)は少なくとも2種以上の縫製糸(13a,13b) を有し、各縫製糸(13a,13b) は各ファスナーエレメント(12,22) の前記上脚部(12b,22b) 下脚部(12c,22c) とにそれぞれ接触しながら跨ぐとともに、前記ファスナー長さ方向に互いに隣接する前記ファスナーエレメント(12,22) 間にて前記エレメント固定部材(14,51,52)を刺通して、前記ファスナーエレメント(12,22) と前記エレメント固定部材(14,51,52)とを縫い合わせてなり、
前記第2縫製糸(6) は前記エレメント固定部材(14,51,52)を刺通するとともに、ファスナー被着部材(5) を刺通して縫い合わせてなり、
前記上脚部(12b,22b) 及び下脚部(12c,22c) を跨ぐ前記第1縫製糸(13)の一方が、ファスナー被着部材に接触して取り付けられてなる、
ことを特徴とするファスナーテープ無しストリンガーの被着物品。
【請求項3】
前記エレメント固定部材(14,51,52)は、無負荷状態において、ファスナー厚さ方向の寸法の2倍以上となるファスナー幅方向の寸法を有してなる請求項1又は2に記載のファスナーテープ無しストリンガーの被着物品
【請求項4】
前記エレメント固定部材(14)は、織組織を備えるテープ部材(14)である請求項1〜3のいずれかに記載のファスナーテープ無しストリンガーの被着物品
【請求項5】
前記エレメント固定部材(51)は、各ウェールに鎖編糸(51a) が配された経編組織を備えるテープ部材(51)である請求項1〜3のいずれかに記載のファスナーテープ無しストリンガーの被着物品
【請求項6】
前記エレメント固定部材(51)は、不織布により構成されるテープ部材である請求項1〜3のいずれかに記載のファスナーテープ無しストリンガーの被着物品
【請求項7】
前記エレメント固定部材(52)は、合成樹脂製のフィルム部材(52)である請求項1〜3のいずれかに記載のファスナーテープ無しストリンガーの被着物品
【請求項8】
前記上下脚部(12b,12c,22b,22c) は、前記縫製糸(13)の二重環縫いにより前記エレメント固定部材(14,51,52)に縫い付けられてなる請求項1〜のいずれかに記載のファスナーテープ無しストリンガーの被着物品
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載のファスナーテープ無しストリンガーが、ファスナー被着部材(5) の開閉部に取着され、前記ファスナーエレメント(12,22) により形成されるエレメント列(11)にスライダー(30)が摺動可能に取着されてなることを特徴とするスライドファスナー付き物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノフィラメントから成形される連続したファスナーエレメントが細幅のエレメント固定部材に固定されて構成されるファスナーテープ無しストリンガー、及び、そのファスナーテープ無しストリンガーを有するスライドファスナー付き物品に関する。
【背景技術】
【0002】
スライドファスナーは、衣料品、日用雑貨品、産業用資材などの物品や、自動車、列車、航空機等の各種シート類などの物品の開閉具として多く使用されている。各種の物品の開閉部に使用されるスライドファスナーは、一般に、ファスナーテープのテープ側縁部にエレメント列が形成された一対のファスナーストリンガーと、エレメント列に沿って摺動可能に配されたスライダーとを有している。
【0003】
また、ファスナーストリンガーの代表的な例の一つとして、例えば熱可塑性樹脂製のモノフィラメントがコイル状又はジグザグ状に成形され、複数の噛合頭部が一続きに連結された連続状のファスナーエレメントを有するファスナーストリンガーが知られている。このファスナーストリンガーでは、連続したファスナーエレメントが、織成又は編成されたファスナーテープの一側縁部(エレメント取付部)に縫糸によって縫い付け固定されることにより、エレメント列が形成されている。
【0004】
このような連続したファスナーエレメントによりエレメント列が形成されたスライドファスナーの一例として、例えば特開2006−247279号公報(特許文献1)に記載されたものが知られている。
【0005】
この特許文献1に記載されているスライドファスナー100は、図13に示されるように、連続ファスナーエレメント101が、縫製糸によって、ファスナーテープ102の一側縁側に配されるエレメント取付部に縫着された一対のファスナーストリンガー103と、連続ファスナーエレメント101のエレメント列に取着されたスライダー104とを有している。この場合、ファスナーテープ102は、広幅のテープ主体部と、テープ主体部の一側縁側(内側縁側)に配されたエレメント取付部とを有している。
【0006】
また、このようなスライドファスナー100を、ファスナー被着部材である衣料品などの物品に縫着する場合、ファスナーテープ102のテープ主体部(すなわち、ファスナーストリンガー103を連続ファスナーエレメント101が配されている上面側から見たときに連続ファスナーエレメント101の外側に延出して露呈するテープ部分)と、物品のファスナー取付部となる開閉部(開口周縁部)を重ね合わせた状態でミシンによって縫製される。
【0007】
また、例えば国際公開第2012/070116号パンフレット(特許文献2)や国際公開第2011/111154号パンフレット(特許文献3)には、ファスナーテープに改良を加えたスライドファスナーが開示されている。
【0008】
例えば特許文献2には、図14に示されるように、ファスナーテープ111が連続ファスナーエレメント112の連結部側の端縁を越えて延出するが、その延出長さ(X)が12mmよりも小さくなるよう規制したスライドファスナー用ファスナーストリンガー110が記載されている。
【0009】
この特許文献2のファスナーストリンガー110であれば、例えばファスナーテープ111を彎曲させた状態でファスナーストリンガー110を物品に取り付ける場合に、ファスナーテープ111を彎曲させても当該ファスナーテープ111のテープ主体部を略平坦に保持しながら、ファスナーストリンガー110の縫製を安定して行えるとの効果が得られる。
【0010】
また、特許文献3には、図15に示されるように、連続ファスナーエレメント121で形成されるエレメント列をファスナーテープ122で包むように構成したスライドファスナー用ファスナーストリンガー120が記載されている。この特許文献3のファスナーストリンガー120を用いてスライドファスナーを構成することにより、左右のエレメント列を噛合させたときに、被覆体を使用することなく、そのエレメント列を外部から見えないようにファスナーテープ122で隠すことができるため、スライドファスナーが取着された物品の見栄えを向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−247279号公報
【特許文献2】国際公開第2012/070116号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2011/111154号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
近年、各種物品、特に衣料品などの衣類、鞄類、及び靴類などの日用品においては、これに取り付けられるスライドファスナーもデザインの一つの要素として扱われるようになってきており、スライドファスナーを含めた物品全体の外観品質を高めることが求められている。また従来では、ファスナー被着部材である物品に対して、スライドファスナーを直線状に取り付けることが一般的であったが、近年、物品の利便性やデザインなどの観点から、スライドファスナーを例えば湾曲状などに曲げた状態で、ファスナー被着部材に取り付けるようになってきている。
【0013】
ところで、上述の特許文献1〜3に記載されているような従来のスライドファスナーでは、いずれも、連続ファスナーエレメントを固定したファスナーテープのテープ主体部を、ファスナー被着部材となる物品(例えば、衣料品など)の開閉部に縫い付けて固定することによって用いられている。従って、ミシンによりスライドファスナーとファスナー被着部材との縫製を円滑に行うためは、ファスナーエレメントよりもテープ幅方向の外側に露呈するファスナーテープのテープ主体部における幅寸法を、縫い代として確保する必要があった。
【0014】
また、スライドファスナーに用いられるファスナーテープは、織成又は編成されているため、通常、テープ厚さ方向に薄く(厚さ寸法が小さく)して構成されている。それとともに、上述のようにファスナーテープにおけるテープ主体部の幅寸法を縫い代として確保して、ミシンによる縫製が円滑に行え、且つ、様々なファスナー被着部材に安定して縫着できるようにするために、ファスナーテープのテープ主体部をテープ幅方向に広く形成している。
【0015】
このように、従来のスライドファスナーにおいては、ファスナーテープが厚さ方向に薄く、且つ、幅方向に広く形成されているため、ファスナー被着部材に対して直線状に取り付ける場合には、シート類に綺麗に縫着することが可能である。しかし、スライドファスナーをファスナー被着部材に対して湾曲状などに曲げた状態で取り付ける場合には、スライドファスナーの外周部に当たるテープ主体部が部分的に大きく浮き上がったり、沈み込んだりすることや、また、スライドファスナーの内周部に当たるテープ延出部(凹状に彎曲するテープ延出部)に波打ち状の大きな皺が発生することがあった。
【0016】
上述のようにテープ延出部が大きく浮き上がった場合などでは、ファスナーテープをミシンのミシンフットで的確に押さえられず、また、例えばテープ延出部に波打ち状の大きな皺が発生した場合には、ファスナーテープが部分的に重なってしまうことから、ミシンによるスライドファスナーとファスナー被着部材との縫製が行い難くなる。
【0017】
また、スライドファスナーが縫製された物品(スライドファスナー付き物品)においても、ファスナーテープに大きな浮き上がりや沈み込み、又は波打ち状の皺が発生していると、スライドファスナー付き物品の見栄え(外観品質)を低減させるという問題があった。更に、スライダーをエレメント列に沿って摺動させたときに、ファスナーテープがスライダーと摺接し易くなるため、スライダーの摺動抵抗を増大させてスライダーの摺動性を低下させることもあった。
【0018】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、スライドファスナーの軽量化やコスト削減が図れるとともに、ファスナー被着部材に対して湾曲状などに曲げた状態でも見栄え良く取り付けることが可能なファスナーテープ無しストリンガー、及び、そのファスナーテープ無しストリンガーを用いて構成されたスライドファスナー付き物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明により提供されるファスナーテープ無しストリンガーの被着物品は、前記ストリンガーがモノフィラメントから成形される連続した複数のファスナーエレメントと、前記ファスナーエレメントが第1及び第2縫製糸により一連に縫着される細幅のエレメント固定部材とを有し、前記ファスナーエレメントは、ファスナー長さ方向に隣接するファスナーエレメントが噛合する噛合頭部と、前記噛合頭部からファスナー幅方向に延出する上下脚部と、同連続ファスナーエレメントの前記上脚部及びファスナー長さ方向に連続する下脚部から延出し、ファスナー長さ方向に隣接する前記ファスナーエレメントとを連結する連結部とを備え、前記エレメント固定部材は、前記噛合頭部の噛合時における前記ファスナーエレメントの上下脚部間に形成される内部空間に前記ファスナー長さ方向に沿って挿通されてなり、前記第1縫製糸は少なくとも2種以上の縫製糸を有し、各縫製糸は、各ファスナーエレメントの前記上脚部下脚部とにそれぞれ接触しながら跨ぐとともに、前記ファスナー長さ方向に互いに隣接する前記ファスナーエレメント間にて前記エレメント固定部材を刺通して、前記ファスナーエレメントと前記エレメント固定部材とを縫い合わせてなり、前記第2縫製糸は前記エレメント固定部材を刺通するとともに、ファスナー被着部材を刺通して縫い合わせてなり、前記上脚部及び下脚部を跨ぐ前記第1縫製糸の一方が、ファスナー被着部材に接触して取り付けられてなることを主要な特徴とするものである。
【0020】
本発明のファスナーテープ無しストリンガーにおいて、前記エレメント固定部材は、無負荷状態において、ファスナー厚さ方向の寸法の2倍以上となるファスナー幅方向の寸法を有することが好ましい。
【0021】
本発明のファスナーテープ無しストリンガーにおいて、前記エレメント固定部材は、織組織を備えるテープ部材であることが好ましい。また、前記エレメント固定部材は、各ウェールに鎖編糸が配された経編組織を備えるテープ部材、不織布により構成されるテープ部材、又は、合成樹脂製のフィルム部材であっても良い。
また、前記上下脚部は、前記縫製糸の二重環縫いにより前記エレメント固定部材に縫い付けられていることが好ましい。
【0022】
そして、本発明によれば、上述した構成を有するファスナーテープ無しストリンガーが、ファスナー被着部材の開閉部に取着され、前記ファスナーエレメントにより形成されるエレメント列にスライダーが摺動可能に取着されてなることを最も主要な特徴とするスライドファスナー付き物品が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明により提供されるファスナーテープ無しストリンガーは、モノフィラメントから成形され、コイル状又はジグザグ状の連続したファスナーエレメントと、細幅のエレメント固定部材とを有している。また、細幅のエレメント固定部材は、ファスナーエレメントの上下脚部間にファスナー長さ方向に沿って挿通されており、連続状のファスナーエレメントは、上下脚部間に配された細幅のエレメント固定部材に縫製糸により一連に縫着されている。
【0024】
ここで、ファスナーテープとは、ファスナーエレメントの上脚部又は下脚部の外面(上下脚部が対向する面とは反対の面)に上脚部又は下脚部に接触した状態で、上脚部及び下脚部を固定するためのテープ部材であり、上下脚部間に挿通される本発明のエレメント固定部材とは異なる部材である。すなわち、本発明のファスナーストリンガーは、上脚部又は下脚部の外側に、上脚部及び下脚部を固定するための所謂ファスナーテープが配置されておらず、従来の一般的なファスナーストリンガーとは異なる新しい構造を有するファスナーテープ無しストリンガーとして構成されている。
【0025】
また本発明において、縫製糸は、各ファスナーエレメントの上脚部及び下脚部を接触しながら跨ぐとともに、ファスナー長さ方向に互いに隣接するファスナーエレメント間にてエレメント固定部材を刺通することにより、連続ファスナーエレメントをエレメント固定部材に縫い付け固定している。この場合、エレメント固定部材は、従来の芯紐のようにファスナー長さ方向に伸縮し易いものではなく、ファスナー長さ方向に伸縮し難い難伸縮性の構造を備えていることが好ましい。
【0026】
このような本発明におけるファスナーテープを使用しないファスナーストリンガー(ファスナーテープ無しストリンガー)は、上下脚部間に挿通されるエレメント固定部材(特に、難伸縮性のエレメント固定部材)にファスナーエレメントが縫着されている。このため、ファスナーストリンガーの構成部材として従来のようなファスナーテープを用いなくても、ファスナーエレメントの取付ピッチをエレメント固定部材によって安定して保持することができる。
【0027】
従って、本発明のファスナーテープ無しストリンガーをファスナー被着部材に取着してスライドファスナー付き物品を構成することにより、スライドファスナー付き物品の軽量化やコスト削減を実現することができ、或いは、ファスナーテープを従来の役割とは異なる目的(例えば、装飾目的など)で使用することも可能となる。
【0028】
更に本発明では、ファスナーテープを用いずにファスナーストリンガー又はスライドファスナーを構成できるため、例えば本発明のファスナーテープ無しストリンガーを、ファスナー被着部材に対し、湾曲状などに曲げた状態で安定して取り付けることができる。またこの場合、従来のスライドファスナーで問題とされるファスナーテープの浮き上がりや沈み込み、又は波打ち状の皺等が発生することがないため、スライドファスナー付き物品の見栄え(外観品質)を向上させることができる。
【0029】
このような本発明のファスナーテープ無しストリンガーにおいて、エレメント固定部材が、無負荷状態において、ファスナー厚さ方向の寸法の2倍以上となるファスナー幅方向の寸法を有することにより、エレメント固定部材が、ファスナー長さ方向に伸縮し難い構造を容易に備えることができる。
【0030】
このような本発明のファスナーテープ無しストリンガーにおいては、エレメント固定部材として、織組織を備えるテープ部材、各ウェールに鎖編糸が配された経編組織を備えるテープ部材、不織布により構成されるテープ部材、又は、合成樹脂製のフィルム部材が用いられる。このようなテープ部材又はフィルム部材がエレメント固定部材として用いられることにより、エレメント固定部材を簡単な構造でファスナー長さ方向に伸縮し難くすることができ、それにより、ファスナーテープ無しストリンガーにおけるファスナーエレメントの取付ピッチを安定して保持することができる。
【0031】
また、このようなテープ部材又はフィルム部材の横断面は、厚さ方向の寸法が小さく、幅方向の寸法が大きな扁平な形状を有するため、ファスナーエレメントの上下脚部間にテープ部材又はフィルム部材を挿通させ易くすることができる。また、例えばミシンを用いてテープ部材又はフィルム部材にファスナーエレメントの上下脚部を縫い付ける際に、テープ部材又はフィルム部材にミシン針を安定して刺通させることができ、縫製作業を円滑に行うことができる。
【0032】
本発明のファスナーテープ無しストリンガーにおいて、ファスナーエレメントの上下脚部は、縫製糸の二重環縫いによりエレメント固定部材に縫い付けられている。これにより、エレメント固定部材に対するファスナーエレメントの縫製時に、ファスナーエレメントの上下脚部をエレメント固定部材に効率的に縫い付け固定することができるため、生産性の向上を図ることができる。また、縫製糸の二重環縫いによって、上下脚部がエレメント固定部材にしっかりと固定され、更に、例えば縫製糸が切れた場合でも、縫製糸のほつれを生じ難くすることができる。
【0033】
そして、本発明により提供されるスライドファスナー付き物品は、上述した構成を有するファスナーテープ無しストリンガーが、ファスナー被着部材の開閉部に取着され、ファスナーエレメントにより形成されるエレメント列にスライダーが摺動可能に取着されている。
【0034】
このように構成されるスライドファスナー付き物品は、上述のようなエレメント固定部材にファスナーエレメントが縫着されているため、スライドファスナーの構成部材としてファスナーテープを用いなくても、ファスナーエレメントの取付ピッチを安定して保持することができる。
【0035】
すなわち、本発明においては、ファスナーエレメントの取付ピッチを所定の大きさに安定して保持できると同時に、従来ではスライドファスナーの必須構成部材であったファスナーテープを省略することができるため、スライドファスナー付き物品の軽量化やコスト削減を実現できる。
【0036】
更に、ファスナーテープが省略されてスライドファスナー付き物品が構成される場合、ファスナーテープ無しストリンガーを、ファスナー被着部材に対し、例えば湾曲状などに曲げた状態で安定して取り付けることができる。またこの場合、従来のスライドファスナーで問題とされるファスナーテープの浮き上がりや沈み込み、又は波打ち状の皺等が発生することがないため、スライドファスナー付き物品の見栄え(外観品質)を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の実施例に係るスライドファスナー付き物品の要部を裏面側から拡大して示す要部拡大図である。
図2】同スライドファスナー付き物品の要部を拡大して示す斜視図である。
図3】同スライドファスナー付き物品の断面図である。
図4】同スライドファスナー付き物品に用いられるファスナーテープ無しストリンガーの平面図である。
図5】同ファスナーテープ無しストリンガーの底面図である。
図6図4に示したVI−VI線におけるファスナーテープ無しストリンガーの断面図である。
図7】エレメント固定部材として用いられる織成されたテープ部材の織組織を模式的に示す模式図である。
図8】同ファスナーテープ無しストリンガーとファスナー被着部材とが縫い合わせられる前の状態を示す断面図である。
図9】同ファスナーテープ無しストリンガーがファスナー被着部材に縫着された状態を示す断面図である。
図10】ファスナーテープ無しストリンガーの変形例を示す断面図である。
図11】エレメント固定部材として用いられる編成されたテープ部材の経編組織を示す組織図である。
図12】エレメント固定部材として用いられる合成樹脂製のフィルム部材を示す斜視図である。
図13】従来のスライドファスナーを示す平面図である。
図14】従来のスライドファスナー用ファスナーチェーンを示す断面図である。
図15】従来のスライドファスナー用ファスナーチェーンを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の好適な実施の形態について、実施例を挙げて図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。
【0039】
例えば、以下の各実施例におけるスライドファスナーの連続ファスナーエレメントは、モノフィラメントをコイル状に成形することによって構成されているが、本発明はこれに限定されず、連続ファスナーエレメントが、モノフィラメントをジグザグ状に成形することによって構成されていても良い。
【実施例】
【0040】
図1は、本実施例に係るスライドファスナー付き物品の要部を裏面側から拡大して示す要部拡大図である。図2は、同スライドファスナー付き物品の要部を拡大して示す斜視図であり、図3は、同スライドファスナー付き物品の断面図である。図4及び図5は、同スライドファスナー付き物品に用いられるファスナーテープ無しストリンガーの平面図及び底面図である。
【0041】
なお、以下のスライドファスナーに関する説明において、前後方向とは、スライドファスナーの長さ方向又はテープ部材の長さ方向を言い、特に、スライダーがスライドファスナーのエレメント列を噛合させるように摺動する方向を前方とし、エレメント列を分離させるように摺動する方向を後方とする。
【0042】
また、左右方向とは、スライドファスナーのファスナー幅方向を言い、例えば、スライドファスナーのテープ部材のテープ面に平行で、且つ、テープ長さ方向に直交する方向である。更に、上下方向とは、前後方向と左右方向とに直行する方向を言い、例えばテープ部材のテープ面に直交するテープ厚さ方向を指す。特に、ファスナーエレメントに対してスライダーの引手が配されている側の方向を上方とし、その反対側の方向を下方とする。
【0043】
本実施例に係るスライドファスナー付き物品1は、衣服(衣料品)であり、この衣服1の前身頃の前立て部に配された開閉部や、前身頃の胸部及び腹部に設けられたポケット部の開閉部(開口周縁部)などにスライドファスナーが構成されている。すなわち、本実施例において、スライドファスナーに対するファスナー被着部材は、衣服1の生地5(ガーメント生地とも言う)となる。
【0044】
この場合、本実施例のスライドファスナーは、衣服1の外面側から見え難いように、ファスナーストリンガー10のエレメント列11が衣服1の生地5の裏面側(内面側)に配される所謂裏使いの態様で、衣服1に取り付けられている。また、例えば図2に示すように、衣服1における各開閉部では、左右の生地5が、スライドファスナーの開閉により互いに接離可能に対向して配されている。
【0045】
なお、本発明において、スライドファスナーが取着される物品は、衣服(衣料品)に限定されるものではなく、靴類や鞄類などの日用雑貨品、産業用資材などの物品、自動車、列車、航空機等の各種シート類などの様々な物品が含まれる。
【0046】
本実施例の衣服1に構成されるスライドファスナーは、図2及び図3に示したように、エレメント列11を有する左右一対のファスナーストリンガー(ファスナーテープ無しストリンガー)10と、エレメント列11に沿って摺動可能に配されたスライダー30と、エレメント列11の前端に隣接して配され、スライダー30の脱落を防止する第1止具41と、エレメント列11の後端に隣接して左右のファスナーストリンガー10に跨るように配された第2止具42とを有している。
【0047】
左右の各ファスナーストリンガー10は、コイル状に連続するファスナーエレメント12と、ファスナーエレメント12が第1縫製糸13の縫着により固定される細幅のテープ部材14とを有しており、各ファスナーストリンガー10は、ファスナーエレメント12の後述する上脚部12bの外側にも下脚部12cの外側にもファスナーテープが配置されていないファスナーテープ無しストリンガー10として構成されている。
【0048】
ファスナーエレメント12は、ポリアミドやポリエステルなどの熱可塑性樹脂製のモノフィラメントをコイル状に成形することによって形成されており、前後方向に膨出する部分を備えた噛合頭部12aと、噛合頭部12aから幅方向に延出する上脚部12b及び下脚部12cと、同連続ファスナーエレメント12の上脚部12b(又は下脚部12c)及びファスナー長さ方向に隣接する他のファスナーエレメント12の下脚部12c(又は上脚部12b)間を連結する連結部12dとを有している。
【0049】
なお、本発明におけるファスナーエレメント12として、このようにモノフィラメントをコイル状に捲回して形成したファスナーエレメント12の他に、前述のように、モノフィラメントをジグザグ状に折曲して形成したファスナーエレメントを用いることも可能である。
【0050】
このファスナーエレメント12を固定する固定部材となる細幅のテープ部材14は、図7に示すように、複数の経糸14aと、2本の単糸を引き揃えて1組とした緯糸14bとにより一重織で織成された平織組織で形成されている。
【0051】
このような平織組織に織成されたテープ部材(織テープ部材)14は、厚さ方向の寸法が小さく、幅方向の寸法が大きな扁平な横断面形状を有するとともに、経糸14aが緯糸14bによって織成されることによりファスナー長さ方向の伸縮が抑えられた伸縮し難い構造を備えている。なお、この織テープ部材14の一側縁部には、次位の緯糸14bを順次引っ掛けてループ折り返し端を連結することにより形成される耳部が形成されている。
【0052】
この織テープ部材14は、図4図6に示すように、ファスナーエレメント12の上下脚部12b,12c間にファスナー長さ方向に沿って挿通された状態で、上脚部12b及び下脚部12cを織テープ部材14の表面及び裏面に第1縫製糸13により固定している。第1縫製糸13は、ファスナーエレメント12を織テープ部材14(固定部材)に取り付けるものであり、第1固定手段とも言う。
【0053】
特に本実施例において、織テープ部材14とファスナーエレメント12とは、織テープ部材14がファスナーエレメント12の上下脚部12b,12c間に形成される内部空間に挿通された状態で、エレメント縫製用のミシンを用いて、第1縫製糸13の二重環縫いにより一連に縫い合わせられている。また、コイル状に連続するファスナーエレメント12は、そのファスナー長さ方向全体に亘って織テープ部材14に縫い付け固定されている。
【0054】
本実施例において、織テープ部材14の横断面が上述のように扁平な形状を有することにより、ファスナーエレメント12の上下脚部12b,12c間に織テープ部材14を挿通させ易くなるとともに、例えば後述するようにミシンを用いて織テープ部材14に上下脚部12b,12cを縫い付ける際に、織テープ部材14にミシン針を安定して刺通させて、縫製作業を円滑に行うことができる。
【0055】
この場合、第1縫製糸13のルーパ糸13aは、織テープ部材14の表面側にて、ファスナーエレメント12の上脚部12bに直接接触しながら同上脚部12bを跨ぎ、また、第1縫製糸13の針糸13bは、織テープ部材14の裏面側にて、ファスナーエレメント12の下脚部12cに直接接触しながら同下脚部12cを跨ぐとともに、互いに隣接するファスナーエレメント12間にて織テープ部材14を刺通して、織テープ部材14の表面側を通るルーパ糸13aと交錯する。これにより、各ファスナーエレメント12間に縫い目が形成されるとともに、第1縫製糸13の二重環縫いによる第1縫製部が、エレメント列11の表面側と裏面側に表出するように形成される。
【0056】
このようにファスナーエレメント12が、ファスナー長さ方向に伸縮し難い織テープ部材14に第1縫製糸13の二重環縫いにより固定されることによって、織テープ部材14が、エレメント固定部材としてファスナーエレメント12の形状を保持するとともに、ファスナーエレメント12の取付ピッチ(言い換えると、噛合頭部12a間の間隔)を一定に保つことができる。
【0057】
また、第1縫製糸13が織テープ部材14を刺通してファスナーエレメント12を保持しているため、織テープ部材14に対する第1縫製糸13の刺通位置がずれ難く、ファスナーエレメント12の上下脚部12b,12cを織テープ部材14の所定位置にしっかりと固定して支えることができる。このため、織テープ部材14に対して上下脚部12b,12cが動くことを防止できる。
【0058】
しかも第1縫製糸13のステッチ形式として二重環縫いを採用することによって、縫い目の強度に優れ、伸縮性にも富むため好ましく、更に、たとえ第1縫製糸13が切れたとしても、第1縫製糸13のほつれを生じ難くすることができる。更に、二重環縫いで織テープ部材14とファスナーエレメント12とを縫い合わせることによって、ファスナーテープ無しストリンガー10を高い生産性で製造することができる。なお、本発明では、第1縫製糸13のステッチ形式として、本縫いなどの二重環縫い以外のものを採用することも可能である。
【0059】
また、上述のように構成される本実施例のファスナーストリンガー10は、従来のファスナーストリンガーでは必須の構成部材であったファスナーテープが排除されているため、従来のファスナーストリンガーに比べて軽量であり、且つ、製造コストを安く抑えることができる。
【0060】
更に、ファスナー長さ方向に伸縮し難い構造を備えた織テープ部材14にファスナーエレメント12が縫い付けられているため、ファスナーテープが排除されていても、ファスナーエレメント12の取付ピッチを織テープ部材14によって安定して保持することができる。また、このファスナーテープ無しストリンガー10は湾曲状などに曲げられても、従来のファスナーストリンガーのようにファスナーテープの浮き上がりや沈み込み、又は波打ち状の皺が発生することもない。
【0061】
このようなファスナーテープ無しストリンガー10は、図8及び図9に示すように、ファスナー被着物である衣服1の生地5に対して位置を合わせた状態で、スライドファスナー縫製用ミシンを用いて、第2縫製糸6の本縫いによって生地5に縫い付け固定されている。この場合、ファスナーエレメント12と織テープ部材14とは、そのファスナー長さ方向全体に亘って生地5に縫着されている。また、第2縫製糸6は、ファスナーストリンガー10を生地5に取り付けるものであり、第2固定手段とも言う。
【0062】
特に本実施例では、第2縫製糸6が、ファスナーエレメント12の上下脚部12b,12cを跨ぐとともに、隣接するファスナーエレメント12間にて織テープ部材14及び生地5を刺通することによって、生地5にファスナーテープ無しストリンガー10を縫い付けている。
【0063】
この場合、第2縫製糸6の本縫いによる縫製は、ミシン針としてボールポイント針を用いて行われる。このボールポイント針は、先端が球状に丸くなっている針であり、その先端の直径は、0.2mm以上0.6mm以下であることが好ましい。
【0064】
このようにボールポイント針を用いることにより、縫製時にミシン針がファスナーエレメント12に衝突しても、ボールポイント針の位置がファスナーエレメント12に沿って前後方向に相対的にずれながら織テープ部材14及び生地5を刺通できるため、ファスナーエレメント12の損傷、及びミシン針の折損や折れ曲がりなどを回避して、縫製工程を円滑に安定して行うことができる。
【0065】
しかも、第2縫製糸6のステッチ形式として本縫いを採用することによって、第2縫製糸の縫い目が解け難く強度に優れるという利点が得られ、その上、縫製時にボールポイント針がファスナーエレメント12に衝突してボールポイント針の位置(言い換えると、針が織テープ部材14及び生地5を刺通する位置)がずれたとしても、ファスナーテープ無しストリンガー10と生地5とを円滑に且つ安定して縫い合わせることが可能である。
【0066】
なお、このような第2縫製糸6による縫製を行う際に、ボールポイント針がファスナーエレメント12に衝突した場合、本実施例のファスナーテープ無しストリンガー10では、ファスナーエレメント12が上述のように織テープ部材14に適切に固定されているため、ファスナーエレメント12がボールポイント針を避けるように僅かに移動することを許容するとともに、織テープ部材14で保持されているファスナーエレメント12のピッチが不均一となることを防止できる。
【0067】
また本実施例では、第2縫製糸6の本縫いによる第2縫製部(特に第2縫製糸6がエレメント列11上に表出する部分)が、ファスナー幅方向において、第1縫製糸13の二重環縫いによる第1縫製部の形成範囲内に重なるように配されている。ここで、第2縫製部が第1縫製部の形成範囲内にあるとは、エレメント列11の表面(ファスナーエレメント12の下脚部12cの外面)上に形成される第1縫製部のテープ幅方向の範囲内に、エレメント列11の表面(ファスナーエレメント12の下脚部12cの外面)上に形成される第2縫製部が配されることを言う。
【0068】
なお、エレメント列11(特に、ファスナーエレメント12の下脚部12c側の外面)上に第2縫製部を形成する第2縫製糸6は、隣接するファスナーエレメント12の下脚部12c間を通って織テープ部材14を刺通し、更に、隣接するファスナーエレメント12の上脚部12b間を通って生地5を刺通している。この場合、第1縫製糸13の一部は、第2縫製糸6とファスナーエレメント12の下脚部12cの外面上との間に位置する部分もある。
【0069】
そして、ファスナーエレメント12、織テープ部材14、及び生地5は、エレメント列11上の第2縫製糸6の一部である第2縫製部と、生地5の表面上に表れる第2縫製糸6の一部との間に挟まれるように縫い合わされて固定される。
【0070】
上述のように第2縫製糸6の第2縫製部が第1縫製糸13の第1縫製部の範囲内に重なるように形成されることにより、第2縫製部が第1縫製部に紛れて目立ち難くなるため、ファスナーストリンガー10が取着された衣服1の見栄えを向上させることができる。
【0071】
また、ファスナーストリンガー10が生地5に固定されている状態にて、第2縫製部が第1縫製部とともにファスナーエレメント12の表面上に形成されているので、スライダー30の摺動による磨耗や外的要因による磨耗・衝突に対して、第1縫製部および第2縫製部の両方で耐えることができる。このため、第2縫製部が第1縫製部から離間して形成されている場合に比べて、第1縫製糸13及び第2縫製糸6に糸切れなどが生じることが少なくなる。
【0072】
更に、第2縫製部が第1縫製部の範囲内に重なるように配されることにより、生地5の対向側縁の近傍でファスナーストリンガー10と生地とを縫い合わせることができる。これにより、第2縫製部よりファスナー幅方向の内側の範囲にある生地5の側縁部が折れ曲がること(めくれること)を生じ難くすることができる。このため、左右のファスナーエレメント12を噛み合わせたときに、左右の生地5の対向側縁同士を近接(又は接触)させて、左右の生地5の間からエレメント列11を見え難くする(又は見えなくする)ことができる。
【0073】
また、このように第2縫製糸6による第2縫製部を第1縫製糸13による第1縫製部の範囲内に重なるように形成する場合でも、ミシン針として上述のようにボールポイント針を用いることにより、ボールポイント針の針先が第1縫製糸13を分けてその糸間を通過するように縫製を行うことができるため、第2縫製糸6の縫製時に第1縫製糸13の切断を生じ難くすることができる。なお、本発明では、第2縫製糸6のステッチ形式として、本縫い以外のものを採用することも可能である。
【0074】
上述のようにして、一対のファスナーテープ無しストリンガー10を第2縫製糸6の本縫いによって衣服1の生地5に縫着した後、両ファスナーストリンガー10のエレメント列11にスライダー30を摺動可能に取り付ける。更にその後、エレメント列11の前端及び後端に隣接するように第1止具41及び第2止具42を形成する。
【0075】
本実施例におけるスライダー30は、図2及び図3などに示したように、スライダー胴体31と、取付軸部を一端部に備えた引手32とを有している。また、スライダー胴体31は、上翼板33と、上翼板33と離間して平行に配された下翼板34と、上下翼板33,34の前端部(肩口側端部)間を連結する案内柱35と、下翼板34の左右側縁部から上翼板33に向けて立設された下フランジ部36と、上翼板33の左右側縁部に配された突条部37と、上翼板33の上面に配された引手取付部38とを有している。
【0076】
このスライダー胴体31の前端部には、案内柱35を間に挟んで左右の肩口が形成され、スライダー胴体31の後端部には後口が形成されている。また、上下翼板33,34間には、左右の肩口と後口とを連通するように略Y字形状に形成され、ファスナーエレメント12とともに生地5が挿通可能なエレメント案内路が配されている。
【0077】
本実施例における第1止具41は、スライダー30がエレメント列11の前端側から脱落しないように、左右のエレメント列11の前端に隣接して生地5に取着されている。また、第2止具42は、スライダー30がエレメント列11の後端側から脱落しないように、左右のエレメント列11の後端に隣接するとともに左右のエレメント列11に跨るようにして生地5に取着されている。
【0078】
なお、本発明において、第1及び第2止具41,42を生地5に取着する手段は特に限定されず、例えば第1及び第2止具41,42を接着又は溶着により生地5に固定しても良いし、また、金属製の第1及び第2止具41,42を加締め加工等によって塑性変形させることにより生地5に固定しても良い。
【0079】
また本発明では、第2止具42の代わりに開離嵌挿具をエレメント列11の後端に隣接して設けることも可能である。更に、例えばエレメント列11の後端部を押圧して押し潰すことにより幅広に形成することや、エレメント列11の後端部を横切るように縫うことによって、第2止具42を形成することも可能である。
【0080】
なお本実施例では、一対のファスナーテープ無しストリンガー10を生地5に縫い付けた後に、当該ストリンガーのエレメント列11にスライダー30を取り付けるとともに第1止具41及び第2止具42を生地5に取着している。
【0081】
しかし、本発明では、一対のファスナーテープ無しストリンガー10のエレメント列11にスライダー30を取り付けた後に、当該ストリンガーを第2縫製糸6の本縫いによって生地5に縫い付けることも可能である。なお、第2縫製糸6による縫製の効率や生産性を考慮すると、ファスナーテープ無しストリンガー10を生地5に縫い付けた後に、スライダー30、第1止具41及び第2止具42の取り付けを行うことが好ましい。
【0082】
以上のようにして構成された本実施例のスライドファスナー付き衣服1では、ファスナーテープを使用することなくスライドファスナーを構成することができるため、スライドファスナーの軽量化やコスト削減を容易に実現することができる。
【0083】
更に、例えば衣服1の胸部や腹部に設けられたポケット部の開閉部に対して、ファスナーテープ無しストリンガー10を湾曲状などに曲げた状態で取り付ける場合、従来のスライドファスナーで問題とされるファスナーテープの浮き上がりや沈み込み、又は波打ち状の皺等が発生することがないため、衣服1の見栄え(外観品質)を向上させることができる。
【0084】
また、ファスナーテープ無しストリンガー10の取り付けに、ボールポイント針を有するミシンを用いることにより、衣服1の生地5に対するファスナーテープ無しストリンガー10の取り付け作業を容易にかつ安定して行うことができるため、比較的簡単な縫製工程で衣服1を綺麗に仕上げることができる。
【0085】
なお、本発明においては、図2及び図3に示したようなコイル状の連続したファスナーエレメント12の代わりに、例えば図10に示すようなコイル状の連続したファスナーエレメント22を用いて、ファスナーテープ無しストリンガー20を構成することも可能である。
【0086】
この図10に示したファスナーテープ無しストリンガー20に用いられるファスナーエレメント22は、熱可塑性樹脂製のモノフィラメントをコイル状に成形することによって形成されており、前後方向に膨出する部分を備えた噛合頭部22aと、噛合頭部22aから幅方向に延出する上脚部22b及び下脚部22cと、同連続ファスナーエレメント22の上脚部22b(又は下脚部22c)及びファスナー長さ方向に隣接する他のファスナーエレメント22の下脚部22c(又は上脚部22b)間を連結する連結部22dとを有している。
【0087】
また、ファスナーエレメント22の生地に接しない側の一方の脚部(この場合は下脚部22c)を、生地に接する側の他方の脚部(この場合は上脚部22b)に向けて部分的に凹ませるように変形させることによって、一方の脚部の外表面(下脚部22cの下面)に、第1縫製糸13が配置(収容)される凹部22eが形成されている。
【0088】
このような凹部22eが下脚部22cの下面に設けられており、第1縫製糸13がこの凹部22eを跨ぐようにして上下脚部22b,22cを拘束して織テープ部材14に縫い付けていることにより、ファスナーテープ無しストリンガー20を生地に取着してスライダー30を摺動させたときに、第1縫製糸13をスライダー30に接触させ難くして、第1縫製糸13の磨耗を生じ難くすることができる。
【0089】
更にこの場合、ファスナーテープ無しストリンガー20を生地5に縫い付ける第2縫製糸6も、第1縫製糸13と同様に下脚部22cの凹部22eを跨ぐように配されるため、第2縫製糸6もスライダー30に接触させ難くして、第2縫製糸6の磨耗を生じ難くすることができる。従って、図10に示したファスナーテープ無しストリンガー20が取着された物品では、スライダー30の摺動操作が繰り返し行われても、第1縫製糸13及び第2縫製糸6の切断が生じ難くなり、スライドファスナーの機能を長期に亘って安定して維持することができる。
【0090】
更に、ファスナーエレメント22の下脚部22cが、上述のように上脚部22bに向けて部分的に凹ませるように変形していることによって、上下脚部22b,22c間に織テープ部材14を安定して挟持できる。それによって、織テープ部材14に対する上下脚部22b,22cの位置がファスナー長さ方向に更にずれに難くなり、ファスナーエレメント22のピッチをより安定させることができる。
【0091】
なお、前述した実施例に係るファスナーテープ無しストリンガー10では、ファスナーエレメント12の上下脚部12b,12c間に配されるエレメント固定部材として、平織組織に織成された細幅のテープ部材14が用いられているが、本発明においては、このような織テープ部材14の他に、例えば図11に示すような編成された細幅のテープ部材(経編テープ部材)51、不織布により構成される細幅のテープ部材、又は、図12に示すような細幅の伸縮に難い性質を有する合成樹脂により形成されるフィルム部材52を用いることも可能である。
【0092】
これらのエレメント固定部材は、無負荷状態においてファスナー幅方向(テープ幅方向とも言う)の寸法がテープ厚さ方向の寸法の2倍以上の大きさで構成されており、より好ましくは、エレメント固定部材におけるファスナー幅方向の寸法は、テープ厚さ方向の寸法の2.5倍以上3.5倍以下の大きさに設定される。
【0093】
ここで、無負荷状態とは、ファスナーエレメント12からエレメント固定部材を抜き取り、そのエレメント固定部材に対して引っ張りや圧縮などの人工的な外力を加えない状態を言う。エレメント固定部材が上述のような寸法を有することによって、ファスナー長さ方向に伸縮し難い構造を備えることができる。
【0094】
ここで、ファスナーエレメントの上下脚部間に配される従来の芯紐は、複数の糸をまとめて束ねた状態でその周囲を編成することで得られるニットコードであることが多い。このように複数の糸を束ねたニットコードでは、複数の糸がファスナー長さ方向に延びているが、それぞれの糸はファスナー幅方向およびファスナー厚さ方向にうねり(捲縮)を有するため、伸縮し易いものである。
【0095】
そして、従来の芯紐では、無負荷状態にて、断面が円形状であるために、ファスナー幅方向およびファスナー厚さ方向の両方にうねることが自由であるため、うねりが多く発生し易くなり、その結果、うねりの発生に伴って芯紐が伸縮し易いものとなる。
【0096】
一方、本発明のエレメント固定部材は、従来の芯紐に発生するようなうねりが少なくなるため、伸縮し難い構造を備える。また、本発明のエレメント固定部材にファスナー長さ方向への引っ張り力が加えられたときには、その断面形状(特にテープ厚さ方向の寸法)が無負荷状態よりも小さくなり、その減少分がファスナー長さ方向への伸びに繋がることになる。このため、このエレメント固定部材は、テープ幅方向の寸法に対するテープ厚さ方向の寸法を小さくすることによって、引っ張り力を受けたときのエレメント固定部材の断面形状が小さくなり難くなるため、伸縮し難い構造となる。
【0097】
例えば、エレメント固定部材のテープ幅方向の寸法は、そのテープ厚さ方向の寸法の2倍以上の大きさに設定されていることにより、例えばテープ厚さ方向の寸法と同等若しくはその寸法の1.5倍の大きさに設定されている場合に比べて、エレメント固定部材をファスナー長さ方向へ伸び難くすることができる。
【0098】
また、例えば図11に示す経編テープ部材51は、経編組織からなる細幅の帯状体であり、経編の一重組織を備える。また、経編テープ部材51の全テープ幅が第1ウェールW1〜第7ウェールW7により構成されている。この経編テープ部材51の編組織は、各ウェールに配される鎖編糸51a(0−1/1−0)と、トリコット編糸51b(1−0/1−2)と、4つのウェールに跨ってジグザグ状に挿入される緯挿入糸51c(4−4/0−0)とにより構成されている。この場合、複数の緯挿入糸51cが、第1ウェールW1〜第7ウェールW7に亘って全体的に配されている。
【0099】
このような経編テープ部材51は、各ウェールに配される鎖編糸51aによりファスナー長さ方向の伸縮が抑えられた伸縮し難い構造を備えている。このため、エレメント固定部材として織テープ部材14を用いる場合と同様に、ファスナーストリンガーの構成部材としてファスナーテープが排除されていても、ファスナーエレメント12の取付ピッチを経編テープ部材51によって安定して保持することができる。
【0100】
また、エレメント固定部材として、不織布により構成されるテープ部材や、図12に示す合成樹脂製のフィルム部材52を用いる場合も、織テープ部材14や図11の経編テープ部材51の場合と同様に、ファスナー長さ方向の伸縮が抑えられた伸縮し難い構造を備えているため、ファスナーテープを用いなくても、ファスナーエレメント12の取付ピッチを安定して保持することができる。
【0101】
なお、フィルム部材52の材質としては、例えば弾性変形し難いポリエステルやナイロンなどの熱可塑性樹脂を選択することができる。また、フィルム部材52の膜厚は、ファスナーエレメント12のサイズに応じて任意に変更することができるが、例えばファスナーストリンガー10が適度な剛性と柔軟性とを備えるように、0.05mm以上0.30mm以下、特に0.15mm以上0.20mm以下に設定されることが好ましい。
【0102】
また、本発明において、合成樹脂製のフィルム部材52は、ファスナー長さ方向に沿ってまっすぐな状態でファスナーエレメント12の上下脚部12b,12c間に挿入されるが、その後、エレメント縫製用のミシンのミシン針を昇降させてフィルム部材52にファスナーエレメント12を縫い付けるときに、フィルム部材52にミシン針が刺し通される。
【0103】
このため、図12に示したように、同フィルム部材52にはミシン糸(針糸)が挿通する複数の貫通孔52aが形成される。それとともに、ミシン針がフィルム部材52を表裏方向に貫通するときに、フィルム部材52がミシン針から応力を受けたり、摩擦力等を受けたりすることにより、同フィルム部材52はテープファスナー長さ方向に対して表裏方向へ波状にうねった形状(蛇行形状)に変形する。フィルム部材52は、全体的に波状にうねった形状(蛇行形状)を有するものの、ファスナー長さ方向の貫通孔52aの間では直線的に形成されるため、ファスナー長さ方向に伸縮し難い構造を備える。
【0104】
更に、このようにフィルム部材52がファスナー長さ方向に波状の形状を有することにより、ファスナーエレメント12の上下脚部12b,12c間にフィルム部材52を挿入することに起因して、ファスナーテープ無しストリンガー10におけるファスナー長さ方向の柔軟性が低下することを抑制できる。
【符号の説明】
【0105】
1 スライドファスナー付き物品(衣服)
5 生地
6 第2縫製糸
10 ファスナーストリンガー(ファスナーテープ無しストリンガー)
11 エレメント列
12 ファスナーエレメント
12a 噛合頭部
12b 上脚部
12c 下脚部
12d 連結部
13 第1縫製糸
13a ルーパ糸
13b 針糸
14 テープ部材(織テープ部材)
14a 経糸
14b 緯糸
20 ファスナーテープ無しストリンガー
22 ファスナーエレメント
22a 噛合頭部
22b 上脚部
22c 下脚部
22d 連結部
22e 凹部
30 スライダー
31 スライダー胴体
32 引手
33 上翼板
34 下翼板
35 案内柱
36 下フランジ部
37 突条部
38 引手取付部
41 第1止具
42 第2止具
51 テープ部材(経編テープ部材)
51a 鎖編糸
51b トリコット編糸
51c 緯挿入糸
52 フィルム部材
52a 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
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図12
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