【実施例】
【0040】
図1は、本実施例に係るスライドファスナー付き物品の要部を裏面側から拡大して示す要部拡大図である。
図2は、同スライドファスナー付き物品の要部を拡大して示す斜視図であり、
図3は、同スライドファスナー付き物品の断面図である。
図4及び
図5は、同スライドファスナー付き物品に用いられるファスナーテープ無しストリンガーの平面図及び底面図である。
【0041】
なお、以下のスライドファスナーに関する説明において、前後方向とは、スライドファスナーの長さ方向又はテープ部材の長さ方向を言い、特に、スライダーがスライドファスナーのエレメント列を噛合させるように摺動する方向を前方とし、エレメント列を分離させるように摺動する方向を後方とする。
【0042】
また、左右方向とは、スライドファスナーのファスナー幅方向を言い、例えば、スライドファスナーのテープ部材のテープ面に平行で、且つ、テープ長さ方向に直交する方向である。更に、上下方向とは、前後方向と左右方向とに直行する方向を言い、例えばテープ部材のテープ面に直交するテープ厚さ方向を指す。特に、ファスナーエレメントに対してスライダーの引手が配されている側の方向を上方とし、その反対側の方向を下方とする。
【0043】
本実施例に係るスライドファスナー付き物品1は、衣服(衣料品)であり、この衣服1の前身頃の前立て部に配された開閉部や、前身頃の胸部及び腹部に設けられたポケット部の開閉部(開口周縁部)などにスライドファスナーが構成されている。すなわち、本実施例において、スライドファスナーに対するファスナー被着部材は、衣服1の生地5(ガーメント生地とも言う)となる。
【0044】
この場合、本実施例のスライドファスナーは、衣服1の外面側から見え難いように、ファスナーストリンガー10のエレメント列11が衣服1の生地5の裏面側(内面側)に配される所謂裏使いの態様で、衣服1に取り付けられている。また、例えば
図2に示すように、衣服1における各開閉部では、左右の生地5が、スライドファスナーの開閉により互いに接離可能に対向して配されている。
【0045】
なお、本発明において、スライドファスナーが取着される物品は、衣服(衣料品)に限定されるものではなく、靴類や鞄類などの日用雑貨品、産業用資材などの物品、自動車、列車、航空機等の各種シート類などの様々な物品が含まれる。
【0046】
本実施例の衣服1に構成されるスライドファスナーは、
図2及び
図3に示したように、エレメント列11を有する左右一対のファスナーストリンガー(ファスナーテープ無しストリンガー)10と、エレメント列11に沿って摺動可能に配されたスライダー30と、エレメント列11の前端に隣接して配され、スライダー30の脱落を防止する第1止具41と、エレメント列11の後端に隣接して左右のファスナーストリンガー10に跨るように配された第2止具42とを有している。
【0047】
左右の各ファスナーストリンガー10は、コイル状に連続するファスナーエレメント12と、ファスナーエレメント12が第1縫製糸13の縫着により固定される細幅のテープ部材14とを有しており、各ファスナーストリンガー10は、ファスナーエレメント12の後述する上脚部12bの外側にも下脚部12cの外側にもファスナーテープが配置されていないファスナーテープ無しストリンガー10として構成されている。
【0048】
ファスナーエレメント12は、ポリアミドやポリエステルなどの熱可塑性樹脂製のモノフィラメントをコイル状に成形することによって形成されており、前後方向に膨出する部分を備えた噛合頭部12aと、噛合頭部12aから幅方向に延出する上脚部12b及び下脚部12cと、同連続ファスナーエレメント12の上脚部12b(又は下脚部12c)及びファスナー長さ方向に隣接する他のファスナーエレメント12の下脚部12c(又は上脚部12b)間を連結する連結部12dとを有している。
【0049】
なお、本発明におけるファスナーエレメント12として、このようにモノフィラメントをコイル状に捲回して形成したファスナーエレメント12の他に、前述のように、モノフィラメントをジグザグ状に折曲して形成したファスナーエレメントを用いることも可能である。
【0050】
このファスナーエレメント12を固定する固定部材となる細幅のテープ部材14は、
図7に示すように、複数の経糸14aと、2本の単糸を引き揃えて1組とした緯糸14bとにより一重織で織成された平織組織で形成されている。
【0051】
このような平織組織に織成されたテープ部材(織テープ部材)14は、厚さ方向の寸法が小さく、幅方向の寸法が大きな扁平な横断面形状を有するとともに、経糸14aが緯糸14bによって織成されることによりファスナー長さ方向の伸縮が抑えられた伸縮し難い構造を備えている。なお、この織テープ部材14の一側縁部には、次位の緯糸14bを順次引っ掛けてループ折り返し端を連結することにより形成される耳部が形成されている。
【0052】
この織テープ部材14は、
図4〜
図6に示すように、ファスナーエレメント12の上下脚部12b,12c間にファスナー長さ方向に沿って挿通された状態で、上脚部12b及び下脚部12cを織テープ部材14の表面及び裏面に第1縫製糸13により固定している。第1縫製糸13は、ファスナーエレメント12を織テープ部材14(固定部材)に取り付けるものであり、第1固定手段とも言う。
【0053】
特に本実施例において、織テープ部材14とファスナーエレメント12とは、織テープ部材14がファスナーエレメント12の上下脚部12b,12c間に形成される内部空間に挿通された状態で、エレメント縫製用のミシンを用いて、第1縫製糸13の二重環縫いにより一連に縫い合わせられている。また、コイル状に連続するファスナーエレメント12は、そのファスナー長さ方向全体に亘って織テープ部材14に縫い付け固定されている。
【0054】
本実施例において、織テープ部材14の横断面が上述のように扁平な形状を有することにより、ファスナーエレメント12の上下脚部12b,12c間に織テープ部材14を挿通させ易くなるとともに、例えば後述するようにミシンを用いて織テープ部材14に上下脚部12b,12cを縫い付ける際に、織テープ部材14にミシン針を安定して刺通させて、縫製作業を円滑に行うことができる。
【0055】
この場合、第1縫製糸13のルーパ糸13aは、織テープ部材14の表面側にて、ファスナーエレメント12の上脚部12bに直接接触しながら同上脚部12bを跨ぎ、また、第1縫製糸13の針糸13bは、織テープ部材14の裏面側にて、ファスナーエレメント12の下脚部12cに直接接触しながら同下脚部12cを跨ぐとともに、互いに隣接するファスナーエレメント12間にて織テープ部材14を刺通して、織テープ部材14の表面側を通るルーパ糸13aと交錯する。これにより、各ファスナーエレメント12間に縫い目が形成されるとともに、第1縫製糸13の二重環縫いによる第1縫製部が、エレメント列11の表面側と裏面側に表出するように形成される。
【0056】
このようにファスナーエレメント12が、ファスナー長さ方向に伸縮し難い織テープ部材14に第1縫製糸13の二重環縫いにより固定されることによって、織テープ部材14が、エレメント固定部材としてファスナーエレメント12の形状を保持するとともに、ファスナーエレメント12の取付ピッチ(言い換えると、噛合頭部12a間の間隔)を一定に保つことができる。
【0057】
また、第1縫製糸13が織テープ部材14を刺通してファスナーエレメント12を保持しているため、織テープ部材14に対する第1縫製糸13の刺通位置がずれ難く、ファスナーエレメント12の上下脚部12b,12cを織テープ部材14の所定位置にしっかりと固定して支えることができる。このため、織テープ部材14に対して上下脚部12b,12cが動くことを防止できる。
【0058】
しかも第1縫製糸13のステッチ形式として二重環縫いを採用することによって、縫い目の強度に優れ、伸縮性にも富むため好ましく、更に、たとえ第1縫製糸13が切れたとしても、第1縫製糸13のほつれを生じ難くすることができる。更に、二重環縫いで織テープ部材14とファスナーエレメント12とを縫い合わせることによって、ファスナーテープ無しストリンガー10を高い生産性で製造することができる。なお、本発明では、第1縫製糸13のステッチ形式として、本縫いなどの二重環縫い以外のものを採用することも可能である。
【0059】
また、上述のように構成される本実施例のファスナーストリンガー10は、従来のファスナーストリンガーでは必須の構成部材であったファスナーテープが排除されているため、従来のファスナーストリンガーに比べて軽量であり、且つ、製造コストを安く抑えることができる。
【0060】
更に、ファスナー長さ方向に伸縮し難い構造を備えた織テープ部材14にファスナーエレメント12が縫い付けられているため、ファスナーテープが排除されていても、ファスナーエレメント12の取付ピッチを織テープ部材14によって安定して保持することができる。また、このファスナーテープ無しストリンガー10は湾曲状などに曲げられても、従来のファスナーストリンガーのようにファスナーテープの浮き上がりや沈み込み、又は波打ち状の皺が発生することもない。
【0061】
このようなファスナーテープ無しストリンガー10は、
図8及び
図9に示すように、ファスナー被着物である衣服1の生地5に対して位置を合わせた状態で、スライドファスナー縫製用ミシンを用いて、第2縫製糸6の本縫いによって生地5に縫い付け固定されている。この場合、ファスナーエレメント12と織テープ部材14とは、そのファスナー長さ方向全体に亘って生地5に縫着されている。また、第2縫製糸6は、ファスナーストリンガー10を生地5に取り付けるものであり、第2固定手段とも言う。
【0062】
特に本実施例では、第2縫製糸6が、ファスナーエレメント12の上下脚部12b,12cを跨ぐとともに、隣接するファスナーエレメント12間にて織テープ部材14及び生地5を刺通することによって、生地5にファスナーテープ無しストリンガー10を縫い付けている。
【0063】
この場合、第2縫製糸6の本縫いによる縫製は、ミシン針としてボールポイント針を用いて行われる。このボールポイント針は、先端が球状に丸くなっている針であり、その先端の直径は、0.2mm以上0.6mm以下であることが好ましい。
【0064】
このようにボールポイント針を用いることにより、縫製時にミシン針がファスナーエレメント12に衝突しても、ボールポイント針の位置がファスナーエレメント12に沿って前後方向に相対的にずれながら織テープ部材14及び生地5を刺通できるため、ファスナーエレメント12の損傷、及びミシン針の折損や折れ曲がりなどを回避して、縫製工程を円滑に安定して行うことができる。
【0065】
しかも、第2縫製糸6のステッチ形式として本縫いを採用することによって、第2縫製糸の縫い目が解け難く強度に優れるという利点が得られ、その上、縫製時にボールポイント針がファスナーエレメント12に衝突してボールポイント針の位置(言い換えると、針が織テープ部材14及び生地5を刺通する位置)がずれたとしても、ファスナーテープ無しストリンガー10と生地5とを円滑に且つ安定して縫い合わせることが可能である。
【0066】
なお、このような第2縫製糸6による縫製を行う際に、ボールポイント針がファスナーエレメント12に衝突した場合、本実施例のファスナーテープ無しストリンガー10では、ファスナーエレメント12が上述のように織テープ部材14に適切に固定されているため、ファスナーエレメント12がボールポイント針を避けるように僅かに移動することを許容するとともに、織テープ部材14で保持されているファスナーエレメント12のピッチが不均一となることを防止できる。
【0067】
また本実施例では、第2縫製糸6の本縫いによる第2縫製部(特に第2縫製糸6がエレメント列11上に表出する部分)が、ファスナー幅方向において、第1縫製糸13の二重環縫いによる第1縫製部の形成範囲内に重なるように配されている。ここで、第2縫製部が第1縫製部の形成範囲内にあるとは、エレメント列11の表面(ファスナーエレメント12の下脚部12cの外面)上に形成される第1縫製部のテープ幅方向の範囲内に、エレメント列11の表面(ファスナーエレメント12の下脚部12cの外面)上に形成される第2縫製部が配されることを言う。
【0068】
なお、エレメント列11(特に、ファスナーエレメント12の下脚部12c側の外面)上に第2縫製部を形成する第2縫製糸6は、隣接するファスナーエレメント12の下脚部12c間を通って織テープ部材14を刺通し、更に、隣接するファスナーエレメント12の上脚部12b間を通って生地5を刺通している。この場合、第1縫製糸13の一部は、第2縫製糸6とファスナーエレメント12の下脚部12cの外面上との間に位置する部分もある。
【0069】
そして、ファスナーエレメント12、織テープ部材14、及び生地5は、エレメント列11上の第2縫製糸6の一部である第2縫製部と、生地5の表面上に表れる第2縫製糸6の一部との間に挟まれるように縫い合わされて固定される。
【0070】
上述のように第2縫製糸6の第2縫製部が第1縫製糸13の第1縫製部の範囲内に重なるように形成されることにより、第2縫製部が第1縫製部に紛れて目立ち難くなるため、ファスナーストリンガー10が取着された衣服1の見栄えを向上させることができる。
【0071】
また、ファスナーストリンガー10が生地5に固定されている状態にて、第2縫製部が第1縫製部とともにファスナーエレメント12の表面上に形成されているので、スライダー30の摺動による磨耗や外的要因による磨耗・衝突に対して、第1縫製部および第2縫製部の両方で耐えることができる。このため、第2縫製部が第1縫製部から離間して形成されている場合に比べて、第1縫製糸13及び第2縫製糸6に糸切れなどが生じることが少なくなる。
【0072】
更に、第2縫製部が第1縫製部の範囲内に重なるように配されることにより、生地5の対向側縁の近傍でファスナーストリンガー10と生地とを縫い合わせることができる。これにより、第2縫製部よりファスナー幅方向の内側の範囲にある生地5の側縁部が折れ曲がること(めくれること)を生じ難くすることができる。このため、左右のファスナーエレメント12を噛み合わせたときに、左右の生地5の対向側縁同士を近接(又は接触)させて、左右の生地5の間からエレメント列11を見え難くする(又は見えなくする)ことができる。
【0073】
また、このように第2縫製糸6による第2縫製部を第1縫製糸13による第1縫製部の範囲内に重なるように形成する場合でも、ミシン針として上述のようにボールポイント針を用いることにより、ボールポイント針の針先が第1縫製糸13を分けてその糸間を通過するように縫製を行うことができるため、第2縫製糸6の縫製時に第1縫製糸13の切断を生じ難くすることができる。なお、本発明では、第2縫製糸6のステッチ形式として、本縫い以外のものを採用することも可能である。
【0074】
上述のようにして、一対のファスナーテープ無しストリンガー10を第2縫製糸6の本縫いによって衣服1の生地5に縫着した後、両ファスナーストリンガー10のエレメント列11にスライダー30を摺動可能に取り付ける。更にその後、エレメント列11の前端及び後端に隣接するように第1止具41及び第2止具42を形成する。
【0075】
本実施例におけるスライダー30は、
図2及び
図3などに示したように、スライダー胴体31と、取付軸部を一端部に備えた引手32とを有している。また、スライダー胴体31は、上翼板33と、上翼板33と離間して平行に配された下翼板34と、上下翼板33,34の前端部(肩口側端部)間を連結する案内柱35と、下翼板34の左右側縁部から上翼板33に向けて立設された下フランジ部36と、上翼板33の左右側縁部に配された突条部37と、上翼板33の上面に配された引手取付部38とを有している。
【0076】
このスライダー胴体31の前端部には、案内柱35を間に挟んで左右の肩口が形成され、スライダー胴体31の後端部には後口が形成されている。また、上下翼板33,34間には、左右の肩口と後口とを連通するように略Y字形状に形成され、ファスナーエレメント12とともに生地5が挿通可能なエレメント案内路が配されている。
【0077】
本実施例における第1止具41は、スライダー30がエレメント列11の前端側から脱落しないように、左右のエレメント列11の前端に隣接して生地5に取着されている。また、第2止具42は、スライダー30がエレメント列11の後端側から脱落しないように、左右のエレメント列11の後端に隣接するとともに左右のエレメント列11に跨るようにして生地5に取着されている。
【0078】
なお、本発明において、第1及び第2止具41,42を生地5に取着する手段は特に限定されず、例えば第1及び第2止具41,42を接着又は溶着により生地5に固定しても良いし、また、金属製の第1及び第2止具41,42を加締め加工等によって塑性変形させることにより生地5に固定しても良い。
【0079】
また本発明では、第2止具42の代わりに開離嵌挿具をエレメント列11の後端に隣接して設けることも可能である。更に、例えばエレメント列11の後端部を押圧して押し潰すことにより幅広に形成することや、エレメント列11の後端部を横切るように縫うことによって、第2止具42を形成することも可能である。
【0080】
なお本実施例では、一対のファスナーテープ無しストリンガー10を生地5に縫い付けた後に、当該ストリンガーのエレメント列11にスライダー30を取り付けるとともに第1止具41及び第2止具42を生地5に取着している。
【0081】
しかし、本発明では、一対のファスナーテープ無しストリンガー10のエレメント列11にスライダー30を取り付けた後に、当該ストリンガーを第2縫製糸6の本縫いによって生地5に縫い付けることも可能である。なお、第2縫製糸6による縫製の効率や生産性を考慮すると、ファスナーテープ無しストリンガー10を生地5に縫い付けた後に、スライダー30、第1止具41及び第2止具42の取り付けを行うことが好ましい。
【0082】
以上のようにして構成された本実施例のスライドファスナー付き衣服1では、ファスナーテープを使用することなくスライドファスナーを構成することができるため、スライドファスナーの軽量化やコスト削減を容易に実現することができる。
【0083】
更に、例えば衣服1の胸部や腹部に設けられたポケット部の開閉部に対して、ファスナーテープ無しストリンガー10を湾曲状などに曲げた状態で取り付ける場合、従来のスライドファスナーで問題とされるファスナーテープの浮き上がりや沈み込み、又は波打ち状の皺等が発生することがないため、衣服1の見栄え(外観品質)を向上させることができる。
【0084】
また、ファスナーテープ無しストリンガー10の取り付けに、ボールポイント針を有するミシンを用いることにより、衣服1の生地5に対するファスナーテープ無しストリンガー10の取り付け作業を容易にかつ安定して行うことができるため、比較的簡単な縫製工程で衣服1を綺麗に仕上げることができる。
【0085】
なお、本発明においては、
図2及び
図3に示したようなコイル状の連続したファスナーエレメント12の代わりに、例えば
図10に示すようなコイル状の連続したファスナーエレメント22を用いて、ファスナーテープ無しストリンガー20を構成することも可能である。
【0086】
この
図10に示したファスナーテープ無しストリンガー20に用いられるファスナーエレメント22は、熱可塑性樹脂製のモノフィラメントをコイル状に成形することによって形成されており、前後方向に膨出する部分を備えた噛合頭部22aと、噛合頭部22aから幅方向に延出する上脚部22b及び下脚部22cと、同連続ファスナーエレメント22の上脚部22b(又は下脚部22c)及びファスナー長さ方向に隣接する他のファスナーエレメント22の下脚部22c(又は上脚部22b)間を連結する連結部22dとを有している。
【0087】
また、ファスナーエレメント22の生地に接しない側の一方の脚部(この場合は下脚部22c)を、生地に接する側の他方の脚部(この場合は上脚部22b)に向けて部分的に凹ませるように変形させることによって、一方の脚部の外表面(下脚部22cの下面)に、第1縫製糸13が配置(収容)される凹部22eが形成されている。
【0088】
このような凹部22eが下脚部22cの下面に設けられており、第1縫製糸13がこの凹部22eを跨ぐようにして上下脚部22b,22cを拘束して織テープ部材14に縫い付けていることにより、ファスナーテープ無しストリンガー20を生地に取着してスライダー30を摺動させたときに、第1縫製糸13をスライダー30に接触させ難くして、第1縫製糸13の磨耗を生じ難くすることができる。
【0089】
更にこの場合、ファスナーテープ無しストリンガー20を生地5に縫い付ける第2縫製糸6も、第1縫製糸13と同様に下脚部22cの凹部22eを跨ぐように配されるため、第2縫製糸6もスライダー30に接触させ難くして、第2縫製糸6の磨耗を生じ難くすることができる。従って、
図10に示したファスナーテープ無しストリンガー20が取着された物品では、スライダー30の摺動操作が繰り返し行われても、第1縫製糸13及び第2縫製糸6の切断が生じ難くなり、スライドファスナーの機能を長期に亘って安定して維持することができる。
【0090】
更に、ファスナーエレメント22の下脚部22cが、上述のように上脚部22bに向けて部分的に凹ませるように変形していることによって、上下脚部22b,22c間に織テープ部材14を安定して挟持できる。それによって、織テープ部材14に対する上下脚部22b,22cの位置がファスナー長さ方向に更にずれに難くなり、ファスナーエレメント22のピッチをより安定させることができる。
【0091】
なお、前述した実施例に係るファスナーテープ無しストリンガー10では、ファスナーエレメント12の上下脚部12b,12c間に配されるエレメント固定部材として、平織組織に織成された細幅のテープ部材14が用いられているが、本発明においては、このような織テープ部材14の他に、例えば
図11に示すような編成された細幅のテープ部材(経編テープ部材)51、不織布により構成される細幅のテープ部材、又は、
図12に示すような細幅の伸縮に難い性質を有する合成樹脂により形成されるフィルム部材52を用いることも可能である。
【0092】
これらのエレメント固定部材は、無負荷状態においてファスナー幅方向(テープ幅方向とも言う)の寸法がテープ厚さ方向の寸法の2倍以上の大きさで構成されており、より好ましくは、エレメント固定部材におけるファスナー幅方向の寸法は、テープ厚さ方向の寸法の2.5倍以上3.5倍以下の大きさに設定される。
【0093】
ここで、無負荷状態とは、ファスナーエレメント12からエレメント固定部材を抜き取り、そのエレメント固定部材に対して引っ張りや圧縮などの人工的な外力を加えない状態を言う。エレメント固定部材が上述のような寸法を有することによって、ファスナー長さ方向に伸縮し難い構造を備えることができる。
【0094】
ここで、ファスナーエレメントの上下脚部間に配される従来の芯紐は、複数の糸をまとめて束ねた状態でその周囲を編成することで得られるニットコードであることが多い。このように複数の糸を束ねたニットコードでは、複数の糸がファスナー長さ方向に延びているが、それぞれの糸はファスナー幅方向およびファスナー厚さ方向にうねり(捲縮)を有するため、伸縮し易いものである。
【0095】
そして、従来の芯紐では、無負荷状態にて、断面が円形状であるために、ファスナー幅方向およびファスナー厚さ方向の両方にうねることが自由であるため、うねりが多く発生し易くなり、その結果、うねりの発生に伴って芯紐が伸縮し易いものとなる。
【0096】
一方、本発明のエレメント固定部材は、従来の芯紐に発生するようなうねりが少なくなるため、伸縮し難い構造を備える。また、本発明のエレメント固定部材にファスナー長さ方向への引っ張り力が加えられたときには、その断面形状(特にテープ厚さ方向の寸法)が無負荷状態よりも小さくなり、その減少分がファスナー長さ方向への伸びに繋がることになる。このため、このエレメント固定部材は、テープ幅方向の寸法に対するテープ厚さ方向の寸法を小さくすることによって、引っ張り力を受けたときのエレメント固定部材の断面形状が小さくなり難くなるため、伸縮し難い構造となる。
【0097】
例えば、エレメント固定部材のテープ幅方向の寸法は、そのテープ厚さ方向の寸法の2倍以上の大きさに設定されていることにより、例えばテープ厚さ方向の寸法と同等若しくはその寸法の1.5倍の大きさに設定されている場合に比べて、エレメント固定部材をファスナー長さ方向へ伸び難くすることができる。
【0098】
また、例えば
図11に示す経編テープ部材51は、経編組織からなる細幅の帯状体であり、経編の一重組織を備える。また、経編テープ部材51の全テープ幅が第1ウェールW1〜第7ウェールW7により構成されている。この経編テープ部材51の編組織は、各ウェールに配される鎖編糸51a(0−1/1−0)と、トリコット編糸51b(1−0/1−2)と、4つのウェールに跨ってジグザグ状に挿入される緯挿入糸51c(4−4/0−0)とにより構成されている。この場合、複数の緯挿入糸51cが、第1ウェールW1〜第7ウェールW7に亘って全体的に配されている。
【0099】
このような経編テープ部材51は、各ウェールに配される鎖編糸51aによりファスナー長さ方向の伸縮が抑えられた伸縮し難い構造を備えている。このため、エレメント固定部材として織テープ部材14を用いる場合と同様に、ファスナーストリンガーの構成部材としてファスナーテープが排除されていても、ファスナーエレメント12の取付ピッチを経編テープ部材51によって安定して保持することができる。
【0100】
また、エレメント固定部材として、不織布により構成されるテープ部材や、
図12に示す合成樹脂製のフィルム部材52を用いる場合も、織テープ部材14や
図11の経編テープ部材51の場合と同様に、ファスナー長さ方向の伸縮が抑えられた伸縮し難い構造を備えているため、ファスナーテープを用いなくても、ファスナーエレメント12の取付ピッチを安定して保持することができる。
【0101】
なお、フィルム部材52の材質としては、例えば弾性変形し難いポリエステルやナイロンなどの熱可塑性樹脂を選択することができる。また、フィルム部材52の膜厚は、ファスナーエレメント12のサイズに応じて任意に変更することができるが、例えばファスナーストリンガー10が適度な剛性と柔軟性とを備えるように、0.05mm以上0.30mm以下、特に0.15mm以上0.20mm以下に設定されることが好ましい。
【0102】
また、本発明において、合成樹脂製のフィルム部材52は、ファスナー長さ方向に沿ってまっすぐな状態でファスナーエレメント12の上下脚部12b,12c間に挿入されるが、その後、エレメント縫製用のミシンのミシン針を昇降させてフィルム部材52にファスナーエレメント12を縫い付けるときに、フィルム部材52にミシン針が刺し通される。
【0103】
このため、
図12に示したように、同フィルム部材52にはミシン糸(針糸)が挿通する複数の貫通孔52aが形成される。それとともに、ミシン針がフィルム部材52を表裏方向に貫通するときに、フィルム部材52がミシン針から応力を受けたり、摩擦力等を受けたりすることにより、同フィルム部材52はテープファスナー長さ方向に対して表裏方向へ波状にうねった形状(蛇行形状)に変形する。フィルム部材52は、全体的に波状にうねった形状(蛇行形状)を有するものの、ファスナー長さ方向の貫通孔52aの間では直線的に形成されるため、ファスナー長さ方向に伸縮し難い構造を備える。
【0104】
更に、このようにフィルム部材52がファスナー長さ方向に波状の形状を有することにより、ファスナーエレメント12の上下脚部12b,12c間にフィルム部材52を挿入することに起因して、ファスナーテープ無しストリンガー10におけるファスナー長さ方向の柔軟性が低下することを抑制できる。