【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、委託期間:平成25年9月6日から平成28年3月31日まで、開発項目「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/研究 開発項目2 木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発/高機能リグノセルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技術開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【文献】
佐藤 明弘 et al.,変性CNF強化樹脂材料の開発,第170回生存圏シンポジウム・第6回バイオ材料プロジェクト,2011年,p.1-4
【文献】
中坪 文明,セルロースナノファイバーの化学変性戦略,第220回生存圏シンポジウム・第9回バイオ材料プロジェクト,2013年,p.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(B)熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリアセタール、ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリスチレン及びABS樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂である、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
前記(B)熱可塑性樹脂がポリアミド、ポリアセタール及びポリ乳酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂であり、前記条件(a)の比率Rが1.03〜1.32であり、前記(b)の化学修飾セルロースナノファイバーの結晶化度が55.6%以上、78.8%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
前記(B)熱可塑性樹脂がポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂であり、前記条件(a)の比率Rが1.21〜1.88であり、前記(b)の化学修飾セルロースナノファイバーの結晶化度が42.7%以上、78.8%以下である、請求項1又は2のいずれかに記載の繊維強化樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の繊維強化樹脂組成物を詳しく説明する。
【0048】
(1)繊維強化樹脂組成物
本発明の繊維強化樹脂組成物は、(A)化学修飾セルロースナノファイバー(化学修飾CNF)及び(B)熱可塑性樹脂を含有し、
前記化学修飾CNF及び熱可塑性樹脂が下記の条件:
(a)(B)熱可塑性樹脂の溶解パラメータ(SP
pol)に対する(A)化学修飾CNFの溶解パラメータ(SP
cnf)の比率R (SP
cnf/SP
pol)が0.87〜1.88の範囲である、及び(b)(A)化学修飾CNFの結晶化度が42.7%以上である
を満たす。
【0049】
前記(a)の比率R (SP
cnf/SP
pol)は、1.03〜1.88程度の範囲が好ましく、1.03〜1.82程度の範囲がより好ましい。
【0050】
セルロース分子の繰り返し単位には3つの水酸基が存在する。本発明では、セルロース分子に存在する水酸基のうちの幾つを化学修飾するか(例えばアセチル基等で置き換えるか)に依って、各樹脂に対して最適な溶解度パラメータ(SP)値を有する化学修飾CNF(例えばアセチル化CNF等)を得ることができる。その化学修飾処理により、本発明繊維強化樹脂組成物の樹脂中での化学修飾CNFの分散性が促進され、樹脂に対する化学修飾CNFの補強効果が向上し、優れた力学的特性を持つCNF複合材料を得ることができる。
【0051】
(1-1) (A)化学修飾セルロースナノファイバー(化学修飾CNF)
本発明の繊維強化樹脂組成物は(A)化学修飾CNFを含む。
【0052】
(A)化学修飾CNFの結晶化度は42.7%以上である。
【0053】
植物繊維(セルロース及びリグノセルロース)
化学修飾CNFの原料として用いられる植物繊維には、セルロース又は/及びリグノセルロースを含む、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、綿、ビート、農産物残廃物、布といった天然植物原料から得られる繊維挙げられる。木材としては、例えば、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ、アカシア等が挙げられ、紙としては、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌、コピー用紙等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。植物繊維は、1種単独でも用いてもよく、これらから選ばれた2種以上を用いてもよい。
【0054】
化学修飾CNFの原料として、リグノセルロースも用いることができる。
【0055】
リグノセルロースは、植物の細胞壁を構成する、複合炭化水素高分子であり、主に多糖類のセルロース、ヘミセルロースと芳香族高分子であるリグニンから構成されていることが知られている。
【0056】
参照例1:Review Article Conversion of Lignocellulosic Biomass to Nanocellulose: Structure and Chemical Process H. V. Lee, S. B. A. Hamid, and S. K. Zain, Scientific World Journal Volume 2014、Article ID 631013, 20 pages, http://dx.doi.org/10.1155/2014/631013
参照例2:New lignocellulose pretreatments using cellulose solvents: a review, Noppadon Sathitsuksanoh, Anthe George and Y-H Percival Zhang, J Chem Technol Biotechnol 2013; 88: 169-180
本明細書で使用される「リグノセルロース」の用語は、植物中に天然に存在する化学構造のリグノセルロース又は/及びリグノセルロース混合物、人工的に改変されたリグノセルロース又は/及びリグノセルロース混合物を意味する。前記混合物は、例えば、天然の植物から得られる、木材、これを機械的又は/及び化学的に処理して得られる種々のパルプ中に含まれる化学構造のリグノセルロース又は/及びリグノセルロース混合物である。リグノセルロースは、天然に存在する化学構造のリグノセルロースに限定されるものではなく、また、リグノセルロース中のリグニン含有量も限定されるものではない。
【0057】
即ち、本発明で使用されるリグノセルロースやリグノパルプの用語は、リグニン成分の含量が微量であっても、それぞれ、リグノセルロース、リグノパルプとして解釈される。
【0058】
リグノセルロースの原料には、リグノセルロースを含有する繊維又はリグノセルロースを含有する繊維集合体を使用することができる。リグノセルロースを含有する繊維集合体には、植物由来パルプ、木粉、木片等の他、あらゆる形状のリグノセルロースを含有する繊維集合体が含まれる。植物性原料として、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ等の植物由来素材、バガス、藁、ビート絞りかす等の農産物残廃物等を用いることができる。それらリグノセルロースが含まれている植物性原料を、片状、紛状、繊維状等の形状にして使用することができる。
【0059】
植物の細胞壁は、主としてリグノセルロースから構成されている。植物細胞壁の微細構造では、通常、約40本のセルロース分子が、水素結合で結合し、通常、幅4〜5nm程度のセルロースミクロフィブリル(シングルCNF)を形成し、セルロースミクロフィブリルが数個集まってセルロース微繊維(セルロースミクロフィブリル束)を形成している。そして、ヘミセルロースはセルロースミクロフィブリル同士の間隙やセルロースミクロフィブリルの周囲に存在し、リグニンはセルロースミクロフィブリル同士の間隙に充填された状態で存在していることが知られている。
【0060】
植物繊維やリグノセルロースの製造原料の代表的な例はパルプである。パルプは、木材等の植物由来素材を化学的又は/及び機械的に処理してそこに含まれる繊維を取り出したものである。これは、植物由来素材の化学的、生化学的処理の程度によりヘミセルロース及びリグニンの含有量は低くなり、セルロースを主成分とする繊維となる。
【0061】
パルプ製造用の木材としては、例えば、シトカスプルース、スギ、ヒノキ、ユーカリ、アカシア等を用いることができる。本発明の繊維強化樹脂組成物に使用する化学修飾CNFの原料には、例えば、脱墨古紙、段ボール古紙、雑誌、コピー用紙等の古紙を用いることもできる。本発明の繊維強化樹脂組成物に使用する化学修飾CNFの原料として、一種の植物繊維又は二種以上の植物繊維を組み合わせて用いることもできる。
【0062】
本発明の繊維強化樹脂組成物に使用する化学修飾CNFの原料として、パルプやパルプをフィブリル化したフィブリル化セルロース及びフィブリル化リグノセルロースが好ましい原材料として挙げられる。パルプはリグノセルロースを含み、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成される。パルプは、植物性原料を機械パルプ化法、化学パルプ化法又は機械パルプ化法と化学パルプ化法との組み合わせにより処理して、得ることができる。機械パルプ化法は、リグニンを残したまま、グラインダーやリファイナー等の機械力によりパルプ化する方法である。化学パルプ化法は、薬品を使用して、リグニンの含有量を調整することによりによりパルプ化する方法である。
【0063】
機械パルプ(MP)としては、砕木パルプ(GP)、リファイナーGP(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、晒化学サーモメカニカルパルプ(BCTMP)等を用いることができる。
【0064】
機械パルプ化法と化学パルプ化法との組み合わせで製造されたパルプとしては、ケミメカニカルパルプ(CMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)等を用いることができる。セミケミカルパルプ(SCP)としては、亜硫酸塩法、冷ソーダ法、クラフト法、ソーダ法等で製造されたパルプを用いることができる。
【0065】
化学パルプ(CP)としては、亜硫酸パルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)、クラフトパルプ(KP)、溶解用クラフトパルプ(DKP)等を用いることができる。
【0066】
機械パルプ、化学パルプ等のパルプを主成分とする、脱墨古紙パルプ、段ボール古紙パルプ、雑誌古紙パルプも化学修飾CNFの原料として用いることができる。
【0067】
これらの原材料は、必要に応じ、脱リグニン、又は漂白を行い、当該パルプ中のリグニン量を調整することができる。
【0068】
本発明の繊維強化樹脂組成物に使用される化学修飾CNFの原料として、これらのパルプの中でも、繊維の強度が強い針葉樹由来の各種クラフトパルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹酸素晒し未漂白クラフトパルプ(NOKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP))が特に好ましい。
【0069】
パルプを用いる場合、植物原料由来のリグニンが完全には除去されずにパルプ中でリグニンが適度に存在するパルプ化法で製造されたパルプでも制限なく適用できる。例えば、植物原料を機械的にパルプ化する機械パルプ化法が好ましい。本発明の繊維強化樹脂組成物に使用される化学修飾CNFの製造に用いるパルプとしては、砕木パルプ(GP)、リファイナーGP (RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の機械パルプ(MP)を用いることが好ましい。
【0070】
リグノセルロース繊維を本発明の繊維強化樹脂組成物の原料として用いる場合、リグノセルロース繊維又はこの繊維集合体(例えば、リグノパルプ)におけるリグニンの含有率は、これら原料中に化学修飾が可能な程度のリグニンを含んでいればよく、その含有量には限定がない。リグニンの含有率は、得られる化学修飾リグノセルロース強度、熱安定性等の点から、1〜40質量%程度が好ましく、3〜35質量%程度がより好ましく、5〜35質量%程度が更に好ましい。リグニン含有量の測定は、Klason法により測定することができる。
【0071】
リグノセルロース及びリグノパルプは、リグニンを含まないセルロースやパルプに比べて、その製造工程が簡単、その原料(例えば木材)からの収率が良好である。また、少ないエネルギーで製造できることからコストの点から有利であり、本発明の繊維強化樹脂組成物の原料として有用である。
【0072】
植物繊維を解繊し、CNFやミクロフィブリル化リグノセルロース(MFLC、本明細書ではリグノセルロースナノファイバー(リグノCNF)ともいう)を調製する方法としては、パルプ等のセルロース繊維含有材料を解繊する方法が挙げられる。解繊方法としては、例えば、セルロース繊維含有材料の水懸濁液又はスラリーを、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸又は多軸混練機(好ましくは二軸混練機)、ビーズミル等による機械的な摩砕又は叩解することにより解繊する方法が使用できる。必要に応じて、上記の解繊方法を組み合わせて処理してもよい。これらの解繊処理の方法としては、公知の解繊方法等を用いれば良い。
【0073】
化学修飾セルロース繊維含有材料(化学修飾パルプ又は化学修飾リグノパルプ等)は、熱可塑性樹脂と共に一軸又は多軸混練機(好ましくは多軸混練機)で、加熱下に樹脂を溶融し混練すると解繊されてナノフィブリル化し、熱可塑性樹脂中で化学修飾CNF又は/及び化学修飾リグノCNFとすることができるので、本発明の繊維強化樹脂組成物を製造するには、このようにして化学修飾セルロース繊維含有材料を溶融熱可塑樹脂中で解繊するのが有利である。
【0074】
以下、CNF及びMFLCを、合わせてCNFとも記す。
【0075】
CNFは、セルロース繊維を含む材料(例えば、木材パルプ等)を、その繊維をナノサイズレベルまで解きほぐした(解繊処理した)ものである。CNFの繊維径の平均値(繊維幅)は4〜200nm程度が好ましく、繊維長の平均値は5μm程度以上が好ましい。CNFの繊維径の平均値は、4〜150nm程度がより好ましく、4〜100nm程度が更に好ましい。
【0076】
本発明に使用される化学修飾CNFの平均繊維長及び平均繊維径の夫々の好ましい範囲、更に好ましい範囲についても、上記CNFのそれらと同様である。
【0077】
繊維径、繊維長はメッツォ社製のカヤーニ繊維長測定器を用いて測定することができる。CNF及び化学修飾CNFの繊維径の平均値(平均繊維径)及び繊維長の平均値(平均繊維長)は、電子顕微鏡の視野内のCNF又は化学修飾CNFの少なくとも50本以上について測定した時の平均値として求める。
【0078】
走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維を観察することにより、繊維の解繊改善状態を観察することもできる。
【0079】
なお、本発明の目的を達成(例えば、化学修飾CNF/又は化学修飾リグノCNF強化組成物の曲げ弾性率が、未修飾CNF/又は未修飾リグノCNF強化組成物の曲げ弾性率に対し1.1倍以上の弾性率を示す)する限り、解繊が不十分で、上記の化学修飾CNFよりも繊維径の大きな化学修飾セルロースファイバー/又は化学修飾リグノセルロースファイバーを含んでいたとしても、そのような繊維強化組成物は本発明に包含される。
【0080】
化学修飾CNFの比表面積は、70〜300m
2/g程度が好ましく、70〜250m
2/g程度がより好ましく、100〜200m
2/g程度が更に好ましい。化学修飾CNFの比表面積を高くすることで、樹脂(マトリックス)と組み合わせて組成物とした場合に、接触面積を大きくすることができ、樹脂成形材料の強度を向上させることができる。また、化学修飾CNFは樹脂組成物の樹脂中で凝集せず、樹脂成形材料の強度を向上させることができる。
【0081】
化学修飾
繊維強化樹脂組成物に含まれる化学修飾CNF(化学修飾MFLCを含む)は、使用する樹脂に応じてCNFの表面に存在する水酸基が疎水化されている。
【0082】
化学修飾CNFとしては、例えば、アシル基、アルキル基での修飾によってナノファイバーの表面に存在する水酸基が疎水化された疎水化CNF;アミノ基を有するシランカップリング剤、グリシジルトリアルキルアンモニウムハライド若しくはそのハロヒドリン型化合物等の修飾によりにより、ナノファイバーの表面に存在する水酸基がカチオン変性された変性CNF;無水コハク酸、アルキル又はアルケニル無水コハク酸のような環状酸無水物によるモノエステル化、カルボキシル基を有するシランカップリング剤による修飾等により、ナノファイバーの表面に存在する水酸基がアニオン変性された変性CNF等を使用することができる。
【0083】
このうち、本発明に使用する化学修飾CNFには、CNFを構成する糖鎖の水酸基がアルカノイル基で修飾されているCNF(アルカノイル修飾CNF)が、製造が容易であるので、好ましい。化学修飾CNFは、CNFを構成する糖鎖の水酸基が低級アルカノイル基で修飾されているCNF(低級アルカノイル修飾CNF)が、より好ましい。
【0084】
さらには、製造の容易さ及び製造コストの点から、本発明で使用する化学修飾CNFには、CNFを構成する糖鎖の水酸基がアセチル基で修飾されているCNF(Ac-CNFとも記す)がより好ましい。
【0085】
本発明において化学修飾CNFは、前記のCNFを化学修飾するか、又は化学修飾パルプ又は化学修飾セルロース等の繊維集合体を、公知の解繊方法で解繊して得ることができる。また樹脂(マトリックス材料、後述)との複合体を作製するときは、樹脂と化学修飾パルプ又は化学修飾セルロース等の繊維集合体とを混練して、混練中のせん断力により樹脂内でこれをミクロフィブリル化することもできる。
【0086】
化学修飾CNFは、セルロース及びヘミセルロースの少なくとも一種(リグノセルロースが含まれる)中に存在する水酸基(即ち、糖鎖の水酸基)が、飽和脂肪酸、不飽和カルボン酸、モノ不飽和脂肪酸、ジ不飽和脂肪酸、トリ不飽和脂肪酸、テトラ不飽和脂肪酸、ペンタ不飽和脂肪酸、ヘキサ不飽和脂肪酸、芳香族カルボン酸、ジカルボン酸、アミノ酸、マレイミド化合物:
【0090】
からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物のカルボキシ基から水素原子を除去した残基によって置換されていることが好ましい。
【0091】
即ち、化学修飾CNFは、セルロース及びリグノセルロースの糖鎖の水酸基が、上記カルボン酸のカルボキシ基から水酸基を除いた残基(アシル基)でアシル化されていることが好ましい。
【0092】
上記の飽和脂肪酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸及びアラキジン酸等が好ましい。
【0093】
上記の不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸等が好ましい。
【0094】
モノ不飽和脂肪酸としては、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リシノール酸等が好ましい。
【0095】
上記のジ不飽和脂肪酸としては、ソルビン酸、リノール酸、エイコサジエン酸等が好ましい。
【0096】
上記のトリ不飽和脂肪酸としては、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸等が好ましい。
【0097】
上記のテトラ不飽和脂肪酸としては、ステアリドン酸及びアラキドン酸から選ばれる等が好ましい。
【0098】
ペンタ不飽和脂肪酸としては、ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸等が好ましい。
【0099】
上記のヘキサ不飽和脂肪酸としては、ドコサヘキサエン酸、ニシン酸等が好ましい。
【0100】
芳香族カルボン酸としては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシベンゼンカルボン酸)、ケイ皮酸(3-フェニルプロパ-2-エン酸)等が好ましい。
【0101】
上記のジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等が好ましい。
【0102】
上記のアミノ酸としては、グリシン、β-アラニン、ε-アミノカプロン酸(6-アミノヘキサン酸)等が好ましい。
【0103】
上記の各種カルボン酸で修飾された化学修飾CNFのうち、本発明に使用する化学修飾CNFには、CNFを構成する糖鎖の水酸基が低級アルカノイル基で修飾されているCNF(CNFを構成する糖鎖の水酸基が低級アルカノイル化されたCNF、低級アルカノイル化CNFと呼ぶ、CNFを構成する糖鎖の水酸基が低級アルカノイルオキシ基で置換された化学構造のCNFに相当する)が、製造が容易で好ましい。
【0104】
分岐鎖アルキルカルボン酸(例えば、ピバル酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸等)、環式アルカンカルボン酸(シクロヘキサンカルボン酸、t-ブチルシクロヘキサンカルボン酸等)及び、置換若しくは非置換フェノキシアルキルカルボン酸(フェノキシ酢酸、1,1,3,3-テトラメチルブチルフェノキシ酢酸、ボルナンフェノキシ酢酸、ボルナンフェノキシヘキサン酸等)のカルボキシ基から水酸基を除いた残基(アシル基)でアシル化されたCNF及びリグノCNFは、樹脂(特に、PP、PE等オレフィン系のSP値が低い樹脂)に対しても補強効果が大きく有利に使用できる。
【0105】
更には、製造の容易さ及び製造コストの点から、本発明で使用する化学修飾CNFには、CNFを構成する糖鎖の水酸基がアセチル基で修飾されているCNF(CNFを構成する糖鎖の水酸基がアセチル化された化学修飾CNF、Ac-CNFとも記す。)がより好ましい。
【0106】
本発明に使用する化学修飾CNFは、原料中のセルロース及びヘミセルロースの水酸基(糖鎖水酸基)が、原料セルロース又は/及びリグノセルロース繊維中に存在していたセルロースの結晶構造が出来る限り保持された状態で、アシル化されていることが好ましい。即ち、本発明に使用する化学修飾CNFは、元来、原料セルロース又は/及びリグノセルロース繊維中に存在するセルロース結晶構造を壊さないように原料繊維の表面に存在する水酸基、例えばセルロースの水酸基、ヘミセルロースの水酸基等をアシル化することが好ましい。その化学修飾処理により、CNF本来の優れた力学的特性を持つ化学修飾CNFを得ることができるとともに、樹脂中での化学修飾CNFの分散性が促進され、樹脂に対する化学修飾CNFの補強効果が向上する。
【0107】
前記アシル化反応は、原料繊維(CNF又はパルプ)を膨潤させることのできる無水非プロトン性極性溶媒、例えばN-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド中に原料を懸濁し、前記カルボン酸の無水物又は酸塩化物で、塩基の存在下で行うのが好ましい。このアシル化反応で用いる塩基としては、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等が好ましい。
【0108】
このアシル化反応は、例えば、室温〜100℃で撹拌しながら行うことが好ましい。
【0109】
本発明に使用する化学修飾CNFの糖鎖水酸基のアシル化度(DSとも表記する。置換度又は修飾度ということもある)を説明する。
【0110】
アシル化反応によって得られる化学修飾CNFの糖鎖水酸基におけるアシル化度(修飾度、DS)は、0.05〜2.5程度が好ましく、0.1〜1.7程度がより好ましく、0.15〜1.5程度が更に好ましい。置換度(DS)の最大値は、CNFの糖鎖水酸基量に依存するが、2.7程度である。置換度(DS)を0.05〜2.5程度に設定することによって、適度の結晶化度とSP値を有する化学修飾CNFが得られる。例えば、アセチル化CNFでは、好ましいDSは0.29〜2.52であり、その範囲のDSでは結晶化度は42.7%程度以上に保つことが可能である。
【0111】
置換度(DS)は、元素分析、中和滴定法、FT-IR、二次元NMR(
1H及び
13C-NMR)等の各種分析方法により分析することができる。
【0112】
化学修飾CNFの結晶化度
繊維強化樹脂組成物に含まれる化学修飾CNFの結晶化度が42.7%程度以上である。
【0113】
化学修飾CNFは、結晶化度が42.7%程度以上と高い結晶化度を有するもので、その結晶型はセルロースI型結晶を有することが好ましい。前記「結晶化度」とは、全セルロース中の結晶(主にセルロースI型結晶)の存在比である。化学修飾CNFの結晶化度(好ましくはセルロースI型の結晶)は、順に50%程度以上が好ましく、55%程度以上がより好ましく、55.6%程度以上がより好ましく、60%程度以上が更に好ましく、69.5%程度以上がなお更に好ましい。
【0114】
化学修飾CNFの結晶化度の上限は、一般的に80%程度である。化学修飾CNFは、セルロースI型の結晶構造を維持し、高強度、低熱膨張といった性能を発現する。
【0115】
結晶の中でもセルロースI型結晶構造とは、例えば朝倉書店発行の「セルロースの辞典」新装版第一刷81〜86頁、或いは93〜99頁に記載の通りのものであり、ほとんどの天然セルロースはセルロースI型結晶構造である。これに対して、セルロースI型結晶構造ではなく、例えばセルロースII、III、IV型構造のセルロース繊維はセルロースI型結晶構造を有するセルロースから誘導されるものである。中でもI型結晶構造は他の構造に比べて結晶弾性率が高い。
【0116】
結晶構造がI型結晶であると、CNFと樹脂(マトリックス材料)との複合材料とした際に、低線膨張係数、且つ高弾性率な複合材料を得ることができる。
【0117】
化学修飾CNFのCNFがI型結晶構造であることは、その広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の二つの位置に典型的なピークを持つことから同定することができる。
【0118】
セルロースの重合度は天然セルロースで500〜10,000程度、再生セルロースで200〜800程度である。セルロースは、β-1,4結合により直線的に伸びたセルロースが何本かの束になって、分子内或いは分子間の水素結合で固定され、伸びきり鎖となった結晶を形成している。セルロースの結晶には、多くの結晶形が存在していることはX線回折や固体NMRによる解析で明らかになっているが、天然セルロースの結晶形はI型のみである。X線回折等から、セルロースにおける結晶領域の比率は、木材パルプで約50〜60%、バクテリアセルロースはこれより高く約70%程度と推測されている。セルロースは、伸びきり鎖結晶であることに起因して、弾性率が高いだけでなく、鋼鉄の5倍の強度、ガラスの1/50以下の線熱膨張係数を示す。
【0119】
(1-2) (B)熱可塑性樹脂
本発明の繊維強化樹脂組成物は、(A)化学修飾CNFに加えて、(B)熱可塑性樹脂を含む。この繊維強化樹脂組成物を用いて、強度に優れる成形体を作製することができる。
【0120】
本発明の繊維強化樹脂組成物は、(A)化学修飾CNFとして、アシル化セルロースナノファイバー(アシル化CNF)を含有し、製造法とコストの観点から、好ましくは低級アルカノイルセルロースナノファイバー(低級アルカノイルCNF)を含有することが好ましく、アセチル化セルロースナノファイバー(アセチル化CNF)を含むことがより好ましい。
【0121】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂(ナイロン樹脂、PA)、ポリエステル、ポリ乳酸樹脂、ポリ乳酸とポリエステル共重合樹脂、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、(熱可塑性)ポリウレタン、ポリアセタール(POM)、ビニルエーテル樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂(例えばトリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロース)等の熱可塑性樹脂を好ましく使用することができる。
【0122】
フッ素樹脂
テトラクロロエチレン、ヘキフロロプロピレン、クロロトリフロロエチレン、フッ化ビリニデン、フッ化ビニル、ペルフルオロアルキルビニルエーテル等の単独重合体又は共重合体を好ましく使用することができる。
【0123】
(メタ)アクリル系樹脂
(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類等の単独重合体又は共重合体を好ましく使用することができる。なお、この明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル及び/又はメタクリル」を意味する。(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸又はメタクリル酸が挙げられる。
【0124】
(メタ)アクリロニトリルとしては、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルが挙げられる。
【0125】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等が挙げられる。
【0126】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0127】
シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0128】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ブトキシエチル等が挙げられる。
【0129】
(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-t-オクチル(メタ)アクリルアミド等のN置換(メタ)アクリルアミド等、及びこれら(メタ)アクリル系樹脂の共重合物が挙げられる。
【0130】
ポリエステル
芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、不飽和ポリエステル等を好ましく使用することができる。
【0131】
芳香族ポリエステルとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール等の後述するジオール類とテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸との共重合体が挙げられる。
【0132】
脂肪族ポリエステルとしては、後述するジオール類とコハク酸、吉草酸等の脂肪族ジカルボン酸との共重合体や、グリコール酸や乳酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体又は共重合体、後述するジオール類、脂肪族ジカルボン酸及び上記ヒドロキシカルボン酸の共重合体等が挙げられる。
【0133】
不飽和ポリエステルとしては、後述するジオール類、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、及び必要に応じてスチレン等のビニル単量体との共重合体が挙げられる。
【0134】
ポリカーボネート
ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類と、ホスゲン又はフェニルジカーボネートとの反応物を好ましく使用することができる。
【0135】
ポリスルホン樹脂
4,4’-ジクロロジフェニルスルホンやビスフェノールA等の共重合体を好ましく使用することができる。
【0136】
ポリフェニレンスルフィド
p-ジクロロベンゼンや硫化ナトリウム等の共重合体を好ましく使用することができる。
【0137】
ポリウレタン
ジイソシアネート類とジオール類との共重合体を好ましく使用することができる。
【0138】
ジイソシアネート類としては、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0139】
ジオール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等の比較的低分子量のジオールや、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。
【0140】
アミド系樹脂(ポリアミド樹脂)
ナイロン66(ポリアミド66、PA66)、ナイロン6(ポリアミド6、PA6)、ナイロン11(ポリアミド11、PA11)、ナイロン12(ポリアミド12、PA12)、ナイロン46(ポリアミド46、PA46)、ナイロン610(ポリアミド610、PA610)、ナイロン612(ポリアミド612、PA612)等の脂肪族アミド系樹脂や、フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンと塩化テレフタロイルや塩化イソフタロイル等の芳香族ジカルボン酸又はその誘導体からなる芳香族ポリアミド等を好ましく使用することができる。
【0141】
ポリアセタール
トリオキサン、ホルムアルデヒド、エチレンオキシド等の重合体及び共重合体を好ましく使用することができる。
【0142】
これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。
【0143】
前記熱可塑性樹脂の中でも、力学的特性、耐熱性、表面平滑性及び外観に優れるという点から、ポリアミド、ポリアセタール、ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリ乳酸とポリエステル共重合樹脂、ABS樹脂及びポリスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が好ましい。
【0144】
分子構造内に極性の高いアミド結合を有するポリアミド樹脂(PA)は、セルロース系材料との親和性が高いという理由から、PA6(ε-カプロラクタムの開環重合体)、PA66(ポリヘキサメチレンアジポアミド)、PA11(ウンデカンラクタムを開環重縮合したポリアミド)、PA12(ラウリルラクタムを開環重縮合したポリアミド)等、及びポリアミド共重合樹脂等を用いることが好ましい。
【0145】
更に、構造部材として汎用性を有するポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE、特に高密度ポリエチレン:HDPE)及びこれら汎用性ポリオレフィンと相溶性の高い無水マレイン酸変性ポリプロピレンが好ましい。
【0146】
(1-3) (A)化学修飾CNFのSPcnfと(B)熱可塑性樹脂のSPpolとの関係
本発明の繊維強化樹脂組成物では、(B)熱可塑性樹脂の溶解パラメータ(SP
pol)に対する(A)化学修飾CNFの溶解パラメータ(SP
cnf)の比率R (SP
cnf/SP
pol)が0.87〜1.88程度であり、好ましくは1.03〜1.88の範囲が好ましく、より好ましくは1.03〜1.82程度の範囲である。
【0147】
本発明の繊維強化樹脂組成物では、(B)熱可塑性樹脂としてポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリ乳酸(PLA)又はこの混合樹脂を好適に使用することができ、この場合比率R (SP
cnf/SP
pol)が1.04〜1.32程度であることが好ましく、化学修飾CNFの結晶化度が69.5%程度以上であることが好ましい。
【0148】
一方、本発明の繊維強化樹脂組成物では、上記の熱可塑性樹脂よりも極性の低い熱可塑性樹脂(即ちSP
polが小さい)、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)、ポリスチレン(PS)も使用することができる。この場合、化学修飾CNFのSP
cnfと熱可塑性樹脂のSP
polとの比率R (SP
cnf/SP
pol)は1.21〜1.88程度、より好ましくは1.21〜1.82であることが好ましく、化学修飾CNFの結晶化度が42.7%以上であることが好ましい。
【0149】
本発明繊維強化樹脂組成物において、汎用性の(B)熱可塑性樹脂としては例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のオレフィン系樹脂及びこれらオレフィン系樹脂と相溶性の良い変性ポリオレフィン、例えば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)を用いることが好ましく、この場合、化学修飾CNFのSP
cnfと熱可塑性樹脂のSP
polとの比率R (SP
cnf/SP
pol)が1.21〜1.88程度であり、より好ましくは1.21〜1.82程度であることが好ましく、化学修飾CNFの結晶化度が42.7%程度以上であることが好ましい。
【0150】
この様に、(A)化学修飾CNFのSP
cnfと(B)熱可塑性樹脂のSP
polとの関係を選定することによって、繊維強化組成物の好適な組み合わせとその力学的特性が最適に改善された繊維強化組成物が得られる。
【0151】
尚、(A)化学修飾CNFのSP
cnfと(B)熱可塑性樹脂のSP
polとの関係の実例を、主に、実施例のAc化CNFのSP
cnfと6種の熱可塑性樹脂(PA6、POM、PP、MAPP、PLA、PS)の各SP
pol との関係で示したが、これと異なる他の修飾基で修飾されたCNF、例えば、プロピオニル化CNF、ミリストイル化CNF化など各種アルカノイル基)を用いる場合も、上記に定める比率R (SP
cnf/SP
pol)に合致するプロピオニル化CNF等各種アルカノイル化CNFと熱可塑性樹脂との組合せを選定することによって、好適な化学修飾CNFと好適な樹脂の組み合わせを選定し、化学修飾CNFと熱可塑樹脂が最適に組み合わされた繊維強化樹脂を製造することができる。
【0152】
(A)化学修飾CNFの溶解パラメータ(SPcnf)
<溶解度パラメータ(SP、単位(cal/cm
3)
1/2)( Fedors計算法による)>
アセチル化NBKP(Ac-NBKP)のSP値算出方法
アセチル化NBKPについては、文献記載のセルロース及びセルロースジアセテートのSP値を用い、セルロースはDS=0、セルロースジアセテートはDS=2として直線近似することにより、各DSのアセチル化セルロースのSP値を算出した。算出、使用したSP値の妥当性をFedorsのSP値算出方法により検証した。
【0153】
その結果、上記直線近似により得られたアセチル化セルロースのSP値は,Fedorsの計算方法により得られた計算値と±10%以内であったことから妥当な値であると考えられる。
【0154】
アセチル化リグノパルプ(LP)のSP値算出方法
【0156】
以下リグノパルプについて説明を行う。リグノパルプの一例として,150℃にて砕木パルプ(GP)を1時間蒸解処理を行ったリグノパルプ150-1(GP150-1)の組成は、モル比で大よそセルロース(Cel):66%、ヘミセルロース(HCel):12%(マンナン(Man):7%及びキシラン(Xyl):5%)、及びリグニン(Lig):22%で構成)を例に挙げて説明する。
【0157】
このリグニンは,本発明では,β-O-4型リグニンのみからなると仮定する。これがアセチル化されるとアセチル化リグニンとなり、リグノパルプの最大DSは2.73となる。このリグニンには水酸基が2個含まれており、リグニンのDSは最大で2となる。
【0158】
同様に150℃にて砕木パルプ(GP)を、3時間蒸解処理を行ったリグノパルプ150-3の場合、水酸基を3個含むセルロース及びヘミセルロースが87.4%(質量%)、水酸基を2個含むリグニンが12.6%(質量%)であることから、リグノパルプの最大DSは2.87となる。
【0159】
リグノパルプ(150-3)に含まれるセルロース、へミセルロース及びリグニンの各成分の質量分率をモル分率に換算し、各々に含有される各原子及び各原子団のモル数を見積った。そして、1モルあたりの蒸発エネルギー及び1モルあたりの体積を用いて、FedorsのSP値算出方法より、リグノパルプのSP値を算出することができる。
【0160】
仮に、リグノパルプ(LP)(150-1:150℃で1時間蒸解処理)をアセチル化処理する場合を説明する。
【0161】
そして、リグノパルプ(アセチル化度(修飾度)が0.88(DS=0.88))の場合のSPの計算方法を説明する。
【0162】
このDS値(0.88)は、リグノパルプに含まれるセルロースをベースとしており、アセチル含量(g/mol)は0.88mol/162g(セルロースのg/mol)である。
【0163】
リグノパルプの平均分子量(g/mol)は、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンの存在比(モル比)を考慮すると、
162x0.66(Cel)+HCel[162x0.07(Man)+147x0.05(Xyl)]+196x0.22(Lig)=168.2である。
【0164】
従って、LP(150-1)のDSは、0.88x168.73/162=0.92である。
【0165】
SP(LP150-1-OH)は、
17.6x0.73(Cel+Man)+16.5x0.05(Xyl)+13.6x0.22(Lig)=16.62、ca.16.6である。
【0166】
SP(LP150-1-OAC)は
11.1x0.73(Cel+Man)+11.1x0.05(Xyl)+10.6x0.22(Lig)=10.99、ca.11.0である。
【0167】
SP(LP150-1-OAC)のDSは、
3x0.73(Cel+Man)+2x0.05(Xyl)+2x0.22(Lig)=2.73である。
【0168】
SP(LP150-1-OAC、DS=0.88)のSPは、
-((16.6-11.0)/2.73)x0.92+16.6=14.713、ca.14.7である。
【0169】
上記計算方法に従い、DS=dのアセチル化リグノパルプのSP値(Y)の計算式を一般式で示すと以下の通りである。
【0170】
Y=〔-(a-b)/c〕*d+a
(式中*は乗算(掛け算)の演算記号を示す。
【0171】
a、b、c、dは夫々以下の意味である)
a:無修飾リグノパルプ(LP-OH)のSP値
=SP
cel(セルロースのSP値) *(Cel+Man)
+SP
xyl(キシランのSP値) *(Xyl)
+SP
lig(リグニンのSP値) *(Lig)
b:全部の水酸基がアセチル化されたりグノパルプ(LP-OAC)のSP値
=SP
celac3(セルローストリアセテートのSP値) *(Cel+Man)
+SP
xylac(キシランジアセテートのSP値) *(Xyl)
+SP
ligac(リグニンジアセテートのSP値) *(Lig)
c:(全部の水酸基がアセチル化されたグノパルプのDS)
=3*(Cel)+3*(Man)+2*(Xyl)+2*(Lig)
ここで、(Cel)、(Man)、(Xyl)、(Lig)は、夫々リグノパルプ中の、セルロース、マンナン、キシラン、リグニンのモル分率を示す。
【0172】
d:(アセチル化度(滴定法で求めたDS値、dsと表記)の場合のリグノセルロースのDS)
=ds*(リグノパルプ繰り返し単位の平均式量)
/(セルロース繰り返し単位の式量)
上記において、SP
cel(セルロースのSP値)は、文献値(実用ポリマーアロイ設計、井出文雄著、工業調査会 初版、1996年9月1日発行第19頁)を使用した。
【0173】
Sp
celac3(セルローストリアセテートのSP値)は、SP
cel(セルロースのSP値、文献値)と、SP
celac2(セルロースジアセテートのSP値、文献値)とを用いて求めた。
【0174】
即ち、SP
cel値(DS=0)、SP
celac2(DS=2)の関係は、これらSP値を縦軸に、このときのDSを横軸にプロットした一次関数上にあるとして、一次関数を求め、DS=3のときの値をSP
celac3(セルローストリアセテートのSP値)として求めた。
【0175】
SP
xy(キシランのSP値)、SP
lig(リグニンのSP値)、SP
xylac(キシランジアセテートのSP値)及びSP
ligac(リグニンジアセテートのSP値)は、Fedorsの方法(Robert F. Fedors、Polymer Engineering and Science, February,1974、vol.14, No.2, 147-154)に準じて計算した。
【0176】
なお、Fwdorsの計算でセルロース、マンナン、キシラン及びリグニンの水酸基のΔ
ei(蒸発エネルギー)、Δvi(モル体積)はすべて2級水酸基の値を使用した。
【0177】
ヘミセルロース中に含まれるマンナン(Man)とキシラン(Xyl)は等モルと仮定しても実用上問題ないのでないのでそのようにして計算できる。
【0178】
また、リグニン含有率が1質量%未満のリグノセルロースはリグニンを無視しても(リグニン含有量を0として計算しても)実質上、特に、問題はない。
【0179】
そして、セルロースとグルコマンナンの合計含有量が92質量%以上であり、リグニン含有量が0.5質量%以下のリグノセルロースのSP値、アセチル化リグノセルロースのSP値については、このリグノセルロースの成分は、全てセルロースのみから構成されていると仮定して、上記のセルロースのSP文献値、セルロースジアセテートのSP文献値を使用してSP計算することができる。
【0180】
化学修飾CNFの溶解パラメータ(SP
cnf)の最適範囲は、化学修飾CNFと複合される樹脂(マトリックス)の溶解パラメータ(SP
pol)に依存するが、好ましくは9.9〜15程度である。化学修飾CNFの溶解パラメータ(SP
cnf)の最適範囲は、より好ましくは樹脂(マトリックス)の溶解パラメータ(SP
pol)が11〜13程度の親水性樹脂に対しては11.5〜15である。
【0181】
化学修飾CNFの溶解パラメータ(SP
cnf)の最適範囲は、樹脂(マトリックス)の溶解パラメータ(SP
pol)が8〜9程度の疎水性の樹脂に対しては9.9〜15程度である。
【0182】
要するに化学修飾CNFの溶解パラメータ(SP
cnf)は、樹脂(マトリックス)の溶解パラメータSP
polに依存して決定することが好ましく、樹脂の溶解パラメータ(SP
pol)に対する化学修飾CNFの溶解パラメータ(SP
cnf)の比率R (SP
cnf/SP
pol)を0.87〜1.88程度の範囲にすることが好ましい。
【0183】
比率R (SP
cnf/SP
pol)は、1.03〜1.88程度の範囲がより好ましく、1.03〜1.82程度の範囲が更に好ましい。
【0184】
比率Rがこ範囲では、化学修飾CNFの樹脂(マトリックス)への分散性が向上し、化学修飾CNFを含む樹脂組成物の強度が向上するという効果が有る。
【0185】
(B)熱可塑性樹脂の溶解パラメータ(SPpol)
熱可塑性樹脂の溶解パラメータ(SP
pol)値については、井出文雄著「実用ポリマーアロイ設計」(工業調査会 初版、1996年9月1日発行)記載のSP値を参考にすることができる。代表的な熱可塑性樹脂にSP値については下記の通りである。
【0187】
この文献において、数値の範囲でSP値が示されている材料のSP値については、この数値範囲の平均値をその材料のSP値として本願発明では使用した。例えば、ナイロン6(PA6)の文献SP値11.6〜12.7については、11.6と12.7の平均値12.2(小数点以下2桁で四捨五入)をナイロン6(PA6)のSP値として使用した。
【0188】
繊維強化樹脂複合体に使用する熱可塑性樹脂の選定は、それを使用した繊維強化複合体の用途によってきまる。そして、熱可塑性樹脂の溶解パラメータ(SP
pol)の範囲は樹脂固有のものである。
【0189】
例えば、エンジンカバーや、マニホールド等の自動車部品、家電部品等に多用されるポリアミド類の溶解パラメータ(SP
pol)は12〜13程度であり、ナイロン6(PA6)のSP
polは12.2である。強度が要求される電気電子製品の外装・筐体・機構部品類に多用されるポリアセタール(POM)のSP
polは11.1程度である。一方、比重小さく疎水性で自動車部品、家電部品、包装フィルム、食品容器などに汎用されるポリプロピレン(PP)のSP
polは8.1程度で、PPやポリエチレン(PE)等の疎水性ポリオレフィンの接着性、分散性向上のために使用される無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)のSP
polは、8.2程度である。この様なSP
polに対応して、比率R (SP
cnf/SP
pol)が1.03〜1.32程度となる様なSP
cnfを有する化学修飾CNFが選定されて本発明の繊維強化樹脂組成物が製造される。
【0190】
(B)SPpolに対する(A)SPcnfの比率R (SPcnf/SPpol)
本発明の繊維強化樹脂組成物ではSP
polに対する(A)SP
cnfの比率R (SP
cnf/SP
pol)は0.87〜1.88程度の範囲であり、1.03〜1.88の範囲が好ましく、1.03〜1.82程度の範囲がより好ましい。この数値(1.03〜1.82)の範囲内で、熱可塑性樹脂のSP
polが大きいときにはR (SP
cnf/SP
pol)は小さく、SP
polが小さいときにはR (SP
cnf/SP
pol)は大きいことがより好ましい。
【0191】
例えば、ポリアミド(PA6、SP
pol=12.2)、ポリアセタール(POM、SP
pol=11.1)、ポリ乳酸又はこの混合樹脂を使用する場合は、比率R (SP
cnf/SP
pol)が1.03〜1.32であることが好ましい。
【0192】
一方、SP
polが小さい、例えばポリプロピレン(PP、SP
pol=8.1)、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP、SP
pol=8.2)又はこの混合樹脂を使用する場合は、比率R (SP
cnf/SP
pol)は1.21〜1.82であることが好ましい。こうすることによって、化学修飾CNFの樹脂(マトリックス)への分散性が向上し、化学修飾CNFを含む樹脂組成物の強度が向上するという効果が有る。
【0193】
具体的には、熱可塑性樹脂として、ポリアミド(PA6、SP=12.2)を使用するときは、DS=0.29〜1.17程度、SP=14.2〜13.0程度、結晶化度69.5%程度以上のアセチル化セルロースが好ましく、より好ましくはDS=0.46〜0.88程度、SP=14.6〜13.7程度、結晶化度72.1%程度以上のアセチル化セルロースを添加することで、良好な曲げ特性を得ることができる。
【0194】
熱可塑性樹脂として、ポリアセタール(POM、SP=11.1)を使用するときは、DS=0.46〜1.84程度、SP=14.6〜11.5程度、結晶化度55.6%程度以上のアセチル化セルロースが好ましく、より好ましくはDS=0.64〜1.17程度、SP=14.2〜13.0程度、結晶化度69.5%程度以上のアセチル化セルロースを添加することで、良好な曲げ特性を得ることができる。
【0195】
熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン(PP、SP=8.1)を使用するときは、DS=0.46程度以上が好ましく、より好ましくはDS=1.84程度以上が好ましく、DS=2.52程度以上にピークがあると考えられ、結晶化度は影響していない。
【0196】
熱可塑性樹脂として、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP、SP
pol=8.2)を使用するときは、DS=0.32〜2.52程度、SP=15.0〜9.90程度、結晶化度42.7%程度以上のアセチル化セルロースが好ましく、より好ましくはDS=0.88〜1.57程度、SP=13.7〜12.1程度、結晶化度55.6%程度以上のアセチル化セルロースを添加することで、良好な曲げ特性を得ることができる。
【0197】
熱可塑性樹脂として、ポリ乳酸(PLA、SP
pol=11.4)を使用するときは、DS=0.32〜2.52程度、SP=15.0〜9.9程度、結晶化度42.7%程度以上のアセチル化セルロースが好ましい。より好ましくはDS=0.32〜1.57程度、SP=15.0〜12.1程度、結晶化度55.6%程度以上のアセチル化セルロースである。これらのアセチル化セルロースを添加することで、良好な曲げ特性を得ることができる。
【0198】
ポリエチレン(PE、SP=8.0)を使用するときは、DS=0.30〜2.02程度、SP=15.0〜11.1程度、結晶化度42.7%程度以上のアセチル化セルロースが好ましい。良好な曲げ特性を得ることができる。
【0199】
ポリスチレン(PS、SP=8.85)を使用するときは、DS=0.30〜2.02程度、SP=15.0〜11.0程度、結晶化度42.7%程度以上のアセチル化セルロースが好ましい。良好な曲げ特性を得ることができる。
【0200】
アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体(ABS樹脂)を使用するときは、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体の共重合比によりSP値が変動するので一概に言えないが、DS=0.30〜1.57程度、SP=15.0〜12.1程度、結晶化度55.6%程度以上のアセチル化セルロースが好ましい。良好な曲げ特性を得ることができる。
【0201】
ポリアミド(PA6)、ポリアセタール(POM)等の極性材料においては、そのSPが高いため、DS=1.2程度までのアセチル化処理で十分セルロースとの相容性が向上し、セルロースの結晶化度を70%程度以上に保つ、つまりセルロース繊維の強度を高い状態に保つことにより最も高曲げ特性の材料を得ることができる。
【0202】
ポリプロピレン(PP)等の非極性材料においては、そのSPが低いため、結晶化度の高く繊維強度の高いDS=1.0程度までのアセチル化セルロースでは界面強度が低すぎて不十分な曲げ特性となる。アセチル化NBKP/PP複合材料では,結晶化度が低下しても高DSにする必要があると言える。即ち高アセチル化セルロースを使用することが好ましい。
【0203】
(1-4)繊維強化樹脂組成物の配合組成
本発明の繊維強化樹脂組成物は(A)化学修飾CNF及び(B)熱可塑性樹脂を含む。
【0204】
繊維強化樹脂組成物中の(A)化学修飾CNFの含有割合は、熱可塑性樹脂(B)100質量部に対し、1〜300質量部程度が好ましく、1〜200質量部程度がより好ましく、1〜100質量部程度が更に好ましい。繊維強化樹脂組成物中の(A)化学修飾CNF(好ましくはアセチル化CNF)の含有割合は、0.1〜30質量部程度であることが好ましい。
【0205】
(B)熱可塑性樹脂に(A)化学修飾CNFを配合することにより、力学的特性、耐熱性、表面平滑性及び外観に優れる繊維強化樹脂組成物を得ることができる。
【0206】
(A)化学修飾CNFは、植物繊維と同様に、軽量であり、強度を有し、低線熱膨張係数を有する。組成物が(A)化学修飾CNFを含んでも、組成物は汎用のプラスチックと同様に、加熱すると軟化して成形し易くなり、冷やすと再び固くなる性質(熱可塑性)を持ち、良好な加工性を発現できる。
【0207】
本発明の繊維強化樹脂組成物は、前記(A)化学修飾CNF及び(B)熱可塑性樹脂に加え、例えば、相溶化剤;界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;着色剤;可塑剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤等の添加剤を配合してもよい。任意の添加剤の含有割合としては、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有されてもよい。
【0208】
本発明の繊維強化樹脂組成物は、(A)化学修飾CNFを含むので、(A)化学修飾CNF同士が、水素結合によって凝集することを抑制できる。よって、(A)化学修飾CNFと熱可塑性樹脂(マトリックス材料)との混合工程において、(A)化学修飾CNF同士の凝集が抑制され、(A)化学修飾CNFが熱可塑性樹脂中で均一に分散され、力学的特性、耐熱性、表面平滑性及び外観に優れた(A)化学修飾CNFを含む繊維強化樹脂組成物を得ることができる。
【0209】
本発明の(A)化学修飾CNFを含む繊維強化樹脂組成物は、力学的特性において、曲げ試験等の静的特性、及び衝撃試験等の動的特性をバランス良く向上できる。
【0210】
(1-5)化学修飾CNFの結晶化度の好ましい態様
繊維強化樹脂組成物に含まれる化学修飾CNFは(A2)アセチル化セルロースナノファイバー(アセチル化CNF)であることが好ましい。
【0211】
アセチル化CNFは、結晶化度が42.7%程度以上であり、糖鎖の水酸基がアセチル基で置換されており、その置換度が0.29〜2.52程度であり、溶解度パラメータ(SP
cnf)が9.9〜15程度であることが好ましい。
【0212】
ポリプロピレンや無水マレイン酸変性ポリプロピレンのような極性の低いマトリックス及びポリアミドやポリアセタールのような極性マトリックスに対しては、アセチル化CNFは、結晶化度42.7%程度以上であり、置換度(DS)が0.29〜2.52程度であり、溶解度パラメータ(SP
cnf)が9.9〜15.0程度であることが好ましい。
【0213】
中でも極性ポリマーであるポリアミドやポリアセタールに対しては、アセチル化CNFは、結晶化度55.6%程度以上であり、置換度(DS)が0.29〜1.84程度であり、溶解度パラメータ(SP
cnf)が11.5〜15.0程度であることが好ましい。
【0214】
また、前記アセチル化CNFは、200℃以上の高融点樹脂との溶融混練、及び繰り返しの溶融混練に耐えることができる。
【0215】
繊維強化樹脂組成物では、(B)熱可塑性樹脂として極性樹脂(ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂)を用いる場合は、結晶化度65%程度以上であり、置換度(DS)が0.4〜1.2程度であり、溶解度パラメータ(SP
cnf)が12〜15程度である化学修飾CNFを用いることが好ましい。その化学修飾CNFを調製することができる原料パルプとしてNBKPを使用することが好ましい。
【0216】
繊維強化樹脂組成物では、(B)熱可塑性樹脂として非極性樹脂(ポリプロピレン、PP)を用いる場合は、結晶化
度が40%程度以上であり、置換度(DS)が1.2程度以上であり、溶解度パラメータ(SP
cnf)が8〜12程度であるである化学修飾CNFを用いることが好ましい。その化学修飾CNFを調製することができる原料パルプとしてNBKPを使用することが好ましい。
【0217】
(2)繊維強化樹脂組成物の製造方法
繊維強化樹脂組成物は、(A)化学修飾CNFと(B)熱可塑性樹脂(マトリックス材料)とを混合することにより作製することができる。更に、その繊維強化樹脂組成物を成形することにより成形体を作製することができる。
【0218】
本発明の繊維強化樹脂組成物は、化学修飾CNFと樹脂とを混練して製造できるが、混練機等を用いて、化学修飾パルプ(化学修飾CNFになる物)と(B)熱可塑性樹脂とを混練し、それらを複合化することにより製造することもできる。その混練中のせん断応力により化学修飾パルプのフィブリル化が進行し、(A)化学修飾CNFと(B)熱可塑性樹脂との均一な混合組成物を得ることができる。
【0219】
繊維強化樹脂組成物中の(A)化学修飾CNF及び(B)熱可塑性樹脂の含有量は前記の通りである。
【0220】
(A)化学修飾CNF又は化学修飾パルプと(B)熱可塑性樹脂とを混合する場合、両成分を室温下で加熱せずに混合してからしてから加熱しても、加熱しながら混合しても良い。加熱する場合、混合する温度は、使用する(B)熱可塑性樹脂に合わせて調整することができる。
加熱設定温度は、熱可塑性樹脂供給業者が推奨する、最低加工温度(PA6は225〜240℃、POMは170℃〜190℃、PP及びMAPPは160〜180℃)〜この推奨加工温度より20℃高い温度の範囲が好ましい。混合温度をこの温度範囲に設定することにより、(A)化学修飾CNF又は化学修飾パルプと(B)熱可塑性樹脂とを均一に混合することができる。
【0221】
混合方法として、ベンチロール、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー等の混練機により混練する方法、攪拌羽により混合する方法、公転・自転方式の攪拌機により混合する方法等により、混合することが好ましい。
【0222】
繊維強化樹脂組成物の製造方法では、CNFを構成する糖鎖の水酸基に、例えばアセチル基等の低級アルカノイル基を導入する(化学修飾する)ことにより、セルロースの水素結合が抑制される。これにより、化学修飾(アセチル化等)セルロースと樹脂の溶融混合工程において、繊維径が数十から数百μmの化学修飾(アセチル化等)パルプが、繊維径が数十nm〜数百nmの化学修飾CNFに解繊することができる。そのアセチル化等の化学修飾処理は、低コストであり、処理の簡便性に優れていることから実用化が容易である。つまり、その化学修飾処理により、樹脂中での化学修飾セルロース繊維の分散性が促進され、解繊(ナノファイバー化)も促進される。
【0223】
本発明では、セルロース分子に存在する水酸基のうちの幾つを化学修飾するか(アセチル基等で置き換えるか)に依って各樹脂に対して最適なSP値を有する化学修飾CNF(アセチル化CNF等)を使用して繊維強化樹脂組成物を得ることができる。繊維強化樹脂組成物では、セルロースの結晶化度を42%程度以上に保ち、適切なSP値とすることにより、セルロースの樹脂中での分散性が高く、セルロースの樹脂に対する補強効果が向上し、優れた力学的特性を持つCNF複合材料を得ることができる。
【0224】
製造方法では、混練処理や混合処理を「複合化」ともいう。
【0225】
本発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法は、前記繊維強化樹脂組成物が(A)化学修飾CNF及び(B)熱可塑性樹脂を含有し、下記の工程:
(1)下記の条件:
(a)(B)熱可塑性樹脂の溶解パラメータ(SP
pol)に対する(A)化学修飾CNFの溶解パラメータ(SP
cnf)の比率R (SP
cnf/SP
pol)が0.87〜1.88の範囲である、及び(b)(A)化学修飾CNFの結晶化度が42.7%以上である
を満たす(A)化学修飾CNF及び(B)熱可塑性樹脂を選定する工程、
(2)前記工程(1)で選定された(A)化学修飾CNFと(B)熱可塑性樹脂とを配合する工程、及び
(3)前記工程(2)で配合された(A)化学修飾CNFと(B)熱可塑性樹脂とを混練し、樹脂組成物を得る工程
を含むことを特徴とする。
【0226】
前記(a)の比率R (SP
cnf/SP
pol)は、1.03〜1.88程度の範囲が好ましく、1.03〜1.82程度の範囲であることがより好ましい。
【0227】
本製造工程においては、本発明の繊維強化樹脂組成物のために調製及び作製したCNF、並びに市販されている未変性CNFを直接化学変性して使用することが可能となる。つまり様々な状態のCNFを化学修飾し熱可塑性樹脂との複合化を可能とするものである。
【0228】
また比率R (SP
cnf/SP
pol)を考慮することにより高性能なCNF強化熱可塑性樹脂組成物の作製が可能となる。
【0229】
本発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法は、前記繊維強化樹脂組成物が(A)化学修飾CNF及び(B)熱可塑性樹脂を含有し、下記の工程:
(1)下記の条件:
(a)(B)熱可塑性樹脂の溶解パラメータ(SP
pol)に対する(A)化学修飾CNFの溶解パラメータ(SP
cnf)の比率R (SP
cnf/SP
pol)が0.87〜1.88の範囲である、及び(b)化学修飾CNFの結晶化度が42.7%以上である
を満たす解繊処理後の(A)化学修飾CNFとなる(A1)化学修飾パルプ及び(B)熱可塑性樹脂を選定する工程、
(2)前記工程(1)で選定された(A1)化学修飾パルプと(B)熱可塑性樹脂とを配合する工程、及び
(3)前記工程(2)で配合された(A1)化学修飾パルプと(B)熱可塑性樹脂とを混練し、同時に(A1)化学修飾パルプを解繊し、(A)化学修飾CNF及び(B)熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物を得る工程
を含むことを特徴とする。
【0230】
前記(a)の比率R (SP
cnf/SP
pol)は、1.03〜1.88程度の範囲が好ましく、1.03〜1.82程度の範囲であることがより好ましい。
【0231】
本発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法は、前記繊維強化樹脂組成物が(A)化学修飾CNF及び(B)熱可塑性樹脂を含有し、下記の工程:
(1)(A1)化学修飾パルプ及び(B)熱可塑性樹脂を選定する工程、
(2)前記工程(1)で選定された(A1)化学修飾パルプと(B)熱可塑性樹脂とを配合する工程、及び
(3)前記工程(2)で配合された(A1)化学修飾パルプと(B)熱可塑性樹脂とを混練し、同時に(A1)化学修飾パルプを解繊し、(A)化学修飾CNF及び(B)熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物を得る工程
を含み、
前記(A)化学修飾CNFと(B)熱可塑性樹脂とが、下記の条件:(a)(B)熱可塑性樹脂の溶解パラメータ(SP
pol)に対する(A)化学修飾CNFの溶解パラメータ(SP
cnf)の比率R (SP
cnf/SP
pol)が0.87〜1.88の範囲である、及び(b)化学修飾CNFの結晶化度が42.7%以上である
を満たすことを特徴とする。
【0232】
前記(a)の比率R (SP
cnf/SP
pol)は、1.03〜1.88程度の範囲が好ましく、1.03〜1.82程度の範囲であることがより好ましい。
【0233】
一般にCNFの製造は、高圧ホモジナイザー等により機械的にパルプ等を解繊していく。しかし、パルプの低濃度のスラリーを使用すること、設備が高価で大型であること等から、これにより製造されたCNFは高価である。
【0234】
本製造工程においては、未解繊のパルプを化学修飾し、樹脂との複合化の際の加熱溶融混合機のせん断応力により、樹脂と複合化しながら解繊を行うため、製造費用の低コスト化が図れ、更にダメージの少ないCNFが分散した高性能な繊維強化樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0235】
また比率R(SP
cnf/SP
pol)を考慮することにより高性能なCNF強化熱可塑性樹脂組成物の作製が可能となる。
【0236】
本発明の繊維強化樹脂組成物の製造方法は、前記繊維強化樹脂組成物が(A2)アセチル化CNF及び(B)熱可塑性樹脂を含有し、下記の工程:
(1)(A3)アセチル化セルロースを含む(A4)繊維集合体と(B)熱可塑性樹脂とを混練し、同時に(A3)アセチル化セルロースを解繊し、(A2)アセチル化CNF及び(B)熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物を得る工程を含み、
前記(A2)アセチル化CNFの結晶化度が42.7%以上であり、糖鎖の水酸基がアセチル基で置換されており、その置換度が0.29〜2.52であり、溶解度パラメータ(SP
cnf)が9.9〜15である、ことを特徴とする。
【0237】
一般にCNFの製造は、高圧ホモジナイザー等により機械的にパルプ等を解繊していく。しかし、パルプの低濃度のスラリーを使用すること,設備が高価で大型であること等から、これにより製造されたCNFは高価である。
【0238】
本製造工程においては、未解繊のパルプを化学修飾し、樹脂との複合化の際の加熱溶融混合機のせん断応力により、樹脂と複合化しながら解繊を行うため、製造費用の低コスト化が図れ、更にダメージの少ないCNFが分散した高性能な繊維強化樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0239】
またアセチル基による置換度及び溶解度パラメータを制御することにより、非極性から極性マトリックスまでの対応が可能となる。
【0240】
(3)繊維強化樹脂組成物を用いた成形材料及び成形体(成型材料及び成型体)
本発明の繊維強化樹脂組成物を用いて、成形材料及び成形体(成型材料及び成型体)を製造することができる。成形体の形状としては、フィルム状、シート状、板状、ペレット状、粉末状、立体構造など各種形状等の各種形状の成形体が挙げられる。成形方法として、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等を用いることができる。
【0241】
成形体(成型体)は、植物繊維を含むマトリックス成形物(成形物)が使用される繊維強化プラスチック分野に加え、熱可塑性及び機械強度(引張り強度等)が要求される分野にも使用できる。
【0242】
自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、構造材等;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等の筺体、構造材、内部部品等;携帯電話等の移動通信機器等の筺体、構造材、内部部品等;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品等の筺体、構造材、内部部品等;建築材;文具等の事務機器等、容器、コンテナー等として有効に使用することができる。
【0243】
化学修飾CNFと樹脂との混合工程において、化学修飾CNF同士の凝集が起こらず、化学修飾CNFが樹脂中で均一に分散されるので、力学的特性、耐熱性、表面平滑性、外観等に優れた化学修飾CNFを含む樹脂組成物及び成形体を得ることができる。更に、樹脂組成物では、力学的特性において、曲げ試験等の静的特性、及び衝撃試験等の動的特性をバランス良く向上できる。また、樹脂組成物では、耐熱性において、荷重たわみ温度では数十℃の向上を達成できる。また、樹脂組成物から得られる最終成形品では、化学修飾CNFの凝集塊が発生せず、表面平滑性及び外観に優れる。
【実施例】
【0244】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0245】
実施例において、パルプ、化学修飾パルプ、化学修飾CNF、熱可塑性樹脂等の成分含量は質量%を示す。
【0246】
I.試験方法
下記に示す実施例及び比較例等で使用した試験方法は以下の通りである。
【0247】
(1)リグニンの定量方法(クラーソン法)
ガラスファイバーろ紙(GA55)を110℃オーブンで恒量になるまで乾燥させ、デシケータ内で放冷後、計量した。110℃で絶乾させた試料(約0.2g)を精秤し、50mL容チューブに入れた。72%濃硫酸3mL加え、内容物が均一になるようにガラス棒で適宜押しつぶしながら、30℃の温水にチューブを入れて1時間保温した。次いで、チューブ内容物と蒸留水84gとを三角フラスコに注ぎ込み混合した後、オートクレーブ中で、120℃で1時間反応させた。放冷後、内容物をガラスファイバーろ紙で濾過し不溶物をろ取し、200mLの蒸留水で洗浄した。110℃オーブンで恒量になるまで乾燥させ計量した。
【0248】
(2)セルロース及びへミセルロースの定量方法(糖分析)
ガラスファイバーろ紙(GA55)を110℃オーブンで恒量になるまで乾燥させ、デシケータ内で放冷後、計量した。110℃で絶乾させた試料(約0.2g)を精秤し、50mL容チューブに入れた。72%濃硫酸3mL加え、内容物が均一になるようにガラス棒で適宜押しつぶしながら、30℃の温水にチューブを入れて1時間保温した。次いで、チューブ内容物と蒸留水84gとを加え定量的に三角フラスコに注ぎ込み混合した後、混合物1.0mLを耐圧試験管に入れ、内部標準として0.2%イノシトール溶液100μL加えた。メスピペットを用いて72%濃硫酸(7.5μL)を加え、オートクレーブ中で120℃で1時間反応させた。放冷後、反応液100μLを超純水で希釈し、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製イオンクロマトグラフ分析に供し、試料に含まれていた糖成分を分析した。
【0249】
(3)セルロース、ヘミセルロース水酸基の化学修飾度(DS)の測定方法
(3-1)逆滴定方法
セルロース、ヘミセルロース及びリグノセルロースの水酸基がアシル化(エステル化)された試料のDS測定方法を、アセチル化された試料を例にとり以下に説明する。他のアシル化の場合も同様である。
【0250】
準備、秤量及び加水分解
試料を乾燥し,0.5g(A)を正確に秤量した。そこにエタノール75mL、0.5NのNaOH 50mL(0.025mol)(B)を加え、3〜4時間撹拌した。これをろ過、水洗、乾燥し、ろ紙上の試料のFTIR測定を行い、エステル結合のカルボニルに基づく吸収ピークが消失していること、つまりエステル結合が加水分解されていることを確認した。ろ液を下記の逆滴定に用いた。
【0251】
逆滴定
ろ液には加水分解の結果生じた酢酸ナトリウム塩及び過剰に加えられたNaOHが存在する。このNaOHの中和滴定を1NのHCl及びフェノールフタレインを用いて行った。
【0252】
・0.025mol(B)‐(中和に使用したHClのモル数)=セルロースなどの水酸基にエステル結合していたアセチル基のモル数(C)
・(セルロース繰り返しユニット分子量162×セルロース繰り返しユニットのモル数(未知(D)))+(アセチル基の分子量43×(C))=秤量した試料0.5g(A) によりセルロースの繰り返しユニットのモル数(D)が算出される。
【0253】
DSは、
・DS=(C)/(D)
により算出される。
【0254】
(3-2)赤外線(IR)吸収スペクトルによるDSの測定方法
エステル化セルロース/リグノセルロースのDSは、赤外線(IR)吸収スペクトルを測定することにより求めることもできる。セルロース/リグノセルロースがエステル化されると1733cm
-1付近にエステルカルボニル(C=O)に由来する強い吸収帯が現れるので、この吸収帯の強度(面積)を横軸に、上記のが逆滴定法で求めたDSの値を横軸にプロットした検量線をまず作成する。そして、試料のDS値は、吸収帯の強度を測定し、この値と検量線から、試料のDSを求める。このようにしてDSを迅速かつ簡便に測定することができる。
【0255】
(4)セルロース等の結晶化度の測定
機種Rigaku ultraX18HF((株)リガク製)を使用し、木質科学実験マニュアル 4.微細構造(1)X線による構造解析(P198-202)に記載された方法に準じて、試料(リファイナー処理済みパルプ及びこの化学修飾物)の広角X線回折を測定し、試料の結晶化度を求める。X線はCuKα線、30kV/200mAの出力にて、2θ=5〜40°を測定した。
【0256】
II.原料(パルプ)の調製
(1)リファイナー処理済み針葉樹由来漂白クラフトパルプ(NBKP)の調製
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP、入手先:王子ホールディングス(株))のスラリー(パルプスラリー濃度3質量%の水懸濁液)をシングルディスクリファイナー(相川鉄工(株)製)に通液させ、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)値が50mLになるまで、繰返しリファイナー処理により解繊処理を行った。
【0257】
走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維を観察したところ、直径がサブミクロンオーダーの繊維も見られるが、直径数10から数100μmの粗大な繊維径を有している繊維が散見された。
【0258】
(2)リファイナー処理済み針葉樹由来未晒針葉樹林パルプ(NUKP)の調製
針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP、入手先:日本製紙(株))のスラリー(パルプスラリー濃度3質量%の水懸濁液)をシングルディスクリファイナー(相川鉄工(株)製)に通液させ、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)値が50mLになるまで、繰返しリファイナー処理により解繊を行った。
【0259】
走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維を観察したところ、直径がサブミクロンオーダーの繊維も見られるが、直径数十から数百μmの粗大な繊維径を有している繊維が多数観察された。
【0260】
(3)リファイナー処理済みリグノセルロースを含むパルプ(リグノパルプ、LP):GP-150-1の調製
「針葉樹グラインダー処理パルプ(GP、入手先:日本製紙(株))を、パルプ1gに対して薬液20g(0.8M-NaOH、0.2M-Na
2S)で、オートクレーブ中、150℃、1時間反応させてパルプスラリーを得た。
【0261】
得られたスラリー(パルプスラリー濃度3質量%の水懸濁液)をシングルディスクリファイナー(相川鉄工(株)製)に通液させ、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)値が50mLになるまで、繰返しリファイナー処理により解繊を行った。
【0262】
走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維を観察したところ、直径がサブミクロンオーダーの繊維も見られるが、直径数10から100μm程度の粗大な繊維径の繊維が多数観察された。
【0263】
(4)リファイナー処理済みリグノセルロースを含むパルプ(リグノパルプ(LP)GP(150−3)の調製
針葉樹グラインダー処理パルプ(GP、入手先:日本製紙(株))を、パルプ1gに対して薬液20g(0.8M-NaOH、0.2M-Na
2S)で、オートクレーブ中、150℃、3時間反応させてパルプスラリーを得た。
【0264】
得られたスラリー(パルプスラリー濃度3質量%の水懸濁液)をシングルディスクリファイナー(相川鉄工(株)製)に通液させ、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)値が50mLになるまで、繰返しリファイナー処理により解繊を行った。
【0265】
走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維を観察したところ、直径がサブミクロンオーダーの繊維も見られるが、直径数10から100μm程度の粗大な繊維径の繊維が多数観察された。
【0266】
III.パルプ/リグノパルプのアセチル化、それを用いた各種樹脂との複合化
(1)セルロースのアセチル化及び樹脂との複合化
(1-1)材料の組成及びアセチル化処理
表1に示す組成を有する針葉樹由来漂白クラフトパルプ(NBKP)を使用した(具体的な調製方法は上記の通り)。主成分がセルロース(84.3質量%)であり、残りがヘミセルロース、ペクチン性多糖及び極僅かのリグニンより構成されている。
【0267】
また、リグノセルロースを含むパルプ(リグノパルプ、LP)を使用した。その組成を表2に示す。用いたのは針葉樹由来未漂白クラフトパルプ(NUKP)、砕木パルプ(GP)を温度150℃で1時間若しくは3時間蒸解しリファイナー処理することにより得たGP150-1-a、GP150-3及びGP150-3-aである。GP150-1-aは上記の原料(パルプ)の調製の項で記載したGP150-1と同様の操作で調製したものである。
【0268】
GP150-3及びGP150-3-aは上記の原料(パルプ)の調製の項で記載したGP150-3と同様の処理条件にて蒸解処理とリファイナー処理を行っているが、バッチによる成分の変化が表れている。
【0269】
【表1】
【0270】
【表2】
【0271】
表3及び表4にアセチル化パルプ及びアセチル化リグノパルプの合成手順を示す。
【0272】
無水酢酸、炭酸カリウムの添加量、反応温度及び反応時間を変化させることにより異なるDS(セルロース繰り返し単位に3個、或いはβ-O-4型リグニンに2個含まれる水酸基の置換度合)=0.29〜2.64のアセチル化NBKP及びアセチル化リグノパルプを得た。
【0273】
DSは、アセチル化NBKP及びアセチル化リグノパルプにアルカリを添加し、エステル結合を加水分解することにより発生した酢酸量を滴定することにより算出した。
【0274】
【表3】
【0275】
【表4】
【0276】
(1-2)アセチル化NBKP/樹脂及びリグノパルプ/樹脂の複合化
マトリックス樹脂には,市販のポリアミド6(PA6、ユニチカ株式会社製のNYRON RESIN))、ポリアセタール(POM、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製(ユピタール))、ポリプロピレン(PP、日本ポリプロ株式会社製(ノバテックPP))、無水マレイン酸で変性したポリプロピレン(MAPP、東洋紡株式会社社製(トーヨータックH1000))、ポリ乳酸(PLA、三井化学株式会社製(レイシア))、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体(ABS、日本エイアンドエル株式会社製(クララスチック))及びポリスチレン(PS、PSジャパン株式会社製(PSJポリスチレン))及びポリエチレン(PE、旭化成ケミカルズ(株)社製(サンテック))を用いた。
【0277】
表5に各樹脂の特性を示す(MI:メルトインデックス)。
【0278】
アセチル化NBKPはPA6、POM、PP、MAPP、PLA、ABS、PS及びPEと複合化した。アセチル化リグノパルプはPA6、POM、PP及びMAPPと複合化した。アセチル化NBKP又はアセチル化リグノパルプと樹脂とを二軸押出機に投入し溶融混練した。
【0279】
溶融混練温度は、PA6では215℃、POM、PP、MAPP及びPLAでは170℃、ABS及びPSは195℃、PEは140℃に調整した。
【0280】
【表5】
【0281】
(2)評価
(2-1)アセチル化NBKPの熱重量分析測定
得られた幾つかのアセチル化NBKPの熱分解特性を熱重量測定により評価した。測定は、窒素雰囲気下、温度範囲は110〜600℃、昇温速度10℃/minにて行った。
【0282】
(2-2)アセチル化NBKPの結晶化度測定
得られた幾つかのアセチル化NBKP及びアセチル化リグノパルプの結晶化度を広角X線回折測定により算出した。
【0283】
X線はCuKα線、30kV/200mAの出力にて、2θ=5〜40°を測定した。
【0284】
(2-3)アセチル化NBKP/樹脂複合材料の曲げ試験及びIzod衝撃試験
得られたアセチル化NBKP/樹脂複合材料及びアセチル化リグノパルプ/樹脂複合材料の3点曲げ試験を行った。試験条件は、曲げ速度10mm/min、支点間距離64mmにて行った。
【0285】
得られたアセチル化NBKP/樹脂複合材料及びアセチル化リグノパルプ/樹脂複合材料のIzod衝撃試験を行った。試験片中央部に深さ2mmのVノッチを挿入し、容量2.75Jのハンマーにより打撃した。
【0286】
(2-4)アセチル化NBKP/樹脂複合材料内のアセチル化セルロースの分散状態の観察 得られた幾つかのアセチル化NBKP/樹脂複合材料に分散しているアセチル化セルロースの分散状態観察を行った。観察は、X線コンピューティッドトモグラフィ(X-CT:分解能1.3μm、一辺1mmの立方体で表示)及びマトリックス樹脂を溶媒抽出し得られた繊維の電子顕微鏡(SEM)観察により行った。
【0287】
(3)結果及び考察
(3-1)アセチル化NBKPの耐熱性
表6に得られた幾つかのアセチル化NBKPの熱重量測定により得られた1%質量減少温度を示す。
【0288】
複合材料化においては、例えばPA6では215℃、POM及びPPでは170℃の高設定温度下での溶融混練を行ったが、スクリューの混練ゾーンにおいては、せん断発熱により設定温度よりも数十℃以上高温となっていると考えられる。そのような条件下にセルロースが曝されることから、アセチル化パルプの熱重量減少特性は重要である。
【0289】
特に微量の分解物が異物として樹脂中に存在すると着色し、大きく特性が損なわれると考えられることから、微量重量減少領域の観測が重要となる。そこでここでは1%質量減少温度を計測した。
【0290】
DSが大きくなるほどアセチル化NBKPの耐熱性が向上していることがわかり、溶融混練における耐熱性が付与されている。
【0291】
【表6】
【0292】
(3-2)アセチル化NBKP及びアセチル化リグノパルプの結晶化度
セルロースは結晶性材料であり、結晶化度により大きく樹脂への補強性が異なると考えられる。
【0293】
表6に幾つかのDSのアセチル化NBKPの結晶化度を示す。
【0294】
表7に幾つかのDSのアセチル化リグノパルプの結晶化度を示す。
【0295】
【表7】
【0296】
表6では,出発原料である未処理NBKP(DS=0)では、結晶化度が77.4%であった。これに対してアセチル化NBKPでは、DS=1.17では69.5%まで緩やかに低下したが、更にDSを高めたDS=1.84においては55.6%まで急激に低下した。
【0297】
このようにDSを高めるほど結晶化度が低下し、DS=1.17〜1.84の領域以上ではそれが特に顕著になることが確認された。
【0298】
表7では,NUKPは結晶化度78.3%であり、アセチル化のDS値の増加に伴い結晶化度が低下し、DS0.85では74.4%となった。
【0299】
GP150-1-aは結晶化度が78.7%であり、アセチル化のDS値の増加に伴い結晶化度が低下し、DS0.97では73.1%となった。GP150-3-aは結晶化度が83.1%であり、アセチル化のDS値の増加に伴い結晶化度が低下し、DS0.95では75.4%となった。
【0300】
リグノパルプについてもDS1.0程度までは、NBKPとほぼ同様の結晶化度及びアセチル化のDS増加に伴う結晶化度の低下が見られた。
【0301】
(3-3)アセチル化NBKP/樹脂複合材料の曲げ試験及びIzod衝撃試験
(3-3-1)アセチル化NBKP及びアセチル化リグノパルプのDSが
力学的特性に及ぼす影響
各マトリックス樹脂複合材料のDSと力学的特性の関係をまとめた。何れもセルロース成分とへミセルロース成分の合計添加量を10質量%とした。
【0302】
以下の表中では、便宜上、未処理繊維、アセチル化繊維とも、繊維量を10質量%と記載する。
【0303】
PA6マトリックス
PA6樹脂(ポリアミド)マトリックス複合材料の力学的特性を表8及び表9に示す。
【0304】
表8はNBKPを添加した材料の特性である。
【0305】
表9はリグノパルプを添加した材料の特性である。
【0306】
NBKP強化PA6材料(表8)においては,曲げ弾性率及び曲げ強度において大きな向上が見られた。DS=0.64のアセチル化NBKP添加複合材料(No.PA6-225)は、曲げ弾性率が5430MPaであり、ニートPA6(No.PA6)の2.5倍、未処理NBKP添加PA6(No.PA6-15)の1.6倍の値を示した。
【0307】
DS=0.46のアセチル化NBKP添加複合材料(No.PA6-216)は、曲げ強度が159MPaであり、ニートPA6(No.PA6)の1.8倍、未処理NBKP添加PA6(No.PA6-15)の1.4倍の値を示した。
【0308】
Izod衝撃強度については、DS=0.46(No.216)〜DS=0.88(No.PA6-205)のDS領域において,ニートPA6(No.PA6)と同等の耐衝撃性が得られた。
【0309】
このようにPA6/NBKP複合材料では、DS=0.46〜0.88の低DS領域において、曲げ弾性率、曲げ強度及び耐衝撃性に優れたアセチル化セルロース複合材料が得られることがわかった。
【0310】
【表8】
【0311】
リグノパルプ強化PA6材料(表9)においても、曲げ弾性率及び曲げ強度において大きな向上が見られた。NUKP強化材料では、DS0.41のアセチル化NUKP添加複合材料(No.PA6-263)において、曲げ弾性率が5110MPaであり、ニートPA6(No.PA6)の2.3倍、未処理NUKP添加PA6(No.PA6-265)の1.3倍の値を示した。
【0312】
DS=0.41のアセチル化NUKP添加複合材料(No.PA6-263)は、曲げ強度が154MPaであり、ニートPA6(No.PA6)の1.7倍、未処理NUKP添加PA6(No.PA6-265)の1.2倍の値を示した。Izod衝撃強度については、DS=0.41(No.263)において、ニートPA6(No.PA6)と同等以上の耐衝撃性が得られた。
【0313】
GP(150-1)強化材料では、DS=0.42のアセチル化GP(150-1)添加複合材料(No.PA6-270)において、曲げ弾性率が5000MPaであり、ニートPA6(No.PA6)の2.3倍、未処理GP(150-1)添加PA6(No.PA6-269)の1.3倍の値を示した。
【0314】
DS=0.42のアセチル化GP(150-1)添加複合材料(No.PA6-270)は、曲げ強度が150MPaであり、ニートPA6(No.PA6)の1.7倍、未処理GP(150-1)添加PA6(No.PA6-269)の1.1〜1.2倍の値を示した。Izod衝撃強度については、DS=0.56(No.240)において、ニートPA6(No.PA6)と同等の耐衝撃性が得られた。
【0315】
GP(150-3)強化材料では、DS=0.57のアセチル化GP(150-3)添加複合材料(No.PA6-237)において、曲げ弾性率が5380MPaであり、ニートPA6(No.PA6)の2.4倍、未処理GP(150-3)添加PA6(No.PA6-266)の1.4倍の値を示した。
【0316】
DS=0.57のアセチル化GP(150-3)添加複合材料(No.PA6-237)は、曲げ強度が161MPaであり、ニートPA6(No.PA6)の1.8倍、未処理GP(150-3)添加PA6(No.PA6-266)の1.3倍の値を示した。Izod衝撃強度については、DS=0.62(No.268)において,ニートPA6(No.PA6)と同等以上の耐衝撃性が得られた。
【0317】
【表9】
【0318】
POMマトリックス
ポリアセタール樹脂(POM)マトリックス複合材料の力学的特性を表10に示す。
【0319】
曲げ弾性率及び曲げ強度において大きな向上が見られた。DS=1.17のアセチル化NBKP添加複合材料(No.POM-134)は、曲げ弾性率が5590MPaであり、ニートPOM(No.POM)の2.5倍、未処理NBKP添加POM(No.POM-148)の1.8倍の値を示した。
【0320】
同じくDS=1.17のアセチル化NBKP添加複合材料(No.POM-134)は,曲げ強度が129MPaであり、ニートPOM(No.POM)の1.7倍、未処理NBKP添加POM(No.POM-148)の1.4倍の値を示した。
【0321】
Izod衝撃強度については,ニートPOMに対して,概ね1kJ/m
2程度の低下が見られたが,未処理NBKP添加POM(No.POM-148)よりも低下率は抑えられた。
【0322】
DS=0.75のアセチル化リグノパルプ(GP150-3)添加複合材料(No.POM-138)では,曲げ弾性率が5100MPa、曲げ強度が128MPaであり、高い補強効果を示した。DS=1.17のアセチル化NBKPを添加したNo.POM134と比較すると弾性率が10%程度低くなった。
【0323】
このようにPOMマトリックス樹脂NBKP複合材料では、DS1.17程度の領域において曲げ弾性率、曲げ強度及び耐衝撃性に優れたアセチル化セルロース複合材料が得られること,またリグノパルプにおいても高い補強効果が得られることがわかった。
【0324】
【表10】
【0325】
PPマトリックス
ポリプロピレン(PP)マトリックス複合材料の力学的特性を表11に示す。
【0326】
曲げ弾性率及び曲げ強度において一定の向上が見られた。
【0327】
PPマトリックスでは、ニートPP(No.PP)と未処理NBKP添加材料(PP-116)を比較するとわかるように、セルロースによる補強度合が低い。しかしながら、より高いDSのアセチル化NBKPを補強材料とすることにより、曲げ弾性率及び曲げ強度を向上させることが可能であることがわかった。
【0328】
また耐衝撃性は、DS=0.46のアセチル化処理NBKP添加複合材料(No.PP-304)によりニートPP(No.PP)の2倍となった。
【0329】
DS=0.6のアセチル化リグノパルプ[GP(150-3)]添加複合材料(No.PP-450)では、曲げ弾性率が2620MPa、曲げ強度が66MPaであり補強効果を示した。
【0330】
このように疎水性の高いPPをマトリックスとした場合は、DSを高くすることにより曲げ特性が向上し、DS=0.46程度の低DSでは耐衝撃性が向上すること、またリグノパルプにおいても補強効果が得られることがわかった。
【0331】
【表11】
【0332】
MAPPマトリックス
無水マレイン酸変性PP(MAPP)マトリックス複合材料の力学的特性を表12に示す。
【0333】
曲げ弾性率及び曲げ強度において大きな向上が見られた。DS=0.88のアセチル化NBKP添加複合材料(No.PP-382)は、曲げ弾性率が3070MPaであり、ニートMAPP(No.MAPP)の1.8倍、未処理NBKP添加MAPP(No.PP-309)の1.3倍の値を示した。
【0334】
同じくDS=0.88のアセチル化NBKP添加複合材料(No.PP-382)は,曲げ強度が76.3MPaであり、ニートMAPP(No.MAPP)の1.5倍、未処理NBKP添加MAPP(No.PP-309)の1.3倍の値を示した。
【0335】
Izod衝撃強度については,ニートMAPPに対して同等以上の値であった。
【0336】
DS=0.56のアセチル化リグノパルプ[GP(150-3-a)]添加複合材料(No.PP-451)では,曲げ弾性率が2730MPa、曲げ強度が70.2MPaであり補強効果を示した。
【0337】
【表12】
【0338】
PLAマトリックス
ポリ乳酸(PLA)マトリックス複合材料の力学的特性を表13に示す。
【0339】
曲げ弾性率及び曲げ強度において大きな向上が見られた。DS=0.88のアセチル化NBKP添加複合材料(No.PLA-2)は、曲げ弾性率が6400MPaであり、ニートPLA(No.PLA-5)の1.9倍、未処理NBKP添加PLA(No.PLA-6)の1.5倍の値を示した。
【0340】
同じくDS=0.88のアセチル化NBKP添加複合材料(No.PLA-2)は,曲げ強度が119MPaであり、ニートPLA(No.PLA-5)の1.1倍、未処理NBKP添加PLA(No.PLA-6)の1.2〜1.3倍の値を示した。
【0341】
Izod衝撃強度については、ニートPLAに対して同等以上の値であった。
【0342】
【表13】
【0343】
ABSマトリックス
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)マトリックス複合材料の力学的特性を表14に示す。
【0344】
曲げ弾性率及び曲げ強度において大きな向上が見られた。DS=0.87のアセチル化NBKP添加複合材料(No.ABS-70)は、曲げ弾性率が3780MPaであり、ニートABS(No.ABS)の1.9倍、未処理NBKP添加ABS(No.ABS-63)の1.4倍の値を示した。
【0345】
同じくDS=0.87のアセチル化NBKP添加複合材料(No.ABS-70)は、曲げ強度が87.3MPaであり、ニートABS(No.ABS)の1.4倍、未処理NBKP添加ABS(No.ABS-63)の1.2倍の値を示した。
【0346】
【表14】
【0347】
PSマトリックス ポリスチレン(PS)マトリックス複合材料の力学的特性を表15に示す。
【0348】
曲げ弾性率において大きな向上が見られた。DS=0.86のアセチル化NBKP添加複合材料(No.PS-3)は、曲げ弾性率が4110MPaであり、ニートPS(No.PS)の1.3〜1.4倍、未処理NBKP添加PS(No.PS-1)の1.2倍の値を示した。
【0349】
【表15】
【0350】
PEマトリックス
ポリエチレン(PE)マトリックス複合材料の力学的特性を表16に示す。
【0351】
曲げ弾性率及び曲げ強度において大きな向上が見られた。DS=0.86のアセチル化NBKP添加複合材料(No.PE-184)は、曲げ弾性率が2390MPaであり、ニートPE(No.PE)の2.2倍、未処理NBKP添加PE(No.PE-182)の1.5倍の値を示した。
【0352】
同じくDS=0.86のアセチル化NBKP添加複合材料(No.PE-184)は,曲げ強度が42.4MPaであり、ニートPE(No.PE)の1.8倍、未処理NBKP添加PE(No.PE-182)の1.4倍の値を示した。
【0353】
【表16】
【0354】
(3-3-2)アセチル化NBKPの添加量が複合材料の力学的特性に及ぼす影響
アセチル化NBKPの添加量を1〜10質量%に変化させ、その力学的特性を評価した。ここでは補強効果が特に高いPA6及びPOMマトリックスについて検討を行った。
【0355】
PA6マトリックス
PA6樹脂マトリックス複合材料の力学的特性を表17に示す。
【0356】
曲げ弾性率においては、未処理NBKPを1,3,5,10質量%添加した材料(No.PA6-242,-243,-244,-15)では、ニートPA6(No.PA6)と比較して各々120,310,410,1230MPa程度の向上であった。アセチル化NBKPを1,3,5,10質量%添加した材料(No.PA6-234,-235,-236,-226)では、各々310,820,1410,3120MPaの大きな向上が見られた。
【0357】
曲げ強度においては、未処理NBKPを1,3,5,10質量%添加した材料(No.PA6-242,-243,-244,-15)では、ニートPA6(No.PA6)と比較して各々4.6,8.3,9.8,25.8MPa程度の向上であった。アセチル化NBKPを1,3,5,10質量%添加した材料(No.PA6-234,-235,-236,-226)では、各々9.8,20.8,33.8,65.8MPaの大きな向上が見られた。
【0358】
【表17】
【0359】
POMマトリックス
POM樹脂マトリックス複合材料の力学的特性を表18に示す。
【0360】
曲げ弾性率においては、未処理NBKPを1,3,5,10質量%添加した材料(No.POM-149,-150,-151,-148)では、ニートPOM(No.POM)と比較して各々80,310,450,930MPa程度の向上であった。アセチル化NBKPを1,3,5,10質量%添加した材料(No.POM-128-1,-128-2,-128-3,-129)では、各々410,1060,1760,2880MPaの大きな向上が見られた。
【0361】
曲げ強度においては、未処理NBKPを1,3,5,10質量%添加した材料(No.POM-149,-150,-151,-148)では、ニートPOM(No.POM)と比較して各々2.3,6.1,8.7,15.3MPa程度の向上であった。アセチル化NBKPを1,3,5,10質量%添加した材料(No.POM-128-1,-128-2,-128-3,-129)では、各々12.5,28.3,39.3,44.3MPaの大きな向上が見られた。
【0362】
耐衝撃性においても、アセチル化NBKP添加材料は,未処理NBKPよりも高い値を示した。
【0363】
【表18】
【0364】
以上のPA6及びPOMの結果より、従来のセルロース系複合材料よりも、本アセチル化NBKP強化複合材料が優れた材料であり、極少量の添加量により効果的に補強することが可能であることが明らかとなった。
【0365】
(3-3-3)アセチル化NBKP/樹脂複合材料の混練回数が力学的特性に及ぼす影響
アセチル化セルロース材料のリサイクル特性の評価を行った。ここでは補強効果が特に高いPA6及びPOMマトリックスについて、繰り返し成形加工(混練回数)による物性変化を測定した。
【0366】
PA6マトリックス
PA6樹脂マトリックス複合材料の力学的特性を表19に示す。
【0367】
混練は215℃にて2回まで行った。
【0368】
曲げ弾性率は、1回目混練(No.PA6-220-1)で5120MPa、2回目混練(No.PA6-220-2)で4780MPaと低下した。低下率は6.60%であり,これは東レ(株)のガラス繊維30質量%強化PA6と同等の低下率であった。
【0369】
曲げ強度は、1回目混練(No.PA6-220-1)で154MPa、2回目混練(No.PA6-220-2)で150MPaと低下した。低下率は2.60%であり,これは東レ(株)のガラス繊維30質量%強化PA6の低下率約5%よりも小さくなった。
【0370】
Izod衝撃強度は、1回目混練(No.PA6-220-1)で3.41kJ/m
2、2回目混練(No.PA6-220-2)で3.60kJ/m
2と大きく変化しなかった。東レ(株)のガラス繊維30質量%強化PA6の低下率は約20%である。しかし、新品原料の衝撃特性が非常に良いため比較することはできない。
【0371】
【表19】
【0372】
POMマトリックス
POM樹脂マトリックス複合材料の力学的特性を表20に示す。
【0373】
混練は170℃にて3回まで行った。
【0374】
曲げ弾性率は、1回目混練(No.POM129)で5170MPa、2回目混練(No.POM130)で5270MPa、3回目混練(No.POM131)で5290MPaと向上した。向上率は1回目→2回目、1回目→3回目とも約2%であった。
【0375】
曲げ強度は、1回目混練(No.POM129)で122MPa、2回目混練(No.POM130)で117MPa、3回目混練(No.POM131)で120MPaと一定であった。
【0376】
Izod衝撃強度は、1回目混練(POM129)で4.18kJ/m
2、2回目混練(No.POM130)で4.70kJ/m
2、3回目混練(No.POM131)で4.95kJ/m
2と向上した。3回目は、ニートPOM(No.POM)と同等の衝撃強度まで向上した。
【0377】
【表20】
【0378】
以上のPA6及びPOMの結果より、アセチル化NBKPのリサイクル性に関する知見が得られた。
【0379】
PA6マトリックスでは、混練温度が高く繰り返しの成形加工(溶融混練等)により、アセチル化NBKPは耐熱性が通常のNBKPよりも向上しているが劣化する。
【0380】
それに対してPOMマトリックスでは、混練温度が低いため、耐熱性が向上したアセチル化NBKPはほとんど劣化せず、逆に繰り返し成形加工により解繊性が向上し、曲げ弾性率及び耐衝撃性が向上したと考えられる。
【0381】
汎用な補強繊維であるガラス繊維(GF)及び炭素繊維(CF)と樹脂の複合材料は、リサイクル加工時に繊維が破断したり、繊維の短繊維化が起こったりするため、一般的にカスケードリサイクル(低品位用途への利用)しかできない。
【0382】
それに対して本アセチル化セルロースファイバーは、POM等の成形温度領域以下であるポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ABS、熱可塑性エラストマー、その他低融点樹脂材料においては、本アセチル化NBKPは繰り返しの成形加工に耐えるリサイクル性に優れた素材となると考えられる。
【0383】
(3-4) アセチル化セルロースの分散状態の観察
図1に原材料であるNBKPのSEM写真を示す。
【0384】
図2に原材料であるNBKPをアセチル化したアセチル化NBKP(DS=0.88)のSEM写真を示す。
【0385】
NBKPでは直径がサブミクロンオーダーの繊維も見られるが、直径数十から数百μmの粗大な繊維径を有している繊維が多く存在する。
【0386】
アセチル化NBKPは、NBKPよりは解繊が進行しているが、数十μm以上の粗大な繊維が存在している。
【0387】
PA6マトリックス
図3に未処理NBKP添加PA6(No.PA6-15)のX-CT像を示す。
図4にその未処理NBKP添加PA6のPA6を抽出し得られたセルロースのSEM写真を示す。
【0388】
図5にアセチル化NBKP添加PA6(NO.PA6-216)のX-CT像を示す。
図6にそのアセチル化NBKP添加PA6のPA6を抽出し得られたセルロースのSEM写真を示す。
【0389】
X-CT像では,未処理NBKPよりもアセチル化セルロースの方がμm単位で存在する繊維の輪郭が不明瞭になり、分解能(1.3μm)と同等の白いモヤ状の分散が多く観察された。1.3μm以下のセルロースは、X-CTでは確認することはできない。
【0390】
SEM写真では,未処理NBKP添加PA6(No.PA6-15)では,数十μmの太さの繊維が多く見られ、サブミクロンや数十nmオーダーのセルロースは少ない。
【0391】
それに対してアセチル化NBKP添加PA6(No.PA6-216)では、3μm程度のセルロースが散見されるが、その多くは数十から数百nmのアセチル化CNFとして分散していた。
【0392】
POMマトリックス
POMは、セルロースと密度差が小さいためX-CT撮影において、POMマトリックスとセルロースのコントラスト差が小さく、セルロースの判別が困難である。
【0393】
そこでSEM観察のみ実施した。
【0394】
図7に未処理NBKP添加POM(No.POM-148)のPOMを抽出し得られたセルロースのSEM写真を示す。
【0395】
図8にアセチル化NBKP添加POM(No.POM-134)のPOMを抽出し得られたセルロースのSEM写真を示す。
【0396】
未処理NBKP添加POM(No.POM-148)では、数十μm以上の粗大な繊維塊が多数観察された。
【0397】
一方アセチル化NBKP添加POM(No.POM-134, DS=1.17)では、繊維状ではなくゲル状で樹脂が膨潤したような抽出物が得られた。その観察写真は、やはり樹脂状でありPOMが完全に抽出されていなかった。
【0398】
これはアセチル化が進みセルロース表面に存在する多数のアセチル基がPOMと相互作用することによりPOMが繊維上から抽出されにくくなったためであると考えられる。抽出物の亀裂部分を拡大観察すると、前記アセチル化NBKP添加PA6(No.PA6-216)と同等以下の微細な繊維が存在していた。
【0399】
図9に低DS(DS=0.46)アセチル化NBKP添加POM(No.POM-129)のPOMを抽出し得られたセルロースのSEM写真を示す。
【0400】
この場合は、ほぼ完全にPOMが抽出されており、アセチル化NBKPとPOMの相容性がそれほど高くないと判断することができる。
【0401】
図10に低DS(DS=0.40)アセチル化NBKP添加POM(No.POM-128)複合材料の透過型電子顕微鏡写真を示す。DS1.17のアセチル化セルロースほどはPOMと相容性は高くないと考えられるが、低DS=0.40においても、セルロース繊維束内にPOMが含浸されている様子が観察され、その繊維径は数nmとなっている。
【0402】
PPマトリックス
図11に未処理NBKP添加PP(No.PP-116)のX-CT像を示す。
【0403】
図12にその未処理NBKP添加PPのPPを抽出し得られたセルロースのSEM写真を示す。
【0404】
図13に高DS(DS=1.84)アセチル化NBKP添加PP(No.PP-367)のX-CT像を示す。
【0405】
図14にそのアセチル化NBKP添加PPのPPを抽出し得られたセルロースのSEM写真を示す。
【0406】
X-CT像では、未処理NBKPよりもアセチル化セルロースの方がμm単位で存在する繊維の輪郭が不明瞭になり、より微細なセルロースが分散していた。
【0407】
SEM写真については、未処理NBKP添加PP(No.PP-116)では、数十μmの粗大な繊維と数μm以上の解繊が進みつつある繊維が存在した。しかし解繊が進みつつある繊維は繊維長が著しく低下し、短繊維化していた。
【0408】
図15に低DS(DS=0.46)アセチル化NBKP添加PP(No.PP-304)のX-CT像を示す。
図16にその低DSアセチル化NBKP添加PPのPPを抽出し得られたセルロースのSEM写真を示す。
【0409】
高DS(DS=1.84)アセチル化NBKP添加PP(No.PP-367)では、数百nmから1μm程度までの繊維が多くを占め、その繊維長は未処理NBKP添加PP(No.PP-116)や、
図15及び
図16に示す低DS(DS=0.46)アセチル化NBKP添加PP(No.PP-304)よりも著しく長く観察された。
【0410】
以上の結果よりアセチル化NBKPは、未処理NBKPと比較して、二軸押出機による溶融混練時のせん断により容易に解れ、樹脂中でナノ分散化していると言え、その分散サイズは部分的には分子複合材料の領域に達していると結論付けられる。
【0411】
また疎水性の高いPPとの複合化においては、よりアセチル化度(DS)を高くし、疎水性を上げることにより物性が向上することが分かり、相容性が高い方が溶融混練工程での解繊性が向上し繊維破断が防げることが示唆された。
【0412】
(3-5)アセチル化セルロースと樹脂材料の相容化
表21〜表33にアセチル化セルロース添加樹脂複合材料の総括表を示す。
【0413】
アセチル化セルロースのDS、溶解度パラメータ(SP)結晶化度と各樹脂の曲げ特性のピーク領域を示している。また各樹脂のSPも記載した。
【0414】
表21〜表28では、アセチル化NBKPのDS(x)とSP(y)との関係式はy=-2.3x+15.7である。
【0415】
アセチル化セルロースのSP値は、文献値のセルロース及びジアセチル化セルロースのSP値より直線近似で算出した。結晶化度は、各セルロースを加圧しタブレット化し、広角X線散乱法により算出した。樹脂SPは、井出文雄著 実用ポリマーアロイ設計(発行所:(株)工業調査会、1996年発行)を引用した。樹脂SPがSP値の範囲で記載されている場合は、上限値と下限値の平均値をその樹脂のSPとして用い、上記のAcCNFのDS(x)とSP(y)との関係式を求めた。
【0416】
上記文献(井出文雄著)に記載されていない樹脂のSP(MAPPのSP)については、Fedorsの方法(Robert F. Fedors、Polymer Engineering and Science, February,1974、vol.14, No.2 147-154)に従って計算し、求めた。 またPLAのSP値は,特開2011-231285記載の値を用いた。
【0417】
表25〜表28では、表21〜表24の物性値を、未修飾NBKP-樹脂組成物を基準として、指数表示した。
【0418】
表29〜表31では,アセチル化リグノパルプのSP値は,Fedorsの方法(Robert F. Fedors、Polymer Engineering and Science, February,1974、vol.14, No.2 147-154)に準じて計算し、求めた(前記「
アセチル化リグノパルプ(LP)のSP値算出方法」参照)。
【0419】
表31では、表29のPA6強化材料の数値を、未修飾リグノパルプ-樹脂組成物を基準として、指数表示した。
【0420】
表32は表25〜表28をまとめたものである。
【0421】
表33は表31をまとめたものである。
【0422】
【表21】
【0423】
【表22】
【0424】
【表23】
【0425】
【表24】
【0426】
【表25】
【0427】
【表26】
【0428】
【表27】
【0429】
【表28】
【0430】
【表29】
【0431】
【表30】
【0432】
【表31】
【0433】
【表32】
【0434】
【表33】
【0435】
NBKPにおいては、最もSPの高いPA6(SP=12.2)は、DS=0.46〜0.88程度、SP=14.6〜13.7程度、結晶化度72.1%程度以上のアセチル化NBKPを添加することで最も高い曲げ特性が得られる。
【0436】
次にSPの高いPLA(SP=11.4)は、DS=0.32〜1.57程度、SP=15.7〜0.32程度、結晶化度55.6%程度以上のアセチル化NBKPを添加することで高い曲げ特性が得られる。
【0437】
次にSPの高いPOM(SP=11.1)は、DS=0.64〜1.17程度、SP=14.2〜13.0程度、結晶化度69.5%程度以上のアセチル化セルロースを添加することで最も高い曲げ特性が得られる。
【0438】
そして最もSPの低いPP(SP=8.1)は、DS=2.52程度以上にピークがあると考えられ、結晶化度は影響していない。
【0439】
また、MAPP(SP=8.2)は、DS=0.64〜1.17程度、SP=14.2〜13.0程度、結晶化度55.6%程度以上のアセチル化セルロースを添加することで最も高い曲げ特性が得られる。
【0440】
以上をまとめると、PA6,POMやPLAのような極性材料においては、DS=1.2程度までのアセチル化処理で十分セルロースとの相容性が向上し、セルロースの結晶化度を約70%程度以上に保つ、つまりセルロース繊維の強度を高い状態に保つことにより最も高曲げ特性の材料を得ることができる。
【0441】
非極性材料であるPPはSPが低いため,結晶化度の高く繊維強度の高いDS1.0程度までのアセチル化セルロースでは界面強度が低すぎて不十分な曲げ特性となる。アセチル化NBKP/PP複合材料では,結晶化度が低下しても高DSにする必要があると言える。
【0442】
他の非極性材料であるPS及びPEについては、明確な曲げ特性のDSのピーク値は見いだされなかった。
【0443】
一方リグノパルプ(NUKP, GP150-1, GP150-3a)を添加したPA6においても傾向は同様であり、DS=0.41-0.75程度、SP=13.8 〜14.7程度,結晶化度75.0%程度以上のアセチル化リグノパルプを添加することで最も高い曲げ特性が得られる。 POMも同様の傾向であり,DS=0.75、SP=13.8のアセチル化NUKPにおいて、高い曲げ特性が得られた。
【0444】
PPは,やはり高DSのアセチル化リグノパルプを用いなければ,高い曲げ特性を得ることは難しいと言える。
【0445】
IV.アシル化NUKP含有ポリプロピレン(PP)組成物の調製とその強度試験
(1)アシル化NUKPの調製
攪拌羽根を備えた四つ口1Lフラスコに、前記「リファイナー処理済み針葉樹由来未晒し針葉樹林パルプの調製」で得たパルプスラリー(NUKP)を投入した(NUKP固形分5g相当量)。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)500mL、トルエン250mLを加え、攪拌しNUKPをNMP/トルエン中に分散させた。
【0446】
冷却器を取り付け、窒素雰囲気下、分散液を150℃に加熱し、分散液中に含まれる水分をトルエンとともに留去した。その後分散液を40℃まで冷却し、ピリジン15mL(NUKP水酸基に対して約2当量)、ミリストイルクロリド(変性化剤、エステル化試薬):16.2mL(NUKP水酸基に対して約1当量)を添加した。生成するエステル基の増加を赤外線吸収スペクトルにより逐次測定し(注)反応を追跡し、窒素雰囲気下90分反応させた。
【0447】
(注):逐次的に、反応懸濁液混合物の少量を抜き取り、エタノールを加え、遠心分離して沈殿物を得た。これをエタノールで洗浄乾燥し粉砕して、赤外線(IR)吸収スペク卜ルを測定することにより生成物のエステル基の置換度(DS)の変化を追跡することができる。エステル基のDSは下記の式にて算出した。
【0448】
DS=0.0113X-0.0122
(Xは1733cm
-1付近のエステルカルボニルの吸収ピーク面積である。スペクトルは1315cm
-1の値を1で規格化)
反応懸濁液を200mLのエタノールで希釈し、7,000rpmで20分間遠心分離を行い、上澄み液を除去し、沈殿物を取り出した。上記の操作(エタノールの添加、分散、遠心分離、上澄み液の除去)で、溶媒エタノールをアセトンに変えて同様の操作を行い、更に溶媒のアセトンをNMPに変えて同様の操作を二回繰り返し、ミリストイル化NUKPのスラリーを得た。
【0449】
上記と同様の操作で、下表(表34)に示したような各種の修飾基で修飾されたNUKP(アシル化NUKP)を調製した。
反応条件および、得られたアシル化NUKPを表34に示す。
【0450】
表34のアシル化NUKPの結晶化度の説明
これらアシル化NUKPの結晶化度は未測定であるが、70%付近の値であると考えられる。その理由は以下の通りである。
【0451】
アセチル化しない(即ち、DS=0の)、パルプ及びリグノパルプの結晶化度は、夫々、NBKP:77.4%、NUKP:78.3%、GP150-1-a:78.7%、GP150-3-a:83.1%であり、おおよそ77〜83%の範囲であった(前記表6及び表7参照)。
【0452】
一方、DSが0.4〜0.6のアセチル化パルプとアセチル化リグノパルプの結晶化度は、それぞれ、アセチル化NBKP(DS=0.46):73.3%、アセチル化NUKP(DS=0.61):76,7%、アセチル化GP150-1-a(DS=0.42):75.5%、アセチル化GP150-3-a(DS=0.62):78%で、結晶化度はおおよそ73〜78%の範囲であった(前記表6、表7参照)。
【0453】
このように、本発明で使用したアシル化方法でアセチル化するとパルプ及びリグノパルプの結晶化度は若干低下するものの、DS=0.4〜0.6付近ではその低下は小さいことから、パルプのリグニン含量の多少にかかわらずパルプ繊維表面のセルロース及びリグノセルロースが修飾されているものと考えられる。
【0454】
ミリストイル化NBKP(DS=0.42)の結晶化度は68%であった。
【0455】
セルロース繊維表面をアシル化した場合はアシル基の種類(アセチル、ブチリル、バレリル)にかかわらず、その結晶化度は大きく変化しないことが知られている(M.Balardo等、Surface Chemical Modification of Natural Cellulose Fibers, J. Appl Polym Sci, 83, 38-45(2002))。
【0456】
以上のことから、表34のNUKPの結晶化度も、アシル基の種類関わらず、70%付近の値であると考えられる。
【0457】
【表34】
【0458】
各種アシル化NUKPのSP計算
(i)先ず、アシル化セルロースのSP値は以下の通り求めた。
【0459】
DS=Xのアシル化セルロースのSP(Y)=-(a-b)X/2+a
a:セルロースのSP値(文献値15.65 cal/cm
3)
1/2)
b:DS=2のアシル化セルロースのSP
=(Fedors法により求めたセルロースジアシレートのSP値)×(補正係数)
補正係数=(セルロースジアセテートの SP文献値11.13)
÷(Fedors法により求めたセルロースジアセテートの SP値12.41)
【0460】
(ii)SP
xyl(キシランのSP値)、SP
lig(リグニンのSP値)、SP
xylアシル(キシランジアシレートのSP値)及びSP
ligac(リグニンジアセテートのSP値)は、夫々Fedorsの方法(Robert F. Fedors、Polymer Engineering and Science, February,1974、vol.14, No.2, 147-154)に準じて計算した。
【0461】
(iii)上記のデーターを使用し、前記の「アセチル化リグノパルプ(LP)のSP値算出方法」の項に記載した方法で、各種アシル化NUKPのSP値を計算した。
【0462】
(2)化学修飾NUKP含有樹脂(ポリプロピレン)組成物の製造
前記ミリストイルNUKPスラリー(固形分15g含有)をトリミックス((株)井上製作所製)にて減圧下、攪拌し、乾燥した。ポリプロピレン(PP)樹脂(日本ポリプロ(株)製のノバテックMA-04A)135gを加え、全固形量が150gになるようにして、下記の条件で混練、造粒して樹脂組成物を得た。
【0463】
樹脂組成物中のミリストイルNUKPの含有率は10質量%である。
【0464】
・混練装置:テクノベル社製「TWX-15型」
・混練条件:温度=180℃
吐出=600g/H
スクリュ−回転数=200rpm
【0465】
樹脂成形体の製造
上記得られた樹脂組成物を下記の射出成型条件で、射出成型し、試験片(ミリストイルNUKP含有PP成形体)を作成した。
【0466】
・射出成型機:日精樹脂社製「NP7型」
・成形条件:成型温度=190℃
金型温度=40℃
射出率=50cm
3/秒
【0467】
強度試験
得られた試験片について、電気機械式万能試験機(インストロン社製)を用い、試験速度を1.5mm/分として弾性率及び引張強度を測定した(ロードセル5kN)。その際、支点間距離を4.5cmとした。
【0468】
前記の他のアシル化NUKPについても同様に、これを含有するポリプロピレン組成物及び試験片を調製し、その弾性率及び引張強度を測定した。測定結果を表35に示す。
【0469】
【表35】
【0470】
(3)アシル化NUKPの樹脂中での解繊性
NUKP含有PP成形体をX線CTスキャナ(SKYSCAN製、SKYSCAN1172)を用いて観察した。
【0471】
アシル化NUKP含有PP成型体のX-CT像は,弾性率の大きいものほどμm単位で存在する繊維の輪郭が不明瞭になり白いモヤ状の像が観察された。即ち、PP樹脂との混練でアシル化NUKPの解繊が進みミクロフィブリル化しているといえる。
【0472】
より定量的に解繊性を考察するために、X線CTスキャナの画像の断面において、明るさが40以上で、その大きさが50ピクセル(1ピクセル:0.72ミクロン)以上の部分の%を求めその平均(N=300)を繊維凝集部%とし解繊性の指標とした(この値が小さいほど解繊は進み、ミクロフィブリル化されている)。
【0473】
アシル化NUKP含有PP成型体の凝集部%を表36に示す。
【0474】
また、表35のアシル化NUKP含有成型体の弾性率の数値を、PP単独成型体又は未修飾NUKP含有PP成型体の弾性を基準として、指数表示して表36に示す。さらにポリプロピレン(PP)の溶解パラメータ〔SP:8.1(cal/cm
3)
1/2〕に対する夫々のアシル化NUKPの溶解パラメータの比率R(アシル化NUKPのSP/PPのSP)も表36に併記する。
【0475】
【表36】
【0476】
評価したサンプルのなかでミリストイル化NUKPの解繊性が最も高く、次いでボルナンフェノキシヘキサノイルNUKP、ホルナンフェノキアセチルNUKP、1,1,3,3-テ トラメチルフチルフェノキシアセチルNUKP、3,5,5-トリメチルヘキサンノイルNUKPの順であった。そしてフェノキシアセチルNUKPの解繊性が最も低いといえる。この場合でも約95%は、繊維幅約700nm以下に解繊されているといえる。
【0477】
表36は、いずれのアシル化NUKP含有PP成型体の弾性率も、比率R(アシル化NUKPのSP/PPのSP)が、1.72〜1.76のときに、PP単独成型体の弾性率に比べて約1.3〜1.9倍、未修飾NUKP含有PP成型体の弾性率に比べて約1.1〜1.6倍に増大していることを示している。
【0478】
(4)アセチル化NUKP含有、HDE組成物、PS組成物及びABS組成物の調製とその強度
前記と同様にして調製したアセチル化NUKP(AcNUKP、DS:0.41、結晶化度約75%)を使用し、前記と同様の方法でこれを含む、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂(旭化成(株)製、商品名サンテックHD)、汎用ポリスチレン(GPPS、東洋エンジニアリング(株)製、商品名PSJポリスチレン)又はアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS, 旭化成(株)製、商品名スタイラックABS)組成物を調製し、試験片を調製した。
【0479】
この試験片について、電気機械式万能試験機(インストロン社製)を用いて前記と同様の方法で引張り弾性率及び引張り強度を測定した。結果を表37に示す。
【0480】
【表37】
【0481】
(5)アセチル化NUKP含有樹脂の弾性率の増加とアセチル化NUKPのSPに対する樹脂SPの比との関係
表38に、NUKPとアセチル化NUKP(Ds:0.41)のSP値、それに対する樹脂(HDPE、PS及びABS)夫々のSP値の比、アセチル化NUKP含有各樹脂の弾性率の増加率を示す。樹脂単独の弾性率に対する各種繊維含有組成物の弾性率の増加率(a)、未修飾NUKP含有樹脂組成物の弾性率に対するアセチル化NUKP含有組成物の弾性率の増加率(b)である。
【0482】
いずれの樹脂組成物についても繊維(アセチル化NUKP)SP/樹脂SPの比が、1.31〜1.84のときに、化学修飾しないNUKP含有樹脂組成物の弾性率に対し、アセチル化NUKP含有組成物の弾性率は1.1倍以上であった。
【0483】
【表38】
【0484】
V.参考例1
アシル化NBKP含有高密度ポリエチレン(HDPE)組成物の調製とその強度試験
(1)アシル化NBKP-0の調製
リグニンを含まない針葉樹漂白クラフトパルプ(化学組成セルロース80質量%、グルコマンナン:12質量%、キシラン:6質量%、アラビナン/ガラクタン:2質量%、リグニン:0質量%、これは、前記のリグニンを含むNBKPと区別するために「NBKP-0」と呼ぶ)のスラリー(スラリー濃度:2質量%)をシングルディスクリファイナー(熊谷理機工業(株)製)に通液させ、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)が100mL以下となるまで繰り返しリファイナー処理を行った。
【0485】
上記リファイナー後のNBKP-0(固形分150g)に水を添加し、パルプスラリー濃度0.75質量%の水懸濁液を調製した。得られたスラリーをビーズミル(NVM−2、アイメックス(株)製)を用いて機械的解繊処理(ジルコニアビーズ直径1mm、ビーズ充填量70%、回転数2,000rpm、処理回数2回)を行い、NBKP-0ナノフィブリルのスラリーを得た。これを遠心分離機((株)コクサン製)を用いて濃縮し、濃度20質量%のNBKP-0ナノフィブリルスラリーを調製した。
【0486】
攪拌羽根を備えた四つ口1Lフラスコに、NBKP-0ナノフィブリルスラリー(固形分5g)を投入した。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)500mL及びトルエン250mLを加え、攪拌し、NBKP-0ナノフィブリルをNMP/トルエン中に分散させた。
【0487】
冷却器を取り付け、窒素雰囲気下、分散液を150℃に加熱し、分散液中に含まれる水分をトルエンと共に留去した。その後分散液を40℃まで冷却し、ピリジン15mL(NBKP-0の水酸基に対して2当量)、ミリストイルクロリド(変性化剤、エステル化試薬):16.2mL (NBKP-0の水酸基に対して1当量)を添加して窒素雰囲気下120分反応させ、化学修飾NBKP-0ナノフィブリル(ミリストイル化NBKP-0ナノフィブリル)を得た。
【0488】
生成物のエステル基の置換度(DS)を赤外線吸収スペクトルにより逐次測定し反応を追跡し、DSが0.4程度に達した時点、この場合は、90分後に反応懸濁液を200mLのエタノールで希釈し、7,000rpmで20分間遠心分離を行い、上澄み液を除去し、沈殿物を取り出した。上記の操作(エタノールの添加、分散、遠心分離、及び上澄み液の除去)のエタノールをアセトンに変えて繰り返した。更にアセトンをNMPに変えて二回繰り返し、エステル化NBKP-0ナノフィブリルスラリーを得た。
【0489】
上記と、同様の操作で各種の修飾基で修飾されたNBKP-0ナノフィブリル(アシル化NBKP-0ナノフィブリル)を調製した。
【0490】
反応条件及び、得られたアシル化NBKP-0ナノフィブリルを表39に示す。
【0491】
ミリストイル化NBKP-0(DS=0.42)の結晶化度は68%であった。その他のアシル化NBKP-0の結晶化度は測定していないが、前記アシル化NUKPで述べたと同様の理由で、これらの結晶化度は、70%前後の値であると考えられる。
【0492】
【表39】
【0493】
(2)アシル化NBKP-0のSP計算
NBKP-0の構成成分は前記の通り、セルロース80質量%とグルコマンナン12質量%、キシラン6質量%、アラビナン/ガラクタン2質量%である。
【0494】
グルコマンナン糖鎖の繰り返し単位の化学式(-C
6H
10O
5-)は、セルロースのそれと同一であって、この化学式の割合は全体の92%である。そして、その他の含有糖糖鎖についてもセルロースと類似構造の繰り返し単位を有している。
【0495】
このことから、NBKP-0のSPはセルロースのSP値(文献値)を使用した。
【0496】
アシル化NBKP-0 のSP値は以下の通り、求めた。
【0497】
DS=Xのアシル化セルロースのSP(Y)=-(a-b)X/2+a
a:セルロースのSP値(文献値15.65cal/cm
3)
1/2)
b:DS=2のアシル化セルロースのSP
=(Fedors法により求めたセルロースジアシレートの SP値)×(補正係数)
補正係数=(セルロースジアセテートの SP文献値11.13)
÷(Fedors法により求めたセルロースジアセテートの SP値12.41)
【0498】
(3)アシル化NBKP-0ナノフィブリル含有樹脂(高密度ポリエチレン)組成物の製造
前記ミリストイル化NBKP-0ナノフィブリルのスラリー(固形分15g含有)をトリミックス((株)井上製作所製)にて減圧下、攪拌し、乾燥した。高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂(旭化成(株)製サンテックHD)135gを加え(全固形量が150g)、下記の条件で混練し、造粒して樹脂組成物を得た。
【0499】
樹脂組成物中のミリストイルNBKP-0ナノフィブリルの含有率は、10質量%である。
【0500】
・混練装置:テクノベル社製「TWX-15型」
・混練条件:温度=140℃
吐出=600g/H
スクリュ−回転数=200rpm
【0501】
樹脂組成物成形体の製造
上記で得られた樹脂組成物を下記の射出成型条件で、射出成型しダンベル型の樹脂成型体(強度試験用試験片、厚さ1mm)を得た。
【0502】
・射出成型機:日精樹脂社製「NP7型」
・成形条件:成型温度=160℃
金型温度=40℃
射出率=50cm
3/秒
【0503】
強度試験
得られた試験片について、電気機械式万能試験機(インストロン社製)を用い、試験速度を1.5mm/分として弾性率及び引張強度を測定した(ロードセル5kN)。
【0504】
その際、支点間距離を4.5cmとした。
【0505】
前記の他のアシル化NBKP-0ナノフィブリルについても同様に、これを含有する樹脂組成物及び試験片を調製し、その弾性率及び引張強度を測定した。
【0506】
測定結果を表40に示す。
【0507】
【表40】
【0508】
アシル化NBKP-0ナノフィブリル含有樹脂(HPDE)の弾性率の増加とアシル化NBKP-0ナノフィブリルのSPに対する樹脂(HDPE)SPの比との関係
表41に、各種アシル化NBKP-0のSP値、樹脂(HDPE)に対するアシル化NBKP-0のSP値比(表中では、繊維SP/樹脂SPと表示)、弾性率の増加率(HDPEの弾性率に対する各アシル化NBKP-0含有組成物の弾性率の増加率(a)、未修飾NBKP-0含有HDPE組成物の弾性率に対する各アシル化NBKP-0含有組成物の弾性率の増加率(b)を示す。
【0509】
表41の通り、繊維SP/樹脂(HDPE)SPの比が1.76〜1.84のアシル化NBKP-0を使用すると、これを含むHDPE組成物の弾性率は、HDPE単独の弾性率、未修飾NBKP-0含有HDPE組成物の弾性率に比べ、それぞれ2倍以上、1.15倍以上上昇した。
【0510】
【表41】