(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091607
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】パワートレインの制御システムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 20/00 20160101AFI20170227BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20170227BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20170227BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20170227BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20170227BHJP
B60L 11/14 20060101ALI20170227BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20170227BHJP
B60T 8/00 20060101ALI20170227BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20170227BHJP
B60T 8/1761 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
B60W20/00
B60W20/00 900
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60K6/54
B60L15/20 JZHV
B60L11/14
B60W10/06
B60W10/08
F02D29/02 301Z
B60T8/00 Z
B60T8/17 C
B60T8/1761
【請求項の数】16
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-515544(P2015-515544)
(86)(22)【出願日】2013年6月7日
(65)【公表番号】特表2015-521137(P2015-521137A)
(43)【公表日】2015年7月27日
(86)【国際出願番号】EP2013061857
(87)【国際公開番号】WO2013182704
(87)【国際公開日】20131212
【審査請求日】2015年1月29日
(31)【優先権主張番号】1210059.0
(32)【優先日】2012年6月7日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512308720
【氏名又は名称】ジャガー ランド ローバー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Jaguar Land Rover Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・バーチ
(72)【発明者】
【氏名】ポール・ダーネル
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・ラッドマン
【審査官】
山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−097826(JP,A)
【文献】
特開2004−254375(JP,A)
【文献】
特開2006−081266(JP,A)
【文献】
特開2012−060753(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0024263(US,A1)
【文献】
特開2007−118780(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/182704(WO,A1)
【文献】
特開2011−126432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/00
B60K 6/54
B60L 11/14
B60L 15/20
B60T 8/00
B60T 8/17
B60T 8/1761
B60W 10/06
B60W 10/08
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたはそれ以上の車両動作パラメータに基づいてトルク制限量を決定し、決定された前記トルク制限量に基づいてフィードフォワード制御を行うためのトルク制御信号を生成するトルク制限計算手段と、
トルク要求量を決定し、決定された前記トルク要求量に基づいてトルク要求信号を生成するトルク要求モジュールと、
パワートレインにより負荷されるトルクを制御するトルク制御モジュールとを備え、
前記トルク制御モジュールは、
−前記トルク要求モジュールからトルク要求信号を、前記トルク制限計算手段からトルク制御信号をそれぞれ受信し、かつ、
−前記トルク制御信号に基づいて前記トルク要求信号を有効にすべきか否かを決定し、その後に、前記パワートレインにより負荷されるトルクを制御するように構成されている、
車両用制御システム。
【請求項2】
前記トルク制限計算手段は、追加のモジュール内に設けられている、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記トルク制御信号に応じて前記トルク要求信号を調整するように構成されている、
請求項1または2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記トルク制御信号は、負荷トルクの変化率を制限し、かつ/または、負荷トルクを制限するように構成されている、
請求項1から3のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項5】
前記トルク制御モジュールは、前記トルク制御信号に基づいて、負荷トルクの変化率を制限し、かつ/または、負荷トルクを制限するように動作可能である、
請求項4に記載の制御システム。
【請求項6】
前記トルク制限計算手段は、アンチロックブレーキシステムモジュール内に設けられている、
請求項1から5のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項7】
前記トルク要求モジュールは、ドライバトルク要求信号および/またはクルーズコントロールトルク要求信号に基づいてトルク要求信号を生成するように構成されている、
請求項1から6のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項8】
前記トルク制御モジュールは、少なくとも1つの電動モータおよび/または内燃エンジンを制御するように構成されている、
請求項1から7のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項9】
前記トルク制御モジュールは、前記少なくとも1つの電動モータを制御するインバータである、
請求項8に記載の制御システム。
【請求項10】
前記トルク制御モジュールは、前記トルク要求モジュールよりも高い安全性評価を有する、
請求項1から9のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項11】
前記追加のモジュールは、前記トルク制御モジュール以上の安全性評価を有する、
請求項2を引用する請求項10に記載の制御システム。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載のシステムを備えた自動車。
【請求項13】
パワートレインとコントローラを備えるパワートレインシステムを動作させる方法であって、
1つまたはそれ以上の動作パラメータを基に決定されたトルク制限量に基づいてフィードフォワード制御を行うためのトルク制御信号を生成すると共に、該トルク制御信号を前記コントローラに対して出力するステップと、
決定されたトルク要求量に基づいてトルク要求信号を生成すると共に該トルク要求信号を前記コントローラに出力するステップと、
前記トルク制御信号に基づいて前記トルク要求信号を有効にすべきか否かを決定するステップと、その後に、
前記パワートレインにより負荷されるトルクを制御するように前記コントローラを動作させるステップと
を含む方法。
【請求項14】
前記トルク制御信号は、負荷トルクの変化率への制限値、および/または、負荷トルクへの制限値を規定する、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記コントローラは、少なくとも1つの電動モータの動作を制御するように構成されている、
請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記トルク要求信号は、ドライバトルク要求信号および/またはクルーズコントロールトルク要求信号に基づく、
請求項13から15のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワートレイン制御システムおよび方法に関する。パワートレイン制御システムは、例えば自動車に実装可能である。本発明の態様は、制御システムと、パワートレインの動作方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
(正のトルクまたは負のトルク、すなわち車両を加速または減速させるトルクである)意図しないトルクが負荷されると、動力車両の安定性に影響が出る可能性がある。これは、内燃エンジンより(例えば、電場の伝達速度および小さい回転慣性に起因して)大きい負荷トルクの変化率が実現可能な電気モータ(または電気マシン)を内蔵する車両において、特に関連するものである。従って、正の(駆動)トルクと負の(制動)トルクの両方を加える場合には、電動モータの制御が最も重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、改善したパワートレイン制御システムおよびパワートレインシステムを制御する方法を提供することを意図している。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の態様は、パワートレイン制御システムに関し、すなわち制御システムとパワートレインの制御方法に関する。
【0005】
更なる態様で、本発明は、車両用のパワートレイン制御システムに関する。このシステムは、1つまたはそれ以上の車両動作パラメータに基づいてトルク制御信号を生成するトルク制限計算手段と、トルク要求信号を生成するトルク要求モジュールと、パワートレインにより負荷されるトルクを制御するトルク制御モジュールとを備える。トルク制御モジュールは、トルク要求モジュールからトルク要求信号を、トルク制限計算手段からトルク制御信号をそれぞれ受信し、かつ、トルク要求信号とトルク制御信号に応じて、パワートレインにより負荷されるトルクを制御するように構成されている。
トルク制御モジュールは、パワートレインにより負荷されるトルクを変化させる前に、トルク制御信号に基づいて追加のチェックを行うことができる。例えば、トルク制御モジュールは、トルク制御信号に基づいて、トルク要求信号の有効性をチェックできる。トルク制御信号は、トルク制御モジュールのための「フィードフォワード」信号として用いられる。トルク制御モジュールは、車両の安定性に影響を与えるだろうトルク負荷(例えば1つまたはそれ以上の閾値との比較により決定される)を抑制し、または防止するように構成できる。
【0006】
トルク要求モジュールからトルク要求信号を受信し、トルク制限計算手段からトルク制御信号を受信するようにトルク制御モジュールを構成することにより、パワートレイン制御システムの安全性評価を改善できる可能性がある。トルク制御モジュールの安全性評価がトルク要求モジュールのそれよりも高い場合、少なくとも特定の実施形態において、パワートレイン制御システムは、全体として、トルク制御モジュールの高い安全性評価に適合可能である。特に、改善したパワートレイン制御システムの安全性レベルは、トルク要求モジュールとは分離した独立コントローラ(すなわち、トルク制限計算手段)からトルク制限モジュールに送られるトルク制御信号により向上させることができる。このようにして、トルク要求モジュールの異常により間違いでトルク要求信号が出されると、動作中であれば車両の安定性が損なわれるおそれがあるところ、これを軽減することが可能となる。この理由は、トルク制御モジュールがトルク制限計算機からトルク制御信号を分離して受信し、これを用いてトルク要求信号を有効にし、あるいは無効にすることができるからである。
【0007】
トルク制限計算手段は追加のモジュール内に設けられてもよい。トルク要求モジュールは、トルク制限計算手段からトルク制御信号を受信するものであってもよく、かつ、トルク制御信号に応じてトルク要求信号を調整するように構成されてもよい。
【0008】
トルク制御信号は、負荷トルクを禁止しまたは制限するように構成可能である。トルク制御信号は、最大負荷トルク(正のトルクであっても負のトルクであっても)を制御できる。あるいは、トルク制御信号は、負荷トルクの変化率(正の値であっても負の値であっても)を制御するように構成可能である。例えば、トルク制御信号は、負荷トルクの増加率または減少率を制限できる。トルク制御信号は、負荷トルクを制限し、かつ、このトルクの変化率を制限するように構成可能である。トルク制御モジュールは、上記トルク制御信号に基づいて、負荷トルクを制御するように動作可能である。
【0009】
トルク制限計算機は、アンチロックブレーキシステム(ABS)モジュール内に設けることができる。トルク制限計算機は、次の動作パラメータのうち1つまたはそれ以上を利用可能である。すなわち、車輪の速度、横加速度、ハンドル角度およびヨーレートである。トルク制限計算機は、上記動作パラメータを決定する好適なセンサに結合可能である。
【0010】
トルク要求モジュールは、ドライバトルク要求信号および/またはクルーズコントロールトルク要求信号に基づいてトルク要求信号を生成するように構成できる。
【0011】
トルク制御モジュールは、少なくとも1つの電動モータおよび/または内燃エンジンを制御するように構成可能である。トルク制御モジュールは、1つの電動モータを制御するインバータであってもよい。トルク制御モジュールは、少なくとも1つの電動モータによる正のトルクおよび/または負のトルクの負荷を制御するように構成可能である。あるいは、または追加で、トルク制御モジュールは、内燃エンジンによる正のトルクの負荷を制御するように構成可能である。
【0012】
トルク制御モジュールは、トルク要求モジュールよりも高い安全性評価(例えば自動車安全水準(ASIL))を有することができる。例えば、トルク要求モジュールはASIL B準拠であってもよく、トルク制御モジュールはASIL C準拠であってもよい。トルク制限計算機は、トルク制限モジュール以上の安全性評価を有するべきである。例えば、トルク制限計算機についても、ASIL C準拠であってもよい。このように、トルク要求モジュールが必要とするのはASIL B準拠であるにすぎないとしても、パワー制御システムは全体としてASIL C準拠であってもよい。この理由は、トルク制御モジュールが、トルク要求モジュールから送信されるトルク要求信号から独立して、トルク制限計算機からトルク制御信号を受信するからである。
【0013】
更なる態様で、本発明は制御システムに関する。このシステムは、それぞれ第1信号と第2信号をコントローラに対して出力するように構成された第1モジュールと第2モジュールを備える。第1モジュール、第2モジュールおよびコントローラは、それぞれ安全性評価を有するところ、コントローラは第2制御モジュールよりも高い安全性評価を有する。
【0014】
第1モジュールは、第2モジュールとコントローラの両方に第1信号を出力するように構成可能である。第2モジュールは、第1信号を用いて第2信号を生成可能である。従って、第2信号は、少なくとも部分的に第1信号に基づいていてもよい。第1モジュールは、コントローラと同じまたはそれより高い安全性評価を有することができる。
【0015】
第1モジュールは、1つまたはそれ以上の動作パラメータに基づいてトルク制御信号を生成するトルク制限計算機であってもよい。第2モジュールは、トルク要求信号を生成するトルク要求モジュールであってもよい。コントローラは、少なくとも1つの電動モータの動作を制御するトルク制御モジュールであってもよい。例えば、コントローラはインバータであってもよい。
【0016】
更なる態様で、本発明は、パワートレインとコントローラを備えるパワートレインシステムを動作させる方法に関する。この方法は、1つまたはそれ以上の動作パラメータに基づいてトルク制御信号を生成すると共に、当該トルク制御信号を前記コントローラに対して出力するステップと、トルク要求信号を生成すると共に当該トルク要求信号をコントローラに出力するステップと、トルク制御信号とトルク要求信号に基づいて負荷トルクを制御するようにコントローラを動作させるステップとを含む。
【0017】
この方法により、高い安全性評価を有するコントローラを用いて、負荷トルクを制御できる。この方法は、コントローラが、トルク要求信号を生成するプロセッサよりも高い安全性評価を有するシステムにおいて実行可能である。
【0018】
トルク制御信号は、負荷トルクに対する制限値(すなわち、加えるトルクの最大値)を規定できる。あるいは、または追加で、トルク制御信号は、負荷トルクの変化率に対する制限値を規定できる。コントローラは、少なくとも電動モータの動作を制御するように構成可能である。コントローラはインバータであってもよい。トルク要求信号は、ドライバトルク要求信号および/またはクルーズコントロールトルク要求信号に基づいていてもよい。
【0019】
本明細書で説明している方法は、機械実施方法であってもよい。この方法は、1つまたはそれ以上のプロセッサを備えた計算手段(例えば電子的なマイクロプロセッサ)上で実行可能である。プロセッサは、メモリまたは記憶装置に記憶された計算上の命令を実行するように構成可能である。本明細書で説明しているデバイスは、計算上の命令を実行するように構成された1つまたはそれ以上のプロセッサを備えることができる。
【0020】
更なる態様で、本発明は、プログラマブル回路と、少なくとも1つのコンピュータ読み出し可能な媒体上でコード化され、本明細書に記載の方法を実行するようにプログラマブル回路をプログラミングするソフトウェアとを備えたコンピュータシステムに関する。
【0021】
更なる態様により、本発明は、コンピュータ読み出し可能な複数の命令を有するコンピュータ読み出し可能な1つまたはそれ以上の媒体であって、コンピュータにより実行されると、本明細書で説明している方法の全ステップをコンピュータに実行させるものに関する。
更なる態様で、本発明は、車両用のパワートレイン制御システムに関する。このシステムは、1つまたはそれ以上の動作パラメータに基づいてトルク制御信号を生成するトルク制限計算手段と、トルク要求信号を生成するトルク要求モジュールと、負荷トルクを制御するトルク制御モジュールとを備える。トルク制御モジュールは、トルク要求モジュールからトルク要求信号を、トルク制限計算機からトルク制御信号をそれぞれ受信するように構成されている。
【0022】
本出願の範囲内において、以下のことを明らかに意図している。すなわち、先の段落、特許請求の範囲および/または以下の説明と図面、特にその個々の特徴で説明している種々の態様、実施形態、実施例および変形例は、独立して、または組み合わせて採用されてよい。例えば、一実施形態を参照して説明する特徴は、相容れない場合を除いてすべての実施形態に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
添付の図面を参照しつつ、ほんの一例として、本発明の実施の形態について説明する。
【0024】
【
図1】本発明の実施の形態によるパワートレイン制御システムを示す概略図である。
【
図2】
図1に示すパワートレイン制御システムの変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態によるパワートレイン制御システム1を
図1に示す。パワートレイン制御システム1は、4つの駆動輪(図示せず)を有するハイブリッド車(図示せず)の内燃エンジンEおよび電動モータMを制御するように構成されている。2つの駆動輪を有する車両にも本発明を利用可能である。
【0026】
パワートレイン制御システム1は、パワートレイン制御モジュール(PCM)3と、アンチロックブレーキシステム(ABS)モジュール5と、インバータ7とを備える。パワートレイン制御モジュール3は、内燃エンジンEに対してエンジン制御信号を出力する。また、パワートレイン制御モジュール3は、インバータ7に対してモータ制御信号を出力して電動モータMを制御する。
【0027】
本実施形態で、電動モータMは車両の変速機に連結されているが、他の構成であってもよい。例えば、駆動輪のハブに電動モータを設けてもよい。電動モータMは、車両駆動系に正のトルクを加えて車両を進めるドライブモードと、車両を制動する車両駆動系に負の(制動)トルクを加えて車両を制動する回生モードとで選択的に動作可能である。電動モータは、トルク(正のトルクも負のトルクも)を高い変化率で加えることができ、これにより車両の安定性が影響を受ける可能性がある。
【0028】
パワートレイン制御モジュール3は、(ドライバによるアクセルペダル13の操作に応じた)ドライバトルク要求信号11または(クルーズコントロールモジュール17が生成する)クルーズコントロールトルク要求信号15のいずれかに応じてエンジン制御信号とモータ制御信号とを生成するプロセッサを備える。プロセッサは、他のモータ制御信号(例えばパワー要求信号など)を受信してもよいことが理解されるだろう。プロセッサが出力するエンジン制御信号は、スロットル位置信号19、燃料噴射信号21、およびイグニション制御信号23である。プロセッサは、他のエンジン制御信号(例えばバルブリフトを制御する信号)を出力できることが理解されるだろう。
図1を参照して、エンジン制御信号を生成するためにプロセッサが実施するステップについて説明する。
【0029】
ドライバトルク要求信号11に対してドライバペダル進行マップ25が適用され、これによりペダルトルク要求信号27が生成される。コンパレータ29は、ペダルトルク要求信号27とクルーズコントロールトルク要求信号15とを比較すると共に、トルク要求が大きい方の信号を基に、フィルタリング処理されていないトルク要求信号31を生成する。このフィルタリング処理されていないトルク要求信号31に対してドライバ参照フィルタ33が適用され、フィルタリング処理済みトルク要求信号34が生成される。トルク要求信号34は、第1のトルク増加率リミッタモジュール35に出力される。本明細書で詳細に説明しているように、第1のトルク増加率リミッタモジュール35は、アンチロックブレーキシステム(ABS)モジュール5と通信して制限トルク要求信号37を出力する。
【0030】
トルク調整モジュール39は、最大トルクレベルと最小トルクレベルを決定すると共に、車両監視制御(VSC)モジュール41に基準信号40を出力する。VSCモジュール41は、エンジンEと電動モータMとの間でのトルク配分を決定する。VSCモジュール41は、トルク/アクチュエータ変換モジュール43に対して最終のエンジントルク要求信号42を出力する。トルク/アクチュエータ変換モジュール43は、最終のエンジントルク要求信号42を、エンジンEを制御する信号(スロットル位置信号19、燃料噴射信号21およびイグニション制御信号23)に変換する。また、VSCモジュール41は、電動モータMを制御するためのモータトルク要求信号45をインバータに出力する。
【0031】
ABSモジュール5は、路面を走行する車両の動作と関連する動作パラメータを測定する複数のセンサに結合されている。当該複数のセンサはそれぞれ、ABSモジュール5内に設けられたトルク増加率計算モジュール47に対して測定信号を出力する。複数のセンサには、例えば、4つのホイール速度センサ49(各ホイールに1つずつ設けられる)、横方向加速度センサ51、ステアリング角度センサ53およびヨーセンサ55が含まれる。
【0032】
トルク増加率計算モジュール47は、速度センサ49、横方向加速度センサ51、ステアリング角度センサ53およびヨーセンサ55からの信号をモニタして、1つまたはそれ以上の駆動輪でスリップが生じる可能性があるか否かを判断する。また、トルク増加率計算モジュール47は、(例えば急勾配に起因する)車両重量の移動、大きな車両負荷、周囲環境(例えば、温度、および/または、氷が存在する可能性)などのパラメータを任意に受信可能である。
【0033】
トルク増加率計算モジュール47は、これらの動作パラメータのそれぞれに関連する所定の閾値を記憶している。これらの閾値は、ホイールスリップが生じないレベルであって、許容しうる最小のレベルを表す。測定したパラメータの値が各所定の閾値の1つまたはそれ以上を超えたときには、第1のトルク増加率リミッタモジュール35に対して車体トルク増加率制御信号57が出力され、エンジンと駆動軸(図示せず)を介して車軸に加わるトルクが制御される。トルク増加率計算モジュール47は、動作パラメータを、単独でまたは所定の組み合わせでモニタすることができる。例えば、トルク増加率計算モジュール47は、動作パラメータの何れか1つが最大閾値を超えたとき、かつ/または、2つ以上のパラメータの組み合わせがより小さい閾値を超えたとき(例えばステアリング角とヨーレートが中程度の値で、速度が大きいとき)に、加わるトルクを制御するように動作可能である。
【0034】
正または負のパワートレイントルクの増加率(本明細書ではトルク増加率と称す)は、ホイールスリップを妨げるように制限してもよい。これは、エンジンに対する入力を絞ることにより、かつ/または電動モータの動作を制御することにより達成できる。トルク増加率リミッタモジュール35は、作動すると、ABSモジュール5内のダイナミックスタビリティコントロール(DSC)モジュール61にトルク増減率制限状態信号59を返信してドライバに通知する(例えばランプを点灯させ、または計器群にメッセージを表示する)ことができる。
【0035】
また、車体トルク増加率制御信号57は、ABSモジュール5からインバータ7へ直接に出力される。インバータ7は、第2のトルク増加率リミッタモジュール60を備える。第2のトルク増加率リミッタモジュール60は、車体トルク増加率制御信号57を利用して、モータトルク要求信号45の有効性を検査する。モータトルク要求信号45は、車体トルク増加率制御信号57に基づいて、トルク要求を満足させる(すなわち、トルク要求に相当するトルクを加える)ことが車両の安定性に影響を与える場合には、無効と判断される。第2のトルク増加率リミッタモジュール60により、トルク要求信号45が有効でないと判断された場合、インバータ7は、電動モータが加えるトルクの増加を制御し、すなわち抑制することができる。これにより、インバータ7は、トルク要求信号45を無効にすることができる。この制御構成は、パワートレイン制御モジュール3より高い安全性評価を有するインバータ7を利用することにより、制御システム1の安全性評価を改善することができるので、特に有利である。
【0036】
制御システム1と制御モジュール3,5,7の安全性評価は、ISO26262が規定する自動車安全性要求レベル(ASIL)標準を用いて規定できる。本実施形態において、ABSモジュール5とインバータ7は共に、「C」の安全性要求レベルを満たす能力を有する。また、パワートレイン制御モジュール3は、「B」の安全性要求レベルを満たす能力を有する。本発明によるパワートレイン制御システム1は、パワートレイン制御モジュール3からのトルク増加率の大きい意図しないトルク要求を軽減することにより、「C」の安全性要求レベルを満たすことができる。これは、少なくとも特定の実施形態では、パワートレイン制御モジュール3が「B」の安全性要求レベルを満たす場合に限り、実現可能である。
【0037】
ABSモジュール5は、使用時、速度センサ49、横方向加速度センサ51、ステアリング角度センサ53およびヨーセンサ55からデータ信号を受信する。トルク増加率計算モジュール47は、これらのデータ信号を対応する閾値と比較して、どのレベルのトルク増加率が駆動輪に伝達されると車両を不安定化する可能性があるかを決定する。トルク増加率計算モジュール47は、第1のトルク増加率リミッタモジュール35に対して車体トルク増加率制御信号57を出力する。車体トルク増加率制御信号57は、道路状況/コーナリング状況に応じて変化する。制限されたトルク要求信号37、ひいては最終的なエンジントルク要求信号42とモータトルク要求信号45が、車体トルク増加率制御信号57に応じて修正される。トルク/アクチュエータ変換モジュール43は、最終的なエンジントルク要求信号42に基づいて、内燃エンジンEの動作を制御する。インバータ7は、モータトルク要求信号45に基づいて、電動モータMの動作を制御する。VSCモジュール41は、内燃エンジンおよび/または電動モータによるトルク負荷を制御できる。例えば、VSCモジュール41は、トルク変化の負荷を遅らせ、負荷トルクの変化率を変え、または負荷トルクの大きさを変えることができる。
【0038】
車体トルク増加率制御信号57は、ABSモジュール5から、インバータ7内に設けられた第2のトルク増加率リミッタ60に対して直接に送信される。第2のトルク増加率リミッタ60は、車体トルク増加率制御信号57を利用してトルク要求信号45の有効性をチェックし、パワートレイン制御モジュール3で発生しうる異常を特定する。第2のトルク増加率リミッタ60が車体トルク増加率制御信号57を考慮してトルク要求信号45が有効でない(すなわち、トルク要求を満足させることが車両の安定性に影響を与える)と判断した場合、インバータ7は、電動モータおよび(任意に)内燃エンジンによるトルク負荷を制御または抑制できる。インバータ7は、他の制御信号、例えばドライバトルク要求信号11を受信するように構成してもよい。
【0039】
更なる改良として、道路勾配に関する追加の情報をコントローラに与えることができる縦方向加速度センサを車両に設け、車両の加速度と速度を測定する別のソースを提供してもよい。また、ロールレートセンサが設けられてもよい。縦方向加速度センサおよび/またはロールレートセンサからの出力をトルク増加率計算モジュール47に提供できる。また、この出力を利用して、前述の方法と同様の方法で、パワートレインのトルク増加率を制限するステップを開始してもよい。
【0040】
図2は、パワートレイン制御システムの実施形態の変形例を示す。システム1aは、トルク要求コントローラ3aと、トルク制限コントローラ5aと、トルク作動コントローラ7aと、トルクアクチュエータ70とを備える。
図2のトルク要求コントローラ3aは、ドライバのトルク要求(例えばアクセルペダル位置、システムのトルク要求、こうした要求はクルーズコンコントロールモジュールが生成する)に応じたトルク要求信号45aを生成するように動作可能である点において、
図1のパワートレイン制御モジュール3と同様の機能を有する。トルク要求信号45aは、トルク作動コントローラ7aに出力される。トルク作動コントローラ7aは、トルク要求信号45aに応じてトルクアクチュエータからトルクを出力する命令を出すように動作可能である。トルク制限コントローラ5aは、車両の動的挙動に応じてトルク制限信号57aを生成するように動作可能である点で、
図1のトルク制限計算機5と同様の機能を有する。特に、車両の動的挙動は、ヨーセンサ、ステアリングホイール角度センサ、車輪速度センサおよび横方向加速度計のうちの1つまたはそれ以上の出力に基づいて決定してもよい。検出した複数のパラメータのうちの1つまたはそれ以上と対応する閾値とを比較することにより、トルク制限コントローラはトルク制限信号57を生成するように動作可能である。このトルク制限信号57は、車両が走行している路面に対する車両の吸い付き(保持力)の限界を示す。トルク作動コントローラ7a(例えば電気自動車またはハイブリッド車のインバータである)は、トルク制限信号57aを受信する。また、トルク作動コントローラ7aは、トルク制限信号57aに応じてトルク要求信号45aを有効にするように動作可能である。トルク要求信号45aが有効にされた場合、トルク作動コントローラ7aは、要求された大きさのトルクがトルクアクチュエータ70により出力されるように命令を出すことができる。トルクアクチュエータ70は電気モータであってもよい。あるいは、トルク作動コントローラは、トルク制限信号に基づいて、要求トルクが車両の安定性を損なうだろうと判断した場合、トルク制限信号に従って、トルクアクチュエータから命令されたトルクを制限するように動作可能である。このようにして、安定性が損なわれないように、車両が走行している路面に対する車両の吸い付き(保持力)の限界を超えることが防止される。これは、トルク要求コントローラの異常(不具合)により間違ったトルク要求信号が出され、これによりトルク作動コントローラが車両を作動させたときに車両が不安定になる場合であっても同様である。このようにして、トルク要求モジュールの異常により誤ったトルク要求信号が出されると、動作中であれば車両の安定性が損なわれるおそれがあるところ、これを軽減することが可能となる。
【0041】
この出願人による先の出願(2010年12月2日付けで出願された英国特許出願第1020440.2号)および関連する出願の全体の内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0042】
エンジントルク要求信号とモータトルク要求信号を生成するように構成されたパワートレイン制御モジュール1に関連して本発明を説明してきた。本発明は、これに限定されることなく、他のシステムモジュール(例えば車両監視モジュール)がトルク要求信号を生成する制御システムに実装されてもよい。
【0043】
本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書で説明した実施形態に対して、種々の変更と修正を行うことができると理解されるだろう。