(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、総繊度が1〜80デシテックスでありかつ単糸繊度が0.1デシテックス未満である繊維を含む織物の少なくとも一方の面が、プレス処理、特にカレンダーによってプレス処理(本明細書では、「カレンダー加工」とも称する)されてなる生体管腔グラフト基材(本明細書中では、単に「グラフト基材」とも称する)を提供する。
【0018】
また、本発明は、総繊度が1〜80デシテックスでありかつ単糸繊度が0.1デシテックス未満である繊維から織物を製造し、前記織物の少なくとも一方の面をカレンダー加工することを有する、生体管腔グラフト基材の製造方法を提供する。
【0019】
本発明の生体管腔グラフト基材および生体管腔グラフト基材の製造方法は、単糸繊度が0.1デシテックス未満からなる総繊度:1〜80デシテックスのマルチフィラメントを用い、織構造において好ましくはカバーファクターが1300〜4000である織布をカレンダー等によりプレス処理することによって得られることを特徴とする。
【0020】
さらに、曲率半径の小さい、十分な強度をもつ極めて細繊度のマルチフィラメントを使用して厚みの薄い織布を作成し、かつプレス加工等により、繊維間の空隙サイズおよび空隙率を低減させることにより、柔軟性・透水性・バースト強度に優れたグラフト生地ができることを見出した。
【0021】
本発明の生体管腔グラフト基材は、単糸繊度の小さい0.1デシテックス未満の繊維(総繊度:1〜80デシテックス)を織密度を下げて低密度に織った織布(基材)を、プレス処理(好ましくはカレンダーによるプレス処理)を行うことによって得られることを特徴とする。これにより、小径カテーテルでの輸送が可能となる。また、プレス加工処理によって、元来、繊維間空隙が小さい極細繊維の相互充填作用が効果的に発現するので、厚みが薄いにもかかわらず、目標とする低透水性を達成することができる。また、高分子量ポリマーを使用することにより、繊維自身の引張強度およびその耐加水分解性にも顕著な耐久性能を示し、良好なバースト強度および保持率を達成することが可能となる。
【0022】
さらに、単糸繊度が小さいことにより、繊維の表面積が増加するため、繊維同士の摩擦力が上昇し縫目滑脱性を低く下げることができる事、また微細繊維の微小な再配置により布全体にかかる変形力を吸収することができるので、繊維間のズレによる孔や型崩れが小さく、ステント縫製後の縫製部からの血液漏れを良好に防ぐことができる。
【0023】
上述したように、本発明の生体管腔グラフト基材は、薄くとも、十分な柔軟性、強度及び低い透水性を有する。このため、このようなグラフト基材を用いた本発明の生体管腔グラフトは、細いカテーテルに挿入可能であり、生体管腔グラフトによる治療をさらに低侵襲で行うことができる。
【0024】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0025】
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」及び「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
【0026】
本発明の生体管腔グラフト基材は、総繊度が1〜80デシテックスでありかつ単糸繊度が0.1デシテックス未満である繊維を含む。このため、本発明の生体管腔グラフト基材は、これ以外の繊維(即ち、総繊度が80デシテックスを超えるまたは単糸繊度が0.1デシテックス以上である繊維)を含んでもよいが、好ましくは総繊度が1〜80デシテックスでありかつ単糸繊度が0.1デシテックス未満である繊維のみから構成されることが好ましい。
【0027】
本発明の生体管腔グラフト基材を構成する繊維は、マルチフィラメント(長繊維)である。マルチフィラメントで作製された織物は、外部からの力に柔軟に変形・再配置でき、各フィラメントが局所的にズレ動くことによって柔らかさ(柔軟性)や耐摩耗性を発現できる。ゆえに、マルチフィラメントから作製される織物は、耐摩耗性や柔軟性に優れる。なお、マルチフィラメントは、無撚糸または実撚糸のいずれでもよく、また、捲縮が付与された仮撚糸でもよい。フィラメントおよびマルチフィラメント間の空隙の秩序性、柔軟性、薄膜化、低透水性などを考慮すると、無撚糸、仮撚糸であることが好ましい。また、本発明の生体管腔グラフト基材を構成する繊維は、延伸繊維であってもまたは未延伸繊維であってもいずれでもよい。なお、当該マルチフィラメントを構成するフィラメントの断面は、特に制限されず、円形断面、三角形断面、扁平形断面、中空断面等のいずれであってもよいが、柔軟性や低透水性の観点から、円形断面、扁平形断面が好ましい。
【0028】
上記したように、本発明の生体管腔グラフト基材を構成する繊維はマルチフィラメントである。ここで、繊維を構成するフィラメントの数は特に制限されないが、薄膜化、低透水性などを考慮すると、繊維は、100本以上のマルチフィラメントであることが好ましく、1000〜20000本のマルチフィラメントであることがより好ましい。
【0029】
本発明の生体管腔グラフト基材を構成する繊維は、総繊度が1〜80デシテックス(dtex)でありかつ単糸繊度が0.1デシテックス(dtex)未満である。ここで、総繊度が1デシテックス未満では、取扱いが困難であり、グラフトを良好に形成できない。また、総繊度が80デシテックスを超えると、得られる生体管腔グラフト基材が厚くなり、また、柔軟性も低くなるため、カテーテルを十分細くすることができない。本発明の生体管腔グラフト基材を構成する繊維の総繊度は、好ましくは10〜80デシテックスであり、より好ましくは30〜50デシテックスである。また、本発明の生体管腔グラフト基材を構成する繊維を構成する単糸の繊度は、好ましくは0.0001デシテックス以上0.1デシテックス未満であり、より好ましくは0.0025〜0.05デシテックスである。このような繊維から形成される生体管腔グラフト基材は、嵩張りの低減(薄膜化)及び柔軟性をさらに向上できる。なお、生体管腔グラフト基材を構成する経糸および緯糸の少なくとも一方が、上記総繊度及び単糸繊度を満足すればよいが、経糸および緯糸双方が、上記総繊度及び単糸繊度を満足することが好ましい。また、生体管腔グラフト基材を構成する経糸および緯糸の総繊度及び単糸繊度は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
【0030】
また、本発明の生体管腔グラフト基材を構成する繊維の経糸および緯糸の織密度は、特に制限されないが、繊維の経糸および緯糸の少なくとも一方の織密度が150
本/2.54cm(本/inch
)未満であることが好ましい。このように低密度に織ることによって、生体管腔グラフト基材(人工血管部分)の嵩張りを有効に低減でき、また、柔軟性を向上できる。このため、本発明の生体管腔グラフト基材(ゆえに、生体管腔グラフト)を用いることにより、収納するカテーテルをより細くすることが可能になる。また、経糸および緯糸の一方が上記織密度を満足し、かつ他方が150
本/2.54cm(本/inch
)以上の織密度を有する場合の、他方の経糸および緯糸の織密度は、特に制限されにないが、バースト強度の向上などを考慮すると、好ましくは155〜200
本/2.54cm(本/inch
)であり、より好ましくは170〜190
本/2.54cm(本/inch
)である。なお、経糸および緯糸の織密度は、JIS L1096:2010で規定される。
【0031】
本発明の生体管腔グラフト基材を構成する繊維を構成する材料は、特に制限されず、通常、生体管腔グラフト基材に使用されるのと同様の材料が使用できる。具体的には、ポリエステル、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン66)、ナイロン等の高分子材料が挙げられる。これらの材料は、生体適合性に優れる。これらのうち、強度(バースト強度)の観点から、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレートが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)がより好ましい。
【0032】
ここで、上記高分子材料の分子量は、特に制限されないが、重量平均分子量が、10,000〜50,000であることが好ましく、13,000〜35,000であることがより好ましい。または、上記高分子材料の固有粘度が、0.4〜2.0であることが好ましく、0.6〜1.2であることがより好ましい。このような高分子量または固有粘度を有する高分子材料(特にポリエステル)繊維から製造される生体管腔グラフト基材は、より優れた強度(バースト強度)を発揮できる。このため、本発明の生体管腔グラフト基材が単糸繊度を比較的小さくした繊維から構成される場合には、このような高分子量の高分子材料(特にポリエステル)繊維から製造されると、得られる生体管腔グラフト基材の強度(バースト強度)を高く維持できて、特に好ましい。また、ポリエステルのような加水分解性の高分子材料から生体管腔グラフト基材が構成される場合には、高い分子量を有するものが、加水分解による強度低下が起こりにくくなることから、さらに好ましい。特に、耐加水分解性を考慮すると、上記高分子材料は、重量平均分子量が20,000〜35,000であることおよび固有粘度が0.8〜1.2であることの少なくとも一方を満足することが特に好ましい。このような高分子量および/または固有粘度を有する高分子材料(特にポリエステル)繊維から製造される生体管腔グラフト基材は、加水分解による強度低下をより受けにくい。なお、本明細書において、「重量平均分子量」は、GPC装置を用いて、以下の条件にて、ポリメチルメタクリレートを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用するものとする。
【0034】
また、本明細書において、「固有粘度」は、o−クロロフェノール溶液中、1.2g/100mlの濃度、および35℃の温度において測定した値を採用するものとする。
【0035】
上記したような特定の総繊度及び単糸繊度を有する繊維の製造方法は、特に制限されず、直接紡糸で得ても、または海島型若しくは分割割繊型の複合口金を用いて複合紡糸し、織物とした後に極細化して得てもよい。例えば、特表2005−095686号公報に記載される方法が好ましく使用される。すなわち、本発明に係る特定の総繊度及び単糸繊度を有する繊維は、海島型複合繊維用紡糸口金から、易溶解性重合体からなる海成分と、難溶解性ポリマーからなりかつ前記易溶解性ポリマーよりも低い溶融粘度を有する島成分とを溶融・押出して海島型複合繊維を得、この海島型複合繊維を引き取ることによって、製造される。ここで、島成分は、特に制限されないが、上記生体管腔グラフト基材を構成する繊維を構成する材料が例示できる。海成分は、いかなるポリマーであってもよいが、島成分との溶解速度比が200以上であるポリマーが好ましく使用される。例えば、繊維形成性のポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングリコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。また、ナイロン6は、ギ酸溶解性があり、ポリスチレン・ポリエチレン共重合体はトルエンなど有機溶剤に非常によく溶ける。なかでも、アルカリ易溶解性と海島断面形成性とを両立させるため、ポリエステル系のポリマーとしては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5−ナトリウムイソフタル酸は、得られる共重合体の親水性と溶融粘度の向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は得られる共重合体の親水性を向上させる。なお、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加効果が大きくなるが、酸成分との反応性が低下して、得られる反応生成物は、ブレンド系になるため、耐熱性・紡糸安定性などの点から好ましくない。また、PEGの共重合量が10重量%以上になると、PEGには本来溶融粘度低下作用があるので、得られる共重合体は、本発明の目的を達成することが困難になる。したがって、上記の範囲で、両成分を共重合することが好ましい。
【0036】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる本発明の海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも高いことが好ましい。このような関係がある場合には、海成分の複合重量比率が40%未満のように低くなっても、島同士が互に接合したり、島成分の大部分が互に接合して海島型複合繊維とは異なるものを形成することを抑制・防止できる。
【0037】
好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1〜2.0であり、1.3〜1.5の範囲内にあることがより好ましい。この比であれば、工程の安定性溶融紡糸時に島成分同士の接合を抑制・防止し、紡糸工程を安定的に行うことができる。
【0038】
島成分数は、多いほど海成分を溶解除去して微細繊維を製造する場合の生産性が高くなり、しかも得られる微細繊維も顕著に細くなって、超微細繊維特有の柔らかさ、滑らかさ、光沢感などを発現することができるので、島成分数は25以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましく、500以上であることがさらにより好ましい。ここで、島成分数が25未満の場合には、海成分を溶解除去しても微細単繊維からなるハイマルチフィラメント糸を得ることができない場合がある。なお、島成分数があまりに多くなりすぎると、紡糸口金の製造コストが高くなるだけでなく、紡糸口金の加工精度自体も低下しやすくなるので、島成分数を1000以下とすることが好ましい。
【0039】
また、島成分の径は、10〜1000nmであることが必要であり、好ましくは100〜700nmである。島成分の径を上記範囲とすることによって、繊維構造自身を安定化して、物性及び繊維形態を安定にすることができると共に、超微細繊維特有の柔らかさや風合いを達成できる。また、複合繊維断面内の各島成分は、その径が均一であることが好ましく、これにより海成分を除去して得られる微細繊維からなるハイマルチフィラメント糸の品位及び耐久性を向上できる。
【0040】
さらに、本発明の海島型複合繊維は、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲内にあることが好ましく、特に30:70〜10:90の範囲内にあることが好ましい。上記範囲内にあれば、島成分間の海成分の厚さを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の微細繊維への転換が容易になる。ここで海成分の割合が40%を越える場合には、海成分の厚さが厚くなりすぎ、一方5%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に相互接合が発生しやすくなるおそれがある。
【0041】
本発明の海島型複合繊維において、島成分の切断伸び率が海成分の切断伸び率よりも大きいことが好ましい。また、かつ本発明の海島型複合繊維断面において島成分の径(r)と、前記繊維断面に、その中心を通り、互に45度の角間隔を有する4本の直線を引いたとき、この4直線上にある島成分の間隔の最小値(Smin)、及び繊維径(R)と、前記島間の間隔の最大値(Smax)が下記の式(I)及び(II)を満たしていると、実用に耐えうる機械的強度を有する微細繊維を得ることができる。
【0044】
ただし、前記島間の間隔の測定において、複合繊維の中心部分が海成分により形成されている場合、この中心部分を介して隣り合う島成分間の間隔を除く。上記より好ましくは0.01≦Smin/r≦0.7、Smax/R≦0.08である。Smin/r値が1.0以下であるまたはSmax/R値が0.15以下であれば、当該複合繊維を製造するときの高速紡糸性が達成でき、延伸倍率を上げられるので、得られる海島繊維の延伸糸物性及び海成分溶解除去により得られる微細繊維の機械的強度を向上できる。また、Smin/r値が0.001以上であれば、島同士の接合(膠着)を有効に抑制・防止できる。
【0045】
さらに、本発明の海島型複合繊維は、その互に隣り合う島成分間の間隔が、500nm以下であり、20〜200nmの範囲内にあることが好ましく、この島成分間の間隔が500nm以下であれば、この間隔を占める海成分を溶解除去する間に島成分の溶解があまりまたは全く起こらないため、島成分の均質性を確保し、島成分から形成された微細繊維を、好適に実用に供しうる。
【0046】
上記海島型複合繊維は、例えば下記の方法により容易に製造することができる。すなわち、まず溶融粘度が高く且つ易溶解性であるポリマーと、溶融粘度が低く且つ難溶解性のポリマーとを、前者が海成分で後者が島成分となるように溶融紡糸する。ここで、海成分と島成分の溶融粘度の関係は重要で、海成分の含有比率が低くなって島間の間隔が小さくなると、海成分の溶融粘度が小さい場合には、複合繊維の溶融紡糸口金内において島成分間の流路の一部を海成分が高速流動するようになり、島間に相互接合が起こりやすくなるので好ましくない。
【0047】
この微細繊維用海島型複合未延伸繊維の、室温における荷伸曲線において、海成分の部分破断に相当する降伏点が発現するものもある。これは海成分が島成分よりも早く固化することにより海成分の配向度が進み、一方島成分は海部の影響により配向度が低いために観察される現象である。第1次降伏点は海成分の部分的破断点を意味し(この点を部分破断伸度Ip%とする)、降伏点以降は配向度の低い島成分が伸びる。そして荷重−伸長曲線の破断点では海島両成分がともに破断する(この点を全破断伸度It%とする)。紡糸速度が高くなるほど第1次降伏点が初期段階へ移行することからも、これらの現象を説明できる。もちろん、室温下での荷伸曲線は上記のものに限らず通常の荷伸曲線を示してもよい。
【0048】
本発明の海島型複合繊維の溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど適宜のものを用いることができる。例えば中空ピンや微細孔より押し出された島成分と、その間を埋めるように設計された流路から供給された海成分流とを合流し、この合流体流を次第に細くしながら吐出口より押出して、海島型複合繊維を形成できる限り、いかなる紡糸口金でもよい。例えば、特表2005−095686号公報の
図1及び
図2に記載される紡糸口金が好適に使用できる。
【0049】
吐出された海島型断面複合繊維は、冷却風によって固化される。ここで、紡糸速度は特に制限されないが、生産性や紡糸安定性を考慮すると、好ましくは400〜6000m/分の速度で巻き取られ、より好ましくは1000〜3500m/分である。
【0050】
得られた未延伸繊維は、別途延伸工程をとおして所望の引張り強さ、切断伸び率及び熱収縮特性を有する延伸複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。具体的には60〜190℃、好ましくは75℃〜180℃の予熱ローラー上で予熱し、延伸倍率1.2〜6.0倍、好ましくは2.0〜5.0倍で延伸し、セットローラー120〜220℃、好ましくは130〜200℃で熱セットを実施することが好ましい。予熱温度不足の場合には、目的とする高倍率延伸を達成することができなくなる。セット温度が低すぎると、得られる延伸繊維の収縮率が高すぎるため好ましくない。また、セット温度が高すぎると、得られる延伸繊維の物性が著しく低下するため好ましくない。
【0051】
本発明の製造方法においては、特に微細な島成分径を有する海島型複合繊維を高効率で製造するために、通常のいわゆる配向結晶化を伴うネック延伸(配向結晶化延伸)に先立って、繊維構造は変化させないで繊維径のみを微細化する流動延伸工程を採用することが好ましい。ここで流動延伸を容易とするため、熱容量の大きい水媒体を用いて繊維を均一に予熱し、低速で延伸することが好ましい。このようにすることにより延伸時に繊維構造に流動状態を形成しやすくなり、繊維の微細構造の発達を伴わずに容易に延伸することができる。この予備流動延伸を施す場合には、特に海成分ポリマーおよび島成分ポリマーが共にガラス転移温度100℃以下のポリマーであることが好ましく、なかでもPET、PBT、ポリ乳酸、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステルを用いることが好適である。具体的には、引き取られた複合繊維を60〜100℃、好ましくは60〜80℃の範囲の温水バスに浸漬して均一加熱を施しながら延伸倍率は10〜30倍、供給速度は1〜10m/分、巻取り速度は300m/分以下、特に10〜300m/分の範囲で予備流動延伸を実施することが好ましい。予熱温度不足および延伸速度が速すぎる場合には、目的とする高倍率延伸を達成することができなくなる。
【0052】
前記流動状態で予備延伸された予備延伸繊維は、その強伸度などの機械的特性を向上させるため、60〜150℃の温度で配向結晶化延伸する。この延伸条件が前記範囲外の温度では、得られる繊維の物性が不十分なものとなる。なお、前記延伸倍率は、溶融紡糸条件、流動延伸条件、配向結晶化延伸条件などに応じて設定することができるが、一般にこの配向結晶化延伸条件で延伸可能な最大延伸倍率の0.6〜0.95倍に設定することが好ましい。
【0053】
本発明の海島型複合繊維から海成分を溶解除去して得られる直径10〜1000nmの微細単繊維の繊度のばらつきを表すCV%値は、0〜25%であることが好ましい。より好ましくは0〜20%、さらに好ましくは0〜15%である。このCV値が低いことは、繊度のばらつきが少ないことを意味する。単繊維繊度のばらつきが少ない微細繊維束を用いることにより、ナノレベルで微細単繊維の繊維径のコントロールが可能となる。
【0054】
本発明の海島型複合繊維から海成分を溶解除去して得られ、直径10〜1000nmの微細繊維からなる微細繊維束の引張り強さは1.0〜7.0cN/dtexであり、その切断伸び率が15〜70%、150℃における乾熱収縮率が5〜15%であることが好ましい。前記微細繊維束の物性、特に引張り強さが1.0cN/dtex以上であることが重要である。
【0055】
本発明に係る織物は、上記したようなまたは上記方法によって製造される本発明に係る繊維(糸)を含む(好ましくは、から構成される)織物で構成される布帛であり、本発明の生体管腔グラフト基材を構成する。布帛構造としては、特に制限されず、編物不織布等、通常グラフトの基材として使用されるのと同様の構造が同様にして適用できるが、薄膜化及び強度(バースト強度)などを考慮すると、織物であることが好ましい。また、織物の組織としても、特に制限されず、通常グラフトの基材として使用される組織が同様にして適用できる。具体的には、平織、綾織、朱子織、二重織等が挙げられる。これらのうち、強度及び薄さの点で平織、綾織が好ましく、平織がより好ましい。布帛の形態についても、特に制限されず、一般的な平面上の織物以外に筒状に織り上げた形態であってもよい。
【0056】
本発明に係る織物の作製方法は特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、上記繊維を、経糸1本に対して、緯糸を1〜4本置きに配置するよう平織する方法が使用できる。本発明に係る織物の作製に使用される装置もまた、特に制限されず、公知の装置が同様にして使用できる。例えば、ウォータージェット織機、エアジェット織機、ニードル織機等のシャトルレス織機、フライシャトル織機、タペット織機、ドビー織機、ジャカード織機等が使用できる。製織した生地には必要に応じて精練、リラックス処理を施し、テンター等でヒートセットを行ってもよい。
【0057】
本発明に係る織物は、カレンダーによるプレス処理が施される。この際、カレンダーの表面は繊維を構成するポリマーのガラス転移点または軟化点以上の温度で加熱することが好ましい。このようなカレンダー加工によって、フィラメントおよびマルチフィラメント同士どうしの充填作用が働き、透水率を低く抑えることが可能となる。ここで、加熱温度は、特に制限されないが、例えば、カレンダーの温度を120〜180℃に加熱して処理することが好ましい。また、ニップ圧は10〜100kg/cmが好ましく、処理速度は2〜30m/minであることが好ましい。
【0058】
本発明において、上記カレンダー加工の前後に、本発明に係る織物の少なくとも一方の面を、薄い高分子材料などのフィルム、多孔膜、不織布でコーティングすることで目止めしてもよい。これにより、透水性をより低減して、血液漏れをより良好に抑制・防止することができる。
【0059】
本発明に係る織物のカバーファクター(単位面積当たりの糸の量)は、特に制限されないが、薄膜化、低透水性及び強度(バースト強度)などを考慮すると、好ましくは1300〜4000であり、より好ましくは1400〜3500であり、さらにより好ましくは1500〜3000である。上記範囲であれば、本発明に係る織物は、厚みを薄くしつつ、十分な低透水性及び強度(バースト強度)を発揮できる。本明細書において、カバーファクターは以下の式(III)により算出する。
【0061】
本発明に係る織物の厚さは、特に制限されないが、薄いことが好ましい。具体的には、本発明に係る織物の厚さは、1〜90μmであることが好ましく、20〜80μmであることが好ましく、30〜70μmであることが特に好ましい。このような厚さであれば、本発明の生体管腔グラフト基材(ゆえに、生体管腔用グラフト)を小さく畳んで内径12Fr以下(特に11Fr以下)の細いカテーテルに容易に挿入することができる。また、このような厚さであれば、本発明の生体管腔グラフト基材(ゆえに、生体管腔用グラフト)は、十分な強度及び柔軟性を有する。
【0062】
本発明の生体管腔グラフト基材は、低い透水性を有する。具体的には、本発明の生体管腔グラフト基材は、好ましくは0〜500mL/min/cm
2、より好ましくは0〜300mL/min/cm
2、特に好ましくは0〜200mL/min/cm
2の透水率を有する。このような透水率であれば、グラフト基材からの血液漏れを有効に抑制・防止できる。なお、本明細書中の「透水率」は、下記実施例によって規定される値を意味する。
【0063】
本発明の生体管腔グラフト基材は、高い強度を有する。具体的には、本発明の生体管腔グラフト基材は、好ましくは100〜300N、より好ましくは150〜200Nのバースト強度を有する。このような強度であれば、動脈瘤内に留置(固定)後、本発明の生体管腔グラフト基材用いて製造される生体管腔用グラフトは、動脈瘤を十分密閉し、動脈瘤内への血行圧力を低減し、その結果、動脈瘤の大きさを小さくすることができる。なお、本明細書中の「バースト強度」は、下記実施例によって規定される値を意味する。
【0064】
本発明の生体管腔グラフト基材は、低い縫目滑脱性を有する。具体的には、タテ方向及びヨコ方向の縫目滑脱性(縫製の針穴の拡がり)が共に1.5mm以下であって、且つその平均値が、好ましくは0〜1.5mm、より好ましくは0〜1.2mmであることが特に好ましい。このような低い縫目滑脱性を有するグラフト基材であれば、縫製の針穴の拡がりが低減され、グラフト基材からの血液漏れを有効に抑制・防止できる。なお、本明細書中の「縫目滑脱性」は、下記実施例(縫製の針穴の拡がり評価の項参照)によって規定される値を意味する。
【0065】
したがって、本発明の生体管腔グラフト基材は、生体管腔グラフトに好適に適用できる。ゆえに、本発明は、本発明の生体管腔グラフト基材または本発明の方法によって製造される生体管腔グラフト基材およびステントを有する生体管腔グラフトをも提供する。
【0066】
本発明の生体管腔グラフトは、例えば、生体管腔グラフトのグラフト基材(人工血管部分)、人工血管、人工気管、人工気管支、人工食道などに使用でき、生体管腔グラフトのグラフト基材(人工血管部分)、人工血管に好適に使用できる。なお、本発明の生体管腔グラフト基材は、上記以外の医療用途にも使用できる。上記用途のうち、人工血管には、本発明の生体管腔グラフト基材がそのまま適用できる。また、以下に、本発明の生体管腔グラフト基材を生体管腔グラフトのグラフト基材(人工血管部分)に適用する場合の好ましい実施形態を説明するが、本発明は下記に限定されるものではない。
【0067】
生体管腔グラフトは、人工血管にステントといわれるバネ状の金属(ステント部分)を取り付けた人工血管の一種で、圧縮して細いカテーテルの中に収納して使用する。本発明の生体管腔グラフト基材は、生体管腔グラフトの人工血管部分(グラフト基材)に使用できる。また、上記ステント部分は、自己拡張型ステント若しくはバルーン拡張型ステントまたはこれらを組み合わせた(即ち、バルーン拡張可能な部分と自己拡張可能な部分とを組み合わせた)ハイブリッド型ステントであってもよい。ステント材料としては、特に制限されず、SUS304、SUS316L、SUS420J2、SUS630などのステンレス鋼、金、白金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、アルミニウム、スズおよびニッケル−チタン合金、コバルト−クロム合金、亜鉛−タングステン合金等のそれらの合金などの金属材料が好適に使用できる。本発明の生体管腔グラフトは、少なくとも1つのステントが本発明の生体管腔グラフト基材に縫合糸等により固定されている。
【0068】
また、本発明の生体管腔グラフト基材を生体管腔グラフトに使用する場合の、患者への適用方法もまた特に制限されず、公知方法が同様にして適用できる。例えば、生体管腔グラフトを小さく折り畳んでカテーテルに収納する。ここで、カテーテルの太さは、特に制限されないが、内径12Fr以下(3Fr=1mm)、特に内径11Fr以下であることが好ましい。患者への侵襲を低減できる。次に、このカテーテルを、患者の脚の付け根を4〜5cm切開して大腿動脈を露出させ、大腿動脈内に挿入し、X線透視下で動脈瘤のある部位まで導入する。生体管腔グラフトが動脈瘤のある部位を挟むように存在したことを確認したら、カテーテルから収納してあった生体管腔グラフトを放出・拡張させ、動脈瘤のある部位に留置(固定)する。生体管腔グラフトが動脈瘤のある部位にきちんと留置(固定)したことを確認したら、カテーテルを抜去し、大腿動脈の切開部を閉じる。この方法によって、瘤は生体管腔グラフトで密閉され、動脈瘤内への血行圧力を低減して、その結果、動脈瘤の大きさを小さくすることができる。また、上記方法は、開腹/開胸手術を必要とせず、また、切開部も小さいため、患者の身体にかかる負担が非常に少ない低侵襲な処置である。
【実施例】
【0069】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0070】
実施例1
島成分が固有粘度0.6のポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、海成分:島成分の比が30:70であり、且つ島数が25である海島型複合繊維を単糸とする、総繊度が56dtexであり単糸本数が36本であるマルチフィラメント繊維を、経糸および緯糸に全量配し、経糸密度145
本/2.54cm(本/inch
)、緯糸密度118
本/2.54cm(本/inch
)の平織を製織した(基材1)。得られた基材1から海島型複合繊維の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、60℃にて32%アルカリ減量した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。このようにして得られた基材(基材2)を通常のカレンダー機にて温度160℃、ニップ圧40kg/cm、速度5m/minでプレス処理することによって、グラフト基材1を得た。得られたグラフト基材1を走査型電子顕微鏡SEMで織物表面および経糸および緯糸断面を観察したところ、海成分は完全に溶解除去されて、経糸総繊度が39dtex、緯糸総繊度が39dtexであることを確認した。この総繊度の値と単糸数である900本(海島型複合繊維の単糸の島数に海島型複合繊維の単糸本数を乗じた数)から経糸および緯糸の単糸繊度はどちらも0.043dtexであると算出された。また、構成しているポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量を測定した結果、14500であった。得られたグラフト基材1において、経織密度(経糸密度)は183
本/2.54cm(本/inch
)、緯織密度(緯糸密度)は129
本/2.54cm(本/inch
)であり、カバーファクターCFは1948、厚さが68μm、透水率が57mL/min/cm
2、バースト強度が178Nであった。また、このグラフト基材1にステントを取り付けた状態での適応シース径は、11Frであった。縫目滑脱性はタテ方向が1.4mm、ヨコ方向が0.8mmであり、基材を縫い付けている針穴の広がりは無かった。
【0071】
実施例2
島成分が固有粘度0.6のポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、海成分:島成分の比が30:70であり、且つ島数が836である海島型複合繊維を単糸とする、総繊度が56dtexであり単糸本数が10本であるマルチフィラメント繊維を、経糸および緯糸に全量配し、経織密度(経糸密度)145
本/2.54cm(本/inch
)、緯織密度(緯糸密度)118
本/2.54cm(本/inch
)の平織を製織した(基材3)。得られた基材3から海島型複合繊維の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、60℃にて32%アルカリ減量した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。このようにして得られた基材(基材4)を通常のカレンダー機にて温度160℃、ニップ圧40kg/cm、速度5m/minでプレス処理することによって、グラフト基材2を得た。得られたグラフト基材2を走査型電子顕微鏡SEMで織物表面および経糸および緯糸断面を観察したところ、海成分は完全に溶解除去されて、経糸総繊度が39dtex、緯糸総繊度が39dtexであることを確認した。この総繊度の値と単糸数である8360本(海島型複合繊維の単糸の島数に海島型複合繊維の単糸本数を乗じた数)から経糸および緯糸の単糸繊度はどちらも0.0047dtexであると算出された。また、構成しているポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量を測定した結果、14500であった。また、得られたグラフト基材2において、経織密度は177
本/2.54cm(本/inch
)、緯織密度は128
本/2.54cm(本/inch
)であり、カバーファクターCFは1905、厚さが65μm、透水率が168mL/min/cm
2、バースト強度が157Nであった。また、このグラフト基材2にステントを取り付けた状態での適応シース径は、11Frであった。縫目滑脱性はタテ方向が1.2mm、ヨコ方向が1.0mmであり、基材を縫い付けている針穴の広がりは無かった。
【0072】
実施例3
島成分が固有粘度1.0のポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、海成分:島成分の比が30:70であり、且つ島数が836である海島型複合繊維を単糸とする、総繊度が56dtexであり単糸本数が10本であるマルチフィラメントを、経糸および緯糸に全量配し、経織密度145
本/2.54cm(本/inch
)、緯織密度118
本/2.54cm(本/inch
)の平織を製織した(基材5)。得られた基材5から海島型複合繊維の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、60℃にて32%アルカリ減量した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。このようにして得られた基材(基材6)を通常のカレンダー機にて温度160℃、ニップ圧40kg/cm、速度5m/minでプレス処理することによって、グラフト基材3を得た。得られたグラフト基材3を走査型電子顕微鏡SEMで織物表面および経糸および緯糸断面を観察したところ、海成分は完全に溶解除去されて、経糸総繊度が39dtex、緯糸総繊度が39dtexであることを確認した。この総繊度の値と単糸数である8360本(海島型複合繊維の単糸の島数に海島型複合繊維の単糸本数を乗じた数)から経糸および緯糸の単糸繊度はどちらも0.0047dtexであると算出された。また、構成しているポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量を測定した結果、24700であった。また、得られたグラフト基材3において、経織密度は185
本/2.54cm(本/inch
)、緯織密度は133
本/2.54cm(本/inch
)であり、カバーファクターCFは1986、厚さが69μm、透水率が128mL/min/cm
2、バースト強度が180Nであった。また、このグラフト基材3にステントを取り付けた状態での適応シース径は11Frであった。縫目滑脱性はタテ方向、ヨコ方向ともに1.0mmであり、基材を縫い付けている針穴の広がりは無かった。
【0073】
比較例1
総繊度44dtexのポリエチレンテレフタレート(PET)マルチフィラメント(単糸繊度=1.6dtex、固有粘度0.6のポリエチレンテレフタレート(PET)から形成)を紡糸して、経糸163
本/2.54cm(本/inch
)、緯糸124
本/2.54cm(本/inch
)の平織を製織した(比較グラフト基材1)。構成しているポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量を測定した結果、14900であった。この比較グラフト基材1において、カバーファクターCFが1904、厚さが120μm、透水率が200mL/min/cm
2、バースト強度が176Nであった。この比較グラフト基材1を取り付けた状態での適応シース径は13Frであった。また、縫目滑脱性は未測定(NA)だが、基材を縫い付けている針穴の広がりはほとんど無かった。
【0074】
比較例2
総繊度44dtexのポリエチレンテレフタレート(PET)マルチフィラメント(単糸繊度=1.6dtex、固有粘度0.6のポリエチレンテレフタレート(PET)から形成)を紡糸して、経糸163
本/2.54cm(本/inch
)、緯糸124
本/2.54cm(本/inch
)の平織を製織した(比較グラフト基材2)。構成しているポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量を測定した結果、14900であった。このようにして得られた比較グラフト基材2を通常のカレンダー機にて温度150℃、ニップ圧100kg/cm、速度10m/minでプレス処理、比較グラフト基材2を得た。この比較グラフト基材2において、カバーファクターCFが1904、厚さが80μm、透水率が49mL/min/cm
2、バースト強度が176Nであった。この比較グラフト基材2を取り付けた状態での適応シース径は13Frであった。また、縫目滑脱性は未測定(NA)だが、基材を縫い付けている針穴の広がりはほとんど無かった。
【0075】
比較例3
経糸として総繊度56dtexのポリエチレンテレフタレート(PET)マルチフィラメント(単糸繊度=2.0dtex、固有粘度0.6(重量平均分子量:15000程度)のポリエチレンテレフタレート(PET)から形成)および緯糸として総繊度84dtexのポリエチレンテレフタレート(PET)マルチフィラメント(単糸繊度=2.0dtex、固有粘度0.6のポリエチレンテレフタレート(PET)から形成)を用いて紡糸して、経糸112
本/2.54cm(本/inch
)、緯糸84
本/2.54cm(本/inch
)の平織を製織した(比較グラフト基材3)。構成しているポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量を測定した結果、15000であった。このようにして得られた比較グラフト基材3を通常のカレンダー機にて温度150℃、ニップ圧100kg/cm、速度10m/minでカレンダー処理、比較グラフト基材3を得た。この比較グラフト基材3において、カバーファクターCFが1608、厚さが62μm、透水率が20mL/min/cm
2であった。バースト強度は149Nであった。この比較グラフト基材3を取り付けた状態での適応シース径は11Frであった。また、縫目滑脱性はタテ方向が1.9mm、ヨコ方向が2.0mmであり、針穴の広がりが確認できた。
【0076】
比較例4
総繊度44dtexのポリエチレンテレフタレート(PET)マルチフィラメント(単糸繊度=2.2dtex、固有粘度1.0のポリエチレンテレフタレート(PET)から形成)を紡糸して、経糸129
本/2.54cm(本/inch
)、緯糸119
本/2.54cm(本/inch
)の平織を製織した(比較グラフト基材4)。このようにして得られた比較グラフト基材4を通常のカレンダー機にて温度160℃、ニップ圧40kg/cm、速度5m/minでプレス処理、比較グラフト基材4を得た。構成しているポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量を測定した結果、25000であった。この比較グラフト基材4において、カバーファクターCFが1645、厚さが72μm、透水率371mL/min/cm
2であった。また、バースト強度は153Nであった。この比較グラフト基材4を取り付けた状態での適応シース径は11Frであった。また、縫目滑脱性は縦方向に1.4mm、横方向に1.7mmであり、針穴の広がりが確認できた。
【0077】
比較例5
島成分が固有粘度0.6のポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、海成分:島成分の比が30:70であり、且つ島数が836である海島型複合繊維を単糸とする、総繊度が56dtexであり単糸本数が10本であるマルチフィラメント繊維を、経糸および緯糸に全量配し、経糸密度145
本/2.54cm(本/inch
)、緯糸密度118
本/2.54cm(本/inch
)の平織を製織した(基材7)。得られた基材7から海島型複合繊維の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、60℃にて32%アルカリ減量した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行い、比較グラフト基材5を得た。得られた比較グラフト基材5を走査型電子顕微鏡SEMで織物表面および経糸および緯糸断面を観察したところ、海成分は完全に溶解除去され、経糸総繊度が39dtex、緯糸総繊度が39dtexであることを確認した。この総繊度の値と単糸数である8360本(海島型複合繊維の単糸の島数に海島型複合繊維の単糸本数を乗じた数)から経糸および緯糸の単糸繊度はどちらも0.0047dtexであると算出された。また、構成しているポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量を測定した結果、14500であった。また、得られた比較グラフト基材5において、経織密度は165
本/2.54cm(本/inch
)、緯織密度は142
本/2.54cm(本/inch
)であり、カバーファクターCFは1917、厚さが100μm、透水率が1573mL/min/cm
2、バースト強度が129Nであった。また、この比較グラフト基材5にステントを取り付けた状態での適応シース径は、11Frであった。縫目滑脱性は未測定だが、基材を縫い付けている針穴の広がりは無かった。
【0078】
[生体管腔グラフト基材の性能評価]
上記実施例及び比較例で得られた、グラフト基材(生体管腔グラフト基材)1〜3及び比較グラフト基材1〜5について、下記評価を行った。結果を下記表1に示す。
【0079】
<固有粘度>
固有粘度は、オルソクロロフェノールを溶媒として使用し、1.2g/100mlの濃度で、35℃で測定した。
【0080】
<重量平均分子量>
重量平均分子量は、GPC装置を用いて、以下の条件にて、ポリメチルメタクリレートを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した。
【0081】
【化2】
【0082】
<厚さ測定>
各グラフト基材の長手方向にわたる全厚さをシックネスゲージで測定する。
【0083】
<透水率>
グラフト基材の透水率を、ISO7198に従い、測定する。具体的には、各グラフト基材を約2cm×2cmの大きさにカットして、サンプルを作製する。次に、
図1に示される透水率測定装置10に、このサンプルをサンプル設置部(穴)11に挟み込んでセットして、圧力計13で水圧を確認しながら水12を流して、120mmHgの水圧をかけたときに1分間にこのサンプルから染み出してくる水の量を測定し、透水率(mL/min/cm
2)として表す。
【0084】
<適応シースサイズ(適応シース径)>
下記方法に従って、グラフト基材の適応シースサイズを測定する。すなわち、
図2Aに示されるように、各グラフト基材を円筒形(直径:26mm、長さ:32mm)に縫い合わせ、グラフト2を作製する。次に、このグラフト2に、φ28mmのリング状のニッケル−チタン製のステント3を5本、8mmの間隔で縫い付ける。また、この円筒形基材の末端にチューブ内をスライドさせるための糸4をとりつける(
図2B)。直径1.5mmのSUS線5をシャフトとして、様々な径のPTFEチューブ(シース)6に入れ、スライディングフォースを測定する。ここで、スライディングフォースが40N以下となる最細のPTFEチューブ(シース)の直径を確認し、適応シースサイズとする。なお、本試験において、スライディングフォースは、引張試験機にPTFEチューブ(シース)をセットして、PTFEチューブ内で200mm/minの速度で、糸を介してグラフト基材を引張り、荷重を測定する。引張りはじめから、3〜5秒にかかる荷重の平均値を算出し、これをスライディングフォース(N)とする。
【0085】
<バースト強度>
グラフト基材のバースト強度を、ISO7198に従い、測定する。具体的には、各グラフト基材を約3cm×3cmの大きさにカットして、サンプルを作製する。これを、
図3に示されるように、各グラフト基材(サンプルを)を測定装置20の直径11.3mmのサンプル設置部(穴)21に挟み込んでセットする。このサンプルに、先端が球状の押し子(直径:11.3mm)22を125mm/minの速度で押し込み、グラフト基材が破れる時の荷重(N)を測定し、これをバースト強度とする。
【0086】
<縫目滑脱性>
縫目滑脱性を、JIS L1096 8.23.1 b)(縫目滑脱法 B法)(2010年)に従い、測定する。具体的には、各グラフト基材から、10cm×17cmの試験片をタテ方向及びヨコ方向にそれぞれ5枚採取する。この試験片を中表にして長さの半分に折り、折目を切断し、
図4Aのように切断端から1cmのところを下記の条件で縫い合わせる。
【0087】
(縫い合わせ条件)
縫目形式:縫目形式は、本縫とする;
縫目数:縫目数は、5目/cmとする;
ミシン針の種類:ミシン針の種類は、普通針#11とする。
【0088】
引張試験機を用いて、グラブ法によってつかみ間隔 7.62cmとしてつかみ、30cm/minの引張速度で、49.0N(5kgf)の荷重を与えた後、試験片をつかみから取り外し、1時間保持後、縫目付近のたるみが消える程度の荷重(約20N)を縫目に直角方向に加え、縫目の滑りの最大孔の大きさを0.1mmの単位まで測定する。ここで、縫目の滑りの大きさは、
図4Bのように「a+a’(mm)」の値とする。タテ方向及びヨコ方向それぞれ5回の平均値を算出し、小数点以下1けたに丸める。ただし、「タテ方向の滑脱」とは、経糸上の緯糸の滑脱をいい、「ヨコ方向の滑脱」とは、緯糸上の経糸の滑脱をいう。
【0089】
<針穴の広がり>
下記方法に従って、針穴の広がりを確認する。すなわち、前述の適応シースサイズの測定方法に記載されている方法でグラフト2を作製する。次に、この円筒形基材の末端にチューブ内をスライドさせるための糸4をとりつける(
図2B)。直径1.5mmのSUS線5をシャフトとして、適応シースサイズの内径を持つPTFEチューブ(シース)に入れる。その後、糸4を持ってPTFEチューブからグラフト2を引き出し、ステント3を縫い付けている縫目が広がっているかについて、グラフト2の内腔側から拡大鏡等を用いて確認する。
【0090】
<加水分解による強度低下>
(加水分解条件)
約6cm×12cmの大きさにカットした、実施例2、実施例3、比較例1のグラフト基材を各6枚用意する。これを、密閉容器に入れ、さらに十分な量のリン酸緩衝生理食塩水を加えてカットしたグラフト基材を完全に浸漬させ、90℃のオーブンに入れて静置する。静置後7、14、21、28、35、42日後に、基材毎に1枚ずつとりだし、これを水で洗浄したのち、室温で乾燥させる。
【0091】
(バースト強度の変化)
加水分解処理後の各基材から、約3cm×3cmの大きさにカットしたサンプルを作製する。これをバースト強度測定の測定方法に従い、バースト強度を測定する。加水分解処理を行っていないサンプルのバースト強度を、初期値(0日後)とし、バースト強度値を縦軸、90℃での加水分解日数を横軸としたグラフを作成した。結果を下記表2及び
図6に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
上記表1及び
図5から、本発明のグラフト基材1〜3は、厚さは薄いものの、低透水性及び高い強度(バースト強度)を両立していることが分かる。また、本発明のグラフト基材1〜3は、11Frのカテーテルに挿入可能であり、比較例1(従来基材)や比較例2(従来基材をカレンダー加工した基材)と比べて2Frのステントグラフトシステム細径化が実現されることも示される。本発明のグラフト基材1の縫目滑脱性はタテ方向が1.4mm、ヨコ方向が0.8mmであり、タテ方向とヨコ方向の平均値は1.2mm、グラフト基材2の縫目滑脱性はタテ方向が1.2mm、ヨコ方向が1.0mmであり、タテ方向とヨコ方向の平均値は1.1mm、グラフト基材3の縫目滑脱性はタテ方向、ヨコ方向ともに1.0mmとなり、いずれの基材においても針穴の広がりは認められなかった。特に本発明のグラフト基材3は、バースト強度が180Nと、同様の繊維を用いた実施例2のグラフト基材2に比べて、高い強度を示した。このバースト強度の向上は、PETの固有粘度を上げる(PETを高分子量化する)ことによって達成されたと、考察される。
【0095】
これに対して、比較グラフト基材1は、強度は高いものの、13Frまでのカテーテルにまでしか挿入できない。また、比較グラフト基材2は、厚さは減ったものの、太いフィラメント(単糸繊度が1.6dtex)を持つマルチフィラメントの糸から構成されており、さらにカバーファクター(単位面積当たりの糸の量)が変わらないことから、ステントを取り付けた状態での適応シース径は13Frと細くならなかった。比較グラフト基材3は、カバーファクターを下げた(低密度に織った)ため、適当シース径は11Frと小径にできたものの、強度(バースト強度、糸保持強度)が低下した。また、縫目滑脱性はタテ方向が1.9mm、ヨコ方向が2.0mmと高い値を示し、縫目の針穴の広がりがありも認められ、血液の漏出(タイプIVエンドリーク)を引き起こすおそれがあると考察される。比較グラフト基材4は、比較例3同様にカバーファクターが小さいことから、ステントを取り付けた状態での適応シース径は11Frと細くすることができ、また、糸材料(PET)の分子量を増加させた(固有粘度を上げた)ため、強度(バースト強度、糸保持強度)は向上できたものの、縫目滑脱性はタテ方向が1.4mm、ヨコ方向が1.7mmであり、タテ方向とヨコ方向の平均値は1.6mmと高い値を示し、縫目の針穴の広がりがありも認められ、血液の漏出(タイプIVエンドリーク)を引き起こすおそれがあると考察される。比較グラフト基材5は、グラフト基材2と同様と同様な織物であるが、カレンダー加工を行わなかったため、透水率が1573mL/min/cm
2となり、血液の漏出(タイプIVエンドリーク)を引き起こすおそれがあると考察される。
【0096】
本発明のグラフト基材2は、比較グラフト基材1と同程度の重量平均分子量をもつ(同じ固有粘度値をもつ)ポリエチレンテレフタレートからなり、さらにカバーファクターの値も同程度であるが、細いフィラメントから構成されている(本発明のグラフト基材2の単糸繊度が0.0047dtex、比較グラフト基材1の単糸繊度が1.6dtex)ことから、比較グラフト基材1と比べると強度(バースト強度)は低く、
図6からわかるように加水分解による強度低下(バースト強度の低下)も早い。しかしながら、本発明のグラフト基材3のように高分子量の(高い固有粘度値をもつ)ポリエチレンテレフタレートから構成されたグラフト基材は、強度(バースト強度)も高く、加水分解による強度低下(バースト強度の低下)も太いフィラメントから構成されている比較グラフト基材1と同程度になっていることから、加水分解に対する耐性も向上していると考察される。
【0097】
本出願は、2013年7月10日に出願された日本特許出願番号2013−144259号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。