特許第6091645号(P6091645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091645
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】天然中性風味調味素材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/22 20160101AFI20170227BHJP
   A23L 27/23 20160101ALI20170227BHJP
   A23L 27/24 20160101ALI20170227BHJP
   C12P 19/32 20060101ALI20170227BHJP
   C12P 13/14 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   A23L27/22
   A23L27/23 Z
   A23L27/24
   C12P19/32 Z
   C12P13/14 C
【請求項の数】24
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-545392(P2015-545392)
(86)(22)【出願日】2014年2月25日
(65)【公表番号】特表2016-503305(P2016-503305A)
(43)【公表日】2016年2月4日
(86)【国際出願番号】KR2014001490
(87)【国際公開番号】WO2015012466
(87)【国際公開日】20150129
【審査請求日】2015年5月28日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0086977
(32)【優先日】2013年7月23日
(33)【優先権主張国】KR
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514158497
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(72)【発明者】
【氏名】イ・ソンフン
(72)【発明者】
【氏名】オム・ソヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク・ジェスン
(72)【発明者】
【氏名】オ・ユンソン
(72)【発明者】
【氏名】イ・グァンヒ
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ソクミン
(72)【発明者】
【氏名】カン・デイク
(72)【発明者】
【氏名】チョン・ウォンデ
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−108955(JP,A)
【文献】 特開2007−151551(JP,A)
【文献】 特表2012−521205(JP,A)
【文献】 特表2008−509661(JP,A)
【文献】 特表2004−516833(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/043114(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/033205(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/070231(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/
C12P
CA/FSTA/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPLUS/JMEDPLUS/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カビで植物性タンパク質原料を発酵させて穀物発酵液を得る工程;
(b)コリネバクテリウム属又はブレビバクテリウム属の微生物で前記穀物発酵液を発酵させてイノシン−5’−モノリン酸(IMP)発酵液及びグルタミン酸発酵液を製造する工程;
(c)前記IMP発酵液を電気透析する工程;及び
(d)工程(b)のグルタミン酸発酵液と、工程(c)のIMP発酵液を混合する工程を含む、天然中性風味調味素材の製造方法。
【請求項2】
工程(d)において、工程(a)の穀物発酵液を混合する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記中性風味調味素材は、任意の追加成分を添加することなく、前記発酵液だけを用いて製造される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記中性風味調味素材は、追加的な化学工程を発酵液に加えることなく、前記発酵液を用いて製造される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記植物性タンパク質原料が、大豆、トウモロコシ、米、小麦及び小麦グルテンからなる群より選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記カビが、アスペルギルス属(Aspergillus sp.)の微生物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記アスペルギルス属の微生物が、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記コリネバクテリウム属の微生物が、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記コリネバクテリウム属の微生物が、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記IMP発酵液及びグルタミン酸発酵液が、0.2:1〜5:1の比率で混合される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
前記IMP発酵液とグルタミン酸発酵液を製造するための細菌発酵用培地組成が、食品原料を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
前記細菌発酵用培地組成が、カルシウム−パントテネート(calcium pantothenate、CAPA)を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記IMP発酵液を製造するための細菌発酵用培地が、グルコース、フルクトース、硫酸マグネシウム、リン酸、水酸化カリウム及び穀物発酵液を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項14】
前記グルタミン酸発酵液を製造するための細菌発酵用培地が、グルコース、フルクトース、原糖、ベタイン、硫酸マグネシウム、リン酸カリウム及びリン酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項15】
前記グルタミン酸発酵液を製造するための細菌発酵用培地の炭素源が、原糖(raw sugar)である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項16】
工程(b)で製造されたIMP発酵液中のIMP濃度が、50g/L〜150g/Lである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
工程(b)で製造されたIMP発酵液における固形分中のIMP含量が、30wt%以上である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項18】
工程(b)で製造されたグルタミン酸発酵液中のグルタミン酸濃度が、75g/L〜150g/Lである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項19】
工程(b)で製造されたグルタミン酸発酵液における固形分中のグルタミン酸含量が、50wt%以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項20】
工程(c)において、グルタミン酸発酵液を電気透析する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項21】
工程(c)の前に、IMP発酵液及びグルタミン酸発酵液に活性炭を処理する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項22】
前記発酵液を活性炭で処理した後に、処理した培養液を遠心分離又は濾過する工程をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記発酵液を活性炭で処理する前に、発酵液を70〜90℃の温度で15〜60分間加熱して細胞溶解を誘導する工程をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
工程(d)で発酵液を濃縮し、前記濃縮産物を乾燥して粉末に製造する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然中性風味調味素材(neutral flavor)の製造方法に関するもので、より具体的には、第1発酵工程であるカビ発酵及び第2発酵工程である細菌発酵を含む2段階の発酵過程により製造されたイノシン−5’−リン酸(inosine−5’−monophosphate、IMP)発酵液又はグルタミン酸(glutamic acid)発酵液を用いて天然中性風味調味素材を製造する方法、前記方法により製造された天然中性風味調味素材、及び前記天然中性風味調味素材を含む食品組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸及びペプチドは、調味素材の成分として用いられており、最近では、大豆、小麦又はトウモロコシなどの植物性タンパク質原料を、カビ、バチルス、乳酸菌又は酵母などの微生物で発酵させ、前記発酵産物を加水分解することにより抽出されるアミノ酸とペプチドを含む天然調味素材が、様々な方法によって開発されている。
【0003】
一般的に、前記植物性タンパク質原料の加水分解率(degree of hydrolysis)を高めることで遊離される呈味成分(アミノ酸及びペプチド)を改善したり、量の観点から収率を高めることで価格競争率を増進させる技術が開発されている。しかし、植物性タンパク質原料のみを用いる場合、最終的な調味素材中に核酸成分が存在しないため、調味素材中の旨味の強度が弱いという欠点がある。さらに、調味素材は、その商業的価値を高めるために、イノシン一リン酸(IMP)又はグアノシン一リン酸(Guanosine monophosphate、GMP)などの核酸と共にグルタミン酸を含むことが求められている。
【0004】
最近では、前述した植物性タンパク質加水分解物の欠点を克服するために、酵母抽出物などの天然の核酸含有素材が一般的に用いられている。しかし、前記酵母抽出物は、特有の発酵臭に起因する異味と異臭が加工食品の持つ固有の風味に悪影響を与えるため、該核酸の含量が制限される(最大の核酸含量:20%)。さらに、天然の加工食品に使用するための植物性タンパク質素材と酵母抽出物の混合は、グルタミン酸ナトリウム(monosodium glutamate、MSG)、核酸IG又は植物性タンパク質加水分解物(Hydrolyzed vegetable protein、HVP)などの既存の調味素材に比べ、価格競争力が低いという欠点がある。
【0005】
一方、IMPは、GMPと共に食品調味料の添加剤として広く使用されている物質である。特に、IMPは、グルタミン酸ナトリウム(MSG)と一緒に使用する場合、味における相乗効果が大きいことから、核酸系調味料の成分として脚光を浴びている。
【0006】
調味素材として使用するためのIMP及びGMPを発酵させる方法としては、酵母のRNAを分解する方法と、イノシン及びグアノシンの製造後に2段階(発酵と化学的手法によるリン酸化)によりIMPとGMPを製造する方法を含む。しかし、最近では、ヨーロッパを含む様々な国で、天然調味料に対する基準が強化され、規制がより厳しくなるにつれ、調味素材を天然成分だけで製造せずに、化学的手法による工程、或いは追加成分を添加して製造することは、天然調味素材として認めなくなった。このような理由から、天然の核酸成分は、細菌で糖を直接発酵させる方法を用いて製造しなければならない。
【0007】
このような状況下で、本発明者らは、任意の化学過程を行うことなく、追加成分を含まない天然中性風味調味素材を製造するために広範な努力をした結果、第1発酵工程であるカビ発酵及び第2発酵工程である細菌発酵を含む2段階の発酵過程により生産されたIMP又はグルタミン酸発酵液を使用する場合、後続反応のために発酵液だけを使用しても様々な種類の調味素材を効果的に製造できることを発見し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国特許公報第10−1191010号
【特許文献2】韓国特許公報第10−2007−000507号
【特許文献3】韓国特許公報第10−2000−0029174号
【特許文献4】韓国特許公報第10−0397321号
【特許文献5】韓国特許公報第10−0264740号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の1つの目的は、第1発酵工程であるカビ発酵、及び第2発酵工程である細菌発酵により製造されたイノシン−5’−モノリン酸(IMP)発酵液又はグルタミン酸発酵液を用いて、任意の化学過程を行うことなく、追加成分を含まない天然中性風味調味素材を製造する方法を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、前記方法によって製造された天然中性風味調味素材を提供することである。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、前記天然中性風味調味素材を含む食品組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するための一態様として、本発明は、(a)カビで植物性タンパク質原料を発酵させて穀物発酵液を得る工程;(b)細菌で前記穀物発酵液を発酵させてイノシン−5’−モノリン酸(IMP)発酵液及びグルタミン酸発酵液を製造する工程;(c)前記IMP発酵液を電気透析する工程;及び(d)工程(b)のグルタミン酸発酵液と、工程(c)のIMP発酵液を混合する工程を含む天然中性風味調味素材の製造方法を提供する。
【0013】
図1に本発明による天然調味素材の製造方法を概略的に示す。
【0014】
具体的には、グルタミン酸発酵液、IMP発酵液及び穀物発酵液は、第1発酵工程であるカビ発酵、及び第2発酵工程である細菌発酵により製造され、それぞれの調味素材に適した反応又は処理工程である第3工程に供されることによって、それぞれの天然調味素材を製造することができる。
【0015】
従って、本発明は、天然調味素材を製造するために、天然IMP発酵液及びグルタミン酸発酵液を原料として使用し、第1発酵工程であるカビ発酵及び第2発酵工程である細菌発酵を含む2段階の発酵過程により製造されることを特徴とする。
【0016】
前記第1発酵工程であるカビ発酵は、タンパク質原料を用いてペプチド及びアミノ酸を製造する工程である。第1発酵工程であるカビ発酵だけを行う場合、多量のペプチド及びアミノ酸を製造することができるため、調味素材として使用され得るグルタミン酸の生産が可能である。しかし、旨味(umami taste)を出し得るIMP又はグアノシン一リン酸(GMP)などの核酸物質は生産できないという欠点がある。さらに、植物性タンパク質原料を使用する場合、単にタンパク質を分解する工程のみを経るため、生産できるペプチド及びアミノ酸がタンパク質自体の濃度又は含量に依存するという問題がある。例えば、豆を使用する場合、生産される発酵液中のグルタミン酸含量が10%未満であり、小麦グルテンを使用する場合、生産される発酵液中のグルタミン酸含量が15%未満である。
【0017】
一方、前記第2発酵工程である細菌発酵は、核酸及びグルタミン酸発酵液を製造する工程である。第2発酵工程である細菌発酵のみを行う場合、核酸及びグルタミン酸を効果的に生産することはできるが、他のアミノ酸及びペプチドの含量が1%未満の濃度で生産されるため、細菌発酵液は、旨味には優れているものの、調味素材として使用できないという欠点がある。言い換えれば、細菌発酵だけにより得られた発酵液を調味素材として使用するためには、発酵液を食品に適用できるように発酵液に追加成分を添加しなければならないという欠点がある。
【0018】
従って、本発明者らは、前記カビ発酵工程及び細菌による発酵過程の欠点を克服すると共に、任意の追加成分を添加することなく、製造された発酵液だけを用いることで、任意の化学工程を行わずに天然調味素材を製造する方法を開発した。
【0019】
前記2段階の発酵過程を用いて、核酸及びグルタミン酸発酵液を製造するためには、炭素源及び窒素源と共に様々な無機塩、アミノ酸及びビタミン類が必要である。特に、既存の技術では、酵母抽出物又は植物性タンパク質加水分解物(HVP)が窒素源として使用されたが、この場合、最終発酵液は異味と異臭があり、収率が多少低いという欠点があった。さらに、細菌発酵で使用される様々な物質に依存して全体的な風味だけでなく、最終培養液の調味成分の含量に大きな差が生じる。従って、本発明では、カビ発酵(第1発酵工程)により得られ、窒素源としての役割を果たしながら、多様なアミノ酸及びペプチドを含むことができる穀物発酵液(穀物タンパク質加水分解物)を、第2発酵工程である細菌発酵の基質として用いた。
【0020】
細菌を用いて核酸又はMSGを製造する既存の工程では、培養液中の核酸及びMSGの濃度、並びに収率を増加させることだけが主に重要視されていた。このような増加は、旨味を向上させるには効果的であるが、場合によっては、最終調味素材の風味に悪影響を与える場合がある。しかし、本発明の3段階を用いて製造した様々な天然調味素材は、様々なアミノ酸、糖類、有機酸及び無機イオン等だけでなく、旨味成分であるIMP及びグルタミン酸の濃度を調節することによって風味を向上させることができるという利点がある。
【0021】
以下、本発明の方法における天然調味素材の製造方法に関する各工程について説明する。
【0022】
本発明における工程(a)の方法は、カビで植物性タンパク質原料を発酵させて穀物発酵液を得る工程である。
【0023】
工程(a)では、カビ発酵が植物性タンパク質原料を用いて行われるため、様々なアミノ酸及びペプチドを含み、また、第2発酵工程である細菌発酵において窒素源として使用され得るグルタミンなどの成分を含む、穀物発酵液を得ることができる。具体的には、穀物原料を基質にしてカビを培養することで、タンパク質分解酵素を含有する細胞培養液を製造し、その後、これを植物性タンパク質原料に添加し、次いで加水分解することによって、穀物タンパク質加水分解物を製造することができる。その後、穀物タンパク質加水分解物を濾過し細胞を除去することで、穀物発酵液を製造することができる。該穀物タンパク質加水分解物は、第2発酵工程である細菌発酵に窒素源を供給するために、全窒素含量が2%(w/v)以上であってもよい。
【0024】
前記植物性タンパク質原料として、カビで発酵させることのできるものであれば、本発明において当業界に公知の任意の原料を使用してもよい。前記植物性タンパク質原料の例としては、これらに限定されるものではないが、大豆、トウモロコシ、米、小麦、小麦グルテンなどを含む。一方、小麦グルテンを使用する場合、多量のグルタミンを含有しているため、細菌発酵の収率を向上させることができるという利点がある。従って、好ましくは、前記植物性タンパク質原料として小麦グルテンを使用してもよい。
【0025】
前記カビとして、植物性タンパク質原料を発酵させて本発明の穀物発酵液を製造できるものであれば、本発明で使用され得る任意のカビを使用してもよい。本発明で使用されるカビは、アスペルギルス属(Aspergillus sp.)の微生物を使用するのが好ましく、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)又はアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)の微生物を使用することがより好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本発明の一実施例において、特許文献1(PCT国際公開WO2011−046249号に対応)に記載されているように、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、CJCC_080124P(KCCM11026P)を使用して第1発酵工程であるカビ発酵を行った。
【0027】
本発明における用語「穀物発酵液」とは、カビで植物性タンパク質原料(穀物)を発酵させることによって得られる産物を意味する。前記穀物発酵液は、第2発酵工程である細菌発酵の基質として利用することができ、また、発酵後に濾過及び細胞除去過程により穀物発酵液を得て調味材料を製造する最終工程にも利用することができる。従って、前述のように穀物発酵液は、2つの目的のために用いることができる。
【0028】
工程(b)は、工程(a)で得られた前記穀物発酵液をカビで発酵させてIMP発酵液及びグルタミン酸発酵液を製造する工程である。具体的には、第1発酵工程であるカビ発酵により得られた前記穀物発酵液は、細菌発酵の基質として用いられ、IMP発酵液及びグルタミン酸発酵液は、炭素源を補給した培地で穀物発酵液を細菌発酵に供することによって製造され得る。
【0029】
前記細菌発酵は、当業界に公知の一般的な細菌培養法により行うことができ、好ましくは、フラスコ培養、スケールアップ培養及び本(main)培養の3段階から構成され得る。具体的には、スケールアップを達成するために、1次培養培地及び2次培養培地を用いてフラスコ培養及び拡大培養を行い、その後、持続的に追加糖を供給しながら、本培養培地で工程(a)の穀物発酵液を基質として用いて細菌発酵を行うことで、IMP発酵液及びグルタミン酸発酵液を得た。
【0030】
前記細菌発酵用培地には、グルコース、フルクトースなどの炭素源を含んでもよく、特に、グルタミン酸発酵液を製造するための培地には、炭素源として原糖を含んでもよい。前記培地には、様々な無機塩、ビタミン類、アミノ酸などを含んでもよく、IMP発酵液若しくはグルタミン酸発酵液を製造しようとする目的の発酵産物に合うように前記培地組成を変えてもよい。
【0031】
例えば、前記IMP発酵液を製造する場合、本培養培地には、グルコース、フルクトース、硫酸マグネシウム、リン酸、水酸化カリウム及び穀物発酵液が含まれてもよく、好ましくは、本培養培地には、培地の総体積に対して、4.4〜5.2wt%のグルコース、3.7〜4.3wt%のフルクトース、1.3〜1.7wt%の硫酸マグネシウム、2.0〜2.4wt%のリン酸、1.4〜1.8wt%の水酸化カリウム、及び0.5〜0.9wt%の穀物発酵液を含んでもよい。さらに、グルタミン酸発酵液を製造する場合、本培養培地には、グルコース、フルクトース、原糖、ベタイン、硫酸マグネシウム、リン酸カリウム及びリン酸を含んでもよく、好ましくは、培地の総体積に対して、0.5〜0.7wt%のグルコース、0.9〜1.1wt%のフルクトース、4.5〜5.5wt%の原糖、0.005〜0.015wt%のベタイン、0.3〜0.5wt%の硫酸マグネシウム、0.8〜1.0wt%のリン酸カリウム、及び0.2〜0.4wt%のリン酸を含んでもよい。
【0032】
さらに、前記培地には、必要に応じて少量の他の成分をさらに含んでもよく、例えば、硫酸鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、硫酸亜鉛、CAPA、ニコチンアミド(nicotinamide、NCA)、ビオチン、塩化カルシウム、チアミン、ビタミンCなどを含んでもよい。これらの成分を含む各培地の代表的な例を、表5〜8及び表9〜12に示した。
【0033】
工程(a)におけるカビによる発酵の結果として、前記植物性タンパク質原料は、アミノ酸及びペプチドに分解され、カルシウム、マグネシウム及びリン酸などの無機イオンと、ビタミン類などはタンパク質原料から溶出される。前記カビによる発酵で生成されるアミノ酸は、グルタミン、システイン、メチオニン、バリン、ロイシン 、イソロイシンなどを含み、工程(b)における細菌発酵の窒素源として利用され得る。特に、高濃度のグルタミンは、プリン生合成に必須の成分であり、高含量のイノシン酸及びグルタミン酸生成のための主要なプロモーターとして作用し得る。さらに、前記溶出された無機イオン及びビタミン類は、細菌発酵における細菌菌体の成長にも役に立てる。本発明の実施例において、前記カビ発酵により得られた産物を栄養源として使用する場合、細菌菌体の増殖及び成長がより速くなるのが確認された(図4)。この結果は、本発明の2段階過程の利点をさらに示す。
【0034】
本発明における用語「細菌(bacteria)」とは、工程(a)で得られた穀物発酵液を発酵させて、IMP発酵液及びグルタミン酸発酵液を製造することのできる任意の細菌を意味する。本発明により天然調味素材を製造するために、non−GMO菌株を使用してもよい。本発明で使用される前記細菌は、発酵によりIMP及びグルタミン酸を生産できる当業者に公知の任意の細菌を使用してもよい。例えば、IMP発酵液を製造する場合は、バシラス属(Bacillus sp.)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)又はエシェリヒア属(Escherichia sp.)の微生物を使用してもよく、グルタミン酸発酵液を製造する場合は、コリネバクテリウム属、ミクロバクテリウム属(Microbacterium sp.)、バシラス属、ストレプトミセス属(Streptomyces sp.)、ペニシリウム属(Penicillium sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、アルスロバクター属(Arthrobacter sp.)、セラチア属(Serratia sp.)、カンディダ属(Candida sp.)、クレブシエラ属(Klebsiella sp.)、エルウイニア属(Erwinia sp.)、パンテア属(Pantoea sp.)又はエンテロバクター属(Enterobacter sp.)の微生物を使用してもよい。より好ましくは、本発明で使用される前記細菌は、コリネバクテリウム属の微生物を使用してもよく、最も好ましくは、IMP発酵液を製造するためには、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)を使用してもよく、グルタミン酸発酵液を製造するためには、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)を使用してもよい。さらに、細菌として、先行特許文献に記載されており、IMP及びグルタミン酸を製造する能力を有することが知られている、多様な細菌を使用してもよい。例えば、前記IMP発酵液は、特許文献2(PCT国際公開WO2005−095627号に対応)に記載された細菌であるバシラス属又はエシェリヒア属により製造され、前記グルタミン酸発酵液は、特許文献3(米国特許US7247459号に対応)に記載されたエンテロバクター属又はクレブシエラ属を使用して製造され得るが、これらに限定されるものではない。
【0035】
本発明の一実施例では、IMP発酵液を製造するために、特許文献4(WO国際公開WO2002−051984号に対応)に記載されているように、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス、CJIP009(KCCM−10226)を使用しており、グルタミン酸発酵液を製造するために、特許文献5に記載されているように、コリネバクテリウム・グルタミクム(ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム)、CJ971010(KFCC11039)を使用した。
【0036】
工程(b)における細菌発酵により得られた前記発酵液には、約150g/Lの固形分を有する。本発明では、前記細菌発酵により得られたIMP及び/又はグルタミン酸発酵液が、任意の追加成分を添加することなく、天然調味素材の製造工程に使用されることを特徴とするので、前記発酵液には、所望の成分であるIMP及びグルタミン酸が多量に含むべきである。
【0037】
従って、第1発酵工程であるカビ発酵及び第2発酵工程である細菌発酵により製造されたIMP発酵液における固形分中に、好ましくは、IMP含量が30%以上有してもよく、より好ましくは、50%以上であってもよいが、これらに限定されるものではない。従って、IMP発酵液中のIMP濃度が、好ましくは、50g/L〜150g/Lであってもよく、より好ましくは、70g/L〜130g/Lであってもよい。
【0038】
さらに、第1発酵工程であるカビ発酵により生産される産物にアミノ酸を含むので、IMPに比べ、高濃度及び高収率でグルタミン酸を得ることができる。製造されたグルタミン酸発酵液における固形分中に、グルタミン酸含量が、好ましくは、50%以上、より好ましくは、60%以上有してもよいが、これらに限定されるものではない。従って、グルタミン酸発酵液中のグルタミン酸濃度が、好ましくは、75g/L〜150g/Lであってもよく、より好ましくは、90g/L〜130g/Lであってもよい。
【0039】
前述のように、発酵液中にIMP及びグルタミン酸を高含量で含むため、前記発酵液を乾燥などの過程により粉末化した場合に食品に適宜添加することができる。
【0040】
本発明における用語「調味素材(flavor)」とは、食品の風味を向上させるために添加する物質を意味する。前記調味素材は、味成分によって様々な調味素材に分類することができる。調味素材の具体的例としては、中性風味(neutral)調味素材、牛肉調味素材、鶏肉調味素材、豚肉調味素材及びコク味(kokumi)調味素材を含む。それぞれの調味素材は、本発明の2段階の発酵過程により製造されたIMP発酵液及びグルタミン酸発酵液を用いて製造することができる。その中で、本発明における用語「中性風味調味素材(neutral flavor)」とは、旨味を最大化する一方で、他の風味は最小化させることで、マイルドでクリーンな味を出す調味素材を意味する。例えば、カノーラ油又はブドウ種子油が中性風味を有すると報告されている。
【0041】
本発明の発酵液は、任意の追加成分を添加せず、精製などの追加的な化学工程を経ることなく、天然調味素材の製造過程に利用されることを特徴とするので、発酵液を食品、例えば、加工食品に直接含ませるためには、全ての培地成分が食品原料でなければならない。従って、発酵の間に添加される全ての培地成分は、食品原料であることが好ましい。本発明の一実施例では、培地成分を食品原料として使用するために、β−アラニンをカルシウム−パントテネート(CA−pantothenate; CAPA)に代替しても、70g/L以上のIMP濃度を有するIMP発酵液が製造できることを確認した。従って、本発明による細菌発酵用培地は、カルシウム−パントテネートを含むのが好ましい。
【0042】
それぞれのIMP発酵液及びグルタミン酸発酵液は、工程(a)及び工程(b)を含む2段階の発酵過程により製造することができ、前記製造された発酵液は、最終的に3段階の反応を経て、様々な調味素材を製造する工程に使用することができる。前記IMP発酵液及びグルタミン酸発酵液を基に、発酵液を混合する過程、又は反応或いは下記に説明する電気透析工程において、異なる原料を使用したり、培地組成を多少変更したり、又は温度、圧力及び時間を含む条件の過程を調節することによって様々な天然調味素材、例えば、中性風味調味素材、及び牛肉、鶏肉、豚肉、コク味などの調味素材を製造することができる。前記製造された天然調味素材の中から、それぞれの食品の目的に適した調味素材を食品に添加して最適の味を出すことができる。
【0043】
工程(c)では、中性風味調味素材に適した物性を持たせるために、IMP発酵液を電気透析する工程を含む。前記IMP発酵液は、その発酵過程により硫酸、アンモニア、及びMgとMnなどの様々な金属イオンを含むので、前記IMP発酵液は、クリーンな風味を出す中性風味調味素材に適さない異味と異臭を有する。従って、前記電気透析工程により異味と異臭を除去して中性風味調味素材からのさっぱりしない後味又は苦味を排除することで、中性風味調味素材がよりクリーンで且つマイルドな風味を持つことを可能にし、天然風味調味素材に適した物性を持たせることができる。さらに、必須ではないが、電気透析工程は、前記IMP発酵液に比べ、比較的に異味と異臭が少ないグルタミン酸発酵液が、よりクリーンな味を出すことも可能にすることができる。
【0044】
本発明の一実施例において、中性風味調味素材を電気透析工程を用いて製造し、前記製造された調味素材と、電気透析工程を行わずに製造された試料との官能特性を比較した。その結果、製造された調味素材の金属性風味の強度、苦味、さっぱりしない後味の強度及び色の濃さが低下し、それによって、前記製造された調味素材がクリーンで且つマイルドな風味を有し、前記調味素材に対する全体的な嗜好度が増加したことが示唆された(図5)。
【0045】
本発明における用語「電気透析(electrodialysis、ED)」とは、イオン成分を溶液から分離する工程である。理論的に、電界(electric field)にかけた電圧によって溶液中のイオン成分が陽イオン交換樹脂膜と陰イオン交換樹脂膜を選択的に通過するという物質伝達の原理に基づく方法である。これは、逆浸透圧及び限外濾過工程と共に最も頻繁に用いられる膜工程である。前記電気透析工程は、化学的工程として解釈されないので、本発明の目的による天然調味素材の製造工程に用いることができる。本発明の目的上、前記発酵液中のイオン、例えば、金属イオン、特に、一価と二価の陽イオン及び陰イオンを電気透析工程により除去することができ、それによって異臭が排除される。
【0046】
脱色及び脱臭により異味と異臭を除去する工程として活性炭を処理する工程がよく知られている。しかし、活性炭の処理は、活性炭の物理的吸収により脱色及び脱臭をもたらすことはできるが、全てのイオン成分を濾過して取り除くことはできないという欠点がある。従って、本発明において、前記電気透析工程によって、よりクリーンで且つマイルドな風味を有する天然中性風味調味素材を製造することができ、それによって、異味と異臭を除去することができる。
【0047】
一方、工程(c)では、電気透析工程の前に、発酵液を活性炭で処理する工程をさらに含んでもよい。さらに、前記電気透析工程は、活性炭で処理した発酵液を遠心分離又は濾過した後に行うことができる。前記発酵液を活性炭で処理した後、濾過助剤として珪藻土でさらに処理してもよい。さらに、以後に行う濾過工程の収率を上げるために、前記発酵液を活性炭で処理する前に、前記発酵液を加熱する前処理過程により細胞溶解を誘導してもよい。前記加熱工程は、好ましくは、70〜90℃で行ってもよく、加熱時間は、好ましくは、15分以上であってもよく、より好ましくは、15〜60分であってもよい。
【0048】
工程(d)は、天然中性風味調味素材を製造するために、前の工程で得られた前記グルタミン酸発酵液とIMP発酵液を混合する工程である。さらに、工程(d)は、前記穀物発酵液を混合する工程をさらに含んでもよい。
【0049】
工程(d)では、本発明の製造方法により前記IMP発酵液とグルタミン酸発酵液を混合することによって、最終的に、天然中性風味調味素材を製造することができる。この際、前記IMP発酵液とグルタミン酸発酵液の混合比率は、好ましくは、0.2:1〜5:1であってもよく、より好ましくは、0.5:1〜2:1であってもよく、及び最も好ましくは、1:1であってもよいが、これらに限定されるものではない。さらに、前記混合した発酵液に、穀物発酵液をさらに混合することができる。
【0050】
本発明の前記混合工程は、発酵液を濃縮し、前記濃縮産物を乾燥して粉末に製造する工程をさらに含んでもよい。前記発酵液を粉末に製造する工程は、発酵液を混合する前又は後に行ってもよく、好ましくは、前記発酵液を混合する前に行うことができる。前記乾燥は、好ましくは、噴霧乾燥又は真空乾燥によって達成することができる。前記発酵液は、最終的に、食品への添加に適した粉末又はペーストの形態に製造することができる。
【0051】
他の一態様として、本発明は、本発明の製造方法により製造された天然牛肉風味調味素材を提供する。さらに他の一態様として、本発明は、前記天然中性風味調味素材を含む食品組成物もまた提供する。
【0052】
本発明の前記製造方法により製造された天然中性風味調味素材は、クリーンで且つマイルドな風味を有することから、食品の味を最大化するために適切な食品に添加してもよく、動物の飼料に適用してもよい。例えば、前記天然中性風味調味素材は、スナックシーズニング(snack seasoning)、スープストック、市販用調味素材、ドレッシングなどに添加してクリーンな味を出すことができる。
【発明の効果】
【0053】
本発明の方法により製造された天然中性風味調味素材は、天然原料を使用して製造されるため、人体に害がなく、安全に使用できると共に食品に添加してクリーンで且つマイルドな味を出すことで食品の風味を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】天然調味素材を製造する全体的な過程を示す概略図である。
図2】本発明のアデニンを天然食品原料に代替するためにAMPを酸加水分解する過程を示す。
図3】β−アラニンを天然食品原料に代替するためにCAPAを導出する代謝経路を示す。
図4】本発明のカビ発酵により分解された植物性タンパク質が栄養源として添加される場合と、植物性タンパク質が添加されない場合の細菌菌体の増殖程度を示す。
図5】電気透析工程の前後における官能特性評価の結果を示す。
図6】本発明による中性風味調味素材と酵母抽出物に対する官能特性の比較結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、実施例を参考にして本発明をより詳しく説明する。しかし、これらの実施例は、本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲を限定するためのものではないことは、当業界に通常の知識を有するものにとって自明であろう。
【実施例】
【0056】
実施例1:植物性タンパク質原料を用いたカビ発酵
第1カビ発酵のために、カビ菌株としてアスペルギルス属(Aspergillus sp.)の微生物を使用し、大豆、トウモロコシ、米又は小麦などの穀物原料を含む基質を、20〜35℃で24〜72時間培養することで、高濃度のタンパク質加水分解酵素を含むカビ培養液を製造した。その後、大豆、トウモロコシ、米又は小麦などの植物性タンパク質原料を25〜35%の高濃度になるように水と混ぜて滅菌し、高濃度のタンパク質加水分解酵素を含む前記製造されたカビ培養液を無塩状態の滅菌された植物性タンパク質原料に添加し、該植物性タンパク質原料を加水分解した。この際、カビ培養液は、前記滅菌した基質液に対して、10〜100%の量を添加し、該基質を40〜50℃で48〜96時間分解して穀物タンパク質加水分解物を製造した。
【0057】
具体的には、特許文献1(PCT国際公開WO2011−046249号に対応)に記載されているように、アスペルギルス・ソーヤ、CJCC_080124P(KCCM11026P)を使用してフラスコ培養と拡大培養を行った後、脱脂大豆を用いてカビ培養液を製造し、小麦グルテンを基質にして加水分解することによって、穀物タンパク質加水分解物を製造した。より具体的には、1Lのフラスコに1次培地200mLを分注して滅菌し、カビ細胞200mLを1.7×1010カビ細胞/400mLの密度でフラスコに接種して30℃、100rpmで7時間培養した。その後、2次培地を250Lの発酵機に添加して滅菌し、1次培養液600mLを接種し、30℃、70rpmで24時間培養した。次に、本培養培地を5トンの予備タンクに添加して90℃で30分間加熱し、8トンの発酵機に移した後、水100L及び消泡剤2Lを添加した。その後、2次培養液144Lを本培養培地に接種した後、30℃、700rmpで48時間培養することで、カビ培養液を製造した。最後に、基質を加水分解するための原料を5トンの予備タンクに添加して55℃で1時間加熱し、20トンの発酵機に移した後、水100L及び消泡剤2Lを添加した後、滅菌した。その後、前記カビ発酵液5760Lを基質に接種して45℃、30rpmで96時間培養することで、穀物タンパク質加水分解物を製造した。前記穀物タンパク質加水分解物の製造に使用された培地組成を、下記表1〜4に示した。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
前述のように製造した穀物タンパク質加水分解物をフィルタープレス(filter press)により濾過してカビ細胞を除去することによって、全窒素(total nitrogen)含量を2%(w/v)以上有し、加水分解率50%以上の穀物発酵液を製造した。一方、前記穀物発酵液を、2次細菌発酵用培地として準備した。
【0063】
実施例2:細菌発酵
前記穀物発酵液を用いてIMP発酵液及びグルタミン酸発酵液を製造するために、実施例1で製造された穀物発酵液にグルコース又はフルクトースなどの炭素源と、Fe、Mg、Mn及びZnなどの無機塩、及びビタミン類を添加した後滅菌することで、細菌発酵用培地を製造した。IMP発酵液及びグルタミン酸発酵液を製造するための培地を製造し、各発酵液に対して、フラスコ培養(1次培地)、拡大培養(2次培地)及び本(main)培養のための培地が製造された。
【0064】
2−1:IMP発酵液の製造
特許文献4(WO国際公開WO2002−051984号に対応)に記載されているように、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス、CJIP009(KCCM−10226)を使用して、IMP濃度を70g/L以上有するIMP発酵液を製造した。
【0065】
具体的には、NaOHを用いてpH7.2に調整した1次培地50mLを500mLのフラスコに分注して121℃で15分間滅菌して該細菌菌株を培地に接種した後、32℃、200rpmで22〜28時間培養した。その後、pHを7.2に調整しながら、2次培地2.1Lを5Lのジャー(jar)に分注して滅菌し、冷却した後、1次培養液300mLを接種し、2Lの空気下、32℃、900rmpで27〜30時間培養した。次に、本培養培地8.5Lを30Lのジャーに分注して滅菌し、冷却した後、pH7.2に調整しながら、2次培養液1500mLを接種し、5Lの空気下、32℃、400rpmで5〜6日間、グルコースとフルクトースの混合物を含む糖を追加して随時供給しながら培養した。最後の追加糖を供給した後、該培地を7時間以上培養して糖が完全に消失できるようにした。前記IMP発酵液の製造に使用される培地組成を、下記表5〜8に示した。
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
【0069】
【表8】
【0070】
2−2:グルタミン酸発酵液の製造
特許文献5に記載されているように、コリネバクテリウム・グルタミクム(ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム)、CJ971010(KFCC11039)を使用して、グルタミン酸濃度を90g/L以上有するグルタミン酸発酵液を製造した。
【0071】
具体的には、250mLのフラスコに、1次培地30mLを分注して滅菌し、該細菌菌株を培地に接種して5〜8時間培養した。その後、5Lのジャーに2次培地1.4Lを分注して滅菌し、冷却した後、1次培養液20mLを接種して20〜28時間培養した。その後、30Lのジャーに本培養培地9.2Lを分注して滅菌し、冷却した後、2次培養液800mLを接種して36〜45時間、追加糖を随時供給しながら培養した。
【0072】
最後の追加糖を供給した後、該培地を7時間以上培養して糖が完全に消失できるようにした。前記グルタミン酸発酵液の製造に使用される培地組成は、下記表9〜12に示した。
【0073】
【表9】
【0074】
【表10】
【0075】
【表11】
【0076】
【表12】
【0077】
前記IMP発酵液の製造用培地を用いてIMP発酵液を製造し、食品に添加するための調味素材として使用するためには、食品添加物の要求を満たすために、いくつかの培地成分は食品原料に代替しなければならない。従って、細胞成長に必須であるアデニン及びβ−アラニンは、食品原料に代替した。
【0078】
まず、アデニンは、AMPを酸加水分解することによってリボース(ribose)とのβ−N−グリコシド結合(β−N−glycosidic bond)を開裂させ、アデニンを遊離させることにより製造した。前述のように製造されたアデニンを使用して培養する場合、IMP濃度を70g/L以上有するIMP発酵液を製造できることを確認した(図2)。
【0079】
その後、コリネバクテリウム・アンモニアゲネスの代謝経路を確認した結果、β−アラニンを、カルシウム−パントテネート(CAPA)に代替可能であることが予測された。従って、β−アラニンの代わりに、CAPAを使用して培養した結果、IMP濃度を70g/L以上有するIMP発酵液を製造できることを確認した(図3)。
【0080】
実施例3:カビ発酵による産物を細菌発酵に用いる場合における細菌菌株の成長速度の確認
第1発酵工程であるカビ発酵と第2発酵工程である細菌発酵が連続的に行われる場合の利点を確認するために、前記第1カビ発酵工程により分解される植物性タンパク質が栄養源として添加される場合と、植物性タンパク質が添加されない場合の細菌菌体の成長速度及び増殖程度を確認した。
【0081】
その結果、図4に示したように、第1カビ発酵工程により分解された植物性タンパク質を栄養源として添加する場合、植物性タンパク質を添加してない場合に比べ、細菌菌体の増殖がより速く、多量であることが確認された(図4)。
【0082】
実施例4:炭素源の種類によるグルタミン酸発酵液の風味特性変化の確認
グルタミン酸発酵に使用され得る炭素源は、グルコース、フルクトース、糖蜜(cane molasses)、原糖などを含む。炭素源の種類によってその他の培地成分が多少異なるが、最終発酵液中のグルタミン酸濃度は、炭素源の種類に大して依存しない。しかし、発酵液の風味は、炭素源の種類に依存して大きく変化し、中性風味調味素材を開発するためには、最終発酵液がクリーンな風味を有するのが好ましい。糖蜜は、その中に含まれた様々な無機イオンにより微生物の発酵の観点からすると、優れた培地成分であるが、培地自体の色が非常に濃く、キャラメル反応による香味が最終培養液に残るため、天然調味素材としてのその使用価値が低いという欠点がある。
【0083】
従って、中性風味素材を製造するためのグルタミン酸発酵液の製造において、糖蜜の代わりに原糖を使用することによる最終培養液の風味特性の変化を確認した。この際、糖蜜を原糖に代替しながら、糖蜜に含まれる主要な無機イオン及びビタミン類を培地にさらに添加した。その結果、糖蜜を原糖に代替した場合、異臭が除去され、中性風味調味素材を製造するための好適な風味特性が生み出されることが確認された(表13)。さらに、原糖を使用して製造したグルタミン酸発酵液の場合も高濃度のグルタミン酸(96g/L以上)を含むため、中性風味調味素材を製造するのに適切であることが確認された。
【0084】
【表13】
【0085】
実施例5:中性風味調味素材の製造
実施例2で製造されたグルタミン酸発酵液とIMP発酵液を使用して中性風味調味素材を製造した。
【0086】
具体的には、以後に行われる濾過工程の収率を高めるために、各発酵液を70〜90℃で15分以上加熱して細胞溶解を誘導した。このような前処理過程は、濾過収率を85%以上に高めることができる。その後、該グルタミン酸発酵液及びIMP発酵液から発生する異味及び異臭を除去するために、発酵液の量に対して、1〜3%(w/v)の活性炭を添加した後、50〜70℃で2〜24時間活性炭を処理した。活性炭の処理後、発酵液に濾過助剤として1〜3%(w/v)の珪藻土を添加した後、フィルタープレスにより濾過した。
【0087】
前記活性炭で処理した濾過液を電気透析を通じて、Ca、Fe、K、Mg及びNHイオンを含む一価と二値イオンを除去することで、アンモニアと金属イオンから発生する異臭を排除し中性風味調味素材を製造した。
【0088】
前記発酵液が5〜20L/hr・mの流速で電気透析工程を経る場合、Ca、Fe、K、Mg及びMnイオンを含む一価と二値イオンが30〜60%減少した。前記電気透析工程を行う前後の発酵液の成分含量を下記表14に示した。下記に示すように、電気透析工程の後、発酵液中の無機イオン含量が減少したため、前記発酵された調味素材がよりクリーンで且つマイルドな風味を有することが確認された。
【0089】
最終的に、前述のような培養と濾過工程により得られた濾過液に、精製塩とマルトデキストリン(Maltodextrin)を添加し、前記混合液を噴霧乾燥により粉末化することで本発明の天然調味素材を製造した。
【0090】
【表14】
【0091】
実施例6:電気透析工程による官能特性の評価
前述のように製造された本発明の中性風味調味素材の風味を確かめるために、官能特性評価を行った。
【0092】
電気透析により無機イオンを除去したそれぞれの試料と、電気透析工程を行っていない試料を粉末化した後、前記試料の官能特性をパネラーにより評価した。前記パネラーは、官能特性を知覚できるように職業訓練されており、前記パネラーに同じ濃度の試料を提供し、それぞれの試料に対する官能特性と強度を評価してもらった。
【0093】
その結果、図5に示したように、旨味の強度は、電気透析工程の前後でほとんど差がなかったが、前記電気透析工程前の発酵液の場合には、官能特性にマイナス要因として作用する金属性風味、苦味、さっぱりしない後味及び色の濃さにおいて全て高く、それによって、前記発酵液のクリーン性と全体的な嗜好度が低かった。しかし、電気透析工程を行った発酵液の場合、金属性風味の強度、苦味、さっぱりしない後味の強度及び色の濃さにおいて全て低く、それによって、風味と色への嗜好度は全て高く、クリーン性及び全体的な嗜好度も高かった。従って、電気透析工程を行った場合は、電気透析工程を行う前に比べ、嗜好度が向上したクリーンな風味を有する中性風味調味素材を製造できることを確認することができた。
【0094】
実施例7:酵母抽出物との官能特性の比較
本発明の中性風味調味素材の風味効果を検討するために、最近、最も幅広く多様に使用されている天然調味素材の1つである酵母抽出物との官能特性を比較した。
【0095】
場合によっては、前記酵母抽出物は、加工食品において有益に使用される場合もあるが、ほとんどの場合、特有の発酵臭(yeast extract flavorという)に起因する異味と異臭により加工食品の持つ風味のバランスが崩れるので、加工食品では、その使用が制限される。
【0096】
従って、簡単な食品モデルを開発し、各酵母抽出物及び本発明の中性風味調味素材をそこに添加した後、研究員(n=45)から構成されるパネラーグループにより官能特性を評価した。
【0097】
その結果、図6に示したように、酵母抽出物を適用させた群では、酵母風味(yeast flavor)の強度が高く、酵母抽出物に対する嗜好度は低かった。そして、前記酵母抽出物を異味と異臭として知覚する傾向が現れた。従って、この結果は、本発明における中性風味調味素材の全ての味に対する嗜好度が、比較的に高いことを示す。
【0098】
これらの結果は、本発明の中性風味調味素材から発生する無機イオンによる異味と異臭を効果的に除去し、それによって、食品に適用した場合、良い風味を出す中性風味調味を製造できることを示す。
【0099】
さらに、本発明の中性風味調味素材と酵母抽出物の官能特性が、修正された定量的記述分析法(Modified−Quantitative Descriptive Analysis)を用いて9人の訓練されたパネラーにより比較された。具体的には、前記パネラーは、6時間訓練しており、官能特性を3回繰り返して測定した。6種類の試料を同時にパネラーに提供し、パネラーがランダムに摂るようにした。全部で16の特性を16点(0〜15)基準で評価した。前記評価された16の特性を、6つのアロマ(aroma)特性、5つの味(taste)特性、3つの風味(flavor)特性、2つの口の中に広がる食感(mouth feeling)特性により評価した。試料の試食後は、インスタントライス又は水で口をゆすいだ後、次の試料を試食した。陶器カップに入っている各試料70mLをパネラーに提供し、統計分析(Mean、MANOVA、PCA)を行った。
【0100】
その結果、本発明の天然調味素材の場合、酵母抽出物に比べ、砂糖の甘焦げ香、酸っぱい香り、ソロモンシール茶風味を強く感じるので、天然調味素材は、香ばしくて酸味を有する。さらに、前記中性風味調味素材の場合、培地成分から生成すると思われる茹でたジャガイモ香又は香ばしさは感じられず、発酵臭であると判断される醤油臭さは、酵母発酵に比べ、著しく低かった。さらに、本発明の天然中性風味調味素材は、競合社で製造された他の調味素材に比べ、口中を覆う強度が著しく高かった。これは、少量の使用でも天然中性風味調味素材は口中を覆う感触を容易に示すことができることを表す。具体的には、本発明の天然中性風味調味素材の個別特性からすると、グルタミン酸に関しては、前記旨味強度は非常に高く穀物の焦げ香又は香味(ソロモンシール茶)が強烈であり、IMPに関しては、前記旨味強度は、酵母抽出物と同程度で砂糖の甘焦げ香が強烈で、中性風味調味素材が持つ酸味を有する。さらに、酵母抽出物は、茹でたジャガイモ香又は香ばしさ、又は醤油臭みがすることを確認することができた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6