特許第6091710号(P6091710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズの特許一覧

<>
  • 特許6091710-フラット型波動歯車装置 図000002
  • 特許6091710-フラット型波動歯車装置 図000003
  • 特許6091710-フラット型波動歯車装置 図000004
  • 特許6091710-フラット型波動歯車装置 図000005
  • 特許6091710-フラット型波動歯車装置 図000006
  • 特許6091710-フラット型波動歯車装置 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6091710
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】フラット型波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
   F16H1/32 B
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-524604(P2016-524604)
(86)(22)【出願日】2015年5月29日
(86)【国際出願番号】JP2015065630
【審査請求日】2016年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 優
(72)【発明者】
【氏名】保科 達郎
【審査官】 高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−001757(JP,U)
【文献】 実開平05−079089(JP,U)
【文献】 特開平05−106623(JP,A)
【文献】 特開2007−177961(JP,A)
【文献】 特開2008−089038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1剛性歯車と、
前記第1剛性歯車の隣に同軸に配置された第2剛性歯車と、
前記第1、第2剛性歯車の外周側あるいは内周側に同軸に配置した円筒状の可撓性歯車と、
前記可撓性歯車を非円形に撓めて、前記第1、第2剛性歯車に対して、それぞれ部分的にかみ合わせ、かみ合わせ位置を円周方向に移動させる波動発生器と、
前記第1剛性歯車の歯部において全周に亘って形成された第1溝と、
前記可撓性歯車の歯部において、前記第1溝に対峙するように全周に亘って形成された第2溝と、
第1、第2溝の間に配置された半径方向に撓み可能な第1リングと
を有しており、
前記第1リングは、前記第1剛性歯車と前記可撓性歯車とのかみ合い位置において、装置中心軸線に沿った方向から前記第1、第2溝のそれぞれの溝内周面に係合可能であるフラット型波動歯車装置。
【請求項2】
前記第1剛性歯車の歯数は前記可撓性歯車の歯数と同一であり、
前記第2剛性歯車の歯数は前記第1剛性歯車の歯数よりも多く、
前記第2剛性歯車は回転しないように固定されており、
前記波動発生器が回転すると、前記可撓性歯車は前記第2剛性歯車に対して歯数差に応じて相対回転し、前記第1剛性歯車は前記可撓性歯車と一体となって回転する請求項1に記載のフラット型波動歯車装置。
【請求項3】
前記第1溝は、前記第1剛性歯車における前記第2剛性歯車の側の端から前記装置中心軸線の方向に、前記第1剛性歯車の歯幅の1/2以上離れた位置に形成されている請求項1に記載のフラット型波動歯車装置。
【請求項4】
前記第1リングの外径と内径の差の1/2は、前記可撓性歯車の歯丈と同一あるいはそれ以下の値である請求項1に記載のフラット型波動歯車装置。
【請求項5】
前記第2剛性歯車の歯部において全周に亘って形成された第3溝と、
前記可撓性歯車の歯部において、前記第3溝に対峙するように全周に亘って形成された第4溝と、
前記第3、第4溝の間に配置された半径方向に撓み可能な第2リングと
を有しており、
前記第2リングは、前記第2剛性歯車と前記可撓性歯車とのかみ合い位置において、装置中心軸線に沿った方向から前記第3、第4溝のそれぞれの溝内周面に係合可能である請求項1に記載のフラット型波動歯車装置。
【請求項6】
前記第3溝は、前記第2剛性歯車における前記第1剛性歯車の側の端から前記装置中心軸線の方向に、前記第2剛性歯車の歯幅の1/2以上離れた位置に形成されている請求項5に記載のフラット型波動歯車装置。
【請求項7】
前記第2リングの外径と内径の差の1/2は、前記第2剛性歯車あるいは前記可撓性歯車の歯丈と同一あるいはそれ以下の値である請求項5に記載のフラット型波動歯車装置。
【請求項8】
前記第1剛性歯車は第1内歯車であり、
前記第2剛性歯車は第2内歯車であり、
前記可撓性歯車は外歯車であり、
前記波動発生器は、前記外歯車を楕円状形状に撓めて、当該楕円状形状の長軸両端において前記外歯車を前記第1、第2内歯車にかみ合わせており、
前記第1内歯車の歯数は前記外歯車の歯数と同一であり、
前記第2内歯車の歯数は、nを正の整数とすると、前記第1内歯車の歯数よりも2n枚多く、
前記第2内歯車は回転しないように固定されており、
前記波動発生器の1回転毎に、前記外歯車は前記第2内歯車に対して歯数差分だけ相対回転し、前記第1内歯車は前記外歯車と一体となって回転する請求項1に記載のフラット型波動歯車装置。
【請求項9】
前記第1溝は、前記第1内歯車における前記第2内歯車の側の端から前記装置中心軸線の方向に、前記第1内歯車の歯幅の1/2以上離れた位置に形成されている請求項8に記載のフラット型波動歯車装置。
【請求項10】
前記第1リングの内径は、前記外歯車に形成した前記第2溝における溝底の径と同一であり、
前記第2溝の溝底の径は、楕円状形状に撓められる前の前記外歯車の歯底円径よりも大きく、
前記第1内歯車に形成した前記第1溝の溝底の径は、楕円状形状に撓められた前記第1リングの長径よりも大きい請求項8に記載のフラット型波動歯車装置。
【請求項11】
前記第1リングの外径と内径の差の1/2は、前記外歯車の歯丈と同一あるいはそれ以下の値である請求項10に記載のフラット型波動歯車装置。
【請求項12】
前記第1リングは、
板ばねを渦巻き状に巻いて構成したリング、
ガーターばねからなるリング、
板ばねをベローズ状に湾曲させながら構成したベローズ形状リング、または、
斜め巻コイルスプリングからなるリング
である請求項11に記載のフラット型波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの剛性歯車と、波動発生器によって半径方向に撓められて剛性歯車のそれぞれに対して部分的にかみ合う円筒状の可撓性歯車とを備えたフラット型波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のフラット型波動歯車装置としては、2つの剛性の内歯車と、これらの内側に配置された円筒状の可撓性の外歯車とを備えたものが一般的に知られている。フラット型波動歯車装置においては、その機構上、運転中に、内歯車と外歯車のかみ合いによって両歯車の間にスラスト力が発生し、外歯車が装置中心軸線の方向に移動する。すなわち、両歯車共に、ねじれ角が0°の平歯車であるにも拘わらず、波動歯車装置特有のかみ合い時のウォーキング現象に起因して、スラスト力が発生する。
【0003】
図6に示すように、一般的なフラット型波動歯車装置100では、一方の内歯車102が回転しないようにハウジング101に固定され、他方の内歯車103はハウジング101によって回転自在に支持される。この内歯車103は外歯車104と一体となって回転する。波動発生器105はモーター106によって回転駆動され、内歯車103の回転は、当該内歯車103に同軸に固定した出力軸107から出力される。減速運転時には固定側の内歯車102の側に向かうスラスト力が発生し、増速運転時には逆に回転側の内歯車103の側に向かうスラスト力が発生する。
【0004】
スラスト力による装置中心軸線100aの方向への移動を規制するために、外歯車104の両側に、その移動を規制するための寄り止め部108、109(図において一点鎖線で囲む部位)が設けられている。また、外歯車104に作用するスラスト力は、外歯車104が装置中心軸線100aの方向に移動しているときには最大となり、外歯車104が寄り止め部108あるいは109に突き当たって移動しない状態のスラスト力の約3倍から4倍と大きな値を示す。
【0005】
特許文献1、2に記載のフラット型波動歯車装置においては、スラスト力によって外歯車が軸線方向に移動しないように、外歯車の両側に規制部材を配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−110976号公報
【特許文献2】特開2013−177938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フラット型波動歯車装置において、外歯車の装置中心軸線の方向の移動を規制するために、その両側に、寄り止め部あるいは規制部材を配置すると、その分、装置の大型化、コスト高を招く。また、外歯車の装置中心軸線の方向の両側に、寄り止め部あるいは規制部材を配置すると、外歯車の両側を経由して両歯車のかみ合い部分に至る潤滑剤の流れが阻害されることがある。この結果、潤滑不足に起因してかみ合い部分の摩耗量が増加する等の弊害が生じる。
【0008】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、可撓性歯車の装置中心軸線の方向の両側に寄り止め部、規制部材等の部材を配置することなく、可撓性歯車の移動を規制可能な機構を備えたフラット型波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフラット型波動歯車装置は、
第1剛性歯車と、
前記第1剛性歯車の隣に同軸に配置された第2剛性歯車と、
前記第1、第2剛性歯車の外周側あるいは内周側に同軸に配置した円筒状の可撓性歯車と、
前記可撓性歯車を非円形に撓めて、前記第1、第2剛性歯車に対して、それぞれ部分的にかみ合わせ、かみ合わせ位置を円周方向に移動させる波動発生器と、
前記第1剛性歯車の歯部において全周に亘って形成された第1溝と、
前記可撓性歯車の歯部において、前記第1溝に対峙するように全周に亘って形成された第2溝と、
第1、第2溝の間に配置された半径方向に撓み可能な第1リングと
を有しており、
前記第1リングは、前記第1剛性歯車と前記可撓性歯車とのかみ合い位置において、装置中心軸線に沿った方向から前記第1、第2溝のそれぞれの溝内周面に係合可能であることを特徴としている。
【0010】
本発明では、可撓性歯車が、第1剛性歯車に対して、装置中心軸線の方向に移動することを阻止するための機構が、第1剛性歯車の歯部に形成した第1溝、可撓性歯車の歯部に形成した第2溝、および、第1リングから構成される。
【0011】
可撓性歯車が第1剛性歯車に対して装置中心軸線の方向に移動すると、第1剛性歯車の側の第1溝に対して、可撓性歯車の側の第2溝も同一方向に移動する。第1、第2溝に装着されている第1リングは、両歯車のかみ合い位置において、装置中心軸線の方向の一方の側において、第1溝の溝内周面に係合し、他方の側において第2溝の溝内周面に係合する。よって、第1リングは、可撓性歯車の移動を規制するための部材として機能する。可撓性歯車の両側にその移動を規制するための部材を配置することなく、第1剛性歯車に対する可撓性歯車の移動が規制される。
【0012】
一般的なフラット型波動歯車装置では、前記第1剛性歯車の歯数は前記可撓性歯車の歯数と同一であり、前記第2剛性歯車の歯数は前記第1剛性歯車の歯数よりも多く、前記第2剛性歯車は回転しないように、装置ハウジング等に固定される。
【0013】
この場合には、前記波動発生器が回転すると、前記可撓性歯車は前記第2剛性歯車に対して歯数差に応じて相対回転し、前記第1剛性歯車は前記可撓性歯車と一体となって回転する。これらの歯車の間に装着されている第1リングも、これらの歯車と実質的に一体となって回転する。よって、波動歯車装置の性能低下などの弊害の発生を抑制しつつ、可撓性歯車の移動を規制できる。
【0014】
本発明において、前記第1溝は、前記第1剛性歯車における前記第2剛性歯車の側の端から前記装置中心軸線の方向に、前記第1剛性歯車の歯幅の1/2以上離れた位置に形成されていることが望ましい。
【0015】
第1、第2剛性歯車と可撓性歯車との間のかみ合い領域において、歯幅方向における中央から外側に外れた位置に第1、第2溝が配置される。これにより、第1、第2溝を設けたことによって引き起こされる両歯車のかみ合いによる歯面応力の増加など影響を小さくできる。
【0016】
ここで、前記第1リングの外径と内径の差の1/2は、前記可撓性歯車の歯丈と同一あるいはそれ以下の値としておけばよい。
【0017】
次に、第2剛性歯車と可撓性歯車との間にもリングを配置することが可能である。この場合には、本発明のフラット型波動歯車装置には、上記構成に加えて、前記第2剛性歯車の歯部において全周に亘って形成された第3溝と、前記可撓性歯車の歯部において、前記第3溝に対峙するように全周に亘って形成された第4溝と、前記第3、第4溝の間に配置された可撓性の第2リングとが設けられる。前記第2リングは、前記第2剛性歯車と前記可撓性歯車とのかみ合い位置において、装置中心軸線に沿った方向から前記第3、第4溝のそれぞれの溝内周面に係合可能な状態に配置される。
【0018】
この場合においても、前記第3溝は、前記第2剛性歯車における前記第1剛性歯車の側の端から前記装置中心軸線の方向に、前記第2剛性歯車の歯幅の1/2以上離れた位置に形成されていることが望ましい。
【0019】
また、前記第2リングの外径と内径の差の1/2は、前記可撓性歯車の歯丈と同一あるいはそれ以下の値であることが望ましい。
【0020】
次に、本発明を適用した典型的なフラット型波動歯車装置においては、前記第1剛性歯車は第1内歯車であり、前記第2剛性歯車は第2内歯車であり、前記可撓性歯車は外歯車であり、前記波動発生器は、前記外歯車を楕円状形状に撓めて、当該楕円状形状の長軸両端において前記外歯車を前記第1、第2内歯車にかみ合わせており、前記第1内歯車の歯数は前記外歯車の歯数と同一であり、前記第2内歯車の歯数は、nを正の整数とすると、前記第1内歯車の歯数よりも2n枚多く、前記第2内歯車は回転しないように固定されており、前記波動発生器の1回転毎に、前記外歯車は前記第2内歯車に対して歯数差分だけ相対回転し、前記第1内歯車は前記外歯車と一体となって回転する。
【0021】
この場合においても、前記第1溝は、前記第1内歯車における前記第2内歯車の側の端から前記装置中心軸線の方向に、前記第1内歯車の歯幅の1/2以上離れた位置に形成されていることが望ましい。
【0022】
また、第1リングが外歯車と一体となって楕円状形状に撓められるように、前記第1リングの内径は、前記外歯車に形成した前記第2溝における溝底の径と同一であることが望ましい。
【0023】
また、第2溝を設けたことにより、可撓性歯車の歯底リムの肉厚が薄くなり、歯底疲労強度の低下を招くことの無いように、前記第2溝の溝底径は、前記外歯車の歯底円径よりも大きいことが望ましい。
【0024】
さらに、両歯車のかみ合い位置である、楕円状形状の長軸両端において、楕円状形状に撓められた第1リングの外周面部分が第1内歯車に干渉しないように、前記第1内歯車に形成した前記第1溝の溝底の径は、楕円状形状に撓められた前記第1リングの長軸位置における外径よりも大きいことが望ましい。
【0025】
また、この場合において、前記第1リングの外径と内径の差の1/2を、前記第1内歯車あるいは前記外歯車の歯丈と同一あるいはそれ以下の値にしておけばよい。
【0026】
第1リングとしては、その中心軸線の方向の剛性が高く、半径方向に撓み易く、かつ、全体として半径方向に容易に押し窄め、押し広げることができることが望ましい。このような特性を備えた第1リングとして、斜め巻コイルスプリングからなるリングを用いることができる。また、板ばねを渦巻き状に巻いて構成したリング、ガーターばねからなるリング、板ばねをベローズ状に湾曲させながら構成したベローズ形状リングなどを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】(a)は本発明を適用したフラット型波動歯車装置を示す縦断面図、(b)はその正面図である。
図2】(a)は図1のフラット型波動歯車装置の一部を拡大して示す部分拡大縦断面図、(b)はリングの装着部分を示す説明図である。
図3】(a)はリングの装着部分を示す説明図、(b)は第1、第2溝の断面形状を示す説明図である。
図4】(a)、(b)はリングに必要とされる特性を示す説明図、(c)、(d)はリングを示す説明図である。
図5】(a)は本発明を適用可能なフラット型波動歯車装置の別の例を示す半縦断面図、(b)はその半正面図である。
図6】従来のフラット型波動歯車装置を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したフラット型波動歯車装置の実施の形態を説明する。
【0029】
図1(a)は本実施の形態に係るフラット型波動歯車装置を示す縦断面図であり、図1(b)はその正面図である。フラット型波動歯車装置1は、剛性歯車である固定側の内歯車2および出力側(回転側)の内歯車3と、可撓性歯車である円筒状の外歯車4と、波動発生器5とを備えている。
【0030】
内歯車2、3は、装置中心軸線1aの方向に僅かの隙間を空けて、同軸に配列されている。外歯車4は内歯車2、3の内側に同軸に配置されている。外歯車4は内歯車2、3を包含する歯幅を備えている。外歯車4の外歯4aは、その歯幅方向の一方の側の部分が内歯車2の内歯2aに対峙し、他方の側の部分が内歯車3の内歯3aに対峙している。
【0031】
波動発生器5は、外歯車4を非円形、本例では楕円状形状に撓めて、内歯車2、3に対して、楕円状形状の長軸Lの位置においてかみ合わせている。波動発生器5が回転すると、外歯車4と内歯車2、3との間のかみ合い位置が円周方向に移動する。
【0032】
例えば、固定側の内歯車2の歯数に比べて、出力側の内歯車3の歯数が2n枚少ない(nは正の整数)。内歯車3と外歯車4の歯数は同一である。波動発生器5が1回転する間に、外歯車4は、固定側の内歯車2に対して歯数差分に対応する角度だけ相対回転する。出力側の内歯車3は外歯車4と一体となって回転する。内歯車3の回転が不図示の負荷部材の側に出力される。
【0033】
図2(a)はフラット型波動歯車装置1の一部分を拡大して示す部分拡大縦断面図であり、図2(b)は図2(a)の一部を更に拡大して示す説明図である。
【0034】
これらの図に示すように、出力側の内歯車3の内歯3aの部分には、内側に開口している内周溝11(第1溝)が形成されている。内周溝11は内歯3aに対して、その歯幅方向に直交する方向に、全周に亘って形成されている。外歯車4の外歯4aにも、内周溝11に対峙する部位に、全周に亘って外側に開口する外周溝12(第2溝)が形成されている。内周溝11、外周溝12の間には、半径方向に撓み可能な可撓性のリング13が装着されている。リング13は円形断面をしている。
【0035】
図3(a)は内周溝11、外周溝12およびリング13を示す説明図であり、図3(b)は内周溝11および外周溝12の断面形状を示す説明図である。図2図3を参照して、内周溝11、外周溝12、リング13を更に詳しく説明する。
【0036】
内周溝11、外周溝12の断面形状および溝底径、並びに、リング13の断面形状および大きさは、以下に述べるように適切に設定されている。また、内歯車3と外歯車4とのかみ合い位置、すなわち、長軸位置において、リング13は、装置中心軸線1aに沿った方向から、内周溝11、外周溝12のそれぞれの左右の溝内周側面11a、11b、12a、12bに係合可能である。
【0037】
本例では、内周溝11は矩形断面の溝であり、その溝幅はリング13の直径dと同一か僅かに広い。また、内周溝11は、内歯車3における他方の内歯車2の側の端から装置中心軸線1a(図1参照)の方向に、当該内歯車3の歯幅Wの1/2以上離れた距離L1の位置に形成されている。例えば、凡そ、2/3離れた位置に形成されている。歯幅方向における中央よりも外側の位置は、両歯車3、4のかみ合いによる歯面応力の影響が小さい。よって、内周溝11、外周溝12を形成したことに起因して、両歯車3、4の歯面応力が大幅に増加する等の弊害を最小限に抑えることができる。
【0038】
次に、リング13は、外歯車4と一体となって楕円状形状に撓められるように、その内径Di(13)が、外歯車4に形成した外周溝12における溝底径D(12)とほぼ同一である。また、リング13の円形輪郭の直径d、すなわち、その外径Do(13)と内径Di(13)の差の1/2は、外歯車4の歯丈L(4a)と同一、あるいは、それよりも僅かに小さな寸法に設定されている。
【0039】
一方、外歯車4の側の外周溝12は、略半円形断面の溝であり、その開口端の溝幅はリング13の直径dと同一か、僅かに広い。半円形溝を形成することにより、応力集中が緩和され、歯底疲労強度の低下を抑制できる。また、外周溝12の溝底の径D(12)は、外歯車4の歯底円径D(4a)よりも僅かに大きくなるように設定されている。円弧状断面の外周溝12によって、断面欠損に伴う応力集中を緩和でき、歯底疲労強度の低下を抑制できる。
【0040】
また、内歯車3の側の内周溝11の溝底径D(11)は、楕円状形状に撓められた可撓性リング13の長軸位置における外径よりも大きくなるように設定されている。これにより、両歯車3、4のかみ合い位置(長軸両端)において、楕円状形状に撓められた可撓性リング13の外周面部分が内歯車3の側に干渉することがない。
【0041】
次に、図4(a)および(b)は、リング13に要求される特性を示す説明図である。リング13は、図4(a)に示すように軸方向剛性が高いことが要求される。これにより、外歯車4の移動を確実に規制できる。
【0042】
また、リング13は、図4(b)に示すように、その半径方向に撓み易く、外周溝12に装着した状態において、その溝底に沿った楕円状形状になることが必要である。さらに、リング13は、全体として、その外周側から半径方向の内側に作用する力によって容易に均一に小径となるように押し窄めることができ、その内周側から半径方向の外方に作用する力によって容易に均一に大径となるように押し広げることができることが必要である。これにより、リング13の組み付けを容易に行うことができる。
【0043】
このような特性を備えたリング13としては、板ばねを渦巻き状に巻いて構成したリングを用いることができる。また、密着巻きのコイルスプリングの両端を連結してリングにしたガーターばねを用いることができる。さらに、図4(c)に示すように、一定幅の板ばねをベローズ状に湾曲させながらリングにしたベローズ形状リングを用いることができる。また、図4(d)に示すように、斜め巻コイルスプリングから構成したリングを用いることが望ましい。なお、これら以外のリングであっても、上記特性を備えたリングであれば用いることができる。
【0044】
なお、内歯車3の内周溝11と外歯車4の外周溝12との間に、次の手順により、リング13を組み付けることができる。まず、リング13を押し広げて、真円状態の外歯車4の外周溝12に装着する。リング13が装着された外歯車4を、内歯車2、3の内側に装着する。
【0045】
この場合、外歯車4に装着したリング13の外径と、内歯車2、3の歯先円とが、僅かにオーバーラップすることがある。リング13は、半径方向の内側に押し窄めることが可能な弾性を備えているので、リング13を弾性変形させて、外歯車4を内歯車2、3の内側に装着できる。外歯車4を内歯車2、3に装着すると、リング13が、外歯車4の外周溝12と、内歯車3の内周溝11との間に装着された状態が形成される。
【0046】
この後に、波動発生器5を、外歯車4の内周面に装着する。これにより、外歯車4が楕円状形状に撓められ、その長軸の両端において、内歯車2、3とかみ合った状態になる。外歯車4と内歯車3のかみ合い位置においては、図2図3に示すように、リング13は、装置中心軸線1aの方向から、内周溝11、外周溝12の溝内周側面11a、11b、12a、12bに係合可能な状態になる。
【0047】
上記のように構成したフラット型波動歯車装置1の運転時には、内歯車2、3と外歯車4とのかみ合いによって生じるスラスト力による外歯車4の装置中心軸線1aの方向への移動が、リング13と溝内周側面11a、11b、12a、12bとの係合によって規制される。
【0048】
例えば、図3(a)に示すように、外歯車4が矢印A1の方向に移動しようとすると、リング13に対して、内周溝11の溝内周側面11b、外周溝12の溝内周側面12aが相対的に接近して、当該リング13に両側から押し付けられる。内歯車3は回転自在に支持されているが、装置中心軸線1aの方向の移動は拘束されている。
【0049】
したがって、外歯車4は、外周溝12の溝内周側面12a、リング13および内周溝11の溝内周側面11bを介して、内歯車3の側に係合し、矢印A1の方向の移動が規制される。外歯車4の逆方向(矢印A2の方向)への移動も同様にして規制される。
【0050】
外歯車4の移動を規制するために、その装置中心軸線1aの方向の両側に、規制部材を配置する必要がない。よって、外歯車4の両側を経由して、外歯車4と内歯車2、3とのかみ合い部分に潤滑剤を供給する供給経路を確保できる。図6に示すように、外歯車の両側に規制部材である寄り止め部が配置されている場合は、かみ合い部への潤滑不足に起因する摩耗が発生しやすいが、本例では、このような摩耗を防止できる。
【0051】
(変形例)
上記のフラット型波動歯車装置1では、出力側の内歯車3と外歯車4との間に、外歯車4の移動を規制するための機構(内周溝11、外周溝12、リング13)を設けている。これに加えて、他方の固定側の内歯車2と外歯車4との間に、同様な機構を設けてもよい。
【0052】
この場合には、図2(a)において想像線で示すように、内歯車2の内歯2aにおいてその全周に亘って内周溝21を形成する。外歯車4には、内周溝21に対峙する位置において、全周に亘って外周溝22を形成する。これら内周溝21と外周溝22の間に、可撓性のリング23を装着する。
【0053】
この場合においても、内周溝21の形成位置は、内歯車3の側の端から歯幅の1/2以上離れた位置とすることが望ましい。また、内周溝21、外周溝22、リング23の各部の寸法は、上記の内周溝11、外周溝12およびリング13の場合と同様な関係に設定することが望ましい。
【0054】
また、この場合には、固定側の内歯車2と外歯車4との間には、歯数差に応じた相対回転が生じる。内歯車2の矩形断面の内周溝21と円形断面の可撓性リング23との間は接触面積が小さい(図3参照)。したがって、内歯車2とリング23との間に生じる滑り摩擦力は小さい。
【0055】
(その他の実施の形態)
図5(a)は、本発明を適用可能な別の構成のフラット型波動歯車装置の例を示す半断面図であり、図5(b)はその半正面図である。これらの図に示すフラット型波動歯車装置30は、剛性歯車である第1外歯車32および第2外歯車33と、これらの外側に同軸に配置した円筒形状をした可撓性歯車である内歯車34と、内歯車34の外側に嵌めた波動発生器35とを備えている。
【0056】
内歯車34は、半径方向に撓み可能な円筒状胴部34cと、この円筒状胴部34cの円形内周面に形成された内歯34a、34bを備えている。内歯34a、34bは、第1、第2外歯車32、33の外歯32a、33aにかみ合い可能である。
【0057】
波動発生器35は、楕円状内周面を備えた一定厚さの剛性のプラグ35aと、このプラグ35aの楕円状内周面に装着した一対の波動発生器軸受け35bから構成されている。波動発生器軸受け35bは全体として、プラグ35aの楕円状内周面に沿った楕円状形状に撓められている。よって、内歯車34もプラグ35aの楕円状内周面に沿った楕円状形状に撓められ、その短径位置の内歯34a、34bが第1、第2外歯車32、33の第1、第2外歯32a、33aのそれぞれにかみ合っている。波動発生器35を回転すると、内歯車34と第1、第2外歯車32、33との間のかみ合い位置がそれぞれ周方向に移動する。
【0058】
この構成のフラット型波動歯車装置30において、第1外歯車32と内歯車34との間に、内歯車34の移動を規制するための外周溝41、内周溝42およびリング43を配置することができる。同様に、第2外歯車33と内歯車34との間に、内歯車34の移動を規制するための外周溝、内周溝およびリングを配置することができる。
【要約】
フラット型波動歯車装置(1)は、可撓性の外歯車(4)が剛性の内歯車(2、3)に対して装置中心軸線(1a)の方向に移動することを阻止するための機構を備えている。この機構は、内歯車(3)の内歯(3a)に形成した内周溝(11)、外歯車(4)の外歯(4a)に形成した外周溝(12)、および、内周溝(11)と外周溝(12)の間に装着した可撓性のリング(13)を備えている。リング(13)は、両歯車(2、4)のかみ合い位置において、装置中心軸線(1a)の方向から、溝内周側面(11a、11b、12a、12b)に係合可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6