(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091803
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】燃料電池用アノードの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20170227BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20170227BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20170227BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20170227BHJP
【FI】
H01M4/88 K
H01M4/92
H01M4/90 B
H01M4/90 M
H01M8/10
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-186410(P2012-186410)
(22)【出願日】2012年8月27日
(65)【公開番号】特開2014-13742(P2014-13742A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2015年6月11日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0072121
(32)【優先日】2012年7月3日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA MOTORS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 勳 熙
【審査官】
太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−283774(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/025118(WO,A1)
【文献】
国際公開第01/015247(WO,A1)
【文献】
特開2009−152143(JP,A)
【文献】
国際公開第03/058734(WO,A1)
【文献】
特開2001−355070(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0255406(US,A1)
【文献】
国際公開第2009/058388(WO,A1)
【文献】
特開2010−251301(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0100301(US,A1)
【文献】
特開2011−148664(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0214927(US,A1)
【文献】
特開2004−022503(JP,A)
【文献】
特開2008−016356(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/010521(WO,A1)
【文献】
特開2007−287415(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/021034(WO,A1)
【文献】
国際公開第2007/119130(WO,A1)
【文献】
特開2009−259771(JP,A)
【文献】
特開2007−157547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 − 4/98
H01M 8/00 − 8/0297
H01M 8/08 − 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用アノードの製造方法において、
(a)アノード用燃料を電気化学的に酸化させるための燃料電池触媒を合成するステップと、
(b)合成された燃料電池触媒を多孔性炭素材料に担持させ、アノード用電極を形成するステップと、
(c)形成された前記アノード用電極上に、水を電気分解させるための電気分解触媒の前駆体をALD法によってアノード用電極上に蒸着し、残余物を不活性ガスでパージングして除去し、前記前駆体を酸化させる酸素供給物質を供給することを繰り返すステップと、を含み、
前記電気分解触媒を合成しながら同時にローディングする段階は、ALD(Atomic Layer Deposition)方法を利用して蒸着しようとする原料物質である前駆体を加熱して気体状態に変換させ、前記形成されたアノード用電極上に蒸着反応させた後、 残余物を除去するためにパージング(purging)を遂行し、次に前記前駆体を酸化させるために酸素供給物質を供給してなされることを特徴とする燃料電池用アノードの製造方法。
【請求項2】
前記燃料電池は、高分子電解質燃料電池であることを特徴とする請求項1に記載の燃料
電池用アノードの製造方法。
【請求項3】
前記燃料電池触媒は、貴金属と、遷移金属と、貴金属および遷移金属の酸化物と、貴金
属および遷移金属の合金と、貴金属および遷移金属の混合物とからなる群より選択される
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用アノードの製造方法。
【請求項4】
前記電気分解触媒は、貴金属酸化物と、貴金属酸化物の混合物と、貴金属酸化物の固溶
体と、貴金属酸化物およびバルブ金属酸化物の混合物と、貴金属酸化物およびバルブ金属
酸化物の固溶体とからなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池
用アノードの製造方法。
【請求項5】
前記電気分解触媒は、RuOxと、IrOxと、RuOxおよびIrOxの固溶体とか
らなる群より選択されることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用アノードの製造方
法。ここでxは、2または4である。
【請求項6】
前記電気分解触媒は、RuOxおよびバルブ金属酸化物の固溶体と、IrOxおよびバ
ルブ金属酸化物の固溶体とからなる群より選択されることを特徴とする請求項4に記載の
燃料電池用アノードの製造方法。ここでxは、2または4である。
【請求項7】
前記電気分解触媒は、RuO2およびTiO2の固溶体を含むことを特徴とする請求項4に記載の燃料電池用アノードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用アノードの製造方法に係り、より詳しくは、水電気分解触媒を導入する工程を簡素化した高分子電解質燃料電池に用いられる燃料電池用アノードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質燃料電池の膜電極接合体(membrane electrode assembly:以下、MEAと称す)構造は、大きく、アノード(anode)とカソード(cathode)、そして、アノードとカソードとの間に位置する水素イオン伝導性高分子電解質膜(polymer electrolyte membrane)から構成される。
一般的に、このようなMEAを複数個積層して高分子電解質燃料電池スタック(stack)を構成する。
【0003】
アノード(anode)とカソード(cathode)の触媒としては、それぞれ燃料の酸化反応と酸素の還元反応を起こし得る同種あるいは異種の貴金属ナノ粒子が、伝導性多孔性担持体(support)の表面に均一に分散した形態で多く使用される。多孔性担持体としては、炭素材料が通常使用されている。
燃料電池スタックが装着された燃料電池自動車が運転される時、燃料電池では、アノードに形成された燃料ガス流路が生成水または加湿水によって詰まるフラッディング(flooding)が発生する場合がある。また、氷点下での始動時、アノードに残留していた水が凍結してアノードのガス流路が詰まる場合も発生する。
これらの場合、アノードへの燃料(H
2)供給が不足すると、アノードの電位が上昇し、燃料電池全体の電圧がマイナス値を示す逆電圧(reverse voltage(or potential)現象が発生する(例えば、特許文献1参照)。
この場合、触媒支持体として使用される炭素が漸進的あるいは急激に酸化され、電極構造が崩壊されるため、燃料電池の性能が低下する。
【0004】
このようなアノードの炭素の酸化問題を解決するための従来方法の一つは、燃料電池アノードに水を電気分解できる触媒を添加し、逆電圧状況が発生した時、炭素の代わりに水から電子を供給することで炭素の酸化を防止することである。このために、従来は、水電気分解が可能な酸化物触媒(例えば、RuO
x、IrO
x、これらの化合物、Ir金属など)を先に合成した後、既存のアノード触媒と混合して電極を製造した(例えば、特許文献2,3参照)。
しかし、このように、水電気分解触媒を適用する方法は、溶媒に基づく還元/酸化過程によって行われるため、工程が複雑で、時間が長くかかるという問題があった。また、従来の製造方法は、添加される水分解触媒の物理化学的特性(溶媒との親和度、適合性など)により、電極の気孔構造、アイオノマー(ionomer)の分布などに影響を与え、意図したとおりのMEA電極構造を実現しにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−533355号公報
【特許文献2】特開2006−108104号公報
【特許文献3】特開2008−218173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、水電気分解触媒の導入過程でもたらされるMEA電極構造の変形を最小化することができる燃料電池用アノードの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた本発明の燃料電池用アノードの製造方法は、
燃料電池用アノードの製造方法において、
(a)アノード用燃料を電気化学的に酸化させるための燃料電池触媒を合成するステップと、
(b)合成された燃料電池触媒を
多孔性炭素材料に担持させ、アノード用電極を形成するステップと、
(c)形成された前記アノード用電極上に、
水を電気分解させるための電気分解触媒の前駆体をALD法によってアノード用電極上に蒸着し、残余物を不活性ガスでパージングして除去し、前記前駆体を酸化させる酸素供給物質を供給することを繰り返すステップと、を含み、
前記電気分解触媒を合成しながら同時にローディングする段階は、ALD(Atomic Layer Deposition)方法を利用して
蒸着しようとする原料物質である前駆体を
加熱して気体状態に変換させ、前記形成されたアノード用電極上に
蒸着反応させた後、
残余物を除去するためにパージング(purging)を遂行し、次に前記前駆体を酸化させるために酸素供給物質を供給してなされることを特徴とする。
【0008】
燃料電池は、高分子電解質燃料電池であることが好ましい。
燃料電池触媒は、貴金属と、遷移金属と、貴金属および遷移金属の酸化物と、貴金属および遷移金属の合金と、貴金属および遷移金属の混合物とからなる群より選択されることが好ましい。
電気分解触媒は、貴金属酸化物と、貴金属酸化物の混合物と、貴金属酸化物の固溶体と、貴金属酸化物およびバルブ金属酸化物の混合物と、貴金属酸化物およびバルブ金属酸化物の固溶体とからなる群より選択されることが好ましい。
【0009】
電気分解触媒は、RuOxと、IrOxと、RuOxおよびIrOxの固溶体とからなる群より選択されることが好ましい。ここでxは、2または4である。
電気分解触媒は、RuOxおよびバルブ金属酸化物の固溶体と、IrOxおよびバルブ金属酸化物の固溶体とからなる群より選択されることが好ましい。ここでxは、2または4である。
電気分解触媒は
、RuO2および
TiO2の固溶体を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、水電気分解触媒を導入する工程を簡素化し、電気分解触媒の導入が既に形成された燃料電池電極上になされることにより、、電極構造の変形を最小化することができ、その結果、電極の性能を向上させることができる。
また、本発明は、水電気分解触媒を導入する工程を、原子層堆積(Atomic Layer Deposition:以下、ALDと称す)技術を用いて電気分解触媒の合成とローディングを同時に行うため、燃料電池用アノードの製造工程を簡素化ことができ、従来に比べて工程時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池用アノードの製造工程を説明するためのブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るALD法を説明するためのブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る燃料電池用アノードの製造方法によって製造された燃料電池用アノードの組職形状を示す概略図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る燃料電池用アノードの製造方法によって製造された燃料電池用アノードの透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付した図面に基づき、本発明の一実施形態に係る燃料電池用アノードの製造方法について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池用アノードの製造工程を説明するブロック図である。本発明の燃料電池用アノードの製造方法によって製造されたアノードは、高分子電解質燃料電池に適用可能である。つまり、高分子電解質の一側に配置され、カソードと共にMEA(膜電極接合体)を形成する。
【0013】
図1に示したとおり、燃料電池用アノードの製造方法は、燃料電池触媒(第1触媒)を合成するステップ(S10)と、燃料電池電極を形成するステップ(S20)と、電気分解触媒(第2触媒)を形成するステップ(S30)とを順に行うことにより、燃料電池用アノードを製造する。
燃料電池触媒を合成するステップ(S10)において、燃料電池触媒は、アノード用燃料を電気化学的に酸化させるためのものであって、貴金属と、遷移金属と、貴金属および遷移金属の酸化物と、貴金属および遷移金属の合金と、貴金属および遷移金属の混合物とからなる群より選択できる。
【0014】
燃料電池触媒に使用される貴金属としては、Au、Ag,Pt,Rh、Ir、Ru及びOsを例示することができる。
燃料電池触媒に使用される遷移金属としては、Sc、Ti、V、Cr、M、Fe、Co、Mi、Cu及びZn等の3d遷移金属、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag及びCd等の4d遷移金属、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt及びAu等の4f遷移金属を例示することができる。
例えば、燃料電池触媒は、白金ナノ粒子が多孔性炭素材料に担持された形態で構成される。
【0015】
燃料電池電極を形成するステップ(S20)において、燃料電池触媒は、電極の多孔性構造を形成させる溶媒、バインダー(ionomer)、炭素繊維などの電極添加物と混合され、フィルム形態の多孔性電極に形成される。
電気分解触媒を形成するステップ(S30)において、電気分解触媒は、このように形成された燃料電池電極上に、ALD法で蒸着され、化学反応により合成されると同時に固着される。
【0016】
電気分解触媒は、貴金属酸化物と、貴金属酸化物の混合物と、貴金属酸化物の固溶体と、貴金属酸化物およびバルブ金属酸化物の混合物と、貴金属酸化物およびバルブ金属酸化物の固溶体とからなる群より選択される金属酸化物を含む。
バルブ金属酸化物としては、Ai
2O
3、Ta
2O
5、Nb
2O
5、TiO
2、HfO
2、ZrO
2、ZnO、Bi
2O
3、Sb
2O
3、Sb
2O
4、Sb
2O
5、等を例示することができる。
電気分解触媒をなす金属酸化物は、RuO
xと、IrO
xと、RuO
xおよびIrO
xの固溶体とからなる群より選択された貴金属酸化物を含む。ここでxは、2または4である。例えば、xが2の場合として、金属酸化物は、RuO
2と、IrO
2と、RuO
2およびIrO
2の固溶体とからなる群より選択された貴金属酸化物を含むことが好ましい。
【0017】
また、電気分解触媒をなす金属酸化物は、RuO
xおよびバルブ金属酸化物の固溶体と、IrO
xおよびバルブ金属酸化物の固溶体とからなる群より選択された金属酸化物を含む。ここでxは、2または4である。例えば、金属酸化物は、RuO
2およびTiO
2の固溶体を含むことが好ましい。
このように、本実施形態に係る燃料電池用アノードの製造方法は、電気分解触媒の導入が既に形成された燃料電池電極上になされることにより、電極構造の変形を最小化することができ、電極の性能を向上させることができる。
【0018】
図2は、本発明の一実施形態に係るALD法を説明するためのブロック図である。 電気分解触媒を形成するステップ(S30)は、電気分解触媒がRuO
xと、IrO
xの場合(ここでxは、2または4である)、
図2に示したALD技術によって実施できる。
つまり、ALDは、
図2に示したとおり、RuまたはIrのような、蒸着しようとする目標物質を含む前駆体(precusor)を気体状態に変換させ、既に形成された燃料電池アノードに蒸着後、残余物を除去するために、不活性ガスでパージング(purging)した後、RuまたはIrを酸化させるための酸素供給物質(O
2前駆体:酸素または水蒸気など)を供給する。この過程を繰り返し行うことにより、アノードに電気分解触媒を合成すると同時にローディングすることができる。
【0019】
図3は、本発明の一実施形態に係る燃料電池用アノードの製造方法によって製造された燃料電池用アノードの組職形状を示す概略図であり、
図4は、本発明の一実施形態に係る燃料電池用アノードの製造方法によって製造された燃料電池用アノードの透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
ALD技術により、
図3に示したとおり、燃料電池アノード上に電気分解触媒を原子単位で蒸着させることができる。
また、
図4に示したとおり、水電気分解触媒の構成物の一つであるTiO
2が、アノードに粒子形態でローディングされていることが確認される。
【0020】
このように、本発明の燃料電池用アノードの製造方法は、ALD技術を用いて既に形成された燃料電池アノードに電気分解触媒を合成すると同時に固着させることにより、従来の燃料電池用アノードの製造工程に比べて工程時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0021】
S10:燃料電池触媒を合成するステップ
S20:燃料電池電極を形成するステップ
S30:電気分解触媒を形成するステップ
ALD:原子層堆積(Atomic Layer Deposition)
MEA:膜電極接合体(membrane electrode assembly)