【実施例1】
【0012】
最初に、
図1〜
図3を参照しながら、本発明の実施例を説明する。
図1(A)は、本発明の可変容量複合部品10の回路構成を示す図である。同図において、端子11,14はバイアス用の端子であり、端子12,13は信号用の端子である。端子11,14間に印加するバイアス電圧を変化させることで、端子12,13間の容量が変化するようになっており、全体として可変容量素子として機能する。
【0013】
入力側(+側)の第1信号用端子12と、出力側(−側)の第2信号用端子13との間には、4つの可変容量キャパシタ31〜34が、バイアス+側とバイアス−側が交互に向き合うように直列に接続されており、各可変容量キャパシタ31〜34のリーク抵抗成分41〜44を並列接続された抵抗で表している。第2バイアス端子11は、バイアス抵抗21を介して可変容量キャパシタ31,32のバイアス+側にそれぞれ接続されており、バイアス抵抗22を介して可変容量キャパシタ33,34のバイアス+側にそれぞれ接続されている。これらバイアス抵抗21,22によって第2バイアスラインBL2が構成されている。一方、第1バイアス端子14は、バイアス抵抗23を介して可変容量キャパシタ31のバイアス−側に接続されるとともに、バイアス抵抗24を介して可変容量キャパシタ32,33のバイアス−側にそれぞれ接続されており、更に、バイアス抵抗25を介して可変容量キャパシタ34のバイアス−側に接続されている。これらバイアス抵抗23〜25によって、第1バイアスラインBL1が構成されている。
【0014】
ところで、本実施例では、第1バイアスラインBL1のバイアス抵抗23,25の値をRとしたとき、第2バイアスラインBL2のバイアス抵抗21,22及び第1バイアスラインBL1のバイアス抵抗24の値が半分の0.5Rに設定されている。それは、次のような理由に基づく。
a,バイアス抵抗23,25は、信号用端子12,13にそれぞれ直接接続されているため、通信信号の影響を大きく受けることとなる。従って、第1バイアスラインBL1への通信信号の混入を防ぐためには、信号周波数における可変容量キャパシタ31〜34のインピーダンスよりも、極めて高い抵抗値を持つことが望ましい。
b,可変容量キャパシタ31〜34への印加バイアス電圧を均等にするためには、回路構成上、可変容量キャパシタ31のみ接続されているバイアス抵抗23に対し、二つの可変容量キャパシタ32,33に接続されているバイアス抵抗24はその半分程度が望ましい。バイアス抵抗25についても同様である。
c,回路全体としての抵抗値を、バイアスラインBL1,BL2上において均等に保つためには、電源側の合成抵抗=接地側の合成抵抗となることが望ましい。
【0015】
なお、バイアス抵抗21,22,24の値をバイアス抵抗23,25の0.5Rとするといっても、実際上はばらつきが生ずる。その程度については、わずかであれば印加バイアス電圧への影響は小さく、ある程度は無視できるため、0.45R〜0.55Rの範囲であればよい。これは、可変容量キャパシタの素子数が図示の4直列から6直列,更には8直列に増加した場合においても成立し、バイアスラインに含まれるすべての抵抗の値を同じにした場合、直列素子数が増加するほど各可変容量キャパシタに対する印加バイアス電圧の不均一性が増加する。すなわち、印加バイアス電圧のパターンは、4直列では2種類,6直列では3種類,8直列では4種類となる。印加バイアス電圧の不均一は、容量可変率の安定性を損なうだけではなく、一部の可変容量キャパシタにのみが負荷がかかることになり、故障を招く可能性が高くなる。
【0016】
次に、本実施例では、第2バイアスラインBL2側の第2バイアス端子11を、正の電圧を印加する電源端子とし、第1バイアスラインBL1側の第1バイアス端子14を接地端子として、バイアス電圧の制御を行っている。これにより、各可変容量キャパシタ31〜34におけるバイアス+側が正の電圧値となり、各可変容量キャパシタ31〜34に流れる電流がバイアス−側と誘電体界面でのリーク特性によって律則されるため、直流バイアスに対して高耐圧化を図ることができる。
【0017】
バイアスラインBL1,BL2に含まれているバイアス抵抗21〜25の各値は、好ましくは、500kΩ以上であるとよい。例えば、NFCにおける通信周波数の範囲は、10〜20MHzの周波数帯域となっている。この帯域において可変容量複合部品としての換算インピーダンス値が、バイアスラインBL1,BL2に含まれているバイアス抵抗21〜25の値以上になると、バイアスラインBL1,BL2に通信信号が混入し、通信回路として成立しなくなる。このような点から、通信信号の混入を避ける条件として、10MHz帯の可変容量複合部品のインピーダンス値の10000倍以上の抵抗値とするのが好ましい。例えば、可変容量複合部品としての容量が400pFであるとすると、周波数13.56MHzでインピーダンスは約30Ωとなるので、バイアス抵抗21〜25の各値は300kΩ以上とする。
【0018】
しかし、バイアスラインBL1,BL2に含まれているバイアス抵抗21〜25の各値があまりに大きく、可変容量キャパシタ31〜34自身のリーク電流量から換算される抵抗値,すなわちリーク抵抗成分41〜44の値と同等になると、それらリーク抵抗成分41〜44による電圧降下によって可変容量キャパシタ31〜34自身にかかるバイアス電圧が低下してしまう。このような点からすると、可変容量キャパシタ31〜34に十分にバイアス電圧が印加されるためには、バイアス抵抗21〜25の値を、可変容量キャパシタ31〜34のリーク抵抗成分41〜44の1/50以下とするのが好ましい。リーク抵抗成分41〜44は約50GΩ程度であるので、バイアス抵抗21〜25の抵抗値は1GΩ以下とする。
【0019】
次に、
図2及び
図3も参照しながら、本実施例の作用を説明する。なお、
図2中、リーク抵抗成分41〜44は省略している。
図2(A)には、本実施例における電流の流れを示しており、上述したバイアス抵抗値の設定により、可変容量キャパシタ31〜34に流れる電流はすべて一致している。詳述すると、第2バイアスラインBL2の第2バイアス端子11に流れる電流をiとすると、バイアス抵抗21,22に流れる電流は(1/2)iとなり、各可変容量キャパシタ31〜34に流れる電流は(1/4)iとなる。一方、第1バイアスラインBL1のバイアス抵抗23,25に流れる電流は(1/4)iであるのに対し、バイアス抵抗24に流れる電流は(1/2)iとなり、第1バイアス端子14に流れる電流はiとなる。
【0020】
これに対し、上述した背景技術のように、バイアス抵抗21〜25を全て同一の値とすると、
図2(B)に示すように、可変容量キャパシタ31〜34に流れる電流は一致せず、容量の可変量が不均一となる。すなわち、可変容量キャパシタ31,34に流れる電流は(1/3)i,可変容量キャパシタ32,33に流れる電流は(1/6)iとなる。また、第2バイアスラインBL2のバイアス抵抗21,22に流れる電流は(1/2)iで同じであるが、第1バイアスラインBL1のバイアス抵抗23〜25に流れる電流はどれも同じで、(1/3)iとなる。
【0021】
図3には、可変容量キャパシタ31〜34の両端の電圧(電位差)V41〜V44の一例を示している。同図(A)は、バイアス抵抗21,22,24の値が25GΩ,バイアス抵抗23,25が50GΩ,リーク抵抗成分41〜44が50GΩの場合に、バイアス電圧として3Vを電源端子11に印加した本実施例の場合を示しており、各可変容量キャパシタ31〜34の両端の電圧V41〜V44はよく一致している。
【0022】
図3(B)は、同図(A)の場合と比較して、バイアス抵抗21,22,24の値を25GΩから22.5GΩとした場合を示している。各可変容量キャパシタ31〜34の両端の電圧V41〜V44にはわずかに違いが見られるが、いずれも許容できる誤差の範囲にある。すなわち、電圧V41〜V44間の誤差は0.05Vで、
図3(A)の場合と比較して約5%であり、容量変化量換算では0.7%の誤差である。
【0023】
図3(C)は、前記
図2(B)の場合を示しており、バイアス抵抗21〜25の値が50GΩ,リーク抵抗成分41〜44が50GΩの場合に、バイアス電圧として3Vを電源端子11に印加した場合を示している。同図のように、V41,V44>V42,V43となっており、差が大きい。
【0024】
以上のように、本実施例によれば、バイアスラインBL1,BL2に含まれているバイアス抵抗21〜25の値を調整して、可変容量キャパシタ31〜34における電圧・電流が均一となるようにしたので、各素子が持っている本来の容量変化を最大限引き出すことができ、全体として容量変化率の大きい可変容量複合部品を提供することができる。また、可変容量複合部品のインピーダンスを考慮してバイアス抵抗21〜25の値を設定することとしたので、バイアスラインBL1,BL2への信号の混入が防止される。更に、バイアス抵抗21〜25の値を、可変容量キャパシタ31〜34のリーク抵抗成分41〜44の値を考慮して設定することとしたので、各可変容量キャパシタ31〜34間におけるバイアス電圧の不均一な印加による故障が防止される。
【0025】
次に、
図4〜
図7を参照しながら、前記実施例1の具体的な部品構造の一例を説明する。
図4は、主要部の重なりの様子を示されており、二点鎖線は下側の電極パターン,点線は上側の電極パターンを示している。また、同図のA−A'線に沿った可変容量キャパシタ部分の断面を
図5に、B−B'線に沿った第1バイアスライン部分の断面を
図6に、C−C'線に沿った第2バイアスライン部分の断面を
図7に、それぞれ示している。
【0026】
図5〜
図7において、支持基板100としては、SiO
2の熱酸化膜付のSi基板を使用している。これに限らず、石英,アルミナ,サファイア,ガラス等の絶縁性基板を使用してもよいし、Si等の導電性基板(できれば高抵抗基板)上に絶縁層を成膜したものであってもよい。更に、SiO
2膜上に、水素侵入の保護を目的とするAl
2O
3膜を形成してもよい。Al
2O
3膜の代わりに、SiN,Ta
2O
5,SrTiO
3等を単層もしくは積層してもよい。膜厚の一例を示すと、Si基板が400μm,SiO
2膜が1μm,Al
2O
3膜が100nmである。
【0027】
次に、
図5の可変容量キャパシタ部分を参照すると、支持基板100の主面上に、例えばPtによって下部電極を形成する。Ptの下部に、支持基板100に対する密着層として、Ti層あるいはTiO
2層を成膜してもよい。また、なお、電極材料としては、前記Pt,Ir,Ruなどの貴金属の他に、SrRuO
3,RuO
2,IrO
2などの導電性酸化物等を用いてもよい。下部電極上には、可変容量特性を有する誘電体層を形成する。例えば、BST(BaSrTiO
3),BSTにMnを微量添加したもの,PZT(PbZrTiO
3)や、その他のペロブスカイト構造酸化物等を用いてよい。誘電体層上には、Ptによる上部電極を形成する。Pt以外に、Ir,Ruなどの貴金属や、SrRuO
3,RuO
2,IrO
2などの導電性酸化物を用いてもよい。厚さの一例を示すと、250nmの下部電極Pt/100nmのBST/250nmの下部電極Ptである。なお、可変容量キャパシタ31と可変容量キャパシタ32の下部電極、可変容量キャパシタ33と可変容量キャパシタ34の下部電極はそれぞれ共通になっている。可変容量キャパシタ31と可変容量キャパシタ32の下部電極は、可変容量キャパシタ31については第2信号端子13側なので第2電極となり、可変容量キャパシタ32については第1信号端子12側なので第1電極となる。同様に、可変容量キャパシタ33と可変容量キャパシタ34の下部電極は、可変容量キャパシタ33については第2信号端子13側なので第2電極となり、可変容量キャパシタ34については第1信号端子12側なので第1電極となる。
【0028】
例えば、携帯電話用FeliCa(登録商標)の場合、周波数調整用としての最良の容量値は13.56MHzにおいて100pFである。このため、可変容量キャパシタ31〜34を4直列とする場合、各キャパシタの容量値は400pFとする。
【0029】
なお、
図8(A)に示すように、4つの可変容量キャパシタ31〜34は、交互に極性が逆となるようにするとよい。すなわち、第1信号用端子12→可変容量キャパシタ31の上部電極31a→誘電体層→下部電極31b→可変容量キャパシタ32の下部電極32b→誘電体層→上部電極32a→可変容量キャパシタ33の上部電極33a→誘電体層→下部電極33b→可変容量キャパシタ34の下部電極34b→誘電体層→上部電極34a→第2信号用端子13という具合に、信号の進行方向に対して可変容量キャパシタ31〜34の向きが交互に反対方向となるように接続するとよい。これにより、比較的滑らかな面(支持基板100)上に形成される下部電極31b〜34bと、比較的粗い面(誘電体層)上に形成される上部電極31a〜34aとで、リーク電流特性が異なるために生じる極性を打ち消すために有効である。
【0030】
次に、
図6,
図7のバイアスライン部分を参照すると、バイアス抵抗21〜25の抵抗層としてTa−SiN膜を形成し、その両端に引き出し電極を形成している。他に、Ni−Cr合金,F柄−Cr−Al合金などの高抵抗膜を用いてもよい。ところで、上述したように、本実施例では、バイアス抵抗21,22,24の値を、バイアス抵抗23,25の0.45倍〜0.55倍に設定している。抵抗膜の抵抗値を調整する要素としては、膜の幅,長さ,厚み,素材が考えられるが、本実施例では抵抗膜の中央部分の幅を調整している。
図4に示す例では、バイアス抵抗21,22,24の中央部分の幅Wに対して、バイアス抵抗23,25の中央部分の幅をW/2としている。抵抗膜の長さによって抵抗値を調整する方法では、抵抗膜中央部分の配線が極端に短くなり、加工精度の問題が生じる恐れがある。ただし、信号線両端の抵抗層が十分な長さを持っている場合であれば、中央部分の抵抗膜の長さを0.45倍〜0.55倍とする調整でもよい。一例を示すと、バイアス抵抗21,22,24の抵抗値を20MΩ,バイアス抵抗23,25の抵抗値を40MΩとする場合、長さ0.02mmで作成された抵抗線の幅を、バイアス抵抗21,22,24では0.02mmとし、バイアス抵抗23,25では0.01mmとするという具合である。
【0031】
次に、支持基板100上の電極引き出しのために形成された絶縁層102,104は、例えば3μmのポリイミドによって形成する。他に、SiO
2,SiN等の無機絶縁膜や、ポリイミド樹脂,BCB樹脂等の有機絶縁膜を用いてもよい。電極引き出し部を成長形成するためのシード層/バリア層(密着層)としては、Cu/TaN(Ta)を用いている。シード層は、引き出す端子電極材料に適したものを選ぶ必要がある。バリア層(密着層)は、他に、Ti,TiN,TaN,TiSiN,TaSiNその他の窒化物や、SrRuO
3,IrO
2などの酸化物等を用いてもよい。電極引き出し部に接続する引き出し電極は3μmのCuとしたが、Al等の各種導電性材料が利用できる。また、引き出し電極上の端子電極としては、5μmのSn−Agを使用している。しかし、実装方法に応じて、Al−Cu合金,Au,半田材料等を用いてよい。
【0032】
次に、以上のような構造の可変容量複合部品について、各可変容量キャパシタ31〜34に印加される電圧のグラフを示すと、
図8(B)に示すようになる。このグラフは、バイアス抵抗21,22,24の抵抗値を20MΩ,バイアス抵抗23,25の抵抗値を40MΩ,リーク抵抗成分41〜44の抵抗値を50GΩとした場合に、第2バイアス端子11にバイアス電圧として3Vを印加したときの各可変容量キャパシタ31〜34の両端の電位差を示すもので、すべての可変容量キャパシタ31〜34において均等に3Vの電圧が印加されていることが分かる。
【0033】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例は、可変容量キャパシタが4つの場合を示したが、一般的に偶数(自然数をnとしたときN=2n)個であれば、同様に適用できる。
(2)前記実施例は、本発明を周波数調整に用いる場合を主として説明したが、可変容量を必要とする各種の回路に適用してよい。