(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091881
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】BaTi2O5系複合酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 25/00 20060101AFI20170227BHJP
H01G 4/12 20060101ALI20170227BHJP
C04B 35/468 20060101ALN20170227BHJP
【FI】
C01G25/00
H01G4/12 415
!C04B35/468
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-276444(P2012-276444)
(22)【出願日】2012年12月19日
(65)【公開番号】特開2013-224245(P2013-224245A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2015年10月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-62500(P2012-62500)
(32)【優先日】2012年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(72)【発明者】
【氏名】角田 洋幸
(72)【発明者】
【氏名】恒吉 潤
(72)【発明者】
【氏名】岸 松雄
(72)【発明者】
【氏名】後藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】塗 溶
(72)【発明者】
【氏名】且井 宏和
【審査官】
壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−223669(JP,A)
【文献】
特開2009−051690(JP,A)
【文献】
特開2006−199563(JP,A)
【文献】
特開2010−103209(JP,A)
【文献】
特開2011−006266(JP,A)
【文献】
特開2011−219351(JP,A)
【文献】
特開平06−227817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G1/00−47/00,49/10−99/00
C04B35/42−35/51
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaTiO3およびBaZrO3とから構成される原料を、Zr/(Ti+Zr)で表されるモル分率が全体で0.002〜0.16となるように秤量する秤量工程と、
前記原料を1050〜1300℃で加熱して反応させ、BaTiO3系複合酸化物を合成する第1熱処理工程と、
前記BaTiO3系複合酸化物およびTiO2を、Zr/(Ti+Zr)で表されるモル分率が全体で0.001〜0.08の範囲になるように混合して混合物を生成する混合工程と、
前記混合物を1000〜1100℃で加熱して反応させて、BaTi2O5系複合酸化物を合成する第2熱処理工程と、
を備えていることを特徴とするBaTi2O5系複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記第1熱処理工程の前に、前記原料の平均粒径が10〜700nmの範囲になるように、前記原料を粉砕する第1粉砕工程を備えることを特徴とする請求項1に記載のBaTi2O5系複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記第2熱処理工程の前に、前記混合物の平均粒径が10〜700nmの範囲になるように、前記混合物を粉砕する第2粉砕工程を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のBaTi2O5系複合酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組成式BaTi
2O
5で表される二チタン酸バリウムは非鉛系のため環境に優しく、また、450℃付近で2〜3万という高い誘電率を示す有望な非鉛系強誘電体である。ただし、その実用化のためには、そのままでは高い強誘電相変化温度T
C≒470℃を低くすることが不可欠である。そこで、代表的なT
c低温化方法として、Baまたは/およびTiサイトの一部を異種元素で置換してBaTi
2O
5系複合酸化物とする元素置換法が知られており、中でも、Tiサイトにおける元素置換は効果的な元素置換法として用いられることが多い。ここで、BaTi
2O
5系複合酸化物とは、BaTi
2O
5中のBaまたは/およびTiの一部を他元素で置換した酸化物、またはBaTi
2O
5自体をいう。
【0003】
上記BaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法としては、例えば、BaTi
2O
5にMnO
2を添加した後に電気炉で大気下焼結する方法がある(特許文献1)。この方法によれば、BaまたはTiサイトの一部がMnで置換され、T
cは320〜330℃まで下げられる。また、この方法は単純な工程からなり、特殊な装置を利用することもないため、容易かつ低コストでBaTi
2O
5系複合酸化物を製造できる。また、MnO
2は焼結助剤としての役割も担い、製造したBaTi
2O
5系複合酸化物は焼結体として得られるので、これを強誘電体素子への応用につなげ易い。
【0004】
これとは別に、BaCO
3、TiO
2、およびZrO
2の各粉末を原料として同時に混合し、これを950℃で加熱して固相反応させた後にアーク溶融することによる、BaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法もある(非特許文献1)。この方法では、ZrがTiサイトにおける置換元素となる。この方法では、いずれも一般的で入手の容易なBaCO
3、TiO
2、およびZrO
2を原料としており、工程も単純である。また、BaTi
2O
5系複合酸化物が高密多結晶体として得られるため、特許文献1の方法と同様に、強誘電体素子への応用につなげ易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−006266号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】X.Y.Yue、R.Tu、and T.Goto、Materials Transactions、49、120(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されているような従来のBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法では、既に形成されているBaTi
2O
5結晶中にMnを導入することになるため、MnまたはTiが余剰になる。これにより、BaTi
2O
5以外にも、Baに対してTiサイトが過剰となった非化学量論組成の化合物や、その他のMnまたはTiを含む異相が生成されることになる。したがって、この従来法では、BaTi
2O
5系複合酸化物を高純度で作製することはできないという問題がある。また、上記方法によると、BaTi
2O
5系複合酸化物相と異相が共存しているため、多くの場合で、正確な置換率を調べることが難しくなる。こうなると、T
c等の強誘電特性と置換率の相関性の把握が困難となるので、特性改善を狙った組成設計などの応用展開も難しくなる。
【0008】
一方、非特許文献1に開示されているようなBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法では、試料を溶融状態にするために1400℃近くまで加熱する必要がある。そのため、電力の消費や耐熱炉の使用により、製造コストが高くなってしまう。また、上記方法ではアーク溶融を用いるので、装置が高額になり、水冷によるランニングコストもかさむ。このように、この方法では製造コストが高くなるという問題がある。また、アーク溶融後の急冷で得られる試料は高密・硬質の多結晶体であるので、粉末としての試料回収ができないため、試料の利用範囲が制限されてしまうという問題もある。なお、この問題を避けるために、溶融温度や焼結温度以下で固相反応させることを考えることはできる。しかし、この場合、原料中の3相の間での組み合わせによる反応が起こり、副生成物を生じるため、目的とするBaTi
2O
5系複合酸化物を高純度で得られない。そこで、副反応を抑えるためにZrO
2の添加量を少なくすることも考えられるが、この場合、当然ながらZrの置換率を高くできなくなる。つまり、高純度化のために置換率が犠牲になってしまう。また、副反応が完全に無くなる訳ではないので、根本的な解決にはならない。
【0009】
本発明の目的は、BaTi
2O
5中のBaやTiの一部を、高純度・高置換率且つ安価に他元素へ置換できるBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、発明者は高純度のBaTi
2O
5系複合酸化物を得るべく鋭意研究した結果、下記のBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法により本発明の目的を達成する。
【0011】
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、BaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法であって、BaTiO
3およびBaZrO
3とから構成される原料を、Zr/(Ti+Zr)で表されるモル比が全体で0.002〜0.16となるように秤量する秤量工程と、前記原料を1050〜1300℃で加熱して反応させ、BaTiO
3系複合酸化物を合成する第1熱処理工程と、前記BaTiO
3系複合酸化物およびTiO
2を、Zr/(Ti+Zr)で表されるモル比が全体で0.001〜0.08の範囲になるように混合して混合物を生成する混合工程と、前記混合物を
1000〜1100℃で加熱して反応させて、BaTi
2O
5系複合酸化物を合成する第2熱処理工程と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
この方法では、最終的に得られるBaTi
2O
5系複合酸化物において、Baの数に対してTiサイトでのTiおよびZrの数の和が2になるように、使用する原料の投入量が調整される。これにより、Ba、Ti、およびOサイトの間の物質量比が化学量論的な1:2:5に調整されるため、従来のBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法のように非化学量論組成の化合物や、その他の異相が生成される虞がない。
【0013】
また、試料中での固相反応を2回の熱処理工程に分けられ、そのいずれにおいても反応物系は2相からなる。これにより、各固相反応は2相のみの間での反応として単純化されており、従来のBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法のような3相間での複雑な反応が起こる虞がない。したがって、得られるBaTi
2O
5系複合酸化物の高純度化が達成できる。
【0014】
また、最終製造目的のBaTi
2O
5系複合酸化物におけるZrの置換率はBaTi
2O
5系複合酸化物のT
C低温化が有意となる0.001以上すなわち0.1%以上とし、置換限界である
0.08以下すなわち8%以下とする。このようにするためには、秤量工程においてZr/(Ti+Zr)で表されるモル比を0.002以上0.16以下とする必要がある。
【0015】
また、本発明の請求項2に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法は、前記第1熱処理工程の前に、前記原料の平均粒径が10〜700nmの範囲になるように、前記原料を粉砕する第1粉砕工程を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項3に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法は、前記第2熱処理工程の前に、前記混合物の平均粒径が第2熱処理工程の直前において10〜700nmの範囲になるように、前記混合物を粉砕する第2粉砕工程を備えることを特徴とする。
【0017】
このように各熱処理工程に際して反応物粒子を微細化しておくことにより、試料の比表面積を大きくし、熱処理工程で起こる固相反応の効率化が図られる。また、微細化により反応物がより均一に混合した状態になるため、反応系内で反応率の差が生じることや予期しない反応経路での反応が起きることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法では、原料中の元素物質量比がBaTi
2O
5系複合酸化物の組成に一致するように化学量論的に調整され、さらに、2回の熱処理工程で起こる固相反応がいずれも2相間の反応として単純化されるため、従来の固相反応法を利用したBaTi
2O
5系複合酸化の製造方法のような副生成物が発生する虞がなく、高純度のBaTi
2O
5系複合酸化を製造できる。
【0019】
また、得られるBaTi
2O
5系複合酸化が高純度であることにより、その強誘電特性と置換率の相関が明瞭になり、特性改善を狙った高自由度な組成設計が可能になる。
また、2回の熱処理工程のいずれにおいても、電気炉の使用が可能な比較的低温での加熱で済むため、従来のアーク溶融法を利用したBaTi
2O
5系複合酸化の製造方法に比べて、製造コストを低くできる。
【0020】
また、本発明によれば、BaTi
2O
5系複合酸化を粉末として回収でき、従来のアーク溶融法を利用したBaTi
2O
5系複合酸化の製造方法に比べて、試料の利用範囲が広がる。
したがって、本発明は、BaTi
2O
5中のBaやTiの一部を、高純度・高置換率且つ安価に他元素へ置換できるBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法について、
図1を参照しながら説明する。
図1は本発明に係るBaTi
2O
5系複合酸化物の製造方法の一例を示す工程図である。 この製造方法は、秤量工程(ステップS1)と、第1混合・粉砕工程(ステップS2)と、第1熱処理工程(ステップS3)と、TiO
2調合工程(ステップS4)と、第2混合・粉砕工程(ステップS5)と、および第2熱処理工程(ステップS6)と、から構成されている。
【0023】
まず、ステップS1に係る秤量工程では、BaTiO
3とBa(B)O
3を、この段階でのBa/(Ti+(B))および(B)/(Ti+(B))で表したモル比および置換率が、それぞれ
1および0.002〜0.16となるように秤量する。ここで、(B)はSi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ge、Se、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Ptの群の中から選ばれる1種類の元素を表す。
【0024】
なお、BaTiO
3とBa(B)O
3はいずれも粒子形状を有し、その粒径が細かいほど後述する第1混合・粉砕工程および第1熱処理工程での処理効率が向上するが、平均粒径が1μm以下であれば実質的に問題とはならない。
【0025】
次いで、ステップS2に係る第1混合・粉砕工程(第1粉砕工程)では、ステップS1にて秤量した秤量物の均一混合と当該秤量物を構成する粒子の微細化を行う。また、この工程で得られる混合粉末の平均粒径は、後述する第1熱処理工程での処理効率を高くするために、10nm〜1μm程度が好ましく、特に10〜700nm程度であるとより好ましい。なお、これを実現するための混合・粉砕時間は適宜調整できる。
【0026】
ここで、混合・粉砕方法としては、乾式・湿式のいずれの方法を採用してもよい。湿式法を採用した場合、混合媒質は、粒子同士の固着を防ぐ液体状態の物質であればよく、例えば、水や、アルカン類、アルコール類、ケトン類、芳香族などの有機溶媒、またはこれらを混合ないし相互溶解したもの等を適宜に使用できる。また、混合・粉砕方法としてミリング法を採用した場合、粉砕媒体として、種々のボールやビーズを適宜に使用できるが、硬質であるセラミックス製のものであればより好ましい。また、ミリング処理を行うためのポットは、硬質であるセラミックス製のものが好ましい。
【0027】
具体的には、例えば、上記秤量物を硬質のセラミックス製のポットに入れて、硬質のセラミックス製のビーズおよび水を加えてミリング処理を行うことにより秤量物の混合・粉砕がなされる。その後、ビーズを除去してから試料を100℃〜300℃程度で乾燥する。
【0028】
次いで、ステップS3に係る第1熱処理工程では、ステップS2にて混合・粉砕した混合・粉砕物を、1050〜1300℃程度で加熱して反応させ、BaTiO
3系複合酸化物を合成する。具体的には、例えば、秤量工程でBaTiO
3およびBaZrO
3を原料として使用した場合(つまり、上述の(B)元素としてZrを選択した場合)には、空気中にて1050〜1300℃で熱処理することにより、一般組成式Ba(Ti,Zr)O
3で表されるBaTiO
3系複合酸化物を単相で得ることができる。
【0029】
次いで、ステップS4に係るTiO
2調合工程(混合工程)では、ステップS3の熱処理により生成された焼成物とTiO
2を以下の通りに秤量する。すなわち、最終的な製造目的であるBaTi
2O
5系複合酸化物における置換率(B)/(Ti+(B))がyとなるようにBaTiO
3系複合酸化物とTiO
2を秤量する。
また、置換率はBaTi2O5系複合酸化物のTC低温化が有意となる0.001以上すなわち0.1%以上とし、置換限界である0.08以下すなわち8%以下とする。
【0030】
そのためのBaTiO
3系複合酸化物とTiO
2の比は、以下のように決める。BaTiO
3系複合酸化物における置換率(B)/(Ti+(B))をzと表し、ステップS4で作成するBaTi
2O
5系複合酸化物における置換率(B)/(Ti+(B))をyとし、BaTiO
3系複合酸化物とTiO
2のモル比をBaTiO
3系複合酸化物/TiO
2=a/bとするとき、式1を満たすように秤量する。
【0034】
次いで、ステップS5に係る第2混合・粉砕工程(第2粉砕工程)では、ステップS4における秤量物の均一混合と粒子の微細化を行う。混合・粉砕方法や粒径については、第1混合・粉砕工程と同様であるので、その説明を省略する。
【0035】
最後に、ステップS6に係る第2熱処理工程では、ステップS5における混合・粉砕物を、1000〜1100℃程度で加熱し、固相反応させることにより、目的のBaTi
2O
5系複合酸化物を合成できる。この工程で起こる固相反応は、BaTiO
3系複合酸化物とTiO
2の2相間で起こる単純な反応であり、副生成物は生じない。したがって、BaTi
2O
5系複合酸化物を高純度で得ることできる。
【符号の説明】
【0036】
S1 秤量工程
S2 第1混合・粉砕工程
S3 第1熱処理工程
S4 TiO
2調合工程
S5 第2混合・粉砕工程
S6 第2熱処理工程