特許第6091882号(P6091882)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6091882多相系酸化物粉末、多相系酸化物粒子の製造方法、およびBaTi2O5系複合酸化物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091882
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】多相系酸化物粉末、多相系酸化物粒子の製造方法、およびBaTi2O5系複合酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20170227BHJP
   C01G 25/00 20060101ALN20170227BHJP
【FI】
   C01G23/00 C
   !C01G25/00
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-276445(P2012-276445)
(22)【出願日】2012年12月19日
(65)【公開番号】特開2013-224246(P2013-224246A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2015年10月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-62501(P2012-62501)
(32)【優先日】2012年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100154863
【弁理士】
【氏名又は名称】久原 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(72)【発明者】
【氏名】角田 洋幸
(72)【発明者】
【氏名】恒吉 潤
(72)【発明者】
【氏名】岸 松雄
(72)【発明者】
【氏名】後藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】塗 溶
(72)【発明者】
【氏名】且井 宏和
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04092264(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0129286(US,A1)
【文献】 特開2013−051043(JP,A)
【文献】 特開2012−197200(JP,A)
【文献】 特開2013−224245(JP,A)
【文献】 A. UBALDINI,Kinetics and Mechanism of Formation of Barium Zirconate from Barium Carbonate and Zirconia powders,Journal of American Ceramic Society,2003年 1月31日,vol. 86, issue 1,p. 19-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00−23/08
C01G 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Baを含む化合物およびZrを含む化合物とからなる原料を、Baに対するZrのモル比が1.75〜2.25を満たすように秤量する秤量工程と、
前記原料を加熱処理し、BaZrO3相とZrO2相の2相から形成される多相系酸化物粒子を合成する熱処理工程と、
を備えていることを特徴とする多相系酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程の前に、前記原料の平均粒径が10〜700nmの範囲になるように、前記原料を粉砕する粉砕工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の多相系酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程において、加熱温度を800〜1300℃とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の多相系酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
BaTi25に、請求項1乃至3のいずれかに記載の多相系酸化物粒子の製造方法により製造される多相系酸化物粒子を添加して混合物を生成する調合工程と、
前記混合物を加熱処理してBaTi25系複合酸化物を合成する熱処理工程と、
を備えていることを特徴とするBaTi25系複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記調合工程は、前記多相系酸化物粒子の添加量が当該多相系酸化物粒子の前記BaTi25に対するモル比で0.08以下となるように秤量する第2の秤量工程を含むことを特徴とする請求項4に記載のBaTi25系複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理工程において、加熱温度を900〜1100℃とすることを特徴とする請求項4又は5に記載のBaTi25系複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
ZrO2相からなる核が、BaZrO3相からなる殻で覆われた多相系酸化物粒子からなり、
Baに対するZrのモル比が1.75〜2.25の範囲にあることを特徴とする多相系酸化物粉末
【請求項8】
前記ZrO2相からなる核の表面の少なくとも一部を覆うように、前記BaZrO3相が形成されてなることを特徴とする請求項7に記載の多相系酸化物粉末
【請求項9】
前記多相系酸化物粒子全体の平均粒径が10〜700nmであることを特徴とする請求項7又は8に記載の多相系酸化物粉末
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多相系酸化物粒子、多相系酸化物粒子の製造方法、およびBaTi25系複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛を含まない強誘電体である二チタン酸バリウムBaTi25を実用化するためには、高い強誘電相変化温度Tc≒470℃を低くすることが嘱望されている。
【0003】
従来からある代表的なTc低温化法として、元素置換法が知られている。元素置換法とは、Baまたは/およびTiサイトの一部を異種元素で置換したBaTi25系複合酸化物とする方法である。当該元素置換法の中でも、Tiサイトにおける元素置換は、効果的なTc低温化法として知られている。なお、上述のBaTi25系複合酸化物とは、BaTi25中のBaまたは/およびTiの一部を他元素で置換した酸化物、またはBaTi25自体をいう。
【0004】
元素置換法を用いたBaTi25系複合酸化物の製造方法としては、例えば、BaTi25とMnO2の混合原料を電気炉で大気下焼結する方法が報告されている(特許文献1)。この方法によれば、BaまたはTiサイトの一部がMnで置換される結果、Tcは320〜330℃まで下げられる。その上、この方法では、アーク溶解炉やガス浮遊炉等といった特殊な装置を利用しておらず、また工程が少ないため、安価にBaTi25系複合酸化物を提供できるという利点がある。また、MnO2は焼結助剤としての役割も担い、製造したBaTi25系複合酸化物は焼結体として得られるため、強誘電体素子への応用につなげ易い。
【0005】
元素置換法を用いたBaTi25系複合酸化物の製造方法の他の例としては、BaCO3、TiO2、およびZrO2の混合粉末原料を950℃で固相反応させた後にアーク溶融することにより、Tiサイトの一部をZrで置換する方法も知られている(非特許文献1)。この方法では、いずれも一般的で入手の容易なBaCO3、TiO2、およびZrO2を原料としており、原料コストが抑えられるという特長がある。また、この方法によるとBaTi25系複合酸化物が高密多結晶体として得られるため、特許文献1に記載の方法と同様に、強誘電体素子への応用につなげ易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−006266号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】X.Y.Yue、R.Tu、and T.Goto、Materials Transactions、49、120(2008)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されているBaTi25系複合酸化物の製造方法では、既に形成されているBaTi25結晶中にMnを導入することになるため、Mn、Ti、またはBaが余剰になる。これにより、BaTi25との共存成分として、例えば、Mn、Ti、またはBaのいずれかが過剰となった非化学量論組成の化合物やその他のMn、Ti、またはBaを含む異相など、BaTi25系複合酸化物とは異なる相が生成されることが不可避である。したがって、この従来法では、BaTi25系複合酸化物を高純度で作製することができないという問題がある。また、上記方法によると、BaTi25系複合酸化物相と異相が共存しているため、多くの場合で、正確な置換率を調べることが難しくなるため、Tc等の強誘電特性と置換率の相関が不明となり、特性改善を狙った組成設計などの応用展開も難しくなるという問題もある。
【0009】
一方、非特許文献1に開示されているBaTi25系複合酸化物の製造方法では、少なくとも1400℃程度で試料を溶融状態にする必要がある。これにより、電力の消費や耐熱炉の使用に伴う高コスト化が避けられないという問題がある。特に、アーク溶融では、当該溶融に用いる装置が高額であり、水冷によるランニングコストも低くないため、なおさら製造コストが高くなるという問題がある。
【0010】
また、アーク溶融後の急冷で得られる試料は高密・硬質の多結晶体であり、加工の容易な粉末としての試料回収ができないという問題もある。なお、この問題を避けるために、溶融温度または焼結温度以下で固相反応させる方法が考えられるが、この場合、原料中の3相の間で副反応が起こるため、目的とするBaTi25系複合酸化物を高純度で得られない。そこで副反応を抑えるためにZrO2の添加量を少なくすることも考えられるが、この場合、当然ながらZrでの置換率が犠牲になってしまう。また、ZrO2の添加量を少なくしても依然として副反応は起こるので、根本的な解決にはならない。
【0011】
本発明の目的は、上記のような従来のBaTi25系複合酸化物の製造方法の問題を克服するための、高純度且つ低コストでBaTi25系複合酸化物を製造するための多相系酸化物粒子、多相系酸化物粒子の製造方法、及びBaTi25系複合酸化物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、発明者は製造コストの低い方法で高純度のBaTi25系複合酸化物を得るべく鋭意研究した結果、下記の多相系酸化物粒子、多相系酸化物粒子の製造方法、およびBaTi25系複合酸化物の製造方法により本発明の目的を達成できた。
【0013】
具体的には、本発明の請求項1に係る多相系酸化物粒子の製造方法は、Ba系化合物およびZr系化合物とからなる原料を、Baに対するZrのモル比が1.75〜2.25を満たすように秤量する秤量工程と、前記原料を加熱処理して反応させ、BaZrO3相とZrO2相の2相から形成される多相系酸化物粒子を合成する熱処理工程と、を備えていることを特徴とする。
請求項1記載の発明によると、BaTi25系複合酸化物を高純度で作製する際の原料となる多相系酸化物粒子を低コストで作製できる。また、BaZrO3相によりZrO2相が覆われた構造を有する多相系酸化物粒子を得ることができる。
【0014】
また、本発明の請求項2に係る多相系酸化物粒子の製造方法は、前記熱処理工程の前に、前記原料の平均粒径が10〜700nmの範囲になるように、前記原料を粉砕する粉砕工程を備えることを特徴とする。
請求項2記載の発明によると、原料の比表面積が増加し、熱処理工程における反応効率を向上させることができる。これにより、多相系酸化物粒子が低温度で作製可能となる。
【0015】
また、本発明の請求項3に係る多相系酸化物粒子の製造方法は、前記熱処理工程において、加熱温度を800〜1300℃とすることを特徴とする。
請求項3記載の発明によると、800℃より低温ではBa系化合物が反応し切れず不純物として残存する虞があるため好ましくない。また、生成する多相系酸化物粒子は安定であり、その構成成分であるチタン酸バリウムの融点である1625℃付近まで安定だと考えられるが、1300℃より高温では反応速度や生成相の結晶性に大きな変化は生じず、過剰にエネルギを消費することになる。そのため、該熱処理工程での加熱温度は1300℃以下とすることが好ましい。
【0016】
また、本発明の請求項4に係るBaTi25系複合酸化物の製造方法は、BaTi25に、請求項1乃至3のいずれかに記載の多相系酸化物粒子の製造方法により製造される多相系酸化物粒子を添加して混合物を生成する調合工程と、前記混合物を加熱処理してBaTi25系複合酸化物を合成する熱処理工程と、を備えていることを特徴とする。
請求項4記載の発明によると、不純物を生じずに所望のBaTi25系複合酸化物の単一組成物を得られるように原料中の各元素量が化学量論的に調整されており、また該多相系酸化物粒子の熱処理における反応効率が高いため、高純度のBaTi25系複合酸化物を低コストで作製することができる。
【0017】
また、本発明の請求項5に係るBaTi25系複合酸化物の製造方法は、前記多相系酸化物粒子の添加量が当該多相系酸化物粒子の前記BaTi25に対するモル比で0.08以下となるように秤量する第2の秤量工程を含むことを特徴とする。
請求項5記載の発明によると、置換元素の量が元素置換の上限以下に設定されるため、高純度なBaTi25系複合酸化物粒子を作製できる。
【0018】
また、本発明の請求項6に係る多相系酸化物粒子は、前記熱処理工程において、加熱温度を900〜1100℃とすることを特徴とする。
請求項6記載の発明によると、900℃以下または1100℃以上では不純物を生じるため避ける必要があり、900〜1100℃とすれば安定して不純物の生成を回避できるためより好ましい。
【0019】
また、本発明の請求項7に係る多相系酸化物粒子は、BaZrO3相とZrO2相の2相から形成される多相系酸化物粒子であって、前記ZrO2相に対する前記BaZrO3相のモル比が0.75〜1.25の範囲にあることを特徴とする。
請求項7記載の発明によると、多相系酸化物粒子中のBaおよびZr元素の量が、多相系酸化物粒子をBaTi25と反応させる際に、不純物を生じずに所望のBaTi25系複合酸化物の単一組成物を得られるように化学量論的に調整される。このため、該多相系酸化物粒子を高純度のBaTi25系複合酸化物の作製に使用できる。
【0020】
また、本発明の請求項8に係る多相系酸化物粒子は、前記ZrO2相からなる粒子の表面の少なくとも一部を覆うように、前記BaZrO3相が形成されてなることを特徴とする。
請求項8記載の発明によると、BaZrO3相とZrO2相が面接触した状態になり、この多相系酸化物とBaTi25を反応させる際にZrO2相がZr元素の供給源として働く。これを利用して、該多相系酸化物粒子を不純物の生成を避けながら高純度のBaTi25系複合酸化物を作製するために使用できる。
【0021】
また、本発明の請求項9に係る多相系酸化物粒子は、前記2相から形成される多相系酸化物粒子全体の平均粒径が10〜700nmであることを特徴とする。
請求項9記載の発明によると、該多相系酸化物粒子の比表面積が増加し、熱処理における反応効率が向上するので、これをBaTi25系複合酸化物の作製のために原料として使用すれば、低温度でBaTi25系複合酸化物を作製できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るBaTi25系複合酸化の製造方法では、原料投入量が化学量論的に調整される。
また、該製造方法で、本発明に係る多相系酸化物粒子を用いることにより、熱処理において原料が3種類の相からなるにもかかわらず、該工程で起こる固相反応は2相間の反応として単純化されるため、従来の固相反応法を利用したBaTi25系複合酸化の製造方法のような副生成物が発生する虞がなく、高純度のBaTi25系複合酸化を製造できる。
【0023】
また、本発明に係るBaTi25系複合酸化の製造方法の熱処理工程において、電気炉の使用が可能な比較的低温での加熱で済むため、従来のアーク溶融法を利用したBaTi25系複合酸化の製造方法に比べて、製造コストは低い。
また、BaTi25系複合酸化は粉末として得られるため、従来のアーク溶融法を利用したBaTi25系複合酸化の製造方法に比べて、試料の利用範囲が広がる。
【0024】
したがって、本発明は、高純度且つ低コストでBaTi25系複合酸化物を製造するための多相系酸化物粒子、多相系酸化物粒子の製造方法、及びBaTi25系複合酸化物の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る複合酸化物系粒子の断面を模式的に示した図である。
図2】本発明に係る多相系酸化物粒子とBaTi25粒子との反応過程の1例を示した図である。
図3】本発明に係る多相系酸化物粒子の製造方法の1例を示す工程図である。
図4】本発明に係るBaTi25複合酸化物の製造方法の1例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る多相系酸化物粒子について、図1乃至図2を参照しながら説明する。
図1は本発明に係る多相系酸化物粒子の断面を模式的に示した図である。図1に示すように多相系酸化物粒子1は、Ba(B)O3相2からなる粒子表面に(B)O2相3からなる。Ba(B)O3相2は、一般組成式Ba(B)O3で表される複合酸化物を主成分とし、(B)O2相3は一般組成式(B)O2で表される酸化物を主成分とする。
【0027】
ここで、Baはバリウム元素を表し、(B)はSi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ge、Se、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Ptの中から選ばれる1種類の元素を表し、Oは酸素元素を表す。なお、Ba(B)O3相2に含まれる(B)と、(B)O2相3に含まれる(B)と、は同一の元素を表す。
【0028】
ここで、多相系酸化物粒子1は、Ba(B)O3相2および(B)O2相3の2種類の相が共存した混合物であるが、(B)としてZr、Ni、Se、Tc、Ru、Rh、Pd、Sn、Hf、W、Os、Ptを用いた場合には、本発明に係るBaTi25系複合酸化物の製造方法での処理温度範囲内で該2種類の相は反応を起こさない。したがって本発明に係る多相系酸化物粒子は充分に安定に得られる。
【0029】
また、図1に示すように、多相系酸化物粒子1は、(B)O2相3が形成する核の一部または全面をBa(B)O3相2が形成する殻で覆った二層構造を有する。
この多相系酸化物粒子1は、BaTi25中のTiサイトへの元素置換のための原料、すなわちBaTi25系複合酸化物の原料として好適に使用できる。図2は、本発明に係る多相系酸化物にBaTi25を混合して固相反応させた際の、反応過程の1例を示した図である。固相反応は一般に固体粒子表面で起こる。したがって、図2に示すように、多相系酸化物粒子1とBaTi25粒子4の反応は、まずBa(B)O3((B)O3相2)とBaTi25(BaTi25粒子4)の間ではじまり、これによりBaTi25中のTiサイトへの(B)の置換が起こる。
【0030】
さらに、この反応に伴い、多相系酸化物粒子1の核を表す(B)O2相3からBaTi25粒子4へと(B)が供給されると考えられる。もし、反応系がBa(B)O3とBaTi25だけであれば、Baに対してTiサイトを埋める原子が不足することになり、所望のBaTi25系複合酸化物以外の異相が生成される。しかし、本実施例で記載するBaTi25系複合酸化物の製造方法を実行すれば、そうした異相は確認されない。すなわち、BaTi25粒子4には、多相系酸化物粒子1との反応に合わせて(B)O2相3から(B)の供給があると考えることが妥当である。ただし、このように(B)O2相3から(B)元素が供給されるためには、Ba(B)O3相2と(B)O2相3の2相が構造上直接的に面接触して構成された、例えば多相系酸化物粒子1のような、状態であることが好ましい。もし、2相が互いに分離された状態または点接触のように接触面積が小さいと、後の焼成工程で(B)の供給が効率的に行われず、BaTi25系複合酸化物を高純度で得られなくなる虞がある。
【0031】
なお、(B)O2相3が形成する核の表面の一部のみがBa(B)O3相2で覆われている場合には、後述の焼成工程でBaTi25は(B)O2相3との間でも直接的に反応を起こす可能性がある。この反応では、不足するBaをBa(B)O3相2から補う。したがって、2相が構造上直接的に面接触し、不足する元素の供給が2相間で行われれば、(B)O2相2は必ずしもBa(B)O3相3の全面を覆っている必要はない。また、例えば、多相系酸化物粒子1を粉砕しても問題ない。
【0032】
また、多相系酸化物粒子1を集めた粉末において、Baに対する(B)のモル比(B)/Baは2であることが最も好ましく、実質的には2±0.25の範囲にあれば好い。該モル比の範囲外になると、後述するBaTi25系複合酸化物の製造方法において、BaTi25系複合酸化物の組成と大きく異なってしまうため、高純度のBaTi25系複合酸化物を安定して製造できない虞がある。なお、該モル比の範囲内とすれば、多相系酸化物粒子1において、(B)O2相3に対するBa(B)O3相2のモル比は、1±0.25の範囲に収まる。
【0033】
(多相系酸化物粒子の製造について)
次に、多相系酸化物粒子1の製造方法について、図3を参照しながら説明する。図3は本発明に係る多相系酸化物粒子の製造方法の1例を示す工程図である。この製造方法は、秤量工程(ステップS1)、混合・粉砕工程(ステップS2)、および熱処理工程(ステップS3)から構成されている。
【0034】
まず、ステップS1に係る秤量工程では、Baを含む化合物と(B)を含む化合物を、Baに対する(B)のモル比(B)/Baが2±0.25の範囲内になるように、より好ましくは2となるように秤量する。ただし、Baを含む化合物としては、例えば、Baの炭酸塩であるBaCO3や、Ba(OH)2、BaOが挙げられ、(B)を含む化合物としては(B)の酸化物である(B)O2が挙げられる。また、後述する混合・粉砕工程において、Baもしくは(B)が不足する虞がある場合は、秤量工程において(B)/Baが2±0.25満たす範囲内で適宜(B)やBaの量を調整すると好い。
【0035】
なお、Baを含む化合物と(B)を含む化合物はいずれも粒子形状を有し、その粒径が細かいほど後述する混合・粉砕工程および熱処理工程での処理効率が向上するが、平均粒径が1μm以下であれば実質的に問題とはならない。
【0036】
具体的には、例えば、Baを含む化合物および(B)を含む化合物として、それぞれBaCO3およびZrO2を用意し(すなわち、(B)の元素としてZrを選択し)、モル比Zr/Baが2±0.25の範囲にある特定の値となるように秤量する。
【0037】
次いで、ステップS2に係る混合・粉砕工程では、ステップS1で秤量した秤量物の均一混合と当該秤量物を構成する粒子の微細化を行う。また、この工程で得られる混合粉末の平均粒径は、10nm〜1μm程度が好ましく、10〜700nm程度であればより好ましい。なお、これを実現するための混合・粉砕時間は適宜調整できる。
【0038】
ここで、混合・粉砕方法としては、乾式・湿式のいずれの方法を採用してもよい。湿式法を採用した場合、混合媒質は、粒子同士の固着を防ぐ液体状態の物質であればよく、例えば、水や、アルカン類、アルコール類、ケトン類、芳香族などの有機溶媒、またはこれらを混合ないし相互溶解したもの等を適宜に使用できる。
【0039】
また、混合・粉砕方法としてミリング法を採用した場合、粉砕媒体として、種々のボールやビーズを適宜に使用できるが、硬質であるセラミックス製のものであればより好ましい。また、ミリング処理を行うためのポットは、硬質であるセラミックス製のものが好ましい。
【0040】
具体的には、例えば、上記秤量物を硬質のセラミックス製のポットに入れ、硬質のセラミックス製のビーズおよび水を加えて、ミリング処理を行う。その後、ビーズを除去してから、試料を100℃〜300℃程度で乾燥することにより秤量物の混合・粉砕がなされる。
【0041】
最後に、ステップS3に係る熱処理工程では、ステップS2にて混合・粉砕した混合・粉砕物を、800〜1300℃で加熱して反応させ、図1を参照しながら説明した多相系酸化物粒子1を合成する。
【0042】
具体的には、例えば、秤量工程でBaCO3およびZrO2を原料として使用した場合には、空気中にて800〜1300℃で熱処理することにより、ZrO2およびBaZrO3からなる多相系酸化物粒子1を合成できる。なお、BaCO3およびZrO2を原料とし、BaCO3とZrO2を1対1で混合した場合には、ZrO2の形成した核の表面をBaZrO3の形成した殻で覆う粒子が生成されることが知られている。このことから、上述のモル比(B)/Ba=2に基づきBaCO3とZrO2が1対2の割合で混合される本発明の場合にも、図1を参照しながら説明した多相系酸化物粒子1が生成されることが類推される。
【0043】
既述のとおり、多相系酸化物粒子1について、(B)元素としてZrを用いた場合には、処理温度範囲内において、多相系酸化物粒子を構成するBaZrO3の相およびZrO2の相との間で反応は起こらない。したがって図3のステップS3で述べた熱処理工程において2相が得られた時点で反応は終了する。
【0044】
(BaTi25系複合酸化物の製造について)
次に、BaTi25系複合酸化物の製造方法の実施形態について、図4を参照しながら説明する。
図4は、本発明に係るBaTi25複合酸化物の製造方法の1例を示す工程図である。 この製造方法は、秤量工程(ステップS11)、混合工程(ステップS12)、および熱処理工程(ステップS13)から構成されている。
【0045】
まず、ステップS11に係る秤量工程(調合工程、第2の秤量工程)では、図3のステップS1〜S3の工程を経て生成された多相系酸化物粒子1とBaTi25を以下の通りに秤量する。すなわち、多相系酸化物粒子1の粉末中のBaの数をn1とし、BaTi25中のBaの数をn2とした場合に、比率n1/(n1+n2)が0.08以下となるように秤量する。この比率は、製造目的であるBaTi25系複合酸化物中のTiサイトにおける(B)元素の置換率に対応する。すなわち、後述する工程で製造されるBaTi25系複合酸化物の一般組成式をBa(Ti1-y(B)y25と表したときのyは、該比率とほぼ等しい値になる。そこで、該比率は、目的とする(B)元素の置換率に応じて設定できる。ただし、発明者の鋭意研究の結果によれば、該置換率が0.08より大きいBaTi25系複合酸化物は安定的に製造できないため、該比率は0.08以下の範囲で設定することが好ましい。
【0046】
また、多相系酸化物粒子1とBaTi25の粒径が細かいほど後述する熱処理工程での処理効率が向上するため、平均粒径が10〜102nmオーダーの範囲にあるものを使用することが好ましい。
【0047】
次いで、ステップS12に係る混合工程(調合工程)では、ステップS11にて秤量した秤量物を均一に混合する。ここで、多相系酸化物粒子1中の(B)元素がZr、V、Tc、Ru、Rh、Pd、Sn、Hf、W、Re、Os、Ir、Pt以外の元素である場合には、混合操作により多相系酸化物粒子の2層構造が破壊されると、後述の熱処理工程で副反応が起こり、BaTi25系複合酸化物を安定的に製造できなくなる虞がある。したがって、その場合の混合方法としては、混合する粒子の粉砕を避けられるものが好ましい。例えば、手動もしくは機械操作の、容器回転型、容器揺動型、リボン型、スクリュー型、パドル型、高速流動型、回転円板型、ホイール型、気流型、液流型、重量型、撹拌士型等の混合方法が好適である。また、比較的粉砕を伴うような、ボールまたはビーズミル型、振動ミル型、ブレード型、ロール型、円板型、らいかい型の混合・混練方法であっても、樹脂製または樹脂コーティングしたボール、ビーズ、ブレード、ロール、円板等を使用すれば、実質的には問題なく混合できる。また、ボール等が硬質であるセラミックス製であっても、混合時間が短ければ、実質的には問題なく混合できる。例えば、セラミックス製のビーズを用いたビーズミルにより水中で混合を行う場合、10時間以内であれば好い。ただし、図1及至図2で説明したように、2種類の相が直接的に面接触した構造を有する多相系酸化物粒子は、粉砕されても実際的には問題にならない。したがって、混合方法は粒子の粉砕を伴う方法であってもよい。
【0048】
最後に、ステップS13に係る熱処理工程では、ステップS12にて混合した混合物を、空気中にて900〜1100℃程度で加熱し、BaTi25系複合酸化物を合成する。この工程では、図2で既に説明したように、多相系酸化物粒子の殻をなすBa(B)O3の相とBaTi25の相との間で(B)の置換がはじまり、反応が多相系酸化物粒子1の中心部に達した段階で置換が終了して、BaTi25系複合酸化物が得られる。
【符号の説明】
【0049】
1・・・多相系酸化物粒子
2・・・BaZrO3
3・・・ZrO2
S1・・・秤量工程
S2・・・混合・粉砕工程
S3・・・熱処理工程
S11・・・秤量工程
S12・・・混合工程
S13・・・熱処理工程
図1
図2
図3
図4