【実施例】
【0014】
[実施例1]
まず、本実施例に基づく地上風計測システムの構成について、
図1〜
図3を用いて説明する。
図1は、地上風を検出するためのブロック図であり、
図2は、本実施例の鉄道車両1の斜視図、
図3は、地上風を検出するための原理を説明するための風ベクトル表示図である。
この地上風計測システムにおいては、
図1に示すように、鉄道車両1の表面における圧力検出点P1、P2(
図2参照)には、ピトー管式の第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2が設置されており、これらの検出値がインターフェース5を介して、演算回路8に入力されている。
この演算回路8は、CPU、ROM、RAM等のメモリからなるマイクロコンピュータにより構成されたものであり、後述するように、実験により求めた、圧力検出点P1、P2での各圧力検出値と迎角の関係をマップ化した
迎角データベース10、鉄道車両1に配備された速度センサ20、位置検出器30、線路データベース40、報知装置50、そして、計測した地上風の風向と風速を記録する地上風データベース60等を備えている。
【0015】
演算回路8のROMには、地上風の算出に用いられるプログラムが搭載されている。また、迎角と、各圧力検出器の圧力検出値の関係を示す迎角データベース10や、線路データベース40、地上風データベース60もROM、RAM等のメモリに格納されるようになっている。
【0016】
図2に示すように、鉄道車両1の圧力検出点P1、P2に設置された第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2は、鉄道車両1の表面における圧力を検出するもので、この実施例では、圧力検出点S1、S2において、鉄道車両1の車体表面に対する法線に沿って配置されている。なお、
図2において、第1圧力検出器S1が、鉄道車両1の最先端部であるP1における法線、すなわち、鉄道車両1の長さ方向に向けて設置され、第2圧力検出器S2が、鉄道車両1の先頭車両のカウル部側壁にあるP2における法線、すなわち、鉄道車両1の長さ方向に直交する方向(幅方向)に向けて設置されているとする。なお、第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2の圧力検出点は、走行風の気流を乱さないよう、P1、P2において、鉄道車両1の車体表面にほぼ一致するように配置されている。また、鉄道車両1の屋根上に静電アンテナ2が設けられており、従前の風
速計3が路線に沿う各所に設置されている。
【0017】
ここで、
図3を用いて、直線上の軌道上を走行する鉄道車両1に地上風が作用した場合を想定して、第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2の各検知圧力値に基づいて、地上風の風速、風向(迎角)を検出する原理について説明する。
【0018】
鉄道車両1には、走行することによって、鉄道車両1の進行方向と逆方向に流れ、走行速度と同じ風速の走行風ベクトルaと、鉄道車両1の走行位置における地上風ベクトルbの2つのベクトルが作用する。
【0019】
走行風ベクトルaは、鉄道車両1の進行方向に沿って、先頭車両から後続車両に向かう方向で、車両速度と同等の風速のベクトルであり、一方、地上風ベクトルは、
図3の場合、鉄道車両1の進行方向に対し、迎角βのベクトルとする。
鉄道車両1には、全体として、走行風ベクトルaと地上風ベクトルbを加算した風ベクトルcが作用し、その迎角は、
図3の場合、αとなる。
第1圧力検出器S1の検出部が、鉄道車両1の最先端部で、その接線方向が進行方向に対し直角となるP1において、その法線、すなわち、鉄道車両1の長さ方向に向けて設置され、第2圧力検出器S2の検出部が、鉄道車両1の先頭車両の側壁にあるP2における法線、すなわち、鉄道車両1の長さ方向に直交する方向(幅方向)に向けて設置されているとする。
このとき、第1圧力検出器S1に作用する圧力は、鉄道車両1が受ける風ベクトルcに、COSαを積算した成分が主となる。これに対し、第2圧力検出器S2に作用する圧力は、鉄道車両1が受ける風ベクトルcに、Sinαを積算した成分が主となる。
【0020】
このように、第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2の検出値には、風ベクトルcの風速、迎角αを含むことになり、これら2つの検出値に基づいて、鉄道車両1が受ける風ベクトルcの風速、迎角αを個別に抽出することができる。そして、鉄道車両1の走行速度及び絶対座標における進行方向は、後述するように、個別に演算することができ、走行風ベクトルaを求めることができるので、鉄道車両1が受ける風ベクトルcから走行風ベクトルaを減算することで、地上風ベクトルb、すなわち、地上風の風速と迎角βを求めることができる。
【0021】
第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2の配置については、
図2のように、互いに直交する向きでなくても、例えば、
図4に示すように、第2圧力検出器S2を、先頭車両のカウル部外端のP2’等、その軸線が異なる向きに設置しても、両者の取り付け角度が、鉄道車両の表面に向かって流れる空気流に対し、互いに異なり、それらの角度が既知であれば、上述と同じ原理で、地上風の風速と迎角を求めることができる。
なお、第2圧力検出器S2が取り付けられた車両側面の反対側の側面にも第3の圧力検知器を設置すれば、さらに、正確な地上風の風速と迎角の算出が可能となる。
【0022】
実際には、鉄道車両1の表面形態に対し、第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2をどの箇所に配置するかに応じて、これらの検出値と地上風ベクトルの関係が複雑に変化するため、第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2の検出値に基づき、地上風ベクトルの風速、風向を直接演算することは困難である。
そこで、風洞実験や数値シミュレーション等により、予め、鉄道車両1を所定の走行速度(一般的には、最高営業速度)で走行させたときの走行風を与えた状態で、様々な迎角、風速の地上風を加え、第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2の両検出値と、地上風ベクトルbの迎角βの関係をデータベース化しておき、実際の走行時に、第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2の検出値に基づいて、この迎角データベースにアクセスすることにより、地上風ベクトルの迎角をまず求めるのが効率的である。
【0023】
以下、
図5を用いて、演算回路8において、どのような処理が行われるかについて説明する。
まず、S100において圧力検出点P1、P2において、第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2で検出された圧力信号p
1、p
2を取得する。
S110で、各圧力検出点S1、S2で検出された圧力信号の比(例えば、p
2/p
1)を演算し、迎角データベース10に格納されている、迎角αとこの圧力信号の比(p
2/p
1)との関係式から、迎角αが算出される。
ここで、迎角データベース10は、予め鉄道車両1の走行中を模擬した風洞実験や数値解析で調べておいた、
図6のような、圧力検出点P1、P2における第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2の検出値に基づいて、それぞれの圧力係数Cpと鉄道車両1の進行方向に対する鉄道車両1が受ける風の流れる風向である迎角αとの関係を格納している。なお、圧力係数Cpは、以下の式で表される。
Cp=p/(ρU
2/2)
ただし、ρ:空気の密度、U:鉄道車両周りの空気の流速である。
圧力検出点を2点としたときは、
図7に示されるように、圧力検出点P1、P2での圧力係数の比(例えばCp
2/Cp
1、すなわち、各圧力検出点P1、P2において、第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2で検出された圧力信号p
1、p
2の比)と迎角αの関係式についても、迎角データベース10に格納しておく。
なお、圧力検出点を3点以上とした場合には、各検出圧力に基づいて、地上風の影響を最も受けている圧力検出器を選定し、この圧力検出器に対応して、圧力係数の比と迎角αの関係を示す迎角データベース10を選択するようにすればよい。
【0024】
S120において、S110で、
図7の関係式により得られた迎角αに基づいて、
図6に示される第1圧力検出器S1で検出された圧力係数Cp
1を求めることで、U、すなわち、鉄道車両1が受ける風ベクトルcの大きさ、すなわち風速が求められる。
一方、S130において、鉄道車両1に搭載された速度センサ20によって、走行速度を検出する。
速度センサ20としては、例えば、鉄道車両1の台車の輪軸に取り付けた速度発電機から、単位時間当たりの輪軸の回転数に応じた電圧を検出することによって走行速度を検出するものを使用する。
S140において、位置検出器30から鉄道車両1の走行位置を検出する。例えば、走行位置は、車上のD−ATC装置が予め備える位置情報と列車の台車に備えられる速度発電機から出力される速度情報から算出される。
なお、S130、S140において、GPSを使って走行速度、走行位置を検出することも可能である。
【0025】
鉄道車両1が直線軌道の線路上を走行する場合は必要ないが、鉄道車両1が、曲線を走行する場合、地上風の風速、迎角をより正確に求めるためには、鉄道車両1の走行する線路の曲率や曲率中心などを求める必要がある。そこで、S150において、検出された鉄道車両1の走行位置から線
路データベース40を用いて、鉄道車両1の走行位置における線路の曲率、曲率中心、レール方向を検出する。
【0026】
図8は、鉄道車両1が曲線を走っている場合の鉄道車両1が受ける風を示している。曲線走行時では、地上風の迎角βを求めるため、鉄道車両1の進行方向を定義しなければならないため、S140で得られた鉄道車両1の走行位置と、S150で前記の走行位置から得られた線路の曲率、曲率中心より、第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2が圧力を検出する地点での線路の接線方向を鉄道車両1の進行方向と定める。
これにより、鉄道車両1の進行方向に流れる走行風ベクトルaの大きさは、鉄道車両1の走行速度と同一であることを利用して、S110で算出された鉄道車両1の進行方向に対する車両が受ける風の風向である迎角αと、S120で検出された、鉄道車両1が受ける風ベクトルcの風速、S130で得られた鉄道車両1の走行速
度を用いてベクトル演算をすることで、S160で、地上風ベクトルbの風速、鉄道車両1の進行方向に対する迎角βを検出する。
【0027】
S160において検出された地上風ベクトルbの風速、鉄道車両1の進行方向に対する迎角βと、その時点の鉄道車両1の位置情
報、線路の曲率情
報から、S170で、この地上座標での地上風の風速と風向を特定する。
このように、地上座標での地上風の風向・風速を逐次算出することにより、鉄道路線の地上風の風速・風向を地上風データベース60として保存する。なお、車上装置と地上装置が交信するたびに、車上装置から地上装置に、この地上風データベース60のデータを送信すれば、地上でも車上で観測された地上座標での地上風の風向・風速を取得することが可能となる。
【0028】
一方、
図2に示すように、鉄道車両1が、風速計3の設置された地点を通過する際、S170より算出された地上座標での地上風の風速・風向の情報は、
図1に示す報知装置50に出力され、風速計3により同時刻に計測された地上風の風速と風向の比較を行うことで、沿線に設置されている風速計3と、鉄道車両1に設置されている第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2による地上風計測システムが正常に作動しているか否かについて確認を行うことができる。
【0029】
なお、この実施例では、迎角データベース10として、
図6に示すように、第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2の検出値に対応した、圧力検出点P1、P2それぞれにおける圧力係数Cpと鉄道車両1の迎角αの関係、そして、
図7に示すように、圧力検出点P1、P2における圧力係数の比(Cp
2/Cp
1)と迎角αの関係を用いたが、圧力検出点P1、P2での検出圧力の種々の組み合わせに対応して、地上風の風速・風向を実験、シミュレーションにより求め、データベース化しておけば、圧力検出点S1、S2での検出圧力に基づいて、地上風の風速・風向を直接求めることもできる。
【0030】
[実施例2]
実施例2について、
図9〜
図11に基づいて説明する。
図9は、本発明の第2実施例である鉄道車両1の斜視図であり、
図10は、
図9A部の拡大図、
図11は、
図9B部の拡大図である。
実施例1における第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2の取り付け位置を変更して、本実施例2では、
図9のように、第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2を、車両の屋根に設置された静電アンテナ2、あるいは静電アンテナ2と同様に、鉄道車両1の進行方向に沿うように設けた突起部4に設置したものである。静電アンテナ2や突起部4は、天井部に、鉄道車両の進行方向に対し、異なる角度で交差する面を備えており、
図10に示しているように、突起部4先端に第1圧力検出器S1、その側面に第2圧力検出器S2を配置することで、実施例1と同様に地上座標での地上風の風速、風向が検出できる。
【0031】
また、
図11に示すように、静電アンテナ2に第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2を配置することにより、現在の鉄道車両1の流れに乱れを生じさせずに、地上座標での地上風を検出できる。また、屋根上での圧力計測により、第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2は地面による流れの乱れを受けないで圧力を検出できる。第1圧力検出器S1、第2圧力検出器S2は、その他、パンタグラフ等、鉄道車両1の表面に向かって流れる空気流に対し、異なる向きの面を有する既存の機器を利用してもよい。