特許第6091887号(P6091887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091887
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】ファン制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01P 7/08 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
   F01P7/08 C
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-283846(P2012-283846)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-125985(P2014-125985A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年10月13日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 健治
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−322384(JP,A)
【文献】 実開平06−024240(JP,U)
【文献】 特開2000−130166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 1/00−11/20
F02D 43/00−45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを冷却する冷却液がラジエーターに流入しているか否かに関する情報と、車内温度に関する温度と、車速と、外気温度とを取得する取得部と、
前記取得部が取得した情報を用いて、前記エンジンの出力軸に電子制御式のファンクラッチを介して接続されるファンの回転を制御する制御部と、を備え、
前記ファンは、前記冷却液を冷却するラジエーターと空調用冷媒を冷却するコンデンサーとに外気を送るものであり、
前記制御部は、前記ファンを回転させる条件として、
前記ラジエーターに前記冷却液が流入していないこと、且つ、
前記車内温度に関する温度が設定温度以上であること、且つ、
前記車速が設定速度以下であること、
を有し、前記条件が成立すると前記車速が前記設定速度を超えるまで当該条件が成立しているものとして前記ファンを回転させるとともに、0よりも大きい速度が前記設定速度として前記外気温度毎に対応付けられた制御マップから前記設定速度を選択する
ファン制御装置。
【請求項2】
前記取得部は、前記冷却液の温度を取得し、
前記制御部は、前記冷却液の温度と、開弁状態にて前記ラジエーターに対する前記冷却液の流入を許可するサーモスタットの開弁温度とを比較し、前記冷却液の温度が前記開弁温度以下であるとき、前記ラジエーターに前記冷却液が流入していないと判断する
請求項1に記載のファン制御装置。
【請求項3】
前記車内温度に関する温度が外気温度である
請求項1または2に記載のファン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、エンジンの出力軸に接続され、ラジエーターとコンデンサーとに外気を送るファンの回転を制御するファン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用のエンジンには、エンジンを冷却する冷却液が循環するラジエーターに対して外気を送るファンが設けられている。このファンは、例えば特許文献1のように、エンジンの出力軸に電子制御式のファンクラッチを介して接続されており、エンジンの運転状態に関する各種情報に応じて出力軸との接続状態が制御される。ファンの回転速度は、冷却液の冷却が必要とされる運転状態ほど出力軸の回転速度に近くなるように制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−214155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、空調用冷媒を冷却するコンデンサーをラジエーターの前方に配置することによって、1つのファンでラジエーターとコンデンサーとを冷却する車両も普及している。こうした車両に上記ファンが適用されると、エンジンの冷間始動直後に冷房がON状態に操作されたとしても、空調用冷媒の冷却不足によって十分な冷房性能が得られにくい。
【0005】
本開示の技術は、ラジエーターとコンデンサーとを冷却するファンを制御するファン制御装置において、空調用冷媒の冷却不足を抑えることが可能なファン制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するファン制御装置は、エンジンを冷却する冷却液がラジエーターに流入しているか否かに関する情報と、車内温度に関する温度と、車速と、外気温度とを取得する取得部と、前記取得部が取得した情報を用いて、前記エンジンの出力軸に電子制御式のファンクラッチを介して接続されるファンの回転を制御する制御部と、を備え、前記ファンは、前記冷却液を冷却するラジエーターと空調用冷媒を冷却するコンデンサーとに外気を送るものであり、前記制御部は、前記ファンを回転させる条件として、前記ラジエーターに前記冷却液が流入していないこと、且つ、前記車内温度に関する温度が設定温度以上であること、且つ、前記車速が設定速度以下であることを有し、前記条件が成立すると前記車速が前記設定速度を超えるまで当該条件が成立しているものとして前記ファンを回転させるとともに、0よりも大きい速度が前記設定速度として前記外気温度毎に対応付けられた制御マップから選択する。
【0007】
この構成によれば、ラジエーターに冷却液が流入せず、且つ、車速が設定速度以下であるエンジンの冷間始動時であっても、車内温度に関する温度が設定温度以上であればファンが回転してコンデンサーに外気が送られる。その結果、エンジンの冷間始動直後であっても空調用冷媒の冷却不足が抑えられる。
また、条件の成立後は、車速が設定速度を超えるまでファンが回転する。すなわち、少なくともエンジンが始動してから車両が発進するまでの期間はファンが回転する。その結果、当該期間における空調用冷媒の冷却不足が高い確率の下で抑えられる。
【0008】
このファン制御装置では、前記取得部は、前記冷却液の温度を取得し、前記制御部は、前記冷却液の温度と、開弁状態にて前記ラジエーターに対する前記冷却液の流入を許可するサーモスタットの開弁温度とを比較し、前記冷却液の温度が前記開弁温度以下であるとき、前記ラジエーターに前記冷却液が流入していないと判断することが好ましい。
【0009】
この構成によれば、車内温度に関する温度が設定温度以上であり且つ車速が設定速度以下であれば、冷却液の温度がサーモスタットの開弁温度を超えない限りファンが回転する。その結果、エンジンの暖機状態においても空調用冷媒の冷却不足が抑えられる。
【0010】
このファン制御装置では、前記車内温度に関する温度が外気温度であることが好ましい。
車内温度が同じであっても、外気温度が高いほど乗車直後に冷房が使用される可能性が高くなり、外気温度が低いほど乗車直後に冷房が使用される可能性が低くなる。すなわち、冷房の使用頻度を予測するうえでは、車内温度よりも外気温度を指標とすることが好ましい。上記構成によれば、外気温度を一つの指標としてファンが回転することから、ファンの回転に要したエンジン出力が有効的に利用されやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示におけるファン制御装置を制御対象となるファンを備えたエンジンとともに機能的に示す機能ブロック図。
図2】ファン制御装置が実行するファン駆動処理の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1及び図2を参照して、本開示におけるファン制御装置の一実施形態について説明する。
図1に示されるように、エンジン11とラジエーター12は、エンジン11を冷却する冷却液が流れる流路13によって互いに接続されている。流路13におけるラジエーター12の上流側には、冷却液の温度である冷却液温度Tcが開弁温度Tvthを超えている場合に開弁するサーモスタット14が配設されている。また、流路13におけるラジエーター12の下流側には、エンジン11に冷却液を供給するとともに、バイパス流路15によってサーモスタット14に接続されたポンプ16が配設されている。冷却液は、ポンプ16によってエンジン11へと供給されて該エンジン11の冷却を行なう。そして、エンジン11の冷却にともなって温度上昇したのち、サーモスタット14へと流入する。
【0016】
サーモスタット14に流入した冷却液は、冷却液温度Tcが開弁温度Tvth以下である場合には、サーモスタット14が開弁することなく、バイパス流路15を通じてポンプ16へと送られる。一方、冷却液温度Tcが開弁温度Tvthを超えている場合には、サーモスタット14が開弁し、ラジエーター12を通じてポンプ16へと送られる。なお、サーモスタット14の開弁温度Tvthは、エンジン11の暖機が完了したと推定される温度であって、本実施形態では、82℃に設定されている。
【0017】
ラジエーター12に対するエンジン11の反対側には、図示されないコンプレッサーによって圧縮された空調用冷媒を冷却するコンデンサー17が配設されている。一方、ラジエーター12に対するエンジン11側には、電子制御式のファンクラッチ18を介してエンジン11の出力軸11aに接続されたファン19が配設されている。ファンクラッチ18の接続と切断とは、ファン制御装置20(以下、単に制御装置20という)によってPWM制御(Pulse Width Modulation:パルス幅変調制御)される。そして、ファン19とエンジン11の出力軸11aとが接続されている間、出力軸11aの回転力がファン19に伝達されて出力軸11aとともにファン19が回転する。ファン19の回転によって、コンデンサー17に外気が送られるとともに、コンデンサー17を通過した外気がラジエーター12に送られる。
【0018】
制御装置20は、図示されないCPU、各種制御プログラムや各種データが格納されたROM、各種データが一時的に格納されるRAM等によって構成され、ROMに格納された各種制御プログラムに基づいて各種処理を実行する。
【0019】
制御装置20の入力部21には、冷却液温度センサー31から冷却液温度Tcを示す信号、外気温度センサー32から外気温度Taを示す信号、車速センサー33から車両の車速Vを示す信号、これらの信号が所定の制御周期で入力される。また、入力部21には、燃料噴射制御部34から燃料噴射量Qfを示す信号、アクセル開度センサー35からアクセル開度Acを示す信号、エンジン回転速度センサー36からエンジン回転速度Neを示す信号、これらの信号が所定の制御周期で入力される。制御装置20は、これらの各信号に基づいて車両の運転状態を把握し、その把握した運転状態に応じてファン19の回転を制御するファン駆動処理を実行する。
【0020】
制御装置20の主制御部22は、取得部として、入力部21に通じて上述した各種情報を取得する。主制御部22は、冷却液温度Tc、外気温度Ta、車速Vの各値に基づく所定条件が成立するとき、車両の運転状態が空調用冷媒の冷却を優先させる空調優先状態にあると判断する。そして、主制御部22は、空調優先状態に応じた回転速度にファン19を制御する空調優先処理を実行する。
【0021】
一方、主制御部22は、上記所定条件が不成立のとき、車両の運転状態が燃費を優先させる燃費優先状態にあると判断する。そして、主制御部22は、燃費優先状態に応じた回転速度にファン19を制御する燃費優先処理を実行する。なお、燃費優先処理において主制御部22は、入力部21を通じて取得した冷却液温度Tc、車速V、燃料噴射量Qf、アクセル開度Ac、エンジン回転速度Neに基づいて、車両の運転状態を下記に示す3つの運転状態から選択したうえでファンクラッチ18を制御する。
・冷却液の温度上昇が相対的に小さい運転状態である通常状態
・冷却液の温度上昇が相対的に大きい運転状態である高負荷状態
・発進あるいは加速している運転状態である発進加速状態
【0022】
制御装置20の記憶部23には、エンジン回転速度Neに対するファン回転速度FSの比率である駆動比率Rが規定された制御マップが各運転状態に対して各別に記憶されている。
【0023】
空調優先状態に対応する空調優先マップ24には、コンデンサー17の冷却を優先させるべく、ファン19と出力軸11aとを接続状態に維持することを示す駆動比率R(=100%)が規定されている。
【0024】
通常状態に対応する通常マップ25及び高負荷状態に対応する高負荷マップ26には、冷却液温度Tc毎に駆動比率Rが規定されている。通常マップ25及び高負荷マップ26には、冷却液温度Tcがサーモスタット14の開弁温度Tvth未満の範囲に、ファン19と出力軸11aとを切断状態に維持することを示す駆動比率R(=0%)が規定されている。通常マップ25及び高負荷マップ26には、冷却液温度Tcが開弁温度Tvth以上の範囲に、冷却液温度Tcの上昇とともに段階的に高くなる駆動比率Rが規定されている。高負荷マップ26には、通常マップ25に規定された駆動比率R以上の駆動比率Rが同じ冷却液温度Tcに対して規定されている。
【0025】
発進加速状態に対応する発進加速マップ27には、車両の加速を優先させるべく、ファン19と出力軸11aとを切断状態に維持することを示す駆動比率R(=0%)が規定されている。
【0026】
主制御部22は、車両の運転状態に応じた制御マップを記憶部23から選択し、その選択された制御マップに基づいて駆動比率Rを選択する。そして、主制御部22は、該主制御部22の選択した駆動比率Rとエンジン回転速度Neとに基づいて、ファン回転速度FSの目標値である目標回転速度TFSを算出し、該算出した目標回転速度TFSをPWM制御部28に出力する。
【0027】
PWM制御部28には、上記目標回転速度TFSの他、ファン回転速度センサー37からファン19の現在の回転速度を示す信号が所定の制御周期で入力される。PWM制御部28は、ファン19の現在の回転速度と目標回転速度TFSとに基づくフィードバック制御によりデューティ比を演算し、該演算したデューティ比に基づく駆動信号をファンクラッチ18に出力する。
【0028】
図2を参照して、制御装置20の実行するファン駆動処理の処理手順について説明する。なお、このファン駆動処理は繰り返し実行される。
まず、ステップS11において、主制御部22は、冷却液温度Tc、外気温度Ta、車速V、燃料噴射量Qf、アクセル開度Ac、エンジン回転速度Neを含んだ各種情報を入力部21を通じて取得する。
【0029】
次のステップS12において、主制御部22は、サーモスタット14の開弁温度Tvth、例えば82℃と冷却液温度Tcとを比較して、冷却液温度Tcが開弁温度Tvth以下であるか否かを判断する。
【0030】
冷却液温度Tcが開弁温度Tvth以下であった場合(ステップS11:YES)、主制御部22は、予め設定された設定温度Tath、例えば20℃と外気温度Taとを比較して、外気温度Taが設定温度Tath以上であるか否かを判断する(ステップS13)。
【0031】
外気温度Taが設定温度Tath以上であった場合(ステップS13:YES)、主制御部22は、予め設定された設定速度Vth、例えば0km/hと車速Vとを比較して、車速Vが設定速度Vth以下であるか否かを判断する(ステップS14)。
【0032】
車速Vが設定速度Vth以下であった場合(ステップS14:YES)、主制御部22は、車両の運転状態が空調優先状態にあるものと判断して、空調優先処理を実行する(ステップS15)。すなわち、制御装置20は、下記に示す条件1,2,3が満たされるとき、空調優先処理を実行する。
(条件1)ラジエーター12に冷却液が流入していないこと。
(条件2)外気温度Taが設定温度Tath以上であること。
(条件3)車速Vが設定速度Vth以下であること。
【0033】
ステップS15の空調優先処理において、主制御部22は、制御マップとして空調優先マップ24を選択することで、ファン19と出力軸11aとを接続状態に維持する駆動比率R=100%でファンクラッチ18を駆動する。
【0034】
そして、次のステップS16において、主制御部22は、車速Vを含む各種情報を入力部21を通じて再び取得してステップS14の処理に移行する。すなわち、主制御部22は、ステップS16の処理において設定速度Vthを超える車速Vが取得されるまで空調優先処理を実行し続ける。
【0035】
一方、冷却液温度Tcが開弁温度Tvthを超えていた場合(ステップS12:NO)、外気温度Taが設定温度Tath未満であった場合(ステップS13:NO)、車速Vが設定速度Vthを超えていた場合(ステップS14:NO)、主制御部22は、ステップS17の処理を実行する。ステップS17において、主制御部22は、車両の運転状態が燃費優先状態にあるものと判断して、燃費優先処理を実行する。
【0036】
ステップS17の燃費優先処理において、主制御部22は、最新の各種情報に基づいて車両の運転状態を通常状態、高負荷状態、発進加速状態の中から選択する。そして、主制御部22は、その選択された運転状態に応じた制御マップと冷却液温度Tcとに基づいて選択される駆動比率Rでファンクラッチ18を駆動し、一連の処理を終了する。
【0037】
次に、上述したファン制御装置20の作用について説明する。
上述した制御装置20は、上記条件1〜3が満たされるとファン19を駆動してコンデンサー17に外気を送る。すなわち、制御装置20は、通常マップ25や高負荷マップ26ではファン19が駆動されない条件1が満たされていたとしても、条件2及び条件3が満たされていればファン19を駆動する。そのため、エンジン11の始動直後、特にエンジン11の冷間始動直後において冷房が使用されたとしても、外気温度Taが設定温度Tath以上であれば、空調用冷媒の冷却不足が抑えられることで冷房性能の低下が抑えられる。
【0038】
しかも、エアコンを制御対象とする制御装置は、制御装置20とは異なる制御装置であることが一般的である。そして、制御装置20は、上記条件1〜3が成立したときにファン19を回転させる。すなわち、制御装置20は、エアコンを制御対象とする制御装置から独立してファン19を駆動する。そのため、エアコンを制御対象とする制御装置と制御装置20とを電気的に接続する必要がないことから、空調用冷媒の冷却不足を抑えるうえでファンの制御系が複雑になることもない。
【0039】
また、制御装置20では、冷却液温度Tcがサーモスタット14の開弁温度Tvth以下であってもファン19が回転することから、エンジン11の暖機状態においても空調用冷媒の冷却不足が抑えられる。
【0040】
ここで、条件2において、外気温度Taに代えて、車内温度Tiに関して条件付けを行うことも可能である。しかしながら、車内温度Tiが同じであっても、外気温度Taが高いほど乗車直後に冷房が使用される可能性が高くなり、外気温度Taが低いほど乗車直後に冷房が使用される可能性が低くなる。そのため、冷房の使用頻度を予測するうえでは、車内温度Tiよりも外気温度Taを指標とすることが好ましい。すなわち、空調優先処理の実行条件の一つとして外気温度Taが設定されることによって、ファン19の回転に要したエンジン出力が有効的に利用されやすくなる。
【0041】
ところで、車両が走行しているとき、コンデンサー17は走行風によって冷却される。そのため、たとえ条件1及び2が満たされていたとしても走行風による冷却のみで空調用冷媒の冷却不足が十分に抑えられる場合もある。こうした場合にファン19を回転させたとしても、ファン19を回転させる分だけ燃料消費量が増加する。
【0042】
この点、制御装置20では、設定速度Vthが0km/hであることから、コンデンサー17が走行風による冷却を受けないときにのみファン19が駆動される。その結果、空調用冷媒の冷却不足を抑えつつ、ファン19の駆動にともなう燃料消費量の増加を抑えることができる。
【0043】
また、ファン駆動処理では、各種情報の再取得(ステップS16)にて設定速度Vthを超える車速Vが取得されない限り、ファン19と出力軸11aとが接続され続ける。すなわち、条件1〜3が満たされれば、少なくともエンジン11の始動から車両が発進するまでの期間は、ファン19が回転する。そのため、当該期間における空調用冷媒の冷却不足が高い確率の下で抑えられる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態のファン制御装置20によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)条件1〜3の成立時にファン19が駆動されることから、エンジン11の冷間始動時であっても空調用冷媒の冷却不足が抑えられる。
【0045】
(2)制御装置20は、エアコンを制御対象とする制御装置から独立してファン19を駆動する。そのため、空調用冷媒の冷却不足を抑えるうえでファンの制御系が複雑になることもない。
【0046】
(3)冷却液温度Tcが開弁温度Tvth以下であってもファン19が回転することから、エンジン11の暖機状態においても空調用冷媒の冷却不足が抑えられる。
(4)空調優先処理が実行される条件の1つに外気温度Taが設定されているため、空調用冷媒の冷却不足を抑えるうえで、ファン19の回転に要したエンジン出力が有効的に利用されやすくなる。
【0047】
(5)設定速度Vthが0km/hであることから、空調用冷媒の冷却不足を抑えつつファン19の駆動にともなう燃料消費量の増加を抑えることができる。
(6)エンジン11の始動から車両の発進までの期間における空調用冷媒の冷却不足が高い確率の下で抑えられる。
【0048】
(7)空調優先処理では、ファン19と出力軸11aとが接続され続けることから、空調用冷媒の冷却不足が効率的に抑えられる。
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・ファン駆動処理では、各種情報が再取得される処理(ステップS16)の後、ステップS12の処理に移行してもよい。すなわち、再取得された各種情報が条件1〜3の全てを満たしているときに空調優先処理が継続されるようにしてもよい。
【0049】
・空調優先処理では、駆動比率R=100%でファン19と出力軸11aとが接続される態様に限らず、その時々の状況に応じた駆動比率Rでファン19と出力軸11aとが接続されてもよい。例えば、互いに異なる駆動比率Rが規定された空調優先処理用の制御マップを記憶部23に記憶させておき、それらの制御マップが外気温度Taに応じて選択される構成であってもよい。こうした構成によれば、空調用冷媒の冷却不足を抑えるうえでのファン19の過回転が抑えられる。すなわち、ファン19の回転による燃料消費量の増加が抑えられる。
【0050】
・条件3において、設定速度Vthは、0km/hのように停車状態と見なされる速度に限られるものではなく、例えば5km/hや10km/hのように始動直後の車速であってもよい。
・また、設定速度Vthは、走行風によって空調用冷媒の冷却不足が解消される速度であることが好ましい。そのため、設定速度Vthは、例えば、外気温度Ta毎に設定速度Vthが対応付けられた制御マップを記憶部23に記憶させておくことによって外気温度Taに応じて選択される構成であってもよい。
【0051】
・車内温度に関する温度は、外気温度Taに限らず、車内温度Tiであってもよいし、外気温度Ta及び車内温度Tiに基づく温度であってもよい。
【0052】
・条件1は、ラジエーター12に冷却液が流入していないことであればよく、その検知方法は冷却液温度Tcに限られるものではない。例えば、電子制御式のサーモスタットを用いた場合には、該サーモスタットに対する開閉信号に基づいて、ラジエーター12に対する冷却液の流入が判断されてもよい。また例えば、ラジエーター12に対する冷却液の流量を計測する流量センサーが搭載されている場合には、該流量センサーの検出信号に基づいて、ラジエーター12に対する冷却液の流入が判断されてもよい。
【符号の説明】
【0053】
11…エンジン、11a…出力軸、12…ラジエーター、13…流路、14…サーモスタット、15…バイパス流路、16…ポンプ、17…コンデンサー、18…ファンクラッチ、19…ファン、20…ファン制御装置、21…入力部、22…主制御部、23…記憶部、24…空調優先マップ、25…マップ、26…高負荷マップ、27…発進加速マップ、28…PWM制御部、31…冷却液温度センサー、32…外気温度センサー、33…車速センサー、34…燃料噴射制御部、35…アクセル開度センサー、36…エンジン回転速度センサー、37…ファン回転速度センサー。
図1
図2