(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリマー断片を含む水系エマルションと、シリカを水中に分散させたシリカスラリーとを混合し、得られた混合液の酸塩基性を変化させることを特徴とする請求項1記載のシリカマスターバッチの製造方法。
前記炭素−炭素二重結合を主鎖に持つ前記ポリマーがジエン系ゴムポリマーであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリカマスターバッチの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
本実施形態に係るシリカマスターバッチの製造方法は、炭素−炭素二重結合を主鎖に持つポリマーを、該二重結合を酸化開裂させることで分解した後、分解したポリマー断片を含む反応系にシリカを混合し、該反応系の酸塩基性を変化させることによりポリマー断片を結合させて構造を変化させた変性ポリマーを生成させ、該変性ポリマーとシリカを含むシリカマスターバッチを得るものである。
【0013】
本実施形態において、変性対象となるポリマーとしては、主鎖の繰り返しユニットに炭素−炭素二重結合を持つポリマーを用いることができる。このようなポリマーとしては、各種ジエン系ポリマー、好ましくはジエン系ゴムポリマーが挙げられ、その他に、不飽和ポリエステル、不飽和ポリオール、不飽和ポリウレタン、ポリアルキン化合物、及び、不飽和脂肪酸等が挙げられる。
【0014】
ジエン系ポリマーとは、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、又は、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエン化合物をモノマーの少なくとも一部として用いて得られるポリマーである。これらの共役ジエン化合物は、いずれか1種で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。ジエン系ポリマーには、共役ジエン化合物と共役ジエン化合物以外の他のモノマーとの共重合体も含まれる。他のモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、エチレン、プロピレン、イソブチレン、アクリロニトリル、アクリル酸エステルなどの各種ビニル化合物が挙げられる。これらのビニル化合物は、いずれか1種でも2種以上を併用してもよい。
【0015】
ジエン系ゴムポリマーとしては、分子内にイソプレンユニット、ブタジエンユニット及びクロロプレンユニットの少なくとも1種(好ましくは、イソプレンユニット及び/又はブタジエンユニット)を有する各種ゴムポリマーが挙げられ、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、又は、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらの中でも、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、合成イソプレンゴム、及びブタジエンゴムからなる群から選択された少なくとも1種を用いることが好ましく、より好ましくは天然ゴム又は合成イソプレンゴムを用いることである。
【0016】
変性対象となる上記ポリマーとしては、数平均分子量が6万以上のものを用いることが好ましい。本実施形態では、常温(23℃)で固形状のポリマーを対象とするためである。例えば、ゴムポリマーをそのまま材料として加工する上で、常温において力を加えない状態で塑性変形しないためには、数平均分子量が6万以上であることが好ましい。ここで、固形状とは、流動性のない状態である。ポリマーの数平均分子量は、6万〜100万であることが好ましく、より好ましくは8万〜80万であり、更に好ましくは10万〜60万である。
【0017】
変性対象となる上記ポリマーとしては、溶媒に溶解したものを用いることができる。好ましくは、プロトン性溶媒である水中にミセル状になった水系エマルション、すなわちラテックスを用いることである。水系エマルションを用いることにより、ポリマーを分解させた後に、その状態のまま、反応場の酸塩基性を変化させることで再結合反応を生じさせることができる。水系エマルションの濃度(ポリマーの固形分濃度)は、特に限定されないが、5〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜50質量%である。このような固形分濃度とすることで、反応場のpH変動に対してミセルが壊れやすくなるのを抑えてエマルションの安定性を高めることができ、また実用上の反応速度を確保することができる。
【0018】
ポリマーの炭素−炭素二重結合を酸化開裂させるためには、酸化剤を用いることができ、例えば、上記ポリマーの水系エマルションに酸化剤を添加し攪拌することにより酸化開裂させることができる。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム、酸化マンガンなどのマンガン化合物、クロム酸、三酸化クロムなどのクロム化合物、過酸化水素などの過酸化物、過ヨウ素酸などの過ハロゲン酸、又は、オゾン、酸素などの酸素類などが挙げられる。これらの中でも、過ヨウ素酸を用いることが好ましい。過ヨウ素酸であれば、反応系を制御しやすく、また、水溶性の塩が生成されるので、変性ポリマーを凝固乾燥させる際に、水中にとどまらせることができ、変性ポリマーへの残留が少ない。なお、酸化開裂に際しては、コバルト、銅、鉄などの金属の、塩化物や有機化合物との塩や錯体などの、金属系酸化触媒を併用してもよく、例えば、該金属系酸化触媒の存在下で空気酸化してもよい。
【0019】
上記酸化開裂によりポリマーが分解し、末端にカルボニル基(>C=O)やホルミル基(−CHO)を持つポリマー(即ち、ポリマー断片)が得られる。一実施形態として、該ポリマー断片は、下記式(5)で表される構造を末端に持つ。
【化1】
【0020】
式中、R
1は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン基であり、より好ましくは、水素原子、メチル基、クロロ基である。例えば、イソプレンユニットが開裂した場合、一方の開裂末端ではR
1がメチル基、他方の開裂末端ではR
1が水素原子となる。ブタジエンユニットが開裂した場合、開裂末端はともにR
1が水素原子となる。クロロプレンユニットが開裂した場合、一方の開裂末端ではR
1がクロロ基、他方の開裂末端ではR
1が水素原子となる。より詳細には、ポリマー断片は、その分子鎖の少なくとも一方の末端に上記式(5)で表される構造を持ち、すなわち、下記式(6)及び(7)に示すように、ジエン系ポリマー鎖の一方の末端又は両末端に、式(5)で表される基が直接結合したポリマー断片が生成される。
【化2】
【0021】
式(6)及び(7)において、R
1は水素原子、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲン基であり、波線で表した部分がジエン系ポリマー鎖である。例えば、天然ゴムを分解した場合、波線で表した部分はイソプレンユニットの繰り返し構造からなるポリイソプレン鎖である。スチレンブタジエンゴムを分解した場合、波線で表した部分はスチレンユニットとブタジエンユニットを含むランダム共重合体鎖である。
【0022】
上記酸化開裂によってポリマーを分解することにより、分子量が低下する。分解後のポリマーの数平均分子量は特に限定されないが、3百〜50万であることが好ましく、より好ましくは5百〜10万であり、更に好ましくは1千〜5万である。なお、分解後の分子量の大きさにより、再結合後の官能基量を調節することができるが、分解時の分子量が小さすぎると、同一分子内での結合反応が生じやすくなる。
【0023】
次に、ポリマー断片を含む反応系、即ち水系エマルションにシリカを混合する。例えば、ポリマー断片を含む水系エマルションと、シリカスラリーとを混合すればよい。ここで、シリカスラリーとは、シリカを水中に分散させてなるシリカの水分散液である。
【0024】
シリカとしては、湿式シリカ(含水ケイ酸)でも乾式シリカ(無水ケイ酸)でもよいが、粒子表面のシラノール基量が多い湿式シリカが好ましい。シリカのコロイダル特性は特に限定しないが、BET法による窒素吸着比表面積(BET)80〜300m
2/gであることが好ましく、より好ましくは150〜250m
2/gであり、更に好ましくは180〜230m
2/gである。なお、シリカのBETはISO 5794に記載のBET法に準拠し測定される。
【0025】
シリカスラリーの調製は、公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されない。例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ハイシアーミキサー、コロイドミルなどの公知の分散機を用いて、シリカを水中に分散させることができる。シリカスラリー中におけるシリカの濃度は特に限定されず、例えば1〜20質量%とすることができる。なお、シリカスラリーには、界面活性剤などの各種添加剤が含まれていてもよい。
【0026】
ポリマー断片を含む水系エマルション(即ち、ポリマーエマルション)とシリカスラリーとの混合は、公知の混合機を用いて行うことができ、特に限定されない。例えば、ホモミキサー中でシリカスラリーを攪拌しながらポリマーエマルションを滴下する方法、ホモミキサー中でポリマーエマルションを攪拌しながらシリカスラリーを滴下する方法などが挙げられる。
【0027】
このようにして得られる混合液において、ポリマー断片とシリカの配合比は特に限定されないが、ポリマー断片100質量部に対してシリカが5〜150質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜100質量部である。
【0028】
次いで、得られたポリマー断片とシリカを含む混合液の酸塩基性を変化させることにより、ポリマー断片を再結合させる。すなわち、上記ポリマー断片を含む系は、反応場の酸塩基性を変化させることにより、開裂とは逆反応である結合反応が優先的に進行するようになる。上記酸化開裂は可逆反応であり、逆反応である結合反応よりも開裂反応が優先的に進行するので、平衡に達するまで分子量は低下していく。その際、反応場の酸塩基性を逆転させると、今度は結合反応が優先的に進行するようになるので、一旦低下した分子量は上昇に転じ、平衡に達するまで分子量が増大する。そのため、所望の分子量を持つ変性ポリマーが得られる。なお、上記式(5)の構造は2種類の互変異性をとり、元の炭素−炭素二重結合構造に結合するものと、下記式(1)〜(4)で表される連結基を形成するものとに分かれる。本実施形態では、反応場のpHを制御することにより、アルドール縮合反応を優先させて、式(1)〜(4)のいずれか少なくとも1種の連結基を含むポリマーを生成することができる。詳細には、反応系、即ち水系エマルションの液中には安定化のためpH調節されているものがあり、分解に使用する方法や薬品の種類や濃度により分解時のpHが酸性か塩基性のどちらかに寄る。そのため分解時の反応系が酸性になっている場合には、反応系を塩基性にする。反対に分解時の反応系が塩基性になっている場合には、反応系を酸性にする。
【化3】
【0029】
ここで、R
1が水素原子である末端構造を持つポリマー断片同士が結合する場合、アルドール付加により式(3)で表される連結基となり、これから水が脱離することにより式(4)で表される連結基となる。R
1が水素原子である末端構造を持つポリマー断片とR
1がメチル基である末端構造を持つポリマー断片が結合する場合、アルドール付加により式(2)で表される連結基となり、これから水が脱離することにより式(1)で表される連結基となる。なお、例えばR
1がメチル基である末端構造を持つポリマー断片同士が結合する場合など、上記式(1)〜(4)以外の連結基が生成される場合もあるが、そのような連結基は微量であり、式(1)〜(4)の連結基が主として生成される。
【0030】
結合反応させる際の反応系、即ち水系エマルションのpHは、反応系を塩基性にする場合、7より大きければよく、7.5〜13であることが好ましく、より好ましくは8 〜10である。一方、反応系を酸性にする場合、7より小さければよく、4〜6.8であることが好ましく、より好ましくは5〜6である。pHの調整は、反応系に酸や塩基を加えることにより行うことができる。特に限定するものではないが、例えば、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、又は、リン酸などが挙げられ、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、又は、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。
【0031】
結合反応に際しては、pHを調節するための酸や塩基が結合反応の触媒となり、さらに反応を調節するための触媒としてピロリジン−2−カルボン酸を用いてもよい。
【0032】
以上のように結合反応させた後、変性ポリマーをシリカとともに凝固させ、脱水乾燥することにより、変性ポリマーとシリカを含むシリカマスターバッチ(ウェットマスターバッチ)が得られる。凝固は、公知の方法を用いて行うことができ、凝固剤を用いてもよい。また、凝固させずに、公知の噴霧乾燥機を用いて、混合液を噴霧乾燥することによりシリカマスターバッチを得てもよい。
【0033】
本実施形態によれば、上記のように結合反応させることにより、上記式(1)〜(4)で表される連結基が主鎖中に導入され、構造を変化させた変性ポリマーが得られる。すなわち、実施形態に係る変性ポリマーは、上記式(1)〜(4)で表される連結基のうちの少なくとも1種の連結基を分子内に有し、ジエン系ポリマー鎖が該連結基を介して直接連結された構造を有する。従って、該変性ポリマーは、式(1)〜(4)で表されるいずれかの連結基をXとし、ジエン系ポリマー鎖をYとして、―Y−X−Y−で表される構造を分子内に含み、通常は連結基Xとジエン系ポリマー鎖Yが交互に繰り返した構造を持つ。
【0034】
ここで、ジエン系ポリマー鎖とは、上記変性対象であるジエン系ポリマーの分子鎖のうちの一部の分子鎖である。例えば、共役ジエン化合物の単独重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、該共役ジエン化合物からなる構成ユニットをA
1として、−(A
1)
n−で表されるA
1の繰り返し構造である(nは1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。また、二元共重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、各構成ユニットをA
1及びA
2として(A
1とA
2の少なくとも一方は共役ジエン化合物からなるユニットであり、それ以外のユニットとしては上記ビニル化合物からなるユニットが挙げられる。)、−(A
1)
n−(A
2)
m−で表されるA
1及びA
2の繰り返し構造である(これらはランダム型でもブロック型でもよい。n,mはそれぞれ1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。また、三元共重合体の場合、ジエン系ポリマー鎖は、各構成ユニットをA
1、A
2及びA
3として(A
1とA
2とA
3の少なくとも1つは共役ジエン化合物からなるユニットであり、それ以外のユニットとしては上記ビニル化合物からなるユニットが挙げられる。)、−(A
1)
n−(A
2)
m−(A
3)
p−で表されるA
1、A
2及びA
3の繰り返し構造である(これらはランダム型でもブロック型でもよい。n,m,pはそれぞれ1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である)。四元共重合体以上も同様である。
【0035】
1実施形態において、変性ポリマーは、上記式(1)〜(4)で表される連結基のうちの少なくとも1種の連結基を分子内に有し、下記式(8)で表されるポリイソプレン鎖が該連結基を介して連結されてなる変性イソプレンゴムであってもよい。
【化4】
【0036】
該変性イソプレンゴムは、変性対象として天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムを用いた場合であり、ジエン系ポリマー鎖として、イソプレンユニットの繰り返し構造からなる上記ポリイソプレン鎖を有する。式(8)中、nは1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である。
【0037】
1実施形態において、変性ポリマーは、上記式(3)及び(4)で表される連結基のうちの少なくとも1種の連結基を分子内に有し、下記式(9)で表されるランダム共重合体鎖が該連結基を介して連結されてなる変性スチレンブタジエンゴムであってもよい。
【化5】
【0038】
該変性スチレンブタジエンゴムは、変性対象としてスチレンブタジエンゴムを用いた場合であり、ジエン系ポリマー鎖として、式(9)で表されるスチレンブタジエン共重合体鎖を有する。式(9)中、n,mはそれぞれ独立に1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である。
【0039】
変性ポリマーに含まれるジエン系ポリマー鎖としては、これらのポリイソプレン鎖やスチレンブタジエン共重合体鎖の他、下記式(10)で表されるポリブタジエン鎖でもよい。すなわち、変性対象としてポリブタジエンゴムを用いた場合、上記式(3)及び(4)で表される連結基のうちの少なくとも1種の連結基を分子内に有し、該ポリブタジエン鎖が該連結基を介して連結されてなる変性ブタジエンゴムが得られる。
【化6】
【0040】
式(10)中、nは1以上の整数であり、好ましくは10〜10000、更に好ましくは50〜1000である。
【0041】
上記式(1)〜(4)の連結基は、変性ポリマーの1分子中に1つ以上含まれ、通常は1分子中に複数の連結基が含まれる。複数含まれる場合、上記式(1)〜(4)で表される連結基のいずれか1種を複数含んでもよく、2種以上のものが含まれてもよい。連結基の含有率は、特に限定されないが、式(1)〜(4)の連結基の合計で、0.001〜25モル%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜15モル%、更に好ましくは0.5〜10モル%である。ここで、連結基の含有率(変性率)は、変性ポリマーを構成する全構成ユニットのモル数に対する連結基のモル数の比率である。例えば、天然ゴムの場合、変性ポリマーの全イソプレンユニットと連結基のモル数の合計に対する連結基のモル数の比率であり、スチレンブタジエンゴムの場合、変性ポリマーにおけるブタジエンユニットとスチレンユニットと連結基の合計のモル数に対する連結基のモル数である。
【0042】
式(1)〜(4)で表される各連結基の含有率は特に限定されないが、それぞれ25モル%以下(即ち、0〜25モル%)であることが好ましい。例えば、変性対象として天然ゴム又は合成イソプレンゴムを用いた場合(即ち、ジエン系ポリマー鎖がイソプレンユニットを有する場合)、通常、式(1)〜(4)で表される連結基が全て生成され得るが、式(1)で表される連結基が主として含まれ、その場合、式(1)で表される連結基の含有率は0.001〜20モル%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜10モル%、更に好ましくは0.5〜5モル%である。また、変性対象としてスチレンブタジエンゴムを用いた場合(即ち、ジエン系ポリマー鎖が共役ジエン化合物としてブタジエンユニットのみを含む場合)、通常、式(3)及び(4)の連結基が含まれるが、式(4)で表される連結基が主として含まれ、その場合、式(4)で表される連結基の含有率は0.001〜20モル%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜10モル%、更に好ましくは0.5〜5 モル%である。
【0043】
実施形態に係る変性ポリマーは常温(23℃)で固形状である。そのため、変性ポリマーの数平均分子量は、6万以上であることが好ましく、より好ましくは6万〜100万であり、更に好ましくは8万〜80万であり、特に好ましくは10万〜60万である。変性ポリマーの分子量は、元のポリマーと同等に設定することができ、これにより、分子量を低下させず、従って物性への悪影響を回避しながら、ポリマーの主鎖に官能基を導入することができる。もちろん、元のポリマーよりも分子量が小さなものを得てもよい。なお、変性ポリマーの重量平均分子量は、特に限定しないが、7万以上であることが好ましく、より好ましくは10万〜200万である。
【0044】
実施形態に係るシリカマスターバッチにおいて、変性ポリマーとシリカの比率は、特に限定されないが、変性ポリマー100質量部に対してシリカが5〜150質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜100質量部である。
【0045】
本実施形態によれば、上記のように、主鎖の二重結合を酸化開裂させることによりポリマーを分解して分子量を一旦低下させた後、反応系の酸塩基性を変化させて再結合させることにより変性ポリマーを生成するので、ポリマーの単分散化により、より均一な構造に収束させることができる。すなわち、変性ポリマーの分子量分布を元のポリマーの分子量分布よりも小さくすることができる。これは、酸化開裂により分解したポリマーはより短いものほど反応性が高く、再結合しやすいので、短いポリマーが少なくなることで分子量の均一化が図られると考えられる。
【0046】
また、本実施形態によれば、二重結合を解離させる薬剤である酸化剤の種類や量、反応時間などを調整することにより酸化開裂させる反応を制御し、また、再結合させる際のpHや触媒、反応時間などを調整することにより結合反応を制御でき、これらの制御によって変性ポリマーの分子量を制御することができる。そのため、変性ポリマーの数平均分子量を元のポリマーと同等に設定することができ、また元のポリマーよりも低く設定することもできる。
【0047】
また、ポリマー主鎖を分解し再結合させる際に、主鎖とは異なる構造として上記連結基が挿入され、主鎖構造のセグメントの結合点が官能基化する。すなわち、反応性の高い構造が分子主鎖中に導入され、元のポリマーの特性を変化させることができる。このように、本実施形態の方法は、グラフトでも直接付加でもなく開環でもないポリマーの主鎖構造そのものを変化させるものであり、従来の変性方法とは明確に異なり、主鎖構造に簡易的に官能基を導入することができる。また、天然ゴムなどの天然のポリマーに対しても、その主鎖構造を組み替えて新規な構造を持つ変性ポリマーを製造することができ、ポリマーの特性を変化させることができる。
【0048】
本実施形態によれば、上記のようにポリマー断片の結合反応時にシリカを混合しておく。これにより、次のような作用効果が奏される。
【0049】
上記変性ポリマーは、水中に存在している構造と、乾燥時の構造とが異なり、アルドール付加により得られた水酸基を含む構造は、乾燥することにより脱水反応が起こってカルボニル基に変化する。例えば、アルドール付加により生成された式(2)又は(3)で表される連結基は、水中ではこれら式(2)又は(3)の構造で存在しているが、乾燥時に脱水反応が起こって式(1)又は(4)の構造の方が多くなる。このように水中ではほとんどのカルボニル基が水酸基として存在しており、該水酸基はエマルション中で親水側に存在している。そのため、変性ポリマーの水酸基がシリカ表面の親水基であるシラノール基と水素結合を形成しやすい。よって、乾燥後に変性ポリマーとシリカを混合する場合に比べて、シリカは変性ポリマー中に取り込まれやすく、シリカの分散性を向上することができる。
【0050】
また、シリカを疎水化して水中に分散させる必要がないので、シリカ表面の親水基の影響により、シリカの水への分散性が高く、そのため、変性ポリマー中に取り込まれたシリカの凝集も抑えることができる。
【0051】
また、分解後のポリマー断片により形成されるミセル、即ち分散相は、結合反応後の変性ポリマーにより形成されるミセル、即ち分散相に比べて、小さいので、分解後の段階でシリカを混合することにより、シリカが変性ポリマー中に一層取り込まれやすく、シリカの分散性を高めることができる。
【0052】
本実施形態に係るシリカマスターバッチは、各種ポリマー組成物に用いることができるが、ゴム組成物に用いることが好ましい。すなわち、上記変性ポリマーとして変性ジエン系ゴムを含むシリカ含有ゴムマスターバッチを得て、該ゴムマスターバッチを用いてゴム組成物を調製することが好ましい。ゴム組成物の用途としても特に限定されず、タイヤ用、防振ゴム用、コンベアベルト用などの各種ゴム部材に用いることができる。例えば、タイヤ用ゴム組成物に用いた場合、シリカの分散性を向上させることにより、低燃費性能を向上することができる。
【0053】
本実施形態に係るゴム組成物は、該シリカマスターバッチを含むものである。ゴム組成物において、ゴム成分は、シリカマスターバッチ由来の変性ポリマーのみからなるものであってもよいが、該シリカマスターバッチから配合されるものとは別に、他のゴムを配合してもよい。他のゴムとしては、特に限定されず、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、又は、ハロゲン化ブチルゴム等の各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。ゴム組成物中のゴム成分全体に対するシリカマスターバッチ由来の変性ポリマーの量は30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上である。
【0054】
該ゴム組成物には、シリカマスターバッチ由来のシリカの他に、追加のフィラーを配合してもよい。追加のフィラーとしては、例えば、カーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックとしては、特に限定されず、ゴム用補強剤として用いられているSAF級、ISAF級、HAF級、FEF級などの各種グレードのファーネスカーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、より好ましくは5〜30質量部である。
【0055】
該ゴム組成物には、シランカップリング剤、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することもできる。シランカップリング剤としては、スルフィドシランやメルカプトシランなどが挙げられ、その配合量は、特に限定されないが、シリカ配合量に対して2〜20質量%であることが好ましい。
【0056】
上記加硫剤としては、硫黄、又は、硫黄含有化合物(例えば、塩化硫黄、二塩化硫黄、高分子多硫化物、モルホリンジスルフィド、及びアルキルフェノールジスルフィド等)が挙げられ、これらはいずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫剤の配合量は、特に限定するものではないが、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0057】
上記加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、又は、グアニジン系などの各種加硫促進剤を用いることができ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は、特に限定するものではないが、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0058】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、第一混合段階で、シリカマスターバッチに対し、加硫剤及び加硫促進剤を除く各種添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0059】
このようにして得られたゴム組成物は、乗用車用、トラックやバスの大型タイヤなど各種用途、サイズの空気入りタイヤのトレッド部、サイドウォール部、ビード部、タイヤコード被覆用ゴムなどタイヤの各部位に適用することができる。すなわち、該ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせた後、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。これらの中でも、タイヤのトレッド用配合として用いることが特に好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
各測定方法は、以下の通りである。
【0062】
[数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)での測定により、ポリスチレン換算のMn、Mw及びMw/Mnを求めた。詳細には、測定試料は0.2mgをTHF1mLに溶解させたものを用いた。(株)島津製作所製「LC−20DA」を使用し、試料をフィルター透過後、温度40℃、流量0.7mL/分でカラム(Polymer Laboratories社製「PL Gel3μm Guard×2」)を通し、Spectra System社製「RI Detector」で検出した。
【0063】
[連結基の含有率]
NMRにより、連結基の含有率を測定した。NMRスペクトルは、BRUKER社製「400ULTRASHIELDTM PLUS」によりTMSを標準とし測定した。ポリマー1gを重クロロホルム5mLに溶解し、緩和試薬としてアセチルアセトンクロム塩87mgを加え、NMR10mm管にて測定した。
【0064】
式(1)の連結基については、
13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが195ppmにある。式(2)の連結基については、
13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが205ppmにある。式(3)の連結基については、
13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが200ppmにある。式(4)の連結基については、
13C−NMRにおいてケトン基の付いたカーボンのピークが185ppmにある。そのため、これら各ピークについてベースポリマー成分との比により構造量(モル数)を決定した。なお、式(3)については、末端ケトン(式(5)の構造)が現れる場合、ここのカーボンピーク(200ppm)に重複してしまうので、次の方法で末端ケトン量を定量し、取り除いた。すなわち、
1H−NMRによりケトン基に付いたプロトンのピークが9.0ppmにでてくるので、ベースポリマー成分との比により残存量を決定した。
【0065】
なお、ベースポリマー成分における各ユニットのモル数については、イソプレンユニットでは、二重結合を挟んでメチル基と反対側の炭素及びそれに結合した水素(=CH−)のピーク、即ち
13C−NMRによる122ppm、
1H−NMRによる5.2ppmに基づいて算出した。
【0066】
[pH]
東亜ディ−ケーケー(株)製のポータブルpH計「HM−30P型」を用いて測定した。
【0067】
[比較例1:未変性ゴム]
天然ゴムラテックス(レヂテックス社製「HA−NR」、DRC(Dry Rubber Content)=60質量%)を、変性せずにそのままメタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、未変性天然ゴムを調製した。得られた未変性ゴムについて、分子量を測定したところ、重量平均分子量が202万、数平均分子量が51万、分子量分布が4.0であった。
【0068】
[比較例2:未変性ゴムマスターバッチa]
比較例1と同じ天然ゴムラテックスを用い、水系エマルションとシリカスラリーを混合した。詳細には、シリカとしては、デグサ社製「VN3」(BET比表面積=183m
2/g)を用いた。シリカを10.5質量%のシリカスラリーとなるように水を加え、コロイドミルを用いて、8000回転×30分という条件で処理して、均一なシリカスラリーを得た。該シリカスラリーと、上記ポリマーを含む水系エマルションとを、ポリマー100質量部に対してシリカ10質量部となる割合で混合した。得られた混合液に対し、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、未変性ゴムとシリカを含む、シリカ含有ゴムマスターバッチ(未変性ゴムマスターバッチa)を得た。得られた未変性ゴムマスターバッチaは、未変性ゴム100質量部に対してシリカ10質量部を含むものである。
【0069】
[比較例3:未変性ゴムマスターバッチb]
比較例2において、ポリマーを含む水系エマルションとシリカスラリーを混合する際に、ポリマー100質量部に対してシリカ30質量部となる割合で混合し、その他は比較例2と同様にして、未変性ゴムマスターバッチbを得た。得られたマスターバッチbは、未変性ゴム100質量部に対してシリカ30質量部を含むものである。
【0070】
[比較例4:未変性ゴムマスターバッチc]
比較例2において、ポリマーを含む水系エマルションとシリカスラリーを混合する際に、ポリマー100質量部に対してシリカ50質量部となる割合で混合し、その他は比較例2と同様にして、未変性ゴムマスターバッチcを得た。得られたマスターバッチcは、未変性ゴム100質量部に対してシリカ50質量部を含むものである。
【0071】
[比較例5:未変性ゴムマスターバッチd]
比較例2において、ポリマーを含む水系エマルションとシリカスラリーを混合する際に、ポリマー100質量部に対してシリカ100質量部となる割合で混合し、その他は比較例2と同様にして、未変性ゴムマスターバッチdを得た。得られたマスターバッチdは、未変性ゴム100質量部に対してシリカ100質量部を含むものである。
【0072】
[比較例6:変性ゴム1]
比較例1と同じ天然ゴムラテックスを用い、該天然ゴムラテックスをDRC=30質量%に調整した上で、ラテックス中に含まれるポリマー質量100gに対して、過ヨウ素酸(H
5IO
6)1.65gを加え、23℃で3時間攪拌した。このようにエマルション状態のポリマー中に過ヨウ素酸を加えて攪拌することにより、ポリマー鎖中の二重結合が酸化分解し、上記式(5)で表される構造を含むポリマー断片が得られた。分解後のポリマーは、重量平均分子量が13500、数平均分子量が5300、分子量分布が2.6であり、また分解後の反応液のpHは6.2であった。
【0073】
その後、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1g加え、1規定の水酸化ナトリウムを反応液のpHが8.0になるように加え、23℃で24時間攪拌し反応させた。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性ゴム1を得た。
【0074】
このように酸化分解した反応系に対し、水酸化ナトリウムを加えて、該反応系を酸性から強制的に塩基性に変化させたことにより、酸化開裂の際に加えた過ヨウ素酸の効果を中和させつつ再結合反応を優先させることができ、式(1)〜(4)で表される連結基を含む変性天然ゴムが得られた。なお、ピロリジン−2−カルボン酸を触媒に用いているが、反応を促進させるためのものであり、無くても反応は進む。
【0075】
得られた変性ゴム1は、重量平均分子量Mwが185万、数平均分子量Mnが50万、分子量分布Mw/Mnが3.7であり、上記連結基の含有率が、式(1)では1.0モル%、式(2)では0.3モル%、式(3)では0.2モル%、式(4)では0.5モル%であり、合計で2.0モル%であった。
【0076】
[実施例1:シリカマスターバッチA]
比較例6において過ヨウ素酸による分解反応を行った後、得られたポリマー断片を含む水系エマルションに、シリカスラリーを混合した。詳細には、シリカとしては、デグサ社製「VN3」(BET比表面積=183m
2/g)を用いた。シリカを10.5質量%のシリカスラリーとなるように水を加え、コロイドミルを用いて、8000回転×30分という条件で処理して、均一なシリカスラリーを得た。該シリカスラリーと、上記ポリマー断片を含む水系エマルションとを、ポリマー断片100質量部に対してシリカ10質量部となる割合で混合した。
【0077】
得られた混合液に対し、比較例6と同様にして再結合反応を行った。すなわち、該混合液(pH=6.2)に、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1g加え、1規定の水酸化ナトリウムを反応液のpHが8.0になるように加え、23℃で24時間攪拌し反応させた。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、変性ゴムとシリカを含む、シリカ含有ゴムマスターバッチ(シリカマスターバッチA)を得た。
【0078】
得られたシリカマスターバッチAは、変性ゴム100質量部に対してシリカ10質量部を含むものである。なお、シリカマスターバッチA中の変性ゴムは、シリカが混在しているため、NMRによる連結基の含有率測定は行っていないが、ポリマーについての再結合反応条件自体は比較例6と同じであるため、比較例6の変性ゴム1と同じ連結基構成を有していると考えられる。分子量についても同様である。
【0079】
[実施例2:シリカマスターバッチB]
実施例1において、ポリマー断片を含む水系エマルションとシリカスラリーを混合する際に、ポリマー断片100質量部に対してシリカ30質量部となる割合で混合し、その他は実施例1と同様にして、シリカマスターバッチBを得た。得られたシリカマスターバッチBは、変性ゴム100質量部に対してシリカ30質量部を含むものである。
【0080】
[実施例3:シリカマスターバッチC]
実施例1において、ポリマー断片を含む水系エマルションとシリカスラリーを混合する際に、ポリマー断片100質量部に対してシリカ50質量部となる割合で混合し、その他は実施例1と同様にして、シリカマスターバッチCを得た。得られたシリカマスターバッチCは、変性ゴム100質量部に対してシリカ50質量部を含むものである。
【0081】
[実施例4:シリカマスターバッチD]
実施例1において、ポリマー断片を含む水系エマルションとシリカスラリーを混合する際に、ポリマー断片100質量部に対してシリカ100質量部となる割合で混合し、その他は実施例1と同様にして、シリカマスターバッチDを得た。得られたシリカマスターバッチDは、変性ゴム100質量部に対してシリカ100質量部を含むものである。
【0082】
[比較例7:変性ゴム2]
比較例1と同じ天然ゴムラテックスを用い、該天然ゴムラテックスをDRC=30質量%に調整した上で、ラテックス中に含まれるポリマー質量100gに対して、過ヨウ素酸(H
5IO
6)1.1gを加え、23℃で3時間攪拌した。このようにエマルション状態のポリマー中に過ヨウ素酸を加えて攪拌することにより、ポリマー鎖中の二重結合が酸化分解し、上記式(5)で表される構造を含むポリマー断片が得られた。分解後のポリマーは、重量平均分子量が23500、数平均分子量が6200、分子量分布が3.8であり、また分解後の反応液のpHは8.0であった。
【0083】
その後、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1g加え、1規定の塩酸を反応液のpHが6.0になるように加え、23℃で24時間攪拌し反応させた。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、常温で固形状の変性ゴム2を得た。
【0084】
このように酸化分解した反応系に対し、塩酸を加えて、該反応系を塩基性から強制的に酸性に変化させたことにより、再結合させることができ、式(1)〜(4)で表される連結基を含む変性天然ゴムが得られた。なお、ピロリジン−2−カルボン酸を触媒に用いているが、反応を促進させるためのものであり、無くても反応は進む。
【0085】
得られた変性ゴム2は、重量平均分子量Mwが179万、数平均分子量Mnが47万、分子量分布Mw/Mnが3.8であり、上記連結基の含有率が、式(1)では0.6モル%、式(2)では0.05モル%、式(3)では0.0モル%、式(4)では0.01モル%であり、合計で0.66モル%であった。
【0086】
[実施例5:シリカマスターバッチE]
比較例7において過ヨウ素酸による分解反応を行った後、得られたポリマー断片を含む水系エマルションに、シリカスラリーを混合した。詳細には、シリカとしては、デグサ社製「VN3」(BET比表面積=183m
2/g)を用いた。シリカを52.5質量%のシリカスラリーとなるように水を加え、コロイドミルを用いて、8000回転×30分という条件で処理して、均一なシリカスラリーを得た。該シリカスラリーと、上記ポリマー断片を含む水系エマルションとを、ポリマー断片100質量部に対してシリカ50質量部となる割合で混合した。
【0087】
得られた混合液に対し、比較例7と同様にして再結合反応を行った。すなわち、該混合液(pH=8.0)に、触媒としてピロリジン−2−カルボン酸0.1g加え、1規定の塩酸を反応液のpHが6.0になるように加え、23℃で24時間攪拌し反応させた。その後、メタノール中に沈殿させ、水で洗浄後、熱風循環乾燥機により30℃で24時間乾燥させて、変性ゴムとシリカを含む、シリカ含有ゴムマスターバッチ(シリカマスターバッチE)を得た。
【0088】
得られたシリカマスターバッチEは、変性ゴム100質量部に対してシリカ50質量部を含むものである。なお、シリカマスターバッチE中の変性ゴムは、シリカが混在しているため、NMRによる連結基の含有率測定は行っていないが、ポリマーについての再結合反応条件自体は比較例7と同じであるため、比較例7の変性ゴム2と同じ連結基構成を有していると考えられる。分子量についても同様である。
【0089】
[ゴム組成物についての実施例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ゴム成分又はシリカマスターバッチに対し硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して、ゴム組成物を調製した。表1中の各成分の詳細は、以下の通りである。未変性ゴム、変性ゴム及びシリカマスターバッチは、上記で合成したものであり、シリカは、上記シリカマスターバッチ作製時と同じものを用いた。
【0090】
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック・デグサ社製「Si69」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・プロセスオイル:株式会社ジャパンエナジー製「X−140」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
【0091】
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、動的粘弾性試験を行い、低燃費性能(tanδ(60℃))を評価するとともに、引張特性と耐摩耗性能を評価した。各評価方法は次の通りである。
【0092】
・低燃費性能(tanδ(60℃)):USM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数50Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度60℃の条件で損失係数tanδを測定し、その逆数について、各コントロールの値を100とした指数で表示した。コントロールについては、シリカの配合量毎に、未変性ゴムを用いた比較試験例1,4,7,10,13を、それぞれのコントロールとした。60℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、低発熱性の指標として一般に用いられているものであり、上記指数が大きいほどtanδが小さく、従って、発熱しにくく、タイヤとしての低燃費性能(転がり抵抗性能)に優れることを示す。
【0093】
・引張特性:JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)を行って300%モジュラスを測定し、各コントロールの値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、M300が大きく引張特性に優れる。
【0094】
・耐摩耗性能:ランボーン摩耗試験機を用いて、温度23℃、スリップ率50%の条件で摩耗損失体積を測定し、その測定値の逆数について、各コントロールの値を100とした指数で表示した。指数値が大きいほど、耐摩耗性が良好であることを示す。
【0095】
【表1】
【0096】
結果は、表1に示す通りである。比較試験例1,4,7,10は、比較例1の未変性ゴムを通常のドライ混合によりシリカと混合してゴム組成物を調製したものである。比較試験例2,5,8,11は、比較例2〜5に係る未変性ゴムマスターバッチを用いてゴム組成物を調製したものである。比較試験例3,6,9,12は、比較例6の変性ゴム1を通常のドライ混合によりシリカと混合してゴム組成物を調製したものである。試験例1〜5は、実施例1〜5に係るシリカマスターバッチを用いてゴム組成物を調製したものである。比較試験例13は、比較例7の変性ゴム2を通常のドライ混合によりシリカと混合してゴム組成物を調製したものである。
【0097】
比較試験例3,6,9,12では,天然ゴムを解離結合させて式(1)〜(4)で表される連結基を持つ変性ゴムを用いたため、未変性ゴムを用いた比較試験例1,4,7,10に対して、低燃費性能が顕著に改善されていた。試験例1〜5であると、天然ゴムの解離結合時にシリカをウェット混合したシリカマスターバッチを用いたので、それぞれ対応する比較試験例3,6,9,12,13に対して、低燃費性能に更なる改善効果が見られた。