(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091919
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】α,β−不飽和アルコールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/14 20060101AFI20170227BHJP
C07C 33/03 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
C07C29/14
C07C33/03
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-23474(P2013-23474)
(22)【出願日】2013年2月8日
(65)【公開番号】特開2014-152137(P2014-152137A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062225
【弁理士】
【氏名又は名称】秋元 輝雄
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 敦司
(72)【発明者】
【氏名】渡部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】若林 隼二
【審査官】
土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−226093(JP,A)
【文献】
特開2000−154157(JP,A)
【文献】
S. Axpuac,Study of structure-performance relationships in Meerwein-Ponndorf-Verley reduction of crotonaldehyde,Catalysis Today,2012年,Volume 187, Issue 1,Pages 183-190
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/14
C07C 33/03
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウムを触媒とし、α,β−不飽和アルデヒドと等倍モル以上の第二級アルコールを含む混合気体を連続供給して、前記第二級アルコールからの水素移行反応により前記α,β−不飽和アルデヒドに対応するα,β−不飽和アルコールを製造する方法であり、
少なくとも、以下の四工程を併存することを特徴とする、α,β−不飽和アルコールの製造方法。
(1)第二級アルコールから生成するケトンを水素化して第二級アルコールを再生する工程。
(2)前記再生第二級アルコールを前記水素移行反応に供給する工程。
(3)前記α,β−不飽和アルコールの1/2の炭素数からなる飽和第一級脂肪族アルコールの脱水素により対応する脂肪族アルデヒドを製造する工程。
(4)前記工程(3)で得た水素を、前記工程(1)において使用する工程。
【請求項2】
α,β−不飽和アルデヒドが、クロトンアルデヒドであり、α,β−不飽和アルコールがクロチルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載のα,β−不飽和アルコールの製造方法。
【請求項3】
第二アルコールがイソプロピルアルコールであることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載のα,β−不飽和アルコールの製造方法。
【請求項4】
前記酸化ジルコニウム触媒を充填した触媒充填塔において、LHSV0.1〜20h−1の流速でα,β−不飽和アルデヒドと等倍モル以上の第二級アルコールを含む混合気体を供給することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のα,β−不飽和アルコールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ジルコニウムからなる触媒の存在下、α,β‐不飽和アルデヒドを原料とした、水素移行反応による、α,β‐不飽和アルコールの製造方法に関する。また、水素移行反応における水素供与体として第二級アルコールを用い、さらに、前記第二級アルコールからの水素移行反応後に生成したケトンを水素で還元して第二級アルコールに再生、水素供与体として、再利用することを特徴とする、α,β‐不飽和アルコールの製造方法に関する。また、製造工程が、飽和脂肪族アルコールの脱水素反応による対応する脂肪族アルデヒド製造工程を含み、かつ、この脱水素反応で得た水素を、前記ケトンの還元反応に使用することを特徴とする、α,β‐不飽和アルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明にかかる原料である、α,β−不飽和アルデヒドは、分子内のα位、β位にそれぞれ炭素−炭素二重結合、および同一分子内のα位と隣り合う反対側の炭素を含むカルボニル基を有する。α,β−不飽和アルデヒドを原料とした、α,β−不飽和アルコールの製造では、触媒と水素供与化合物を適切に設計、選択して、水素移行反応の位置選択率を高めないと、副生成物や重質物(一例をあげれば、逐次アルドール縮合反応物。)の生成の問題が生じる。
α,β−不飽和アルコールは、溶剤、基礎化学品原料として製造され、多様な用途を有するので、新規製造方法の期待は大きい。その中でも、将来的に枯渇が予測されるブタジエンの原料となり得るクロチルアルコールの新規製造方法への期待は大きい。また、環境負荷低減要請の観点からは、バイオマス資源から得るエタノールを出発原料とする、α,β−不飽和アルコールの製造方法開発の期待も大きい。
【0003】
特許文献1には、イットリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム及びサマリウムよりなる群から選ばれる酸化物からなる触媒の存在下、アルコールを水素供給体とする方法で、340℃の反応温度で、アクロレインの転化率が約68%、アリルアルコールの選択率が約85%であることが報告されている。
特許文献2には、イットリウムおよびマンガンの酸化物、特許文献3にはイットリウムおよびコバルトの酸化物、特許文献4には、イットリウムを主成分、マグネシウムを副成分とするそれらの酸化物、特許文献5には、ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウムおよびサマリウムの各元素から選ばれる少なくとも一種の元素とコバルトをそれぞれの酸化物の形態で含有する触媒を用いて、第2級ブタノールを水素供給源としてアクロレインからアリルアルコールを調製する反応が報告されている。中でも特許文献3では、イットリウムおよびコバルトの酸化物触媒の存在下、300℃の条件で、アクロレインからの転化率は、最高約64%、アリルアルコールの選択率が約85%であることが報告されている。
しかし乍、これら特許文献にはα,β−不飽和アルデヒド原料として、クロトンアルデヒドの例示はあっても、実施例での開示はない。
【0004】
特許文献6には、カルボニル系化合物をアルコールに還元するための触媒、及びα,β−オレフィン性不飽和の、アルデヒド系又はケトン系の化合物を対応するアリル系アルコールに転化する改良方法が開示され、該触媒は担体上に担持された主として正方晶の二酸化ジルコニウムより成る。本方法は担持された正方晶の酸化ジルコニウム触媒又は担持されたHfO
2 、V
2 O
5 、NbO
5等より成る群から選択される触媒の存在下に行われ、ZrO
2/SiO
2担体触媒を用いた場合、アクロレイン転化率98重量%、アリルアルコール収率87モル%を報告している。
特許文献7には、金をジルコニア等の無機酸化物担体に担持してなる触媒の存在下に、アルコール溶媒中で不飽和カルボニル化合物を、分子状水素加圧下に、水素化することを特徴とする不飽和アルコールの製造方法を開示し、アクロレイン原料の場合、転化率49%、選択率74%でアリルアルコールを生成する旨報告する。
特許文献8には、VIII 族第6周期元素(イリジウム、オズミウム、白金)及びIB族元素(金、銀、銅)を平均粒子径6nm以下の金属超微粒子としてジルコニア等担体に担持してなるカルボニル基に対する選択的水素化反応用触媒を用いて、分子状水素加圧下に、クロトンアルデヒドの水素化により転化率92%、選択率81%でクロチルアルコールを製造する旨報告する。
特許文献9では、(A)銅単独、又は(B)銅及びCr、Fe、Al、Zn等から選ばれる第2の金属の酸化物で構成されている触媒の存在下、非共役系の脂環族不飽和アルデヒドを気相系において水素化し、不飽和アルコールを製造する旨開示し、テトラヒドロベンズアルデヒドを原料に、分子状水素加圧下に、120℃、6時間の水素化反応で転化率99.8%、選択率94%で対応する不飽和アルコールを生成する旨報告する。
【0005】
なお、これら特許文献で使用される触媒は、高温・長時間の焼成が必要である等調製が容易ではないか、反応条件が高温・高圧、長時間にわたる等、耐性の高い装置を必須とするものであり、また、転化率、選択率にも改善の余地がある場合がある。また、アクロレイン原料のアリルアルコールの合成において、2-プロパノールを溶媒として用いて、分子状水素加圧下に水素移行反応を利用する開示はあっても(特許文献1〜5)、本願発明のように、クロトンアルデヒドを原料に、イソプロピルアルコールを水素供与源としてクロチルアルコールを合成し、イソプロピルアルコールを再生利用する反応系について開示した例はない。
【0006】
非特許文献1には、酸化ジルコニウム/シリカ触媒の存在下、第二級アルコールを溶媒として用いて、オートクレーブ中、水素を1MPaに加圧封入し(バッチ式)、クロトンアルデヒドからクロチルアルコールを製造できることが開示されている。Zr/SiO
2担体の触媒を用いて、転化率99.4%、選択率ほぼ100%を報告している。しかし乍、本願発明のように、気相法連続式で、2級アルコールを再生利用することは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−56722号
【特許文献2】特開平7−109238号
【特許文献3】特開平7−109239号
【特許文献4】特開平7−204507号
【特許文献5】特開平7−204509号
【特許文献6】特開平6−226093号
【特許文献7】特開2003−183201号
【特許文献8】特開2003−284952号
【特許文献9】特開2001−354607号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】1999年9月第84回触媒討論会予稿集(1999年9月、「触媒」、41巻、6号、389〜391頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、調製容易な触媒及び入手容易な水素供与体を用いて、α,β−不飽和アルデヒドから、高転化率及び高選択率で、対応するα,β−不飽和アルコールを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一は、酸化ジルコニウムを含む触媒の存在下、α,β−不飽和アルデヒドと等倍モル以上の第二級アルコールを含む混合気体を連続供給して、前記第二級アルコールからの水素移行反応により前記α,β−不飽和アルデヒドに対応するα,β−不飽和アルコールの製造方法に関する。
【0011】
本発明の第二は、酸化ジルコニウムを含む触媒の存在下、α,β−不飽和アルデヒドと等モル以上の第二級アルコールを含む混合気体を連続供給して、前記第二級アルコールからの水素移行反応により前記α,β−不飽和アルデヒドに対応するα,β−不飽和アルコールの製造方法であり、少なくとも、以下の二工程を併存することを特徴とする、α,β−不飽和アルコールの製造方法に関する。
(1)第二級アルコールから生成するケトンを水素化して第二級アルコールを再生する工程;および
(2)前記再生第二級アルコールを前記水素移行反応に供給する工程
【0012】
本発明の第三は、酸化ジルコニウムを含む触媒の存在下、α,β−不飽和アルデヒドと等倍モル以上の第二級アルコールを含む混合気体を連続供給して、前記第二級アルコールからの水素移行反応により前記α,β−不飽和アルデヒドに対応するα,β−不飽和アルコールの製造方法であり、少なくとも、以下の四工程を併存することを特徴とする、α,β−不飽和アルコールの製造方法に関する。
(1)第二級アルコールから生成するケトンを水素化して第二級アルコールを再生する工程;
(2)前記再生第二級アルコールを前記水素移行反応に供給する工程;
(3)前記α,β−不飽和アルコールの1/2の炭素数からなる飽和第一級脂肪族アルコールの脱水素により対応する脂肪族アルデヒドを製造する工程;および
(4)前記工程(3)で得た水素を、前記工程(1)において使用する工程
【0013】
本発明の第四は、α,β−不飽和アルデヒドが、クロトンアルデヒドであり、α,β−不飽和アルコールがクロチルアルコールであることを特徴とする、本発明の第一乃至本発明の第三の何れか一つに記載のα,β−不飽和アルコールの製造方法に関する。
【0014】
本発明の第五は、第二級アルコールがイソプロピルアルコールであることを特徴とする、本発明の第一乃至第四の何れか一つに記載のα,β−不飽和アルコールの製造方法に関する。
【0015】
本発明の第六は、酸化ジルコニウムを充填した触媒充填塔において、LHSV0.1〜20h
−1の流速でα,β−不飽和アルデヒドと等倍モル以上の第二級アルコールを含む混合気体を供給することを特徴とする、本発明の第一乃至第五の何れか一つに記載のα,β−不飽和アルコールの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アルコールの脱水素化によるアルデヒドの製造、および、当該アルデヒドを用いたアルドール縮合により得られるα,β−不飽和アルデヒドから、容易に調製可能な触媒を用いて、高転化率、高選択率で、α,β−不飽和アルコールを得ることができる。取り分け、本発明によれば、バイオエタノールを原料として、その脱水素反応において得られる水素を有効に利用しながら、クロチルアルコールを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施態様を説明するためのフローシート図の例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(触媒および触媒調製)
本発明による触媒を構成する主たる活性成分は、ジルコニウムの酸化物である。具体的には、酸化ジルコニウムを含む固体触媒又は酸化ジルコニウムが担体に担持された触媒である。柱状、錠剤状、粉状、粒状のいずれでもよいが、触媒と生成物の効率的分離、高速連続処理を行う観点からは、触媒を充填して反応に供する充填塔の圧力損失の小さい、粒状触媒が好ましい。
【0019】
担体としては、酸化ジルコニウムを担持できるものであれば特に限定されず、例えば、従来の水素化反応用の触媒担体を用いることもできる。例えば、各種金属酸化物、ゼオライト、メソポーラスシリケート、活性担当の各種担体が挙げられる。その中で、酸化物、複合酸化物が好ましく、具体的には、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、シリカ・アルミナ、チタニア・ジルコニア、シリカ・マグネシア等が好適に用いられる。
【0020】
触媒の製法としては特に制限はなく、最終的に活性成分としての酸化ジルコニウムが充分に分散された形態をとる範囲で、公知の含浸法、沈澱法、共沈法などによって製造することができる。また、活性成分を触媒担体に含有または含浸させる方法ないし段階も、酸化ジルコニウムの活性が実質的に阻害されない限度において任意である。例えば、予め成型した多孔質担体粒または微紛に水、アルコール、または溶剤に可溶性の活性成分の前駆体を含浸、乾燥、焼成する含浸法や活性成分の塩の水溶液から沈澱により調製する沈澱法などがあげられる。これらの中では、メソポーラスシリケートにジルコニウム系化合物を含浸させて、焼成処理する方法が好ましい。
【0021】
(触媒充填塔、およびLHSV(液空間速度))
本発明においては、酸化ジルコニウムを含む触媒は、充填塔等に充填、固定して使用する。触媒充填塔の形状、直径、高さや触媒の充填方法に特に制限はない。
なお、後述する200℃条件下の実施例の結果から明らかなように、α,β−不飽和アルデヒドと触媒との接触時間には、好ましい範囲がある。この範囲外では、反応の進行が不十分となることがある。通常は、LHSV(1/hr)として、0.1〜20の範囲内が好ましく、0.3〜15がさらに好ましい。
【0022】
(α,β−不飽和アルデヒド)
本発明では、α,β−不飽和アルデヒドが、第二級アルコールからの水素供給を受けて、選択水素化されて相当するα,β−不飽和アルコールを生成する。本発明で用いられるα,β−不飽和アルデヒドとしては、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド、シンナムアルデヒド、チグリンアルデヒドなどがあげられる。原料をバイオエタノールとできること、また、需要の大きいブタジエンの原料となるクロチルアルコールが得られることから、クロトンアルデヒドが好ましい。
【0023】
(第二級アルコール)
本発明では、水素供与体として第二級アルコールを使用する。第二級アルコールは、水素供与後にはケトンとなる。第二級アルコールの好ましい例を挙げれば、イソプロピルアルコール、2−ブタノール、2−アミルアルコールなどである。これらのうちでも、イソプロピルアルコールは、対応するα,β−不飽和アルデヒドより低い沸点を有していて、容易に気相状態となること、生成するケトンであるアセトンも同様であることから好ましい。α,β−不飽和アルデヒドに対する第二級アルコールの配合比は、等倍モル以上、好ましくは、2〜30倍モル比である。
【0024】
(工程フローシート)
図1に本発明の実施態様を説明するためのフローシート図の例を示した。ここでは、α,β−不飽和アルデヒドとしてクロトンアルデヒド、第二級アルコールとしてイソプロピルアルコールを例に挙げて説明する。
【0025】
図1のフローシートは、α,β−不飽和アルデヒドとしてクロトンアルデヒドを使用し、α,β−不飽和アルコールとしてクロチルアルコールの製造に関する例である。また、水素源として、クロチルアルコールの1/2の炭素数2からなる第1級アルコールであり、また、バイオマス資源から得ることのできるエタノールの脱水素反応で得られる水素を使用する例である。エタノールの脱水素反応によるアセトアルデヒドの生成、アセトアルデヒド2分子間のアルドール縮合でクロトンアルデヒドを得る反応は公知である。
【0026】
クロトンアルデヒドンは等倍モル以上のイソプロピルアルコールと混合、予熱されて、触媒充填塔に供給される。その後、蒸留塔で、水素供与に使用されたイソプロピルアルコールから生成したアセトンが除去される。このアセトンは、水素化反応器に供給されてイソプロピルアルコールが再生され、このイソプロピルアルコールがクロトンアルデヒドと混合される水素供与体として使用される。アセトン分離塔の残分はさらに別個の蒸留塔に移送され、未反応(過剰量)のイソプロピルアルコールが除去される。なお、イソプロピルアルコールは、そのまま、クロトンアルデヒドへの水素供与体として使用される。残分は、高純度クロチルアルコールである。さらに必要に応じて、純度を上げるために、高純度クロチルアルコールを蒸留塔に掛けて精製して製品として供してもよい。
【0027】
(実施例)
以下に実施例をあげて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、特許請求の範囲に記載される限りにおいて、実施例に記載された範囲に限定されるものではない。なお、
図1には、本フローシートに係る化合物が、容易に分離できることを示すために、また、気相状態にできることを示すために、常圧下の沸点を示してある。
【0028】
(触媒調製)
3.0gの硝酸ジルコニウム2水和物(和光純薬製ZrO(NO
3)
2-2H
2O、分子量267.26)を28mlの水に溶解した水溶液を調製し、富士シリシア製球状シリカQ−10(約2mmφ)20gと混合し、ジルコニウムをシリカ上に担持した。得られたジルコニウム担持シリカを110℃にて一晩乾燥し、さらに500℃、空気中にて5時間焼成して、酸化ジルコニウム担持シリカ触媒を得た。このときジルコニウム担持量は約5質量%である。
【0029】
(比較例の触媒調製)
7.50gの硝酸アルミニウム9水和物(和光純薬製Al(NO
3)
3-9H
2O、分子量375.13)と15.38gの硝酸マグネシウム6水和物(和光純薬製Mg(NO3)2-6H2O、分子量256.41)を同時に水に溶かし、100mlの水溶液(A液)を調製した。さらに77.25gの炭酸ナトリウム10水和物(和光純薬製Na
2CO
3-10H
2O、分子量286.14)の水溶液(B液)200mlを調製した。ここで60℃にてB液にA液を滴下し、沈殿を生成させた。なおこのとき、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液にてpH=10を維持しながら沈殿を得た。得られた沈殿を含む液を80℃で24h撹拌した後、ろ過し、純水で洗浄した。さらに沈殿物に含有している硝酸イオンを除去するため、炭酸ナトリウム水溶液(Na
2CO
3-10H
2O 0.64g/300ml水)中でリフラックス洗浄を実施後、再度純水で洗浄し、得られた沈殿物を100℃で一晩乾燥後、4.88gの固体を得た。この固体のXRD測定を実施したところ、Mg-Al系のハイドロタルサイトと一致することを確認した。さらに窒素雰囲気中で500℃、8時間の焼成を行い、触媒調製を完了した。
この触媒の評価結果を表1の比較例3に示した。クロトンアルデヒド転化率は90%と高いが、目的物であるクロチルアルコールの選択率はわずかに1%であった。
【0030】
(α,β−不飽和アルコールの製造)
上記で得られた触媒6mlを充填したSUS製反応管(内径:約10mm)に、所定のモル比となるように混合したクロトンアルデヒドとイソプロピルアルコールからなる原料液を液体ポンプにて、所定のLHSV(クロトンアルデヒドとイソプロピルアルコールの和を基準とした)で連続的に供給した。なお反応管前に気化器を設け、120〜150℃に設定することで、原料液は反応管に導入される前にガス化されている。反応は大気圧、所定の反応温度で実施し、反応生成物をガスクロマトグラフにより分析し、その結果を表1に示した。
クロトンアルデヒド転化率(%)とクロチルアルコール選択率(%)は以下の式で求めた。
クロトンアルデヒド転化率={1−(残存クロトンアルデヒド/原料中クロトンアルデヒド)}×100
クロチルアルコール選択率=(クロチルアルコール収率/クロトンアルデヒド転化率)×100
(クロチルアルコール収率=(生成クロチルアルコール/原料中クロトンアルデヒド)×100)
【0032】
表1の結果から、酸化ジルコニウムを含む触媒の存在下、クロトンアルデヒドに対してイソプロピルアルコールを作用させることで、高収率、かつ、高選択率で水素供与反応が進行して、目的とするクロチルアルコールが得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の方法によって製造される、クロチルアルコールを含むα,β−不飽和アルコールは、そのまま、溶剤等の基礎化学品として使用されるほか、その不飽和結合が有する反応性を利用して、医農薬の中間体、香料、工業中間体等の高付加価値の化学品原料として広く用いられる。