(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材と、前記基材の一方の主面に積層された粘着剤層とを備え、その前記粘着剤層側の主面が、当該主面の少なくとも一部の領域として、凹凸面からなる第1の凹凸面領域を有する粘着シート、および
硬化して保護膜を形成可能な保護膜形成用フィルムを備えた保護膜形成用複合シートであって、
前記保護膜形成用フィルムの一方の主面が前記第1の凹凸面領域の一部または全部を覆うように、前記保護膜形成用フィルムは前記粘着シートに積層されてなり、
前記第1の凹凸面領域の凹部のうち、前記保護膜形成用フィルムの一方の主面に覆われた領域に位置する凹部の少なくとも一部は、前記保護膜形成用フィルムの一方の主面に接触せず当該主面と空隙部を画成し、前記空隙部はレーザーマーキングの際に生成する汚染性物質の拡散経路となること
を特徴とする保護膜形成用複合シート。
基材と前記基材の一方の主面に積層された粘着剤層とを備えた粘着シート、および請求項2または3に記載される保護膜形成用フィルムを備えた保護膜形成用複合シートであって、
前記粘着シートの前記粘着剤層側の主面が前記第2の凹凸面領域の一部または全部を覆うように、前記保護膜形成用フィルムは前記粘着シートに積層されてなり、
前記第2の凹凸面領域の凹部のうち、前記粘着シートの前記粘着剤層側の主面に覆われた領域に位置する凹部の少なくとも一部は、前記粘着シートの前記粘着剤層側の主面に接触せず当該主面と空隙部を画成し、前記空隙部はレーザーマーキングの際に生成する汚染性物質の拡散経路となること
を特徴とする保護膜形成用複合シート。
前記粘着シートは請求項1に記載される粘着シートであって、前記第1の凹凸面領域は、その少なくとも一部が前記第2の凹凸面領域に対向するように位置する、請求項5に記載の保護膜形成用複合シート。
前記空隙部のうち、平面視で、前記保護膜形成用複合シートの前記基材に遠位な側の主面における使用時に被加工部材に貼付される領域である加工領域に位置する域内空隙部は、少なくとも一部が、平面視で、前記保護膜形成用複合シートの前記基材に遠位な側の主面における前記加工領域以外の領域である非加工領域に位置する域外空隙部に連通している、請求項4から6のいずれか一項に記載の保護膜形成用複合シート。
前記域外空隙部は、前記空隙部を開放系とする開口部を有し、前記開口部の周縁部は、前記粘着シートの前記粘着剤層側の主面、前記粘着シートの前記粘着剤層の側面および前記保護膜形成用フィルムの側面の少なくとも1つに位置する、請求項7に記載の保護膜形成用複合シート。
前記保護膜形成用複合シートの前記基材に遠位な側の主面における使用時に被加工部材に貼付される領域以外の領域に積層された、治具接着層をさらに備える、請求項5から8のいずれか一項に記載の保護膜形成用複合シート。
前記治具接着層の前記粘着シートに近位な主面は、少なくとも一領域において、前記保護膜形成用フィルムの主面に貼着する、請求項9または10に記載の保護膜形成用複合シート。
リングフレームに張設された請求項4から11のいずれか一項に記載される保護膜形成用複合シートが備える前記保護膜形成用フィルムの一方の主面が、被加工部材の一の面に貼付された積層状態において、
前記保護膜形成用複合シート側からレーザー光を照射し、前記保護膜形成用フィルムの他方の主面にマーキングすること
を特徴とするマーキング方法。
リングフレームに張設された請求項4から11のいずれか一項に記載される保護膜形成用複合シートが備える前記保護膜形成用フィルムを硬化して保護膜とすることにより得られる保護膜含有複合シートにおける、前記保護膜の一方の主面が、被加工部材の一の面に固着している積層状態において、
前記保護膜形成用複合シート側からレーザー光を照射し、前記保護膜の他方の主面にマーキングすること
を特徴とするマーキング方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.粘着シート
本発明の一実施形態に係る粘着シート1は、
図1(a)に示されるように、基材2と、基材2の一方の主面に積層された粘着剤層3とを備え、粘着シート1の粘着剤層3側の主面1A(本明細書において「粘着シート第1主面」ともいう。)は、粘着シート第1主面1Aの少なくとも一部の領域として、凹凸面からなる第1の凹凸面領域1aを有する。
【0029】
(1)基材
本実施形態に係る粘着シート1の基材2は、ダイシング工程の後に行われるエキスパンド工程などにおいて破断しない限り、その構成材料は特に限定されず、通常は樹脂系の材料を主材とするフィルムから構成される。そのフィルムの具体例として、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のエチレン系共重合フィルム;低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム等のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン−ノルボルネン共重合体フィルム、ノルボルネン樹脂フィルム等のポリオレフィン系フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム等のポリ塩化ビニル系フィルム;フッ素樹脂フィルムなどが挙げられる。またこれらの架橋フィルム、アイオノマーフィルムのような変性フィルムも用いられる。上記の基材2はこれらの1種からなるフィルムでもよいし、さらにこれらを2種類以上組み合わせた積層フィルムであってもよい。なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語についても同様である。
【0030】
本実施形態に係る保護膜形成用複合シート10を用いて形成される保護膜付チップ(詳細は後述する。)は、レーザーマーキングされたマーキング保護膜付チップであり、レーザーマーキングのためのレーザーが基材2越しに照射されることから、基材2は、レーザー光の透過性に優れるものであることが好ましい。レーザーマーキングのためのレーザーの種類は特に限定されない。例えば、532nm、1064nmなどの波長を有するレーザーが例示される。レーザー光の透過性に優れる観点から、基材2を構成するフィルムとして、エチレン系共重合フィルム、ポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニル系フィルムなどが好ましい例として挙げられる。
【0031】
基材2を構成するフィルムは、エチレン系共重合フィルムおよびポリオレフィン系フィルムの少なくとも一種を備えることがより好ましい。
エチレン系共重合フィルムはそれを構成するモノマーの共重合比を変えることなどによりその機械特性を広範な範囲で制御することが容易である。このため、エチレン系共重合フィルムを備える基材2は本実施形態に係る保護膜形成用複合シート10をダイシングシートとして使用する際に、ダイシングシートの基材として求められる機械特性を満たしやすい。また、エチレン系共重合フィルムは粘着剤層3に対する密着性が比較的高いため、本実施形態に係る保護膜形成用複合シート10をダイシングシートとして使用した際に基材2と粘着剤層3との界面での剥離が生じにくい。
【0032】
エチレン系共重合フィルムおよびポリオレフィン系フィルムは、ダイシングシートとしての特性に悪影響を及ぼす成分(例えば、ポリ塩化ビニル系フィルムなどでは、当該フィルムに含有される可塑剤が基材2から粘着剤層3へと移行し、さらに粘着剤層3の基材2に対向する側と反対側の面に分布して、粘着剤層3の被着体に対する粘着性を低下させる場合がある。)の含有量が少ないため、粘着剤層3の被着体に対する粘着性が低下するなどの問題が生じにくい。すなわち、エチレン系共重合フィルムおよびポリオレフィン系フィルムは化学的な安定性に優れる。
【0033】
基材2は、上記の樹脂系材料を主材とするフィルム内に、顔料、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー等の各種添加剤が含まれていてもよい。顔料としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック等が挙げられる。また、フィラーとして、メラミン樹脂のような有機系材料、ヒュームドシリカのような無機系材料およびニッケル粒子のような金属系材料が例示される。こうした添加剤の含有量は特に限定されないが、基材2が、所望の機能(レーザーマーキングのために照射されるレーザー光の透過性もかかる機能に含まれる。)を果たし、平滑性や柔軟性を失わない範囲に留めるべきである。
【0034】
粘着剤層3に照射するエネルギー線として紫外線を用いる場合には、基材2は紫外線に対して透過性を有することが好ましい。後述するように粘着剤層3はエネルギー線重合型の粘着剤組成物から構成されていてもよく、粘着剤層3に照射するエネルギー線として電子線を用いる場合には基材2は電子線の透過性を有していることが好ましい。
【0035】
また、基材2の粘着剤層3に対向する主面(以下、「基材対向面」ともいう。)2Aには、カルボキシル基、ならびにそのイオンおよび塩からなる群から選ばれる1種または2種以上を有する成分が存在することが好ましい。基材2における上記の成分と粘着剤層3に係る成分(粘着剤層3を構成する成分および架橋剤(γ)などの粘着剤層3を形成するにあたり使用される成分が例示される。)とが化学的に相互作用することにより、これらの間で剥離が生じる可能性を低減させることができる。基材対向面2Aにそのような成分を存在させるための具体的な手法は特に限定されない。たとえば、基材2自体を例えばエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム等として、基材2を構成する材料となる樹脂がカルボキシル基、ならびにそのイオンおよび塩からなる群から選ばれる1種または2種以上を有するものとするのであってもよい。基材対向面2Aに上記成分を存在させる他の手法として、基材2は例えばポリオレフィン系フィルムであって、基材対向面2A側にコロナ処理が施されていたり、プライマー層が設けられていたりしてもよい。また、基材2の基材対向面2Aと反対側の面には、所望の機能を果たすことができる限り、各種の塗膜が設けられていてもよい。
【0036】
基材2の厚さは、ダイシング工程で切断されたりエキスパンド工程やピックアップ工程で破断したりする不具合が生じない限り、特に限定されない。好ましくは20μm以上450μm以下、より好ましくは25μm以上400μm以下、特に好ましくは50μm以上350μm以下の範囲にある。
【0037】
本実施形態における基材2の破断伸度は、23℃、相対湿度50%のときに測定した値として100%以上であることが好ましく、特に200%以上1000%以下であることが好ましい。ここで、破断伸度はJIS K7161:1994(ISO 527−1 1993)に準拠した引張り試験における、試験片破壊時の試験片の長さの元の長さに対する伸び率である。上記の破断伸度が100%以上である基材2は、ダイシング工程後のエキスパンド工程の際に破断しにくく、被加工部材Wを切断して形成したチップを離間し易いものとなる。
【0038】
また、本実施形態における基材2の25%ひずみ時引張応力は5N/10mm以上15N/10mm以下であることが好ましく、最大引張応力は15MPa以上50MPa以下であることが好ましい。ここで25%ひずみ時引張応力および最大引張応力はJIS K7161:1994に準拠した試験により測定される。25%ひずみ時引張応力が5N/10mm未満であったり、最大引張応力が15MPa未満であったりすると、保護膜形成用複合シート10を被着部材Wに貼付した後、リングフレームなどの治具に固定した際、基材2が柔らかいために弛みが発生することが懸念され、この弛みは搬送エラーの原因となることがある。一方、25%ひずみ時引張応力が15N/10mmを超えたり、最大引張応力が50MPaを越えると、エキスパンド工程時にリングフレームなどの治具から粘着シート1が剥がれたりするなどの問題が生じやすくなることが懸念される。なお、上記の破断伸度、25%ひずみ時引張応力、最大引張応力は基材2における原反の長尺方向について測定した値を指す。
【0039】
(2)粘着剤層
本実施形態に係る粘着シート1の粘着剤層3は、従来より公知の種々の粘着剤組成物により形成され得る。このような粘着剤組成物としては、何ら限定されるものではないが、たとえばゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリビニルエーテル等の粘着剤組成物が用いられる。また、エネルギー線硬化型や加熱発泡型、水膨潤型の粘着剤組成物も用いることができる。
【0040】
(2−1)第1の凹凸面領域
図1(a)に示されるように、粘着シート第1主面1Aは、その主面1Aの少なくとも一部の領域として、凹凸面からなる第1の凹凸面領域1aを有する。粘着シート1の使用時には、レーザーマーキングの対象である被着体の一の面が、第1の凹凸面領域1aの一部または全部を覆うように粘着シート1上に積層される。被着体としては、半導体ウエハ等の被加工部材、硬化して保護膜を形成可能な保護膜形成用フィルム、この保護膜形成用フィルムが硬化してなる保護膜などが例示される。以下、
図2に示されるように、被着体が保護膜形成用フィルム4であり、粘着シート1と保護膜形成用フィルム4とによって、保護膜形成用複合シート10が構成されている場合を具体例として説明する。
【0041】
この保護膜形成用複合シート10では、保護膜形成用フィルム4の一方の主面(粘着シート1に近位な側の主面)4Bと第1の凹凸面領域1aとが対向する状態となる。この状態において、第1の凹凸面領域1aに位置する凹部(本明細書において「第1の凹部」ともいう。)のうち、保護膜形成用フィルム4の一方の主面4Bに覆われた領域に位置する凹部の少なくとも一部は、保護膜形成用フィルム4の一方の主面4Bに接触せず、この主面4Bと空隙部を画成する。そして、この画成された空隙部は、レーザーマーキングの際に生成する汚染性物質の拡散経路となる。本明細書において、第1の凹部が画成に関与する空隙部を「第1の空隙部」ともいう。
【0042】
第1の空隙部の形状的特徴は、レーザーマーキングのために照射されたレーザーにより被着体から生成する汚染性物質の組成や量に応じて適宜設定される。なお、この汚染性物質として、デブリのような微小の固体、微小な液滴、気相物質などが例示される。第1の空隙部の形状は、第1の凹凸面領域1aの第1の凹部の平面視および断面視での形状的特徴、第1の凹凸面領域1aが貼着する被着体の一の面(被着体が上記のように保護膜形成用フィルム4である場合には一方の主面4B)の平面視および断面視での形状的特徴、被着体に粘着シート1を貼付させたこと基づく第1の凹部の変形の程度などによって決定される。
【0043】
第1の凹凸面領域1aの第1の凹部の形状的特徴は、その形成方法に基づき設定される。例えば、粘着シート第1主面1Aの一部の領域または全部の領域に対してショットブラスト、エッチングなどを直接行って梨地表面からなる第1の凹凸面領域1aを形成する場合には、第1の凹部は複数の微小凹部がランダムに近接しながら存在する表面が有する凹部となる。一方、ショットブラスト、放電、エッチングなどの手法を用いて形成された梨地表面を転写するような方法で第1の凹凸面領域1aが形成される場合には、第1の凹部は複数の微小突起がランダムに近接しながら存在する表面を有する凹部となる。あるいは、切削等の機械加工やめっき加工により形成した凹凸形状を有する表面を転写する方法で第1の凹凸面領域1aを形成してもよく、その転写回数は1回でもよく、複数回でもよい。第1の凹部によって作られる第1の凹凸面領域1aの平面視での形状、すなわち、パターンも限定されない。
図1(b)には、第1の凹部が切削溝に対応する形状の複数が互いに交差する格子状のパターンを形作っている場合が示されている。
【0044】
粘着シート第1主面1Aと第1の凹凸面領域1aとの平面視における関係は任意である。
図1に示されるように粘着シート第1主面1Aの一部の領域が第1の凹凸面領域1aであってもよいし、粘着シート第1主面1Aの全領域が第1の凹凸面領域1aであってもよい。なお、上記の関係は、第1の凹凸面領域1aが粘着剤層3の外周に接する部分を有するか否かによっても規定することができる。
図1に示されるように粘着シート1では、第1の凹凸面領域1aが粘着剤層3の外周に接する部分を有さない。この場合には、粘着シート第1主面1Aの被着体が第1の凹凸面領域1aの全てを覆うように配置されるときには、レーザーマーキングの際に発生した汚染性物質を外気に排出させることなく、第1の空隙部内に拡散させることが可能となる。これに対し、粘着シート第1主面1Aの被着体が第1の凹凸面領域1aの一部を覆うように配置されるときには、第1の空隙部は外気への開口部を有するため、レーザーマーキングの際に発生した汚染性物質は、第1の空隙部を通じて外気に排出されることが可能となる。一方、第1の凹凸面領域1aが粘着剤層3の外周に接する部分を有する場合には、第1の空隙部は外気への開口部を粘着剤層の側面に有するため、被着体の形状や被着体の粘着シート第1主面1A上の配置にかかわらず、レーザーマーキングの際に発生した汚染性物質は、第1の空隙部を通じて外気に排出されることが可能となる。
【0045】
粘着シート第1主面1Aに対向するように配置される被着体の一の面と第1の凹凸面領域1aとの平面視における関係も任意である。第1の凹凸面領域1aの全てが被着体の一の面に包含されていてもよいし、第1の凹凸面領域1aが被着体の一の面の全領域を包含していてもよい。前者の場合には、被着体に対してレーザーマーキングを行うことによって生じた汚染性物質は第1の空隙部内に拡散するため、汚染性物質の局所的な濃度が高まって被着体を汚染することが抑制される。一方、後者の場合には、被着体に対してレーザーマーキングを行うことによって生じた汚染性物質は、第1の空隙部を通じて外気に排出されることが可能となる。
【0046】
第1の凹凸面領域1aの第1の凹部の一例として、断面視での形状的な特徴が、幅が5μm以上500μm以下および/または深さが0.5μm以上5μm以下である場合が挙げられる。第1の凹部の幅が過度に狭い場合や深さが過度に浅い場合には、上記の汚染性物質の拡散が不十分となって、汚染性物質に基づく局所的な汚染の発生が抑制されにくくなるおそれが生じる。一方、第1の凹部の幅が過度に広い場合や深さが過度に深い場合には、レーザー光を照射した際に光量ばらつきがマーキングに影響を与える程度に大きくなるおそれが生じる。
【0047】
本実施形態に係る粘着シート1が備える粘着剤層3は、エネルギー線の照射により重合反応を生じる成分を含有する、エネルギー線重合型の粘着剤組成物から構成される場合もある。この重合のためのエネルギー線としては、X線、紫外線のような電磁波、電子線などが例示される。これらのエネルギー線の中でも、設備設置に要するコストが低く、作業性にも優れる紫外線が好ましい。
【0048】
このように、粘着剤層3がエネルギー線重合型の粘着剤組成物から形成される場合であって、第1の凹凸面領域を転写加工によって形成する場合には、エネルギー線を照射する時機と、転写加工を行う時機との関係は特に限定されない。転写加工性を向上させる観点からは、エネルギー線の照射前に転写加工を行うことが好ましい場合がある。一方、転写して得られた形状の経時的安定性を高める(具体的には、凹凸部が経時的に平坦化する現象を生じにくくすることが例示される。)観点からは、エネルギー線の照射後に転写加工を行うことが好ましい場合がある。
【0049】
紫外線により重合しうる粘着剤組成物の一例として、次に説明するアクリル系重合体(α)およびエネルギー線重合性化合物(β)、さらに必要に応じ架橋剤(γ)などを含有する粘着剤組成物が挙げられる。
【0050】
(2−2)アクリル系重合体(α)
本実施形態に係る粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物の一例はアクリル系重合体(α)を含有する。この粘着剤組成物から形成された粘着剤層3において、アクリル系重合体(α)は少なくともその一部が後述する架橋剤(γ)と架橋反応を行って架橋物として含有される場合もある。
【0051】
アクリル系重合体(α)としては、従来公知のアクリル系の重合体を用いることができる。アクリル系重合体(α)の重量平均分子量(Mw)は、上記の粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物またはこれに溶媒を加えて得られる組成物からなる塗工液(本明細書において、これらの塗工液を「粘着層形成用塗工液」と総称する。)の塗工時の造膜性の観点から1万以上200万以下であることが好ましく、10万以上150万以下であることがより好ましい。また、アクリル系重合体(α)のガラス転移温度Tgは、好ましくは−70℃以上30℃以下、さらに好ましくは−60℃以上20℃以下の範囲にある。ガラス転移温度は、Fox式より計算することができる。
【0052】
上記アクリル系重合体(α)は、1種類のアクリル系モノマーから形成された単独重合体であってもよいし、複数種類のアクリル系モノマーから形成された共重合体であってもよいし、1種類または複数種類のアクリル系モノマーとアクリル系モノマー以外のモノマーとから形成された共重合体であってもよい。アクリル系モノマーとなる化合物の具体的な種類は特に限定されず、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸エステル、その誘導体(アクリロニトリルなど)が具体例として挙げられる。
【0053】
(メタ)アクリル酸エステルについてさらに具体例を示せば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の鎖状骨格を有する(メタ)アクリレート;シクロへキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イミドアクリレート等の環状骨格を有する(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の水酸基以外の反応性官能基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。また、アクリル系モノマー以外のモノマーとして、エチレン、ノルボルネン等のオレフィン、酢酸ビニル、スチレンなどが例示される。なお、アクリル系モノマーがアルキル(メタ)アクリレートである場合には、そのアルキル基の炭素数は1から18の範囲であることが好ましい。
【0054】
本実施形態に係る粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物が、後述するようにアクリル系重合体(α)を架橋しうる架橋剤(γ)を含有している場合には、アクリル系重合体(α)が有する反応性官能基の種類は特に限定されず、架橋剤(γ)の種類などに基づいて適宜決定すればよい。例えば、架橋剤(γ)がポリイソシアネート化合物である場合には、アクリル系重合体(α)が有する反応性官能基として、水酸基、カルボキシル基、アミノ基などが例示される。これらのうちでも、架橋剤(γ)がポリイソシアネート化合物である場合には、イソシアネート基との反応性の高い水酸基を反応性官能基として採用することが好ましい。アクリル系重合体(α)に反応性官能基として水酸基を導入する方法は特に限定されない。一例として、アクリル系重合体(α)が2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有するアクリレートに基づく構成単位を骨格に含有する場合が挙げられる。
【0055】
アクリル系重合体(α)が反応性官能基を有する場合には、アクリル系重合体(α)を形成するためのモノマー換算で、全モノマーに対する反応性官能基の質量割合を1質量%以上20質量%以下程度とすることが好ましく、2質量%以上10質量%以下とすることがより好ましい。
【0056】
(2−3)エネルギー線重合性化合物(β)
本実施形態に係る粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物が含有するエネルギー線重合性化合物(β)は、エネルギー線重合性基を有し、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けて重合反応することができる限り、具体的な構成は特に限定されない。エネルギー線重合性化合物(β)が重合することによって粘着剤層3の保護膜形成用フィルム4に対する粘着性を低下させることができる。
【0057】
エネルギー線重合性基の種類は特に限定されない。その具体例として、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等のエチレン性不飽和結合を有する官能基などが挙げられる。粘着剤組成物が架橋剤(γ)を含有する場合には、架橋剤(γ)の架橋反応を行う部位と機能的に重複する可能性を少なくする観点から、エネルギー線重合性基はエチレン性不飽和結合を有する官能基であることが好ましく、その中でもエネルギー線が照射されたときの反応性の高さの観点から(メタ)アクリロイル基がより好ましい。
【0058】
エネルギー線重合性化合物(β)の分子量は特に限定されない。その分子量が過度に小さい場合には、粘着剤組成物または粘着剤層3の製造過程においてその化合物が揮発することが懸念され、このとき粘着剤層3の組成の安定性が低下する。したがって、エネルギー線重合性化合物(β)の分子量は、重量平均分子量(Mw)として100以上とすることが好ましく、200以上とすることがより好ましく、300以上とすることが特に好ましい。
【0059】
エネルギー線重合性化合物(β)の少なくとも一部は、分子量が、重量平均分子量(Mw)として4,000以下であることが好ましい。このようなエネルギー線重合性化合物(β)として、エネルギー線重合性基を有する単官能モノマーおよび多官能のモノマーならびにこれらのモノマーのオリゴマーからなる群から選ばれる1種または2種以上からなる化合物が例示される。
【0060】
上記の化合物の具体的な組成は特に限定されない。上記化合物の具体例として、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどの鎖状骨格を有するアルキル(メタ)アクリレート;ジシクロペンタジエンジメトキシジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどの環状骨格を有するアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オリゴエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ変性(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、イタコン酸オリゴマー等のアクリレート系化合物などが挙げられる。これらの中でもアクリレート系化合物はアクリル系重合体(α)への相溶性が高いため好ましい。
【0061】
エネルギー線重合性化合物(β)が一分子中に有するエネルギー線重合性基の数は限定されないが、複数であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、5以上であることが特に好ましい。
【0062】
本実施形態に係る粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物に含有されるエネルギー線重合性化合物(β)の含有量は、アクリル系重合体(α)100質量部に対して50質量部以上300質量部以下とすることが好ましく、75質量部以上150質量部以下とすることがより好ましい。なお、本明細書において、各成分の含有量を示す「質量部」は固形分としての量を意味する。エネルギー線重合性化合物(β)の含有量をこのような範囲とすることにより、エネルギー線照射後の粘着剤層3の保護膜形成用フィルム4に対する粘着性と、エネルギー線照射前の粘着剤層3の保護膜形成用フィルム4に対する粘着性との差を十分に確保することができる。
【0063】
エネルギー線重合性化合物(β)の他の例として、エネルギー線重合性化合物(β)がアクリル系重合体であって、エネルギー線重合線基を有する構成単位を主鎖または側鎖に有するものである場合が挙げられる。この場合には、エネルギー線重合性化合物(β)はアクリル系重合体(α)としての性質を有するため、粘着剤層3を形成するための組成物の組成が簡素化される、粘着剤層3におけるエネルギー線重合性基の存在密度を制御しやすいなどの利点を有する。
【0064】
上記のようなアクリル系重合体(α)の性質を有するエネルギー線重合性化合物(β)は、例えば次のような方法で調製することができる。水酸基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を含有する(メタ)アクリレートに基づく構成単位およびアルキル(メタ)アクリレートに基づく構成単位を含んでなる共重合体であるアクリル系重合体と、上記の官能基と反応しうる官能基およびエネルギー線重合性基(例えばエチレン性二重結合を有する基)を1分子内に有する化合物とを反応させることにより、上記のアクリル系重合体にエネルギー線重合性基を付加させることができる。
【0065】
エネルギー線として紫外線を用いる場合には、取り扱いのしやすさから波長200〜380nm程度の紫外線を含む近紫外線を用いればよい。紫外線量としては、エネルギー線重合性化合物(β)の種類や粘着剤層3の厚さに応じて適宜選択すればよく、通常50〜500mJ/cm
2程度であり、100〜450mJ/cm
2が好ましく、200〜400mJ/cm
2がより好ましい。また、紫外線照度は、通常50〜500mW/cm
2程度であり、100〜450mW/cm
2が好ましく、200〜400mW/cm
2がより好ましい。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、UV−LEDなどが用いられる。
【0066】
エネルギー線として電子線を用いる場合には、その加速電圧については、エネルギー線重合性化合物(β)の種類や粘着剤層3の厚さに応じて適宜選定すればよく、通常加速電圧10〜1,000kV程度であることが好ましい。また、照射線量は、エネルギー線重合性化合物(β)が適切に硬化する範囲に設定すればよく、通常10〜1,000kradの範囲で選定される。電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
【0067】
(2−4)架橋剤(γ)
本実施形態に係る粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物は、前述のように、アクリル系重合体(α)と反応しうる架橋剤(γ)を含有してもよい。この場合には、本実施形態に係る粘着剤層3は、アクリル系重合体(α)と架橋剤(γ)との架橋反応により得られた架橋物を含有する。
【0068】
架橋剤(γ)の種類としては、例えば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、金属キレート系化合物、アジリジン系化合物等のポリイミン化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジアルデヒド類、メチロールポリマー、金属アルコキシド、金属塩等が挙げられる。これらの中でも、架橋反応を制御しやすいことなどの理由により、架橋剤(γ)がポリイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0069】
ここで、ポリイソシアネート化合物についてやや詳しく説明する。ポリイソシアネート化合物は1分子当たりイソシアネート基を2個以上有する化合物であって、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートなどの脂環式イソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの鎖状骨格を有するイソシアネートが挙げられる。
【0070】
また、これらの化合物の、ビウレット体、イソシアヌレート体や、これらの化合物と、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の非芳香族性低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などの変性体も用いることができる。上記のポリイソシアネート化合物は1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。
【0071】
本実施形態に係る粘着剤層3がアクリル系重合体(α)と架橋剤(γ)とに基づく架橋物を有する場合には、粘着剤層3に含有される架橋物に係る架橋密度を調整することによって、粘着剤層3の照射前貯蔵弾性率などの特性を制御することができる。この架橋密度は、粘着剤層3を形成するための組成物に含まれる架橋剤(γ)の含有量などを変えることによって調整することができる。具体的には、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物の架橋剤(γ)の含有量を、アクリル系重合体(α)100質量部に対して5質量部以上とすることで、粘着剤層3の照射前貯蔵弾性率などを適切な範囲に制御することが容易となる。この制御性を高める観点から、架橋剤(γ)の含有量は、アクリル系重合体(α)100質量部に対して10質量部以上とすることがより好ましく、20質量部以上とすることが特に好ましい。架橋剤(γ)の含有量の上限は特に限定されないが、含有量が過度に高い場合には、粘着剤層3の粘着性を後述する範囲に制御することが困難となる場合もあるため、アクリル系重合体(α)100質量部に対して50質量部以下とすることが好ましく、40質量部以下とすることがより好ましい。
【0072】
本実施形態に係る粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物が架橋剤(γ)を含有する場合には、その架橋剤(γ)の種類などに応じて、適切な架橋促進剤を含有することが好ましい。例えば、架橋剤(γ)がポリイソシアネート化合物である場合には、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物は有機スズ化合物などの有機金属化合物系の架橋促進剤を含有することが好ましい。
【0073】
(2−5)その他の成分
本実施形態に係る粘着シート1が備える粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物は、上記の成分に加えて、貯蔵弾性率調整剤、光重合開始剤、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、フィラー等の各種添加剤を含有してもよい。
【0074】
貯蔵弾性率調整剤として粘着付与樹脂や長鎖アルキルアクリルオリゴマーなどが例示される。貯蔵弾性率調整剤の含有量は、その機能を安定的に発揮させる観点から、アクリル系重合体(α)100質量部に対して50質量部以上とすることが好ましく、75質量部以上とすることがより好ましく、100質量部以上とすることが特に好ましい。また、粘着剤層3に含有される粘着剤の凝集性を適切な程度に維持するため、貯蔵弾性率調整剤の含有量はアクリル系重合体(α)100質量部に対して500質量部以下とすることが好ましく、400質量部以下とすることがより好ましく、350質量部以下とすることが特に好ましい。
【0075】
貯蔵弾性率調整剤が粘着付与樹脂を含有する場合において、その粘着付与樹脂の種類は特に限定されない。重合化ロジン、エステル化ロジンおよび不均化ロジンならびにこれらの水素添加樹脂などのロジン系の粘着付与樹脂であってもよいし、α−ピネン樹脂などのテルペン系の粘着付与樹脂であってもよいし、炭化水素樹脂などの石油系樹脂であってもよい。あるいは、クマロン樹脂、アルキル・フェノール樹脂、キシレン樹脂といった芳香族系の粘着付与樹脂であってもよい。
【0076】
これらの異なる種類の粘着付与樹脂を組み合わせて用いることにより、貯蔵弾性率調整剤のアクリル系重合体(α)への相溶性が高まり、好ましい特性が得られる場合もある。その一例として、粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物が、貯蔵弾性率調整剤として重合ロジンエステル(C1)を含有するとともに、水添ロジンエステル(C2)および炭化水素樹脂(C3)の少なくとも一方を含有する場合が挙げられる。上記の粘着付与樹脂を含有する場合には、粘着剤層3を形成するための組成物における重合ロジンエステル(C1)の含有量は、アクリル系重合体(α)100質量部に対して20質量部以下であることが好ましく、5質量部以上18質量部以下であることがより好ましく、7質量部以上15質量部以下であることが特に好ましい。粘着剤層3を形成するための粘着剤組成物における水添ロジンエステル(C2)の含有量および炭化水素樹脂(C3)の含有量の総和は、粘着剤層3に含有される粘着剤の凝集性を高める観点から、アクリル系重合体(α)100質量部に対して50質量部以上とすることが好ましく、70質量部以上200質量部以下であることがより好ましく、90質量部以上170質量部以下であることが特に好ましい。
【0077】
長鎖アルキルアクリルオリゴマーは、炭素数が4以上18以下程度のアルキル(メタ)アクリレートが重合してなるオリゴマーであって、アルキル基部分の具体的な構成は特に限定されない。かかるオリゴマーを形成するためのモノマーの具体例として、ブチルアクリレートが挙げられる。
【0078】
光重合開始剤としては、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物等の光開始剤、アミンやキノン等の光増感剤などが挙げられ、具体的には、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどが例示される。エネルギー線として紫外線を用いる場合には、光重合開始剤を配合することにより照射時間、照射量を少なくすることができる。
【0079】
(3)透過率
本実施形態に係る粘着シート1は、被着体にマーキングするためのレーザー光を基材2側から入射させたときの、粘着剤3側への透過率が70%以上であることが好ましい。かかる透過率は高ければ高いほど好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0080】
(4)厚さ
本実施形態に係る粘着シート1が備える粘着剤層3の厚さは特に限定されない。粘着剤層3の被着体(ここでは、保護膜形成用フィルム4などのレーザーが照射される対象に加えて、リングフレーム等の治具なども含む。)に対する粘着性を適切に維持する観点から、粘着剤層3の厚さは1μm以上とすることが好ましく、2μm以上とすることがより好ましく、3μm以上とすることが特に好ましい。一方、ダイシング工程中にチップ欠けが生じる可能性を低減させる観点から、粘着剤層3の厚さは100μm以下とすることが好ましく、80μm以下とすることがより好ましく、50μm以下とすることが特に好ましい。
【0081】
2.保護膜形成用フィルム
本発明の一実施形態に係る保護膜形成用フィルムは、少なくとも一方の主面に後述する形状的特徴を備える。
図2に示されるように、保護膜形成用フィルム4は、粘着シート第1主面1A上に積層されて、保護膜形成用複合シート10を構成する1要素となる。保護膜形成用フィルム4は、
図3に示されるように、例えば二枚の剥離シート41,42に挟持された保護膜形成用フィルム積層体40として、流通したり保管されたりする場合もある。
【0082】
以下、保護膜形成用フィルム4について詳しく説明する。
保護膜形成用フィルム4は、次の機能を基本機能として果たす。
(機能1)被加工部材Wの保護膜形成用フィルム4が積層された面を保護する保護膜を形成可能であること
(機能2)保護膜形成用フィルム4またはこれから形成される保護膜(本明細書において、保護膜形成用フィルム4および保護膜を「保護膜等」と総称する場合もある。)が被加工部材Wと粘着シート1との間に配置されてダイシング工程に供されたときに、被加工部材Wと保護膜等との間での剥離および保護膜等と粘着シート1との間での剥離が生じにくいこと
(機能3)ダイシング工程後に行われるピックアップ工程において、被加工部材Wと保護膜等との間での剥離に優先して保護膜等と粘着シート1との間での剥離が生じること
(機能4)保護膜等の被加工部材Wに対向する面の反対側の面にレーザーマーキングなどにより刻印を行うことによって、視認性に優れるマークを有する保護膜を形成可能であること
【0083】
(1)第2の凹凸面領域
本実施形態に係る保護膜形成用フィルム4は、
図3に示されるように、保護膜形成用フィルム4の一方の主面4B(使用時に粘着シート1に近位な側に位置する主面)が、その主面4Bの少なくとも一部の領域として凹凸面からなる第2の凹凸面領域4aを有する。この第2の凹凸面領域4aはレーザー光によりマーキング可能に構成されている。第2の凹凸面領域4aの形成方法は特に限定されない。第1の凹凸面領域1aの形成方法と同様に、切削、ショットブラスト等の物理的手法、エッチング、めっきなどの化学的手法などを用いて形成された凹凸面を転写することによって形成されることが、典型例として挙げられる。
【0084】
保護膜形成用フィルム4の使用時には、
図4に一例が示されるように、粘着シート1と保護膜形成用フィルム4とは、粘着シート第1主面1Aが保護膜形成用フィルム4の一方の主面4上の第2の凹凸面領域4aの一部または全部を覆うように積層されて、保護膜形成用複合シート10が構成される。
図4では、粘着シート第1主面1Aが第2の凹凸面領域4aの全部を覆う場合が例示されている。すなわち、平面視では、粘着シート第1主面1Aが、第2の凹凸面領域4aよりも広くなっている。粘着シート第1主面1Aと第2の凹凸面領域4aとの平面視での関係は特に限定されず、例えば、
図5に示されるように、粘着シート第1主面1Aの全領域に第2の凹凸面領域4aが対向するように、粘着シート1と保護膜形成用フィルム4とは積層されていてもよい。
【0085】
粘着シート第1主面1Aにおける保護膜形成用フィルム4が積層される領域1bと、粘着シート第1主面1Aとの関係は特に限定されない。
図4に示されるように領域1bは主面1Aの一部の領域であってもよいし、主面1Aの全領域が領域1bであって、保護膜形成用フィルム4は粘着シート第1主面1Aの全面を覆うように配置されていてもよい(
図5)。
【0086】
こうして粘着シート1上に積層された保護膜形成用フィルム4の第2の凹凸面領域4aと粘着シート第1主面1Aとが対向する状態において、第2の凹凸面領域4aに位置する凹部(本明細書において「第2の凹部」ともいう。)のうち、粘着シート第1主面1Aに覆われた領域に位置する凹部の少なくとも一部は、粘着シート第1主面1Aに接触せず当該主面1Aと空隙部を画成する。そしてこの画成された空隙部は、レーザーマーキングの際に生成する汚染性物質の拡散経路となる。本明細書において、第2の凹部が画成に関与する空隙部を「第2の空隙部」ともいう。この第2の空隙部の形状的特徴は、第1の凹凸面領域1aの第1の凹部が関与して形成される第1の空隙部の形状的特徴と同様の特徴を有する。
【0087】
第2の空隙部は、さらに次の特徴も有する。すなわち、第2の凹凸面領域4aは平面視で保護膜形成用フィルム4の外周に接する部分を有してもよい。この場合には、第2の空隙部は閉空間とならず、外周部に接する部分における第2の凹部が関与して画成される第2の空隙部の一部分は第2の空隙部の開口部となる。この場合には、レーザー光が照射されたことにより生成する汚染性物質を、この開口部を通じて外部に排出させることが可能となる。
【0088】
(2)組成
以下、保護膜形成用フィルム4がこれを形成するための組成物(本明細書において「保護膜形成用組成物」ともいう。)を硬化させて得られるものであって、具体的には、(1)シート形状維持性、(2)初期接着性および(3)硬化性を有するフィルムである場合を具体例として、保護膜形成用フィルム4の組成等について説明する。
【0089】
保護膜形成用フィルム4には、バインダー成分の添加により(1)シート形状維持性および(3)硬化性を付与することができ、バインダー成分としては、重合体成分(A)および硬化性成分(B)を含有する第1のバインダー成分または(A)成分および(B)成分の性質を兼ね備えた硬化性重合体成分(AB)を含有する第2のバインダー成分を用いることができる。
なお、保護膜形成用フィルム4を硬化までの間被着体に仮着させておくための機能である(2)初期接着性は、感圧接着性であってもよく、熱により軟化して接着する性質であってもよい。(2)初期接着性は、通常バインダー成分の諸特性や、後述する無機フィラーなどの充填材(C)の配合量の調整などにより制御される。
【0090】
(第1のバインダー成分)
第1のバインダー成分は、重合体成分(A)と硬化性成分(B)を含有することにより、保護膜形成用フィルム4に(1)シート形状維持性と(3)硬化性を付与する。なお、第1のバインダー成分は、第2のバインダー成分と区別する便宜上、硬化性重合体成分(AB)を含有しない。
【0091】
(A)重合体成分
重合体成分(A)は、保護膜形成用フィルム4に(1)シート形状維持性を付与することを主目的として保護膜形成用フィルム4に添加される。
上記の目的を達成するため、重合体成分(A)の重量平均分子量(Mw)は、通常20,000以上であり、20,000〜3,000,000であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)の値は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法(GPC)法(ポリスチレン標準)により測定される場合の値である。このような方法による測定は、たとえば、東ソー社製の高速GPC装置「HLC−8120GPC」に、高速カラム「TSK gurd column HXL−H」、「TSK Gel GMHXL」、「TSK Gel G2000 HXL」(以上、全て東ソー社製)をこの順序で連結したものを用い、カラム温度:40℃、送液速度:1.0mL/分の条件で、検出器を示差屈折率計として行われる。
なお、後述する硬化性重合体(AB)と区別する便宜上、重合体成分(A)は後述する硬化機能官能基を有しない。
【0092】
重合体成分(A)としては、アクリル系重合体、ポリエステル、フェノキシ樹脂(後述する硬化性重合体(AB)と区別する便宜上、エポキシ基を有しないものに限る。)、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリシロキサン、ゴム系重合体等を用いることができる。また、これらの2種以上が結合したもの、たとえば、水酸基を有するアクリル系重合体であるアクリルポリオールに、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを反応させることにより得られるアクリルウレタン樹脂等であってもよい。さらに、2種以上が結合した重合体を含め、これらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
(A1)アクリル系重合体
重合体成分(A)としては、アクリル系重合体(A1)が好ましく用いられる。アクリル系重合体(A1)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−60〜50℃、より好ましくは−50〜40℃、さらに好ましくは−40〜30℃の範囲にある。アクリル系重合体(A1)のガラス転移温度が高いと保護膜形成用フィルム4のプローブタック値は低下する傾向があり、また、硬化後における接着性が低下する傾向がある。したがって、アクリル系重合体(A1)のガラス転移温度(Tg)は、−40〜−5℃の範囲にあることが特に好ましい。
【0094】
アクリル系重合体(A1)の重量平均分子量は、100,000〜1,500,000であることが好ましい。アクリル系重合体(A1)の重量平均分子量が高いと保護膜形成用フィルム4のプローブタック値は低下する傾向があり、また、硬化後における接着性が低下する傾向がある。したがってアクリル系重合体(A1)の重量平均分子量は600,000〜1,200,000であることがより好ましい。
【0095】
アクリル系重合体(A1)は、少なくとも構成する単量体に、(メタ)アクリル酸エステルを含む。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、アルキル基の炭素数が1〜18であるアルキル(メタ)アクリレート、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなど;環状骨格を有する(メタ)アクリレート、具体的にはシクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、後述する熱による反応する官能基を有する単量体、水酸基を有する単量体、カルボキシル基を有する単量体、アミノ基を有する単量体として例示するもののうち、(メタ)アクリル酸エステルであるものを例示することができる。
【0096】
アクリル系重合体(A1)を構成する単量体として、水酸基を有する単量体を用いてもよい。このような単量体を用いることで、アクリル系重合体(A1)に水酸基が導入され、保護膜形成用フィルム4が別途エネルギー線硬化性成分(B2)を含有する場合に、これとアクリル系重合体(A1)との相溶性が向上する。水酸基を有する単量体としては、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル;N−メチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0097】
アクリル系重合体(A1)を構成する単量体として、カルボキシル基を有する単量体を用いてもよい。このような単量体を用いることで、アクリル系重合体(A1)にカルボキシル基が導入され、保護膜形成用フィルム4が、別途エネルギー線硬化性成分(B2)を含有する場合に、これとアクリル系重合体(A1)との相溶性が向上する。カルボキシル基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。後述する硬化性成分(B)として、エポキシ系熱硬化性成分を用いる場合には、カルボキシル基とエポキシ系熱硬化性成分中のエポキシ基が反応してしまうため、カルボキシル基を有する単量体の使用量は少ないことが好ましい。
【0098】
アクリル系重合体(A1)を構成する単量体として、アミノ基を有する単量体を用いてもよい。このような単量体としては、モノエチルアミノ(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0099】
アクリル系重合体(A1)を構成する単量体として、このほか酢酸ビニル、スチレン、エチレン、α−オレフィン等を用いてもよい。
【0100】
アクリル系重合体(A1)は架橋されていてもよい。架橋は、架橋される前のアクリル系重合体(A1)が水酸基等の架橋性官能基を有しており、保護膜形成用組成物中に架橋剤を添加することで架橋性官能基と架橋剤の有する官能基が反応することにより行われる。アクリル系重合体(A1)を架橋することにより、保護膜形成用フィルム4の凝集力を調節することが可能となる。
【0101】
架橋剤としては有機多価イソシアネート化合物、有機多価イミン化合物などが挙げられる。
【0102】
有機多価イソシアネート化合物としては、芳香族多価イソシアネート化合物、脂肪族多価イソシアネート化合物、脂環族多価イソシアネート化合物およびこれらの有機多価イソシアネート化合物の三量体、ならびにこれら有機多価イソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマー等を挙げることができる。
【0103】
有機多価イソシアネート化合物として、具体的には、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート、3−メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−2,4’−ジイソシアネート、リジンイソシアネート、およびこれらの多価アルコールアダクト体が挙げられる。
【0104】
有機多価イミン化合物として、具体的には、N,N’−ジフェニルメタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタン−トリ−β−アジリジニルプロピオネートおよびN,N’−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)トリエチレンメラミン等を挙げることができる。
【0105】
架橋剤は架橋する前のアクリル系重合体(A1)100質量部に対して通常0.01〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部の比率で用いられる。
【0106】
本発明において、保護膜形成用フィルム4を構成する成分の含有量の態様について、重合体成分(A)の含有量を基準として定める場合、重合体成分(A)が架橋されたアクリル系重合体であるときは、その基準とする含有量は、架橋される前のアクリル系重合体の含有量である。
【0107】
(A2)非アクリル系樹脂
また、重合体成分(A)として、ポリエステル、フェノキシ樹脂(後述する硬化性重合体(AB)と区別する便宜上、エポキシ基を有しないものに限る。)、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリシロキサン、ゴム系重合体またはこれらの2種以上が結合したものから選ばれる非アクリル系樹脂(A2)の1種単独または2種以上の組み合わせを用いてもよい。このような樹脂としては、重量平均分子量が20,000〜100,000のものが好ましく、20,000〜80,000のものがさらに好ましい。
【0108】
非アクリル系樹脂(A2)のガラス転移温度は、好ましくは−30〜150℃、さらに好ましくは−20〜120℃の範囲にある。
【0109】
非アクリル系樹脂(A2)を、上述のアクリル系重合体(A1)と併用する場合には、非アクリル系樹脂(A2)の含有量は特に限定されない。非アクリル系樹脂(A2)とアクリル系重合体(A1)との質量比(A2:A1)において、通常1:99〜60:40、好ましくは1:99〜30:70の範囲にある。
【0110】
(B)硬化性成分
硬化性成分(B)は、保護膜形成用フィルム4に硬化性を付与することを主目的として保護膜形成用フィルム4に添加される。硬化性成分(B)は、熱硬化性成分(B1)、またはエネルギー線硬化性成分(B2)を用いることができる。また、これらを組み合わせて用いてもよい。熱硬化性成分(B1)は、少なくとも加熱により反応する官能基を有する化合物を含有する。また、エネルギー線硬化性成分(B2)は、エネルギー線照射により反応する官能基を有する化合物(B21)を含有し、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化する。これらの硬化性成分が有する官能基同士が反応し、三次元網目構造が形成されることにより硬化が実現される。硬化性成分(B)は、重合体成分(A)と組み合わせて用いるため、保護膜形成用組成物の粘度を抑制し、取り扱い性を向上させる等の観点から、通常その重量平均分子量(Mw)は、10,000以下であり、100〜10,000であることが好ましい。
【0111】
(B1)熱硬化性成分
熱硬化性成分としては、たとえば、エポキシ系熱硬化性成分が好ましい。
エポキシ系熱硬化性成分は、エポキシ基を有する化合物(B11)を含有し、エポキシ基を有する化合物(B11)と熱硬化剤(B12)を組み合わせたものを用いることが好ましい。
【0112】
(B11)エポキシ基を有する化合物
エポキシ基を有する化合物(B11)(以下、「エポキシ化合物(B11)」ということがある。)としては、従来公知のものを用いることができる。具体的には、多官能系エポキシ樹脂や、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやその水添物、オルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂など、分子中に2官能以上有するエポキシ化合物が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0113】
エポキシ化合物(B11)を用いる場合には、保護膜形成用フィルム4には、重合体成分(A)100質量部に対して、エポキシ化合物(B11)が、好ましくは1〜1,500質量部含まれ、より好ましくは3〜1,200質量部含まれる。エポキシ化合物(B11)が少ないと、保護膜形成用フィルム4の硬化後における接着性が低下する傾向がある。また、エポキシ化合物(B11)として、常温において固体であるもののみを用いた場合には、エポキシ化合物(B11)が少ない、すなわち、相対的に重合体成分(A)が多いと、保護膜形成用フィルム4のプローブタック値が上昇する傾向がある。なお、常温は25℃を指し、以下同じである。
【0114】
このような傾向があることから、エポキシ化合物(B11)として、常温において固体であるもののみを用いるときは、重合体成分(A)100質量部に対して、エポキシ化合物(B11)が70〜150質量部含まれることが特に好ましい。
【0115】
(B12)熱硬化剤
熱硬化剤(B12)は、エポキシ化合物(B11)に対する硬化剤として機能する。好ましい熱硬化剤としては、1分子中にエポキシ基と反応しうる官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。その官能基としてはフェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基および酸無水物などが挙げられる。これらのうち好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基、酸無水物などが挙げられ、さらに好ましくはフェノール性水酸基、アミノ基が挙げられる。
【0116】
フェノール系硬化剤の具体的な例としては、多官能系フェノール樹脂、ビフェノール、ノボラック型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、ザイロック型フェノール樹脂、アラルキルフェノール樹脂が挙げられる。アミン系硬化剤の具体的な例としては、DICY(ジシアンジアミド)が挙げられる。これらは、1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0117】
熱硬化剤(B12)の含有量は、エポキシ化合物(B11)100質量部に対して、0.1〜500質量部であることが好ましく、1〜200質量部であることがより好ましい。熱硬化剤の含有量が少ないと、硬化後における接着性が低下する傾向がある。
【0118】
(B13)硬化促進剤
硬化促進剤(B13)を、保護膜形成用フィルム4の熱硬化の速度を調整するために用いてもよい。硬化促進剤(B13)は、特に、熱硬化性成分(B1)として、エポキシ系熱硬化性成分を用いるときに好ましく用いられる。
【0119】
好ましい硬化促進剤としては、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0120】
硬化促進剤(B13)は、エポキシ化合物(B11)および熱硬化剤(B12)の合計量100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜1質量部の量で含まれる。硬化促進剤(B13)を上記範囲の量で含有することにより、高温度高湿度下に曝されても優れた接着性を有し、厳しいリフロー条件に曝された場合であっても高い信頼性を達成することができる。硬化促進剤(B13)を添加することで、保護膜形成用フィルム4の硬化後の接着性を向上させることができる。このような作用は硬化促進剤(B13)の含有量が多いほど強まる。
【0121】
(B2)エネルギー線硬化性成分
保護膜形成用フィルム4がエネルギー線硬化性成分を含有することで、多量のエネルギーと長い時間を要する熱硬化工程を行うことなく保護膜形成用フィルム4の硬化を行うことができる。これにより、製造コストの低減を図ることができる。
【0122】
エネルギー線硬化性成分は、エネルギー線照射により反応する官能基を有する化合物(B21)を単独で用いてもよいが、エネルギー線照射により反応する官能基を有する化合物(B21)と光重合開始剤(B22)を組み合わせたものを用いることが好ましい。
【0123】
(B21)エネルギー線照射により反応する官能基を有する化合物
エネルギー線照射により反応する官能基を有する化合物(B21)(以下「エネルギー線反応性化合物(B21)」ということがある。)としては、具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート等のアクリレート系化合物が挙げられ、また、オリゴエステルアクリレート、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート、ポリエーテルアクリレートおよびイタコン酸オリゴマーなどのアクリレート系化合物等の重合可能な構造を有するアクリレート化合物であって、比較的低分子量のものが挙げられる。このような化合物は、分子内に少なくとも1つの重合性二重結合を有する。
【0124】
エネルギー線反応性化合物(B21)を用いる場合、保護膜形成用フィルム4には、重合体成分(A)100質量部に対して、エネルギー線反応性化合物(B21)が、好ましくは1〜1,500質量部含まれ、より好ましくは3〜1,200質量部含まれる。
【0125】
(B22)光重合開始剤
エネルギー線反応性化合物(B21)に光重合開始剤(B22)を組み合わせることで、重合硬化時間を短くし、ならびに光線照射量を少なくすることができる。
【0126】
このような光重合開始剤(B22)として具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、1,2−ジフェニルメタン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドおよびβ−クロールアンスラキノンなどが挙げられる。光重合開始剤(B22)は1種類単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0127】
光重合開始剤(B22)の配合割合は、エネルギー線反応性化合物(B21)100質量部に対して0.1〜10質量部含まれることが好ましく、1〜5質量部含まれることがより好ましい。光重合開始剤(B22)の配合割合が0.1質量部未満であると光重合の不足で満足な硬化性が得られないことがあり、10質量部を超えると光重合に寄与しない残留物が生成し、不具合の原因となることがある。
【0128】
(第2のバインダー成分)
第2のバインダー成分は、硬化性重合体成分(AB)を含有することにより、保護膜形成用フィルム4に(1)シート形状維持性および(3)硬化性を付与する。
【0129】
(AB)硬化性重合体成分
硬化性重合体成分は、硬化機能官能基を有する重合体である。硬化機能官能基は、互いに反応して三次元網目構造を構成しうる官能基であり、加熱により反応する官能基や、エネルギー線により反応する官能基が挙げられる。
【0130】
硬化機能官能基は、硬化性重合体(AB)の骨格となる連続構造の単位中に付加していてもよいし、末端に付加していてもよい。硬化機能官能基が硬化性重合体成分(AB)の骨格となる連続構造の単位中に付加している場合、硬化機能官能基は側鎖に付加していてもよいし、主鎖に直接付加していてもよい。硬化性重合体成分(AB)の重量平均分子量(Mw)は、保護膜形成用フィルム4に(1)シート形状維持性を付与する目的を達成する観点から、通常20,000以上である。
【0131】
加熱により反応する官能基としてはエポキシ基が挙げられる。エポキシ基を有する硬化性重合体成分(AB)としては、高分子量のエポキシ基含有化合物や、エポキシ基を有するフェノキシ樹脂が挙げられる。高分子量のエポキシ基含有化合物は、たとえば、特開2001−261789に開示されている。
【0132】
また、上述のアクリル系重合体(A1)と同様の重合体であって、単量体として、エポキシ基を有する単量体を用いて重合したもの(エポキシ基含有アクリル系重合体)であってもよい。このような単量体としては、たとえばグリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0133】
エポキシ基含有アクリル系重合体を用いる場合、その好ましい態様はアクリル系重合体(A1)と同様である。
【0134】
エポキシ基を有する硬化性重合体成分(AB)を用いる場合には、硬化性成分(B)としてエポキシ系熱硬化性成分を用いる場合と同様、熱硬化剤(B12)や、硬化促進剤(B13)を併用してもよい。
【0135】
エネルギー線により反応する官能基としては、(メタ)アクリロイル基が挙げられる。エネルギー線により反応する官能基を有する硬化性重合体成分(AB)としては、ポリエーテルアクリレートなどの重合構造を有するアクリレート系化合物等であって、高分子量のものを用いることができる。
【0136】
また、たとえば側鎖に水酸基等の官能基Xを有する原料重合体に、官能基Xと反応しうる官能基Y(たとえば、官能基Xが水酸基である場合にはイソシアネート基等)およびエネルギー線照射により反応する官能基を有する低分子化合物を反応させて調製した重合体を用いてもよい。
【0137】
この場合において、原料重合体が上述のアクリル系重合体(A)に該当するときは、その原料重合体の好ましい態様は、アクリル系重合体(A)と同様である。
【0138】
エネルギー線により反応する官能基を有する硬化性重合体成分(AB)を用いる場合には、エネルギー線硬化性成分(B2)を用いる場合と同様、光重合開始剤(B22)を併用してもよい。
【0139】
第2のバインダー成分は、硬化性重合体成分(AB)と併せて、上述の重合体成分(A)や硬化性成分(B)を含有していてもよい。
【0140】
保護膜形成用フィルム4には、バインダー成分のほか、以下の成分を含有させてもよい。
【0141】
(C)充填材
保護膜形成用フィルム4は、無機フィラーなどの充填材(C)を含有していてもよい。以下、充填材(C)が無機フィラーである場合を具体例として説明する。充填材(C)としての無機フィラーを保護膜形成用フィルム4に配合することにより、硬化後の保護膜における熱膨張係数を調整することが可能となり、被加工部材Wに対して硬化後の保護膜の熱膨張係数を最適化することで、半導体装置など被加工部材Wから形成される製品(以下、「製品」と略記する。)の信頼性を向上させることができる。また、硬化後の保護膜の吸湿性を低減させることも可能となる。
【0142】
さらに、保護膜にレーザーマーキングを施すことにより、レーザー光により削り取られた部分に充填材(C)としての無機フィラーが露出して、反射光が拡散するために白色に近い色を呈する。これにより、保護膜形成用フィルム4が後述する着色剤(D)を含有する場合、レーザーマーキング部分と他の部分にコントラスト差が得られ、印字が明瞭になるという効果がある。
【0143】
好ましい無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化鉄、炭化珪素、窒化ホウ素等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維およびガラス繊維等が挙げられる。これらのなかでも、シリカフィラーおよびアルミナフィラーが好ましい。上記充填材(C)としての無機フィラーは単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0144】
無機フィラーなどの充填材(C)の含有量は特に限定されない。当該含有量が過度に多い場合には被加工部材Wに対する接着性が低下し、過度に少ない場合には無機フィラーを含有させてマーキング部分の視認性を高める効果が得られにくくなること、および充填材(C)の組成を考慮して適宜設定すればよい。通常、保護膜形成用フィルム4を構成する全固形分の質量に占める割合として、充填材(C)の含有量が30質量%以上であることが好ましく、50〜80質量%であることがより好ましく、好ましくは60〜80質量%であることが特に好ましい。また、基材2が無機フィラーのような充填材(C)を含有する場合には、保護膜形成用フィルム4が含有する充填材(C)の保護膜形成用フィルム4の全固形分の質量に占める割合は、基材2が含有する充填材の基材2の全固形分の質量に占める割合よりも多いことが好ましい。
【0145】
(D)着色剤
保護膜形成用フィルム4には、着色剤(D)を配合することができる。着色剤を配合することで、半導体装置などの製品を機器に組み込んだ際に、製品の周囲に配置された装置から発生する赤外線等により製品が誤作動することを防止することができる。また、レーザーマーキング等の手段により保護膜に刻印を行った場合に、文字、記号等のマークが認識しやすくなるという効果がある。すなわち、保護膜が形成された製品(半導体装置や半導体チップなど)では、保護膜の表面に品番等がレーザーマーキング法(レーザー光により保護膜表面を削り取り印字を行う方法)により印字されるが、保護膜が着色剤(D)を含有することで、保護膜のレーザー光により削り取られた部分とそうでない部分のコントラスト差が充分に得られ、視認性が向上する。
【0146】
着色剤としては、有機または無機の顔料および染料が用いられる。これらの中でも電磁波や赤外線遮蔽性の点から黒色顔料が好ましい。黒色顔料としては、カーボンブラック、酸化鉄、二酸化マンガン、アニリンブラック、活性炭等が用いられるが、これらに限定されることはない。半導体装置などの製品の信頼性を高める観点からは、カーボンブラックが特に好ましい。着色剤(D)は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0147】
着色剤(D)の配合量は、保護膜形成用フィルム4を構成する全固形分100質量部に対して、好ましくは0.1〜35質量部、さらに好ましくは0.5〜25質量部、特に好ましくは1〜15質量部である。
【0148】
(E)カップリング剤
無機物と反応する官能基および有機官能基と反応する官能基を有するカップリング剤(E)を、保護膜形成用フィルムの被着体に対する接着性、密着性および/または保護膜の凝集性を向上させるために用いてもよい。また、カップリング剤(E)を使用することで、保護膜形成用フィルム4を硬化して得られる保護膜の耐熱性を損ないことなく、その耐水性を向上させることができる。このようなカップリング剤としては、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、シランカップリング剤等が挙げられる。これらのうちでも、シランカップリング剤が好ましい。
【0149】
シランカップリング剤としては、その有機官能基と反応する官能基が、重合体成分(A)、硬化性成分(B)や硬化性重合体成分(AB)などが有する官能基と反応する基であるシランカップリング剤が好ましく使用される。
【0150】
このようなシランカップリング剤としてはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−6−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカ
プトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシランなどが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0151】
シランカップリング剤は、重合体成分(A)、硬化性成分(B)および硬化性重合体成分(AB)の合計100質量部に対して、通常0.1〜20質量部、好ましくは0.2〜10質量部、より好ましくは0.3〜5質量部の割合で含まれる。シランカップリング剤の含有量が0.1質量部未満だと上記の効果が得られない可能性があり、20質量部を超えるとアウトガスの原因となる可能性がある。
【0152】
(F)剥離剤
保護膜形成用フィルム4の被加工部材Wの面に対する密着性や粘着剤層3に対する密着性を調整するために、剥離剤を添加することもできる。剥離剤としては、ポリジメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサンなどのシリコーン化合物やフッ素化合物が挙げられる。
【0153】
これらの中でも、シリコーン化合物が好ましく、側鎖として芳香環含有基を有するオルガノポリシロキサンであって、かつ、25℃における動粘度が50〜100,000mm2/sであるものがより好ましい。ポリシロキサンとは、−Si(X)2−O−で表される単位構造(Xは側鎖を表す)が複数連結した化合物であり、この単位構造の数は特に限定されないが、通常3以上である。単位構造の数の増減により、上記の動粘度の値を制御することができる。
【0154】
シリコーン化合物は、オルガノポリシロキサンのシロキサン部分により支持体との密着力を下げると共に、上記の芳香環含有基を側鎖に有することにより脂溶性が高く、保護膜形成用組成物中の他の成分との相溶性が高い。また、保護膜形成用組成物中の硬化成分(B)は、構成成分が芳香環を有する場合が多く、そのような場合にはシリコーン化合物の前記芳香環含有基により互いの相溶性がさらに高まる。
【0155】
前記芳香環含有基は芳香環含有基であって、その例としては、フェニル基、アラルキル基が挙げられる。ここでいうアラルキル基とは、アルキル部が直鎖状または分岐鎖状であり、アルキル部の炭素数が好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3であり、アリール部の炭素数が好ましくは6〜10、より好ましくは6であるアラルキル基である。アラルキル基の好ましい例としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルイソプロピル基が挙げられる。前記芳香環含有基としては、アラルキル基が好ましい。
【0156】
(G)汎用添加剤
保護膜形成用フィルム4には、上記の他に、必要に応じて各種添加剤が配合されてもよい。各種添加剤としては、レベリング剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、イオン捕捉剤、ゲッタリング剤、連鎖移動剤などが挙げられる。
【0157】
(3)厚さ
保護膜形成用フィルム4の厚さは特に限定されない。通常、3μm以上300μm以下の範囲であることが好ましく、保護膜形成用フィルム4から形成される保護膜が適切に機能する観点、生産性を高める観点、経済性を高める観点などから、保護膜形成用フィルム4の厚さは5μm以上250μm以下とすることがより好ましく、7μm以上200μm以下とすることが特に好ましい。
【0158】
3.保護膜形成用複合シート
(1)空隙部
図2に示されるように、本発明の一実施形態に係る保護膜形成用複合シート10は、前述の第1の凹凸面領域1aを一方の主面1Aに有する粘着シート1および第2の凹凸面領域4aを一方の主面4Bに有する保護膜形成用フィルム4の少なくとも一方を備えることにより、レーザーマーキングの際に生成する汚染性物質の拡散経路となる空隙部を有する。
【0159】
保護膜形成用複合シート10の空隙部を画成する構成要素に関し、次の場合が挙げられる。
(1−1)第1の凹凸面領域のみを有する場合
保護膜形成用複合シート10が第1の凹凸面領域1aのみを有する場合には、粘着シート1と貼合される保護膜形成用フィルム4は第2の凹凸面領域4aを有さない。かかる保護膜形成用フィルム4の一方(粘着剤層3に対向する側)の主面4Bが粘着シート1の第1の凹凸面領域1aの一部または全部を覆うように、保護膜形成用フィルム4と前記粘着シート1とは積層される。この関係を換言すれば、保護膜形成用フィルム4の一方の主面4Bの外周は、全て第1の凹凸面領域1aに対向していてもよいし、その外周の一部が第1の凹凸面領域1aに対向していてもよいし、その外周の全てが第1の凹凸面領域1aに対向していなくてもよい。
図2に示される構成では、保護膜形成用フィルム4の一方の主面4Bの外周の全てが第1の凹凸面領域1aに対向している。
【0160】
こうして得られた保護膜形成用複合シート10では、第1の凹凸面領域1aの第1の凹部のうち、保護膜形成用フィルム4の一方の主面4Bに覆われた領域1bに位置する凹部の少なくとも一部は、保護膜形成用フィルム4の一方の主面4Bに接触せず、この主面4Bと第1の空隙部を画成する。そして、この画成された空隙部は、レーザーマーキングの際に生成する汚染性物質の拡散経路となる。
【0161】
(1−2)第2の凹凸面領域のみを有する場合
保護膜形成用複合シート10が第2の凹凸面領域4aのみを有する場合には、保護膜形成用フィルム4と貼合される粘着シート1は第1の凹凸面領域1aを有さない。かかる粘着シート1の粘着シート第1主面1Aが保護膜形成用フィルム4の第2の凹凸面領域4aの一部または全部を覆うように、保護膜形成用フィルム4と粘着シート1とは積層される。この関係を換言すれば、粘着シート1の粘着シート第1主面1Aの外周は、全て第2の凹凸面領域4aに対向していてもよいし、その外周の一部が第2の凹凸面領域4aに対向していてもよいし、その外周が第2の凹凸面領域4aに対向する部分を有していなくてもよい。
図3および4に示される構成では、粘着シート1の粘着シート第1主面1Aの外周において第2の凹凸面領域4aに対向している部分はない。
図5に示される構成では、粘着シート1の粘着シート第1主面1Aの外周は第2の凹凸面領域4aに全て対向している。
【0162】
こうして得られた保護膜形成用複合シート10では、第2の凹凸面領域4aの第2の凹部のうち、粘着シート第1主面1Aに覆われた領域に位置する凹部の少なくとも一部は、粘着シート第1主面1Aに接触せず、粘着シート第1主面1Aと第2の空隙部を画成する。そして、この画成された空隙部は、レーザーマーキングの際に生成する汚染性物質の拡散経路となる。
【0163】
(1−3)第1の凹凸面領域および第2の凹凸面領域を有する場合
本実施形態に係る粘着シート1と本実施形態に係る保護膜形成用フィルム4とが積層される場合には、第1の空隙部および第2の空隙部が画成される。そして、この画成された空隙部は、これらの空隙部がレーザーマーキングの際に生成する汚染性物質の拡散経路となる。この場合における第2の空隙部と第1の空隙部との平面視における位置関係は特に限定されない。平面視で、第2の空隙部が形成されている領域と第1の空隙部が形成されている領域とは重複していてもよいし、独立していてもよい。これらの領域が重複している場合には、第1の空隙部と第2の空隙部とが一体となっている部分が存在してもよい。
【0164】
ここで、空隙部(第1の空隙部からなるものであってもよいし、第2の空隙部からなるものであってもよいし、第1の空隙部および第2の空隙部からなるものであってもよい。)を、保護膜形成用複合シート10の基材2に遠位な主面10Aにおける使用時に被加工部材Wに貼付される領域である加工領域との関係で規定してもよい。具体的には、空隙部を、平面視で加工領域に位置する空隙部である域内空隙部と、平面視で、保護膜形成用複合シート10の基材2に遠位な主面10Aにおける加工領域以外の領域である非加工領域に位置する域外空隙部との関係で空隙部を規定してもよい。域内空隙部は、レーザーマーキングすべくレーザー光が照射されたときに、局所的に汚染性物質の濃度が高くなるおそれがあるため、域内空隙部と域外空隙部とは連通し、域内空隙部に存在する汚染性物質が域外空隙部へと拡散可能とされることが好ましい。
【0165】
さらに、域内空隙部と域外空隙部とで、空隙部の形状を相違させてもよい。域内空隙部にはレーザー光が照射される可能性があるため、域内空隙部に基づくレーザー光の散乱が生じにくくなるように、域内空隙部を画成する凹部の幅は狭く、その深さは浅いことが好ましい場合もある。これに対し、域外空隙部は、レーザー光の散乱による影響を考慮する必要がないため、その幅を広くしたり深さを深くしたりすることが制限されにくい。そこで、域内空隙部を画成する凹部についてはその幅を狭くしたりその深さを浅くしたりする一方、域外空隙部を画成する凹部については、その幅を広くしたりその深さを深くしたりして、域内空隙部で発生した汚染性物質が域外空隙部へと拡散することが容易になるようにしてもよい。
【0166】
域外空隙部は、空隙部を開放系とする開口部を有していてもよい。この場合において、開口部の周縁部は、粘着シート第1主面1A、粘着シート1の粘着剤層3の側面および保護膜形成用フィルム4の側面の少なくとも1つに位置する。このように開口部を有し空隙部が開放系である場合には、レーザー光の照射によって発生した域内空隙部の汚染性物質が、域外空隙部へと拡散し、さらに開口部から空隙部外へと排出されることが可能となる。
【0167】
(2)その他の構成要素
(2−1)界面接着調整層
図6に示されるように、本実施形態に係る粘着シート1は、その粘着剤層3側の主面1Aの一部の領域1cを構成する要素として、界面接着調整層5を備えてもよい。本実施形態に係る粘着シート1において、界面接着剤層5は粘着剤層3の1要素として位置づけられるものとする。界面接着剤層5の平面視の形状は保護膜形成用フィルム4の平面視の形状に対応した形状とされ、界面接着剤層5によって粘着シート1の粘着シート第1主面1Aの保護膜形成用フィルム4に対する粘着性を制御して、保護膜等がその一の面に設けられたチップのピックアップを容易とすることができる。なお、粘着シート1の粘着シート第1主面1Aにおける保護膜形成用フィルム4を取り囲むように位置し、保護膜形成用フィルム4が積層されていない領域においては、粘着シート1または後述する治具接着層6の十分な接着性により、保護膜形成用複合シート10を治具に接着することができる。
【0168】
界面接着調整層5は、所定のフィルムであってもよいし、界面接着調整粘着剤層であってもよい。界面接着調整粘着剤層は、エネルギー線硬化性の粘着剤に予めエネルギー線照射を行い硬化させたものであることが好ましい。また、界面接着調整層5は、粘着剤層3を共通の方法で製造されたものであって、他の部分と性質が異なるように処理されたものであってもよい。例えば、粘着剤層3が前述のアクリル系重合体(α)などを含有する粘着剤組成物から形成されたものであって、粘着剤組成物に含有させる成分の重合反応を進行させるために照射したエネルギー線の照射量が相対的に多いために、重合反応の進行の程度が相対的に高く、結果的に粘着性が低下している部分であってもよい。あるいは、粘着剤層3の基材2に遠位な側の面の一領域であって、他の領域よりも粗面化され、結果的に粘着性が低下しているものであってもよい。レーザーマーキングのためのレーザーが界面接着調整層5越しに照射されることから、界面接着調整層5は、レーザー光の透過性に優れるものであることが好ましい。
【0169】
界面接着調整層5からなる面である領域1cと粘着シート第1主面1Aとの平面視での関係は特に限定されない。
図6に示されるように領域1cは粘着シート第1主面1Aの一部の領域であってもよいし、粘着シート第1主面1Aの全領域が領域1cであって、粘着シート1の基材2に遠位な側の面は全面が界面接着調整層5からなる面であってもよい。
【0170】
界面接着調整層5からなる面である領域1cと保護膜形成用フィルム4が積層される領域1bとの平面視での関係も特に限定されない。
図6に示されるように領域1bは領域1cの一部の領域であってもよいし、領域1cの全てが領域1bであって、保護膜形成用フィルム4は界面接着調整層5からなる面の全面を覆うように配置されていてもよい。
【0171】
(2−2)治具接着層
本実施形態に係る保護膜形成用複合シート10は、
図7に示されるように、保護膜形成用複合シート10の保護膜形成用フィルム4側の主面10Aの一部の領域であって、主面10Aの外周に近位な領域10bに積層された治具接着層6を、さらに備えてもよい。治具接着層6は、リングフレームなどの治具を粘着シート1に対して固定するためのものである。治具接着層としては、芯材を有する両面粘着シートや、粘着剤の単層からなる層を採用することができる。
【0172】
上記のように、粘着シート1が界面接着調整層5を備える場合には、
図7に示されるように、治具接着層6が設けられる領域10bは、保護膜形成用複合シート10の保護膜形成用フィルム4側の主面10Aの一部の領域であって、粘着シート第1主面1Aにおける界面接着調整層5が設けられている領域1cと平面視で重複しないように位置していてもよい。
【0173】
粘着シート第1主面1Aにおける保護膜形成用フィルム4が積層される領域1bと治具接着層6が設けられる領域10bとの関係も特に限定されない。
図7に示されるように平面視で重複する領域を有さなくてもよいし、
図8に示されるように平面視で重複する領域を有してもよい。すなわち、治具接着層6の粘着シート1に近位な主面は、少なくとも一領域において、粘着シート1の主面1Aに貼着していてもよいし、保護膜形成用フィルム4の他方の主面(使用時に被加工部材Wに貼付される主面、本明細書において「第1のフィルム主面」ともいう。)4Aに貼着していてもよい。
【0174】
(2−3)剥離シート
本実施形態に係る保護膜形成用複合シート10は、
図9に記載されるように、その保護膜形成用フィルム4側の主面10Aを保護する目的で、その主面10Aに、剥離シート20の剥離面20Aが貼合されていてもよい。剥離シート20の構成は任意であり、プラスチックフィルムなどの支持部材を剥離剤等により剥離処理したものが例示される。プラスチックフィルムの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、およびポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィンフィルムが挙げられる。剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系などを用いることができるが、これらの中で、安価で安定した性能が得られるシリコーン系が好ましい。剥離シート20の厚さについて特に制限はないが、通常20μm以上250μm以下程度である。
【0175】
(3)保護膜形成用複合シート−剥離シート積層体
本実施形態に係る保護膜形成用複合シート10に対して、
図9に記載されるように剥離シート20が貼合されている場合には、その保護膜形成用複合シート−剥離シート積層体(本明細書において「PR積層体」ともいう。)100の状態で保管してもよい。PR積層体100の具体的構成として、長尺の剥離シート20に、所定の形状に加工された保護膜形成用複合シート10の複数が、剥離シート20の長尺方向に複数離間しつつ配置されてなり、PR積層体100が全体として長尺体である構成が例示される。このような構成の場合には、その長尺体を巻収して巻取体とし、その巻取体から、必要に応じてPR積層体100を繰り出して剥離シート20から保護膜形成用複合シート10を剥離して使用することが可能となる。
【0176】
4.粘着シートの製造方法
本実施形態に係る粘着シート1の製造方法は、粘着剤層3の一方の面に第1の凹凸面領域1aのための凹凸形状を付与する工程、および粘着剤層3を基材2の一の面に積層する工程を含む。これらの工程は独立していてもよいし、共通であって凹凸形成と積層とが同時に行われてもよい。
【0177】
粘着シート1の製造方法の一例を挙げれば、前述の粘着層形成用塗工液を、基材2の一方の主面上に、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、スリットコーター、ナイフコーター等により塗布して塗膜を形成し、この基材2の一方の主面上の塗膜を乾燥させることにより、粘着剤層3を形成することができる。粘着層形成用塗工液は、塗布を行うことが可能であればその性状は特に限定されず、粘着剤層3を形成するための成分を溶質として含有する場合もあれば、分散質として含有する場合もある。
【0178】
粘着層形成用塗工液が架橋剤(γ)を含有する場合には、上記の乾燥の条件(温度、時間など)を変えることにより、または加熱処理を別途設けることにより、塗膜内のアクリル系重合体(α)と架橋剤(γ)との架橋反応を進行させ、粘着剤層3内に所望の存在密度で架橋構造を形成させればよい。この架橋反応を十分に進行させるために、上記の方法などによって基材2に粘着剤層3を積層させた後、得られた粘着シート1を、例えば23℃、相対湿度50%の環境に数日間静置するといった養生を行ってもよい。
【0179】
粘着剤層3の一方の主面に凹凸形状を付与する方法は特に限定されない。凹凸形状を側面に有する円筒体を粘着剤層3の一方の主面上で転がして、その凹凸形状の反転形状に基づく形状を粘着剤層3の一方の主面に形成してもよい(転造)。転造以外の転写加工として、凹凸形状を一の面に有する原版を作製し、その面に粘着剤層の一方の主面を圧接させて、その面の凹凸形状の反転形状に基づく形状を粘着剤層3の一方の主面に形成してもよい。あるいは、粘着剤層3の一の面に対してショットブラスト、放電、エッチングなどの加工を施して凹凸形状を形成してもよい。
【0180】
本実施形態に係る粘着シート1の製造方法の別の一例として、前述の剥離シート20のような剥離シート(以下、「第1剥離シート」ともいう。)を用意し、その剥離面上に前述の粘着層形成用塗工液を塗布して塗膜を形成し、これを乾燥させて粘着剤層3と第1剥離シートとからなる積層体を形成し、この積層体の粘着剤層3における第1剥離シートに遠位な側の主面を基材2の一方の主面に貼付して、粘着シート1と第1剥離シートとからなる積層体を得てもよい。この積層体における第1剥離シートは速やかに剥離してもよいし、粘着シート1の粘着剤層3側の面1Aに保護膜形成用フィルム4が形成されるまでの間粘着剤層3を保護していてもよい。
【0181】
ここで、上記の第1剥離シートの剥離面が、粘着剤層3の一方の主面が有すべき凹凸形状の反転形状を有していれば、粘着剤層3から第1剥離シートを剥離させることにより、粘着剤層3の一方の主面に所望の凹凸形状を付与することができる。第1剥離シートの剥離面に凹凸形状の反転形状を付与する方法は限定されない。転造などの転写加工でもよいし、ショットブラスト、放電、エッチングといった除去加工を施してもよい。なお、第1剥離シートが支持部材と剥離層とからなる場合には、支持部材の一方の主面に対して形状加工を施し、その後、その主面上に剥離層を形成することが好ましい場合もある。
【0182】
かかる方法で粘着剤層3を形成する場合には、粘着剤層3が積層構造を有するように形成してもよい。具体的には、第1剥離シートの剥離面が有する形状を転写しやすい材料からなる粘着剤層を第1剥離シートの剥離面上に形成し、その後、その粘着剤層上に、そのような転写しやすい材料以外の材料からなる粘着剤層を形成して、粘着剤層3がこれらの層の積層体からなるようにしてもよい。このような方法を採用することにより、材料コストを低減させることができる場合もある。
【0183】
こうして得られた粘着シート1は、このままの状態で完成品としてもよいし、粘着シート1の粘着剤層3にエネルギー線照射を行うことなどによって、粘着剤層3に含有される成分の重合反応を進行させてもよい。本明細書において、こうして重合反応が進行した粘着剤層3を備える粘着シート1を「照射後粘着シート」という場合もある。
【0184】
上記のようにして得た粘着剤層3側の基材2に遠位な側の面に界面接着調整層5を形成してもよいし、粘着剤層3側の基材2に遠位な側の面を粘着シート第1主面1Aとして、その面に治具接着層6を積層してもよい。その形成・積層方法の具体例として、粘着剤層3の基材2に遠位な側の面に界面接着調整層5や治具接着層6を与える層状体を積層させ、その層状体が切断されるように層状体側からハーフカットを行って、層状体の不要部分を除去して、界面接着調整層5や治具接着層6を得る方法が挙げられる。あるいは、界面接着調整層5や治具接着層6を与える層状体を剥離シートの剥離面に積層させ、その剥離シートとその層状体との積層体における層状体側から、その層状体が切断されるハーフカットを行って、層状体の不要部分を除去し、こうして得られた形状加工がなされた層状体としての界面接着調整層5や治具接着層6と剥離シートとの積層体における層状体側の面と、粘着剤層3の基材2に遠位な側の面とを貼合し、上記の剥離シートを剥離する方法も挙げられる。
【0185】
上記の説明では、粘着剤層3の一方の主面に対して凹凸形状を付与する工程は、エネルギー線の照射前に行われているが、エネルギー線が照射された後に上記の形状付与加工が行われてもよい。
【0186】
5.保護膜形成用フィルムの製造方法
本実施形態に係る保護膜形成用フィルム4の製造方法は、保護膜形成用フィルム4の一方の面に第2の凹凸面領域4aのための凹凸形状を付与する工程を含む。
【0187】
保護膜形成用フィルム4の製造方法の具体的な一例を挙げれば、次のとおりである。すなわち、保護膜形成用フィルムを形成するための組成物である保護膜形成用組成物を用意し、剥離シート41のような剥離シート(本明細書において「第2剥離シート」という。)の剥離面上に、その保護膜形成用組成物を塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を乾燥させて保護膜形成用フィルム4とし、その保護膜形成用フィルム4の露出している面に剥離シート42の剥離面を貼合して、保護膜形成用フィルム4が2枚の剥離シート(第2剥離シートおよび剥離シート42)に挟持された積層体を形成する。次に、この積層体を第2剥離シート側から、第2剥離シートおよび保護膜形成用フィルム4が切断されるようにハーフカットして不要部分(第2剥離シートの一部および保護膜形成用フィルム4の一部)を除去し、保護膜形成用フィルム4の一方の主面(本明細書において「第2のフィルム主面」ともいう。)4Bの形状を、粘着シート1の粘着剤層3側の主面1Aの一部の領域1bに対応した形状とする。こうして、剥離シート42の剥離面上に、保護膜形成用フィルム4が積層され、当該フィルム4にさらに第2剥離シートが積層されてなる積層体が得られる。
【0188】
ここで、第2剥離シートの剥離面が、保護膜形成用フィルム4の第2の凹凸面領域のための凹凸形状の反転形状を有することにより、保護膜形成用フィルム4の第2剥離シートに対向する面に、所望の凹凸形状を形成することができる。第2剥離シートの剥離面に凹凸形状の反転形状を付与させる方法は限定されず、第1の剥離シートの剥離面に凹凸形状を付与する場合と同様に行えばよい。
【0189】
かかる方法で保護膜形成用フィルム4を形成する場合には、保護膜形成用フィルム4が積層構造を有するように形成してもよい。具体的には、第2剥離シートの剥離面が有する形状を転写しやすい材料からなる第1の層を第2剥離シートの剥離面上に形成し、その後、その第1の層上に、そのような転写しやすい材料以外の材料からなる第2の層を形成して、保護膜形成用フィルム4がこれらの層の積層体からなるものとしてもよい。このような方法を採用することにより、材料コストを低減させることができる場合もある。例えば、第1の層は充填材や着色剤を含有しないものとすれば、材料コストが低減できるうえに、第2剥離シートの剥離面に付与した形状の転写性を向上させることができる場合もある。
【0190】
6.保護膜形成用複合シートの製造方法
本実施形態に係る保護膜形成用複合シート10は、上記の本実施形態に係る粘着シート1および本実施形態に係る保護膜形成用フィルム4の少なくとも一方を用い、粘着シートの粘着剤層側の主面と、保護膜形成用フィルムの一方の面(第2の凹凸面領域を有する場合には当該領域を有する面)とを貼合することにより製造することができる。
【0191】
7.マーキング方法
本発明のいくつかの実施形態に係るマーキング方法について、以下、説明する。
【0192】
(第1のマーキング方法)
本発明の一実施形態に係るマーキング方法(本明細書において「第1のマーキング方法」ともいう。)では、まず、
図10に示されるように、前述の第1の凹凸面領域1aを有する粘着シート第1主面1Aを、リングフレームRに張設するとともに、半導体ウエハなどの被加工部材Wの一の面WAに貼付して、積層状態とする。この積層状態において、粘着シート1側からレーザー光を照射し、被加工部材の一の面WAにマーキングする。
【0193】
第1のマーキング方法の場合には、被加工部材Wの一の面WAにマーキングが形成されたことによって汚染性物質が生じても、その汚染性物質は第1の凹凸面領域1aに基づく第1の空隙部を通じて拡散することが可能である。それゆえ、第1のマーキング方法によれば、汚染性物質が被加工部材Wの一の面WAに付着したことに起因する局所的な汚染が生じにくい。
【0194】
(第2のマーキング方法)
本発明の別の一実施形態に係るマーキング方法(本明細書において「第2のマーキング方法」ともいう。)では、まず、
図11に示されるように、前述の第1の凹凸面領域1aおよび第2の凹凸面領域4aの少なくとも一方を有する保護膜形成用複合シート10をリングフレームRに張設するとともに、保護膜形成用複合シート10が備える保護膜形成用フィルム4の第1のフィルム主面4Aを、被加工部材Wの一の面WAに貼付して、積層状態とする。この積層状態において、保護膜形成用複合シート10側、具体的には、保護膜形成用複合シート10の被加工部材Wに遠位な側である基材2側からレーザー光を照射し、保護膜形成用フィルム4の一方の主面(第2のフィルム主面)4Bにマーキングする。
【0195】
第2のマーキング方法の場合には、保護膜形成用フィルム4の第2のフィルム主面4Bにマーキングが形成されたことによって汚染性物質が生じても、その汚染性物質は、第1の凹凸面領域1aおよび第2の凹凸面領域4aの少なくとも一方に基づく第1の空隙部および第2の空隙部の少なくとも一方からなる空隙部を通じて拡散することが可能である。それゆえ、第2のマーキング方法によれば、汚染性物質が保護膜形成用フィルム4の第2のフィルム主面4Bに付着したことに起因する局所的な汚染が生じにくい。なお、第2のマーキング方法は第1のマーキング方法とはマーキング対象が相違し、第1のマーキング方法では被加工部材Wがマーキングされ、第2のマーキング方法では保護膜形成用フィルム4がマーキングされる。
【0196】
(第3のマーキング方法)
本発明のさらに別の一実施形態に係るマーキング方法(本明細書において「第3のマーキング方法」ともいう。)は、マーキング対象が保護膜形成用フィルム4から形成された保護膜であるという点で、第2のマーキング方法と異なる。具体的には、リングフレームRに張設された保護膜形成用複合シート10が備える保護膜形成用フィルム4を硬化して保護膜とすることにより得られる保護膜含有複合シートにおける、保護膜の一方の主面(粘着シート1に遠位な側の主面)が、被加工部材Wの一の面WAに固着している積層状態において、保護膜形成用複合シート側(具体的には粘着シート1の基材2側)からレーザー光を照射し、保護膜の他方の主面(粘着シート1に近位な側の主面)にマーキングする。
【0197】
保護膜は保護膜形成用フィルム4を硬化してなるものであるから、保護膜形成用フィルム4が第2の凹凸面領域を有する場合には、保護膜も、この領域に対応する凹凸面領域を有し、その結果、粘着シート1および保護膜によっても、第2の空隙部に対応する空隙部が画成される。したがって、保護膜の粘着シート1に近位な側の主面にマーキングが形成されたことによって汚染性物質が生じても、その汚染性物質は、第2の凹凸面領域4aに対応する凹凸面領域および第1の凹凸面領域1aの少なくとも一方に基づく、第2の空隙部に対応する空隙部および第1の空隙部の少なくとも一方からなる空隙部を通じて拡散することが可能である。それゆえ、第3のマーキング方法によれば、汚染性物質が保護膜の粘着シート1に近位な側の主面に付着したことに起因する局所的な汚染が生じにくい。
【0198】
8.マーキングチップの製造方法
以下、本実施形態に係る粘着シート1および/または保護膜形成用複合シート10を用いて、半導体ウエハなどの被加工部材Wが個片化されてなるチップであって、一方の主面(具体的には、回路面と反対側の主面)にマーキングを有するチップであるマーキングチップを製造する複数の製造方法について説明する。
【0199】
(第1の製造方法)
第1の製造方法では、前述の第1のマーキング方法を実施することにより得られるマーキングされた被加工部材Wをダイシング加工して、被加工部材Wが個片化されてなるチップであって被加工部材Wの一の面WAに基づく面にマーキングを有するマーキングチップを得る。上記のダイシング加工の具体的な方法は特に限定されない。ブレード(回転刃)による切断であってもよいし、レーザーアブレーションによる切断であってもよい。これらの場合において、切断の形態はフルカットであってもよいし、ハーフカットであってもよい。さらにダイシング加工は、被加工部材Wをレーザー照射により局部的に改質し、その改質部分を引張り加工によって破断するステルスダイシングであってもよい。ダイシング加工の詳細が任意であることは、後述する第2の製造方法以降においても同様である。
【0200】
かかる第1の製造方法により製造されたマーキングチップは、第1の空隙部を画成可能な粘着シート1が貼着する被加工部材Wの一の面WAにマーキングが行われている。このため、マーキングチップのマーキングが施された面が汚染性物質により汚染されている可能性は低減されている。それゆえ、第1の製造方法によれば、得られたマーキングチップに、汚染性物質を原因とする不具合が生じにくい。
【0201】
(第2の製造方法)
第2の製造方法では、前述の第2のマーキング方法を実施することにより得られる、その粘着シート1に近位な側の主面(第2のフィルム主面)4Bにマーキングされた保護膜形成用フィルム4を備える保護膜形成用複合シート10および保護膜形成用複合シート10が貼付された被加工部材Wからなる積層構造体に対して、ダイシング加工を実施して、被加工部材Wが個片化してなるチップおよびそのチップにおける被加工部材Wの一の面WAに基づく面に貼付した保護膜用形成用フィルム4の小片(本明細書において「保護膜用形成用フィルム片」ともいう。)とからなるマーキングフィルム付チップを得る。
【0202】
上記の方法により得られたマーキングフィルム付チップが備える保護膜用形成用フィルム片を硬化させてこれを保護膜片として、被加工部材Wのチップ、およびこのチップにおけるマーキングフィルム付チップの製造過程で粘着シート1に近位であった側の面に固着する保護膜片とからなるマーキング保護膜付チップを得る。
【0203】
かかる第2の製造方法によれば、マーキングフィルム付チップを得る工程において、第1の空隙部および第2の空隙部の少なくとも一方を画成する面である、保護膜形成用フィルム4における粘着シート1に近位な側の主面(第2のフィルム主面)4Bにマーキングが行われる。したがって、マーキングによって発生した汚染性物質は、第1の空隙部および/または第2の空隙部を通じて拡散可能である。具体的には、粘着シート1が第1の凹凸面領域を有し、保護膜形成用フィルム4が第2の凹凸面領域を有しない場合には、第1の空隙部を通じて汚染性物質は拡散しうる。粘着シート1が第1の凹凸面領域1aを有さず、保護膜形成用フィルム4が第2の凹凸面領域4aを有する場合には、第2の空隙部を通じて汚染性物質は拡散しうる。粘着シート1が第1の凹凸面領域1aを有し、保護膜形成用フィルム4が第2の凹凸面領域4aを有する場合には、第1の空隙部および第2の空隙部に基づく空隙部(第1の空隙部からなる場合もあれば、第2の空隙部からなる場合もあれば、第1の空隙部と第2の空隙部とが作る空隙部である場合もある。)を通じて汚染性物質は拡散しうる。
【0204】
それゆえ、マーキングフィルム付チップのマーキングが施された面(保護膜用形成用フィルム片の第2のフィルム主面4Bに基づく面)は、汚染性物質により汚染されている可能性が低減されている。よって、第2の製造方法によれば、得られたマーキング保護膜付チップに汚染性物質を原因とする不具合が生じにくい。
【0205】
この保護膜用形成用フィルム片の硬化方法は特に限定されず、その保護膜用形成用フィルム片を構成する材料に適した方法を行えばよい。エネルギー線による硬化する材料が含有されている場合には、紫外線、電子線などを照射すればよい。熱により硬化する材料が含有されている場合には、所定温度で適切な時間加熱すればよい。硬化するための作業を行ったのち養生することが好ましい場合には、適切な条件(例えば23℃、相対湿度50%の環境に7日間静置)で養生を実施してもよい。
【0206】
保護膜用形成用フィルム片の硬化は、保護膜用形成用フィルム片が粘着シート1から離間した状態において行われもよいし、粘着シート1に接した状態において行われてもよい。すなわち、保護膜用形成用フィルム片を硬化する工程とピックアップ工程との時間的な前後関係は限定されない。
【0207】
(第3の製造方法)
第3の製造方法では、まず、上記の第2のマーキング方法を実施することにより得られる、粘着シート1に近位な側の主面(第2のフィルム主面)4Bがマーキングされた保護膜形成用フィルム4を硬化させて、マーキングされた保護膜とする。その結果、保護膜形成用複合シート10から形成されマーキングされた保護膜を有する保護膜含有複合シートおよびこの保護膜含有複合シートが貼付された被加工部材Wからなる積層構造体が得られる。この積層構造体に対してダイシング加工を実施して、被加工部材Wが個片化してなるチップおよびこのチップの一方の主面に固着するマーキングされた保護膜の小片とからなるマーキング保護膜付チップを得る。
【0208】
かかる第3の製造方法によれば、マーキングフィルム付チップを得る工程において、第1の空隙部および第2の空隙部の少なくとも一方を画成する面である、保護膜形成用フィルム4における粘着シート1に近位な側の主面(第2のフィルム主面)4Bにマーキングが行われる。したがって、マーキングによって発生した汚染性物質は、第1の空隙部および/または第2の空隙部を通じて拡散可能である。具体的には、粘着シート1が第1の凹凸面領域1aを有し、保護膜形成用フィルム4が第2の凹凸面領域4aを有しない場合には、第1の空隙部を通じて汚染性物質は拡散しうる。粘着シート1が第1の凹凸面領域1aを有さず、保護膜形成用フィルム4が第2の凹凸面領域4aを有する場合には、第2の空隙部を通じて汚染性物質は拡散しうる。粘着シート1が第1の凹凸面領域1aを有し、保護膜形成用フィルム4が第2の凹凸面領域を有する場合には、第1の空隙部および第2の空隙部に基づく空隙部(第1の空隙部からなる場合もあれば、第2の空隙部からなる場合もあれば、第1の空隙部と第2の空隙部とが作る空隙部である場合もある。)を通じて汚染性物質は拡散しうる。
【0209】
それゆえ、マーキングフィルム付チップのマーキングが施された面(保護膜用形成用フィルム片の第2のフィルム主面4Bに基づく面)は、汚染性物質により汚染されている可能性が低減されている。よって、第3の製造方法によれば、得られたマーキング保護膜付チップに汚染性物質を原因とする不具合が生じにくい。
【0210】
(第4の製造方法)
第4の製造方法では、前述の第3のマーキング方法を実施することにより得られる、保護膜がマーキングされた保護膜含有複合シートおよび保護膜含有複合シートが付着する被加工部材Wからなる積層構造体に対して、ダイシング加工を実施して、被加工部材Wのチップおよびこのチップの一方の主面に固着するマーキングされた保護膜の小片とからなるマーキング保護膜付チップを得る。
【0211】
かかる第4の製造方法によれば、マーキングフィルム付チップを得る工程において、第1の空隙部および第2の空隙部に対応する空隙部の少なくとも一方を画成する面である、保護膜における粘着シート1に近位な側の主面にマーキングが行われる。したがって、マーキングによって発生した汚染性物質は、第1の空隙部および/または第2の空隙部に対応する空隙部を通じて拡散可能である。具体的には、粘着シート1が第1の凹凸面領域を有し、保護膜が第2の凹凸面領域に対応する凹凸面領域を有しない場合には、第1の空隙部を通じて汚染性物質は拡散しうる。粘着シート1が第1の凹凸面領域1aを有さず、保護が第2の凹凸面領域4aに対応する凹凸面領域を有する場合には、第2の空隙部に対応する空隙部を通じて汚染性物質は拡散しうる。粘着シート1が第1の凹凸面領域1aを有し、保護膜が第2の凹凸面領域4aに対応する凹凸面領域を有する場合には、第1の空隙部および第2の空隙部に対応する空隙部に基づく空隙部(第1の空隙部からなる場合もあれば、第2の空隙部に対応する空隙部からなる場合もあれば、第1の空隙部と第2の空隙部に対応する空隙部とが作る空隙部である場合もある。)を通じて汚染性物質は拡散しうる。
【0212】
それゆえ、マーキング保護膜付チップのマーキングが施された面(保護膜片の粘着シート1に対向する面)は、汚染性物質により汚染されている可能性が低減されている。よって、第4の製造方法によれば、得られたマーキング保護膜付チップに汚染性物質を原因とする不具合が生じにくい。
【0213】
(第5の製造方法)
第5の製造方法では、まず、リングフレームに張設された粘着シート1と、粘着シート第1主面1Aが、その一の面WAに積層された被加工部材Wとを備えた積層構造体を得る。次に、その積層構造体について、被加工部材W側からダイシングして被加工部材Wを個片化することにより複数のチップを形成して、この複数のチップのそれぞれの一の面に粘着シート1が貼付された積層状態とする。続いて、粘着シート1側(すなわち、粘着シート1の基材2側)からレーザー光を照射し、上記のチップの一の面にマーキングして、マーキングチップを得る。
【0214】
かかる第5の製造方法により製造されたマーキングチップは、第1の空隙部を画成可能な粘着シート1が貼着する被加工部材Wの一の面WAにマーキングが行われている。このため、マーキングチップのマーキングが施された面が汚染性物質により汚染されている可能性は低減されている。それゆえ、第5の製造方法によれば、得られたマーキングチップに、汚染性物質を原因とする不具合が生じにくい。
【0215】
(第6の製造方法)
第6の製造方法では、まず、リングフレームに張設された保護膜形成用複合シート10と、保護膜形成用複合シート10が備える保護膜形成用フィルム4の第1のフィルム主面4Aがその一の面WAに積層された被加工部材Wとを備えた積層構造体を得る。次に、その積層構造体に対して、被加工部材W側からダイシング加工を実施して、被加工部材Wが個片化してなる複数のチップと、この複数のチップのそれぞれの一の面に貼付された保護膜形成用フィルム片とからなる複数のフィルム付チップを形成する。その結果、複数のフィルム付チップのそれぞれが粘着シート第1主面1Aに貼着した積層状態が得られる。この積層状態において、粘着シート1側からレーザー光を照射し、複数のフィルム付チップのそれぞれの保護膜形成用フィルム片側の面にマーキングして、マーキングフィルム付チップを得る。こうして得られたマーキングフィルム付チップの保護膜形成用フィルム片を硬化させて、マーキングされた保護膜がチップの一の面に積層されてなるマーキング保護膜付チップを得ることができる。
【0216】
かかる第6の製造方法によれば、マーキングフィルム付チップを得る工程において、第1の空隙部および第2の空隙部の少なくとも一方を画成する面である、保護膜形成用フィルム4(具体的にはダイシング加工により保護膜形成用フィルム片となっている。)における粘着シート1に近位な側の主面(第2のフィルム主面)4Bにマーキングが行われる。したがって、マーキングによって発生した汚染性物質は、第1の空隙部および/または第2の空隙部を通じて拡散可能である。具体的には、粘着シート1が第1の凹凸面領域1aを有し、保護膜形成用フィルム4が第2の凹凸面領域4aを有しない場合には、第1の空隙部を通じて汚染性物質は拡散しうる。粘着シート1が第1の凹凸面領域1aを有さず、保護膜形成用フィルム4が第2の凹凸面領域4aを有する場合には、第2の空隙部を通じて汚染性物質は拡散しうる。粘着シート1が第1の凹凸面領域1aを有し、保護膜形成用フィルム4が第2の凹凸面領域を有する場合には、第1の空隙部および第2の空隙部に基づく空隙部(第1の空隙部からなる場合もあれば、第2の空隙部からなる場合もあれば、第1の空隙部と第2の空隙部とが作る空隙部である場合もある。)を通じて汚染性物質は拡散しうる。
【0217】
それゆえ、マーキングフィルム付チップのマーキングが施された面(保護膜用形成用フィルム片の第2のフィルム主面4Bに基づく面)は、汚染性物質により汚染されている可能性が低減されている。よって、第6の製造方法によれば、得られたマーキング保護膜付チップに、汚染性物質を原因とする不具合が生じにくい。
【0218】
(第7の製造方法)
第7の製造方法では、まず、リングフレームに張設された保護膜形成用複合シート10と、保護膜形成用複合シート10が備える保護膜形成用フィルム4の第1のフィルム主面4Aがその一の面WAに積層された被加工部材Wとを備えた積層構造体を得る。次に、その積層構造体に対して、被加工部材W側からダイシング加工を実施することにより、被加工部材Wが個片化してなる複数のチップと、この複数のチップのそれぞれの一の面に貼付された保護膜形成用フィルム片とからなる複数のフィルム付チップを形成する。続いて、この複数のフィルム付チップが備える保護膜形成用フィルム片を硬化させて、保護膜の小片がチップの一の面に積層されてなる保護膜付チップの複数を得る。その結果、複数の保護膜付チップのそれぞれが粘着シート第1主面1Aに貼着した積層状態が得られる。この積層状態において、粘着シート1側からレーザー光を照射して、複数の保護膜付チップのそれぞれの保護膜側の主面にマーキングして、マーキング保護膜付チップを得る。
【0219】
かかる第7の製造方法によれば、マーキングフィルム付チップを得る工程において、第1の空隙部および第2の空隙部に対応する空隙部の少なくとも一方を画成する面である、保護膜(具体的には保護膜は個片化されて小片となっている。)における粘着シート1に近位な側の主面にマーキングが行われる。したがって、マーキングによって発生した汚染性物質は、第1の空隙部および/または第2の空隙部に対応する空隙部を通じて拡散可能である。具体的には、粘着シート1が第1の凹凸面領域を有し、保護膜が第2の凹凸面領域に対応する凹凸面領域を有しない場合には、第1の空隙部を通じて汚染性物質は拡散しうる。粘着シート1が第1の凹凸面領域1aを有さず、保護が第2の凹凸面領域4aに対応する凹凸面領域を有する場合には、第2の空隙部に対応する空隙部を通じて汚染性物質は拡散しうる。粘着シート1が第1の凹凸面領域1aを有し、保護膜が第2の凹凸面領域4aに対応する凹凸面領域を有する場合には、第1の空隙部および第2の空隙部に対応する空隙部に基づく空隙部(第1の空隙部からなる場合もあれば、第2の空隙部に対応する空隙部からなる場合もあれば、第1の空隙部と第2の空隙部に対応する空隙部とが作る空隙部である場合もある。)を通じて汚染性物質は拡散しうる。
【0220】
それゆえ、マーキング保護膜付チップのマーキングが施された面(保護膜片の粘着シート1に対向する面)は、汚染性物質により汚染されている可能性が低減されている。よって、第7の製造方法によれば、得られたマーキング保護膜付チップに汚染性物質を原因とする不具合が生じにくい。
【0221】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0222】
例えば、上記のマーキングチップの製造方法において、ダイシング加工がハーフカットを含んだりステルスダイシングであったりすることにより、複数の作業(ハーフカットまたは改質、および破断)を含む場合には、ダイシング加工のそれらの作業の間に、レーザーマーキングや保護膜形成用フィルム4から保護膜の形成が行われてもよい。
【実施例】
【0223】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0224】
(実施例1)
粘着シートが備える粘着剤層を形成するための粘着剤組成物として、アクリルポリマー(2−エチルヘキシルアクリレート/酢酸ビニル/ヒドロキシエチルアクリレート=45/40/15(質量比)、重量平均分子量=約50万)に、メタクリロイルオキシエチルアクリレートを80%当量(アクリルポリマー100質量部に対し16質量部)反応させたエネルギー線硬化型ポリマーエネルギー線硬化型ポリマー100質量部に、光重合開始剤(チバ・スペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア(登録商標)184)3.5質量部、およびイソシアナート化合物(東洋インキ製造社製、BHS−8515)1.07質量部を配合(すべて固形分換算による配合比)し、粘着剤組成物を得た。
【0225】
上記の粘着剤組成物を厚さ100μmのポリエチレンフィルム上に塗布して、得られた塗膜を乾燥して、基材(厚さ:100μm)と粘着剤層(厚さ:10μm)とからなる粘着シート(総厚:110μm)を得た。得られた粘着シートに対して、紫外線照射装置(リンテック株式会社製、Adwill RAD−2000m/8)を用いて、紫外線照射(230mW/cm
2、190mJ/cm
2)を行い、粘着剤層内の重合可能な成分の重合反応を進行させた。
【0226】
こうして粘着剤層の重合処理が施された粘着シートの粘着剤層側の面に、機械加工により幅1μmの溝が間隔2mmで複数形成された面を有する原版(以下、「ストライプ原版」ともいう。)の当該面を圧接することにより、原版の当該面に形成された形状の反転形状に基づく形状を有する領域を、第1の凹凸面領域として粘着剤層側の面に有する粘着シートを得た。
【0227】
(実施例2)
アクリル系ポリマー(アクリル酸ブチル55重量部とメタクリル酸メチル15重量部とメタクリル酸グリシジル20重量部とアクリル酸2−ヒドロキシエチル10重量部とを共重合してなる重量平均分子量90万、ガラス転移温度−28℃の共重合体)からなるバインダーポリマー100重量部、エポキシ樹脂の混合物(液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(分子量約370、エポキシ当量180〜200g/eq)60重量部、固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂(分子量約1,600、エポキシ当量800〜900g/eq)10重量部、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(分子量約1,500〜1,800、エポキシ当量210〜230g/eq)30重量部)からなる熱硬化性成分100重量部、熱活性潜在性エポキシ樹脂硬化剤(ジシアンジアミド2.4重量部、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業社製、2PHZ)2.4重量部)、カーボンブラック(平均粒径28nm)10重量部、溶融石英フィラー(平均粒径8μm)288重量部、合成シリカフィラー(平均粒径0.5μm)32重量部および希釈剤からなる、保護膜形成用フィルムを形成するための配合物を用意した。
【0228】
上記の保護膜形成用フィルムを形成するための配合物を、剥離シートの剥離面上に塗布して、得られた塗膜を乾燥(温度100℃、1分間)して、厚さ20μmの保護膜形成用フィルムと剥離シートとの積層体を得た。
実施例1において製造した粘着シートの粘着剤層側の面に、上記の積層体の保護膜形成用フィルムの面を貼付して、保護膜形成用複合シートを得た。なお、保護膜形成用フィルムは6インチ半導体ウエハの形状に対応した形状であった。
【0229】
(実施例3)
ストライプ原版に作製した溝の幅を0.5μmとした以外は実施例1と同様の製造方法により粘着シートを得た。
【0230】
(実施例4)
ストライプ原版に作製した溝の幅を5μmとした以外は実施例1と同様の製造方法により粘着シートを得た。
【0231】
(実施例5)
ストライプ原版に作製した溝の間隔を0.4mmとした以外は実施例1と同様の製造方法により粘着シートを得た。
【0232】
(実施例6)
ストライプ原版に作製した溝の間隔を6.0mmとした以外は実施例1と同様の製造方法により粘着シートを得た。
【0233】
(実施例7)
原版に形成したパターンを格子模様とした以外は実施例1と同様の製造方法(すなわち、溝幅1μm、溝間隔は2mmであった。)により粘着シートを得た。
【0234】
(比較例1)
実施例1において、粘着シートの作製にあたり、ストライプ原版への粘着剤層の圧接を行わず、粘着シート第1主面に第1の凹凸面領域を形成しなかったこと以外は実施例1と同様の製造方法により粘着シートを得た。
【0235】
(試験例1)粘着シートの透過率測定
実施例1において製造した粘着シート(基材と粘着剤との積層体である。)をUV−visスペクトル検査装置(島津製作社製)を用いて532nmおよび1064nmのそれぞれの波長の透過率を測定した。
測定の結果、532nmの透過率は81%であって、1064nmの透過率は84%であった。
【0236】
(試験例2)ガス抜け性の評価
6インチ未研磨シリコンウエハを、研削装置(ディスコ社製、DFG−840)を用いて#2000で150μm厚とした半導体ウエハを用意した。
【0237】
実施例1,3から7ならびに比較例1および2において製造した粘着シートのそれぞれについて、粘着剤層側の面を上記の半導体ウエハの研磨面に貼付した。
また、実施例2において製造した保護膜形成用複合シートの保護膜形成用フィルム側の面に、上記の半導体ウエハの研磨面に貼付した。続いて、保護膜形成用複合シートを有するウエハを130℃で2時間加熱し、保護膜形成用複合シートが備える保護膜形成フィルムを硬化して、粘着シートと保護膜付ウエハとの積層体を得た。
【0238】
こうして得られた、粘着シートおよび半導体ウエハを備えた積層体(実施例2に係る積層体はさらに保護層を備える。)における粘着シートの外周部を、リングフレームで固定した。次いで、YAGレーザーマーカー(日立建機ファインテック社製、LM5000、レーザー波長:532nm)を用いて、上記の積層体の粘着シート側からレーザー光を照射し、縦400μm、横200μmの文字をマーキングした。
【0239】
ウエハまたは保護膜付ウエハと粘着シートとの界面にレーザー照射により発生した汚染性物質に基づく汚染が生じているか否かを目視にて確認することにより、ガス抜け性を評価した。評価基準は次のとおりとした。
A:ガス滞留なし
B:ガス滞留少ない
C:ガス滞留多い
ガス抜け性の評価結果を表2に示す。
【0240】
(試験例3)視認性評価および残差物の有無の確認
試験例2においてレーザーマーキングを経た粘着シートおよび半導体ウエハを備えた積層体に対して、ダイシング装置(DISCO社製、DFD−651)を使用してダイシング加工を行い、半導体ウエハまたは保護膜付ウエハを8mm×8mmのチップサイズに個片化した。得られたチップまたは保護膜付チップが粘着シート上に配置された構造体に対して、ダイボンダー(キャノンマシナリー社製、BESTEM−D02)を用いてピックアップ工程を行い、マーキングチップまたはマーキング保護膜付チップを得た。これらのチップにおけるマーキングされた文字をCCDカメラにて、読み取りが可能か否かを確認することにより、視認性を評価した。また、チップおよび保護膜付チップのマーキングされた側の面を光学顕微鏡により倍率100倍で観察し、汚染性物質に基づく残渣物の有無を確認した。
【0241】
視認性の評価の基準は次のとおりとした。
A:観察対象とした全てのチップの文字について読み取りが可能であった
B:文字が読み取れないチップがあった
C:観察対象としたいずれのチップの文字も読み取り不可能であった
残差物の有無の確認の判断基準は次のとおりとした。
A:観察対象とした全てのチップについて残差物は認められない
B:観察対象としたチップに残差物が認められるものがある
C:観察対象としたチップの多くに残差物が認められる
視認性の評価および残渣物の有無の確認の結果を表2に示す。
【0242】
【表1】
【0243】
【表2】
【0244】
表2から分かるように、本発明の条件を満たす実施例により製造されたチップや保護膜付チップはマーキングに汚染されにくく、汚染に起因する不具合が生じにくい。