特許第6091958号(P6091958)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091958
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】路面勾配推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 9/08 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
   G01C9/08
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-65693(P2013-65693)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-190790(P2014-190790A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 宏二
(72)【発明者】
【氏名】七夕 達次
(72)【発明者】
【氏名】西村 純一
(72)【発明者】
【氏名】中出 圭亮
【審査官】 八木 智規
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−145323(JP,A)
【文献】 特開平5−272974(JP,A)
【文献】 特開2005−119467(JP,A)
【文献】 特開2004−45423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00− 5/30
G01B 21/00−21/32
G01C 1/00− 1/14
G01C 5/00−15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行する路面の勾配を推定する路面勾配推定装置であって、
前記車両に備えられた車速センサから出力されるパルスに基づいて、前記車両の車速を演算する車速演算手段と、
前記車速演算手段によって演算される車速に基づいて、加速度を演算する加速度演算手段と、
前記車両に備えられた加速度センサによって検出される加速度を記憶する記憶手段と、
前記加速度演算手段によって演算される加速度である加速度演算値と前記記憶手段に記憶されている加速度である加速度記憶値との差に基づいて、前記路面の勾配を推定する推定手段とを含み、
前記推定手段は、前記加速度記憶値として、前記加速度演算値が演算されたタイミングよりも所定期間前に前記記憶手段に記憶された加速度を用いる、路面勾配推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が走行する路面の勾配を推定する路面勾配推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両では、車両が走行する路面の勾配に基づいて、自動変速機の変速段の制御などが行われる。
【0003】
たとえば、車速センサの出力に基づく演算により、車体の加速度を取得し、この車速センサの出力に基づく加速度と車体に設けられた加速度センサによって検出される加速度との差に基づいて、車両が走行する路面の勾配を推定することができる。加速度センサによって検出される加速度には、車速の変化による加速度成分と、車体の傾斜、つまり路面の勾配による加速度成分とが含まれる。これに対し、車速センサの出力に基づく加速度は、車速の変化による加速度成分のみである。したがって、加速度センサによって検出される加速度と車速センサの出力に基づく加速度との差を求めることにより、路面の勾配による加速度成分が得られるので、その加速度成分に基づいて、路面の勾配を推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−351864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車速センサの出力に基づく加速度は、車速センサの出力から得られる車速の変化量を車速センサの出力を参照する時間間隔で除することによって算出される。そのため、車速センサの出力に基づく加速度の算出精度は、車速センサの分解能および車速センサの出力を参照する時間間隔(加速度の演算周期)の影響を受ける。
【0006】
加速度の算出精度が低いと、その車速センサの出力に基づく加速度が実際の加速度の変化に対して遅れて変化する。そのため、加速度センサによって検出される加速度と車速センサの出力に基づく加速度との差が実際以上に大きくなり、路面の勾配の推定の精度が低下する。
【0007】
高分解能の車速センサを採用し、加速度の演算周期を短くすることにより、加速度の算出精度を上げて、勾配の推定精度の向上を図ることが考えられる。しかしながら、その手法では、コストが高くつくという問題を生じる。
【0008】
本発明の目的は、低コストな構成で、車両が走行する路面の勾配を精度よく推定できる、路面勾配推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明に係る路面勾配推定装置は、車両が走行する路面の勾配を推定する路面勾配推定装置であって、前記車両に備えられた車速センサから出力されるパルスに基づいて、前記車両の車速を演算する車速演算手段と、前記車速演算手段によって演算される車速に基づいて、加速度を演算する加速度演算手段と、前記車両に備えられた加速度センサによって検出される加速度を記憶する記憶手段と、前記加速度演算手段によって演算される加速度である加速度演算値と前記記憶手段に記憶されている加速度である加速度記憶値との差に基づいて、前記路面の勾配を推定する推定手段とを含み、前記推定手段は、前記加速度記憶値として、前記加速度演算値が演算されたタイミングよりも所定期間前に前記記憶手段に記憶された加速度を用いる。
【0010】
この構成によれば、車速センサから出力されるパルスに基づいて、車両の加速度が演算される。一方、加速度センサにより、車両の加速度が検出される。その検出された加速度は、記憶手段に記憶される。そして、その演算によって求められた加速度である加速度演算値と記憶手段に記憶されている加速度である加速度記憶値とに差に基づいて、車両が走行している路面の勾配が推定される。
【0011】
加速度記憶値として、加速度演算値が演算されたタイミングよりも所定期間前に記憶手段に記憶された加速度が用いられる。これにより、加速度演算値が演算されたタイミングに近いタイミングで加速度センサによって検出された加速度を勾配の推定に用いることができる。その結果、加速度演算値と加速度記憶値との差が路面の勾配による加速度成分によって生じる差よりも大きくなることを抑制でき、路面の勾配を精度よく推定することができる。
【0012】
しかも、路面の勾配の推定精度の向上のために、高分解能の車速センサを採用したり、加速度の演算周期の短い加速度演算手段を用いたりする必要がない。
【0013】
よって、低コストな構成で、車両が走行する路面の勾配を精度よく推定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高分解能の車速センサを採用したり、加速度の演算周期の短い加速度演算手段を用いたりすることなく、低コストな構成で、車両が走行する路面の勾配を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る路面勾配推定装置の構成を示すブロック図である。
図2】車速、加速度演算値および加速度記憶値の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る路面勾配推定装置の構成を示すブロック図である。
【0018】
路面勾配推定装置1は、自動車などの車両に搭載されて、当該車両が走行する路面の勾配を推定するために使用される。路面勾配推定装置1は、CPUおよびメモリを含むマイクロコンピュータで構成されてもよいし、車両に搭載されているECU(電子制御ユニット)に機能として組み込まれてもよい。
【0019】
路面勾配推定装置1には、車両に備えられている車速センサ2およびGセンサ(加速度センサ)3が接続されている。
【0020】
車速センサ2は、たとえば、車両の走行に伴って回転する磁性体からなるロータと、ロータと非接触に設けられた電磁ピックアップとを備えている。電磁ピックアップには、磁気抵抗素子(MR素子)が含まれる。ロータが回転すると、その回転に伴って磁界が変化し、その磁界の変化に伴って、電磁ピックアップの磁気抵抗素子の抵抗値が変化する。この抵抗値の変化がパルスに変換されて、そのパルスが電磁ピックアップから出力される。車速センサ2から出力されるパルスは、路面勾配推定装置1に入力される。
【0021】
Gセンサ3は、錘の変位に応じた信号を車両の加速度に応じた検出信号として出力するものが採用されている。そのため、車両の車速が変化した場合には、それに起因する慣性力によって錘が変位し、その変位に応じた信号がGセンサ3から出力される。また、車両が登坂路また降坂路に差し掛かると、車速が一定であっても、その路面の勾配に応じて錘が変位し、その変位に応じた信号がGセンサ3から出力される。したがって、Gセンサ3から出力される信号には、車速の変化による加速度成分と、車体の傾斜、つまり路面の勾配による加速度成分とが含まれる。Gセンサ3の出力信号は、路面勾配推定装置1に入力される。Gセンサ3による加速度の検出周期は、後述する演算周期Tよりも短い。
【0022】
路面勾配推定装置1は、プログラム処理によってソフトウエア的に実現される機能処理部として、周期計測部11、車速演算部12、加速度演算部13、フィルタ処理部14、過去値出力部15、フィルタ処理部16、減算部17および路面勾配推定部18を実質的に備えている。
【0023】
周期計測部11は、所定の演算周期Tごとに、車速センサ2から入力されるパルスの周期Tpを計測する。
【0024】
車速演算部12は、車速センサ2のロータに応じて設定された定数を周期計測部11で計測された周期Tpで除することにより、車両の車速を求める。
【0025】
加速度演算部13は、車速演算部12によって求められた車速を時間微分することにより、車両の加速度を求め、その求めた加速度を加速度演算値として出力する。
【0026】
フィルタ処理部14は、加速度演算部13から出力される加速度演算値にフィルタ処理を施す。
【0027】
過去値出力部15は、Gセンサ3から入力される信号が表す加速度をメモリ19に順次に記憶させる。また、過去値出力部15は、演算周期Tごとに、メモリ19に記憶されている加速度を読み出して出力する。具体的には、過去値出力部15は、演算周期Tごとに、その半周期T/2前にメモリ19に記憶された加速度をメモリ19から読み出し、その加速度を加速度記憶値として出力する。
【0028】
フィルタ処理部16は、過去値出力部15から出力される加速度記憶値にフィルタ処理を施す。
【0029】
減算部17は、フィルタ処理後の加速度記憶値からフィルタ処理後の加速度演算値を減算する。Gセンサ3から出力される信号には、車速の変化による加速度成分と路面の勾配による加速度成分とが含まれるので、加速度記憶値には、車速の変化による加速度成分と路面の勾配による加速度成分とが含まれる。これに対し、加速度演算値には、路面の勾配による加速度成分が含まれず、車速の変化による加速度成分のみが含まれる。したがって、加速度記憶値から加速度演算値が減算されることにより、路面の勾配による加速度成分が得られる。
【0030】
路面勾配推定部18は、減算部17の減算結果、つまり加速度記憶値と加速度演算値との差に基づいて、車両が走行している路面の勾配を推定する。
【0031】
図2は、車速、加速度演算値および加速度記憶値の時間変化を示すグラフである。
【0032】
たとえば、ある時刻から演算周期Tの5周期分の時間が経過する時刻5Tまで、車速が一定であり、時刻5T以降、車速が一定の時間変化率Aで減少する場合を想定する。
【0033】
この場合、演算周期Tごとに求められる加速度演算値は、時刻6Tまで0であり、時刻6Tに0から−Aに変化する。これに対し、加速度記憶値は、時刻5Tにおける車速の変化に応答して、時刻5Tに0から−Aに変化する。
【0034】
そのため、時刻5Tでの路面の勾配の推定に、時刻5Tに求められる加速度演算値「0」と時刻5Tにメモリ19に記憶される加速度記憶値「−A」とが用いられると、加速度記憶値と加速度演算値とに差「−A」が生じ、この差「−A」が路面の勾配に起因するものであるとして、路面の勾配が誤って推定されてしまう。
【0035】
過去値出力部15は、時刻5Tにおいて、時刻5Tよりも半周期T/2前の時刻4.5Tにメモリ19に記憶された加速度記憶値「0」を出力する。その結果、減算部17で求められる加速度記憶値と加速度演算値との差が0となり、路面の勾配が誤って推定されることが防止される。
【0036】
このように、加速度記憶値として、加速度演算値が演算されたタイミングよりも半周期T/2前にメモリ19に記憶された加速度が用いられる。これにより、加速度演算値が演算されたタイミングに近いタイミングで加速度センサ3によって検出された加速度を勾配の推定に用いることができる。その結果、加速度演算値と加速度記憶値との差が路面の勾配による加速度成分によって生じる差よりも大きくなることを抑制でき、路面の勾配を精度よく推定することができる。
【0037】
しかも、路面の勾配の推定精度の向上のために、高分解能の車速センサ2を採用したり、加速度の演算周期Tを短くしたりする必要がない。
【0038】
よって、低コストな構成で、車両が走行する路面の勾配を精度よく推定することができる。
【0039】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0040】
前述の実施形態では、路面の勾配の推定のために、加速度記憶値として、加速度演算値が演算されたタイミングよりも半周期T/2前にメモリ19に記憶された加速度が用いられるとした。加速度記憶値としては、加速度演算値が演算されたタイミングよりも所定期間前にメモリ19に記憶された加速度が用いられるとよく、所定期間は、たとえば、Gセンサ3によって検出される加速度が変化したタイミングから加速度演算値が演算されるタイミングまでの経過時間に応じて可変に設定されてもよい。
【0041】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 路面勾配推定装置
2 車速センサ
3 加速度センサ
11 周期計測部(車速演算手段)
12 車速演算部(車速演算手段)
13 加速度演算部(加速度演算手段)
15 過去値出力部(推定手段)
17 演算部(推定手段)
18 路面勾配推定部(推定手段)
19 メモリ(記憶手段)
図1
図2