特許第6091963号(P6091963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6091963含フッ素リン酸エステル化合物およびその塩ならびに表面処理剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6091963
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】含フッ素リン酸エステル化合物およびその塩ならびに表面処理剤
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/09 20060101AFI20170227BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20170227BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20170227BHJP
   C23C 22/03 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   C07F9/09 JCSP
   C09K3/00 R
   C09K3/18 102
   C23C22/03
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-73189(P2013-73189)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-196271(P2014-196271A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2015年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】森岡 恭一
(72)【発明者】
【氏名】宮田 公二
(72)【発明者】
【氏名】寺内 俊二
(72)【発明者】
【氏名】成松 信輔
(72)【発明者】
【氏名】梅田 隆彦
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭48−4770(JP,B1)
【文献】 特開2008−74823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/00−9/94
C09K 3/00−3/32
C23C 22/00−22/86
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステル化合物またはその塩:
【化1】
[Rfはそれぞれ独立して炭素原子数が6以下のパーフルオロアルキル基である;nはそれぞれ独立して4〜12の整数である]。
【請求項2】
請求項1に記載の含フッ素リン酸エステル化合物またはその塩を含有する表面処理剤。
【請求項3】
含フッ素リン酸エステル化合物またはその塩が表面処理剤全重量に対して0.1〜10.0重量%で含有されている請求項2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
表面処理剤が離型剤、金属表面処理剤または撥水撥油処理剤である請求項2または3に記載の表面処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な含フッ素リン酸エステル化合物およびその塩ならびに表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素リン酸エステルは、離型剤、撥水撥油処理剤、潤滑油添加剤等として広く使用されている。含フッ素リン酸エステルとして、1分子あたり1個のリン酸基と1〜3個のパーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基を有する化合物が知られている(例えば特許文献1)。これら従来の含フッ素リン酸エステルは良好な離型性を示し、他の離型剤と比べて離型寿命が長いとされている。しかし、昨今の成形品形状の複雑化に伴い、離型剤としてなお一層の離型性の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−194560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、離型性、撥水撥油性、低表面張力等の表面特性が十分に優れた新規な含フッ素リン酸エステル化合物およびその塩ならびに表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討の結果、特定の新規な含フッ素リン酸エステル化合物およびその塩が十分に良好な離型性、撥水撥油性、低表面張力等の表面特性を示すことを見出した。
【0006】
本発明は、下記一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステル化合物またはその塩に関する:
【0007】
【化1】
[Rfはそれぞれ独立して炭素原子数が6以下のパーフルオロアルキル基である;nはそれぞれ独立して4〜12の整数である]。
【0008】
本発明はまた、上記の含フッ素リン酸エステル化合物またはその塩を含有する表面処理剤に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は新規な含フッ素リン酸エステル化合物およびその塩を提供した。本発明の新規化合物は、離型性、撥水撥油性、低表面張力等の表面特性に十分に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[含フッ素リン酸エステル化合物]
本発明に係る含フッ素リン酸エステル化合物は下記一般式(1)で表されるビスパーフルオロアルキルビスリン酸エステルである。
【0011】
【化2】
【0012】
一般式(1)において、Rfは炭素原子数が6以下、特に1〜6、好ましくは4〜6のパーフルオロアルキル基である。表面特性の点からは、炭素原子数が6のパーフルオロアルキル基が特に好ましい。Rfの具体例として、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。Rfは直鎖状であっても、または分枝鎖状であってもよいが、通常は直鎖状である。Rfとしては、−(CFF、−(CFF、−(CFF、好ましくは−(CFF、−(CFF、最も好ましくは−(CFFを挙げることができる。一般式(1)において2つのRfはそれぞれ独立して上記範囲内であればよいが、好ましくは同一のパーフルオロアルキル基である。
【0013】
nは4〜12の整数であり、表面特性の観点から好ましくは4〜10、より好ましくは8〜10の整数である。一般式(1)において2つのnはそれぞれ独立して上記範囲内であればよいが、好ましくは同一の整数である。
【0014】
一般式(1)で表される化合物として、具体的には以下の化合物を挙げることができる:
【0015】
【化3】
【0016】
【化4】
【0017】
本発明の含フッ素リン酸エステルは、塩基性金属化合物、アミン化合物、アンモニア等と反応させることによって、金属塩、アミン塩、アンモニウム塩等を形成することができ、これらの塩も上記一般式(1)の含フッ素リン酸エステルと同様の有用性を有する。金属塩の種類としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩等が挙げられる。金属塩を形成する金属原子としては、具体的には、Li、Na、K、Ca、Mg、Cu、Co、Ni、Zn、Mn、Fe、Pb、Hg、Zr等を例示できる。アミン塩又はアンモニウム塩を形成するアミン化合物又はアンモニアとしては、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ベンジルアミン、メチルベンジルアミン、ジメチルベンジルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピリジン等が挙げられる。
【0018】
[含フッ素リン酸エステル化合物の製造方法]
本発明に係る含フッ素リン酸エステルは、例えば以下の工程を含む方法により、得ることができるが、当該方法に限定されるものではない:
(A)含フッ素ジオールを製造する工程;
(B)含フッ素ジオールにリン化合物を反応させた後、水素化することにより、含フッ素リン酸エステル化合物を得る工程。
【0019】
(A)含フッ素ジオールの製造工程:
含フッ素ジオールは、1分子中に2つのフルオロアルキル基と2つの水酸基を有する化合物であって、目的とする本発明の含フッ素リン酸エステル化合物において2つのリン酸基が水酸基に置換された構造を有する化合物である。
【0020】
含フッ素ジオールは、いかなる方法により製造されてよく、例えば下記反応式に従って得ることができる。
【0021】
【化5】
【0022】
上記反応式において、Rfおよびnはそれぞれ、前記一般式(1)におけるRfおよびnと同様である。
【0023】
詳しくは、上の合成経路で示したように、出発物質であるアリル基含有アルデヒド化合物からマクマリーカップリング反応によりジオールを得た後(スキームa1)、フルオロアルキルハライドと反応させ、還元することにより二段階の反応を経て含フッ素ジオールを得ることができる(スキームa2)。
【0024】
マクマリーカップリング反応では、低原子価チタンをカルボニル化合物と反応させると還元的カップリングが進行し、対応するジオールを得ることができる(スキームa1)。
【0025】
マクマリーカップリング反応中は湿気を防ぐことが好ましく、ディーン・スターク装置等の脱水装置を用いるか、又はモレキュラーシーブ等を用いて脱水処理をしながら反応を進行させるのが特に好ましい。
【0026】
マクマリーカップリング反応において溶媒は反応に悪影響を及ぼさない慣用の溶媒、例えば、配位性の強いエーテル系溶媒またはこれらの混合溶媒であり、具体的にはジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等を挙げることができる。溶媒は使用前に蒸留等を行い、脱水したものを使用するのが好ましい。
【0027】
マクマリーカップリング反応の反応温度は、−20℃〜30℃程度が好ましく、より好ましくは−10℃〜25℃程度である。反応時間は通常、1〜3時間である。
【0028】
スキームa2において、フルオロアルキルハライドとの反応(i)は、アリル基における二重結合へのフルオロアルキルハライドの付加反応である。当該反応は、アゾビスイソブチロニトリル等のラジカル発生剤の存在下、60〜100℃で6〜10時間行う。
【0029】
スキームa2において、還元反応(ii)は、付加されたハロゲン原子を水素原子で置換させる反応である。例えば、亜鉛存在下、酢酸を添加し、3〜7時間、過熱還流させる。
【0030】
含フッ素ジオールは、上の合成経路の他、フルオロアルキルハライドとアリル基含有アルデヒド化合物とを反応・還元後にマクマリーカップリングを行うことによっても得ることができる。
【0031】
(B)リン酸エステル化−水素化分解工程:
本工程では、下記反応式に従い、含フッ素ジオールをリン化合物と反応させ、次いで酸化させた後(スキームb1)、水素化分解反応を行う(スキームb2)。
【0032】
【化6】
【0033】
上記反応式において、Rfおよびnはそれぞれ、前記一般式(1)におけるRfおよびnと同様である。
R及びR’はそれぞれ独立して、アルキル基、アリール基またはアリールアルキル基を表す。アルキル基は特に制限されないが、通常は炭素原子数1〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3のアルキル基である。アルキル基の好ましい具体例として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。アリール基は特に制限されないが、通常は炭素原子数6〜10のアリール基である。アリール基の好ましい具体例として、例えば、フェニル基、トルイル基等が挙げられる。アリールアルキル基は、上記したアルキル基の1つの水素原子を、上記したアリール基で置換させた基である。アリールアルキル基の具体例として、例えば、ベンジル基、2−フェニルエチル基等が挙げられる。R及びR’としてのアルキル基、アリール基およびアリールアルキル基は、アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基を有していても良い。R及びR’は好ましくは同一の基である。
【0034】
スキームb1において詳しくは、まず、含フッ素ジオールをリン化合物、例えばジベンジルクロロホスファイトのようなクロロ亜リン酸エステルと反応させ、次いで、過酸化水素などの酸化剤で酸化させて、含フッ素ジオールのリン酸エステル化物を得る。
【0035】
クロロ亜リン酸エステルは、上の反応式において(R−O)(R’―O)P−Clで表される化合物である。
【0036】
クロロ亜リン酸エステルによる置換反応およびその後の酸化反応において使用される溶媒は、上記反応に対し不活性で、かつ反応基質が十分溶解するもの、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶剤を挙げることができる。
【0037】
含フッ素ジオールとクロロ亜リン酸エステルとの反応は、第3級アミン、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン等の存在下で行うとよい。含フッ素ジオールとクロロ亜リン酸エステルとの混合時の温度は、−20℃〜10℃程度が好ましく、−15℃〜−5℃がより好ましい。混合後の反応温度は、5℃〜30℃程度が好ましく、10℃〜20℃がより好ましい。反応時間は10〜30時間が好ましく、15〜20時間がより好ましい。当該反応中は、湿気を防ぐことが好ましく、ディーン・スターク装置等の脱水装置を用いるか、又はモレキュラーシーブ等を用いて脱水処理をしながら反応を進行させるのが特に好ましい。
【0038】
酸化剤による酸化反応は、上記反応温度を維持しつつ、反応系を0.5〜3時間、好ましくは1〜2時間、撹拌することにより行う。
【0039】
含フッ素ジオールのリン酸エステル化物を得た後は、水素化分解反応を行う(スキームb2)。これにより、本発明の含フッ素リン酸エステル化合物を得ることができる。
【0040】
水素化分解反応は、水素の存在下、分解させる反応であり、例えば、パラジウム炭素を用いた水素化還元反応など、公知の水素化方法を用いることができる。詳しくは、水素ガスおよびパラジウム炭素の存在下、室温、好ましくは10℃〜20℃で、24〜72時間、好ましくは36〜60時間、撹拌する。
【0041】
水素化分解反応における溶媒は、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒が好適であり、例えば、メタノール、エタノール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチルを挙げることができる。
【0042】
[含フッ素リン酸エステル化合物の有用性]
本発明の含フッ素リン酸エステル化合物およびその塩は、例えば、離型剤、金属表面処理剤もしくは撥水撥油処理剤などの表面処理剤;潤滑油添加剤;または界面活性剤として有用である。
【0043】
離型剤は、プラスチックの成形分野において、金型表面に塗布されて、プラスチックと金型との融着を防止するための処理剤である。
金属表面処理剤は、金属の分野において、金属表面に塗布されて、表面特性を改質するための処理剤である。
撥水撥油処理剤は、繊維、紙、ガラス、プラスチック、金属などの分野において、表面に撥水撥油性を付与するための処理剤である。
潤滑油添加剤は、金属、プラスチックなどの分野で使用される潤滑油に添加されて、摩擦を低減するための処理剤である。
界面活性剤は、分子内に親水性の部分と親油性の部分とを併せもつ化合物であり、そのような構造を利用して乳化剤、分散剤、洗浄剤等として使用されるものである。
【0044】
本発明はまた、有機溶液、有機分散液あるいは水性分散液の状態で表面処理剤を提供する。
【0045】
有機溶液の状態の本発明の表面処理剤は、前記含フッ素リン酸エステル化合物を有機溶媒に溶解してなる。
有機分散液の状態の本発明の表面処理剤は、前記含フッ素リン酸エステル化合物を有機溶媒に分散してなる。
水性分散液の状態の本発明の表面処理剤は、前記含フッ素リン酸エステル化合物を水系媒体に分散してなる。
【0046】
有機溶液または有機分散液の状態の表面処理剤を構成する有機溶媒としては、含フッ素リン酸エステル化合物を溶解可能または分散可能な溶媒であれば、特に限定されない。このような有機溶媒の具体例として、例えば、メタキシレンヘキサフルオライド、パラキシレンヘキサフルオロライド、ハイドロフルオロエーテル、パーフルオロカーボン、パーフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロポリエーテル等のフッ素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の1価アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ならびにそれらの混合物などを挙げることができる。
【0047】
水性分散液の状態の表面処理剤を構成する水系媒体としては、水、および上記有機溶媒のうち水に対して相溶性を有する1種以上の有機溶媒と水との混合液が挙げられる。水に対して相溶性を有する有機溶媒として、例えば、メタノール、エチレングリコール、アセトンが挙げられる。
【0048】
本発明の表面処理剤において、一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステルの配合量は、表面処理剤全重量に対して、通常0.1〜10.0重量%であり、好ましくは0.7〜3.0重量%である。
【0049】
本発明の表面処理剤は、本発明の目的を阻害しない範囲内において、フッ素を含有しないポリマー、防錆剤、触媒、抗菌剤、難燃剤、界面活性剤等を適宜配合してもよい。
【0050】
本発明の表面処理剤は、表面処理剤で処理されるべき領域に対して、塗布し、乾燥させておくことにより、使用することができる。塗布方法としては、特に制限されず、例えば、スプレー塗布法、刷毛塗布法、ロールコータ塗布法、ディッピング塗布法などが挙げられる。乾燥方法としては、風乾または加熱により溶媒を蒸発させて皮膜を形成する方法が挙げられる。本発明の表面処理剤を含む皮膜の乾燥厚みは通常、0.1〜15μmであり、好ましくは0.2〜5.0μmである。
【実施例】
【0051】
[実施例1]
(A)含フッ素ジオールの製造工程:
(スキームa1)
三つ口フラスコ(300mL)内に、亜鉛粉末8.0g(122mmol)、1,4−ジオキサン150mLを入れ、攪拌しながら氷/塩で冷却し、注射器で四塩化チタン10.6g(55.9mmol)をゆっくり滴下した。滴下終了後、注射器で10−ウンデセナール6.23g(37.0mmol)を加え、2時間超音波を照射しながら攪拌した。その後、1N塩酸200mLとジエチルエーテル150mLを加え攪拌した後、セライトでろ過し残留亜鉛粉末を除去した。ろ液の有機層を塩化アンモニウム水溶液と飽和食塩水で洗浄し、減圧濃縮後、ヘキサン中で再結晶することにより、化合物(I−1)を8.4g(収率77%)得た。
【0052】
【化7】
【0053】
(スキームa2)
冷却管を備えた三つ口フラスコ(200mL)内に、パーフルオロヘキシルアイオダイド13.4g(30.0mmol)、化合物(I−1)3.38g(10.0mmol)、アゾビスイソブチロニトリル0.657g(4.00mmol)を入れ、容器内をアルゴン置換した後、攪拌をしながら80℃で8時間加熱した。反応混合物をエタノール100mlに溶解し、亜鉛粉末5.00g(76.5mmol)を加えて15分間攪拌した後、酢酸3.00g(50.0mmol)を加えて5時間過熱還流した。室温まで放冷後、セライトでろ過し、残留亜鉛粉末を除去した。ろ液を減圧濃縮後、ジエチルエーテルを加え、過剰の酢酸を取除くため水で洗浄した。減圧濃縮後、カラムクロマトグラフィーにより、含フッ素ジオール(I−2)を6.35g(収率68%)得た。
【0054】
【化8】
【0055】
(B)リン酸エステル化−水素化分解工程:
(スキームb1)
滴下ロートを備えた三つ口フラスコ(300mL)内に、含フッ素ジオール(I−2)2.85g(2.91mmol)、塩化メチレン30mL、トリエチルアミン0.911g(9.00mmol)を入れ攪拌し、氷/塩冷却下で、ジベンジルクロロホスファイト2.53g(9.00mmol)を滴下ロートに入れ1時間かけて滴下した。その後、室温下で18時間攪拌し、薄層クロマトグラフィーにて含フッ素ジオール(I−2)の消滅を確認した後、30%過酸化水素水1.5mLを加え、1時間攪拌した。
1N亜硫酸ナトリウム水溶液60mLおよびジエチルエーテル70mLを加え、攪拌・静置した後、有機層を水を用いて洗浄し、続いて無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別し、減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィーにより、含フッ素リン酸エステル前駆体(I−3)を2.09g(収率53%)得た。
【0056】
【化9】
【0057】
(スキームb2)
耐圧容器(30mL)を用い、水素加圧下(10atm)、5%パラジウム炭素0.2gのエタノール(5mL)懸濁液に、含フッ素リン酸エステル誘導体(I−3)2.01g(1.47mmol)を加え、室温で2日間攪拌した。パラジウム炭素を濾別した後、減圧濃縮し、目的の含フッ素リン酸エステル(I−4)を1.67g(収率97%、トータル収率26.9%)得た。得られた含フッ素リン酸エステル(I−4)のH−NMRのデータを表1に示す。
【0058】
【化10】
【0059】
【表1】
【0060】
[実施例2]
10−ウンデセナールの代わりに4−ペンテナールを用いること以外、実施例1と同様の方法により、含フッ素リン酸エステル(II)を1.32g(トータル収率23.2%)得た。得られた含フッ素リン酸エステル(II)のH−NMRのデータを表2に示す。
【0061】
【化11】
【0062】
【表2】
【0063】
[比較例1]
冷却管を備えた三つ口フラスコ(200mL)内に、パーフルオロヘキシルアイオダイド8.93g(20.0mmol)、10−ウンデセノール1.70g(10.0mmol)、アゾビスイソブチロニトリル0.657g(4.00mmol)を入れ、容器内をアルゴン置換した後、攪拌をしながら80℃で8時間加熱した。反応混合物をエタノール100mlに溶解し、亜鉛粉末5.00g(76.5mmol)を加えて15分間攪拌した後、酢酸3.00g(50.0mmol)を加えて5時間過熱還流した。室温まで放冷後、セライトでろ過し、残留亜鉛粉末を除去した。ろ液を減圧濃縮後、ジエチルエーテルを加え、過剰の酢酸を取除くため水で洗浄した。減圧濃縮後、ヘキサン中で再結晶することにより、フッ素化アルコール(III−1) C13−(CH11−OHを4.04g(収率82%)得た。
【0064】
【化12】
【0065】
滴下ロートを備えた三つ口フラスコ(300mL)内に、フッ素化アルコール(III−1)3.87g(7.89mmol)、塩化メチレン70mL、トリエチルアミン2.42g(24.0mmol)を入れ攪拌し、氷/塩冷却下で、ジベンジルクロロホスファイト6.74g(24.0mmol)を滴下ロートに入れ、1時間かけて滴下した。その後、室温下で18時間攪拌し、薄層クロマトグラフィーにてフッ素化アルコール(III−1)の消滅を確認した後、30%過酸化水素水3.0mLを加え、1時間攪拌した。
1N亜硫酸ナトリウム水溶液120mLおよびジエチルエーテル150mLを加え、攪拌・静置した後、有機層を水を用いて洗浄し、続いて無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。硫酸ナトリウムを濾別し、減圧濃縮した後、カラムクロマトグラフィーにより、含フッ素リン酸エステル前駆体(III−2)を3.67g(収率62%)得た。
【0066】
【化13】
【0067】
耐圧容器(30mL)を用い、水素加圧下(10atm)、5%パラジウム炭素0.5gのエタノール(10mL)懸濁液に、含フッ素リン酸エステル誘導体(III−2)2.25g(3.00mmol)を加え、室温で2日間攪拌した。パラジウム炭素を濾別した後、減圧濃縮し、目的の含フッ素リン酸エステル(III−3)を1.66g(収率97%、トータル収率49.3%)得た。得られた含フッ素リン酸エステル(III−3)のH−NMRのデータを表2に示す。
【0068】
【化14】
【0069】
【表3】
【0070】
[離型性試験]
実施例/比較例で得られた含フッ素リン酸エステル0.2gをメタキシレンヘキサフルオライド9.8gに溶解させ、離型剤組成物とした。
得られた離型剤組成物10gをスプレーガン(イワタ社製「カップガンW−101」;口径1mm)を用い、鉄製の金型(成形品形状:幅50mm×50mm、高さ40mm、厚み5mmの上部が開放した箱型形状)の内壁に塗布および乾燥した。皮膜の乾燥厚みは1.0μmであった。ゴム原料(丸紅テクノラバー社製EPDMゴム、EP配合1)80gを金型に設置し、170℃で5分間、17MPaで加硫させた。その後、金型開放時の荷重を測定することにより、離型性能を評価した。以降、離型剤組成物を再度、塗布せずに、同様の成形工程を繰り返し、該成形工程を25回行った。金型の開放に要した荷重が30N未満の場合の回数を離型可能回数とした。測定結果を以下の表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
表4から、本発明の含フッ素リン酸エステルは、比較例1の1分子内にリン酸基及びパーフルオロアルキル基を1つずつしか有さないリン酸エステルと比較して離型可能回数が多く、連続離型性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の含フッ素リン酸エステルおよびその塩は、離型剤、金属表面処理剤もしくは撥水撥油処理剤などの表面処理剤、潤滑油添加剤、または界面活性剤として有用である。