(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092023
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】座屈耐力算定方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/00 20060101AFI20170227BHJP
G06F 17/50 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
E04B1/00ESW
G06F17/50 612G
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-139282(P2013-139282)
(22)【出願日】2013年7月2日
(65)【公開番号】特開2015-10459(P2015-10459A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100129067
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 能章
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】馬場 重彰
(72)【発明者】
【氏名】道越 真太郎
【審査官】
多田 春奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−204993(JP,A)
【文献】
特開2010−275792(JP,A)
【文献】
特開2009−087137(JP,A)
【文献】
高木 仁之, 白石 一郎,火熱を受けた鉄筋コンクリート柱の強度・変形性能の劣化に関する研究,コンクリート工学年次論文集,2008年,Vol.30, No.3,PP.121-126
【文献】
一瀬 賢一, 河辺 伸二,高強度コンクリートを使用した鉄筋コンクリート柱部材の火災時の変形性状に関する解析的研究,日本建築学会構造系論文集,2003年 6月,第568号,PP.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00
G06F 17/50
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災時のコンクリート柱の座屈耐力を算定する座屈耐力算定方法であって、
火災時におけるコンクリート柱の断面の温度分布を把握する温度把握作業と、
前記コンクリート柱の断面を複数の要素の集合体にモデル化するモデル化作業と、
前記各要素の瞬間ヤング係数を算出するヤング係数算出作業と、
前記瞬間ヤング係数に断面二次モーメントを乗じて算出された曲げ剛性を断面全体で積分することで前記断面全体の曲げ剛性である全体曲げ剛性を算出する曲げ剛性算出作業と、
前記全体曲げ剛性をオイラー座屈の式に代入して座屈耐力を算出する座屈応力算出作業と、を備え、
火災時の熱膨張により前記要素に発生する熱膨張ひずみおよび火災時の圧縮力と温度により前記要素に発生する過渡ひずみのうちの少なくとも一方を、前記コンクリート柱に作用する軸力により前記要素に発生する軸力ひずみに加えたひずみを全ひずみとし、
前記ヤング係数算出作業では、前記各要素の全ひずみが等しくなると仮定して、熱応力解析を行うことで、前記各要素の軸力ひずみを算出し、当該軸力ひずみに対応する瞬間ヤング係数を算出することを特徴とする、座屈耐力算定方法。
【請求項2】
前記軸力と前記座屈耐力とを比較し、前記座屈耐力が前記軸力以下である場合に前記コンクリート柱が座屈で破壊すると認定することを特徴とする、請求項1に記載の座屈耐力算定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート柱の火災時の座屈耐力算定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鉄筋コンクリート柱の構造設計では、地震時等の外力に対して十分な耐力を発現し得るコンクリート強度や配筋量について検討するものの(例えば、特許文献1参照)、軸力に対する座屈破壊の検討を行うことは一般的ではなかった。
【0003】
これは、建築基準法施行令第77条第5号によって、径長さ比(柱高さ/断面の小径)が15以下に制限されていたため、柱高さ(柱の長さ)に対して十分な大きさの断面寸法(太さ)を有しており、座屈破壊に対して十分な耐力を備えていると考えられていたためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−261285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
平成23年の建築基準法の法改正により、鉄筋コンクリート柱に座屈が発生しないことが確認されれば、径長さ比を15以上にすることが可能となった。なお、圧縮力を負担する部材の座屈耐力の算定式としては、オイラー座屈の式が知られている。
【0006】
ところが、火災等により加熱されると、ヤング係数が低下するため、座屈しないように設計されたコンクリート柱でも、座屈の発生が懸念される。
一方、コンクリート柱の火災時の座屈耐力を算定する手法は確立されていない。
【0007】
本発明は、前記の問題点を解決するためになされたものであって、コンクリート柱の火災時の座屈耐力算定方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明は、火災時のコンクリート柱の座屈耐力を算定する座屈耐力算定方法であって、火災時におけるコンクリート柱の断面の温度分布を把握する温度把握作業と、前記コンクリート柱の断面を複数の要素の集合体にモデル化するモデル化作業と、前記各要素の瞬間ヤング係数を算出するヤング係数算出作業と、前記瞬間ヤング係数に断面二次モーメントを乗じて算出された曲げ剛性を断面全体で積分することで前記断面全体の曲げ剛性である全体曲げ剛性を算出する曲げ剛性算出作業と、前記全体曲げ剛性をオイラー座屈の式に代入して座屈耐力を算出する座屈応力算出作業とを備え、火災時の熱膨張により前記要素に発生する熱膨張ひずみおよび火災時の圧縮力と温度により前記要素に発生する過渡ひずみのうちの少なくとも一方を、前記コンクリート柱に作用する軸力により前記要素に発生する軸力ひずみに加えたひずみを全ひずみとし、前記ヤング係数算出作業では、前記各要素の全ひずみが等しくなると仮定して熱応力解析を行うことで、前記各要素の軸力ひずみを算出し、当該軸力ひずみに対応する瞬間ヤング係数を算出することを特徴としている。
ここで、「軸力ひずみ」は、要素に発生する弾性ひずみと塑性ひずみの和である。
【0009】
なお、前記軸力と前記座屈耐力とを比較し、前記座屈耐力が前記軸力以下である場合に前記コンクリート柱が座屈で破壊すると認定すればよい。
【0010】
かかる座屈耐力算定方法によれば、火災時に部材内部に発生する熱応力の影響を考慮したコンクリート柱の座屈耐力を算定することができるため、火災が生じた場合であっても、安全な建物を提供することが可能となる。
【0011】
また、コンクリート柱の径長さ比が大きな長柱であっても、当該コンクリート柱に作用する軸力に対して安全性を確保した設計をすることが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の座屈耐力算定方法によれば、コンクリート柱の火災時の座屈耐力を検証し、火災が起きた場合であっても安全な建物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る座屈耐力算定方法を示すフローチャート図である。
【
図2】コンクリート柱の熱伝導解析結果の一例を示す図であって、(a)は加熱60分後、(b)は加熱120分後である。
【
図3】本実施形態の火災時のコンクリート柱を模式的に示す断面図である。
【
図4】コンクリートの温度毎の応力度(軸応力)と軸力ひずみの関係を示すグラフである。
【
図5】コンクリートの熱膨張ひずみと温度との関係を示すグラフである。
【
図6】コンクリートの過渡ひずみと温度との関係を示すグラフである。
【
図7】(a)は要素毎の応力と軸力ひずみの関係を示すグラフ、(b)は要素毎の応力と全ひずみの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態では、径長さ比が15を超える鉄筋コンクリート長柱の火災時の座屈耐力を算定する場合について説明する。
本実施形態の座屈耐力算定方法は、温度把握作業S1と、モデル化作業S2と、ヤング係数算出作業S3と、曲げ剛性算出作業S4と、座屈応力算出作業S5とを備えている。
【0015】
温度把握作業S1では、火災時におけるコンクリート柱の断面の温度分布を把握する。
例えば、コンクリート柱の外周囲が同じ温度により加熱された場合について熱伝導解析や実験を行うことで、温度分布の経時変化を把握する。
【0016】
上記の条件でコンクリート柱を加熱すると、
図2の(a)に示すように、コンクリート柱の表面側の温度が高く、断面中央部の温度が低い状態となる。そして、さらに加熱を続けると、
図2の(b)に示すように、断面中央部の温度も上昇する。
【0017】
モデル化作業S2では、
図3に示すように、コンクリート柱1の断面を複数の要素の集合体にモデル化する。このとき、各要素の断面形状は同一形状にする。
【0018】
本実施形態では、コンクリート柱1の断面を9つに区分する。なお、
図3では、9つに区分された要素を火災時の温度分布に応じて三種類に分類し、比較的高温になりやすい部位(二辺が外面に露出する部位)を要素A、温度上昇が中庸な部位(一辺が外面に露出する部位)を要素B、比較的低温になる部位(外面に露出しない部位)を要素Cとした場合について説明する。
なお、モデル化作業S2は、温度把握作業S1の前に行ってもよい。また、断面の分割数は限定されるものではない。
【0019】
ヤング係数算出作業S3では、想定される軸力が与えられたコンクリート柱1の熱応力解析を行い、加熱開始後の時刻tにおける各要素A〜Cの瞬間ヤング係数を算出する。
図4に示す通り、外力として軸力が与えられたコンクリート柱1における軸応力とひずみ(軸力ひずみε
σ)の関係は、温度毎に異なる。
【0020】
また、コンクリート柱1には、熱膨張に伴う熱膨張ひずみε
th(
図5参照)と、単位応力あたりの収縮ひずみである過渡ひずみε
tr(
図6参照)が生じる。
なお、過渡ひずみε
trは、例えば、400℃のとき、単位応力あたりの収縮ひずみは約1.5×10
2μ/(N/mm
2)であるので、軸応力が20N/mm
2であれば、1.5×10
2×20=3.0×10
3μとなる。
【0021】
時刻tにおける各要素A〜Cの温度が異なるので、時刻tにおける各要素(要素A〜C)の応力と軸力ひずみε
σとの関係は、
図7の(a)のようになる。
【0022】
本実施形態では、軸力(応力)とひずみの関係から得られる軸力ひずみε
σに、火災時の熱膨張により要素に発生する熱膨張ひずみε
thおよび火災時の圧縮力と温度により要素に発生する過渡ひずみε
trを加えたひずみを全ひずみε
totとする(式1)。
【0024】
なお、軸力ひずみε
σに熱膨張ひずみε
thを加えると全体のひずみ量は増加し、過渡ひずみε
trを加えると全体のひずみ量は減少するため、各要素A〜Cの全ひずみε
totは、ひずみ軸に沿って平行移動する形となり、
図7の(b)のように表わすことができる。
図7の(b)から分かるように、火災時の軸力ひずみε
σは、要素A〜Cで同じにならず、要素Cに発生する軸力ひずみε
σが最も大きくなる。
【0025】
続いて、各要素の全ひずみε
totが等しくなる(平面保持)と仮定して、時刻tにおける熱応力解析を行うことで各要素A〜Cの軸力ひずみε
σを算出し、当該軸力ひずみε
σに対応する瞬間ヤング係数E
A(t)〜E
C(t)を算出する。熱応力解析を行う際には、温度把握作業S1で求めたデータを使用する。
瞬間ヤング係数E
A(t)〜E
C(t)は、応力とひずみとの関係により求まる曲線との接線勾配により求める(
図7の(b)参照)。
【0026】
曲げ剛性算出作業S4では、各要素A〜Cの曲げ剛性を断面全体で積分することで断面全体の曲げ剛性である全体曲げ剛性E(t)・Iを算出する。
【0027】
曲げ剛性は、各要素A〜Cの瞬間ヤング係数E
A(t)〜E
C(t)に、断面全体の図心軸に関する断面二次モーメントIを乗じることで算出する。
【0028】
各要素A〜Cの曲げ剛性E
A(t)・I〜E
C(t)・Iを算出したら、式2を用いて断面全体で積分することで、時刻tにおける全体曲げ剛性を算出する。
【0030】
座屈応力算出作業S5では、全体曲げ剛性E(t)・Iを式3に示すオイラー座屈の式に代入して時刻tにおける座屈耐力P
E(t)を算出する。
座屈耐力P
E(t)は、全体曲げ剛性E(t)・Iと設計で想定される座屈長さl
kを用いて算出する。
【0032】
座屈耐力P
E(t)を算出したら、コンクリート柱に作用する軸力と座屈耐力P
E(t)とを比較する。
【0033】
必要に応じて、ヤング係数算出作業S3と、曲げ剛性算出作業S4と、座屈応力算出作業S5を、所定時間毎に繰り返し実施することで、座屈耐力の経時変化を算出する。
そして、座屈耐力P
E(t)が軸力と等しくなるときの時刻が、鉄筋コンクリート柱が座屈で破壊する時刻となり、加熱開始から座屈破壊するまでの時刻がコンクリート柱の耐火時間となる。
【0034】
なお、コンクリート柱に付加する軸力を変化させて、ヤング係数算出作業S3と、曲げ剛性算出作業S4と、座屈応力算出作業S5を繰り返し実施すれば、コンクリート柱の導入軸力と耐火時間の関係を得ることができる。
【0035】
以上、本実施形態の座屈耐力算定方法によれば、火災時に部材内部に発生する熱応力の影響を考慮したコンクリート柱の座屈耐力を算定することができる。
そのため、本実施形態の座屈耐力算定方法を利用して、径長さ比が大きな(15を超える)鉄筋コンクリート長柱の断面設計を行うことで、火災が生じた場合であっても座屈することのない長柱を設計することが可能となる。ゆえに、建物の空間設計の自由度が向上する。
【0036】
火災により部材の曲げ剛性が低下する鉄筋コンクリート柱について、所望の耐火時間を確保した設計を行うことができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、軸力ひずみに熱膨張ひずみおよび過渡ひずみを加えて全ひずみを算出するものとしたが、全ひずみは、軸力ひずみに熱膨張ひずみおよび過渡ひずみのうちのいずれか一方を加えたものとしてもよい。
【0038】
また、コンクリート柱を構成するコンクリートは、高強度コンクリートであってもよいし、普通コンクリートであってもよい。
また、鉄筋等の補強材の配筋は適宜行えばよい。
【符号の説明】
【0039】
1 コンクリート柱
A〜C 要素
S1 温度把握作業
S2 モデル化作業
S3 ヤング係数算出作業
S4 曲げ剛性算出作業
S5 座屈応力算出作業