(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記高速せん断型攪拌機が、循環路を備えたインライン型せん断攪拌機であり、混合液を循環させながら撹拌することを特徴とする請求項2記載のタイヤ加硫成形用離型剤の製造方法。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤの加硫成形は、加硫金型内に装着した生タイヤの内側にブラダーと称されるゴム製袋を設置し、該ブラダーをスチーム等の高温高圧の加熱加圧媒体により膨張させることで、生タイヤの外面を加硫金型に押し付けながら加熱することによって行われる。その際、生タイヤとブラダーとの間の潤滑性を向上させ、生タイヤとブラダーとの間に入り込んだ空気を排出させるとともに、加硫後におけるブラダーのタイヤからの離型性を向上させるために、生タイヤの内面(インナーライナー面)には予め離型剤が塗付される。
【0003】
かかるタイヤ加硫成形用の離型剤としては、潤滑性(平滑性)、空気透過性及び離型性という要求性能に鑑み、離型性を付与するシリコーン類の水中油滴型乳化物と、平滑性および空気透過性を付与する固体粒子懸濁液との混合組成物が一般に用いられている(特許文献1,2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タイヤ加硫成形用離型剤は、無機粉体を含む懸濁液であるため、一般に経時により無機粉体が沈降しやすく、分散安定性の向上が求められる。また、生タイヤの内面に対しては、一般にスプレーガンなどで噴霧することにより塗布されるため、噴霧器の詰まり性を改善する等、噴霧作業性の向上が求められる。更に、タイヤの生産性向上のため、塗布された離型剤の乾燥時間を短縮することが求められる。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、経時的な分散安定性に優れるとともに、噴霧作業性および乾燥性に優れるタイヤ加硫成形用離型剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るタイヤ加硫成形用離型剤は、タイヤ加硫成形に際して生タイヤ内面に塗布される離型剤であって、
マイカ及び/又はタルクの粉体からなる無機成分と、シリコーン成分と、界面活性剤と、水とを含むものであり、分散質の平均粒子径が0.1〜7μmであり、かつ、23℃における粘度が1000mPa・s以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る製造方法は、該タイヤ加硫成形用離型剤の製造方法であって、前記無機成分とシリコーン成分と界面活性剤と水を含む混合液を、高速せん断型攪拌機を用いて60℃以下に冷却しながら撹拌することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るタイヤ加硫成形用離型剤であると、平均粒子径が0.1〜7μmと非常に細かく、かつ粘度が1000mPa・s以下と低粘度であるため、懸濁液であるにもかかわらず、分散安定性が良好であり、また、噴霧器での吹き付け時の詰まりが解消され、更には、乾燥時間を短縮することができる。
【0010】
また、本発明に係る製造方法であると、高速せん断型攪拌機を用いて撹拌するので、攪拌処理時間を短縮化しつつ、粒径の小さい離型剤を得ることができる。また、冷却しながら攪拌することで粘度の上昇を抑えることができ、噴霧作業性と乾燥性を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0012】
本実施形態に係るタイヤ加硫成形用離型剤(以下、単に離型剤ということがある。)は、粉体からなる無機成分と、シリコーン成分と、界面活性剤と、水とを含むものである。
【0013】
上記粉体からなる無機成分(以下、単に無機成分ということがある。)としては、特に限定しないが、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、スチブンサイト等のスメクタイト;ベントナイト;バーミキュライト;ハロイサイト、カオリナイト等のカオリン;タルク、パイロフィライト、マイカ(マスコバイト、セリサイト)、白雲母、黒雲母、金雲母等のフィロ珪酸塩;アンチゴライト等のジャモン石;スドウ石、クッカイト、クリノクロア、クロライト等の緑泥石等;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、三酸化アンチモン、酸化チタン、酸化鉄等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化鉄等の金属水酸化物;ベンガラ;珪藻土;珪酸アルミニウム;カーボンブラック;グラファイト等が挙げられ、これらはいずれか1種または2種以上を併用してもよい。無機成分としては、マイカ及び/又はタルクが好ましい。
【0014】
上記シリコーン成分は、オルガノポリシロキサン類の総称であって、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーン樹脂を含む概念である。オルガノポリシロキサン類としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、メチルイソプロピルポリシロキサン等のジアルキルポリシロキサン;メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体等のアルキルフェニルポリシロキサン;メチル(フェニルエチル)ポリシロキサン、メチル(フェニルプロピル)ポリシロキサン等のアルキルアラルキルポリシロキサン;3,3,3−トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン等が挙げられ、これらはいずれか1種または2種以上を併用してもよい。シリコーン成分としては、離型性の点からシリコ−ンオイルが好ましい。
【0015】
上記界面活性剤としては、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられるが、これらの中でも非イオン型界面活性剤及び/又はアニオン型界面活性剤が好ましい。両者を併用する場合、その質量比は特に限定はないが、非イオン系界面活性剤/アニオン系界面活性剤が75/25〜99/1であることが好ましい。非イオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどのポリオキシアルキレンが好ましい。アニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩等のカルボン酸型アニオン系界面活性剤;アルキルベンゼンスルホン酸塩等のスルホン酸型アニオン系界面活性剤が挙げられ、これらはいずれか1種または2種以上を併用してもよい。
【0016】
上記水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、水道水、工業用水等が挙げられ、特に限定されない。
【0017】
上記離型剤に含まれる無機成分、シリコーン成分及び界面活性剤の質量割合は、特に限定されないが、これらの合計量に対して、無機成分が15〜90質量%、シリコーン成分が5〜75質量%、界面活性剤が1〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは、無機成分が55〜70質量%、シリコーン成分が10〜40質量%、界面活性剤が2〜5質量%である。また、水の含有量は、特に限定されないが、離型剤全体に対して、35〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは45〜60質量%である。
【0018】
本実施形態に係る離型剤は、上記成分以外に必要に応じて、着色剤、防錆剤、防腐剤、高級脂肪酸の金属塩などの添加剤を含有していてもよい。
【0019】
本実施形態に係る離型剤は、高速せん断型攪拌機を用いて調製することができる。すなわち、上記の無機成分とシリコーン成分と界面活性剤と水を含む、予め混合された液(即ち、混合液)を、高速せん断型攪拌機を用いて撹拌することにより、本実施形態に係る離型剤が得られる。高速せん断型攪拌機を用いることにより、従来のプロペラ型攪拌機に比べて、攪拌処理時間を短縮することができ、また、ダマができにくく、粒径の小さい離型剤を得ることができる。ここで、高速せん断型攪拌機による撹拌処理での回転数としては、3000rpm以上であることが好ましく、より好ましくは5000rpm以上である。回転数は高いほど好ましいので、上限は特に限定しないが、通常は8000rpm以下である。
【0020】
高速せん断型攪拌機としては、高速で回転することで大きな流体せん断作用を発揮できるものであれば、特に限定されないが、ローター/ステーター式ミキサーが好ましい。ローター/ステーター式ミキサーは、固定されたステーターと、その内部において小さなクリアランスをもって高速回転するローターとで構成されており、ローター先端部の大きな周速と、液体がステーターを通って外に排出されるときの高速な液流と、の両方の効果によって、大きい流体せん断作用が生み出される。このようなローター/ステーター式の高速せん断型攪拌機自体は公知であり、市販のものを用いることができる。
【0021】
また、高速せん断型攪拌機としては、循環路を備えたインライン型せん断攪拌機、より好ましくはインライン型のローター/ステーター式せん断攪拌機を用いることが好ましい。ここで、インライン型とは、循環路の途中に攪拌機を設置し、通過する液体を連続的に撹拌する形式のことである。そのため、この場合、高速せん断型攪拌機は、通常、リザーバータンクと、リザーバータンクから流出した液体を撹拌するインライン型せん断攪拌機と、リザーバータンクとインライン型せん断攪拌機との間を接続して液体を循環させる循環路とを備え、混合液を循環させながら撹拌する。
【0022】
このようなインライン型せん断攪拌機であると、エアーを抱き込まないため、泡立ちを防ぐことができる。また、混合液をステーターのスリットに100%通すことができ、せん断作用をかけることができるため、均一性に優れ、処理時間を大幅に短縮することができる。更に、リザーバータンクや循環路に冷却装置を設けることで、混合液を冷却することが可能であり、冷却効率に優れる。
【0023】
本実施形態では、高速せん断型攪拌機を用いて、液温が60℃以下になるように冷却しながら撹拌することが好ましい。より好ましくは50℃以下に冷却することである。一般に高速せん断型攪拌機では撹拌により混合液の温度が上昇し、上記離型剤では温度上昇とともに粘度が上昇してしまう。これに対し、冷却しながら撹拌することにより、混合液の温度上昇を抑制して、粘度の上昇を抑えることができる。なお、撹拌温度(液温)の下限は特に限定されず、室温をそのまま維持するようにしてもよいが、通常は撹拌により多少の温度上昇があるので、例えば30℃以上である。
【0024】
以上のように高速せん断型攪拌機を用いて冷却しながら撹拌することにより、分散質の平均粒子径が0.1〜7μmである離型剤が得られる。ここで、分散質とは、分散媒である水に分散している微粒子であり、上記無機成分やシリコーン成分等が含まれる。分散質の平均粒子径は、0.1〜5μmであることがより好ましい。
【0025】
また、上記のように高速せん断型攪拌機を用いて冷却しながら撹拌することにより、23℃における粘度が1000mPa・s以下である離型剤が得られる。離型剤の粘度はより好ましくは500Pa・s以下である。粘度は低いほど好ましいので、下限は特に限定しないが、通常は100Pa・s以上である。
【0026】
このように実施形態に係る離型剤であると、粒子径が非常に細かくかつ低粘度であるため、次の作用効果が奏される。すなわち、粒子が細かいので、懸濁液であるにもかかわらず、経時的な分散安定性が良好である。また、粒子径が小さく低粘度であるため、スプレーガン等で吹き付け際の詰まりが改善され、噴霧作業性に優れるとともに、乾燥時間も短縮することができる。
【0027】
本実施形態に係る離型剤は、タイヤ加硫形成に際して、生タイヤ(グリーンタイヤ、未加硫タイヤとも称される。)の内面に塗布して使用される。一実施形態として、常法に従い、生タイヤを成形した後、その内面(インナーライナー面)に対し、スプレーガン等の噴霧器を用いて、離型剤を塗布する。塗布量は、特に限定されないが、乾燥後の質量で5〜50g/m
2であると好ましい。離型剤の乾燥後、生タイヤを加硫金型内に設置し、その内側からブラダーをスチーム等で高温加圧して、生タイヤを金型に押し付けて、最終的なタイヤ形状やトレッドパターンとなるように加硫する。その後、ブラダーを収縮させてタイヤ内面から剥離し、また加硫金型から脱型することで、空気入りタイヤが得られる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
[離型剤の調製]
マイカ、タルク、シリコーンエマルジョン等、離型剤としての必要成分があらかじめ混合されている市販のタイヤ用内面離型剤(松本油脂製薬株式会社製「RA−365P」)47質量部を水48質量部に混合溶解させ、離型剤の黒色化目的に、着色剤としてカーボンブラック(三菱化学株式会社製「三菱カーボンブラックMA−600」)を5質量部加え、ラボスケールのインライン型のローター/ステーター式せん断攪拌機(SILVERSON社製「ハイシアーミキサー モデルL4RT」)を用いて、均一に溶解分散し離型剤を調製した。攪拌機の回転数は6000rpmとし、処理時間は表1の通りとした。また、比較例4では、冷却装置を作動させず、それ以外の例では、リザーバータンク及び循環路に設けた冷却装置を作動させて、冷却しながら撹拌した。なお、比較例5では、撹拌に、従来の一般的なプロペラ攪拌機(回転数=300rpm)を用いた。撹拌処理後の各離型剤の液温を表1に示す。
【0030】
[離型剤の物性および評価]
得られた離型剤について、分散質の平均粒子径と、粘度を測定した。また、各離型剤を用いて、分散安定性、スプレーガンの詰まり性、乾燥性を評価した。各測定・評価方法は以下の通りである。
【0031】
・平均粒子径:レーザ回折・散乱法により測定。詳細には、光源として赤色半導体レーザ(波長680nm)を用いて、(株)島津製作所製のレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD−2200」により、離型剤に含まれる分散質の粒度分布を測定し、得られた粒度分布の平均値(対数スケール上での粒度分布(体積基準)の平均値をμとしたときの10
μの値)を平均粒子径とした。
【0032】
・粘度:東機産業(株)製のBL型粘度計にて測定(ローター#2,12rpm)。
【0033】
・分散安定性:調製後の離型剤を常温で10時間放置して無機成分の沈降を観察した。沈降なしを「○」(分散性安定良好)、沈降ありを「×」(分散安定性不良)で示した。
【0034】
・スプレーガンの詰まり性(噴霧作業性):スプレーガンを用いて離型剤を5秒間吹き付け、それを20回繰り返して、吐出量を確認した。吐出量安定(詰まりなし)を「○」、吐出量減少(詰まりあり)を「×」で示した。
【0035】
・乾燥性:離型剤を未加硫ゴムシートに、乾燥後質量が10g/m
2となるように塗布し、自然乾燥による乾燥にかかるまでの時間を確認した。乾燥までの時間が10分以内を「○」(乾燥性良好)、乾燥までの時間が10分を超えるものを「×」(乾燥性不良)で示した。
【0036】
結果は、表1に示す通りであり、比較例1および2では、撹拌処理時間が短かったため、分散が不十分で、平均粒子径が大きく、そのため、分散安定性、噴霧作業性および乾燥性に劣っていた。比較例3では、処理時間が長すぎたため、冷却装置を作動させているにもかかわらず、液温上昇による粘度上昇が見られ、そのため、噴霧作業性と乾燥性に劣っていた。比較例4では、冷却せずに撹拌したため、液温上昇により粒子の再凝集が生じ、平均粒子径が規定よりも大きく、噴霧作業性と乾燥性に劣っていた。また、比較例5のように一般的なプロペラ攪拌機では、撹拌能力が低く、分散処理が不十分であったため、分散安定性、噴霧作業性および乾燥性に劣っていた。
【0037】
これに対し、実施例1〜3であると、高速せん断型攪拌機を用いて冷却しながら適切に撹拌したので、小粒径かつ低粘度の離型剤が得られており、よって、分散性安定性、噴霧作業性および乾燥性の全てに優れていた。
【0038】
【表1】