(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
路面を走行する車両本体と、この車両本体に取り付けられるパンタグラフと、架線から前記パンタグラフを介して供給される電力で前記車両本体を駆動する駆動装置と、この駆動装置の作動を制御する車両制御装置と、を備え、
前記車両制御装置は、前記車両本体および前記架線の状態に関する情報を基に、前記パンタグラフが前記架線から路面の垂直方向に離線するか否かを事前に判定する離線判定部と、この離線判定部により前記パンタグラフの離線が事前に判定されると、前記パンタグラフの高さ位置が上昇する方向に前記駆動装置の駆動トルクを制御するトルク制御部と、を含むことを特徴とする電気駆動車両。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
離線には路面に対して水平方向と垂直方向があり、発生頻度の高い離線は路面と垂直方向に離線する場合である。垂直方向の離線の主な要因は2つある。1つ目の要因は架線70である。架線70は、
図21に示すように一定の間隔で支持点と呼ばれる柱52によってつり上げられる。つり上げられる部分は、その他の部分に比べて張力が強く架線70のたるみが少ないため、パンタグラフ45が架線70を押し上げる変位が減少する。架線70の押し上げ量は、外乱から架線70とパンタグラフ45の接触を保つためのマージンとなる。そのため、支持点付近ではマージンが減少するため離線の可能性が高まる。
【0007】
2つ目の要因は、車両本体6のピッチング運動である。車両本体6にパンタグラフ45が設置されている状態で、車両本体6の前輪と後輪のサスペンション伸縮により生じる振動(ピッチング運動)が発生すると、車両本体6の前方が沈み込むことにより、パンタグラフ45と架線70の接触が外れる(離線する)場合がある。
【0008】
ここで、鉱山等で使用されるダンプトラックは、その車両本体6が、例えば、ホイールベース6m、車高7m、車両重量300t程度で構成される。この車両本体6が鉱山等の舗装されていない路面を走行すると、最大20cm程度のピッチング運動による上下変位が発生する可能性がある。
【0009】
以上のように架線70と車両本体6との両方に離線を誘発する要因があり、単独または複合的に前記の事象が発生すると離線を引き起こす。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、路面に対して垂直方向における離線の予知および対策について言及されていない。
【0010】
本発明は、上記実状を鑑みてなされたものであり、その目的は、電気駆動車両において、パンタグラフが架線から路面に対して垂直方向に離線するか否かを事前に判定し、離線すると判定された場合に対策を講じることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る電気駆動車両は、路面を走行する車両本体と、この車両本体に取り付けられるパンタグラフと、架線から前記パンタグラフを介して供給される電力で前記車両本体を駆動する駆動装置と、この駆動装置の作動を制御する車両制御装置と、を備え、前記車両制御装置は、前記車両本体および前記架線の状態に関する情報を基に、前記パンタグラフが前記架線から路面の垂直方向に離線するか否かを事前に判定する離線判定部と、この離線判定部により前記パンタグラフの離線が事前に判定されると、前記パンタグラフの高さ位置が上昇する方向に前記駆動装置の駆動トルクを制御するトルク制御部と、を含むことを特徴としている。
【0012】
本発明は、パンタグラフの離線が発生することが事前に判定される(離線が予知される)と、パンタグラフの高さ位置が上昇する方向に駆動トルクを制御する。例えば、トルク制御部が電気駆動車両を急加速させるように駆動トルクを制御する。すると、電気駆動車両は、その前方が起き上がるように傾き、パンタグラフの高さ位置が上昇する。その結果、パンタグラフの路面に対する垂直方向の離線を未然に防ぐことができる。さらに、本発明によれば、パンタグラフの離線を防ぐことにより、モータ、インバータなどの駆動装置へのダメージを防止することができる。
【0013】
また、本発明は、上記構成において、前記離線判定部は、前記情報を基に前記パンタグラフの未来の上下変位量および前記パンタグラフの離線を判定するための閾値を算出し、算出された前記パンタグラフの未来の上下変位量と前記閾値とから前記パンタグラフが離線するか否かを事前に判定することを特徴としている。本発明によれば、パンタグラフの離線を正確に判定することができる。
【0014】
さらに、本発明は、上記構成において、前記離線判定部は、前記情報に基づいて前記車両本体のピッチング角を算出すると共に、前記ピッチング角を用いて前記パンタグラフの現在の上下変位量を算出し、前記パンタグラフの現在の上下変位量から前記パンタグラフが上昇から下降する際の第1頂点を検出し、前記第1頂点以後に前記パンタグラフが下降から上昇する際の第2頂点を前記第1頂点以後の前記パンタグラフの上下変位の時間変化量から求めることで、前記パンタグラフの未来の上下変位量を算出することを特徴としている。本発明は、車両本体のピッチング角を用いることにより、パンタグラフの離線をより正確に判定することができる。
【0015】
さらに、本発明は、上記構成において、前記離線判定部は、前記パンタグラフの前記第1頂点を検出した時間から予め定めた周期の1/12の時間経過後の前記パンタグラフの第1上下変位量と、前記パンタグラフの第1上下変位量から前記予め定めた周期のさらに1/12の時間経過後の前記パンタグラフの第2上下変位量とから、前記パンタグラフの上下変位量の傾きを算出し、前記傾きに前記予め定めた周期の1/3の時間を乗算して得た乗算結果を前記第2上下変位量に加算することにより、前記第2頂点を算出することを特徴としている。本発明によれば、パンタグラフの上下変位量を正確に算出することができる。
【0016】
さらに、本発明は、上記構成において、前記離線判定部は、前記予め定めた周期として、前記車両本体のピッチング運動が最も大きくなる周波数から算出される周期を用いて演算することを特徴としている。本発明によれば、最も安全サイドでパンタグラフの離線を判定することができる。
【0017】
また、本発明は、上記構成において、前記離線判定部は、前記情報としての、前記車両本体に設置された角速度センサからの入力情報に基づいて、前記車両本体のピッチング角を算出することを特徴としている。本発明によれば、既存のセンサを用いてパンタグラフの離線を判定することができる。
【0018】
また、本発明は、上記構成において、前記離線判定部は、前記情報としての、前記車両本体の前後に設けられた加速度センサからの入力情報に基づいて、前記車両本体のピッチング角を算出することを特徴としている。本発明によれば、既存のセンサを用いてパンタグラフの離線を判定することができる。
【0019】
また、本発明は、上記構成において、前記離線判定部は、前記情報としての、前記架線をバネとしてモデル化した際のバネ定数の情報を用い、前記車両本体と前記架線との位置関係から前記バネ定数を動的に変化させ、前記バネ定数を前記パンタグラフの押し上げ力で除算することで、前記閾値を算出することを特徴としている。本発明によれば、架線をバネとしてモデル化することで、パンタグラフの離線を簡易な方法で正確に判定することができる。
【0020】
また、本発明は、上記構成において、前記離線判定部は、前記パンタグラフの未来の上下変位量の絶対値が前記閾値の絶対値を上回ることで離線することを事前に判定すると共に、前記パンタグラフが離線すると判定された場合に、当該判定の時点から前記パンタグラフの離線が発生するまでの時間である離線時間と、前記パンタグラフの離線が発生する際の路面の垂直方向における前記パンタグラフと前記架線との間の距離である離線距離とを算出して前記トルク制御部に出力することを特徴としている。本発明によれば、トルク制御部による駆動トルクの制御を好適なものとすることができる。
【0021】
さらに、本発明は、上記構成において、前記離線時間は、前記パンタグラフが離線すると判定された時点から前記パンタグラフが前記第2頂点まで変位するのに要する時間として算出され、前記離線距離は、前記パンタグラフの前記第2頂点における上下変位量の絶対値から前記閾値の絶対値を減算した値として算出されることを特徴としている。本発明によれば、離線時間および離線距離を正確に算出することができる。
【0022】
また、本発明は、上記構成において、前記離線判定部は、前記情報としての、前記車両本体の位置情報および過去の前記パンタグラフの上下変位量の情報を入力として、前記車両本体が現在以後に走行する経路の前記パンタグラフの上下変位量のデータを抽出し、当該抽出されたデータに基づいて前記パンタグラフの未来の上下変位量を算出することを特徴としている。本発明によれば、車両本体の位置情報と過去のパンタグラフの上下変位量のデータを用いることで、より正確にパンタグラフの離線を判定することができる。
【0023】
また、本発明は、上記構成において、前記トルク制御部は、前記離線判定部の判定結果に基づいて前記駆動トルクの変更量を算出し、前記駆動トルクの変更量の算出結果に基づいて前記駆動トルクの出力方法を決定し、前記出力方法に従って前記駆動装置に対する駆動トルクを制御することを特徴としている。
【0024】
本発明によれば、離線判定部の判定結果を反映して決定された駆動トルクの出力方法に従って駆動トルクを制御できるから、パンタグラフの離線をより確実に防ぐことができる。また、駆動トルクの出力方法を適宜決定することにより、路面等の環境に応じてパンタグラフの挙動を好適に制御することもできる。
【0025】
さらに、本発明は、上記構成において、前記離線判定部は、前記パンタグラフの離線が発生する際の路面の垂直方向における前記パンタグラフと前記架線との間の距離である離線距離と、前記パンタグラフが離線すると判定された時点から前記パンタグラフの離線が発生するまでの時間である離線時間とを算出し、前記トルク制御部は、前記離線距離を前記離線時間の2乗で除算した値に比例する値となるよう前記駆動トルクの変更量を算出することを特徴としている。本発明によれば、駆動トルクの変更量を正確に算出することができる。
【0026】
また、本発明は、上記構成において、前記離線判定部は、前記パンタグラフが離線すると判定された時点から前記パンタグラフの離線が発生するまでの時間である離線時間を算出し、前記トルク制御部は、算出された前記駆動トルクの変更量をステップ状に増加させ、前記離線時間以内の場合は前記駆動トルクを一定値に保持し、前記離線時間経過後はランプ状に減少させるように前記駆動トルクの出力方法を決定することを特徴としている。
【0027】
本発明によれば、駆動トルクの変更量をステップ状に増加させることにより、パンタグラフの高さ位置を速やかに上昇させることができるため、パンタグラフの離線を確実に防止できる。そして、離線時間以内において駆動トルクを一定値に保持するから、パンタグラフが離線していない状態を維持できる。さらに、駆動トルクの変更量をランプ状に減少させることで、パンタグラフの高さ位置を緩やかに下降させることができる。
【0028】
また、本発明は、上記構成において、前記離線判定部は、前記パンタグラフが離線すると判定された時点から前記パンタグラフの離線が発生するまでの時間である離線時間を算出し、前記トルク制御部は、算出された前記駆動トルク
の変更量をステップ状に増加させ、前記離線時間以内の場合は前記駆動トルクを一定値に保持し、前記離線時間経過後はランプ状に前記駆動トルクを減少させるとともに、前記パンタグラフが上昇する場合には前記パンタグラフの上昇量に基づいて前記駆動トルクを零を下限として減少させ、前記パンタグラフが下降する場合には前記ランプ状に前記駆動トルクを減少させるように前記駆動トルクの出力方法を決定することを特徴としている。
【0029】
本発明によれば、駆動トルクの変更量をステップ状に増加させることにより、パンタグラフの高さ位置を速やかに上昇させることができるため、パンタグラフの離線を確実に防止できる。そして、離線時間以内において駆動トルクを一定値に保持するから、パンタグラフが離線していない状態を維持できる。さらに、駆動トルクの変更量をランプ状に減少させることで、パンタグラフの高さ位置を緩やかに下降させることができる。また、本発明では、離線時間経過後において、パンタグラフの上昇量に基づいて駆動トルクを零を下限として減少させるようにしているため、離線時間経過後にパンタグラフの高さ位置が急激に上昇するような挙動を抑えることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、パンタグラフが架線から路面に対して垂直方向に離線するか否かを事前に判定することができ、離線すると判定された場合に離線を防止するための対策を講じることができる。よって、離線を未然に防ぐことができる。なお、上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
「第1実施形態」
以下に、本発明に係る電気駆動車両の実施形態を説明する。
図1は本発明の実施形態に係るダンプトラックの構成図である。本発明の一実施形態であるダンプトラックは、車両本体6に、
図1に示すディーゼルエンジン(ENG)31と、発電機(G)32と、整流器33と、インバータ34,35と、電動機36,37と、減速ギア38,39と、車輪40,41と、チョッパ42と、回生用抵抗器43と、パンタグラフ45と、電磁接触器46と、リアクトル47と設けて構成されている。パンタグラフ45は、
図22に示すように、架線70に下方から接触する舟体(すり板)45aと、この舟体45aを車両本体6に対して昇降可能に支持する枠体45bと、を備えている。
【0033】
車両本体6は、
図22に示すように、フレームに土砂等を積載するための荷台8や運転室10等を設けて構成され、車両本体6には上記した各種機器や部品が車両本体6に設置されるほか、荷台8を起伏動作させるための油圧アクチュエータ9等も設置されるが、本実施形態において車両本体6の構成自体は周知であるため、ここでの詳しい説明は省略する。なお、以下の説明において、車両本体のことを、適宜「車体」と言うことにする。
【0034】
本実施形態に係るダンプトラックは、ディーゼルモードとトロリーモードの2つの走行モードで走行することができる。そこで、まず、ダンプトラックがディーゼルモードで走行する時の動作を説明する。ディーゼルモードでは、ディーゼルエンジン31が発電機32を駆動し、発電機32は三相交流電力を出力する。整流器33は発電機32の出力する三相交流電力を整流して直流電力に変換して、インバータ34およびインバータ35に直流電力を供給する。
【0035】
インバータ34は整流器33から供給される直流電力を可変周波数の交流電力に変換し、それを電動機36に供給することで電動機36を駆動する。インバータ35は整流器33から供給される直流電力を可変周波数の交流電力に変換し、それを電動機37に供給することで電動機37を駆動する。電動機36は減速ギア38を介して車輪40に接続されており、電動機36がインバータ34に駆動されることで車輪40が回転する。電動機37は減速ギア39を介して車輪41に接続されており、電動機37がインバータ35に駆動されることで車輪41が回転する。車輪40はダンプトラックの車体左側に、車輪41はダンプトラックの車体右側に設置されており、車輪40および車輪41が回転することでダンプトラックは加速する。なお、車輪40,41は何れも後輪であり、
図1において前輪は図示していない。
【0036】
一方、ダンプトラックが減速する時は、電動機36および電動機37は発電機として動作することで、ダンプトラックの運動エネルギーを電気エネルギーとしてインバータ34およびインバータ35の直流回路に電力を回生する。この時発生する回生電力を処理するために、インバータ34およびインバータ35の直流回路にはチョッパ42を介して回生用抵抗器43を接続している。インバータ34およびインバータ35の直流回路の直流電圧が規定値を超えた場合にはチョッパ42を動作させることで、回生用抵抗器43にて回生電力を消費する。
【0037】
次に、トロリーモードで走行する時の動作を説明する。架線70はパンタグラフ45、電磁接触器46、リアクトル47を介してインバータ34およびインバータ35の直流回路に接続される。電磁接触器46をONすることで架線70側からインバータ34およびインバータ35に直流電力が供給される。インバータ34は架線70側から供給される直流電力を可変周波数の交流電力に変換し、それを電動機36に供給することで電動機36を駆動する。インバータ35は架線70側から供給される直流電力を可変周波数の交流電力に変換し、それを電動機37に供給することで電動機37を駆動する。ディーゼルモードと同様に、電動機36がインバータ34に駆動され、電動機37がインバータ35に駆動されることで車輪40および車輪41が回転し、ダンプトラックは加速する。
【0038】
一方、ダンプトラックが減速する時は、ディーゼルモードと同様に電動機36および電動機37は発電機として動作することで、ダンプトラックの運動エネルギーを電気エネルギーとしてインバータ34およびインバータ35の直流回路に電力を回生する。インバータ34およびインバータ35の直流回路の直流電圧が規定値を超えた場合にはチョッパ42を動作させることで、回生用抵抗器43にて回生電力を消費する。
【0039】
以上のように、ディーゼルモードにおいてはディーゼルエンジン31で発電機32を駆動し、その発電機32が発電する電力を用いて電動機36,37を駆動することでダンプトラックは走行し、トロリーモードにおいては架線70から供給される電力を用いて電動機36,37を駆動することでダンプトラックは走行する。
【0040】
図2は、本実施形態に係るダンプトラックの電気的構成を示す図である。
図2に示すように、車両制御装置11は、角速度センサ21、ストロークセンサ22、荷重センサ23、後輪車輪速センサ24、カメラ25、レーダ26、および加速度センサ27からの情報(信号やデータ等)を入力として、駆動装置5であるインバータ34,35およびモータ36,37に対してトルク指令を出力する。インバータ34,35は、パンタグラフ45を介して架線70から供給される電力またはディーゼルエンジン31を駆動することで得られた電力により動作し、トルク指令に基づいて車輪40,41の駆動を制御する。
【0041】
次に、車両制御装置11の具体的構成について説明する。車両制御装置11の中には、トルク指令を作成する経路が2系統存在する。1つ目は車両走行の基本的な走行を担う基準トルクを算出する経路である。基準トルク値7は、アクセルペダルおよびブレーキペダル(図示せず)による運転者の加速および減速要求に対し決定される。2つ目は、パンタグラフ45を上昇させるための駆動トルクの変更量(補正トルク)を算出する経路である。車両・架線状態検出手段1から得られた、車体6および架線70の状態に関する情報を入力として、離線低減手段2はパンタグラフ45を上昇させるための駆動トルクの変更量を指令する。
【0042】
離線低減手段2は、離線予知手段(離線判定部)3とトルク制御手段(トルク制御部)4とからなる。即ち、離線低減手段2は、本発明の「離線判定部」および「トルク制御部」として機能する。離線予知手段3は、車両・架線状態検出手段1からの情報を基に離線の有無を予知(事前判定)し、離線を予知した場合には、当該予知の時点からパンタグラフ45の離線が発生するまでの時間(離線時間)、およびパンタグラフ45の離線が発生する際の路面の垂直方向におけるパンタグラフ45と架線70との間の距離(離線距離)を算出し、それらをトルク制御手段4へ入力する。トルク制御手段4では前記離線時間、離線距離から必要となる駆動トルクの変更量(補正トルク)を算出し指令する。そして、前記2つの経路からそれぞれ算出された基準トルクと補正トルクとは加算された後、車両制御装置11のトルク指令値として出力される。
【0043】
次に車両・架線状態検出手段1、離線予知手段3、トルク制御手段4の詳細について述べる。車両・架線状態検出手段1では、離線予知に必要となる車体6および架線70の状態を表す情報を取得する。例えば、車体6の状態を表す情報としては、車体6のピッチング運動に関する情報があり、架線70の状態を表す情報としては、架線70の構造情報、車体6の位置情報である。車体6のピッチング運動に関する情報は、パンタグラフ45の路面に対する垂直方向の移動距離を知るために必要である。
【0044】
ここで、車体6とパンタグラフ45の動きは、車体6のピッチング運動程度の周期であれば、同じ動きをすると考えて良い。そのため、パンタグラフ45の垂直方向の移動距離を導くために、(a)車体6のピッチング運動に関する情報が必要となる。また、(b)架線70の構造情報、(c)車体6の位置情報は、支持点である柱52(
図21参照)の間隔で変化する架線70の押し上げ量を知るために必要である。前記3つの情報(a)〜(c)について次に詳しく述べる。
【0045】
まず車体6のピッチング運動に関する情報としては、ピッチング角が挙げられる。測定方法としては、車体6に設置した角速度センサ21(
図2参照)を用いることが考えられる。角速度センサ21で取得した角速度データは時間積分を行うことで、ピッチング角データとして取り出すことが可能である。また、車体6の前後のサスペンション装置(図示せず)に付けられたストロークセンサ22を用いると、車体6のピッチング運動の角度が1°以下となることを利用して、車体6の前後の高さ変位をピッチング角と近似することができる。
【0046】
また、サスペンション装置に設置された荷重センサ23、加速度センサ27、または、後輪の車輪速センサ24などを利用することもできる。荷重センサ23加速度センサ27、または後輪の車輪速センサ24から取得されるデータは、車体6のピッチング角と相対的に変化が一致する。そのため、荷重センサ23、加速度センサ27、または後輪の車輪速センサ24から取得したデータをシミュレーションや実験などで求めた補正係数で補正することでピッチング角データを再現することができる。このように、ピッチング角は、車体6に従来から備えられている既存の各種センサ21,22,23,24,27のデータを用いて求めることができる。
【0047】
次に、架線70の構造情報としては、架線70をバネとしてモデル化した際のバネ定数、およびパンタグラフ45が架線70を押し上げる力が挙げられる。前記バネ定数は、架線70をつり上げる支持点と呼ばれる柱52(
図21参照)の設置間隔に依存して値が変化する。これば、支持点付近では架線70にかかる張力が大きくなるためであり、前記バネ定数は、支持点からの距離の関数になっている必要がある。そのため、架線70のバネ定数は、例えば、架線70を一定の力で押し上げた際の架線70の変位を実測することで導くことができる。
【0048】
また、架線70の押し上げ力、支持点間隔、架線70のたるみ量、架線70の質量を入力値として、公知となっている式を用いても架線70のバネ定数を求めることができる。そして、バネ定数をパンタグラフ45が押し上げる力で乗算することで架線70を押し上げる量を知ることができる。即ち、架線70の押し上げ量を知るために、このバネ定数は必要となる。この架線70の押し上げ量は、外乱から架線70とパンタグラフ45の接触を保つためのマージンとなっているので、パンタグラフ45の離線を予知する際の閾値として使用することができる。
【0049】
最後に車体6の位置情報を取得する方法は、カメラ25やレーダ26の利用が考えられる。カメラ25の画像や、レーダ26の反射波情報を用いれば、自車両が架線70のどの位置を走行しているか判断することが可能である。また、トロリー走行を開始する位置がいつも一定である場合、車両速度の情報があれば、前記架線70の設計情報との組み合わせで走行位置が分かる。また、トロリーが走行するエリアの地図情報と車両のGPS情報を用いても架線70と車体6との位置関係は把握することができる。
【0050】
以上説明した(a)〜(c)の情報は、現在または過去に取得した情報でも良い。例えば、自車両の現在の情報を取得したい場合、センサなどから直接データを収集し、当該情報を利用すれば良い。また、自車両および他車両の過去の情報を利用したい場合、過去に取得した情報を一度メモリやサーバに保存し、必要に応じてメモリやサーバから情報を抜き出すという処理を行って、当該情報を利用することができる。そして、こうして得られた上記3種類の情報は、それぞれ一つずつもしくは複数個ずつ離線予知手段3へ有線や無線手段を用いて入力される。
【0051】
次に離線予知手段3について説明する。離線予知手段3は、前記車両・架線状態検出手段1から得られた情報に基づいてパンタグラフ45の上下変位量を算出する。その後、この結果を用いてパンタグラフ45の未来の変化の算出し、離線の有無を予知する。これにより、パンタグラフ45と架線70の離線を未然に防ぐ準備を行える。
【0052】
初めに、前記車両・架線状態検出手段1から得られた情報が、過去に取得したデータを含まず、現時点のデータのみである場合の離線予知手段3の処理を説明する。
図3は離線低減手段2の処理を表したフローチャートである。ここでは、
図3に示すS(ステップ)01〜S06のうち、離線予知手段3が行う処理(離線予知に関する処理)であるS01〜S03までについて詳しく述べる。
【0053】
<S01の処理について>
S01において、離線予知手段3は、車両・架線情報(車体6および架線70の状態に関する情報)からパンタグラフ45の未来の上下変位量を算出する。同時にS02において、離線予知手段3は、車両・架線情報から離線予知するための閾値も算出する。離線予知手段3は、S01、S02の情報を基に、S03において離線の予知(離線の事前判定)を実施する。
【0054】
ここで、S01を実現する方法について
図4〜
図8を用いて説明する。
図4は、車両・架線情報である角速度センサの測定結果からパンタグラフの未来の上下変位量を算出するための処理(S01)の手順を示すフローチャートである。また、
図5は、車両・架線情報である加速度センサの測定結果からパンタグラフの未来の上下変位量を算出するための処理(S01)の手順を示すフローチャートである。
【0055】
図4に示すように、離線予知手段3は、S11において、車両情報(車体6の状態を表す情報)の一つである角速度センサ21のデータを用いピッチング角を算出する。また、
図5に示すように、離線予知手段3は、車両情報の一つである、車体6の前後に設置されたサスペンション装置に取り付けられた加速度センサ27のデータを用いてピッチング角を算出することもできる(S21)。なお、センサデータからピッチング角データへの変換は、車両・架線状態検出手段1の詳細で述べた通りである。
【0056】
次に、離線予知手段3は、S12(S22)において、パンタグラフ45の上下変位量を計算する。この上下変位量は、第一にピッチング運動によるパンタグラフ45の上下変位を算出し、第二に路面の変動量(路面の凹凸量)を前記パンタグラフ45の上下変位に加算することによって計算される。ピッチング角は、以下に示す式(1)〜(7)によってパンタグラフ45の上下変位に変換される。
【0057】
図6はパンタグラフ45の上下変位量とピッチング角の関係を表した図である。図中の実線はピッチング運動が起こる前のパンタグラフ45の高さまでを含めた車体6の位置、破線はピッチング運動が発生した際の車体6の位置を示す。ここで、図中のhが求めるべきパンタグラフ45の上下変位量である。θはピッチング角、βは重心を通る地面と水平な面から車体6の前方上部のパンタグラフ45を見上げた時の角度、Yは重心からパンタグラフ45までの垂直距離、Xは重心から車体6の前方(先端)までの水平距離を示す。ここで、ピッチング運動におけるθは1°以下の場合が多く、値が小さい事を考慮するとh0はRxyを半径とする円周の一部として近似できる。
【0058】
よって、h0は、式(1)で表すことができる。
【数1】
但し、
【数2】
であり、θの回転について反時計まわりを正とした。
【0059】
さらに、三角形の相似の関係から、式(3)が成り立つ。
【数3】
ここで、
【数4】
となり、パンタグラフ45の上下変位量が車体6のピッチング角より算出できる事が分かる。
【0060】
ここで、鉱山等に用いられるダンプトラックは、車体6の後方に積載物を搭載するため、その重心が車体6の後方の高い位置になる。そのため、近似的には、cosαは1として見ることもできるので、h=h0として計算を行っても良い。
【0061】
こうして、離線予知手段3は、ピッチング運動によるパンタグラフ45の上下変位を算出した後、第二のステップとして路面の変動量を前記パンタグラフ45の上下変位に加算する。例えば、路面の上下変動量は、ピッチング角の大きさから求めても良い。
【0062】
図8にピッチング運動の周波数(1/周期)とその時のピッチング角の大きさ(ピッチング振幅の大きさ)の関係を示したグラフを示す。Yは路面の凹凸量を示しており、路面の凹凸量とピッチング角の周期、大きさには
図8の様な関係が導ける。この関係を、シミュレーションや実験などの結果からテーブル化しておくと、ピッチング角から路面の変動量(凹凸量)を算出することができる。
【0063】
次にS13(S23)〜S14(S24)では、事前に離線を予知するために、離線予知手段3は、S12(S22)にて算出したパンタグラフ45の上下変位量から未来の変化を算出する。
図7は、S13(S23)〜S14(S24)までの処理の流れを説明するためのグラフである。ここで、グラフの縦軸はパンタグラフ45の上下変位量を示し、下向きにグラフが移動するとパンタグラフ45が下降する事を示す。横軸は時間を示す。
【0064】
まず、離線予知手段3は、S13(S23)では現在のパンタグラフ45の上下変位の変化から、パンタグラフ45が下降している、つまり離線に向かっていることを検出するために、パンタグラフ45が上昇し下降する際の頂点(頂点A)を検出する。検出方法としては例えば、上下変位の時間微分値の符号が反転する(
図7のグラフで言うと正から負)へ変化する事をとらえても良い(
図7(i))。
【0065】
次に、離線予知手段3は、S14(S24)において、未来のパンタグラフ45の上下変位量、つまり車体6がどこまで下降するかを算出する。本方式では、
図7(i)で検出した頂点A以後で、パンタグラフ45が下降から上昇する際の頂点B(パンタグラフ45が下降しきる点)を算出することでパンタグラフの未来の上下変位を見積もる事とする。なお、頂点Aは本発明の「第1頂点」に、頂点Bは本発明の「第2頂点」に、それぞれ相当する。
【0066】
頂点A,Bの算出には、本発明において発見した三角関数の特性を用いる。その特性とは、ある周波数Fの三角関数において、ある頂点Aから1/12周期進んだ点と1/6周期進んだ点の傾きを延長させた線が、頂点Aの次の頂点Bと交差するというものである。ここで、頂点Bを算出するためには、周波数Fをあらかじめ設定しておく必要があり、本実施形態においては
図8に示す車体6のピッチング角が最大になる共振周波数を用いる。
【0067】
図8に示すように、路面の凹凸の大きさに拘らず、ピッチング角はピークを持つことが分かる。これは、車体6の持つ固有の振動周波数と車体6のピッチング運動とが共振していることを示している。本実施形態では、最も上下変位が大きくなるケースにおいてパンタグラフ45が下降から上昇する際の頂点の算出を行う。これにより、ワーストケースにおけるパンタグラフ45の下降状態を知ることができる。即ち、最も安全サイドでパンタグラフ45の離線を予知して、その対策を講じることができる。
【0068】
次に、S14(S24)の具体的な処理方法について述べる。
図7に示す通り、頂点Aを検出した時間から、周波数Fの1/12周期進んだ点(sin(π/2+π/6))と2/12周期進んだ点(sin(π/2+π/3))のデータを保持する(
図7(ii),(iii))。即ち、
図7に示す上下変位量1(第1上下変位量)と上下変位量2(第2上下変位量)とを保持する。そして、前記の2点より傾きを式(8)に基づいて算出し、1/3周期分傾きを延長し、上下変位量2を加算することで、式(9)のようにパンタグラフ45が下降から上昇する際の頂点Bを算出することができる。理想的には、パンタグラフの上下変動が予定した周波数Fで変動していた場合(
図7の点線)、誤差−3.6%(=1−(−0.964/−1.0))で頂点Bを算出することができる。車体6のピッチング運動はモデル化すると、正弦波と指数関数の積に表わすことができるため、上記の算出方法が適応できる。
【0070】
また、前記車両・架線状態検出手段1から得られた情報が自車両および他車両問わず、過去に取得したデータを含む場合の離線予知手段3の処理について
図9、
図10を用いて説明する。この方式は、
図4、
図5の方式と比較して、頂点Bだけにとどまらず、パンタグラフ45の上下変位の過渡的な変化も含めて算出することができる。よって、過去のデータからより正確にパンタグラフ45の離線を判定して、パンタグラフ45の離線を未然に防ぐためのより適した対策を講じることができる。
【0071】
まず、離線予知手段3は、S101(S201)でS11(S21)と同様にピッチング角を算出し、S103(S203)でパンタグラフ45の上下変位量を算出する。それと同時に、離線予知手段3は、S102(S202)ではGPSなどの情報より現在の車体6の位置を取得し、S104(S204)で現在の走行位置からこれから走行するルートにおける過去のパンタグラフ45の上下変位量を複数個抽出する。最後に、離線予知手段3は、S105(S205)にて遺伝的アルゴリズムなどの最適化手法や回帰分析手法を用い、複数個あるデータから最も確からしいと考えられる未来のパンタグラフ45の上下変位量を算出する。また、前記した複数個のデータを平均化することで未来のパンタグラフ45の上下変位量を求めても良い。
【0072】
<S02,S03の処理について>
次に、S03の離線予知の一方式とS02の離線閾値の算出方法の説明を
図11〜
図13を用いて説明を行う。
図11は、離線閾値を算出するための処理の流れを示すフローチャート、
図12は、閾値を用いた離線予知の処理の流れを示すフローチャート、
図13は、パンタグラフの上下変位、離線閾値、離線時間、および離線距離の関係を示す図である。
【0073】
離線予知の方法としては例えば、閾値を用いる方法がある。その詳細は、
図12に示すように、離線予知手段3は、S51でS01のパンタグラフ45の未来の上下変位量を入力し、S52でその絶対値を取る。また、離線予知手段3は、S53でS02の離線閾値を入力し、S54でその絶対値を取り、S55で閾値の絶対値と未来の上下変位量と絶対値とを比較することにより、離線が発生するか否かを予知する。以下、各ステップの詳細を述べる。
【0074】
まず、S02(
図3参照)に示す閾値の決定フローについて、
図11を用いて説明する。離線閾値は、架線70とパンタグラフ45が離れる事を示す値でなければならない。そのため、本実施形態で用いた方式においては、架線70の押し上げ量(外乱から架線70とパンタグラフ45の接触を保つためのマージン)を「離線閾値」とする事とした。架線70の押し上げ量は架線70のバネ定数とパンタグラフ45が架線70の押し上げ力で決まる。
【0075】
まず、
図11において、離線予知手段3は、S42で架線70のバネ定数(K)、S41でGPSなどから得られる車体6の位置情報と地図情報とから、車体6と架線70の相対的な位置情報(x)を入力する。車両・架線状態検出手段1で述べたように、架線70のバネ定数は、架線70と車体6の位置関係で変動するため、離線予知手段3は、S43でxに依存したバネ定数Kの値を算出する。バネ定数Kが決定すると、離線予知手段3は、S44にてバネ定数Kをパンタグラフ45の押し上げ力で除算することにより離線閾値(閾値)を決定する。
【0076】
その後、S55(
図12参照)での離線予知が実行され、パンタグラフ45の未来の上下変位量の絶対値が離線閾値の絶対値より大きければ、離線が発生すると予知されてS57に進み、
図13にて定義された離線時間と離線距離を出力する。一方、S55で離線を予知しなかった場合、即ち、パンタグラフ45の未来の上下変位量の絶対値が離線閾値の絶対値より大きくなければ、駆動トルクは発生させずS01,S02へリターンする(S56)。
【0077】
ここで、
図13に示すように、「離線時間」は、パンタグラフ45が離線すると判定された場合に、当該判定の時点からパンタグラフ45の離線が発生するまでの時間であり、具体的には、未来のパンタグラフ45の上下変位量を算出した時間から、未来のパンタグラフ45の変化が下降から上昇する際の頂点Bまでの時間を示す。また、「離線距離」は、パンタグラフ45の離線が発生する際の路面の垂直方向におけるパンタグラフ45と架線70との間の距離であり、具体的には、未来のパンタグラフ45の変化が下降から上昇する際の頂点Bと同時刻の離線閾値との差の絶対値を示す。なお、
図13のグラフにおいて離線閾値は、縦軸の値が負方向に移動するとパンタグラフ45が下降することを示しているため、図示の都合上、S44で算出された値の符号を反転させて描画している。
【0078】
最後に、トルク制御手段4について述べる。トルク制御手段4は、パンタグラフ45を上昇させるために駆動トルクを制御する。これにより、パンタグラフ45が架線70から離線するのを未然に防ぐことができる。ここでは、
図3に示すS01〜S06のうち、トルク制御手段4が行う処理(駆動トルクを制御する処理)であるS04〜S06までについて詳しく述べる。
【0079】
図3のS03で離線予知を実施後、S04においてS03の離線予知結果に基づいて駆動トルクの変更量が決定される。S05ではS04の結果を受けて駆動トルクの変更量の印加方法(出力方法)が決定され、S06にて駆動トルクの変更量が駆動装置5(モータ36,37、インバータ34,35)に対して指令される。駆動トルクの印加終了後、S01,S02にリターンし、新たな離線予知が実施される。
【0080】
<S04の処理について>
まず、S04の一例について、
図14と、以下に示す式(10)〜(16)とを用いて説明する。
図14は、トルク制御手段が駆動トルクの変更量を算出する処理の流れを示すフローチャートである。
【0081】
図14に示すように、駆動トルクの変更量を決定する上での入力値は、S57(
図12参照)で算出された離線時間Δt(S62)と離線距離Y(S61)である。ここで、駆動トルクとパンタグラフ45の上昇量の関係について考える。式(1)〜(3)よりピッチング角θとパンタグラフ45の上下変位hは比例関係にある事が分かる。この時、ピッチング角の変化Δθについて、例えば2モータによる後輪2輪駆動の駆動輪周りのモーメントに注目すると、式(10)、式(11)が成り立つ。ここで、時計回りのピッチング角変化はマイナスとおく。
【0082】
【数6】
ここで、ΔMは車体6のピッチ軸周りのモーメント変化分、Iはピッチ軸周りの慣性モーメント、ΔFr(t)は後輪にかかる力、yは地面からの重心までの垂直距離、lrは後輪中心から重心までの水平距離を示す。
【0083】
また、ΔFrは、式(12)で表される。
【数7】
ここで、ωはモータの回転数、ΔTは駆動トルクの変更量、vは車両速度、rはタイヤ半径、Grはギア比である。
【0084】
式(12)より、式(11)は、次のように展開できる。
【数8】
【0085】
よって、式(3)より、パンタグラフの上昇量hpは、式(14)で表すことができる。
【数9】
【0086】
式(14)より、パンタグラフを上昇させるためには正の駆動トルクを印加する必要があることが分かる。ここで、ΔT(t)をステップ関数とした場合、式(14)から式展開を行うと、式(16)が導かれる。
【数10】
【0087】
hpは離線距離以上の値が必要であり、例えば、実験やシミュレーションなどによって求めた定数を離線距離に乗算することで離線を抑えるのに十分なhpを求めても良い。また、積分時間であるΔtを離線時間と設定すれば、離線時間内に必要なパンタグラフ45の上昇量を確保できる。つまり、駆動トルクの変更量を離線時間と離線距離とから算出することができる。より詳細には、S63に示すように、駆動トルクの変更量(ΔT)は離線距離(Y)を離線時間(Δt)の2乗で除算し、定数を乗算することで求めることができる。
【0088】
図16に、式(15)から算出される駆動トルクの変更量(ΔT)と離線時間t
1とt
1/2の場合の、パンタグラフの上昇量(hp)の関係を示す。
図16に示すように、駆動トルクの変更量(ΔT)とパンタグラフ45の上昇量(hp)とは比例の関係にあることが分かる。
【0089】
<S05,S06の処理について>
次にS04で計算した駆動トルクの変更量の印加方法を決めるS05の詳細について
図15を用いて述べる。
図15は、トルク制御手段が駆動トルクの変更量の印加方法を決める処理を示すフローチャートである。
【0090】
トルク制御手段4は、S71では駆動トルク変更量(ΔT)を入力し、S72にてパンタグラフ45を上昇させるために、駆動トルクをΔT増加させる(ステップ増加)。この時、駆動トルクの形状は、離線時間内に離線を抑制できる程度のパンタグラフ上昇量が確保できる形状であれば、ステップ状、ランプ状、一次遅れ形状など、どの形状を用いてもよい。なお、S72ではステップ状に増加させるフローとしている。この例の利点は、車体6およびパンタグラフ45を短時間で上昇できる(車体6の前方を起き上がらせることができる)点である。式(14)からも分かる通り、トルクの積分値が大きい方がパンタグラフ上昇量は大きくなる。このため、ステップ状の形状を用いる方が、離線時間が短い場合でも離線を低減する効果を高める事ができる。
【0091】
次に、トルク制御手段4は、S73では駆動トルクを増加させてから離線時間を経過したかを判定する。離線時間に未達の場合、離線の危険性があるため、S74にて駆動トルクは印加し続ける(保持する)必要がある。離線時間が経過すると離線の危険性は無くなるため、トルク制御手段4は、パンタグラフ45を上昇させていた駆動トルクを減少させる。この時、急激にトルクを減少させると、パンタグラフ45が大きく下降してしまうため、駆動トルクを減少させる形状としては例えばランプ状が良い(
図17(c)参照)。
【0092】
そこで、トルク制御手段4は、S73の後、S75にて駆動トルクがランプ状に減少する形状を決定する。ここでは、シミュレーションや実測結果から減少割合を決めランプ形状を決定しても良い。S77において、トルク制御手段4は、S75で決めた値に従い駆動トルクを減少させ、駆動トルクの変更値がゼロになるまで減少させる(S76とS77との間をループさせる)。駆動トルクの変更値がゼロになれば(S76でYES)、S78にてS01,S02にリターンする。
【0093】
図17に、
図15で説明した駆動トルクの形状および本発明を適用した第1実施形態の効果を示す。
図17において、(a)は横軸が時間、縦軸が路面変動(ゼロは平坦路の場合)、(b)は横軸が時間、縦軸がパンタグラフ45の上下変位量(ゼロは平坦路で勾配無しにおけるパンタグラフの位置)、(c)は横軸が時間、縦軸が駆動トルクの変更量を表す。(a)に示す路面をダンプトラックが走行した場合において、(b)の点線は本発明の離線低減手段2を有しない場合のパンタグラフ45の上下変位量であり、実線は本発明を適応した場合のパンタグラフ45の上下変位量である。また、波線は離線を予知するための離線閾値である。
【0094】
本発明を適用しない場合は、パンタグラフ45の上下変位の絶対値が離線閾値の絶対値を上回る(
図17のグラフの場合、パンタグラフ45の上下変位が離線閾値を下回る)ことにより、離線が発生している事が分かる(
図17(b)の丸印の部分を参照)。一方、本発明を適用した場合、離線予知手段3により離線を予知し、トルク制御手段4により駆動トルクの変更量とトルク印加形状が決まると、パンタグラフ45の上下変位の平均値がトルク印加前に比べて上昇することで、離線を防いでいることが分かる。
【0095】
ここで、離線閾値は、架線70がパンタグラフ45に押し上げられる量により決まる。閾値が動的に変化しているのは、架線70が支持点52間隔を周期として変化しているためである。支持点52付近では架線70がつり上げられるので、パンタグラフ45が架線70を押し上げる量が減少する。つまり、離線閾値としては、離線のしやすい方向に増加するため、周期的に閾値が増加している。
【0096】
なお、
図17では駆動トルクがランプ状に減少する場合における効果を示したが、駆動トルクを一次遅れ形状に減少させる構成としても良い。この場合の効果を、
図18に示す。
図18に示す通り、駆動トルクを一時遅れ形状に減少させるようにしても、パンタグラフ45の離線を未然に防ぐことができる。しかも、一次遅れ形状の場合、ランプ形状の場合と比べて、離線予知からΔt経過後のパンタグラフ45の上昇を少し抑えることができる。
【0097】
「第2実施形態」
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態においては、離線を予知し、その予知結果に基づいて駆動トルクを変更する事で離線を低減し、かつ、駆動トルク変更時の振動を低減できるトロリー式のダンプトラックについて説明する。
【0098】
本実施形態において、
図1や
図2に示すシステム構成や離線低減手段2が行う処理の全体フローは、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。さらに、第2実施形態では、
図3のS04までは第1実施形態と同様の方法が用いられる。よって、第1実施形態と第2実施形態との相違は、
図3のS05に係る処理だけである。よって、以下、この相違点について
図19を用いて説明し、それ以外の説明については省略する。
【0099】
図19は、第2実施形態における、トルク制御手段が駆動トルクの変更量の印加方法を決める処理を示すフローチャートである。
図19に示すように、トルク制御手段4は、S81で駆動トルクの変更量を入力し、S82で例えばステップ状に駆動トルクを増加させる(ステップ増加)。トルク制御手段4は、S83では離線時間の経過を判定し、離線時間を経過していなければ駆動トルクを保持し(S84)、離線時間を経過していればパンタグラフ45の上昇下降に応じた駆動トルクの変更を行う。即ち、S83の判定後、S85において、トルク制御手段4は、第1実施形態と同様に駆動トルクを、例えばランプ状に減少させるための形状を決定する。
【0100】
駆動トルクをランプ状に減少中にパンタグラフ45が上昇する場合(S87でYES)、このまま駆動トルクを印加すると車体6が過度に上昇しまう。そこで、トルク制御手段4は、S89においてパンタグラフの上昇量に応じて駆動トルクの下限を0[N・m]としてステップ状に減少させる。減少させる割合は、パンタグラフ45の時間変化率に実験的に求めた係数を乗算することで決定しても良い。逆に、パンタグラフ45が下降している場合(S87でNO)は、第1実施形態と同様にランプ状に減少するトルクを印加すればよいので、トルク制御手段4は、S88ではS85で決めたランプ形状に従い駆動トルクを減少させる。最後に、トルク制御手段4は、第1実施形態と同様に、S86で駆動トルクの変更量がゼロになれば、S01,S02にリターンする(S90)。
【0101】
図20に、
図19で説明した駆動トルクの形状および本発明を適用した第2実施形態の効果を示す。
図20において、横軸は全て時間を表し、(a)は縦軸が路面変動、(b)は縦軸がパンタグラフの上下変位量、(c)は縦軸が駆動トルクの変更量を表す。
図20(b)の実線で示すパンタグラフ変位を
図17(b)の実線で示すパンタグラフ変位と比較すると、
図20では過度なパンタグラフ変位の上昇や下降が抑えられている事が分かる。第1実施形態では、路面が上りになっている際に駆動トルクを過度に加えすぎているため、パンタグラフ45の上昇が大きい(
図17参照)。
【0102】
一方、第2実施形態ではランプ状に駆動トルクを減少させる中で、上り坂(パンタグラフ45が上昇状態)になると駆動トルクの値をステップ状に減少させており、過度なパンタグラフ45の上昇を抑制している。また、路面が下りもしくは平坦路(パンタグラフ45が下降状態)になった場合には、駆動トルクをランプ状に減少させる様にトルクの値を元に戻している。この結果、パンタグラフ45の過度な上昇や下降を抑制する事ができ、架線70やパンタグラフ45の摩耗を低減することができる。
【0103】
以上説明したように、第1実施形態および第2実施形態に係るダンプトラックは、パンタグラフ45の離線を予知し、離線が発生すると判定すれば、車体6の前方が起き上がるように駆動装置5の駆動トルクを制御している。これにより、パンタグラフ45の高さ位置が上昇するため、パンタグラフ45が架線70から路面の垂直方向に対して離線するのを未然に防ぐことができる。
【0104】
また、離線が発生すると、架線70からの電力供給が一度断たれることで、インバータ34,35の平滑コンデンサの電荷が消費され、その後に再度、架線70とパンタグラフ45とが接触することで、平滑コンデンサに対して高電圧がかかり、ラッシュカレント(突入電流)によってモータ36,37、インバータ34,35等の駆動装置5がダメージを受ける可能性がある。ところが、第1実施形態および第2実施形態に係るダンプトラックによれば、パンタグラフ45の離線を防ぐことで、駆動装置5に対するダメージを防止することができる。
【0105】
なお、上述した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。例えば、図示しないが、車体6の傾斜角度を検出する傾斜角センサなどの情報も考慮してトルク指令を出力するようにしても良い。