特許第6092088号(P6092088)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092088
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】鋼製ベローズ型ダンパー
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/04 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
   E01D19/04 101
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-264892(P2013-264892)
(22)【出願日】2013年12月24日
(65)【公開番号】特開2015-121035(P2015-121035A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2015年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(73)【特許権者】
【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】599145395
【氏名又は名称】高田機工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509199007
【氏名又は名称】株式会社川金コアテック
(74)【代理人】
【識別番号】100104363
【弁理士】
【氏名又は名称】端山 博孝
(72)【発明者】
【氏名】頭井 洋
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】松村 政秀
(72)【発明者】
【氏名】佐合 大
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅彦
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−258787(JP,A)
【文献】 特開昭63−097774(JP,A)
【文献】 実開平04−024964(JP,U)
【文献】 特開2001−040616(JP,A)
【文献】 実開平04−004910(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00−24/00
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの構造物間を連結して、これら2つの構造物間に生じる相対変位を抑制するための鋼製ベローズ型ダンパーであって、
湾曲板部と、この湾曲板部の両端から互いに略平行となるように延びる1対の平板部とを有し、前記構造物に作用する外力により前記平板部が互いに接近及び離間するように弾塑性変形する本体と、
前記各平板部の外面に添接される添接部と、この添接部に略直角に設けられ前記構造物に取り付けられる取付部とを有する断面L字形のブラケットとからなり、
前記平板部は、該平板部の内面及び外面の少なくとも一方に設けられ、前記添接部との重なり合い部端を越えて前記湾曲板部側に延びるプレートからなる、剛性急変を緩和する手段を有していることを特徴とする鋼製ベローズ型ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋼製ベローズ型ダンパーに関し、より詳細には2つの構造物間を連結して、これら2つの構造物間に生じる相対変位を抑制するためのダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
兵庫県南部地震以来、新設橋梁においては橋脚の耐震性能が高められ、さらに落橋防止システムの適用、反力分散構造や免震構造の採用などが図られている。一方、既設橋梁においても、下部構造の補強や支承取り替え及び落橋防止システムの付加などの耐震補強工事が実施されている。しかし、既設橋梁の場合は、施工条件が困難である場合や既設構造の耐力や遊間が不足する場合なども多く、補強工事はいまだに完了していない。
【0003】
このような状況において、近年、制震ダンパーを用いた既設橋梁の耐震補強が多く実施されている。制震ダンパーは種々のものが提案・開発されているが、金属の弾塑性履歴エネルギー吸収機構を利用した履歴型ダンパーとして鋼製ベローズが知られ、その研究がなされ(非特許文献1参照)あるいはその適用例が提案されている(特許文献1,2参照)。
【0004】
図9は、この鋼製ベローズ型ダンパーを示す平面図である。従来の鋼製ベローズ型ダンパー50は、湾曲板部51と、この湾曲板部51の両端から外側に曲げ形成された1対の平板部52、52とを有している。平板部52、52は構造物への取付部であり、ボルトの挿入穴53が設けられている。
【0005】
したがって、鋼製ベローズ型ダンパー50は図9から理解されるように、湾曲板部51による曲げ半径が大きい曲げ部と、湾曲板部51と平板部52、52との境界部54、54による曲げ半径が小さい曲げ部との2種の曲げ部を有していることになる。
【0006】
この発明の発明者らは、上記のような従来の鋼製ベローズ型ダンパー50について、繰り返し載荷試験を行ったところ境界部54、54より疲労破断することを見出した。境界部54、54は曲げ半径が小さく加工硬化の影響があり、さらに湾曲板部51に比べて境界部54、54のひずみが大きく、このことが従来の鋼製ベローズ型ダンパーに低サイクル疲労耐久性の点で問題を与えている。
【0007】
その他、この発明に関連する先行技術文献として特許文献3,4を挙げることができる。これらの文献には、湾曲板部と1対の平板部とからなるU字形の免震ダンパーが開示されている。しかしながら、これらの文献に開示のダンパーは、いずれも平板部が平行を保ったまま互いに逆方向に変位することにより、湾曲板部に弾塑性変形を与えるものであり、この発明による鋼製ベローズ型ダンパーとは変形の態様が異なる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】頭井洋、外4名,「桁制震装置の桁温度伸縮に対するー設計法と最大応答変位予測法」,鋼構造論文集,一般社団法人日本鋼構造協会,Vol.19,No.75,PP.41-53,2012.9
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001ー40616号公報
【特許文献2】特開2009ー235847号公報
【特許文献3】特許第3533110号公報
【特許文献4】特開2004−278205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、低サイクル疲労耐久性を向上させることができる鋼製ベローズ型ダンパーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、2つの構造物間を連結して、これら2つの構造物間に生じる相対変位を抑制するための鋼製ベローズ型ダンパーであって、
湾曲板部と、この湾曲板部の両端から互いに略平行となるように延びる1対の平板部とを有し、前記構造物に作用する外力により前記平板部が互いに接近及び離間するように弾塑性変形する本体と、
前記各平板部の外面に添接される添接部と、この添接部に略直角に設けられ前記構造物に取り付けられる取付部とを有する断面L字形のブラケットとからなることを特徴とする鋼製ベローズ型ダンパーにある。
【0012】
上記鋼製ベローズ型ダンパーにおいて、前記平板部は剛性急変を緩和する手段を有している構成を採用することができる。前記剛性急変緩和手段は、例えば、平板部の内面及び外面の少なくとも一方に設けられ、前記添接部との重なり合い部端を越えて前記湾曲板部側に延びるプレートからなる。
【0013】
前記剛性急変緩和手段は、あるいは、前記平板部と前記添接部との重なり合い部において前記平板部の板厚を前記本体の内方側及び外方側の少なくとも一方側に増大させた厚肉部と、前記湾曲板部と前記平板部との境界から前記厚肉部にかけて形成されたテーパ部とからなる。前記剛性急変緩和手段は、あるいは、前記平板部の幅を湾曲板部の幅よりも大きくすることである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、地震時の繰り返し変形により生じる最大ひずみの位置が、従来のベローズにおける曲げ半径が小さい曲げ部から、曲げ加工の影響を受けない本体の平板部に移動するため、低サイクル疲労耐久性の向上を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明による鋼製ベローズ型ダンパーの実施形態を示す平面図である。
図2】同実施形態の正面図である。
図3】同実施形態の橋梁への適用例を示す正面図である。
図4】従来のベローズ(a)及び本発明によるベローズ(b)に、それぞれ圧縮変形を加えた場合に生じる、FEM解析によるひずみ分布を示す図である。
図5】インナープレートが無いベローズ(a)及びインナープレートが有るベローズ(b)に、それぞれ引張変形を加えた場合に生じる、FEM解析によるひずみ分布を示す図である。
図6】剛性急変緩和手段の別の実施形態を示す平面図である。
図7】剛性急変緩和手段のさらに別の実施形態を示す側面図である。
図8】剛性急変緩和手段のさらに別の実施形態を示す側面図である。
図9】従来の鋼製ベローズ型ダンパーを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、この発明による鋼製ベローズ型ダンパー(以下、単にベローズという)の実施形態を示す平面図であり、図2は同実施形態の正面図である。ベローズ1は、通常、2つが対になって2つの構造物10、10間に設置される。各ベローズ1は本体2と1対のブラケット3、3とで構成されている。各ベローズ1の一方のブラケット3、3が一方の構造物10を挟むように取り付けられ、他方のブラケット3、3が他方の構造物10を挟むように取り付けられる。
【0017】
ベローズ1の本体2は湾曲板部4と、その両端4a、4aから互いに平行となるように延びる1対の平板部5、5とからなり、全体としてU字形を呈している。湾曲板部4は略半円筒形に形成され、Cは曲げ中心を示している。1対のブラケット3、3は平板部5、5の外側にそれぞれ設けられる。
【0018】
各ブラケット3は、平板部5の外面に添接される添接部6と、この添接部6に略直角に設けられた構造物10への取付部7とを有し、全体として断面L字形を呈している。これら添接部6と取付部7との間には複数のリブ8が適宜間隔を置いて配置され、これらの添接部6、取付部7及びリブ8は鋳造により一体化された鋳鋼品である。ブラケット3は、添接部6が平板部5にボルト11及びこれに螺着されるナットによって接合されことによって本体2に取り付けられるが、溶接によって添接部6を平板部5に接合するようにしてもよい。
【0019】
平板部5の内面にはインナープレート12が前記したボルト11及びナットによって接合されている。このインナープレート12は、湾曲板部4及び平板部5からなる本体2の厚み(例えば22mm)の1/2の厚みで、平板部5から添接部6との重なり合い部端を越えて湾曲板部4側に延びている。したがって、インナープレート12の湾曲板部4側の端縁はR加工されている。
【0020】
ここで、インナープレート12の厚みを本体2の厚みの1/2としたのは、次の理由による。すなわち、本体2の厚みを22mmとしてインナープレートの厚みを9mm,11mm,13mmと変化させ、それぞれの場合についてベローズに引張変形を与えたときのひずみ値ををFEM解析によって測定した。その結果、最大ひずみの減少率はインナープレートの厚みを9mmから11mmと変化させた場合が8%、11mmから13mmと変化させた場合が3%となり、インナープレートの厚みを本体の厚み22mmの1/2とすることが最大ひずみ減少の点から最も効果があることが判明したからである。
【0021】
次に、上記ベローズ1の使用形態について説明する。図3に示すように、ベローズ1は例えば橋脚15上に支承16を介して設置される2つの鋼桁17、17を連結するために用いられる。鋼桁17、17のウェブ10が図1に示した構造物10に相当する。鋼桁17、17間には温度変化による鋼桁17、17の伸縮を吸収するための遊間18が設けられている。ベローズ1は、この遊間18を跨ぐように鋼桁17、17間に設置される。
【0022】
ベローズ1は前述のように2つが対になって用いられ、各ベローズ1の一方のブラケット3、3が一方の鋼桁17のウェブ10を挟むように取り付けられ、他方のブラケット3、3が他方の鋼桁17のウェブ10を挟むように取り付けられる。図2に示すように、ブラケット3の取付部7には複数のボルト孔13が形成され、これらのボルト孔13に挿入されてウェブ10を貫通するボルト14及びこれに螺着されるナットにより、ベローズ1、1がウェブ10、10に固定される。
【0023】
上記のようなベローズ1によれば、地震時において構造物である鋼桁10、10に橋軸方向の外力が作用すると、本体2は平板部5、5が互いに接近(圧縮)及び離間(引張)するように弾塑性変形する。これにより、鋼桁17、17間の相対変位が抑制されて桁端衝突や鋼桁の落下が回避されるとともに、橋脚15に作用する地震力を低減させる効果を期待できる。そして、地震時の繰り返し変形により生じる最大ひずみの位置が、従来のベローズにおける曲げ半径が小さい曲げ部54(図9参照)から、曲げ加工の影響を受けない平板部5に移動するため、低サイクル疲労耐久性の向上を期待できる。
【0024】
図4は、従来のベローズ(a)及び本発明によるベローズ(b)に、それぞれ72mmの圧縮変形を加えた場合に生じる、FEM解析によるひずみ分布を示している。図においてひずみ分布の濃淡はひずみの大きさに対応し、黒色の度合いが大きいほどひずみが大きいことを示している。このFEM解析の結果からも従来のベローズでは、最大ひずみが曲げ半径の小さい曲げ部に生じていたが、本発明では平板部に移動していることが理解される。
【0025】
その一方、この発明によるベローズ1の場合、繰り返し変形により生じる最大ひずみの位置がボルト接合部である平板部5に移動する結果、疲労破断が平板部5と添接部6との重なり合いがなくなって板厚が急変する部分、すなわち剛性が急変する部分に生じてしまう。しかしながら、この発明では平板部5の内側に添接部6との重なり合い部端を越えて湾曲板部4側に延びるインナープレート12を設けたので、板厚の急変(剛性の急変)に伴う応力集中を緩和させることができ、低サイクル疲労耐久性を向上させることができる。
【0026】
図5は、インナープレートが無いベローズ(a)及びインナープレートが有るベローズ(b)に、それぞれ72mmの引張変形を加えた場合に生じる、FEM解析によるひずみ分布を示す図である。インナープレートが有る場合には、無い場合に比べてひずみ分布が拡がり、最大ひずみがプラス側及びマイナス側ともに30%減少するという結果が得られた。
【0027】
ところで、橋梁用鋼材の冷間曲げ加工を行う場合、内側半径は板厚の15倍以上とするのが望ましいとされているが、シャルピー衝撃試験結果の吸収エネルギーが200J以上であって、かつ所定の鋼種を使用すれば、冷間曲げ加工の内側半径を板厚の5倍以上とすることができるとされている。したがって、この発明によれば、湾曲板部4のみの曲げ加工で済むため、上記の条件を満たす鋼材を使用することにより、板厚の5倍以上の曲げ半径としたベローズの製作が可能となる。
【0028】
上記実施形態では、本体4の剛性急変を緩和する手段として、平板部5の内面にインナープレート12を設けたが、剛性急変を緩和するためのプレートは図6に示すように、平板部5の外面にアウタープレート22として設けるようにしてもよい。また、このようなプレートは、平板部5の内面及び外面の双方にインナープレート12及びアウタープレート22として設けるようにしてもよい。
【0029】
剛性急変緩和手段は、上記プレートに限らず、種々の形態を採りうる。図7は、本体4の剛性急変緩和手段の別の実施形態を示している。この実施形態では、本体2の平板部5は、ブラケット3の添接部6との重なり合い部において、板厚を本体2の内方側(図7(a))又は外方側(同図(b)に向けて増大させて、湾曲板部4よりも板厚を厚くした厚肉部5aを有している。そして、平板部5と湾曲板部4との境界4aから厚肉部5aにかけては、板厚が徐々に大きくなるテーパ部5bが形成されている。これにより、本体2の板厚の急変、すなわち剛性の急変が緩和される。厚肉部5aは、平板部5の板厚を本体2の内方側及び外方側の双方側に増大させることにより形成してもよい。
【0030】
図8は、剛性急変緩和手段の別の実施形態を示している。この実施形態では、平板部5の幅が湾曲板部4との境界4aから徐々に大きくなっている。このような実施形態によっても本体2の剛性の急変を緩和することができる。
【0031】
上記実施形態は例示にすぎず、この発明は種々の態様を採ることができる。例えば、上記実施形態では、ブラケット3が添接部6、取付部7及びリブ8を鋳造により一体成形した鋳鋼品からなるが、これらブラケット3を構成する各部材6、7、8を溶接により一体化するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 鋼製ベローズ型ダンパー
2 本体
3 ブラケット
4 湾曲板部
4a 湾曲板部の端(湾曲板部と平板部との境界)
5 平板部
6 添接部
7 取付部
8 リブ
10 構造物(ウェブ)
11 ボルト
12 インナープレート
14 ボルト
15 橋脚
17 鋼桁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9