(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6092214
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】アバランシェ粒子検出器のための検出器読み出しインターフェイス
(51)【国際特許分類】
H01J 47/08 20060101AFI20170227BHJP
G01T 1/18 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
H01J47/08
G01T1/18 F
G01T1/18 D
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-526410(P2014-526410)
(86)(22)【出願日】2012年8月10日
(65)【公表番号】特表2014-527171(P2014-527171A)
(43)【公表日】2014年10月9日
(86)【国際出願番号】EP2012003429
(87)【国際公開番号】WO2013029748
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年7月30日
(31)【優先権主張番号】11290383.6
(32)【優先日】2011年8月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501008912
【氏名又は名称】セルン − ヨーロピアン オーガナイゼーション フォー ニュークリア リサーチ
【氏名又は名称原語表記】CERN − European Organization for Nuclear Research
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 智也
(72)【発明者】
【氏名】ルイ、ド、オリベイラ
(72)【発明者】
【氏名】イオアニ、ジョマタリ
【審査官】
杉田 翠
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/091695(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/054365(WO,A1)
【文献】
T. Alexopoulos et al.,A spark-resistant bulk-micromegas chamber for high-rate applications,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A,2011年 3月29日,vol. 640,pp. 110-118
【文献】
S. Andriamonje et al.,A New 2D-micromegas Detector for Neutron Beam Diagnostic at n TOF,Journal of the Korean Physical Society,2011年 8月12日,Vol. 59, No. 2,pp. 1601-1604
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T1/00−1/16
1/167−7/12
H01J40/00−49/48
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アバランシェ粒子検出器のための検出器読み出しインターフェイスであって、
増幅ギャップ(A)または収集ギャップを備える、前記アバランシェ粒子検出器のガス・チャンバーと、
前記ガス・チャンバーの底部側に形成された抵抗層(16)と、
前記抵抗層(16)の下に形成された誘電体層(18)とを備え、
前記検出器読み出しインターフェイスが、前記アバランシェ粒子検出器用の読み出し電子回路を備える読み出し基板(20)に容量結合されるように適合された、検出器読み出しインターフェイスにおいて、前記誘電体層(18)の厚さt2および前記増幅ギャップ(A)または収集ギャップの厚さt1は、それぞれ、t2<t1ε2/ε1となるように選択され、ここでε1は前記増幅ギャップ(A)または収集ギャップそれぞれの充填ガスの誘電率を示し、ε2は前記誘電体層(18)の誘電率を示す、検出器読み出しインターフェイス。
【請求項2】
前記検出器読み出しインターフェイスは、前記アバランシェ粒子検出器用の読み出し電子回路を備えず、前記読み出し基板(20)に結合するための導電性接続を備えていない、請求項1に記載の検出器読み出しインターフェイス。
【請求項3】
前記抵抗層(16)は連続する層であり、好ましくは前記ガス・チャンバーの下部面領域全体にわたって延在する、請求項1または2に記載の検出器読み出しインターフェイス。
【請求項4】
前記抵抗層(16)および/または前記誘電体層(18)は、前記ガス・チャンバーを密閉する、請求項1から3のいずれか一項に記載の検出器読み出しインターフェイス。
【請求項5】
t2≦0.2t1ε2/ε1および好ましくはt2≦0.1t1ε2/ε1である、請求項1から4のいずれか一項に記載の検出器読み出しインターフェイス。
【請求項6】
前記誘電体層(18)は、誘電率ε2≧10、好ましくはε2≧100を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の検出器読み出しインターフェイス。
【請求項7】
前記誘電体層(18)は、厚さt2≧10μm、好ましくはt2≧50μmを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の検出器読み出しインターフェイス。
【請求項8】
前記抵抗層(16)は、3μmから50μmの範囲、好ましくは5μmから30μmの範囲の厚さを有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の検出器読み出しインターフェイス。
【請求項9】
前記ガス・チャンバーに配置された第1の平面電極および第2の平面電極(10)をさらに備え、
前記第1の電極および前記第2の電極(10)は、入射粒子によって電子の生成のための変換ギャップ(C)を区切り、
前記第2の電極(10)には、孔(12)が開けられており、
前記第2の電極(10)および前記抵抗層(16)は、アバランシェ・プロセスで電子の増倍のために前記増幅ギャップ(A)を区切る、請求項1から8のいずれか一項に記載の検出器読み出しインターフェイス。
【請求項10】
前記ガス・チャンバーに配置された第1および第2の平面電極であって、
前記第1の電極は、前記第2の電極および前記抵抗層から間隔をあけて配置され、両面に第1および第2の金属被覆層を有する絶縁体、ならびに前記第1の電極を貫通する複数の孔を備える、第1および第2の電極と、
前記第1および第2の金属被覆層に結合され、前記第1の金属被覆層を第1の電位まで高め、前記第2の金属被覆層を前記第1の電位よりも高い第2の電位まで高めるように適合された分極手段とをさらに備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の検出器読み出しインターフェイス。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の検出器読み出しインターフェイスと、
前記アバランシェ粒子検出器用の読み出し電子回路を備える読み出し基板(20)とを備え、
前記検出器読み出しインターフェイスは、前記読み出し基板(20)に容量結合される、アバランシェ粒子検出器。
【請求項12】
前記読み出し基板(20)は、ピクセル・チップまたは組み込みチップを備える、請求項11に記載のアバランシェ粒子検出器。
【請求項13】
前記検出器読み出しインターフェイスは、前記読み出し基板(20)に可逆的に結合される、請求項11または12に記載のアバランシェ粒子検出器。
【請求項14】
前記検出器読み出しインターフェイスは、前記検出器読み出しインターフェイスを前記読み出し基板(20)に結合する導電性接続を備えていない、請求項11から13のいずれか一項に記載のアバランシェ粒子検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アバランシェ粒子検出器のための検出器容器と読み出し構造体との間のインターフェイスに関し、特にMicroMegas検出器のようなマイクロパターンガス検出器(MPGD:MicroPattern Gas Detector)ためのインターフェイスに関する。
【背景技術】
【0002】
粒子検出器は、放射線または粒子を検出、追跡、および/または識別するためのデバイスであり、粒子物理学、生物学、ならびに医療技術にわたり幅広い用途を見出している。
【0003】
ガスの電離および電荷増倍のプロセスにおいて利用する粒子検出器は、100年以上前に自然放射能を研究するために初めてラザフォード(Rutherford)がガス充填ワイヤー・カウンタを採用して以来、継続的に改良が加えられて使用されてきた。増大した物理的サイズ、および/または高められた放電に対する頑強性、および/または増強された空間分解能を備える検出器を設計するための技法は、今日の検出器コミュニティにおいて引き続き活発な研究が行なわれている分野である。
【0004】
ガス検出器は通常、電離放射線により放出された電子を収集して、それらを強電場を持つ領域に導き、それにより電子アバランシェを起こさせる。アバランシェは、電流または電荷が読み出しデバイスで収集され、読み出し電子回路によって分析されるように十分に大きい電流または電荷を作り出すための電子を十分に生成することができる。収集された電子電荷は、入射粒子または放射線の電荷、エネルギー、運動量、進行の方向、およびその他の属性を指示することができる。
【0005】
従来、電子アバランシェを引き起こして支えるために必要な大きい増幅電場は、正の高電圧電位において細いワイヤー(シンワイヤー)によってもたらされていた。従来、まさにこの細いワイヤーが、アバランシェから電子を収集するため、およびそれらの電子を読み出し電子回路へと導くために採用されてきた。最近になって、半導体製造技術を採用するMicroMesh Gaseous Structure Chamber(MicroMegas)およびGas Electron Multiplier(GEM)のような、いわゆるマイクロパターンガス検出器(MPGDs)は、見事に多様な形状の検出器デバイスを大量生産することを可能にし、同時にまた、高速読み出しおよび高信頼性と併せて小さいアバランシェ・ギャップ、ひいては迅速な信号展開を許容してきた。
【0006】
MPGDにおいて、増幅プロセスにおいて生成された電子は従来、半導体基板上に所定のパターンで配列され、結線を用いて高速読み出し電子回路に電気的に接続された、金属読み出しパッドまたはストリップ上に収集される。MicroMegas検出器の例について、この構成は米国特許第6、133、575号に説明されており、GEM検出器は、米国特許第6、011、265号に説明されている。
【0007】
ガス充填した比例計数管において一般に遭遇する重大な問題は、膨大数の電子をトリガーすることができる重イオン化粒子によって誘発されるスパークである。アバランシェ・プロセスによって増幅され、それらは数10
7の電子というRaetherの限界に到達して、放電へと至る可能性もある。これは、核力分解(nuclear breakup)からの弾性散乱および/または低エネルギーハイドロニックデブリから生じる速度の遅い反跳から高い計数率を生成することができる、高いルミノシティを備える最新の加速器にとって、特に課題となる。
【0008】
スパークは、一時的に高電圧破壊に至る可能性があるので、検出器が回復する必要があり、新しいイベントが検知されない、不要な検出器不動作時間を発生させることもある。スパークはまた、読み出しパッドおよび/または読み出し電子回路に損傷を与える場合もある。検出器不動作時間を低減するため、および損傷を回避するため、多くの検出器は、読み出しストリップまたはパッドをフロント・エンド電子回路と連結する追加の保護回路を採用する。これらの保護回路は、デバイスの複雑さを増大させ、追加の配線を必要とするが、そのようなことはより多くのより小さい読み出しパッドを備える検出器を形成しようという要望とは相容れない。
【0009】
放電に対する効率的な保護は、読み出しパッドと読み出し回路のセットが検出器構造体に組み込まれた半導体読み出し基板またはピクセル・チップに代替される最新のグリッド・ピクセル(「Grid−Pix」)検出器において特に重要である。グリッド・ピクセル検出器の読み出しチップは、検出器デバイスの陽極を兼ねることができ、それぞれの前置増幅器、弁別器、およびデジタルカウンタに各々接続された膨大数の正方ピクセルを連携させることができる。MicroMegas検出器がピクセル・チップ上に直接配置されるグリッド・ピクセル検出器の例は、P.Colasらの、Nucl.Instr.and Meth.A 535(2004)、506頁においてさらに詳細に説明されている。
【0010】
従来のMPGDと比較すると、グリッド・ピクセル検出器は、読み出し回路の大部分を統合するので、より小型のよりコンパクトな検出器デバイスを形成して、空間検出器分解能を高めることができるという利点を有する。しかし、この構造体は、特に放電に敏感である。局所的な放電であっても、従来のMPGDの場合のような、単一の読み出しチャネルに影響を及ぼすだけにとどまらない。むしろ、放電は、結果として、チップ材料の局所的な溶解または蒸散、もしくはチップ全体に影響を及ぼす電子回路の破壊をまねく場合もある。チップは検出器構造体に組み込まれているので、構造体全体が交換される必要も生じる。
【0011】
グリッド・ピクセル検出器のチップを放電から保護するために、I.Bilevychらの、Nucl.Instrum.Meth.A 629(2011)、66〜73において説明されているように、5μmから25μmのアモルファス・シリコンの高抵抗層がチップ上に蒸着されてもよい。放電がガスを通じて波及する場合、電荷はシリコンの表面で強まるので、電場を局所的に減少させて、時間および場所の両方で電荷を拡散する。しかし、この高抵抗層は、単独では、膨大なエネルギーおよび高ルミノシティで遭遇される厳しい背景環境において放電からチップを保護するには十分ではない場合もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
必要とされるのは、放電に対して読み出し基板を効率的に保護することができ、同時に、それにもかかわらず万が一放電が発生した場合に低コストで容易に修復することができる、検出器デバイスである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、請求項1に記載の検出器読み出しインターフェイスを用いることで達成される。従属クレームは、好ましい実施形態に関する。
【0014】
本発明によるアバランシェ粒子検出器のための検出器読み出しインターフェイスは、前記アバランシェ粒子検出器のガス・チャンバーの少なくとも一部と、前記ガス・チャンバーの底部側に形成された抵抗層と、前記抵抗層の下に形成された誘電体層とを備える。前記検出器読み出しインターフェイスは、前記アバランシェ粒子検出器用の読み出し電子回路を備える読み出し基板に容量結合されるように適合される。
【0015】
本発明による検出器読み出しインターフェイスは、電子が入射電離放射線を通じて生成され、前記ガス・チャンバーに電子アバランシェを形成するように増倍される検出器コアと、収集された電荷が読み出し電子回路を用いて分析される読み出し構造体との間のインターフェイスである。最先端技術のグリッド・ピクセル検出器にこれらの機能を組み込む傾向に対抗して、放電に対するより良好な保護が、読み出し面から検出器コアが分離されるモジュール式検出器構成を提供することによって達成されうることは、発明者らの認識である。これは、すべての読み出し電子回路を備える読み出し基板への容量結合を可能にする、抵抗層および前記抵抗層の下に形成された誘電体層を持つ検出器読み出しインターフェイスを提供することによって達成されうる。
【0016】
容量結合を採用する検出器読み出しインターフェイスは、読み出し電子回路の完全なスパーク保護をもたらし、追加の保護回路またはチップ上に直接形成された高抵抗層を用いて読み出しチップを保護する必要を完全になくす。
【0017】
同時に、本発明による検出器読み出しインターフェイスは、たとえ検出器をオフに切り替えなくても、読み出し基板が検出器コアに影響を及ぼすことなく取り外しまたは交換されうる、モジュール式検出器の設計を可能にする。一方においては、これは、欠陥または破損のある読み出しチップを、容易に、比較的低コストで、しかも検出器構造体全体を交換する必要もなく、交換できるようにする。もう一方では、本発明によるモジュール式検出器の構成は、多種多様な設計のさまざまな用途に適応させた検出器要素および読み出し基板を共に製造して、それらのコンポーネントを自由に組み合わせることができるようにするという利点を有する。したがって、ユーザは、特定の用途において遭遇される放射線のタイプおよびエネルギーに適合された適切な検出器構成を選択することができ、各自のニーズに適した読み出しカードをその後も独立して選択することができる。
【0018】
本発明はさらに、デッドスペースを作り出すことなく小さな空間に読み出し電子回路を収容することで、検出器のサイズを縮小して、空間分解能を高めることができる。
【0019】
好ましい実施形態において、検出器読み出しインターフェイスは、前記読み出し基板に容量結合されるようにのみ適合される。
【0020】
好ましくは、前記検出器読み出しインターフェイスまたは検出器コアは、前記アバランシェ粒子検出器用の読み出し電子回路を備えず、前記読み出し基板に結合するための導電性接続を備えていない。
【0021】
好ましい実施形態において、前記抵抗層は、連続する層であり、下部面領域の少なくとも半分にわたって、特に前記ガス・チャンバーの下部面領域全体にわたって延在することが好ましい。それにより、特に効率的な放電の保護をもたらすことができる。
【0022】
好ましい実施形態において、前記抵抗層は、前記ガス・チャンバーをその底部側において制限する。
【0023】
好ましくは、前記抵抗層および/または前記誘電体層は、前記ガス・チャンバーを密閉する。
【0024】
誘電体層はまた、検出器容器の壁を兼ねることができる。
【0025】
したがって、前記抵抗層および/または誘電体層は、検出器容器の効率的な放電の保護または壁をもたらすだけにとどまらず、前記アバランシェ粒子検出器のガス・チャンバーを環境に対して、特に前記読み出し基板に対して密閉することができる。密閉された検出器は、産業用蛍光、放射線学、またはUV光検波のような、多くの産業用途で必要とされている。
【0026】
好ましい実施形態において、前記ガス・チャンバーは、増幅ギャップの底部側において前記抵抗層によって制限されてもよい前記増幅ギャップを備え、前記誘電体層の厚さt
2および前記増幅ギャップの厚さt
1は、
【数1】
となるように選択される、ただしε
1は前記増幅ギャップの充填ガスの誘電率を示し、ε
2は前記誘電体層の誘電率を示す。
【0027】
あるいは、前記ガス・チャンバーは、GEM検出器の収集ギャップのような収集ギャップの底部側において前記抵抗層によって好ましく制限されてもよい前記収集ギャップを備え、前記誘電体層の厚さt
2および前記収集ギャップの厚さt
1は、
【数2】
となるように選択される、ただしε
1は前記収集ギャップの充填ガスの誘電率を示し、ε
2は前記誘電体層の誘電率を示す。
【0028】
この関係は、検出器読み出しインターフェイスと、検出器読み出しインターフェイスが配置されうる読み出し基板との間の効率的な容量結合を確実にし、特に、増幅ギャップ/収集ギャップの局所化イベントによりトリガーされた誘導信号が読み取り基板で十分に局在することを確実にする。誘電体層の厚さt
2が、比率
【数3】
と比較して大きすぎた場合、信号は誘電体層で横方向に著しく拡散する。次いで、容量結合を用いて読み出し基板で誘導された信号は、弱まるか、または局在がはっきりしなくなり、検出器パフォーマンスおよび分解能が共に低下する。
【0029】
発明者は、
【数4】
である場合、および好ましくは
【数5】
である場合、良好な結果が達成されうることを見出した。
【0030】
誘電体層は、検出器容器の壁を兼ねることができ、この場合は、十分な厚さを好ましく維持する必要がある。好ましくは、t
2≧10μm、および特にt
2≧50μmである。極めて良好な結果は75μm≦t
2≦125μmの場合に達成されうる。
【0031】
t
2が比較的大きい場合であっても、上記の関係は、ε
2が十分に高くなるように誘電体層の誘電体材料を選択することによって満たされうる。好ましくは、前記誘電体層は、誘電率ε
2≧10、および特にε
2≧100である。
【0032】
好ましい実施形態において、前記誘電体層は、セラミックおよび/または有機複合物(たとえば、ガラスエポキシ複合物)を備える。
【0033】
抵抗層の特性は、同様に、検出器読み出しインターフェイスと読み出し基板との間の容量結合に重要な影響を与える。一般的に、前記抵抗層の上面と垂直の方向Zに沿った電荷搬送のその抵抗は、前記抵抗層の上面に平行な方向に沿った電荷搬送の抵抗とは異なる場合がある。上面と平行な方向の電荷搬送の抵抗は、検出器読み出しインターフェイスの横方向に信号がどのように伝播するかを決定し、ひいては単一のイベントによってトリガーされるかまたは影響を受ける読み出し基板のピクセルセルの数を決定する。抵抗層の上面と垂直な方向の抵抗は、垂直方向の信号伝播を決定する。方向Zの抵抗および(抵抗層の上面と平行な)Zと垂直な方向の抵抗の値を適切に調整することにより、ならびにそれらの比率を調整することによって、読み出し基板への結合のレベルおよび検出器デバイスの空間分解能が、慎重に制御されうる。
【0034】
好ましい実施形態において、前記抵抗層は、平方あたり少なくとも500kΩの表面抵抗率を有する。特に、良好な結果は、平方あたり少なくとも1MΩの表面抵抗率により達成されうる。
【0035】
好ましい実施形態において、前記抵抗層は、多くとも平方あたり100GΩ、好ましくは多くとも平方あたり100MΩの表面抵抗率を有する。
【0036】
特に、前記表面抵抗率は、前記抵抗層の上面と平行な方向の電荷伝搬の表面抵抗率であってもよい。
【0037】
抵抗層は、アバランシェ粒子検出器の陽極として機能することができる。
【0038】
好ましい実施形態によれば、前記抵抗層は、3μmから50μmの範囲、好ましくは5μmから30μmの範囲の厚さを有する。
【0039】
適切な抵抗率と良好な表面品質の抵抗層を見出すことは、ガス検出器において常に課題である。発明者は、酸化ルテニウムおよび/またはポリマー抵抗を備える抵抗層により良好な結果が達成されうることを見出した。
【0040】
本発明は、MicroMegas検出器およびGEM検出器を含む、さまざまなタイプおよび機能のアバランシェ粒子検出器に効果的である。
【0041】
好ましい実施形態において、前記検出器読み出しインターフェイスは、前記ガス・チャンバーに配置された第1および第2の平面電極をさらに備え、前記第1の電極および前記第2の電極は、入射粒子によって電子の生成のための変換ギャップを区切り、前記第2の電極には、孔が開けられており、前記第2の電極および前記抵抗層は、アバランシェ・プロセスで電子の増倍のために増幅ギャップを区切る。
【0042】
あるいは、前記検出器読み出しインターフェイスは、前記ガス・チャンバーに配置された第1および第2の平面電極を備えることができ、前記第1の電極は、前記第2の電極および前記抵抗層から間隔をあけて配置され、両面に第1および第2の金属被覆を有する絶縁体、ならびに前記第1の電極を貫通する複数の孔を備える。検出器読み出しインターフェイスは、前記被覆層に結合され、前記第1の被覆層を第1の電位まで高め、前記第2の被覆層を前記第1の電位よりも高い第2の電位まで高めるように適合された分極手段をさらに備えることができる。適切な電位を第1および第2の被覆層に印加することで、前記第1の電極に形成されたスルー・ホールは、アバランシェ粒子検出器の増幅ギャップとしての役割を果たすことができる。収集ギャップは、前記抵抗層と前記第1の電極との間に定義されてもよい。
【0043】
本発明は、同様に、アバランシェ粒子検出器に関し、上記で説明される特徴の一部または全部を持つ検出器読み出しインターフェイスと、前記アバランシェ粒子検出器用の読み出し電子回路を備える読み出し基板とを備え、前記検出器読み出しインターフェイスは、前記読み出し基板に容量結合される。
【0044】
好ましくは、前記読み出し基板は、ピクセル・チップまたは組み込みチップを備えることができる。
【0045】
好ましい実施形態において、前記検出器読み出しインターフェイスは、前記読み出し基板上に配置されるか、または前記読み出し基板に接続される。
【0046】
好ましくは、前記検出器読み出しインターフェイスは、前記読み出し基板に固定されないが、前記読み出し基板に可逆的に接続される。
【0047】
この特徴は、用途の種類に応じて、適切な検出器読み出しインターフェイスおよび適切な読み出し基板が選択されうるか、または個別に製造されて、望ましい特性を持つ検出器に可逆的に結合されうるモジュール式検出器の構成を可能にする。同時に、前記検出器読み出しインターフェイスに可逆的に接続された読み出し基板は、保守または交換のために容易に取り外されてもよい。これは、読み出しパッドまたは読み出し電子回路が放電により損傷した場合に、検出器構造体全体が交換される必要のある、従来の統合グリッド・ピクセル検出器にまさる決定的な利点である。
【0048】
好ましい実施形態において、前記検出器読み出しインターフェイスまたは検出器コアは、前記検出器読み出しインターフェイスを前記読み出し基板に結合する導電性接続を備えていない。
【0049】
好ましくは、アバランシェ粒子検出器は、前記読み出し基板および/または前記抵抗層を所定の電位まで高めるように適合された分極手段をさらに備える。
【0050】
本発明による検出器読み出しインターフェイスおよびアバランシェ粒子検出器の特徴および多数の利点は、添付の図面の詳細な説明から深く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】読み出し基板から分離されたときの、本発明によるアバランシェ粒子検出器のための検出器読み出しインターフェイスを示す側断面図である。
【
図2】アバランシェ粒子検出器を形成するように読み出し基板と接続されたときの、上記検出器読み出しインターフェイスを示す対応する側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
これ以降、本発明による検出器読み出しインターフェイスが、MicroMegas検出器の具体的な例について
図1および
図2を参照して説明される。この検出器の一般的な設計および機能は、当業者にはよく知られており、参照される欧州特許第0855086号、欧州特許第0872874号、および国際公開第00/30150号パンフレットにおいてさらに詳細に説明されている。
【0053】
MicroMegas検出器は、プレーナ(ドリフト)電極と、変換およびドリフト領域
Cとしての役割を果たす厚さ数ミリメートルのガスギャップと、変換領域
Cを増幅ギャップ
Aと分離するスルー・ホール12を持つ薄金属メッシュ電極10とを備えるガス・チャンバーを有する。
図1および
図2において、変換ギャップ
Cの下方部分、増幅ギャップ
A、および支柱14で支持された金属メッシュ10のみが示される。
図1および
図2において、提示をしやすくするため、ドリフト電極、変換領域
Cの上側部分、および検出器容器は示されていない。これらの詳細は、本発明による検出器読み出しインターフェイスの機能にとって本質的要素でないので、それらの説明は省略される。
【0054】
メッシュ10、スルー・ホール12、支柱14、および増幅ギャップ
Aは、任意の従来の製作技法によって形成されてもよい。特に、半導体リソグラフィーは、欧州特許出願公開第2317538号明細書に説明されているように採用されてもよい。
【0055】
本発明による検出器読み出しインターフェイスは、増幅ギャップ
Aをその底部側において制限し、検出器容器の底部壁を兼ねる。検出器読み出しインターフェイスは、増幅ギャップ
Aの下側表面領域全体にわたり連続して延在する抵抗層16を備える。メッシュ電極10を支持する支柱14は、抵抗層16上に形成される。検出器読み出しインターフェイスは、抵抗層16がその上に形成される誘電体層18をさらに備える。抵抗層16および誘電体層18は、組み合わせにより、後段においてさらに説明されるように、検出器デバイスを、下にある読み出し基板20に容量結合する役割を果たす。
【0056】
抵抗層16は、約10μmの厚さで酸化ルテニウム(RuO
2)から形成され、標準的なスクリーン印刷技法により用意されてもよい。酸化ルテニウムの代わりにポリマー抵抗が、抵抗層16を形成するために同様に採用されてもよい。
【0057】
抵抗層16の表面抵抗率またはシート抵抗率R
sは、平方あたり100MΩで選択されてもよいが、一般的には平方あたり1MΩから平方あたり数百MΩの範囲であってもよく、ガラスの場合には平方あたり1GΩを超えてもよい。
【0058】
高さh、長さl、幅wの均一材料の長方形ブロックの表面抵抗率またはシート抵抗率R
sは、一般に、ρを材料の比抵抗として
【数6】
により与えられる。次いで、基板の長さlに沿った電荷伝搬の合計抵抗Rは、表面抵抗率R
sに関して
【数7】
として与えられる。二次曲面領域を持つ抵抗層16の場合、l=wであり、抵抗層16の上面と平行な方向の電荷搬送の抵抗Rは、シート抵抗率R
sと等しい、すなわちR=R
sである。表面抵抗率と合計抵抗とを良好に区別するため、表面抵抗率は通常、「平方あたりのオーム」の単位で測定される。
【0059】
抵抗層16の上面と垂直の方向Zに沿った電荷搬送の抵抗が、抵抗層16の上面に平行な方向に沿った電荷搬送の抵抗と異なるように、抵抗層16が非均質であってもよい。方向Zに沿った電荷搬送の抵抗および抵抗層16の表面抵抗を調整することによって、誘導電荷が抵抗層16の横方向に沿って拡散できるようにするレベルが決定されてもよい。
【0060】
抵抗層16がその上に形成される誘電体層18は、厚さt
2=300μmのセラミック絶縁体である。誘電体層18は、検出器容器の壁を兼ねるので、必要な頑強性をもたらすように適切な厚さで維持される必要がある。発明者は、優れた表面品質を有するセラミック絶縁体18、および必要な頑強性をもたらす抵抗酸化ルテニウム層16が特に有用な組み合わせに役立つことを見出した。厚さt
2≦2mmの誘電体層について良好な結果が得られたが、本発明は、これを超える厚さの誘電体層に同様に採用されてもよい。
【0061】
抵抗層16に酸化ルテニウムおよび誘電体層18にセラミックという組み合わせはまた、優れたガス放出特性をもたらす。これは、検出器が良好な真空状態に到達してその状態を保持し、環境に対して、特に読み出し基板20に対して検出容器を密閉することができるようにする。優れた密閉は、産業用蛍光、放射線学、およびUV光検波のような、多くの商業用途において必要不可欠とされている。
【0062】
誘電体層18は、検出器読み出しインターフェイスを、下にある読み出し基板20と容量結合する役割を果たす。発明者は、以下の場合に、良好な局在化および高い空間分解能が達成されうることを見出した。
【0063】
t
2<<t
1ε
2/ε
1 (1)
ただし、t
1およびt
2は、それぞれ増幅ギャップ
Aおよび誘電体層18の厚さを示し、ε
1およびε
2は、それぞれ増幅ギャップ
Aのガスの誘電率および誘電体層18の誘電率を示す。好ましくは、t
2≦0.1×t
1×ε
2/ε
1、および特にt
2≦0.01×t
1×ε
2/ε
1である。
【0064】
図1および
図2を参照して説明される実施形態において、t
2=300μm、t
1=124μm、およびε
1=10である。ε
2が50よりも大きくなるように誘電体層18のセラミックが選択される場合、式(1)は満足され、効率的な容量結合および良好な空間分解能が達成されうる。
【0065】
一般に、セラミックは、数百から数千の値に到達しうる大きな誘電率を提供することができる。このことは、要望があれば、式(1)に違反することなく厚い絶縁体層18を選択できる可能性を広げる。これにより、より厚く、ひいてはより頑強な検出器壁を形成することが可能になる。
【0066】
誘電体層18の厚さt
2が大きい場合、誘導信号(induced signal)は、横方向に遠く拡散する。これは、下にある読み出し基板20においてより大きいピクセル・チップを使用できるようにするので、読み出し基板20への要求を軽減することができ、生産コストの大幅な低減につながる。
【0067】
横方向への誘導信号の大きな拡散は、一見、空間分解能ひいては検出器パフォーマンスを著しく劣化させるように思われる。しかし、この影響は、パッド共有によって、または近隣の読み出しパッドに誘導された電荷の比率からイベントの位置を推定することによって、相殺されてもよい。次いで、意外なことに、電荷の拡散を用いた大きな領域にわたる電荷の拡散は、引き続き、高い空間分解能を検出器にもたらすことができる。これは、良好な空間分解能を達成するために小さく狭い高密度の陽極読み出しパッドを通常は必要とする、従来のMicroMegas検出器とは対照的なものである。
【0068】
読み出し基板20は、M.Campbellらの、Nucl.Instrum.Meth.A540(2005)295〜304において説明されている「MEDIPIX」チップまたは類似する集積チップのような、プリント基板またはピクセル・チップであってもよい。
図1は、読み出し基板20から分離される場合の、検出器読み出しインターフェイスを示すが、
図2は、読み出し基板20を誘電体層18の下表面に機械的に結合した同じ構成を示す。
【0069】
読み出し基板20は、各々55μm×55μmの256×256ピクセルの正方形を装備されてもよく、正方形ピクセルは各々、データ分析のためにそれぞれ前置増幅器、弁別器、およびデジタルカウンタに接続されてもよい。したがって、すべての読み出し電子回路は、読み出し基板20に組み入れられるので、検出器読み出しインターフェイスまたは検出器コア自体に組み入れられる必要のある読み出し電子回路はない。抵抗層16で収集された電荷と読み出し基板20の読み出しピクセルとの間の信号伝達は、誘電体層18を介した容量電荷結合のみを用いる。検出器読み出しインターフェイスと読み出し基板20との間の結合には、導電性接続は要求されない。
【0070】
これにより、
図2に示される検出器構成を形成するように、読み出し基板20が誘電体層18の下側に可逆的に結合されうるが、
図1に示されるように修理および保守のために容易に切断されうる、モジュール式検出器の構成が可能になる。接続される場合、メッシュ10のスルー・ホール12は、好ましくは、干渉縞を避けるために、読み出し基板20の読み出しピクセルの真上に位置付けられる。
【0071】
誘電体層18と組み合わせることで、抵抗層16は、読み出し基板20の完全なスパーク保護をもたらす。読み出し基板20上に追加の高抵抗層が形成される必要はなく、追加の保護回路の必要もない。これにより、検出器デバイスのサイズおよび複雑さを共に低減することができ、検出器のデッドスペースを回避することができる。
【0072】
作動中、抵抗層16は、MicroMegas検出器の陽極として機能するように、接地されてもよい。分極手段(図示せず)は、ドリフト電極を第1の電位まで高め、メッシュ電極を第1の電位よりも高い第2の電位まで高めるように、ドリフト電極(図示せず)およびメッシュ電極10に電気的に結合される。電位は、メッシュ10と抵抗層16との間の増幅ギャップ
Aで生成される電場が、ドリフト電極とメッシュ電極10との間の変換ギャップ
Cで生成される電場よりもはるかに強くなるように、たとえば10倍以上も強くなるように、選択されてもよい。変換ギャップ
Cで生成される電場は通常、1kV/cmに達するが、増幅ギャップ
Aで生成される電場は50kV/cmで選択されてもよい。
【0073】
電離粒子は、MicroMegas検出器を通過する場合、変換ギャップ
Cに位置するガスを電離して、通常そのギャップに約10の1次電子を作成する。1次電子は、メッシュ電極10に形成されたホール12を通過して増幅ギャップ
Aに引き込まれる。メッシュ10の横断は、増幅ギャップ
Aで作成された電場と変換ギャップ
Cで作成された電場との間の高比率によって容易になる。メッシュ10を通過した後、1次電子は、増幅ギャップ
Aに存在する強い電場により加速され、増幅ギャップ
A内に存在するガス分子と衝突すると各々2次電子を生成する。次いで、電子のアバランシェが増幅ギャップ
A内部で生成されて、抵抗層陽極16に引きつけられるように、2次電子は各々、衝突電離によってさらに自ら電子を生成する。
【0074】
陽極層16で収集された電子は、誘電体層18を介した容量電荷結合により読み取り基板20の下にあるピクセルの対応する電荷を誘導する。それらの電荷は、一定の間隔をおいてピクセルを読み出すことによって検出されてもよい。隣接するピクセルで誘導された電荷の量および比率の分析により、入射粒子の経路が再構築されうる高空間分解能を持つ1次電子に関連付けられているアバランシェの位置を推測することが可能になる。
【0075】
発明者は、本発明による検出器読み出しインターフェイスを、5cm×5cmの小型のプロトタイプでテストして、10
5を超えるガス・ゲイン、および18%半値全幅の6keV光子を持つエネルギー分解能を見出した。容量結合によって誘導された信号は、MEDIPIXチップを備える読み出し基板20で観察され、陰極で誘導された信号と比較された。期待されたように、信号はすべてが誘導面に伝播され、損失はごくわずかであった。同時に、放電は著しく抑制された。
【0076】
上記で説明される実施形態および添付の図面は、単に、本発明による検出器読み出しインターフェイスおよび粒子検出器、ならびにそれに関連する有利な効果を説明する役割を果たすものであって、限定を暗示するものと理解されるべきではない。本特許の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ決定される。
【符号の説明】
【0077】
10 メッシュ(電極)
12 メッシュ電極10のスルー・ホール
14 支柱
16 抵抗層
18 誘電体層
20 読み出し基板